どさんこ
第66回 法務省札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
刑務所の受刑者や少年院の在院者は、施設の
中で外部の専門家の方々のご協力を得て、クラブ
活動や矯正教育の時間に、絵画や書道、短歌など
の作品づくりに取り組んでいます。札幌矯正管区
では、これらの作品を対象として年に1回、コン
クールを行っており、各分野で活躍される専門家
に審査をしていただいています。 作品をとおして、
受刑者や在院者のことを知っていただくきっかけ
になれば幸いです。
・刑事施設
美 術 部 門(写生画・自由画)
書 道 部 門
ペン書道部門
文 芸 部 門
(短歌・俳句・詩・随筆・読書感想文)
・少年施設
絵 画 部 門
書 道 部 門
ペン書道部門
文 芸 部 門
(短歌・俳句・詩・作文)
写生画 第一席『初夏の奥入瀬』旭川刑務所I・Y細かな点描で描き、初夏の自然の爽やかさが表現されております。緑色の濃淡や明暗の描き方、水の流れを表現する技法等に優れた作品です。画面の構図も適格で遠近感もあり、風景画として優れた秀作です。
写生画 第二席『故郷の景色』旭川刑務所A・Y一筆一筆丁寧に点描で描いた努力作です。画面の隅々まで時間をかけて描いた努力が伝わってきます。少し単調になった点がありますが、色彩の豊かさや細かな筆使い等が見られる力作です。写生画 第三席『祖父と亡き愛犬へ』函館少年刑務所I・K淡い単色の鉛筆で描いたと思われますが、ユニークな作品です。細部まで忠実に描いており、鉛筆の濃淡を活かした優れた作品です。総評この部門は出品された作品は少なめでしたが、力作や努力作が多くありました。写生画は、描く本人が見て感じたことを形や色彩で表現する絵画ですが、作品から描いた意図や感情が伝わってくることが大事です。入賞した作品は、いずれも作者の努力や感情が伝わってくる作品でした。1
絵画部門
(刑事施設) 2自由画 第一席『2024年PM、七色の大地』帯広刑務所Y・S豊富な題材を使って、画面一杯に描いており、見る人に色々なことを伝えてくれる作品です。色彩が豊富で描写力もあり、描いたものが的確に表現されております。題材がユニークで大変優れた秀作です。
自由画 第二席『ロシアの壁〜ウクライナに栄光あれ〜』旭川刑務所T・H色々な技法を駆使して描かれております。描いた内容も豊富で見る人が色々と考えさせられそうです。現実の世界と未来の夢が表現されており、豊かな発想力が感じられる作品です。自由画 第三席『水門破り』月形刑務所T・Tオーソドックスな描き方で画面全体を的確な描写力と色彩で表現した作品です。描く技法にも色々と工夫の跡が見られ、見事な力作です。総評この部門は出品数も一番多く、質、量ともに充実した作品が多くありました。今回入賞した作品以外にも、優れた作品が多数あり、優劣をつけ難い部門でした。その中でも入賞した作品は、発想がユニークであり、題材の豊かさと秀でた描写力が見られました。 3
書道部門
(刑事施設)
第一席『問正人疾』旭川刑務所S・T一文字ひと文字の立ち姿の美しさ、鮮やかです。引きしまった清々しい行書作品です。「行くが如し」の運筆が気脈を通り、その線が伸びやかに響き渡っています。白い空間が際立ちます。『曹全碑』網走刑務所N・S曹全碑の多字数臨書作品、丁寧に習い込んでの腕前に魅了されます。隷書の八分隷は波勢のリズムで終始一貫しますが、充分の技量なればの緩みない字形は終章まで安定しています。
第二席
第三席『敷水歌』旭川刑務所Y・H凛とし、引きしまった楷書作品に心が深く引き込まれます。確かな運筆は、縦画も横画も全て強靭な線になって艶やかに輝きます。総評今年は半切、半紙と多様な作品が揃いました。長歌や短歌・漢詩・写経、歌謡曲と題材に応じての構成も吟味された豊かな年でした。一作ごとに秘めたる想い、願い等々を受けとめ、見入っておりました。特に半切作品は、習熟度も増し、秀作が多く甲乙付けがたい選定になりました。今年も良い作品に出合いました。 4
ペン書道部門
(刑事施設)
