1担保法制部会資料 14
担保法制部会資料 14
担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(3)
目次
第1 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件......................................................................251 特定動産を目的とする担保権の対抗要件......................................................................2
2 集合動産を目的とする担保権の対抗要件......................................................................2
3 動産所有権留保の対抗要件...........................................................................................5
4 新たな規定に係る動産担保権を登記する制度のイメージ............................................10
第2 新たな規定に係る担保権相互の優劣関係....................................................................13101 同一の動産について新たな規定に係る担保権が数個設定されたときの優劣関係 .........13
2 引渡しと登記との優劣関係.........................................................................................17
3 留保所有権と譲渡担保権との優劣関係........................................................................1915 2
担保法制部会資料 14
第1 新たな規定に係る動産担保権の対抗要件
1 特定動産を目的とする担保権の対抗要件
引渡しを、
新たな規定に係る動産担保権を第三者に対抗するための要件としてはどうか。
(説明)51 本文は、特定の動産を目的として新たな規定に係る担保権が設定された場合に、引渡し
をその対抗要件としようとするものである。現行法の動産譲渡担保の対抗要件は引渡しで
あり、法人が動産を譲渡する場合には、動産譲渡登記がされたときも民法第 178 条の引渡
しがあったものとみなされる結果(動産・債権譲渡特例法第3条第1項)
、対抗要件を備え
ることができる。本文は、引渡しを対抗要件とするという現行法の譲渡担保に関するルー10ルを新たな規定に係る担保権についても踏襲しようとするものであり、
【案 4.1.1.1】と【案
4.1.1.2】
(両者の違いは、
担保目的取引規律型を前提とするか担保物権創設型を前提とする
かという点にある。)と実質を同じくするものである。
本文においては動産譲渡登記による
対抗要件具備に言及していないが、
「登記がされた場合には引渡しがあったものとみなす」
という動産譲渡登記の基本的な構造を維持する場合には、登記がされることによって対抗15要件が具備されることは当然の前提となっている(ただし、動産譲渡登記のあり方や効果
については後記4において更に検討する必要がある。)。
一読においては、
担保物権創設型を前提として対抗要件を登記に一元化する
【案 4.1.1.3】
も示していたが、これを積極的に支持する意見は多くなかった。このことに加えて、登記
制度としてどのようなものを想定するかにもよるが、いずれにしても登記に一元化するこ20とは占有改定に比べれば対抗要件具備のコストが大きくなることが予想されること、真正
譲渡においては占有改定を含む引渡しを対抗要件とせざるを得ないと思われるが、真正譲
渡の対抗要件と新たな規定に係る担保権の対抗要件を異なるものとすると、当事者が真正
譲渡のつもりで取引をしたが、事後的にそれが担保権の設定であると判断された場合の不
利益が大きいという問題も指摘されていることから、本文においては、対抗要件を登記に25一元化するというルールは提示していない。
なお、本文は、あくまで引渡しによって対抗要件を具備することができるとすることを
提案しているものであり、これに限定してよいかについては、後記4において検討する。
2 具体的な規律のあり方
担保目的取引規律型の規定を設ける場合、担保目的での動産の所有権の譲渡も「動産に30関する物権の譲渡」
(民法第 178 条)に該当するから、譲受人(債権者)が担保目的で譲渡
を受けたことを第三者に対抗するためには、引渡しを受ける必要がある。したがって、譲
渡担保に関しては特段の規定を設ける必要はない。他方、担保物権創設型においては、例
えば、
「動産を目的とする新たな担保権の設定は、その動産の引渡しがなければ、これをも
って第三者に対抗することができない。
」などの規定を設けることが考えられる。352 集合動産を目的とする担保権の対抗要件
集合動産を目的とする担保権の設定は、その構成部分として現に存在する物の引渡しが
なければ、これをもって第三者に対抗することができないものとしてはどうか。 3担保法制部会資料 14
(説明)
1 現状
判例は、構成部分の変動する集合動産であっても、目的物の範囲が特定される場合には
一個の集合物として譲渡担保の目的とすることができるものとした上で、
「集合物を目的5とする譲渡担保権設定契約が締結され、債務者がその構成部分である動産の占有を取得し
たときは債権者が占有改定の方法によつてその占有権を取得する旨の合意に基づき、債務
者が右集合物の構成部分として現に存在する動産の占有を取得した場合には、債権者は、
当該集合物を目的とする譲渡担保権につき対抗要件を具備するに至つたものということが
でき、この対抗要件具備の効力は、その後構成部分が変動したとしても、集合物としての10同一性が損なわれない限り、新たにその構成部分となつた動産を包含する集合物について
及ぶ」としている(最判昭和 62 年 11 月 10 日民集 41 巻8号 1559 頁)。2 事後的に集合動産の構成部分になった動産に担保権が及ぶことの対抗要件
(1) 本文は、集合動産の対抗要件が具備された後に構成部分が変更した場合でも、集合動
産の同一性が失われない限り、当該集合動産への担保権設定を第三者に対抗することが15できることの帰結として、新たに加わった動産を構成部分に含む集合動産全体が担保権
の目的となっていることを第三者に対抗することができることとしようとするものであ
る。これに対して、一読の議論においては、集合物論によらず、端的に将来取得する動
産への担保権設定及び対抗要件具備を可能とするという考え方も示された。この点に関
連する問題としては、1将来動産(現存するが設定者が所有していない物、現存してい20ない物)について、実体法上権利変動が生ずるといえるか、2将来動産についても権利
変動が生ずると考える場合、対抗要件を具備することができるか、3将来動産の権利変
動を対抗するための対抗要件の具体的な内容、4個別の将来動産については権利変動が
生じないと考える場合、集合物理論を採るか、5集合物論を採る場合、集合物といえる
ためにどのような要件が必要か(あるいは、特定さえされていれば、それ以上の要件を25要しないこととするか)
、6担保権が競合した場合の優先劣後関係の決定方法などがあ
る。実体法上の変動の可否や競合する担保権の優劣の問題など、本項の扱う問題の範囲
を超える問題も含むが、これらの論点の関係及びそれぞれについての選択肢の可能性を
試みに整理すると、以下のとおりである。
(2) 物権変動の可否(前記1)については、現存しない物や設定者が有しない物について30担保権を設定しても、物権的な効果は生じないという考え方が従来は一般的であったと
考えられる。この考え方からは、将来動産そのものを目的とする担保権設定について対
抗要件を具備することはできない。そこで、この(説明)の前記1記載のとおり、判例
及び学説上は、集合物論が採られてきた(前記4)
。これは、個別動産とは区別された集
合物を担保権の目的と捉え、集合物を現に構成する動産の引渡しを受けることで対抗要35件を具備することができるものとし、あとは集合物の内容が変動しているだけであると
評価するものである。これにより、新たに集合動産の構成部分に加わった動産に担保権
が及ぶことの対抗要件を、当初の引渡しの段階で具備することができる。
部会資料 13 第2、1の(説明)3に記載したとおり、複数の動産を集合物として一体 4担保法制部会資料 14
的に捉えるためには、上記のような集合物論の機能・効果を認めるのに適した要件とし
て、経済的一体性等の要件が必要かどうかが議論されている(前記5)
。経済的一体性等
の要件が必要であるという立場からは、その要件を満たさない将来動産についてはあら
かじめ対抗要件を具備することができないことになる。他方、集合物に経済的一体性等
の要件を要求せず、対象となる動産が特定さえされていればよいと考えれば、その特定5の方法によっては、実質的には将来の特定物に担保権を設定し、その対抗要件を具備し
たのと同様の効果を生じさせることにもなり得る。
前記1について将来動産についての物権変動は生じないという立場を採ると、集合物
