複数の者が所有する私道の工事
において必要な所有者の同意に関する
研究報告書
〜所有者不明私道への対応ガイドライン〜
(第2版)
令和4年6月
共有私道の保存・管理等に関する事例研究会 1第2版 はじめに
所有者不明土地は、
民間取引や公共事業の用地取得など、
様々な場面で土地の利活
用を阻害しており、その解決は喫緊の課題である。
市街地においてしばしば見られる、複数の者が共有する私道(共有私道)について
も、補修工事等を行う場合に、民法の共有物の保存・管理等の解釈が必ずしも明確で
はないため、事実上、共有者全員の同意を得る運用がされており、その結果、共有者
の所在を把握することが困難な事案において、
必要な補修工事等の実施に支障が生じ
ているとの指摘がされてきた。
本研究会は、平成 29 年度に、複数の者が共有し、又は相互に持ち合う私道の工事
の同意の取付け等に関して、
共有者等の所在が不明であるために支障が生じている具
体的な事例を、
自治体やライフライン事業者からのヒアリング等を通じて収集・整理
し、
検討を行った。
その結果を踏まえ、
平成 30 年1月に、
ケーススタディの形式で、
共有者等の一部が所在不明な場合における工事の可否を判断する指針を示すガイド
ライン(以下「旧ガイドライン」という。
)をとりまとめたところである。
その後、
政府においては、
関係省庁の連携の下に所有者不明土地対策が推進されて
きた。令和3年には、所有者不明土地の発生予防と管理の円滑化の両面から、総合的
に民事基本法制を見直す法改正が行われた。
これにより、
旧ガイドラインが基礎とし
ていた民法等のルールが大きく改められ、
共有者等の所在が不明である場合にも対応
可能な様々な新制度が導入されることとなった。
そこで、本研究会は、改正民法が令和5年4月1日から施行されることを踏まえ、
ガイドラインをアップデートし、
各種新制度の内容を詳しく紹介するとともに、
共有
私道の工事に関する支障事例における具体的な適用関係を示すこととした。
また、改正民法の施行前における対処法も併せて示すこととし、
施行の前後で対応に遺漏がな
いよう努めた。
加えて、
実務上問題となることが多いと指摘される事例を新たに追加
したほか、共有私道の管理に関連する所有者不明土地対策を幅広く紹介している。
このガイドラインが、私道を複数名で共有する方々をはじめ、行政、司法、ライフ
ライン事業等の関係者に広く参照されることを期待している。
令和4年6月
共有私道の保存・管理等に関する事例研究会座長 松 尾 弘 2目 次
第1章 共有私道とその実態 ................................................. 7
1 共有私道の意義 ....................................................... 7
(1) 私道とは........................................................... 7
(2) 共有私道の意義 ..................................................... 7
2 実態調査(平成29年度) ............................................. 8
(1) 地方公共団体へのアンケート調査 ..................................... 8
(2) ライフライン事業者からのヒアリング ................................. 8
(3) 具体的支障について ................................................ 10
(4) 不動産登記簿における相続登記未了土地調査について................... 10
コラム:民事基本法制の見直し(令和3年) ................................ 13
第2章 共有私道の諸形態と民事法制 ........................................ 16
1 民法上の共有関係にある私道(共同所有型私道) ........................ 16
(1) 私道の所有形態 .................................................... 16
(2) 共有者間内部の法律関係 ............................................ 16
(3) 共同所有型私道の使用・変更・管理に関するルール..................... 17
(4) 所在等不明共有者がいる場合における共同所有型私道の変更・管理....... 20
(5) 賛否不明共有者がいる場合における共同所有型私道の管理............... 23
(6) 遺産共有の場合について ............................................ 25
2 民法上の共有関係にはない私道(相互持合型私道) ...................... 26
(1) 私道の所有形態 .................................................... 26
(2) 法律関係.......................................................... 27
(3) 通行地役権の内容及び効力 .......................................... 28
3 団地の法律関係 ...................................................... 29
(1) 共同所有型私道と団地 .............................................. 29
(2) 団地における法律関係と共同所有型私道の工事への活用................. 30
(3) 団地管理組合の集会の手続 .......................................... 31
4 財産管理制度等 ...................................................... 35
(1) 不在者財産管理制度 ................................................ 35
(2) 相続財産管理制度(改正民法における相続財産清算制度)............... 39
コラム:改正民法1 ..................................................... 45
(3) 会社法等に基づく清算制度 .......................................... 47 3(4) 所有者不明土地管理制度 ............................................ 47
コラム:改正民法2 ..................................................... 52
コラム:特措法 ......................................................... 53
コラム:改正民法3 ..................................................... 55
コラム:改正民法4 ..................................................... 57
コラム:改正民法5 ..................................................... 58
第3章 ケーススタディ.................................................... 60
1 私道の舗装に関する事例.............................................. 61
事例1 舗装の陥没事例(共同所有型) .................................... 62
事例2 舗装の陥没事例(相互持合型) .................................... 64
事例3 全面再舗装事例(共同所有型) .................................... 66
事例4 全面再舗装事例(相互持合型) .................................... 68
事例5 新規舗装の事例(共同所有型) .................................... 71
事例6 新規舗装の事例(相互持合型) .................................... 74
事例7 側溝再設置の事例................................................ 76
事例8 側溝再設置の事例 〜L形側溝付近のみ再舗装(相互持合型).......... 78
事例9 側溝再設置の事例〜路面全体を再舗装(共同所有型) ................ 81
事例10 側溝再設置の事例〜路面全体を再舗装(相互持合型) .............. 83
コラム ................................................................ 85
2 ライフラインに関する事例 ............................................ 86
【上水道関係】.......................................................... 86
(1) 水道事業.......................................................... 86
(2) 水道に関する導管の種類 ............................................ 86
(3) 水道施設設置工事及び給水装置工事 .................................. 86
(4) 給水義務等........................................................ 87
(5) 配水管及び給水管の所有者と土地の所有者との関係 .................... 87
コラム:上水道に関する通知・条例 ....................................... 88
【下水道関係】.......................................................... 90
(1) 下水道事業........................................................ 90
(2) 公共下水道に関する導管の種類等 .................................... 90
(3) 公共下水管の管理等................................................ 91
(4) 排水設備の設置、管理等 ............................................ 91
(5) 公共下水管の所有者と土地の所有者との関係 .......................... 92 4コラム:共有私道における排水設備の円滑な設置等の促進に関する事例勉強会 . 93
【ガス事業及び導管関係】 ................................................ 95
(1) ガス事業について .................................................. 95
(2) 一般ガス導管事業者の義務 .......................................... 95
(3) 導管等の所有関係 .................................................. 96
(4) 導管を私道下に設置する場合の法律関係 .............................. 96
【電気事業及び電柱関係】 ................................................ 98
(1) 電気事業について .................................................. 98
(2) 一般送配電事業者等の義務 .......................................... 98
(3) 電柱等を私道に設置する場合の法律関係 .............................. 99
事例11 給水管の新設事例 〜給水管を配水管に接続(共同所有型)......... 103
事例12 給水管の新設事例 〜給水管を配水管に接続(相互持合型)......... 105
事例13 給水管の新設事例 〜給水管を共有給水管に接続(共同所有型)..... 108
事例14 給水管の新設事例 〜給水管を共有給水管に接続(相互持合型)..... 111
事例15 給水管の補修事例(共同所有型) ............................... 114
事例16 給水管の補修事例(相互持合型) ............................... 116
事例17 配水管の取替事例(共同所有型) ............................... 119
事例18 配水管の取替事例(相互持合型) ............................... 121
事例19 私有排水管の新設事例(共同所有型) ........................... 124
事例20 私有排水管の新設事例(相互持合型) ........................... 126
事例21 共同排水管等の新設事例(共同所有型) ......................... 129
事例22 共同排水管等の新設事例(相互持合型) ......................... 131
事例23 公共下水管の新設事例(共同所有型) ........................... 134
事例24 公共下水管の新設事例(相互持合型) ........................... 137
事例25 ガス管の新設事例(共同所有型) ............................... 140
事例26 ガス管の補修事例(共同所有型) ............................... 143
事例27 電柱の新設事例 ............................................... 145
事例28 電柱の取替事例(同一場所) ................................... 148
事例29 電柱の取替事例(隣接場所) ................................... 151
3 その他............................................................. 153
事例30 階段の新設事例 ............................................... 154
事例31 階段の拡幅事例 ............................................... 157
事例32 階段への手すり設置事例 ....................................... 160 5事例33 ゴミボックスの新設事例 ....................................... 162
事例34 樹木の伐採事例(共同所有型) ................................. 165
事例35 樹木の伐採事例(相互持合型) ................................. 168
事例36 宅地からせり出している枝の伐採事例(共同所有型) ............. 170
事例37 宅地からせり出している枝の伐採事例(相互持合型) ............. 172 6凡例
法令名の記載については、以下の例による。
改正法 民法等の一部を改正する法律(令和
3年法律第 24 号)
民法 改正法による改正のない民法(明治
29 年法律第 89 号)の規定及び、改
正に関係なく規定を示す場合
改正前民法 改正法による改正前の民法
改正民法 改正法による改正後の民法
非訟事件手続法 改正法による改正のない非訟事件手
続法(平成 23 年法律第 51 号)の規
定及び、改正に関係なく規定を示す
場合
改正前非訟事件手続法 改正法による改正前の非訟事件手続法改正非訟事件手続法 改正法による改正後の非訟事件手続法特措法 所有者不明土地の利用の円滑化等に
関する特別措置法(平成 30 年法律
第 49 号)
特措法改正法 所有者不明土地の利用の円滑化等に
関する特別措置法の一部を改正する
法律(令和4年法律第 38 号)
改正特措法 特措法改正法による改正後の特措法 7第1章 共有私道とその実態
1 共有私道の意義
(1) 私道とは
私道については、法律上明確な定義がないが、大別すると、1公道の対立概念とし
ての私道という意義と、2私人が所有する道路という意義とがある。1については、
道路法上の道路を公道とすれば、高速自動車国道、一般国道、都道府県道及び市町村
道以外の道が私道となり、国や地方公共団体が所有する道路法上の道路以外の道も私
道に含まれることになる。また、2については、私人が所有しているが、道路法等の
法令に基づいて国や地方公共団体により管理されている道も私道に含まれることにな
る。
このように、12のいずれの定義をとるにせよ、私道が、国や地方公共団体の管理
に服する場合があり得るが、こうした公的な管理がされる場合には、民法等の解釈を
待つまでもなく、補修工事等が可能であり、問題は少ないといえる。
また、宅地の敷地内にある通路も、私道の一種ととらえることが可能であるが、一
般の用に供されていない通路の管理は、宅地そのものの管理の問題といえる。これに
対し、一般の用に供されている通路の管理については、その公共性に鑑み、地方公共
団体が助成制度を設けるなどしていることとの関係で、特有の複雑な問題を生じさせ
るといえる。
そこで、本研究においては、主として「国や地方公共団体以外の者が所有する、一
般の用に供されている通路であって、法令上、国や地方公共団体が管理することとさ
れていないもの」を対象として調査研究を行った。
(2) 共有私道の意義
市街地における私道の実際を見ると、複数の者が私道を所有する場合には、1私道
全体を複数の者が所有し、民法第 249 条以下の共有(共同所有)の規定が適用される
ものと、2私道が複数の筆から成っており、隣接宅地の所有者等が、私道の各筆をそ
れぞれ所有し、相互に利用させ合うものがある。
地方公共団体やライフライン事業者からのヒアリング調査結果によれば、私道の管
理に当たっては、これらのいずれについても、民法等の解釈が問題となり得る。
そこで、
以下では、
上記1を「共同所有型私道」
と、
上記2を「相互持合型私道」と
呼んで区別し、これらを併せて「共有私道」と呼んで検討を行うこととする。 82 実態調査(平成29年度)
(1) 地方公共団体へのアンケート調査
所有者不明土地問題は、東日本大震災の復興の過程で顕在化し、対策が進められ
てきたが、
特に市街地においては、
共有私道の工事に当たり、
所在不明などの理由で
共有者全員からの工事の承諾を得られず、私道の補修工事を実施できないなどの支
障が生じていると指摘されている。
もっとも、私道については、建築基準法における接道義務に関連して一定の法律
上の規律がされているものの、断片的なものにとどまり、その実態は必ずしも明ら
かでない。
そこで、共有私道の実態を把握するため、関係機関の協力を得て、地方公共団体
に対し、私道所有者の一部が所在不明であることに起因する共有私道の管理等に係
る支障事例につきアンケート調査を実施することとした。
アンケート結果は、
後記
【表1】
のとおりであり、
舗装新設、
老朽舗装、
景観舗装、
階段、側溝、ゴミ集積所、水道管、下水管の整備等につき支障事例があることが判明
した。とりわけ、舗装新設、老朽舗装、側溝、水道管、下水道管の各類型の支障事例
が多数存在することも明らかになった。
このアンケート調査の回答を踏まえて、地方公共団体から追加でヒアリングを行
い、具体的事情の把握に努めた。
(2) ライフライン事業者からのヒアリング
また、共有私道には電気事業者の電柱やガス事業者のガス管等のライフライン設
備が設置されており、これらの設置及びメンテナンスの際に、共有者の一部が所在
不明である私道につき工事の支障が生じている可能性があることから、電気、ガス
の事業者等からヒアリングを実施し、具体的な支障事例を収集した。 9【表1】
共有私道の管理等に係る支障事例の調査について
しろまる 127の自治体(東京都特別区(23)、政令指定都市(20)、その他の市
(84))を対象に共有私道の管理等に係る支障事例のアンケート調査を実
施。
しろまる 各自治体は,私道整備等のための助成制度を運用するに当たり、共有
私道の所有者からの同意が得られず,助成実施に支障が生じた事例や
住民から相談等を受けた事例があれば,下記1〜9の各区分ごとに,
しろまる」(該当事例あり)ないし「にじゅうまる」(該当事例多数あり)で回答。
【アンケート調査結果の概要】
( )内は「にじゅうまる」(該当事例多数あり)の数
1舗装新設 2老朽補修 3景観舗装 4階段 5側溝 ➅ゴミ集積所 ➆水道管 ➇下水管 9その他
東京都特別区 15(2) 16(2) 4(0) 5(0) 11(1) 3(1) 1(0) 14(2) 0
政令指定都市 12(4) 7(3) 0 0 6(1) 3(0) 11(2) 16(4) 2(0)
その他の市 14(2) 13(2) 1(1) 1(0) 9(2) 1(0) 18(1) 21(1) 4(0)
合計 41(8) 36(7) 5(1) 6(0) 26(4) 7(1) 30(3) 51(7) 6(0) 10(3) 具体的支障について
以上の結果、次のような支障が生じていることが判明した。
ア 多くの地方公共団体が私道整備に助成金を支出しているところ、民法の共有の
規律が具体的にどのように適用されるかが必ずしも明らかでないこともあり、助
成の条件として、
原則、
私道所有者全員の工事の同意を要求していることが多い。
そのため、私道共有者の一部の所在が不明である場合には、私道整備助成の申請
を却下せざるを得ない。ところが、助成金なしでは、私道所有者の費用負担が重
く、必要な工事を実施するのが困難となる場合が多い。
イ 私道は、道路として一般の交通の用に供され、公共性を有していることから、
路面が陥没するなど通行に著しい支障が生じた場合には、私道所有者全員の同意
が得られないときであっても、私道の安全確保のため、地方公共団体の負担で簡
易な工事を実施したり、陥没部分に鉄板を乗せたりするなどの応急補修を行うこ
ともある。しかし、私道は所有者が管理すべき土地であり、どのような場合に応
急補修を行ってもよいか、判断に躊躇を覚える。
ウ ライフライン事業者は、共有私道に設備を設置したり、私道内の設備を補修し
たりする場合には、
共有私道の工事が民法上の共有物の保存、
管理に関する事項、
変更ないし処分のいずれに該当するかが必ずしも判然としないこともあり、私道
所有者全員からの同意がなければ工事を実施しないのが原則である。そのため、
私道所有者の一部が所在不明であれば、設備維持のために必要な工事を実施でき
ず、住民の安全性の観点から望ましくない状態が生じている場合がある。
エ 地方公共団体が私道を工事するに当たり、私道所有者の一部が所在不明である
場合に、地方公共団体の職員が本来業務の合間に所在不明者を探索しなければな
らず、探索に伴う多大な金銭的・人的・時間的コストが生じている場合がある。
(4) 不動産登記簿における相続登記未了土地調査について
不動産登記簿における相続登記未了土地に関する調査の結果は、後記【表2】の
とおりである。
法務省においては、平成 29 年6月、全国 10 か所の地区(調査対象数約 10 万筆)
で相続登記が未了となっているおそれのある土地の調査を実施し、その結果を公表
している。これによると、大都市においては、1最後の登記から 90 年以上経過して
いるものが 0.4%、2最後の登記から 70 年以上経過しているものが 1.1%、3最後
の登記から 50 年以上経過しているものが 6.6%であった。また、中小都市・中山間
地域においては、1最後の登記から 90 年以上経過しているものが 7.0%、2最後の
登記から 70 年以上経過しているものが 12.0%、3最後の登記から 50 年以上経過し 11ているものが 26.6%であった。
今般、本研究会の実施に当たり、上記調査の対象土地のうち、地目が道路である
ものを改めて集計したところ、大都市においては、1最後の登記から 90 年以上経過
しているものが 0.8%、2最後の登記から 70 年以上経過しているものが 2.1%、3
最後の登記から 50 年以上経過しているものが 5.5%であった。これに対し、中小都
市・中山間地域における道路については、1最後の登記から 90 年以上経過している
ものが 9.8%、2最後の登記から 70 年以上経過しているものが 15.7%、3最後の登
記から 50 年以上経過しているものが 31.2%であった。
以上によると、特に、中小都市・中山間地域の私道においては、相続登記が未了
となっているおそれのある土地の割合が高く、遺産共有状態となっている場合も多
いものと推測できる。
こうした私道について、工事等を実施する際には、共有物の保存・管理等に関す
る解釈を明確化することが極めて重要であることが明らかになった。 12【表2】
不動産登記簿における
相続登記未了土地調査について
1:大都市0.1%0.3%5.0%94.6%
宅地
2.0% 1.6%
11.2%
85.2%
田・畑1.1%2.4% 5.4%91.2%山林
2:中小都市・中山間地域
3.1% 2.6%4.8%89.4%
宅地
3.8% 5.4%
14.2%
76.5%
田・畑 9.4%5.4%17.6%
67.7%
山林
主な地目別の所有権の個数((注記))
50年以上
:5.4%
50年以上
:14.8%
50年以上
:8.9%
50年以上
:10.5%
50年以上
:23.4%
50年以上
:32.4%
主な地目別の所有権の個数((注記))
(注記)主な地目別の所有権の個数を掲げたものであり,調査対象とした所有権の個数(総数)とは異なる。
注:円グラフに示す各割合は,端数切り捨て等により,合計した際に100%とならない場合がある。
宅地 田・畑 山林 道路
最後の登記から90年以上経過 17 42 20 9
同70年以上90年未満経過 55 34 43 16
同50年以上70年未満経過 878 237 98 40
同50年未満 16,607 1,804 1,662 1,128
計 17,557 2,117 1,823 1,193
0.8% 1.3%3.4%94.6%
道路 最後の登記から90
年以上経過
同70年以上90年
未満経過
同50年以上70年
未満経過
同50年未満
50年以上
:5.5%
宅地 田・畑 山林 道路
最後の登記から90年以上経過 540 961 3,326 245
同70年以上90年未満経過 465 1,374 1,898 146
同50年以上70年未満経過 852 3,583 6,234 386
同50年未満 15,731 19,296 23,973 1,712
計 17,588 25,214 35,431 2,4899.8%5.9%
15.5%
68.8%
道路
最後の登記から
90年以上経過
同70年以上90
年未満経過
同50年以上70
年未満経過
同50年未満
50年以上
:31.2% 13コラム:民事基本法制の見直し(令和3年)
しろまる 所有者不明土地問題
近年、土地の所有者が死亡しても、相続登記がされずに放置されているケースが
数多く存在していることなどを原因として、所有者不明土地問題が生じている。そ
して、所有者が不明なことによる弊害は土地だけでなく建物についても指摘がされ
ているところである。
所有者不明土地とは、1不動産登記簿等により所有者が直ちに判明しない土地、
2所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地をいう。
所有者不明土地においては、登記簿を見ても、不動産の所有者やその所在を把握
することができず、不動産取引を円滑に行うことが難しくなるほか、まちづくりの
ための公共事業や、災害時の復旧復興が進まないといった問題が生ずる。また、所
有者不明土地は、適切な管理がされていないことが多く、周辺の生活環境の悪化に
もつながっているとの指摘もされている。
所有者不明土地問題は、政府全体で取り組むべき喫緊の課題であると位置付けら
れ、平成 29 年以降、いわゆる骨太の方針を始め政府の基本方針で毎年取り上げら
れている。
しろまる 所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し
令和3年4月に、改正法及び相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に
関する法律(令和3年法律第 25 号。以下「相続土地国庫帰属法」という。
)が成立
した。両法律は、ア所有者不明土地の発生予防とイ土地の利用の円滑化の両面か
ら、所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直しを行うものである。
改正法は、大別して、民法の改正部分と不動産登記法の改正部分とに分かれてい
る。
民法の改正は、基本的には、イの観点からのものであり、私道の管理等に関係す
る改正内容については、第2章以下で詳しく紹介している。民法の改正による新制
度は、令和5年4月1日にスタートする。
不動産登記法の改正は、基本的には、アの観点からのものであり、これまで任意
所有者不明土地の割合
(R2 国交省調査) 24 %
相続登記の未了63%住所変更登記
の未了 33%
原因 14とされていた相続登記や住所等の変更登記の申請を義務付けるとともに、その申請
義務の実効性を確保するための環境整備策を導入するなどするものである。不動産
登記法の改正による新制度は、令和5年4月1日から段階的に施行されるが、相続
登記の申請義務化については令和6年4月1日に、住所等の変更登記の申請義務化
については令和8年4月まで(具体的な施行期日は今後政令で定められる。
)にス
タートする。
相続土地国庫帰属法は、アの観点からのものであり、相続により取得した土地
を、一定の要件の下で法務大臣の承認を受けて国庫に帰属させることを可能とする
制度を創設するものである。相続土地国庫帰属法による新制度は、令和5年4月2
7日にスタートする。
【両法律の概要】
しかく民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)
しかく相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律(令和3年法律第25号)
民法等一部改正法・相続土地国庫帰属法の概要
所有者不明土地の発生予防と利用の円滑化の両面から総合的に民事基本法制を見直し
登記がされるようにするための不動産
登記制度の見直し(発生予防)
2 住所等の変更登記の申請義務化
・ 他の公的機関(住基ネット等)から取得した
情報に基づき、登記官が職権的に変更登記を
する方策を併せて導入
1 相続登記の申請義務化
・ 相続人申告登記の創設などの負担軽減
策・環境整備策をパッケージで併せて導入
〔公布後5年を超えない範囲内で政令で定める日〕
(注記)今後、政令を制定
土地を手放すための制度
の創設(発生予防)
しろまる 相続土地国庫帰属制度の創設
相続等により土地の所有権を取得
した者が、法務大臣の承認を受けて、
その土地の所有権を国庫に帰属させ
ることができる制度を創設
土地利用に関連する民法の規律
の見直し(土地利用の円滑化)
1 財産管理制度の見直し
・ 所有者不明土地管理制度、管理不全
土地管理制度等の創設
2 共有制度の見直し
・ 共有者不明の共有地の利用の円滑化
3 相隣関係規定の見直し
・ ライフラインの設備設置権等の規律の整備
4 相続制度の見直し
・ 長期間経過後の遺産分割の見直し
(1につき)
令和6年4月1日施行
各制度を分かりやすく説明したパンフレットは、こちらから
令和5年4月27日施行
令和5年4月1日施行
令和3年4月21日成立
同月28日公布
法務省民事局
など など
しろまる 相続登記の申請義務化
相続が発生してもそれに伴って相続登記がされない原因として、これまで相続登
記の申請は任意とされており、申請をしなくても不利益は少なかったことや、相続
した土地の価値が乏しい場合には、コストをかけてまで申請をする意欲がわきにく
いことが指摘されていた。
そこで、改正法により、相続登記の申請を義務化する次のルールが設けられた。
ア 基本的なルール
相続(遺言を含む。
)によって不動産を取得した相続人は、その所有権の取
得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。
イ 遺産分割が成立した時の追加的なルール 15協議や審判により遺産分割が成立した場合には、不動産を取得した相続人
は、遺産分割が成立した日から3年以内に、その内容を踏まえた登記を申請
しなければならない。
アイともに、正当な理由がないのに義務に違反した場合、10万円以下の過料の
適用対象となる。
他方で、従来からの相続登記をするためには、全ての相続人を把握するための資
料(戸籍謄本など)の収集について手続的な負担があることから、相続登記の申請
義務をより簡易に履行することができるように、
「相続人申告登記」の仕組みが設
けられた。
相続人申告登記は、登記簿上の所有者について相続が開始したことと、自らがそ
の相続人であることを登記官に申し出ることで、前記アの義務を履行することがで
きるとするものである。
この申出がされると、申出をした相続人の氏名・住所等が登記されるが、持分の
割合までは登記されないので、全ての相続人を把握するための資料は必要ない(自
分が相続人であることが分かる戸籍謄本等を提出すれば足りる。)。
この申出に基づく登記では、相続によって権利を取得したことまでは公示されな
いので、相続人申告登記は従来の相続登記とは全く異なる。
しろまる 住所等の変更登記の申請義務化
登記簿上の所有者の氏名や住所が変更されてもその登記がされない原因として、
これまで住所等の変更登記の申請は任意とされており、申請をしなくても相続人の
不利益は少なかったことや、転居等の度にその所有不動産について住所等の変更登
記をするのは負担であることが指摘されていた。
そこで、改正法は、登記簿上の所有者については、その住所等を変更した日から
2年以内に住所等の変更登記の申請をしなければならないこととし、正当な理由が
ないのに義務に違反した場合、5万円以下の過料の適用対象としている。
併せて、申請義務の実効性を確保するための環境整備策として、登記官が他の公
的機関から取得した情報(個人の場合は住基ネット、法人の場合は商業・法人登記
のシステムと連携)に基づき、職権で住所等の変更登記をする仕組みが導入され
た。
民事基本法制の見直しについては、以下の法務省のホームページも参照された
い。
https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00343.html 16第2章 共有私道の諸形態と民事法制
1 民法上の共有関係にある私道(共同所有型私道)
(1) 私道の所有形態
共同所有型私道の具体的な例としては、下記のような形で複数の者が私道を共有
するものがある。
(例) 私道の沿道の宅地の所有者(1〜4)が通路として利用するために私
道を共同所有する場合((注記) 沿道の宅地所有者以外の者が私道の共有者
となっている場合もある)
(2) 共有者間内部の法律関係
共同所有型私道が生ずる原因については、様々なものが考えられるが、当初から
複数人の共有に属していた土地が分筆され、そのうちの一部が共同所有型私道とし
て開設されるような場合には、共有者間で私道の修繕やその費用負担の割合などの
管理方法等について取決めがされていることもある。このような場合には、私道の
工事は取決めに基づいて実施される。
他方、デベロッパーが宅地を開発・分譲する際、通路を開設し、宅地の買受人に通
路部分の共有持分を併せて売却することにより、宅地の所有者が私道を共有するに
至る場合も多いようである。このような場合には、私道の管理方法等について、明
示的な取決めがないことも多く、後に一部の共有者が私道について工事を実施する
際に、他の共有者の同意の要否が問題となることがある。長年、私道を共同で使用
する中で、黙示的な合意が形成されることも少なくなく、私道について工事を実施
するに当たっては、まずはこうした取決めに従うことになるが、共有物の使用・管
理方法等について取決めがされていない場合には、民法の共有に関する規定(民法 17第 249 条以下)により対応することとなる。
(3) 共同所有型私道の使用・変更・管理に関するルール
ア 使用
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができ
ることとされている(改正前民法第 249 条、改正民法第 249 条第1項)
。私道の共
有者は、持分を有しているため、私道の全体について、その持分の範囲で使用が
可能である。私道の共有者は、この権限に基づき、私道を通行したり、その地下
を利用したりすることができる。
改正民法では、共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他
の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負うとされて
いる(改正民法第 249 条第2項)が、共有者がそれぞれ私道を使用している場合
に、
「自己の持分を超える使用」をしていると評価されるケースは多くないと考え
られる。
イ 変更
改正前民法では、
共有物に変更を加える行為は、
その変更の程度にかかわらず、
共有者全員の同意が必要とされ(改正前民法第 251 条)
、共同所有型私道の形状を
変更するに当たっては、私道共有者全員の同意が必要と解されていた。
しかし、共有者に与える影響が小さな変更を加える場合であっても、少数でも
反対者や所在等不明者がいればこれを行うことができないため、共有物の円滑な
利用や適正な管理が妨げられていた。
そこで、改正民法では、変更を加える行為であっても、その形状又は効用の著
しい変更を伴わないもの(以下「軽微変更」という。
)については、共有者全員の
同意を要する変更から除外し、各共有者の持分の過半数で決することができるこ
ととされている(改正民法第 251 条第1項、第 252 条第1項)
。軽微変更の意義に
ついては、後記ウ参照。
ウ 管理に関する事項
共有物の管理に関する事項は、各共有者の持分の過半数で決することとされて
いる(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252 条第1項本文)
。管理に関する事
項とは、共有物の利用・改良行為をいう。
一般に、私道の状態をより良好な状態とするような改良工事や、私道の利用方
法の協議等は、管理に関する事項に該当し、各共有者の持分の過半数で決するこ
とになる。
また、前記のとおり、改正民法では、変更を加える行為であっても、形状又は 18効用の著しい変更を伴わないものについては、各共有者の持分の過半数で決する
こととされた。
「形状の変更」とは、その外観・構造等を変更することをいい、
