「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」
取りまとめ報告書(案)
令和4年3月しろまる
刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会
「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」
取りまとめ報告書 目次
.............................................................................................
第1 はじめに 1
.......................................................................................
第2 検討の経過等 3
.......................................................................................
第3 検討の概要等 5
................................................
1 書類の電子データ化、発受のオンライン化 5
..................................................................
(1) 書類の作成・発受について 5
.........................................................
(2) 令状の請求・発付・執行について 8
.........................................................
(3) 電子データの証拠収集について 12
...............................................................
(4) 閲覧・謄写・交付について 14
......................................................
(5) 公判廷における証拠調べについて 17
.............................................
2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化 19
...........................................................................
(1) 取調べ等について 19
................................................
(2) 被疑者・被告人との接見交通について 22
......................................................
(3) 打合せ・公判前整理手続について 25
........................................................................
(4) 証人尋問等について 27
............................................................
(5) 公判期日への出頭等について 32
...............................................................
(6) 裁判員等選任手続について 37
..................................................................
(7) 公判審理の傍聴について 40
.............................................................................................
3 その他 41
..........................................................................................
第4 終わりに 42
- 1 -
第1 はじめに
刑事手続においては、犯罪事実に関する証拠の収集・保全や、犯罪事実の存否に
ついての主張・立証・事実認定が行われるが、これまで、収集・保全された証拠の
内容や、訴訟関係人による主張・裁判所による裁判の内容が、主として書面により
記録され、それが関係者の間で発受され、保管されてきた。例えば、司法警察職員
は、被害者から被害申告を受けると、その供述を供述調書等の書面に記載する、令
状を請求するときは、令状請求書や疎明資料といった書面を作成し、これらを持参
して裁判官の下に赴いてその審査を受ける、事件を検察官に送致するときは、証拠
書類を検察官の下に運び込むなどしてきた。また、検察官が公訴の提起をするとき
は、起訴状という書面を作成し、これを裁判所に提出し、そのほかにも、裁判所・
検察官・弁護人による訴訟行為に伴って、書面が多く用いられてきた。
また、刑事手続においては、その多くの部分が、人が対面する形で行われてきた。
例えば、被疑者や参考人の取調べは対面で行われ、公判手続は、法廷という場所に
裁判官・裁判所書記官、検察官、被告人・弁護人が集まり、証人・鑑定人・通訳人
にも、法廷に出頭することを求めてきた。
その一方で、現行の刑事訴訟法の制定後70年以上が経過する間に、社会の状況
は大きな変貌を遂げた。特に、情報通信技術の進展は目覚ましく、かつて紙媒体が
担っていた役割は、多くの場合、電子データによって代替されているほか、近時に
おいては、画像・映像等を含む大量の情報を遠隔地間で瞬時に送受信することや、
オンラインで接続してリアルタイムで映像と音声を送受信し、遠方にいる相手の顔
を見ながら意思疎通を行うことを可能とするような技術とそのための社会基盤が汎
用化し、社会生活・日常生活の様々な場面で活用されるに至っている。そうした情
報通信技術は、今後も進展を続けることが明らかである。
それらの技術の一部は、ビデオリンク方式による証人尋問など、刑事手続におい
ても既に部分的に活用されており、また、法定の手続外の当事者間のやり取りなど
において、可能な範囲で活用されているものの、刑事手続においては、今なお、紙
媒体の書面が用いられ、また、対面が求められる場面がある。例えば、令状の発付
・執行に迅速性が求められる場合に、書類や人の長距離の移動が必要となったり、
あるいは、膨大な量の書面で構成される一件記録を、裁判の請求・執行・不服申立
てのために、その都度、長距離移動させなければならないことがあり、それらが迅
