どさんこ
第63回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
刑務所の受刑者や少年院の在院者は,施設の中で外部の専門
家の方々のご協力を得て,クラブ活動や矯正教育の時間に絵画
や書道,短歌などの作品づくりに取り組んでおり,これらの作
品を対象として年に1回,コンクールを行っています。コン
クールでは,各分野で活躍される専門家に審査をしていただい
ており,その結果,入賞した優秀作品を紹介します。
作品をとおして,彼らのことを知っていただくきっかけにな
れば幸いです。
美 術 部 門 P1
書 道 部 門 P5
ペン書道部門 P7
文 芸 部 門 P9
写生画 第一席『故郷』旭川刑務所A・Y時間をかけて、一筆一筆、画面全体を仕上げた努力が感じられます。細かな筆のタッチを生かし、多彩な色彩で細部まで仕上げており、高い描写技術を感じます。大きな構図と共に,色彩の変化と筆のタッチで遠近感も表現されています。写生画 第二席『秋闌』旭川刑務所I・Y細かな筆のタッチで、ていねいに仕上げられ、一筆一筆に込めた絵を描く努力が伝わってきます。もう少し色彩の強弱やめりはりが表現されていると一層良い作品になったと思われます。絵を描く技術が充分にありますので、違った題材にも挑戦してみてはいかがでしょう。写生画 第三席『紅葉』函館少年刑務所T・S明るいピンク色と黄色、そしてグリーン系の柔らかな色彩で画面一杯に彩色し、絵全体に調和しています。また、色彩による遠近感も表現されています。柔らかな筆のタッチで、穏やかな雰囲気が伝わってくる作品です。美術部門1 2
自由画 第一席『九紋龍史進』月形刑務所N・S模写の作品と思われるが、力強い画面構成と重厚な色彩が見る人を引き付けます。単なる模写にとどまらず、絵画作品として充分に描かれた力作です。色彩に厚みがあり、配色の効果でより力強い作品となっています。自由画 第二席『桜舞』札幌刑務所K・M色鮮やかな画面は見る人を引き付ける魅力があります。明るい色彩や人物と背景の桜の花による構成により、新鮮な感じやさわやかさを感じます。また、日本画風の表現も新鮮で、絵の魅力を一層深めています。自由画 第三席『牛乳を注ぐ女』札幌刑務所K・Sオランダの画家フェルメールの代表作の一点である「牛乳を注ぐ女」を模写した作品で、原画を忠実に模写し、色彩の再現は見事です。壁の灰色から白へのグラデーションや、壁のシミ、釘穴まで明確に描き、名画の模写が多い作品の中でも、特に優れています。 3写生画 佳作
『 山中の稲荷神社 』 函館少年刑務所 U・N
写生画 佳作
『 夕景 』 函館少年刑務所 T・K写生画佳作『モンマルトル』函館少年刑務所M・K自由画佳作『水滸伝入雲龍公孫勝』月形刑務所N・M自由画佳作『傑刑図』月形刑務所W・S自由画佳作『愛染明王』月形刑務所E・N 4総評【写生画】(成人の部)自然から受けた感動を、自分なりの方法で絵に表現することが大切であると、写生画では言われています。新鮮な視点と絵を描く技術力も求められます。また、マンネリになることも避けなければなりません。このような観点で審査しました。入賞した作品は点描で描いた作品が多くなりましたが、描く技術力と努力を強く感じた作品です。大胆な筆使いのユニークな作品や多彩な色彩で表現した作品、新鮮な視点が感じられる作品が出品されることを期待しています。【自由画】(成人の部)自由画の部門は、何を描いても自由ですが、応募された作品の多くが模写による作品でした。模写は、原画を表面的にそのまま写し取るだけでなく、一枚の絵として魅力ある表現をすることが大切です。入賞した作品は、絵を描く技術はもちろんですが、色彩の強さや新鮮さにより、絵に力強さがあり、観る人に感動を与える絵、という観点から審査しました。【絵画】(少年の部)応募作品数が少ないこともあり、今回は残念ながら、入賞作品に該当する作品がありませんでした。心情的にも美しいものを追求する心を育てるには、絵を描くことも大切と思われます。次回の出品を期待しています。
