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短答式試験問題集[刑法]
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[刑法]
〔第1問〕(配点:3)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものを2個選びなさ
い。(解答欄は、[No.1]、[No.2]順不同)
1.甲は、麻薬であるヘロインの粉末を覚醒剤と誤信して営利目的で輸入した。ヘロインの営利
目的輸入罪と覚醒剤の営利目的輸入罪の法定刑は同一であった。この場合、甲には、覚醒剤の
営利目的輸入罪が成立する。
2.暴力団組員甲は、配下の組員乙に対し、抗争状態にある暴力団組員Aとの間でもめごとが起
きた場合にはAを殺害してよいが、実際にAを殺害するかは乙の判断に任せる旨伝えて拳銃を
渡し、乙も了承したところ、乙は、Aともめたことから、殺意をもってAを射殺した。甲が乙
とAの間でもめごとが起きることがあり得ると認識していた場合、甲には、殺人罪の故意が認
められる。
3.甲は、殺意をもってAに向けて拳銃を発射したところ、その弾丸がAを貫通し、その背後に
いて甲がその存在を認識していなかったBにも命中し、その結果、Aが死亡し、Bが重傷を負
った。この場合、甲には、Aに対する殺人罪が成立するが、Bに対する殺人未遂罪は成立しな
い。
4.甲は、乙にAへの暴行を教唆し、乙もその旨決意し、Aに暴行を加えて死亡させたが、甲は
同教唆の時点でAが死亡する可能性を予見していなかった。この場合、甲には、傷害致死罪の
教唆犯が成立する。
5.甲は、殺意をもってAの首を絞めたところ、Aが動かなくなったので、Aが死亡したものと
誤信し、犯行の発覚を防ぐ目的で、Aを砂浜に運んで放置し、その結果、Aが砂を吸引して窒
息死した。この場合、甲には、殺人罪が成立する。
〔第2問〕(配点:2)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。(解答欄
は、[No.3])
1.甲は、乙が熟睡していることに乗じてわいせつな行為をしたが、これに気付いて覚醒した乙
から抵抗され、わいせつな行為を行う意思を喪失した後、逃走するため、乙に暴行を加えて負
傷させた。この場合、甲に準強制わいせつ致傷罪は成立せず、準強制わいせつ罪と傷害罪が成
立するにとどまる。
2.甲は、自己の性欲を刺激興奮させ又は満足させるという性的意図を有さず、専ら乙を侮辱し
て報復するため、乙を脅迫して裸にして写真撮影した。この場合、甲に強制わいせつ罪が成立
することはない。
3.甲は、自らが管理する動画配信サイトにわいせつな動画のデータファイルをアップロードし、
同サイトを利用した不特定の顧客によるダウンロード操作に応じて、同ファイルを当該顧客の
パーソナルコンピュータに自動的に送信させ、同コンピュータに記録、保存させた。この場合、
甲にわいせつ電磁的記録等送信頒布罪が成立する。
4.甲は、わいせつな内容を含む書籍を販売したが、その目的は作品の文芸的・思想的価値を社
会に主張することであった。この場合、甲にわいせつ文書頒布罪が成立することはない。
5.甲は、日本国外で販売する目的で、日本国内において、わいせつな内容を含む書籍を所持し
た。この場合、甲にわいせつ文書有償頒布目的所持罪が成立する。
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〔第3問〕(配点:4)
詐欺罪の実行の着手に関する次の【事例】及び【判旨】についての後記アからオまでの各【記
述】を検討し、正しい場合には1を、誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は、アからオ
の順に[No.4]から[No.8])
【事 例】
甲及び乙は、既に100万円の詐欺被害に遭っていたVに対し、警察官に成り済まして電話し、
犯人検挙及び被害回復のために必要と誤信させ、Vに預金を払い戻させた上、警察官に成り済ま
した甲がV宅に赴き、捜査に必要であるから現金を預かるとのうそを言ってVから現金をだまし
取ることを計画した(以下「本件計画」という。)。その上で、乙は、本件計画に従ってVに電
話し、捜査に必要であるから預金を全部払い戻してほしいとうそを言い、これを信じたVが預金
を払い戻して帰宅すると、その約1時間後に再び乙がVに電話し、間もなく警察官がV宅に行く
とうそを言った。しかし、甲は、V宅に到着する直前、警察官に逮捕された。
【判 旨】
1回目と2回目の電話における各うそ(以下「本件うそ」という。)を述べた行為は、本件計
画の一環として行われたものであり、本件うその内容は、本件計画上、Vが現金を交付するか否
かを判断する前提となるよう予定された事項に係る重要なものであった。そして、このように段
階を踏んでうそを重ねながら現金を交付させるための犯行計画の下において述べられた本件うそ
には、Vに現金の交付を求める行為に直接つながるうそが含まれており、既に100万円の詐欺