速で効果的な捜査活動、公判審理の遂行の支障となることがある。また、遠方にい
る者から事情を聴いたり、その者を尋問するときは、聴取者か被聴取者のいずれか
が長距離の移動をせざるを得ないほか、
公判期日や公判前整理手続期日については、
関係人の出席がなければ手続を進められない場合があることから、遠方にいる者と
の日程調整のために円滑・迅速な手続の遂行に支障が生じることがある。
こうした場面において、情報通信技術を活用し、刑事手続の全般にわたって、書
類を電子データとして作成・管理し、オンラインで発受し、捜査・公判における手
続を非対面・遠隔で実施できるようにすることは、円滑・迅速な手続の遂行に資す
るとともに、これらの手続に関与する国民の負担を軽減することにも資すると考え
られる。
- 2 -
このような情報通信技術の活用は、既に他の法分野において進められている。例
えば、平成14年には「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」
(いわ
ゆる「デジタル行政推進法」
)が、平成16年には「民間事業者等が行う書面の保存
等における情報通信の技術の利用に関する法律」
(いわゆる「e-文書法」
)がそれ
ぞれ制定され、それまで法令により書面等によって行うものとされていた行政機関
に対する申請等が、オンラインによってもすることができるものとされている。ま
た、民事裁判手続については、法制審議会・民事訴訟法(IT化関係)部会におい
て民事裁判手続のIT化を促進するための法整備の在り方に関する調査審議が行わ
れている。
このような行政手続・司法手続における非書面化・非対面化は、感染症の拡大等
の様々な事情や社会状況の変動に柔軟に対応しつつ円滑・迅速な手続を可能とする
観点からも、近時、強く要請されている。令和2年7月17日に閣議決定された「世
界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」や「成長戦略フォ
ローアップ」においても、
「刑事手続についても、そのデジタル化を行うことは、捜
査手続に関与する国民の負担軽減につながり、また、感染症の感染拡大時にも円滑
・迅速な公判手続を可能とする観点から有用であると考えられ、デジタル化を早期
に実現することは、関係者の権利利益の保護に資する。このため、刑事手続におい
て可能な分野における効率化、非対面・遠隔化等を目指すべく、令和2年度中に、
司法府における自律的判断を尊重しつつ、政府において、令状請求・発付をはじめ
とする書類のオンライン受交付、刑事書類の電子データ化、オンラインを活用した
公判など、捜査・公判のデジタル化方策の検討を開始する。
」などとされているとこ
ろである。
本検討会は、以上のような状況の下、刑事手続において情報通信技術を活用する
方策に関し、現行法上の法的課題を抽出・整理した上で、その在り方について検討
するため、開催されたものであり、11回にわたる会議を経て、今般、本検討会に
おける議論の状況を取りまとめ、本報告書とするものである。
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第2 検討の経過等
1 本検討会においては、令和3年3月から令和4年3月までの間に、11回の会議
を開催した(委員等は別添1、開催日等は別添2のとおり)。第1回会議(令和3年3月31日)においては、各委員から、刑事手続において
情報通信技術を活用することが手続の合理化・効率化につながると考えられる場面
やそのための方策、それらに関して検討すべき論点について意見が述べられ、その
上で、それらの検討に当たっては、次の1から3までの視点が重要であることにつ
いて認識が共有された。
1 刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続に携わる者の負担を軽
減し、その合理化に資するものであるが、それのみを目的とすべきではなく、
事案の真相解明と刑罰法令の適正・迅速な適用実現を目的とする刑事手続の
円滑かつ適正な実施に資するために、そして、被害者をはじめとする捜査・
公判に関与する国民の負担を軽減し、国民の権利・利益の保護・実現に資す
るために活用されるべきである。
2 刑事手続において取り扱われる情報は、不適切に取り扱われれば、関係者
のプライバシー・名誉に多大な影響を及ぼしかねない上、捜査・公判に重大
な支障を生じかねないことから、そのセキュリティの確保に万全を期するこ
とが強く要請される。取り分け、電子データは、サイバー攻撃等、紙媒体の
記録とは異なる情報流出のリスクがある上、複製が容易であることから、一
旦流出すれば、インターネットなどを通じて無限定に拡散され、かつ、イン
ターネット上などに半永久的に残存することとなりかねないという特質があ
る。刑事手続における情報通信技術の活用に当たっては、万が一にも情報の
流出等によって関係者の権利利益が侵害されることがないよう、制度・設備
の整備に当たり、特別の配慮が不可欠である。
3 情報通信技術は日々進歩しており、今後も、より先進的な技術が開発され
普及していくことが確実視される。法整備に当たっては、この点に十分留意
し、将来の情報通信技術の発展にも思いを致しながら、そうした社会の変化
にも耐え得る法制度の構築に向けた検討を行う必要がある。
2 第2回会議(同年4月27日)においては、第1回会議で示された情報通信技術
の活用方策に関する意見を踏まえ、本検討会で検討すべき論点を次のとおり分類・
整理し、以後、これらの項目について順次検討を進めた。
1 書類の電子データ化、発受のオンライン化
(1) 書類の作成・発受
(2) 令状の請求・発付・執行
(3) 電子データの証拠収集
(4) 閲覧・謄写・交付
(5) 公判廷における証拠調べ
2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化
(1) 取調べ等
(2) 被疑者・被告人との接見交通
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(3) 打合せ・公判前整理手続
(4) 証人尋問等
(5) 公判期日への出頭等
(6) 裁判員等選任手続
(7) 公判審理の傍聴
3 その他
この間、第2回会議から第4回会議(同年6月29日)までにおいては、これら
の項目について、一巡目の議論を行い、第5回会議(同年7月27日)においては、
政府CIO補佐官・法務省CIO補佐官(当時。現在は、法務省デジタル統括アド
バイザー)である進関係官から、一巡目の議論で示された技術的な課題等について、
情報通信技術の観点からの説明が行われた。
第6回会議(同年9月15日)から第8回会議(同年11月19日)までにおい
て、一巡目の議論や進関係官の説明内容等を踏まえつつ、各項目について二巡目の
議論を行い、第9回会議(同年12月23日)において、総括的な三巡目の議論を