「効
用の変更」とは、その機能や用途を変更することをいうが、共有物に変更を加え
ることが軽微変更に当たるかどうかは、個別の事案ごとに、変更を加える箇所及
び範囲、変更行為の態様及び程度等を総合して判断される。一般論としては、例
えば、砂利道をアスファルト舗装する行為は、軽微変更に該当すると考えられる(【図1】参照)。なお、工事が管理に関する事項に当たり、各共有者の持分の過半数で決する場
合であっても、少数者との協議の機会を設けることが望ましい。
また、改正民法では、管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて
共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その共有者の承諾を
得なければならないとされた
(改正民法第 252 条第3項)。ここでの
「特別の影響」
とは、対象となる共有物の性質に応じて、決定を変更する必要性と、その変更に
よって共有物を使用する共有者に生ずる不利益とを比較して、共有物を使用する
共有者に受忍すべき程度を超えて不利益を生じさせることをいう(【図2】
参照)。特別の影響の有無は、事案に応じて個別に判断されるが、例えば、共有者間の
決定に基づいて特定の共有者が共同所有型私道の特定の場所に給水管を設置して
水道水の供給を受けている場合において、他の共有者により、持分の過半数の決
定でその給水管の設置場所を変更することとされ、相当期間水道水の供給が止め
られることとなってしまうケースでは、特別の影響を及ぼすべきときに当たり得
ると考えられる。
エ 保存
共有物の現状を維持する行為は、保存行為として各共有者が単独で行うことが
できる(改正前民法第 252 条ただし書、改正民法第 252 条第5項)。一般に、損傷した私道の補修を行う場合のように、私道の現状を維持する行為
は保存行為に当たる。
オ 共有物に関する負担
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負
担を負う(民法第 253 条第1項)。「管理の費用」とは、共有物の維持、改良等の
ための必要費・有益費をいう。私道の共有者は、共有私道の補修等の管理のため
の必要費・有益費について、その持分に応じて支払う義務を負う。
カ 変更、管理に関する事項、保存の区別
具体的な事案において、
共有者の共有物に対する工事の実施が、
共有物の変更、 19管理に関する事項又は保存のいずれに当たるかは、
個別事情によるところがあり、
必ずしも明確に判断することができるわけではないが、一般論として言えば、共
有物の形状・性質、共有物の従前の利用方法、工事による改変の程度その他の諸
般の事情を考慮して決せられるものと考えられる。工事費用など共有者の負担の
程度は、それ自体が直ちにこれらの区別の要素となるものではないが、工事費用
の多寡は、当該工事が効用の著しい変更を伴う変更に当たるかどうかの判断に当
たって考慮され得る。
なお、共同所有型私道において、工事を実施する際に、共有者中に明確に反対
するものがいる場合には、当該工事が変更に当たるか管理に関する事項に当たる
かについて深刻な紛争が生ずることがある。本研究会においては、基本的には、
所有者又はその所在を把握することが困難な土地に焦点を当てて、ケーススタデ
ィを行っているが、反対者がいるケースについても、必要に応じて取り上げてい
る。
【図1】
問題の所在
1. 現行法上は、共有物に軽微な変更を加える場合であっても、変更行為として共有者全員の同意が必要(改正前民法251)と扱わざる
を得ず、円滑な利用・管理を阻害
2. 賃借権等の使用収益権の設定は、基本的に持分の価格の過半数で決定できるが、長期間の賃借権等については全員同意が必要と
解されており、長期間かどうかの判断基準が明確でなく、実務上、慎重を期して全員同意を求めざるを得ないため、円滑な利用を阻害
しろまる 共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい変更を伴わないもの
(軽微変更)については、持分の価格の過半数で決定することができる。
(改正民法251I、252I)
しろまる 以下の〔〕内の期間を超えない短期の賃借権等の設定は、持分の価格の過半数で決定することができる(改正民法252IV)。
(1) 樹木の植栽又は伐採を目的とする山林の賃借権等 〔10年〕
(2) (1)に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 〔5年〕
(3) 建物の賃借権等 〔3年〕
(4) 動産の賃借権等 〔6か月〕
1. 軽微変更についての規律の整備
2. 短期賃借権等の設定についての規律の整備
改正法
(注記) 借地借家法の適用のある賃借権の設定は、約定された期間内での終了が確保されないため、基本的に共有者全員の同意がなければ無効。
ただし、一時使用目的(借地借家法25、40)や存続期間が3年以内の定期建物賃貸借(借地借家法38I)については、持分の価格の過半数の
決定により可能であるが、契約において、更新がないことなど所定の期間内に賃貸借が終了することを明確にする工夫が必要。
(注記) 「形状の変更」とは、その外観、構造等を変更することをいい、「効用の変更」とは、その機能や用
途を変更することをいう。具体的事案によるが、例えば、砂利道のアスファルト舗装や、建物の外壁・
屋上防水等の大規模修繕工事は、基本的に共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わないも
のに当たると考えられる。
管理(最広義)
の種類
根拠条文 同意要件
変更(軽微以外) 民251I 共有者全員
管理
(広義)
変更
(軽微)
民251I
・252I 持分の価格
の過半数
管理
(狭義)
民252I
保存 民252V 共有者単独
〔改正民法における共有物の変更・管理・保存概念の整理〕
共有物の「管理」の範囲の拡大・明確化 20【図2】
問題の所在
改正法
1. 共有物を使用する共有者がいる場合に、その共有者の同意がなくても、持分の価格の過半数で共有物の管理に関する事項を決定
できるかは明確でない。→無断で共有物を使用している共有者がいる場合には、他の共有者が共有物を使用することは事実上困難
しろまる 共有物を使用する共有者がある場合でも、持分の過半数で管理に関する事項を決定することができる(改正民法252I後段)。
→共有者間の定めがないまま共有物を使用する共有者の同意なく、持分の過半数でそれ以外の共有者に使用させる旨を決定することも当然に可能。
しろまる 管理に関する事項の決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響((注記))を及ぼすべきときは、その
共有者の承諾を得なければならない(改正民法252III)。
・共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。ただし、共有者間で無償と
するなどの別段の合意がある場合には、その合意に従う。(改正民法249II)
・共有者は、善良な管理者の注意をもって、共有物の使用をしなければならない。(改正民法249III)
2. 各共有者はその持分に応じて共有物を使用することができるが(改正前民法249)、共有物を使用する共有者は、他の共有者との関
係でどのような義務を負うのか明確ではなく、共有者間における無用な紛争を惹起するおそれ
1. 管理に関する事項の決定方法
2. 共有物を使用する共有者の義務
(注記) 配偶者居住権が成立している場合には、他の共有者は、持分の過半数により使用者を決定しても、別途消滅の要件を満たさない限り配偶者居住権は存続し
(民法1032IV、1038III参照)、配偶者居住権を消滅させることはできない。また、共有者間の決定に基づき第三者に短期の賃借権等を設定している場合に、
持分の過半数で当該賃貸借契約等の解約を決定したとしても、別途解除等の消滅の要件を満たさない限り賃借権等は存続する。
(注記) 「特別の影響」とは、対象となる共有物の性質に応じて、決定の変更等をする必要性と、その変更等によって共有物を使用する共有者に生ずる不利益とを比較して、
共有物を使用する共有者に受忍すべき程度を超えて不利益を生じさせることをいい、その有無は、具体的事案に応じて判断される。
例:A、B及びCが各3分の1の持分で建物を共有している場合において、過半数の決定に基づいてAが当該建物を住居として使用しているが、Aが他に住居
を探すのが容易ではなく、Bが他の建物を利用することも可能であるにもかかわらず、B及びCの賛成によって、Bに当該建物を事務所として使用させる旨を決定
するケース
共有物を使用する共有者がいる場合のルール
(4) 所在等不明共有者がいる場合における共同所有型私道の変更・管理
ア 新制度の概要(
【図3】参照)
前記のとおり、共有者は、他の共有者全員の同意を得なければ、共有物に変更
を加えることができないため(改正前民法第 251 条)
、共有者が他の共有者を知る
ことができず、又はその所在を知ることができないときは、その同意を得ること
ができず、共有物に変更を加えることができなくなる。また、管理に関する事項
は共有者の持分の過半数で決定することとされているため
(改正前民法第 252 条)、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないと
きは、その共有者の持分の割合によっては、管理に関する事項を決定することが
できない事態が生ずる。
そこで、改正民法では、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所
在を知ることができないときは、裁判所の決定により、1所在等不明共有者(共
有者において知ることができず、又はその所在を知ることができない他の共有者
をいう。
以下同じ。)以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えることが
できることとされるとともに、2所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数
により管理に関する事項を決することができることとされている(改正民法第
251 条第2項及び第 252 条第2項第1号)。 21
イ 要件等
所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判の要件は、
「共有者が他
の共有者を知ることができず、
又はその所在を知ることができないとき」
である。
共有者が他の共有者を知ることができないときとは、共有者において、他の共
有者の氏名・名称などが不明であり、特定することができないことを意味する。
他方、
共有者が他の共有者の所在を知ることができないときについては、
「他の
共有者」がどのような者であるかによって次のように分けられる。
(a) 自然人
「他の共有者」が自然人である場合には、共有者において、他の共有者の
住所・居所を知ることができないときを意味する。
なお、自然人である共有者が死亡しているが、その相続人の存在が不明で
あるケースでは、
相続財産管理人等がいない限り、
「共有者を知ることができ
ず、又はその所在を知ることができない」に該当する。
(b) 法人
「他の共有者」が法人である場合には、共有者において、1他の共有者の
事務所の所在地を知ることができず、かつ、2他の共有者の代表者の氏名等
を知ることができないとき(他の共有者の代表者がいない場合を含む。
)又は
その代表者の所在を知ることができないときを意味する。代表者がおり、そ
の所在を知ることができるのであれば、代表者との間で協議等をすることが
できるため、法人である共有者の所在を知ることができないと評価すること
はできない。
なお、いわゆる権利能力なき社団についても、基本的には、法人と同じ基
準により判断されることになる。
いずれのケースにおいても、要件の充足が認められるためには、共有者におい
て私道(土地)の不動産登記簿や住民票等の公的記録の調査など必要な調査をし
ても、他の共有者を特定することができない、又はその所在を知ることができな
いことが必要となる。そのほか、事案にもよるが、当該私道の利用状況を確認し
たり、他に連絡等をとることができる共有者がいればその者に確認したりするな
どの調査も必要となると解される。
ウ 手続の流れ
共有者は、共同所有型私道で変更行為や管理に関する事項に当たる工事を行お
うとする場合において、他の共有者の所在等が不明であるときは、私道の所在地
の地方裁判所に、所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判を申し 22立てることになる。その際には、変更行為や管理に関する事項に当たる工事の概
要を特定して申し立てる必要がある。
要件の充足が認められ、裁判所における公告及び1か月以上の異議届出期間を
経てもなお所在等不明共有者とされている者から異議の届出がされないときは、
所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判がされ、申立人に告知が
される(非訟事件手続法第 56 条第1項、改正非訟事件手続法第 85 条第6項)。
所在等不明共有者以外の共有者による変更・管理の裁判をする前に所在等不明
共有者とされている者から異議の届出がされた場合には、
その共有者は特定され、
その所在も明らかになるため、実体法上の要件を欠き、その裁判をすることはで
きない。
所在等不明共有者以外の共有者による変更の裁判がされた場合には、所在等不
明共有者以外の共有者全員の同意により共有物に変更を加えることができるよう
になる。また、所在等不明共有者以外の共有者による管理の裁判がされた場合に
は、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関する事項を決
することができるようになる。
これらの裁判は、上記の効力を有するにとどまり、実際に共有物に変更を加え
るには、別途、所在等不明共有者以外の共有者の同意を得る必要がある。また、
管理に関する事項については、別途、所在等不明共有者以外の共有者の持分の過
半数により決定する必要がある。
例えば、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有するコンクリート舗
装された坂道につき、A・B・Cがその全体にコンクリートの階段を設置する場
合において、D・Eの所在が不明であるときには、A・B・Cは、所在等不明共
有者以外の共有者による変更の裁判を得た上で、A・B・Cの全員が同意するこ
とにより、その工事をすることができる(後記【事例 30】参照)。また、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有する砂利道につき、A・
Bがアスファルト舗装する(軽微変更。前記(3)ウ参照)場合において、Cが反対
し、D・Eの所在が不明であるときには、A・Bは、所在等不明共有者以外の共
有者による管理の裁判を得た上で、A、B、Cの合計持分の過半数(3分の2)
の決定で、その工事をすることができる(後記【事例5】参照)。 23
【図3】
(5) 賛否不明共有者がいる場合における共同所有型私道の管理
ア 新制度の概要(
【図4】参照)
民法は、共有物の管理に関する事項は、共有者の持分の過半数で決定すること
とし(改正前民法第 252 条)
、その実施を共有者間の協議・決定に委ねている。
もっとも、
社会経済情勢の変化に伴って、
共有者が共有物から遠く離れて居住・
活動していることや、共有者間の人的関係が希薄化していることも多くなり、共
有物の管理に関心を持たず、連絡等をとっても明確な返答をしない共有者がいる
ため、共有者間で決定を得ることが容易でなくなっている。
そこで、改正民法では、相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決す
ることについて賛否を明らかにすべき旨を催告しても、相当の期間内に賛否を明
らかにしない共有者がある場合には、裁判所の決定を得て、賛否不明共有者以外
の共有者の持分の過半数の決定により管理に関する事項を決することができるこ
ととされている(改正民法第 252 条第2項第2号)。なお、この仕組みは、管理に関する事項(軽微変更を含む。
)に限ってその対象
とするものであり、共有物に形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為を対象と
するものではない。
イ 要件等
賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判の要件は、1共有者が、他の共
所在等不明共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、
1 所在等不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に変更を加えることができる(改正民法251II)。
2 所在等不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関する事項を決定することができる(改正民法252II1)。
(注記) 所在等不明共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には、利用不可。
(注記) 所在等不明共有者の持分が、所在等不明共有者以外の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が所在不明の場合であっても、利用可能。
改正法
手続の流れ
他の共有者の同意で変更・管理
をすることができる旨の決定
1か月以上の異議届出
期間・公告の実施
申立て・証拠提出 共有者間での意思決定
【管轄裁判所】
共有物の所在地の地方裁判所
【所在等不明の証明】
例えば、不動産の場合には、裁判所に対し、登記簿上共有
者の氏名等や所在が不明であるだけではなく、住民票調査な
ど必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明であることを証
明することが必要
【対象行為の特定】
加えようとしている変更や、決定しようとする管理事項を特定
して申立てをする必要
例1 A、B、C、D、E共有の土地につき、必要な調査を尽くしてもC、D、Eの
所在が不明である場合には、裁判所の決定を得た上で、AとBは、第三者に
対し、建物所有目的で土地を賃貸すること(変更)ができる(A・Bの全員
同意)。
例2 A、B、C、D、E共有(持分各5分の1)の建物につき、必要な調査
を尽くしてもD、Eの所在が不明である場合には、裁判所の決定を得た上で、
AとBは、第三者に対し、賃借期間3年以下の定期建物賃貸借をすること
(管理)ができる(A、B、Cの持分の過半数である3分の2の決定)。
問題の所在
しろまる 所在等不明共有者(必要な調査を尽くしても氏名等や所在が不明な共有者)がいる場合には、その所在等不明共有者の同意を
得ることができず、共有物に変更を加えることについて、共有者全員の同意を得ることができない。
しろまる 管理に関する事項についても、所在等不明共有者以外の共有者の持分が過半数に及ばないケースなどでは、決定ができない。
所在等不明共有者がいる場合の変更・管理 24有者に対し、相当の期間を定めて、共有物の管理に関する事項を決することにつ
いて賛否を明らかにすべき旨を催告したこと、2催告を受けた他の共有者がその
期間内に賛否を明らかにしないことである。
1の「相当の期間」は、催告を受けた共有者が賛否の判断の検討のために要す
る期間を指すが、事案ごとの判断ではあるものの、通常、催告を受けた日から2
週間程度が必要になると解される。催告をする際には、その相手方が賛否を明ら
かにすることができるように、決定することを希望する事項を具体的に特定しな
ければならない。催告の方法について法律上の制限はないが、後の裁判において
催告の事実を立証するために、書面等で行うことが想定される。
ウ 手続の流れ
共有者は、共同所有型私道に管理に関する事項に当たる工事を行おうとする場
合において、事前に他の共有者に対して相当の期間を定めて当該工事をすること
について賛否を明らかにすべき旨を催告したがその期間内に賛否が明らかにされ
なかったときは、私道の所在地の地方裁判所に、賛否不明共有者以外の共有者に
よる管理の裁判を申し立てることになる。その際には、管理に関する事項に当た
る工事の概要を特定して申し立てる必要がある。
要件の充足が認められ、裁判所からの通知及び1か月以上の賛否明示期間を経
てもなお賛否が明らかにされないときは、賛否不明共有者以外の共有者の持分の
過半数の決定により管理に関する事項を決することができる旨の裁判がされ、賛
否不明共有者に告知がされる
(非訟事件手続法第 56 条、
改正非訟事件手続法第 85
条第2項・第3項)。賛否明示期間内に賛否を明らかにした共有者がいる場合には、
裁判所は、その共有者については上記の裁判をすることができない(改正非訟事
件手続法第 85 条第4項)。賛否不明共有者が告知を受けた日から2週間の不変期間内に即時抗告をしない
ことなどによりこの裁判が確定すると
(非訟事件手続法第 56 条第4項、
第 67 条)、裁判の効力が生じ、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数により管理に関
する事項に当たる工事の実施を決定することができるようになる(改正非訟事件
手続法第 85 条第5項)。この裁判は、上記の効力を有するにとどまり、実際に工事を実施するには、別
途、賛否不明共有者以外の共有者の持分の過半数により決定する必要がある。
例えば、A、B、C、D、Eが5分の1ずつの割合で共有する砂利道につき、
A・Bがアスファルト舗装をすること(軽微変更。前記(3)ウ参照)について他の
共有者に事前催告をしたが、D・Eは賛否を明らかにせず、Cが反対した場合に 25は、A・Bは、賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得た上で、A、
B、Cの合計持分の過半数(3分の2)の決定で、その工事をすることができる
(後記【事例5】参照)。【図4】
手続の流れ
申立て・証拠提出
事前の催告
共有者が、他の共有者(複数でも可)に
対し、相当の期間(通常は2週間程度)を
定め、決定しようとする管理事項を示した
上で、賛否を明らかにすべき旨を催告
(注記) 催告の方法に法律上制限はないが、裁判で
証明する観点から、書面等で行って証拠化して
おくことも重要
しろまる 社会経済活動の広域化、国際化等の社会経済情勢の変化に伴い、共有者が共有物から遠く離れて居住・活動していることや
共有者間の人的関係が希薄化することが増加
→ 共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には、共有物の管理が困難に
問題の所在
しろまる 賛否を明らかにしない共有者がいる場合には、裁判所の決定を得て、その共有者以外の共有者の持分の過半数により、管理に関す
る事項を決定することができる(改正民法252II2)。
(注記) 変更行為や賛否を明らかにしない共有者が共有持分を失うことになる行為(抵当権の設定等)には、利用不可。
(注記) 賛否を明らかにしない共有者の持分が、他の共有者の持分を超えている場合や、複数の共有者が賛否を明らかにしない場合であっても、利用可能。
改正法
他の共有者の同意で管理を
することができる旨の決定
1か月以上の賛否
明示期間・通知
共有者間での決定
・ 管轄裁判所
共有物の所在地の地方裁判所
・ 賛否不明の証明
事前催告に対して対象共有者が賛否を明
らかにしないことの証明が必要
・ 対象行為の特定
決定しようとする管理事項を特定する必要
・裁判所が対象共有者に対して賛否明示期間内に賛否を明らかにすべき旨を通知
・賛否を明らかにした共有者がいる場合には、裁判所は、その共有者については認
容決定ができない(後の共有者間の決定においてその共有者を排除することができない)
例)A、B、C、D、E共有(持分各5分の1)
の砂利道につき、A・Bがアスファルト舗装をす
ること(軽微変更=管理)について他の共有
者に事前催告をしたが、D・Eは賛否を明らか
にせず、Cは反対した場合には、裁判所の決
定を得た上で、AとBは、アスファルト舗装をす
ることができる(A、B、Cの持分の過半数で
ある3分の2の決定)。
(注記) 賛否を明らかにしない共有者に加えて所在等不明
共有者がいるときは、この手続と併せて別の手続も
とることで、それ以外の共有者の決定で管理をするこ
とが可能
賛否を明らかにしない共有者がいる場合の管理
(6) 遺産共有の場合について
相続人が数人あるときは、相続財産はその共有に属することとされ(改正前民法
第 898 条、改正民法第 898 条第1項)
、相続人は、相続財産に属する個々の財産につ
いて共有持分を有する(以下相続財産の共有を「遺産共有」という。)。遺産共有は、
民法第 249 条以下に規定する「共有」とその性質を異にするものではないと解され
ており(最判昭和 30 年5月 31 日民集9巻6号 793 頁)
、民法第 249 条以下の共有に
関する規定は、基本的に、遺産共有にも適用される。
そのため、前記(3)〜(5)の各ルールは、私道が遺産共有されている場合にも、適
用されるものである。
また、改正民法では、相続財産について共有に関する規定を適用するときは、法
定相続分(相続分の指定がある場合には、指定相続分)を基準とすることを明記し
ている(改正民法第 898 条第2項)ため、管理に関する事項は、法定相続分又は指
定相続分を基準とした共有持分の過半数をもって決せられることになる(改正民法
第 252 条第1項本文)。 26
2 民法上の共有関係にはない私道(相互持合型私道)
(1) 私道の所有形態
相互持合型私道は、典型的には、私道付近の宅地を所有する複数の者が、それぞ
れの所有する土地を通路として提供し、私道がこうした数筆の土地により形成され
ているものである。
相互持合型私道は、デベロッパーが一団の土地を数個の宅地に分譲する際、分譲
地取得者のために通路を開設し、その通路の敷地(以下「通路敷」という。
)に当た
る部分も各宅地の譲受人の所有となるように分筆した上で、宅地と分筆された通路
敷を併せて譲渡することにより生じることが多い。
具体的な持合形態としては、例1のように、通路敷を縦に細長く切り分けて宅地
の所有者に分属させる形で開設するパターンがある。また、例2のように、通路敷
を横に切り分けて宅地の所有者に分属させる形で開設するパターンもある。この場
合、宅地とそれに接する通路敷の土地とが同一の所有者に属さないように、分属さ
せることもある。
(例)
1 通路敷を縦に切り分ける場合
公 道 272 通路敷を横に切り分ける場合
(2) 法律関係
相互持合型私道における各土地の所有者は、互いに各自の所有宅地の便益のた
めに、通行等を目的とする地役権(民法第 280 条本文。以下「通行地役権」とい
う。)を設定していると考えられている。
地役権とは、
他人の土地
(以下
「承役地」
という。
)を自己の土地(以下「要役地」という。
)の便益に供する権利のことを
いい、要役地の便益のために他人の土地を利用することのできる権利である。
相互持合型私道を所有者間で合意して開設する場合には、通行地役権の設定が
明示的にされることが多いものと考えられる。また、デベロッパーが一団の土地
を分譲して譲渡する際に相互持合型私道を開設する場合は、分譲地の購入者は、
それぞれ、公道から自己の宅地に至るまでには、他の宅地の購入者の所有する通
路敷を通行しなければならず、また、他の宅地の購入者が公道から当該宅地に至
るまでには、自己の所有する通路敷を通行しなければならないことを認識して取
得しているのであり、相互に譲り受けた土地について黙示の地役権の設定がされ
ていることが通常である。
裁判例においても、複数名が特定部分の土地を提供し合って開設されている私
道については、明示の合意がなくとも、黙示の通行地役権の設定がされたものと
認められるとした事例や、分譲者が私道を開設し通路敷を分割して各分譲地買受
人に対して譲渡した場合に、各分譲地譲受人間において黙示の通行地役権が設定
されているとした事例がある。
このことは、前記(1)の例1、2のいずれにおいても同様であると考えられる。 28なお、通行地役権は、他人の土地を通行等の目的のために使用することのでき
る用益物権であり、他の物権と同様、設定行為とは別に、時効により取得するこ
とも可能である(民法第 163 条、第 283 条)。(3) 通行地役権の内容及び効力
ア 地役権の内容及び効力は、設定行為により定められる。承役地所有者が、設定
行為又は設定後の契約によって、自己の費用で通行地役権行使のために工作物を
設け、又はその修繕をする義務を負担したときは、これに従って工作物の設置・
修繕をしなければならない(民法第 286 条参照)。相互持合型私道に設定される通行地役権においては、私道となっている通路敷
全体が通行地役権の目的として提供されているところ、デベロッパーが分譲の際
に相互持合型私道を開設する場合には、当該私道は、公道に至るまでの通行経路
としてだけではなく、宅地に居住する者の生活に必要なライフラインの設置経路
としても設計されることが多い。このような場合には、分譲時点で、上水道や下
水道の導管が私道の地中に設置され、電柱が地上に設置されていることになる。
このような相互持合型私道においては、地役権の内容は、通行のみならず、ラ
イフラインの設置・利用を含むことになるのが通常である。
イ 要役地所有者は、一般に、地役権に基づき、設定行為により定められた目的の
達成のために必要な限度で、承役地を使用することを承役地所有者に受忍させる
ことができる。
例えば、相互持合型私道における承役地に損傷が生じ、通行に支障を来した場
合には、要役地所有者は、通行の目的を果たすため、道路補修工事を実施するこ
とができると考えられる。
また、このような場合には、要役地所有者は、承役地所有者に対して、当該承
役地の修繕を求めることもできると考えられる。 293 団地の法律関係
(1) 共同所有型私道と団地
共同所有型私道においては、前記1(2)のとおり、分譲の際に私道が設けられ、こ
れに接する各宅地所有者が共有持分を取得することが多く、私道とこれと接する各
宅地とは、一団の土地を形成していると見ることが可能である。このような各宅地
と共同所有型私道に関しては、民法の特別法である建物の区分所有等に関する法律
(昭和 37 年法律第 69 号。以下「区分所有法」という。
)第2章の「団地」に関する
規定が適用されることがあると考えられるため、これについて解説しておく。
区分所有法の団地に関する規定が適用されるためには、1一団地内に数棟の建物
があること、2その団地内の土地(これに関する権利を含む。
)等が1の建物の所有
者の共有に属するという関係があることが必要である(区分所有法第 65 条)。ここでいう「一団地」とは、客観的に一区画をなしていると見られる土地の区域
であるとされているところ、共同所有型私道とこれに接する各宅地とは、客観的に
一区画をなしていると認められる場合がある。また、その区画内にある建物は、区
分所有建物であっても、それ以外の戸建て建物であってもよく、区分所有建物とそ
れ以外の建物が混在して構成される場合もあるとされており、団地内の私道がそれ
らの建物の所有者(専有部分のある建物にあっては、区分所有者)の共有に属する
共同所有型私道の場合には、区分所有法が適用されることになる。
なお、建物の区分所有関係と異なり、特に戸建て建物が介在する団地関係におい
ては、関係者が団地関係にあることを認識していないことも少なからずあると考え
られる。団地内で規約を定めるなどの特段の措置を講じていない限りは、民法の共
有に関する規律(改正民法で創設されたものを含む。
)の適用が排除されるものでは
ないと考えられる。
上記1及び2の要件をみたすものとして、次のようなものが考えられる。
【図5-1】
各棟の敷地の所有関係は各棟ごとに
区分されている(各棟が区分所有建
物であれば、それぞれ各棟の区分所
有者のみの共有になっている)が、
通路部分の土地が全棟の所有者の共
有に属する場合
通路1 23 4 30【図5-2】
【図5-3】
(2) 団地における法律関係と共同所有型私道の工事への活用
区分所有法上の団地に該当する場合には、団地内建物の所有者(区分所有者を含
む。以下「団地建物所有者」という。
)は、法律上当然に、全員で、その団地内の共
有土地等の管理を行うための団体(いわゆる団地管理組合)を構成する。そして、団
地管理組合においては、区分所有法の定めるところにより、集会を開き、規約を定
め、管理者を置くことができることとされている(区分所有法第 65 条)。その趣旨は、マンションなどの区分所有建物における管理組合と同様、団地建物
所有者は、団地内の土地等を共有し、共同使用するものであるから、共有する土地
等を管理するに当たっては、団体的拘束に服させることが相当と考えられることに
ある。
そして、共同所有型私道とこれに接する宅地が一団地をなす場合には、私道の工
事につき、集会を開いて決議をする制度を活用することで、円滑な工事の実施につ
なげることができる。
すなわち、
民法によれば、
共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為は、1 23 4
1、2の建物の敷地はその建物
の所有者全員が共有し、3、4
の建物の敷地はその建物の所有
者全員が共有し、かつ、通路部
分の土地は1〜4の建物の所有
者全員が共有している場合
通路公道213 456通路
各棟の敷地の所有関係は1・
2、3・4、5・6の建物所有
者ごとに区分されており、1〜
6の建物の所有者が通路部分の
土地を共有している場合 31共有者の全員の同意によることが必要となる(改正民法第 251 条第1項)。これに対し、団地管理組合関係のもとでは、土地の形状又は効用の著しい変更を
伴う変更行為であっても、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数によ
る集会の決議で決することができる
(区分所有法第 66 条において準用する同法第 17
条、第 18 条)。したがって、共同所有型私道とこれに接する宅地が客観的に見て一団地を構成す
る場合には、私道の工事が民法上は上記の共有物の変更に当たるときであっても、
所定の手続を経れば、一定の多数決で施工することが可能となり、私道共有者の一
部が所在等不明であるケースや工事に賛成しないケースにも対応することができる
と考えられる1。
(3) 団地管理組合の集会の手続(
【図6】参照)
共同所有型私道を含む団地関係においては、規約が定められていたり、管理者が
置かれたりすることはまれであると考えられる。
そこで、以下では、規約も管理者もない団地において、共同所有型私道の共有者
の一部が所在等不明であるために、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う変更
工事につき、
共有者全員の承諾が得られない場合の集会の手続について概説する(以下で引用した区分所有法の規定は、同法第 66 条において準用されているものであ
る。)。
ア 集会の招集
団地建物所有者の5分の1以上で議決権(=私道の持分割合)の5分の1以上
を有するものは、集会を招集することができる(第 34 条第5項)。集会の招集通知は、会日より少なくとも1週間前に、会議の目的たる事項を示
して、各団地建物所有者に発しなければならず(第 35 条第1項)
、会議の目的た
る事項が、共有物の形状又は効用の著しい変更を伴うものであるときは、その議
案の要領をも通知しなければならない(同条第5項)。1 なお、団地内の私道共有者の一部が所在等不明である場合においても、改正民法第
251 条第2項の裁判の制度を用いることにより、所在等不明共有者以外の共有者全員の
同意を得て、私道に変更を加えることができる。
もっとも、この場合において、改正民法第 251 条第2項に基づく裁判の内容は、
「当
該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁
判」であり、これに区分所有法第 66 条において準用される同法第 17 条第1項を更に適
用することは想定されていないことから、所在等不明共有者以外の団地建物所有者及び
議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で変更行為を決することはできないも
のと解される(所在等不明共有者を含め、団地建物所有者及び議決権の全てを母数とし
て、その各4分の3以上の多数による集会の決議で決する必要がある。)。 32なお、招集通知は、団地建物所有者の所有する建物が所在する場所に宛ててす
れば足り、
招集通知は、
通常それが到達すべき時に到達したものとみなされる(同条第3項)。イ 集会の決議
(ア) 集会においては、
集会を招集した団地建物所有者の一人が議長となる
(第 41条)。
(イ) 集会においては、招集通知によりあらかじめ通知した事項についてのみ、決
議することができる(第 37 条第1項)。(ウ) 共同所有型私道の軽微変更は、土地の管理に関する事項(第 18 条第1項)
とされ、これに関する集会の議事は、団地建物所有者及び議決権(=私道の持
分割合)の各過半数で決する(第 39 条第1項)
。すなわち、団地建物所有者の
頭数の過半数と共有物である私道の持分割合の過半数の両方を満たす必要が
あり、例えば、団地建物所有者がA、B、C、Dの4名である場合に、私道の
持分割合がA、B、Cが各 12 分の1、Dが4分の3であるときには、A、B及
びCの賛成があるだけでは、団地建物所有者の頭数において過半数であるにと
どまり、議決権の過半数が得られていないため、決議は成立しない。
他方、共同所有型私道の形状又は効用の著しい変更を伴う変更行為について
は、団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数により、集会の決議で
決する(第 17 条第1項)。これらの場合において、土地の管理・変更が建物の使用に特別の影響を及ぼ
すべきときは、その建物の所有者の承諾を得なければならない(同条第2項、
第 18 条第3項)。(エ) また、団地内にある建物が複数人の共有となっている場合には、共有者のう
ち一名を議決権を行使する者として定めなければならない(第 40 条)
。招集通
知は、当該議決権行使者に対してすれば足り、議決権行使者が選定されていな
い場合には、共有者の一人に対してすれば足りる(第 35 条第2項)。なお、議決権の行使は、書面又は代理人によることが可能であり、遠方に居
住する団地建物所有者は、書面により議題に対する意思表示をすることができ、
また、
代理人を選任し、
代理人による議決権の行使をすることが可能である(第39 条第2項)。(オ) 上記のとおり、区分所有法上、団地内の共有土地の変更が、その形状又は効
用の著しい変更を伴うものかどうかで決議の要件が異なるが、実務上、共有私
道に加える行為が、著しい変更を加えるものかどうかの判断がつきにくいこと 33も少なくない。そこで、所在等不明者の持分割合が比較的小さく、他の共有者
の賛成で4分の3以上の同意を得られることが確実であれば、上記アで説明し
たとおり、招集通知に議案の要領(共有私道に著しい変更を加えるその内容)
を通知し、上記の多数決による決議を行うことも考えられる。
ウ 議事録の作成・保管・閲覧
集会の議事については、議長は、書面又は電磁的記録により、議事録を作成しな
ければならず(第 42 条第1項)
、議事録には、議事の経過の要領及びその結果を記
載・記録しなければならない(同条第2項)
。議事録が書面で作成されているとき
は、議長及び集会に参加した団地建物所有者の二人が署名しなければならない(同
条第3項)
。そして、1作成された議事録は、集会の決議で定められた団地建物所
有者が保管しなければならず
(同条第5項、
第 33 条第1項)、その保管をする者は、
利害関係人(団地建物所有者等)からの請求があったときは、正当な理由がない限