第一席『我が弱さを斬る』函館少年刑務所S・Yこの作品の発想が素晴らしい!鋭い切れ味の線に驚きが隠せません。また、綺麗に黒で塗りつぶした努力と労力も認めます。第二席『猫の眼月』網走刑務所N・Sとてもバランス良く工夫を凝らした作品で美意識の高い、真似のできない立派な作品です。第三席
第三席『八徳(「南総里見八犬伝」より)』札幌刑務支所О・R犬が可愛い。八徳の文字も工夫があり、間違いなく色を塗り分けるのも大変でしたね。『王将』札幌刑務所T・K昨今、世間を賑わせている最も良いニュースです。堂々とバランス良く書けています。総評たくさんの作品を拝見しました。長文で心から溢れ出る言葉に涙が出そうなものもありました。ペン書道は、地道に努力しなければなりません。立派な作品ばかりで全部展示したいほどです。審査に大変悩みました。 5
絵画部門
(少年施設)
第一席『静物画』北海少年院O・Y大まかな筆使いの彩色で面を捉え、パイン、桃、パンそれぞれの特徴を上手に表現しております。画面全体が柔らかな色彩で描かれており、温かみの感じられる作品です。
第二席『静物画』北海少年院M・R鉛筆によるデッサンの作品ですが、絵の基本を忠実に実践した作品です。果物の明暗表現や立体感が上手に描かれております。
第三席『タカ』紫明女子学院I・M「タカ」を力強く表現した作品です。特に前方を見つめる鋭い眼差しは、見る人に何かを強く訴えているようです。総評少年部門は出品数が少なく、力作と思われるような作品も少数でした。その中で、描く対象を忠実に描いた作品を入賞としました。絵を描く学習を通して、素直な自分の感情や思いを表現してほしいと願っております。 6
書道部門
(少年施設)
第一席『我心固非石』北海少年院S・H楷書の
"とめ・はね・はらい"を注意深く習いましたね。一画一画の美しい線が五文字の形象に表れています。画数の異なる五文字のバランスも上々です。「我」、「心」特級です。
第二席
第三席『青天白日』紫明女子学院K・R次の画へと筆の運びが丁寧に移動します。横画の長短の線は、すっきりと整って美しい立ち姿の四文字作品です。「白」の清々しさ、魅力的です。『山川三千里』北海少年院S・R堂々と行書体に向き合った気合に見とれます。強弱のリズムを付けるには、筆との格闘でもありますので、一層の挑戦をしてください。「里」の終筆が良くなりますよ。総評今回は半紙サイズの作品だけでしたが、真白の半紙に向かう本気の眼差しを感じる初々しい心意気の良作に囲まれていました。筆を執ると、少しでも上手に書きたくなり紙数を重ねます。でも・・・今の自分の技量の以上でも以下でもない、ありのままの自分を知らされます。こうした繰り返しの積み重ねがあってこその「上達」への道程です。自分との対話を大切にしていきましょう。
ペン書道部門
(少年施設)
第二席『春望』北海少年院M・R五言絶句を丁寧に書きました。読みやすく構成も良いですが、サインペンですと、もう少し力強くなります。第三席『精進』北海少年院I・H堂々と書かれています。運筆も勢いが良いです。総評筆を持つ機会が少なくなりつつある今日、審査も困難を極めます。今回提出された作品は、丁寧に書かれていて安心しました。自分の字を少し離れて、眺めてみるのも良いものです。 7写生画 佳作
『新たな船出』 函館少年刑務所 E・T
写生画 佳作
『海なりの白い無人駅(津軽五能線 驫木駅)』
網走刑務所 N・S
写生画 佳作
『森の香澄ちゃん』 月形刑務所 H・M
自由画 佳作
『不動明王と龍』 月形刑務所 N・T
自由画 佳作
『桜』 旭川刑務所 A・Y
自由画 佳作
『清河縣之産武松』 月形刑務所 S・S 8書道(刑事施設の部) 佳作
『誠実』 釧路刑務支所 U・M
絵画(少年施設の部) 佳作
『静物画』 北海少年院 Y・S
書道(刑事施設の部) 佳作
『希望』 函館少年刑務所 I・T
ペン書道(刑事施設の部) 佳作
『手紙で使う語句』 函館少年刑務所 K・T
絵画(少年施設の部) 佳作
『静物画』 北海少年院 K・A
絵画(少年施設の部) 佳作
『とり』 紫明女子学院 Y・S
書道(刑事施設の部) 佳作