論を用いることができない場面では、将来の動産を目的とする担保権の設定についてあ
らかじめ対抗要件を具備することはできないことになる。将来動産についてあらかじめ10担保権を設定しておき、設定者が将来これを入手して物権変動が生じた場合に他の担保
権者に優先する地位をあらかじめ確保しておく手段を設ける必要があるという政策的判
断をするのであれば、担保権の優劣関係と対抗要件とを切り離すことによってこれを実
現することも考えられる(前記6)
。すなわち、対抗要件とは別に担保権の優劣関係を決
定する基準となる要件を定め、権利変動が生ずる前に、この要件を具備することができ15るという制度である(後記第2、1参照)
。これによれば、例えば担保権者Aが将来動産
を目的とする担保権の設定を受け、担保権の優劣を決定する基準となる要件を具備して
いた場合、その後に別の担保権者Bが担保権を得て、設定者が目的物の所有権を取得し
た段階でAより先に対抗要件を具備しても、その後にAも対抗要件を具備すれば、Aの
担保権がBに優先することになる。このような制度を考える場合に、真正譲渡を受けた20者、差押債権者、管財人との関係でどのように優先関係を考えるかも問題になる。
(3) 将来動産についての物権変動の可否(前記1)について、現存しない動産についても
譲渡人は処分権を有し、この処分権を移転することができるという見解1がある。
将来動産についても担保権設定の時点で何らかの権利変動が生じ得るとすると、その
動産の発生前又は設定者による取得前に担保権の対抗要件を具備することもできるかが25問題になる
(前記2)。少なくとも将来発生する動産を現実に占有することはできないか
ら、引渡しの方法で対抗要件を具備することはできない。そこで、将来動産については
登記を具備することによって対抗要件を具備することができるものとする(逆に、登記
以外の対抗要件を認めない)ことが考えられる(前記3)。3 本文の立場30将来動産についての物権変動の可否(前記1)については、この(説明)の前記2(3)記
載のとおりこれを肯定する考え方があるが、これを一般的に採ることは担保取引だけでな
く物権変動一般についての考え方に影響を与えることから、
慎重な検討を要する。
そこで、
本文では、前記1について将来動産について権利変動は生じないという立場を採ることを
前提とし、さらに、将来動産について担保権を及ぼすための手法として集合物論が実務上35も定着していることを踏まえて集合物論を採用することとして
(前記4)、集合物を目的と
する担保権の対抗要件を定めることとした。対抗要件の具体的な内容は現存する構成部分
1 森田宏樹・事業の収益性に着目した資金調達モデルと動産・債権譲渡公示制度 95 頁 5担保法制部会資料 14
の引渡しであり2(部会資料4第1、2と同じルール)
、集合物の構成部分が変動しても、
集合物としての同一性が維持されている限りは対抗要件具備の効果は存続していることに
なる。
なお、
本文では昭和 62 年最判を踏まえて
「その構成部分として現に存在する物」
の引渡
しを要することとしているが、このように表現すると、たまたま現に存在する物がなかっ5た場合に対抗要件を具備できないのではないかが問題となる。実質的には、たまたま現存
する物がなかったとしても観念的には集合物が存在していると考えられる場合には、対抗
要件を具備することができるとしてよいと考えられるが、本文ではこのことが十分に表現
されていないとすれば更に適切な表現を検討する必要がある。103 動産所有権留保の対抗要件
動産の所有権留保売主が所有権の留保を第三者に対抗するために引渡し等の要件を必要
とするかどうかについては、次のような考え方があり得るが、どのように考えるか。
【案 14.1.3.1】 動産の所有権留保売買契約における売主は、特段の要件なく所有権の留
保を第三者に対抗することができるものとする。15【案 14.1.3.2】 動産の所有権留保売買契約における売主は、その動産の引渡しがなけれ
ば、所有権の留保をもって第三者に対抗することができないものとする。
(説明)
1 本項での検討事項20所有権留保売主が目的物の所有権を留保したことを第三者に対抗するために対抗要件が
必要であるかどうかについては、所有権留保の法的構成をどのように理解するかなどと関
連して議論されている。
これに関する学説や判例の状況は、
部会資料4第1、3の(説明)
記載のとおりである。
本項では、所有権留保売主が留保所有権を主張するために対抗要件を必要とするかどう25か、必要な場合にその具体的な内容は何かという問題を検討する。なお、ここでの検討課
題は、あくまで第三者に主張することの可否であり、同一の目的物について競合する担保
権が存在する場合にその優劣がどのように決まるか(この点については、後記第2、3に
おいて取り上げる。)とは異なる問題である
(留保所有権を競合する担保権者に主張するた
めの要件が満たされていなければその担保権との優劣はそもそも問題にならないが、例え30ば、特段の要件なく第三者に対して留保所有権を主張することができるとしても、当然に
他の担保権者に優先することになるわけではない。)。
2 【案 14.1.3.1】について
【案 14.1.3.1】は、所有権留保売主は、引渡しや登記等の特段の要件なくして第三者に
対して留保所有権を留保していることを対抗することができることとするものである。352 生熊長幸「動産譲渡担保法立法私案(2・完)
」立命館法学 384 号 706 頁(以下「生熊・動産譲渡担
保法立法私案(2)で引用)は、
「集合動産譲渡担保は、集合動産譲渡担保の目的動産を構成する動産のう
ち現に存在する動産を設定者が譲渡担保権者に引き渡すことにより対抗要件を備える。
」という規定
(同私案第 12 条第1項)を設けることを提案する。 6担保法制部会資料 14
【案 14.1.3.1】の背景となる考え方としては、まず、所有権留保売買契約においては所
有権留保売主から所有権留保買主に対する所有権の移転がなく、物権の変動が生じていな
いというものが考えられる3。この考え方を前提とすると、所有権留保売主と買主側の第三
者(目的物を差し押さえた所有権留保買主の債権者や所有権留保買主について破産手続が
開始した場合における破産管財人など)に対して「対抗することができる」というより、5これらの者とは対抗関係には立たないことになる。この考え方は、最判平成 30 年 12 月7
日民集 71 巻 10 号 1925 頁とも整合性が高いと考えられる。実質的にも、対抗要件が必要
であるとすれば引渡しが考えられるところ、所有権留保売買契約がされる場面では所有権
留保買主が目的物の使用収益をすることができることとする必要があるから占有改定によ
って具備がされることになり、所有権留保売主が担保権を有していることが外形的に明ら10かになるわけではないから、対抗要件を要することとしても実際上の意義は乏しい。他方
で、目的物の所有権が所有権留保買主に移転していないとすると、所有権留保買主がその
目的物に更に譲渡担保権などの担保権を設定することはできないと考えるのが自然である。
そうすると、
所有権留保については部会資料 12 第1、
5(1)が妥当せず、
留保所有権と譲渡
担保権その他の担保権の競合は生じないと考えることになるが、そのような結論でよいか15が問題になる。
【案 14.1.3.1】の背景となる他の考え方としては、所有権留保売買契約により物権変動
(その内容としては、所有権留保買主にいったん所有権が移転した上で、改めて、担保の
目的を達成するのに必要な範囲で所有権留保売主に移転するというものであることが考え
られる。)が生じていると捉えた上で、
所有権留保売主はこの物権変動を対抗要件なく当然20に対抗することができるという考え方があり得る。これは、目的物の所有権を留保する商
取引債権者を保護するという政策的な観点(さらに、上記のとおり引渡しを要件とする意
味に乏しいこと)から、物権変動を第三者に対抗するために対抗要件を要するという原則
を修正しようとするものといえる4・5。
3 【案 14.1.3.2】について25これに対し、所有権の留保は実質的に担保としての機能を有しているところ、公示のな
い担保に対抗力を認めることは妥当でないとの指摘もあり、所有権留保売買契約の目的物
の担保権が所有権留保売主に留保されていることを、所有権留保買主から所有権や別の担
保権(質権等を含む。
)を取得する者に対し公示するために、対抗要件が必要であるという
3 動産担保について担保物権創設型での規定を設け、現行法上所有権留保が用いられる場面でも新たな
担保物権の利用することとする場合には、所有権が一旦買主に移転した上で売主のために担保物権が設
定されるという構成を採ることになるから「物権変動がない」という理由は妥当せず、このような理由
に基づいて【案 14.1.3.1】を採ることは困難であると思われる。
4 このような政策的観点を強調すれば、現行法上所有権留保が用いられる場面で新たな担保物権を利用
することとする場合でも、
【案 14.1.3.1】に結び付く。
5 所有権留保については、いわゆる狭義の所有権留保と拡大された所有権留保とを区別して議論する見
解がある。対抗要件の要否を決するに当たって所有権留保売主の保護という政策的な観点を重視すれ
ば、代金債権を担保する部分についてのみ対抗要件を不要とするという考え方もあり得るが、対抗され
