法制審議会
刑事法(性犯罪関係)部会
第9回会議 議事録
第1 日 時 令和4年8月5日(金) 自 午前10時00分
至 午後 1時12分
第2 場 所 法務省大会議室
第3 議 題 1 第一の二(対象年齢の引上げ)について
2 その他
第4 議 事 (次のとおり)
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議 事
しろまる浅沼幹事 ただ今から、法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会の第9回会議を開催いたしま
す。
しろまる井田部会長 本日は、御多忙のところ、御出席くださり、誠にありがとうございます。
本日は、今井委員、大賀委員、川出委員、北川委員、木村委員、田中委員、中川委員、吉
崎委員、池田幹事、金杉幹事、 幹事、近藤幹事、井上関係官は、オンライン形式により出
席されています。
また、中山幹事におかれては、所用のため欠席されています。
議事に入る前に、前回の会議以降、幹事の異動がありましたので、御紹介させていただき
ます。
市原志都氏が幹事を退任され、新たに近藤和久氏が幹事となられました。
初めて会議に御出席いただいた近藤幹事に自己紹介をお願いしたいと思います。
しろまる近藤幹事 最高裁刑事局第二課の課長をしております近藤です。
よろしくお願いいたします。
しろまる井田部会長 それでは、議事に入りたいと思います。
前回会議においては、今後の議論の進め方につきまして、事務当局にそれまでの当部会に
おける議論を踏まえて諮問事項についての試案を作成してもらい、それに基づいて議論を行
っていくということで、皆様の御了解を頂いたところですが、その後、事務当局から、試案
を作成するに当たって、特に諮問事項「第一の二」の対象年齢の引上げについて、更に追加
して議論する機会を設けて、委員・幹事の皆様の御意見を伺いたい旨の申出があったため、
本日の会議では、「第一の二」についての御議論を行っていただくこととした次第です。
そこで、まず、事務当局から、本日の会議の趣旨について説明をお願いしたいと思います。
しろまる吉田幹事 対象年齢を引き上げることについて、本日、更に追加して御議論をお願いするこ
ととした趣旨等を御説明いたします。
前回の会議において、部会長から、これまでの当部会における議論を踏まえつつ、諮問事
項についての試案を作成するようにとの御指示を頂いたことを受け、事務当局においては、
試案の作成に向けた検討を行ってきました。
具体的には、これまで当部会において、対象年齢を引き上げる場合には、年齢が近い者同
士で性的行為が行われた場合など一定の場合には処罰しないこととするべきであるとの御意
見が多く述べられていたことから、そのような規定の在り方や理論的根拠についての検討を
進めてきたところです。
もっとも、その過程において、例えば、若年者に対する性的行為について、実質的な要件
で処罰するのではなく、対象年齢を引き上げて一律に処罰することとするのはなぜか、対象
年齢を引き上げて処罰する根拠を、性的行為をするかどうかの判断能力を欠くことに求める
こととした場合、対象年齢の者は、そのように判断能力を一律に欠く以上、年齢が近い者同
士で性的行為が行われた場合などであっても、対象年齢の者の性的自由を侵害することとな
るのに、なぜ処罰すべきでないことになるのか、他方、対象年齢の者の性的行為をするかど
うかの判断能力は、性的行為の内容やそれが行われる状況などを問わず、常に欠けるといえ
るのか、処罰対象から除外し、あるいは限定するとすると、その根拠を踏まえ、具体的にど
のような要件とすることが適当かなど、試案を作成する上で避けて通ることのできない理論
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的・法制的な検討課題がなお残されていると考えられたところであり、それらを解決して試
案を作成するためには、更に深く掘り下げた議論を行っていただく必要があると思われまし
た。
そこで、前回の会議ではこの項目について御議論いただく時間が十分でなかったように思
われることも踏まえ、本日、改めて時間を設け、対象年齢を引き上げる理論的根拠、対象年
齢を引き上げた場合に、一部を処罰対象から除外し又は処罰対象を限定することの要否及び
その根拠などについて、取り分け、対象年齢を引き上げつつ処罰対象を除外・限定するとし
た場合に、これを整合的に理解できる理由や根拠について、皆様がどのようにお考えなのか
を把握しておく必要があると考え、本日の御議論をお願いすることとした次第です。
しろまる井田部会長 ただ今、事務当局から、本日の会議の趣旨について説明してもらいましたが、
具体的にどのように議論を進めるかについて、事務当局から提案はありますか。
しろまる浅沼幹事 本日の御議論の進め方について、事務当局から御提案をさせていただきます。
本日改めて御議論をお願いすることとした趣旨に鑑み、本日の御議論では、前回お配りし
た配布資料22を引き続き御覧いただきながら、「補足的検討課題」の「1 対象年齢を引
き上げる理論的根拠」と「2 対象年齢を引き上げた場合に、一部を処罰対象から除外し又
は処罰対象を限定することの要否及びその根拠」について、更に御議論いただければと考え
ています。
仮に、対象年齢を引き上げつつ処罰対象を除外・限定するとすると、「補足的検討課題」
の「1」と「2」は、言わば表裏一体の課題であり、両者を整合的に理解できることが必要
であると考えられます。
皆様には、あらかじめ、そのような観点から更に検討を要すると考えられる具体的な事項
を問題意識としてお伝えしてありますが、
それも踏まえ、
「補足的検討課題」の「1」と「2」
について、相互関係を意識しつつ、まとめて御意見を頂ければと思います。
そして、先ほど吉田から御説明したとおり、本日の御議論では、事務当局が試案を作成す
る上でなお残されている理論的・法制的な課題について、皆様のお考えをお聞きしたいと考
えていることから、事務当局として皆様の御意見の趣旨を正確に理解するため、お一人が御
意見を述べられましたら、その御意見に対して、まずは、その都度、事務当局から、御意見
の趣旨などについて質問をさせていただき、その後、ほかの委員・幹事の皆様からもその御
意見に対する御質問があれば、御質問をお願いすることとし、それらの質問とお答えが一通
り終わったところで、ほかの方に御意見を述べていただくという進め方にすることが望まし
いのではないかと考えております。
そのような質疑応答のやり取りが一通り終わった後に、最後に、御発言になりたいことが
あれば、それを伺う機会を設けることとしてはいかがかと考えております。
しろまる井田部会長 本日の議論の進め方について、事務当局から具体的な提案がございました。
私としても、本日の会議の趣旨に照らすと、今提案のあった進め方とするのが適当ではな
いかと考えますが、いかがでしょうか。
(一同異議なし)
しろまる井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのように進めさせていただきたいと思い
ます。委員・幹事の皆様には、積極的に、忌憚のない御意見を述べていただければと考えて
おります。
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本日は、途中、10分程度休憩を挟んで、諮問事項「第一の二」の検討課題につき、事務
当局から提案があった形で議論を行っていきたいと思います。
それでは、御意見のある方は、挙手するなどした上で御発言をお願いします。
しろまる齋藤委員 私自身は、性交同意年齢は16歳未満とするのがよいのではないかと思っており
まして、年齢差に関しては、3歳差、あるいは18歳以上の成人による16歳未満の者に対
する性的行為は処罰すること、とするのがよいのではないかと考えています。
16歳未満の児童には、配布資料22の1ページ目の「性的行為をするかどうかに関する
能力」の内容として挙げられている「1」から「3」までの能力のうち、「1 行為の性的
な意味を認識する能力」がある程度身に付いている場合が多いとしても、「2 行為が自己
に及ぼす影響を理解する能力」は、まだ身に付いているとは言い難く、さらに、「3 性的
行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」
も不足していると考えられます。
配布資料22の2ページ目の「B案」で処罰範囲を除外・限定をする要件について、「相手
方の脆弱性に乗じていない」とする例が挙げられていますが、そのような能力の不足してい
る年齢の若年者と性的行為をすること自体が、既に年齢が低いことによる脆弱性に乗じてい
るので、別途、「乗じている」と書く必要はないと考えています。
16歳未満という年齢設定については、原則義務教育年齢であるということが大きく、例
えば、労働基準法では、「満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで」は
原則労働者として使用してはならないということが規定されているかと思います。
基本的に、
16歳未満の子供というのは、
自分の自由裁量で稼いだり、
自活したりということができず、
世界はとても狭く、選べる選択肢も少ない状態だと思います。社会をまだ余り知らずに、自
分の知っている世界の範囲でしか判断できない状況で、自分の未来にその行為がどのように
影響を及ぼすかとか、自分にどういう選択肢があるのかということを考えた上で、年長者、
特に成年者からの働きかけに対処することは、困難ではないかと思いますし、論理的に考え
る力や物事を俯瞰して考える力というのも、発達途上ということになります。
もちろん、16歳以上の者であれば的確に判断・行動できるのかというと、難しい場合も
あり、心理学では、そもそも年齢で区切るということを、余りしないのですが、仮に年齢で
区切るとするならば、16歳未満だと思います。
子供たちにとっての1歳差、2歳差というのは非常に大きく、中学生が高校生に逆らうと
いうのは非常に難しいことです。中学校の先輩に逆らうことも難しいかもしれないと思いま
すが、1歳差は同じ学年のこともあるので、それほど対等性も阻害されないかと思います。
また、2歳差もそれほど対等性は阻害されないかとも思いますが、3歳差、特に、中学生と
高校生という場合には、大人と子供ぐらいの差が生じるかと思います。
こうした理由や、私自身がこれまで接してきた様々な子供の性暴力被害の内容から考えて
も、16歳未満の者に対する性的行為を原則として処罰し、年齢差が3歳未満の場合を除外
するとか、あるいは、18歳以上の成人が16歳未満の者に対して性的行為に及んだときは
処罰するとか、そうした年齢差を設けるのが妥当ではないかと思っています。これは子供の
健全育成の保護ということではなく、年齢差のある状態で16歳未満の子供たちに性的行為
をするということが、自由な意思決定を侵害する暴力であって、子供の心と体の健全な成長
を著しく阻害する、深刻な行為だと考えています。
同年齢の子供たちについては、もし、16歳未満の同年齢程度の子供たちの間に、対等な
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関係で何の強制力も働いていない状態が存在し得るのであれば、自由な意思決定が阻害され
ないこともあるかもしれません。ただし、同年齢であっても、クラスの中で人気のある男子
生徒からの要求に逆らえずレイプをされたという中学生もいますし、一学年上の不良グルー
プに呼び出されて、やはり逆らえずに集団レイプをされたという中学生もいますし、デート
DVに付随するようなレイプ被害も存在します。なので、低年齢であっても、強制力が働く
場合ということはあり、相手の同意形成を妨げるような意図的な手段を用いて性交に及んだ
場合などについては、適切に対処される必要があると考えています。
以前の会議では、年齢差要件を設けないという立場もお伝えしていました。今でも、14
歳同士、15歳同士の性的行為というのは、背景に様々な問題が潜んだSOSという側面が
ある場合があり、それが教育場面や福祉でキャッチされ、何らかの支援につながる必要があ
るとは考えています。境界線や性的同意、対等なパートナーシップについて、教育の場面な
どで話し合っていけるといいなと思うのですが、これは、刑罰ということではなく、教育や
支援の話ですので、以上のような内容を考えました。
しろまる井田部会長 今の齋藤委員の御意見に対して、事務当局から質問はありますか。
しろまる浅沼幹事 例外を設ける場合の年齢差につきまして、3歳差という御意見を頂きましたが、
その根拠としては、同じ中学校に在籍する可能性があるからという趣旨であったかと思いま
す。それを考えたときに、同じ中学校に在籍し得る方というのは、誕生日の先後も考えます
と、1年生と3年生でも3歳差という場合があり得ます。そうしますと、処罰すべき場合と
しては、4歳差以上という年齢差になるような気もするのですが、その点はいかがでしょう
か。
しろまる齋藤委員 在籍する学校が変わる年齢差について、3歳差なのか、4歳差なのかは少し混乱
して分からないのですが、少なくとも18歳以上の成人による16歳未満に対する性的行為
は処罰するということを考えていただきたいと思います。そうすると、被害者が15歳の場
合を考えますと、年齢差要件は3歳差になるように思います。
しろまる浅沼幹事 そうすると、例えば、被害者が13歳の場合、3歳差となると、処罰対象になる
行為者は16歳以上ということになりますけれども、その点は、どういった整理になります
か。
しろまる齋藤委員 性交同意年齢は16歳未満に適用されるということで、16歳は、性交同意年齢
の適用されない年齢になってくるので、13歳と16歳の間の性的行為というのは同意が成
立しない場合に当てはまるかなと思っています。
しろまる吉田幹事 まず、前提としてですが、本日、このような形で質問をさせていただく形を採っ
ているのは、先ほど申し上げたとおりの趣旨によるものでありまして、いわゆる性交同意年
齢の引上げによって対処すべき事例が実際にあると認識した上での話でございます。その認
識を否定するつもりで質問するわけではないということは、
御理解いただければと思います。
その認識を前提としつつも、ここで検討しているのは、刑事罰則の新設や改正ですので、理
論的に説明がつくものである必要があり、その検討を進めていく過程で、解決すべき問題に
直面したため、御質問をさせていただくということであります。本日いろいろな御質問をさ
せていただきますけれども、そのように御理解いただきたいと思っております。
齋藤委員にお尋ねしたいこととして、まず一点目は、先ほど、心理学では年齢を区切って
考えることはないというお話がありましたけれども、そうしますと、16歳未満という年齢
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の設定などについては、心理学的な見地からというよりも、社会学、あるいは、委員のこれ
までの御経験を踏まえた実態認識に基づくものと理解すればよろしいのか、という点を教え
ていただければと思います。
二点目は、先ほど委員が経験されたケースに言及する中で、若年層の中でもレイプが起こ
っているというお話があったかと思うのですけれども、そこでおっしゃったレイプというの
は、例えば、現行法でいう暴行・脅迫のような手段が伴っているものなのかどうか、それと
も、そういう手段はなく、現行法上処罰の対象にできるような外形的な行為が何もないまま
に行われた性的な行為を指しておられるのか、つまり、この性交同意年齢を引き上げること
でしか対処できないケースを指しておられるのか、ということを教えていただければと思い
ます。
しろまる齋藤委員 最初の御質問なのですけれども、心理学は、やはりいろいろ個人差などを考慮し
ますので、年齢で明確に何かが区切られるということではありません。例えば、脳の成長も
おおむね25歳ぐらいまでに終わるとは言われますが、おおむねであって、25歳で一律に
成長が終わるということではなく、人によっては24歳のこともあれば、28歳のこともあ