り、議事録の閲覧を拒むことはできない(第 42 条第5項、第 33 条第2項)。 34
【図6】
【手続の流れ図を掲載予定】
団地管理組合の集会の流れ
1 団地建物所有者の5分の1以上で議決権(私道の持分割合)の5分の1
以上を有するものによる。
2 招集通知は、会日より少なくとも1週間前にする。
3 招集通知には会議の目的たる事項を示す。
4 共有物の形状又は効用の著しい変更を伴う場合は、その議案の要領も示
す。
5 招集通知は団地建物所有者の所有する建物が所在する場所に宛ててすれ
ば足り、通常それが到達すべき時に到達したものとみなされる。
招集通知の発出
団地の集会
1 議長は、集会を招集した団地建物所有者の一人が務める。
2 共有物の形状又は効用の著しい変更を伴うものに係る議事は、原則
として、団地建物所有者及び議決権(私道の持分割合)の各4分の3
以上の多数で決する。
3 議決権の行使は、書面又は代理人によることが可能。
4 議長は議事録(書面又は電磁的記録)を作成しなければならない。
議事録の保管・閲覧
1 議事録は、集会の決議で定められた団地建物所有者が保管しなけれ
ばならない。
2 議事録を保管する者は、利害関係人(団地建物所有者等)からの請
求があったときは、正当な理由がない限り、議事録の閲覧を拒むこと
はできない。 354 財産管理制度等
私道の工事を行おうとする際に、所有者(共有者)の全員の同意を要する場合や
共有者の持分の過半数の同意を要する場合がある。このような場合において、同意
を得る必要がある所有者(共有者)の一部の所在が不明であったり、所有者(共有
者)の一部が死亡し、その者に相続人のあることが明らかでないために、必要な同
意を得ることが困難であったりするときには、財産管理制度を利用し、家庭裁判所
により選任される財産管理人から私道の工事等に関する同意を得ることが考えられ
る。
財産管理制度には、1不在者財産管理制度、2相続財産管理(清算)制度がある
ほか、残余財産の清算の必要な法人については、3会社法等に基づく清算人の選任
が可能とされている。加えて、改正民法では、所有者不明土地の管理に特化した財
産管理制度として、4所有者不明土地管理制度が新たに設けられた。
以下では、各財産管理制度の概要及び手続について紹介する2。
(1) 不在者財産管理制度
ア 制度の概要
不在者財産管理制度は、住所や居所を去って容易に戻る見込みのない者(不在
者)がいる場合に、利害関係人又は検察官の請求により、家庭裁判所が財産管理
人の選任等財産の管理について必要な処分をして、不在者の財産の管理を行う制
度である(民法第 25 条以下)。イ 要件等
私道の所有者(共有者)の一部について、不在者財産管理制度を利用するため
には、その者が「住所や居所を去って容易に戻る見込みのない者」である必要が
ある。
不在者は、生死不明であるか否かを問わない。生死不明の者であっても、死亡
が証明されるか、失踪宣告(民法第 30 条)を受けるまでは、不在者に当たる。
不在者財産管理人の選任を請求することができるのは、利害関係人又は検察官
である(民法第 25 条第1項)
。利害関係人とは、法律上の利害関係を有する者で
あり、不在者の財産が法律上管理されることにつき実益を有する者であれば、法
2 国土交通省・所有者の所在の把握が難しい土地への対応方策に関する検討会「所有者
の所在の把握が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン(第3版)
」42
頁以下に、不在者財産管理制度及び相続財産管理(清算)制度の利用に当たっての詳細
な情報が掲載されているので、あわせて参照されたい。 36律上の利害関係があるといえる。利害関係があるか否かについては、最終的には
家庭裁判所により判断されることとなるが、共同所有型私道の工事を行う際に管
理に関する事項を定めたり、変更行為を行ったりする場合や、相互持合型私道に
ついて工事を行う場合において、同意を得ることが必要な所有者(共有者)が不
在者であるときは、一般に、工事の実施を希望する他の所有者(共有者)は、利
害関係人に該当するものと考えられる。
また、特措法第 38 条第1項(改正特措法第 42 条第1項)は、不在者財産管理
人の選任請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国の行政機関の長又は
地方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要が
あると認められる場合には、利害関係の有無を問わず、不在者財産管理人の選任
請求をすることができることとされている。
ここでいう
「所有者不明土地」
とは、
「相当な努力が払われたと認められるものとして政令で定める方法により探索
を行ってもなおその所有者の全部又は一部を確知することができない一筆の土
地」をいうとされている(同法第2条第1項)
。また、例えば、一般の通行の用に
供されている所有者不明の私道が老朽化して通行人の生命身体に危険が生ずる
おそれがあるため、
私道を補修する必要がある場合は、
「その適切な管理のため特
に必要があると認めるとき」に当たるとされている(国土交通省不動産・建設経
済局「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法 Q&A」
(令和3年4月))。ウ 手続の流れ
不在者財産管理事件の手続の流れは、
【図7】のとおりである。
(ア) 不在者財産管理人の選任申立て
不在者財産管理人の選任の申立ては、
不在者の従来の住所地又は居所地を管
轄する家庭裁判所に行う必要がある(家事事件手続法第 145 条)
。従来の住所
地及び居所地がいずれも不明である場合には、
財産の所在地を管轄する家庭裁
判所又は東京家庭裁判所が管轄裁判所となる(家事事件手続法第7条、家事事
件手続規則第6条)。不在者財産管理人の選任を申し立てる際には、
不在者が不在となった経緯や
帰来の可能性、申立人の利害関係の内容等を記載した申立書を提出する。申立
添付資料として、一般には、不在者の戸籍謄本、不在者の戸籍附票写し、不在
の事実を証する資料
(宛所に尋ね当たらないとの理由で返戻された不在者宛て
の手紙、警察署長の発行する行方不明者届受理証明書等)
、不在者の財産に関
する資料(不動産登記事項証明書等)
、申立人の利害関係を証する資料(共有 37私道の不動産登記事項証明書等)等の提出が求められる。
なお、申立ての際に、管理人の報酬を含む財産の管理に要する費用の予納を
不在者の財産から賄うことができないことが見込まれる場合には、
家庭裁判所
の判断により、管理費用の予納を命じられる3。
(イ) 不在者財産管理人による私道の管理
家庭裁判所により不在者財産管理人が選任された場合、
不在者財産管理人が
不在者の財産の管理を行うこととなるため、
私道の工事等を行う場合において、
不在者である所有者(共有者)の同意を得る必要があるときには、不在者財産
管理人による同意を得ることにより、工事等を行うことができるようになる。
もっとも、不在者財産管理人の権限は、原則として、保存行為及び目的であ
る物又は権利の性質を変えない範囲内において、
その利用又は改良を目的とす
る行為に限定されている(民法第 28 条、第 103 条)
。不在者財産管理人が、こ
のような権限を超える行為を行う必要がある場合には、家庭裁判所の許可(民
法第 28 条前段)を得る必要がある。したがって、私道について所有者(共有
者)全員の同意が必要となるような工事を行う際には、一般には、不在者財産
管理人は家庭裁判所の許可を得る必要がある。
権限外行為に当たるか否かにつ
いて疑義がある場合には、
家庭裁判所に許可を受ける必要があるか否か相談す
ることが望ましい。
(ウ) 不在者財産管理人による管理の終了
家庭裁判所は、1不在者が財産を管理することができるようになったとき、
2管理すべき財産がなくなったとき、3その他財産の管理を継続することが相
当でなくなったときは、不在者、不在者財産管理人若しくは利害関係人の申立
てにより又は職権で、不在者財産管理人の選任その他の不在者の財産の管理に
関する処分の取消しの審判をしなければならないこととされている(家事事件
手続法第 147 条)
。3の「財産の管理を継続することが相当でなくなったとき」
とは、不在者の死亡が明らかになった場合や、不在者の財産の管理の必要性や
財産の価値に比して管理の費用が不相当に高額になるような場合等をいうもの
とされている。
3 なお、国土交通省においては、令和4年度予算において、市町村が作成する「所有者
不明土地対策計画」に基づき、所有者不明土地対策を実施する地方公共団体等を支援す
るための補助制度を創設している。当該補助制度の中では、市町村長等が負担すること
となる不在者財産管理人の選任を申し立てる際の予納金についても、支援の対象となっ
ている。 38【図7】
管理人による管理
不在者財産管理人選任の申立て
審 理
・関係官署に対する調査
・親族や財産管理人候補者への照会
不在者財産管理人選任の審判
権限外行為許可の申立て
許可審判
・土地売買契約の締結のため
・遺産分割協議のため 等
管理終了原因の発生
・不在者本人が財産を管理することができるようになったとき
・管理すべき財産がなくなったとき
・不在者の死亡が判明したとき 等
管理人に対する報酬付与の申立て
報酬付与審判
不在者・不在者の相続人等に対する
管理財産の引継ぎ
不在者財産管理人の選任処分取消しの審判
(申立て又は職権)
不在者財産管理事件の手続の流れ
・・・申立人が家裁に対して行うこと 39(2) 相続財産管理制度(改正民法における相続財産清算制度)
ア 制度の概要
相続財産管理制度は、
相続人のあることが明らかでないときに、
利害関係人又は
検察官の請求により、
家庭裁判所が相続財産管理人を選任し、
相続人を捜索しつつ
相続財産を管理・清算し、最終的には残余財産を国庫に帰属させる制度である(民
法第 952 条以下)。なお、改正前民法においては、この制度により選任される者は「相続財産の管理
人」と呼称されているが、改正民法では、その職務の内容に照らして、
「相続財産
の清算人」に名称が改められた。
イ 要件等
相続財産管理制度(相続財産清算制度)を利用するためには、私道の所有者(共
有者)の一部が死亡した場合において、その者に「相続人のあることが明らかでな
いとき」に該当する必要がある(民法第 951 条、第 952 条第1項)。「相続人のあることが明らかでないとき」
の例としては、
戸籍上法定相続人がい
ない場合や、法定相続人の全員が相続の放棄をしている場合等が挙げられる。
相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を請求することができるのは、利害関
係人又は検察官である(民法第 952 条第1項)
。利害関係人とは、相続財産につい
て法律上の利害関係を有する者である。
利害関係があるか否かについては、
最終的
には家庭裁判所により判断されることとなるが、
共同所有型私道の工事を行う際に
管理に関する事項を定めたり、
変更行為を行ったりする場合や、
相互持合型私道に
ついて工事を行う場合において、同意を得ることが必要な所有者(共有者)が死亡
し、その相続人のあることが明らかでないときには、一般に、工事の実施を希望す
る他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。
また、特措法第 38 条第1項(改正特措法第 42 条第1項)は、相続財産管理人
(相続財産清算人)
の選任請求権者に関する民法の特則規定を設けており、
国の行
政機関の長又は地方公共団体の長は、
所有者不明土地につき、
その適切な管理のた
め特に必要があると認められる場合には、
利害関係の有無を問わず、
その選任請求
をすることができることとされている。
「所有者不明土地」、「その適切な管理のた
め特に必要があると認められる場合」の意味については、前記(1)イ参照。
ウ 手続の流れ
改正前民法における相続財産管理事件の手続の流れは
【図8-1】
のとおりであ
り、改正民法における相続財産清算事件の手続の流れは【図8-2】のとおりであ
る。 40(ア)相続財産管理人(相続財産清算人)の選任申立て
相続財産管理人
(相続財産清算人)
の選任の申立ては、
相続が開始した地(被相続人の最後の住所地)を管轄する家庭裁判所に行う必要がある(家事事件手
続法第 203 条第1号)。相続財産管理人
(相続財産清算人)
の選任を申し立てる際には、
「相続人のあ
ることが明らかでないこと」
や利害関係の内容等を記載した申立書を提出する。
申立添付資料として、一般には、相続人が存在しないことを証するための資料
(被相続人の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、
被相続人の父母の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄
本、
被相続人の子
〔及びその代襲者〕
で死亡している者がある場合、
その子
〔及
びその代襲者〕の出生時から死亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄
本、被相続人直系尊属の死亡の記載のある戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、被
相続人の兄弟姉妹で死亡している者がある場合、
その兄弟姉妹の出生時から死
亡時までの全ての戸籍〔除籍、改製原戸籍〕謄本、相続人が相続放棄をしてい
る場合には相続放棄の申述が受理されたことを証する資料)
、被相続人の財産
に関する資料(不動産登記事項証明書等)
、申立人の利害関係を証する資料等
の提出が求められる。
なお、申立ての際に、相続財産管理人(相続財産清算人)の報酬を含む財産
の管理・清算に要する費用を相続財産から賄うことができないことが見込まれ
る場合には、家庭裁判所の判断により、費用の予納を命じられる4。
(イ)相続財産管理人(相続財産清算人)による私道の管理
家庭裁判所により相続財産管理人(相続財産清算人)が選任された場合、相
続財産管理人(相続財産清算人)が相続財産の管理・清算を行うこととなるた
め、私道の工事等を行う場合において、同意を得る必要がある者が死亡し、そ
の相続人のあることが明らかでないときには、相続財産管理人(相続財産清算
人)の同意を得ることにより、工事を行うことができるようになる。
もっとも、相続財産管理人(相続財産清算人)の権限は、原則として、保存
行為及び目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、
その利用又
は改良を目的とする行為に限定されている(民法第 953 条、第 28 条、第 103条)。相続財産管理人(相続財産清算人)が、このような権限を超える行為を
4 前掲注3と同様に、国土交通省が創設した補助制度においては、市町村長等が負担す
ることとなる相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を申し立てる際の予納金につい
ても支援の対象となっている。 41行う必要がある場合には、家庭裁判所の許可(民法第 28 条前段)を得る必要
がある。したがって、私道について所有者(共有者)全員の同意が必要となる
ような工事を行う際には、一般には、相続財産管理人(相続財産清算人)は家
庭裁判所の許可を得る必要がある。
権限外行為に当たるか否かについて疑義が
ある場合には、
家庭裁判所に許可を受ける必要があるか否か相談することが望
ましい。
(ウ)清算手続
相続財産管理制度
(相続財産清算制度)
は、
不在者財産管理制度とは異なり、
相続財産を清算する手続であるため、相続財産管理人(相続財産清算人)が選
任された後、清算のための手続が行われる。
改正前民法と改正民法とで手続が異なることから、以下では、それぞれにつ
いて説明する。
・改正前民法
改正前民法においては、
1家庭裁判所が相続財産管理人を選任した旨を公告
した後、2か月以内に相続人のあることが明らかにならなかったときは、2相
続財産管理人は、相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上の期間を定めて、
その期間内に請求の申出をすべき旨を公告する
(改正前民法第 957 条第1項)。この公告期間の満了後、なお相続人のいることが明らかでない場合には、3家
庭裁判所が、
6か月以上の期間を定めて相続人があるならばその期間内にその
権利を主張すべき旨を公告する(改正前民法第 958 条)。相続財産管理人は、相続財産を調査し、相続債権者等に対して弁済をする等
の清算手続を行った後、特別縁故者からの相続財産分与の申立てがあれば、分
与について判断した上で、残余財産があった場合には、残余財産を国庫に帰属
させることになる(民法第 959 条)。また、
共有物については、
共有者の一人が死亡して相続人の不存在が確定し、
特別縁故者に対する財産分与もされないときは、その持分は、他の共有者に帰
属する(民法第 255 条、最判平成元年 11 月 24 日民集 43 巻 10 号 1220 頁)。このように、改正前民法においては、趣旨の重複する公告手続を3回に分け
て順次行わなければならず、
権利関係の確定に最低でも10か月を要すること
とされている。
・改正民法
改正民法においては、清算手続を合理化する観点から、公告手続の見直しを
行っている。 42すなわち、1家庭裁判所が、6か月以上の期間を定めて、相続財産清算人を
選任した旨及び相続人があるならばその期間内にその権利を主張すべき旨を
公告した後、2相続財産清算人は、相続債権者及び受遺者に対し、2か月以上
の期間
(1で相続人が権利を主張すべき期間として公告した期間内に満了する
もの)を定めて、その期間内に請求の申出をすべき旨を公告する(改正民法第
957 条第1項)
。これと並行して相続財産清算人は、相続財産を調査し、相続債
権者等に対して弁済をする等の清算手続を行う。
1の期間内に相続人のあることが明らかにならなかった場合において、
特別
縁故者からの相続財産分与の申立てがあれば、
家庭裁判所は分与について判断
する。
その上で、
残余財産があった場合には、
残余財産を国庫に帰属させるか、
共有持分が他の共有者に帰属することになる(民法第 959 条、第 255 条)。このように、改正民法においては、公告手続は2回に限られ、権利関係の確
定に必要な期間が合計6か月へと短縮されている。
(エ)相続財産管理人(相続財産清算人)による管理・清算の終了
相続財産の管理・清算手続の終了については、1相続人が財産を管理するこ
とができるようになったとき、2管理すべき財産がなくなったとき、3その他
財産の管理を継続することが相当でなくなったときは、相続財産管理人(相続
財産清算人)若しくは利害関係人の申立てにより又は職権で、財産の管理者の
選任その他の財産の管理に関する処分の取消しの審判をしなければならない
こととされている(家事事件手続法第 208 条、第 125 条第7項)。 43
【図8-1】
管理人による管理
相続財産管理人選任の申立て
審理
・戸籍上相続人が存在しない場合
・戸籍上相続人がいるが,相続資格がない場合(相続放棄等)
・相続財産が存在することの確認
相続財産管理人選任の審判
権限外行為許可の申立て
許可審判
・土地売買契約の締結のため
・遺産分割協議のため 等
(公告期間満了)相続人不存在の確定
管理人に対する報酬付与の申立て
報酬付与審判
相続財産管理人選任の公告
相続債権者・受遺者に対する請求申出の
公告
相続人捜索の公告
2か月経過後
2か月以上の一定期間経過後
6か月以上の一定期間
特別縁故者に対する財産分与の申立て
却下の審判 分与の審判
分与の実行
財産の引継ぎ
相続財産管理人の選任処分取消しの審判
(申立て又は職権)
終了原因の発生 ・管理・清算すべき財産がなくなったとき 等
相続財産管理事件の手続の流れ 44【図8-2】
相続財産清算人選任の申立て
審理
・戸籍上相続人が存在しない場合
・戸籍上相続人がいるが,相続資格がない場合(相続放棄等)
・相続財産が存在することの確認
相続財産清算人選任の審判
権限外行為許可の申立て
許可審判
・土地売買契約の締結のため
・遺産分割協議のため 等
(公告期間満了)相続人不存在の確定
清算人に対する報酬付与の申立て
報酬付与審判
相続財産清算人の選任
及び相続人捜索の公告
相続債権者・受遺者に対す
る請求申出の公告
6か月以上の
一定期間
特別縁故者に対する財産分与の申立て
却下の審判 分与の審判
分与の実行
財産の引継ぎ
相続財産清算人の選任処分取消しの審判
(申立て又は職権)
終了原因の発生 ・管理・清算すべき財産がなくなったとき 等
相続財産清算事件の手続の流れ
2か月以上の
一定期間
清算人による管理 45コラム:改正民法1
しろまる 相続人が判明しているかどうかを問わず利用が可能な相続財産の保存のための相
続財産管理制度
改正前民法は、
相続財産が相続人によって管理されないケースに対応するために、
相続の承認又は放棄がされるまでなど、相続の段階ごとに、家庭裁判所が相続財産
管理人を選任するなどの相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを
設けている(改正前民法第 918 条第2項、第 926 条第2項、第 940 条第2項)。もっとも、共同相続人が相続の単純承認をしたが遺産分割が未了である場合につ
いては、相続財産はなお暫定的な遺産共有状態にあり、相続財産の保存が引き続き
問題となり得るにもかかわらず、相続財産の管理のための規定が設けられていない
などの課題があった。
改正民法では、相続が開始すれば、相続の段階にかかわらず、いつでも、家庭裁
判所は、相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分をすることが
できるとの包括的な規定を設けている(改正民法第 897 条の2第1項)。これにより、これまで規定がなかった、共同相続人が相続の単純承認をしたが遺
産分割が未了である場合において、相続財産の管理を行う者がいないケースについ
ても、相続財産の保存に必要な処分をすることが可能となる。例えば、相続財産に
属する私道について相続人が保存行為をしないケースにおいては、必要があると認
められれば、相続財産の保存のための相続財産管理人を選任し、保存行為をさせる
ことが可能となると考えられる。
しろまる 相続の放棄をした者による相続財産の管理
改正前民法においては、相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となっ
た者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の
注意をもって、その財産の管理を継続しなければならないとされている(改正前民
法第 940 条第1項)。もっとも、法定相続人の全員が相続の放棄をし、次順位の相続人が存在しない場
合に、誰が管理継続義務を負うかは、必ずしも明らかではない。また、相続の放棄
をした者が相続財産を現に占有していない場合にまで管理継続義務を負うかどうか
や、その義務の内容及び終期も明らかではないため、相続の放棄をしたにもかから
ず、過剰な負担を強いられるケースがあるとの指摘があった。
改正民法第 940 条第1項は、相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に 46属する財産を現に占有しているときは、相続人又は改正民法第 952 条第1項の相続
財産清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるとの同一の
注意をもって、その財産を保存しなければならないものとした。
これにより、
1相続の放棄をした者が改正民法第 940 条第1項の義務を負うのは、
放棄の申述時に相続財産に属する財産を現に占有している場合に限られ、被相続人
の占有を観念的にのみ承継している場合には、同項の義務を負わないこと、2同項
の義務の内容は、現に占有している財産の保存にとどまり、それを超えた管理義務
を負うわけではないこと、3同項の義務は、相続人や改正民法第 952 条第1項の相
続財産清算人に対して当該財産を引き渡すことによって終了することが明確にされ
た。
例えば、子Aが、親Bの所有に係る建物にBと共に居住し、Bの共有に係る私道
を使用していた場合において、Bが死亡し、Aが相続の放棄をしたケースでは、A
が放棄時にその建物や私道を現に占有していたと評価されるときは、
改正民法第 940
条第1項の義務を負うものと考えられる。
他方で、相続の放棄をした者が、被相続人の生前から遠方に居住しており、被相
続人が所有していた建物や私道を放棄時に現に占有していたと評価されないとき
は、同項の義務を負わないものと考えられる。
しろまる 現行民法は、相続財産が相続人によって管理されないケースに
対応するために、家庭裁判所が、相続財産の管理人を選任する
など相続財産の保存に必要な処分をすることができる仕組みを相
続の段階ごとに設けている。
しろまる しかし、共同相続人による遺産共有状態であるケースや、
相続人のあることが明らかでないケースについては、規定がなく、
相続財産の保存に必要な処分ができない。
改正法
問題の所在
・ 相続人が相続の承認又は放棄をするまで(改正前民法
918II)
・ 限定承認がされた後(改正前民法926II)
・ 相続の放棄後次順位者への引継ぎ前(改正前民法940II)
改正法
問題の所在
相続の放棄をした者の管理義務の明確化
不在者の財産の管理の合理化
相続開始
限定承認後 相続人不分明
単純承認後
遺産分割前
相続の放棄後
財産引継ぎ前
改正により可能に
現行法でも可能
相続財産の保存のための相続財産管理制度の見直し
改正法
問題の所在
しろまる 現行民法上、相続の放棄をした者は、相続財産の管理を継
続しなければならないとされている(改正前民法940I)。
しろまる しかし、管理継続義務の発生要件や内容が明らかでないた
め、相続の放棄をしたのに過剰な負担を強いられるケースも。
しろまる 不在者財産管理人による管理、処分等により金銭が生じた
場合に、職務を終了できず、管理が長期化。
しろまる 不在者財産管理人による供託の規律を新設(改正家事法
146の2)。供託をしたときは公告をする必要。
→ 適時に職務を終了させることが可能に。
(注記) 相続財産の保存に必要な処分により選任された相続財産管理人に
ついても、同様に、供託の規律を新設
しろまる 相続の放棄の時に現に占有している相続財産につき、相続
人(法定相続人全員が放棄した場合は、相続財産の清算
人)に対して当該財産を引き渡すまでの間、その財産を保存
しなければならないことを明記(改正民法940I) 。
相続の承認/放棄前
しろまる 相続が開始すれば、相続の段階にかかわらず、いつでも、家庭
裁判所は、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保
存に必要な処分をすることができるとの包括的な制度に改正
(改正民法897の2)。
財産管理制度に関するその他の見直し 47(3) 会社法等に基づく清算制度
私道の工事を行うために同意を得る必要がある所有者(共有者)が解散した法人
であり、清算人となる者がいないため、必要な同意を得ることが困難な場合には、
私道の工事を行おうとする者は、利害関係人の申立てに基づいて裁判所が選任した
清算人から、私道の工事に関する同意を得ることが考えられる。
法人には、株式会社、一般社団・財団法人等があり、これらの法人が解散した場
合には、原則として、各法人について規定された法律に基づき、清算手続が開始さ
れることとなる(会社法第 475 条第1項等)。法律上定められた清算人となる者(株式会社の場合には、取締役、定款で定める
者、株主総会の決議によって選任された者)がいない場合には、利害関係人の申立
てにより、裁判所が清算人を選任する(会社法第 478 条第2項)。清算人が選任されると、清算人の申請に基づき、法人の登記簿に清算人の登記が
される。清算人は、原則として、清算法人を代表するため(会社法第 483 条第1項等)、
私道の工事を行おうとする者は、
清算人の同意を得て工事を行うことができる。
清算人が清算に関する業務を行い、清算法人について、清算の事務が終了して清算
が結了すると、清算人の申請に基づき清算結了の登記が行われ、これにより、当該
法人の登記記録は、閉鎖される。なお、清算結了の登記がされた法人であっても、
当該法人名義の土地が存在するなど残余財産があることが判明した場合には、残余
財産の分配等の清算手続を行うため、裁判所に清算人の選任の申立てを行うことが
可能であると解されている。
(4) 所有者不明土地管理制度
ア 制度の概要(
【図9-1】及び【図9-2】参照)
前記のとおり、改正前民法の下では、所有者不明土地を管理するために、不在者
財産管理制度や相続財産管理制度等が利用されていたが、
これらの制度に対しては、
問題となっている土地だけでなく、不在者の他の財産や他の相続財産全般を管理す
ることになり、必要な予納金の額がより高額になるなど、費用対効果の観点からは
合理性に乏しいとの指摘があった。
そこで、改正民法では、所有者不明土地の適正かつ円滑な管理を実現するため、
所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない個々の土地につい
て、裁判所が、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人による管理を命ず
る処分をすることを可能とする所有者不明土地管理制度が創設された(改正民法第
264 条の2〜第 264 条の7)。所有者不明土地管理制度は、所在等不明となっている所有者が自然人である場合 48のみならず、法人である場合であっても、利用することが可能である。
イ 要件等
共同所有型私道について、所有者不明土地管理制度を利用するためには、その私
道について「共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地
の共有持分」がある必要があり、相互持合型私道について、所有者不明土地管理制
度を利用するためには、その私道が「所有者を知ることができず、又はその所在を
知ることができない土地」
である必要がある
(改正民法第 264 条の2第1項)。また、
いずれの場合においても、所有者不明土地管理命令の発令には、所有者不明土地を
管理人に管理させる必要性が認められなければならない。
所有者(共有者)の所在を知ることができないときの意味については、所有者(共
有者)がどのような者であるか(自然人であるか、法人であるか等)によって分け
られるが、その内容については、前記1(4)イ参照。
いずれのケースにおいても、
この要件の充足が認められるためには、
私道
(土地)
の不動産登記簿や住民票等の公的記録の調査など、
必要な調査をしても、
所有者(共有者)を特定することができない、又は知ることができないことが必要となる。そ
のほか、事案にもよるが、当該私道の利用状況を確認したり、他に連絡等をとるこ
とができる者がいればその者に確認したりするなどの調査も必要とされる場合があ
ると解される。
所有者不明土地管理命令を請求することができるのは、利害関係人であり(改正
民法第 264 条の2第1項)
、ここでいう利害関係人とは、対象とされている土地の管
理についての利害関係を有する者である。
利害関係があるか否かについては、最終的には裁判所により判断されることとな
るが、共同所有型私道の工事を行う際に管理に関する事項を定めたり、変更行為を
行ったりする場合や、相互持合型私道について工事を行う場合において、同意を得
ることが必要な所有者(共有者)が所在等不明であるときは、一般に、工事の実施
を希望する他の所有者(共有者)は、利害関係人に該当するものと考えられる。
また、特措法第 38 条第2項(改正特措法第 42 条第 2 項5)は、所有者不明土地管
理命令の請求権者に関する民法の特則規定を設けており、国の行政機関の長又は地
方公共団体の長は、所有者不明土地につき、その適切な管理のため特に必要がある
と認められる場合には、利害関係の有無を問わず、その請求をすることができるこ
5 なお、改正特措法第 42 条第2項については、改正法により、所有者不明土地管理命
令の請求権者に関する民法の特則規定が第 38 条第2項として設けられた後、特措法改
正法により、同条が第 42 条に改められた。 49ととされている。ここでの「所有者不明土地」、「その適切な管理のため特に必要が
あると認められる場合」の意味については、前記4(1)イ参照。
ウ 手続の流れ
(ア)所有者不明土地管理命令の請求
所有者不明土地管理命令の請求は、
私道の所在地を管轄する地方裁判所に行
う必要がある(非訟事件手続法第 90 条第1項)。所有者不明土地管理命令の請求をする際には、
「申立ての趣旨及び原因」並
びに「申立てを理由づける事実」等を記載した申立書を提出する。
申立添付資料として、
所有者不明土地管理命令の対象となるべき土地の所有
者(共有者)が所在等不明であることを証するための資料等が必要となる。
なお、
請求の際には、
管理人の報酬を含む管理に要する費用の確保のために、
裁判所の判断により、管理費用の予納を命じられる6。
(イ) 所有者不明土地管理人による私道の管理
裁判所により選任された所有者不明土地管理人は、所在等不明の所有者(共
有者)に代わって私道の管理を行うこととなるため、私道の工事等を行う場合
において、所在等不明の所有者(共有者)の同意を得る必要があるときには、
所有者不明土地管理人の同意を得ることにより、
工事等を行うことができるよ
うになる。
もっとも、所有者不明土地管理人の権限は、原則として、保存行為及び所有
者不明土地等の性質を変えない範囲内において、
その利用又は改良を目的とす
る行為に限定されている(改正民法第 264 条の3第2項)
。所有者不明土地管
理人が、このような権限を超える行為を行う必要がある場合には、裁判所の許
可を得る必要がある。私道について所有者(共有者)全員の同意が必要となる
ような工事を行う際には、一般的には、所有者不明土地管理人は裁判所の許可
を得る必要がある。
(ウ) 所有者不明土地管理人による管理の終了
裁判所は、管理すべき財産がなくなったときその他財産の管理を継続するこ
とが相当でなくなったときは、所有者不明土地管理人若しくは利害関係人の申
立てにより又は職権で、所有者不明土地管理命令を取り消さなければならない
こととされている(改正非訟事件手続法第 90 条第 10 項)。「財産の管理を継続
6 前掲注3及び4と同様に、国土交通省が創設した補助制度において、市町村長等が負
担することになる所有者不明土地管理人の選任を申し立てる際の予納金についても、支
援の対象となっている。 50することが相当でなくなったとき」とは、土地の管理の必要性がなくなった場
合や、管理に要する費用を支弁するのが困難である場合等をいうものと解され
ている。
また、所有者不明土地等の所有者が自己に所有権が帰属することを証明した
ときは、
当該所有者の申立てにより、
裁判所は、
所有者不明土地管理命令を取り
消さなければならないとされている(同条第 11 項)。【図9-1】
現行の財産管理制度は、対象者の財産全般を管理する「人単
位」の仕組みとなっている。
→ 財産管理が非効率になりがちになり、申立人等の利用者にと
っても負担大。
→ 所有者を全く特定できない土地・建物については、既存の各
種の財産管理制度を利用することができない。
特定の土地・建物のみに特化して管理を行う所有者不明土地
管理制度及び所有者不明建物管理制度を創設(改正民法264
の2〜264の8)
⇒ 土地・建物の効率的かつ適切な管理を実現
⇒ 所有者が特定できないケースについても対応が可能に
問題の所在
【不在者財産管理人】(民法25I)
従来の住所等を不在にしている自然人の財産
の管理をすべき者がいない場合に、家庭裁判所
により選任され、不在者の財産の管理を行う。
【相続財産管理人】 (改正前民法952I)
自然人が死亡して相続人がいることが明らかでない
場合に、家庭裁判所により選任され、相続財産の
管理・清算を行う。
【清算人】(会社法478II)
法人が解散した(みなし解散を含む)が、清算
人となる者がない場合に、地方裁判所により選
任され、法人の財産の清算を行う。
・他の財産の調査・管理は不要であり、管理期間も短縮化する
結果、予納金の負担も軽減。
・複数の共有者が不明となっているときは、不明共有持分の総体
について一人の管理人を選任することが可能に。
・土地・建物以外の財産を調査して管理しなければならず、管理
期間も長期化しがち。予納金の高額化で申立人にも負担大。
・土地・建物の共有者のうち複数名が所在不明者であるときは、
不明者ごとに管理人を選任する必要があり、更にコストがかさむ。
現行法での所有者不明土地・建物の管理
改正法
申立権者 【利害関係人に当たり得る者の例】
しろまる公共事業の実施者など不動産の利用・取得
を希望する者
しろまる共有地における不明共有者以外の共有者
管理人による管理の対象となる財産
しろまる 土地・建物の所有者が、調査を尽くしても不明である場合には、土地・建物の管理・処分が困難になる。
しろまる 公共事業の用地取得や空き家の管理など所有者の所在が不明な土地・建物の管理・処分が必要であるケースでは、現行法上、
所有者の属性等に応じて下記の財産管理制度が活用されている。
しろまる 管理命令の効力は、所有者不明土地(建物)のほか、土地(建物)にある所有者の動産、管理人が得た金銭等の財産(売却代金等)、建物の場合
はその敷地利用権(借地権等)にも及ぶが、その他の財産には及ばない(改正民法264の2II、264の8II)。
(注記) 所有者不明土地上に所有者不明建物があるケースで、土地・建物両方を管理命令の対象とするためには、土地管理命令と建物管理命令の双方を申し立てる必要。土地・建物
の管理人を同一の者とすることも可能だが、土地・建物の所有者が異なるケース等では利益相反の可能性を考慮して慎重に判断。
しろまる所有者不明土地・建物の管理について利害関係を有する利害関係人(改正民法264の2I、264の8I)。
(注記)地方公共団体の長等には所有者不明土地管理命令の申立権の特例あり(特措法38II(改正特措法42II))。
所有者不明土地・建物管理制度1 51【図9-2】
職務の終了
(管理命令の取消)
・ 売却代金は管理人が供託・公告
・ 管理すべき財産がなくなるなど管理の
継続が相当でなくなったときは、管理
命令を取消し
・ 管理命令の登記を抹消
発令要件等 【所有者の調査方法の例】
しろまる登記名義人が自然人である場合
...登記簿、住民票上の住所、戸籍等を調査。
しろまる登記名義人が法人である場合
...法人登記簿上の主たる事務所の存否のほか、代表者
の法人登記簿上・住民票上の住所等を調査。
しろまる所有者が法人でない社団である場合
...代表者及び構成員の住民票上の住所等を調査。
(注記)事案に応じて現地調査が求められる。
管理人の権限・義務等
管理命令の発令・
管理人の選任
異議届出期間の
公告
申立て・証拠提出
管理人による
管理
・ 不動産所在地の地方裁判所が
管轄
・ 利害関係人が申立て
・ 管理費用の確保のため基本的
に予納金の納付が必要
・1か月以上の
異議届出期間等
を定めて、公告
・ 一部の共有者が不明であるときは、その持分を対象と
して発令
・ 管理人としてふさわしい者(弁護士、司法書士、土
地家屋調査士等)を事案に応じて選任
・ 管理命令の嘱託登記により選任の事実を公示
手続の流れ
しろまる 調査を尽くしても所有者又はその所在を知ることができないこと
しろまる 管理状況等に照らし管理人による管理の必要性があること
(注記) 処分の是非等の法的判断が必要となるケース(売却代金額の相当性の判断や、数人の者の共有持
分を対象として管理命令が発せられ、誠実公平義務の履行が問題となるケースを含む。)では弁護士・司
法書士を、境界の確認等が必要となるケースでは土地家屋調査士を管理人として選任することが
考えられる。
(注記) 区分所有建物については、所有者不明建物管理制度は適用されない(改正区分所有法6IV)。
