1担保法制部会資料 31
担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(3)
目次
第1 集合動産譲渡担保権の実行 .......................................................................................2
第2 動産譲渡担保権の競売手続による実行等...................................................................85第3 質権の実行方法に関する見直しの要否....................................................................11
第4 所有権留保売買による留保所有権の実行.................................................................13
第5 債権譲渡担保権の実行 ............................................................................................13
1 債権譲渡担保権者及び債権質権者の取立権限及び実行通知の要否...........................13
2 債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることが10できる範囲.....................................................................................................................14
3 債権譲渡担保権又は債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に
到来した場合に、債権譲渡担保権者又は債権質権者が請求することができる内容 .........14
4 債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法.....................................17
5 直接の取立て以外の実行方法..................................................................................18152
第1 集合動産譲渡担保権の実行
1 集合動産譲渡担保権の担保する債権について不履行があった場合において、その動産譲
渡担保権者が部会資料 30 の第6、3(帰属清算方式)又は4(処分清算方式)による実行
をしようとするときは、あらかじめ、その旨を動産譲渡担保権設定者に通知しなければな
らない。
(11-1(1))52 集合動産譲渡担保権(その集合動産譲渡担保権が他の集合動産譲渡担保権に優先する場
合にあっては、当該他の集合動産譲渡担保権を含む。
)は、1の通知が動産譲渡担保権設定
者に到達した後にその通知をした者が有する集合動産譲渡担保権の特定範囲に属すること
となった動産に及ばない。ただし、その動産が1の通知が到達した時にその特定範囲に属
していた動産と分別して管理されていないときは、この限りでない。
(11-1(2))103 1の通知が動産譲渡担保権設定者に到達したときは、動産譲渡担保権設定者は、その時
にその集合動産譲渡担保権の特定範囲に属していた動産の処分をする権利を失う。(11-1(3))
4 1の通知は、その集合動産譲渡担保権の特定範囲に属する動産について帰属清算の通知
等又は部会資料 30 の第6、
4によるその動産の第三者への譲渡がされるまでは、
動産譲渡15担保権設定者の承諾を得て、撤回することができる。
(11-1(4))
5 4による1の通知の撤回は、その通知の到達の時に遡ってその効力を生ずる。ただし、
第三者の権利を害することはできない。
(11-1(5))
6 2本文の規定に反する特約は、無効とする。
(11-2)
7 動産譲渡担保権者が1の通知においてその集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち種類、20所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定し
たときは、2及び3の効力はその範囲にのみ生ずる。
(11-3)
8 1の通知をした集合動産譲渡担保権者が有する集合動産譲渡担保権に優先する集合動産
譲渡担保権がある場合には、当該通知は、その優先する集合動産譲渡担保権を有する者の
全員の同意を得たとき【
(優先する集合動産譲渡担保権を有する者がその通知を追認した25ときを含む。)】に限り、その効力を生ずる。この場合における2の適用については、2中
「優先する」とあるのは、
「優先し又は劣後する」とする。
9 【2及び3/2、3及び7】の規定は、集合動産譲渡担保権の特定範囲に属する動産に
ついて、部会資料 30 の第7、2(1)による決定(イ又はウに掲げる保全処分及び公示保全処
分を命ずるものに限る。)若しくは第7、
3による決定の執行がされた場合又は動産競売若30しくは動産執行に係る差押えがあった場合について準用する
(この場合において、2中「優
先する」
とあるのは、
「優先し又は劣後する」
と読み替えるものとする)
ものとし、
ただし、
その執行又は差押えが取り消されたときは、この限りでないものとすることについて、ど
のように考えるか。
(説明)351 1について
中間試案第 11、1(1)から実質的な変更はない。
2 2について
本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲と他の集合動産譲渡担保権の特定範3囲とが重なり合う場合には、本文6のとおり実行後の再度実行を認めないこととする趣旨
に照らし、他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知が設定者に到達した後に当該通知を
した者の担保権に係る特定範囲に属するに至った動産に及ばないものとすべきであると考
えられる。そこで、本文2では、本文1の通知をした者が有する集合動産譲渡担保権に劣
後する集合動産譲渡担保権及び優先する集合動産譲渡担保権(優先する集合動産譲渡担保5権者の全員が実行に同意した場合。本文8参照)についても、本文2の効果が生ずるもの
としている。
このような考え方を採用する場合には、他の集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち、本
文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分についても、
本文2の効果が生ずるか(他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知が設定者に到達した10後に、その特定範囲のうち本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲とは重なり
合っていない部分に属するに至った動産にも及ばないこととなるか)が問題となる。この
点について、本文1の通知は、本文4によってその集合動産譲渡担保権の特定範囲の一部
を実行の対象として指定した場合を除き、当然にその特定範囲の限度で本文2及び3の効
果を発生させる趣旨であると考えられる。そうすると、その通知によっては、その通知に15係る集合動産譲渡担保権の特定範囲を越えては本文2及び3の効果は生じないものと考え
られるから、他の集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち本文1の通知に係る集合動産譲渡
担保権の特定範囲とは重なり合っていない部分については、本文2の効果は生じないと考
えられる。そこで、本文2では、他の集合動産譲渡担保権は、本文1の通知の到達後は、