入賞作品展(成人の絵画)の様子
絵画 佳作
『 孔雀 』帯広少年院 S・S
絵画 佳作
『 静物画 』北海少年院 O・A 5書道(成人の部)第一席『北海王元詳造像記』札幌刑務所B・R力強く気力充実した造像記です。たっぷりの墨量で点画の間合いを勢いよく書き続ける技は見事です。ただ、筆勢のあまり、落款(書名)が無く、惜しいです。
書道
(成人の部)
第二席『胡風起截耳之凍趙日興暴背之思』旭川刑務所S・T二行の構成がよく整理されて、温もりある楷書作品です。落款の位置も上々。今後、更に楷書ならではの用筆法(止め、撥ね、払い)を習いましょう。
書道(成人の部)第三席『牛橛造像記』月形刑務所K・K引きしまった線が終始一貫し、気迫に満ちた作品です。石を刻むかの強靭な線が響き、悠久の古代へと情がつながります。
書道部門 6書道
(少年の部)
第一席『水遠山長』帯広少年院Y・K広大な大地の景色を見るかのように堂々とした一作です。伸びやかな線に心満たされます。四文字の調和した優作です。総評【書道(成人の部)】言葉に感動し、どのように仕上げようかと書体(楷、行、草、篆、隷)や、書法(技法)に構成にと、いく枚も書いたであろう作品に出会うと楽しい会話ができ、盛り上がります。最終の一点一画まで気が通っていると「頑張った賞」を、また、ここが良いのに、この一点が残念な作には「もう一歩賞」等々と、真摯な作品と対峙させていただきました。ところで、書は筆を使いますネ〜。古い言葉で「使ふ」と「仕ふ」は同じ語で、「筆を使う」とは「筆に仕える」ことで、「付き合う」ことであります。筆がどう動きたいかを聴き、自分の手と対話してみましょう。次回作を期待いたします。【書道(少年の部)】今年は作品数が少なく、順位を決めるのは大変難しく苦心いたしました。一作一作に見どころがあり、どの作品も純真で素朴で温もりのある作品ばかりです。唯に基礎練習不足のため力を発揮できていないことも残念に思います。土台の不安定な上に家を建てるような冒険はしませんよね。基礎力を磨きつつ、これからも四文字熟語が題材になりましょう。その言外の意を充分に噛み締めて、明るく元気に、新鮮な作品を書いてください。書道(少年の部)第二席『我思故人』帯広少年院S・Mこの一作に込める意志の強さが伝わってきます。「思」の一文字に漲る筆力が充分で、全体を一段と輝かせています。書道
(少年の部)
第三席『千山万水』北海少年院K・T円みある線がゆったり流れ豊かな自然を感じます。温かく穏やかな作品です。入賞作品展(書道) の様子 7ペン書道
(成人の部)
第一席『性霊集より』函館少年刑務所T・S写仏は顔の表現が命です。一本一本の線に強弱が出ていて、とても良い表情です。思わず合掌したくなります。ペン書道
部門
ペン書道(成人の部)第二席『ドイツ民謡』札幌刑務支所S・Y用紙全体に安定よく納めました。文字の大きさが読み易い作品になりました。変体仮名を効果的に使い、より良い表現となりました。
ペン書道(成人の部)
第三席『声に出して読みたい日本語』函館少年刑務所K・T双鉤填墨(そうこうてんぼく)とは、複製を作る技術で、文字の輪郭を写し、その中を墨で塗りつぶすこと。正確に丁寧に写し取っています。 8ペン書道(少年の部)第二席『吾輩は猫である』北海少年院S・H作品として飾って見て、読んでみようと思わせるものでなければならない。丁寧で文字の大きさが良かった。
