北海道の少年院と少年鑑別所のニュースレター らぽーと
2022.8
No.101
特 集
いま非行少年に何が起きているのか
ーワルや不良ではない少年たちー
地 域 援 助
ー少年鑑別所ができることー ―まず三谷さんのこれまでのお仕事について教えてください。私は、心理職として少年鑑別所や刑務所で二十五年以上働いてきました。そうした中で本当にたくさんの非行少年や元非行少年と接し、面接や心理検査をしてきました。その少年がなぜ非行をするようになったかを分析し、立ち直りのための指針を示すこと、これを鑑別と呼び、私が担ってきた主な仕事です。―最近、突然包丁を持って同級生や見知らぬ人を刺したという少年の事件の報道をよく見聞きする気がするのですが、非行少年は凶悪化しているのですか?殺人や殺人未遂の少年は、今も昔も一定数いて、急に増えたり減ったりしているということはありません。ただ、最近の非行少年たちが、以前と比べて大きく変化していることは確かだと思います。―「変化した」と感じられている点について、教えてください。私が仕事を始めたころ多かった非行化のパターンは、図1のとおりです。能力的な制約や不遇な家庭環境など、何らかの理由で生きにくさを感じている少年が身近にいる不良仲間に接近して悪さを学習していくというパターンです。仲間たちも本人と似たような境遇や立場であることが多く、お互いに共鳴・共感し合います。非行を分析してみると、孤立感や寂しさの紛らわし、仲間内での見栄といった意味合いが多く、非行の多くは集団によるものでした。こうした少年たちは見た目が派手で、いかにも「ワル」「不良」という言葉がしっくりくるような身なりでした。周囲に示す態度も、反発、反抗といったもので、ひとことで表現すれば、「反社会」という言葉が似合うパターンでした。一方、近ごろ目立つ非行化のパターンは、それとは異なり、図2のようになります。皆さんも感じられると思いますが最近は街中で暴走族を見かけることがめっきりなくなりました。いかにも不良少年といった集団が繁華街などでたむろしている様子もあまり見かけません。不良
学校での刺殺事件など時おり重大な事件も起きている少年非行。
一方で最近 暴走族を見かけないと思いませんか?
時代とともに変化し続ける非行少年たち。
いまの非行少年の特徴や過去との違いについて、釧路少年鑑別支
所長であり心理職である、三谷さんに聞きました。特集ワルや不良ではない少年たち能力面での制約
対人関係での不器用さ
不遇な家庭環境など
何らかの生きにくさを
抱えている少年
図1 昔からある非行化のパターン(反社会)
不良仲間
不良文化
・孤立感紛らわし
・気分発散
・非行手口の学習
・集団の勢い
集団での
・窃盗
・傷害(リンチ)
・暴走
見た目も「ワル」「不良」
能力面での制約
対人関係での不器用さ
不遇な家庭環境など
何らかの生きにくさを
抱えている少年
図2 最近目立つ非行化のパターン(非社会))
・親や施設職員等
身近な人への暴力
・突発的に包丁を
・性非行
(注記)単独での非行
見た目は「不良」ではなく「普通」
不良仲間は
いない・・・
・孤立強め被害感
・気分発散できず
にため込む
・一人でどうしよう
もないまま極端化、、 集団が激減し、不良文化が衰退したのです。何らかの理由で生きにくさを感じている少年は、昔と変わらずにいるのですが、近くに仲間がいないので、家庭にも社会にも居場所を見いだせないまま孤立し、寂しさやいらだちを募らせるという状態に陥りやすいのです。そして、比較的強気に出ることができる親や身近な相手に暴力を振るったり、まれにですが突発的に包丁を持ち出して刺すといった極端な非行に走る場合もあります。反社会的なパターンの少年と異なり、派手な格好をしているわけではなく、見た目は普通です。不適応、孤立といった言葉が合致する、言うなれば「非社会」というパターンです。―「非行少年」と聞いて何となくイメージする「ワル」「不良」といった少年とは、かなり違う印象ですね。そうした少年は増加しているのですか?非行少年全体の人数は、近年、減少する傾向が続いています(コラム参照)。周りに不良仲間がいないだけに、非行の手口を学習する場がありません。このため、不適応や孤立を強めながらも、逮捕されるような非行まではしないでいる少年が多くいるのだと思います。また、これは児童精神科医療や児童福祉、教育といった分野での支援が、充実化したこととも関係があるのかもしれません。実際、当所に入所する少年でも、医療や福祉等の支援を受けていた者が増えており、非行分野の対象者と、医療や福祉分野の対象者の境い目があいまいになってきていると感じます。