1民法(親子法制)等の改正に関する要綱案
第1 懲戒権に関する規定の見直し
1 民法第822条を削除し、同法第821条を同法第822条とする。
2 民法第821条に次のような規律を設けるものとする。
親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育をするに当たっては、
子の人格を尊重するとともに、
子の年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、
かつ、
体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはな
らない。
第2 嫡出の推定の見直し及び女性に係る再婚禁止期間の廃止
1 嫡出の推定の見直し
民法第772条の規律を次のように改めるものとする。
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻
前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
2 1の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻
前に懐胎したものと推定し、
婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚
姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎
したものと推定する。
3 1の場合において、
女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に二以上
の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と
推定する。
4 1から3により子の父が定められた子について、
嫡出否認の訴えによりその
父であることが否認された場合における3の適用においては、3の「直近の婚
姻」
とあるのは、
「直近の婚姻
(第774条の規定により子がその嫡出であるこ
とが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。
2 女性に係る再婚禁止期間の廃止
(1) 民法第733条を削除する。
(2) 民法第733条を削除することに伴い、以下のように見直すものとする。
1 民法第773条は、
民法第732条の規定に違反して婚姻をした女が出産
した場合において、適用することとする。
2 民法第744条第2項において、
再婚禁止期間内にした婚姻の取消しに係
る記載を削る。
3 民法第746条を削除する。2第3 嫡出否認制度に関する規律の見直し
1 民法の規律
(1) 否認権者を拡大する方策
民法第774条の規律を次のように改めるものとする。
1 第2の1の規定により子の父が定められる場合において、父又は子は、子
が嫡出であることを否認することができる。
2 親権を行う母又は未成年後見人は、子に代わって、1の規定による否認権
を行使することができる。
3 1に規定する場合において、母は、子が嫡出であることを否認することが
できる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなとき
は、この限りでない。
4 第2の13の規定により子の父が定められる場合において、子の懐胎の時
から出生の時までに母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下
「前夫」という。
)は、その否認権の行使が子の利益を害することが明らか
でないときに限り、子が嫡出であることを否認することができる。
5 4の規定による否認権を行使した前夫は、1の規定にかかわらず、子が自
らの嫡出であることを否認することができない。
(2) 嫡出否認の訴えに関する規律の見直し
民法第775条の規律を次のように改めるものとする。
1 次に掲げる否認権は、
それぞれ次に定める者に対する嫡出否認の訴えによ
って行う。
ア 父の否認権 子又は親権を行う母
イ 子の否認権 父
ウ 母の否認権 父
エ 前夫の否認権 父及び子又は親権を行う母
2 1のア又はエに掲げる否認権を行使する場合において、
親権を行う母又は
未成年後見人がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければな
らない。
(3) 嫡出の承認に関する規律の見直し
民法第776条の規律を次のように改めるものとする。
父又は母は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、
それぞれその否認権を失う。
(4) 嫡出否認の訴えの出訴期間を伸長する方策
民法第777条の規律を次の1及び2の規律に改めるとともに、
同条に3及
び4の規律を追加するものとする。
1 次に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、
それぞれ次に定める時
から3年以内に提起しなければならない。
ア 父の否認権 父が子の出生を知った時
イ 子の否認権 その出生の時3ウ 母の否認権 子の出生の時
エ 前夫の否認権 前夫が子の出生を知った時
2 1のイの期間の満了前6か月以内の間に親権を行う母及び未成年後見人
がないときは、子は、母の親権停止の期間が満了し、親権喪失若しくは親権
停止の審判の取消しの審判が確定し、若しくは親権が回復され、又は未成年
後見人が就職した時から6か月を経過するまでの間は、
嫡出否認の訴えを提
起することができる。
3 子は、その父と継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そ
のうち最も長い期間)が3年を下回るときは、1イ及び6イの規定にかかわ
らず、21歳に達するまでの間、嫡出否認の訴えを提起することができる。
ただし、
子の否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著し
く害するときは、この限りでない。
4 1(1)2の規定は、3の場合には、適用しない。
5 1エに掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、
子が成年に達したと
きは提起することができない。
6 第2の13の規定により父が定められた子について、
(1)の規定により否認
権が行使されたときは、次に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、
1の規定にかかわらず、
次に定める時から1年以内に提起しなければならな
い。
ア 第2の11前段又は同4の規定により読み替えられた同3の規定によ
り新たに子の父と定められた者の否認権 新たに子の父と定められた者
が当該子に係る嫡出否認の裁判が確定したことを知った時
イ 子の否認権 子がアの裁判が確定したことを知った時
ウ 母の否認権 母がアの裁判が確定したことを知った時
エ 前夫の否認権 前夫がアの裁判が確定したことを知った時
(5) 父がした子の監護のための費用の償還に関する規律の新設
民法に次のような規律を加えるものとする。
(1)に規定する否認権の行使により子の父であることが否認された者は、子に