るのは担保権の設定という1つの事象であり、これを被担保債権の性質によっていくつかの部分に分割
するのは不自然であると考えたことから、本文においては取り上げていない(これを前提としても、他
の担保権との優劣については、被担保債権によって異なる扱いをすることは可能である。)。 7担保法制部会資料 14
考え方も主張されている。また、所有権留保買主について倒産手続が開始された場合には
留保所有権が別除権と扱われること、所有権留保売主が留保所有権を別除権として行使す
るためには、倒産手続開始時までに対抗要件を具備しなければならないことを実現する構
成としては、目的動産の所有権が所有権留保売主から所有権留保買主へと移転した上で、
所有権留保売主が所有権留保買主から担保権の設定を受けると構成することが望ましいと5いう観点から、
(平時においても)
所有権留保売主が所有権留保所有権の取得等を第三者に
対抗するためには対抗要件を備える必要があるとすることを提案するものがある6。
【案
14.1.3.2】
は、
これらの指摘を踏まえて、
所有権留保についても対抗要件を必要とするもの
である7。
【案 14.1.3.2】を採る場合、所有権留保売買契約の当事者が「所有権を留保する」とい10う合意をしたとしても、その合意を「目的物の所有権を売主から買主に移転した上で、売
主がその目的物に担保権を設定する」という合意であると解釈しなおし、その目的物の所
有権がいったん買主に移転した上で担保権が設定されると構成することが考えられる8。この構成を前提とすると、所有権留保売主が対抗要件を具備しなかった場合には、所有権も
担保権も対抗することができないことになる。15【案 4.1.3.2】を採る場合、上記のような構成を前提とすれば、担保物権創設型でも担保
目的取引規律型でも、優劣関係においては被担保債権と目的物の牽連関係に着目して特別
な扱いをするとしても、担保設定の類型として所有権留保という特別な類型を認めないこ
とになり、前記1が適用されるから、対抗要件は引渡しになる(引渡しに加えて登記を対
抗要件とするのであれば、登記も含まれる。)。204 検討
(1) 一読の議論においては、
所有権留保売主と目的物について権利関係を有する第三者(差押債権者、破産管財人、他の担保権者などが考えられる。
)との利害調整の視点が重要で
あるとの指摘があった。このような視点からすれば、
【案 14.1.3.1】は、所有権留保売主
は特段の要件を具備することなく第三者に対してその担保権を対抗することができると25いう点で、
【案 14.1.3.2】に比べて所有権留保売主にとって有利なものと捉えることも可
能である。もっとも、
【案 14.1.3.2】によっても、占有改定を含む引渡しによって対抗要
件を具備することができるとすると、これを具備することは容易であり、所有権留保買
主に対する現実の引渡しに当たってほぼ常に占有改定による引渡しを受けていると考え
られるから、
【案 14.1.3.2】と【案 14.1.3.1】
の差は大きくはないと考えられる。
ただし、30登記・登録制度がある動産については実質的な違いが生ずるため、所有権留保売主の保
護という政策的な視点を重視するのであれば、登記・登録制度がある動産の取引をどの
6 水津太郎・所有権留保の立法的課題 46 頁
7 生熊長幸「動産譲渡担保権・留保所有権の第三者対抗要件について」立命館法学 393・394 号 1836
頁は、所有権留保による担保所有権を担保物権と構成し、動産譲渡担保権者や動産質権者に対する優先
的効力を認めるなど強い効力を認めるのであれば、狭義の所有権留保についても、対抗要件なしに第三
者に対抗できるとするのは適切ではなく、占有改定に過ぎないにせよ対抗要件を要するとすべきである
とする。
8 このほか、所有権留保売主が有していた所有権が担保権に変容することや、所有権のうち使用収益権
能が移転したことをもって物権変動と捉え、これについて対抗要件を要するとの見解も主張されてい
る。 8担保法制部会資料 14
程度重視すべきかが問題になる。
(2) 前記のとおり、留保所有権が別除権として扱われることなど、所有権留保に関する判
例法理等との整合性から、
【案 14.1.3.2】を採ることを提案するものがある。
所有権留保売主から所有権留保買主に対する所有権の移転が生じていないとすれば、
確かに所有権留保買主の倒産手続において所有権留保売主は取戻権を行使することがで5きるとするのが自然ではあり、別除権であることは、いったん所有権が所有権留保買主
に移転した上で担保権が設定されているとみる立場との整合性が高い(もっとも、多く
の学説は、所有権留保において所有権が移転しないという立場を採りつつ、倒産手続に
おいては別除権とすることに賛同しており、両者が矛盾するわけではないようにも思わ
れる。)。10所有権留保売主が所有権留保買主の倒産手続において別除権を行使するための要件と
して、最判平成 22 年6月4日民集 64 巻4号 1107 頁は、自動車の所有権留保が問題に
なった事案で、所有権を留保することとされた信販会社が別除権を行使するためには、
倒産手続開始までに登録を得ていることが必要であるとしている。このような結論は、
所有権がいったん所有権留保買主に移転した上で担保権が設定されたという立場から導15くのが自然であるようにも思われるが、平成 22 年最判がこの立場を採ったかどうかは
明らかではないとされている9ため、平成 22 年最判との整合性はいずれの案を採るかと
は決定的な理由にはならないとも考えられる。
もっとも、
物権変動がないという立場(これは
【案 14.1.3.1】
に結び付く。)と平成 22 年最判を整合的に説明しようとする場合に、
破産法第 49 条や民事再生法第 45 条によって必要とされる登記・登録の性質をどのよう20に理解するか(一般的には対抗要件と理解されているが、そのような理解でよいか。あ
るいは、資格要件や権利保護要件と理解するか。
)にも留意が必要である。
また、留保所有権の目的物について所有権留保買主が譲渡担保権を設定することがで
きるという立場は、その前提として、所有権留保売買契約によっていったん所有権が所
有権留保売主に移転しているという構成との整合性が高い。もっとも、そもそも留保所25有権の目的物について譲渡担保権の設定を認めるという価値判断自体に争いがあると思
われる。余剰があればこれを担保として活用することを認めることが有益であると考え
られる一方、留保所有権者からすれば譲渡担保権が更に設定されることは目的物の管理
を困難にし、実務上も通常は禁止されていることが多い。また、実質的にも目的物に余
剰があることは通常は考えにくいようにも思われる。30この点とも関連するが、所有権留保の目的物が譲渡担保の目的である集合動産に加入
した場合に、判例は留保所有権を優先させているが(最判平成 30 年 12 月7日民集 72
巻6号 1044 頁10)
、ここでは、所有権が留保された場合は、目的物の所有権は所有権留
保売主から所有権留保買主に移転しないことが根拠とされており、このような判例の立
場は、
【案 14.1.3.1】
(対抗問題がそもそも生じないという立場)と整合的である。もっ359 山田真紀・最判解民事篇平成 22 年度(上)386 頁
10 所有権留保売買契約の買主から所有権留保の目的物について譲渡担保の設定を受けた者が、所有権留
保売主との関係で対抗関係に立つと主張した事案において、所有権留保の目的物の所有権は売買代金が
完済されるまで所有権留保買主に移転しないから、当該目的物について所有権留保買主から譲渡担保権
の設定を受けた者は、所有権留保売主に対して譲渡担保権を主張することができないとした。 9担保法制部会資料 14
とも、この点については、留保所有権を譲渡担保権に優先させるという結論が重要なの
だとすれば、
所有権がいったん所有権留保買主に移転するという構成を採った場合でも、
平成 30 年最判と構成は異なるが、他の担保権との優先劣後関係に関するルールを設け
ることで同様の結論を導くことは可能である。
(3) 一読の議論においては、対抗要件を要するという考え方と要しないという考え方は二5者択一の関係ではなく、狭義の所有権留保は対抗要件が不要であるが、拡大された所有
権留保については対抗要件を要することとすべきであるという意見があった。しかし、
狭義の所有権留保において物権変動が生じてないという捉え方をするとすれば、それは
拡大された所有権留保についても当てはまると考えられること、拡大された所有権留保
について対抗要件を要することとしても、占有改定によって対抗要件を具備することが10できるのであれば、ほぼ常に占有改定による引渡しは伴っていると考えられるから、違
いを設ける意味は必ずしも大きくはないことから、この資料においては、狭義の所有権
留保と拡大された所有権留保とを区別する案は示していない11。
5 第三者が関与する所有権留保について
売買契約に当たって信販会社等の第三者が売買代金債務を売主に対して立替払をし、目15的物の担保権が当該第三者に移転して買主が求償債務を完済するまで留保される場合(第
三者所有権留保売買契約)の法律関係については、以下のとおりと考えられる。
現行法の第三者所有権留保売買契
約の法律構成については様々な考え
方があり12、最判平成 22 年6月4日20民集 64 巻4号 1107 頁も必ずしも明
確ではないが、
当該事案においては、
所有権が一旦売主から買主に移転
し、買主と信販会社との間の担保設