行った。
そして、第10回会議(令和4年2月10日)において、座長の指示に基づいて
事務当局がそれまでの議論を踏まえて作成した本報告書のたたき台が示され、これ
に基づいて取りまとめに向けた議論を行った結果、第11回会議(同年3月くろまる日)
において、本報告書を取りまとめるに至ったものである。
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第3 検討の概要等
1 書類の電子データ化、発受のオンライン化
(1) 書類の作成・発受について
考えられる方策
現行の法律・規則において紙媒体で作成・管理・発受することが予定されてい
る「書類」等について、電子データとして作成・管理し、オンラインで発受する
ことができるものとし、かつ、紙媒体による場合と同一の効力を有するものとす
る。
〔補足説明〕
ア 書類等の作成・管理・発受において情報通信技術の活用を可能とする意義
捜査報告書、供述調書等をはじめとする、捜査等の過程で作成され主に証拠と
して利用されることが想定される書類や、起訴状、令状等をはじめとする、訴訟
行為や処分のための書類は、現在紙媒体で作成・管理・発受されているが、署名
・契印や運搬等の物理的作業を伴うため、実務においては、それらに多大な手間
と時間を要する場合が少なくない。
その一方で、情報通信技術の高度化・汎用化が進んだ現代においては、これら
の書類を、紙媒体ではなく電子データとして作成・管理し、そのままオンライン
で発受することは、技術的に十分可能であり、それが法的にも許容されるのであ
れば、紙媒体の書類を取り扱うことに伴う負担を解消し、事務を大幅に合理化す
ることにつながると期待される。
もっとも、現行の刑事訴訟法や刑事訴訟規則の規定においては、
「書類」や「書
面」といった、紙媒体で作成・発受されることを前提としていると考えられる文
言が用いられている規定があるほか、
「書類」には作成者の「署名押印」が必要と
されており(刑事訴訟規則第58条)
、そのために、電子データとして書類を作成
・管理し、これをそのままオンラインで発受することができない場合がある。
そこで、現行の刑事訴訟法や刑事訴訟規則において紙媒体で作成・管理・発受
することが予定されている「書類」等について、電子データとして作成・管理し、
オンラインで発受することができるものとし、かつ、紙媒体による場合と同一の
効力を有するものとすることが考えられる。
また、現行法令の規定には、文言上、必ずしも電子データとしての書類の作成
・管理やオンラインでの発受を読み取り得ないものではないと考えられるものも
あるが、解釈上の疑義を可能な限りなくすため、それらについても、電子データ
として作成・管理し、オンラインで発受することが可能であることを規定上明示
することが考えられる。
イ 書類等を電子データとして作成・管理し、オンラインで発受することを可能と
することについて
(ア) 「書類」への「署名押印」に代わる措置について
現行の刑事訴訟規則は、
「書類」が紙媒体で作成されることを前提に、
「書類」
には作成者が「署名押印」をしなければならないものとしている(刑事訴訟規
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則第58条、第60条)
。これは、単に作成者の氏名を表示するだけでなく、当
該書類の作成の真正を担保し、改ざんを防止するための措置として義務付けて
いるものと解される。
そこで、
「書類」を電子データとして作成する場合には、当該電子データにつ
いて、
「署名押印」に代わる措置として、例えば、電子署名など、当該電子デー
タの作成の真正や改ざんの有無を事後的に検証することを可能とする技術を利
用した措置を講じなければならないものとすることが考えられる。
(イ) 供述調書への供述者の「署名」・「押印」に代わる措置について
現行の刑事訴訟法は、供述を録取した書面を証拠とすることができるための
要件として、当該書面に供述者の「署名」又は「押印」があることを要するも
のとしている(同法第321条第1項等)
。これは、供述調書に録取された内容
が供述者が供述した内容と相違ないことを供述者が承認したことを表すためで
ある(同法第198条第5項)。そこで、供述調書を電子データとして作成する場合には、当該電子データに
ついて、供述者の「署名」・「押印」に代わる措置として、そのような供述者の
承認があったことを事後的に確認することを可能とする技術を利用した措置を
講じなければならないものとすることが考えられる。
(ウ) 「原本」・「謄本」・「抄本」の区別について
現行の刑事訴訟法・刑事訴訟規則においては、例えば、起訴状について、裁
判所には原本を提出するものとしつつ(同法第256条第1項)
、被告人にはそ
の謄本を送達するものとする(同法第271条)など、原本・謄本・抄本を区
別する規定が見られる。
もっとも、謄本・抄本は、原本(すなわち、最初に作成された書類)の内容
の全部又は一部が同一性を保って写されたものであるところ、紙媒体の書類の
場合には、原本は一つしか存在し得ず、原本やその一部と謄本・抄本とが区別
されるが、書類等を電子データとして作成・管理・発受することを認める場合
には、最初に作成された電子データからの変更や改ざんがないことが電子署名
等の技術的措置により担保されるのであれば、最初に作成された電子データと
その複製とを区別する意義は乏しく、最初に作成された電子データと同じもの
として取り扱うことに支障はないと考えられる。
そのため、最初に作成された電子データとその全部の複製は、法律上、原本
を用いることが求められる場合と、謄本で足りる場合のいずれにおいても、同
様に取り扱い得ると考えられる(その際、現在の実務において紙媒体の書類の
謄本に付される同一性を認証する文言や認証者の記名押印に相当する措置は不
要である。)。また、複製である電子データに、元の電子データの成立の真正、
元の電子データの一部との内容の同一性、及びそれが元の電子データの一部で
あることを確認することができる措置を施すこととすれば、当該複製である電
子データを、最初に作成された電子データの「抄本」に相当するものとして用
いることができると考えられる。
(エ) セキュリティ等の観点から講じるべき技術的措置について
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紙媒体で作成された書類については、署名等の部分を含め、原本と全く同じ
ものを作成することは容易ではなく、原本を厳格に管理している限り、これと
同じのものとして受け止められ得る文書が広く流出するおそれは極めて低いと
いえるが、電子データとして作成された「書類」をオンラインで発受する場合
には、元の電子データと全く同じ電子データを容易かつ大量に複製することが
