[特集]社会に開かれた少年院・帯広少年院長インタビュー・地域に支えられ、貢献する少年院2019.7
Vol. 94
北海道の少年院と少年鑑別所のニュースレター
Rapport
ら ぽ ー と
[特集]少年鑑別所が行う地域援助・少年鑑別所の専門性と地域援助・地域援助への取組み〜函館少年鑑別支所〜・少年が関わる特殊詐欺の現状 はじめに「武家の商法」という言葉を御存知でしょうか。明治の初め、武士は自らの才覚で生計を立てることになり、商売に手を出した者もいたようですが、これまでどおり横柄に振る舞う癖が出て失敗する者が続出したそうです。また、武家の商売で一番多かったのは古物商といわれています。先祖伝来の品を売れば、手っ取り早く何とか食べていけると考えたようです。講演などに呼んでいただいた際、お集まりいただいた皆様に、少年鑑別所の地域援助機能についてお伝えしていますが、まだまだ御存知ない方が多く、努力が足りないことを痛感させられます。働き掛けを十分に行わず、黙って待つばかりでは、何事も決して伝わりません。また、先人が築き上げた財産である「犯罪や非行の専門施設」という看板を手っ取り早く掲げるだけでは、その値打ちが理解されず、活用されることもありません。本稿では、少年鑑別所が行う地域援助について、その「専門性」との関係から改めて紹介させていただきます。少年鑑別所の業務と近年の動向少年鑑別所の主な業務は、家庭裁判所の決定に基づき、少年を「収容」した上で、その行動を観察しながら、「鑑別」を行うことです。しかし、ここ最近、犯罪や非行が減少し、収容される少年も減少の一途をたどっています。この背景には、生活が安定する中で少年の不満が生じにくくなっていること、仲間とのつながりが希薄化し、集団での非行が生じにくくなっていること、社会内において早期に非行のある少年を支援する受け皿が充実したことなどが考えられます。こうした変化の中で、障がいなどのハンディキャップがあったり、愛着形成や発達にまつわる深刻な問題を抱えていたりするだけではなく、支援を受けられないまま放置され、あるいは周囲が支えきれなかったために非行に走り、少年鑑別所に収容されてくる少年が最近多いように感じます。少年鑑別所の専門性少年鑑別所では、ありのままの自分でいられる落ち着いた環境を整えた上で、鑑別を行います。医学的診断、心理テスト、面接、行動観察を通じて少年の特性を捉え、問題点を総合的に分析した上で、改善更生に向けた方針を提示します。長年培ってきた少年鑑別所の専門性を端的に示すと、次のようになります。一犯罪・非行・司法手続きに関する豊富な知識を有すること。二科学的な調査(アセスメント)を日常業務としており、対象者の性格や行動傾向を見いだすノウハウを有すること。三臨床心理学を学んだ専門スタッフや、健全育成に資する働き掛けに長けた職員が配置されていること。
札幌少年鑑別所長 中嶋 英治少年鑑別所の専門性と地域援助 法務少年支援センターによる地域援助こうした専門性を地域の犯罪及び非行の防止等に役立てていただくための仕組みが、地域援助です。お困りの方々に抵抗感なく利用いただけるよう、「少年鑑別所」ではなく、「法務少年支援センター」という名称で、支援を実施しています(当所は「法務少年支援センターさっぽろ」です)。「少年」とありますが、対象を少年やその保護者等に限っているわけではありません。小さいお子様から成人に至るまで、これらの機能を必要とされる方がいつ見えられても、お役に立てるよう準備を整えています。相談料は無料です。援助の内容をご紹介します。一個人援助個人援助は、悩みを抱えた地域の方々から直接御依頼を受けて実施するものです。例えば、お子さんに家財の持ち出し、夜遊び、無断外泊などの問題行動があり、どう接するべきか悩んでいる保護者の皆様、対人関係や自分の適性について悩みを抱えている学生や社会人の皆様、刑務所や少年院を出た後なかなか仕事が続かずに困っている皆様やその雇用主の方々などに、法務少年支援センターがお力になれるかもしれません。法務少年支援センターでは、相談に応じて助言を行ったり、心理検査等に基づいて分かりやすく説明したり、他の専門機関を御紹介したりすることができます。また、「性」や「暴力」に関するワークブックを活用した働き掛けなども行っています。二機関等援助機関等援助は、関係機関からの御依頼に応じ、各種の支援を実施するものです。