40 人権の擁護省務法の関機護擁権人
いろいろな措置が
あります。
人権尊
重のための啓発も
行います。いろいろな措置が
あります。
人権尊
重のための啓発も
行います。被害の
申 告侵犯事実の有無を判断置措のめたの済救調 査認定できない場合もあります。しかく調査救済の流れ
「アフターケア」
「アフターケア」
「処理結果通知」
「処理結果通知」
4.法務省の人権擁護機関の活動
人権侵犯事件の調査救済❶ 調査の結果、事案に応じて、法律的なアドバイス等をする
「援助」や当事者間の話合いを仲介等する「調整」、人権侵害
を行った者に対して改善を求めるための「説示」、「勧告」、実
効的な対応をすることができる者に対してする「要請」等の7
種類の救済措置のうち、適切な措置を講じます。救済措置のう
ち「援助」と「調整」については、効果的なタイミングを考え、
調査の途中であっても講じます。
また、事案に応じ、事件の関係者に人権についての啓発をす
ることもあります。救済手続終了後は、被害者に処理結果を通
知し、必要に応じ、関係行政機関と連携し、関係者と連絡をと
るなどして、被害者のためのアフターケアを行うなどします。
人権が侵害された疑いのある事件を人権侵犯事件と呼んでいます。法務省の人
権擁護機関では、被害者からの救済の申出があれば、
「人権侵犯事件調査処理規
程」
(法務省訓令)に基づき速やかに救済手続を開始します。また、新聞・雑誌等
から人権侵害の疑いのある事実を知ることにより、救済手続を開始することもあ
ります。
救済手続の中で、人権侵害の有無を確認するための調査を行います。ただし、
この調査は、飽くまで関係者の協力による任意のものであり、警察官や検察官が
行うようないわゆる強制捜査ではありません。
法務省の人権擁護機関では、どのようにして皆さんの人権を守ってい
るのでしょうか。その活動は、大きく分けて、人権侵犯事件の調査救
済、人権相談及び人権啓発です。この章では、法務省の人権擁護機関
の活動を紹介します。
人権の擁護 41
しかく令和4年人権侵犯事件数
(新規救済手続開始)
の種類別内訳
法務省の人権擁護機関は、令和4年中に次のような救済措置を講じました。
人権侵害による被害者の救済事例1345
令和4年
新規開始件数
7,859件
学校におけるいじめ
1,047件
13.3%
プライバシー侵害
1,462件
18.6%
労働権関係
1,138件
14.5%
その他
1,800件 22.9%
強制・強要
803件 10.2%
住居・生活の安全関係
606件 7.7%
暴行・虐待
1,003件 12.8%
中学生の生徒が、親から、殴られるなどの暴行を受けており、児童相談所への保護を求め
て交番に行きたいとして、
「LINEじんけん相談」に相談があった事案です。
法務局は、直ちに、当該生徒の最寄りの警察署及び児童相談所に対し、情報を提供すると
ともに、対応を依頼しました。
その結果、当該生徒は、警察に保護された後、児童相談所の施設に入所することとなり、
当該生徒の安全を速やかに確保することができました。
(措置:
「援助」)❷虐待 中学生に対する虐待
小学生の児童が、同級生から、吃音をからかわれるなどのいじめを受けていたにもかかわ
らず、学校が十分な対応を行っていないことにより、不登校を余儀なくされているとして、
当該児童の親から相談があった事案です。
法務局が調査した結果、担任教諭が、当該児童から複数回相談を受けていたにもかかわら
ず、学校長に報告しなかったため、学校における対応が適切に行われず、当該児童に対する
いじめが続いたことが認められました。
法務局は、学校長に対し、いじめによる被害防止に向けた取組に一層努めるよう要請しま
した。
(措置:
「要請」)❶いじめ 小学校におけるいじめ2特集 人権擁護に関する世論調査
❹セクシュアルハラスメント
研修の受講者が、講師から、研修中に性的な発言を受けたとして、相談があった事案です。
法務局が調査した結果、研修中に、講師が当該受講者に対し、性的な発言を行ったことが
