どさんこ刑務所・少年院で生まれた作品たち
第61回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
刑務所・少年院では,情操教育・余暇の善
用を目的として,さまざまな分野の作品を扱
うコンクールを毎年開催しています。
本年度もたくさんの作品が集まりました。
その中から,道内で活躍する専門家により選
ばれた優秀作品を紹介します。
美 術 部 門 P1
書 道 部 門 P5
ペン書道部門 P7
文 芸 部 門 P9
写生画 第一席『山麓の民家』函館少年刑務所O・N色の塗り重ねの効果が素晴らしく細部まで緻密に描写された力強い作品です。効果的に彩色され、山麓の民家の雰囲気が良く描かれている力作です。
写生画 第二席『雪化粧』旭川刑務所A・Y冬の雪景色が細やかな点描で表現されています。紅葉が一面に雪で覆われた様子が感じ取られます。急に降った雪が自然の景色を一瞬にして変えてしまい、とまどいの気持ちがこの絵に表現されているように感じます。写生画 第三席『山家の春のドラマ』旭川刑務所I・Y長い冬が終わり、ようやく春が訪れた喜びと開放感が伝わってきます。特に若葉の色の変化や農家の藁屋根の彩色には細かなタッチで描かれており、集中力が伝わってきます。美術部門1 2総評【写生画(成人の部)】描く対象物を深く観察し、感じた情景をいかに表現するかが大切とされています。今回入賞した作品は、三点とも風景画でしたが、どの作品も個性豊かで、時間をかけて一筆一筆心を込めて描いたと思われる作品でした。細密な点描ではありますが、全体部分のバランスも良くとれており、努力の跡がうかがえました。【自由画(成人の部)】同じジャンルの作品が賞に選ばれました。作品のテーマは「地獄太夫」と「龍」が中心であり、同じ題材で優劣を付けるのは難しい面がありましたが、絵全体の色彩の配色や彩色のテクニックに焦点を当てて審査しました。全体の彩色のバランスを保ちながら細部に至るまで丁寧に仕上げた作品を入賞作品としています。【絵画(少年の部)】応募施設が少なく、施設により作品のレベルが違い過ぎたのが残念な気もしましたが、逆に出品者数が少ないことは少年院に入る人が減ったということなので良いことなのかなと思いながら審査しました。入賞した作品は大きな優劣はなく、色彩も混色による中間色で彩色されたまとまりのある作品でした。対象物を良く観察し、丁寧に表現された作品を選びました。
絵画
第一席『静物画』北海少年院S・Rバランスのとれた構図で描かれており、まとまった絵となっています。色彩も画面全体が中間色でまとめられ、個々の果物の特徴を捉え、明暗が上手に表現されています。
絵画 第三席『静物画』北海少年院H・M全体的に明るい色彩で描かれ、さわやかな感じのする絵です。ただ、果物の配置が少々ばらばらでまとまりに欠けるので、配置を工夫することや、一つ一つの果物をもう少し丁寧に観察して描くと、一層良い絵になったと思われます。
絵画
第二席『静物画』北海少年院K・D描かれているボトルや果物がやわらかな色彩で統一され、色の微妙な変化が上手に表現されています。特にりんごの赤い色の表現や背景の色彩が良く工夫されて描かれています。 3
自由画 第一席『地獄太夫と小鬼』月形刑務所G・E画面の隅々まで丁寧に彩色された努力作です。色彩も多彩で、画面からは地獄の中の明と暗の存在が伝わってくるようです。自由画 第二席『地獄太夫と菊散らし』札幌刑務所S・K画面全体が鮮やかな色彩で、作品が力強く表現されています。多彩な色彩をバランス良くまとめています。見る人を引き付ける魅力があります。
自由画
第三席『龍』札幌刑務所S・Y白色と黒色のみのモノクロによるユニークな作品としてとりあげました。龍の力強さが単純な色彩で、見る人を魅了させる作品です。モノクロ画は日本古来の絵画である水墨画に通じる画法でもあります
