家族を再生する「読み聞かせ」の力
山梨県・山梨市立八幡小学校・六年
高梨
たかなし詩うた楠な
「本を読んであげるから、こっちに来て。」母さんが私を呼ぶ。
「また?私だって色々と忙しいんだよ?。」と私が言うと、母さんは決まってこう答える。
「読み聞かせの練習だから、お願いします。」小学校4年生頃まであったこんな会話。でも最近、母さんは前みたいに私
をさそってこない。
母さんは 私に、 たくさんの 本を読 んでくれた 。
『機 関 車トーマス 』シ リ
ーズや『バー バパ パ』、『ぐりとぐら 』や『がまく んと かえるくん』
、一冊
を何度もくり返し読んでもらったものもあった。つかれていたのか、時々
読んでいる最中に母が寝てしまうことがあった。そ れからは自分でも読め
るようになり、わが家での読み聞かせは月一、二回になった。私は気はず
かしさもあって、
「もう読み聞かせ卒業でいいよ、母さんも大変だし。」と言ったら、
「そうだね、わかった。」母さんは少しさみしそうだった。
プリズン・ライブラリー。最近 出会った不思議な言葉だ。刑務所と図書
館。関係のない二つの場所が、どうしてつながったんだろう。特集された
記事では 、
「女性 受 刑者とわが 子をつ なぐ絵本の 読みあ い」という 本が 紹
介されていた。
法 務 省 " 社 会 を 明 る く す る 運 動 " 中 央 推 進 委 員 会 主 催
第 7 3 回 " 社 会 を 明 る く す る 運 動 " 作 文 コ ン テ ス ト
罪を犯して刑務所にいる母親たち。家族と離れて暮らす彼女たちが取り
組んでいる のは絵 本の読み聞 かせだ 。
"塀の外" に暮ら すわが子に 向け て
受刑者が絵本を読む練習をし、
録音したCDを届ける
「絆プログラム」
は、
山口県の刑務所で行われている。
本の冒頭 を読み 、私はすぐ に本を 閉じた。
「悪いこ と をしてつか まっ て
刑 務 所 に 入 っ て い る の に 、 な ぜ 読 み 聞 か せ を し た い と 思 え る ん だ ろ う 。」「一度でも刑務所に入った母親は子どもに会うべきじゃない」と感じたか
らだ。罪を犯したら、それで終わり。続きなんてない。私はなぜかかたく
なにそう思っていた。
しばらくして、母さんにその本の話をした。
「読んだよ。でもあな たには難しいかもね。」と言った。
「でもその人の『声』を聞いたら、考え方が変わるかもしれないよ。」と言って、録画した番組を見せてくれた。それは実際に受刑者の読みあい
を取材した番組だった。そこに出てきたのは、私の近くにもたくさんいそ
うな普通の女性、刑務所の中だからか、みんな同じ服を着ている。参加者
はそれぞれ 本を選 び、練習し ている 。そこには 、
『わ た しが赤ちゃ んだ っ
たとき』や 『やさ しいライオ ン』や 、私も読ん でもら ったなつか しい本 、
何よりも気 になっ たのは、練 習して いる母さん たちの 『声』
。 緊張して い
るみたい。でもやさしい。一人一人の母 さ ん の声 は 温 かく や さ しか っ た 。
私は初めて気づいた。そこにいるのは、私と同じ人 間、私の母と同じよ
うに「誰かの母」なんだ。彼女たちの罪状は、薬物が多かった 。でもその
理由が、一 人親家 庭や貧困家 庭にあ る小さなス トレス だ 。
「自 分の母親 が
こんな状きょうになったら」
「自分の家族が刑務所にいたら」
。そこにいて、
絵本を読んでいる母さんたちの「声」を聞いて、罪をつぐない、社会に戻
ることの大切さを思い知らされた。
プログラムの参加者は、最後に読み聞かせを録音する。みんな緊張して
いる。読ん でいる 母さん一人 一人に 、
「がんばれ 、がん ばれ」と応 えん し
ている私が いた。
「 早く家に戻 って、 さみしい思 いをし ている 子供 たち を
だきしめて ほしい 」
。私は本も 図書館 も大好き。 本や読 書が自分に パワ ー
をくれるのも知っている。でも今回、絆プログラムの映像を見て気づいた
のは、本が作りだす、まさに「絆」だ。近くにいても離れていても、本が
あればつながれる。読み聞かせってすごいと思う。
もう一つ 、気づ いたことが ある。 それは、読 み聞か せは、
「 読んでも ら
う人」だけ ではな く、
「読 んだ人」 も いやしてく れる。 私の母さん は、 単
に私に読んであげている人じゃない。きっと私が聞いているから、読みた
いんだ。
「母さんちょっと来て」
私は一冊の本を手に取っ て、母さんを呼んだ。
「これ読んで。」選んだのは、
『ふくろうくん』
。楽しいけれど、ちょっぴり切ないお話もあ
って、何度も何度も読んでもらった。大切な本。
「母さん、ありがと。」私は目の前にいる母、そして絆プログラムをへて社会復帰した母さんたち、
みんなに伝えたい。

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /