1戸籍法部会資料 5-3
中間試案の取りまとめに向けた検討
(注)本部会資料においては、中間試案の案(以下「試案」という。
)を太字で示し、各事項に
つき補足説明を記載している。
はじめに
我が国に全国統一の近代的身分登録制度が設けられたのは、明治4年太政官布告
第170号の戸籍法によってであり、以後、昭和22年法律第224号による戸籍
法の全面改正を含め、
幾度の制度改正がされてきたが、
これまで、
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを付することに関して、戸籍法令に規定されたことはない。
また、昭和50年、昭和56年及び平成29年に、氏名を平仮名(片仮名)で表
記したものを戸籍の記載事項とすることが検討されたものの、いずれもその制度化
は見送られてきた。
こうした中、令和2年12月25日に閣議決定されたデジタル・ガバメント実行
計画において、
「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキング
グループ」報告のとおり、迅速に戸籍における読み仮名(カナ氏名)の法制化を図
ることとされた。
さらに、令和3年5月12日に成立し、同月19日に公布されたデジタル社会の
形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号)附則第7
3条においても、
「政府は、行政機関等に係る申請、届出、処分の通知その他の手続
において、個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを利用して当該個人を識
別できるようにするため、個人の氏名を平仮名又は片仮名で表記したものを戸籍の
記載事項とすることを含め、この法律の公布後一年以内を目途としてその具体的な
方策について検討を加え、
その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。」と
の検討条項が設けられた。
なお、上記デジタル・ガバメント実行計画は令和3年12月24日に廃止され、
同日閣議決定されたデジタル社会の実現に向けた重点計画の中で、
「デジタル社会形
成整備法附則第73条の規定を踏まえ、戸籍法制の見直しに関する法務大臣の諮問
に対する法制審議会からの答申が得られ次第速やかに、戸籍における氏名の読み仮
名の法制化に向けた作業を進め、令和5年(2023 年)の通常国会に関連する法案を
提出した上で、令和6年度(2024 年度)を目途に実現を図る。
」こととされた。
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを法制化する必要性が高まった背景とし
て、1我が国における社会全体のデジタル化の推進、特にベース・レジストリの整
備を推進する方針が定められたこと、2今般の新型コロナウイルス感染症対応を契
機として、行政のデジタル化を更に推進し、デジタル社会における国民サービスを 2拡充する必要性が高まったこと、3難読な名の読み方(読み仮名)が増えているこ
と、4我が国における国際化の進展に伴い、例えば、まず、外来語の名又は外国で
出生したり、父若しくは母が外国人である子などについては音としての名を定め、
次に、その意味又は類似する音に相当する文字を文字で表記された名とする場合な
ど、文字で表記された名よりもその読み方(読み仮名)により強い愛着がある者も
少なくないと考えられることなどが挙げられる。
そして、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの登録・公証が必要な理由は、
次のとおりであると考えられる。
(1) 正確に氏名を呼称することが可能となる場面が多くなることによって、他人か
ら自己の氏名を正確に呼称される権利・利益の保護に資する。
(2) 社会生活において「なまえ」として認識するものの中には、氏名を平仮名(片
仮名)
で表記したものも含まれていると考えられ、
これを登録・公証することは、
まさしく「なまえ」の登録・公証という点からも意義がある。
(3) 情報システムにおける検索及び管理の能率を向上させるとともに、行政手続等
において、公証された氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの情報を利用する
ことによって、手続をより円滑に進めることが可能となり、国民の利便性の向上
に資する。また、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを本人確認事項の一つ
とすることを可能とすることにより、各種手続における不正防止を補完すること
が可能となる。
第1 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍の記載事項化に関する事項
1 戸籍の記載事項への追加
戸籍の記載事項として、戸籍法第13条に次のいずれかの規定を設けるもの
とする。
【甲案】氏名を平仮名で表記したもの
【乙案】氏名を片仮名で表記したもの
(注)氏名を平仮名(片仮名)で表記したものとして戸籍に記載することができる平仮
名又は片仮名の範囲は、平仮名についての表記を定める現代仮名遣い(昭和61年
内閣告示第1号)本文第1(直音、拗音、撥音、促音)又はこれを片仮名に変換し
たもののほか、小書き(
「ぁ」、「ァ」など)及び長音(
「ー」
)など、戸籍の氏名に
用いることができる文字も範囲に含めることが考えられる。
(補足説明)
1 試案の概要
試案は、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍法に定める戸籍の記
載事項とするに当たり、戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」とは別個の
ものと位置付けた上、戸籍の記載事項としての表記を平仮名又は片仮名のいず
れかに定めることとするものである。 32 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの法令上の位置付け
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの戸籍法上の位置付けとしては、戸
籍法第13条第1号に規定する「氏名」の一部と規定する方法又は戸籍法第1
3条第1号に規定する「氏名」とは別個のものとして規定する方法が考えられ
る。
戸籍法第13条第1号に規定する「氏名」の一部と規定する場合には、戸籍
法における「氏名」に関する他の規定及び戸籍法以外の各種法令の規定におい
て、
「氏名」に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが含まれるのか、疑義が
生じないように手当てをする必要があるものと考えられるところ、部会では、
データ項目としての取扱いの観点から戸籍法第13条第1号に規定する
「氏名」
とは別個のものと位置付けるべきであるとの意見があったことや、各種法令の
規定への影響をも考慮して、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍法
第13条第1号に規定する
「氏名」
とは別個のものと位置付けることとされた。
3 戸籍の記載事項としての表記
令和3年5月26日内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室決定において、
戸籍の記載事項は、
「今後ベース・レジストリとして整備のあり方を含め検討す
るもの」として指定されており、戸籍に記載する氏名を平仮名(片仮名)で表
記したものは、いわゆるマスターデータとなることや、データの利用に当たっ
ての利便性の観点などから、戸籍の記載事項としての表記については平仮名又
は片仮名のいずれかに特定すべきものと考えられる。
この点、平仮名と片仮名とでは、長音の場合に平仮名では母音を重ねるのに
対し、片仮名では長音記号(
「ー」
)が用いられることが多いなど、表記の方法
が異なる場合があるものの、令和4年1月7日文化審議会建議「公用文作成の
考え方」の解説において、
「片仮名で表記されている人名、地名、外来語の長音
に平仮名で振り仮名を付ける必要があるような場合には、便宜的に長音符号を
そのまま用いてよい。
」とされている。
なお、常用漢字表(平成22年内閣告示第2号)においては、
「字音は片仮名
で、字訓は平仮名で」表記されているものの、前書きにおいて、
「この表は、科
学、技術、芸術その他の各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするも
のではない。
」とされている。
4 各案の内容
(1) 【甲案】
【甲案】は、戸籍の記載事項としての表記を平仮名と定めるものである。
法務省民事局長通達に定める出生届書等の標準様式には、氏名の「よみか
た」欄が設けられているところ、法務省ホームページに掲載されている出生
届書の記載例において、
「よみかた」欄には、平仮名で記載されている。
したがって、戸籍の届書の「よみかた」欄には、平仮名で記載されている
ことが多いと想定されるところ、
【甲案】は「よみかた」欄の表記と整合する 4場面が多くなると想定される。
(2) 【乙案】
【乙案】は、戸籍の記載事項としての表記を片仮名と定めるものである。
部会では、片仮名表記は、平仮名表記と比較して表音が容易であり、外来
語の表記に違和感を覚えにくいという特徴があるとの指摘や、金融機関にお
いては、データ通信量等の観点から、半角カナが用いられているとの指摘が
あった。
また、我が国における国際化の進展に伴い、今後も増加することが想定さ
れる外来語やそれに類するものを起源とする名を平仮名(片仮名)で表記し
たものについては、片仮名表記の方がなじみやすいとの見方もある。
5 戸籍に記載することができる平仮名又は片仮名の範囲(試案の注)
現代の国語を書き表すための仮名遣いのよりどころとして、
現代仮名遣い(昭和61年内閣告示第1号)及び「現代仮名遣い」の実施について(昭和61年
内閣訓令第1号)が定められている。
「現代仮名遣い」
は、
平仮名による表記の規律を定めたものであることから、
【甲案】を採用する場合には、戸籍に記載することができる平仮名の範囲は、
「現代仮名遣い」本文第1に定められた直音、拗音、撥音、促音とすることと
し、
【乙案】
を採用する場合には、
戸籍に記載することができる片仮名の範囲は、
「現代仮名遣い」本文第1に定められた直音、拗音、撥音、促音を片仮名に変
換したものとすることが考えられる。
また、戸籍先例上、小書き(
「ぁ」、「ァ」など)及び長音「ー」なども戸籍に
記載することができるとされていることから、これらも範囲に含めることが考
えられる。
6 その他
氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名の者も想定して、規定振りにつ
いては、引き続き検討する必要があるものと考えられる。
2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性に関す
る審査について、次のいずれかの案によるものとする。
【甲案】戸籍法には規定を設けず、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法
の一般原則による(注1)。【乙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏
名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする
(注2)。氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣
用により表音され、又は字義との関連性が認められるものとする。
【丙案】権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則によるほか、氏 5名との関連性について、戸籍法に次のような規律を設けるものとする
(注2)。氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、次のいずれかとする。
1 国字の音訓又は慣用により表音されるもの
2 国字の音訓又は慣用により表音されるものでなくても、字義との関
連性が認められるものその他法務省令で定めるものを届け出た(申し
出た)場合における当該表記
(注1)
【甲案】について法令に規定することも考えられる。
(注2)
【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会的にその氏名を平仮名(片仮
名)で表記したものが使用されているという社会的慣用を意味するものである。
(補足説明)
1 試案の概要
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの審査においては、1氏名を平仮名
(片仮名)で表記したもの自体の許容性(氏名を平仮名(片仮名)で表記した
ものを単独で見た際の許容性)
と、
2氏名との関連性