可能であり、これが流出した場合には、インターネット等を通じて際限なく拡
散され、回収が困難になるおそれがあるから、その管理に関しては、紙媒体で
書類を管理する場合以上に、情報セキュリティの確保への留意が必要となる。
そのため、刑事手続において電子データとして作成された「書類」をオンラ
インで発受することを可能とするに当たっては、そのために履践すべき手続や
情報セキュリティを確保するための方策等の技術的措置について、特別の規定
を設けることが考えられる。
なお、その具体的な内容は、技術的・細目的事項にわたると考えられる上、
今後の情報通信技術の発展への機動的な対応が必要となると考えられることか
ら、法律には、政省令や規則に定める規律によるべき旨を定め、細目は下位法
令で定めることとすることも考えられる。
ウ オンラインでの発受を原則とすることについて
電子データは、紙媒体と比較して、運搬、保管、検索・整理、複製等に伴う事
務の負担やコストが小さく、特にその量が増すにつれてその効果は高まるから、
刑事手続において取り扱われる書類、特に、刑事手続に携わる者がその職務の過
程で作成する書類については、可能な限り、始めから電子データとして作成・管
理され、発受されることが望ましい。少なくとも、裁判所と訴訟関係人や捜査機
関との間、訴訟関係人相互や訴訟関係人と捜査機関との間における書類の発受に
ついては、オンラインで行うことを原則とすることが、目指すべき方向性である
と考えられる。
他方で、現在の実務は、紙媒体で書類を作成・管理・発受することを前提とし
たものであり、関係機関や弁護士事務所においては、紙媒体で作成された大量の
書類が現実に管理されている状況にある。それらの書類についても全て電子デー
タに変換してオンラインで発受しなければならないものとすると、発受する書類
が膨大であるため変換作業に甚大な労力を要し、オンラインで発受することの利
益に見合わない事務負担が生じる結果となることも考えられる。また、現在は紙
媒体で作成されている書類には、一覧性を確保するために巨大なものとなること
がある現場見取図など、これを電子データとして作成・発受するには、送り手と
受け手の双方において特殊な機器やソフトウェアが必要となる場合も考えられる。
そのように、少なくとも現時点においては書類等をオンラインで発受することが
相当でない、あるいは困難である場合があり得ることにも、留意が必要である。
そこで、
「書類」等の発受、特に、裁判所と訴訟関係人や捜査機関との間、訴
訟関係人相互や訴訟関係人と捜査機関との間におけるものについては、それが相
当でない場合や困難である場合は除きつつ、
なるべくオンラインで行われるよう、
法制上又は運用上の必要な措置を採るものとすることが考えられる。
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(2) 令状の請求・発付・執行について
考えられる方策
1 裁判官による令状の発付について、これを電子データとして作成した電子令
状をオンラインで捜査機関に送信する方法によりすることができるものとする。
2 1の電子令状の発付の請求は、請求書及び疎明資料を電子データとしてオンラ
インで裁判官に送信する方法によりすることができるものとする。
3 1の電子令状の呈示は、これを紙面に印刷し、又は電子計算機の映像面に表示
したものを示すなどの方法によりすることができるものとする。
〔補足説明〕
ア 令状の請求・発付・執行において情報通信技術の活用を可能とする意義(考え
られる方策1〜3共通)
捜査機関が捜索・差押え等の強制処分を行うには、裁判官が発する令状が必要
であるため、捜査機関は、これを得るために紙媒体で作成した令状請求書を疎明
資料とともに裁判所に持参して令状を請求しており、また、令状は紙媒体で発付
され、これを処分を受ける者に示すこととされているため、捜査機関は、令状を
受け取ると、処分の対象者・対象物が所在する場所まで物理的に運搬した上で、
処分を受ける者に示して当該強制処分を行っているところ、疎明資料の作成場所
や処分が行われる場所が裁判所から遠く離れている場合等においては、裁判官に
よる強制処分の許否についての審査それ自体とは別に、その前後の紙媒体の請求
書や令状の物理的運搬に長時間を費やすこととなり、そのことが捜査の迅速な実
行に支障を来す一因にもなっている実情にある。
その一方で、令状の請求・発付・執行において情報通信技術を活用し、裁判官
による令状の発付を、電子データとして作成した電子令状をオンラインで捜査機
関に送信する方法によりすることや、電子令状の発付の請求を、請求書及び疎明
資料を電子データとしてオンラインで裁判官に送信する方法によりすること、さ
らに、電子令状の呈示を、これを紙面に印刷し、又は電子計算機の映像面に表示
したものを示すなどの方法によりすることは、技術的に十分可能であり、それら
が法的にも許容されることとなれば、裁判官に強制処分の許否の判断を求めるま
での時間や、これが許可された場合の執行までの時間が大きく短縮されることと
なり、被疑者・被告人等の処分を受ける者の権利・利益の保護にも資することと
なると考えられる。
もっとも、現行法の下では、令状の請求は「書面」でこれをしなければならず
(刑事訴訟規則第139条第1項)
、また、令状には裁判官の「記名押印」が必要
とされている(刑事訴訟法第64条第1項等)など、規定上、令状の請求・発付
を紙媒体で行うことが前提とされている。
そこで、裁判官による令状の発付について、これを電子データとして作成した
電子令状をオンラインで捜査機関に送信する方法によりすることができるものと
し、電子令状の発付の請求は、請求書及び疎明資料を電子データとしてオンライ
ンで裁判官に送信する方法によりすることができるものとし、
電子令状の呈示は、
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これを紙面に印刷し、又は電子計算機の映像面に表示したものを示すなどの方法
によりすることができるものとすることが考えられる。
イ 考えられる方策1について
(ア) 「令状」を電子データとして発することの許容性について
憲法第33条は「何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を
有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなけ
れば、逮捕されない。
」と、同法第35条第2項は「捜索又は押収は、権限を有
する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
」とそれぞれ規定してい
るところ、令状を紙媒体ではなく電子データとして発付することができるもの
とすることとこれらの規定が定める令状主義の趣旨との関係については、次の