しろまる 対象財産の管理処分権は管理人に専属し、所有者不明土地・建物等に関する訴訟(例:不法占拠者に対する明渡請求訴訟)におい
ても、管理人が原告又は被告となる(改正民法264の4、264の8V) 。
しろまる 管理人は、保存・利用・改良行為を行うほか、裁判所の許可を得て、対象財産の処分(売却、建物の取壊しなど)をすることも可能(改
正民法264の3II、264の8V)。売却の際には、管理人は、借地関係等の利用状況や売買の相手方を慎重に調査することが重要。
(注記) 不明相続人の遺産共有持分について選任された管理人は、遺産分割をする権限はないが、遺産共有持分に係る権限の範囲内での管理行為や、持分の処分が可能。
しろまる 管理人は、所有者に対して善管注意義務を負う。また、数人の共有者の共有持分に係る管理人は、その対象となる共有者全員のた
めに誠実公平義務を負う。 (改正民法264の5、264の8V)
しろまる 管理人は、所有者不明土地等(予納金を含む)から、裁判所が定める額の費用の前払・報酬を受ける(費用・報酬は所有者の負担)。 (改
正民法264の7I・II)
しろまる 土地・建物の売却等により金銭が生じたときは、管理人は、供託をし、その旨を公告(改正非訟事件手続法90VIII、XVI)。
所有者不明土地・建物管理制度2 52コラム:改正民法2
しろまる 不在者財産管理制度・相続財産清算(管理)制度と所有者不明土地管理制度との
適用関係
不在者財産管理制度や相続人不分明の場合の相続財産清算(管理)制度といった
既存の財産管理制度と、新たに設けられた所有者不明土地管理制度とは、要件や効
果が異なるため、ある財産管理制度の要件を満たす場合に、他の制度の適用を排除
することとはされていない。例えば、土地の所有者の所在が不明であり、不在者財
産管理制度と所有者不明土地管理制度の要件をいずれも満たすときは、利害関係人
としては、いずれの財産管理制度も利用することができる。実際にどの財産管理制
度を利用するかは、手続の目的、対象となる財産の状況や、管理人の権限等の違い
を踏まえ、個別具体的なケースに応じて、適切な制度を申立人自身が適宜選択する
ことが想定される。
また、ある土地の所有者について不在者財産管理人又は相続財産清算人が選任さ
れている場合において、当該土地について所有者不明土地管理命令の請求がされる
こともあり得る。もっとも、土地の所有者について不在者財産管理人等が既に選任
されている場合には、その土地を含む当該所有者の財産全般の管理がその管理人等
に委ねられることになるから、それとは別に、所有者不明土地管理命令を発する必
要は基本的にないものと考えられる。そのため、そのような場合において、当該土
地について所有者不明土地管理命令の請求がされたときは、通常は却下されるもの
と考えられる。
他方で、ある土地について所有者不明土地管理人が既に選任されている場合であ
っても、その土地を含む当該所有者の財産全般を管理するために、不在者財産管理
人又は相続財産清算人の選任が必要となることもあり得る。そのような場合には、
当該土地の所有者について不在者財産管理人等の選任の申立てがされたときは、不
在者財産管理人等の選任が認められることもあるものと考えられる。不在者財産管
理人等が選任された場合には、所有者不明土地管理人による管理を継続する必要は
ないため、基本的には、所有者不明土地管理命令を取り消すことになると考えられ
る。 53コラム:特措法
しろまる 特措法の制定と、その後の所有者不明土地対策の進展
平成 30 年に制定された特措法では、
1同法に規定された要件を満たす所有者不明土地について、公共的な目的のため
に利用することができる制度(地域福利増進事業)や、公共事業において所有
者不明土地を収用する際に収用委員会の審理手続を省略する制度(土地収用法
の特例手続)、2所有者の探索を合理化するために公的書類を調査することができる制度(土地
所有者等関連情報の利用・提供の特例)のほか、
3第2章4において紹介した不在者財産管理制度及び相続財産管理制度につい
て、国の行政機関の長又は地方公共団体の長が管理人の選任の請求をすること
ができる制度(民法の特則規定)
が設けられている(特措法第3章第1節〜第3節及び第4章第1節)。また、特措法の活用実績としては、
1地域福利増進事業の裁定については、1件(令和4年4月1日時点)
、土地収用
法の特例手続については、6件(令和4年2月末時点)
2土地所有者等関連情報の利用・提供の特例については、約 780 件(令和3年 12
月末時点)
3民法の特則規定に基づき申立てがされた件数については、不在者財産管理人の
選任は 83 件、相続財産管理人の選任は 117 件(令和3年 12 月末時点)
となっている。
特措法の制定後には、令和2年の土地基本法の改正や令和3年の民事基本法制の
見直しなど、政府一丸となって所有者不明土地に対する取組を進めてきたところで
あるが、今後も所有者不明土地の更なる増加が見込まれることなどから、所有者不
明土地の利用の円滑化の促進と管理の適正化を図るため、令和4年4月 27 日に「所
有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律」が成立
し、同年5月9日に公布された(令和4年法律第 38 号)。しろまる 所有者不明土地の管理の適正化を図るため現場で取り得る手段を充実
令和2年の土地基本法の改正により、土地に関する基本理念として、土地の適正
な「管理」に関する土地所有者等の「責務」が規定された。
この点、所有者不明土地は、所有者による自発的な管理が期待できず、管理が適 54正に実施されない蓋然性が高い土地であるとともに、管理の適正化に条例で対応す
る市町村も存在するが、所有者が判明していない場合は条例に基づく代執行の実施
が困難であるという課題が存在し、地域住民等の生命・財産に対する悪影響が生じ
ているところである。
このことから、改正特措法では、改正土地基本法の理念を施策として具体化する
ため、所有者不明土地であって管理不全状態となっているものについても、管理の
適正化が図られるよう、以下のとおり、行政的・民事的措置の両面から、市町村長
の取り得る手段を充実させることとされた。
1 引き続き管理が実施されないと見込まれる所有者不明土地について、周辺の
地域における災害等の発生を防止するため、市町村長による勧告・命令・代執
行制度を創設
2 同様の場合に、民法の管理不全土地管理命令の請求権を市町村長に付与(民
法の特則規定)
3 上記の1及び2の準備のため、土地所有者等関連情報の利用・提供の特例を
導入
なお、改正特措法は、原則として、公布から6月を超えない範囲内の政令で定め
る日から施行することとされているが、2民法の特則規定については、改正法の施
行の日(令和5年4月1日)から施行することとされている。
正当な理由なく
措置しない場合
所有者が
全員不明の場合
十分な措置が
行われない場合等
市町村長が
確知所有者に命令
所有者不明土地が管理不全状態であることにより周囲に災害等の悪影響の発生のおそれ
所有者不明土地の管理の適正化を図るための現場で取り得る手段
所有者が
一部不明の場合
必要な持分を有さず
措置できない場合
市町村長が管理人の選任を
地方裁判所へ請求
(管理不全土地管理命令)
行政的・民事的措置の両面から、管理不全土地対策に取り組む市町村長の取り得る手段を充実
1 市町村長が直接対応することを可能とする勧告・命令・代執行を行うことができることとする
2 民法改正により創設された管理不全土地管理命令を市町村長が請求できることとする
(注)多数の人命や財産に影響を及ぼす災害等の防止は、個別規制法(宅造法等)による措置や公共事業(急傾斜地崩壊対策事業等)により対応
所有者不明土地の管理不全状態が解消
市町村長が自ら措置を実施(代執行)
市町村長が
確知所有者等に勧告
(注記)対象土地には隣接する土地を含む
(注記)併せて対象土地に存する建物に
ついての管理命令も可能に
選任された管理人が
措置を実施
(注記)隣接する土地の所有者も含む
上記の勧告等の準備のため、土地所有者の探索に必要な公的情報(注記)の利用・提供を可能とする
(注記)(例)固定資産課税台帳、地籍調査票、農地台帳 55コラム:改正民法3
しろまるライフラインの設備設置権・設備使用権の創設
現行法では、他人の土地や導管等の設備を使用しなければ電気、水道、ガスなどの
ライフラインを引き込むことができない土地の所有者は、民法の相隣関係規定や下水
道法第 11 条等の類推適用により、
他の土地への設備の設置や他人の設備の使用が可能
と解されているが、類推適用される規定は必ずしも定まっていない。
そのため、私道の隣接地を所有する者が自己の土地にライフラインを引き込むため
に当該私道に設備を設置し、又は当該私道内の設備を使用する必要がある場合におい
て、私道又は設備の所有者・共有者の一部が所在等不明であるケースや設備の設置・
使用を拒むケース等では、設備の設置・使用をすることが実際上困難であり、対応に
苦慮する事態が生じていた(私道の所有者等から不当な承諾料を求められることもあ
るといわれている。)。
そこで、改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し又は他人
が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する
継続的給付を受けることができないときは、継続的給付を受けるために必要な範囲内
で、他の土地に設備を設置する権利(設備設置権)又は他人が所有する設備を使用す
る権利(設備使用権)を有することが明記された。
あわせて、
他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者の権利に配慮し、
設備の設置・使用の方法、事前の通知や償金の支払などに関するルールが設けられる
などの改正が行われた(改正民法第 213 条の2、第 213 条の3)。 56
問題の所在
(1) 設備設置権(他の土地にライフラインの設備を設置する権利)の明確化
他の土地に設備を設置しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を受けることができない土地の
所有者は、必要な範囲内で、他の土地に設備を設置する権利を有することを明文化(改正民法213の2I )
(注記) 「その他これらに類する継続的給付」には、電話・インターネット等の電気通信が含まれる。
(注記) 隣接していない土地についても、必要な範囲内で設備を設置することが可能(例:上図の「Z土地」での給水管の設置)。
(注記) 土地の分割・一部譲渡によって継続的給付を受けることができなくなった場合は、分割者又は譲渡者の所有地のみに設備設置可(改正民法213の3)
(2) 設備使用権(他人が所有するライフラインの設備を使用する権利)の明確化
他人が所有する設備を使用しなければ電気、ガス又は水道水の供給その他これらに類する継続的給付を引き込むことができない土地
の所有者は、必要な範囲内で、他人の所有する設備を使用する権利を有することを明文化(改正民法213の2I )
(3) 場所・方法の限定
設備の設置・使用の場所・方法は、他の土地及び他人の設備のために損害が最も少ないものに限定(改正民法213の2II )
(注記) 設備設置等の方法が複数ある場合(例:上図の「Y・Z土地」にも接続可能な給水管が既に設置されている場合)も、最も損害が少ない方法を選択。
(注記) 設備を設置する場合には、公道に通ずる私道や公道に至るための通行権(民法210)の対象部分があれば、通常はその部分を選択。
1. 明文の規定がないため、設備の設置・使用に応じてもらえないときや、所有者が所
在不明であるときなどには、対応が困難
2. 権利を行使する際の事前の通知の要否などのルールが不明確
3. 土地・設備の使用に伴う償金の支払義務の有無などのルールが不明確で、不当な
承諾料を求められるケースも
しろまる 他人の土地や設備(導管等)を使用しなければ各種ライフラインを引き込むことがで
きない土地の所有者は、解釈上、現行の相隣関係規定等の類推適用により、他人の
土地への設備の設置や他人の設備の使用をすることができると解されている。
1.ライフラインの設備の設置・使用権に関する規律の整備←改正法
しろまる 設備設置・使用権がある場合も、一般的に、自力執行は禁止されているため、例えば、設備設置・使用を拒まれた場合には、妨害禁止の判決を求めることになる。
しろまる 他方で、事案ごとの判断ではあるが、例えば、他の土地が空き地になっており、実際に使用している者がおらず、かつ、設備の設置等が妨害されるおそれもない場合には、
裁判を経なくても適法に設備の設置等を行うことができると考えられる。
しろまる 設備の設置工事等のために一時的に他の土地を使用する場合には、隣地使用権の規律(P25の1)が準用される(改正民法213の2IV・V)。
ライフラインの設備の設置・使用権1
しろまる 他の土地に設備を設置し又は他人の設備を使用する土地の所有者は、あらかじめ(ア)、その目的、場所及び方法を他の土
地・設備の所有者(イ)に通知(ウ)しなければならない(改正民法213の2III)。
ア 通知の相手方が、その目的・場所・方法に鑑みて設備設置使用権の行使に対する準備をするに足りる合理的な期間を置く必要(事案によるが、2週間〜
1か月程度)。
イ 他の土地に設備を設置する場合に、他の土地に所有者とは別の使用者(賃借人等)がいるときは使用者にも通知する必要(改正民法213の2III)。
他人の設備に所有者とは別の使用者がいたとしても、通知は法律上は求められていないが、使用者への影響も考慮し、事実上通知することが望ましい。
ウ 通知の相手方が不特定又は所在不明である場合にも、例外なく通知が必要(簡易裁判所の公示による意思表示(民法98)を活用)。
(注記) 設備の設置工事等のために一時的に他の土地を使用する場合には、当該使用についても併せて通知(改正民法213の2IV、209III)
(1) 他の土地への設備設置権
土地の所有者は、他の土地に設備を設置する際に次の損害が生じた場合には、償金を支払う必要。
1 設備設置工事のために一時的に他の土地を使用する際に、当該土地の所有者・使用者に生じた損害(改正民法213の2IV、209IV)
⇒ 償金は一括払い (例)他の土地上の工作物や竹木を除去したために生じた損害
2 設備の設置により土地が継続的に使用することができなくなることによって他の土地に生じた損害(改正民法213の2V)
⇒ 償金は1年ごとの定期払が可能 (例)給水管等の設備が地上に設置され、その場所の使用が継続的に制限されることに伴う損害
2. 事前通知の規律の整備
3. 償金・費用負担の規律の整備
(注記) 償金の支払を要する「損害」は、1については実損害であり、2については設備設置部分の使用料相当額である。事案ごとの判断ではあるが、導管などの設備を地下に設
置し、地上の利用自体は制限しないケースでは、損害が認められないことがあると考えられる。他の土地の所有者等から設備の設置を承諾することに対するいわゆる承諾
料を求められても、応ずる義務はない。
(注記) 土地の分割又は一部譲渡に伴い、分割者又は譲渡者の所有地のみに設備の設置しなければならない場合には、2の償金を支払うことを要しない(改正民法213の3
I後段・II)。
(2) 他人が所有する設備の使用権
1 土地の所有者は、その設備の使用開始の際に損害が生じた場合に、償金を支払う必要。
⇒ 償金は一括払い(改正民法213の2VI) (例)設備の接続工事の際に一時的に設備を使用停止したことに伴って生じた損害
2 土地の所有者は、その利益を受ける割合に応じて、設備の修繕・維持等の費用を負担(改正民法213の2VII)
ライフラインの設備の設置・使用権2 57コラム:改正民法4
しろまる設備設置権・設備使用権と共同所有型共有私道
共同所有型私道の隣地を所有する者が、当該私道に継続的給付を受けるための
設備を設置し、又は当該私道の共有者が共有する設備を使用しようとする場合
に、当該私道の共有者の一部が所在等不明であったり、設備の設置・使用に反対
していたりするケースがある。
このようなケースで、私道の共有者が設備の設置や使用を認めることは、共有
物の管理に関する事項(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252 条第 1 項)に
該当すると考えられるため、当該私道の共有者の持分の過半数の同意が得られれ
ば、隣地所有者は、当該私道に設備を設置し、又は私道共有者が共有する設備を
使用することが可能である(改正民法においては、所在等不明共有者以外の共有
者による管理の裁判や、賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を活用す
ることも可能であることにつき、前記1(4)及び(5)参照)。また、改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は
他人が所有する設備を使用しなければ継続的給付を受けることができないとき
は、当該他の土地等の所有者に対する通知を行った上で、継続的給付を受けるた
めに必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用
することができる旨が明確化された(改正民法第 213 条の2第1項)。そのため、隣地所有者は、設備の設置等について私道の共有者の過半数の同意
が得られなくとも、上記の設備設置権・設備使用権に基づいて、当該私道に設備
を設置し、又は私道共有者が共有する設備を使用することができる。私道の共有
者の一部が所在等不明である場合には、隣地所有者は、公示による意思表示によ
って事前通知を行った上で、当該私道において設備の設置・使用をすることがで
きる。
なお、私道を使用する私道共有者が、隣地所有者による設備の設置・使用に反
対している場合には、一般に自力執行は禁じられていることから、隣地所有者
は、妨害禁止の判決を得た上で、設備を設置・使用することとなる。 58コラム:改正民法5
しろまる隣地使用権及び越境した枝葉の切取り
(1) 隣地使用権
私道において導管等の工作物の設置工事等を行おうとする場合に、隣地を使用
する必要があるケースがある。
現行法では、土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造
し又は修繕するために必要な範囲内で、他人の所有する隣地の使用を請求するこ
とができるとされている(改正前民法第 209 条第1項本文)。しかし、
「隣地の使用を請求することができる」の解釈については争いがあ
り、例えば、隣地の所有者等の所在等が不明である場合に隣地を使用することが
できるか否かは必ずしも明確でなく、また、障壁・建物の築造・修繕以外の目的
のために隣地を使用することができるか否かが不明確であるとの指摘があった。
こうした指摘を踏まえ、改正民法においては、1境界又はその付近における障
壁、建物その他の工作物の築造、収去若しくは修繕、2境界標の調査又は境界に
関する測量又は3改正民法第 233 条第3項の規定による越境した枝の切取りの目
的のため必要な範囲内で、隣地の所有者等の承諾がなくとも、その使用する権利
を有することが明らかにされるとともに(改正民法第 209 条第1項)
、隣地所有
者及び隣地使用者の利益を保護するために、その使用方法の限定や事前通知など
の規律が新たに設けられた(同条第2項〜第4項)。改正法
問題の所在
土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することが
できる(改正前民法209I本文)。
1. 「隣地の使用を請求することができる」の具体的意味が判然とせず、隣地所有者が所在不明である場合等で対応が困難
2. 障壁・建物の築造・修繕以外の目的で隣地を使用することができるかどうかが不明確で、土地の利用・処分を阻害
(1) 障壁、建物その他の工作物の築造、収去、修繕
(2) 境界標の調査・境界に関する測量
(3) 新民法233IIIによる越境した枝の切取り(改正民法209I)
2.隣地使用が認められる目的を拡充・明確化
1.隣地使用権の内容に関する規律の整備
しろまる 土地の所有者は、所定の目的のために必要な範囲内で、隣地を
使用する権利を有する旨を明確化(改正民法209I)
しろまる 隣地所有者・隣地使用者(賃借人等)の利益への配慮
・ 隣地使用の日時・場所・方法は、隣地所有者及び隣地使用者
のために損害が最も少ないものを選ばなければならない(改正民法
209II)
・ 隣地使用に際しての通知に関するルールを整備(改正民法
209III)←【原則】
隣地使用に際しては、あらかじめ((注記))、その目的、日時、場
所及び方法を隣地所有者に(隣地所有者とは別に隣地使用者がい
るときは隣地使用者にも)通知しなければならない。
(注記) 隣地使用の目的・日時・場所・方法に鑑み、通知の相手方が準備をする
に足りる合理的な期間を置く必要(事案によるが、緊急性がない場合は通
常は2週間程度)。
隣地所有者及び隣地使用者への通知
【例外】
あらかじめ通知することが困難なときは、隣地の使用を開始し
た後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
例 ・ 急迫の事情がある場合(建物の外壁が剥落する危険があるときなど)
・ 隣地所有者が不特定又は所在不明である場合(現地や不動産登記
簿・住民票等の公的記録を調査しても所在が判明しないとき)
⇒ 隣地所有者が不特定又は所在不明である場合は、隣地所有者が特定され、
その所在が判明した後に遅滞なく通知することで足り、公示による意思表示
(民法98)により通知する必要はない。
・ 隣地を使用できる権利がある場合も、一般的に、自力執行は禁止されているので、
例えば、使用を拒まれた場合には、妨害禁止の判決を求めることになる。
・ 他方で、事案ごとの判断ではあるが、例えば、隣地が空き地となっていて実際に使
用している者がおらず、隣地の使用を妨害しようとする者もいないケースでは、土地
の所有者は裁判を経なくとも適法に隣地を使用できると考えられる。
隣地使用権 59(2) 越境した竹木の枝の切取り
私道の管理の一環として、隣地から越境した竹木の枝の切取りが必要となるケ
ースがある。
現行法では、土地所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、竹木の
所有者に対して枝を切除させることができるとされている(改正前民法第 233 条
第1項)
。もっとも、土地の所有者が自ら枝を切り取ることを認めていないた
め、竹木の所有者が切除に応じない場合には、土地の所有者は、訴えを提起し、
その所有者に枝の切除を命ずる判決を得て、強制執行の手続をとるほかない。ま
た、竹木が共有物である場合には、竹木の各共有者は、他の共有者全員の同意を
得なければ、請求に応じて枝の切取りをすることができないと解されている。そ
のため、これらの枝の切取りに関する規律は、煩雑であり、合理的でない等の指
摘がされていた。
こうした指摘を踏まえ、改正民法においては、土地の所有者は、1竹木の所有
者に越境した枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の
期間内に切除しないとき、2竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を
知ることができないとき、又は3急迫の事情があるときのいずれかの要件を充た
した場合には、越境した枝を自ら切り取ることができるとされた(改正民法第
233 条第3項)
。また、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を
切り取ることができるとされた(同条第2項)。問題の所在
しろまる 土地の所有者は、隣地の竹木の根が境界線を越えるときは自らその根を切り取ることができるが、枝が境界線を越えるときはその竹木
の所有者に枝を切除させる必要がある(改正前民法233)。
1. 竹木の所有者が枝を切除しない場合には、訴えを提起し切除を命ずる判決を得て強制執行の手続をとるほかないが、竹木の枝が
越境する都度、常に訴えを提起しなければならないとすると、救済を受けるための手続が過重
2. 竹木が共有されている場合に、竹木の共有者が越境した枝を切除しようとしても、基本的には、変更行為として共有者全員の同
意が必要と考えられており、竹木の円滑な管理を阻害
越境された土地の所有者は、竹木の所有者に枝を切除させる必要があるという原則を維持しつつ、
次のいずれかの場合には、枝を自ら切り取ることができることとする(改正民法233III)。
1 竹木の所有者に越境した枝を切除するよう催告したが、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき
2 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき
3 急迫の事情があるとき
1.土地所有者による枝の切取り
2.竹木の共有者各自による枝の切除
竹木が共有物である場合には、各共有者が越境している枝を切り取ることができる。(改正民法233II)
→竹木の共有者の一人から承諾を得れば、越境された土地の所有者などの他人がその共有者に代わって枝を切り取ることができる。
→越境された土地の所有者は、竹木の共有者の一人に対しその枝の切除を求めることができ、その切除を命ずる判決を得れば、代替執行(民事執行法
171I・IV)が可能。
改正法←(注記) 道路を所有する国や地方公共団体も、隣接地の竹木が道路に越境してきたときは、新たな規律によって枝を切り取ることが可能。
(注記) 1の場合に共有物である竹木の枝を切り取るに当たっては、基本的に、竹木の共有者全員に枝を切除するよう催告する必要がある。もっとも、一部の
共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときには、その者との関係では2の場合に該当し、催告は不要。
(注記) 1の「相当の期間」とは、枝を切除するために必要な時間的猶予を与える趣旨であり、事案によるが、基本的には2週間程度と考えられる。
(注記) 越境された土地所有者が自ら枝を切り取る場合の費用については、枝が越境して土地所有権を侵害していることや、土地所有者が枝を切り取ることに
より竹木の所有者が本来負っている枝の切除義務を免れることを踏まえ、基本的には、竹木の所有者に請求できると考えられる(民法703・709)。
越境した竹木の枝の切取り 60第3章 ケーススタディ
地方公共団体やライフライン事業者からのヒアリング調査の結果、私道に関する工事
の支障事例として様々な事例が収集された。これらの事例を大別すると、1私道の舗装
に関する事例、
2ライフラインに関する事例、
3その他の事例に整理することができる。
以下では、上記1〜3の類型ごとに法律関係を検討し、各種工事の実施のために同意
が必要な範囲につき、基本的な考え方を示すこととする。
なお、舗装工事、ライフラインに関する工事等において、私道の舗装を剥がしたり、
新しく配水管を設置した後に再舗装をしたりする際には、その限度で私道の利用を一時
的に制限することになるし、どの範囲で私道が使用されるかについての認識を共有する
ことが紛争予防の観点からも重要である。そのため、実務上は、工事事業者等から私道
の所有者(共有者)に対し施工範囲を明示して通知をすることや、隣接地との境界付近
で工事をする場合には必要に応じて境界を確認するなどの措置を講じて、工事の円滑を
図ることが重要と考えられる。 611 私道の舗装に関する事例
事例1 舗装の陥没事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和56年私道築造(砂利道)
・平成3年にアスファルト舗装
・延長17m、幅約4m
・路面が陥没しており、通行に支障が生じている
2.権利関係等の概要
・一筆の私道(下図青枠内)を1〜3が共有している(共有持分は各3分の1、1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・陥没部分の穴を塞いだ上で、路面をアスファルトで部分的に再舗装(×ばつ4m=16m2)
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質,施工方法等が詳細に定めら
れており、これに従って工事を実施
・2及び3は工事に賛成
しろまる 共同所有型私道の一部が陥没し、補修工事が必要となったが、共有者の
一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
3賛成
公道
公道
1所在等不明
居宅
(私道の共有持分
なし)
2賛成
公道
【概略図】
1〜3の
共同所有型私道
要舗装箇所
要補修箇所 62事例1 舗装の陥没事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。
しろまる アスファルト道の路面が陥没し、通行に支障が生じており、通行人が陥没部分につ
まずく危険もある。
しろまる 陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装して陥没前と同様の状態に修復する工
事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法
等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 上記のように地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法により、舗装さ
れたアスファルト道に生じた陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装して現状を
維持する補修工事は、一般的には、共有物の保存行為に当たる。
したがって、各共有者が単独で補修工事を行うことができるため、2や3の共有者
が補修工事を行う場合には、民法上、1の共有者の同意を得る必要はない(改正前民
法第 252 条ただし書、改正民法第 252 条第5項)。 63
事例2 舗装の陥没事例(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和56年私道築造(砂利道)
・平成3年にアスファルト舗装
・延長17m、幅約4m
・1所有の路面が陥没しており、通行に支障が生じている
2.権利関係等の概要
・3筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜3が各1筆ずつ所有(1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・陥没部分の穴を塞いだ上で、1所有の路面をアスファルトで部分的に再舗装(×ばつ4m=16m2)
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等が詳細に定め
られており、これに従って工事を実施
・2及び3は工事に賛成
しろまる 相互持合型私道の一部が陥没し、補修工事が必要となったが、所有者
の一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
3賛成
公道
公道
1所在等不明
居宅
(私道の共有持分
なし)
2賛成
公道
【概略図】
3所有
1所有
2所有
要補修箇所
要舗装箇所 64事例2 舗装の陥没事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。
しろまる アスファルト道の路面が陥没し、通行に支障が生じており、通行人が陥没部分につ
まずく危険もある。
しろまる 陥没部分の穴を塞ぎ、アスファルトで再舗装して陥没前と同様の状態に修復する工
事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の所有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法
等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅地部分
を要役地とし、他の者が所有する通路敷を通行のための承役地とする地役権(民法第
280 条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。
しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(2
及び3の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(1の通路敷部分)を利用する
ことができる。
しろまる 本事例のように、舗装され、全面を通路として使用される私道については、要役地
所有者は、その全体を通路として自由に使用することができると考えられるため(最
判平成 17 年3月 29 日裁判集民事 216 号 421 頁参照)
、一部に陥没が生じて通行が阻
害されている場合には、要役地所有者(2及び3の所有者)は、承役地所有者(1の
所有者)の同意がなくても、私道全体の通行を確保するために補修工事を実施するこ
とができると考えられる。
しろまる なお、1所有の通路敷部分が複数の共有者により構成されている場合で、その一部
が所在等不明であるときに、1所有の通路敷部分の陥没部分の穴を塞いだ上で、路面
を部分的に再舗装する場合については、当該筆のみに着目して【事例1】と同様に処
理する選択肢もあると考えられる。 65事例3 全面再舗装事例(共同所有型)
しろまる 路面の一部に段差が生じ、全体的に老朽化している共同所有型私道全
体につき、アスファルト舗装工事を行いたいが、共有者の一部が所在等不
明のため、工事の同意を得られない事例
1.私道の概要
・平成15年築造(アスファルト舗装)
・延長40m、幅4m(最狭箇所幅3.2m)
・アスファルトの一部に段差が生じ(下図の模様部分)、通行に支障が生じている
・アスファルト舗装が全体的に老朽化しており、段差が生じた部分以外にも、近い将来、通行に何ら
かの支障が生じるおそれがある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜6が共有(共有持分は各6分の1、3は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は、1、2、4〜6
・路面をアスファルトで全面再舗装
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等が詳細に定
められており、これに従って工事を実施
1〜6の共同所有型私道
公道
5賛成
➀賛成
3所在等不明 4賛成
2賛成
6賛成
【概略図】 66事例3 全面再舗装事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。
しろまる アスファルトの一部に段差が生じ、通行に支障が生じており、通行人がつまずく危
険もある。
しろまる アスファルト舗装が全体に老朽化し、段差が生じた部分以外にも、近い将来、通行
に何らかの支障が生じることが予想され、段差をなくす工事を機に全面的に再舗装す
ることが合理的である。
しろまる 段差をなくすとともに、支障発生を予防するために、アスファルトで全面の再舗装
を行う。
しろまる 工事の実施主体は、1、2、4〜6の共有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法
等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 舗装されたアスファルト道の一部に段差が生じ、その部分についてのみ補修工事を
することは、一般的には、共有物の保存行為に当たる(
【事例1】参照)。しろまる 他方、段差部分だけでなく、現時点で通行に支障がなく、道路としての機能に問題
がない部分を、近い将来に生じ得る支障を予防するために全面的に再舗装工事を行
うことは、全体として、共有物を改良する行為であると考えられるから、一般的に
は、共有物の管理に関する事項に当たる(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252
条第1項)。したがって、持分の価格に従い、その過半数の共有者の同意により、再舗装工事
を行うことができるから、3以外の共有者の同意に基づいて、工事を行うことがで
きるものと考えられる。
しろまる なお、段差部分以外のアスファルトの老朽化が進み、早晩陥没が生じることが予想
されるような具体的徴候がある場合には、全面的に再舗装工事を行うことも、保存
行為に当たると考えられる。そのような場合に、地方公共団体の助成制度の対象と
なる材質・施工方法により再舗装工事を行うときには、一般的には、保存行為に当
たるものとして取り扱うことができるものと考えられる。
したがって、このような場合には、各共有者が単独で再舗装工事を行うことがで
きるものと考えられる(改正前民法第 252 条ただし書、改正民法第 252 条第5項)。 67
事例4 全面再舗装事例(相互持合型)
しろまる 路面の一部に段差が生じ、全体的に老朽化している相互持合型私道の
全体につき、アスファルト舗装工事を行いたいが、所有者の一部が所在等
不明のため、工事の同意を得られない事例。1.私道の概要
・平成15年築造(アスファルト舗装)
・延長40m、幅4m(最狭箇所幅3.2m)
・アスファルトの一部に段差が生じ(下図の模様部分)、通行に支障が生じている
・アスファルト舗装が全体的に老朽化しており、段差が生じた部分以外にも、近い将来、通行に何ら
かの支障が生じるおそれがある
2.権利関係等の概要
・6筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜6が1筆ずつ所有(3は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の主体は、1、2、4〜6
・路面をアスファルトで全面再舗装
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等が詳細に定
められており、これに従って工事を実施
公道
5賛成
➀賛成
3所在等不明 4賛成
2賛成
6賛成
【概略図】
2所有
➀所有
3所有
4所有
5所有
6所有 68事例4 全面再舗装事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道として利用されている。
しろまる 1、4〜6の所有者が所有する私道部分のアスファルトに段差が生じ、通行に支障
が生じており、通行人がつまずく危険もある。
しろまる アスファルト舗装が全体に老朽化し、段差が生じた部分以外にも、近い将来、通行
に何らかの支障が生じることが予想され、段差をなくす工事を機に全面的に再舗装す
ることが合理的である。
しろまる 段差をなくすとともに、路面を強化するために、3の所有者が所有する私道部分も
含め、アスファルトで全面の再舗装を行う。
しろまる 工事の実施主体は、1、2、4〜6の所有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法
等が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅地部分
を要役地とし、他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする地役権(民
法第 280 条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。
しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(3
の所有者以外の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(3の所有する通路敷
部分)を利用することができるが、通行を目的とする地役権の場合、承役地所有者
は、要役地所有者による通行を受忍すべき義務を負うにとどまる。
本事例では、通行に支障があるのは、1、4〜6の所有者が通路として提供して