(氏名とそれを平仮名(片仮名)で表記したものを照らし合わせた際の許容性)という2つの観点がある
ものと考えられる。
【甲案】は、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則により審査
することとするものであるが、
【甲案】だけでは、2の観点からの審査に支障を
来すおそれがあるとの見方もある。
そこで、
【乙案】及び【丙案】は、法の一般原則により1の観点から審査する
のに加えて、2の観点からの審査基準を明記するものである。
また、
【丙案】は、
【乙案】を基本としつつ、名乗り訓(名前に特有の訓読み)
や部分音訓(漢字の音訓の一部のみを用いた読み)などを想定し、2の観点か
ら許容される範囲を広げるものである。
2 各案の内容
(1) 【甲案】
【甲案】は、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則により審
査することとするものである。
【甲案】の権利濫用の法理における「権利」については、次のように考え
ることが可能である。試案の第2の1の氏又は名を初めて戸籍に記載される
場合のうち、親権者が子に命名する場面においては、氏名を平仮名(片仮名)
で表記したものについての命名権が考えられる。
【甲案】
の公序良俗の法理による審査については、
商標の例が参考となる。
商標登録を受けることができない商標を定める商標法第4条第7号において、
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」と規定されており、
公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標の例示として、特許庁ウ 6ェブサイトにおいて、
「商標の構成自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう
激若しくは他人に不快な印象を与えるような文字、図形、記号、立体的形状
若しくは色彩又はこれらの結合、音である場合。なお、非道徳的若しくは差
別的又は他人に不快な印象を与えるものであるか否かは、特に、構成する文
字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音に係る歴史
的背景、社会的影響等、多面的な視野から判断する。
」と掲載されている。
上記の例によれば、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについても、
それ自体が非道徳的、卑わい、差別的、きょう激又は他人に不快な印象を与
えるようなものである場合には、
許容されないこととなるものと考えられる。
(2) 【乙案】
旅券法施行規則(平成元年外務省令第11号)第5条第2項においては、
旅券に記載されるローマ字表記の氏名について、
「法第6条第1項第2号の氏
名は、戸籍に記載されている氏名(戸籍に記載される前の者にあっては、法
律上の氏及び親権者が命名した名)について国字の音訓及び慣用により表音
されるところによる。ただし、申請者がその氏名について国字の音訓又は慣
用によらない表音を申し出た場合にあっては、公の機関が発行した書類によ
り当該表音が当該申請者により通常使用されているものであることが確認さ
れ、かつ、外務大臣又は領事官が特に必要であると認めるときはこの限りで
はない。
」と規定されている。
【乙案】は、これを参考として、氏名との関連性の観点による審査基準に
ついて、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、国字の音訓若しくは慣
用により表音され、
又は字義との関連性が認められるものとするものである。
(3) 【丙案】
【丙案】は、
【乙案】を基本としつつ、氏名との関連性の観点から、名乗り
訓や部分音訓などが含まれることを明確にしようとするものであり、上記旅
券法施行規則においても、そのただし書において一定の例外を許容している
ことから、国字の音訓又は慣用によらない場合についても一定の範囲で許容
できる場合を規定するものである。
部会では、
「字義との関連性」について、外国語についても関連性を認める
こととすると、その範囲が不明確になるとの指摘や、字義との関連性の有無
の判断には困難を伴うとの意見があったことなどを踏まえ、
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、国字の音訓又は慣用により表音されるも
のでなくても、字義との関連性が認められるもののほか、その他法務省令で
定めるものにつき、
「届出(申出)
」を要件として許容することとしている。
【丙案】の「法務省令で定めるもの」としては、既に戸籍に記載されてい
る者については、旅券やその他の公簿等に氏名を平仮名(片仮名)で表記し
たもの又はこれらを元にしたローマ字が登録され公証されている場合などが
考えられる。また、名乗り訓や部分音訓によるものが考えられるところ、こ 7れらについては、例えば、
「社会通念上相当であると認められるもの」などと
規定することが考えられる。
3 各案の問題
(1) 【甲案】の問題
【甲案】については、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの自体の許容
性の観点から審査することは可能であるが、権利濫用の法理、公序良俗の法
理等の法の一般原則による審査である以上、氏名との関連性の観点から審査
することは困難であるとも考えられ、審査に支障を来すおそれがあるとの見
方もある。
他方で、部会では、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則に
よる場合であっても、氏名との関連性の観点からの審査も可能ではないかと
の意見があった。
この点、例えば、
「鈴木」という氏について、それを平仮名(片仮名)で表
記したものを「さとう(サトウ)
」とするものなど、相手方に、当該氏名を平
仮名(片仮名)で表記したものが常に誤記されたものと受け取られるものに
ついては、少なくとも、
【甲案】の規律により氏名との関連性の観点から、こ
れを排除することができるか否かについて、引き続き検討する必要があるも
のと考えられる。
(2)【乙案】の問題
【乙案】に関しては、1慣用については、その範囲や判断基準を明確に定
めることは困難である、また、2氏にあっては、慣用にない氏を平仮名(片
仮名)で表記したものや字義と一致しない氏を平仮名(片仮名)で表記した
ものも存在する、3名にあっては、命名文化として、最初に誰かが名を平仮