『峨眉山月歌』 札幌刑務支所 S・R
ペン書道(刑事施設の部) 佳作
『般若心経』 網走刑務所 T・E 9第一席卯月の夜浮かぶうさぎが住む月は丸く明るく兵器は要らぬ札幌刑務支所U・A第二席楽ですか笑っていますか友達は?早すぎました君に会いたい網走刑務所T・T第三席白杖を握りし少女空見上げひばりのこえに天使と出会ふ函館少年刑務所O・K第一席卯月の夜、空には月が浮かんでいた。満月だったのだろう。月は「丸く、明るく」輝いている。そして、月のうっすらとした影からは、うさぎが杵を持ち、餅をついている平和な様子が浮かび上がる。うさぎが住む月には一切争いはない。一方、地球上では、人間は杵ではなく兵器を持ち、戦争が絶えない。月とは対照的な地球の現況が浮き彫りになる。月から発想して、結句は「兵器は要らぬ」に至った。地球も平和であってほしいという作者の強い思いが伝わってくる。月を叙情的に詠いながら、社会に目を向けた優れた反戦歌である。第二席若くして亡くなった友だちへのたたみかけるような語り掛けが心に響く。亡くなった友だちの今いるところに思いを馳せている。そこでは楽に暮らしているだろうか、笑っているだろうか。友だちはできただろうか。友だちを思いやっている優しい作者の気持ちが表れている。最後に「君に会いたい」という切実な心情がストレートに表現され、悲しみを誘う。日常的な言葉そのままを軽やかにリズム良く使っている中に、深い悲しみが伝わってくる。友だちの死を悼む心に沁みる挽歌である。第三席白杖を握った少女が空を見上げているという一枚の絵画が浮かんでくる。空ではひばりが囀っている。その声を聞いて、少女の見えない目には天使が映ったという内容である。「握りし」という触感があり、「こえ」に対しては聴覚、「天使と出会ふ」には視覚が働いている。何気ない表現の中に人間の知覚が捉えられている。人はいろいろな時に空を見上げ、何かを感じて救われることがあるだろう。「ひばりのこえ」や「天使」は象徴として、人によって、救いを与えてくれる別の何かにもなり得るのではないだろうか。少女がひばりの声を聞いて救われた瞬間が絵画的に美しく詠われている。
短歌
(刑事施設の部・少年施設の部)刑事施設の部少年施設の部
文芸部門第一席冬正午発進直後に猛吹雪我らを包む純白の闇北海少年院I・H第二席五年後はなにしているのか考えるなにをしててもしあわせねがう紫明女子学院Y・S第一席どうしても正午に車で出発しなければならない事情があったのだろう。「冬正午発進」と言葉が続き、緊張感が漂う。その直後の猛吹雪、でも車は進まなくてはならない。猛吹雪の中では前後左右が真っ白で何も見えなくなる。それを「純白の闇」と表現したところがユニークで、詩情が感じられる。猛吹雪に囲まれるのではなく、「包む」と捉えている。上三句までは、猛吹雪に見舞われるという緊迫感があるが、下二句では、緊迫感が消えて、周囲は何も見えず、ただただ白い中で、不思議な安堵感も味わっていたのではないだろうか。ホワイトアウトを作者独自の感性で捉えた力作である。第二席自分の言葉で、リズム良く素直に今の気持ちが表現されている。5年という歳月は一つの節目と言えるだろう。まだ自分の将来が見えない若者は、5年後に自分は一体何をしているだろうと想像する。想像してみても自分の未来について今は何も浮かばない。何をしているかわからないけれど、とにかく幸せでありたいという気持ちがストレートに詠われており、この歌を詠むと作者が何とか幸せであってほしいと願う気持ちになる。総評【刑事施設の部】今年も良い作品がたくさんあり、選歌が大変だった。短歌を作っていく上での視点はとても優れているものの、誤字脱字や短歌の定型に入りきらずリズムが整っていないことなどから、選ぶことができない作品があり、残念だった。あと一息で素晴らしい短歌になる作品もたくさんあった。継続することで短歌を作る力は磨かれていくので、楽しみながら続けていただきたいと思う。短歌の内容は多岐にわたり、家族のこと、日々の生活のこと、自然を見ていて感じたこと、自戒を込めた歌、社会情勢から感じたこと等、どの歌からも思いが伝わってくる。