いる部分のみであり、3の所有者が提供している部分については、通行に支障がな
く、通行地役権の行使自体に支障はないから、特段の事情がない限り、承役地所有
者が、再舗装工事を受忍すべき義務を負うと考えることは困難である。
したがって、再舗装に賛成している土地所有者が通路として提供している部分に
ついては再舗装工事を行うことができるものの、3の所有者が通路として提供して
いる部分については、再舗装を行うことができない。
ただし、3の所有者が提供している部分についても、アスファルトの老朽化が進
み、早晩陥没が生ずることが予想されるような具体的兆候がある場合には、要役地 69所有者による通行を保全するため、承役地所有者が再舗装工事を受忍すべき義務を
負うことがあり得ると考えられる。
しろまる もっとも、1、2、4〜6の所有者は、3の所有者について不在者財産管理人等の
選任申立てを行うか、又は3の所有者の所有に係る通路部分の土地について所有者
不明土地管理命令の申立てを行い、選任された管理人から3の所有者が通路として
提供している部分の再舗装についての同意を得ることにより、私道全面の再舗装を
行うことができると考えられる。
しろまる なお、3所有の土地が複数の共有者により構成されている場合で、その一部が所在
等不明であるときには、
【事例3】と同様、共有者の過半数で決することにより再舗
装することができると考えられる。 70事例5 新規舗装の事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和41年築造(砂利道)
・延長20m、幅4m
・歩道として利用されているが、車の通行も可能
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜6が共有(共有持分は各6分の1、1は所在等不明)3.工事の概要
・工事の実施主体は2〜6
・車道としての利用を容易にするため、路面全体をアスファルトで新規舗装
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法
等が詳細に定められており、これに従って工事を実施
しろまる 砂利道である共同所有型私道につき、アスファルト舗装工事を行いたい
が、所有者の一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
1〜6の
共同所有型私道
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
公道
公道
公道
4賛成
5賛成
6賛成 71事例5 新規舗装の事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 未舗装の砂利道として利用されている。
しろまる 歩道として利用されているが、車の通行も可能である。車道としての利用を容易にす
るため、砂利道をアスファルト舗装する。
しろまる 工事の実施主体は、2〜6の共有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等
が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 砂利道の舗装においては、一般に、砂利を除去した上で、路体・路床と呼ばれる基盤
層の上に、下層路盤・上層路盤と呼ばれる層を整備し、更にその上に、基層・表層と呼
ばれるアスファルト面を施工する。
しろまる これらの工事は、通路敷に工事を施しアスファルト面等を土地に付合させるものと評
価でき(民法第 242 条)
、物理的に変更を行うものであり、歩道から車道への変更とい
う意味で道路の機能を変えるものと評価することができる。
しろまる このようなことから、改正前民法の下では、砂利道である通路をアスファルト舗装す
る行為は、一般に、共有物に変更を加えるものであり、共有者全員の同意が必要である
と考えられてきた(改正前民法第251 条)。しろまる 改正民法においては、共有物に変更を加える行為であっても、形状又は効用の著しい
変更を伴わないもの(軽微変更)については、持分の過半数で決定することができるこ
ととされた(改正民法第251 条第1項、第252 条第1項)。そして、砂利道のアスファルト舗装は、一般に、形状に関しては、砂利を除去して下
層路盤・上層路盤を整備してアスファルト面を施工するなど、ある程度の変更を伴うも
のの、著しく変更するものではなく、また、効用に関しても通路としての機能を向上さ
せるに留まるものであることを勘案すると、軽微変更に当たると考えられる。
そのため、本事例では、1〜6の所有者の持分の過半数の同意を得ることによって、
路面をアスファルト舗装する工事を行うことが可能と考えられる。
しろまる なお、上記のルールは、共有者の一部が所在等不明であるケースに限って適用される
ものではないため、例えば、本事例で2の所有者がアスファルト舗装に反対しているケ
ースであっても、3〜6の所有者(持分合計3分の2)の同意があれば、舗装工事を行
うことは可能であると考えられる。 72しろまる また、1の所有者のみならず、2及び3の所有者もその所在等が不明の場合、又は新
規舗装に対する賛否を明らかにしない場合は、4〜6の共有者は、所定の手続に従い、
裁判所の裁判を得て、
所在等不明又は賛否不明の共有者以外の共有者である4〜6の共
有者の持分の過半数の決定により、舗装工事を行うことが可能である(改正民法第 252
条第2項第1号、第2号)。 73
事例6 新規舗装の事例(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和41年築造(砂利道)
・延長20m、幅4m
・歩道として利用されているが、車の通行は可能
2.権利関係等の概要
・6筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を6名が1筆ずつ所有(1は所在等不明)3.工事の概要
・工事の実施主体は2〜6
・車道としての利用を容易にするため、路面全体をアスファルトで新規舗装
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法
等が詳細に定められており、これに従って工事を実施
しろまる 砂利道である相互持合型私道につき、アスファルト舗装工事を行いたい
が、所有者の一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
3所有
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
公道
公道
公道
5所有
➀所有
4賛成
5賛成
6賛成
2所有
4所有
6所有 74事例6 新規舗装の事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 未舗装の砂利道として利用されている。
しろまる 歩道として利用されているが、車の通行も可能である。車道としての利用を容易にす
るため、砂利道をアスファルト舗装する。
しろまる 工事の実施主体は、2〜6の所有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等
が詳細に定められており、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅地部分を
要役地とし、
他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする地役権
(民法第280
条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。
しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(1
の所有者以外の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(1の所有する通路敷部
分)を利用することができるが、通行を目的とする地役権の場合、承役地所有者は、
要役地所有者による通行を受忍すべき義務を負うにとどまる。
しろまる 未舗装の道路としての通行に支障がない以上、他の者が所有する部分について所有者
の承諾なく路面をアスファルトに新規舗装する工事を行うことはできない。
本事例では、1の所有者の所有する土地についてはアスファルト舗装をすることがで
きず、アスファルト舗装に賛成している土地所有者(1の所有者以外の所有者)が通路
として提供している部分については、アスファルト舗装することが可能であるものの、
1の所有者が通路として提供している部分については、舗装工事を行うことができない。
しろまる なお、2〜6の所有者は、1の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行
うか、
又は1の所有者の所有に係る通路部分の土地について所有者不明土地管理命令の
申立てを行い、
選任された管理人から1の所有者が通路として提供している部分の舗装
についての同意を得ることにより、私道の整備を行うことができると考えられる。
しろまる また、1が複数の共有者により構成されている場合で、その一部が所在等不明である
ときに、1の私道部分を新規にアスファルト舗装する場合については、
【事例5】と同
様、共有者の持分の過半数の同意を得ることによって、新規舗装をすることができると
考えられる。 75事例7 側溝再設置の事例
〜L形側溝付近のみ再舗装(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが、コンクリートの基礎がなく、段差が生じて
いる
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を 1〜3が共有(共有持分は各3分の1、1は所在等不明)3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度(各幅30cm程度)のアスファルトを剥がして老朽化
したL形側溝を撤去し、コンクリートで基礎を作って新たなL形側溝を設置し、必要な限
度(下図赤点線内)で再舗装する
しろまる 共同所有型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから、撤去の上
でL形側溝を新設し、路面の一部をアスファルトで再舗装する必要があるが、
共有者の一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
1〜3の
共同所有型私道
公道
L形側溝
老朽箇所
再舗装箇所 76事例7 側溝再設置の事例
〜L形側溝付近のみ再舗装(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。
しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険もある。
しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいったん剥が
した上で再舗装する必要がある。
しろまる L形側溝を取り替えるとともに、必要な範囲で周囲のアスファルトの路面を再舗装す
る工事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定められてお
り、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行に危険が生じるなど、私道の
機能に支障が生じている場合に、地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法
によりL形側溝の取替え及び取替えに必要な限度でL形側溝付近の部分のアスファル
トをいったん剥がして再舗装し、その現状を維持する行為は、一般に、共有物の保存行
為に該当するものと考えられる。
しろまる 本事例では、各共有者が単独で補修工事を行うことができるため、2や3の共有者が
補修工事を行う場合には、民法上、1の共有者の同意を得る必要はない(改正前民法第
252 条、改正民法第252 条第5項)。 77
事例8 側溝再設置の事例
〜L形側溝付近のみ再舗装(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが、コンクリートの基礎がなく、段差が生じて
いる
2.権利関係等の概要
・3筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を3名が1筆ずつ所有(1は所在等不明)3.工事の概要
・工事実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度(各幅30cm程度)のアスファルトを剥がして老朽化し
たL形側溝を撤去し、コンクリートで基礎を作ってL形側溝を設置し、必要な限度(下図
赤点線内)で再舗装する
しろまる 相互持合型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから、撤去の上
でL形側溝を新設し、路面の一部をアスファルトで再舗装する必要があるが、
所有者の一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
3所有
1〜3の
共有私道
公道
L形側溝
再舗装箇所
➀所有
老朽箇所
2所有 78事例8 側溝再設置の事例
〜L形側溝付近のみ再舗装(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。
しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険がある。
しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいったん剥が
した上で再舗装する必要がある。
しろまる L形側溝を取り替えるとともに、必要な範囲で周囲のアスファルトの路面を再舗装す
る工事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の所有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定められてお
り、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅地部分を
要役地とし、
他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする地役権
(民法第280
条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。
しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(2及
び3の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(1の所有する通路敷部分)を利用
することができる。
しろまる 本事例のように、舗装され、全面を通路として使用される私道については、要役地所
有者は、その全体を通路として自由に使用することができると考えられるところ(最判
平成 17 年3月 29 日裁判集民事 216 号 241 頁参照)
、道路の端であるとはいえ、L形側
溝の一部に段差が生じて通行が阻害されている場合には、要役地所有者(2及び3の所
有者)は、承役地所有者(1の所有者)の同意がなくても、私道全体の通行を確保する
ために、補修工事を実施することができると考えることができる。
本事例の工事内容は、地方公共団体の助成制度の対象となる材質・施工方法によりL
形側溝の取替え及び取替えに必要な限度でL形側溝付近の部分のみアスファルトをい
ったん剥がして再舗装するというものであり、私道全体の通行を確保するために必要最
小限の補修工事を実施しようとするものと評価でき、1の所有者は、2や3の所有者に
よる補修工事を受忍すべきものと考えられる。
しろまる なお、1が複数の共有者で構成されている場合で、その一部が所在等不明であるとき 79に、1の私道部分のL形側溝を取り替えるとともに、必要な範囲で周囲のアスファルト
の路面を再舗装する場合については、
【事例7】と同様、その土地の共有者の1人が保
存行為として工事を行うことができると考えられる。 80事例9 側溝再設置の事例
〜路面全体を再舗装(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが、全体的に老朽化して陥没し、段差が生じている
・アスファルト舗装については、特に損傷は生じていないが、全体的に老朽化している
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内) を1〜3が共有(共有持分は各3分の1、1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度のアスファルトを剥がして老朽化したL形側溝を撤去し、新たなL形
側溝を設置した上で路面全体を再舗装する
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等が詳細に定め
られており、これに従って工事を実施
しろまる 共同所有型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから、撤去の上
でL形側溝を新設し、路面全体をアスファルトで再舗装したいが、共有者の
一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
1〜3の
共同所有型
私道
公道
L形側溝
老朽箇所 81事例9 側溝再設置の事例〜路面全体を再舗装(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。
しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険もある。
しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいったん剥が
した上で再舗装する必要がある。
しろまる アスファルト舗装については、特に損傷は生じていないが、全体に老朽化し、近い将
来、通行に何らかの支障が生じることが予想され、L形側溝の取替工事を機に全面的に
再舗装することが合理的である。
しろまる L形側溝を取り替えるとともに、これに必要な範囲に加え、アスファルトの路面全体
を再舗装する工事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定められてお
り、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 老朽化したL形側溝を取り替えて現状を維持するためにはL形側溝付近の部分のア
スファルトのみを剥がした上で再舗装すれば足りる場合に、あえて特に通行等に支障が
ないアスファルトの路面全体を再舗装する工事は、共有物の現状を維持するにとどまら
ず、共有物を改良する行為であると考えられるから、一般には、共有物の管理に関する
事項に当たる。
したがって、共有者の持分の過半数で決することにより、工事を行うことができるか
ら、
2及び3の共有者の同意に基づいて、
工事を行うことができるものと考えられる(改正前民法第252 条本文、改正民法第252 条第1項)。 82
事例10 側溝再設置の事例
〜路面全体を再舗装(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和52年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅4m(側溝幅各50cm)
・私道の両端にL形側溝が設置されているが、全体的に老朽化して陥没し、段差が生じている
・アスファルト舗装については、特に損傷は生じていないが、全体的に老朽化している
2.権利関係等の概要
・3筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を3名が1筆ずつ所有(1は所在等不明)
3.工事の概要
・工事の実施主体は2及び3
・L形側溝の取替えに必要な限度のアスファルトを剥がして老朽化したL形側溝を撤去し、新たなL形
側溝を設置した上で路面全体を再舗装する
・地方公共団体の助成制度において、助成対象となるアスファルトの材質、施工方法等が詳細に定
められており、これに従って工事を実施
しろまる 相互持合型私道に設置されたL形側溝が老朽化したことから、撤去の上
でL形側溝を新設し、路面全体をアスファルトで再舗装したいが、所有者の
一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
公道
居宅
(私道の共有持分なし)
1所在等不明
2賛成
3賛成
【概略図】
居宅
(私道の共有持分なし)
居宅
(私道の共有持分なし)
3所有
1〜3の
共有私道
公道
L形側溝
➀所有
老朽箇所
2所有 83事例10 側溝再設置の事例〜路面全体を再舗装(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 舗装されたアスファルト道にL形側溝が設置された状態で利用されている。
しろまる L形側溝が老朽化して陥没し、段差が生じており、通行人がつまずく危険もある。
しろまる L形側溝を取り替えるためには、L形側溝付近の部分のアスファルトをいったん剥が
した上で再舗装する必要がある。
しろまる アスファルト舗装については、特に損傷は生じていないが、全体に老朽化し、近い将
来、通行に何らかの支障が生じることが予想され、L形側溝の取替工事を機に全面的に
再舗装することが合理的である。
しろまる L形側溝を取り替えるとともに、これに必要な範囲に加え、アスファルトの路面全体
を再舗装する工事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の所有者である。
しろまる 地方公共団体の助成制度において、助成対象となる施工方法等が詳細に定められてお
り、これに従った工事を実施する。
事例の検討
しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有する宅地部分を
要役地とし、
他の者が所有する私道部分を通行のための承役地とする地役権
(民法第280
条)が相互に黙示的に設定されていることが多い。
しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(2及
び3の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(1の所有する通路敷部分)を利用
することができるが、通行を目的とする地役権の場合、承役地所有者は、要役地所有者
による通行を受忍すべき義務を負うにとどまる。
しろまる もっとも、
本事例のように、
舗装され、
全面を通路として使用される私道については、
要役地所有者は、
その全体を通路として自由に使用することができると考えられ、私道
全体の通行を確保する限度で補修工事を行い、
承役地所有者に受忍させることができる
ものと考えられる(最判平成17 年3月29 日裁判集民事216 号241 頁参照)。しろまる 本事例の工事のうち、通行に支障が生じているL形側溝の取替えと、それに必要な限
度のアスファルトの整備については、
私道全体の通行を確保するための必要最小限の工
事と評価でき、
1の所有者は、
2や3の所有者による工事を受忍すべき義務を負うと考
えられる(
【事例8】参照)。他方、
それ以外のアスファルト部分については、
通行に支障がないのであり、
承役地 84所有者にとって、
通行地役権の行使に支障がない。このような場合には、
L形側溝の取
替工事と同時に路面全体の再舗装工事を行わなければ通行に支障が生じるような事情
がない限り、1の所有者が、工事を受忍すべき義務を負うと考えることは困難である。
しろまる なお、2及び3の所有者は、1の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを
行うか、
又は1の所有者の所有に係る通路部分の土地について所有者不明土地管理命令
の申立てを行い、
選任された管理人から1の所有者が通路として提供している部分の舗
装についての同意を得ることにより、私道の整備を行うことができると考えられる。
しろまる また、1が複数名による共有である場合で、その一部が所在等不明であるときに、1
の私道部分をアスファルト舗装する場合については、
【事例9】と同様、過半数で決す
ることにより工事を行うことができると考えられる。 85コラム
地方公共団体の中には、
住民の生活環境の改善を図るため、一般の交通の用に供されて
いる私道の整備・舗装工事や、排水施設工事に要する費用の補助金を交付しているものが
ある。
共有私道の整備工事について補助金を交付する際には、
当該私道の所有者全員の承諾書
を補助金申請の必要書類として定めている地方公共団体が多いところ、
私道の整備の必要
性があるにもかかわらず、一部の所有者が所在等不明となり、その者の承諾書が得られな
いため、補助金交付申請ができないという支障が生じているケースがある。特に、費用が
多額に上る工事の場合には、
住民個人がその全額を負担することが困難なことも少なくな
い。
そこで、補助金制度を置く地方公共団体の中でも、一定の条件の下で、所有者全員の承
諾書の提出がなくても、
補助金を交付することができることとする先進的な取組を行って
いるものがあるので、紹介する(承諾書を求める共有者の範囲については、後記コラム:
共有私道における排水設備の円滑な設置等の促進に関する事例勉強会も参照。)。
【熊本市の補助金交付制度】
熊本市は、
私道の整備工事又は補修工事を行う者に対し、補助金を交付する制度を設け
ている。
同市の従前の私道整備補助金制度は、
工事施工箇所が複数人の共有となっている場合に
は、全ての所有者の同意が得られていることを必要としていたが、補助金交付規則を改正
し、下記の要件が満たされ、全ての共有者の承諾書を得ることができないことにつき、市
長が特別の理由があると認めるときは、承諾書の添付を省略することができることとし
た。申請者は、申請の際、一部の共有者の承諾書が得られない理由を明らかにし、工事終
了後、当該共有者又はその関係人から異議が出た場合には、補助金交付申請をした共有者
において対応することを誓約する旨の書面を提出することとされている。
《要件》
1 承諾書を得ることができない共有の土地の所有者の中に反対又は態度保留の意
思表示をしている者がいないこと。
2 土地の所有権の持分の割合の過半数の承諾書が提出されていること。
3 次のいずれかに該当すること。
ア 所在が確認できない
(登記上の住所及び住民票上の住所に連絡文書を郵送して
も宛先不明で返送された場合又は複数回郵送しても何ら応答がない。
住民票や戸
籍の調査により登記上の所有者の死亡が確認され、
法定相続人の住所に連絡文書
を郵送しても宛先不明で返送された場合又は複数回郵送しても何ら応答がな
い。)。
イ 病気等により判断能力が欠け又は不十分で後見人等の代理人が存在しない。 862 ライフラインに関する事例
改正民法においては、ライフラインの設備設置権・設備使用権についての規律がされた
が、
(前記コラム:改正民法3参照)
、上水道、下水道、ガス及び電気の各事業について、
以下のとおり、それぞれ別の規律が設けられている。
【上水道関係】
(上水道に関する法律関係)
(1) 水道事業
水道事業は、原則として市町村が行うこととされている(水道法〔昭和 32 年法律
第177 号〕第3条第2項、第6条第2項)。(2) 水道に関する導管の種類
水道事業において、
水は、
水道事業者(市町村等)が設置する配水施設である配水管(同法第3条第8項)
を通り、
配水管から分岐して設けられる給水管
(同条第9項)
を通って、各戸に引き込まれている(下図参照)。配水管・水道メータは水道事業者が所有・管理し、給水管は水の需要者が所有・管
理している。
【出典:東京都水道局】
(3) 水道施設設置工事及び給水装置工事
配水施設を新設する工事は、
水道事業者が行い
(同法第3条第10 項)、給水装置工
事は、
水の需要者から申込みを受けた水道事業者又は水道事業者の指定を受けた工事
業者が行う(同法第16 条の2第1項)。 87
(4) 給水義務等
水道事業者は、給水契約の申込みを受けたときは、正当な理由がなければ、これを
拒んではならない(同法第15 条第1項)。また、配水施設(配水管)を含む水道施設の構造及び材質は、水圧、土圧、地震力
その他の荷重に対して充分な耐力を有し、かつ、水が汚染され、又は漏れるおそれが
ないものでなければならない(同法第5条第3項)ため、水道事業者は、所有する配
水管が上記の基準を下回ることのないように管理する責務を負う。
(5) 配水管及び給水管の所有者と土地の所有者との関係
配水管は、通常、公道の地下に設置されているが、私道の地下に設置されている給
水管を整理するなどのため、私道の地下に配水管が設置されることもある。
私道の地下に水道事業者が所有・管理する配水管を設置する際、水道事業者は、私
道の所有者との間で、配水管を設置するために地下を利用する権利を設定している。
設定される権利の法的性質は、使用貸借等の契約に基づく利用権、区分地上権等、一
様ではないようであるが、その期間は、一般に、配水管の使用の必要があるときまで
とされており、数十年にわたる長期間の利用も可能とされている。
また、水道事業者は、私道の地下に配水管を設置する際、配水管の漏水修理工事、
取替工事、
撤去工事といった配水管の維持管理の際に必要となる私道の利用について
も併せて承諾を得ることが多い。 88コラム:上水道に関する通知・条例
1 給水装置の設置に当たり他人の土地を使用することとなる場合の工事申込みの取
扱いに関する通知要旨
水の需要者が自己の宅地内に水を引き込むに当たり、
他人の土地の地下に給水装置
を設置し、
公道に設置された配水管に直結させる必要が生じることがある。
このよう
な場合に、
水道事業者が、
申込人に対し、
当該他人の土地の所有者からの承諾書の提
出を求める例があるが、
これに関し、
次のような通知が発出されているのが参考にな
る。
なお、次の通達において言及されている「承諾書を得るために金銭を要求される」
ケースに関し、改正民法の設備設置権(改正民法第 213 条の2)が成立する場合に
は、こうしたいわゆる承諾料を求められても応ずる義務はない。
承諾書の提出の要否については、
各地方公共団体においてその実情に応じて判断さ
れるところではあるが、
改正民法において設備設置権が明確化され、
設備設置権が成
立する場合には承諾書がなくとも民法上は設備設置が可能であることを踏まえ、
承諾
書の提出を求める正当性について点検されることが望ましい
(後記コラム:共有私道
における排水設備の円滑な設置等の促進に関する事例勉強会も参照)。しろまる 生食水発 1128 第1号(平成 28 年 11 月 28 日付け厚生労働省医薬・生活衛生局生
活衛生・食品安全部水道課長)
承諾書の提出を求める手続は、給水装置工事の円滑な施行に資するものである
が、一方で、申込人が承諾書を得るために金銭を要求される、土地の所有者と連絡
を取ることができず承諾書を得ることができない等の事情も生じている。
水道事業者には水道法(昭和32 年法律第177 号)第15 条第1項により、
「事業
計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理
由がなければ、これを拒んではならない」という給水義務が課せられており、上記
のような事情において、承諾書の提出が無いことが、当該給水義務を解除する正当
の理由には当たらない。
なお、工事施行に関する土地の所有者との調整等について申込人が一義的に対応
することを確認した上で工事の申込みを受理すること、当該土地を使用しないよう
別の工事の方法を提案すること等の対応について否定するものではない。 892 京都市における水道事業条例の紹介
水道法においては、下水道法の排水に関する受忍義務(下水道法第11 条第1
項)とは異なり、給水装置の設置につき、他の土地の所有者に対して受忍義務を課
す旨の規定は置かれていないが、改正民法の設備設置権が成立する場合には、他の
土地の所有者は設備設置の受忍義務を負うものと解される。
その中で、地方公共団体が、条例を制定し、給水装置工事を実施しようとする者
が他人の土地を使用しなければ給水装置を設置することができない場合に、当該他
人に一定の義務を負わせることとする取組は、改正民法の趣旨にも沿うものであ
り、参考となる。
京都市水道事業条例においては、例えば、住民であるAが給水のための給水装置
工事を京都市に申し込むに当たり、Bが所有する甲土地を使用する必要が生じた場
合において、Aが工事のために合理的に必要と認められる限度でBに甲土地の使用
を申し込んだときは、Bは、正当な理由がない限り、Aからの申込みを拒んではな
らない旨の規定が置かれている。
また、京都市においては、他人の土地を使用しなければ給水管を埋設することが
できない場合において、給水装置工事実施者からの給水申請を受けたときに、従前
は、承諾するための手続的な要件として、申請者に給水管の埋設に使用する土地の
所有者の承諾書の写しを上下水道局に対して提出することを求めていた。しかし、
このような取扱いを廃止し、申請者から、
「給水管の埋設に関して、土地所有者等
から異議があった場合には、給水申請者の責任で解決する」旨を明記した申請書類
を提出すれば足りることとした。 90【下水道関係】
下水道法
(昭和33 年法律第79 号)
においては、
他のライフライン関係の法制と異なり、
公共下水道の排水区域内の土地所有者に排水設備(排水管)の設置義務が課され(下水道
法第10 条第1項)、他人の土地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入さ
せることが困難であるときは、他人の土地に排水設備を設置することが認められている
(同法第11 条第1項)。そのため、
特に相互持合型私道の場合には、下水道法の規律により処理される点に特色
がある(
【事例20】参照)
。なお、前記コラム:改正民法3のとおり、改正民法第213 条の
2においてライフラインの設備設置権・設備使用権の規律が創設され、下水道の排水も同
条第1項にいう継続的給付に該当するが、下水道法の規律は民法の特別法に当たるため、
その適用関係は改正民法の施行後も基本的に変更がないものと解される。
(下水道に関する法律関係)
(1) 下水道事業
下水道事業は、
原則として、
市町村が行うこととされており、
公共下水道の設置7、改築、修繕、維持その他の管理は、原則として市町村が行う(下水道法第3条)。(2) 公共下水道に関する導管の種類等
公共下水道は、
市街地の公道等の下に管渠を埋設し、
自然流下やポンプ圧力等によ
って下水を排除し、汚水については、管渠の流末に終末処理場を設けるか、流域下水
道に接続させて、最終的に処理して河川、湖沼、海域等の公共用水域に放流するもの
である。8
家庭から排出される汚水は、
各戸の所有者等が所有・管理する各戸の排水管
(一般に「排水管」
と呼ばれる。)を通り、
排水管に接続して設置される市町村が所有・管理
する排水管
(一般に
「公共下水管」
と呼ばれる。)を通って、
処理場で処理されて公共
用水域に放流されることになる(次頁の図参照)。私道において埋設される下水管は、各戸の所有者等が所有・管理する排水管である
7 「設置」には、公共下水道又はその施設を新たに築造することに加え、市町村又は都
道府県以外の者が築造した下水道を市町村又は都道府県が譲り受け、これを公共下水道
とする場合も含まれる。
8 下水道の管渠の構造としては、1雨水と汚水を同一の管渠により排除し、終末処理場
で処理する合流式、2雨水と汚水を別々の管渠の系統により排除し、雨水は終末処理場
へ入ることなく、公共用水域へ排出し、汚水は終末処理場で処理した上で公共用水域に
排出する分流式があるとされている。 91ことが多いが、公共下水管が、私道下に埋設されている場合もある。
【出典:さいたま市建設局】
(3) 公共下水管の管理等
公共下水道管理者
(市町村等)
は、
公共下水道を良好な状態に保つように維持し、
修繕し、もって公衆衛生上重大な危害が生じ、及び公共用水域の水質に重大な影響
が及ぶことのないように努めなければならないとされており、公共下水道の維持又
は修繕に関する技術上の基準その他必要な事項は、政令で定めることとされている
(下水道法第7条の3)。これを受けて、下水道法施行令(昭和34 年政令第147 号)においては、公共下水
道等の構造等を勘案して、適切な時期に、公共下水道等の巡視を行い、及び清掃、
しゅんせつその他の公共下水道等の機能を維持するために必要な措置を講ずること、
公共下水道等の構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により公
共下水道等の点検を行うこと、点検その他の方法により、公共下水道等の損傷・腐
食その他劣化その他の異状があることを把握したときは、公共下水道等の効率的な
維持及び修繕が図られるよう、必要な措置を講じること等が定められている(下水
道法施行令第5条の12)。(4) 排水設備の設置、管理等
ア 排水設備の設置義務
公共下水道の供用が開始された場合には、原則として、当該公共下水道の排水区(公共下水管)排水管 92域内の土地の所有者等(1建築物の敷地である土地については当該建築物の所有
者、2建築物の敷地でない土地については、3の場合を除き、当該土地の所有者、
3道路その他の公共施設の敷地である土地については、
当該公共施設を管理すべき者)は、
遅滞なく、
その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、
排水渠その他の排水設備を設置しなければならないとされている(下水道法第 10
条第1項)。イ 排水設備(排水管)の管理
排水設備の改築、修繕は、これを設置すべき者が行うものとされ、その清掃そ
の他の維持は当該土地の占有者が行うものとされている
(下水道法第10 条第2項)。したがって、
私道下に埋設されている排水管については、
一般に、
私道の所有者
等が改築・修繕する義務を負うものと考えられる。
ウ 排水に関する受忍義務等
下水道法第10 条1項により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土
地又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であ
るときは、
他人の土地に排水設備を設置し、
又は他人の設置した排水設備を使用す
ることができるとされている。
この場合、
他人の土地又は排水設備にとって最も損
害の少ない場所又は箇所及び方法を選ばなければならない(同法第11 条第1項)。同項の規定により他人の排水設備を使用する者は、
その利益を受ける割合に応じ
て、
その設置、
改築、
修繕及び維持に要する費用を負担しなければならないとされ
ている(同条第2項)。また、下水道法第 11 条第1項の規定により他人の土地に排水設備を設置するこ
とができる者又は同法第10 条第2項の規定により当該排水設備の維持をしなけれ
ばならない者は、
当該排水設備の設置、
改築若しくは修繕又は維持をするためやむ
を得ない必要があるときは、
他人の土地を使用することができる。
この場合におい
ては、あらかじめその旨を当該土地の占有者に告げなければならない(同法第 11
条第3項)。同項の規定により他人の土地を使用した者は、
当該使用により他人に損失を与え
た場合においては、その者に対し、通常生ずべき損失を補償しなければならない
(同条第4項)。(5) 公共下水管の所有者と土地の所有者との関係
私道の地下に市町村等が所有・管理する公共下水管を設置する際、市町村等は、
私道の所有者との間で、
公共下水管を設置するために地下を利用する権利を設定し
ており、
設定する権利は、
使用貸借等の契約に基づく利用権、
区分地上権等、
一様 93ではないようであるが、
その期間は、
一般に、