ペン書道(少年の部)第三席『ヒンズー教の教え』帯広少年院Y・K同じ文字が繰り返し使われるため、難しい表現になるが、整然と書かれている。字形はかなりの癖字なので、よく活字を見て書くこと。総評【ペン書道(成人の部)】選出された作品は、工夫があり、努力が見られます。ペン書道とは、ペンで書くものですが、今ではいろいろな筆記具が販売されていて、使い方によって、多様な表現効果が出ます。特に、展覧会のような場合は、目を惹く作品に走ってしまいますが、基本は常に読み易く、体裁よくを心がけ、誤字や脱字を注意して書くことです。今回佳作に回ってしまった中には、構成に工夫を必要とするものがありました。文字は立派ですから、残念です。【ペン書道(少年の部)】出品数が少なくて残念ではありますが、作品はどれもしっかり書かれていて嬉しくもあります。手書き文字が少なく、全部がパソコンで打たれた文字だけにならないよう、簡単にすぐ書けることを忘れずにと言いたい。(注記)少年の部第一席は該当なし
入賞作品展(ペン書道) の様子 9文芸
部門第一席陽の当たる床に一歩を踏み出せば足の甲にも春の温もり旭川刑務所Y・H第二席廃校の庭に並んだ桜木が今年も咲いたと姉の便りに札幌刑務所I・T第三席夕方のニュースが告げる感染者わが故郷の数字を日々追う函館少年刑務所T・H第一席季節は春、北国では長い冬ののちにやってくる日差しが春めいてくると心にも希望が満ちてくる。陽の当たる方へ歩めば、陽の光は足の甲にも当たり、おのずと温めてくれる。心も光ある方へ歩めば、その光が心に温もりを与えてくれる。第二席お姉さんからの便りの内容が簡潔に詠われている。廃校はかつて作者が通っていた学校であろうか。寂しくなってしまった学校の庭に、自然の摂理の中で変わることなく桜の花は咲いている。その様子を感慨深く浮かべている、しみじみとした歌である。第三席新型コロナウイルスが大流行して、感染者の数が毎日ニュースで報じられる。気になるのは、故郷の感染者の人数。縁のある地域の感染者数に目が行くのはとても良く分かる。コロナウイルス大流行という社会の状況を自分に引き付けて、故郷を思う気持ちが素直に詠われている。第一席どん底の真っ暗闇から垣間見た一縷の光は家族の笑顔北海少年院Y・S第二席故郷で過ごした時と潮の香を思い出してはただいとおしむ北海少年院S・Y第三席該当なし第一席自分の今の境遇はどん底の真っ暗闇かもしれない。しかし、どんな闇も開けるし、闇の中にあっても必ず光は射している。作者にとっての一縷の光は家族の笑顔であることが素直に詠われている。家族の笑顔に支えられて、これから光ある道を歩んで行けるだろう。第二席故郷を思うと潮の香りも思い出される。故郷を懐かしみ大切な場所であることが伝わってくる。宝物のように思える故郷があるのは幸せなこと。今は辛いかもしれないが、故郷をいとおしみ、そして思い出すことで、これから先を歩んでいく力が得られると思う。総評【短歌(成人の部)】すばらしい作品が並んでおり、選歌がとても大変でした。どの作品からも心の声が聞こえてきます。家族を思う歌、自らの来し方を省みる歌。今の境遇にあるがゆえに生まれた歌。その中での気づきが表現されていました。そして、その日常の暮らしの中から、自分の暮らしだけではなく、広く社会や移り変わる自然に目を向けていることが感じられました。短歌を作ることで、自分自身を客観的に見つめることができるし、また、辛さから救われるときもあります。難しい言葉を使う必要はありませんので、自分の心を、自分の言葉で三十一文字という定型の中に表してみてください。定型であることが表現を助けてくれますし、今でなくては表せない心の軌跡を残すことができます。【短歌(少年の部)】若者たちの間では「ツイッター短歌」が流行り、ネット上には短歌を投稿できるサイトが登場し、形式にとらわれない自由な作品が多いとのことです。短歌というと古典をイメージするかもしれませんが、意外に三十一文字という定型に助けられて、身近なことを日頃使っている言葉で自由に詠っていくことができます。今年の作品にも、家族のことを思い、自分の気持ちをそのまま素直に表現している作品が見受けられました。時には辛くて夢の中に羽ばたきたくなるという気持ちも伝わってきました。若いときから触れていると、短歌はずっと心の友として寄り添ってくれると思います。そして、若い時でなければ作れない短歌もあります。五句三十一文字の中に、是非自分の言葉で自分の心を表現してみてください。短歌