その特定範囲ではなく、本文1の通知に係る集合動産譲渡担保権の特定範囲に属すること20となった動産には及ばないこととして、この趣旨を表している。
上記の点を除き、本文2について中間試案第 11、1(2)から実質的な変更はない。
3 3について
中間試案第 11、1(3)から実質的な変更はない。
なお、本文2の担保権の及ぶ範囲が担保権ごとに判断されるのに対し、本文3の設定者25の処分権限は設定者の権限の問題であって担保権ごとに判断されるものではないと考えら
れるから、本文3においては、本文2と同様の括弧書きは設けていない。
4 4について
中間試案第 11、1(4)について、撤回が認められる終期を定めるべきとの意見がある。こ
の点について、本文1の通知によって本文2及び3の効果が特定範囲全体に生じた後にそ30の特定範囲に属する動産のうちの一部について実行がされた場合において、その通知の撤
回によって特定範囲全体について本文2及び3の効果が遡って消滅するとすれば、結果と
して当該一部について再度の実行が認められることとなり、相当でない。そうすると、本
文2及び3の効果が特定範囲全体に生じた後に担保権者がその特定範囲に属する動産の
うちの一部についてでも実行をした場合には、その後の撤回は認めるべきでないと考えら35れる。そこで、本文4では、担保権者が特定範囲に属する動産について私的実行をした場
合には、その私的実行が特定範囲に属する動産の全体を対象とするか一部を対象とするか
にかかわらず、本文1の通知を撤回することができないものとしている。
上記の点を除き、本文4について中間試案第 11、1(4)から実質的な変更はない。45 5について
中間試案第 11、1(5)から変更はない。
6 6について
中間試案第 11、2では、実行の時点で存在する構成部分である動産全部について実行を
した後に新たに特定範囲に加入した動産に対して、当初の担保の効力が及んでいるものと5して再度の実行をすることはできないものとする考え方を提示した。この点は、集合動産
譲渡担保権の実行後に特定範囲に属するに至った動産になお担保権の実体的な効力が及ぶ
旨の特約が有効か否かという問題であると考えられる。そこで、本文6では、本文2に反
する特約は無効である旨を示している。
7 7について10中間試案第 11、3では、集合動産の一部についてのみ固定化を生じさせるための要件に
ついて、所在場所により特定された範囲を実行の対象として指定することを要件とする考
え方と種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象
として指定することを要件とする考え方を隅付き括弧で併記していた。本文7では、集合
動産の特定と同様の要件とすることが簡明であり、また、集合動産の一部のみの固定化を15所在場所を指定した場合に限定する必要性は大きくないと考えられることから、
所在場所、
量的範囲の指定その他の方法により特定された範囲を実行の対象として指定することを要
件とすることとしている。
8 8について
集合動産譲渡担保権の私的実行のためには本文1の通知が必要であるところ、部会資料2030 の第8、1のとおり、劣後担保権者による私的実行は全ての優先担保権者の同意を得た
場合を除いてその効力を生じないから、劣後担保権者による本文1の通知についても、同
様の規律とするのが相当であると考えられる。また、優先担保権者の同意がなくとも劣後
担保権者による本文1の通知によって本文3の効果が生じるとすれば、それによって設定
者の事業の継続が困難になるなど、優先担保権者の実行時期選択の利益や優先担保権者が25把握していた担保価値が害されるおそれがある。そこで、本文8では、前記第8、1と同
様に、劣後担保権者による本文1の通知は原則として効力を生じないものとした上で、全
ての優先担保権者の同意を得た場合に限ってその効力を生ずるものとしている。なお、本
文8後段では、劣後する集合動産担保権者が優先する集合動産担保権者の同意を得て本文
1の通知をした場合には、その優先する集合動産担保権についても本文2の効果が生ずる30ものとしている。
前記第8、1と同様に、優先担保権者の同意なくされた本文1の通知について、優先担
保権者による追認を認めるか否かについても問題となる。優先担保権者に対して劣後担保
権者による私的実行の追認を認めるのであれば、その私的実行の前提である本文1の通知
についても追認を認める必要があるとも考えられる一方で、この追認が認められるとすれ35ば、本文2及び3の効果の発生の有無が確定しない状態が継続することとなり、法律関係
が不安定となる。そこで、本文8では、本文1の通知の追認を認める考え方に隅付き括弧
を付しているが、この点についてどのように考えるか。
9 9について5(1) 部会資料 30 の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡命令、後記第2の動産競売
手続又は動産執行手続と集合動産の固定化の関係をどのように考えるか。
固定化の時期、
固定化の範囲及び劣後担保権者が各手続を申し立てた場合の固定化の有無がそれぞれ問
題となる。
(2) 固定化の時期については、各手続について、1先行して本文1の通知によって集合動5産を固定化させておくことをこれらの手続の要件とする考え方、2先行して集合動産を
固定化させておく必要はなく、これらの手続に係る決定の執行や差押えによって固定化
が生ずるとする考え方、3これらの手続に係る決定の執行や差押えによっても固定化が
生じないとする考え方があり得る。
部会資料 30 の第7、2の保全処分については、密行性の要請があることから、先行し10て本文1の通知の送付を要求する上記1の考え方は相当でない。また、同第7、2(1)イ
又はウの保全処分が執行された場合には、設定者は実質的にその時点で特定範囲に属す
る動産の処分権限を失うこととなるから、このこととのバランスを考えると、その執行
によっても本文2の効果が生じないとする上記3の考え方も相当でないと考えられる。
そこで、上記2の考え方を採用し、同第7、2(1)イ又はウの保全処分の執行によって固15定化が生ずるものとすることが考えられる。なお、同第7、2(1)アの保全処分について
は、その保全処分の内容にもよるものの、それによって設定者が実質的にその時点で特
定範囲に属する動産の処分権限を失うとは限らないことから、それによって固定化が生
ずるものとする必要はないと考えられる。
前記第7、3の実行のための引渡命令については、上記と同様に、強制執行がされた20場合には設定者は実質的にその時点で特定範囲に属する動産の処分権限を失うこととな
るから、上記3の考え方は相当でないと考えられる。また、あらかじめ集合動産を固定
化させておかなければ清算金の見積額を算定することが困難となるとすれば、上記1の
考え方によることも考えられるが、
ここで算定すべきなのは飽くまで見積額であるから、
固定化していなくともその時点で特定範囲に属する動産の量等に基づいて算定すれば足25りるとも考えられる(なお、上記2の考え方を採用するとしても、各手続の申立て前に
あらかじめ本文1の通知を送付して集合動産の固定化を生じさせておくことは可能であ
る。)。そうすると、他の手続と統一的な扱いをすることが簡明であることも踏まえ、こ
こでも上記2の考え方によることが考えられる。
後記第2の動産競売手続又は動産執行手続については、本文6のとおり再度実行を禁30止することを踏まえると、上記3の考え方は相当でないと考えられる。また、動産競売
手続について上記1の考え方によるとすれば、劣後担保権者が動産競売の申立てをする
際にも本文1の通知によって集合動産を固定化させておくことが必要となるが、本文8
のとおり劣後担保権者による本文1の通知は原則として効力を生じないため、上記1の
考え方によれば劣後担保権者が実質的に動産競売の申立てをすることができなくなって35しまい、相当でないと考えられる。そうすると、上記2の考え方により、動産競売又は