公共下水管の使用の必要があるとき
までとされており、数十年にわたる長期間の利用も可能とされている。
また、
一般に、
市町村が私道の地下に公共下水管を設置する際、
公共下水管の補
修工事、
取替工事等の公共下水管の維持管理の際に必要となる私道の利用について
も併せて承諾を得ていることが多い。
コラム:共有私道における排水設備の円滑な設置等の促進に関
する事例勉強会
下水道の排水設備が共有私道に設置される場合には、
下水道の供用開始時や排水設
備の更新時に、私道共有者の同意書が揃わず、下水道への接続義務(下水道法第 10
条)が履行されにくい状況が増加しているとの指摘がある。
令和3年1月に国土交通省が実施した実態調査では、
全国の約7割の下水道管理者
が、
土地所有者等が共有私道に排水設備を設置する場合に、
あらかじめ私道共有者全
員の同意を得るよう独自の行政手続を行っており、
同意書が揃わず、
排水設備の設置
が滞るといった支障があることが判明した。
また、
同意における本人確認の方法につ
いても、
本人確認の趣旨に対する効力が乏しいとされる認印の押印や、
実印の押印及
び印鑑登録証明書の添付を求めているケースもあり、
デジタル社会の実現に向けた行
政手続のオンライン化を進めるため、見直しが必要とされた。
以上を踏まえ、
国土交通省に設置された
「共有私道における排水設備の円滑な設置
等の促進に関する事例勉強会」
において、
共有私道における排水設備の設置等に係る
行政手続や自治体独自の支援制度に係る実態把握・課題整理が行われ、
令和4年3月
にその結果がとりまとめられた。
とりまとめにおいては、
現在は特段の問題に直面していない自治体も、
下水道の概
成や経営健全化の観点から、
将来を見据えて、
共有私道における排水設備の円滑な設
置や更新に係る環境整備を検討し、必要な対策を講ずる時期にきているとされてい
る。
自治体における制度・運用の見直しの方向性に関しては、
排水設備設置等に関する
同意を求めるべき者の範囲につき、
共同所有型私道では、
民法の共有に関する規定が
適用されるため、
「共有者の持分価格の過半数」などを基準として柔軟にその範囲の
見直しを検討することが考えられるとされた。また、相互持合型私道では、下水道法
第 11 条で規定された「排水に関する受忍義務」が適用されるとし、法令上は同意を 94得ずに設置が可能との解釈が示されている。
ただし、
同法に定める土地の占有者への
事前告知の制度趣旨や住民同士のトラブル回避等の実態上の配慮を踏まえ、
所在が不
明な共有者を除外して、同意を求めるなどの運用が望ましいとされた。
また、自治体独自の支援制度において同意を求めるべき者の範囲を定める際には、
支援の目的や効果を踏まえ、
排水設備設置等に関する上記の考え方を参考に、
適切な
制度の在り方を可能な限り柔軟に検討することが望ましいとされた。
本人確認手続については、
認印を求めている場合には、
地方公共団体における押印
見直しマニュアル(内閣府)を踏まえて手続を見直すことが望ましく、設備設置に関
して実印を求めている場合には、実印を求める必要まではないとされた。
とりまとめの内容については、以下の国土交通省のホームページを参照されたい。
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/kyouyushidou.html 95【ガス事業及び導管関係】
(ガス事業及び導管関係に関する法律関係)
(1) ガス事業について
ガス事業の全体構造の概要は下図のとおりである。
需要家である一般家庭がガス小売事業者とガスの小売供給契約を締結すると、ガス製造事業者により製造されたガスは、
一般ガス導管事業者の導管を経由して需要
家に供給される。
【出典:経済産業省】
(2) 一般ガス導管事業者の義務
ア 託送供給義務
一般ガス導管事業者は、
ガス小売事業者からの依頼に対し、
正当な理由がなけれ
ば、
その供給区域におけるガスの託送供給を拒んではならない
(ガス事業法
〔昭和
29 年法律第51 号〕第47 条第1項)とされている。
一般ガス導管事業者は、
ガス小売事業者がガスを供給する相手方であるガスの需
要家に対し、
ガスを託送供給することになるが、
その際、
必要な導管の設置は、一般ガス導管事業者が行っている。
イ ガス工作物を技術上の基準に適合するよう維持する義務
導管は、ガス事業法におけるガス工作物(同法第2条第13 項)に該当する。
一般ガス導管事業者は、
一般ガス導管事業の用に供するガス工作物を経済産業省
令で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならず(ガス事業法第 9661 条第1項)
、これを受けたガス工作物の技術上の基準を定める省令(平成 12 年
通商産業省令第111 号。
以下
「技術基準省令」
という。)においては、
導管につき、
「供用中の荷重並びに最高使用温度及び最低使用温度における最高使用圧力に対
し、
設備の種類、
規模に応じて適切な構造でなければならない。」(技術基準省令第
15 条第1項第6号)などと定められている。
導管は、その種類ごとに、技術基準省令で定める適切な方法により検査を行い、
漏えいが認められなかったものでなければならない(技術基準省令第51 条)など
とされていることから、
一般ガス導管事業者は、
定期的にガスの漏えいの有無を検
査する義務を負っており、
漏えいが発見されれば、
導管を補修するなどして、
漏え
いが認められない状態を維持しなければならない。
したがって、
一般ガス導管事業者は、
私道下に導管を設置した場合、
当然に導管
の維持管理義務を負い、
それに必要な限度で私道を利用することが予定されている
といえる。
(3) 導管等の所有関係
一般ガス導管事業者は、
事業者ごとに託送供給約款を作成し、
これに基づいてガス
の託送供給を行っているが、導管は、本支管、供給管、内管の3種類に分類されてい
る。
ア 本支管
原則として公道
(道路法その他の法令に定めのある国又は地方公共団体の管理す
る道路)
に並行して公道に埋設する導管をいう。
本支管は、
事業者の所有に属する。
なお、
私道に埋設する導管についても、
不特定多数の人及び原則として道路構造
令第4条第2項に定める普通自動車の通行が可能である等の要件を満たす私道に
ついては、
事業者による変更・修繕について承諾が得られた場合には、
本支管とし
て取扱われる。
イ 供給管
本支管から分岐して、
道路と需要家等が所有又は占有する土地との境界線に至る
までの導管をいう。供給管も、事業者の所有に属する。
ウ 内管
イの境界線からガス栓までの導管及びその付属施設をいう。
内管は、ガス利用者の所有に属する。
(4) 導管を私道下に設置する場合の法律関係
ア ガスの需要家と一般ガス導管事業者との関係
ガスの供給に関し、
需要家が供給契約を締結するのは、
ガス小売事業者との間で 97あり、一般ガス導管事業者との間では契約関係がない。
イ 導管設置における一般的取扱い
託送供給約款においては、
一般ガス導管事業者が需要家等のために私道に導管を
埋設する場合には、
需要家等は私道所有者からの承諾を得る必要がある旨規定され
ている。
この承諾については、
需要家自身又は工事を実施する業者が、
一般ガス導管事業
者宛ての導管設置工事の承諾書を私道所有者から徴し、
それを一般ガス導管事業者
に提出するのが通常である。
現在、
当該承諾書では、
導管の補修、
取替え等を行う
必要がある場合の工事についても、
承諾の対象としており、
工事の際に改めて承諾
を得る必要がないようになっている。
ただし、
過去に結ばれた一部の承諾書では、
導管の補修、
取替え等に係る工事に
ついての承諾を含まない場合がある。
この場合、
一般ガス導管事業者は、
工事の際
に、
私道内で工事を行うことを承諾する旨の承諾書を私道所有者から提出させ、それに基づいて工事を行っている。
私道所有者との関係で工事の承諾が取得できない
場合であっても、
現にガスの漏えいが発生しているような場合には、
民法第698 条
の緊急事務管理の考え方に基づき、一般ガス導管事業者が補修工事を実施してい
る。
一般ガス導管事業者と私道所有者の間の私道の利用権の性質については、使用
貸借等の契約に基づく利用権、区分地上権等、一様ではないようであるが、その
期間は、一般に、ガス管の設置後、撤去するときまでとされており、数十年にわ
たる長期間の利用も可能とされている。 98【電気事業及び電柱関係】
(電気事業及び電柱関係に関する法律関係)
(1) 電気事業について
電気事業の全体構造の概要は下図のとおりである。
需要家である一般家庭が小売電気事業者と電気の小売供給契約を締結すると、
発電
事業者により発電された電気は、送配電事業者の送配電設備を経由して需要家に供給
される。
【出典:経済産業省】
(2) 一般送配電事業者等の義務
ア 託送供給義務
一般送配電事業者、
配電事業者及び特定送配電事業者
(以下
「一般送配電事業者
等」という。
)は、小売電気事業者からの依頼に対し、正当な理由がなければ、そ
の供給区域における託送供給を拒んではならない
(一般送配電事業者:電気事業法 99〔昭和39 年法律第170 号〕第17 条第1項、配電事業者:電気事業法第27 条の12
の10 第1 項、
特定送配電事業者:電気事業法第27 条の14 第1 項)
とされている。
一般送配電事業者等は、
小売電気事業者が契約している需要家に対し供給するた
めの電気を託送することになるが、
その際、
必要な電柱の設置は、
一般送配電事業
者等が行っている。
イ 事業用電気工作物を維持する義務
(ア) 私道に設置される電柱は、
一般的に、
一般送配電事業者等が所有・管理して
いる。これらの電柱は、電気事業法における事業用電気工作物(同法第 38 条
第3項)
であり、
電気設備に関する技術基準を定める省令
(平成9年通商産業
省令第52 号)における「支持物」に当たる(同省令第1条第15 号)。(イ) 一般送配電事業者等は、
事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準
に適合するように維持しなければならないとされているところ
(電気事業法第
39 条第1項)、これを受けた電気設備に関する技術基準を定める省令において
は、
電柱を含む支持物の材料及び構造は、
その支持物が支持する電線等による
引張荷重、
10 分間平均で風速40 メートル毎秒の風圧荷重及び当該設置場所に
おいて通常想定される地理的条件、
気象の変化、
振動、
衝撃その他の外部環境
の影響を考慮し、
倒壊のおそれがないよう、
安全なものでなければならない旨
規定されている(第32 条第1項)。また、
一般送配電事業者等は、
電柱を含む事業用電気工作物の工事、
維持及
び運用に関する保安を確保するため、
保安を一体的に確保することが必要な事
業用電気工作物の組織ごとに保安規程を定めて経済産業大臣に届け出た上で、
それを守らなければならないとされている(電気事業法第 42 条第1項、第4項)。
したがって、
一般送配電事業者等は、
私道に電柱を設置した場合、
当然に電
柱の維持管理義務を負い、
それに必要な限度で私道を利用することが予定され
ているといえる。
(3) 電柱等を私道に設置する場合の法律関係
ア 電気の需要家と一般送配電事業者等との関係
電気の供給に関し、需要家が供給契約を締結するのは、小売電気事業者との間で
あり、一般送配電事業者等との間では契約関係がない(電気事業法第 27 条の 15 の
登録を受けた特定送配電事業者とその小売供給の相手方の間を除く。)。
一般送配電事業者、配電事業者又は特定送配電事業者が、需要家である一般家庭
に電気を供給するため、私道に電柱を設置するには、小売電気事業者からの供給申 100込みを受ける必要がある。
イ 電柱設置における一般的取扱い
一般送配電事業者等が需要家のために私道に電柱を設置する際、
実務においては、
電柱を設置する土地の地番を特定した上で、当該地番の土地の所有者から一般送配
電事業者等が所有・管理する電柱の設置のために使用すること及びこれに対して土
地の使用料を支払うことにつき、承諾を得た上で、電柱設置工事を行っている。
私道所有者からの承諾は、一般的には、私道所有者から、一般送配電事業者等宛
ての電柱設置に係る承諾書を受領することにより得ている。
一般送配電事業者等は、この承諾に基づいて私道に電柱を設置し、それを経由し
て需要家に電気を供給している。
なお、電柱の取替え等を行う必要がある場合、一般送配電事業者等は、私道内で
工事を行うことを承諾する旨の工事承諾書を私道所有者から受領し、それに基づい
て私道を掘削した上で、電柱の取替え等をしている。
事業者と私道所有者との間で設定される電柱設置のための土地利用権の性質につ
いては、一般的には賃借権であり、その期間は、一般に、一般送配電事業者等が設
備の設置を必要とする期間とされており、数十年にわたる長期間の利用も可能とさ
れている。 101しろまる 導管関係等対照表
共同所有型 相互持合型 共同所有型 相互持合型 共同所有型 相互持合型
公共的導管
に接続
事例11
(給水管新設)
持分に応じた使用
→ 単独で可
事例12
(給水管新設)
地役権、設備設置権
→ 単独で可
事例19,21
(排水管新設)
持分に応じた使用
→ 単独で可
事例20,22
(排水管新設)
下水道法
→ 単独で可
私人導管
に接続
事例13
(給水管新設)
持分に応じた使用、
設備使用権
→ 単独で可
事例14
(給水管新設)
地役権、設備設置権・設
備使用権
→ 単独で可
事例13参照
持分に応じた使用・設備
設置権
→ 単独で可
事例14、20参照
下水道法,地役権、設備設
置権・設備使用権
→ 単独で可
事例23参照
管理に関する事項
→ 持分の過半数の
同意で可
事例24参照
設置部分の
各土地の所有者が
地方公共団体との間で
利用権設定必要
事例23
(公共下水管新設)
管理に関する事項
→ 持分の過半数の
同意で可
事例24
(公共下水管新設)
設置部分の
各土地の所有者が
地方公共団体との間で
利用権設定必要
事例25
(ガス管新設)
管理に関する事項
→ 持分の過半数の
同意で可
事例24参照
設置部分の
各土地の所有者が
事業者との間で
利用権設定必要
事例15
(給水管補修)
持分に応じた使用
→ 単独で可
事例16
(給水管補修)
地役権、設備設置権
→ 単独で可
事例15参照
持分に応じた使用
→ 単独で可
事例16、20参照
下水道法、地役権
→ 単独で可
事例17
(配水管取替え)
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
事例18
(配水管取替え)
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
事例17参照
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
事例18参照
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
事例26
(ガス管補修)
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
事例18参照
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
共同所有型 相互持合型
事例27
(電柱新設)
管理に関する事項
→ 持分の過半数の
同意で可
事例27参照
設置部分の
各土地の所有者が
事業者との間で
利用権設定必要
事例28
(電柱取替)
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
事例28参照
明示又は黙示の合意
→ 公共的導管の
設置・管理者単独で可
事例29
(電柱取替)
管理に関する事項
→ 持分の過半数の
同意で可
事例29参照
設置部分の
各土地の所有者が
事業者との間で
利用権設定必要
導管関係においては、導管の所有・管理者が誰か、接続先の導管が公共的導管か私人導管か、導管を設置する私道が共同所有型か相互持合
型かの各要素の組合せにより、それぞれの法律関係が決定されるが、導管の種類が異なっても、法律関係は同じ場合もある。
そこで、本ガイドラインにおいては、一般的に支障事例が多数生じていると考えられる代表的な類型の事例を取り上げ、それと同様の規律となる
ことが明らかな事例については、下記の対照表で結論のみを掲げ、考え方については、代表的な類型についての説明を参照できるようにしたの
で、適宜参照されたい。
なお、導管設置等の工事を私道所有者や公共導管設置・管理者単独で実施することができる類型の枠は水色で、私道の各所有者の持分の過
半数の同意で行うことができる類型の枠は黄色で、私道所有者全員の同意がなければ実施することができない類型の枠はピンク色で表示してい
る。
電 柱
ガ ス
(通常想定されない)
(通常想定されない)
(通常想定されない)
私人導管を
私道下に
設置 水 道 下 水 道
新設
公共的導管を
私道下に設置
新 設
取 替
(隣接場所)
取 替
(同一場所) 補修・取替
私人導管の
補修・取替え
公共的導管の
補修・取替え 102事例11 給水管の新設事例
〜給水管を配水管に接続(共同所有型)
1.私道の概要
・平成10年私道築造
・延長20m、幅4m(コンクリート舗装)
・1〜4は、自己所有の給水管(下図紫色部分)を公道下の配水管と接続
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜5が共有(共有持分は各5分の1、2は所在等不明)
・5は自宅の新築に伴い、私道下に自己所有の給水管を設置し、公道下の配水管に接続する必要
あり
3.工事の概要
・工事の実施主体は5
・私道を掘削し、5所有の給水管(下図黄色部分)を設置して公道下の配水管と接続させ,路面を舗
装する
しろまる 共同所有型私道を経由して給水管を公道下の配水管に接続する必要
があるが、共有者の一部が所在等不明で給水管設置工事の同意が得ら
れない事例
➀賛成
【概略図】
公道
配水管
2所在等不明5給水管
1〜5の
共同所有型私道
3賛成
4賛成 103事例11 給水管の新設事例
〜給水管を配水管に接続(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 5の共有者が、
自己の宅地内に新たに水を引き込むため、
共同所有型私道下に給水管
を設置する。
しろまる 工事の実施主体は、5の共有者である。
しろまる アスファルト舗装された私道下に5の共有者が所有する給水管を設置するために、
必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、
給水管を設置した後、
路面まで埋
め戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため
(改正前民法第249 条、改正民法第249 条第1項)
、共同所有型私道について共有持分
を有する共有者は、それぞれ、その持分に応じて私道を使用することができる。
本事例では、5の共有者は、その持分に応じて私道を全部使用することができるこ
とから、掘削工事を行うことについて、2の共有者の同意を得る必要はない。また、
給水管を設置することにより、5の共有者が自己の持分を超えて共有私道を使用する
ものとは解されないから、5の共有者は1〜4の共有者に対し、対価の償還義務(改
正民法第249 条2項)を負わない。 104事例12 給水管の新設事例
〜給水管を配水管に接続(相互持合型)
1.私道の概要
・平成10年私道築造
・延長20m、幅4m(コンクリート舗装)
・1〜4は、自己所有の給水管(下図紫色部分)を公道下の配水管と接続
2.権利関係等の概要
・5筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜5が各1筆ずつ所有(2は所在等不明)
・5は自宅の新築に伴い、私道下に自己所有の給水管を設置し、公道下の配水管に接続する必要あり3.工事の概要
・工事の実施主体は5
・私道を掘削し、5所有の給水管(下図黄色部分)を設置して公道下の配水管と接続させ、路面を舗装しろまる 相互持合型私道を経由して給水管を公道下の配水管に接続する必要が
あるが、所有者の一部が所在等不明で給水管設置工事の同意が得られな
い事例
➀賛成
【概略図】
公道
配水管
2所在等不明51所有
3賛成
4賛成
5所有
4所有
2所有
給水管
3所有 105事例12 給水管の新設事例
〜給水管を配水管に接続(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 相互持合型私道に接した宅地を所有する者が、
当該宅地内に水を引き込むための給水
管を設置する。
しろまる 宅地に水を引き込むには、
他人の所有する通路敷の下に給水管を設置する以外には方
法がない。
しろまる アスファルト舗装された私道下に5の所有者が所有する給水管を設置するために、必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、
給水管を設置した後、
路面まで埋め
戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、5の所有者である。
事例の検討
しろまる 私道下に給水管が設置されている場合、私道を構成する土地の提供者は、相互に、
地上の通行だけではなく、通路の地下に、公道に設置されている配水管に接続するた
めの給水管を設置することを明示又は黙示に承諾していたものと考えられる。
したがって、このような場合には、新たに給水管を設置する者(5)に対する関係
においても、私道の地下に給水管の設置を目的とする地役権(民法第280 条)が明示
又は黙示に設定されていると解され、5の所有者は、給水管を設置することができる
と考えられる。
しろまる なお、改正前民法の下でも、他の土地を経由しなければ、水道事業者の設置した配
水管から宅地に給水を受けることができないいわゆる導管袋地については、他の土地
に囲まれて公道に通じない土地(袋地)の所有者の通行権(囲繞地通行権)に関する
民法第210 条から第213 条までの類推適用により、他人の土地の使用が認められる場
合もある。
しろまる また、改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し、又は他人
が所有する設備を使用しなければ水道水の供給等の継続的給付を受けることができな
いときは、他の土地等の所有者に対する通知を行った上で、当該継続的給付を受ける
ために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、又は他人が所有する設備を使用す
ることができることとされている(改正民法第213 条の2第1項及び第3項)。本事例では、5の所有者は、他人の所有する通路敷の下に給水管を設置する以外に 106宅地に水を引き込む方法がないため、1〜4の同意を得なくとも、通知を行った上
で、給水管を用いた水道の継続的給付を受けるために必要な限度で給水管を1〜4の
所有する土地に設置することができる。この場合、所在等が不明である2の所有者に
対しては、公示による意思表示をもって、通知を行うことになる(民法第98 条)。しろまる 設備設置権・設備使用権を有する者は、設備を他の土地に設置し又は他人が有する
設備を使用するために、当該他の土地や当該他人が所有する設備がある土地を使用す
ることができる。この場合においては、改正民法第213 条の2第4項により、隣地使
用権に関する改正民法第209 条第1項ただし書及び第2項から第4項までの規定が準
用される。詳細については前記のコラム:改正民法4を参照されたい。 107事例13 給水管の新設事例
〜給水管を共有給水管に接続(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和60年私道築造
・延長30m、幅4m(コンクリート舗装)
・私道下には、私道開設と同時に、2〜4の共有給水管(下図紫色部分の黒点線枠内)が設置され、
2〜4は、自己所有の給水管を共有給水管に接続(1、6〜8は公道に自己所有の給水管を接続)2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜6が共有(共有持分は1〜3、6が各5分の1、4と5は各10分
の1、6は所在等不明)
・4は、下図緑枠内の土地を所有していたが、分筆して一部を5に譲渡するとともに、自己の私道の
持分の半分を5に譲渡
・5は自宅の新築に伴い、私道下に自己所有の給水管を設置し、2〜4の共有給水管に接続する
必要あり
3.工事の概要
・工事の実施主体は5
・私道を掘削し、5所有の給水管(下図黄色部分)を設置して2〜4の共有給水管と接続させ、路面
を舗装する
しろまる 共同所有型私道下に給水管を新設し、共有給水管に接続する必要があるが、共有
者の一部が所在等不明で給水管設置工事の同意が得られない事例
2〜4の
共有給水管
1〜6の
共有私道
【概略図】
公道
配水管
配水管
6所在等不明
➇(私道の共有持分なし)
7(私道の共有持分なし)13254公道
2〜4の
共有給水管
➀〜➅の
共同所有型
私道 108事例13 給水管の新設事例
〜給水管を共有給水管に接続(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 5の私道共有者が、
自己の宅地内に新たに水を引き込むため、
共同所有型私道下に給
水管を設置する。
しろまる 私道の地下には、公道に設置された配水管に直結する共有給水管が設置されている。
給水管の共有者は、
2〜4の私道共有者であり、
5の私道共有者が共有給水管に給水管
を接続することについても同意している。
しろまる 工事の実施主体は、5の私道共有者である。
しろまる アスファルト舗装された私道下に5の私道共有者が所有する給水管を設置するため
に、
必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、
給水管を設置した後、
路面ま
で埋め戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため
(民法第249 条、改正民法第249 条第1項)
、共同所有型私道について共有持分を有す
る共有者は、それぞれ、その持分に応じて私道を使用することができる。
本事例では、5の私道共有者は、その持分に応じて私道を全部使用することができ
るから、掘削工事を行うことについて、民法上、6の私道共有者の同意を得る必要は
ない。その際、給水管を設置することにより、5の共有者が自己の持分を超えて共有
私道を使用するものとは解されないから、5の共有者は他の共有者に対し、対価の償
還義務(改正民法249 条2項)を負わない。
しろまる また、2〜4の私道共有者の共有給水管に、5の私道共有者が給水管を接続する工
事については、2〜4の私道共有者の同意が得られている。
しろまる なお、改正前民法の下でも、民法第220 条及び第221 条の類推適用により、共有給
水管を使用することができるものと考えられる(
【事例14】参照)。しろまる 改正民法の下では、5の私道共有者は、2〜4の共有給水管に接続しなければ水道
の供給を受けられないときには、2〜4の共有者に通知を行った上で、当該水道の供
給を受けるために必要な範囲内で、2〜4の共有給水管に自己の給水管を接続して給
水管を使用することができる(改正民法第213 条の2第1項及び第3項)
。共有給水管
の共有者の一部が所在不明である場合、所在等不明の共有者に対しては、公示による 109意思表示によって通知を行うことになる(民法第98 条)。 110
事例14 給水管の新設事例
〜給水管を共有給水管に接続(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和60年私道築造
・延長30m、幅4m(コンクリート舗装)
・私道下には、私道開設と同時に2〜4の共有給水管(下図紫色部分の黒点線枠内)が設置され、
2〜4は、自己の給水管を共有給水管に接続(1、6〜8は公道に自己所有の給水管を接続)
2.権利関係等の概要
・6筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜6が1筆ずつ所有(6は所在等不明)
・4は、下図緑枠内の土地を所有していたが、分筆して一部を5に譲渡するとともに、私道部分に有し
ていた2筆の土地のうちの1筆分を5に譲渡
・5は自宅の新築に伴い、6の土地下に自己所有の給水管を設置し、2〜4の共有給水管に接続
する必要あり
3.工事の概要
・工事の実施主体は5
・6所有の土地を掘削し、5所有の給水管を設置して2〜4の共有給水管と接続させ、路面を舗装
しろまる 相互持合型私道に隣接する宅地の居住者が、他人の土地である私道下
に給水管を新設し、共有給水管に接続する必要があるが、土地所有者が
所在等不明で給水管設置工事の同意が得られない事例
1所有
6所有
2所有23所有
【概略図】 公道
公道
配水管
配水管45所有
4所有
➇(私道の共有持分なし)
7(私道の共有持分なし)12〜4の
共有給水管
6所在等不明35 111事例14 給水管の新設事例
〜給水管を共有給水管に接続(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 相互持合型私道に接した宅地を所有する者が、当該宅地内に水を引き込むための給
水管を設置する。
しろまる 宅地に水を引き込むには、他人の所有する通路敷の下に給水管を設置する以外には
方法がない。
しろまる 私道の地下には、他の宅地の所有者が共有する給水管が設置されている。
しろまる 工事の実施主体は、5の所有者である。
しろまる アスファルト舗装された私道下に5の所有者が所有する給水管を設置するために、
必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、給水管を設置した後、路面まで
埋め戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 改正前民法下の判例では、宅地の所有者は、他の土地を経由しなければ、水道事
業者の設置した配水管から宅地に給水を受けることができない場合において、他人
の給水設備を給水のため使用することが他の方法に比べて合理的であるときは、そ
の使用により当該給水設備に予定される効用を著しく害するなどの特段の事情のな
い限り、民法第 220 条及び第 221 条の類推適用により、当該給水設備を使用するこ
とができるとされている(最判平成 14 年 10 月 15 日民集 56 巻8号 1791 頁参照)。そのため、5の所有者は、6の所有者の同意がなくても、給水管の設置のために6
の所有者の通路敷を使用することができると考えられる。
しろまる また、自己の宅地内に水を引き込むための給水管を、他人が共有する給水管に接
続するために、他人が所有する隣地を使用せざるを得ない場合には、給水管の設置
という生活に不可欠の導管を設置する必要性の観点から、改正前民法の下でも、袋
地利用を確保するための相隣関係の規定である民法第 210 条から第 213 条の類推適
用により、他人の土地の使用が認められる場合があると考えられる。
しろまる さらに、私道下に給水管が設置されている場合、通路敷となる土地の提供者は、
相互に、地上の通行だけではなく、通路敷の地下に、公道に設置されている配水管
に接続するための給水管を設置することを明示又は黙示に承諾していたものと考え
られる。 112したがって、このような場合には、新たに給水管を設置する者(5)に対する関
係においても、通路敷の地下に給水管の設置を目的とする地役権(民法第 280 条)
が明示又は黙示に設定されたと考えられ、地役権に基づき給水管を設置することも
できると考えられる。
しろまる 改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置し又は他人が所有す
る設備を使用しなければ水道水の供給等の継続的給付を受けることができないとき
は、他の土地等の所有者及び他の土地を現に使用している者に対する通知を行った
上で、当該継続的給付を受けるために必要な範囲内で、他の土地に設備を設置し、
又は他人が所有する設備を使用することができることとされた(民法第 213 条の2
第1項及び第3項)。そのため、5の所有者は、6の所有者及び私道を現に使用していると評価するこ
とができる者に対して通知(所在等不明の6の所有者に対しては公示による意思表
示での通知)を行った上で、設備設置権に基づき、給水管の設置のために6の所有
者の通路敷を使用することができる。また、5の所有者は、2〜4の同意がなくと
も、これらの者に対して通知を行った上で、設備使用権に基づき、5の所有者が所
有する給水管を2〜4の共有給水管に接続して使用することができる。
しろまる 改正民法では、設備設置権・設備使用権を有する者は、設備を他の土地に設置し
又は他人が有する設備を使用するために、当該他の土地や当該他人が所有する設備
がある土地を使用することができることについては、
【事例 12】を参照されたい。
(改正前民法の下での参考判例)
しろまる最高裁判所平成 14 年 10 月 15 日第三小法廷判決・民集 56 巻8号 1791 頁
宅地を所有する者(X)が、宅地内に水を引き込み、また、下水を公流又は下
水道等まで排出するため、市道に設置された他人(Y)所有の給排水設備を使用
することの承諾を求めた事案についてのもの。最高裁判所は、宅地の所有者が、
他の土地を経由しなければ、水道事業者の敷設した配水管から当該宅地に給水を
受け、その下水を公流又は下水道等まで排出することができない場合において、
他人の設置した給排水設備をその給排水のため使用することが他の方法に比べて
合理的であるときは、その使用により当該給排水設備に予定される効用を著しく
害するなど特段の事情のない限り、民法第 220 条及び第 221 条の類推適用によ
り、当該給排水設備を使用することができるものと解するのが相当であると判示
し、YはXによる当該給排水設備の使用を受忍すべきであるとした。 113事例15 給水管の補修事例(共同所有型)
1.私道の概要
・平成5年私道築造(アスファルト舗装)
・延長12m、幅約4m
・1〜3は、私道開設と同時に、自己所有の給水管を公道下の配水管に接続
・2所有の給水管が損傷しており、補修の必要がある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜3が共有(共有持分は各3分の1、 1は所在等不明)
・公道下の配水管は水道事業者所有
・給水管(下図紫色部分)は1〜3がそれぞれ所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は2
・私道の一部を掘削し、2所有の給水管を補修後、埋め直して路面の一部(×ばつ4m=12m2)をアス
ファルト舗装
しろまる 共同所有型私道の地下に設置されている給水管から漏水したため、共同
所有型私道を掘削し、給水管を修復する必要が生じたが、共有者の一部が
所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
破損箇所
配水管【概略図】
公道
公道
1所在等不明
2賛成
3賛成
要舗装箇所
配水管
1〜3の
共同所有型私道
3賛成
要補修箇所 114事例15 給水管の補修事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 共同所有型私道の地下に設置された給水管が破損して漏水している。
しろまる 工事の実施主体は、2の共有者である。
しろまる 共同所有型私道の路面を掘削し、地中に設置されている給水管を補修した後、路面
まで埋め戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 私道の共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができ
るため(改正前民法第 249 条、改正民法第 249 条第1項)
、一般に、共同所有型私道
の下に給水管を設置することができる。
しろまる そして、当該給水管に損傷が生じた場合には、持分に応じた土地の使用として、設
置した給水管の損傷を補修するために必要な工事を行うことができる。
しろまる 本事例においては、2の共有者は、共同所有型私道下に設置した自己所有の給水管
を補修するため、持分に応じた使用として、1の共有者の同意がなくても、工事を行
うことができるものと考えられる。 115事例16 給水管の補修事例(相互持合型)
1.私道の概要
・平成5年私道築造(アスファルト舗装)
・延長12m、幅約4m
・1〜3は、私道開設と同時に、自己所有の給水管を公道下の配水管に接続
・2所有の給水管が損傷しており、補修の必要がある
2.権利関係の概要
・3筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜3が各1筆ずつ所有(1は所在等不明)
・公道下の配水管は水道事業者所有
・給水管(下図紫色部分)は1〜3がそれぞれ所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は2
・私道の一部を掘削し、2所有の給水管を補修後、路面の一部(×ばつ4m=12m2)をアスファルト舗装
しろまる 相互持合型私道の地下に設置されている給水管から漏水したため、私道
を掘削し、給水管を修復する必要が生じたが、所有者の一部が所在等不明
のため、工事の同意を得られない事例
破損箇所
配水管【概略図】
公道
公道
1所在等不明
2賛成
3賛成
配水管
3所有 2所有
要舗装箇所
要補修箇所
1所有 116事例16 給水管の補修事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 相互持合型私道が築造されたのと同時に、私道下に1〜3がそれぞれ所有する給水
管が設置され、現在に至るまで使用されている。
しろまる 相互持合型私道の地下に設置された給水管が破損して漏水している。
しろまる 工事の実施主体は、2の所有者である。
しろまる 相互持合型私道の路面を掘削し、地中に設置されている給水管を補修した後、路面
まで埋め戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有土地部分を要
役地とし、互いの所有地部分を他方の通行のための承役地とする地役権(民法第 280
条)が黙示に設定されていることが多い。また、地役権の内容は、設定行為によると
ころ、敷地内に建物を建てるのと同時に通路(私道)を開設するとともに、給水管も
設置していたような場合には、土地の提供者は、相互に、私道の地下に各土地の所有
者の自宅敷地内に水を引き込むための給水管を設置して私道下を利用することを内
容とする地役権(民法第 280 条)を明示又は黙示に設定したと考えるのが合理的であ
る。
しろまる 私道下の給水管(導管)の設置を目的とする地役権が設定されていると考えられる
場合に、本事例のように、給水管が損傷して漏水し、その利用が阻害されているとき
には、要役地所有者(2の所有者)は、私道下の給水管の利用を確保するために補修
工事を実施することができ、承役地所有者(1の所有者)はこれを受忍すべき義務を
負うと考えることができる。
しろまる 改正前民法の下でも、他の土地を経由しなければ、水道事業者の設置した配水管か
ら宅地に給水を受けることができないいわゆる導管袋地については、
他の土地に囲ま
れて公道に通じる土地
(袋地)
の所有者の通行権
(囲繞地通行権)
に関する民法第 210
条から第 213 条までの類推適用により、他人の土地の使用が認められる場合もある。
しろまる 改正民法においては、土地の所有者は、他の土地に設備を設置しなければ水道水の
供給などの継続的給付を受けることができない場合には、通知を行った上で、当該
他の土地に設備を設置することができ、また、当該設置のために当該他の土地を使
用することができるとされている(改正民法第 213 条の2第1項、第3項及び第4項)。ここでいう設備の設置は、設備の新設だけでなく、既設の設備の取替えや補修 117を含むものと解される。