名(片仮名)で表記したものとして考えた漢字の読みが広まって一般的な名
乗り訓となるところ、仮に新たな名乗り訓となり得るものが認められないこ
とになると、これまでの命名文化・習慣が継承されないこととなるなどの指
摘があった。
また、
【乙案】における「国字の音訓若しくは慣用による表音」及び「字義
との関連性」は、氏名が漢字で表記されていることを前提としているものと
も考えられ、氏又は名の全部又は一部が平仮名又は片仮名の者も想定して、
規定振りについては、引き続き検討する必要があるものと考えられる。
なお、部会では、漢字の中には、反訓読みといわれる反対の意味の読みが
存在するものがあるとの指摘があったところ、反訓読みによるものについて
は、混乱が生じることを防止するため、これを認めるべきでないとの意見が
あった一方で、反訓読みは中国の訓詁学の中で育まれてきたものであり、そ
の一部は漢和辞典にも掲載されているとの指摘があった。
(3) 【甲案】を法令に規定する場合の問題(試案の注1)
試案の(注1)のとおり、
【甲案】については法令に規定することも考えら 8れる。
東京家裁八王子支部平成6年1月31日審判
(判例時報1486号56頁)
において、
「市町村長の命名についての審査権も形式的審査の範囲にとどまり、
その形式のほか内容にも及び、実質的判断までも許容するものとは解されな
いが、例外的には、親権(命名権)の濫用に亙るような場合や社会通念上明
らかに名として不適当と見られるとき、一般の常識から著しく逸脱している
とき、または、名の持つ本来の機能を著しく損なうような場合には、戸籍事
務管掌者(当該市町村長)においてその審査権を発動し、ときには名前の受
理を拒否することも許されると解される。」とされたとおり、
名を初めて戸籍
に記載される場合、戸籍窓口において、許容性について法の一般原則による
審査が行われているものの、
現行法上、
その審査に関する明文の規定はなく、
戸籍法第50条第1項において、
「子の名には、
常用平易な文字を用いなけれ
ばならない。
」と規定されているに過ぎない。そこで、
【甲案】を法令に規定
する場合には、氏名についても同様に、その審査に関する明文の規定を設け
ることが考えられるものの、慎重な検討が必要であると考えられる。
(4) 【乙案】及び【丙案】における「慣用」
(試案の注2)
試案の(注2)のとおり、
【乙案】又は【丙案】における「慣用」は、社会
的にその氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが使用されているという社
会的慣用を意味するものである。具体的には、不特定多数人において、氏又
は名から当該氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを判読することが
可能であること、氏を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、親が戸
籍に記載されている場合には当該親により使用されているものであること、
名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、多数人において当該名を
平仮名(片仮名)で表記したものが使用されていることなどが考えられる。
4 その他
部会では、氏名及び氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが個人の権利・
利益と密接に関わるものであることは明らかであるが、その一方で、氏名は、
社会において個人を識別する機能を有するものであり、
氏名を平仮名
(片仮名)
で表記したものもまた、同様の機能を有するものであることから、氏名を平仮
名(片仮名)で表記したものを定めるに当たっては、社会的な混乱を防止する
ため、一定の制約を受けると考えられるとの意見があった。
また、字義との関連性などを戸籍窓口において審査することは困難であり、
抽象的な規律とせざるを得ないとの意見や、戸籍窓口における混乱を防止する
ため、これまでの取扱いを大幅に変更するのは相当でなく、一般的抽象的な規
律を設け、個別に判断することとするのが適切であるとの意見があった。
さらに、戸籍窓口の事務への影響や不受理件数の増大、ひいては家庭裁判所
の実務への影響も懸念されるとの意見や、戸籍窓口や家庭裁判所において、ど
のような要件をどのようなスタンスで審理・判断することになるのかについて、 9議論を尽くすことが重要だとの意見、特に、
【甲案】における権利濫用や公序良
俗等の概念は抽象的なので、具体的基準として機能するよう、具体的に議論を
尽くすべきであるとの意見もあった。
これらの意見を踏まえると、戸籍窓口である市区町村に対し、氏名を平仮名
(片仮名)で表記したものの審査に関する明確な資料を示す必要があるものと
考えられ、また、家庭裁判所から市区町村に対し、当該審査の運用状況に関す
る調査嘱託等がなされた場合には、上記資料を提供することなどの手続的な手
当についても、検討する必要があるものと考えられる。
第2 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集に関する事項
1 氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る収集
戸籍法第13条第1号に定める氏又は名が初めて戸籍に記載される者に係る
ものについては、
氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍の届書(出生、国籍取得、帰化、氏の変更、名の変更、就籍の届書等)の記載事項とし、
これを戸籍に記載することとする(注)。(注)例えば、
「届出事件の本人の氏又は名を初めて戸籍に記載するときは、届書にその氏
又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載しなければならない。
」というような
規定を戸籍法に設けることが考えられる。
(補足説明)
戸籍の記載は、届出、報告、申請、請求若しくは嘱託、証書若しくは航海日
誌の謄本又は裁判によってするとされているところ
(戸籍法第15条)、実情と
して、届出による記載がほとんどである。
そこで、試案のとおり、氏又は名が初めて戸籍に記載されることとなる戸籍
の届書の記載事項とすることにより、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの
を収集することを提案している。
2 既に戸籍に記載されている者に係る収集
既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者に係るも