認められました。
法務局は、講師に対し、当該発言が当該受講者の意に反する性的な言動であって、セク
シュアルハラスメントに該当することを指摘するとともに、人権尊重の理念等を説明したと
ころ、講師からは反省の意が示されました。
(措置:
「啓発」)❺パワーハラスメント 職場の上司から部下に対するパワーハラスメント
講師による受講者に対するセクシュアルハラスメント
こどもが通学する小学校において、同級生が乱暴な行為をしていることに対し、学校が十
分な対応をしていないとして、保護者から相談があった事案です。
法務局が調査した結果、学校は、当該同級生への対応を行っているところであり、今後は
当該保護者にも当該対応等を説明していきたいと考えていることが判明しました。
法務局が、学校に対し、当該保護者の当該いじめ対応に係る要望を伝えるとともに、当該
保護者に対し、学校の対応等を説明したところ、保護者はこれに理解を示し、両者の信頼関
係が構築されました。
(措置:
「調整」)❸学校の指導 小学校における不十分な指導
被用者が、上司から、事務以外の用途として供されていた場所において、一人で勤務す
るよう人事異動を命じられたことに対し、勤務先との話合いを求めていたにもかかわらず、
机を搬出され、強制的に勤務場所を変更させられたとして、相談があった事案です。
法務局が調査した結果、被用者に対する当該命令は、合理的な理由なく行われたもので
あり、当該被用者を職場の人間関係から切り離すことにより、被用者に精神的苦痛を与え
たものであって、パワーハラスメントに該当するものであることが認められました。
法務局は、当該上司に対し、良好な就業環境を維持すべき立場であったにもかかわらず、
当該行為を行ったことは人権擁護上看過できないとして、その行為の不当性を自戒するこ
とを求めるとともに、パワーハラスメントについての理解を深め、今後、同様の行為を行
うことのないよう説示しました。
(措置:
「説示」)❻DV 夫から妻に対する暴力・暴言
夫から暴力等を受けている妻を一次的に保護しているとして、人権擁護委員から相談が
あった事案です。
法務局が調査した結果、妻が夫に対して強い恐怖心を抱いていることが認められたこと
から、速やかに婦人相談所に情報提供を行い、必要な措置を求めました。
その結果、妻及びそのこどもは、婦人相談所に保護され、安全が確保されるとともに、
関係機関による情報共有が図られ、妻らに対する支援体制を構築するこ
とができました。
(措置:
「援助」)42 人権の擁護
近隣住民から、継続的に、部落民、部落へ帰れなどの同和問題に関する差別的な発言を受
けたとして、相談があった事案です。
法務局が調査した結果、当該近隣住民が同趣旨の発言を行ったことが認められ、その調査
中において、当該近隣住民は、今後、そのような言動は行わないと述べました。
法務局は、当該近隣住民に対し、当該発言は他人の人権や尊厳を傷つけるものであり、同
和問題に対する理解と認識を欠いたものであって、人権擁護上看過できな
いものであるとして、基本的人権尊重の理念及び同和問題について正しい
理解と認識を深め、今後、同様の行為を行うことのないよう説示しました。
(措置:
「説示」)1345❽差別待遇関係
外国人が、レンタルバイク店から、外国人であることを理由にバイクの貸出しを拒否され
たとして、
「インターネット人権相談受付窓口」に相談があった事案です。
法務局が調査した結果、当該店舗は、外国人に対し、一律に貸出しを拒否する運用を行っ
ていたことが認められましたが、調査を行う中で、当該運用が外国人に対する不当な差別に
該当する可能性があることを理解し、当該運用の見直しを行いました。
法務局は、当該外国人に対し、当該店舗の運用の見直しについて伝えたところ、当該外国
人はこれに理解を示しました。
(措置:
「調整」)外国人に対するレンタルバイクの貸出し拒否
❾差別待遇関係
(感染症ではない)皮膚疾患により発疹が出ていた公衆浴場の利用者が、当該公衆浴場の従