るということがあり、それは心理学だけではなくて、身体的な成長もそのとおりかと思いま
す。
ただ、人の心理というのは、脳や心理機能の発達だけではなく、社会的な環境に大きく左
右されます。社会学的というか、社会の在り方が影響するということです。人の心理という
ものが社会の状況に左右されるのだということと、
16歳前後の成長を含めた心理学の知見、
つまり、16歳前後の成長の在り方と社会の有様とを考えて、そのような社会の有様が心に
与える影響を考えると、16歳未満で区切るということがいいのではないか、というのが一
点目の質問に対する答えです。
もう一つ、若年層でのレイプ事案ですが、いろいろな例がありまして、もちろん集団レイ
プは暴行・脅迫が用いられている場合もありますし、デートDVの場合は、それ以前に身体
的暴力が見られる場合もあります。ただ、クラスの優越的な地位にある中学生から、クラス
のいわゆる周辺的な地位にある中学生に対するレイプ事例というのは、程度の軽い脅しはあ
るのですけれども、それが現行法の暴行・脅迫に当てはまるかというと、そうではない場合
も割とあるという印象があります。
ただ、そのような事例も、今話し合っている刑法177条、178条の改正によって、処
罰対象に含まれてくるのではと思います。同年齢同士の力関係を利用した性暴力について、
脅迫の文言はあるにせよ、それをどう判断するかが警察によって分かれて、逮捕されたり逮
捕されなかったりすることがあるので、そうした状況は、今回の改正である程度改善される
のではないかと思っています。
しろまる浅沼幹事 13歳以上16歳未満の者について、性的行為の内容や種別によって、判断能力
に違いがあるのかどうかという点は、どうお考えになりますか。
しろまる齋藤委員 例えば、子供同士が頬にキスをするとか、親が子供の頬に親愛の情を示すために
キスをするといった、日常的に行われる行為ならば判断ができるかと思うのですけれども、
わいせつな行為になってくると、判断はできないのではないかと思います。わいせつな行為
については、連続性もありますし、どこで線を引くかということが難しいということもある
ので、そこに差は設けなくてもいいと思っています。
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しろまる保坂幹事 一点だけお伺いしたいのですが、
16歳未満に引き上げて処罰する理由について、
配布資料22に三つ示されている能力のうちの「2」と「3」の能力が十分でないのだとい
うことをおっしゃいました。
他方で、3歳差未満というのですかね、同年代、1歳差、2歳差の者同士の性的行為を処
罰しない理由については、
強制力が働かない場合もあるということでおっしゃったのですが、
処罰する理由を、能力が十分でないとか能力が欠けているということに求める以上は、その
処罰しない理由も、その能力から説明するのが一貫するのかなと思いましたので、その強制
力というと、
その行為者側の威力みたいなものの相関関係のようにも聞こえたものですから、
私の理解が正しくないのかもしれませんが、この能力が欠けるという場合の「2」と「3」
の能力については、相手方が、例えば同年代、1歳差、2歳差ぐらいであれば、能力が発揮
できるというか、能力を有するというか、そういう理解なのでしょうか。
しろまる齋藤委員 学校教育で性交の教育をしていないのに、「1」の能力があると考えていいのか
という疑問もあるのですが、それは置いておきまして、今のお話なのですけれども、強制力
が働いているうんぬんというのは同意の定義の中にありまして、強制的ではないこととか、
基本的に対等であって、ノーと言うことの自由がきちんと保障されていることを同意という
のですが、対等性がない場合には、相手からの働きかけに対処する能力が失われてしまうこ
とになります。
しろまる保坂幹事 そうすると、確認ですけれども、例えば、3歳年長が相手であると、この三つの
能力のうちの「3」の対処する能力が欠けるというか発揮できないと見ると、こういうこと
なのでしょうか。
しろまる齋藤委員 「2」の能力も身に付いているとは言い難いので、「3」の能力が不足している
ことによって、「2」の「行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」も脅かされるのではな
いかと思っています。
しろまる井田部会長 委員・幹事の皆様から、齋藤委員の御意見に対する御質問があれば、是非お出
しいただければと思います。
しろまる今井委員 齋藤委員、大変貴重な御意見いただきまして、勉強になりました。
私からの質問は、
先ほど保坂幹事が言われたのと非常に似ているかと思うのですけれども、
対象者を13歳以上16歳未満にするということと、対象者の能力を三つに分けて考えると
いうこと、それから最後に、クラスの中の力のある者が弱い者に対して性的行為に及ぶとい
うような類型を挙げられたのですけれども、私も、最初の二つ、対象者を13歳以上16歳
未満にするということと対象者の能力という話が同じグループに整理される問題で、クラス
の中の強い者が弱い者に対して性的行為に及ぶという話は、優越的地位という御発言もあり
ましたけれども、
また違う流れの要件だろうと思いました。
それを前提にお話を伺っていて、
13歳以上16歳未満と形式的に切ることも、実質的には、意味認識能力はあるけれども、
対処能力あるいは抵抗力が限定されることが、言わば外形的な事実から推認されるという趣
旨で御発言されたように思います。そうであるならば、そのような外形的事実の内実をもう
少しはっきり示すような理解がここで得られたならば、それを要件に入れるという書きぶり
もあるだろうと思います。
その上で、対処能力や抵抗力というものが、実は犯罪の成否を決める、あるいは不同意性
を基礎付けるという可能性もありますけれども、そういう意味であるならば、優越的地位と
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か脅迫といった要件によらず、「乗じて」ということまでいかなくても、例えば「その能力
不足を知りつつ性交に及んだものは、強制性交とする。」という書き方もあるかと思いまし
た。
繰り返しになりますけれども、そのように申し上げているのは、16歳未満と形式的に切
っても、その中身は、当該被害者とされる人の能力不足が具体的にあったかどうかという判
断になろうと思いますので、その点について検討するのは、齋藤委員の御提案を踏まえた有
意義な議論ではないかと思ったところです。
しろまる齋藤委員 「能力の不足を知りつつ」という書き方に関してですが、今回法律を改正する上
での大事なこととして、何歳差以上離れている場合は、関係性として対等ではなくて、相手
の自由な意思決定を阻害するのだということをきちんと書くことで、被害を受けた側にも、
加害する側にも、そのことが明確になるのではないかと思っております。
また、優越的地位に関してなのですが、例えば、子供を相手にした成人など、年齢が上の
人からの性的なグルーミングなどは、性的グルーミングの方法を熟知していないと、それが
性的グルーミングかどうか、子供が誘導されているかどうかということについて非常に判断
が難しくなるので、能力不足があったかどうかといった文言を入れることで、個別に判断す
る余地が生まれると、今も起きている判断のぶれが、また生じることになるのではないかと
いう懸念を抱いています。
しろまる今井委員 御趣旨は理解しているつもりなのですけれども、
能力を三つに整理したとしても、
一人の個人においても発達の度合いにはばらつきがあると思います。それから、形式的に決
めた対象年齢以上の範囲に入っている人にとっても、例えば、三つの能力のうち、どれかが
飛び抜けて発達しているけれども、どれかが欠落しているような方もいると思います。した
がいまして、まず年齢差という形式的な要件で被害者層を決めたとしても、過剰処罰に至ら
ないためには、一定の実質的な考慮が必要でありまして、そのことは、齋藤委員の御提案で
も排除されているわけではないと思いますので、
御提案を更に詰めて検討していくときには、
そういうことも考慮した方がいいのではないかということで、申し上げた次第です。
しろまる齋藤委員 一点補足なのですが、16歳未満という年齢設定は、17歳、18歳でも性的行
為に関して、対等ではない相手からの働きかけに適切に対処ができず被害に遭っている事例
はかなり多く発生しているけれども、16歳未満のように能力や社会的な立ち位置から一律
適切な対処ができないと考えるということではなく、個別の事情が存在する場合もあると考
え、16歳未満という年齢設定がよいのではないかという考えに基づいたものでした。
しろまる橋爪委員 二点質問させてください。
まず、一点目ですけれども、法律家の観点からすると、性的な判断や決定ができる能力が
あるかないかという問題と、同意があるかないかの問題は、別の次元の問題として扱ってい
る気がします。つまり、能力があるかという問題が先にあって、能力があると認められる者
について、さらに同意があるかを検討し、同意があると認められる場合には、性的行為が正
当化できると考えていると思うのです。そうしますと、現実に同意があるかないかという問
題と切り分けて、対象者に性的な判断ができる能力があるかを検討する必要があることにな
ります。したがって、仮に関係が対等であって、有効な同意が認められるとしても、同意の
有無を判断する前提として、そもそも有効な意思決定ができるかを判断する必要があると考
えるのですけれども、齋藤委員の御理解とはこの辺りの整理がやや異なるようにも思われま
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したので、まずはこの点につきまして確認させてください。
もう一点です。齋藤委員の御意見の中で、若年者については個人差が大きいという御指摘
がございました。個人差が大きいということを重視するのであるならば、一律に、年齢差と
いう観点から形式的に判断するよりは、むしろ個人の成熟差に応じた上で、言わば非対等と
いいますか、対象者の未成熟を濫用・利用するような性的行為を個別に判断し、処罰対象に
した方が、齋藤委員の御提案の趣旨に合致するような印象を持ちましたが、その点につきま
しても、御意見をお願いいたします。
しろまる齋藤委員 一点目の質問について、能力が生かされるかどうかというのは、相手からの働き
かけや相手との関係性にもよるのではないかと思いますので、それを別個に考えるというの
は、考え方の違いではないかと思います。
基本的に16歳未満というのは、性交が自分に及ぼす影響を理解する能力や、相手からの
働きかけにきちんと対処する能力は欠けているのだけれども、ただ、本当に何の強制力もな
い対等な14歳同士などの場合には、お互いに、イエスやノーを言うことが可能な場合もあ
るのではないかと思います。
また、二点目の個人差が大きいということに関する指摘ですが、個人差が大きいというの
は、16歳未満であっても判断できる場合があるということではなくて、17歳、18歳で
も判断できない場合があるという意味での個人差の大きさについて話しておりまして、16
歳未満は、やはり能力的に、そして社会的な位置付け的に、判断できない年齢なのではない
かと考えています。
未成熟さを利用する、濫用する性的行為を個別に判断する方が私の提案の趣旨に合致する
のではというお話については、16歳未満というのは、個人差を考慮しても、その子供たち
と性的行為をすること自体が既に年齢が低いことによる脆弱性に乗じているので、「乗じて
いる」とか「未成熟さを利用した」ということを書く必要はないのではないかと考えており
ます。
しろまる橋爪委員 今の齋藤委員の御説明を伺っておりますと、16歳未満の若年者には、配布資料
22に記載されている
「1」
から
「3」
までの能力が一律に存在しないわけではなくて、
「2」
と「3」の能力は、潜在的には存在し得るところ、相手が誰かによって、その能力を十全に
発揮できる場合とできない場合があるという理解に立っておられると感じました。16歳未
満の若年者であっても、対等な関係において十分に判断する余裕があれば、「2」及び「3」
の能力についても有効に発揮できるケースがあり得ると考えてもよろしいでしょうか。
しろまる齋藤委員 16歳未満の子供たちにとって対等である人というのは非常に限られているの
で、例えば、年齢が同じで、本当に強制力が何も働いていないような関係性であるなど、と
ても限定される印象は持っております。
しろまる井田部会長 私も関心があるのですけれども、3歳や、それよりもう少し年上の者との関係
においては、絶対に対等な関係ということはあり得ないと考えていいのでしょうか。3歳以
上離れてしまうと、もう対等ということはおよそあり得ないのか、あるいは、個人差によっ
ては、対等になる場合もあり得ると考えられるのか。
しろまる齋藤委員 対象者が16歳未満の場合は、年上の者と対等な関係になることは、基本的には
あり得ないと思います。年齢差を3歳とすることが適当かということはありますけれども、
基本的には、対等な関係になることはあり得ないのではないかと思います。
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しろまる長谷川幹事 配布資料22に記載されている「1」から「3」までの能力の内容に踏み込ん
で御質問をしたいと思います。まず、「2 行為が自己に及ぼす影響を理解する能力」に関
して、私は、「自己に及ぼす影響」の理解には、将来的にどういうことがあり得るかという
ことの理解も含まれると思っており、例えば、将来的な妊娠や感染症のリスクがあるという
ような知識も入ってくると思っています。妊娠について、自分の人生に与える影響という意
味では、10代の妊娠には40代以上の妊娠に次ぐぐらいのリスクがあって、例えば、亡く
なるリスクや、子供の低体重のリスクがありますが、若年者にはそのような知識が不十分な
のです。また、若年で出産することで、学業ができなくなったり、貧困に陥る可能性がある
とかいったことも含めて、「自己に及ぼす影響」なのだと考えると、相手が同年齢で、対等
に同意ができるような関係であっても、「2」の能力が発揮できるということにはつながら
ないと思います。
次に、「3 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」ですけれど
も、性犯罪が、性的自由に対する法益侵害であり、有効な同意の存否が法益侵害の有無を基
礎付けるという前提に立った上で、有効な同意ができるためには、「1」から「3」までの
能力が必要であるといったときに、この「的確に対処する能力」とは、必ずしも強制的な働
きかけに対して断れるかどうかということだけではなく、行為の性的な意味を認識したり、
その行為が自分に及ぼす影響を理解したりした上で、どういう行動をするのかを決められる
という能力を含んでいると考えるのが、法益侵害の観点から整理してきた場合の帰結のよう
に思います。そうすると、強制的要素だけではなくて、流されてしまうというようなことも
含まれると考えると、同年齢だと、お互いに好きだとか、大事にしたいとかいった感情に、
かえって流されてしまう場面もあると思うので、法的な引上げの根拠からすると、同年齢で
あれば「2」や「3」の能力が発揮されることもあるのではないかとか、対等な関係だから
処罰しなくてよいということになるのだろうかという疑問があるのですが、いかがでしょう
か。
しろまる齋藤委員 まず、もちろん妊娠や感染症のリスクですとか、貧困になる可能性についての認
識が不十分であるということはそのとおりだと思います。どこの国だったか失念してしまい
ましたが、
同年齢の若年者同士の性交渉について、
それぞれがきちんと性教育を受けていて、
それを理解した上で、さらに、対等な関係で、強制力がなく、対等なパートナーシップとは
何かというのを認識できていたならば、合意があると考えてもいいとする国があった気がす
るのですけれども、基本的には、16歳未満同士でも対等な関係を認めることは非常に難し
いと思っています。ただ、仮に対等であることが成立し得るとしたら、同年齢同士はもしか
したら成立し得ることがあるかもしれないと思ったということです。