。 入賞作品展(成人と少年の絵画) の様子 4写生画(成人の部) 佳作
『桜花爛漫』函館少年刑務所 T・T
自由画(成人の部) 佳作
『龍櫻』函館少年刑務所 H・R
写生画(成人の部) 佳作
『2人のアトリエにて....』札幌刑務所 H・M
写生画(成人の部) 佳作
『月形の夏』月形刑務所 G・E
写生画(少年の部) 佳作
『バリアフリー』紫明女子学院 N・K
自由画(成人の部) 佳作
『抱き鯉』月形刑務所 K・Y
自由画(成人の部) 佳作
『蛇とスカルのもみじ散らし』
札幌刑務所 S・K 5書道(成人の部)第一席『蘭亭叙』札幌刑務所M・T古来、これほど親しまれ、多く学ばれた法帖は他に例を見ないだろう。蘭亭叙の優雅な気が漂います。文字の大・小、細・太、遅速の変化と後半に向かって優である。
書道(成人の部)第二席『温泉銘』札幌刑務所K・M王羲之の書を熱愛したという唐の太宗皇帝の堂々とした書・温泉銘」。力強く奔放な筆致が細部にこもり、より大らかさを表現している。「翆」「先」「年」、特に見事である。書道(成人の部)第三席『静夜思』月形刑務所K・K唐の李白の「静夜思誌」の情を一点一画に込めた穏やかな書である渇筆がより寂寥感を醸し出して妙である。行書の字勢による崩し方、再確認を...。
書道部門 6書道
(少年の部)
第一席『近在目前』北海少年院S・H一点一画の筆の働きを丁寧に運筆し、紙面への配分も整い、静かさの中に安らかさをも感じます。深長な楷書作品です。総評【書道(成人の部)】一心にひたむきに法帖に向き合った臨書作品、好みの言葉に触発された熱意の書、写経など、今年も多様な作品が揃いました。書の持つ力と言葉のちからとが結び合って千万無量の詩情が誕生しています。ただ...、出品数が少なく大変難しい審査となりました。【書道(少年の部)】今年は力作が揃い嬉しく審査をいたしました。書く言葉の意味を充分に噛み砕いて、真剣に運筆する気迫が伝わり、一作一作が目に飛び込んできます。「書く力」と「言葉のちから」が渾然一体となってこその作品が輝きを増しています。生活の中での自分自身と静かに向き合う時間は様々でありましょう。筆・紙・墨と共に精神統一、一気阿成に運筆する書道。私も書のひと時からたくさんの学びをしています。来年も躍動感いっぱいの力作を出品してください。
書道(少年の部)
第二席『人生感意氣』帯広少年院K・Y意気の炎が舞い上がっています。筆と共に明るく、空間いっぱいに気力が貫通しています。鮮やかな意気を存分に感じます。書道(少年の部)
第三席『上下一心』北海少年院T・R筆の線なればの明快な一作に見入ってしまいます。無限な空間を統一に受け止めての清らかさに感動です。
入賞作品展(書道) の様子 7ペン書道
(成人の部)
第一席『天つ風』函館少年刑務所O・N百人一首から僧正遍昭の作です。字形は正しく整然としていて立派です。読み人は目立ち過ぎ。ひと回り小さく書いてください。また、使用している筆ペンはかすれが出ているので、新しいペンに取り替えどきです。
ペン書道
部門
ペン書道(成人の部)
第二席『椰子の実』札幌刑務支所S・Y変体仮名は一般的に和歌などに使われるもので、近代詩に使うのは珍しいです。行間や段落に工夫するとより良くなります。ペン書道(成人の部)
第三席『釈迦曼荼羅』札幌刑務支所K・A釈迦曼陀羅を幾何学模様にうまくおさめました。黒白の変化で文字が強調され展示作品としては成功です。用紙の使い方も申し分なく構成力があります。ただ、「羅」は崩し過ぎです。総評【ペン書道(成人の部)】この度は、展示することに重点をおき選定させていただきました。筆記具の使い方、文字の大きさ、用紙の使い方など、正しく美しく書かれた作品が選出されています。今回、惜しい作品がたくさんありました。文字は美しいのですが、用紙に対してバランスの悪いものが多いです。余白を大切にしてください。【ペン書道(少年の部)】入賞された方、おめでとうございます。丁寧さと作品としてしっかり出来ている部分を見させてもらいました。内容の良いものを選んで努力しているのは認めます。紙と文字の大きさや書く位置などを考えてください。 8