例えば、相談機関に係属中の少年や学校に通う生徒等について、相談内容に応じて、知能検査・心理検査・カウンセリングの実施、問題行動の分析、担当者に対する助言などを行っています。また、その結果については、レポートにまとめてお伝えすることも可能です。関係機関が実施する事例検討会に出席して、専門的な立場から意見を述べることもできます。講演や研修等もお引き受けしています。生徒を対象とした薬物使用等に関する非行防止教室、関係機関の職員や自治会等地域の皆様を対象とした研修に講師を派遣することができます。「少年鑑別所の役割」、「時代の変化と少年非行の動向」、「薬物非行とは」、「自らと向き合うための環境作り」等、その専門性を生かした話題を提供させていただきます。さらに、大学生等を対象に学術的な講義をさせていただくことができます。こうした研修等は、見学も兼ねて当所において実施することもできます。おわりに本年度、当所には、地域援助を一層推進するため、「地域非行防止調整官」が配置され、関係機関の皆様に地域援助について御説明するとともに、これからの連携の在り方について御相談させていただいています。武家の商法に陥ることなく、今後とも地域に頼られる施設となるよう努力を重ねてまいりますので、各地域にある少年鑑別所(法務少年支援センター)を御活用いただければ幸いです。
札幌少年鑑別所沿革
昭和24年1月
札幌市南9条西18丁目に開庁
平成16年1月
現在地に移転
平成27年6月
法務少年支援センター札幌開設
平成30年4月
函館少年鑑別所の分所化
平成31年4月
釧路少年鑑別所の分所化
れ・貢献する少年院
少年鑑別所は,地域の非行・犯罪の防止や青少年の健全育成に貢献するため,
様々な活動を行っています。札幌少年鑑別所が行っている一部を御紹介します。
― 地域のために ―
白石区保護司会の皆様に,当所心
理技官及び法務教官から「発達障害
を持つ少年との関わり方」と題する講
演を実施しました。
「法務少年支援センターさっぽろ」
は,少年鑑別所の隣に,相談専用の
建物が設置されております。
毎年11月頃を目途に,施設見学
会を実施しています。関係機関から
の参観申し込みも随時承っています
(担当:庶務課)。
中学校からの依頼で,薬物乱用防
止教室を実施しました。不良仲間との
交友防止や,非行・犯罪防止の講話
も承ります。 函館少年鑑別支所は、平成30年4月に札幌少年鑑別所の分所となり、職員数も14名から8名へと大幅に減少しました。限られた職員で、鋭意業務に取り組んでおります。―所管する地域を教えてください。函館少年鑑別支所が所管する地域は、函館市に総合振興局を置く渡島管内、江差町に総合振興局を置く檜山管内に加え、後志総合振興局管内の寿都郡寿都町、黒松内町及び島牧郡島牧村となっています。―職員定員が減り、業務に影響は出ておりませんか?平成30年は、入所人員こそ開庁以来最低となりましたが、地域援助は積極的に行ってきました。職員の減少によって業務の質が低下することのないよう、当支所が一丸となって地域援助に力を注いだ結果、特に個人援助件数については、支所化以前よりも増加しています。―昨年度の地域援助実績を教えてください。平成30年度は、個人援助を48件、機関等援助を124件実施しています。個人援助では不登校、交友関係、無断外泊等の問題行動について、継続的に相談されるケースが多くなっています。―関係機関向けには、どのようなことを行っていますか?函館保護観察所における交通講習、市内生徒指導教諭で構成される協議会への参画、函館児相談所・函館市子ども未来部子育て支援課等への情報提供及び助言、函館地方検察庁の依頼による知能検査、児童福祉施設での心理検査、学校からの依頼による薬物乱用防止教室及び先生方に対する講演等を実施しています。心理技官だけではなく、法務教官も多く携わっていることが特徴です。―最後に一言お願いします。少年鑑別所の業務については、収容施設との印象が強く、地域援助へのなじみが薄いように思われます。函館少年鑑別支所では、本所である札幌少年鑑別所と連携し、鑑別・地域援助をこれまで以上に充実させるべく日々の業務に取り組んでおります。今後ともよろしくお願いいたします。地域援助への取組―函館少年鑑別支所― 詐欺による新収容者数の増加親族等になりすまし、主に高齢者を電話越しに欺いて、金員の振込み指示や通帳・キャッシュカード等の詐取を行ういわゆる「おれおれ詐欺」や「なりすまし詐欺」については、平成15年夏頃からその発生が目立ち始めており、平成29年には、被害総額は約335億円になったと報告されています。グラフは、詐欺事件で全国の少年鑑別所・少年院に収容された人数の変遷です。平成29年の少年鑑別所の収容者数は、平成元年の約3分の1に減少している一方、詐欺の件数は、5倍以上に膨れ上がっています。少年事件全体に占める割合も、平成元年は全事件の1パーセントだったのに対し、平成29年には10パーセント弱に増えています。特殊詐欺グループについて特殊詐欺は、複数の犯人が役割を分担して実行する組織犯罪です。指示役の下に、電話を掛けてだます役割の「掛け子」、現金を受け取る役の「受け子」、ATM等から現金を引き出す役の「出し子」の他に、足のつかない電話や高齢者宅の電話番号名簿などを調達する裏方も存在します。特殊詐欺で捕まる少年の多くは、「掛け子」や「受け子」であり、その多くが「お金を受け取るだけで給料がもらえる楽な仕事がある。」と誘われ、アルバイト感覚で犯罪に手を染めていることが問題となっています。特殊詐欺で入所する少年の役割少年鑑別所に入所する少年には、年齢不相応なスーツ姿の者がいますが、そうした中には特殊詐欺に関与して捕まった少年も少なくありません。いわゆる「受け子」や「出し子」は、組織の中では末端の役割であり,組織の全体像を知らない者がほとんどです。組織の仲介役に、電話の指示通りに行動してくれれば良いからと言われ、携帯電話一つ渡され、指示された場所で金銭を受け取り、張り込んでいた警察官に現行犯で逮捕されるケースが多くあります。当人は、仲介役の本名すら知らず、逮捕されても「使い捨て」にされることがほとんどです。少年が関わる特殊詐欺の現状少年非行は、時代を反映するかのように変遷しています。暴走族の数は減少し、ひったくりなどの窃盗犯は減少傾向にありますが、最近、漸増傾向にあるものとして、「詐欺」が挙げられます。今回は、「詐欺」にスポットを当てて考えていきたいと思います。
札幌少年鑑別所統括専門官
(企画調整担当)
布 川 幸 太 特殊詐欺で捕まる少年の特徴特殊詐欺で捕まる少年の中には、一般的な中高生と変わらない生活をしていた者も多く、犯罪に手を出した理由についても、「お金を受け取るまで犯罪だとは分からなかった。」、「ただのアルバイトのつもりでいた。」と話し、中には、自分もだまされた被害者であると考える少年もいます。特殊詐欺で少年鑑別所に入所した少年の約半数は、学生又は有職者であり、これまで保護観察などの対象となったことのない少年が約7割ということからも、表面的には社会に適応した少年が多い様子がうかがえます。ただし、専門的な検査ツールを用いて、特殊詐欺で入所した少年と、他の非行類型の少年を比較すると、資質面・環境面の問題に顕著な差は認めらず、両者の抱えている問題性にさほど違いがないことが示されております。少年院に入院した少年の約9割は、自分がしていることは犯罪だという認識をもって犯行に臨んでいることから、犯罪に至った経緯や動機について丁寧に調査し、問題性を明らかにして処遇に役立てる必要があります。特殊詐欺事犯の増加を踏まえ、法務省では、特殊詐欺で入所した少年の鑑別・指導の手引きを作成し、より細やかなアセスメントや教育を実施しております。個人情報を人質に取られる少年「犯罪だと分かったのに、何でその場から逃げなかったの?」入所した少年に職員が尋ねます。「逃げたかったけど、家の住所を教えちゃったんです。」詳しく聞くと、SNSなどを通して、特殊詐欺に誘われた際に、本名や家の住所を教えてしまい、断ったら家に押しかけてくるのではないか、親に迷惑を掛けてしまうのではないかと、ずるずると事件に加担してしまう少年が多いことが伺われます。SNSなどを通じて、見知らぬ人間に個人情報が伝わり、犯罪組織に付け入れられた事例も報告されています。犯罪だと分かっていたのに、好奇心から近付いていき、後戻りできない状態に陥ってしまう少年もいます。「個人情報管理の大切さ」、「困ったときに誰に相談したら良いのか」。犯罪予防のために、教えていく必要があるといえます。身近な危機意識北海道は、少年非行が比較的少ない地域ですが、詐欺や詐欺未遂で札幌少年鑑別所に入所した少年は、令和元年6月14日現在、15件あります。悪質な犯罪組織が高齢者をだまし、少年を利用する特殊詐欺は、誰しもが巻き込まれる可能性がある身近な犯罪ですから、今後も引き続き北海道警察本部をはじめとする関係機関が協力して、その根絶を図ってまいります。
地域援助の御依頼は..