私は、性交についてきちんとした認識がなく、きちんとした包括的な性教育を受けていな
い段階で性交を行うことに、積極的に賛成しているわけではないですけれども、性交するこ
と自体を妨げたいわけではなくて、性的な意思決定がゆがめられているような、性的な意思
決定を侵害されているような性交は、刑法できちんと処罰する必要があるのではないかと考
えています。そうしたときに、自由な性的な意思決定が侵害されているというのは、同年齢
でも、流されるということもあるかもしれないですけれども、年齢差がある関係性というの
は、明確に対等ではなくて、16歳未満の子供たちの自由な性的な意思決定を侵害するとい
えると思うので、対象年齢を16歳未満とした上で、例外として年齢差要件を設けるという
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ことを提案いたしました。
しろまる長谷川幹事 先ほど私が言った、
性的行為が自己に及ぼす影響を分からずに同意することは、
有効な同意ではないのではないかという考えに対して、諸外国では、同年齢の若年者同士に
ついて、いろいろな条件があるけれども、理解をし合っていて、対等であり、強制ではなく
て、パートナーシップも理解しているというものであれば、合意があると考える国があると
のことでした。齋藤委員は、16歳未満同士であっても、対等である場合もあり得る可能性
があるから、3歳未満の年齢差については不処罰にするという御意見と伺ったのですけれど
も、それが、性的同意に関する「1」から「3」までの能力の理論的なところから帰結する
かというと、諸外国のいろいろな条件というのは、「1」から「3」までの能力とは違う観
点から設けられているように思うので、結局、例外として、一定の年齢差未満の場合は処罰
しないようにすべきではないかという意見は、理論的な帰結というよりは、ほかの条文に該
当するものは別として、立法の側とか国民の側とかが非難をしないという選択をして、そこ
は罰しないようにしようという刑事政策的な話のように思えました。
しろまる小西委員 同年齢の場合のことをどう考えるかという点について発言したいと思いますが、
その前に、心理学や精神医学は、発達にしても異常にしても、基本的には連続体として捉え
るものです。その内容については、もう皆様余り議論はないと思うのですけれども、法律の
条文でどう捉えていくかというところが、今回問題になっていると思います。
前提から聞いていただけると有り難いのですけれども、生物学的な問題、あるいは社会学
的な問題として捉えても、性犯罪に関して、若年の子供に脆弱なところがあるということは
共通の認識だと思いますので、そこが年齢引上げに関する出発点であるということは、間違
いないと思います。
私としては、性的行為をするかどうかに関する能力として、13歳未満までは、配布資料
22に記載されている「1」、「2」、「3」の全部の能力が欠け、13歳から15歳まで
の人は「2」及び「3」の能力が欠けると考えていいのではないかと思うのですが、そうい
う発達に関する事柄をストレートに条文に表現するとなると、私は、実は、強制性交等の対
象年齢の引上げではなくて、諮問事項「第一の三」の地位・関係性の利用を要件とする罪の
新設の中にそういう脆弱性の視点も含めて考えた方がいいと、最初は思っていました。こち
らの方が子供をめぐる性犯罪の心理学的な実態に沿っていると思ったからです。しかし、ど
うもそれは法的に実現するのが難しいらしいということを、お話を聞いていて思いまして、
結局、年齢で捉えるというのは、実質的にとても脆弱な人たちを捉えていくために、形式的
要件に置き換えるという形で、年齢という要件を出しているのだと考えて、年齢の引上げに
賛成するようになりました。
そういう観点から見ると、年齢で区切るというのは、一種の分かりやすくする代替策であ
って、例えば、16歳と15歳でどう違うかという質問は、心理学的・精神学的には非常に
ナンセンスな質問になってしまうのだけれども、
代替策の中でどのように考えるかと思うと、
やはりいろいろな濃さでそういう脆弱性なり社会的な問題なりがあるときに、どこかで区切
るならば、そこから先は絶対に100%そういうことはあり得ないというところで区切るし
かないのだろうというのは、法律としては納得するところです。そのように考えますと、あ
えて分かりやすい指標としての年齢を挙げることで、大きな害を取り除こうということなの
で、0か100かで、被害そのものもきれいに分かれるものはないのだという前提に立って
- 11 -
やらないといけないのだと思います。
では、そこで年齢ということをどう考えるかということなのですが、皆様の御発言にもあ
りましたが、やはりパワーの差が明らかで、このパワーの差があれば、あるいはこの関係性
であれば、平等ということはあり得ないという年齢で切るしかないのかなと思っています。
それは、被害を受けた人全員を救うことにならない可能性があるので、私としてはすごく残
念だと思っているのですけれども、法律で実現するとすれば、それしかないのかなと思いま
す。
そう考えたら、例えば、13歳の子に、成人年齢である18歳の人が加害をするという場
合には、ここには到底、対等な関係はあり得ないと考えていいと思います。それは、加害者
の能力から考えても、それから法的な扱いから考えても、当然そうなのではないかと思いま
す。そうすると、この場合の年齢差は、5歳差ということになりますが、例えば、それが1
5歳と20歳であっても、20歳もその年齢を境に、法的な成人としての扱いに差が認めら
れる年齢です。そこで切るというのも、比較的妥当な境界かと思います。本当に全てが救え
ないということが残念であるのだけれども、やはり5歳差というのが、法的には、それ以上
だったら関係性が平等であることはあり得ないということを保障するという点では、妥当な
のかなと思うに至りました。
しろまる井田部会長 小西委員の御意見に対して、事務当局としていかがですか。
しろまる浅沼幹事 小西委員の御意見は、本来であれば、若年者に対する性的行為は、地位・関係性
を利用する類型として整理する、あるいは実質的要件を設ける方が適切だろうけれども、明
確に線を引くとすれば形式的要件を設けることになって、その場合の処罰対象から除外する
年齢差は5歳差が妥当というものだと理解しました。
今後の議論がどうなるかは分からないのですけれども、実質的要件を設けることができる
のではないかという余地が仮に出てきた場合、委員としては、やはり実質的要件を支持され
るのでしょうか。それとも、いろいろお考えになった結果、実質的要件を設ける余地が出て
きたとしても、明確に形式的要件で切った方がいいという結論にたどり着いていらっしゃる
のか、教えていただければと思います。
しろまる小西委員 まず、13歳未満というのは余りにも低すぎるという意見ですので、このままで
いいとは思っていません。たとえ地位・関係性を利用する類型の方で規定できたとしても、
このままではよくないのではないかと思います。ただ、実際に、例えば、15歳の子がSN
Sで誘い出されて、合意したと思ってセックスをしてしまうのだけれども、後で大変状況が
悪くなるというようなケースはたくさんあるわけです。そういうケースを考えるときには、
やはり心理的に考えれば、それは地位・関係性や個人の脆弱性という、連続体で存在する要
素の問題だろうと思うので、精神医学的に分析するのであればそちらの方が適切だと思って
います。ただ、それがなかなか法律に実現しないというか、法的には難しいことなのだとこ
れまでの議論から思ったということなので、理念的には実現できるのであれば、それでもい
いといえます。
しろまる浅沼幹事 もう一点、先ほど齋藤委員にもお伺いしたのですけれども、対象年齢未満の者に
ついて、性的行為の種別や内容、例えば、強制わいせつに当たるような行為か強制性交等に
当たるような行為かによって、判断する能力が変わってくるか、変わってこないかについて
は、どうお考えでしょうか。
- 12 -
しろまる小西委員 変わらないと思っています。基本的に、対象者を身体的に、それから心理的に侵
害する性的行為の影響というのは、もちろんこれもスペクトラムですから、程度の差はあり
ますけれども、それを言うなら、強制性交等の行為の中にも様々な行為があり、強制わいせ
つの中にも様々な行為があるわけです。一つの言葉で区切れるわけではないので、本質的に
は一緒だというのが、私の意見です。
しろまる吉田幹事 一点だけお伺いしたいのは、年齢差要件について、先ほど5歳という数字を出し
て御説明いただきましたけれども、13歳と18歳、14歳と19歳、15歳と20歳と、
被害者になる側の年齢が1歳上がれば、相手側の年齢も1歳上がっていくという具合に、少
しずつスライドする形になるわけです。13歳と18歳の場合の5歳差が持つ意味と、この
スライドしていったときの5歳差の持つ意味というのは、同じように捉えることができるの
でしょうか。心理学ではなかなか説明が難しいということかもしれないのですけれども、心
理学以外に関する小西委員の御知見も含めて、御説明の仕方として何かあり得るのかを、も
しお考えがあればお伺いしたいと思うのですけれども、いかがでしょうか。
しろまる小西委員 基本的には、性的行為の当事者間の関係性において、パワーの差が明らかである
か否かというところが一つの判断基準だと思うので、本当に個別のケースでそうかといわれ
たら、心理学的には答えにくい問題ですけれども、全体として、5歳差がある場合に、パワ
ーの差が全くないということはあり得ないということはいえると考えます。
しろまる保坂幹事 一点だけ御質問したいのですけれども、先ほど齋藤委員に聞いたのと同じような
質問ですけれども、御発言の中で、16歳未満まで引き上げることを前提とした場合の13
歳から16歳未満までの間は、能力でいうと、配布資料22に記載されている「2」と「3」
が欠ける、あるいは不十分だと。その上で、パワーの差が明らかな場合に限って、処罰の対
象にする。つまり、5歳未満の年齢差の場合には、それが明らかとはいえないという、こう
いう御趣旨だと思うのですが、処罰する根拠が、能力が欠けているから自由な意思決定がで
きないのだということにあるとすると、その能力は、5歳差なら全部できるわけではないけ
れども、5歳差を超えるとおよそ能力が発揮できないというか、つまり、「2」と「3」の
能力というのは、ある程度相手による相対性があることを前提とされているのかどうかを確
認したいと思いました。
しろまる小西委員 先ほどから議論になっていますけれども、被害者の能力に関する問題と、関係性
に関する問題というのが、二つ一緒に入ってきているので、混乱しているような気がするの
です。
関係性という点では、今お話ししたように5歳差だと思います。「2」や「3」の能力が
それに影響されるものなのかといいますと、「2」の能力は違うと思います。「行為が自己
に及ぼす影響を理解する能力」というのをそのまま読むならば、これは、個人がどう理解す
るかということなので、相手との年齢差によって変わるものではないと思います。
ただ、「3」の「性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」は、働
きかけというのが相手方からある以上、例えば、相手が狡猾になればなるほど、的確に対処
することが非常に難しくなってくるということはあるわけで、そこは影響があるといえると
思います。
しろまる井田部会長 委員・幹事の皆様から、今の小西委員のお考えに対して御質問がございました
らどうぞ。
- 13 -
しろまる北川委員 小西委員、そして齋藤委員も心理学的見地からいろいろ御教示いただき、ありが
とうございました。齋藤委員と小西委員の御意見を聞いていて、改正の趣旨に違いがあるの
かと思った点に関して、確認の趣旨で質問させていただきます。
小西委員の御発言からしますと、むしろ今回の対象年齢の引上げの根拠というのは、被害
者の脆弱性及びその脆弱性に対して関係性を濫用して行われる性犯罪の類型化が、地位・関
係性の利用の拡大によって実現できないのであれば、対象年齢の引上げと年齢差要件によっ
て代替しようということであると理解しました。その意味では、必ずしも先ほど齋藤委員が
おっしゃったように、飽くまで16歳未満は性的判断能力を欠くということを理由に引き上
げるのではなくて、能力うんぬんだけでなく、むしろ刑事政策的な判断、13歳から15歳
までの者を大人の性的搾取から守るという観点から引き上げるということのようにも受け取
れて、引上げの法的根拠が、齋藤委員と小西委員の間で異なるのではないかという点を、質
問させていただきます。
しろまる小西委員 法律的な議論なので、非常に難しいのですけれども、例えば、法律にいろいろな
心理学の知見を反映していくときに、どう反映するかということで、そこは多少、齋藤委員
と違ったところもあったかとは思います。齋藤委員のお話では、地位・関係性やパワーの問
題、脆弱性の問題から、代替策として年齢差を設けるというお話ではなかったように思いま
すけれども、それでお答えになりますか。私の意見は、本当に、これは駄目だというものは
せめて守っていただきたいと、そういうことです。
しろまる齋藤委員 16歳未満が性的判断能力を欠くというのは、16歳未満は年上からの働きかけ
について適切に対処することが難しいからであり、多分本質的に、小西委員がおっしゃって
いることと違いはないのですけれども、
理論の組み立て方は違ったのではないかと思います。
しろまる金杉幹事 先ほど齋藤委員に御質問し損ねたのですけれども、よろしいでしょうか。三点御
質問します。
一点目は、例えば、15歳の高校1年生の男子が、同じアルバイト先にいる18歳の高校
3年生の女子と恋愛関係になって性行為に及んだような場合、齋藤委員の御意見としては、
女性の側に強制性交等罪が成立するということでしょうか。
二点目、三点目につきましては、事案を変えまして、例えば、15歳の男子と18歳の女
性が、出会い系、マッチングアプリ等で1回だけ会ったという場合を想定したいのですが、
この場合に、明確な暴行という形ではなくて、多少脅迫的な言辞でもって、15歳の男子の
方から18歳の女性に働きかけて性交等を行ったときに、この15歳男子については、仮に
それが強制性交等罪に該当し得るような脅迫行為だったとして、強制性交等罪として処罰さ
れるというお考えでしょうか。もし処罰されるというお考えなのであれば、16歳未満の者
については、三つの能力のうち、少なくとも配布資料22に記載されている「2」や「3」
の、自分の行為が自己に及ぼす影響を理解する能力とか、そういう性的自己決定に関する判
断能力が欠ける、若しくは不十分だというお考えに立つにもかかわらず、行為者である15
歳の男子が処罰されると考える根拠は何なのか、というのが二点目の御質問です。
三点目は、同じ事案で、脅迫的な言動によって、15歳の男子と結果的に性交等に及んで
しまった18歳の女性の側に、強制性交等罪が成立するのかしないのか。もししないとお考
えなのであれば、その根拠は何かという、この大きく分けて三つについて、お尋ねできれば
と思います。
- 14 -
しろまる齋藤委員 先ほど例で、私も性別に言及しましたが、よく男子がとか女子がというような御
発言があるのですけれども、それ自体が、様々なジェンダーのバイアスが掛かっているよう
に思うことがよくございます。それは置いておきまして、15歳の高校1年生の男子が、ア
ルバイト先にいる18歳の高校3年生の女子と恋愛関係になって性行為に及んだ場合であっ
ても、もし3歳差で区切るのであれば、18歳の高校3年生の女子は、15歳の男子のまだ
判断が未熟なところを利用したと考えられるので、強制性交等罪が成立するということにな
ると思います。小西委員の5歳差だと、ここは入らないということになるかと思います。
また、15歳の男子と18歳の女子がマッチングアプリで1回だけ会った場合、明確な暴
行・脅迫があって、働きかけて性交等を行った場合ということですが、「3」の能力は働き
かけへの対処であって、この場合、15歳の男子から働きかけて暴行・脅迫を行っているの
であれば、それは別の処罰になる必要があるのではないかと思います。また、18歳の女性