業員から、他の利用客が嫌がっているため今後は来ないでほしい旨の発言をされたとして、
相談があった事案です。
法務局が調査した結果、当該従業員から当該言動があったことや、当該公衆浴場において、
当該利用者の入浴を拒否することができる法的な根拠はないことが認められました。
法務局は、当該公衆浴場に対し、公共性を有する公衆浴場において、当該利用者の外見を
他の利用者らが嫌がっているという事情のみをもって入浴を拒否することは、営業の自由の
範囲を超えた、当該利用者への不合理な偏見・差別であり、人権擁護上看過できないとして、
今後、同様の対応を行うことがないよう説示しました。
(措置:
「説示」)患者に対する公衆浴場の利用拒否
❿差別待遇関係 同和問題に関する差別的発言
❼ストーカー
中学生の生徒が、同級生及びその家族から、嫌がらせを受けているとして、当該生徒の親
から、相談があった事案です。
法務局が調査した結果、警察が当該同級生らに警告を行っていることや、当該生徒らから
通報があった場合にはすぐに警察官が駆け付ける態勢が執られていることが認められました。
法務局は、当該生徒の親に対し、上記警察の対応状況を伝えた上で、当該同級生らとの話
合いの方法等について助言したところ、当該生徒の親はこれに理解を示しました。
(措置:
「援助」)中学生に対する嫌がらせ行為2特集 人権擁護に関する世論調査
人権の擁護 43
44 人権の擁護
⓫インターネッ
ト上の人権侵害情報関係
被害者から、電子掲示板上で、在日外国人であると指摘されるとともに、在日外国人とい
う属性を理由として蔑称などを用いて侮辱する投稿が複数なされたとして、相談があった事
案です。
法務局が調査した結果、被害者を虫に例えたり、同人の存在を否定するなどの被害者を侮
辱する投稿が複数回にわたってなされていたことから、当該投稿は、被害者の名誉感情を侵
害するものであると認められました。
法務局から、サイト管理者に対し、当該投稿の削除要請を行ったところ、当該投稿が削除
されるに至りました。
(措置:
「要請」)インターネッ
ト上の名誉感情侵害
⓬インターネッ
ト上の人権侵害情報関係
被害者から、電子掲示板上に、氏名とともに電話番号が投稿されているとして、相談が
あった事案です。
法務局が調査した結果、一般に公開されていない被害者の電話番号等が電子掲示板上に掲
載されていたことから、当該投稿は、被害者のプライバシー権を侵害するものであると認め
られました。
法務局から、サイト管理者に対し、当該投稿の削除要請を行ったところ、当該投稿が削除
されるに至りました。
(措置:
「要請」)インターネッ
ト上のプライバシー侵害
法務省の人権擁護機関では、
被害の申告がし
やすいように、
「人権侵犯被害申告シート」(右参照)
を用意し、法務局・地方法務局に備え置
くほか、
法務省ホームページに掲載し、
自宅で
プリントアウトして利用いただけるようにし
ています。
人権侵犯被害申告シート
人権の擁護 45
毎日の生活の中で、
「これは『人権問題』ではないだろうか?」と感じ
たり、偏見や差別、いじめ等に思い悩んだりすることがあったら相談
してください。
法務省の人権擁護機関では、法務局職員や人権擁護委員が人権に関する相談
(人権相談)を受け付けています。相談は無料で、難しい手続は何もありません。
相談内容についての秘密は厳守します。人権相談の開設場所、開設日時等につい
ては、最寄りの法務局・地方法務局又はその支局にお尋ねください。
「みんなの人権110番」
(0570‐003‐110(全国共通))「女性の人権ホット
ライン」
(0570‐070‐810)、「こどもの人権110番」
(0120‐007‐110)も
開設しています。インターネットやLINEでも人権相談を受け付けています。相談
窓口に関する詳細は、裏表紙をご覧ください。
このほか、全国の小・中学生に「こどもの人権SOSミニレター」を配布し、
手紙による相談に応じるなど、様々な手段を用意して、こどもたちが相談しやす