動産執行に係る差押えによって固定化が生ずるものとすることが考えられる。
また、これらの手続に係る執行又は差押えが取り消されたときは、その実行が振り出
しに戻ったこととなり、
固定化の効力を維持する必要性が乏しいと考えられることから、6その執行又は差押えによって生じた固定化が覆滅するものとするのが相当であると考え
られる。
以上によれば、
いずれの手続についても上記2の考え方を採用することが考えられる。
そこで、本文9では、部会資料 30 の第7、2(1)の保全処分(イ又はウの保全処分に限
る。)及び3の実行のための引渡命令についてはその各決定の執行により、
後記第2の動5産競売手続については差押えにより本文2及び3の効果が生ずるものとした上で、その
執行又は差押えが取り消されたときは、その固定化が覆滅するものとすることを提案し
ているが、この点についてどのように考えるか。
(3) 固定化の範囲については、部会資料 30 の第7、2の保全処分、3の実行のための引渡
命令、後記第2の動産競売手続又は動産執行手続に係る決定の執行又は差押えによって10固定化が生ずるものとする場合に、その固定化はその集合動産譲渡担保権の特定範囲の
全体について生ずるのか、それともその特定範囲の一部について生ずるのかが問題とな
る。
これらの手続に係る決定の執行や差押えの対象が種類、所在場所等によって特定され
ている場合には、本文7と同様に、集合動産譲渡担保権の特定範囲のうち種類、所在場15所等によって特定されている当該範囲に限って固定化が生ずるものとすることが考えら
れる。
他方で、その執行や差押えの対象が常に本文7の要件を満たすような形で明確に特定
されているとは限らないとすれば、本文7と同様の考え方を採用した場合には、固定化
の範囲に疑義が生じ、予測可能性も害されるおそれがある。そうすると、その執行や差20押えによる固定化は常に特定範囲全体に生ずるものとすることも考えられる。
そこで、本文9では、本文7をも準用する考え方に隅付き括弧を付し、両論を併記し
ているが、この点についてどのように考えるか。
(4) 優先担保権者が申し立てた部会資料 30 の第7、
2の保全処分、
3の実行のための引渡
命令又は後記第2の動産競売手続に係る決定の執行又は差押えがあった場合には、当該25優先担保権及び劣後担保権のいずれについても固定化が生ずることとなると考えられる。
これに対し、劣後担保権者又は一般債権者が申し立てたこれらの手続に係る決定の執行
又は差押えによって、当該劣後担保権及び優先担保権について固定化が生ずるか否かが
問題となる。
後記第2の動産競売手続又は動産執行手続については、劣後担保権者又は一般債権者30も申し立てることができる上に、再度実行を認めないものとする趣旨に照らし、差押え
があっても固定化が生じないものとすることは相当ではないと考えられる。
そうすると、
劣後担保権者が申し立てた動産競売又は一般債権者が申し立てた動産執行に係る差押え
によって、劣後担保権に加えて優先担保権も固定化するものとした上で、その差押えが
第三者異議の訴え又は無剰余取消しによって取り消された場合には、その固定化は覆滅35するものとするのが相当であると考えられる。
また、
前記第7、
2の保全処分及び3の実行のための引渡命令については、
前記第7、
2(16)及び3(8)のとおり、劣後担保権者は全ての優先担保権者の同意を得た場合に限って
保全処分又は実行のための引渡命令の申立てをすることができるものとしたとしても、7そのような同意なく保全処分又は実行のための引渡命令が発令及び執行される場合もあ
り得る。この場合には、同意が得られていない以上は、その執行によっても当該劣後担
保権及び優先担保権の固定化は生じないものとすることも考えられるが、手続の明確性
の観点からは、その執行によって当該劣後担保権及び優先担保権の固定化が一応生ずる
ものとした上で、その執行が不服申立て等によって取り消された場合に固定化が覆滅す5るものとするのが相当であると考えられる。
そこで、本文9では、前記第7、2の保全処分若しくは3の実行のための引渡命令の
執行又は後記第2の動産競売手続若しくは動産執行手続の差押えがあったときは、それ
が優先担保権者、劣後担保権者又は一般債権者のいずれによるものであるかにかかわら
ず、優先担保権及び劣後担保権のいずれについても固定化が生ずるものとしているが、10この点についてどのように考えるか。
10 時的要素による集合動産の範囲の特定の可否について
部会では、時的要素によって時間的に区切って複数の集合動産譲渡担保権を設定するこ
とができるのであれば、事実上再度実行が可能となるとの指摘があった。この指摘は、本
文7による一部実行の際の実行の対象となる範囲の特定についても、同様に当てはまると15考えられる。
そこで、
そもそも時的要素による集合動産の範囲の特定が可能か
(例えば
「2023
年6月 30 日までにA倉庫に入った在庫」という特定が可能か)が問題となる。
本文7及び部会資料 28 の第4、1では、種類、所在場所、量的範囲の指定その他の方法
によって集合動産の範囲を特定しなければならないものとしているが、この範囲は担保権
の効力が及ぶ範囲を確定するための概念であるから、時的要素によって担保権の効力が及20ぶ範囲を確定することは当然可能であって、時的要素による集合動産の範囲の特定は許容
されるとも考えられる。
他方で、本文2では、集合動産譲渡担保権は本文1の通知が到達した後に特定範囲に属
することとなった動産には及ばないものとしているところ、その通知の到達に先立って本
文2の効果を生じさせる合意をすることは可能であると解される。このことを前提とする25と、時的要素によって集合動産の範囲が契約上特定されている場合には、集合動産の範囲
の定めのうち当該時的要素に係る部分は、集合動産の範囲の特定の要素ではなく、本文2
の効果が生ずる時点についての特約と位置付けることもできるように思われる(上記の例
では、
集合動産の範囲は
「A倉庫に入った在庫」
として特定されており、2023 年6月 30 日
の経過時に本文2の効果が生ずる旨の特約があることになる。)。この考え方によれば、時30的要素によって時間的に区切って複数の集合動産譲渡担保権を設定した場合には、当該複
数の集合動産譲渡担保権は特定範囲が重なり合うこととなるため、一方の集合動産譲渡担
保権の固定化によって他方の集合動産譲渡担保権も固定化することとなるし、また、一部
実行に際して時的要素によって実行の対象を指定した場合には、本文7の要件を満たさな
いことから特定範囲全体が固定化することとなるため、上記の指摘のような問題は生じな35いと考えられる。
以上について、どのように考えるか。8第2 動産譲渡担保権の競売手続による実行等
1 動産譲渡担保権は、民事執行法第 190 条以下の規定に基づく競売によって実行すること
ができる。
(12-1)
2 動産譲渡担保権者は、その目的である動産(集合動産譲渡担保契約における特定範囲に
属する動産を含む。
)に対する他の債権者が申し立てた強制執行手続及び他の担保権者が5申し立てた担保権実行としての動産競売手続において、
配当要求をすることができる。(12-2)
3 動産譲渡担保権者は、その担保権者に劣後する他の担保権者又は一般債権者がその目的
である動産
(集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産を含む。)を差し押さえ
たときは、その強制執行の不許を求めるために、第三者異議の訴えを提起することができ10る。ただし、その動産の売得金の額が執行費用のうち共益費用であるもの、その動産譲渡
担保権者の債権及びこれに優先する債権のうち配当要求があったものの額の合計額以上と
なる見込みがあるときは、この限りでない。
(12-3)
4 執行官は、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売手続に係る動産の差押えをし
たときは、遅滞なく、その執行債務者を譲渡人とする動産譲渡登記において譲受人として15登記されている全ての者に対し、その旨を通知しなければならない。この場合において、