(成人の部・少年の部)成人の部少年の部 10第一席大空に一礼をして初詣札幌刑務所K・Y第二席草
毟 むしる指に知らない虫が来て網走刑務所W・K第三席十六夜いざよいやちらりとのぞく腕時計函館少年刑務所K・Y第一席なんと清々しい句だろうか!!大空に一礼であるので、神域に入る前、鳥居を潜ったところであろう。手水舎で身を清め神殿へ進むまでの姿が見える。コロナ禍の早く治まることを祈りたい。第二席雑草が次々と伸びる。大きな田畑で無く、手で毟る庭うちの作業だ。暑さを凌ぎ乍ら嫌いな虫にも耐えて頑張る姿。第三席一日違いの満月から過ぎた時間が気になるのだろうか。知られない様に腕時計を覗き見る。次の予定があるのか?それ程の風流人でもないのか?第一席言うほどに遅くはないなかたつむり帯広少年院K・R第二席めいっこのランドセル見てもう春かい北海少年院M・G第三席懐かしきお風呂上がりの天瓜粉てんかふん帯広少年院K・R第一席でんでん虫の意外と早い移動を詠む。反省を含め、自身と比べているのかも知れない。第二席姪っ子が早くも一年生となる。ランドセルは自分からの贈物かも知れない。「光陰矢の如し」姪っ子に向ける優しい思いやり。第三席子供の頃はよく天瓜粉を振っていた。自分は男なので、見るだけであったが、母も妹も天瓜粉をつけていたのを懐かしむ。総評【俳句(成人の部)】平凡な生活を詠む句に佳句が見られたことは好ましく思った。何時も云うことだが、勤めを終え、世間に出てからも自慢出来る様な作品を詠んで欲しい。獄窓とか獄塀の入った作品はあえて採らなかった。【俳句(少年の部)】出品者と作品数が少なく同作者を選ばざるを得なかった。各施設でもっと協力して欲しい。
俳句
(成人の部・少年の部)
入賞作品展(短歌・俳句) の様子成人の部少年の部 11第一席(成人の部)「花の一生」札幌刑務支所S・Y花を愛した母の供養のため生花を購入した偶然にも今月は母が一番好きだったゆりの花でした殺風景な部屋に色を添え湿気臭さまで吸収してくれるかのように香りを放ち心地良く私を迎え待ってくれているようで癒されます病床生活が長く、人との触れ合いも少なくなった母が花に水をやりながら話しかけていた気持ちが痛い程伝わって来ていつしか私も花との対話を楽しんでいる居室に届いた時蕾だったのが丁度母の命日の朝開き始め僅かな明かりの中でやっと夕方迄に全開してそれはそれは感動的な瞬間でした一つの花をこんなにもじっくりと観察したのも初めてで見て喜び香りに救われ育てる張りにもなって動き変化の少ない生活の中で命あるものがあるとこんなにも心を和ませてくれるものか
・・・花から生命力気持ち一杯の喜び安らぎ潤いを頂きましたその後ちょっとずつ散って今は萎れかかった花弁一つと陽が当たらないので茶に染まった葉がやっと付いているという様相ですが床上のバケツの中で育まれどんな状況状態の中でもゆりはゆりの尊厳を持って気高く花開かせ美しく精一杯咲き誇り健気に散っていくその姿に力強く生き抜く事の尊さを教えられました
・・・私もこのようでありたい!それ迄の精神には程遠い自分ですが、縁があって私の部屋で見事に咲き散っていった一輪の花限られた命の時間を一時でも共に過ごし生きるエネルギー指針まで与えてくれたかのように母の姿と重なって私の心の中に住み続けています詩