―そうした昔とは変化した非行少年に対応していく上で、どのようなことがポイントになるでしょうか?非社会的な非行少年が目立つとはいえ反社会的な非行少年たちが全くいなくなったわけではありません。非行をする原因や抱えている問題性が、以前よりも多様化し、大きく異なるのだと捉えるべきでしょう。だからこそ、再非行防止を考えるためには、まずはその少年がなぜ非行をし、どのような問題を抱えているのかをつかむ必要があります。それが、私たちの仕事である鑑別です。鑑別の目的は、1少年がなぜ非行をしたのか原因や問題点を明確にすること、2どのような処分や指導をすれば再非行を防げるか処遇指針を示すことという、2点です。質的に大きく変化した非行少年たちの立ち直りのため、まず鑑別を行うことが大切です。―鑑別の対象は、少年鑑別所に入所した少年だけなのですか?家庭や学校で、子どもや生徒の問題行動に苦慮しているご家族や先生もいると思うのですが...先ほどお話ししたとおり、逮捕されるような非行まではしないけれども、本人や周りが困っているというケースは多々あります。そこで、私たちは、ご家族や学校の先生など、地域の皆さんからの相談も受け付けています。これを「地域援助」と呼んでいます。私のような心理職が対応することもありますし、その後法務教官が個別指導に当たることもできます。近年、地域援助の相談件数が大幅に増加しています。子どもや生徒の問題行動に困り、どうしてよいか悩んでいるご家族や先生方が多数いらっしゃるのだろうと感じています。まずはお電話でご相談ください。*地域援助については、次のページで詳しく紹介しています。グラフは、昭和24年から平成までの全国の少年鑑別所の入所者数の推移です。長期的には増えたり減ったりの波を繰り返していることが見て取れます。それぞれの時代で増えた原因などは様々に分析されていますが長期的に変動し続ける明確な原因は分かっていません。近年では、平成十年から十五年ころをピークとした第4の波があり、現在は減少傾向が続いていますコラム
非行少年の
数的な変化
どのような処分や指導をすれば
再非行を防げるか処遇指針を示す
少年がなぜ非行をしたのか
原因や問題点を明確にする鑑別の目的特集 いま非行少年に何が起きているのか―ワルや不良ではない少年たち―、、。 地 域 援 助
―少年鑑別所ができること―
法務技官
心理学の専門家です。心理
検査を活用して分析するこ
とや人の話をじっくり聞く
ことが得意。非行・犯罪の
背景にある問題点や対処策
を考えます。
スタッフ紹介
分析・カウンセリング
法務教官
教育の専門家です。分かり
やすく教えることや人前で
話をすることが得意。少年
鑑別所や少年院、刑務所で
指導してきた経験をいかし
て助言や指導をします。地域に開かれた少年鑑別所を目指して「少年鑑別所」と聞いて、どんなイメージがわくでしょうか。あまり聞きなれず、なじみがない場所かもしれません。北海道には、札幌、函館、釧路、旭川に少年鑑別所があり、それぞれ「法務少年支援センター」が併設されています。そこでは、「地域援助」として地域の方々や教育・医療・福祉など各機関からのご相談に応じており、どなたでも利用することができます。今回は「地域援助」でどんなことができるのかをご紹介します。特 集面談や検査を通して問題への理解を深める法務技官がご本人や保護者の方と面談を行い、なぜその問題行動が起きているのか、どのように解決したら良いかアセスメントしています。知能検査や性格検査などの心理検査を実施することもあります。また、必要に応じて定期的に通っていただき、カウンセリングをすることもあります小さなお子さんの場合は、遊びを通して関わることもあるので、プレイルームがあります。
(写真はイメージです)。 特集 地域援助―少年鑑別所ができること―
指導・教育知識や経験を伝えて加害と被害を防止する地域の方々に向けて講演や研修も行っています。「最近の犯罪の動向を教えてほしい「生徒に犯罪の危険性を伝えてほしい」といった依頼のほか「相談の聞き方やカウンセリングの方法を教えてほしいなど、さまざまな依頼に対応しています。中でも好評なのは、中学生や高校生を対象とした薬物乱用防止教室です。法務教官が学校を訪問し、薬物の問題を抱える非行少年や受刑者と多く関わってきた経験をいかして、生徒たちに薬物を使用しない生活の大切さなどを伝えています。
講演・研修