その通知は、通知を受ける者の動産譲渡登記ファイル上の【住所又は事務所/住所、事務
所その他法務省令で定める連絡先】に宛てて発すれば足りる。
(12-4)
5 動産譲渡担保権が設定されている動産につき強制執行又は担保権の実行としての競売が
行われたときは、その動産譲渡担保権は、その動産の売却によって消滅する。
(12-5の20【案 12.5.1】)(説明)
1 本文1及び2について
中間試案第 12、1及び2から実質的な変更はない。なお、中間試案第 12、2では、集合
動産譲渡担保権者が配当要求をすることができるか否かを明示していなかったものの、本25文2では、
集合動産譲渡担保権者が配当要求をすることができる旨を明示している
(第1、
9により、集合動産は配当要求をする時点で既に固定化していることとなる。)。
2 本文3について
次の点を除き、中間試案第 12、3から実質的な修正はない。
(1) 動産譲渡担保権者による第三者異議の訴えの提起が否定される場合の要件について30中間試案第 12、3においては、
「目的物の価額が手続費用並びに第三者異議の訴えを
提起しようとする担保権者の債権及びこれに優先する債権の合計額を超えるとき」は、
動産譲渡担保権者は第三者異議の訴えを提起することができないものとしていた。
もっとも、動産執行及び動産競売においては、差押債権者又は担保権者の有する債権
に優先する債権であっても、配当要求がない限り配当を受けられないところ(民事執行35法第 140 条、第 192 条)
、動産執行及び動産競売における無剰余取消しの判断について
は、同法第 129 条第2項の「差押債権者の債権に優先する債権」は配当要求のあった債
権を指すと解されている上に、そもそも配当要求がない限り差押債権者又は担保権者の
有する債権に優先する債権の額は明らかにならない。そこで、本文3の動産譲渡担保権9者の債権に優先する債権については、
配当要求のあったものに限定することとしている。
なお、本文において並列関係にあるのは、1執行費用のうち共益費用であるもの、2そ
の動産譲渡担保権者の債権、3これに優先する債権のうち配当要求があったものであっ
て、第三者異議の訴えを提起した動産譲渡担保権者の債権については、配当要求をして
いなくとも算定の基礎に含まれる。5また、中間試案第 12、3においては、
「目的物の価額」を算定の基礎とすることとし
ていた。しかし、動産執行及び動産競売における無剰余取消しの判断については、同法
第 129 条第2項は「差押物の売得金の額」を算定の基礎としているところ、無剰余取消
しの基準と第三者異議の訴えの提起の可否の基準は一致させるのが相当であるし、動産
執行及び動産競売においては目的物の価額は売得金として現実化することから、第三者10異議の訴えの可否を判断する局面においても、売得金の見込額を基礎として剰余の有無
を判断するのが相当である。そこで、本文3では、
「目的物の価額」を「その動産の売得
金の額」と修正している。
なお、中間試案第 12、3においては「合計額を超えるとき」としていたが、本文3で
は、
同法第 129 条第2項と同様の基準とする観点から、
「合計額以上となる見込みがある15とき」としている。
(2) 集合動産譲渡担保権者による第三者異議の訴えの提起の可否について
中間試案第 12、3の(注)では、劣後担保権者又は一般債権者が集合動産の構成部分
である動産を差し押さえた場合に、中間試案第 12、3の本文と同様の規律を適用するか
どうかについては、更に検討するものとしていた。20この点については、中間試案第 12 の(補足説明)2(4)のとおり、劣後担保権者又は一
般債権者による差押えは、設定者による営業上の判断が介在しない点や、換価された目
的物の対価は設定者による事業の継続に充てられず債権者への弁済に充てられる点など、
設定者による通常の事業の範囲内の処分・逸出とは大きく性質が異なるため、優先担保
権者による第三者異議の訴えの提起を認めたとしても、設定者に通常の事業の範囲内で25の個別動産の処分権限が認められていることとの均衡を欠くものとはいえないと考えら
れる。
また、昭和 62 年 11 月最判は、集合動産譲渡担保権と動産売買先取特権の関係が問題
となった事案において、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者
は、特段の事情のない限り、民法第 333 条所定の第三取得者に該当するものとして、第30三者異議の訴えによって、動産売買先取特権者が当該集合物の構成部分となった動産に
ついてした競売の不許を求めることができるとしており、判例も集合動産担保権者によ
る第三者異議の訴えの提起を否定していない。
そこで、本文3では、集合動産譲渡担保契約における特定範囲に属する動産が差し押
さえられたときにおいても、集合動産譲渡担保権者が第三者異議の訴えを提起すること35ができるものとしている。
3 本文4について
中間試案第 12、4では、本文4の通知の主体について、執行官とする考え方と差押債権
者又は担保権者とする考え方を隅付き括弧で併記していた。10この点については、1不動産執行においては裁判所書記官が差押えの登記前に登記がさ
れた担保権を有する者等に対して催告をするものとされているから(民事執行法第 49 条
第2項第2号)、ここでも執行官を通知の主体とするのが整合的であること、
2動産執行に
ついては、一般債権者に対して通知を義務付けることは相当でなく、また、本人申立ての
場合も多いために通知漏れが生じやすいと考えられるが、その場合には担保権者に不利益5が生ずること、3通知を怠った場合の効果を競売の無効ではなく損害賠償にとどめるので
あれば、担保権者の保護の観点から、確実に通知が送付されるように執行官を通知の主体
とすべきであることなどが指摘されている。また、本文5のとおり消除主義を採用するの
であれば、確実な通知の送付を確保する必要性はより一層大きいと考えられる。通知の主
体を執行官とする考え方については、執行官の事務負担が増大する結果として、通知に時10間を要するおそれがあること等が問題となり得るものの、以上に述べたところによれば、
差押債権者又は担保権者ではなく執行官を通知の主体とするのが相当であると考えられる。
そこで、本文4では、執行官を通知の主体とすることとしている。
なお、
この通知については、
私的実行の際の通知
(部会資料 30、
第6、
6(2))
と同様に、
動産譲渡登記ファイル上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りるものとする案と、動産15譲渡登記ファイル上の住所、事務所その他法務省令で定める連絡先に宛てて発すれば足り
るものとする案を併記している。
4 本文5について
中間試案第 12、5では、消除主義を採用し、強制執行手続又は担保権実行としての動産
競売手続において、その目的である動産の上に存する先取特権、質権及び新たな規定に係20る動産担保権は、
売却により全て消滅するものとする
【案 12.5.1】
と、
引受主義を採用し、
その申立てに係る担保権者の担保権、配当要求をした担保権者の担保権及びこれらの担保
権に劣後する担保権は、売却により消滅するものとし、買受人は、その余の担保権の負担
のある目的物の所有権を取得するものとする【案 12.5.2】を併記していた。
この点については、中間試案第 12 の(補足説明)4(2)のとおり、競売による目的物の売25却を円滑に実現し、執行手続を実効的なものとする観点からは、政策判断として消除主義
を採用するのが相当であること、本文4のとおり、動産譲渡担保権者は動産譲渡登記を備
えている限り通知を受けられるものとするのであれば、動産譲渡担保権者に対する手続保
障は図られていると評価することができることから、消除主義を採用するのが相当である
と考えられる。30これに対し、1消除主義を採用した場合において、本文4の通知を受けられなかった担