(成人の部・少年の部)第二席(成人の部)「幸福」旭川刑務所K・K夢もなく、希望もない暗闇をただ、がむしゃらに走ってきた未来の光が全く差さぬこの世界で何をどうしたら良いのだろうか「頑張れば幸福になれるよ」無責任な上っ面の言葉をかけるのはもうやめてくれ幸福ってやつは一体何なんだ頼むから教えてくれ何もせず、ただ他人を蔑んでる奴等よそれが幸福か他人にいつも胡麻擂ってばかりの奴等よそれが幸福か虎の威を借りて満足してる奴等よそれが幸福か感情的に吼えまくってる奴等よそれが幸福か陰でコソコソ動き回る奴等よそれが幸福か過去にしがみついている奴等よそれが幸福かそれが本当の幸福って思ってるのなら下らないからもう構わないでくれ第三席(成人の部)「母さんへ」函館少年刑務所H・M小さい頃はいつも手を引いてもらっていたのにいつの間にかその手を拒み避けてきた。「産んでくれなんて頼んでない。子供は親を選べない。」勢い余って言ってはいけない言葉であなたを何度も傷付けた。家族の期待に答えられなかった俺は家族にも差別やイジメを受けて来て自分の居場所なんてどこにも無くて毎日が辛くて苦しくて地獄でしかなかった。そんな俺を助けてくれなかったみんなをずっと恨んで復讐の為にみんなを裏切り、傷付けて来たのにあなたは見捨てずに居てくれる。その度に俺は自分を責め、自分がとことん駄目な人間だと痛感させられ自暴自棄になって俺は自分の改善更生を諦めてしまった。本当にごめんね。バカな息子で。けど今なら分かる。俺がどれだけあなたに愛され、救われて来たのかが。人のせい目を楽しませてくれるものとて限られている自室に、久しぶりに新しいゆりの花を飾った。それは愛する母の好きな花でした。花を観賞することをとおして自身の胸中に去来する思いの一つ一つを大切にしてください。お母様のためにも。幸福という言葉ほど現代人にとって魅力あふれる言葉はないくらいです。が、しかし、私の求める幸福は人様からのいただきものではない。自身の力でそれを求め、幸福に浸りたいとするあなた。そこに新しい決意を感じました。様々なことで期待を裏切り、お母様を傷付けてしまった。弱い自分、駄目な自分でした。今に至り、ようやく純化された自分の姿を知ることができるようになりました。その気持ちは読み手にも伝わってきます。お母様への立派なメッセージですね。第一席(少年の部)「父さん」帯広少年院S・S昔から厳しくて何かあるとすぐに怒るそんな父さんが嫌いだった。そんな父さんが言った「お前は父さんの子じゃない」あの時の一言が今まで忘れられなかった。どんな気持ちで言ったのかいくら考えても分からない。あれから時は経ち三年前父さんが倒れた時「あいつは元気でやっているのか?にしてずっと逃げて来たけど「自分なんかどうせ駄目だ」と思い込んでしまう自分の弱さが今の駄目な俺を作ってしまっていたとようやく気付いたんだ。こんな簡単な事にも気付けずに苦しませてごめんなさい。本当は親父も居なくて精神的にも肉体的にもすごくしんどいはずなのに絶えず笑顔を見せてくれる。そんなあなたの優しさや強さを心から尊敬してるし感謝してもしきれない。あれからずっと言えなかったけど俺はあなたの子供で本当に良かった。一生かけても恩返しはできないかもしれないけどあなたや自分の幸せの為に必ず立ち直ってみせるよ。俺を産んでくれてありがとう。その存在を追うように焦らず自然に委ねゆったりと生きて行こう!優しく見守る母の愛を感じながら