とおりであると考えられる。
すなわち、憲法が定める令状主義の趣旨は、処分の対象となる人や場所、目
的物について、逮捕や捜索等を行う正当な理由が存在することをあらかじめ裁
判官に確認させ、対象となる人や場所・目的物を令状に明示させて、その範囲
でのみ捜査機関に処分の実施を許すことにより、捜査機関の恣意や裁量の濫用
・逸脱等による不当な権利侵害の余地を封じるところにあるとされている。
したがって、令状が紙媒体ではなく電子データとして作成されるとしても、
その電子令状において、逮捕の理由となる犯罪や捜索等の処分の対象となる人
や場所、目的物が明示され、その内容が捜査機関にとって認識可能であり、か
つ、捜査機関がその内容を変更できないことが確保されるなど、紙媒体の場合
と同様に令状主義の趣旨を満たすことが確保されるのであれば、令状が電子デ
ータとして発付されたことを理由として憲法第33条・第35条の趣旨に反す
ることとなるものではないと考えられる。
(イ) 令状への裁判官の「記名押印」に代わる措置について
令状には、
「裁判官が、・・・記名押印しなければならない」ものとされている
ところ(刑事訴訟法第64条第1項等)
、令状の発付について、電子データとし
て作成した電子令状をオンラインで送信する方法によりすることができるもの
とするに当たっては、
「記名押印」
に代わる措置を講じるものとする必要がある。
刑事訴訟法が令状に裁判官の「記名押印」を要するものとしている趣旨は、
令状の作成の真正、すなわち、裁判官がその意思に基づいて作成したものであ
ることを担保し、かつ、事後的な改ざんを防止するところにあると解されるか
ら、
「記名押印」に代わる措置としては、例えば、電子署名など、当該電子デー
タの作成の真正や改ざんの有無を事後的に検証することを可能とする技術を利
用した措置を講じなければならないものとすることが考えられる。
ウ 考えられる方策2について
刑事訴訟規則第139条第1項は、
「令状の請求は、書面でこれをしなければな
らない」ものとしているところ、その趣旨は、捜査機関に対し特定の強制処分を
命じ又は許可する令状の重要性に鑑み、その請求に当たって手続の明確性を期す
るところにあるとされている。
そして、そのような手続の明確性の確保は、請求書を電子データとして作成す
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ることによっても十分可能であると考えられることから、電子令状の発付の請求
について、請求書に係る電子データをオンラインで裁判官に送信する方法により
することができるものとすることが考えられる。
なお、令状請求の際の「資料」の「提供」
(同規則第143条等)については、
現行法の下でも、資料を電子データとしてオンラインで送信する方法によりする
ことは、許容されると解される。
エ 考えられる方策3について
(ア) 電子令状の呈示について、これを紙面に印刷し、又は電子計算機の映像面に
表示したものを示すなどの方法によりすることができるものとすることについて刑事訴訟法第73条第1項、第110条等は、令状の呈示について、
「処分を
受ける者にこれ(令状)を示さなければならない」ものとしている。その趣旨
は、手続の公正を担保するところにあり、ここにいう「示」すとは、被処分者
に令状の内容を知る機会を与えることを意味する。
したがって、
令状が電子データとして作成されて発付される場合においても、
その電子令状に記録された、裁判所(官)が命じ又は許可した処分の内容が、
被処分者に認識可能な形で表示されるのであれば、その趣旨を満たし、許容さ
れると考えられる。
なお、現行法は、発付後その有効期間を経過した後の令状については、濫用
を防止する観点から、これを返還しなければならない(刑事訴訟法第64条第
1項等)ものとしているところ、電子令状についても同様の趣旨が妥当するの
であれば、防止すべき事態に応じて所要の規律を設けることについても検討す
る必要があると考えられる。
(イ) 電子令状の写しの交付の要否について
考えられる方策3に関連して、
しろまる 電子令状については、被処分者に呈示するにとどまらず、被処分者におい
て、令状が真正なものであるかどうかを確認したり、不服申立ての要否を判
断したりすることができるようにするため、写しの交付を義務付けるべきで
はないか
との意見が示されたが、これに対しては、
しろまる 現行の刑事訴訟法上、被処分者に令状の写しを交付しなければならないも
のとはされておらず、また、電子令状である場合に限り、その写しを被処分
者に交付することにより、その真正性が判別しやすくなるとも考え難いこと
から、写しの交付を義務付ける必要はないと考えられる
しろまる 現行法上、逮捕については、独立した不服申立ての機会が設けられておら
ず、不服申立ての要否の検討のために逮捕状の写しが必要となることはない
し、捜索・差押えについては、被処分者等に捜索証明書や押収品目録を交付
することとする一方で、これとは別に捜索差押許可状の写しを交付すること
とはしておらず、令状が電子データとして作成されて発付される場合におい
て、これと異なる取扱いとする理由はない
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との意見も示された。
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(3) 電子データの証拠収集について
考えられる方策
1 裁判所は、必要があるときは、電子データを保管する者に対し、必要な電子
データをオンラインで提供することを命ずることができるものとする(電磁的
記録提供命令)。2 捜査機関は、犯罪の捜査をするため必要があるときは、裁判官の発する令状
により、電子データを保管する者に対し、必要な電子データをオンラインで提
供させることができるものとする。
3 2の令状には、
電磁的記録提供命令の対象となる電子データを特定するため、
「提供させるべき電磁的記録」及び「提供させるべき者」を記載又は記録しな
ければならないものとする。
〔補足説明〕
ア 電子データの証拠収集について情報通信技術の活用を可能とする意義(考えら
れる方策1〜3共通)
捜査・公判上必要となる電子データが、事業者等が管理するサーバに保管され
ている場合に、当該電子データの所在を捜査機関が探索・特定して抽出すること
は、通常容易ではない上、事業者等においても、捜査機関が対象となる電子デー
タを探索・特定する作業を行う間、長時間の待機を要することとなる。そうした
ことからすれば、その保管状況を把握している事業者等の協力が得られるのであ
れば、当該事業者等が当該電子データを抽出し、当該電子データのみを捜査機関
に提供するものとすることは、捜査機関と被処分者の双方の利益に適うものであ
ると言える。