どんなことを感じて、どんな生活を送っているかが、それぞれの歌から読み取れる。毎日のルーティンの中で歌を詠んでいける感性は豊かで素晴らしい。選ばせていただいた歌はそのほんの一部ではあるが、応募作品全てから、その心の内が感じられた。【少年施設の部】応募数が少なかったため、入賞は第二席まで、佳作は二首となった。応募数は少ないながらも、どの歌にも正直な心情が表現されていた。現在の気持ちの表出もあれば、楽しかった思い出を回想している歌もあり、毎日の生活の中でさまざまに思いを巡らせ、短歌に取り組んでいる姿勢が見える。迷いも見えるが、感謝の気持ちを表現し、前向きに生きようとしている姿があった。とても良い視点で詠っているものの、短歌の定型に入りきらなかったため選べなかった作品もあり、残念だった。短歌の定型に収めるのは難しい場合もあるが、短歌の定型に収めようとすることが、言葉の選択やリズムを整える上で助けになる。さまざまな思いを表現する器として、短歌を続けてほしいと思う。短歌は心の支えになってくれる。 10第一席宿題も風呂も忘れる夏休み札幌刑務所T・K第二席初盆や写経の前に顔洗う旭川刑務所K・K第三席秋雨やいつも遅れる君を待つ網走刑務所M・R第一席待ちに待った夏休み。宿題なんか何時でもできると思った子供の頃を思い出す。こんな明るい作品には、久し振りに出合った。躍動感が溢れる。第二席その人が逝ってしばらく経ったのだが、供養に写経をすることにした。顔を洗って、机に向かう作者の心が清々しい。何よりの供養ができたのだ。第三席逸る気持ちを持ちながら遅れてしまう相手は、重責の仕事を担っているのだろう。それを承知に今日も待っている作者。微笑ましく心が温まる待ち合わせの様子、読む選者も嬉しい。第一席袖余る制服身につけ新学期北海少年院O・Y第二席さくらの木さいごにせおうランドセル紫明女子学院K・R第三席一走り霞む山見て春思う北海少年院I・H第一席子供の成長は早い。袖の長いことを承知しながらいる親の姿が見える。年を越し、進級するころには丁度よくなるのだ。下5の「新学期」が「入学す」では平凡でよくある句になってしまう。第二席校庭の端にランドセルを並べて、みんなで記念植樹をしたのだろう。添え木をして、土を盛り、水をやり、全てを終えて、最後にランドセルを背負ったのだ。第三席いつも見ている山々から少し走ったところで山が霞んでいた。「あゝ春が来ている!!」と感じたのであろう。季節に敏感なほど、心身とも健康なのだ。
俳句
(刑事施設の部・少年施設の部)総評【刑事施設の部】気遣い、思い遣いの作品に佳句が多かったことが嬉しかった。一方、せっかくの応募がありながら季題の入っていない作品が多かった。俳句は、季題を詠み込む短詩であることを再認識してほしい。春光を散らして走るランドセル薄氷をミシリミシリと学校へ投函のはがきの季語も秋日和すやすやと鉛筆ころり春の音函館は烏賊売り声で夏が来る選に入れたいと思った作品も多々あった。【少年施設の部】残念ながら応募数が少なかったことが惜しまれる。5・7・5の短詩作り、一度身についたことは一生の宝となります。日記の文よりも1句で生涯忘れない日を振り返れます。今回は応募しなかった方々も、是非挑戦してください。少年施設の部刑事施設の部
入賞作品展の様子 11第一席(刑事施設の部)「雑」ではない草たち旭川刑務所K・K人に踏まれ、蹴られ、投げ捨てられる名前すら憶えられない草たち雑草と蔑まれても大地にしっかり根を張っている雑草などと呼ばずひとつひとつとしっかり向き合えばその凄さ気付くだろう生に対する貪欲な執念どんな場所でも生きるたくましい生命力他者との共生を許す協調性様々な種類の葉を持つ多様性多くの色鮮やかな花の可憐さお淑やかで慎ましい謙虚さその存在は気高く尊い誰かの心を癒し、和ませ誰かにひと時の幸福感を与えるそういうものに私はなりたい詩(刑事施設の部・少年施設の部)第二席(刑事施設の部)たんぽぽの種札幌刑務所S・Fたんぽぽの種たちは綿毛に運ばれ風が西に向いて吹けばたちどころに命を携えて西に旅立つ南風や東風ももちろん北風すら同様に従うどんな風であっても備えは十分躊躇うことなく飛び立ち風に逆らうことをしない中身は空っぽの籾殻ではない大事な命が一つひとつにある風は次の世代の命を広め繋げるのに欠かせない風向きがどうであれ散らばって吹かれたまま富んでゆく辿り着いた地で多くの種がそこに芽を出し明るい未来を見つける仲間を増やすことを使命として知っている野草をよく雑草という言葉で括ってしまいますが、雑では片付けられない生命力、共生を伴う協調性、多様性、可憐さに驚かされます。