・・・俺は生まれ変わるって決めたんだ古い価値観はもういらない他人の価値観はもういらないこれから俺の幸福ってやつを築いていかなきゃないんだからな 12第三席(少年の部)「裸足」紫明女子学院W・M夜にかかるカーテンは終わりのない迷路を写していた頭の上をよこぎる雲にはいつだってはかない夢をみる本当に求めるものはいつだって心から消えかかる裸足でもっと立って自分はここじゃないって話をもっと聞いて前世も厭わないって裸足でもっと立って話をもっと聞いてそうだろそうなの心の奥に秘めていた思い、過ちの重さを冷静に受け止める心が見事に描かれています。生まれたときから自分の全てを受入れ、大切に考えてくれる母の愛情と優しさ。何があろうと自分を迷わず前に進める意思と準備が整いました。内面からほとばしる思いが感じられます。過去、現在、過ぎた夢、本当の居場所は、など頭の中を火花のように思いが走ります。それが一つの魅力的な表現となり、結晶しました。自分らしさであり、自分の中から湧き出る生きる力です。地に足を着けて自分の存在が歌われています。総評【詩(成人の部)】今年の夏は暑さも格別。そんな中で、原稿用紙に向かっている姿を想像しながら読みました。こころと言葉を結んで生まれたものが、詩であるとするならば、それは全く自分だけに宿る、唯一自分だけの営みと言っても過言ではありません。この営みを大切にしてください。凝縮した言葉を自在に使っての自己表現。それは詩創作の原点です。今後とも続けてください。【詩(少年の部)】各作品から、作者の個性と思いが心に響いてきました。思いが、飾りを落とし、素直で大胆な表現を得て、心に訴えてきました。作品の奥にある声に、耳を澄まさずにはいられませんでした。良い作品に出会えた喜びを覚えました。個性とは、一人一人のこれまでの歩み、物語の中にあるのでしょうか。ある日本の作家が、インタビューに答えて「自分が作品を書くのは人とつながりたいからだ。」と述べていました。研ぎ澄まされた言葉は、深いところで人の懐に飛び込み、意図せずとも共感を得るのだと思います。言葉が研ぎ澄まされるためには、自分と向き合うことと、世界の何かとつながることと、その両方が必要です。自分と向き合い、言葉と向き合うことはどちらも苦しいことです。しかし、詩を書く行為は、緊張感の一方で、自分を解放させる力があります。詩を書くことが楽しいならば、大いに書くべきです。書くうちに、普段隠れていた自分が、正直な自分の思いや願い、あるいは祈りが、表現を得て、純粋な姿でそこに現れます。自分が納得する表現を得るために、言葉を選び、探す営みは、苦しい作業かもしれません。しかし、生まれ出た作品は、実にかわいいものです。詩を書く行為、書きたいという思いそのものが、一つのかけがえのない個性です。詩を書くことを楽しみ、書くことで新しい自分を見つけることができるならば、未来の自分を支える確かな手段であると考えます。第二席(少年の部)「母さんの子」北海少年院H・H誰でもいいから僕を必要として欲しかった何でもいいから僕の「役割」が欲しかった世界中の誰にも求められていない気がして世界中から「いらない」って言われている気がして必死で自分の「役割」を探した必死で僕の生きる場所を探した気がついたら僕は東京にいたそしてまた気がついたら鉄格子の中にいた僕は「使い捨て」だったんだでも嬉しかった「君はセンスあるよ」「君さえいれば」あいつは俺の子だからバカだけどかわいかった死ぬまでにもう一度会いたいな」そんな言葉を母から聞いた。一生忘れることのできない言葉。本当に嬉しかった。初めて父さんのことで涙を流した。あの日から、今でもずっとあの言葉と父さんは僕の一生の宝物「父さんありがとう」作者の真っ直ぐな思いが伝わってきます。かつて父の一言で思い悩んだこと、母から聞いた3年前の病床の父の言葉が宝物になったこと。親と子の深いところでの交流の記憶はこれからの自分を支えるかけがえのない宝です。そんな事今まで誰も言ってくれなかった夢のようだった「僕はここにいていいんだ」「僕も生きていていいんだ」心からそう思えただから頑張ったその人たちのために頑張ったのにでも僕は気づいた「必要とされたい」そう言いながらあの時の僕は「必要とされる人間」になろうと何一つ努力していなかったでもそんなありのままの僕を母は必要としてくれた最初から生まれた時からいや生まれる前から僕は必要とされていたんだ僕は「受け子」だったでも「母さんの子」だったんだ大切なことに気づけた僕は世界に一人しかいないんだ母がくれたこの命は世界にたった一つしかないんだ今までのような自信のない弱い自分から抜け出し社会から求められる人に大切な人を幸せにできる人に誰も犠牲にせず人の役に立てる強く優しい人にそして母に恩返しができる立派な大人に僕はなりたい 13