保権者は損害賠償を請求できるにすぎないとすれば、担保権者の保護としては十分ではな
いこと、2一般に競売に参加して目的物を買い受ける者は無過失であって即時取得が成立
するため、買受人が現れなくなるという問題はそれほど起こらないことから、引受主義を
採用すべきとの意見もある。しかし、上記1については、本文4のとおり執行官を通知の35主体とするのであれば、通知を怠ったために担保権者が通知を受けられないという事態は
生じにくいと考えられるし、上記2についても、即時取得が成立するか否かが不明確であ
ること自体が買受人候補者を萎縮させるとの指摘もある。
そこで、本文5では、消除主義(
【案 12.5.1】
)を採用し、動産譲渡担保権が設定されて11いる動産につき強制執行又は担保権の実行としての競売が行われたときは、その動産譲渡
担保権は、その動産の売却によって消滅するものとしている。
なお、
【案 12.5.1】では、先取特権及び質権についても売却によって消滅するものとし
ていた。しかし、先取特権は、第三取得者に引き渡された後はその動産について行使する
ことができないため
(民法第 333 条)、売却により目的物が買受人に引き渡されることによ5って消滅すると解される。また、質権についても、売却により目的物が買受人に引き渡さ
れることによって、少なくとも対抗力を失うと考えられる(民法第 352 条)
。このように、
先取特権及び質権については、あえて売却によって消滅する旨を規定する必要性は乏しい
ことから、本文5では、消除の対象とはしないこととしている。
5 私的実行と競売手続の関係について10中間試案第 12 の(補足説明)5(2)では、強制執行手続又は担保権実行としての動産競売
手続において目的物が差し押さえられた場合において、その申立人に優先する担保権者は
競売手続を排除して有効に私的実行をすることができるか否かを問題提起した。
競売手続における差押えの効力は、一般に、執行債務者に対して及ぶものであって、真
の権利者の処分権限を制限するものではないと解されているから、ここでも差押えによっ15て動産譲渡担保権者の処分権限が制限されるものではないと考えることができる。また、
対抗要件を具備した動産譲渡担保権者は動産譲渡担保権を第三者である差押債権者に対抗
することができるから、この点からみても、差押えによって動産譲渡担保権者の権限が制
限されるとみるのは相当でない。これを前提とすると、動産譲渡担保権者は、一般債権者
による動産執行手続又は劣後担保権者による動産競売手続によって目的物が差し押さえら20れたとしても、動産譲渡担保権に基づく処分権限を行使して、私的実行を有効に行うこと
ができることとなる。そして、その私的実行によって目的物の確定的な所有権を取得した
動産譲渡担保権者又は第三者は、第三者異議の訴えによって競売手続を排除することがで
き、また、競売手続が排除されないまま買受人が代金の支払をした場合でも、即時取得が
成立する場合を除き、買受人は目的物の所有権を取得することができないこととなる。25この点については、私的実行が完了しているか否かは買受人にとって明らかであるとは
限らないため、このように買受人が目的物の所有権を取得することができないおそれがあ
るとすれば、買受人が現れなくなり、目的物の売却の円滑な実現に支障が生じないかが問
題となる。しかし、競売における買受人は原則として動産譲渡担保権者による私的実行の
完了の有無を調査する義務を負うものではないと考えられるから、買受人において私的実30行が既に行われたことを認識すべきような特別な事情がない限り、買受人は即時取得によ
って目的物の所有権を取得することができると考えられる。そうすると、上記の考え方に
ついて修正を加えなくとも、動産譲渡担保権者の利益と買受人の利益のバランスは図られ
ているものということができる。
以上のことから、本文では、私的実行と競売手続の関係について、何らかの特別な規定35を置くことは提案していない。
第3 質権の実行方法に関する見直しの要否
質権の実行方法に関する見直しの要否については、
次のいずれかの案によることとする。12【案 3.1】
(13の【案 13.1】)1 動産質及び権利質について、民法第 349 条の適用を除外する。
2 動産質権者及び権利質権者は、設定行為又は債務の弁済期前の契約において、質権設定
者から弁済として質物の所有権又は質権の目的である財産権を取得し、その他法律に定め
る方法によらないでこれらを処分することができることを約した場合において、その取得5又は処分の時の質物又は財産権の価額がその時の当該質権の担保する債権の額を超えると
きは、その超える額に相当する金銭を質権設定者に支払わなければならない。
【案 3.2】
(13の【案 13.2】)動産質及び権利質について流質契約の有効性を否定する民法第 349 条を維持する。
(説明)10中間試案第 13 では、
動産質の実行方法に関し、
目的物の価額が被担保債権額を超える場
合にその差額の支払をさせるなどの設定者の利益を保護する措置を採るとともに、民法第
349 条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めるものとする【案 13.1】と、動
産質について流質契約の有効性を否定する同条を維持するものとする【案 13.2】を併記し
ていた。15動産譲渡担保権については明文で私的実行を認めることが予定されていること、動産競
売によらない実行方法を認めるかどうかについては占有型の担保権か非占有型の担保権か
の区別のみによって扱いを異にする理由はないとも考えられること、流質の禁止について
は現行法上もその範囲を限定しようとする見解が主張されていることからすれば、動産質
についても、
【案 3.1】のとおり、同条を改正し、流質契約の有効性を認めるとともに、質20権者が目的物の価額と被担保債権額の差額の支払義務を負うことを明確化することが考え
られる。なお、この場合には権利質についても同様とすることが考えられる。
これに対し、民法第 349 条を改正し、動産質について流質契約の有効性を認めることに
ついては、次のような問題も指摘されている。すなわち、商法第 515 条においては、商行
為によって生じた債権を担保するために設定した質権について流質契約の有効性が認めら25れているところ、事業者が動産を質入れして貸付けを受ける場合には、民法第 349 条では
なく商法第 515 条が適用される場合が多いと考えられ、あえて民法第 349 条を改正して動
産質一般について流質契約の有効性を認める具体的なニーズは指摘されていない。また、
同条は事業者が貸付けを受ける場合よりもむしろ一般消費者が貸付けを受ける場合に主に
適用されるとすれば、一般に流質契約の有効性を認めることが消費者被害の拡大等につな30がるおそれもある。さらに、動産質においては、設定者が目的物を占有していることが多
い譲渡担保とは異なり、質権者が質物を占有しているため、同時履行の抗弁権又は留置権
によって設定者に対する目的物の価額と被担保債権額の差額の支払を確保することができ
ない上に、設定者が目的物の客観的な価値を把握して当該差額の妥当性を争うことも困難
であるとの問題がある。このような指摘を踏まえると、
【案 3.2】のとおり、動産質につい35て流質契約の有効性を否定する民法第 349 条を維持することも考えられる。
そこで、本文では、同条を改正して動産質について流質契約の有効性を認めるか否かに
ついて、両案を併記しているが、この点についてどのように考えるか。13第4 所有権留保売買による留保所有権の実行
留保所有権の実行については、部会資料 30 の第6から第8まで及び部会資料 31 の第2
の動産譲渡担保権の実行に関する規律(その目的である動産の代金支払債務等のみを担保
する留保所有権の実行にあっては、部会資料 30 の第6、6を除く。
)を準用する。(14)(説明)5中間試案第 14 では、留保所有権の実行と売買契約の解除を異なる制度として併存させ
ることを前提として、所有権留保売買による留保所有権の実行方法として、帰属清算方式