被害に遭っていたVに対し、本件うそを真実であると誤信させることは、Vにおいて、間もなく
V宅を訪問しようとしていた甲の求めに応じて即座に現金を交付してしまう危険性を著しく高め
るものといえ、本件うそを一連のものとしてVに対して述べた段階において、Vに現金の交付を
求める文言を述べていないとしても、詐欺罪の実行の着手があったと認められる。
【記 述】
ア.【判旨】は、犯罪の実行行為自体ではなく、実行行為に密接で、被害を生じさせる客観的な
危険性が認められる行為を開始することによっても未遂罪が成立し得るとする立場と矛盾しな
い。[No.4]
イ.【判旨】は、本件うそとその後に予定されたうそを述べる行為全体を詐欺罪の構成要件であ
る「人を欺く行為」と解した上で、一連の実行行為の開始があることから未遂犯の成立を認め
る立場と矛盾する。[No.5]
ウ.【判旨】は、実行の着手を判断する際に行為者の犯行計画を考慮する立場を前提としている。
[No.6]
エ.【判旨】は、1回目の電話では実行の着手を認めず、2回目の電話で実行の着手が認められ
ると明示している。[No.7]
オ.【判旨】は、詐欺罪の実行の着手が認められるためには必ずしも財物交付要求行為が必要な
いとの立場を前提としている。[No.8]
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〔第4問〕(配点:3)
信用及び業務に対する罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、
正しいものを2個選びなさい。(解答欄は、[No.9]、[No.10]順不同)
1.人の業務に使用する電子計算機に対して不正な指令を入力した場合、その指令の内容が人の
業務を妨害するおそれのあるものであれば、当該電子計算機の動作に影響を及ぼしていなくて
も、電子計算機損壊等業務妨害罪の既遂犯が成立し得る。
2.威力業務妨害罪における「威力」は、客観的にみて被害者の自由意思を制圧するに足りる勢
力であればよく、現実に被害者が自由意思を制圧されたことを要しない。
3.偽計業務妨害罪における「偽計」とは、人を欺罔し、あるいは人の錯誤又は不知を利用する
ことをいい、電話料金の支払を免れるための機器を電話回線に取り付けて課金装置の作動を不
能にする行為は、これに該当しない。
4.信用毀損罪は、経済的な側面における人の社会的な評価を保護するものであり、同罪におけ
る「信用」には、人の支払能力又は支払意思に対する社会的な信頼だけでなく、販売される商
品の品質に対する社会的な信頼も含まれる。
5.威力業務妨害罪における「威力」は、被害者の面前で行使される必要があるので、被害者が
執務のために日頃使っている机の引き出しに猫の死骸をひそかに入れた場合、後に被害者がこ
れを発見するに至ったとしても、威力業務妨害罪は成立しない。
〔第5問〕(配点:2)
次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものの個数を後記1
から5までの中から選びなさい。(解答欄は、[No.11])
ア.甲は、乙(10歳)の性器を指で触るわいせつな行為を行った。この場合、乙が同意してい
たのであれば、甲に強制わいせつ罪は成立しない。
イ.甲は、強制わいせつの目的を隠し、家まで送ると偽って乙を自動車に乗せて走り出し、途中
でその目的に気付いた乙が降りたいと言ったにもかかわらず、同車を走行させ続けた。この場
合、乙は、乗車時点では乗車に同意しているから、乙が降りたいと言った時点以降についての
み、甲に監禁罪が成立する。
ウ.甲は、乙と保険金詐欺を共謀し、過失による自動車事故を装い、甲運転の自動車を乙運転の
自動車に故意に追突させて、乙に傷害を負わせた。この場合、乙が傷害を負わされることに同
意している以上、甲に傷害罪は成立しない。
エ.甲は、刑務所に服役したいと考えている乙と口裏を合わせ、乙の同意を得て、司法警察員に
対し、乙に現金を窃取された旨の虚偽の被害届を提出した。この場合、乙の同意がある以上、
甲に虚偽告訴罪は成立しない。
オ.甲は、現金自動預払機を利用する客のキャッシュカードの暗証番号を盗撮する機器を設置す
る目的で、行員が常駐しない銀行出張所内に立ち入った。この場合、甲による立入りの外観が
一般の利用客のそれと異なることがなければ、甲に建造物侵入罪は成立しない。
1.1個 2.2個 3.3個 4.4個 5.5個
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〔第6問〕(配点:2)
賄賂罪の保護法益について、学生A及びBが次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の
1から5までの( )内に後記アからクまでの【語句群】から適切な語句を入れた場合、正しいも
のの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.12])
【会 話】
学生A.私は、賄賂罪の保護法益について、公務員の職務の公正とこれに対する社会一般の信頼
であると考えます。そして、賄賂罪の基本類型は、(1)と考えます。(1)において、