い体制をとっています(6ページ以下参照)。 日本語を自由に話すことの困難な外国人のために、
「外国語人権相談ダイヤ
ル」や「外国人のための人権相談所」等も開設しています(19ページ参照)。人権相談
❷ 1345人権相談・調査救済制度周知用リーフレット2特集 人権擁護に関する世論調査
46 人権の擁護
法務省の人権擁護機関では、昭和41年度から、毎年その年度の啓発活動の重
点目標を掲げ、重点的な人権啓発活動を実施しています。
令和5年度の啓発活動重点目標は、「『誰か』のこと じゃない。」と定めました。
この言葉には、様々な人権問題について、自分以外の「誰か」のことではなく、
自分自身の問題として捉え、人権を尊重することの大切さについて考えてもらい
たいとの思いが込められています。
また、多様性が尊重され、全ての人がお互いの人権や尊厳を大切にし、生き生
きとした人生を送ることのできる共生社会の実現に向けて、17の啓発活動強調
事項を掲げ、人権啓発活動を実施しています。
ポスター
「令和5年度啓発活動重点目標」
法務省の人権擁護機関では、国民一人一人の人権意識を高め、人権への理解を
深めるための様々な活動を行っています。
具体的には、シンポジウム・講演会等のイベントの開催、人権教室や研修の実
施、ホームページや動画配信サイトでの啓発資料の公表、インターネット広告の
実施、テレビ・ラジオの放送、新聞・広報誌への掲載等、様々な活動を行ってい
ます。これらの活動を「人権啓発活動」といいます。
人権啓発活動は、人権侵害を未然に防ぐために必要不可欠なものです。
人権啓発❸啓発活動重点目標
人権の擁護 47
国連は、昭和23年(1948年)の第3回総会で世界
人権宣言(53ページ参照)が採択されたのを記念し、
昭和25年(1950年)12月4日の第5回総会において、
世界人権宣言が採択された12月10日を「人権デー」と
定め、加盟国等に人権の発展を更に推進するよう呼び
掛けています。
我が国では、世界人権宣言が採択された翌年の昭和
24年から、毎年12月10日を最終日とする1週間(12
月4日から同月10日)を「人権週間」と定め、全国的な
人権啓発活動を展開しています。
人権週間
ポスター「第74回人権週間」1345
法務省の人権擁護機関、都道府県、市町村、公益法人等、人権啓発活動を実
施する主体間の横断的なネットワークとして、都道府県単位で「人権啓発活動
都道府県ネットワーク協議会」を、また、市町村単位で「人権啓発活動地域
ネットワーク協議会」を設置しています。
このネットワークでは、構成員による共同啓発活動、人権啓発情報の提供等
を行っています。
人権啓発活動ネットワーク1「女性の人権を守ろう」2「こどもの人権を守ろう」3「高齢者の人権を守ろう」 4
「障害を理由とする偏見や差別をなくそう」5「部落差別
(同和問題)
を解消しよう」6「アイヌの人々に対する偏見や差別をなくそう」7「外国人の人権を尊重しよう」 8
「感染症に関連する偏見や差別をなくそう」9「ハンセン病患者・元患者やその家族に対する
偏見や差別をなくそう」10「刑を終えて出所した人やその家族に対する偏見や
差別をなくそう」11「犯罪被害者やその家族の人権に配慮しよう」12「インターネッ
ト上の人権侵害をなくそう」13「北朝鮮当局による人権侵害問題に対する認識を
深めよう」14「ホームレスに対する偏見や差別をなくそう」15「性的マイノリティに関する偏見や差別をなくそう」16「人身取引をなくそう」17「震災等の災害に起因する偏見や差別をなくそう」
啓発活動強調事項2特集 人権擁護に関する世論調査
人権教室
人権教室は、いじめ等について考える機会を作ることによって、こどもたちに、
相手への思いやりの心や生命の尊さを学んでもらうこと等を目的とし、全国の人
権擁護委員が中心となって実施している人権啓発活動です。
小・中学生等を対象に、人権の花運動(49ページ参照)における学校訪問や
道徳科の授業等を利用して実施しています。
近年は、
「ビジネスと人権」に関する国内外の関心の高まり(54ページ参照)