書道
(少年の部)
第一席『無題』北海少年院S・H整然と書き綴られた般若心経に驚きました。262文字を間違えずに美しく整えることは容易ではありません。「一字一仏」と言って一字ごとに心を込めて書くのですが、精神を集中させて良く書き上げました。書道
(少年の部)
第二席『階段』紫明女子学院S・M一文字ずつがしっかり書けていて好感が持てます。また、用紙の大きさに字数の少なさが調和していて作品になっています。書道(少年の部)
第三席『無題』北海少年院S・H作品作りは構成がすべてです。そこに丁寧に体裁よく書かれた詩文は読む気を誘います。
入賞作品展(ペン書道) の様子 9文芸
部門第一席咳きこめば背をまあるくなでくれし母の温もりよみがえるなり網走刑務所O・K第二席不機嫌な人が多いと思う日は目深に被る真夏の帽子月形刑務所S・Y第三席懲罰をあざ笑うごと雪止まず我の心を正す三畳帯広刑務所S・E第一席心がほっこりと温かくなる。あの時、あの場面が一瞬にしてよみがえる。温かい母の手は神の手なのだ。「まあるく」の表現が良い。余分なことは言わず素直に詠まれている。第二席難しい環境の中では自己防衛も必要となろう。周りの雰囲気をいち早く察知して無駄な軋轢を起こさないように身を守る。作者の人間性が垣間見えて面白い。暗い題材を明るく軽妙にうたった。第三席懲罰のために入った三畳の独房。作者の心を鞭打つように昼なお暗く雪が降り続く。自己の罪を自覚し、罰を受ける覚悟が見える。結語の体言止めは作者の強い意志が反映して、一首が引き締まった。第一席おうちにはオスメスのねこ二匹いてオスの方がさドラえもん似だ紫明女子学院Y・K第二席偽りの弱い自分は過去の僕自分を探す今日も明日も北海少年院H・N第三席卒業で今日までの思い出が涙とともに込み上げてくる月形学園I・T第一席この歌、一読して心がほどけていく楽しい一首。四句目「オスの方がさ」の「さ」も邪魔にならず、リズム感を整えていて面白い。第二席過去の弱い自分から抜け出して、未来へ向かって新しい自分を探す。その気持ちを切り替えて真剣に前へ進もうとする意志が、下の句の倒置でより強く伝わってくる。第三席この学園に入って過去の生活を見つめ直し、ようやく卒業のときが来た。辛いこと、苦しいこと、悲しいこと、いろいろな思いで涙があふれる。スタートはこれから、この涙を無駄にしてはならない。総評【短歌(成人の部)】いつもながら、入賞、佳作の選出には苦労しました。その人でなければうたえないもの、借り物でない、作者自身の言葉で表現されたもの、作者の人間性が感じられるような歌に心打たれます。多分、入所以前から短歌に親しんでいた人は少ないと思います。ここで短歌と出会えたことを喜びとし、少しでも心豊かな受刑生活を送られるように念じています。【短歌(少年の部)】どの歌も過去の自分を反省し、後悔の心情がつづられています。御存知のとおり、短歌は五・七・五・七・七からなる定型の詩です。字余り、字足らずも多少は許されますが、特に字足らずはリズムが崩れることが多いので、作歌のときは気を付けましょう。一首できたら声に出して読んでみてください。昔から日本人の大好きな心地良いリズムが分かってくると思います。短歌