現実に公務が賄賂によって左右されていない場合も処罰の対象とされるのは、公務が賄賂
によって左右されたのではないかという不信感を国民に抱かせるからです。
学生B.判例と(2)立場に立つのですね。しかし、「社会一般の信頼」という概念は不明確で
はありませんか。私は、端的に、公務員の職務の公正こそが賄賂罪の保護法益であると考
えます。私の立場からは、(3)が賄賂罪の基本類型と考えられます。
学生A.その場合、(1)は、どのように位置付けられるのですか。
学生B.(4)を根拠に処罰する危険犯と位置付けることになります。
学生A.Bさんの立場からは、(5)の職務行為に関して賄賂を収受等した場合にも賄賂罪が成
立することを説明するのは困難ではありませんか。
学生B.職務遂行時における賄賂への期待に基づく職務への影響の可能性を理由に可罰性を肯定
することは可能であると考えます。
【語句群】
ア.単純収賄罪 イ.加重収賄罪 ウ.同じ エ.異なる
オ.不正な職務行為が行われる危険
カ.職務の公正に対する信頼が害される危険
キ.過去 ク.将来
1.1ア 2ウ 3イ 4オ 5キ
2.1ア 2エ 3イ 4カ 5キ
3.1ア 2ウ 3イ 4オ 5ク
4.1イ 2ウ 3ア 4カ 5ク
5.1イ 2エ 3ア 4カ 5ク
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〔第7問〕(配点:2)
次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれか。(解答欄
は、[No.13])
1.甲は、友人乙がV所有の自動車(以下「V車」という。)の車体をバットで叩いて損壊して
いるのを発見し、自分も加勢しようと考え、乙に気付かれないように物陰から石を投げ付け、
V車の窓ガラスを割った。乙は、その直後に周囲を見回し、物陰にいた甲の姿を見て、甲がV
車に石を投げ付けたと認識したが、それ以降は、甲及び乙のいずれも、V車の損壊行為を行わ
なかった。この場合、甲には、器物損壊罪の共同正犯が成立する。
2.甲と乙は、友人丙がVから暴行を受けているのを発見し、丙を助けるために意思を通じ、正
当防衛としてVに暴行を加えた。これにより、攻撃の意思を失い攻撃をやめたVが現場から逃
走したため、甲は、暴行をやめたが、乙は、Vを追いかけて更にVに暴行を加えて傷害を負わ
せた。その間、甲は、乙の行動に驚き、乙が暴行を加えるのを傍観していた。この場合、甲に
は、傷害罪の共同正犯が成立する。
3.甲と乙は、Vに対する強盗を共謀し、乙が先にV方に入り、甲のための侵入口を確保したが、
現場付近に人が集まってきたことに気付いた甲は、乙に電話をかけ、「もう犯行をやめた方が
よい。先に帰る。」と一方的に告げて、その場から立ち去った。その後、乙は、Vから現金を
強取し、その際、Vに傷害を負わせた。この場合、甲には、住居侵入罪及び強盗致傷罪の共同
正犯が成立する。
4.甲と乙は、Vに対する強盗を共謀し、甲がVに包丁を示して、「金を出せ。」と要求したが、
甲は、Vに憐憫の情を抱き、Vに「金は要らない。」と言うとともに、乙にも「お前も強盗な
んかやめておけ。」と言ってその場を立ち去った。その後もVは甲の脅迫によって反抗抑圧さ
れ続けており、乙は、その状態を利用してVから現金を強取した。この場合、甲には、中止犯
が成立する。
5.甲と乙は、Vの殺害を共謀し、甲がVをナイフで切り付けて傷害を負わせたが、甲は、Vに
憐憫の情を抱き、犯行をやめようと決意した。甲は、更にVを切り付けようとする乙を羽交い
締めにし、Vがその隙に逃走したため、乙は、犯行を継続できず、Vは、死亡するに至らなか
った。この場合、甲と乙には、いずれも中止犯が成立する。
〔第8問〕(配点:2)
責任能力に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものの
組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.14])
ア.心神喪失とは、精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力又はこの弁識に従って行動
する能力のない状態を指すと解されているところ、ここにいう精神の障害とは、飲酒による酩
酊等、一時的な精神状態の異常も含まれる。
イ.13歳の少年の行為は、罰しないことが原則であるが、故意の犯罪行為により被害者を死亡
させた場合、事案の重大性等の事情を考慮し、相当と認めるときは刑罰を科すことができる。
ウ.自ら日常的・継続的に覚醒剤を使用した影響により、継続的な精神障害が生じ、心神耗弱状
態で傷害の犯行に及んだ場合には、自己の先行行為によって心神耗弱状態を招いたものである
から、刑法第39条第2項を適用する余地はない。
エ.刑法第39条第2項は刑の任意的減軽を定めているから、犯行時に心神耗弱の状態にあった
としても、その刑を減軽しないことができる。
オ.精神障害を有する同一人について、Aという罪に当たる行為については責任能力があるが、