の側が、もちろん明確な暴行とか脅迫、あるいは、明確でないけれども暴行・脅迫を用いて
15歳の男子に性交した場合は、18歳の女性が強制性交の加害者ということになるのでは
ないかと思います。
しろまる井田部会長 金杉幹事、いかがですか。
しろまる金杉幹事 少しかみ合っていない点があったかと思いますが、大体お考えは分かりましたの
で結構です。
しろまる井田部会長 ほかに、小西委員に対する御質問はございますか。
しろまる橋爪委員 一点確認させてください。
小西委員の御意見の趣旨は、本来は実質的な関係性の有無によって処罰を図るのが妥当で
あるところ、法律家の議論では、それを実現することが難しいため、実質的要件を形式的要
件に置き換えるということだと理解いたしました。そうしますと、仮に実質的要件でこのよ
うな関係性を規律して罰則を設けられるならば、その方が優れているという御趣旨でしょう
か。あるいは、実質的要件と形式的要件を併用する形で、それによって処罰範囲を画すれば、
その方がいいということでしょうか。
しろまる小西委員 関係性について実質的に規定できるかどうかということは、ここまでの地位・関
係性を利用する類型の議論の中で、
例えば教員はどうなのか、
クラブのコーチはどうなのか、
先輩はどうなのかといういろいろな問題を話し合ってきました。その中で、私は、どうも地
位・関係性を利用する類型では、私が知っている実際の被害者に有効な形での処罰はできな
いのではないかという気がしたので、そうであれば形式的要件にと思っているわけです。形
式的要件と思った時点で、例えば、同年齢間におけるいじめとしての性的行為などを対象と
しないことになってしまうので、とても心苦しいです。
しかし、
絶対にあり得ないことだけはせめて罰してほしいという考え方をとると、
例えば、
先ほどの5歳差であれば、20歳と15歳では当然パワーということを、パワーという言葉
ではなくても、加害者が意識すべきところだと思います。そういう形で安全策を採った結果
として、今の意見になったということです。法律をどう作るかは、正直、私の力の及ぶとこ
ろではないのですけれども、例えば5歳差で提案した時点で、救えるケースが全部救えて、
かつ、もうちょっと年齢差が近いけれども、救えるケースがあるのであれば、それは考えて
もいいのかなと思います。
しろまる橋爪委員 小西委員の御趣旨には本当に共感しております。個人的な感想になってしまいま
- 15 -
すが、形式的要件一本で切る場合には、これだけ年齢が離れていれば、絶対にもうレイプ以
外の関係はあり得ないという規定にならざるを得ないと思うのです。そうすると、一定の年
齢差があれば8割の場合は対等とはいえないとしても、2割でも対等な関係が認められる可
能性が残る場合については、その年齢差を基準とした処罰規定を設けることができないとい
うことになります。形式的要件一本で規定する場合は、およそ例外がない場合しか処罰がで
きないので、そこに収まってこない場合を切り捨てざるを得ないところが本当に難しいとい
う印象を改めて強く持ちました。
しろまる井田部会長 それでは、ほかにどなたか御意見のある方はいらっしゃいますか。
しろまる佐伯委員 私は、前回改正の法制審議会刑事法(性犯罪関係)部会では、性交同意年齢の引
上げについて、児童福祉法や条例の罰則などの存在を理由に、消極的な意見を申し上げまし
た。しかし、今回の部会において、皆様の御意見・御議論を伺い、13歳以上であっても、
一定の年齢以下の者については、先ほどから御指摘がありますように、行為が自己に及ぼす
影響を理解する能力、あるいは性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能
力が十分でないということから、そのような若年者を保護するために刑法に新たな規定を設
けることに賛成したいと思うようになっています。
その上で、
どのような規定にするのが望ましいのかということについて、
現在のところは、
第1回会議の外国の法制度に関する配布資料6で紹介されました、ドイツ刑法182条3項
のような規定、具体的には、同項は、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を
行い、その際に、行為者に対する被害者の性的自己決定能力の欠如を利用した場合に処罰す
ると規定しておりますけれども、このような規定の仕方が、基本的には適切ではないかと思
うに至っております。
この規定のように、年齢差を、行為者と被害者の年齢で定めるのか、それとも、端的に年
齢差として規定するのか、あるいは、その年齢や年齢差を何歳にするのか、先ほどから、3
歳あるいは5歳というような御意見が出ておりますが、それらの点については、更に検討が
必要だと思いますけれども、基本的に、年齢差と被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用の
両方を要件とすることが、望ましいのではないかということです。
まず、年齢差要件を設ける理由については、若年者の判断能力、特に対処能力は、相手や
状況に左右されるものであって、一定の年齢差がある場合には、先ほど来、小西委員が御指
摘になっておられますように、対処能力に欠けると考えることができること、そして、これ
も小西委員が御指摘になられた点ですけれども、法律の安定的な適用を確保するためには、
被害者の能力の欠如ないし未熟さの利用を徴表する要件を規定し、一定の場合は、原則とし
て犯罪が成立するということを示すのが、望ましいと思われるからです。
次に、年齢差要件とともに、利用要件を設ける、この点が、小西委員と意見を異にする点
なのですけれども、その理由というのは、年齢差要件だけで処罰範囲を適切に画することが
できるかについて、私は危惧を感じるからです。例えば、先ほども御指摘がありましたけれ
ども、年少者が年長者に対して暴行・脅迫を用いて性交等を行ったという場合は、年長者は
被害者ですので、処罰されるべきではないということについては、恐らく異論はないのでは
ないかと思います。そのような場合は、違法性阻却等で処罰範囲から除外できるのかもしれ
ませんが、やはり構成要件の段階で除外することが望ましいと思います。
さらに、一定の年齢差がある場合、飽くまで例えばですけれども、ドイツ刑法の規定のよ
- 16 -
うに、21歳以上の者が16歳未満の者に対して性的行為を行った場合には一律に処罰する
規定とすることについては、最高裁判例との関係も気になります。御案内のように、最高裁
昭和60年10月23日大法廷判決は、18歳未満の者との淫行を禁止・処罰する福岡県青
少年保護育成条例について、婚約中の青少年又はこれに準ずる真摯な交際関係にある青少年
との間で行われる性行為等まで処罰の対象とすることは処罰の範囲が広きに失すると判示し
ています。今回問題となっている一定の年齢未満、例えば、16歳未満の者との性的行為等
の処罰について、この判例がそのまま当てはまるわけではありませんが、真摯な合意に基づ
く性的関係は処罰すべきではないというのが、
この判例の基本的な考え方だとすると、
私は、
その考え方は尊重されるべきだと思います。
一定の年齢差がある場合は、そのような真摯な合意に基づくものではないというのが通常
でしょうし、その年齢差が更に大きくなれば、真摯な合意に基づくものとは到底いえないと
判断されることになると思います。しかし、一定の年齢差を少し超えただけで、常に真摯な
合意に基づくものでないといえるのか、例えば、21歳の者と15歳の者との間には、真摯
な合意に基づく性的関係はあり得ないと言い切ってよいのかについては、私はちゅうちょを
覚えるところです。
この最高裁判例が、法定刑が懲役2年以下又は10万円以下の罰金である条例の規定に関
するものであるのに対して、現在議論されているのは、法定刑が、性交等の場合は5年以上
の有期懲役の罪であることも、考慮に入れられるべきだろうと思います。
しろまる井田部会長 事務当局から質問があればお願いします。
しろまる浅沼幹事 既に委員の御発言の中で触れられているものと理解しておりますが、確認の意味
で御質問いたします。年齢差なりの形式的な要件と利用要件、つまり実質的な要件の組合せ
という御提案だったと思いますけれども、その両者の関係性について、どのようにお考えに
なりますか。
しろまる佐伯委員 年齢差があることによって、
対処能力の欠如が示されるということが第一点です。
それから小西委員が御指摘になった点と共通しますけれども、明確な基準があった方がいい
ということが二点目です。小西委員は、5歳差があれば、パワーに差がないということはあ
り得ないとおっしゃいました。確かに、力関係に差はあるのだろうとは思いますが、その差
が、直ちに刑法で、例えば、性行為について懲役5年以上の刑罰を科すということをもたら
すものなのかというと、パワーに差はあっても、そのような差に配慮しつつ、真摯に交際す
るということも、特に年齢差が少し超えているというような場合には、あり得るのではない
かと思っております。
しろまる浅沼幹事 実質的要件の軽重といいますか、表現が難しいのですけれども、年齢差を非常に
大きく、例えば、10歳と定めて、それで残ってくる実質的要件で捉えられるべきものと、
例えば、年齢差が3歳というような狭い場合に、残ってくる実質的要件で捉えられるべきも
のの重さの違いというか、年齢差要件と実質的要件の相関関係についてはどうお考えになり
ますか。
しろまる佐伯委員 実質上変わってくると思います。年齢差が大きくなればなるほど、その年齢差が
あれば、原則として処罰していいということになって、実質的要件である利用要件は余り働
くことがない、本当に例外的な場合に限られるということになると思いますし、年齢差が小
さくなればなるほど、その年齢差だけで直ちに処罰を基礎付けることができなくて、より利
- 17 -
用要件に実質的な役割が求められるということになるのではないかと思います。
しろまる吉田幹事 今の点と関連して教えていただきたいのですが、今の御意見の趣旨は、年齢差と
いう形式的な要件を設けることとした場合に、その年齢差の持つ意味が、その幅によって変
わってくる、例えば、年齢差を10歳とか15歳と離しますと、基本的に対等な関係ではな
い、能力が発揮できないということになってきて、実質的要件で除くべき部分というのが、
その分縮小するという関係に立つということであると思います。そのときに、もちろん具体
的な文言はまだこれから議論すべきことだろうとは思っておりますけれども、例えば、監護
者性交等罪では「乗じて」という言葉が用いられていて、御案内のとおり、余り機能すべき
領域が大きくない要件として設けられております。そうしたことも踏まえ、例えば、実質的
要件として、そういう「乗じて」というような言葉を用いることも視野に入ってくるのか、
あるいは、それとは別の考慮があり得るのか、その辺りについて、現時点でのお考えがあれ
ば、教えていただければと思います。
しろまる佐伯委員 実質的要件として、
「乗じて」
という言葉を用いることも考えられると思います。
そこは正に、実質的要件にどのぐらい役割を持たせるかということにも関係するのですけれ
ども、今、御指摘があったように、監護者性交等罪においては、「乗じて」という要件は非
常に限定された機能しかないと理解されていますので、それよりはもう少し機能を持たせた
文言として、ドイツ刑法で使われている「利用」という文言を御提案した次第です。
しろまる保坂幹事 一点だけお伺いしたいのですけれども、年齢差のような形式的要件プラス、利用
する、未熟さを利用するというような、利用要件というお話でございましたが、年齢差とし
てどれぐらいを設定するのかのところにも大きくよるのだと思いますけれども、その年齢差
内にある者同士の中に、
実質的要件を満たすような者はいないという設定なのか、
それとも、
いるだろうけれども、言わば同年代同士の場合には、利用があり得ないのか、あるいは利用
したとしても、5年以上の懲役という法定刑で罰すべきでないというのか、同年代が処罰さ
れない理由は、この要件との関係でどう理解すればいいのかというのを教えていただければ
と思いました。
しろまる佐伯委員 対処能力も含めて、性的行為をするかどうかに関する三つの能力全てが0か10
0かではないと思うのですけれども、一定の年齢差がある場合には、類型的に対処能力が欠
けると考えるということです。そうすると、実質的には利用していて、可罰性がある場合も
処罰から漏れてくるのではないかということについては、小西委員と同じ意見で、確かにそ
ういう場合もあるかもしれないけれども、そのデメリットと、明確に処罰範囲を画するとい
うメリットを勘案すると、メリットが上回るのではないかというのが、私の意見です。
しろまる小西委員 佐伯委員の御意見は納得できるところもあるのですけれども、
実質的には、
多分、
橋爪委員も佐伯委員も同じことをおっしゃっていて、要するに、年齢差要件だけでは処罰す
べきでないものが処罰されてしまうケースもあるということをおっしゃっているのだと思い
ます。
ただ、私がどうして形式的要件にこだわっているかというと、「真摯な恋愛」とか、そう
いう心理学的な要素を含んだ言葉は、偏見がある社会の中ではきちんと使われない可能性が
非常に高いからです。今でも、多くのケースの中で、実際にはパワーのコントロールがある
にもかかわらず、そのことが明らかにならずに、例えば無罪になっているようなケースがあ
るわけです。その中で、かなり心理学的な要件である、例えば、先ほどの「乗じて」のとこ
- 18 -
ろに入ってくる文言が、余り規定されずに書かれてしまって、実質的には人の偏見に任せら
れるということになることに、私は非常に危惧を持っています。だからこそ、代替の仕組み
というか、本当に足りないところはあるのだけれども、形式的要件にこだわりたいと思って
いるということを、お話ししたいと思います。
しろまる井田部会長 濫用されるおそれがない、救済すべき者が全て救済されるような文言というの
はあり得ないのでしょうか。
しろまる小西委員 今の真摯な恋愛は処罰すべきでないという点に納得された方もいるのかもしれま
せんけれども、そういうように見えながら、実際にはコントロールが非常になされているケ
ースというのは、本当にあります。そういうケースを発見するためには、その人が真摯であ
るかどうかということを、表面上、誰かが判定するわけですけれども、そういう判定では不
十分だと思っています。どのような言葉があるかというのは、今はお答えできません。少し
考えてみますけれども、ここまでの経過を踏まえて、到底無理だなと思ったので、この形式
だけの要件を主張しているということです。
しろまる井田部会長 ほかに、今の佐伯委員の御発言に対する御質問はございますか。
しろまる齋藤委員 年齢差があっても、形式的要件のぎりぎりの年齢差で、相手のことを考えた真摯
な関係性があって、同意を築く場合もあるのではないかというお話があったかと思うのです
けれども、それは、16歳未満の若年者は性交が自分の心身にもたらす影響を十分に認識し
ていない、ということを理解しているのに、16歳未満の若年者に対して性交を求めるとい
うことが、真摯な関係とか同意に基づく可能性があるということでよろしいのでしょうか。
しろまる佐伯委員 道徳的にいえば、真摯に相手のことを思っているのであれば、16歳まで性的な
関係を持つことを我慢すべきであるというのは、
そのとおりかと思うのですけれども、
刑罰、
特に重い刑罰を科すということを考えた場合には、完全な配慮というものを刑法で求めるの
は、やや行き過ぎではないかと思っております。
しろまる井田部会長 真摯という言葉自体が、倫理的意味合いを持ってしまっているので、例えば、
対等性の保障されている関係とか、ほかに良い言葉はないでしょうかね。
しろまる金杉幹事 児童福祉法の淫行をさせる行為の中に、佐伯委員が御提案になったような規定で
捕捉される行為と被るものがあり得ると思うのですが、児童福祉法違反の場合、懲役10年
以下の法定刑ということになります。そちらと強制性交等罪との整合性についてどのように
お考えか、例えば、佐伯委員の御提案のような規定ぶりで、もう少し法定刑を下げた形で規
定するということは考えられると思うのですが、これを強制性交等罪と同程度の罪だとお考