(成人の部・少年の部) 10第一席秘密基地怪獣でるぞ青あらし帯広刑務所I・Y第二席左手と右手が違う雪だるま函館少年刑務所O・N第三席七夕やそっと盗み見子の願ひ札幌刑務所M・Y第一席子供の頃の追憶であろう。青嵐とは初夏の頃に吹く強い風。秘密基地遊びをするときに、いかにも怪獣の来そうな予感をさせる強風。怪獣と秘密基地遊びと青嵐、何か一つでも欠けると子供達の生き生きさも欠けてしまう。第二席作者も雪だるまを作った一人なのだろうか?それともたまたま他所の雪だるまを見たのだろうか?観察力の表れなのだろうが、几帳面を感じる面白い作品。何か手に持つ雪だるまもあるのだろうが一つの発見である。第三席短冊に書き込んで七夕飾りに吊るす願い事、子供に知られないように覗き見をする親心。叶えてあげられない程の大きな夢も時代の流れかもしれない。第一席スイカ食べ種まで食べる勢いだ紫明女子学院N・K第二席西瓜割り地面たたいてしびれる手月形学園N・N第三席かぜふけばあきのにおいとはがおちる北海少年院K・H第一席猛暑の中で食べる西瓜のみずみずしさにかじり付く。その勢いは種も出さぬ勢いなのだ。外のことは何も云わずに、その動作だけを読む。第二席浜辺での一場面。見られていると思うと余分な力が入る。西瓜に当たらぬときの腕の痺れは誰にもある経験だろう。その日一日を思い出す楽しい夏の日の記憶。第三席少年の敏感な感情。桂の木などは良い香りを放つ。北海道は雪虫が飛び始め、一気に冬将軍が押し寄せる。総評【俳句(成人の部)】ここ数年の中で一番に作品が揃った。無季の句はほとんどなく、然も有季定型な平明な作品が多くなったことは嬉しかった。ただ、過去の大会の入選句や、有名な俳人の作品と同一の作品があったのは残念だった。【俳句(少年の部)】作品の少なかったことが残念。出品作はどれも真面目に詠んでいて好感を持てた。来年は大勢の参加を期待したい。
俳句
(成人の部・少年の部)
入賞作品展(短歌・俳句) の様子 11第一席(成人の部)「一筋の光」旭川刑務所G・H北国の冬は寒くてとても長く生活のすべてが雪の中にある激しい風雪は昼夜の境い目なくすべてを飲み込んでしまう静寂を切る凍えと苦しさに耐えきれずに私は泣いていた我が人生は長い冬の嵐をいつまで受け続けるのだろうかわが人生に暖かな春の日を迎え入れることはできるのだろうか諦めに似た気持を抱きながらふと、視線を上げてみた私を射った空の雲間から現われし神々しい一筋の光が......すっかり忘れていました冬の光がこんなに暖かいなんて。詩(成人の部・少年の部)第二席(成人の部)「ひとこと」函館少年刑務所O・N仕事して家に帰ってただ眠るこんな生活があと何十年も続く社会の歯車になったようで止まらず進み続ける部品の換えはいくらでもあって私がそこにいる意味なんてない望んだ仕事はできなくて小さなミスが大きく感じて兄からのプレゼントを壊してしまった自分が嫌になって不の連鎖が続いて自分を壊したくなった制限されることが厭で一人になりたかった自由になりたかった干渉してくる家族が厭で「親子の縁を切ってくれ」と言った自由を履き違えて人の道を外れてしまった逮捕されて初めての面会母は言う「ね。家族の縁なんて切れないでしょ」顔を上げられなかった私が言ったひとことを聞いてなかったのかちがうひとことを聞いて私を支える言葉を探してくれたのだ母のひとことで気付いた一人になりたいんじゃなくて家族といたかったんだ安心できる場所が欲しかったんだ反発して素直になれなくて本当に大切なことが分からなくなっていた口に出した言葉は戻らない犯した罪は消せない私がしたことは許されることではないすべてを受け入れて前を向くしかない私が言ったひとことは残り続けるだから考えて考えて言葉にする無くしたものをもう一度ひとつひとつ拾い集め本当に大切な物を二度と見失わない二度と手離さない二度と過ちを繰り返さないために第三席(成人の部)「少年時代」月形刑務所S・H暫し、目を閉じると、忘却の彼方から、少年時代過ごした、故郷の臭い、風情が、瞼の底から、津波のように襲ってくる。