事例検討会支援者の方々と共に効果的な支援を考える学校や福祉施設、病院などで行われる事例検討会に呼んでいただくことが多くあります。法務技官や法務教官が参加し、支援者の方々と共に対応策や効果的な支援のあり方を検討したり、非行・犯罪について一般的な助言をしたりしています。必要に応じて、事例検討会に先立ち、ご本人や保護者の方と面談をして、問題についてアセスメントをした上で、結果を検討会でお伝えすることもできます。学校や施設での支援にご活用ください。個別指導を通して非行を防ぐ方法を学ぶ法務技官によるアセスメントの結果も踏まえて、法務教官が、ご本人に対して個別で指導や教育をしています。教材として、法務省が作成したワークブックを使用しています。現在は、暴力、性、窃盗、薬物、交友、ルールの6種類があり、1回につき約1時間、全3回程度の指導を行っています。一人一人の特徴や問題性を踏まえて、オリジナルの教材を作成することもあります。」」 相談料はどのくらいですか?講演に来てもらう場合の交通費は必要ですか?よくいただくご質問に
お答えしますQAA遠方に住んでいるのですが自宅に来てもらえますか?QA土日・祝日や夜間でも依頼できますか?Q相談は無料です。心理検査を実施した場合も、費用はかかりません。講演や事例検討会など、ご依頼を受けて他機関に訪問する場合も、交通費を含めて費用はかかりません。A相談は平日のみ受けています土日・祝日、夜間はお受けできません。講演の実施日については個々に検討しますので、ご相談ください。子どもを少年鑑別所に入れてもらえませんか?Q
<北海道内の法務少年支援センター>
1法務少年支援センターさっぽろ
〒007-0802 札幌市東区東苗穂2条1丁目1-25 電話:011-787-0111
2法務少年支援センターはこだて
〒042-0944 函館市金堀町6-15 電話:0138-30-7877
3法務少年支援センターくしろ
〒085-0834 釧路市弥生1-5-22 電話:0154-41-5877
4旭川法務少年支援センター
〒078-8231 旭川市豊岡1条1-3-24 電話:0166-31-5511
平日9:00〜17:00(12:15〜13:00を除く)少年鑑別所は、裁判所などの決定に基づいて入所する施設です。ご本人やご家族の意向、少年鑑別所の判断によって入所することはできません。発達障害について診断してもらえますか?QA当センターは病院ではないため、診断・投薬など医療的な支援はできません。性格検査や知能検査などを通して性格や能力の傾向・特徴を調べることはできます。どのセンターに相談しても大丈夫ですか?QA大人も相談できますか?QAまずは、ご自宅から近いセンターにご相談ください。どのセンターに相談したらよいか分からない場合は、代表番号「0570‐085‐085」にお電話いただければ、お住まいの地域のセンターにつながります。はい。年齢制限はありませんので、どなたでもご利用いただけます。法務少年支援センター面談の場合は、基本的に、当センターへお越しいただくようお願いします。ただし、場合によっては、公的機関の一室などでも、面談できます。札幌のセンターのみ、ご自宅のパソコンやタブレットを使って、オンラインで面談することもできます。詳しくは相談員にお尋ねください。
特集 地域援助―少年鑑別所ができること―。、
「法務省人間科学系インターンシップ」は、
「法務省インターンシップ」とは異なりますので
応募の際はご注意願います。
法務省
矯正局
法務省公式
YouTube
札幌矯正管区
フロントページ
道内の全ての少年院と少年鑑別所では、
学生を対象としたインターンシップを行っています。
実施時期は原則として夏季休暇又は春季休暇の期間の三日間程度実施します。
実際に行われている教育場面の見学、
模擬面接実習、
職員との意見交換など、
普段の学生生活
では体験できない様々な事柄を経験することができます。
研 修 内 容
1日目 オリエンテーション
少年法等の講義
院内見学等
2日目 職業指導
調査支援業務(講義)
生活指導
運動
寮内勤務等
3日目 座談会・アンケート等
研 修 内 容
1日目 オリエンテーション
少年矯正に係る講義
所内見学等
2日目 集団心理検査受検・結果処理
個別心理検査受検(体験)
鑑別面接陪席(模擬)
鑑別面接実施(模擬)
鑑別方針等作成(模擬)等
3日目 座談会・アンケート等
(注記)業務説明会(新型コロナウイルス感染症に伴う代替措置)含む。
過去の応募大学
札幌大学
札幌学院大学
札幌国際大学
函館大学
北翔大学
北星学園大学
北海学園大学
北海道医療大学