えになる根拠を、お聞かせいただければと思います。
しろまる佐伯委員 青少年保護の観点からの規定を刑法に新たに設けるということであれば、より軽
い法定刑ということが考えられると思うのですけれども、同意能力に欠けるということを理
由として新たに規定を設ける場合には、絶対にというわけではないのですけれども、現在の
13歳未満に対する性的行為を処罰する規定と同じような規定になるのではないかと思って
おります。
しろまる今井委員 年齢差に加えまして、被害者の未熟さを利用して、というような形で実質的要件
を設けるという御提案で、私も似たような発想を持っているのですけれども、その未熟さを
利用してということの実態が、被害者側の能力の不足ということに関連してということにな
りますと、実質的には、対処能力等が相手方に十分にないことを知りつつ行為を行ったとい
- 19 -
う場合に、非常に近づいてくるような気もいたします。
佐伯委員も、規定ぶりは今後検討すべきということをおっしゃっていたので、今すべき質
問ではないかもしれないのですけれども、「利用して」という要件を狭く捉えると監護者性
交等罪にいう「乗じて」に近づきますし、あるいは被害者の置かれている状況を認識しつつ、
という意味に捉えますと、能力の一部の欠落を認識して、ということに近づいてきて、金杉
幹事が言われたような質問も出てくるのかなと思っていたところです。ですので、被害者の
対処能力の重要性を確認した上で、実質的要件をどう書くかによって法定刑も差異はあり得
るのかなと思っていたのですが、現状での御意見があれば教えていただきたいと思います。
しろまる佐伯委員 特に、年齢差をどうするかというところは、大きいのかなと感じております。
しろまる長谷川幹事 三点質問をさせていただきたいと思います。
先ほど昭和60年の最高裁判例について御紹介いただいて、判決理由の中で、18歳未満
に対する淫行の処罰について、結婚を前提とするような真摯な交際関係にある青少年との間
で行われる性行為等まで処罰対象とすると、処罰範囲が広汎になりすぎるという趣旨の判示
部分を引用されたのですが、一点目は、女性の婚姻適齢が18歳に引き上げられたこととの
関係で、今、この判決理由の判示はどのように整理されるのかということをお聞きしたいと
思います。それから、佐伯委員も、対象年齢を引き上げる根拠として、配布資料22に記載
されている「1」から「3」までの能力に言及されつつ、真摯な恋愛、そういった一定程度
本気の恋愛は処罰すべきではないのではないかという考えが背景にある御意見としてお聞き
したのですが、私は、先ほど言ったように、「2」の能力が不十分であることは、相手が誰
であろうと、本気の恋愛であろうと、変わらないのではないかと思っておりまして、そこは
どうお考えなのでしょうか。それから、実質的要件について、これは、「乗じて」という言
葉を使うのか、
ほかの言葉を使うのか、
まだ定まっていないところではあるのですけれども、
こういった要件によって、年齢差があっても、一定の処罰すべきでないものを処罰対象から
排除しようというお考えだと思うのですが、こういった要件があることによって、本来処罰
すべきものが、行為者の認識や行為の立証の問題から処罰できなくなってしまう危険を多分
にはらんでいるという点について、どうお考えなのかということを教えてください。
しろまる佐伯委員 まず、最高裁判例が出たときと現在では、婚姻適齢が変わっているというのは、
正に御指摘のとおりで、先ほども申し上げましたけれども、この最高裁判例が、そのまま直
接、今議論している問題に当てはまるとは、私も思っておりません。ただ、最高裁判例の基
礎にある考え方からは、年齢差要件を設けても、その年齢差を少し超えるような場合に、常
に処罰に値するといえるのかというと、やはり処罰すべきでない事例があるのではないかと
いう発想に立つものです。そして、これは先ほど御質問のあった立証の問題とも関連するの
ですけれども、刑罰を科すかどうかという問題ですので、少しでも処罰すべきでないものが
入るおそれがあるのであれば、本来処罰すべきものが多少漏れたとしても、利用要件を設け
ることによって、言わば安全弁のようなものを残すべきではないかと思っている次第です。
しろまる小島委員 この年齢差要件という形式的要件と実質的要件のハイブリッドを考える御意見だ
と思いますが,
なぜ形式的要件と実質的要件のハイブリッドにするべきだと考えられたのか、
ということを御質問させていただきたいと思います。
しろまる佐伯委員 年齢差を何歳にするかということにもよるのですけれども、ある程度の年齢差が
確保されれば、ほとんどの場合は処罰してもよい事例に当たるのだろうと、私も思っていま
- 20 -
す。ただ、それは、飽くまでほとんどの場合であって、やはり例外的に、たとえ年齢差を多
少超えていても処罰すべきでないと多くの人が感じる事例もあるのではないかと思ってお
り、そういう場合を処罰範囲から除外するためには、何らかの別の要件があることが望まし
いのではないかというのが、私の意見です。
しろまる山本委員 先ほどから繰り返しいろいろな方が質問しているのですけれども、対等に性的同
意ができるということがどういうことか、
という理解が共有されていないのではと思うので、
説明をさせていただきます。
例えば、22歳と15歳の間でも、真摯な同意の下に性的な交流ができる可能性があり得
るかもしれず、それが一定の年齢差を超えたら、真摯な合意があり得ないと言い切っていい
のかということが、この年齢差に関する皆様の懸念というか、疑問になっているのかなと思
います。私は看護師で、性的被害の支援をしている立場なので、お互いに対等な関係で同意
のある性交というためには、性的同意と性的コミュニケーション、性行為と妊娠、出産の過
程を学び、きちんとコンドームの使用方法を守って、性感染症の防止も行い、異性間の性交
だったら妊娠がありますから、女子に関しては毎月三、四千円分のピルを買える経済的な力
も必要になります。それらがあった上で、毎回、性的行為のときに同意をお互いにかわすこ
とができるというのが、対等な性的同意であると考えています。
その上で、例えば、ピルを年長者が買って年少者に与えるということになると、それは性
的搾取に入ってくると思うのですけれども、一定の年齢差があっても、なお、それが性的搾
取に入ってこないと考えるのは、どういうことなのかなということを、もう一回お伺いでき
ればと思いました。
しろまる佐伯委員 私の理解が不十分なのかもしれないのですが、もちろん、例えば、22歳と15
歳であれば完全に対等とはいえないでしょうし、知識にも格差があると思います。しかし、
そういう力の格差や、知識の格差に配慮しながら、例えば、避妊をきちんとする、あるいは、
そういう格差を補う努力、真摯という言葉が適切かは分かりませんが、私の考える真摯とい
うのは、単なる主観の問題ではなくて、具体的にどういうことを行っているのかという客観
的な問題だろうと思うのですけれども、様々な配慮を行って、性的な関係を持っているとい
う場合に、これを、強制性交等罪や強制わいせつ罪と同じように処罰するというのは、私に
はやや行き過ぎのように思えまして、やはりそういう場合を除外できる要件を設けておくの
が適切ではないか、それを実務の運用に任せてしまうというのは適切ではないのではないか
と思っております。
しろまる山本委員 年齢差があり、すごく配慮ができるというのは、とてもよくできた人みたいなイ
メージがあります。22歳の人がそこまでの配慮をできるのだろうかと思います。
人間は、いろいろ自分の都合とか目的とかもありますし、特に若年でもありますから、そ
こまで本当に真摯に相手のことを思って、対等性を補完できるようなことが常時できるのか
というのが、まず一つ疑問です。もっと年長になっていけば、例えば30歳と50歳であれ
ば、もう少し理解力とか思いやりとか配慮もできてくるのかなと思うのですけれども、それ
も人によりますし、
若年者同士の場合に、
そこまで年長者に期待できるのかというところは、
非常に疑問だなと思ったというのが、私の感想です。
それと、やはり年齢差は設けてほしいとは思います。今の社会で、年齢差が持つパワーと
いうのが、なかなか認識されていないと思います。それは、被害を受ける人も認識できてい
- 21 -
ないということもあるし、加害する側も、相手がいいと言ったからいいのではないかという
考えで、その中で、性暴力も含めた多様な傷つきが生じ、そして、多大な心身に対する影響
を後々にも与えているということがあるので、年齢に対する意識を議論して深めていただけ
ればと思いました。
しろまる井田部会長 それでは、ここで10分ほど休憩を入れたいと思います。午前11時50分に
再開したいと思います。
(休 憩)
しろまる井田部会長 会議を再開いたします。
引き続き「第一の二」の対象年齢の引上げについて御議論を頂きたいと思います。
御意見のある方は、挙手するなどした上で、御発言をお願いしたいと思います。
しろまる山本委員 私は、対象年齢を16歳未満に引き上げて、3歳差の年齢差要件を設けた方がよ
いのではないかという、齋藤委員の御提案に賛成します。まず、配布資料22に記載されて
いる「1」から「3」までの能力について、専門家によってもいろいろ意見の違いはあるか
と思うのですけれども、私の考えを述べさせていただきます。
まず、女子で月経が開始される年齢は大体10歳から12歳ぐらい、体格がいい人なら1
0歳から11歳ぐらいです。男子が精通する年齢は13歳ぐらいです。その頃から第二次性
徴が始まり、性的な発達に伴い、マスターベーションとかも行われるようになり、いろいろ
な性にまつわる周辺情報を確認しながら、「1 行為の性的な意味を認識する能力」が段階
的に備わっていくのではないかと考えます。個体差もあると思いますけれども、それが大体
13歳ぐらいから16歳ぐらいなのではと思います。「2 行為が自己に及ぼす影響を理解
する能力」というのは、本当に教育の影響が大きいと思います。日本でなかなか包括的な性
教育が行われていない中で、単に性交するということだけではなくて、性感染症、妊娠、出
産、その後の人生に与える影響、また、自分が恋愛関係と思っていたものが実はグルーミン
グで、後に性暴力だったということに気付くとか、そういうことになってくると、かなり高
い認識と知識と理解力を要しますので、なかなかこれも難しいのかなとも思うのですけれど
も、そのような自己に及ぼす影響を理解する能力も、段階的に備わっていくことは、心身の
性的な発達と社会性の発達とともに可能であると考えます。
「3 性的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」については、カナ
ダでは、同意能力、つまり、性的な行為についての判断能力は16歳までに身に付くが、支
配的な力に抵抗する能力が身に付くのは18歳で成人と同じレベルとされていて、2歳の年
齢差を設けているということが、刑事法ジャーナル第45号に記載されていました。カナダ
とは社会や文化の違いや包括的な性教育の有無など、日本とは違う点もありますが、このよ
うな法制度も参考になると思います。カナダの例は、支配的な力に抵抗する能力ということ
なので、より強い、強度な関係性がある人とか、あと年齢差が大きい人とか、そういう人に
抵抗する能力であると思います。「3」の「相手方からの働きかけに的確に対処する能力」
というのは、同意のある性交か、ない性交か、対等性があるのか、ないのかということを認
識して、ない場合は、その場から去り、適切な信頼できる相手に相談し、その支援を求める
ことができるという能力なのかなと思うと、16歳の者には、そのように対処する能力が一
- 22 -
定程度備わっていくと考えてもよいのではないかと思います。
年齢差要件について、なぜ3歳差なのかといいますと、やはり今、成人年齢が18歳で、
成人になるといろいろな権利を持つようになったり、権利を行使することができるようにな
る。そういうことの認識の差が、10代に与える影響は大きいのではないかなと思います。
そうであるならば、16歳未満で対象年齢を区切り、15歳との関係で、18歳は大人とし
ての権利を持ち、それならば、そういう脆弱性のある人に対して、そのことを認識した行動
を取るべきであるということかと思います。
しろまる井田部会長 事務当局から何か質問はありますか。
しろまる浅沼幹事 今、年齢差要件を3歳差とすることの御説明として、成人年齢の18歳と15歳
を比べて3歳という御提案を頂きました。一方、先ほど小西委員からは、18歳というとこ
ろは一緒なのですけれども、
それを13歳と比べて5歳差という御提案を頂きました。
要は、
その幅の捉え方なのですけれども、小西委員の発想は、どちらかといえば、年齢差内のとこ
ろに、本当は対等ではないものがあったとしても、刑罰という観点から広めに幅をとったら
どうかという、線引きとしてはそういうお考えだったと理解しているのですけれども、山本
委員は、その点はどうお考えになりますか。
しろまる山本委員 年齢差ということのパワーをどのように認識していくのかということと、処罰す
るものと処罰しないものの範囲ということだと思うのですけれども、18歳と13歳の間の
性的行為が処罰するものの範囲に入るのは、もちろん当然のことだと思います。18歳と1
5歳というのも、私としては、その年齢差が与えるパワーを考えると、社会人の経験がある
ような人、あるいは大学生かもしれませんけれども、そういう年齢の人が中学生に対して、
その判断の未熟さとか脆弱性を利用すること自体があってはならないことだと思うので、3
歳差以上は処罰していいのではないかと思っています。
しろまる保坂幹事 皆さんに同じような質問をしているわけですけれども、16歳未満に引き上げる
ということの理由として、配布資料22に記載されている「1」から「3」までの能力、そ
れぞれお考えがあるかもしれませんが、その三つの能力がまだ備わっていないという点で、
16歳未満との性交を処罰するのだとした上で、3歳の年齢差というのを要件にするとした
場合に、同年代というのか、1、2歳差の人との性的行為については、「2」や「3」の能
力との関係では、その能力はある、あるいは発揮できるという理解なのか、それとはまた別
の理由で、1、2歳差は処罰から除外するという趣旨なのか、そこをまず一点教えていただ
けますでしょうか。
しろまる山本委員 そこの法的な理屈の理解が私にとっては非常に難しいのですけれども、
多分、
「性
的行為に向けた相手方からの働きかけに的確に対処する能力」というものが16歳で備わる
とした場合には、15歳と15歳では、お互いに対処できないような状態で性的行為が行わ
れているのだと思います。そうだとすれば、ほかの要素が対等であるのならば、それは一方
的な関係ではないだろうと思います。要するに、能力が低い人同士なので影響を与え合うよ
うな形ではないのではないかと考えます。
少し話がずれるかもしれませんけれども、年齢差による支配やパワーがどうして問題なの
かということは、年齢差があることで、一方的に、下の立場の人が嫌だと言えないことを読
み取らなかったりとか、嫌だと言えないことを無視して性的行為をするということにつなが
り、それが、性暴力の被害の中核的な要素である無力感とか、自分は意思を無視される人間
- 23 -
として扱われない存在なのだという感覚とつながっていくのではないかと思います。そうし
ますと、やはり、まだ発達が未熟な人たち同士で性的行為を行う場合には、一方的ではない
ので、そこは処罰から除外されるのではないのかなと思います。
しろまる保坂幹事 それに追加して、関連してなのですけれども、3歳差未満同士、1、2歳差同士
ですかね、その中に、先ほどおっしゃったようなパワーを使うというような、要するに、1
歳、2歳上の人が年齢の上下を利用するという場合も、実態としてはあり得るかと思うので
すが、そこは、年齢差を設けると処罰されないことになるのですが、それはやはり、年齢差
を設けないと罰してはいけないものが入るから、安全策を採っているという、そういうこと
なのでしょうか。そのバランスで3歳というのが出てきているような感覚ですか。
しろまる山本委員 その年齢差を設ける必要性は、やはり明確であるからということだと思います。