都会の荒波に疲れ、躓いたり、思い悩んだり、落ち込んだり、色々な事で行き詰った時、心の活性化、癒しを求めて、生まれ育った故郷の大地に、足を踏み入れ、身を委ねると、自然と明日への、生きる活力が、湧いてくる。純粋で無垢で素朴で、好奇心旺盛な、あの頃の、少年時代に、タイムスリップしたい。身も心も寒く冷たい。なえ切った私に、天空から注ぐ一条の光。仰ぐ私、それはやわらかで、神々しくさえ見える。冷えた身体が次第に温もりを帯びできた。平明な作ですが、純粋な一筋の光を通して、自身の内を見つめています。卑下する気持ちが強く、頑なに異界に沈淪したままの私に、温もりのある世界を改めて教えてくれたあのひとこと―断ち切れない家族との絆。邪心も私欲もなかった清い少年の頃が懐かしい。この詩を読んで私は、啄木の「盛岡の中学校の露台の欄干に最一度我を倚らしめ」の歌がしきりに思われてならないのです。 12第一席(少年の部)「言えない言葉」月形学園N・Nお父さんごめんお母さんごめんお姉ちゃんごめん弟ごめんなかなか言えないこの言葉言いたいけれど恥ずかしいだから心はひねくれる時間と共にどんどんとついに崩れた関わりに気付けば非行の繰り返し最後の最後に捕らわれてそして今はここにいるそれでも家族は見放さず何度も何度も会いに来るその時決意し頭下げやっと言えたごめんなさいそれから距離は縮まって今はお互い正直にだから今を大切に第二席(少年の部)「理不尽」北海少年院N・Sこの世は理不尽だ自分への境遇を恨みつづけ理不尽を受け入れられずに生きてきた自分を可哀相と思いつづけ非行までもを肯定して生きてきた確かにこの世は理不尽だ皆が違う人なのだから全く一緒なんてことはありえない皆が違う境遇なのだから公平になんてなるはずがないそんな理不尽な世界の中で理不尽までもを逆境にできるそんな人がいたならばそれは本当に素晴らしいことだと思う恨んだって変わりはしないならば理不尽を恨む寂しい心などは捨て理不尽までもを逆境にできるそんな人になりたいと思うそんな人になれた時がこれまでの自分と決別できるそんな時なのだろうとも思う第一席(少年の部)「I(愛)メッセージ」紫明女子学院N・N私は歌うことが好き私は音楽を聴くことが好き私は食べることが好き私は運動が好き私はドライブすることが好き私は担任の先生が好き特に笑っているところ今までは人の笑顔を見ても心から喜ぶことが出来なくて笑顔の裏を常に疑ってきたでも今は人の笑顔を見るととても幸せになるこの先の人生自分の好きなことで息抜きすることも大切だと思うけれど人と関わって人の笑顔を見て幸せになるそんな相乗効果を味わうのも大切だと思う自分と家族との決して簡単ではなかった道のりを、巧みに、さらりと歌い上げている見事さがあります。やり場のない思いを抱えた自分と家族との衝突、自分の決意と家族との歩み寄り、未来への願い、それらが、8・5調と7・5調の調べにのって、心にストレートに伝わってきます。好きなことをたくさん挙げることのできる自分。人との関わりの中で苦労やつらい思いを経験したからこそ、好きなことに触れるだけでなく、日常の中で、あたたかい笑顔と接することの喜びや幸せが目に見えるようです。人生に、明るい幸せを求める素直で前向きな心が伝わります。この世の嘆き、自分の境遇をひたすら許否する自分を、今、乗り越えようとする新たな自分が生まれ出ようとしています。嘆くだけでは何も変わらないことを理解し、「理不尽」を逆境とし成長する自分、逆転の発送を得た自分を自覚し、行動しようとする強い心が表現からほとばしり出ています。総評【詩(成人の部)】寄せられた作品を読み、それぞれ類別すると、自身の内面を凝視した作品、情景や自然観察を通して描かれた作品が目立ちました。凝視した言葉を自在に駆使しての自己表現それは詩創作の原点、基本です。