及び処分清算方式による私的実行並びに民事執行法の規定に基づく競売を認めることを提
案した。本文では、留保所有権の実行について、動産譲渡担保権の実行に関する規定を準
用することとしており、中間試案第 14 から実質的な変更はない。10その目的である動産の代金支払債務等のみを担保する所有権留保(狭義の所有権留保)
については、動産譲渡担保権の実行に関する規律のうち、他の担保権者に対する通知の規
律(部会資料 30 の第6、6)を適用すべきでないとの意見がある。狭義の所有権留保につ
いては、目的物の価額と被担保債権額が近接しており剰余が生じる可能性は小さいから、
劣後担保権者の保護のために通知を要求する必要性は乏しいと考えられる。また、狭義の15所有権留保は目的物との牽連性が強いことから他の担保権に当然に優先するとされている
上に、売買契約の付款として簡易に設定できることも考慮すると、買主の登記を確認した
上で通知を送付するという従前の実務では要求されていなかった負担を留保所有権者に負
わせるのは相当とはいえないように思われる。そこで、本文では、狭義の所有権留保につ
いては、他の担保権者に対する通知に関する規律は準用しないこととしている。20第5 債権譲渡担保権の実行
1 債権譲渡担保権者及び債権質権者の取立権限及び実行通知の要否
(1) 債権譲渡担保権者は、
債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があったときは、
その目的である債権を直接に取り立て、
又は後記5に従って実行することができる。(125
5-2(1)の【案 15.2.1.2】)(2) 債権質権者は、債権質権の担保する債権について不履行があったときは、その目的で
ある債権を直接に取り立てることができる。
(15-2(2)の【案 15.2.2.2】)(説明)
1 本文(1)について30中間試案第 15、2(1)では、債権譲渡担保権者は目的債権の取立て又は帰属清算方式若し
くは処分清算方式による私的実行に先立って実行通知を送付しなければならず、その到達
から1週間の経過後にそれらの権限を取得するものとする【案 15.2.1.1】
、その到達の時
にそれらの権限を取得するものとする【案 15.2.1.1】の(注)
、被担保債権の不履行によ
りそれらの権限を取得するものとする【案 15.2.1.2】の3つの考え方を提示した。35本文(1)では、
【案 15.2.1.2】を採用し、現行法上の扱いを踏襲して、債権譲渡担保権者
は、債権譲渡担保権の担保する債権について不履行があったときは、取立権限及び私的実
行権限を取得するものとしている。動産譲渡担保権については、被担保債権の不履行があ
ったときに動産譲渡担保権者が目的物の処分権限を取得するとの考え方を提案しているこ14と(部会資料 30 の第6、2)に加えて、債権を目的とする担保については、実行に密行性
及び迅速性が要求される一方で、設定者において個性のない金銭債権を受け戻す利益は大
きくないことなど、中間試案第 15、2の(補足説明)5に記載した事情を踏まえたもので
ある。
また、後記3(1)のとおり、債権譲渡担保権者は、目的債権の弁済期が到来した場合であ5っても、被担保債権の弁済期が到来していない限り、目的債権を取り立てることができな
いものとすることを前提とすると、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったとき
に目的債権の取立権限を取得することとなる。本文(1)は、この点を明確化することも意図
したものであり、これに伴って内容が重複する中間試案第 15、1の項目は削除している。
2 本文(2)について10本文(1)のとおり、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があったときに取立権限及び
私的実行権限を取得するものとするのであれば、債権質については、あえてこれと異なる
規律を採用する必要性は乏しく、現行法上の扱いを踏襲すべきと考えられる。そこで、本
文(2)では、債権質権者も、設定者の債務不履行により直ちに目的債権の取立権限を取得す
るものとしている。なお、本文(1)のとおり、債権譲渡担保権者は被担保債権の不履行があ15ったときに目的債権を取り立てることができる旨の明文の規定を置くのであれば、債権質
についても、民法第 366 条第1項を改正し、被担保債権の不履行があったときに目的債権
を取り立てることができる旨を明確化することが考えられる。
2 債権譲渡担保権の目的が金銭債権である場合に債権譲渡担保権者が取り立てることが20できる範囲
(1) 債権の目的物が金銭であるときは、債権譲渡担保権者は、自己の債権額に対応する部
分を超えて、これを取り立てることができる。
(15-3(1))
(2) 民法第 366 条第2項を次のように改める。
(15-3(2))
債権の目的物が金銭であるときは、
質権者は、
自己の債権額に対応する部分を超えて、25これを取り立てることができる。
(説明)
中間試案第 15、3から表現ぶりを修正しているものの、実質的な変更はない。
3 債権譲渡担保権又は債権質の目的である金銭債権の弁済期が被担保債権の弁済期前に30到来した場合に、債権譲渡担保権者又は債権質権者が請求することができる内容
(1)ア 債権譲渡担保権の目的である金銭債権の弁済期が債権譲渡担保権者の債権の弁済期
前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、第三債務者にその弁済をすべき金額を供
託させることができる。
(15-4(1)の【案 15.4.1.2】)イ アに規定する場合には、第三債務者は、民法第 467 条第1項に規定する対抗要件を35備えた債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって債権譲
渡担保権設定者に対抗することができる。
(15-4(1)の【案 15.4.1.2】)ウ アによる供託又はイによる弁済を受けた債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済期
が到来するまでは、債権譲渡担保権設定者に対し、その供託又は弁済を受けた金銭を15引き渡すことを要しない。この場合において、債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁
済期が到来したときは、債権譲渡担保権設定者に対し、その供託又は弁済を受けた額
【に利息を付した額】
から自己の債権の額を控除した残額を返還しなければならない。
(15-4(1)の(注))(2) 民法第 366 条に次の項を加える。5ア 民法第 366 条第3項に規定する場合には、第三債務者は、民法第 467 条第1項に規
定する対抗要件を備えた質権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって
質権設定者に対抗することができる。
(15-4(2)の【案 15.4.2.2】)イ アにより弁済を受けた質権者は、自己の債権の弁済期が到来するまでは、質権設定
者に対し、その弁済を受けた金銭を引き渡すことを要しない。この場合において、質10権者は、自己の債権の弁済期が到来したときは、質権設定者に対し、その弁済を受け
た額【に利息を付した額】から自己の債権の額を控除した残額を返還しなければなら
ない。
(説明)
1 本文(1)ア及びイについて15中間試案第 15、4(1)では、債権譲渡担保権の被担保債権の弁済期前に目的債権の弁済期
が到来した場合について、債権譲渡担保権者は目的債権を直接に取り立てることができる
ものとする【案 15.4.1.1】と、債権譲渡担保権者は第三債務者にその弁済をすべき金額を
供託させることができるものとした上で、第三債務者は対抗要件を具備した債権譲渡担保
権者に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもって設定者に対抗することができる20ものとする【案 15.4.1.2】を併記していた。