しろまる 改正民法においては、設備設置権・設備使用権を有する者は、設備を他の土地に設
置し又は他人が有する設備を使用するために、当該他の土地や当該他人が所有する
設備がある土地を使用することができることについては、
【事例 12】を参照された
い。 118事例17 配水管の取替事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和44年私道築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅約5.5m
・私道下には配水管(昭和44年布設)が設置されているが、老朽化している
・配水管の老朽化により耐力が低下し、破損・損傷による水質悪化、漏水の危険がある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜8が共有(共有持分は各8分の1、 7は所在等不明)
・私道下の配水管(赤点線部分)は水道事業者所有
・給水管(下図紫色部分)は1〜8がそれぞれ所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は水道事業者
・路面を掘削して老朽化した配水管を取り替えた後、路面全体をアスファルト舗装
しろまる 共同所有型私道の地下に設置されている配水管が老朽化したため、路面
を掘削し、配水管を取り替える必要が生じたが、共有者の一部が所在等不明
のため、工事の同意が得られない事例3賛成
5賛成
【概略図】
6賛成 7所在等不明 8賛成
1賛成 2賛成 3賛成 4賛成
配水管
配水管
1〜➇の
共同所有型私道
公道
公道
配水管 119事例17 配水管の取替事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 共同所有型私道が築造されたのと同時期に、私道下に水道事業者が所有・管理する
配水管が設置され、現在に至るまで使用されている。
しろまる 私道下に設置されている配水管が老朽化することにより、配水管の耐力が低下し、
破損・損傷による、漏水の危険が生じるため、配水管を管理する水道事業者は、配水
管の補修・取替えを行う必要がある。
しろまる 工事の実施主体は、水道事業者である。
しろまる 共有私道の路面を掘削し、地中に設置されている配水管を取り替えた後、路面まで
埋め戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 水道事業者(市町村等)は、配水管を設置する際、通常、私道の共有者全員の同意
を得て、配水管の設置のため地下を利用する権利の設定を受けている。また、水道事
業者は、
配水管設置のための地下の利用権の設定を受ける際、
配水管の補修・取替え・
撤去のための私道の利用についての承諾をあらかじめ得ることによって、
工事につい
て合意していることが多い。
しろまる 私道の共有者全員の承諾書が存在しない場合でも、共有者は配水管を通じて水の供
給を継続的に受けているのであり、配水管の設置・補修等につき、共同所有する私道
の利用権が黙示に設定されたと認められることが多い。
しろまる また、水道事業者は水道施設である配水管が耐力を有し、水が汚染され、かつ、漏
れるおそれのないようにすべき責務がある。
しろまる 本事例において、水道事業者は、7の共有者を含む私道共有者の合意(黙示的合意
を含む。)に基づき、
配水管の取替工事をすることができ、
私道共有者は、
工事を受忍
すべき義務を負うものと考えられる。 120事例18 配水管の取替事例(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和44年私道築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅約5.5m
・私道下には配水管(昭和44年布設)が設置されているが、老朽化している
・配水管の老朽化により耐力が低下し、破損・損傷による水質悪化、漏水の危険がある
2.権利関係の概要
・8筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜8が各1筆ずつ所有(7は所在等
不明)
・私道下の配水管(赤点線部分)は水道事業者所有
・給水管(下図紫色部分)は1〜8がそれぞれ所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は水道事業者
・路面を掘削して老朽化した配水管を取り替えた後、路面全体をアスファルト舗装
しろまる 相互持合型私道の地下に設置されている配水管が老朽化したため、路面
を掘削し、配水管を取り替える必要が生じたが、所有者の一部が所在等不
明のため、工事の同意が得られない事例3賛成
5賛成
【概略図】
6賛成 7所在等不明 8賛成
1賛成 2賛成 3賛成 4賛成
6所有
3所有
8所有
5所有
2所有
4所有
7所有
1所有
公道
公道
配水管
配水管
配水管 121事例18 配水管の取替事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 相互持合型私道が築造されたのと同時期に、私道下に水道事業者が所有・管理する
配水管が設置され、現在に至るまで使用されている。
しろまる 私道下に設置されている配水管が老朽化することにより、配水管の耐力が低下し、
破損・損傷による漏水の危険が生じるため、配水管を管理する水道事業者は、配水管
の補修・取替えを行う必要がある。
しろまる 工事の実施主体は、水道事業者である。
しろまる 私道の路面を掘削し、地中に設置されている配水管を取り替えた後、路面まで埋め
戻し、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 水道事業者は配水管を設置する際、通常は、私道の所有者全員の同意を得て、配水
管の設置のため地下を利用する権利の設定を受けている。また、水道事業者は、配水
管設置のための地下の利用権の設定を受ける際、配水管の補修・取替え・撤去のため
の私道の利用についての承諾をあらかじめ得ることによって、工事について合意して
いることが多い。
しろまる 私道の所有者全員の承諾書が存在しない場合でも、私道の各所有者は、水道事業者
が設置する配水管を通じて水の供給を継続的に受けているのであり、
私道の各所有者
は、水道事業者に対し、配水管を設置するための土地の利用権を黙示に設定したもの
と認められることが多い。
しろまる また、水道事業者は水道施設である配水管が耐力を有し、水が汚染され、かつ、漏
れるおそれのないようにすべき責務がある。
しろまる 本事例において、地方公共団体は、7の通路敷所有者を含む私道所有者の合意に基
づき、配水管の取替工事をすることができ、私道所有者は、工事を受忍すべき義務を
負うものと考えられる。
しろまる また、配水管の設置について、7の所有者による明示又は黙示の合意(黙示的合意
を含む。)が認められない場合であっても、
水道事業者は、
裁判所に対して、
7の所有
者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、
又は7の通路敷を対象とする
改正民法の下での所有者不明土地管理命令の申立てを行い(民法第 264 条の2第1項)、選任された管理人に対して、配水管の取替工事の実施に係る承諾を求めること 122も考えられる9。9当該市町村の長は、所有者不明土地の適切な管理のため特に必要があると認められる
ときは、利害関係の有無を問わず、管理人の選任等の請求をすることができる(特措法
第 38 条第1項及び第2項、改正特措法第 42 条第1項及び第2項)。 123
事例19 私有排水管の新設事例(共同所有型)
1.私道の概要
・平成9年私道築造(アスファルト舗装)
・延長18m、幅約4.5m
・公共下水道の排水区域内
・7は、自宅の新築に伴い、私道下に排水管を設置して公道下の公共下水管に接続し
なければ、宅地の下水を公共下水管に流入させることが困難
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜7が共有(共有持分は各7分の1、1は所在等不明)・私道下の排水管は2、3、5、6がそれぞれ所有
・公共下水管は地方公共団体所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は7
・路面を掘削して、7所有の汚水枡を地方公共団体所有の公共下水管に排水管で接
続し、路面を埋め戻して、必要な限度でアスファルト舗装
しろまる 共同所有型私道下に排水管を設置したいが、共有者の一部が所在等不
明で工事の同意を得られない事例
【概略図】
4賛成 6賛成
5賛成
1所在等不明 2賛成 3賛成71〜➆の
共同所有型私道
公共下水管
汚水枡
公共下水管
公道
排水管 124事例19 私有排水管の新設事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 公共下水道の排水区域内である。
しろまる 工事の実施主体は、7の共有者である。
しろまる アスファルト舗装された私道下に7の共有者が所有する排水管を設置するために、
必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、排水管を設置した後、再度アス
ファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため
(改正前民法第 249 条、改正民法第 249 条第1項)
、共同所有型私道について共有持
分を有する共有者は、それぞれ、その持分に応じて私道を使用することができる。
本事例では、7の共有者は、その持分に応じて私道を全部使用することができる
から、掘削工事を行うことについて、民法上、1の共有者の同意を得る必要はな
い。
また、排水管を新設することにより、7の共有者が自己の持分を超えて共有私道
を使用するものとは解されないから、7の共有者は1〜6の共有者に対し、対価の
償還義務(改正民法第 249 条第2項)を負わない。 125事例20 私有排水管の新設事例(相互持合型)
1.私道の概要
・平成9年私道築造(アスファルト舗装)
・延長18m、幅約4.5m
・公共下水道の排水区域内
・7は、自宅の新築に伴い、私道下に排水管を設置して公道下の公共下水管に接続し
なければ、宅地の下水を公共下水管に流入させることが困難
2.権利関係等の概要
・7筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜7が各1筆ずつ所有(1は所在等
不明)
・私道下の排水管は2、3、5、6がそれぞれ所有
・公共下水管は地方公共団体所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は7
・路面を掘削して、7所有の汚水枡を地方公共団体所有の公共下水管に排水管で接
続し、路面を埋め戻して、必要な限度でアスファルト舗装
しろまる 相互持合型私道下に排水管を設置したいが、所有者の一部が所在等不
明で工事の同意を得られない事例
【概略図】
4賛成 6賛成
5賛成
1所在等不明 2賛成 3賛成71
公共下水管
汚水枡
公共下水管
公道
排水管
➀所有
2所有
3所有
4所有
5所有 ➅所有 ➆所有 126事例20 私有排水管の新設事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 公共下水道の排水区域内である。
しろまる 私道に隣接する宅地の所有者は、
他人の所有する通路敷の地下に排水管を設置して私
道下の公共下水管に接続させなければ、
宅地の下水を公共下水道に流入させることが困
難である。
しろまる 工事の実施主体は、7の所有者である。
しろまる アスファルト舗装された私道下に7が所有する排水管を設置するために、
必要な範囲
でアスファルトを剥がして路面を掘削し、
排水管を設置した後、
再度アスファルト舗装
する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 公共下水道の供用が開始された場合には、原則として、当該公共下水道の排水区域
内の土地の所有者は、遅滞なく、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必
要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という。
)を設置しなければ
ならないとされている(下水道法第10 条第1項)。しろまる 下水道法第10 条第1項により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地
又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるとき
は、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することが
できるとされており(下水道法第11 条第1項)
、この場合、他人の土地又は排水設備
にとって最も損害の少ない場所又は箇所及び方法を選ばなければならない(下水道法
第11 条第1項)。しろまる 下水道法第11 条第1項の規定により他人の土地に排水設備を設置することができる
者は、当該排水設備の設置をするためやむを得ない必要があるときは、他人の土地を
使用することができ、この場合においては、あらかじめその旨を当該土地の占有者に
告げなければならないが(下水道法第11 条第3項)
、当該土地の所有者の同意を得な
くても排水設備を設置することができる。
しろまる 本事例においては、7の所有者は、1の所有者が所有する私道部分の下の公共下水
管に接続させなければ公共下水道に下水を流入させることが困難であるから、下水道
法第11 条第1項に基づき、1の所有者の同意を得ることなく、当該私道にとって最も
損害の少ない場所又は箇所及び方法によって私道下に公共下水管に接続させる排水管
を設置することができる。 127なお、私道に排水管を設置するための私道の使用により他人に損失を与えた場合に
おいては、その者に対し、通常生ずべき損失を補償しなければならないとされている
(下水道法第11 条第4項)。 128
事例21 共同排水管等の新設事例(共同所有型)
1.私道の概要
・平成9年私道築造(アスファルト舗装)
・延長18m、幅約4.5m
・公共下水道の排水区域内、1及び4は公共下水管に直接排水管を接続
・2、3、5〜7は、私道下に共同排水管及び共同汚水枡を設置して公道下の公共
下水管に接続しなければ,宅地の下水を公共下水管に流入させることが困難
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜7が共有(共有持分は各7分の1、1は所在等不明)・公共下水管は地方公共団体所有、共同排水管及び共同汚水枡は2、3、5〜7の
共有、汚水枡に接続する排水管は2、3、5〜7がそれぞれ所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は2、3、5〜7
・路面を掘削して、2、3、5〜7が共有する共同排水管及び共同汚水枡を私道下に
設置した上で、共同汚水枡に2、3、5〜7の排水管をそれぞれ接続し、路面を埋め
戻して、必要な限度でアスファルト舗装
しろまる 共同所有型私道下に共同排水管及び共同汚水枡を設置したいが、共有
者の一部が所在等不明で工事の同意を得られない事例
【概略図】
4賛成 6賛成
5賛成
1所在等不明 2賛成 3賛成
7賛成
1〜➆の
共同所有型私道
公共下水管
汚水枡
共同排水管
公共下水管
公道
排水管
共同
汚水枡
共同排水管
共同
汚水枡 129事例21 共同排水管等の新設事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 公共下水道の排水区域内である。
しろまる 1及び4は公共下水管に直接排水管を接続している。
しろまる 工事の実施主体は、2、3、5〜7の共有者である。
しろまる 共同排水管及び共同汚水枡は、2、3、5〜7の共有者が共有し、汚水枡に接続する
排水管は、2、3、5〜7の共有者がそれぞれ所有する。
しろまる アスファルト舗装された私道下に共同排水管及び共同汚水枡を設置し、2、3、5〜
7が自らの所有地内の汚水枡を共同汚水枡に接続する各自所有の排水管を設置するた
めに、
必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、
共同排水管、
共同汚水枡及
び排水管を設置した後、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができるため
(改正前民法第249 条、改正民法第249 条第1項)
、共同所有型私道について共有持分
を有する共有者は、それぞれ、その持分に応じて私道を使用することができる。
本事例では、2、3、5〜7の共有者は、その持分に応じて私道を全部使用するこ
とができるから、掘削工事を行い、共同排水管、共同汚水枡及び自らの所有地内の汚
水枡を共同汚水枡に接続するための排水管を設置することについて、民法上、1の共
有者の同意を得る必要はない。
また、この場合、共同排水管、共同汚水枡及び排水管の設置により、2、3、5〜
7の共有者が自己の持分を超えて共有私道を使用するものではないと解されるから、
他の共有者に対し、対価の償還義務(改正民法249 条2項)を負わないと考えられ
る。
しろまる また、当該共同排水管や共同汚水枡に損傷が生じた場合において、2、3、5〜7
の共有者がその補修を行うときも、持分に応じた土地の使用として、それぞれが補修
のために必要な工事を行うことができる。 130事例22 共同排水管等の新設事例(相互持合型)
1.私道の概要
・平成9年私道築造(アスファルト舗装)
・延長18m、幅約4.5m
・公共下水道の排水区域内、1及び4は公共下水管に直接排水管及び共同汚水枡
を接続
・2、3、5〜7は,私道下に共同排水管及び共同汚水枡を設置して公道下の公共
下水管に接続しなければ、宅地の下水を公共下水管に流入させることが困難
2.権利関係等の概要
・7筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜7が各1筆ずつ所有(1は所在等
不明)
・公共下水管は地方公共団体所有、共同排水管及び共同汚水枡は2、3、5〜7の
共有、汚水枡に接続する排水管は2、3、5〜7がそれぞれ所有
3.工事の概要
・工事の実施主体は2、3、5〜7
・路面を掘削して、2、3、5〜7が共有する共同排水管及び共同汚水枡を私道下に
設置した上で、共同汚水枡に2、3、5〜7の排水管をそれぞれ接続し、路面を埋め
戻して、必要な限度でアスファルト舗装
しろまる 相互持合型私道下に共同排水管及び共同汚水枡を設置したいが、共有
者の一部が所在等不明で工事の同意を得られない事例
【概略図】
4賛成 6賛成
5賛成
1所在等不明 2賛成 3賛成
7賛成
公共下水管
汚水枡
共同排水管
公共下水管
公道
排水管
5所有 6所有 7所有
4所有
3所有 2所有
共同排水管
共同
汚水枡
1所有
共同
汚水枡 131事例22 共同排水管等の新設事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 公共下水道の排水区域内である。
しろまる 1及び4は公共下水管に直接排水管を接続している。
しろまる 私道に隣接する宅地の所有者は、
他人の所有する通路敷の地下に共同排水管及び共同
汚水枡を設置して公道下の公共下水管に接続させなければ、
宅地の下水を公共下水管に
流入させることが困難である。
しろまる 工事の実施主体は、2、3、5〜7の所有者である。
しろまる 共同排水管及び共同汚水枡は、2、3、5〜7の所有者が共有し、汚水枡に接続する
排水管は、2、3、5〜7の所有者がそれぞれ所有する。
しろまる アスファルト舗装された私道下に共同排水管及び共同汚水枡を設置し、2、3、5〜
7がそれぞれ所有する所有地内の汚水枡を共同汚水枡に接続するための排水管を設置
するために、
必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、
共同排水管、
共同汚
水枡及び排水管を設置した後、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
事例の検討
しろまる 公共下水道の供用が開始された場合には、原則として、当該公共下水道の排水区域
内の土地の所有者は、遅滞なく、その土地の下水を公共下水道に流入させるために必
要な排水管、排水渠その他の排水施設(以下「排水設備」という。
)を設置しなければ
ならないとされている(下水道法第10 条第1項)。しろまる 下水道法第10 条第1項により排水設備を設置しなければならない者は、他人の土地
又は排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難であるとき
は、他人の土地に排水設備を設置し、又は他人の設置した排水設備を使用することが
できるとされており(下水道法第11 条第1項)
、この場合、他人の土地又は排水設備
にとって最も損害の少ない場所又は箇所及び方法を選ばなければならない(下水道法
第11 条第1項)。しろまる 下水道法第11 条第1項の規定により他人の土地に排水設備を設置することができる
者は、当該排水設備の設置をするためやむを得ない必要があるときは、他人の土地を
使用することができ、この場合においては、あらかじめその旨を当該土地の占有者に
告げなければならないが(下水道法第11 条第3項)
、当該土地の所有者の同意を得な
くても排水設備を設置することができる。
しろまる 本事例においては、2、3、5〜7の所有者は、1の所有者が所有する私道部分の
下に共同汚水枡を設置し、また、5の所有者は、自らの所有地内の汚水枡を共同汚水 132枡に接続するための排水管を1の所有者が所有する私道部分の下に設置しなければ、
公共下水道に下水を流入させることが困難であるから、下水道法第11 条第1項に基づ
き、1の所有者の同意を得ることなく、当該私道にとって最も損害の少ない場所又は
箇所及び方法によって私道下に共同排水管及び自らの所有地内の汚水枡を共同排水管
に接続するための排水管を設置することができる。
なお、私道に排水管を設置するための私道の使用により他人に損失を与えた場合に
おいては、その者に対し、通常生ずべき損失を補償しなければならないとされている
(下水道法第11 条第4項)。しろまる また、下水道法第11 条第1項の規定により他人の土地に排水設備を設置することが
できる者は、当該排水設備の設置、改築若しくは修繕又は維持をするためやむを得な
い必要があるときは、他人の土地を使用することができ、この場合においては、あら
かじめその旨を当該土地の占有者に告げなければならない。
(下水道法第11 条第3項)。そのため、本事例において、共有私道下に設置した共同排水管、共同汚水枡及び
排水管の修繕を行う必要がある場合には、設備の修繕を行う私道共有者は、あらかじ
め工事を行う土地の占有者に対して通知を行った上で、当該修繕の工事のために他人
の土地を使用することができる。 133事例23 公共下水管の新設事例(共同所有型)
しろまる 下水道設置のため、共同所有型私道を掘削して地下に公共下水管を新
設し、アスファルトで再舗装する事例
1.私道の概要
・平成5年築造(アスファルト舗装)
・延長40m、幅4m
・これまで排水区域外であったため、下水道が普及しておらず、2〜7、9、10は浄化
槽を利用
・新たに排水区域指定され、下水管を整備する必要
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜10が共有(共有持分は各10分の1、3は所在等不
明 )
・公共下水管は全て地方公共団体所有
・私道共有者は、地方公共団体との間で、公共下水管(下図赤点線部分)設置のため
の利用権設定契約を締結したい
3.工事の概要
・工事の実施主体は地方公共団体
・必要な範囲で路面を掘削し、私道下に公共下水管を布設し、再度路面をアスファルト
舗装
公道
【概略図】
➅賛成 ➆賛成
11賛成
1〜11の共有私道
公共下水管
5賛成
1賛成
2賛成
3所在等不明 4賛成
➇賛成
9賛成
➉賛成
1〜10の
共同所有型私道
公共下水管
汚水枡 134事例23 公共下水管の新設事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 私道沿いの各居宅は、
汚水処理のために浄化槽を利用しており、
私道下に排水管は設
置されていなかった。
しろまる 地方公共団体は、通常、私道下には公共下水管を設置しないが、下水道事業における
下水管整備の一環として、
私道所有者全員から同意が得られた場合等の一定の条件の下
で、地方公共団体の負担で公共下水管を設置することがある。
しろまる 工事の実施主体は、地方公共団体である。
しろまる アスファルト舗装された私道下に公共下水管を設置するために、
必要な範囲でアスフ
ァルトを剥がして路面を掘削し、
公共下水管を設置した後、
再度アスファルト舗装する
工事を実施する。
しろまる 地方公共団体は、
私道下に公共下水管を設置するために、
私道の所有者との間で公共
下水管を設置するための利用権設定契約を締結し、長期間土地を使用する。
事例の検討
しろまる 市町村等が私道の地下に公共下水管を設置する際には、一般に、私道の所有者との
間で、公共下水管を設置するために地下を利用する権利を設定する契約を締結してい
る。設定される利用権の法的性質は一様ではないようであるが、一般にこのような利
用権を設定する際には、契約期間は定まっていないものの、数十年にわたる長期間の
利用が予定されている。
しろまる 市町村等が私道下に公共下水管を設置する場合、市町村等が公共下水管の改築、修
繕、維持その他の管理を行うこととなり(下水道法第3条)
、公共下水道を良好な状態
に保つように維持し、修繕する等の義務を負い(下水道法第7条の3、同法施行令第
5条の12)
、私道が公共の管理に服することとなる。
しろまる もっとも、公共下水管を私道の地下に設置した場合には、私道の地下の状態は物理
的に変更されるものの、一般的に、私道の機能についての変更は生じないことや、私
道共有者自身も公共下水管を使用することからすると、利用権を設定する契約を締結
して私道の地下に公共下水管を設置する行為は、共有物の管理に関する事項に当た
り、共有者の持分の過半数で決する(改正前民法第252 条本文、改正民法第252 条第
1項)。したがって、持分の過半数の共有者の同意により、利用権設定契約を締結して公共
下水管の設置工事を行うことができるから、民法上は、3以外の共有者の同意に基づ 135いて工事を行うことができるものと考えられる。なお、このような地下の一部のみに
ついて利用権を設定する契約は、共有者による土地の使用を排除するものではないた
め、改正民法第252 条第4項の賃借権等の設定には当たらないと解される。
しろまる なお、本事例において、共有者の一部が工事の実施について反対しているケース
や、賛否を明らかにしないケースにおいても、工事の実施主体である地方公共団体
は、1〜10の共有者の持分の過半数の決定により、利用権設定契約を締結して公共下
水管の設置工事を実施することができる(改正民法第252 条第1項)。また、共有者の一部に所在等不明者や賛否不明者がいるために1〜10の共有者の持
分の過半数が確保できない場合であっても、改正民法の下では、所在等不明共有者以
外の共有者による管理の裁判や賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得る
ことにより、所在等不明共有者等を除いた残りの共有者の持分の過半数で決定して、
契約を締結して工事を実施することができる(改正民法第252 条第2項第1号及び第
2号)。 136
事例24 公共下水管の新設事例(相互持合型)
しろまる 下水道設置のため、相互持合型私道を掘削して地下に公共下水管を新
設し、アスファルトで再舗装する事例
1.私道の概要
・平成5年築造(アスファルト舗装)
・延長40m、幅4m
・これまで排水区域外であったため、下水道が普及しておらず、2〜7、9、10は浄化
槽を利用
・新たに排水区域指定され、下水管を整備する必要
2.権利関係等の概要
・10筆の土地で構成される私道(下図青枠内を1〜10が所有、3は所在等不明)
・公共下水管は全て地方公共団体所有
・私道所有者は、地方公共団体との間で、公共下水管(下図赤点線部分)設置のため
の利用権設定契約を締結したい
3.工事の概要
・工事の実施主体は地方公共団体
・必要な範囲で路面を掘削し、私道下に公共下水管を布設し、再度路面をアスファルト
舗装
公道
【概略図】
6賛成 7賛成
11賛成
1〜11の共有私道
公共下水管
5賛成
1賛成
2賛成
3所在等不明 4賛成
➇賛成
9賛成
10賛成
公共下水管
汚水枡
➉所有
9所有
➇所有
➆所有
➅所有
3所有
➀所有
2所有
4所有
5所有 137事例24 公共下水管の新設事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 私道沿いの各居宅は、汚水処理のために浄化槽を利用しており、私道下に排水管は
設置されていなかった。
しろまる 地方公共団体は、通常、私道下には公共下水管を設置しないが、下水道事業におけ
る下水道管整備の一環として、私道所有者全員から同意が得られた場合等の一定の
条件の下で、地方公共団体の負担で公共下水管を設置することがある。
しろまる 工事の実施主体は、地方公共団体である。
しろまる アスファルト舗装された私道下に公共下水管を設置するために、必要な範囲でアス
ファルトを剥がして路面を掘削し、公共下水管を設置した後、再度アスファルト舗
装する工事を実施する。
しろまる 地方公共団体は、私道下に公共下水管を設置するために、私道の所有者との間で公
共下水管を設置するための利用権設定契約を締結し、長期間土地を使用する。
事例の検討
しろまる 市町村等が私道の地下に公共下水管を設置する際には、一般に、私道の所有者との
間で、公共下水管を設置するために地下を利用する権利を設定する契約を締結して
いる。設定される利用権の法的性質は一様ではないようであるが、一般にこのよう
な利用権を設定する際には、契約期間は定まっていないものの、数十年にわたる長
期間の利用が予定されている。
しろまる 市町村等が私道下に公共下水管を設置する場合、市町村等が公共下水管の改築、修
繕、維持その他の管理を行うこととなり(下水道法第3条)
、公共下水道を良好な状
態に保つように維持し、修繕する等の義務を負い(下水道法第7条の3、同法施行
令第5条の 12)
、私道が公共の管理に服することとなる。
しろまる 相互持合型私道においては、私道の全ての土地の所有者が、それぞれ地方公共団体
との間で利用権設定契約を締結することが必要となると考えられる。
なお、その際、共有となっている土地がある場合は、
【事例 23】に準じて、共有
物の管理に関する事項に当たり、当該土地の共有者の持分の過半数の同意が必要と
なる(民法第 252 条第1項)。しろまる したがって、3の所有者の同意がない限り、3の所有者の所有に係る土地に公共下
水管を新設することは困難である。 138しろまる もっとも、地方公共団体は、3の所有者について不在者財産管理人等の選任申立て
を行うか、又は3の所有者の所有に係る通路部分の土地について改正民法の下での
所有者不明土地管理命令の申立てを行い、選任された管理人から、公共下水管の設
置についての承諾を得ることにより、私道下に公共下水管の設置を受けることがで
きると考えられる10。10 市町村の長は、所有者不明土地の適切な管理のため特に必要があると認められると
きは、利害関係の有無を問わず、管理人の選任等の請求をすることができる(特措法第
38 条第1項及び第2項、改正後特措法第 42 条第1項及び第2項)。 139
事例25 ガス管の新設事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和52年私道築造(アスファルト舗装)
・延長約20m、幅約4m
・私道下にガス管(本支管、供給管、内管)が設置されておらず、新設する必要がある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜7が共有(共有持分は各7分の1、7は区域外で居住していたが所在等
不明)
・設置後、本支管(下図茶色部分)と供給管(下図オレンジ色部分)は一般ガス導管事業者所有、内管(下
図黄色部分)は各個人(1〜6)所有となる
・私道所有者は、一般ガス導管事業者との間で、本支管及び供給管設置のための契約を締結したい
3.工事の概要
・工事の実施主体は一般ガス導管事業者
・私道上のアスファルトを撤去して掘削し、下図のように、私道下に本支管と供給管を新設した後、路面全
体をアスファルト舗装
しろまる 共同所有型私道の路面を掘削し、地下にガス管を新設する必要が生じたが、
共有者の一部が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
【概略図】
公道
7は区域外で居住していたが
所在等不明
行き止まり
本支管
1〜➆の
共同所有型私道 供給管
4賛成 5賛成 6賛成
1賛成 2賛成
内管
3賛成 140事例25 ガス管の新設事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる ガス管が設置されていなかった地域において、共同所有型私道下にガス管(本支管
及び供給管)を新設する。
しろまる アスファルト舗装された私道下に、本支管及び本支管から各戸に繋がる供給管を設
置するため、必要な範囲でアスファルトを剥がして路面を掘削し、ガス管を設置した
後、再度アスファルト舗装する工事を実施する。
しろまる 工事の実施主体は、一般ガス導管事業者である。
しろまる 設置する本支管及び供給管は一般ガス導管事業者所有である。
しろまる 一般ガス導管事業者は、本支管及び供給管を設置するために、私道の所有者との間
でガス管を設置するための利用権設定契約を締結し、長期間土地を使用する。
事例の検討
しろまる 一般ガス導管事業者が私道の地下に同事業者の所有するガス管を設置する際には、
私道の所有者との間で、ガス管を設置するために地下を利用する権利を設定する契
約を締結している。その設定される利用権の法的性質は一様ではないようである
が、一般にこのような利用権を設定する場合、数十年にもわたる長期間の利用も可
能とされている。
しろまる ガス管を私道の地下に設置した場合には、私道の地下の状態は物理的に変更される
ものの、一般的に、私道の機能についての変更は生じないことや、私道共有者自身
もガス管を使用することからすると、利用権を設定する契約を締結して私道の地下
にガス管を設置する行為は、共有物の管理に関する事項に当たり、共有者の持分の
過半数で決する(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252 条第1項)。したがって、持分の過半数の共有者の同意により、利用権設定契約を締結してガ
ス管の設置工事を行うことができるから、民法上は、7以外の共有者の同意に基づ
いて工事を行うことができるものと考えられる。
なお、このような地下の一部のみについて利用権を設定する契約は、共有者によ
る土地の使用を排除するものではないため、改正民法第 252 条第4項の賃借権等の
設定には当たらないと解される。
しろまる なお、本事例において、共有者の一部が工事の実施について反対しているケース
や、賛否を明らかにしないケースにおいても、工事の実施主体である一般ガス導管
事業者は、1〜7の共有者の持分の過半数の決定により、利用権設定契約を締結し 141て、ガス管の設置工事を実施することができる(改正前民法第 252 本文、改正民法
第 252 条第1項)。また、共有者の一部に所在等不明者や賛否不明者がいるために1〜7の共有者の
持分の過半数が確保できない場合であっても、改正民法の下では、所在等不明共有
者以外の共有者による管理の裁判や賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判
を得ることにより、所在等不明共有者等を除いた残りの共有者の持分の過半数で決
定して、契約を締結し、工事を実施することができる(改正民法第 252 条第2項第
1号及び第2号)。 142
事例26 ガス管の補修事例(共同所有型)
1.私道の概要
・平成5年私道築造(アスファルト舗装)
・延長約20m、幅約4m
・私道下にガス管(平成5年設置)が設置されているが、本支管が破損し、微量のガス漏れが生じている
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜7が共有(共有持分は各7分の1、 7は区域外に居住していたが、
所在等不明)
・ 設置後、本支管(下図茶色部分の赤点線枠内)、供給管(下図オレンジ色部分)は一般ガス導管事
業者所有、内管(下図黄色部分)は各個人(1〜6)所有となる
・ 1〜7と一般ガス導管事業者の間では、本支管と供給管を共有私道下に設置するための利用権設
定契約が締結されている
3.工事の概要
・工事の実施主体は一般ガス導管事業者
・私道の一部のアスファルトを撤去して掘削し、地下の本支管を補修した後、路面の一部をアスファルト
舗装(×ばつ4m=8m2)
しろまる 地下の本支管が破損し、ガス漏れが生じていることから、共同所有型私道
の路面を掘削し、地下の本支管を補修する必要が生じたが、共有者の一部
が所在等不明のため、工事の同意を得られない事例
【概略図】
公道
行き
止まり
破損箇所
1〜7の
共有私道
供給管
7は区域外で居住していたが
所在等不明
本支管
行き止まり
要補修箇所
1賛成 2賛成
内管
3賛成
4賛成 5賛成 6賛成 143事例26 ガス管の補修事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 共同所有型私道が築造されたのと同時期に、私道下にガス事業者が所有・管理する
ガス管(本支管)が設置され、現在に至るまで使用されている。
しろまる 私道下に設置されている一般ガス導管事業者が所有・管理するガス管(本支管)か
らガスが漏れているため、ガス管(本支管)を管理する一般ガス導管事業者は、ガス
管(本支管)の補修を行う必要がある。
しろまる ガスは、空気中で一定濃度を超え、着火源が存在すると着火する可能性があること
から、地中でガス漏れが生じている本事例においては、着火・爆発に至る可能性があ
る。
しろまる 工事の実施主体は、一般ガス導管事業者である。
しろまる 私道の路面を掘削し、地中に設置されているガス管を補修して埋め直し、路面を再
舗装する。
事例の検討
しろまる 一般ガス導管事業者はガス管を設置する際、通常は、私道の共有者全員の同意を得
て、ガス管の設置のため地下を利用する権利の設定を受けている。また、一般ガス導
管事業者は、ガス管設置のための地下の利用権の設定を受ける際、ガス管の補修・取
替え・撤去のための私道の利用についての承諾をあらかじめ得ることによって、工事
について合意していることが多い。
しろまる 私道の共有者全員の承諾書が存在しない場合でも、
共有者がガス管を通じてガスの
供給を継続的に受けているようなケースであれば、何らかの利用権が黙示に設定され
たと認められることが多い。
しろまる 一般ガス導管事業者は、
私道下に設置しているガス管を維持管理すべき責務を負っ
ている。
しろまる 本事例において、一般ガス導管事業者は、7の共有者を含む私道共有者の合意に基
づき、当該私道を利用してガス管の補修工事をすることができ、私道共有者は、工事
を受忍すべき義務を負うものと考えられる。
しろまる なお、
私道の利用につき承諾があることや利用権が黙示に設定されていることにつ
いては、相互持合型私道においても同様であり、一般ガス事業者は、ガス管の補修部
分を行う部分の土地の所有者の合意に基づき、
当該土地を利用してガス管の補修工事
をすることができ、土地所有者は、工事を受忍すべき義務を負うものと考えられる。 144事例27 電柱の新設事例