野草は、過度な言葉より人を豊かに励ましてくれます。たんぽぽの綿毛は、弱々しく、ひ弱に見えますが、風と語らい、未来へ続く命を立派に紡いでいるのです。第三席(刑事施設の部)鏡像月形刑務所K・Tボクは鏡の中のキミに右手を上げてみた鏡の中のキミはボクに左手を上げているボクはキミに右目をつぶってみたキミはボクに左目をつぶってるボクはキミに微笑んでみたキミもボクに微笑んでいるボクはキミを悲しい顔で見たキミはボクを心配しているボクはキミに心配ばかり掛けているキミはボクに悲しんで心配しているボクは自分の姿(気持ち)を映して初めてキミの心の痛みを知ったよこれからはキミが微笑んでいる幸せな姿がいつまでもボクの心に映っていられる強い優しさを持つよ二人の心は合わせ鏡鏡に映るボクの表情は憂いのままだ。今、知った。これからは、ボクの心からの微笑み、そして、やさしさを鏡に映して変わっていきたい。鏡はボクにそう教えてくれるのです。総評どなたかの言葉に"人は喉に渇きを覚えれば、水を探す、心に渇きを覚えれば言葉を求める
"と。心と言葉を結んで生まれたものが詩であるとすると、それは全く自分だけに宿る唯一、自分だけの営みと申しても過言ではありません。今回、この詩領域には、皆さんそれぞれの思い、情景、悔恨等心の奥を見つめて述べたものが専らで、多くの作品が寄せられました。入賞作品展の様子 12第一席(少年施設の部)少年院に来た私紫明女子学院I・M私は変われるかしら楽しいことたくさん待っているかしらどんな辛いことが待っているのかしらこの先のことなんて誰もわからない先生もわからない先生はすごい人たちだ私を応援してくれている家族も私を応援してくれている今は家族に会えなくてすごく辛いその分先生方がなぐさめてくれる私は応援してくれる人がいるから変わらなきゃいけないのだ未来に向けて、希望や不安の入り混じる気持ちを飾らずありのまま表現しています。離れてわかる家族への思い、そして今、支えてくれる先生方への思いが、自分の気持ちを未来へと高めています。それらの思いが真っ直ぐに伝わってきます。第二席(少年施設の部)少年院北海少年院K・Tいくら勉強しても分からないことがある頭が悪いからじゃないやってもやっても次々といくら働いても手に入らないものがあるお金じゃ買えないものどんな力も奪えないもの僕は何を信じて生きているのかどんな答えも夢みたいにすぐ消える新聞を読むとテレビを見るとこの世界がとんでもなく醜く思えてしまうそう思う自分に負けないために全てを人のせいにしないために今日も勉強に打ち込もうすぐには分からないことがあるということ、お金では手に入らないものがあるということ。何を信じて生きるべきかという問いに行き当たる自分。価値あるもの、確かな自分を求めて、歩み出す決意が感じられます。第三席(少年施設の部)草刈り北海少年院O・Y眩しい陽射しを浴びながら、緑色の絨毯が足をくすぐる。ズボンにはぽつぽつとくっつき虫。モーター音を轟かせ、くるくるとくるくると、絨毯のお手入れ。音のないそこには、虫の声と水筒の中で鳴る、カランコロンという音。お手入れ中は、静けさを破る。そして緑の匂いが、鼻をくすぐる。お手入れを終えた、緑色の絨毯。それを見た、自分、先生の笑顔は、緑色の絨毯を照らすお陽さまよりも、とてもとても、輝いてる。陽射しの中での草刈りの情景が、優れた表現力で描かれています。手や足に触れる感覚、耳に聞こえる音、目に映える緑、鼻をくすぐる匂いなど、実に鮮やかです。先生の笑顔が光の中で印象的に伝わってきます。総評どの作品にも独自の世界があり、生きることの息吹が感じられました。詩を書くことは木彫りの彫刻に似ています。