現行の刑事訴訟法は、そのような場合があることに鑑み、電磁的記録の保管者
の協力を得ながら行う強制処分として、記録命令付差押えを規定している(同法
第99条の2、第218条)
。もっとも、記録命令付差押えは、保管者に命じて必
要な電磁的記録を記録媒体に記録させ、当該記録媒体を差し押さえることを内容
とするものであるため、捜査機関は、必要な電磁的記録が記録された記録媒体が
所在する場所に赴き、その占有を取得して差し押さえる必要がある。
しかし、当該事業者等が、その保管する電磁的記録を捜査機関が管理する電子
計算機にオンラインで送信する方法により提供することができるような場合には、
記録命令付差押えの処分の内容のうち、電磁的記録の保管者に命じて当該電磁的
記録を「記録媒体に記録させ、その記録媒体を差し押さえる」部分は、その意義
に乏しい。むしろ、そのような場合には、被処分者が当該電子データをオンライ
ンで提供し得ることとすれば、必要な電子データの収集という目的を達すること
ができるとともに、捜査機関にとっても移動の負担がなくなるだけでなく、処分
を受ける事業者等にとっても、記録媒体を捜査機関等に手渡すための対応や記録
媒体の準備等の負担を省くことができることとなる。
そこで、令状の発付を受けた捜査機関が、電子データを保管する者に対し、必
要な電子データをオンラインで提供させることを可能とする強制処分を設けるこ
- 13 -
とが考えられる。
その場合、現行の刑事訴訟法では、記録命令付差押えも含め、捜査機関が令状
に基づいて行うことができる押収に関する処分については、裁判所も行うことが
できることとされていることとの均衡の観点から、裁判所も同様の強制処分を行
うことができるものとすることが考えられる。
イ 考えられる方策1及び2について
(ア) 電磁的記録提供命令を可能とすることについて
電磁的記録提供命令は、現行の記録命令付差押えを基礎とし、そのうち物体
(記録媒体)の「差押え」の部分を除いて「記録命令」の部分に限ることによ
り、電子データのオンラインでの送信による提供に変更するものであるといえ
る。
このような証拠収集方法は、記録命令付差押えと比較しても、記録媒体の占
有を失うことがないという点で被処分者の権利制約の程度がより小さく、
また、
記録媒体の差押え手続の際の捜査機関への対応といった被処分者の事務負担の
軽減をも図ることができるものである。
(イ) 強制処分の実効性を確保するための方策について
電磁的記録提供命令は、
「記録命令付差押え」のうち、
「差押え」という捜査
官による直接強制の作用を除いたものであるが、記録提供命令により被処分者
に義務を生じさせるものの、
それを直接に強制することはできないことになる。
もとより、協力的な事業者等が被処分者になることを想定するものであるとは
いえ、令状に基づく処分としての実効性を確保するための方策として、間接強
制としての制裁を設けることについても、検討する必要があると考えられる。
ウ 考えられる方策3について
前記のとおり、考えられる方策1及び2の強制処分は、記録命令付差押えを基
礎とするものであり、
強制処分の対象となる電子データの特定の方法についても、
これと同様に考えることができる。
そこで、
裁判官の発する令状には、
「提供させるべき電磁的記録」
及びこれを
「提
供させるべき者」を記載又は記録しなければならないものとすることが考えられ
る。
- 14 -
(4) 閲覧・謄写・交付について
考えられる方策
1 相手方にその閲覧・謄写の機会を与えるべき証拠のうち、電子データである
ものについては、一定のセキュリティ措置を前提に、相手方にオンラインでそ
れらの機会を与えることができるものとする。
2 検察官が交付すべき証拠の一覧表については、一定のセキュリティ措置を前
提に、オンラインで行うことができるものとする。
〔補足説明〕
ア 証拠書類・証拠物の「閲覧」・「謄写」
、証拠の一覧表の「交付」において情報
通信技術の活用を可能とする意義(考えられる方策1・2共通)
刑事訴訟法第299条第1項は、
「証拠書類又は証拠物の取調を請求するについ
ては、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない」もの
とし、また、同法第316条の14第1項は、公判前整理手続に付された事件に
おいて検察官が取調べを請求した証拠書類又は証拠物については、弁護人に「閲
覧し、かつ、謄写する機会」を与えなければならないものとしているところ、現
状において、これらの開示の対象となる証拠書類の多くは、紙媒体で存在し、検
察庁において保管されていることから、弁護人がこれを「閲覧」するためには、
検察庁に赴く必要があり、
「謄写」するためには、複写機を用いるなどすることと
なる。
また、同条第2項は、検察官請求証拠の開示の後、弁護人等から請求があった
ときは、検察官は、保管する証拠の一覧表を「交付」しなければならないものと
しているところ、この証拠の一覧表は、紙媒体に印字して作成され、弁護人に交
付されている。
もっとも、前記1(1)のとおり、刑事手続において取り扱われる証拠書類の多く
が電子データとして作成・管理・発受されるようになった場合には、その「閲覧」・「謄写」
は、
電子データのまま行うこととすることが合理的であると考えられる。
また、これらの電子データの「閲覧」・「謄写」や証拠の一覧表の「交付」をオン
ラインで行うことが可能となれば、開示する側にとっても開示を受ける側にとっ
ても証拠開示に伴う事務を大幅に省力化することに資すると考えられる。
イ 証拠書類の「閲覧」・「謄写」及び証拠の一覧表の「交付」をオンラインでする
ことを可能とするための手当てについて(考えられる方策1・2共通)
電子データである証拠の「閲覧」・「謄写」の機会を与えることをオンラインで
することについては、例えば、検察庁が管理する記録媒体に保存されている電子
データとしての証拠に弁護人がオンラインでアクセスし、これをその映像面に表
示させて見ることができるようにしたり、弁護人が記録媒体に複写することがで
きるようにすれば、それらによって証拠の「閲覧」・「謄写」の機会を与えたもの
といえると解される。
もっとも、前記の刑事訴訟法第299条第1項等の規定が、証拠の取調べの請
求に当たって相手方当事者に信用性吟味の機会を確保することを、当該証拠の取
- 15 -
調べを請求する者に義務付けるものであり、その違反が証拠の採否にも影響し得
るものであることに鑑みると、解釈上の疑義を生じないようにするため、オンラ
インで閲覧・謄写の機会を与えることができることを、明文で規定することが考
えられる。
また、証拠の一覧表の「交付」は、有体物としての紙媒体のものを予定してい
ると考えられるため、これについても、証拠の一覧表を記録した電磁的記録をオ
ンラインで提供することによることもできることを、明文で規定することが考え