北海道科学大学
北海道教育大学
北海道大学
京都女子大学
高知大学
静岡福祉大学
駿河台大学
中央大学
筑波大学
早稲田大学
インターンシップ情報
実施内容
少年院 少年鑑別所
法務省人間科学系インターンシップ
札幌少年鑑別所
011-784-7441
函館少年鑑別支所
0138-51-5652
旭川少年鑑別所
0166-31-5468
紫明女子学院
0123-22-5141
北海少年院
0123-23-3147
桜が見頃となった5月2日、当院では
お花見会を実施しました。お花見会で
は、院生によるハンドベルでの演奏や
花見に関する作成物の発表を行った
後、春の訪れを感じながら敷地内の散
策を楽しみました。気持ちの良い晴天
のもと、桜や春の花々を眺めながら散
策したことで、院生たちは普段の生活
から少し離れて、リフレッシュすることが
できたようでした。また、新型コロナウイ
ルス感染症対策を十分に取りながら、
桜の下でお菓子を食べました。院生た
ちが美味しそうに頬張り見せた笑顔
は、まるで満開の桜のようでした。
本年4月17日、函館市一斉清掃日で
ある春のクリーングリーン作戦に、宿舎居
住の職員とその家族、計11名が町内会
の一員として参加しました。清掃活動を
通じて、地域住民と方々と触れ合うこと
ができるだけでなく、職員家族同士、親
子、夫婦で共同作業をすることで、家庭
円満、円滑な職員交流にも資するイベ
ントになっています。地域、施設周辺を
きれいにすることで、気持ちのよい日曜
日の朝のスタートを切ることができまし
た。これからも地域住民の方々と手を取
り合い、明るく住みやすい町作りに貢献し
ていきたいと思います。
本年6月、千歳市内にある公園にお
いて在院者2名と職員で、社会貢献活
動としてゴミ拾いを実施しました。当日
はあいにくの曇り空でしたが、約2時間
の作業中は晴れ間もあり、心地よい風
を感じながら作業に取り組み、多くのゴ
ミを拾いました。ゴミの多さに在社会時
の自身の行動を振り返り、迷惑をかけて
いたことに対する謝罪の気持ちも持ちな
がら活動をしました。時折笑顔を見せな
がら、社会の一員として貢献することで
得る満足感や喜びを感じる機会となりま
した。これからも、反省だけではなく、未
来への希望を胸に励み続けます。
相談室に小さな本棚を置きました。
子どもの問題行動についてつづった本
や、「心って何だろう?」というテーマの
コミック、発達障害のあるお子さんが生
まれてから就職するまでを描いたコミッ
クエッセイ、小さなお子さんにルールを
伝える絵本など、子どもから大人まで
読みやすい本を並べました。これから
も少しずつ本を増やしていく予定です。
ご相談にいらした際は、お子さんの面
談が終わるのをお待ちいただく間など、
ご自由にお読みください。
当所では、平成29年度から、旭川市
から約60km離れた士別市教育委員
会からの依頼に基づき、就学支援事業
への援助として、次年度に小学1年生
になる児童の特別支援教育等の必要
性を判定する資料とするため、知能検
査等を実施しています。心理技官が
WISC-IVを実施している間に、同行し
てきた保護者を対象に、法務教官が日
本版Vineland-II適応行動尺度を用い
た半構造化面接を実施しています。こ
の取組は、当所が実施している地域援
助の一つの特徴にもなっていることか
ら、職員間で研修や訓練を重ね、スキ
ル向上のために日々研さんを積んでい
ます。
釧路少年鑑別支所
0154-41-5808
在所者の健全な育成のための支援
の一環として、「ガーデニング」を実施し
ました。これは例年6月頃に実施してい
るものであり、毎年、この行事のため
に、更生保護女性会から花を寄贈して
いただいています。
土をいじり、きれいな花を植えていく
作業は、それ自体が癒しになります。
少年は、花の並べ方にこだわりながら、
楽しそうに取り組んでいました。少年の
未来が、多くの花が咲き誇るような明る
いものになることを願うばかりです。
法務省:http://www/moj.go.jp/
編集・発行
札幌矯正管区
第三部
発行責任者
第三部長 小松 洋輔
発行日
2022年8月
札幌市東区東苗穂
1-2-5-5
電話 011(783)5063
FAX 011(780)2207
北海道の少年院と少年鑑別所のニュースレター
RAPPORT(らぽーと) 101号
施 設 だ よ り

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