法務省札幌矯正管区更生支援企画課の広報誌
ほっかいどう矯正だより
第14号(令和5年3月15日)
「特別調整」制度が開始されて10数年が
経過した今、本年度は「特別調整」について
特集していますが、本号では、第3回として、
令和4年安全安心なまちづくり関係功労者表
彰を受賞した、北海道地域生活定着支援セン
ター 統括コーディネーター 石井 隆さん
にインタビューをしました。
現在の仕事に携わるようになったきっかけについて1(注記)撮影のためマスクを外しています
伊 野 裕 樹 さん
北海道地域生活定着支援札幌センター(以下「定着」という。)に移る以前、私は、
ある障害者支援施設の施設長をしていたのですが、当時、その施設に通う一人の少女が、
突然、殺人未遂で逮捕され少年院送致になるという出来事がありました。そして、その
子の出院後の受入先の調整にも関与することになり、引き受けてくれそうな施設に対し
て次々と連絡したものの色よい返事は全くなく調整は難航を極めました。私は、矯正施
設の収容歴があることが、想像していた以上に調整の障壁となる現実に直面し大きな
ショックを受けました。以来、こういう人たちこそ、福祉がきちんと受け止めなければ
ならないという思いを強め、平成24年に定着への道に進む決意を固めました。
平成24年は、定着が開設されてまだ2年目だったこともあり、全てが手探りの状態
でした。定着に移ってまず私が驚いたのは、社会福祉法人が運営する施設に出所者が受
け入れられていた実績がほとんどなかったことでした。これではいけないと考え、最初
の1年は、定着の職員を連れて道内の各福祉施設を訪問することに注力し、個々の福祉
施設の実情を教えてもらいながら、道内の福祉施設に定着の役割を理解してもらうこと
に努めました。そのかいもあって10年近く経過した今では、定着の存在も幅広く認知
されるようになり、社会福祉法人が運営する施設に出所者が帰住する実績も大幅に増え
ました。また、私が定着に移った当時の対象者は窃盗犯の者が多かったのですが、近年
は殺人や放火などの重大事件を犯した者が増加している気がします。また、発達障害を
有する者も増えるなど、特別調整の果たすべき役割や対象が拡大する一方で、個々の調
整が難航する事例も増加傾向にあると実感しています。
特別調整の業務に携わってきての感想2特集『特別調整の今』第3回 石井 隆さん
北海道地域生活
定着支援センター
統括コーディネーター
法務省 札幌矯正管区 更生支援企画課
〒007-0801
北海道札幌市東区東苗穂1条2丁目5番5号
TEL 011-783-5021(直通)
FAX 011-780-2207
メール:1.sapporokyousei.6cc@i.moj.go.jp
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特に印象に残っている事例
私が定着に来て本当に良かったと思うのは、関東医療少年院(現東日本矯正医療・教
育センター)に入所していた少年のケースを取り扱ったことです。出院後、北海道に戻
ることを希望していたため在院中に面接に行きましたが、頻繁にパニックを起こし食事
なども投げてしまうため、紙皿や紙コップを使っているような状況でした。当時、児童
相談所の担当者は、その少年が15歳に達していたため成人の障害者支援施設への帰住
を検討していましたが、私の見立てでは、その少年には、重度の知的障害や発達障害だ
けでなく愛着の問題が横たわっており、児童施設の方がふさわしいと感じたため、道内
の児童施設にくまなく打診したところ1軒だけ受け入れてもらえる施設が見付かりまし
た。出院後の生活も大変だったのですが、児童施設の職員さんが愛情深く接してくだ
さったこともあり、10年近くたった今も再犯することなくグループホームで生活し、
就労継続支援B型にも通っています。3特別調整の今後に期待すること4一つ目は、高齢化への対応を急ぐことです。被収容者の高齢化は年々加速しており、
認知症や脳梗塞り患後の障害が残っている方が増えてきています。初期の段階で本人と
話し合って、成年後見制度を利用するなどの対応を急がないと、2〜3年後には調整そ
のものが成り立たないケースも増えてくるような気がしています。
二つ目は、入口支援を充実させることです。近年、定着では受刑者等の出口支援(特
別調整等)だけではなく入口支援(被疑者等支援事業)にも力を入れており、検察庁、
保護観察所、定着の3者で定期的な話合いを重ねていますが、今後、北海道や拘置所に
もこれに加わってほしいと考えています。出口支援に比べて在所期間の短いことがネッ
クになりやすく、もし、拘置所側から、対象者の心身の状況、服薬の内容等に関する情
報をもらうことができれば受入れ施設の選定等が迅速に進み、また、釈放時の携行薬に
ついて出口支援並みの配慮をしていただければ受入れ施設側の負担もかなり軽減されま
す。入口支援の推進には、拘置所の協力が欠かせないと思っています。
いかがだったでしょうか。本年度は
3号にわたって、各々の立場で特別調
整に携わっている方々にお話を伺いま
した。黎明期から御苦労や工夫を重ね
てきたことで現在の安定運用に繋がっ
ているわけですが、お話を聞いている
と、まだまだやれることはありそうで
すので、関係する皆様と協力しつつ、
特別調整を進めていければと思います。
特集を終えて

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