Bという罪に当たる別の行為については責任能力がないという事態は観念し得る。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ
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〔第9問〕(配点:3)
毀棄及び隠匿の罪の「毀棄」、「損壊」及び「傷害」の意義に関する次の各【見解】に従って後
記1から5までの各【記述】を検討した場合、正しいものを2個選びなさい。(解答欄は、[No.
15]、[No.16]順不同)
【見 解】
A.対象物の効用を害する一切の行為をいう。
B.対象物の全部又は一部を物質的に破壊、毀損してその効用を害する行為をいう。
【記 述】
1.いずれの見解によっても、器物損壊罪の客体は、公用文書等毀棄罪、私用文書等毀棄罪、建
造物等損壊罪の客体以外の動産に限られ、不動産は含まれないと解することになる。
2.Aの見解によれば、他人が観賞用に鳥籠内で飼っている小鳥を鳥籠から屋外に逃がした場合、
器物損壊罪が成立することになる。
3.Aの見解によれば、公衆トイレの外壁に美観を著しく損ねる落書きをし、そのままでの使用
継続を困難にさせ、原状回復に相当の費用を生じさせた場合、建造物損壊罪が成立することに
なる。
4.Bの見解によれば、裁判所から隠匿目的で競売記録を持ち出し自宅で保管した場合、公用文
書毀棄罪が成立することになる。
5.Bの見解によれば、信書隠匿罪は、器物損壊罪の構成要件にも当たる行為を特に軽く処罰す
る罪と解することになる。
〔第10問〕(配点:2)
略取誘拐罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいもの
はどれか。(解答欄は、[No.17])
1.身の代金目的略取誘拐罪にいう「安否を憂慮する者」は、被拐取者の安否を親身になって憂
慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係が被拐取者との間にある者に限らず、同情か
ら被拐取者の安否を気遣う第三者も含む。
2.未成年者誘拐罪の手段である欺罔は、被誘拐者に対して用いられる必要があり、監護者に対
して用いられる場合を含まない。
3.刑法第228条の2(解放による刑の減軽)が適用されるためには、被拐取者を、「安全な
場所」に解放する必要があるところ、「安全」とは、被拐取者が救出されるまでの間におよそ
危険が生じないことを意味するから、漠然とした抽象的な危険や不安感ないし危惧感を伴うの
であれば、「安全な場所」とはいえない。
4.自ら移動する意思も能力も有していない生後間もない嬰児であっても、未成年者略取誘拐罪
の客体に当たる。
5.未成年者略取罪の保護法益には親権者の監護権も含まれるので、親権者が、他の共同親権者
の監護下にある未成年の子を略取する行為については、未成年者略取罪が成立することはない。
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〔第11問〕(配点:2)
共犯に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものはどれ
か。(解答欄は、[No.18])
1.刑法第60条における「実行」とは、基本的構成要件の実現に向けた行為に限定され、予備
行為はこれに含まれないから、予備罪の共同正犯は成立しない。
2.実行共同正犯の成立に必要な各関与者間の意思連絡は、明示的なものだけではなく黙示的な
ものも含むが、共謀共同正犯においては、明示的な意思連絡が必要であり、黙示的な意思連絡
では足りない。
3.ある犯罪が成立するについて当然予想され、その成立のために欠くことができない関与行為
について、これを正犯として処罰する規定がない場合であっても、関与を受けた側の可罰的な
行為の教唆又は幇助として処罰されることは当然である。
4.既に特定の犯罪の実行を確定的に決意している者に対してその実行を勧め、これによってそ
の者の決意が強固になった場合、幇助犯は成立し得るが、教唆犯は成立しない。
5.犯行に必要な用具を第三者を介して正犯に提供した場合、正犯の犯行を間接的に幇助したこ
とになるが、間接教唆と異なり、間接幇助を処罰する明文の規定が存在しないため、幇助犯は
成立しない。
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〔第12問〕(配点:2)
学生A、B及びCは、次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の1から5までの( )
内から適切な語句を選んだ場合、正しいものの組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答
欄は、[No.19])
【会 話】
学生A.状態犯とは、法益侵害の発生と同時に犯罪が終了するが、その後も法益侵害状態が残存
する犯罪です。傷害罪がその典型です。これに対し、継続犯とは、法益侵害が継続してい
る間は犯罪の継続が認められる犯罪であり、監禁罪や、1(a.保護責任者不保護罪・b.
