明るい社会にするために
鹿児島県・天城町立北中学校・二年
角川
かくがわ凜りん
「俺の恐怖がわかってたまるか!まともに働こうが、友達や恋人を作ろ
うが、週刊誌にさらされれば全部無駄になるって突きつけられたんだぞ!
どうせ無駄になんなら、最初から犯罪に手を染めて大金稼いだ方が得じゃ
ねぇか!」
これは松村涼哉さんの
『15歳のテロリスト』
(KADOKAWA 2019)
という本の一文です。犯罪を犯すも、更生を目指していた灰谷ユズルでし
たが、被害者遺族によって過去の事件を世間にさらされ、人生をやり直す
気持ちを断ち切られてしまった時に言った言葉です。
この本を読んで、私は「犯罪」への見方が変わり、同情する気持ちが芽
生えました。犯罪は悪い、そこは間違いないですが、加害者も被害者とし
ての経験や思いを抱えていて、事件の表には見えない、心 の奥深い思いが
あることに気づかされたのです。ニュースやミステリーなどで事件を見聞
きすると、犯人が一方的に悪いと、今までの私は思い込んでいました。け
れど、加害者にも被害者と同じように、苦しみや悲しみ、痛み、そうなら
ざるをえない境遇や育ちがあり、心の奥深く、本当の気持ちを見ていかな
い限り、根本的な解決にはならないことに気づいたのです。
この本にあるような悲しい現実は、どのようにしたら断ち切れるのでし
ょうか。私だって、大切な人が殺されたら、その犯人を許すことなどでき
ません。けれど、復讐をすることが本当の意味で望 むことではないことも
分かっています。このどうにもならない痛みの連鎖を、どうしたら断ち切
れるのか、私なりに考えたことを二つあげます。
一つ目は、
心の感情を表現する対話の大切さです。
それはガンジーの
「全
法務省"社会を 明るく する運動"中央 推進委 員会主催
第 7 3 回 " 社 会 を 明 る く す る 運 動 " 作 文 コ ン テ ス ト
ての攻撃は悲鳴である」という言葉を思い出したからです。人が人を攻撃
する時、つまり加害者になる時、実はその人は相手を傷つけたいわけでは
なく、
「 相手が攻 撃 してきたか らやり 返した」と 被害者 意識で思い 込ん で
いることが多いのです。これが復讐が起きる仕組みなのだと思います。こ
れを断ち切 るため には、この 心の中 の痛みや悲 しみ、 苦しみを言 語化し 、
表現していくことが大切だと思いました。
受刑者同士の対話をベースに犯罪の原因を探り、更生を促すプログラム
を 日 本 で 唯 一 導 入 し て い る 島 根 あ さ ひ 社 会 復 帰 促 進 セ ン タ ー を 取 材 し た
映画『プリ ズンサ ークル』
(坂上香 、 東風 20 19 ) では 、心の 内を 人
に伝え聞いてもらうことによって、人との関わり方が変わっていくとあり
ました。同じ気持ちの人と出会い、本音で語り合い、自分のことをわかっ
てもらえた と共感 してもらえ ること で、再犯率 が大き く下がるそ うです 。
人は一人で 抱え込 んでも、マ イナス の気持ちが 大きく なる ばかり ですが 、
人と話すことによって、他の意見やプラスの考え方を知ることができます。
こうなれば復讐のために加害者を苦しめたり、再犯を犯したりしなくても
よくなるのではないかと考えました。したがって被害者が悲しい、悔しい、
復讐したいという気持ちを打ち明けたり、共有できる場所をつくることが
大切だと思います。
二つ目は、地域のつながりです。地域内のつながりが薄いと非行に 走り
やすいそうです。私は東京から徳之島の小さな集落に引っ越してきました。
地域の濃いつながりを日々実感しながら生活しています。車に乗っていれ
ばすれ違う たびに 手を振って くれ、 歩いていれ ば、
「 乗 ってく?」 とた く
さんの人が声をかけてくれます。困っていてもいなくても、大人も子ども
も、皆が声 をかけ 合い支え合 って生 きています 。たく さんの行事 があり 、
近所で知らない人はほとんどいません。子どもは全員が子ども会に所属し、
掃除やボランティア活動、敬老会、歓送迎会、季節の行事、たくさんの時
間を共に過ごしています。そして集落の大人は「他人の子も我が子のよう
に育てる」とよく言っています。悪いことをしたらどの子も怒るし、そし
て本気で親身になって可愛がってくれます。徳之島の人はお互い に見守り
合っている感じがします。これでは近所の人の目や信頼があって、悪いこ
ともできません。地域の中でたくさんの人に話しかけてもらい、たくさん
愛されて、人や自分のことを信頼することができたら、犯罪や復讐をしよ
うとする気持ちはきっと減ると思います。したがって地域のつながりをつ
くっていく取り組みが大切だと思いました。
これらのことから、再犯を減らし明るい社会にするためには、人とのつ
ながりを大切にし、また同時に自分の本当の気持ちを打ち明けられる場所
の存在が人の心を救っていくのだと思います。

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