そのぐらいの年齢差があれば、そこにはパワーが少ない、特に16歳未満のまだ性的な発
達が未成熟な人の性的自由意思を侵害する要素があるということだと思います。
一方、年齢差の範囲内であっても、その脆弱な要素の利用以外の暴行・脅迫があったりと
か、不利益の憂慮をさせたりとか、そういった性的な加害もあります。
それこそ性的いじめもありますし、おびき出したりとか、いろいろなことがありますけれ
ども、そういう場合はまた別に刑法177条本体で処罰することができるのではないかと考
えています。
しろまる井田部会長 委員・幹事の皆様、山本委員に対する御質問はございますか。
しろまる橋爪委員 二点質問させてください。
まず一点目ですが、山本委員の御意見を伺っておりまして、恐らく、対等な関係ではなく
て、一方がパワーを行使するような性的行為は、自由で任意な行為とはいえないから、性犯
罪を構成するという御趣旨かと理解しました。このような観点を重視しますと、以前から気
になっているのですが、対象年齢を16歳未満に限定する必然性がないような気もいたしま
す。例えば、18歳と28歳でも対等ではなく、当然、ここにはパワーの行使があるでしょ
うし、30歳と20歳でも同様かもしれません。つまり、対象年齢を16歳未満に限定しな
くても、非対等でパワーの関係がある性的行為については、より広い範囲で想定できるよう
にも思います。このような意味で、なぜ、非対等な性的行為全てが処罰されていないのに、
16歳未満に限って非対等でパワーを行使する性的行為が全て犯罪を構成するのかについ
て、御意見をお聞かせいただけますと幸いです。
もう一点なのですけれども、成人年齢の引下げについて言及がございました。18歳が成
人である以上、
責任を負うのだという観点からの御意見だったかと存じます。
そうしますと、
仮定の話で恐縮なのですけれども、
本年3月末までであれば、
話は違ってくるのでしょうか。
つまり、成人年齢が20歳であれば、その場合には、年齢要件も異なって解する必要がある
のでしょうか。さらに、本年4月以降につきましても、やはり18歳や19歳は未成熟であ
って、特に民法の契約においては、十分に保護すべきという議論があるように理解していま
す。また、少年法につきましても、御案内のとおり、少年法の適用年齢それ自体は引き下げ
られておりません。このように18歳や19歳はなお未成熟であり、十分に責任を負えるわ
けではないという考え方もなおあり得るようにも思われます。この点についても御意見をお
願いいたします。
しろまる山本委員 まず一つ目の、対象年齢を18歳未満に引き上げてもいいのではないかというこ
- 24 -
とは、カナダやアメリカのカリフォルニア州とかは18歳未満と伺っていますので、そのよ
うに引き上げるということも考えられるのではないかとは思います。
ただ、今回の議論を聞いていると、この年齢差に対する認識の相違がかなりあり、理解を
一致させるのが、非常に難しいのではないかということも思います。
あと、性的な発達と性的な同意、そして性暴力・性犯罪ということを考えると、人間は成
長するとともに第二次性徴段階に至り、性的な成熟を経て、性的行為をするようになるわけ
です。高校生で性的行為をしている人は、実はそれほど多くないということでもあるのです
けれども、性的な行為を、対等な関係で同意を持ってしていくことは、そこに包括的な性教
育があり性感染症と妊娠の予防などが行えるのであれば自然な発達過程の範囲です。
しかし、
なかなかまだそれができていないという現状があり、最低限中学生は守ってほしいというの
が、私の認識です。だから、対象年齢は16歳未満ということになります。社会が性暴力に
ついて、そして、人間の性的発達と性的な同意というものがどれほど尊重されるべきである
のかということについて、もっと認識・理解するようになれば、対象年齢を18歳未満に引
き上げる議論も進むのではないかなと思います。性的発達過程にある人は、脆弱性があり侵
害されやすいので考慮する必要があるというのが私の考えです。
成人年齢に関しては、橋爪委員のおっしゃるように、やはり後からの理屈付けというか、
成人だからみたいなところもあるかとは思います。ただ、発達を考えると、男子だったら1
0センチずつぐらい毎年身長が伸びていき、一般的には18歳くらいの年齢で身体的な成長
に至るというところがあり、性的行為に関しても、それぞれパワーを持つようになると思う
のです。性的発達とともに、自分も被害を受けるのだけれども、加害もできるようになって
いくような状況があります。そのときに、それを全く処罰しないでいいのかということに関
しては、そうではないと思います。年齢によって、やはり取るべき責任というのはあるので
はないのかなということを考えています。
しろまる井田部会長 山本委員に対する質問はこのぐらいということで、ほかの方いかがですか。
しろまる小島委員 私は、形式的要件だけで切っていくべきではないかと考えています。
実質的未熟さを個別具体的に問うことにしないと、不都合があるのではないかという御意
見がありますが、性交同意年齢というのは、基本的には年齢だけで自己決定能力が低いとい
えるということを前提に考えていくべきだと思います。13歳未満から16歳未満に引き上
げるのは、法的には同じ構造の法律を作るということだと考えています。
対象年齢を16歳未満に引き上げた場合に、実質的未熟さというのを個別具体的に問うと
いうことになりますと、個別具体的な判断をしないというのが、これまでの性交同意年齢の
考え方だと思いますので、実質的要件を入れていくとなりますと、16歳未満と引き上げた
意味がほとんどなくなるのではないかと思います。16歳未満という形式的要件を作るメリ
ットというのが失われていくと考えております。
そこで、実質的要件というのは入れるべきではないと考えております。刑法179条との
関係で議論されていますけれども、刑法179条については、「現に監護する者である」と
して、主体を限定しているわけです。ほぼ行為態様、これで充足しているということで、法
の運用としては、「乗じて」に意味を持たせていないということだと思います。16歳未満
の者への性交について、「乗じて」という文言を主体の限定なく入れてしまいますと、例外
が広がりすぎるおそれがあると思います。未熟さに乗じるとか、年の上下関係に乗じると入
- 25 -
れてしまいますと、どういう場合に要件を充足するのか、非常に不明確になってくるという
ことで、問題があると思います。
それから、実質的要件を入れることの実際上の問題として、結局、未熟さということにな
ると、性的経歴を聞くことになると思います。性的に未熟だったのかどうかということで、
そこの部分が問題になり、そうすると、これまで被害者が、裁判とか警察で、いろいろ性的
経歴を聞かれていたことによる苦痛というのが、また繰り返されることになってしまうので
はないかと思います。
繰り返しになりますけれども、性交同意年齢というのは、実質的未熟さとか、そういうも
のを個別具体的に問う必要がない、問わないという前提で出来上がっていると思います。未
熟さや年の上下関係に乗じてということを、個別事案に沿って、実質的・積極的に認定する
ことが、実質的要件を入れると必要になってきますけれども、そのような形で性交同意年齢
を上げるということには反対です。
個別事案で、実質的・積極的に認定しないまま処罰できるということに、この13歳未満
の対象年齢を16歳未満に引き上げる意義があると思いますので、ここに、未熟さに乗じて
だとか、そういう形での実質的要件を入れることについては問題があると思います。
しろまる井田部会長 処罰対象の除外についての御意見はいかがですか。
しろまる小島委員 例えば、年齢の低い者同士でも、本当に相手を求めるということはあると思いま
すので、そういう場合については例外がある場合もあるかもしれません。先ほどから問題に
なっていますように、未熟さに乗じてだとか、年の上下関係に乗じてとか、そういう明確性
を欠くような例外規定を設けることには反対です。
中学生同士とか、そういう年齢が近い者での、真摯なというか、心の通い合いというのも
一切駄目というのは、やりすぎだと思います。
しろまる井田部会長 事務当局から質問はございますか。
しろまる浅沼幹事 まず、確認ですが、対象年齢を引き上げる根拠として、これまでの御議論では、
配布資料22に記載しております「1」、「2」、「3」といった能力との関係で、16歳
未満には「2」ないし「3」がないという御意見が多かったわけですけれども、小島委員と
してはそのようにお考えなのか、それとも違うのでしょうか。
しろまる小島委員 要件としては、そういう部分もあると思います。それから、政策的要素もあると
思います。一定年齢の子供たちについては、子供の保護が必要だという要素もあると思いま
す。ただ、基本的には、配布資料22に記載されている「1」から「3」までの三つの能力
を判断能力として考えると、これが16歳未満に引き上げた場合の重罰を根拠とする理由だ
と思います。ただそれだけではないということですね。
しろまる浅沼幹事 では、その上で、先ほど例外のところで、中学生同士の行為であれば処罰しなく
てもいいのではないかというような御趣旨の御発言があったのですけれども、そこは、具体
的にはどういったものを想定されていて、今、委員もお話しいただいたような判断能力との
関係では、どのようにお考えになっているのでしょうか。
しろまる小島委員 判断能力との関係ということではなくて、基本的に、中学生同士の場合には,青
少年であっても、本当に相手を求めるということはあると思うので、その部分については除
外しなければいけないと思います。その例外については、子の保護を考えて、政策的判断か
ら、そこまで処罰する必要はないという理由です。
- 26 -
しろまる吉田幹事 今の御意見を前提としたときに、処罰対象から除かれるべき場合としては、同年
代同士の行為というのがまず一つ挙がってくるのでしょうか。
しろまる小島委員 年の近い者の行為ということです。年の近い者同士ですと、ある程度対処ができ
るということがあるのではないかなと考えております。
しろまる吉田幹事 これまで出ている三つの能力という観点からしますと、例えば、行為の性的な意
味を認識する、あるいは行為の影響を理解するという能力は、相手方が誰であるかによって
差が生じるような類いのものではないような気もいたしまして、そういう観点からすると、
同年代同士で性的行為が行われた場合、お互いに相手は能力を欠いているということになる
ので、お互いに法益侵害行為をすることになるわけですけれども、その上で、なお処罰から
外す刑事政策的な理由というのは、どのような内容のものになるのでしょうか。
しろまる小島委員 先ほど申し上げましたように、例外というのは極めて限定的に解してもらいたい
と思います。近い年齢の者同士で、本当に相手を求めるということが全くないわけではない
と思いますので、刑事事件の裁判所が、そこまで刑罰の範囲に入れるべきではない、そうい
う場合が例外的にあるのではないかという趣旨です。
それから、相手という御質問がありましたけれども、これは、対象年齢の者については、
どのような相手方であるかや、どのような状況であるか、脆弱性の有無を問わず、常に判断
能力を欠くといえるのかという御質問と伺ってよろしいでしょうか。
もし、この御質問に答えるとするのであれば、脆弱性を問題にするのなら、裁判所とか捜
査機関に丸投げしないで、ある程度その脆弱性についてはきちんとした類型化を図って、明
確にしていかなければいけないのではないかと思います。
問いに合わせて答えるとすると、基本的には実質的要件を入れるのは反対なのですけれど
も、もしどうしても入れるのであれば、今、御提案になっているような「未熟さに乗じて」
というような文言では、どういう場合に当たるのか不明確なので、かなり吟味して、どうい
う場合なのかという実質的理由と類型化の中身を相当詰めていただかないと、結局、対象年
齢を16歳未満に上げたけれども、未熟さに乗じてという要件に当たるのか分からなくなっ
てしまうことを危惧します。
しろまる吉田幹事 先ほど、「未熟さに乗じて」というような要件を設けた場合の問題についての言
及があったわけですけれども、小島委員は、恐らく、「16歳未満の者に対し、その未熟さ
に乗じて性交等をした者は」というような構成要件をイメージしておられるのかなと感じま
した。今日の議論でも、その点については、幾つかの選択肢が示されていて、例えば、行為
者と対象者の年齢差という形式的な要件、その年齢差をどうするかという点については、幾
つかの数字が提案されて、なお意見が複数あるように思われますけれども、そういう形式的
な要件とする案がありました。それから、そういう形式的な要件に加えて、ドイツ刑法で使
われている能力の欠如を利用してというような、実質的な要件をプラスする案というものも
示されているところであります。どういう形で規定するにしても、元々の処罰根拠との関係
で整理する必要はあり、処罰根拠として能力の欠如ということをいうのであれば、処罰の例
外を考えるに当たっても、その能力の問題がどう整理されるのかということを考えないとい
けないのではないかと思って、御質問させていただいているわけですけれども、その辺りの
例外を設ける理由についてはいかがでしょうか。
しろまる小島委員 例外を設ける場合は、明確にしなくてはいけないと思っています。例外を限定的
- 27 -
にすると処罰範囲が広がってしまうのではないかという御意見があると思うのですけれど
も、そこは、子の保護をどこまで考えるのかという政策判断になると思います。何歳にする
のかということは議論しなければいけないと思いますけれども、明確な形で、何歳ならばど
うなるのかという、誰でも分かる形で明確な要件を設けるべきであり、そこに、実質判断を
入れるべきではないと思います。もちろん形式的要件のみとすると不都合が当然出てくる場
合があると思いますが、そこはある程度割り切ってやっていったらどうだろうかというのが
私の意見です。ただ、強制性交等に当たるような場合については、もちろんそれはそれで処
罰すべきだという前提です。いろいろ御意見はあるかもしれないけれども、例外は明確にし
ていった方が、捜査機関にも、それから、学校の先生にも説明しやすいのではないかと思い
ます。
しろまる吉田幹事 今おっしゃった割り切ってということが、処罰すべきでないものを処罰範囲に取
り込んでも仕方がないという趣旨だとすると、やはり問題が出てくると思われますので、そ
こが恐らく委員の皆様の悩みどころなのかなと感じてまいりました。
この対象年齢の引上げの問題は、16歳未満の者について、多少個人差があったり、ある
いは状況いかんによって能力の発揮のされ方が違うということを前提としつつも、年齢とい
う形式的な基準で処罰範囲を切り取ろうとすることに伴う問題にどう対処するかというの
が、最大の問題なのだろうと思っておりまして、実質的に考えると処罰範囲から除かないと
いけないケースが含まれるかもしれないという点について、更に年齢差という形式的なもの
で対応しようとすると、なお救い切れないもの、除外し切れないものが出てくるのではない
かという悩みから、実質的要件あるいは形式的要件と実質的要件のハイブリッドというよう
な御意見が出てきたのかなと思っております。この形式的要件と実質的要件のハイブリッド
という発想、御意見について、もしお考えがあればお伺いできればと思います。
しろまる小島委員 佐伯委員の御意見のように、ハイブリッドにして実質的要件も入れるという選択
肢はあり得ると思うのですけれども、形式的要件で決めていかないと、結局、子供たちが被
害者になったときに、その実質が問われていくわけです。それはやはり、被害者側としては
避けたい。どうだったのとか、あなたは未熟だったの、未熟ではないのとか、性的経験はど
のぐらいあったのかとか、捜査機関でもそういうことを聞かれてしまうので、そういう法律
を作っていいのでしょうかという感覚です。
16歳未満の被害者は、同意とか不同意とかを問わずに、保護するべきだと思います。
そこに実質的要件を入れてしまうと、形式的にそこまで上げて保護しようということにつ