頭の中のもやもやしているものを、言葉というノミを打ち込みながら、頭の中のイメージを創りながら、一つの形ある作品に仕上げていきます。作品となることで、彫刻は見る人に何かを伝えます。詩は、言葉によって、作品世界を読み手と共有します。詩を書く動機は何でしょうか。これまでの作品を読むと、抱えきれない思いから自分を救い出したくて詩を書いたという人、突然、頭に浮かんだ物語やイメージを書いたという人、ある出来事や出会いがきっかけで書いたという人、何となく書きたくなったという人など、書きたい理由は様々だと思いました。書かれた詩は、書かれた作品世界は、読む人と共有されます。つまり読む人との間に見えないつながりが生まれます。誰もが詩を書きたいと思うわけではありません。詩を書きたいと思うこと、詩を書くということは、その人のかけがえのない個性です。間違いなく個性です。書かれた詩は、同じものが二つとありません。詩を書くことは、新しい自分を生み出すことかもしれません。詩を書くときに、自分の思いに合う言葉を探すことは、時には苦しい作業です。しかし、そうして出来上がった作品は、自分のかわいい分身です。詩を書くことを楽しみ、書くことで新しい自分を見つけることができるならば、未来の自分を形作る確かな手段になることでしょう。 13
随筆(刑事施設の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
札幌刑務支所
I・C
「食」は元気の素
この題名に異を差しはさむ人はいないのでは?食事、食べる
行為は、原始の大昔から今日、明日、明後日へと連綿と続く営
みです。人種、民族により食材や味覚に違いはあれど、食事を
取ることは正しく生命の営み、健康の源です。
第二席
月形刑務所
A・H
坐ってみた
とある縁で手にした仏教書から、深まる自己凝視。心と身体
の束縛を解き放し、一歩一歩、身心脱落、只管打坐の境地に至
る変容ぶりが読み手にも伝わってきます。
第三席
札幌刑務支所
T・M
人生で大切な人と囲む
食卓、家庭の味
家族揃って、食卓を囲んでの和やかな様子を紹介してくれま
した。家族の幸せ、絆、原点はここから生まれ、これ以外には
ありません。正にここ。
今年度、随筆の部門には、道内5施設から13点に及ぶ作品が寄せられました。今夏は昨年以上、記録的とも言える猛
暑の中、原稿用紙に向かっている皆さんを想像しながら読みました。
寄せられた作品は、身辺生活に材を求めたものが多く、食事のこと、家庭の味、坐禅また金時豆の選定など日頃見聞し
たり、体験した事柄に自身の思いを付与し、その内容は様々です。書き手としての皆さんの息づかいが伝わってきます。
読書感想文(刑事施設の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
札幌刑務所
H・T
「わたしを離さないで」
を読んで
科学の進歩の裏に潜む無慈悲、非情、冷酷さを描いたカズ
オ・イシグロの代表的な小説で、映画にもなりました。作品を
丁寧に読み、得られた思いを無理なく書き述べております。
第二席
旭川刑務所
Y・H
「思う」ということの
大切さ
稲盛和夫氏の経営哲学の骨子は、「思う」であり、「思い」
です。それは何事も「前向きに(積極的にの意味)」「手堅く
(堅実にの意味)」そして「着実に(確実に行うの意味)」と
いうことでした。読み捉えたあなた。この哲理をあなたご自身
の今後の任務、役割分担に活かしてください。
第三席
釧路刑務支所
I・N
「ラーゲリより愛を込め
て」を読んで
今次大戦下、酷寒の地シベリアで戦争捕虜として抑留され、
落命した日本人は10万人余とも言われております。強い意志
の下、同胞が助け合う様子を描いたルポルタージュ小説。作品
から得た力強い感想と決意を大切にされますように。
今年度、読書感想文の部門には、道内7施設から27点に及ぶ作品が寄せられました。この領域の基本は申すまでもな
く、本、書籍です。その本を読んで得られた感想、すなわち考えさせられたこと、感じたことが土台になります。