窃盗罪)がこれに当たると考えられます。
学生B.住居侵入罪を状態犯と解すべきか、継続犯と解すべきかは争いがあります。2(c.状
態犯・d.継続犯)と解する立場は、反対説によると、侵入後の現場滞留についても住居
侵入罪が成立し、不退去罪が規定されている意味が失われてしまうと同説を批判します。
学生C.私は、継続犯は、3(e.構成要件該当行為・f.構成要件的結果)が継続する犯罪で
あると考えます。私の見解からは、被害者の監禁中に監禁罪の法定刑を引き上げる新法が
施行された場合、それ以降の監禁については、4(g.新法・h.旧法)が適用されるこ
とになります。
学生A.私は、Cさんの継続犯に関する理解には賛成できません。例えば、行為者が被害者を監
禁した後に眠り込んだ場合であっても犯罪は継続しますが、行為者が眠り込んだ後には意
思に基づく身体の動静がない以上、Cさんの見解のように理解するのは困難だと考えるか
らです。
学生B.ところで、状態犯についても、犯罪の終了時期と既遂時期の関係について考える必要が
あります。私は、傷害罪については、両者は、5(i.常に一致する・j.一致するとは
限らない)と考えます。被害者が一旦負傷した後、その傷害が悪化し続けることがあるか
らです。
1.1a 2c 3f
2.1a 2d 5i
3.1b 3e 4h
4.2c 4g 5i
5.3e 4g 5j
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〔第13問〕(配点:2)
次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものの組合せは、後
記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.20])
ア.甲は、Aから金銭を借り入れるに際し、借入金を返済する意思も能力もないのに、知人Bに
対し、「借入金は必ず自分で返済する。Bには迷惑をかけないので、保証人になってほしい。」
とうそを言い、その旨Bを誤信させ、Aに差し入れる予定の甲を借主とする金銭消費貸借契約
書を閲読させ、その保証人欄に署名押印させた。この場合、甲には、有印私文書偽造罪が成立
する。
イ.甲は、窃取したA名義のクレジットカードの番号等を冒用し、インターネット上の決済手段
として使用できる電子マネーを不正入手しようと考え、Aの氏名、同番号等の情報をインター
ネットを介してクレジットカード決済代行業者のコンピュータに送信し、Aが上記電子マネー
10万円分を購入した旨の電磁的記録を作出し、これによってインターネット上で同電子マネ
ーを利用することを可能とした。この場合、甲には、支払用カード電磁的記録不正作出罪が成
立する。
ウ.県立高校を中途退学した甲は、母親Aに見せて安心させる目的で、偽造された同高校校長B
名義の甲の卒業証書を真正なものとしてAに提示した。この場合、甲には、偽造有印公文書行
使罪が成立する。
エ.指名手配され逃走中の甲は、本名を隠してA会社に正社員として就職しようと考え、同社に
提出する目的で、履歴書用紙の氏名欄にBという架空の氏名を記載し、その横にBの姓を刻し
た印鑑を押印した上、真実と異なる生年月日、住所及び経歴を記載して履歴書を作成したが、
その顔写真欄には甲自身の顔写真を貼付していた。この場合、甲には、有印私文書偽造罪が成
立する。
オ.甲は、Aから金銭を借り入れるに際し、数日前にBが死亡したことを知りながら、Aに差し
入れる予定の金銭消費貸借契約書の借受人欄に、Bの氏名を冒用して署名押印し、一般人をし
てBが生存中に作成したと誤信させるおそれが十分に認められる文書を作成した。この場合、
甲には、有印私文書偽造罪が成立する。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ
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〔第14問〕(配点:2)
過失に関する次の各【見解】についての後記アからオまでの各【記述】のうち、誤っているもの
の組合せは、後記1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.21])
【見 解】
A説:過失の本質は、結果の発生を予見することができたのに、精神を緊張させずにこれを予見
しなかったことにある。