定合意に基づいて信販会社が譲渡担25保権と同様の留保所有権を取得する
という考え方と、第三者所有権留保
の合意によって売主が有する留保所
有権が信販会社に移転するという考え方とのいずれかを採用したものと評価されている13。
第三者が関与しない所有権留保売買契約の法律構成を踏まえて検討する必要があるが、物30権変動が生じないという立場からは信販会社が関与する類型においても、買主に対する物
権変動はなく、留保所有権が売主から信販会社に移転するという構成に結び付くことが自
然であるようにも思われる。もっとも、当事者があえて所有権を移転した上で買主が第三
者のために担保権を設定することを合意した場合にその効力を否定する必要はないから、
いずれの構成が採られたのかは当事者の合意内容によることになると思われる。他方、所3511 もっとも、所有権が留保された動産が他の担保の目的となり得るとする場合に、所有権留保売主が常
に優先するかどうかは別途検討が必要であり、この点で狭義の所有権留保と拡大された所有権留保の扱
いを異なるものとすることは考えられる。
12 山田真紀・最判解民事篇平成 22 年度(上)385 頁参照
13 山田真紀・最判解民事篇平成 22 年度(上)386 頁 10担保法制部会資料 14
有権留保の合意を、目的物の所有権をいったん買主に移した上で担保権を設定する合意で
あると解釈しなおす立場からは、信販会社が関与する場合にも、所有権はいったん買主に
移転した上で信販会社のために担保権が設定されると解することになると考えられる。
所有権がいったん買主に移転するという構成が採られた事案においては、原則どおりで
あるとすれば、信販会社等の第三者が担保権の取得を第三者に対抗するためには、買主か5らの引渡し等の対抗要件が必要になる。
【案 14.1.3.2】を採るのであればこの原則を修正す
る必要はないが、
【案 14.1.3.1】を採るとすれば、第三者も当然に対抗することができると
いう修正を加えるかが問題となる。
留保所有権が売主から信販会社等の第三者に移転するという構成が妥当する事案では、
信販会社等の第三者と買主側の第三者(買主について破産手続が開始した場合における破10産管財人や目的物を差し押さえた買主の債権者)との間で対抗問題は生ぜず、信販会社等
は、特段の要件を具備することなく、自らの担保権を破産管財人や差押債権者に主張する
ことができると考えられる14。この考え方は、平成 22 年最判との整合性をどのように説明
するかが問題になる。
なお、第三者が契約によって留保所有権を取得する事案ではなく、信販会社等が被担保15債権を保証するなどその弁済をするについて正当な利益を有する場合は、信販会社等が被
担保債権の弁済をしたとき、
信販会社等は当然に所有権留保売主に代位し
(民法第 499条)、この代位について民法第 467 条の通知・承諾は不要である(民法第 500 条)
。買主の下に
あった留保所有権は信販会社等に移転し(民法第 501 条第1項)
、この移転について対抗
要件は不要である15。204 新たな規定に係る動産担保権を登記する制度のイメージ
新たな規定に係る動産担保権を登記することができるものとする場合に、その登記制度
のあり方としては、例えば以下のような方向性があるが、どのように考えるか。
【案 14.1.4.1】引渡しがあったものとみなされるという効果や、登記事項(1当事者の特定25に必要な事項、2登記原因及びその日付、目的物の特定に必要な事項等)の点で、基本的
には現在の動産譲渡登記と同様とする。
【案 14.1.4.2】登記そのものを対抗要件とするなど動産譲渡登記の効果を改めるとともに、
担保取引に関する比較的詳細な事項を記録する制度を設ける。
(1) 担保目的での動産の譲渡が行われた場合、1当事者の特定に必要な事項、2担保取引30の日付、
目的物の種類、
所在場所・数量その他特定に必要な事項、
3被担保債権の金額、
発生原因、弁済期、利率等を記録することとする。
(2) 被担保債権の譲渡、転担保、担保権の譲渡・放棄等がされた場合、その内容を、各担
保取引の記録に追加する。
(3) 担保権の順位の変更、担保権の順位の譲渡・放棄等がされた場合、その内容を、関係3514 もっとも、平時はともかく、倒産手続開始時においては対抗要件又は権利保護要件を要するという見
解に立つとすれば、明文の規定を設けるかという問題はあるが、管財人等に対して別除権を主張するた
めには対抗要件又は権利保護要件を要することになる。
15 最判平成 29 年 12 月7日民集 71 巻 10 号 1925 頁参照 11担保法制部会資料 14
する各担保取引の記録の双方に追加する。
(4) 担保権の実行がされた場合、その担保権の設定者を設定者とする担保権の担保権者に
通知がされる。
(説明)51 本項での検討事項
現行法の譲渡担保権の対抗要件としては、登記のほか占有改定が多く用いられ、新たな
規定に係る担保権についても同様に占有改定が多く用いられることになると考えられる。
しかし、占有改定は観念的な引渡しであり、占有改定がされたことを第三者が認識するこ
とが困難であるため、第三者が害されるおそれがあることが繰り返し指摘されている。こ10のような指摘も背景として、平成 16 年には動産譲渡登記制度が創設され、動産譲渡登記
がされたときは引渡しがあったものとみなすこととされた。
登記制度の在り方については、
改善の余地があるとの指摘もされているほか
(部会資料5第4参照)、一読の議論において
も、
担保権の効力に関する議論においては、
担保権の順位の変更、
担保権の処分
(転担保、
担保権又はその順位の譲渡又は放棄)等について実務上のニーズがあり、これを認める明15文の規定を設けるべきであるとの意見も有力であった。仮に新たな規定に係る担保権につ
いてこれらの制度を設けるとすれば、これを登記の対象とするかも問題になるが、動産譲
渡登記において登記されるのは「譲渡」であり、その効果も引渡しがあったとみなすとい
うものであるから、担保権の処分等に対応するためには、登記制度の在り方を大きく見直
すことも必要となる。また、留保所有権を第三者に対抗するためには対抗要件を要すると20いう考え方(
【案 14.1.3.2】
)を採るのであれば、この点でも、動産譲渡登記の見直しが必
要となる可能性がある。そこで、本項においては、新たな規定に係る担保権の対抗要件を
登記によって具備することができる16こととした場合に、その登記制度のあり方としてど
のような制度が望ましいかを検討する。
2 【案 14.1.4.1】について25【案 14.1.4.1】は、新たな規定に係る担保権を登記する制度として、登記をすれば引渡
しがあったとみなされるという効果や登記事項の面で、基本的に動産譲渡登記制度と同様
のものを設けようとするものである。
【案 14.1.4.1】は、例えばその後に被担保債権が譲渡
されて担保権が移転したとしても、そのような変動については登記の対象とせず、また、
担保権の順位の変更や担保権の処分等についても登記の対象としないとするものである。303 【案 14.1.4.2】について
【案 14.1.4.2】は、動産を目的とする担保権の設定がされた場合に、担保取引ごとに、
当該担保取引に関する情報及びこの取引を基本とする担保権の順位の変更や担保権の処分
等に関する情報をできるだけ詳しく記録しようとするものである。具体的には、1当事者
の特定に必要な事項、2担保取引の日付、目的物の種類、所在場所・数量その他特定に必35要な事項に加えて、
3被担保債権の金額、
発生原因、
弁済期、
利率を記録することとし(別添イメージ図「詳細な記録制度のイメージ1」参照)
、さらに、被担保債権の譲渡、担保権
16 (説明)の3に記載したとおり、登記による対抗要件具備の構成としては、現行法と同様に引渡しが
あったものとみなすという方法と、登記を引渡しと並ぶ別個の対抗要件とする方法が考えられる。 12担保法制部会資料 14
の順位の変更、担保権の処分等のように、ある担保取引を前提として事後的に別の取引が
がされた場合、これらも登記することができるようにするというものである。
被担保債権の譲渡等や担保権の順位の変更等をどのように登記するかが問題になるが、
1つのイメージとしては、基本となる担保取引に関する記録に、追加して事後に行われた
取引に関する情報を記録していくことが考えられる
(別添
「詳細な記録制度のイメージ2、53」参照)
。例えば、ある目的物について、まずAのために担保権が設定されて記録
(No.XXXX)がされ、次いでBのために担保権が設定されて記録(No.YYYY)がされ、
AB間で担保権の順位を変更することが合意されたという事例を例に取る。この場合に、
Aの担保取引に関する記録(No.XXXX)にBとの間で担保権の順位を変更したことを、B
の担保取引に関する記録
(No.YYYY)
にAとの間で担保権の順位を変更したことをそれぞ10れ記録するというものである(別添「詳細な記録制度のイメージ2」)。担保権の順位の変
更のように複数の記録に影響する取引を記録するためには、必ず対になる記録がされなけ
ればならず、
一方だけを記録することはできないとする制度設計にすることが考えられる。
この場合に、目的物の同一性をどのように確認するかも問題になるが、上記では、AB間
で合意がされるに当たって確認がされていることを前提とし、それ以上に、システムに記15録するに当たって同一性があるかどうかについての審査をしないという制度を想定してい