のについては、次の案により収集するものとする。
既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者は、一定
の期間内に市区町村長に氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの申出をしな
ければならないものとし、一定期間内に当該申出があった場合には、市区町村
長が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載する
ものとする。
一定期間内に当該申出がない場合には、市区町村長が国字の音訓又は慣用そ
の他法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名(片仮名)で表記した
ものを戸籍に記載するものとする(注)。 10
(注)本人からの届出を促すため、届出義務を課し、正当な理由なく期間内に届出がない
場合には、過料の制裁を科す(戸籍法第137条参照)方法も考えられる。
(補足説明)
1 試案の概要
既に戸籍法第13条第1号に定める氏名が戸籍に記載されている者に係る氏
名を平仮名(片仮名)で表記したものの収集方法として、試案の(注)のとお
り、戸籍に記載されている者に届出義務を課すことにより、できるだけ届出を
促した上で、法定の期間内に届出がない場合には市区町村長が職権で氏名を平
仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載することも考えられるが、部会で
は、法定の期間内に届出がされなかった場合に過料の対象となることを理由と
して、否定的な意見が多数であった。
他方で、短期間にできるだけ多くの氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの
を収集するためには、過料の対象とならない申出事項と整理しつつ、申出をし
なければならないこととすべきであるとの意見もあった。
以上の意見も踏まえ、効果的かつ国民に過度の負担をかけない方法により氏
名を平仮名(片仮名)で表記したものを収集することを目指し、氏名を平仮名
(片仮名)で表記したものについては、申出事項と整理した上で、一定の期間
内に、様々な方法で申出を促した上で、当該期間内に申出がない場合には市区
町村長が職権で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを戸籍に記載する案を
提示している。
2 試案の内容
試案は、戸籍に記載されている者に対し、氏名を平仮名(片仮名)で表記し
たものについての申出(職権記載の申出)の義務を課した上で、一定期間内に
申出があった場合には、市区町村長が当該申出に係る氏名を平仮名(片仮名)
で表記したものを戸籍に記載することとし、他方、当該期間内に当該申出がな
い場合には、市区町村長が法務省令で定める方法により職権で、氏名を平仮名
(片仮名)で表記したものを戸籍に記載するものとするものである。なお、職
権記載の申出に義務を課すことについては、法制上、そのような仕組みとする
ことが可能かどうか、引き続き検討する必要があるものと考えられる。
現在の運用として、例えば、出生や死亡があった場合、戸籍法に規定された
届出人がいる場合には、届出人により出生や死亡の届出がされることになると
ころ、届出人がいない場合や既に亡くなっている場合であって、届出人以外の
者から出生証明書や死亡診断書等の確実な資料が提出された場合には、職権記
載の申出として取り扱い、市区町村長は、戸籍法第24条第1項ただし書によ
り出生事項や死亡事項を戸籍に記載することとなる。
このようにして戸籍に記載する端緒となる職権記載の申出自体については特
段の根拠規定がないものの、
職権記載申出の義務を課すこととするのであれば、 11試案の第1文前半については、
法令に規定する必要があり、
第2文については、
法令に規定する方法又は法令に規定しない方法が考えられる。
試案の第2文を法令に規定しない方法については、以下のとおり整理するこ
とが可能である。すなわち、試案の第1の1により氏名を平仮名(片仮名)で
表記したものが戸籍の記載事項として法令に規定されている以上、戸籍法第2
4条第1項の「戸籍の記載に遺漏がある」状態と評価することができ、氏名を
平仮名(片仮名)で表記したものは、試案の第1の2において【乙案】を採用
する場合には、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との関連性
が認められるものであり、
【丙案】を採用する場合には、申出がない限り、国字
の音訓又は慣用により表音されるものであることから、市区町村長は、同条第
2項の戸籍訂正により、戸籍の氏名の記載を元にその氏名を平仮名(片仮名)
で表記したものを記載することができると考えられる。
3 申出を促す期間
試案の規律によると、一定期間内に氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの
の申出がされなかった場合、申出義務違反の状態になるため、当該期間が適切
なものとなるよう検討する必要がある。
当該期間について、法の施行日から長期間とすることは相当でないものの、
具体的な期間については、
収集方法を踏まえて引き続き検討することとされた。
4 申出を促す方策
試案における一定期間内に多くの申出がされるよう、効果的な収集方法を検
討する必要があり、いわゆるプッシュ型の取組も効果的であると考えられると
ころ、申出を促す方策の一つとして、市区町村が保有する氏名を平仮名(片仮
名)で表記したもの若しくはこれに準ずる情報又は氏名に係る国字の音訓若し
くは慣用により表音されるところにより、申出人となるべき者に戸籍に記載す
る氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについて、まず通知をして申出を促
すことが考えられる。
5 職権記載に当たっての指針
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものは、試案の第1の2において【乙案】
を採用する場合には、国字の音訓若しくは慣用により表音され、又は字義との
関連性が認められるものであり、
【丙案】
を採用する場合には、
申出がない限り、
国字の音訓又は慣用により表音されるものであることから、市区町村長は、戸
籍法第24条第2項の戸籍訂正により、戸籍の氏名の記載を元にその氏名を平