随筆(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
札幌拘置支所
I・Y
贖罪(食材)
苦行を通して,真理を得ようと努めた釈迦は,村の娘 ス
ジャータの献げる乳粥の供養を受け,やがて悟りの座へ向かった
と言われています。毎日,同胞に食事を供する仕事はご苦労なこ
とも多々あろうかと思いますが,私たちの生活はここから始まる
のですね。お母様と食卓を共にする場面を想像しています。
第二席
網走刑務所
Y・K
たんぽぽが先生
春の到来を真っ先に知らせる草花。それは福寿草であり,菊の
花にも似たたんぽぽですね。飽かず眺め見ているうちに,美しさ
は勿論,花の生命力,強さにいたく感動。花に寄せる謝念の気持
ちがしっかり述べられております。
第三席
札幌刑務支所
S・Y
誤ちは,もう再び
あなたの文章を読み,私は正直つらかった。言葉を探すのに苦
労しました。・・・そこで,大好きだった父君を幼い頃目の前で
亡くされた後,修道女の道を歩まれた渡辺和子さんの言葉を用意
しました。「挫折のない人生はない,挫折は自分を考え直すチャ
ンスだ」と。あなただけの道を着実に歩まれることを願っており
ます。
今年の夏は,暑さも格別,いまだに収束をみないコロナのこともあり,そんな中で原稿用紙に向かっている姿を
想像しながら読みました。
率直に申しますと,個々各々の作品の水準が高くなっているとの印象を持ちました。具体的に申しますと,構
成・組立てにそれを感じます。また,叙述過程では,情景描写に自身の心情を加えて内容を膨らます等,表現技術
に工夫がみられ,内容が豊かになっているとの印象を持ちました。
読書感想文(成人の部)
作 者 タイトル 講 評
第一席
札幌刑務支所
I・C
『白い巨塔』
この小説に描かれている登場人物のイメージは実に様々で
す。大学病院を舞台に,医学部教授たちの野望を中心に,医学
界の病巣を鋭く描いたこの作品は,小説界から,そして一時は
映画やテレビにも取り上げられました。人物一人一人を読み取
り,得た感想が巧みな筆致で記述されています。
第二席
函館少年刑務所
Y・E
『奇跡のリンゴ』
を読んで
これからの時代はパソコンやデジタル等,電子機能が一層進
歩し,それに依存することも,より盛んになっていくでしょ
う。しかし,土からの成果,収穫物を楽しむ農業において,そ
れはどうでしょう。リンゴ農家の姿を紹介しながら,あなた自
ら,改めて農業に携わろうとする強い決意が伝わってきます。
第三席
札幌刑務支所
H・A
『女たちの
シベリア抑留』
今次大戦では,60万余の旧日本軍兵士等がシベリアに抑留
されました。その中に女性の人達もいたこと,酷寒の地で筆舌
に尽くし難いご苦労をされた実態など,ほとんど知らされては
いません。その実態を知り,広く関心を持ってほしいと取り上
げたあなたに謝意を申し述べたい。
この分野の基本は,申すまでもなく本です。手にした本を読んで,その本の感想を書くということです。しかし,
どんな本でも感想文が書けるかというと,それは難しい。感想がわいてくる本,感想を書くのに向いている本という
ことで,内容的にも共感できる,心が広がる,心がゆすぶられる等で,選書が大切です。