られる。
ウ 開示の方法の選択について(考えられる方策1)
前記アのとおり、証拠書類等の取調べを請求しようとする者は、相手方にその
閲覧の機会を与えなければならず、公判前整理手続においては、検察官は弁護人
に、弁護人は検察官に、取調べを請求しようとする証拠書類等の閲覧及び謄写の
機会を与えなければならないこととされている。
相手方が当該証拠書類等の内容を知り、あるいは、当該証拠書類等と同じ内容
のものを手元に保管することができることが確保される限り、どのような方法で
閲覧や謄写の機会を与えるかについては、現行法上、特に限定されていないから、
開示をオンラインでするかどうかの選択は、開示の機会を与える側が、当該証拠
書類等の内容や性質を考慮して選択することができると考えられる。
したがって、
例えば、性犯罪の事件における犯行状況を記録した動画など、オンラインで閲覧
・謄写の機会を与えることが適切とは言い難い場合には、公判前整理手続に付さ
れていない事件においては、検察官の判断により、検察庁での閲覧の機会を与え
ることとし、公判前整理手続に付された事件においては、謄写の機会を与えるこ
と自体が不適当であるときは、裁判所に対し、開示の方法を閲覧に指定すること
を請求し、閲覧の方法は、検察官の判断により検察庁での閲覧とすることなどが
考えられる。
エ 情報セキュリティ確保のための方策について(考えられる方策1・2共通)
前記第2や前記(1)のとおり、電子データには、紙媒体と異なる情報流出のリス
クがあり、また、複製が容易であることなどから、一旦流出した場合には、イン
ターネットなどを通じて際限なく拡散され、回収困難になるおそれがあるから、
電子データの「閲覧」・「謄写」・「交付」をオンラインで行う場合には、紙媒体の
場合以上に、情報セキュリティの確保に留意する必要がある。
すなわち、証拠の「閲覧」・「謄写」の機会の付与や証拠の一覧表の「交付」を
オンラインですることを可能にするに当たっては、検察庁のシステム等における
情報セキュリティの確保に万全を期すことはもとより、それらに用いる通信回線
や弁護人が用いる電子計算機等についても、漏えいのリスクを管理するために必
要な技術的措置が講じられることが確保される必要があり、そのための規律を設
けることが検討されなければならない。
なお、その具体的な内容は、技術的・細目的事項にわたると考えられる上、今
後の情報通信技術の発展への機動的な対応が必要となると考えられることから、
法律には、政省令や規則に定める規律によるべき旨を定め、細目は下位法令で定
- 16 -
めることとすることが考えられる。
オ 裁判所において保管される訴訟に関する記録の閲覧・謄写等について
刑事訴訟法は、弁護人による訴訟に関する書類等の閲覧・謄写(同法第40条)
や、公判調書の閲覧(同法第49条)
、証拠保全がされた書類及び証拠物の閲覧・
謄写(同法第180条)などについても規定しており、これらの対象となる書類
等が電子データとして保管されている場合におけるその「閲覧」・「謄写」につい
ても、前記イからエまでと同様に、オンラインで行うことができる旨を明文で規
定するなどの措置を講じることを検討する必要がある。
- 17 -
(5) 公判廷における証拠調べについて
考えられる方策
公判廷において、電子データである証拠の取調べをするについては、
1 文字情報の言語的内容を証拠とするものは、
「朗読」しなければならない
2 文字ではない情報を証拠とするものは、
「表示」し、又は「再生」しなければ
ならない
3 文字情報の言語的内容及び非言語的内容の両方を証拠とするものは、その言語
的内容については「朗読」しなければならず、非言語的内容については「表示」
し又は「再生」しなければならない
ものとするなどの規定を設ける。
〔補足説明〕
ア 公判廷において電子データである証拠の取調べをする場合の方式についての規
定を設ける意義(考えられる方策1〜3共通)
現行の刑事訴訟法は、公判廷における証拠調べの方式として、証拠書類につい
てはこれをその請求者に「朗読」させて取り調べるものとし(同法第305条第
1項)
、証拠物についてはその取調べを請求した者をしてこれを「示させ」るもの
とし(同法第306条第1項)
、証拠物中書面の意義が証拠となるものについては
これを「示させ」るとともに「朗読」するものとし(同法第307条、第306
条第1項、第305条第1項)
、ビデオリンク方式による証人尋問の状況を映像と
音声により記録した記録媒体がその一部とされた調書の取調べについては、記録
媒体を「再生」するものとしている(同法第305条第5項)
。これらの規定は、
証拠の種類や性質等に応じて、公判においてその内容を感得し的確な心証を形成
するため一般的に最も適当と考えられる方式をそれぞれ規定したものであり、他
により適当な方式がある場合には、それが明文で規定されていないものであって
も、その方式によって証拠調べを行うことが許容されると解されている。したが
って、公判廷において電子データを証拠とする場合に、その内容や性質等に応じ
て、現行法に規定されていない適宜の方法により取調べをすることも許されない
ものではないと解される。
もっとも、証拠の類型ごとに、一般的に最も適当と考えられる方式を規定する
ことが望ましいため、この機会に、現行法と同様の趣旨で、電子データそのもの
を証拠としてその取調べをする場合について、最も適当と考えられる方式を規定
しておくべきものと考えられる。
イ 証拠とする電子データの性質・内容に応じた取調べの方式について
(ア) 考えられる方策1について
電子データのうち、供述内容を記録したものなど、文字によって表示された
情報の言語的内容を証拠とするものについては、証拠書類を朗読するのと同様
に、その文字情報を言語的に「朗読」させ、その内容を聴覚を通じて感得する
ものとすることが、的確な心証を形成する方法として最も適当と考えられるこ
とから、そのような方式を規定することが考えられる。
- 18 -
(イ) 考えられる方策2について
電子データのうち、文字ではない情報に係る部分、例えば、画像・音声・図
形などといった内容を証拠とするものについては、証拠物を示させるのと同様
に、これを電子計算機の映像面に「表示」させ、又は映像・音声として「再生」
させるなどし、その内容を人の視覚及び聴覚を通じて感得するものとすること
が、的確な心証を形成する方法として最も適当と考えられることから、そのよ
うな方式を規定することが考えられる。
(ウ) 考えられる方策3について
電子データのうち、例えば、脅迫メールについて、フォント等の用いられ方
をも証拠とする場合など、記録された文字情報の言語的内容だけでなく、当該
文字の体裁や状態等の非言語的内容に係る部分をも証拠とするものについては、
証拠物中書面の意義が証拠となるものについて、これを示させるとともに朗読