今後とも続けてください。【詩(少年の部)】今回の応募作品も、作者のその時々の思い、詩を書く動機や願いなどが、作者その人の個性や歩みとともに、いろいろと想像されました。詩を書く行為には自分を素直にさせる何かがあると思います。しかし、そこに至るまでには、「表現」という行為のもつ、人それぞれの様々な言葉との戦いがあることでしょう。言葉をさがし、文字にしていく過程で、普段隠れていた自分の正直な思いや願い、あるいは祈りが純粋な姿でそこに現れるのだと思います。言葉を選び、探す営みは時に苦しい作業でもあると思います。詩を書く行為、書きたいという思いそのものが、一つのかけがえのない個性です。表現することで新しい自分を見つけることができるならば、未来の自分を築く一つの確実な営みと言えるのではないかと考えます。入賞作品展(詩)の様子 13随筆(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
月形刑務所
S・H
薬物依存症
「脳を刺激し,研ぎ澄ますため」と称してホームズはこっそ
り薬物麻薬に手を染めていたが,ワトスンの力によってそれと
の関わりを絶つ話は作品の中に出てきます。
昨今,薬物に関連した話題を見聞きします。苦悶する自身の
赤裸々な告白は,それだけ胸に迫るものがあります。
第二席
帯広刑務所
S・E
六十の手習い
文字は正しく書かなければいけませんが,美しく書くことも
求められます。それはまた,文化そのものと言えるでしょう。
年少の頃から毛筆に接して,今に至っているとのこと。お互
い,一文字一文字心を傾けて書いていきたいものです。更なる
精進を願っております。
第三席
函館少年刑務所
T・S
少年北海丸船員録
洋上航海訓練を通して得られた貴重な体験は,明日から始ま
る新しい未来への糧となるでしょう。言葉遣いも丁寧で文字も
しっかり書かれており読みやすいです。
今年度の随筆部門(成人の部)には,道内8施設より42点に及ぶ作品応募がありました。
随筆の「随」の意味は,"したがう"とか,"ついていく",あるいは"自分の思うまま","任意であるこ
と"などです。寄せられた作品をそれぞれ傾向別に分けてみますと,胸中を凝視したり,自身の反省,悔恨,情景
読書感想文(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
札幌刑務所
D・H
だし〈出汁〉の奥深さ
を知る
和食の持つ「うまい,umai(現在は国際語),おいし
い」とする味覚の底には,工夫された「出しや旨み」の存在を
否定するわけにはいきません。近代に至り,池田菊苗のグルタ
ミンの発見,魯山人や辻嘉一らの旨みにこだわった名代の料理
人たちの力もまた大きいのです。自身の体験も交えて,十数枚
に仕上げたあなたの筆致力はすばらしい。
第二席
帯広刑務所
S・E
「詩画集風の旅」
を読んで
明日来るものに大きな夢や希望を描いていた星野さんは,思
わぬ事故のため,以後不自由な生活を余儀なくされました。苦
悶する彼の胸中から生まれた絵や言葉はどれだけ大勢の人に癒
しと励ましを与えて来たでしょう。あなたも真正に受容されて
いる方と読みました。
第三席
帯広刑務所
I・Y
「蜘蛛の糸・地獄変」
を読んで
お釈迦様の慈悲の行いを,自身の我執のために救済の道を絶
たれてしまった犍陀多の悲劇。作品の展開過程をしっかり読み
取っています。
今年度の読書感想文部門(成人の部)には,道内7施設より33点に及ぶ作品が寄せられました。
この分野は,対象となる本の範囲が広く,本の内容も実に様々,多様性の極致と申し上げても過言ではありませ
ん。それ故に,書き手―みなさんの興味・関心,感想,味わい方も千差万別。しかし,読み手にとりましては,それ