いて、ブレーキになってしまうのではないかと思います。被害者である子供が、性的な事柄
について、いろいろなことを聞かれることになってしまうのではないか、それでは、16歳
未満まで思い切って上げた被害者側の気持ちというのに合わないのではないか、ということ
でございます。
しろまる保坂幹事 今日の議論で、例外というか処罰から除外するやり方として、年齢差要件で5歳
という案と、3歳という案がございまして、小島委員は、何歳ということをおっしゃらない
ので、何歳とおっしゃりたくないのかもしれませんが、非常に近い年齢というのを、議論の
中で何をイメージされているのかが分からないので、ちょっとかみ合わないところがあるな
と思いまして、先ほどの発言の中で、1歳差とか同年齢とか、非常に近いというのは、同い
年か1歳上ぐらいという、そのような趣旨でおっしゃっているのかどうか。同い年か1歳上
- 28 -
以外の、例えば2歳上、3歳上、4歳上、5歳上の場合には、実質的に処罰から除外しては
ならないという理由は何があるのかということを、教えていただければと思います。
しろまる小島委員 年齢を何歳にするかというのは、私の方では今詰まっていません。もう少し検討
してみたいと思いますが、中学生同士は除外するべきだと思います。
しろまる井田部会長 委員・幹事の方、御意見・御質問はございますか。
しろまる佐伯委員 小島委員の御懸念について、未熟さを利用するというような実質的要件を設けた
場合に、どのぐらい未熟なのかということで、性的経験などが裁判で争われるというような
ことがあってはならないというのは、私も全くそのとおりだと思います。何歳にするかはと
もかく、一定の年齢以下の者は能力がないと法律で規定すれば、それはもう能力がないとみ
なされているわけで、それ以上に本当に未熟なのかどうかというようなことを裁判で審議す
るということは、私も全く考えておりません。
私が問題にしているのは、そういう未熟さを前提とした上で、年齢差があれば、常にそれ
を利用したといえるのか、処罰に値するといえるのかということです。年齢差を補うような
関係性というのも、例外的ではあると思いますけれども、あり得るのではないかということ
で、専ら考えているのは、被害者の未熟さではなくて、行為者との関係性を念頭に置いた御
提案でございます。
しろまる橋爪委員 念のため確認したいのですけれども、小島委員の御意見は、恐らく、実質的要件
は判断基準が明確でなく、現場で混乱を生ずるおそれもあり、また、被害者に負担も掛かる
だろうから、形式的に、言わば割り切って年齢要件で一律に判断すべきということだと理解
いたしました。
そこでいう、割り切るということなのですけれども、当然個人には個体差がありますし、
関係性も多様です。そうしますと、一定の年齢差がある当事者間の性的行為であっても、も
ちろん議論があり得るところですが、処罰すべき性的行為もあれば、処罰すべきでない性的
行為もあると思います。そのときに、小島委員が割り切って一律に考えるとおっしゃる趣旨
なのですが、それは、処罰すべき行為が処罰されないことがあり得るけれども、それはやむ
を得ないというお考えなのか、逆に、本来罰すべきでない行為が規制対象に含まれても、そ
れはやむを得ないというお考えなのか、確認させていただけますと幸いです。
しろまる小島委員 年齢で切ってしまうと、罰すべき行為が除外されるということはあり得ると思い
ます。それは、取りあえずやむを得ないけれども、そういう行為については、刑法177条、
178条で、今回処罰範囲を広げて、新しい法律ができるわけですから、そこで拾ってもら
うということになるのではないかと思います。
つまり、形式的要件でやるわけだから、そこは16歳未満に引き上げて、例外を設けない
ことの方が大事だと思っているということです。
しろまる小西委員 私の意見は、先ほど申しましたように、せっかく形式的要件にするなら、そうす
るべきだというところなのですけれども、今の橋爪委員のお話に関連して、私がどのような
イメージで考えているか先にお話しします。罰する、罰しないという次元と、実際に加害行
為があった、行為がなかったという次元を考えたときに実際の一つ一つの出来事は二次元に
分布します。なるべく多くの罰すべき人を罰する、そこの象限を大きくして、罰すべきでな
い人を罰しないという象限の中に入る実際の例は0にすると考えると、連続体の中で考える
のであれば、罰されるべき人が罰されないということと、罰すべきでない人を罰しないとい
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うこと、すなわちその象限の二つの基準をどこに置くかという問題だと思うのです。そうだ
とすれば、やはり、この問題が今まで法的に扱われてこなかったために、たくさんの被害者
を出しているという問題、10代の被害者は非常に多いわけですが、その人たちに対する性
的行為が刑法で処罰対象になってこないという問題を変えるためには、今必ず基準を変える
必要があって、それが形式的な基準なのだと思います。そうだとすると、形式的な基準はな
るべく大きくした方がいい。
しかし、
佐伯委員がおっしゃるように、
それでも起こる例外が救えないと困るというのは、
議論としては分かるところで、では、なるべく形式的な基準を大きくしながら、最終的に残
る少数の処罰すべきでない例外をどうやって省くかということをおっしゃっているのだと理
解しました。そうだとしたら、具体的にどういう文言にすればいいと思っていらっしゃるの
かを聞きたいと思います。
しろまる佐伯委員 それは非常に難しくて、こういう場合、こういう場合、こういう場合というよう
に書くのは難しいので、そこは、「乗じて」とか、あるいは「利用して」という文言にした
上で、その趣旨はこういう意味であると説明するということでいくしかないのかなと思って
おります。
また、今回、対象年齢を13歳未満から引き上げるというときに、実質的要件が入ると意
味がなくなってしまうのではないかという御懸念もあるかと思いますが、それについても、
改正した上で、実際の運用を見るということも考えられるのではないかと思っております。
お答えとしては、なかなかうまい言葉はないというのが答えです。
しろまる井田部会長 非常に大ざっぱに言うと、年齢差が2歳や3歳ぐらいだと、やはり相当重みの
ある実質的要件を加えないと怖い。他方で、小西委員がおっしゃるように、5歳差だと、実
質的要件がなくてもいいか、
あるいは本当に薄い実質的要件だけを安全弁として残すかとか、
そういう選択肢になるのではないかというのが御質問の趣旨だとお聞きしたのですが、そう
いう理解でよろしいですか。
しろまる小西委員 そういう理解をしました。
そうだとしたら、その薄い要件で、今、まだ社会に無理解があるところに、この法律を出
すとき、そういう薄いことだけを扱っているのだということをはっきりさせるためには、ど
ういう条文がいいのかというのが、お伺いしたいところです。
しろまる井田部会長 ほかに御意見のある委員・幹事の方はいらっしゃいますか。
しろまる長谷川幹事 私の意見は、従前から変わらず、例外は設けないという考え方です。この議論
の流れで、それが維持されていくかというところはあるのですが、やはり被害者側の立場と
しては、例外を設けることにちゅうちょがあるということは、この会議の中でも言っておか
ないといけないかと思って、意見を述べさせていただきます。
まず、対象年齢を引き上げる根拠が配布資料22に記載されている「1」から「3」まで
の能力であるということは、共通認識だと思います。この議論は、現行法上13歳以上の者
についてはその者に対する性的行為は同意があれば他の条文で犯罪となる場合は別として犯
罪にならないという意味で同意に法的意味を持たせているところ、それでよいのか、という
ことが出発点で、対象者の同意に法的意味を持たすことができるには、「1」から「3」ま
での能力が必要で、これらを全部、又は部分的に欠く者の同意に法的意味を持たすことはで
きないという帰結が共有されていると認識しています。
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そこで、例外を年齢差等で設けるかどうかということについて考えますと、先ほども述べ
ましたように、「1」や「2」の能力は、相手方や状況によって変わりませんので、年齢が
近い者同士であっても、「1」や「2」の能力が不十分ならば、その同意に意味を持たせる
ことはできない、「1」や「2」の能力が欠ける、又は不足する以上は、理論的なことを考
えると処罰すべきで、例外は設けるべきでないということになると思います。
その上で、例外の議論がされていますので、そこについて言及をすると、法的根拠の話か
らすれば、例外を設けるというのは、一定の年齢の者については処罰を差し控えようという
刑事政策的な理由にならざるを得ないと思っています。法益侵害があるけれども、刑事政策
的な理由で一定程度処罰を差し控えようということであれば、その差し控える範囲は最小限
にすべきだと思っていますので、5歳差では広すぎるだろうと思います。被害者支援の関係
者でも議論をしたのですが、もし処罰を差し控えるとしても、せいぜい同年齢同士や同じ学
年にある者同士の場合であろうという意見がありました。
いろいろな事件を見ていましても、
学校という社会の中で先輩には従うものだとか、そういう文化が醸成されていることに鑑み
ると、やはり一学年違いというのは、なかなか大きいのではないかという考えです。
一定程度、政策的な理由で例外を設けるとして、形式的な要件のほかに実質的な要件を加
えるかどうかという点についても、意見を述べたいと思います。
そもそも、刑事政策的に処罰を差し控えましょうということなので、形式的な要件で十分
だと考えています。実質的要件を入れるべきではないという点については、先ほど小島委員
からもお話があったように、実質的要件を入れると、その曖昧さゆえに、対象年齢を引き上
げた意味が失われる危険性があると考えるからです。未成熟だとか、そういった抽象的な要
件になることと、未成熟を利用してとか認識してとすると、行為者の認識が問題となるので
すが、未成熟などの、ここで問題となる要件というのは非常に評価的なもので、何を認識し
ていれば行為者が未成熟を利用したとか、乗じたと評価できるのかというのが曖昧ですし、
内心的なものを立証しなければいけないということになると、結局立証不可能というか、そ
もそも類型的に立証が不可能なことを要件とすることによって、その要件が満たされる可能
性が少なくなり、処罰の範囲が不当に狭くなることになってしまって、そもそもの出発点か
ら外れるのではないかと思います。
それから、前回会議で、刑事責任能力についてどう考えるかということをお話ししたので
すけれども、私の理解が誤っていたところがあったので、修正を含めてお話をしたいと思い
ます。
前回会議のときには、刑事責任年齢14歳というのは是非弁別能力の問題で、それと性的
同意で問題となっている能力とは質が違うし方向性も違うので、これとの整合性を考える必
要はないということを述べたと思います。それはそれで当てはまるのですが、もう一つ、刑
事責任能力との関係で言わなければいけないのは、元々刑事責任年齢が14歳となっている
のは、14歳未満の者であれば、いわゆる刑事責任能力、つまり、是非弁別能力及び行為制
御能力が欠けるからとされているというよりは、14歳未満の者に対しては、その特有の精
神状況と可塑性に鑑み、
刑事処罰という形で対処すべきではないという判断があるからです。
処罰の感銘力的な点に関する14歳未満の子供たちの精神的な特徴とともに、この年齢の子
供たちには可塑性があるということから、14歳までは刑事処罰しないという刑事政策的な
趣旨で、この14歳という年齢が決められているということが、コンメンタールや刑法総則
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の教科書などにも書かれています。そうすると、この性交同意年齢を考えるに当たって、刑
事責任能力との整合性を図ることは、理論的には必要ないということになりますので、前回
会議で御説明した内容よりも、本日の説明の方が、刑事責任年齢14歳というところに合わ
せる必要性があるのではないかという疑問に対しては、答えになると思います。
しろまる井田部会長 事務当局から、質問はありますか。
しろまる浅沼幹事 二点お伺いいたします。
長谷川幹事の御意見は、対象年齢を16歳未満に引き上げた上で例外は作るべきではない
という前提で、ただ、例外を設ける御意見がいろいろ出ているので、仮に言うとすると、刑
事政策的な観点から、非常に少ない年齢差にするべきであるということだと理解しました。
その御意見の前提となる、例外を作るべきではないというところなのですけれども、そこ
について、実態面からすると、現状として、やはり14歳や15歳の者たちが性的行為を行
っているということは、実際あるわけです。そこを例外なく全て処罰対象としていくという
ことの、ある意味弊害といいますか、いわゆる家裁送致にはなりますので、その点はどうお
考えになっているのかというのが、まず一点目の質問です。
しろまる長谷川幹事 前にも述べたと思うのですが、14歳や15歳で性的行為を行っている子供た
ちの背景には、家庭に問題を抱えていたりする者も多いので、そういった子供たちを家庭裁
判所に送致するということを、マイナス面として捉えるだけではなく、そこで適切な関与が
なされて、家庭裁判所の判断で保護処分が不要だということであれば、保護処分はなしとい
うことになりますし、必要であれば、保護処分なり逆送なりになったりするわけですから、
家庭裁判所の適切な関与にそこを委ねるということを考えています。
しろまる浅沼幹事 今の点に関して、
確かに家庭に問題がある者などもいるとは思うのですけれども、
一方で、対象年齢の引上げは、強制わいせつ罪も含めてということだと思いますので、キス
などの行為を、特に家庭に問題がないような者同士がしているという場合でも、やはり処罰
対象とし、家裁送致するのが適当だということになるのでしょうか。
しろまる長谷川幹事 例示にキスを挙げられたのは、キスならば大したことないではないかというよ
うな考えを前提とすると思われますが、性的な行為というのは連続性があるものなので、キ
スだったらどうなのか、性交だったらどうなのかで区別しきれるものではないと考えていま
す。ただ、14歳同士というところの議論は、同年齢同士、同学年同士ぐらいは、刑事政策
的に例外を設けるのはあり得るかなという、それも仕方がないかなということは考えていま
すので、その答えで代えさせていただいてよろしいでしょうか。
しろまる浅沼幹事 もう一点だけ、あらかじめお聞きしようと思っていた二点目ですけれども、長谷
川幹事の例外なしというお考えですと、14歳同士や15歳同士といった、配布資料22に
記載されている能力の少なくとも一部についての能力がない者同士の性的行為について、両
者ともに処罰対象となり、家庭裁判所に送られるという理屈になりますけれども、そのよう
な判断能力に欠ける者を処罰対象とすることに関しては、適切だというお考えになるのです
か。
しろまる長谷川幹事 判断能力がないというのは、性的同意能力のお話だと思うのですけれども、性
的同意能力というのは、自分が性的行為をするかどうかを考える能力で、相手に対して、す
るべきか、するべきではないかということとは違います。自分への影響とか、そういう話で
すので、刑事責任年齢の文脈で家庭裁判所に送られることになるのは、理論的におかしいこ
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とではないと思いますし、その上で、その子たちの性的な行為をどう処分するのかというこ
とは、家庭裁判所が考えることになると思います。
しろまる保坂幹事 一点お伺いしたいのですが、対象となる年齢を引き上げる理由として、配布資料
22に記載されている「1」から「3」までの能力が欠けるのだということを前提として、
かつ、処罰からおよそ除外しないのだとすると、16歳未満は、どんな場合でも全て「1」
から「3」までの能力はないのだと言い切ることになるかと思うのですが、これは、「3」