る17・18。
以上のような【案 14.1.4.2】は、現在の動産譲渡登記に比べ、担保取引としての実情に
即した詳細な情報を記録して公示性を高めるとともに、新たな規定に係る担保権の処分等
について規定を設ける場合には、これにも対応するという方向性を示したものである。こ20のような詳細な制度は、担保権の処分の効力要件ともなり得るなど、引渡しの効果を超え
る効果を有し得るため、引渡しがあったとみなすのではなく、登記そのものを引渡しと並
ぶ別個の対抗要件とすることも考えられる。
また、このような詳細な情報を記録しなければ第三者に対抗することができないとすれ
ば、占有改定を含む引渡しによって対抗要件を具備することができることとのバランスを25失するとも考えられ、対抗要件とは異なる位置づけを与えることも考えられる(第2、1
参照)。4 【案 14.1.4.1】及び【案 14.1.4.2】に共通する課題について
一読の議論では、簡易・迅速・廉価な公示制度の整備を求める意見が多くあった。現在
の動産譲渡登記制度については部会資料5第4に記載したような点が指摘されており、こ30れらと重複する部分はあるが、
【案 14.1.4.1】と【案 14.1.4.2】のいずれを採るとしても、
簡易性、迅速性を実現するという観点からは、1申請方法や申請情報の内容を見直す必要
17 仮に当事者が目的物の同一性についての判断を誤り、同一性がなかった場合、記録上は順位の変更が
存在するが、実体的にはそのような物権的な効果は存在しないことになる(そういう意味では、あくま
で当事者がした合意内容を矛盾なく記録することがこの制度の目的であることになる。)。
18 第1順位と第3順位の担保権者が担保権の順位の変更をする場合、第2順位の担保権者の同意が必要
である。第2順位の担保権者の有無を確認するためには、目的物を同じくする担保権がほかにないかを
確認する必要があり、これを自動的に行うのは困難である。この場合の処理については、更に検討を要
するが、必要な当事者の合意を得ることは当事者に委ねる(必要な合意が得られていないために無効と
なるリスクは当事者が負担する)ことも考えられる。 13担保法制部会資料 14
はないか、2添付情報の内容を見直す必要はないか、3人の審査を介するという仕組みを
見直す必要はないかなどが検討課題になり得る。
1については、
できるだけオンライン申請の利便性を高め、
例えば共同申請でなくても、
一方の当事者がシステムにアクセスして必要な事項を入力し、相手方がその内容が正確で
あることを確認して承認すれば、記録が実行されるというような仕組みも考えられる。必5要事項の入力方法としては、例えば担保目的物については、予想される目的物の種類(特
定物であれば機械、家畜など。集合物であれば在庫、什器備品など)を選択することがで
きるようにしておき、当事者が選択した種類のチェックボックスに印を付けた上で、更に
所在場所その他の特定に必要な事項を自由に記載することができるものとすることが考え
られる19。102については、現在は申請人の代表者の資格を証する書面などが必要とされているが、
例えば、ID やパスワードを活用して申請者の本人確認や権限の確認を簡略化することが
できないかも検討に値する20。この点については、現在の動産譲渡登記におけるのと同程
度の信頼性を持つ確認方法があるか、さらに、設定者が個人である場合にも登記を利用す
ることができることとする場合には個人事業者も利用することができる方法であるかどう15かなどが問題になる。
3については、担保取引に関与する当事者双方がその内容を承認した場合には、人の審
査を介することなく記録がされるようなシステムを志向することが考えられる。他方で、
何らの審査も要せず当事者のみで記録することができるという制度は、国が運用する登記
制度の内容としてはなじまないという指摘も考えられる。205 その他の機能
登記制度の機能として、担保権が実行された場合に、その担保権の設定者を設定者とす
る担保権の担保権者に通知がされることとすることが考えられる。
また、
設定者にとって、
別の種類の担保目的物について担保権が実行されたことを、他の担保権者に知られたくな
いという期待を保護することにも一定の合理性があるように思われるため、
通知の対象を、25同じ種類の目的物を担保とする担保権者に限るということも考えられる(別添「実行時の
イメージ」)。
第2 新たな規定に係る担保権相互の優劣関係
1 同一の動産について新たな規定に係る担保権が数個設定されたときの優劣関係30同一の動産について数個の担保権が設定されたときの優劣関係について、次のような考
え方があるが、どのように考えるか。
【案 14.2.1.1】 同一の動産について数個の担保権が設定されたときは、その順位は、法
令に別段の定めがある場合を除き、担保権をもって第三者に対抗することができるよう
になった時の前後によるものとする(部会資料4の【案 4.2.1.1】と同じ。)。3519 仮に実体法上「在庫一切」などの特定を認めるのであれば、
「一切」を選択することも可能にしてお
くことが考えられる。
20 例えば、行政手続の中には、法人・個人事業主向けの共通認証システムとして、一つの ID・パスワ
ードでさまざまな行政サービスにログインすることができる G ビズ ID(デジタル庁 HP、https://gbiz-
id.go.jp/top/)を活用することができるものがある。 14担保法制部会資料 14
【案 14.2.1.2】 同一の動産について第三者対抗要件を具備した数個の担保権が設定され
たときは、その順位は、法令に別段の定めがある場合を除き、新たに設けるファイリン
グ制度におけるファイリングがされた時の前後によるものとする(部会資料4の【案
4.2.1.2】と同じ。)。5(説明)
1 本項での検討事項
動産の所有者がその動産を目的として新たな規定に係る担保権を複数設定した場合や、
所有権留保買主がその目的物を担保目的で譲渡することができるものとする場合には、同
一の動産について複数の担保所有権が存することになる。本項では、競合する複数の担保10権の順位をどのように決定するかを扱うものである
2 【案 14.2.1.1】について
【案 14.2.1.1】
は、
同一の動産について数個の担保権が設定された場合の順位について、
原則として、第三者に対抗することができるようになった時の前後によって決しようとす
るものである21。現行法上の約定担保権が競合したときは対抗要件の先後によって順位を15定めることとされており(動産質権について民法第 355 条、抵当権について民法第 373条)、
譲渡担保権についても、
その順位は対抗要件具備の先後によると考えられている。
【案
14.2.1.1】はこのような現行法の立場を踏襲しようとするものであり、部会資料4の【案
4.2.1.1】と同じ提案である。
3 【案 14.2.1.2】について20(1) 【案 14.2.1.2】は、競合する担保権の順位を決定するために、現在の動産譲渡登記と
は異なるが、
担保権を記録して第三者がその存在を知ることができる簡易な制度を設け、
対抗要件と切り離してこの記録の先後によって順位を定めようとするものであり、部会
資料4の【案 4.2.1.2】と同じ提案である。
現行法の譲渡担保については、占有改定を含む引渡しによって対抗要件を具備するこ25とができるとされているが、占有改定による引渡しがされたことを第三者が認識するこ
とは困難であるから、第三者が不測の損害を被るおそれがあるという問題が指摘されて
いる。
このため、
担保権の存在を第三者が認識することができるようにする必要があり、
その方法としては対抗要件を登記に一元化することも考えられる。しかし、引渡しは現
行法の譲渡担保権の対抗要件として定着しており、新たな規定に係る担保権について引30渡しを対抗要件から除外することは実務に混乱をもたらすおそれがある。このため、対
抗要件を一元化することは困難である(前記第1、1参照)が、例えば担保権者及び設
定者の氏名又は名称と目的物(ただし、厳密に特定することを要しない。
)など限られた
事項のみを記録する制度を設け、競合する他の担保権者との順位を決定する基準をこの
制度に一元化すること(現実の引渡しを受けたときはファイリングを得たのと同一の効35力を認めることも考えられる。
)が考えられる。これが【案 14.2.1.2】である。
21 生熊・動産譲渡担保法立法私案(1)205 頁(同私案第3条)
、生熊・動産譲渡担保法立法私案(2)706 頁
(同私案第 12 条第3項)は、いずれも、同一の目的物について複数の譲渡担保権が設定されて対抗要
件が具備された場合には、先に対抗要件を備えた債権者が先順位の譲渡担保権を取得するとする。 15担保法制部会資料 14
このような制度を設けるメリットとしては、占有改定のみがされるよりも第三者が担
保権の存在を認識する可能性が高まる一方、担保権者にとっても、登記よりも簡易で安
価な制度を設けることができれば、占有改定とファイリングを併用することにより安価
に他の担保権に対する優先性を確保することができる点にある(他方で、登記制度は、
より具体的に目的物を特定することにより、例えば即時取得を阻止する効果をファイリ5ングよりも期待することができる。)。
(2) ファイリング制度の具体的なイメージとしては、
例えば次のようなものが考えられる。
記録される事項としては、
できるだけ簡易な制度とするために記録する情報を限定し、