仮名(片仮名)で表記したものを記載することができるが、氏名を平仮名(片
仮名)で表記されるものが複数想定されることも考えられる。そこで、市区町
村長が氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載するに当たっての指針と
なるべきものを定める必要があると考えられる。
また、市区町村長による職権記載に当たり、市区町村が保有する氏名を平仮
名(片仮名)で表記したもの又はこれに準ずる情報を参照することが可能な場 12合には、
「その他法務省令で定める方法」
として法務省令に規定することが考え
られる。もっとも、本籍地市区町村と居住する市区町村が異なる者も存在する
ことから、市区町村が保有する氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの又はこ
れに準ずる情報を参照することが困難な場合についても想定する必要がある。
そのような場合には、試案の第1の2においていずれの案を採用するかにかか
わらず、市区町村長が氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを記載するに当
たっての指針となるべきものを定める必要があると考えられる。
なお、氏を平仮名(片仮名)で表記したものについて、夫婦間で認識が異な
る場合も想定されるところ、市区町村長において、実際に使用されているもの
がいずれであるか判断することができない場合には、戸籍に記載しないことと
することが考えられる。
6 申出期間の経過により職権記載した後の職権訂正の申出
試案の第2文により、市区町村長が職権により氏名を平仮名(片仮名)で表
記したものを戸籍に記載した場合において、当該記載に係る者がこれと異なる
氏名を平仮名(片仮名)で表記したものとするよう、市区町村長に職権訂正の
申出をしたときは、戸籍法第24条第2項の規定により、市区町村長は管轄法
務局長等の許可を得て、職権で当該申出による氏名を平仮名(片仮名)で表記
したものに戸籍訂正することができるとすることが考えられる(管轄法務局長
等の許可を得た戸籍訂正)
。なお、管轄法務局長等の許可は、包括的に承認して
おくことが考えられる。
また、試案の第2文により、市区町村長が職権により氏名を平仮名(片仮名)
で表記したものを戸籍に記載した場合において、
実際の氏名を平仮名
(片仮名)
で表記したものが戸籍に記載されたものと異なるときは、利用される場面は多
くないと想定されるものの、
戸籍法第113条の
「その記載に錯誤があること」
に該当するとして、家庭裁判所の許可を得た上で、戸籍訂正を申請することも
当然可能であり(家庭裁判所の許可を得た戸籍訂正)
、また、氏名を平仮名(片
仮名)で表記したもののみの変更手続によることも可能であると考えられる。
この点、
部会では、
市区町村長が職権により戸籍に記載した氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、戸籍に記載されている者等の申出によるも
のとは異なり、職権による記載であることが分かる形(戸籍記載例を区別する
方法)で管理し、その変更については、試案の第3の1の規律の例外と位置付
けるという方法も考えられるとの意見があった。
第3 氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更に関する事項
1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律
氏又は名の変更に伴わない場合の規律は、次のいずれかの案によるものとす
る。
【甲案】戸籍法に次のような規律を設けるものとする(注1)。 13
1 やむを得ない事由【正当な事由】
(注2)によって氏を平仮名(片仮
名)で表記したものを変更しようとするときは、戸籍の筆頭に記載し
た者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出な
ければならない。
2 正当な事由によって名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更し
ようとする者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければ
ならない。
【乙案】
【甲案】に加え、戸籍法に次のような内容の規律を設けるものとする
(注3)。氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しようとする者
は、成年に達した時から1年以内に届け出る場合その他法務省令で定
める場合に限り、家庭裁判所の許可を得ないで、その旨を届け出るこ
とができる。
(注1)成年に達した者が自ら氏名を平仮名(片仮名)で表記したものを届け出た(申
し出た)後、これを変更しようとする場合には、その変更の許否はより厳しく審査
されるべきものとすることも考えられる。
(注2)変更の要件について、氏の変更(戸籍法第107条)よりも緩和することとし、
「やむを得ない事由」に代えて「正当な事由」とする案も考えられる。
(注3)
【乙案】による変更は、一度に限ることとする。
(補足説明)
1 試案の概要
試案は、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更に関する規律で
ある。
【甲案】は、氏又は名の変更(戸籍法第107条又は第107条の2)と同
様に、家庭裁判所の許可を得た上で、届け出ることとするものであり、
【乙案】
は、
【甲案】を前提としつつ、法務省令で定める場合に限り、家庭裁判所の許可
を不要とし、届け出ることのみで変更することができるとするものである。
部会では、家庭裁判所の許可を不要とすれば、戸籍窓口において変更の要件
を審査することとなることを考えると、家庭裁判所の許可を要することとせざ
るを得ないとの意見を始めとして、家庭裁判所の許可を要することとすべきと
の意見が複数あった。また、氏又は名の変更手続(戸籍法第107条又は第1
07条の2)と異なるものとすると混乱が生じることが懸念されることから、
氏又は名の変更手続と同様の規律にすべきであるとの意見があった。
他方で、家庭裁判所の許可を得るために申立てをすることは、一般的に敷居
が高いと感じられることから、
名を平仮名
(片仮名)
で表記したものについて、
幼少の頃から戸籍の記載とは異なるものを使用していたような場合には、家庭
裁判所の許可を不要とすることも考えられるのではないかとの意見や、氏を平 14仮名(片仮名)で表記したものについて、成年に達したことを契機として、家