今回の応募作品の中にも,唯今のねらいに該当する文章の幾つかに接することが出来ました。 14作 者 タイトル 講 評
第一席
北海少年院
H・H夢担任の先生の言葉をきっかけに,じっくりと被害者の心の消
えない傷を想像し,受け止めることのできるようになってきた
自分が表現されています。また,過ちに至った自分の心を振り
返り,これからどう生きるべきかを真剣に考える姿が感じられ
ました。これまで学んだことを自分や他の人のために生かそう
とする自分,新しい自分づくりに向かっての歩みが始まりまし
た。
第二席
北海少年院
S・K
許せないこと
被害者の心の深い傷を思いやり,やりきれない思いなど,性
犯罪への率直な怒りが伝わってきます。また,犯罪の悪質さ,
多様性,被害者の人生への深刻な影響など,広い視点で考察
し,性犯罪の重大性を強く訴えています。広い視点からの考察
が,自分の生き方を客観的に見つめ,かけがえのない自分の人
生を考える大事な機会となりました。
第三席
北海少年院
S・K
マインドフルネスと
出会ってから
「マインドフルネス」との出会いと体験,自分の中の変化
が,確かな実感とともに紹介されています。また,そのことで
の驚きと喜びが伝わってきます。自分の内面を高め,コント
ロールすることで,周囲に惑わされない前向きで力強い心を備
えた自分へと成長しようとする意思と手応えが感じられます。
今回の応募作品に共通していたことは,「内に向ける目」と「外に向ける目」の両方が感じられたことです。内
に向ける目とは,自分を見つめる目です。外に向ける目とは,他の人の心や社会に向ける目です。これまで,この
文芸コンクールでは,どちらかというと,「内に向ける目」の作品が多い傾向にありました。しかし,今回は,ど
の作品からも両方の目が感じられました。
自分の心を見つめることも,他の人の心を想像することも,決して簡単ではありません。しかし,各作品それぞ
れ,深い内省をとおして,時間をかけて自分を振り返っており,その言葉からは深い後悔やお世話になった方への
感謝,素直で正直な思いなどが読み取れました。また,他の人の身になって,その人の心の内側を真剣に想像して
いる作品もありました。さらに,規則についてや今後の自分の生き方を伸び伸びと考察し,展開している作品もあ
りました。すべて,書き手にとって,自分を磨く大切な時間であったと感じました。
作品を読みながら,「内に向ける目」と「外に向ける目」の両方が行ったり来たりすることで,自分を正確に捉
え直し,自分を成長させたりできるのだと思いました。
さて,生きるとは,信じた道をひたすら進むばかりでなく,時々,その道が正しいかどうかを振り返ることが大
事だと言われています。人生は,小さな選択の連続です。新しい自分づくりにおいても大切な選択をする場面が訪
れます。
その時,自分を正しく見つめる目と広く人や社会を考える目,深く考える力が必要になります。「書くこと」
は,もう一人の自分が今の自分を見つめることで,心と知恵と勇気を鍛えてくれる確かな方法だと考えます。
作文(少年の部)
毎年冬に開催している作品展
では,各部門の第一席から第三
席までの入賞作品を展示しま
す。詳細は法務省ホームページ
内の「札幌矯正管区フロントペー
ジ」に掲載します。
札幌矯正管区フロントページ
【札幌矯正管区フロントページ】
第63回 札幌矯正管区
管内被収容者美術・文芸等コンクール 入賞作品集
令和3年2月 発 行
編集・発行 札幌矯正管区第三部
発 行 所 札幌市東区東苗穂1-2-5-5
TEL 011(783)5063
FAX 011(780)2207

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