はまた,楽しみでもあり,るる教えられることでもあります。他の二つの領域の詩,随筆にも共通することですが,
書くという営みは,ひとり自分を見つめる孤独な行為です。しかし,それはまた,人を成長させる上で,大きな力が
あるのです。 14作 者 タイトル 講 評
第一席
月形学園
N・N
全てをリセット
一歩一歩,自分の下す判断と決断によって未来を切り開こうと
する姿が明確に語られています。そのきっかけは,先生の言葉
「全てをリセット」と,冷静な自己分析,未来予測,さらに親の
心情や被害者心情の理解でした。見方や感じ方を広げる中で,真
に願う自分の人生を手に入れるためには,今こそごまかしのない
自分と勇気ある判断が不可欠であることを自覚する新しい自分が
にじみ出ています。
第二席
北海少年院
O・E
今までの自分と
これからの自分
内省を重ねることで,周囲に影響を与えた自分の言動の一つ一
つや過ちを見つめ直し,改めて感情をコントロールする大切さを
理解できる自分へと成長する過程が感じられました。心からの家
族への感謝を本物とするために,今まで以上の勇気と行動力,粘
り強さが求められていることを,今,筆者は十分に理解していま
す。迷いを捨てて,くじけずに,大きな一歩を踏み出すチャンス
です。
読書感想文部門が発展し,5年目を迎えた「作文」部門の応募作品数は,平成28年度2点,平成29年度8点,
そして今年,平成30年度は2点でした。
2点に共通していたのは,自分との向き合い方の深まりです。内省・内観を重ねながら文章を書くことを通して,
自分を多様な角度から捉え直し,これまでの自分の歩みを明確に照らし出している,と感じられました。
その過程には,受け入れがたい自分,やけくそな自分,また,自分に関わった家族や仲間,自分の言動で被害を受
けた人への影響の大きさなどを,改めてよみがえらせるつらい営みがあったことと想像されます。
しかし,そのような過去の振り返りに止まりません。内省・内観を通して,未来の自分,なりたい自分の姿をでき
るだけ具体的に描こうとする営みも読み取れました。過去の自分を正しく理解し,これからの自分の人生や家族の人
生,人とのより良いかかわりを大切にしようとする誠実な姿勢が感じられました。それは,正しく,本当の幸せを求
め,考える姿に他なりません。
さて,「書くことは行動すること」と述べた作家がいました。言葉は,表と裏,嘘とまことなど,使われ方次第で
良くも悪くもなります。しかし,自分に向けて書く言葉は,自分未来につながる言葉,未来を切り開く言葉になると
思います。なぜなら自分へのごまかしは,すぐに自分に見抜かれてしますからです。
人間はもともと社会的な動物です。人と人との関係性の中で生きています。家族や友人から支えられたり,時には
自分が支えたり。だからこそ,新しい自分づくりを決意した自分がぶつかる最大の壁は,元の環境にもどったときで
す。周りとの関係性の中で,元の自分にもどろうとする自分との戦いが始まります。知恵と勇気が必要です。
生きるとは,自分の道をそのつど選び,決断する連続です。そのためには,自分の考えの広さと深さが重要です。
「書くこと」はその時々の記録であるとともに,自分の考えや心を深め,鍛えてくれる方法になると信じます。
作文(少年の部)
入賞作品展の様子
第61回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
平成31年3月 発 行
編集・発行 札幌矯正管区第三部
発 行 所 札幌市東区東苗穂1-2-5-5
TEL 011(783)5063
FAX 011(780)2207

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