1普通養子制度の利用実態について
法務省民事局付 寺下 征司
法務省民事局調査員 大和田 準
第1 はじめに
法務省民事局は、令和3年10月に、全国の法務局及び地方法務局の協力を得
て、普通養子制度の実態調査(以下「本調査」という。
)を行った。
普通養子制度の実態把握は、
民法等の見直しに向けた検討のための基礎資料を
収集することを目的とするものであるが、
本調査は、
限定的なサンプルについて、
短期間で限られた資源を動員して実施したものである。したがって、本調査によ
って得られた情報は必ずしも十分でない点もあるが、
普通養子縁組の実態につい
ては、近年調査がされておらず、本調査の結果も大まかな実情を示すものとして
価値があるものであることから、
本稿ではその結果の概要を報告するものである。
第2 本調査の実施に至る経緯
1 普通養子縁組の実態把握の必要性
現在、法制審議会家族法制部会において、未成年者を養子とする養子縁組(以
下、
「未成年養子縁組」という。
)を中心とした普通養子制度の在り方が検討され
ている(注1、2)。この点については、同部会の部会資料1においても、
「未成年養子制度の趣旨
に立ち返りつつ、
養子縁組後の未成年者の実態をも考慮した検討が必要であると
の指摘」が紹介されているところであり、実態に即して、基礎概念から検討する
ことが重要とされている。もっとも、養子縁組の実態については、後記2の昭和
57年の調査以降は調査されておらず、現在では、戸籍統計によって養子縁組及
び離縁に関する届出数が把握できるのみで、
未成年養子縁組については毎年の成
立件数も分からないというのが実情である(注3)。 2
このような状況を踏まえると、普通養子制度について、まずは客観的な利用実
態について調査を行う必要がある。
(注1)家族法制部会は、令和3年2月10日の諮問第113号(
「父母の離婚に伴う子の養育へ
の深刻な影響や子の養育の在り方の多様化等の社会情勢に鑑み、子の利益の確保等の観点か
ら、離婚及びこれに関連する制度に関する規定等を見直す必要があると思われるので、その
要綱を示されたい。」)についての調査審議を行うために設置されたものである。
父母の離婚後の子の養育については、いわゆる「連れ子養子」が重要な意味を有すること
があるとの指摘があるが、この問題については、養子制度の在り方に立ち返って検討を行う
必要があるとも考えられる。そこで、同部会では、未成年養子縁組を中心としつつ、普通養
子制度の在り方がテーマとして取り上げられている。
(注2)令和4年4月1日に施行された改正民法第4条により、成年年齢は20歳から18歳に
引き下げられたが、本調査は前記改正民法施行前である令和3年10月時点で提出された縁
組届及び離縁届のうち法務局に保管されるものを対象としたため、本調査では20歳未満の
者を養子とする養子縁組を「未成年養子縁組」と呼称する。
(注3)未成年養子縁組には原則として家庭裁判所の許可を要することとされているところ(民
法第798条)、司法統計によれば、
「養子をするについての許可」
の令和2年の認容件数は、
606件である。もっとも、この件数は後見人と被後見人との間の縁組についての許可(民
法第794条)を含むものであり、また、民法第798条ただし書のとおり、自己又は配偶
者の直系卑属を養子にする場合には家庭裁判所の許可を要しないことから(むしろ、未成年
養子縁組については、配偶者の直系卑属を養子とする縁組が多くを占めるとの指摘があり、
このことは本調査でも一定程度裏付けられている。)、上記認容件数は、未成年養子縁組の総
数を示すものではない。
2 既存の調査結果
養子制度の利用実態については、
昭和57年に戸籍届書等に基づく調査が実施
されている(以下、
「昭和57年調査」という。詳細は、田中康久=三浦正晴「我 3が国における養子縁組及び離縁の実態」
(民事月報38巻6号3ページ)
参照。)。
昭和57年調査では、
昭和57年10月中に自治体で受理された養子縁組及び離
縁の戸籍届出事件
(送付事件を除く。)について、
養子縁組に関して合計2120
件(サンプル調査)
、離縁について1338件(全数調査)を対象として、概ね次
の事項について調査された。
〔養子縁組〕
しろまる 養子の年齢、性別
しろまる 養親と養子の従前の身分関係
しろまる 配偶者の親との縁組である場合の、養子、その配偶者の身分関係、きょう