第三者が担保権の存在を知るために必要だと思われる限られた事項、例えば、1担保権
者及び設定者を特定するのに必要な事項、2担保取引の日時、目的物とすることが考え10られる(別添「簡易な記録制度のイメージ1」参照)
。このファイリング制度について、
設定者の有する財産に担保権が設定されていることを第三者が認識し、その詳細(目的
物の厳密な特定、被担保債権額など)について更なる調査を行う端緒とするためのもの
と位置づけるのであれば、この目的物の特定は厳密なものでなくてもよいという考え方
もあり得る。
また、
例えばその後に被担保債権が譲渡されて担保権が移転したとしても、15そのような変動については記録せず、また、担保権の順位の変動や担保権の処分(担保
権の譲渡・放棄など)についても記録しない。なお、記載事項2のうち目的物の詳細に
関わる内容については、
例えば機械設備の名称や製造番号等、
設定者が事業を行う上で、
当該動産を所有していること自体を第三者に知られたくない場合もあると考えられるた
め、設定者の承諾を得た場合に限り第三者の閲覧を認めることとするなどの制度設計が20考えられる。
記録される内容だけでなく、申請手続の簡易性、迅速性も問題となるが、この点につ
いては前記第1、4の(説明)4が当てはまる。
(3) このイメージとは異なるイメージとして、このファイリング制度に【案 14.1.4.2】と
同様の詳細な情報を記録することも考えられる。
これは、
対抗要件の機能はあくまで
「担25保権を有すること」を第三者に対抗することにあるという理解から、登記事項は現状を
維持することとし、担保取引に関する種々の情報(被担保債権額その他の被担保債権に
関する情報や、担保権の変動に関する情報)については対抗要件とは異なる制度で記録
するという考え方である。
4 検討30(1) 担保権者が引渡しによって対抗要件を具備したが上記のファイリングを具備していな
かった場合、その後に真正譲渡を受けた者に対しては担保権を対抗することができるの
に、その後に担保権の設定を受けた者に対する関係では順位が劣後することもあり得る
のは均衡を失するとの指摘も考えられる。
この点については、対抗要件を具備することによって対抗することができるのはあく35まで担保権を有するということであり、その点では第三者が真正譲渡を受けた者であっ
ても他の担保権者であっても同様であるため、均衡を失するものではないという説明も
考えられる。すなわち、担保権が存在することの対抗を受ければ所有権はその負担を負
うことになるが、同一の物についても複数の担保権は存在し得るため、担保権が存在す 16担保法制部会資料 14
るということを対抗しただけでは順位は決定せず、対抗要件以外に順位を決定するため
の基準が必要となり、それがファイリングであるという説明である。
(2) ファイリング制度を導入する場合の課題として、ファイリングをいつから具備するこ
とができるかが問題になる。実体法上の物権変動前にファイリングを具備することがで
き、その後物権変動が現実に生じて対抗要件が具備された場合に、競合する他の担保権5との優劣についてはファイリングの時期の前後によって決するという制度設計も不可能
ではない(前記第1、2の(説明)2(2))
。このような考え方によれば、将来の動産につ
いてあらかじめ担保権を設定した上で、現に物権変動が生じた場合に他の担保権者に優
先する地位を確保することができることになる。
他方で、従来実体的な権利変動が生じた後に第三者対抗要件を具備することができる10とされてきた日本法において、実体的に担保権が生じていない状態で優劣関係だけを確
保することを可能とすることは従来の制度との隔たりが大きく、実務上のニーズや効果
も明らかでない。そこで、
【案 14.2.1.2】を採るとしても、ファイリングをするためには
実体的に担保権が発生していることが必要であり、その前にファイリングを得ても効力
が認められないものとすることも考えられる。15(3) 【案 14.2.1.2】によれば、競合する担保権がいずれも対抗要件を具備しているが優劣
関係が決まらない場合(いずれも引渡しを受けているがファイリングがない場合)が生
じ得るため、このような場合の処理を検討しておく必要がある。この点については、相
互に担保権を有していることを対抗することはできるため、同順位の担保権と扱うこと
が考えられるが、どうか。20(4) 【案 14.2.1.2】は、対抗要件とは切り離して担保権の優劣関係を決するための統一的
な基準を設けるものであり、動産譲渡登記がされた担保取引についても、他の担保権と
の優劣関係はファイリングの先後によって決することになる。これによれば優劣関係を
判断するに当たっての一覧性が高まるというメリットがある一方で、動産譲渡登記を具
備した上で、担保権の優先を確保するためにはファイリングを具備しなければならない25ことになり、担保取引に関するコストが増大するおそれもある。そこで、
【案 14.2.1.2】
のヴァリエーションとして、占有改定(例えば指図による占有移転のようにその他の種
類の引渡しについてもこれと同様に扱うという考え方もあり得る。
)によって対抗要件
を具備した担保権についてはファイリングの時点を基準とし、動産譲渡登記がされた取
引についてはその時点を基準とし、その先後で優劣関係を決定するという考え方もあり30得る。このような考え方は担保権の優劣関係を決定する基準を対抗要件から切り離した
というよりは、一般論としては対抗要件の先後によって担保権の優劣を決めるという立
場【案 14.2.1.1】を採りつつ、公示性の低い占有改定などについてはその問題点を補完
するため、特別により公示性の高い措置がとられた時点を基準に担保権の優劣を決定す
る考え方であるともいえる(もっとも、その場合、今後、融資を行おうとする者が先行35する担保の存否を確認するに当たり、2つのシステムを確認しなければならないのは煩
雑であるため、システムを連携させ、例えば、新たなシステムから動産譲渡登記の存否
を確認することができるようにするなどの措置が必要になると考えられる。)。 17担保法制部会資料 14
2 引渡しと登記との優劣関係
前記1において【案 14.2.1.1】を採る場合、動産譲渡登記により対抗要件を備えた担保
権は、占有改定のみにより対抗要件を備えた担保権に優先するものとしてはどうか。
(説明)51 本項の検討事項
本文は、
いわゆる登記優先ルール
(動産譲渡登記によって対抗要件を具備した担保権は、
占有改定(及び指図による占有移転)によって対抗要件を具備した担保権に優先するとい
うルール)の採否を取り上げるものである。
【案 14.2.1.1】
(競合する担保権の優劣を対抗
可能時の前後によって決する案)を採る場合に、対抗要件の種類(登記であるか、引渡し10の一部であるか)によってこの原則を修正するかどうかという問題であり、
【案 14.2.1.2】
を採る場合には、第三者対抗要件の種類にかかわらず担保権の優劣はファイリングによっ
て決せられることになるため、登記優先ルールは問題にならない。
登記優先ルールについては、平成 16 年の動産譲渡登記制度の創設に当たっても採否が
検討されたが、
見送られた22。
その際に検討されたルールの内容及び見送られた経緯は、部15
会資料第4第2、2記載のとおりである。
2 本文の考え方
(1) 本文は、動産を目的とする担保権一般について、占有改定による引渡しを受けた担保
権に対して登記を具備した担保権を優先するというルール(登記優先ルール)を採用す
る考え方である。部会資料4第2、2においては、動産を目的とする担保権一般につい20て登記優先ルールを導入する案においても、登記に優先される引渡しの種類を占有改定
に限定する考え方と指図による占有移転を含める考え方の2つの案を示した。しかし、
第三者が占有する動産について譲渡担保の設定を受けようとする者はその第三者に問い
合わせることによって先行する譲渡の有無を確認することができることから、本文にお
いては、
登記によって優先される引渡しを占有改定に限定した。
一読の議論においても、25指図による占有移転が登記によって優先されるという立場を支持する意見はなかった。
(2) 登記優先ルールを導入する場合、例えば次のような類型のうちいずれを適用対象とす
るかが問題になる。いずれのケースにおいても、まずAが譲り受けて占有改定による対
抗要件を具備し、その後に同じ譲渡人からBが譲り受けて登記を具備したものとする。
ケース1 ケース2 ケース3 ケース4
A(先に占有改定)の
取得目的
真正譲渡 真正譲渡 担保 担保
B(後から登記)の取
得目的
真正譲渡 担保 真正譲渡 担保
本文は、占有改定も対抗要件ではある以上、Aは真正譲渡においては所有権を取得し30たことを、担保目的譲渡であれば担保権を取得したことをBに対して対抗することはで
き、登記優先ルールはあくまで担保権の順位を決定するための基準であることを前提と
している。これによれば、ケース1及びケース2においては、Aは第三者に対して所有
22 植垣=小川・一問一答 34 頁 18担保法制部会資料 14
権を取得したことを対抗することができるため、譲渡人は既に無権利者となり、Bへの
処分は物権的な効力を生じないと考えられる。したがって、Bとの関係で対抗要件は問
題にならない。そこで、本文においては、真正譲渡が先行した場合は、登記優先ルール
の対象としていない。