B説:過失の本質は、社会生活上必要な注意を怠り、結果を回避するための適切な措置を採らな
かったことにあり、その前提として、構成要件的結果及び因果経過の基本部分に対する具体
的な予見可能性が必要になる。
C説:過失の本質は、B説と同様であるが、結果に対する具体的な予見可能性を必要とせず、一
般人に対して何らかの結果回避措置を命じるのが合理的であるといえる程度の危惧感があれ
ば足りる。
【記 述】
ア.A説からは、いわゆる信頼の原則を過失犯に適用する余地はない。
イ.A説は、故意犯と過失犯は客観面が共通であり、両者は主観面において区別されるとの見解
と親和的である。
ウ.B説に対しては、結果回避のための適切な措置と行政取締法規が定める義務とを区別するの
は困難であり、行政取締法規の義務違反が刑法上の過失になってしまうとの批判が可能である。
エ.B説に対しては、自動車運転はそれ自体危険な行為であり、いかなる運転行為からも死傷結
果が生じ得る以上、容易に予見可能性が認められ、過失犯の成立範囲が広くなりすぎるとの批
判が可能である。
オ.C説に対しては、構成要件該当事実に関する具体的な予見可能性がないにもかかわらず、漠
然とした危惧感だけで過失責任を追及することは責任主義に反するとの批判が可能である。
1.ア ウ 2.ア エ 3.イ ウ 4.イ オ 5.エ オ
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〔第15問〕(配点:4)
放火罪に関する次の各【見解】についての後記アからオまでの各【記述】を検討し、正しい場合
には1を、誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は、アからオの順に[No.22]から[No.26])【見 解】
A.放火罪にいう「焼損」とは、火が媒介物を離れて目的物に燃え移り、目的物が独立して燃焼を継
続し得るに至った状態を意味する。
B.放火罪にいう「焼損」とは、目的物の重要部分が燃焼し、本来の効用を喪失した状態を意味する。
【記 述】
ア.Aの見解に対しては、Bの見解から、放火罪が公共危険罪であることを軽視しているとの批判が
可能である。[No.22]
イ.Aの見解に対しては、Bの見解よりも中止犯が成立する範囲が狭くなるため、刑事政策的に望ま
しくないとの批判が可能である。[No.23]
ウ.Bの見解に対しては、刑法第109条第2項、第110条第2項が自己所有物に対する放火を処
罰していることから、放火罪の既遂時期をその財産犯的側面から決するのは妥当でないとの批判が
可能である。[No.24]
エ.Bの見解に対しては、客体が建造物の場合、全焼又は半焼に至らない限り放火罪が既遂に達しな
い可能性があり、その場合には既遂時期が遅きに失するとの批判が可能である。[No.25]
オ.A及びBのいずれの見解に対しても、不燃性の建造物に放火した場合、内装の融解により有毒ガ
スが発生し、人の生命・身体に危険を生じさせたとしても、建造物自体が燃焼しない限り放火罪の
既遂犯が成立しないため、処罰範囲が狭すぎるとの批判が可能である。[No.26]
〔第16問〕(配点:2)
違法性に関する次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものの個
数を後記1から5までの中から選びなさい。(解答欄は、[No.27])
ア.私人が現行犯人を逮捕しようとする場合、犯人から抵抗を受けたときは、その際の状況から
みて社会通念上逮捕のために必要かつ相当と認められる限度内の実力を行使したことで犯人に
傷害を負わせたとしても、法令による行為に当たるから、傷害罪が成立することはない。
イ.勤労者の争議行為に際し、人の看守する建造物に看守者の意思に反して侵入した場合、法令
による行為に当たるから、建造物侵入罪が成立することはない。
ウ.虚偽告訴の罪で起訴された者が、人違いで告訴したと気付きながら、公判廷において、公然
と虚偽の事実を摘示して被告訴人の名誉を毀損した場合、被告人としての防御権の行使に当た
るから、名誉毀損罪が成立することはない。
エ.商人が、自己と通謀して客を装い他の客の購買心をそそる者(いわゆる「さくら」)を使っ
て、商品の効用が極めて大きく世評も売れ行きも良いように見せかけて客を欺罔し、これを信
じた客に効用の乏しい商品を売り付けた場合、正当な業務による行為に当たるから、詐欺罪が