だいの有無、縁組と養子の婚姻の先後関係
しろまる 家庭裁判所の縁組許可の有無
しろまる 代諾縁組か否か、代諾者
しろまる 養親の年齢、婚姻の有無、婚姻年数
しろまる 養親子間の年齢差
しろまる 渉外養子縁組か否か
〔離縁〕
しろまる 養子の年齢、性別
しろまる 渉外養子縁組か否か
しろまる 夫婦共同縁組か否か
しろまる 離縁の形態(方法)
しろまる 未成年の養子の離縁についての離縁協議者
しろまる 養子縁組の継続期間
上記解説記事は、昭和57年調査の結果について、1未成年養子縁組及び未成
年の養子の離縁の大部分が、連れ子養子の縁組及び離縁であること、2連れ子養
子の離縁は、成人の養子の離縁の中でも大きな割合を占めること、3成人の養子 4の離縁の中では、婿養子的なものの離縁が非常に大きな割合を占めており、そこ
から、
4成人養子縁組のうちに婿養子的なものが大きな割合を占めていると推定
されることを指摘している。
第3 本調査の方法
1 対象
令和3年10月に提出された縁組届及び離縁届のうち、
全国の法務局及び地方
法務局(以下「法務局」という。
)に保管されるもの(全数調査)。縁組届 1601通
離縁届 709通
2 方法
法務省民事局等において、
立案における必要性、
事務負担等の観点を考慮して、
調査票(エクセルファイル)の書式を作成した。
各法務局等において、市区町村から届書を受領した時に、点検と併せて、届書
及び添付資料の写しを作成するとともに、調査票に必要事項を入力した。
法務省民事局において、
法務局から送付を受けた上記写し及び調査票に基づき、
データの集計及び分析を行った。
第4 普通養子縁組に関する調査結果
普通養子縁組に関する調査結果は、
以下のとおりである。
なお、
以下の結果は、
養子単位で集計しており、養親が夫婦の場合も1件と数えている(後記2(1)のと
おり、夫婦共同縁組が296件あることから、縁組数は1897組である。)。
1 養子について
(1) 性別
養子の性別は、男性が789件、女性が812件と概ね半数ずつであった。 5この点について、養子が成年に達しているか否かでクロス分析をすると、未
成年の養子については男性426件、女性が415件となっており、養子の性
別別の未成年が占める割合は男性が約54%、
女性が約51%と男性の方が若
干未成年の占める割合が高いものの、
養子が成年に達しているか否かによって
は有意に異なる傾向までは見られなかった。
(2) 年齢
成年養子・未成年養子の別及び養子の年齢は以下のとおりであり、約53%
を未成年養子が占めていた。
養子の年齢は、平均約23.57歳、中央値16.25歳、最高値85歳、
最小値0歳だった。
表1:成年養子・未成年養子の別【縁組】
成年養子 760 件
未成年養子
(15歳未満)
841 件
(738 件)
合計 1601 件
表2:養子の年齢【縁組】
平均 23.57 歳
中央値 16.25 歳
最高値 85 歳
最小値 0 歳
(3) 代諾者
養子が15歳未満の縁組について、代諾者は、以下のとおりであった。 6なお、民法第797条第2項の同意がされている縁組はなかった。
表3:代諾者【縁組】
実父母 20 件
実父・養母 1 件
実父 41 件
実母 662 件
養母 5 件
特別代理人 1 件
(4) 従前の続柄
養子と実親との続柄は、以下のとおりである。
表4:養子の実親との続柄【縁組】
長男 603 件
二男 146 件
三男 22 件
四男 6 件
五男 2 件
男(他の続柄不明) 1 件
長女 644 件
二女 137 件
三女 26 件
四女 7 件
五女 0 件
不明 7 件 72 養親について
(1) 性別及び単独縁組・夫婦共同縁組の別
養父子間の縁組が1199件、養母子間の縁組は698件であり、養親の性
別は、男性の方が多かった。
養親が単独で養子縁組をした者が1305件で、
夫婦が養親となる共同縁組
が296件であった。
(2) 年齢・養子との年齢差
養父養母の年齢及び平均年齢差は以下のとおりであり、養母の方が、年齢が
高く、年齢差も大きい傾向がみられた。
表5:養父母の年齢【縁組】
平均 中央値 最高 最小
養父
(1199 件) 48.06 歳 42 歳 100 歳 19 歳
養母(698 件) 65.46 歳 74 歳 99 歳 18 歳
表6:養親子間の年齢差【縁組】
平均 中央値 最高 最小
養父子の年齢差 30.27 歳差 28 歳差 91 歳差 1 歳差