ケース3については、担保権の設定者が後に真正譲渡したケースであり、その効力を5否定するのであれば登記優先ルールを適用するかという問題は生じない。その効力を肯
定する場合に、登記優先ルールを適用することによってBが負担のない所有権を取得す
ればその効果としてBは担保権も失うことになるが、これは占有改定によってAが担保
権を取得したことをBに対抗することができることと矛盾するため、登記優先ルールの
適用対象とする必要はない。10以上から、本文はケース4のみを登記優先ルールの適用対象としている。
(3) 担保目的取引規律型で規定を設けた場合23に、登記優先ルールを採ると、1担保目的
譲渡を受けた甲が占有改定により対抗要件を具備、2真正譲渡を受けた乙が占有改定に
より対抗要件を具備、3担保目的譲渡を受けた丙が動産譲渡登記を具備という事実の経
緯があった場合に、甲乙丙の優劣関係が確定しないという問題が指摘されてきた。部会15資料4の注 43 にも記載したとおり、設定者は担保目的で譲渡した目的物を真正譲渡す
ることができない(しかし、担保目的で重複して譲渡することはできる)とすると、乙
への譲渡は効力がなく、甲と丙との間では登記優先ルールの下では丙が優先する。設定
者は担保目的で譲渡した物を更に担保権の負担付きで真正譲渡することが可能であると
すると、乙への譲渡は有効になり、乙が対抗要件を具備した後に設定者が丙に譲渡して20も、これは他人物譲渡であるから丙は目的物について担保権を得ることができないと考
えられる。以上のように考えれば、三すくみは問題にならないようにも思われるが、ど
のように考えるか。
3 集合動産譲渡担保に限って登記優先ルールを適用する考え方
部会資料4においては、動産を目的とする担保権全般について登記優先ルールを適用す25る考え方のほか、いわゆる集合動産譲渡担保に限って登記優先ルールを適用するという考
え方も示し、一読の議論においてはこれを支持する意見もあった。そこでは、個別動産に
は登記のコストを負担しにくいものもあることや、特定の動産については真正譲渡と担保
目的譲渡の区別が困難な場合があることなどが指摘された。しかし、占有改定のみによっ
ては第三者が担保権の存在を知ることができないのは特定の動産でも集合動産でも同様で30あるし、目的物の価額についても、一概に特定の動産と集合動産のいずれが高額であると
はいないことからすると、登記優先ルールを導入する場合、目的物が特定の動産であるか
集合動産であるかによってその適用の可否を区別することに合理性があるとはいえない。
そこで、
本文では登記優先ルールの適用対象を集合動産に限定する考え方を示していない。
4 登記制度とファイリング制度のあり得る組合せ3523 新たな担保物権を創設する場合、その担保権の設定者が真正譲渡をすれば、その設定者は所有権を確
定的に失うからその後新たに担保権を設定することができず、上記の事例では丙は何ら権利を取得しな
いと考えられる(甲と乙とでは甲が優先し、乙は甲の担保権の負担がある所有権を取得することにな
る。) 19
担保法制部会資料 14
前記第1、4、第2、1を含め、占有改定の公示性が低く、第三者が不測の損害を被る
おそれがあるという問題に対する対処等を目的として、担保取引を記録し、第三者に情報
を提供する制度をどのように設計するかという問題を取り上げたが、複数の項目にわたっ
たため、あくまで論理的な可能性としてであるが、全体としてどのような組合せが考えら
れるかをまとめると、以下のとおりである。51 現状を維持する(ただし、登記制度について指摘されている問題点を踏まえて改善す
ることはあり得る。)。
これを採る場合には、引き続き占有改定も対抗要件であり、対抗要件の具備の先後に
よって担保権の優劣が定められる。登記と占有改定との優劣はないため、後から登記を
具備した担保権者がいても、先行して占有改定を得た担保権者に劣後する。また、担保10権の処分などの規定を設けても、登記等をすることはできない。
2 対抗要件制度は現状を維持した上(占有改定と登記との優劣はない。
)で、担保権の優
劣はファイリング制度によって決する。被担保債権に関する情報や担保権の処分等の取
引を記録するかどうかは両論があり得、記録する場合にも、登記制度に記録するという
考え方と、ファイリング制度に記録するという考え方があり得る。153 登記優先ルールを採用して占有改定よりも登記が優先することとする。被担保債権に
関する情報や担保権の処分等の取引を記録するかどうかは両論があり得、記録する場合
には登記事項とする。
3 留保所有権と譲渡担保権との優劣関係20狭義の所有権留保に基づく留保所有権と譲渡担保権との優先劣後関係については、次の
ような考え方があるが、どのように考えるか。
【案 14.2.3.1】所有権留保に基づく留保所有権は、その目的物の代金債権を担保する限度で
は、特段の要件なくして競合する譲渡担保権に当然に優先するものとする。
【案 14.2.3.2】狭義の留保所有権について対抗要件やファイリングが必要であるとしても、25引渡しから一定期間経過するまでにこれらの手続を経た場合には、その目的物の代金債権
を担保する限度で、競合する譲渡担保権に優先する。
(説明)
1 留保所有権と譲渡担保権の競合について30留保所有権と譲渡担保権の競合が生ずるかについて、関連する判例や、所有権留保の法
的構成との関係、担保物権創設型と担保目的取引規律型との関係等については、部会資料
5第1、1の(説明)記載のとおりである24が、一読においては、所有権留保の法的構成か
ら譲渡担保権との競合を否定すべきであるという議論はなく、留保所有権と譲渡担保権と
は競合することを前提とした意見が多かった。そこで、以下では、留保所有権と譲渡担保3524 ただし、その(説明)の2(3)には「このように(注:所有権留保における物権の変動について、所有
権留保売主から所有権留保買主に対して一旦所有権全体が移転した上で、所有権留保売主に対して所有
権が担保目的で再度移転される)考えるとすれば、所有権留保売主が留保所有権を第三者に対して主張
するためには対抗要件が必要であることになる。
」とあるが、政策的な観点から当然対抗とすることは
あり得る。 20担保法制部会資料 14
権が競合することを前提に、その優劣関係について検討する。
2 狭義の留保所有権と譲渡担保権の優劣関係に関する一読での議論
集合動産所有権留保を認め、個別の所有権留保売買契約の成立前に一定の範囲に含まれ
る動産に一括して留保所有権を設定して対抗要件を具備することができるものとしない限
り、前記1についていずれの立場を採るとしても、その原則に従えば、所有権留保売買を5しようとする売主がその前に設定された集合動産譲渡担保に優先する手段がないことが生
じ得る(部会資料5第1の(説明)3(2))
。しかし、留保所有権と譲渡担保権が競合した場
合、1被担保債権と目的物の間に牽連関係があり、所有権留保売主は譲渡担保権の目的で
ある集合動産の増価に直接寄与した立場にあること、2留保所有権を優先しなければ、売
主は代金と引換えでない限り新たな取引に応じなくなるおそれがあること、3集合動産譲10渡担保権者は、実行の対象となる動産が不確定であることを織り込んで担保評価をしてい
るはずであることなどから、集合動産譲渡担保に対して留保所有権を優先すべきであると
の指摘がある25。また、最判平成 30 年 12 月7日民集 72 巻6号 1044 頁も、所有権留保買
主が保管する目的物を含む在庫製品等について集合動産譲渡担保権の設定を受けた者が、
所有権留保売主に対し、売買代金が完済されていない留保所有権の目的物について譲渡担15保権を主張することができないと判断している。
以上を踏まえて、部会資料第5においては、1狭義の留保所有権は、特段の要件なくし
て当然に競合する譲渡担保権に優先するという考え方、2狭義の留保所有権について、前
記1において担保権の優劣を決める基準とされる要件を具備しなければならないこととし
つつ、
単純な先後ではなく、
例えば引渡しから一定期間内にその要件を具備した場合には、20競合する譲渡担保権に優先するという考え方を示したところ、一読の議論においては、2
の考え方を支持する意見が多かった。
狭義の留保所有権と譲渡担保権の優劣について1及び2のいずれを採るかについては、
担保権の優劣を決する原則的な基準をどのように考えるか、留保所有権について対抗要件
を要することとするかという2つの問題についてどのように考えるかと関連させて検討す25る必要があり、これらの問題に関する立場によっては1を採るべきであるとも考えられる
ため、本文においては1の考え方も排除しておらず、1の考え方を【案 14.2.3.1】
、2の考
え方を【案 14.2.3.2】として示している。
3 狭義の留保所有権と譲渡担保権の優劣
検討の便宜として、次の【事例】を用いる。3025 松本・判解平成 30 年 12 月7日 2227 頁、田髙・所有権留保の効力と法的構成に関する一考察 224頁 21
担保法制部会資料 14
【事例】
1CがBの倉庫内の在庫について譲渡
担保権の設定を受け、対抗要件(及び
ファイリング)を具備52AがBに対して所有権留保特約付き
で商品を売却し、倉庫内に搬入
3Bの一般債権者DがAの留保所有権の
目的物を差押え10(1) 担保権の優劣を決する原則的な基準について対抗可能時の先後によるものという立場(【案 14.2.1.1】
)を採った上で、留保所有権については対抗要件を要しないという立場(【案 14.1.3.1】