全国共通相談ダイヤル 0570-085-085
(最寄りの法務少年支援センターにつながります。)
法務少年支援センターさっぽろ 011-787-0111
法務少年支援センターはこだて 0138-30-7877
法務少年支援センターくしろ 0154-41-5877
旭川法務少年支援センター 0166-31-5511
法務少年支援センター(少年鑑
別所)は,法務省が所管する国
の施設です。
札幌少年鑑別所
011-784-7441
函館少年鑑別支所
0138-51-5652
昨年末から本年3月下旬まで,保護観察対象者(1号観察者)を当所で
雇用し,軽微な事務,環境整備等の就労経験を積ませる試みを実施いた
しました。再犯防止に役立てるため,平成27年から全国の比較的大きな少
年鑑別所で,保護観察中の少年に就業を経験させています。今回は,週3
回,除雪やデータ整理などに取り組んでいました。今回の体験が更生につ
ながることを願っております。
3月5日,法政大学の学生さんが社会福祉施設等見学の一環とし
て当所に訪れました。卒業後の進路として児童福祉領域及び司法,
法律関係に関心を持っておられる方も多いとのことで,皆さん,真剣な
表情で説明に耳を傾けていただきました。見学だけでなく,講演の依頼
も受け付けております。御依頼があればどこへでもお伺いしますので,
ぜひお声掛けいただきたくお願いいたします。
月形学園
0126-53-2736
当園は,昭和48年から月形町において施
設を運営してまいりましたが,在院者の減少
等もあり,誠に残念ではありますが,今年度を
もって閉庁することとなりました。当園のこれ
までの歴史を振り返りますと,矯正に理解の
ある月形町や地域の方々からの支援に恵ま
れ,在院性は,たくさんの人の支えを実感し,
更生の意欲を強めることができました。これま
で支えてくださった方々の深い御理解と多大
なる御支援に感謝しながら,最後まで頑張り
ます。
釧路少年鑑別支所
0154-41-5808
4月から,札幌少年鑑別所を
本所とする「釧路少年鑑別支
所」として,新たなスタートを切り
ました。
これからも少年の健全育成の
ため,ケースの相談や講演を受
けていきますので,ぜひ御依頼く
ださい。
旭川少年鑑別所
0166-31-5468
春を迎えた当所では,職員が
ガーデニングを行っています。入
所した少年たちが美しい花々に
触れることによって豊かな感受
性を育み,生命の大切さを感じ
取ってもらえるよう,環境を整え
ております。
帯広市内の高齢者ホームの御協力
をいただき,社会貢献活動を行いまし
た。施設周辺の除草作業のほか,利用
者の皆さんと一緒にレクリエーションに
参加しました。孫と同世代の少年に元
気をもらったと利用者の方々に優しく声
を掛けていただきました。
また,JICA帯広の見学も行いました。
お互いの文化を尊重することの大切さ
に気づく貴重な機会となりました。9月に
は,JICA研修員の皆さんが,当院を訪
問される予定です。
帯広少年院
0155-24-5787
紫明女子学院
0123-22-5141
先日,北海道警察本部の少年サポー
トセンターで,再非行防止のための少女
たちとのかかわり方について,出前授業
を行いました。
当院では,対人関係や自分を見つめ
なおすための授業などを準備していま
す。千歳市の出前講座に登録しておりま
すので,お気軽に御連絡・御相談くださ
い。
北海少年院
0123-23-3147
5月16日,令和元年度第1回介護福祉科
の開講式が行われました。今年度から,当院
では北海道外の少年院からも受講生を受け入
れることとなり,今回は多摩少年院及び東日
本少年矯正医療・教育センターから各1名を
受け入れ,当院の在院者3名と合わせ総員5
名で開講しました。昨今,介護業界では人手
不足が深刻で,外国人や他業種からの転職を
目指す方々も増えているそうです。当院の介
護福祉科生にとっても,有力な就職先となる
のではないかと期待しています。9月中旬まで
の4か月間,資格取得を目指して頑張ります。
次号担当庁は北海少年院です
法務省ホームページもご覧ください
http://www/moj.go.jp/
編集・発行
札幌矯正管区第三部
発行責任者
第三部長 齊田 浩
発行日
2019/7
札幌市東区東苗穂 1-2-5-5
電話 011(783)5063
FAX 011(780)2207
北海道の少年院と少年鑑別所のニュースレター らぽーと 94号

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