養母子の年齢差 38.08 歳差 28.5 歳差 89 歳差 1 歳差
3 縁組について
(1) 渉外性の有無
日本人同士の縁組が1585件であり、
養親又は養子の少なくとも一方が外
国人の縁組は16件だった。そのうちの14件は養子のみが外国人、1件は養 8親のみが外国人、1件は養親子双方が外国人の縁組だった。
(2) 養親子の住所の一致
縁組後に、養親子が共同生活を送っているか、特に、未成年養子縁組につい
て、養親が養子を養育しているかを推認するための事情として、養親と養子の
住所地が一致しているかを調査した。
その結果は以下のとおりであり、養子縁組後に、養親が養子を実際に養育し
ているとはいえない事例も一定数存在している可能性が示唆された。
表7:養親子の住所の一致【縁組】
一致 不一致
成年養子 229 件 531 件
未成年養子
(15歳未満)
538 件
(476 件)
303 件
(262 件)
合計 767 件 834 件
(3) 許可審判
許可審判があった事例は19件であった。
他方で、未成年養子について許可審判がない事例は826件であり、うち配
偶者の直系卑属を養子とするものが683件、
自己の直系卑属を養子とするも
のが40件、自己及び配偶者の直系卑属を養子とするものが85件、理由不明
のものが18件であった。
第5 離縁に関する調査結果
普通養子縁組の離縁に関する調査結果は、以下のとおりである。なお、以下で
は、養子単位で集計しており、養父母と1通の届で離縁をした場合も1件と数え 9ている。届出数としては合計で709件であるが、後記2(1)のとおり、養父母と
同時に離縁するものが68件あることから、
離縁された縁組数は777組である。
1 養子について
(1) 性別
男性が375件、女性が334件と男性の方がやや多かった。
(2) 年齢
成年の養子についての離縁が375件、
未成年の養子についての離縁が33
4件であった。
334件のうち213件は15歳未満の養子についてされたも
のであった。
養子の年齢は、平均約25.95歳、中央値20歳、最高値87歳、最小値
0歳であった。
表8:養子の年齢【離縁】
平均 25.95 歳
中央値 20 歳
最高値 87 歳
最小値 0 歳
(3) 15歳未満の養子についてなされた離縁
養子が15歳未満の離縁については、協議離縁204件、調停離縁4件、審
判離縁2件、不明3件であった。
調停離縁・審判離縁・不明の場合を除く法定代理人となるべき者(民法第8
11条第2項)は、母親160件、養母28件、父親13件、実父母1件、養
父母1件、未成年後見人及び母親1件であった。 102 養親について
(1) 性別
養父のみとの離縁が545件、養母のみとの離縁が96件、養父母双方との
共同離縁が68件であった。
(2) 年齢・養子との年齢差
養父養母の年齢及び平均年齢差は以下のとおりであり、縁組時と同様に、養
母の方が年齢が高く、年齢差も大きい傾向がみられた。
なお、死後離縁については、離縁時点において養親が生存していた場合の年
齢を計上している点に留意されたい。
表9:養父母の年齢【離縁】
平均 中央値 最高値 最小値
養父の年齢 50.30 歳 47 歳 130 歳 22 歳
養母の年齢 69.12 歳 74 歳 129 歳 23 歳
表10:養親子間の年齢差【離縁】
平均 中央値 最高値 最小値
養父子の年齢差 26.62 歳差 26.5 歳差 75 歳差 1 歳差
養母子の年齢差 27.74 歳差 26 歳差 83 歳差 2 歳差
3 離縁について
(1) 方式
離縁の方式は、以下のとおりであった。
なお、
「協議離縁・死後離縁」とは、養父母の一方が死亡している場合に、生 11存している方と協議離縁をし、死亡している方と死後離縁をしたものである。
表11:離縁の方式
協議離縁 625 件
調停 21 件
審判 13 件
和解 3 件
判決 9 件
死後離縁 29 件
協議離縁・死後離縁 9 件
(2) 離縁後の養子の戸籍
離縁後の養子の戸籍については、以下のとおりであった。
表12:離縁後の養子の戸籍
新しい戸籍をつくる 174 件
もとの戸籍にもどる 307 件
養子の戸籍に変動がない 219 件
戸籍なし(外国籍) 6 件
不明 3 件
以 上

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