成立することはない。
オ.宗教上の加持祈祷の行として他人の生命、身体に危害を及ぼす有形力を行使し、その結果、
その他人を死亡させた場合、正当な業務による行為に当たるから、傷害致死罪が成立すること
はない。
1.1個 2.2個 3.3個 4.4個 5.5個
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〔第17問〕(配点:3)
罪数に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、誤っているものを
2個選びなさい。(解答欄は、[No.28]、[No.29]順不同)
1.甲は、Aから財物を詐取した上で当該財物の返還を免れるためにAを殺害することを計画し、
計画どおりにAから財物を詐取し、その後、殺意をもってAの胸部をナイフで刺して殺害し、
これにより、財物の返還を免れるという財産上不法の利益を得た。甲には、詐欺罪と強盗殺人
罪が成立し、これらは包括一罪となる。
2.暴力団幹部甲は、配下の組員数名とともに、Aの身体に共同して危害を加える目的で、日本
刀数本を準備してA方前に集合し、その直後、外に出てきたAの顔面を手拳で数回殴打する暴
行を加えた。甲には、凶器準備集合罪と暴行罪が成立し、これらは併合罪となる。
3.甲は、業務として猟銃を用いた狩猟に従事していた際、Aを熊と誤認して発砲し、Aに傷害
を負わせ、その直後にAを誤射したことに気付いたが、Aを殺害して逃走しようと決意し、殺
意をもってAの胸部に向けて発砲し、Aを即死させた。甲には、業務上過失傷害罪と殺人罪が
成立し、これらは包括一罪となる。
4.甲は、A銀行が発行したB名義のキャッシュカード1枚をBから窃取した上、これを利用し
てA銀行の現金自動預払機から預金を不正に払い戻した。甲には、2個の窃盗罪が成立し、こ
れらは併合罪となる。
5.甲は、対立する不良グループのメンバーA及びBを襲撃することを計画し、路上で発見した
Aをバットで1回殴打した直後、そばにいたBを同バットで1回殴打し、両名に傷害を負わせ
た。甲には、2個の傷害罪が成立し、これらは包括一罪となる。
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〔第18問〕(配点:2)
死者の占有に関して、教授及び学生が次の【会話】のとおり議論している。【会話】中の1から
6までの( )内に後記【語句群】から適切な語句を入れた場合、正しいものの組合せは、後記1
から5までのうちのどれか。なお、1から6までの( )内にはそれぞれ異なる語句が入る。(解
答欄は、[No.30])
【会 話】
教授.死者が生前身に付けていた財物を領得した場合の罪責については、見解の対立があるね。
まず、甲がAを殺害した直後、その殺害行為とは無関係の乙が、Aが身に付けていた財布を
領得した場合の乙の罪責は、判例の立場に従うとどうなるかな。
学生.(1)ことになります。
教授.そうだね。では次に、丙が当初から財物を領得する意思でBを殺害し、Bの死亡直後に財
布を領得した場合の罪責は、判例の立場に従うとどうなるかな。
学生.その場合には(2)ことになります。
教授.そうだね。この場合には、殺害行為と領得行為を一体として評価することができるね。そ
れでは、丁がCを殺害し、その直後に財物を領得する意図を生じてCが身に付けていた財布
を領得した場合、丁はいかなる罪責を負うだろうか。まず、判例の立場に従うとどうなるだ
ろう。
学生.その場合には(3)と考えられますので、(4)ことになります。
教授.そうだね。しかし、判例の考え方に対しては、(5)と批判する立場があるけれども、そ
のような立場からすると、丁の罪責はどのように考えられるだろうか。
学生.(6)ことになります。
【語句群】
a.窃盗罪が成立する
b.殺人罪及び遺失物等横領罪が成立する
c.遺失物等横領罪が成立する
d.強盗殺人罪が成立する
e.強盗殺人罪及び遺失物等横領罪が成立する
f.殺人罪及び窃盗罪が成立する
g.死者も占有の主体として保護されるべき
h.生前の占有を遡って侵害することはできない
i.被害者が生前に有していた占有が侵害される
j.法益の保護が十分でない
1.1a 2e 3g 4f 5j 6d
2.1a 2f 3i 4d 5j 6b
3.1c 2d 3i 4b 5j 6e
4.1c 2d 3i 4f 5h 6b
5.1c 2e 3g 4b 5h 6d