1.私道の概要
・平成10年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅4m
・1〜4は、公道上の電柱から自宅に電線を引き込んでいたが、5宅の新築に伴い、電気を供給す
るための電柱を共有私道内に新設する必要がある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内) を1〜5が共有(共有持分は各5分の1、3は所在等不明)。
・電柱は一般送配電事業者所有
・一般送配電事業者は、私道所有者との間で、電柱設置のための契約を締結したい
3.工事の概要
・工事の実施主体は一般送配電事業者
・必要な限度で路面を掘削して電柱を設置し、舗装する
・工事期間は約1か月間
しろまる 共同所有型私道上に電柱を新設したいが、共有者の一部が所在等不
明であるため、工事の同意が得られない事例
1賛成
1〜5の
共有私道
公道
【概略図】
新設
2賛成
3所在等不明
5賛成
電柱
4賛成 145事例27 電柱の新設事例
事例のポイント
しろまる 私道上に電柱は設置されていなかった。
しろまる アスファルト舗装された私道に電柱を設置するため、必要な範囲でアスファルトを
剥がして路面を掘削し、一般送配電事業者所有の電柱を設置する。
しろまる 工事の実施主体は、一般送配電事業者である。
しろまる 一般送配電事業者は、私道に電柱を設置するために、私道の所有者との間で電柱を
設置するための利用権設定契約を締結し、長期間土地を使用する。
事例の検討
しろまる 一般送配電事業者が私道上に新たに電柱を新設する場合、一般に、私道の所有者と
の間で電柱を設置するために土地を利用する権利を設定する契約を締結している。
設定される利用権の法的性質は、一般的には賃借権であるが、その期間は、一般
に、数十年にわたる長期間の利用も可能とされている。
しろまる 本事例において、私道の共有者が、一般送配電事業者との間で利用権設定契約を締
結し、同事業者に電柱の新設工事を行わせることは、私道の状態を物理的に変更す
るものの、一般的に、私道の機能についての変更は生じないことからすると、利用
権設定契約を締結して私道に電柱を設置する行為は、共有物の管理に関する事項に
当たり、共有者の持分の過半数で決する(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252
条第1項)。しろまる したがって、持分の過半数の共有者の同意により、利用権設定契約を締結して電柱
の設置工事を行うことができるから、民法上は、3以外の共有者の同意に基づいて
工事を行うことができるものと考えられる。
なお、このような通路の一部のみについて利用権を設定する契約は、共有者による
土地の使用を排除するものではないため、
改正民法第 252 条第4項の賃借権等の設定
には当たらないと解される。
しろまる なお、本事例において、共有者の一部が工事の実施について反対しているケース
や、賛否を明らかにしないケースにおいても、工事の実施主体である一般送配電事
業者は、1〜5の共有者の持分の過半数の同意を得て電柱の設置工事を実施するこ
とができる。
共有者の一部に所在等不明者や賛否不明者がいるために1〜5の共有者の持分の過
半数が確保できない場合であっても、改正民法の下では、所在等不明共有者以外の共 146有者による管理の裁判や賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得ることに
より、所在等不明共有者等を除いた残りの共有者の持分の過半数で決定して、工事に
同意することができる(改正民法第 252 条第2項第1号及び第2号)。しろまる もっとも、電柱の設置場所によっては、宅地からの出入りや公道への車による出入
りが困難になる等、共有者の一部の者の共有私道の利用を妨げることになったり、
トラブルが生じたりする可能性があるため、設置位置については可能な限り共有者
間で協議を行い、少なくとも、居宅前に電柱を設置される共有者の同意を得る等十
分に配慮することが望ましい。
しろまる なお、相互持合型私道において、電柱を新設する場合には、電柱を設置する土地の
部分の所有者の同意が必要であると考えられる(当該土地が共有となっているとき
は、共有物の管理に関する事項に当たり、共有物の持分の過半数で決する)。電柱を設置する部分の土地の所有者の所在が不明である場合には、一般送配電事業
者は、当該所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、又は当該所有
者の所有に係る電柱が新設される予定の土地について改正民法の下での所有者不明
土地管理命令の申立てを行い、選任された管理人から電柱の新設に係る承諾を得るこ
とにより、電柱を設置することができると考えられる。
しろまる 実務上は、全員の同意が得られない場合は、同意が得られる宅地敷地内に電柱を設
置して送電をすることができるようにしていることが多い。 147事例28 電柱の取替事例(同一場所)
1.私道の概要
・昭和56年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅4m
・1宅前に事業者所有のコンクリート製の電柱が設置されている(下図星印、平成元年設置)が、ひび
割れするなど老朽化しており、取り替える必要がある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内) を1〜5が共有(共有持分は各5分の1、4・5は区域外に居住していた
が、いずれも所在等不明)
・電柱は一般送配電事業者所有
・事業者は、1〜5との間で、電柱設置のための契約を締結している
3.工事の概要
・工事の実施主体は一般送配電事業者
・本事例の場合、老朽化電柱の隣が2の居宅の玄関前であり、電柱を建てることができないため、 (1)
下図の仮設先に電柱を建てて仮舗装する、(2)老朽化電柱から既設電線を撤去する、(3)仮設電柱に
新規電線を設置する、(4)老朽化電柱を撤去して、同所に新電柱を建てて本舗装する、(5)仮設電柱
の既設電線を撤去して、新電柱に新規電線を設置し、仮設先を本舗装するという流れで工事を実施
・工事期間は約6か月
しろまる 共同所有型私道上の電柱を取り替えたいが、共有者の一部が所在等不
明であるため、工事の同意が得られない事例
1賛成
1〜5の
共同所有型私道
商業用建物
(私道の共有持分なし)
商業用建物
(私道の共有持分なし)
公道
行き止まり
【概略図】
3賛成
仮設先
2賛成
商業用建物
(私道の共有持分なし)
老朽化電柱
45は区域外に居住し所在等不明 148事例28 電柱の取替事例(同一場所)
事例のポイント
しろまる 共同所有型私道が築造されたのと同時期に、私道上に一般送配電事業者が所有する
電柱が設置され、現在に至るまで使用されている。
しろまる 私道に設置された電柱に大きな亀裂が生じており、将来的に倒壊する危険があるた
め、電柱を管理する義務を負う一般送配電事業者は、電柱の補修・取替えを行う必要
がある。
しろまる 工事の実施主体は、一般送配電事業者である。
しろまる 私道上の別の場所に仮設の電柱を設置し、
旧電柱に取り付けられた電線を取り外し、
仮設電柱に電線を移設する。
しろまる 旧電柱を撤去し、同所に新電柱を設置した後、仮設電柱に取り付けられた電線を取
り外して新電線に移設し、仮設電柱を撤去し、同所を再舗装する。
しろまる 一般送配電事業者と土地所有者との間では、土地につき、電柱を設置するための利
用権設定契約が締結されている。
事例の検討
しろまる 一般送配電事業者が電柱を設置する際、通常は、私道の共有者全員の同意を得て、
電柱の設置のため私道を利用する権利の設定を受けることによって、
工事について合
意している。
しろまる 私道の共有者全員の承諾書が存在しない場合でも、共有者は電気の供給を継続的に
受けているのであり、何らかの利用権が黙示に設定されたと認められることが多い。
しろまる 本事例において、一般送配電事業者は、4及び5の共有者を含む私道共有者の合意
に基づき、電柱の取替工事をすることができ、私道共有者は、工事を受忍すべき義務
を負うものと考えられる。
しろまる また、工事の期間中に仮設電柱を共有私道上に設置することも、電柱を設置する際
の合意の範囲内の行為とみることができ、
私道共有者はこれを受忍すべき義務を負う
ものと考えられる。
しろまる これに対し、
相互持合型私道の場合には、
一般送配電事業者は、
電柱の設置の際に、
電柱を設置する部分の土地の所有者との間で、
電柱の設置のため当該部分を利用する
権利の設定を受けることによって、工事について合意している。
そのため、一般送配電事業者は、明示又は黙示の合意に基づき、電柱を取り替えて
再度同じ位置に設置することができる。 149しろまる 相互持合型私道において仮設電柱を設置する場合については、これを設置する土地
の所有者の同意を得る必要がある。 150事例29 電柱の取替事例(隣接場所)
1.私道の概要
・昭和56年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅4m
・私道上の電柱が老朽化しており、取り替える必要がある
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内) を1〜5が共有(共有持分は各5分の1、3は所在等不明)。
・電柱は一般送配電事業者所有
・一般送配電事業者は、私道共有者との間で、電柱設置のための契約を締結している
3.工事の概要
・工事の実施主体は一般送配電事業者
・(1)現在の電柱の所在地から約1m離れた場所を必要な限度で掘削して新電柱を立てて舗装し、(2)
新電柱に新規電線等を設置した後、旧電柱の既設電線を撤去し、(3)旧電柱を撤去して路面を舗装
する
・工事期間は約3か月
しろまる 共同所有型私道上の電柱を取り替えたいが、共有者の一部が所在等不
明であるため、工事の同意が得られない事例
1賛成
1〜5の
共同所有型私道
公道
【概略図】
新電柱
2賛成
3所在等不明
5賛成
電柱
4賛成
老朽化電柱 151事例29 電柱の取替事例(隣接場所)
事例のポイント
しろまる 共同所有型私道が築造されたのと同時期に、
私道上に一般送配電事業者が所有する電
柱が設置され、現在に至るまで使用されている。
しろまる 私道に設置された電柱に大きな亀裂が生じており、
将来的に倒壊する危険があるため、
電柱を管理する義務を負う一般送配電事業者は、
電柱の補修・取替えを行う必要がある。
しろまる 工事の実施主体は、一般送配電事業者である。
しろまる 現在の電柱の所在地に隣接する場所を必要な限度で掘削して新電柱を設置し、
新電柱
に新規電線等を設置した後、
旧電柱の既設電線を撤去し、
旧電柱を撤去して路面を再舗
装する。
しろまる 一般送配電事業者と土地所有者との間では、
土地につき、
電柱を設置するための利用
権設定契約が締結されている。
事例の検討
しろまる 一般送配電事業者が電柱を設置する際、通常は、私道の共有者全員の同意を得て、電
柱の設置のため私道を利用する権利の設定を受けることによって、
工事について合意し
ている。
しろまる 私道の共有者全員の承諾書が存在しない場合でも、
共有者は電気の供給を継続的に受
けているのであり、何らかの利用権が黙示に設定されたと認められることが多い。
しろまる 本事例において、
一般送配電事業者は、
3の共有者を含む私道共有者の合意に基づき、
電柱の取替工事をすることができるが、
電柱の設置位置を変更することにより、
土地の
利用状況・方法が変更されるから、電柱を隣接場所に移設することに同意する行為は、
共有物の管理に関する事項に当たり、
共有者の持分の過半数の同意が必要となる
(改正
前民法第252 条本文、改正民法第 252 条第1項)
。なお、電柱の危険度・電柱取替の緊
急性が高い場合には、
電柱の取替のための土地利用について、
保存行為
(改正前民法第
252 条ただし書、改正民法第252 条第5項)として、共有者の一人の承諾で足りる場合
もあり得ると考えられる。
しろまる なお、
改正民法においては、
電柱の設置場所を変えることで宅地からの出入りや公道
への車による出入りが困難になる等、
共有者の一部の者の共有私道の利用を妨げること
になったり、
トラブルが生じたりする可能性があるため、
設置位置については可能な限
り共有者間で協議を行い、
少なくとも、
居宅前に電柱を設置される共有者の同意を得る
等十分に配慮することが望ましいことについては、
【事例27】と同様である。 152しろまる これに対し、相互持合型私道の場合には、一般送配電事業者は、電柱の設置の際に、
電柱を設置する部分の土地の所有者との間で、
電柱の設置のため当該部分を利用する権
利の設定を受けているが、
それ以外の部分の土地所有者との間では、
利用権の設定を受
けていない。
そのため、
一般送配電事業者は、
新たな電柱を設置する土地の所有者との間で利用権
の設定を受けていない場合には、
改めて、
当該土地所有者との間で利用権の設定を受け
る必要がある。
なお、
新たな電柱を設置する土地の所有者の所在が不明であるような場合、
一般送配
電事業者としては、
当該所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、又は当該所有者の所有に係る新たに電柱が設置される予定の土地について改正民法の下
での所有者不明土地管理命令の申立てを行い、選任された管理人から新たな電柱の設
置に係る承諾を得ることにより、新たな電柱を設置することができると考えられる。
しろまる 本事例において、共有者の一部が電柱の取替え工事について反対しているケース
や、賛否を明らかにしないケースにおいても、工事の実施主体である一般送配電事業
者は、1〜5の共有者の持分の過半数の同意を得て、電柱の取替え工事を実施するこ
とができる(改正民法第252 条第1項)。また、
共有者の一部に所在等不明者や賛否不明者がいるために1〜5の共有者の持分
の過半数が確保できない場合であっても、
改正民法の下では、
所在等不明共有者以外の
共有者による管理の裁判や賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得ること
により、
所在等不明共有者等を除いた残りの共有者の持分の過半数で決定して、
工事に
同意することができる(改正民法第252 条第2項第1号及び第2号)。 153
3 その他
事例30 階段の新設事例
1.私道の概要
・昭和60年私道築造(コンクリート舗装)
・延長20m、幅4m
・私道は急勾配の坂道
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜4が共有(共有持分は各4分の1、1は所在等不明)
3.工事等の概要
・工事の実施主体は2〜4
・下図のように、坂道である私道上に階段を設置する
・階段を設置すると、自動車や自転車の通行はできなくなる
公道
公道
1所在等不明
4賛成
2賛成
3賛成
1〜4の
共同所有型私道
しろまる 坂道である共同所有型私道に階段を設置したいが、共有者の一部が所
在等不明のため、工事の同意が得られない事例
【概略図】 154事例30 階段の新設事例
事例のポイント
しろまる コンクリート舗装された坂道として利用されている。
しろまる 工事の実施主体は、2〜4の共有者である。
しろまる 坂道であるコンクリート道の路面の全体にコンクリートの階段を設置し、
私道全体を
階段にする。
事例の検討
しろまる 坂道であるコンクリート道をコンクリートの階段とする工事は、
通路敷に加工を施し、
その形状を大きく変更するものといえる。
しろまる 階段が設置されていない坂道と階段が設置された道とでは、
道路としての機能が異な
り、
坂道で従来通行できた自動車や自転車の通行が不可能になるとすれば、
道路の効用
を大きく変えるものと評価することができる。
しろまる 以上からすると、
坂道である通路の全面に階段を新設し、
自動車や自転車の通行をで
きなくする行為は、
一般に、
共有物に形状又は効用の著しい変更を伴う変更を加えるも
のであり、
共有者全員の同意が必要である
(改正前民法第251 条、
改正民法第251 条第
1項)。したがって、
1の共有者から同意が得られない限り、
階段を新設することはできない。
しろまる 改正民法の下では、
所在等不明共有者がいる場合には、
所在等不明共有者以外の共有
者による変更の裁判を得ることにより、共有者全員の同意が必要な変更行為を行うこ
とができる(改正民法第251 条第2項)。したがって、2〜4の共有者は、裁判所の決定を得た上で、階段の新設工事を行うこ
とができると考えられる。
しろまる また、
2〜4の各共有者は、
1の共有者が有する土地の共有持分について所有者不明
土地管理命令の申立てを行うか、1の共有者について不在者財産管理人等の選任申立
てを行い、
選任された管理人から、
階段の設置に係る同意を得ることにより、
私道上に
階段を設置することができると考えられる。
しろまる さらに、
本事案における各居宅と共有私道は、
区分所有法上の団地に該当すると考え
られるところ、
区分所有法上は、
団地内にある団地建物所有者が共有する土地に形状又
は効用の著しい変更を伴う変更を行う場合であっても、
団地建物所有者及び議決権の各
4分の3以上の多数による集会の決議があれば、これを行うことができる(同法第 66
条、第17 条第1項)。 155
したがって、
区分所有法に規定する手続を経れば、
2〜4の共有者の同意を得て、階段を設置することができると考えられる。
しろまる なお、相互持合型私道の場合には、他の者が所有する部分については、所有者の承諾
なく階段の設置工事を行うことができない。
他の所有者は、
階段の設置工事を実施する
場合には、
1の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、
1の所有者
が所有する土地について改正民法の下での所有者不明土地管理命令の申立てを行い、
選任された管理人から、
階段の設置に係る同意を得ることにより、
私道上に階段を設置
する工事を実施することができると考えられる。 156事例31 階段の拡幅事例
1.私道の概要
・昭和60年私道築造(コンクリート舗装,階段部分の幅2m)
・延長20m、幅4m
・階段の幅が狭く、通行人がすれ違う際等に支障がある
・私道の両端は未舗装で雑草が生育している
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜3が共有(共有持分は各3分の1、1は所在等不明)
3.工事等の概要
・工事の実施主体は2及び3
・下図の赤点線部分のように、私道上の階段を2m拡幅
しろまる 共同所有型私道上の階段を拡幅したいが、共有者の一部が所在等不明
のため、工事の同意が得られない事例
公道
公道
1所在等不明
居宅
(私道の共有持分なし)
3賛成
2賛成
1〜3の
共同所有型私道
【概略図】 157事例31 階段の拡幅事例
事例のポイント
しろまる 共同所有型私道上に幅2メートルのコンクリート階段が設置されており、その両端
には雑草が生育していた。
しろまる 私道上の幅2メートルの階段を4メートルに拡幅する。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。
しろまる 従前は雑草が生育していた階段の両端にコンクリートで階段を設置する工事を行う
ことにより階段を拡幅する。
事例の検討
しろまる 私道上の階段を拡幅する行為は、物理的に路面の形状を変更するものではあるが、
元来、
幅2メートルの階段を2メートル拡幅しても形状の変更の程度は大きいとはい
えない上、階段としての私道の機能には変更がないことから、一般には、共有物の変
更行為には当たらないと考えられる。
しろまる 私道上の階段を拡幅することにより、階段を同時に通行することができる人数が増
加し、通行の安全性が高まることから、私道の階段を拡幅する行為は、一般に、共有
私道の道路としての機能を向上させ、改良するものとして、共有物の管理に関する事
項に当たり、共有者の持分の過半数で決する(改正前民法第 252 条本文、改正民法第
252 条第1項)。したがって、過半数の持分を有する共有者の同意により、拡幅工事を行うことがで
きるから、1以外の共有者の同意に基づいて、工事を行うことができるものと考えら
れる。
しろまる 本事例において、共有者の一部が工事の実施について反対しているケースや、賛
否を明らかにしないケースにおいても、工事の実施主体である2及び3は、1〜3
の共有者の持分の過半数の同意を得て、階段の拡幅工事を実施することができる
(改正民法第 252 条第1項)。また、共有者の一部に所在等不明者や賛否不明者がいるために1〜3の共有者の持
分の過半数が確保できない場合であっても、改正民法の下では、所在等不明共有者以
外の共有者による管理の裁判や賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得
ることにより、
所在等不明共有者等を除いた残りの共有者の持分の過半数で決定して、
工事に同意することができる(改正民法第 252 条第2項第1号及び第2号)。しろまる なお、相互持合型私道の場合には、他の者が所有する部分については、所有者の承 158諾なく階段の拡幅工事を行うことができない。他の所有者は、階段の拡幅工事を実施
する場合には、1の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、1の
所有者が所有する土地について改正民法の下での所有者不明土地管理命令の申立て
を行い、選任された管理人から、階段の拡幅に係る同意を得ることにより、私道上の
階段を拡幅する工事を実施することができると考えられる。 159事例32 階段への手すり設置事例
1.私道の概要
・昭和60年私道築造(コンクリート舗装、全体が階段状)
・延長20m、幅4m
・階段である私道に手すりがなく、高齢者の通行に危険が伴っている
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜3が共有(共有持分は各3分の1、1は所在等不明)3.工事等の概要
・工事の実施主体は2及び3
・階段である共有私道の中央部分に手すりを設置する(下図の赤点線部)
公道
公道
1所在等不明
居宅
(私道の共有持分なし) 3賛成
2賛成
【概略図】
しろまる 共同所有型私道上の階段に手すりを設置したいが、共有者の一部が所
在等不明のため、工事の同意が得られない事例
1〜3の
共同所有型私道 160事例32 階段への手すり設置事例
事例のポイント
しろまる 共有私道上に階段が設置されている。
しろまる 工事の実施主体は、2及び3の共有者である。
しろまる 幅4メートルの共有私道上の階段の中心に手すりを設置する。
事例の検討
しろまる 共有私道上の階段に手すりを設置しても、路面の形状の変更の程度は大きいといえ
ず、階段としての機能に変更もないことから、階段に手すりを設置する行為は、一般
に共有物の変更行為には当たらないと考えられる。
しろまる 共有私道上の階段に手すりを設置することで、高齢者や子ども等が転倒を防止する
ことができるなど、階段としての利便性が向上することから、階段への手すりの設置
行為は、共有物を改良するものとして共有物の管理に関する事項に当たり、共有者の
持分の過半数で決する(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252 条第1項)。したがって、過半数の持分を有する共有者の同意により、手すりの設置工事を行う
ことができるから、1以外の共有者の同意に基づいて、工事を行うことができるもの
と考えられる。
しろまる なお、相互持合型私道の場合には、他の者が所有する部分については、所有者の承
諾なく手すりの設置工事を行うことができない。他の所有者は、手すりの設置工事を
実施する場合には、1の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを行うか、
1の所有者が所有する土地について改正民法の下での所有者不明土地管理命令の申
立てを行い、選任された管理人から、手すりの設置に係る同意を得ることにより、手
すりを設置する工事を実施することができると考えられる。 161事例33 ゴミボックスの新設事例
1.私道の概要
・平成10年築造(アスファルト舗装)
・延長20m、幅6m
・ゴミ置き場での猫によるゴミの散乱が問題になっている
2.権利関係等の概要
・一筆の私道(下図青枠内) を1〜5が共有(共有持分は各5分の1、2は所在等不
明)×ばつ高さ1m
・ゴミボックスは路面を変形させるものではないが、重量が約50kgあり、動かすのは容
易でない
しろまる 共同所有型私道上に近隣住民が利用するゴミボックスを設置したいが、
共有者の一部が所在等不明で同意を得られない事例
公道
4賛成 1〜5の
共同所有型私道
1賛成
2所在等不明
3賛成
公共施設
【概略図】
5賛成 ゴミボックス
公道 162事例33 ゴミボックスの新設事例
事例のポイント
しろまる 共有私道上に大型のゴミボックスを設置する。
しろまる ゴミボックスは、1、3〜5の共有者が加入している自治会の所有であるが、1、
3〜5の共有者が自治会からゴミボックスを借り受けて、
私道の通行の妨げにならな
い位置に設置する。
しろまる ゴミボックスの設置主体は、1、3〜5の共有者である。
しろまる ゴミボックスは路面に固定するわけではないが、
重量が 50 キログラムあり、
動かす
のは容易ではない。
事例の検討
しろまる ゴミボックスを路面に固定しない方法により私道上に設置することは、私道をどの
ように利用するかという利用方法に関する事項であるため、
一般的には、
共有物の管
理に関する事項に当たる(改正前民法第 252 条本文、改正民法第 252 条第1項)。したがって、過半数の持分を有する共有者の同意により、共有私道の利用方法を決
することができるから、2以外の共有者の同意に基づいて、ゴミボックスを設置する
ことができるものと考えられる。
しろまる もっとも、ゴミボックスの設置場所によっては、宅地からの出入りや公道への車に
よる出入りが困難になるほか、悪臭によって生活に支障を来す等、共有者の一部の者
の共有私道の利用を妨げることになったり、
トラブルが生じたりする可能性があるた
め、設置位置については可能な限り共有者間で協議を行い、少なくとも、居宅前にゴ
ミボックスを設置される共有者の同意を得る等十分に配慮することが望ましい。
しろまる なお、本事例において、共有者の一部がゴミボックスの設置について反対している
ケースや、賛否を明らかにしないケースにおいても、ゴミボックスの設置主体であ
る1、3〜5は、1〜5の共有者の持分の過半数の同意を得て、ゴミボックスを設
置することができる(改正民法第 252 条第1項)。また、
共有者の一部に所在等不明者や賛否不明者がいるために1〜5の共有者の持
分の過半数が確保できない場合であっても、改正民法の下では、所在等不明共有者以
外の共有者による管理の裁判や賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得
ることにより、
所在等不明共有者等を除いた残りの共有者の持分の過半数で決定して、
工事に同意することができる(改正民法第 252 条第2項第1号及び第2号)。しろまる なお、相互持合型私道の場合には、ゴミボックスを設置する土地の所有者の同意を 163得る必要がある。この場合、2以外の所有者は、2の所有者について不在者財産管理
人等の選任申立てを行うか、
2の所有者の所有に係る通路部分の土地について改正民
法の下での所有者不明土地管理命令の申立てを行い、
選任された管理人から2の所有
者が通路として提供している部分にゴミボックスを設置することについての同意を
得ることにより、ゴミボックスを設置することができると考えられる。 164事例34 樹木の伐採事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和60年私道築造
・延長20m、幅6m(両脇1mに植え込みがあり、中央はアスファルト舗装)
・私道内の植え込みには樹木が6本生育している(いずれも1〜4の共有。共有持分
は各4分の1)が、巨木化し、私道の通行の妨げとなっている
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜4が共有(共有持分は各4分の1、4は所在等不明)3.工事等の概要
・工事の実施主体は1〜3
・専門業者に委託して樹木を根元から伐採し、廃棄処分してもらう
しろまる 共同所有型私道上に生育している樹木を伐採したいが、共有者の一部
が所在等不明であり、伐採の同意が得られない事例
公道
公道
4所在等不明
2賛成
3賛成
1賛成
1〜4の
共同所有型私道
樹木
【概略図】 165事例34 樹木の伐採事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 私道の両端に植込みがある。
しろまる 私道の植込み部分に、樹木が生育している。
しろまる 樹木は、1〜4の共有者の共有物である。
しろまる 樹木が巨木化し、通行の妨げとなっているほか、枯葉の処理や剪定などの樹木の維
持・管理が大変なため、私道に生育している樹木を全て伐採する。
しろまる 樹木の伐採の実施主体は、1〜3の共有者である。
事例の検討
しろまる 共有私道上に生育した樹木は、特段の合意がない限り、共有私道に付合する物(民
法第 242 条本文)であり、これを伐採する行為は、現行法においては、一般に、共有
物に変更を加える行為であり、共有者全員の同意が必要であると考えられる(改正前
民法第 251 条)。改正民法の下では、樹木の伐採が私道の通路としての形状又は効用に著しい変更を
伴うものではないと考えられる場合には、軽微変更(改正民法第 252 条第1項)に該
当し、共有者の持分の過半数で決することができると考えられる。例えば、美観を向
上させるため特に植えられているなどの特段の事情がない樹木を伐採することは、当
該私道の通路としての形状や効用を著しく変更するものではないため、軽微変更に該
当すると考えられる。
なお、樹木が通行の妨げになっている場合には、樹木の剪定は、私道として本来あ
るべき機能を回復するための保存行為(改正前民法 252 条ただし書、改正民法 252 条
5項)として、各共有者が行うことができる場合もあり得ると考えられる。
しろまる なお、上記のルールは、共有者の一部が所在等不明であるケースに限って適用され
るものではないため、例えば、本事例で4の所有者が所在等不明ではなく、樹木の伐
採に反対しているケースや賛否を明らかにしないケースであっても、
1〜4の共有者
の持分の過半数の同意があれば、
軽微変更に該当する樹木の伐採を行うことが可能で
あると考えられる(改正民法第 252 条第1項)。また、共有者の一部に所在等不明者や賛否不明者がいるために1〜4の共有者の持
分の過半数が確保できない場合であっても、改正民法の下では、所在等不明共有者以
外の共有者による管理の裁判や賛否不明共有者以外の共有者による管理の裁判を得る 166ことにより、所在等不明共有者等を除いた残りの共有者の持分の過半数で決定して、
樹木の伐採を行うことができる(改正民法第 252 条第2項第1号及び第2号)。 167
事例35 樹木の伐採事例(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和60年私道築造
・延長20m、幅6m(両脇1mに植え込みがあり、中央はアスファルト舗装)
・私道内の植え込みには樹木が6本生育している(下図のとおり、各土地の所有者が各
樹木を所有) が巨大化し、私道の通行の妨げとなっている
2.権利関係等の概要
・4筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜4が各1筆ずつ所有(4は所在等
不明)
3.工事等の概要
・工事の実施主体は1〜3
・専門業者に委託して樹木を根元から伐採し、廃棄処分してもらう
しろまる 相互持合型私道上に生育している樹木を伐採したいが、所有者の一部
が所在等不明であり、伐採の同意が得られない事例
公道
公道
4所在等不明
2賛成
3賛成
1賛成
樹木
1所有
2所有
2所有
4所有
1所有
2所有
3所有
4所有
3所有
3所有
4所有
【概略図】 168事例35 樹木の伐採事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 私道の両端に植込みがある。
しろまる 私道の植込み部分に、樹木が生育している。
しろまる 樹木は、生育している各土地に付合しており、当該各土地の所有者にそれぞれ帰属
している。
しろまる 樹木が巨木化し、通行の妨げとなっているほか、枯葉の処理や剪定などの樹木の維
持・管理が大変なため、私道に生育している樹木を全て伐採する。
しろまる 樹木の伐採の実施主体は、1〜3の所有者である。
事例の検討
しろまる 相互持合型私道においては、特段の合意がない場合、それぞれの所有土地部分を要
役地とし、互いの所有地部分を他方の通行のための承役地とする地役権(民法第 280
条)が黙示に設定されていることが多い。
しろまる 地役権は、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利であり、要役地所有者(4
の所有者以外の所有者)は、地役権の目的に応じて、承役地(4の所有する通路敷部
分)を利用することができるが、通行を目的とする地役権の場合、承役地所有者は、
要役地所有者による通行を受忍すべき義務を負うにとどまる。
しろまる 本事例において、相互持合型私道の他人が所有する土地部分に生育した樹木は、当
該土地の一部となるため、
これを伐採する行為は、
当該樹木に対する権限がない以上、
当該土地の所有者(4)の承諾なく伐採することはできない(地役権に基づく妨害排
除請求として樹木の伐採を求めることができる場合はあり得るが、
4に対して訴えを
提起する必要がある。)。
しろまる なお、1〜3の所有者は、4の所有者について不在者財産管理人等の選任申立てを
行うか、
4の所有者が所有する土地について改正民法の下での所有者不明土地管理命
令の申立てを行い、選任された管理人から、樹木の伐採についての同意を得ることに
より、樹木を伐採することができると考えられる。樹木の伐採は、本事例のような事
情の下では、目的物の性質を変えない範囲内での利用改良行為に当たると考えられ、
管理人は裁判所の許可を得ることなくこれをすることができると考えられる
(改正民
法第 264 条の3第2項2号)。 169
事例36 宅地からせり出している枝の伐採事例(共同所有型)
1.私道の概要
・昭和57年私道築造
・延長20m、幅4m
・宅地(4所有)の庭に生育している樹木の枝が共同所有型私道にせり出し、通行に支障
が生じている
2.権利関係等の概要
・1筆の私道(下図青枠内)を1〜4が共有(共有持分は各4分の1、4は所在等不明)
3.工事等の概要
・工事の実施主体は1〜3
・専門業者に依頼して樹木の枝を伐採する
しろまる 宅地の庭から共同所有型私道上にせり出した樹木の枝を伐採したいが、共
有者の一部が所在等不明であり、伐採の同意が得られない事例
公道
公道
4所在等不明
2賛成
3賛成
1賛成
1〜4の
共同所有型私道
樹木
【概略図】 170事例36 宅地からせり出している枝の伐採事例(共同所有型)
事例のポイント
しろまる 私道に隣接する宅地上に樹木が植えられている。
しろまる 宅地に植えられている樹木の枝が隣接する私道との境界を越えて私道にせり出して
おり、通行に支障が生じている。
しろまる 樹木の枝の伐採の実施主体は、1〜3の共有者である。
事例の検討
しろまる 私道の所有者は、隣接する宅地上の樹木の枝が私道に侵入した場合には、樹木の所
有者に対し、
民法第233条第1項又は物権的請求権
(所有権に基づく妨害排除請求権)
に基づき、枝を切除するよう請求することができる。
もっとも、4は、私道に共有持分を有するため、1〜3の共有者が4に対して枝を
切除するよう請求するためには、
枝が境界線を越えることにより私道の通行が妨げら
れる等の事情が存在する必要があると考えられる。
しろまる 改正前民法第 233 条第1項については、越境された土地の所有者は、竹木の所有者
に対して枝の切除を請求することができるにとどまり、
自ら枝を切除することはでき
ないと解されている。
そのため、隣地の所有者の所在が不明である場合には、隣地の所有者に対し、枝の
切除を求める訴訟を提起し、請求認容判決を得た上で、民事執行手続(竹木所有者の
費用負担で第三者に切除させる方法による。民事執行法第 171 条第1項第1号)をと
る必要があった。
しろまる これに対し、改正民法においては、前記コラム:改正民法5のとおり、越境された
土地の所有者は、
竹木の所有者を知ることができず、
又はその所在を知ることができ
ないときは、
越境した枝を自ら切り取ることができるとされた
(改正民法第 233 条第
3項)。4の所有者が所在等不明である場合には、この要件を満たすと考えられるため、改
正民法においては、
1〜3の共有者は、
自ら枝の伐採をすることが可能である。
なお、
枝の切取りは、共同所有型共有私道の保存行為に当たるから、1〜3の共有者がそれ
ぞれ単独で行うことができる(改正民法第 252 条第5項。)。 171事例37 宅地からせり出している枝の伐採事例(相互持合型)
1.私道の概要
・昭和57年私道築造
・延長20m、幅4m
・宅地(4所有)の庭に生育している樹木の枝が相互持合型私道にせり出し、通行に支
障が生じている
2.権利関係等の概要
・4筆の土地で構成される私道(下図青枠内)を1〜4が各1筆ずつ所有(4は所在等
不明)
3.工事等の概要
・工事の実施主体は1
・専門業者に依頼して樹木の枝を伐採する
しろまる 宅地の庭から相互持合型私道上にせり出した樹木の枝を伐採したいが、
所有者の一部が所在等不明であり、伐採の同意が得られない事例
公道
公道
4所在等不明
2賛成
3賛成
1賛成
樹木
4所有
3所有
2所有
➀所有
【概略図】 172事例37 宅地からせり出している枝の伐採事例(相互持合型)
事例のポイント
しろまる 私道に隣接する宅地上に樹木が植えられている。
しろまる 宅地に植えられている樹木の枝が隣接する私道との境界を越えて私道にせり出して
おり、通行に支障が生じている。
しろまる 樹木の枝の伐採の実施主体は、1の所有者である。
事例の検討
しろまる 私道の所有者は、隣接する宅地上の樹木の枝が私道に侵入した場合には、樹木の所
有者に対し、
民法第233条第1項又は物権的請求権
(所有権に基づく妨害排除請求権)
に基づき、枝を切除するよう請求することができる。
しろまる 改正前民法第 233 条第1項については、越境された土地の所有者は、竹木の所有者
に対して枝の切除を請求することができるにとどまり、
自ら枝を切除することはでき
ないと解されている。
そのため、隣地の所有者の所在が不明である場合には、隣地の所有者に対し、枝
の切除を求める訴訟を提起し、請求認容判決を得た上で、民事執行手続(竹木所有
者の費用負担で第三者に切除させる方法による。民事執行法第 171 条第1項第1
号)をとる必要があった。
しろまる これに対し、改正民法においては、前記コラム:改正民法5のとおり、越境された
土地の所有者は、
竹木の所有者を知ることができず、
又はその所在を知ることができ
ないときは、
越境した枝を自ら切り取ることができるとされた
(改正民法第 233 条第
3項)。4の所有者が所在等不明である場合には、この要件を満たすと考えられるため、
改正民法においては、1の所有者は、自ら枝の伐採をすることが可能である。 173共有私道の保存・管理等に関する事例研究会
座長 慶應義塾大学大学院法務研究科教授 松尾 弘
委員 早稲田大学大学院法務研究科教授 秋山 靖浩
上智大学法学部教授 伊藤 栄寿
神戸大学大学院法学研究科教授 角松 生史
司法書士 白井 聖記
東京大学大学院法学政治学研究科教授 水津 太郎
弁護士 野村 裕
土地家屋調査士 柳澤 尚幸

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