)を採る場合、留保所有権を優先させるには【案 14.2.3.1】を採ること
が考えられる。
【案 14.2.3.1】を採る場合には、上記の【事例】で、Aは何らの要件なく15C及びDに優先することになる。
【案 14.2.3.2】を、譲渡担保権に対して優先するには本来であれば先に対抗要件を具
備しなければならないところ、対抗要件具備が集合動産譲渡担保より後であっても一定
の期間内であれば留保所有権を優先させるという特別なルールを設けるものであると捉
えた場合、留保所有権については対抗要件等の具備を必要としない以上、
【案 14.2.3.2】20とは結び付きにくい。もっとも、
【案 14.2.1.1】及び【案 14.1.3.1】を前提としても、譲
渡担保権に対する優越という特別な効果を得るためにはある種の権利保護要件として一
定期間内の登記を具備することが必要であると考え、
【案 14.2.3.2】を採るということも
考えられる。ただし、この場合になぜそのような権利保護要件が必要となるのかについ
ては更に検討が必要であると思われる。25【案 14.2.3.2】を採ると、Aは、所定の期間内に登記などの要件を具備すればCに優
先する。Aが所定の期間内に必要な要件を具備しなかった場合、対抗可能時の先後によ
って決するという原則に戻り、Cが優先する。いずれにしても、AはDに対して先に対
抗可能になっているため、Dに優先する。
(2) 【案 14.2.1.1】
を採った上で、
留保所有権についても対抗要件を要するという立場(【案3014.1.3.2】
)を採る場合、
【案 14.2.3.2】によって対抗要件を後に具備した留保所有権を優
先させることが考えられる。これに対し、
【案 14.2.3.1】とは結びつかないように思われ
る。差押債権者や管財人に対する関係で対抗要件が必要であるにもかかわらず、他の担
保権者に対する関係では対抗要件なく当然に優先するのは一貫しないように思われるか
らである。35【案 14.2.3.2】を採ると、
【事例】においては、Aが期間内に対抗要件を具備すればC
に優先する。他方、期間内に対抗要件を具備しなかった場合、担保権の優劣を対抗要件
具備の先後によって決めるという原則に戻り、
【事例】
においては既にCは対抗要件を具
備しているから、Cが優先する(ただし、対抗要件が占有改定でよいとすれば、Aから 22担保法制部会資料 14
Bへの現実の引渡し時に常に占有改定も具備することになると思われ、期間内に対抗要
件を具備しないことは考えにくい。)。Dとの関係では差押えとAの対抗要件具備の先後
によって優劣が決まるのが原則である。Aは、ほぼ常にBへの引渡しと同時に対抗要件
を具備すると考えられるが、論理的な可能性としては、AがBに引き渡した目的物をD
が差し押さえ、その後、Cに優先するために必要な期間内にAが対抗要件を具備するこ5とも考えられ、
この場合に、A、C、
Dの優劣関係をどのように定めるかが問題になる。
ここで複雑な問題を生じさせないためには、所有権留保売主は、他の担保権者に優先す
るために必要な期間内に対抗要件を具備すれば、差押債権者に対しても優先するものと
することが考えられる。
(3) 担保権の優劣関係をそのためのファイリングの先後によって定めるという考え方(【案1014.1.2.2】)を採り、
留保所有権について対抗要件を要しないという立場(【案 14.1.3.1】)を採る場合にも、
【案 14.2.3.2】の考え方によって後からファイリングを具備した留保所
有権を優先することが考えられる。狭義の所有権留保による留保所有権の優先という政
策的な必要性を強調すれば、留保所有権はファイリングなくして譲渡担保権に優先する
という考え方(
【案 14.2.3.1】
)を採ることもあり得る。もっとも、
【案 14.1.2.2】が、対15抗要件を要しない場合や公示性の低い対抗要件が具備された場合でも、利害関係者が不
測の損害を受けないよう、できるだけ公示性の高い制度によって担保権の優劣を決しよ
うとするものであるとすると、担保権に優先するための要件としてファイリングも不要
とすることは相当でないようにも思われる。
【案 14.2.3.2】を採ると、
【事例】では、Aが期間内にファイリングを具備しなかった20場合、AとCのファイリングの先後によって決めるという原則に戻る(Cがあらかじめ
ファイリングしていた場合、逆転することはできないのでAが劣後する。)。Dとの関係
ではAは特段の要件なく対抗することができるから、Aが優先する。
(4) 【案 14.1.2.2】及び【案 14.1.3.2】を採る場合も前記(2)と同様に【案 14.2.3.2】を採る
ことが考えられ、前記(2)に記載した理由で、
【案 14.2.3.1】を採ることは一貫しないよう25に思われる。
【案 14.2.3.2】を採ると、
【事例】では、Aが期間内にファイリングを具備した場合A
はCに優先する。
Dとの関係では、
Aの対抗要件具備と差押えの先後によることになる。
前記(2)と同様、AはBへの引渡し時に対抗要件を具備すると思われるが、論理的な可能
性としては、Dが優先することもあり得、A、C、Dの関係を整合的に解決することが30できるかが問題になる。
Aが期間内にファイリングを具備しなかった場合、AとCのファイリングの先後によ
って決めるという原則に戻る。Dとの関係では、Aの対抗要件具備と差押えの先後によ
って優劣を決する。
(5) 以上のとおり、
狭義の留保所有権と譲渡担保権の優先劣後関係については、
前記第1、353と第2、1についてどのように考えるかと関連するため、これらについての結論を踏
まえて検討する必要がある。
4 拡大された所有権留保による留保所有権の取扱い
被担保債権が代金債権以外の債権である場合(拡大された所有権留保の場合)には、被 23担保法制部会資料 14
担保債権と目的物との間に牽連性はなく、留保所有権を優遇する理由が妥当しない。代金
債権以外の債権を担保する部分についてまで優先を認めるとすると、目的物について譲渡
担保権を有する者が害されるため、狭義の所有権留保による留保所有権を優遇するための
特則を設けるとしても、拡大された所有権留保による留保所有権については、他の担保に
対する優遇を認めるべきではない。
そこで、
本文では、
【案14.2.3.1】
においても
【案14.2.3.2】5においても、留保所有権が優先されるのは目的物の代金債権を担保する限度とすることと
した。これによれば、被担保債権のうち目的物の代金債権部分とそれ以外の部分は別々に
競合する譲渡担保権との優劣が判断され、目的物の代金債権部分は本項により、それ以外
の部分については前記1の原則により、決せられることになる。
部会資料5第1、1においては、拡大された所有権留保については全体として優遇しな10い(原則どおりに扱う)という考え方を示したが、被担保債権に代金債権以外のものが含
まれているだけで、優遇の理由が妥当する部分についてまでその優遇が受けられないとす
ることに対する批判があることから、本文においてはこの考え方は採らないこととした。
5 狭義の所有権留保への該当性
狭義の所有権留保を譲渡担保権との関係で優遇する一方で、拡大された所有権留保につ15いては優遇を否定するとすると、優遇されるのがどの部分であるかが重要になる。この点
については、基本的には代金債務が単位になり、その目的物が売買された契約において買
主が負担する債務の範囲で優遇されることになると考えている。例えば複数の目的物α及
びβがまとめて 1 個の売買契約の目的物とされたとすると、所有権留保売主は、αについ
てもβについても、両者をまとめた代金債権の限度で優遇されることになる(αについて20αの価格の限度、βについてβの価格の限度で優遇されるのではない。)。例えば所有権留
保買主が通常の事業の範囲でβを処分したために所有権留保売主がβについての留保所有
権を失った場合、所有権留保売主はβの代金部分を含めて目的物αから優遇して回収する
ことができる。
もっとも、厳密に代金債務が1個でなくても、社会通念上目的物と代金債務が対応して25いるとみてよい場合には、その範囲で留保所有権を譲渡担保権に優先させることも全く否
定されるものではないと考えられる。
平成 30 年最判は、
1か月を一つの期間とし、
期間ご
とに納品された目的物の代金額が算定され、目的物の所有権が当該期間の売買代金の完済
まで売主に留保されることが定められており、他の期間の代金の支払を確保するために所
有権が留保されるものではなかったという事案において、所有権が移転していないという30構成を根拠として譲渡担保権者の権利主張を否定した。一つの期間内に複数の売買契約が
あるとみれば、厳密には目的物とその被担保債権が対応していない(期間中に締結された
売買契約1の目的物が売買契約2に基づく代金債権をも担保する)場合であっても、留保
所有権を優遇したということもできる。もっとも、事案の具体的な事実関係にもよるが、
期間ごとに代金を算定し、まとめて弁済がされている場合には、個別の発注行為が複数で35あっても発注ごとに別々の代金債権が発生するのではなく、期間ごとに一つの債権を成立
させているとみることも可能であるように思われる(そのような見方ができるとすれば、
原則どおり債権単位で牽連性を認めたものに過ぎない。)。いずれにせよ、この点は、具体
的な事案を踏まえた本文のあてはめに委ねられる。

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