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〔第19問〕(配点:2)
名誉に対する罪に関する次の【見解】についての後記1から5までの各【記述】のうち、誤って
いるものはどれか。(解答欄は、[No.31])
【見 解】
名誉毀損罪(刑法第230条)の保護法益は人の外部的名誉(社会的評価、社会的名誉)であり、
侮辱罪(刑法第231条)の保護法益は人の主観的名誉(名誉感情)である。また、侮辱罪は、事
実を摘示した場合にも成立し得る。
【記 述】
1.この【見解】からは、意識を喪失した終末期の患者に対する侮辱罪が成立しないことになる。
2.この【見解】に対しては、侮辱罪の規定が公然性を要求していることを十分に説明できない
との批判が可能である。
3.この【見解】からは、刑法第231条の「事実を摘示しなくても」という文言は、事実の摘
示の有無にかかわらず侮辱罪が成立し得るという趣旨で解釈される。
4.この【見解】からは、法人に対する侮辱罪の成立を認めることが可能である。
5.この【見解】からは、名誉毀損罪が成立する場合にも、同時に侮辱罪が成立する可能性があ
る。
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〔第20問〕(配点:4)
次の【事例】に関する後記アからオまでの各【記述】を判例の立場に従って検討し、正しい場合
には1を、誤っている場合には2を選びなさい。(解答欄は、アからオの順に[No.32]から[No.36])【事 例】
甲(女性、16歳)は、高校の同級生A(女性、16歳)が非行グループと交際し、飲酒喫煙
を繰り返していることを知り、それらのAの具体的行動を、特に口止めもせずに同級生2名に告
げたところ、同人らを介して、Aの同行動がクラスの全生徒30名の知るところとなった。甲の
せいで自己の行状に関するうわさが広まったことを知ったAは、甲を呼び出して暴行を加えた。
そのことを知った甲の兄乙は、Aに報復しようと考え、ある日の深夜、A宅付近に自己の車を停
め、Aを待ち伏せていたところ、Aの姉B(20歳)がA宅に入ろうとするのを見て、BをAと
誤信し、Bを無理やり同車のトランクに押し込んで数キロメートル走行した上、郊外の廃工場に
連行した。乙は、上記廃工場において、Bの顔面を数発殴打するとともに、はさみを使ってBの
頭髪を10センチメートル程度切断した。乙は、Bが泣き出したのを見て満足し、その場から立
ち去ることにしたが、その際、Bのバッグの中から財布を抜き取り、これを持ち去った。乙は、
上記財布内にB名義の運転免許証やキャッシュカードが入っていたため、BをAと間違えたこと
に気付いたが、同カードを不正に使用し、Bの預金で乙の友人Cへの借金を返済しようと考えた。
乙は、コンビニエンスストアの現金自動預払機に同カードを挿入し、暗証番号としてBの誕生日
を入力したところ、取引ができる状態になったので、その場で、同現金自動預払機を操作し、B
名義口座から直接C名義口座へ50万円を送金した。その後、甲の交際相手丙は、乙が警察に逮
捕されるのではないかと不安に思った甲からの依頼に応じ、乙の上記一連の犯行について、乙の
身代わり犯人として警察に出頭した。
【記 述】
ア.甲が、Aの上記行動を同級生2名に告げた行為は、特定かつ少数の者にAの名誉を毀損する
事実を摘示したにすぎないことから、名誉毀損罪が成立することはない。[No.32]
イ.乙が、Bを無理やり自己の車のトランクに押し込み、上記廃工場に連行した行為は、Bを1
6歳の未成年者と誤信していたのであるから、生命身体加害目的略取罪ではなく未成年者略取
罪が成立する。[No.33]
ウ.乙が、はさみを使ってBの頭髪を切断した行為は、人の生理的機能を損なうものではないか
ら、傷害罪は成立せず暴行罪が成立するにとどまる。[No.34]
エ.乙が、B名義口座から直接C名義口座へ50万円を送金した行為は、実質的には預金の占有
を移転させる行為であるから、窃盗罪が成立する。[No.35]
オ.丙が乙の身代わり犯人として警察に出頭した行為は、犯人の特定を誤らせることを通じて間
接的に犯人の身柄確保を妨げるものにすぎないから、犯人隠避罪は成立せず、証拠偽造罪が成
立する。[No.36]

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