公証実務のデジタル化に関する実務者との協議会 報告書概要
令和5年3月
法務省民事局
〔背景〕 公正証書の作成に係る一連の手続について、令和7年度上期の運用開始を目指して、デジタル化を行う予定。
デジタル化に関する具体的な実務運用に関し、実務者と協議を行うため、令和4年12月に協議会を立ち上げ。
* 構成員:弁護士、司法書士、行政書士、公証人 計9名
どのような課題が生じることが想定されるかや、その課題についての対応の方向性について協議し、令和5年3月に報告書を取りまとめた。
協議会の概要
公正証書の原本とその正本・謄抄本の電子データ化(12)に関する実務運用の在り方
報告書の概要
(注記)デジタル化の骨子
1 公正証書の原本は、原則として、電子データで作成・保存することとする。
2 公正証書の正本・謄抄本に相当する効力を有する電子データ(正本等データ)の提供を請求できるようにする。
3 公証人の面前での手続について、ウェブ会議を利用して行うことができるようにする。
しかく 基本的な考え方
公正証書の原本とその正本・謄抄本の電子データ化は、利用者における正本・謄抄本の保存・管理の合理化や、他の各種手続のオンライン化
にも対応することになるものであり、積極的に進める必要がある。
しかく 他の手続における利用可能性への配意
行政機関、司法機関、民間機関等の各種手続において電子データが利用可能となるよう、以下の点に配慮する必要がある。
しろまる 幅広い手続で利用可能となるよう、日本公証人連合会と法務省が連携して、関係機関との調整や周知・広報に努めること。
しろまる 正本等データのデータ形式等について、一般に受入れが可能なものとなるように配意すること。
しろまる 正本等データにおける公証人の電子署名について、正本等データの利用者が容易に検証できるように取組を進めること。
しかく 公正証書の有無を検索するシステムの構築
公正証書を電子データにより保存することのメリットをいかして、全国的な検索システムを構築するなどして、一定の範囲の者(嘱託人本人、
その承継人、利害関係者)が公正証書の有無やその公正証書を保存している公証役場を容易に探索できるようにすることも有用である。1 ウェブ会議による公正証書の作成(3)に関する実務運用の在り方
しかく 基本的な要件・考え方
ウェブ会議の利用については、嘱託人からの申出があり、かつ、公証人が相当と認めるときを要件とすることが合理的である。
⇒ 公証人における 「相当性」 の判断枠組みの構築が重要
しかく 相当性の判断基準
ウェブ会議によることが相当であるかどうかは、必要性と許容性とを総合的に勘案して判断することが必要。
<必要性について>
嘱託人がウェブ会議を希望していることが前提 → ウェブ会議利用の必要性があることは一定程度首肯できる。
加えて、以下のような利用ニーズがある場合には、より高度の必要性を認めることができる。
✔ 嘱託人の心身の状況や就業状況等により公証役場に出向くのが難しいケース
✔ 公証役場へのアクセスが困難な地域に嘱託人がいるケース
✔ DV等の事情により、離婚給付公正証書等の作成に当たり、他方の嘱託人と同じ場所で直接対面しないことを希望するケース など
<許容性について>
嘱託人の本人確認や真意等の確認をウェブ会議で問題なく行うことができるかどうかという観点が中心的な判断要素となる。
このうち、真意やその前提となる判断能力の確認については、類型ごとに、以下のとおり考えられる。(なお、本人確認については、次ページ参照)
▶ ビジネス目的で利用される公正証書であって、代理人による嘱託が可能なもの ⇒ ウェブ会議の利用を広く認めてよい。
▶ 遺言公正証書:現行法下において、遺言公正証書の作成は、代理人による嘱託が認められていない。
⇒ 慎重な判断が必要。ただし、遺言者の年齢・心身の状況や遺言の内容、嘱託に至るまでの状況等に応じて、慎重さの程度は異なる。
しろまる 事後的に紛争となる蓋然性が高い類型の遺言
(例:遺言能力に問題のある蓋然性の高い者(高齢者、遺言能力に影響を及ぼす可能性のある病気・症状の診断を受けている者)の遺言、複数人いる推定
相続人のうち一部の者のみに合理的な理由なく財産全てを相続させる内容の遺言 等)
⇒ 特に慎重な判断が必要。次ページのような利害関係者の関与を防ぐ方策を厳格に講ずるとともに、前述のようなより高度の必要性が
認められる場合に限ってウェブ会議によることを相当と認めるべき。
しろまる 事後的に紛争となる蓋然性が低い類型の遺言
(例:中年層が遺言者となるケース、相続人のいない遺言者が慈善団体に遺贈をするケース、高齢者であっても医師の診断書により判断能力が十分にあることを
客観的に確認することができるケース 等)
⇒ 特別に慎重に行うことまでは求められない。2 ウェブ会議による公正証書の作成(3)に関する実務運用の在り方(続き)
保証意思宣明公正証書の取扱い
保証意思宣明公正証書(民法第465条の6、第465条の8)は、将来の紛争予防のために作成される一般の公正証書とはその目的を全く異にする。
→ ウェブ会議による作成を認めることで公正証書のより容易な作成を可能にするといった制度改正を行うことは、その本来の制度趣旨との関係で
問題があると考えられる。
→ 保証意思宣明公正証書については、他の類型の公正証書とは別のものとして、ウェブ会議によることを一律に許容しないこととすべき。
(注記) 任意後見契約公正証書についても、運用上、公証人が嘱託人本人と直接面接することが求められている。
⇒ 遺言公正証書と同様、慎重な判断が必要。
委任者の年齢・心身の状況や任意後見契約の内容、嘱託に至るまでの状況等に応じて、求められる慎重さの程度が異なることも同様。
加えて、任意後見契約公正証書については、当事者がその締結しようとする任意後見契約の内容や任意後見制度の趣旨を正しく理解
しているかという点も含めて慎重に判断する必要がある。
▶ 上記のいずれにも該当しないものについては、いずれの類型により近い性質を有しているかを考慮しつつ、相当性を判断することとなる。
しかく 利害関係者の関与を防ぐ方策
嘱託人が自由な意思の下で真意を述べることができる環境を確保するため、利害関係者等が立ち会うことのないように配慮する必要がある。
⇒ ビデオ通話の開始時や途中の任意の時点において、一度嘱託人がカメラを動かして嘱託人の周囲の全方位を撮影し、周囲にだれもいないこと
を公証人に確認させることが考えられる。
⇒ 以下のような方策も有用
✔ 嘱託人が病院等の施設に入居しているケースでは、施設の関係者以外の者が立ち入ることができない状況であることを施設の関係者に確認しておく。
✔ 公的機関等の中立的な第三者の協力を得て、利害関係者が立ち入ることができないような場所を確保する。
✔ 利害関係者の排除の要請が高いケースにおいては、証人を嘱託人と同じ場所に所在させた上でビデオ通話で参加させる。
しかく 本人確認手続
嘱託時の本人確認は、マイナンバーカードの電子証明書等により行う。
その上で、ウェブ会議の際に、以下についても確認を行う。
1 身分証明書を提示させた上で、その顔写真とウェブ会議の画面に映っている嘱託人の顔とを照合する。
2 必要に応じて本人確認のための質問を行う。
3 嘱託人の了承を得て、画像キャプチャを保存する。なお、画像キャプチャは、他の提出書類と同程度の期間、公証役場に保存しておく。3

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