対して、
自らが支出した子の監護のための費用の償還を求めることができない。
(6) 相続の開始後に嫡出否認により子と推定された者の価額の支払請求権の新設民法に次の規律を加えるものとする。
相続の開始後、否認権が行使されたことにより、被相続人がその父と定めら
れた者は、相続人として遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共
同相続人が既にその分割その他の処分をしていたときは、価額のみによる支払
の請求権を有する。42 人事訴訟法の規律
(1) 当事者の死亡による人事訴訟の終了
人事訴訟法第27条第2項を、次のように改めるものとする。
離婚、
嫡出否認
(父を被告とする場合を除く。)又は離縁を目的とする人事訴
訟の係属中に被告が死亡した場合には、当該人事訴訟は、第26条第2項の規
定にかかわらず、当然に終了する。
(2) 嫡出否認の訴えの当事者等
人事訴訟法第41条に、次の1及び2の規律を加えるものとする。
1 1(1)4に規定する前夫は、
同4の規定により嫡出否認の訴えを提起する場
合において、子の懐胎の時から出生の時までの間に、前夫の後に母と婚姻し
ていた者
(父を除く。)がいるときは、
これらの者を被告とする嫡出否認の訴
えをその嫡出否認の訴えに併合して提起しなければならない。
2 1の規定により併合して提起されたそれぞれの嫡出否認の訴えの弁論及び裁
判は、分離しないでしなければならない。
(3) 嫡出否認の判決の通知の新設
人事訴訟法に次の規律を加えるものとする。
裁判所は、第2の13の規定により父が定められる子について嫡出否認の判
決が確定したときは、前夫(訴訟記録上その住所又は居所が判明しているもの
に限る。
)に対し、当該判決の内容を通知するものとする。
3 家事事件手続法の規律
(1) 特別代理人の選任に関する規律
家事事件手続法第159条第2項の規律を、次のように改めるものとする。
嫡出否認の訴えの特別代理人の選任の審判事件においては、父及び前夫は、
第17条第1項において準用する民事訴訟法第31条の規定にかかわらず、法
定代理人によらずに、自ら手続行為をすることができる。
(2) 嫡出否認の裁判の通知の新設
家事事件手続法に次の規律を加えるものとする。
裁判所は、
第2の13の規定により父が定められる子の嫡出否認についての
合意に相当する審判が確定したときは、前夫(事件の記録上その住所又は居所
が判明しているものに限る。)に対し、
当該審判の内容を通知するものとする。
第4 第三者の提供精子を用いた生殖補助医療により生まれた子の親子関係に関す
る民法の特例に関する規律の見直し
生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特
例に関する法律第10条の規律を次のように改めるものとする。
妻が、夫の同意を得て、夫以外の男性の精子(その精子に由来する胚を含む。)を用いた生殖補助医療により懐胎した子については、夫、子又は妻は、第3の1(1)1
及び3の規定にかかわらず、その子が嫡出であることを否認することができない。5第5 認知制度の見直し等
1 認知の無効に関する規律等の見直し
(1) 認知の無効に関する規律の見直し
民法第786条の規律を次のように改めるものとする。
1 次に掲げる者は、認知について反対の事実があることを理由として、それ
ぞれ次に定める時(認知の時に子が胎内に在った場合にあっては、子の出生
の時)から7年以内に限り、認知の無効の訴えを提起することができる。た
だし、子の母について、その認知の無効の主張が子の利益を害することが明
らかなときは、この限りでない。
ア 子又はその法定代理人 子又はその法定代理人が認知を知った時
イ 認知をした者 認知の時
ウ 子の母 子の母が認知を知った時
2 子は、認知をした者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上
あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回るときは、1の規定にか
かわらず、21歳に達するまでの間、認知について反対の事実があることを
理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、子の認知
の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の
利益を著しく害するときは、この限りでない。
3 子の法定代理人は、2の訴えを提起することができない。
4 認知の無効の訴えにより認知が無効とされた者は、子に対して、自らが支
出した子の監護のための費用の償還を求めることができない。
(2) 人事訴訟法の規律の新設
民法第786条に規定する認知の無効の訴えの出訴権者が死亡した場合に、
次のような規律を設けるものとする。
1 認知をした者が、
子の出生前に死亡したとき又は1(1)の出訴期間内に認知
の無効の訴えを提起しないで死亡したときは、
その子のために相続権を害さ
れる者その他認知をした者の三親等内の血族は、
認知の無効の訴えを提起す
ることができる。この場合においては、認知をした者の死亡の日から1年以
内にその訴えを提起しなければならない。
2 認知をした者が、認知の無効の訴えを提起した後に死亡した場合には、1
の規定により認知の無効の訴えを提起することができる者は、認知をした者
の死亡の日から6月以内に訴訟手続を受け継ぐことができる。この場合にお
いては、民事訴訟法第124条第1項後段の規定は、適用しない。
3 子が、
1(1)1の出訴期間内に認知の無効の訴えを提起しないで死亡したと
きは、子の直系卑属又はその法定代理人は、認知の無効の訴えを提起するこ
とができる。この場合においては、子の死亡の日から1年以内にその訴えを
提起しなければならない。
4 子が、
1(1)1の出訴期間内に認知の無効の訴えを提起した後に死亡した場6合には、子の直系卑属又はその法定代理人は、子の死亡の日から6月以内に
訴訟手続を受け継ぐことができる。
(3) 家事事件手続法の規律の新設
民法第786条に規定する認知の無効についての調停の申立人が死亡した
場合に、次のような規律を設けるものとする。
1 認知をした者が認知の無効についての調停の申立てをした後に死亡した
場合において、
当該申立てに係る子のために相続権を害される者その他認知
をした者の三親等内の血族が認知をした者の死亡の日から1年以内に認知
の無効の訴えを提起したときは、認知をした者がした調停の申立ての時に、
その訴えの提起があったものとみなす。
2 子が認知の無効についての調停の申立てをした後に死亡した場合におい
て、
子の直系卑属又はその法定代理人が子の死亡の日から1年以内に認知の
無効の訴えを提起したときは、子がした調停の申立ての時に、その訴えの提
起があったものとみなす。
2 国籍法に関する規律の見直し
国籍法に次のような規律を加えるものとする。
国籍法第3条に規定する認知された子の国籍の取得に関する規定は、
認知につ
いて反対の事実があるときは、適用しない。
3 胎児認知の効力に関する規律の新設
民法第783条に次のような規律を加えるものとする。
認知された胎児が出生した場合において、
第2の1の規定により子の父が定め
られるときは、胎児認知は、その効力を生じない。