庭裁判所の許可を得ずに変更を認めることも考えられるのではないかとの意見
があった。
こうした意見を踏まえ、
【乙案】のとおり、成年に達した時から1年以内に届
け出る場合など、法務省令で定める一定の場合に限り、家庭裁判所の許可を不
要とし、届け出ることのみで変更することができることとする案を提案してい
る。
2 各案における変更の要件
(1) 【甲案】
ア 【甲案】は、氏又は名の変更(戸籍法第107条又は第107条の2)
と同様に、
家庭裁判所の許可を得た上で、
届け出ることとするものである。
【甲案】を採用する場合、その要件については、氏の変更(戸籍法第1
07条)と同様に、
「やむを得ない事由」とすることが考えられる一方で、
これを緩和すべきとの意見もあることから、緩和した要件をブラケットを
付して記載している。
イ 【甲案】を採用した場合において変更が想定される場面については、現
在の氏又は名の変更の取扱いが参考となる。
氏の変更については、戸籍法第107条第1項及び第4項(外国人であ
る父又は母の称している氏に変更しようとするものなどの要件あり)等に
規定されており、
同条第1項において、
「やむを得ない事由によつて氏を変
更しようとするときは、
戸籍の筆頭に記載した者及びその配偶者は、 家庭
裁判所の許可を得て、その旨を届け出なければならない。
」とされている。
このやむを得ない事由に該当する事例としては、著しく珍奇なもの、甚
だしく難解難読のものなど、本人や社会一般に著しい不利不便を生じてい
る場合はこれに当たるであろうし、
その他その氏の継続を強制することが、
社会観念上甚だしく不当と認めるものなども、これを認めてよいと考えら
れている(青木義人=大森政輔全訂戸籍法439頁)。また、やむを得ない事由に関して、婚姻により夫の氏になったものの、
その後離婚し、婚氏続称の届出をして、離婚後15年以上婚氏を称してき
た女性が、婚姻前の氏に変更することの許可を申し立てた事案において、
婚氏が社会的に定着していることを認定しつつ、1離婚時に幼少だった子
が既に成人し、申立人の氏の変更許可を求めることに同意していること、
2申立人は、同居の実両親とともに、9年にわたり、婚姻前の氏を含む屋
号で近所付き合いをしてきたこと等の諸事情を考慮して、やむを得ない事
由があると認められると判断し、申立てを却下した原審判を変更して、氏
の変更を許可した事例(東京高裁平成26年10月2日決定(判例時報2
278号66頁)
)もある。
ウ 戸籍法第107条の2に規定する名の変更については、正当な事由があ 15る場合に家庭裁判所の許可を得て、届け出ることができるとされている。
この正当な事由の有無は一概に言い得ないが、営業上の目的から襲名の
必要があること、同姓同名の者があって社会生活上支障があること、神官
僧侶となり、又はこれをやめるため改名の必要があること、珍奇な名、異
性と紛らわしい名、外国人に紛らわしい名又は難解難読の名で社会生活上
の支障があること、帰化した者で日本風の名に改める必要があること等は
これに該当するであろうが、もとよりこれのみに限定するものではないと
考えられており、また、戸籍上の名でないものを永年通名として使用して
いた場合に、その通名に改めることについては、個々の事案ごとに事情が
異なるので、必ずしも取扱いは一定していないが、相当な事由があるもの
として許可される場合が少なくないとされている(前掲全訂戸籍法442頁)。
また、性同一性障害と診断された戸籍上の性別が男性である申立人が、
男性名から女性名への名の変更許可を申し立てた事案において、正当な事
由があると認められると判断し、原審を取り消して名の変更を許可した事例(大阪高裁令和元年9月18日決定
(判例時報2448号3頁))もある。
さらに、名の変更については、出生届出の際の錯誤あるいは命名が無効
であることを理由として認められる場合がある(戸籍610号75頁)。エ 以上の例と氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの特性に鑑みれば、
氏を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、著しく珍奇なもの、甚
だしく難解なもの、永年使用しているものによるものなどを理由とした場
合が、名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、珍奇なもの、難
解なもの、永年使用しているもの、性自認(性同一性)と一致しないもの
などを理由とした場合などが考えられる。
さらに、これらの届出のうち、実際に氏名を平仮名(片仮名)で表記し
たもののみの変更の届出が想定される場面は、極めて限定されるが、例え
ば、氏を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、1濁点の有無や音
訓の読みが変化したものを永年使用していることのほか、2本人以外が届
け出たものについて、著しく珍奇なもの又は甚だしく難解なものなどが考
えられる。また、名を平仮名(片仮名)で表記したものにあっては、同様
に、1濁点の有無や音訓の読みが変化したものを永年使用していることの
ほか、2本人以外が届け出たものについて、本人にとって珍奇なもの又は
難解なもの、3性自認(性同一性)と一致しないものなどが考えられる。
(2) 【乙案】
【乙案】は、
【甲案】を前提としつつ、法務省令で定める場合に限り、家庭
裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで変更することができるとする
ものであり、届出のみによる場合には、戸籍窓口において氏名を平仮名(片
仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性を審査することとなる。 16なお、民法第791条第4項において、子の氏の変更につき、
「前三項の規
定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の
定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができ
る。
」と規定されていることから、これを参考としているが、部会では、民法
第791条第4項に規定する子の氏の変更の場合には、復する氏が従前の氏
に制限されているところ、本文【乙案】においてはそのような制限がないこ
とを考慮する必要があるとの意見があった。
また、部会では、氏名は、社会において個人を識別する機能を有するもの