今回、入賞した作品に共通しているのは、感想の中心が明確になっていること。同時に、作品から得られた自分なりの
決意や考えが深められ、強く打ち出された点が共通しております。 14作 者 タイトル 講 評
第一席
北海少年院
I・H
少年院と私
語られるリズムが伝わってきます。少年院での生活を振り返
り、気づいたこと、学んだこと、生きている喜びなどが生き生
きと表現されています。最も大きな気づきは、客観的に見た自
分と、支えてくれる人の存在。感謝の思いと新しい自分づくり
に向けて歩む決意が、心の底に広がるのを感じます。
第二席
北海少年院
S・R
少年院で気づいた
こと
少年院でのたくさんの気づきと学びが語られています。日常
の当たり前であることの幸せ、それを奪われた被害者の思い。
後悔の思いを持ちながら、自分の人格形成に良い影響を与え、
自分を成長させる方法も学びました。先生や家族、仲間に感謝
しつつ、自分を見つめ、地に足をつけて歩き出しています。
第三席
北海少年院
S・I
守ることの大切さ
ルールを守るのは何のためかという大事な問いに正面から向
き合い、一歩ずつ考えを深める姿が伝わってきます。人や自分
を守るためのルール・法律。それらを守って生活することの大
事さ。自問自答を重ね、着実に理解を深め、社会人としての自
分の未来を描く力が備わってきました。
人が変わるとはどのようなことか、人が成長するとはどのようなことか。それぞれの作品を読んで考えさせられ
ました。自分を振り返る時間。その中で、自分の身近にいて言葉をかけ、心配し、話を聞き、粘り強く自分に関
わってくれる存在、教官の存在の大きさがどの作品にも書かれていました。人を変えるのは人。例え家族との関係
が気まずい時でも、身近にいて自分を気にかけてくれる存在の有難さが、それぞれ違う表現ではっきりと語られて
いました。
自分を振り返ることで見えてきたこと、それは、客観的な自分の姿です。これまでの自分の歩いてきた道、仲間
との関係、自分の過ちや被害者の思い、自分を心配する人の存在。振り返る中で、自分のこれからの生き方、自分
の未来を考える力が育ってきています。狭い世界ではなく、広い社会の中での自分の幸せややりがい、居場所を考
える力です。新しい自分づくりの大事な土台となる力です。
さて、自分と向き合うことを促したものの、それは、人との出会いや言葉との出合いです。先生の言葉、家族の
言葉、講師の先生の経験談、仲間の言葉や行動、本との出合いなど、実に様々です。それらとの出会いを通して、
自分を見つめる目が深くなり、また周りを見る目が優しくきめ細かくなりました。ゆっくり考えること、立ち止
まって考えることは、やはり大事です。そして、いつも思うのは、書くことは考えることです。また、書くことは
ゆっくり自分を見つめることです。その中で見えてきた思いや考え、「なりたい自分」は本物です。
書いてみると、もう一人の自分が現れます。その自分の前ではウソは書けません。心に照らしながら、書いたり
書き直したりします。そのような作業を繰り返しながら、書くことはいつの間にか自分を成長させてくれます。成
長した自分は、将来の自分のどこかに必ず生きています。
「書くこと」で鍛えた自分が、迷った自分に対して知恵と勇気を与え、正しい判断の後押しをしてくれる優しく
て強い自分になると信じます。
作文(少年施設の部)
毎年開催している作品展で
は、各部門の入賞作品等を展
示します。詳細は法務省ホーム
ページ内の「札幌矯正管区フロ
ントページ」に掲載します。
札幌矯正管区フロントページ
【札幌矯正管区フロントページ】
入賞作品展の様子
第66回 法務省札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
令和6年2月 発 行
編集・発行 札幌矯正管区第三部
発 行 所 札幌市東区東苗穂1-2-5-5
TEL 011(783)5063
FAX 011(780)2207

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