を背景に、企業経営者や従業員を対象とした「大人の人権教室(企業啓発)」も
数多く実施しています。
また、スポーツ選手等を講師に迎え、ゲームや体験談から、助け合いの精神に
基づいたフェアプレーの精神等を学んでもらう人権スポーツ教室や、車椅子体験、
ボッチャ等の障害者スポーツ体験などを通じて、違いを理解し認め合う「心のバ
リアフリー」を学び、障害の有無にかかわらず共生する社
会の重要性を認識してもらうことを目的とした体験型の人
権教室も実施しています。
さらに、青少年を中心に深刻化するインターネット上の
人権侵害への取組として、携帯電話会社が実施する安全教
室と連携した人権教室なども、積極的に実施しています。
次代を担う中学生を対象に、人権についての作文に取り組むことを通じて、人
権尊重の重要性や必要性について理解を深め、豊かな人権感覚を身に付けてもら
うこと等を目的として、昭和56年度から、全国中学生人権作文コンテストを実
施しています。
令和4年度(第41回)は、6,582校から、76万
8,623編の応募がありました。法務省ホームページでは、
入賞作品を取りまとめた作文集を始め、過去の入賞作品
を題材とした啓発動画や入賞作品の英訳なども掲載して
います(第41回の内閣総理大臣賞受賞作品は、50ペー
ジ以下参照)。全国中学生人権作文コンテスト
第 41 回全国中学生
人権作文コンテスト入賞作文集
48 人権の擁護
人権の花運動は、こどもたちが協力して花の種子や球根を育てることによっ
て、生命の尊さを実感し、その中で、豊かな心を育み、優しさと思いやりの心を
体得することを目的とした人権啓発活動であり、主に小学生を対象に、昭和57
年度から実施しています。
この運動は、育てた花を社会福祉施設等に贈ったり、写生会や鑑賞会を開いた
りすることで、地域の人々とのコミュニケーションを深め、地域の人々にとって
も人権尊重意識を高めてもらうきっかけとなっています。
令和4年度は、3,764校の学校等において、42万1,376人を対象に行いまし
た。
人権の花運動1345
法務省ホームページにて、
上記動画を含む企業向け
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人権教室
人権の花運動
令和4年度は、83万1,383人を対象に人権教室を行いました。2特集 人権擁護に関する世論調査
人権の擁護 49
第41回全国中学生人権作文コンテスト 内閣総理大臣賞受賞作品
大きく息を吸い込む世界へ
まつ ば はる の
広島県 学校法人盈進学園盈進中学校 3年 松葉 悠乃
何を話しているのかわからない。
周りの人が怖い。
そう感じたことがあった。
私は6歳の頃から3年間、
アメリカで暮らした。
生活習慣も言語も違う国で、何もかもが初めてで、
不安ばかりだった。
英語もまったく聞き取れず、
友だちもでき
ず、
孤立した。
アジア人の私を見て、
うわさをしているんじゃないか。
そう思えば思うほど、周りに話しかける勇気を失った。
しかし、
現地の小学校に通い始めて間もなく、
状況
が変わった。
英語ができず、
消極的だった私に、
声をかけてくれる白人の女の子が
いた。
私が寂しくないようにと、
自分から日本語を勉強し、
たどたどしい日本語で
話しかけてくれる笑顔の女の子。
その気持ちがうれしかった。
だから、その子とい
るのが楽しくて、
肌の色や言語の違いが気にならなくなった。
そうして私は、
少し
ずつ積極的に、
周りに話しかけるようになり、
英語も次第に使えるようになった。
家族でラスベガスへ旅行に行った時、私は衝撃的な場面に出くわした。
私の目
の前にいたフードを被った男性に、いきなり白人男性が暴言を浴びせ、唾を吐き
かけた。
フードの男性は抵抗もせず、何事もなかったかのようにそのまま歩いて
いた。
フードの男性は黒人だった。
「ひどいことをされたのになぜ、言い返さない
のだろう」
と思ったが、小学2年生の私はただ怖くて、震えていた。