の能力、状況に応じて対処する能力というのを考えたときに、状況や相手にかかわらず対処
する能力がないという方が、むしろ変な感じがするわけですが、対処する能力というのは、
状況や相手に応じて対処する能力であって、それが、誰かれ構わずないと言い切るのかとい
う、そういう質問なのですけれども。
しろまる長谷川幹事 配布資料22に記載されている「3」の「働きかけに的確に対処する能力」の
捉え方だと思います。今の議論では、性的行為をするかどうかの判断能力を三段階に分析し
ているのですが、性的な意味が分かって、自分に与える影響を理解をした上で対処するとい
うのは、性的行為をするかどうかだけではなくて、どういう性的行為をするかということも
含めての対処だと思います。性的行為をするかどうかの同意の対象にどのような性的行為を
するか、どのような方法で行うかは入ってくると思います。
「3」の能力について、年齢が上の者から言われて断ることができるかどうかということ
が、この能力の問題として出てきていますけれども、その子の同意に意味を持たせることが
できるのかというところからひもときますと、「的確に対処する能力」というところには、
例えば、
性的行為をするとしても、
避妊はしてくださいということをきちんと言えるだとか、
恋愛で流されそうになって、お互いに大好きで、何かそういう性的行為をしたいのだけれど
も、それでも、すべきでないと考えているときに断れるだろうかとかいうことも含まれてお
り、「2」の能力があって、性的行為が自己に及ぼす影響を理解できたとしても、流されて
しまうのでは、やはり対処する能力に欠けるということになると思います。なので、皆様が
おっしゃっているのは、年齢が近ければ強制的要素がないから、対処能力も変わってくるだ
ろうというお考えだと思うのですが、年齢が近ければ近いで、流されたりとか、別の的確に
対処をできない要因も出てきたりするわけで、やはり状況に応じて、的確な対処が違ってく
るわけですので、対処する能力があったりなかったりということではないと考えます。
しろまる保坂幹事 もう一点なのですけれども、実質的要件に関して、16歳未満で年齢差に加えて
実質的要件とした場合の問題点として、未成熟を利用とか、未熟さを利用とか、あるいは未
熟さに乗じということになると、その未熟さだとか未成熟かどうかというところで、認定が
不安定になるのではないかと、
こういう御趣旨の御発言があったと理解したのですけれども、
監護者性交も、監護者であることによる影響力に乗じてという要件になっていて、その影響
力というのは、監護者と被監護者の関係があれば、通常はあるだろうという前提に立ってい
るわけで、いちいち影響力がどの程度あったのか、どのような影響力だったのかということ
が、別に審理されるものではないと理解されているのだと思うのです。そうすると、16歳
未満については、判断能力がないのだということが法的に言えるのであれば、それは、すな
わち、未熟だったり未成熟だったりするわけで、先ほどの佐伯委員がおっしゃったのもそう
いう趣旨だと理解したのですが、その行為者の側が、未熟さ、あるいは未成熟であることを
利用していない場合もあるだろうという、その場合を除外するということだとすると、その
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未成熟さとか未熟さ自体が、何か問題になるわけではないのではないかと思ったのですが、
いかがでしょうか。
しろまる長谷川幹事 16歳未満に対する行為は原則処罰され、それの例外として、年齢差内にある
場合は除き、
未熟さを利用していない場合も除くという場合、
「未熟さを利用したかどうか」
の判断の対象は何になるのでしょうか。
しろまる保坂幹事 先ほどの佐伯委員がおっしゃった意見というのは、形式的要件としての年齢差に
加えて、実質的要件を満たす場合に可罰的にするということですので、その場合の形式的要
件が、年齢差があって、かつ、16歳未満というのは判断能力がないのだということが決ま
っていれば、加えてそれを前提として利用したかどうかだけが問題であって、その未成熟さ
だとか未熟さ自体が、何か争いの対象になるわけではないという理解も可能ではないか。な
ぜかというと、監護者であることによる影響力というのが、その影響力がいちいち争われて
いないだろうと思われることからすると、要は、利用したと言えるかどうかという、あるい
は乗じたと言えるかどうかということの問題かなと理解をしたのですけれども、その点の質
問です。
しろまる長谷川幹事 先ほど小島委員がおっしゃったのと同じお答えになるのですけれども、監護者
性交等罪の場合は、どういう関係性の人かが決まっていて、そうであれば影響力があるとい
うことが想定されているわけです。監護関係にあれば、もう乗じたと言えるだろうというこ
とで運用されているのですが、対象年齢に実質的要件を入れると、行為者の範囲が定まって
いないので、本人の未熟さを含めた実質的な判断になってしまう危険があるのではないかと
いうのが、私の意見です。だから、そういった危険のない、すごくしっかりした文言ででき
れば、もしかしたら懸念はないのかもしれないですけれども、まだ懸念を感じているという
ことです。具体的な文言も出ていませんし、やはり、実質的な、評価的な要素については、
慎重に考えざるを得ないと思っています。
しろまる井田部会長 委員・幹事の先生方、何か御質問はございますか。
しろまる佐伯委員 私の意見ですけれども、16歳未満の者について、「行為が自己に及ぼす影響を
理解する能力」、あるいは「的確に対処する能力」が欠けているという判断をする以上は、
自分に及ぼす影響を理解できないのと同様に、相手に及ぼす影響もやはり理解できないとい
うことになるのではないかと思います。したがって、年齢差要件を設けるかどうかにかかわ
らず、16歳未満の者について能力がないという判断をするならば、行為の主体から16歳
未満の者は除く必要があるように思います。
なお、そのように考えると、強制性交等についても処罰できなくなるのではないかという
疑問が生じるかもしれませんが、暴行・脅迫を用いて相手と性交等をする行為が、相手の性
的な自由を侵害するということは、
16歳未満であっても当然理解できると思います。
暴行・
脅迫的な要素がなくても侵害性があるということを理解する能力があるということと、暴
行・脅迫を用いた場合に侵害性があるということを理解する能力があるということとは違い
ますので、私のように考えたからといって、16歳未満の者について強制性交等罪で処罰で
きなくなるということはないと考えております。
しろまる井田部会長 ほかに御意見・御質問はございますか。
しろまる宮田委員 今までの議論を伺っていると、強制性交等と同じ懲役5年以上の法定刑とするこ
とを前提に議論されてきたかと思います。
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先ほどの佐伯委員の御意見の中に、最高裁判例は、青少年保護育成条例違反の非常に軽い
処罰のものであっても、慎重な判断をしているという御指摘がありました。重い罪ならばな
おさら慎重さが必要です。
現在の強制性交等罪は、する行為だけではなく、させる行為も処罰の対象としています。
先ほど金杉幹事が例として述べたような、15歳の少年と18歳の女性がアルバイト先で知
り合って、それで性交したとき、これも犯罪かという質問に対して、それは犯罪ですという
齋藤委員のお答えがありましたが、仮に犯罪とするにしても、果たしてそれを懲役5年以上
で処罰するのが妥当なのかという問題は残ると思います。
また、真摯な恋愛だけを除外すれば足りるとも思えません。このような例は非常に不適当
かもしれませんけれども、中学校を卒業して、15歳で就職した男子が、職場で先輩から、
お前はよく働くようになったな、御褒美だといって、本当は20歳でなければ飲めない酒を
飲まされることは、しばしば見られるところです。また、同じように、お前も大人になった
のだからと、性風俗に連れて行かれる例もないわけではありません。
そうすると、そうやって連れて行った先輩たちは強制性交等罪の教唆や共謀共同正犯で、
まだ中学校を卒業したばかりの15歳だと分かって相手をした女性は、強制性交等罪になっ
てしまうのでしょうか。
もちろん、今言ったような例が、大人の行為として適当かといえば、そうではないでしょ
う。性をお金で買うことを、15歳の子に教えてはいけないとはいえると思います。しかし
ながら、15歳の男子が嫌がることなく、積極的にそのような所に行ったときに、関与した
大人たちが刑法の強制性交等罪として処罰の対象になることが、果たして妥当なのでしょう
か。児童福祉法あるいは青少年保護育成条例であれば、罰金刑もあります。
今までの議論を聞いていると、妊娠、出産、あるいは望まぬ妊娠をしてしまったときの掻
把なども含めて、非常にリスキーな立場にある女性が被害者であることを前提とした議論が
中心だったように思います。
もちろん男性が性的侵襲を受ける被害もあり、
被害は甚大です。
しかし、若い男性の参加意思の下で性交をさせる行為についてまで、強制性交等罪の条文が
適用になるという前提の下で、議論が続いていていいのか疑問に思います。
少なくとも16歳未満の者が積極的に性交に参加した場合について、処罰の例外規定を設
けることは必要だと思いますし、もしも例外にしないのであれば、刑罰について、このよう
な場合についてまで、懲役5年以上という重い刑罰で対処することは問題だと思います。
毎回、刑罰についての検討なく議論をしていることを、非常にむなしいと考えています。
しろまる山本委員 この次は条文案が出てくると思いますので、お伝えしておきたいと思います。私
も、形式的要件で、処罰の例外については年齢差を設けて区切るのがいいのではないかと思
います。これに更に実質的要件を設けた場合、この実質的要件が何になるかが分からないの
で、どのような形で出てくるのかということに対して不安があるのと、それがどのように運
用されるのかは、この部会で決まらないと、現場の判断にばらつきが生じて、とても混乱す
ると思います。
あと、二つだけ伝えておきたいのですが、やはり16歳未満の人が対等性のある真の同意
のある性的行為をできるのかといえば、包括的な性教育がなく、若年者がコンドームやピル
を常時入手する手段がない、諸外国では無料で配っているところもありますけれども、そう
いう環境整備がない時点で、安全に、お互いに配慮した性的行為ができるのかというのは、
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非常に疑問があります。脆弱性のある子供や20代の若年者たちがどれだけ搾取されている
のかという被害実態を鑑みて、子供や若年者を保護する議論と若年者の性的自由、性的自己
決定権をどう守るかという議論が両立するように、法整備をしてほしいということを望みま
す。
未来を担う子供たちは、社会にとって最も価値がある、しかし、最も脆弱な存在です。今
まで話されているように、低年齢であるほど、様々な能力が未発達で脆弱になり、そこに年
齢差を利用して、大人の性的な略奪者や、18歳や19歳の者でも、SNSなどを通して年
下の子供たちにアクセスをして、性的加害や搾取を行うということが、今の社会で頻繁に起
こっているし、これからますます起こっていくのではないかと思います。被害を受けた子供
たちは、直ちに身体的・心理的に傷害を負い、成長後も良好な人間関係を築けず、虐待の再
生産すら行われる可能性もあることを考えて、子供の保護と、その人たちの自由な意思決定
が守られるような条文を作ってもらえればと思います。
しろまる橋爪委員 先ほど議論のありました、処罰の例外について、これを形式的要件で定めるか、
実質的要件で定めるかという点について、簡単に意見を申し上げます。
この問題は、形式的要件の内容によって、かなり結論が変わってくるように思います。つ
まり、形式的要件だけで十分な処罰の限定が図れるならば、実質的要件を更に重ねて限定す
る必然性は乏しいように思います。例えば、極論になりますが、10歳とか8歳とか、大幅
な年齢差を設けるならば、形式的要件だけで十分であって、あえて実質的要件を設ける必要
はないという理解もあり得るところです。
他方、仮に、例えば、2歳や3歳のように、小さい幅の年齢差要件を設ける場合には、高
校1年生と高校3年生の間の性行為のように、少なくとも懲役5年以上の法定刑で罰すべき
ではない性行為までが含まれますので、年齢差や関係性を濫用する性行為といえるかという
観点から、実質的要件を更に重ねて、処罰範囲を限定することが必要になってくると思いま
す。このような意味で、十分な幅を設けた形式的要件一本でいくのか、小さい幅の形式的要
件に加えて実質的要件を併用するのかという観点から検討することが、今後の議論において
有益であるように思います。
もう一点申し上げますが、先ほどの宮田委員の問題意識ともある意味通じるところがある
のかもしれませんが、例えば、年少者の圧倒的なイニシアチブで、年長者がやむなく性交に
応ずるケースがあり得ます。例えば、15歳の少年が、19歳の少年に対して執拗に性交を
迫った結果、初めは嫌がっていた19歳の方もやむなく、困惑しつつも最終的には性交に応
ずるケースが考えられます。
もちろん、こういった場合についても、19歳の者は応じるべきではないということが出
発点になると思うのですが、仮にやむなく応じた場合に、全て例外なく強制性交等罪で処罰
すべきかということが、更に検討課題になるように思います。すなわち、何らかの形で関係
性を利用する行為がある場合に限って処罰をするのか、それともおよそ一定の年齢差があれ
ば、年長者からの何らかの働きかけやイニシアチブがない場合でも常に犯罪を構成するのか
という観点からも、更に検討する必要があるように考えます。
しろまる井田部会長 よろしいでしょうか。
本日の議論はここまでとさせていただきたいと思います。
本日は、事務当局が試案を作成するに当たっての理論的・法制的な課題、具体的には、対
象年齢を引き上げる根拠はどこに求めるべきか、対象年齢を引き上げた場合、一律に処罰す
- 36 -
ることとするのか、あるいは実質的要件を設けて処罰することにするのか、あるいは形式的
要件と実質的要件を併用するハイブリッド方式とするのか、さらに、対象年齢を引き上げつ
つ、処罰対象を除外・限定するときには、いかにそれを整合的に理解すればよいのか、そし
て、処罰対象を除外・限定することとした場合に、その根拠を踏まえて、具体的にどういう
要件とすることが適当か、年齢差で考えるか、実質的要件で考えるか、それらを併用するか、
こういった点について掘り下げた議論を行い、委員・幹事の皆様から様々な御意見を頂いた
ところであります。いずれの御意見も、事務当局による試案の作成、さらには、当部会にお
ける今後の検討と意見の集約に大いに資するものであり、本日このような議論の機会を設け
たことは、大変有益かつ有意義であったと考えております。
今後の進め方ですけれども、事務当局に、本日の議論の内容も踏まえた上で、諮問事項に
ついての試案を作成してもらうこととし、次回以降は、それに基づいて議論を行うこととし
たいと思います。
そのような形で、次回以降進めるということでよろしいでしょうか。
(一同異議なし)
しろまる井田部会長 ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。
次回の予定については、事務当局の準備の状況を踏まえつつ、なるべく早く日程を確定さ
せ、事務当局を通じて皆様にお知らせすることとさせていただきます。
本日予定していた議事につきましては、これで終了いたしました。
本日の会議の議事につきましては、特に公開に適さない内容に当たるものはなかったと思
われますので、発言者名を明らかにした議事録を作成して公開することとしたいと思います
が、そのような取扱いでよろしいでしょうか。
(一同異議なし)
しろまる井田部会長 ありがとうございます。そのようにさせていただきたいと思います。
本日は、これにて閉会といたします。どうもありがとうございました。
-了-

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