であり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものもまた、同様の機能を有す
るものであるとの指摘があり、こうした観点から、家庭裁判所による審査を
経ることなく、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変更を認めること
には否定的であるとの意見が複数あった。
【乙案】の「法務省令で定める場合」としては、
(補足説明)2(1)エの届
出が想定される場面、具体的には、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に
関する法律第3条第1項の規定による性別の取扱いの変更の審判を受けたと
きなどを法務省令に規定することが考えられる。
3 【甲案】1における届出人
戸籍法第107条第1項において、
氏の変更の届出人は、
「戸籍の筆頭に記載
した者及びその配偶者」とされていることから、
【甲案】1においても、これと
同様にしている。
なお、筆頭者及びその配偶者以外の者が戸籍法第107条第1項による氏の
変更の届出をすることは許されず、筆頭者及びその配偶者以外の同籍者につい
ては、分籍の上、氏の変更の届出をする必要があるとされている。
4 その他
部会では、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもののみの変更については、
自分自身が手続に参加する形で氏名を平仮名(片仮名)で表記したものが登録
された場合には、その変更はより慎重であるべきであるとの意見があった。
この点、
【甲案】を採用する場合には、変更の要件を、やむを得ない事由又は
正当な事由よりも厳しくすることが考えられるのではないかとの意見があった
ほか、自分自身が手続に参加する形で氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの
が登録されたという事実を、家庭裁判所におけるやむを得ない事由又は正当な
事由に関する審査の際に、一つの事情として考慮することも考えられる。
2 氏又は名の変更に伴う場合の規律
氏又は名の変更に伴う場合の規律は、次の案によるものとする。
戸籍法第107条第1項又は第107条の2の規定により氏又は名を変更し
ようとするときは、その平仮名(片仮名)で表記したものとともに、家庭裁判
所の許可を得て、その旨を届け出なければならないこととする。 17(補足説明)
1 試案の概要
試案は、氏又は名の変更に伴う氏名を平仮名(片仮名)で表記したものの変
更に関する規律であり、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについても、
氏名とともに家庭裁判所の許可を要することとするものである。
なお、氏名を平仮名(片仮名)で表記したものについては、家庭裁判所の許
可を不要とし、氏又は名の変更の許可を得た後、氏又は名の変更の届出時にこ
れらを平仮名(片仮名)で表記したものの届出をすれば足りるとすることも考
えられる。この場合には、戸籍窓口において、第1の2により氏又は名を平仮
名(片仮名)で表記したものの許容性及び氏名との関連性が審査され、相当で
ないものであれば、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの届出は受理
されないこととなる。
この点、部会では、戸籍窓口において、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記
したものの届出が受理されない場合には、再度、氏又は名を平仮名(片仮名)
で表記したものの変更について、家庭裁判所の許可を得る必要があることなど
を理由に、氏又は名とこれらを平仮名(片仮名)で表記したものについて、併
せて家庭裁判所の許可を得ることとするのが相当であるとされた。
2 試案の内容
試案の規律によると、氏名とともにこれらを平仮名(片仮名)で表記したも
のについても家庭裁判所の許可を得て、その旨を届け出る必要があり、家庭裁
判所において、第1の2により氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものの
許容性及び氏名との関連性が審査される(下図参照)。この場合、家庭裁判所において、1氏又は名について、やむを得ない事由又
は正当な事由が認められるものの、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したも
のについて、第1の2により相当でないものと認定された場合には、氏又は名
の変更を含めて、変更の許可がされず、申立てが却下されることになるものと
考えられる。
また、2氏又は名について、やむを得ない事由又は正当な事由が認められな
い場合には、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものについての許容性を
判断するまでもなく、変更の許可がされず、申立てが却下されることになるも
のと考えられる。
なお、部会では、家庭裁判所において、字義との関連性を審査することは困
難であることから、家庭裁判所から市区町村に対し、当該審査の運用状況に関
する調査嘱託等がなされた場合には、氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの
の審査に関する資料を提供することなどの手続的な手当についても、検討する
必要があるとの意見があった。 18(図)
3 氏又は名を変更し氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しない
場合
部会では、氏又は名を変更しつつ、これらを平仮名(片仮名)で表記したも
のを変更しないとするニーズもあるのではないかとの意見があった。
この場合、試案の規律によれば、氏又は名の変更と併せて、従前の氏又は名
を平仮名(片仮名)で表記したものについて、家庭裁判所の許可を得て届け出
ることとなるところ、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記したものを変更しな
い場合であっても、家庭裁判所の許可を必要とする理由について整理する必要
があるが、氏又は名を変更する場合には、氏又は名を平仮名(片仮名)で表記
したものもそれに伴うものであるから、結果として同じ読み仮名(読み方)で
あっても、潜在的には変更を伴うものであり、許容性及び氏名との関連性を審
査するものと考えられる。
以 上

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