でも中学3年
生になった今、私は思う。
あの瞬間、まさに目の前で人種差別が起きていたのだ。
人として許されない差別が。
今の私だったらあの時、唾を吐きかけられた黒人男
性に、
何と声をかけるだろうか。
そして、
白人男性に抗議できるであろうか、
と。
2020年5月、
アメリカで、
黒人のジョージ・フロイドさんが、
白人警察官に
よる行き過ぎた拘束により、命を落とした。
私にラスベガスの記憶がよみがえり、
抗議デモなどの報道に接するたびに、胸が締め付けられる自分がいた。
警官に9
分 29 秒も首を押さえつけられる中、フロイドさんは 27 回も
「息ができない」
と訴えた。
「袋の中の魚のように、ゆっくりと
意識を失っていった。
次第に白目になって、体がぐったりし
て命がついに消えた」。検察側証人の証言だ。
フロイドさんは、
この9分間に何を思ったのだろうか。 I can't breathe 。
彼の
言葉が私の頭の中で響くたび、
私は息苦しくなった。
資料
50 人権の擁護 1345
私の息苦しさは限界に達しかけていた。
そのとき、
学校の先輩にその思いをぶつ
けてみた。
その先輩は、
フィリピン人と日本人のダブルで、
生まれつき肌の色が少
し濃い。
小学生の頃、友だちに
「肌が汚い」
とからかわれ心に深い傷を負っていた。
先輩は、
高校卒業後、
アイルランドへ留学したが、
その矢先に、
新型コロナウイルス
(COVID‐19)の問題が世界を駆け巡った。
その流行は、中国が起源とされたため、
アイルランドでは中国人が差別の対象として狙われた。
ある日、
先輩は、
白人から
「COVID‐19 ! 」
と罵られ、
唾を吐かれたり、
石を投げら
れたりしたそうだ。
先輩は、
普段はとてもコミュニカティブで、
多様な国籍を持つ
友人をもつ。
だから先輩は、
「自分には人種に対する差別や偏見はない」
と思ってい
た。
だが、
そのとき、
自分の差別心を突きつけられたという。
「自分が白人から差別
されたことに対する怒りより先に、自分が中国人と間違われたことに対して不快
感を覚えた自分がいた。
その感情を自覚したとき、
自分が一人の人間として、
恥ず
かしいと思った」
と振り返る。
この話を聞いて、
私は思った。「『自分には差別する心
はない』
と思うことで、
差別を見ようとしない自分をつくっているんじゃないだろ
うか。
先輩の話は決して他人ごとではない。
差別は自分の心の中で生まれる。
自分
にも当てはまることだ。
自分の心を常に見つめる自分でなければ、
差別は見抜けな
い。
そう考えられなければ、
私の心はずっと
『I can't breathe』
のままなのだ」
と。
アメリカでは黒人の人口が白人の約5分の1。
だが、
新型コロナウイルスでの死
亡率は白人よりも黒人の方が高い。
命に優劣があってはならないが、
アメリカの一
部の病院では黒人の患者に対して、治療どころか検査さえしてくれないという現
実があったようである。
6歳の私に話しかけてくれた女の子は、
この現実をどうと
らえているだろうか。
Black Lives Matter 確かにそうだ。
でも私は
「All Lives Matter.」
(すべての人
の命は大切だ)
と訴えたい。
フロイドさんが繰り返した
「I can't breathe」
という魂
の叫びといっしょに。
誰もが一人の人間として、
誰にでも分け隔てなく、
他者と対
等に向き合い、
誰もが自分の言葉で、
自分に誇りを持って語れる日々が来るために。
そして、6歳の私に、笑顔で話しかけてくれた女の子のように。I deeply take a
breath and shout my words to the world. 私は大きく息を吸い込み、世界にこう
叫び続ける。
「人はすべて平等で、
すべての人が生きる権利を有する」
と。2特集 人権擁護に関する世論調査
人権の擁護 51

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