この点については、債権譲渡担保においては目的債権は担保の目的で債権譲渡担保権者
に移転しているところ、債権譲渡担保権者に被担保債権の弁済期到来前に目的債権の取立
てを認めることは、そのような担保の性質に反するものであること、
【案 15.4.1.1】によ
れば、第三債務者が債務者対抗要件を具備していない債権譲渡担保権者に対して目的債権25を弁済した場合にもその弁済は有効となるが、そのような弁済を有効と認める必要はない
ことなどが指摘されている。前者の指摘のように債権譲渡担保においては目的債権は債権
譲渡担保権者に帰属しているとの理解を前提としたとしても、その債権譲渡は担保を目的
とするものであることから、債権譲渡担保権者の取立権限に一定の制約を加えることは可
能であると考えられる。また、
【案 15.4.1.1】は、第三債務者保護のために債権譲渡担保30権者に目的債権の取立権限を認めるものであるが、
【案 15.4.1.2】のとおり、第三債務者
が対抗要件を具備した債権譲渡担保権者に対してした弁済を有効と認めるのであれば、第
三債務者保護としては十分であり、これを超えて債権譲渡担保権者に目的債権の取立権限
を認める必要はないと考えられる。
そこで、本文(1)では、
【案 15.4.1.2】を採用し、債権譲渡担保権の目的である金銭債権35の弁済期が債権譲渡担保権者の債権の弁済期前に到来したときは、債権譲渡担保権者は、
第三債務者にその弁済をすべき金額を供託させることができるものとした上で、第三債務
者は、債務者対抗要件を備えた債権譲渡担保権者に対する弁済その他の債務を消滅させる
事由をもって債権譲渡担保権設定者に対抗することができるものとしている。16また、民法第 366 条第3項後段では、同項前段による供託がされたときは質権はその供
託金について存在するとされているところ、この供託については、質権者のために供託物
そのものの保全を目的としてされる保管供託の一種であって、被供託者である設定者が供
託金還付請求権を有しており、質権はその供託金還付請求権の上に存することになると解
されている。これに対し、本文(1)アの供託については、債権譲渡担保においては債権質と5異なり目的債権は債権譲渡担保権者に帰属しているとの理解を前提とするのであれば、債
権譲渡担保権設定者を被供託者とするのではなく、債権譲渡担保権者を被供託者とし、債
権譲渡担保権者が供託金還付請求権を有するものとすべきと考えられる。そこで、本文(1)
アでは、供託がされたときに担保権がその供託金について存在するとの同項後段と同様の
規律は設けないものとすることを提案している。102 本文(1)ウについて
中間試案第 15、4(1)の(注)では、第三債務者が債権譲渡担保権者に対して弁済した場
合において、担保権の実効性を確保するためのその金銭の処理方法については、引き続き
検討するものとしていた。
この点については、中間試案第 15、4の(補足説明)2(3)イに記載したように、債権譲15渡担保権者は、被担保債権の弁済期前に弁済を受けた金銭を被担保債権に充当することは
できないものの、被担保債権の弁済期まではその金銭を設定者に返還することを要せず、
被担保債権の弁済期においてこれを被担保債権に充当することができるものとすることが
考えられる。
そこで、本文(1)ウでは、イにより弁済を受けた債権譲渡担保権者は、自己の債権の弁済20期が到来するまでは、債権譲渡担保権設定者に対し、その弁済を受けた金銭を引き渡すこ
とを要しないこととした上で、自己の債権の弁済期が到来したときは、当然に当該金銭が
被担保債務に充当されることとし、その弁済を受けた額から自己の債権の額を控除した残
額を債権譲渡担保権設定者に返還しなければならないものとすることを提案している。な
お、前記(説明)1のとおり、本文(1)アの供託の被供託者を債権譲渡担保権者とするので25あれば、この供託がされた場合には本文(1)イの弁済がされた場合と同様に扱うべきと考え
られることから、
この供託がされた場合にも本文(1)ウの規律が適用されるものとしている。
この場合において、債権譲渡担保権者は弁済を受けた額に利息を付した額を債権譲渡担
保権設定者に返還しなければならないものとするか否かが問題となる。敷金については、
賃借人に返還する額に利息を付す必要はないとされているところ(民法第 622 条の2第130項)
、ここでも担保権者が担保のために一定額の金銭を保有している点は同様であること
からすれば、利息を付した額を返還させる必要はないとも考えられる。他方で、債権譲渡
担保権者が弁済を受けた金銭を利用すること自体は妨げられないことからすれば、債権譲
渡担保権者にその利益を保持させる必要はなく、利息を付した額を返還しなければならな
いものとすることも考えられる。そこで、本文(1)ウでは、利息を付した額を充当するもの35とするか否かについて、隅付き括弧で両案を併記している。
また、本文(1)ウについては、当事者間でこれを異なる取扱いをする旨を合意することは
妨げられないと解される。なお、集合債権を目的とする譲渡担保契約において、設定者に
目的債権の取立権限及び取り立てた金銭を利用する権限が付与されている場合には、個別17の合意の解釈の問題ではあるものの、設定者に取り立てた金銭の利用権限が付与されてい
る趣旨に鑑み、債権譲渡担保権者は第三債務者から弁済を受けた金銭を設定者に引き渡さ
なければならないと解釈される場合もあり得るものと考えられる。
3 本文(2)について
中間試案第 15、4(2)では、債権質の被担保債権の弁済期前に目的債権の弁済期が到来し5た場合について、債権譲渡担保について【案 15.4.1.1】を採用する場合にはこれと同様と
する【案 15.4.2.1】と、債権譲渡担保について【案 15.4.1.2】を採用する場合にはこれと
同様とする【案 15.4.2.2】を併記していた。
本文(2)では、第三債務者は被担保債権の弁済期を容易に認識し得るとは限らず、被担保
債権の弁済期前に目的債権を弁済した第三債務者を保護する必要があることは、債権譲渡10担保と債権質で異ならないこと、債権質について債権譲渡担保と異なる取扱いをする必要
はないと考えられることから、上記のとおり債権譲渡担保について【案 15.4.1.2】を採用
することを踏まえ、
【案 15.4.2.2】を採用することとし、民法第 366 条第3項に本文(1)イ
及びウと同様の規律を設けることを提案している。154 債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合の実行方法
債権の目的物が金銭でないときは、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について
【動産譲渡担保権/動産質権】を有する。
(15-5)
(説明)
中間試案第 15、5では、民法第 366 条第4項を参考として、債権譲渡担保権の目的が非20金銭債権である場合に、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産譲渡担保
権又は動産質権を取得するものとしていた。
債権譲渡担保権の目的が非金銭債権である場合には、債権譲渡担保権者は、弁済として
受けた物について、設定者に返還することなく私的実行をすることができるものとするの
が相当であるとの前提に立ち、かつ、前記第3において【案 3.2】を採用し、動産質につ25いて流質契約の有効性を否定する民法第 349 条を維持する場合には、
債権譲渡担保権者は、
弁済として受けた物について動産譲渡担保権を有することとした上で、その物を設定者に
引き渡すことを要しないものとすることが考えられる。もっとも、財産権を担保の目的で
譲渡した場合の法律関係を規律するという方式で規律を設け、そのような譲渡を受けた者
が譲渡によって得る権利を譲渡担保権と称していることからすると、譲渡されたわけでは30ない物について譲渡担保権を有することになるのは不自然であるし、担保権者が占有する
物について有する担保権を、原則として非占有型であることが想定される譲渡担保権とす
る必然性も乏しいと考えられる。
そこで、前記第3において【案 3.1】を採用し、動産質について流質契約の有効性を肯
定するのであれば、債権譲渡担保権者は、弁済として受けた物について動産質権を有する35こととした上で、流質契約をしたものとみなすことが考えられる。また、債権譲渡担保権
者は自ら非金銭債権に担保を設定したものであって、弁済を受けた物に対する私的実行を
あえて認める必要はないと考えるのであれば、弁済を受けた物について動産質権を有する
こととしたとしても、流質契約をしたものとみなす旨の規律を設ける必要はないとも考え18られる。
そこで、本文では、両案を併記しているが、この点についてどのように考えるか。
5 直接の取立て以外の実行方法
(1) 部会資料 30 の第6、2から4まで及び7(3(3)及び4(4)を除く。
)は、債権譲渡担保5権について準用する。
(15-6(1))
(2) 債権譲渡担保権を民事執行法第 193 条の規定に基づく債権執行によって実行すること
ができるものとすることは、見送ることとしてはどうか。
(15-6(2))
(説明)
1 本文(1)について10中間試案第 15、6(1)では、債権譲渡担保権の実行方法として、目的債権を直接に取り立
てる方法のほか、帰属清算方式及び処分清算方式の実行方法を認めることを提案した。本
文では、その実質を実現するため、帰属清算方式及び処分清算方式による動産譲渡担保権
の実行手続に関する規律のうち、部会資料 30 の第6、2から4まで及び7(3(3)及び4(4)
を除く。
)の規律を準用するものとしている。15部会資料 30 の第6、3(3)、4(4)及び5は、清算金の支払と目的物の引渡しとの引換給付
関係や目的物の引渡しまでの受戻権を定めたものであって、目的物の引渡しを観念するこ
とができることを前提とする規律であるが、債権譲渡担保については目的物の引渡しを観
念することができないから、債権譲渡担保権の帰属清算方式及び処分清算方式による実行
については、これらを準用しないこととしている。これを前提とすると、設定者は清算金20が発生する場合には債権譲渡担保権者の無資力の危険を負担することになるものの、この
点は前記2のとおり債権譲渡担保権者が自己の債権額に対応する部分を超えて目的債権を
直接に取り立てる場合も同様であるから、このように動産譲渡担保権の私的実行とは異な
る規律とすることが必ずしも均衡を欠くものではないと考えられる。
また、部会資料 30 の第6、6の他の担保権者に対する通知についても、債権譲渡担保権25の帰属清算方式及び処分清算方式による実行については準用しないこととしている。債権
譲渡担保については登記優先ルールが採用されず、民法第 467 条に基づく通知又は承諾が
法改正後も対抗要件具備の方法として相応に利用されることが想定されることからすれば、
登記されている譲受人に対してのみ通知を送付する仕組みを採用したとしても、全ての劣
後担保権者が通知を受けられるとは限らず、劣後担保権者による清算金債権に対する物上30代位の利益を保護するための実効的で負担の小さい通知の仕組みを設けることが困難なた
めである。
2 本文(2)について
債権譲渡担保権が設定された債権に対する一般債権者による差押えの効力については、
第三債務者が差押債権者に対して弁済したとしても、債権譲渡担保権者はこれを無視して35第三債務者に請求することができるとする見解が多数であるように思われる
(森田修編
『新
注釈民法(7)物権(4)』
(有斐閣、2019)599 頁〔角紀代恵〕
、柚木馨、高木多喜男編『新版注釈
民法(9)物権(4)〔改訂版〕』(有斐閣、2015)733 頁〔占部洋之〕
、道垣内弘人『担保物権法〔第
4版〕』(有斐閣、2017)352 頁、田中康久『新民事執行法の解説〈増補改訂版〉』(金融財政19事情研究会、1980)295 頁)
。また、債権質の目的債権に対する一般債権者による差押えの
効力についても、これと同様に、第三債務者が差押債権者に対して弁済したとしても、質
権者はこれを無視して第三債務者に請求することができると解されている。債権質につい
ては、このような考え方に立ちつつも質権者が民事執行法第 193 条の規定に基づく債権執
行手続による実行をすることが認められていることからすれば、債権譲渡担保権について5も、債権質と同様に、上記の見解を前提としつつ、同条に基づく債権執行手続による実行
を認めることは可能であるとも考えられる。
また、質権者が同条に基づく債権執行手続の申立てをして目的債権を差し押さえた場合
において、質権者自身の有する実体法上の取立権限が失われるか否かについては、見解が
分かれているが、失われないとの見解に立った場合には、他の債権者による差押えが競合10しても質権者の取立権限は失われず、また、第三債務者は、質権者の同意がない限り供託
によって免責されることはないし、差押えが競合した場合であっても供託義務を負わない
こととなるとされている(田中康久『新民事執行法の解説〈増補改訂版〉』(金融財政事情
研究会、1980)465、467 頁、香川保一編『注釈民事執行法<第6巻>』
(金融財政事情研究
会、1995)930、931 頁〔三村量一〕
、鈴木忠一、三ヶ月章編『注解民事執行法(5)』(第一15法規、1985)321 頁〔渋川満〕)。仮に債権譲渡担保についてもこれと同様の見解に立つと
すれば、第三債務者は、債権譲渡が真正債権譲渡であるか債権譲渡担保であるかにかかわ
らず、常に差押えを無視して第一順位の譲受人に弁済すれば足りることとなるから、第三
債務者の利益が害されることはないようにも思われる。
しかし、上記のとおり、第三債務者は供託によっても免責されないために常に差押えを20無視して第一順位の譲受人に弁済するほかないのであれば、そもそも債権譲渡担保につい
て同条に基づく債権執行手続による実行を認める意義は乏しい。これと異なり、例えば、
第二順位の債権譲渡担保権者がした同条に基づく債権執行手続の申立てにより目的債権が
差し押さえられた場合には第一順位の債権譲渡担保権者の取立権限が失われることとし、
第三債務者に供託をさせた上でその金銭を配当するという仕組みを採用するのであれば、25第三債務者は第一順位の譲受人に対する債権譲渡が真正債権譲渡と債権譲渡担保のいずれ
であるかによって異なる対応を求められることとなる(真正債権譲渡であれば差押えを無
視して第一順位の譲受人に弁済しなければならないが、債権譲渡担保であれば第一順位の
譲受人に弁済してはならない)が、第三債務者が通知の内容によって真正債権譲渡と債権
譲渡担保を区別することは困難な場合があることからすれば、このような仕組みも相当と30はいえない。
また、前記(説明)1のとおり、債権譲渡担保については実効的で負担の小さい通知の
仕組みを設けることが難しく、優先し又は劣後する債権譲渡担保権者が手続を排除し又は
手続に参加するための機会を確保することは困難である。
さらに、質権の同条に基づく債権執行手続による実行については、目的債権が条件付等35で取立てが困難であるために売却命令を得るべき場合などに実益があるとされているが、
債権譲渡担保権については、そのような場合には帰属清算方式又は処分清算方式による実
行をすれば足りるから、同条に基づく債権執行手続を認める必要性は乏しく、これを認め
る具体的な実務上のニーズも指摘されていない。20以上のとおり、債権譲渡担保権については、第三債務者の利益を保護しつつ利害関係人
の関与の機会を確保できるような形で同条に基づく債権執行手続を認める仕組みを構築す
ることが容易ではなく、これを認める具体的なニーズも指摘されていないことから、本文
では、債権譲渡担保権を同条に基づく債権執行によって実行することができるものとする
ことは見送ることを提案しているが、この点についてどのように考えるか。5なお、中間試案第 15、7(集合債権を目的とする譲渡担保権の実行)については、次回
の部会資料で取り上げる予定である。