するのと同様に、言語的内容については「朗読」することにより、また、非言
語的内容については「表示」し又は「再生」することにより、その内容を視覚
及び聴覚を通じて感得するものとすることが、的確な心証を形成する方法とし
て最も適当と考えられることから、そのような方式を規定することが考えられ
る。
(エ) 用語の選択について
以上の用語については、既存の規定との整合性にも留意し、法制技術的な観
点から検討されるべきである。
- 19 -
2 捜査・公判における手続の非対面・遠隔化
(1) 取調べ等について
考えられる方策
1 取調べの際の供述を、調書に代えて電子データとして録取することができる
ものとし、その作成方法に関する規定を設ける。
2 刑事訴訟法第321条第1項第2号の「検察官の面前」に、ビデオリンク方
式による場合を含むことを規定上明示する。
3 検察官による弁解録取や裁判所・裁判官による勾留質問を、一定の要件の下
で、検察官が検察庁に、裁判所・裁判官が裁判所に所在し、被疑者を警察署等
に所在させ、ビデオリンク方式により行うことができるものとする。
* 「ビデオリンク方式」とは、対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相
手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を指す。
〔補足説明〕
ア 考えられる方策1について
刑事訴訟法は、被疑者や参考人の取調べについて、その者の「出頭を求め、こ
れを取り調べ」ることができることを規定するにとどまり(同法第198条第1
項、
第223条第1項)、取調べを行う際に取調官とその対象者が所在する場所や、
取調べそれ自体の方法については、特に限定をしていないことから、法は取調べ
をビデオリンク方式により行うことを禁止・制限するものではないと解される。
その一方で、同法第198条第3項は、取調べの際に被疑者がした供述を記録
して証拠化する方法として、これを「調書に録取」することができることを規定
し、同条第4項及び第5項は、録取した調書を被疑者に閲覧させ、又はその内容
を読み聞かせた上で、誤りがないことを申し立てたときは、これに「署名押印」
することを被疑者に求めることができることを規定しているところ、これらの規
定における「調書」は紙媒体を前提とするものと解される。
前記1(1)のとおり、刑事訴訟法が規定する取調べの際の供述の記録・証拠化の
方法について、これを紙媒体ではなく電子データとして記録する方法によっても
行うことができるようにするため、供述者の「署名」・「押印」に代わる技術的措
置を講じるものとするなどの規定を設けることは、対面による取調べを行う場合
はもとより、ビデオリンク方式により取調べを行う場合においても有用であると
考えられる。
イ 考えられる方策2について
刑事訴訟法第321条第1項第2号は、
「検察官の面前における供述を録取した
書面」について、同項第3号に規定する書面と比較して緩やかな要件の下で証拠
能力を認めている。これは、当該書面に録取された供述が、公正な立場で犯罪の
捜査と公訴の維持を行う義務を負う法律家である検察官により行われた取調べを
経て得られたものであることに基づくものであると考えられる。したがって、取
調べがビデオリンク方式により行われた場合であっても、それが検察官による取
調べを経て得られたものであることに変わりはないのであるから、その供述を録
- 20 -
取した書面やそれを記録した電子データについて、同項第2号により証拠能力を
認めることができると考えられる。
もっとも、同項第1号においては、
「裁判官の面前」との文言に同法第157条
の6に規定するビデオリンク方式による場合が含まれる旨が明示的に規定されて
いるところであり、これとの比較において解釈上の疑義をなくす観点から、同号
と同様に、同項第2号の「検察官の面前」に、ビデオリンク方式による場合が含
まれることを規定上明示することが考えられる。
なお、この点に関連して、
しろまる ビデオリンク方式により取調べをする場合においては、画面の向こうにいる
供述人に対して第三者が不当な影響を与えていないかなどについて、検察官が
十分に確認をすることができないから、その際に作成された供述調書や供述を
記録した電子データについて同号により証拠能力を認め得るのは、供述人の所
在場所が、その供述に不当な影響を与えることがないと考えられる場所であっ
た場合に限定するなどすべきではないか
との意見も示されたが、これに対しては、
しろまる 検察官面前調書について同項第3号の書面と比較して緩やかな要件の下で証
拠能力が認められるのは、検察官による取調べを経て得られた供述を録取した
ものであることに基づくものであって、供述人の所在場所を問題とするもので
はなく、それによって「検察官の面前」で行われたものに当たらないとして証
拠能力を否定するのは、同項第2号の趣旨と整合しないし、仮に、供述人の所
在場所が供述の信用性に影響を与え得るものであったとすれば、そのことは当
該供述の任意性の有無や、同号に規定する相対的特信情況の有無の判断におい
て考慮されるべき事柄である
との意見も示された。
ウ 考えられる方策3について
(ア) 検察官による弁解録取や裁判所・裁判官による勾留質問を、被疑者を警察署
等に所在させてビデオリンク方式により行う必要性・可否について
刑事訴訟法は、検察官は、司法警察員により送致された被疑者を受け取った
ときは、
「弁解の機会を与え」なければならず(弁解録取。同法第205条第1項)、また、被疑者について検察官から勾留の請求を受けた裁判官は、被疑事件
に関する被疑者の「陳述を聴いた後」でなければ勾留をすることができないも
のとするところ(勾留質問。同法第207条第1項、第61条)
、これらの手続
は、被疑者の身柄を検察庁や裁判所に引致し、検察官や裁判官が被疑者と対面
して行われている。
被疑者の身柄の引致が困難な事情がある場合には、被疑者を収容施設に所在
させたまま、ビデオリンク方式により弁解録取や勾留質問を行うことも考えら
れるところ、法は前記のとおり規定するにとどまり、検察官・裁判官と被疑者
が所在する場所や、弁解録取・勾留質問の実施方式について規定していないこ
とから、これらの手続をビデオリンク方式により行うことが、一般的に禁止さ
れ、あるいは制限されているものではないと考えられる。
- 21 -
もっとも、被疑者を警察署等に所在させた状態で、検察官や裁判官がビデオ
リンク方式により弁解録取や勾留質問を行うことについては、司法警察職員等
の捜査機関による被疑者の供述への影響の遮断の問題について、更に検討すべ
きであるとの意見があった。
これまでの実務の運用として、検察官による弁解録取や勾留質問は、基本的
には、被疑者の身柄を検察庁あるいは裁判所に押送して行われてきているが、
現行の刑事訴訟法は、弁解録取・勾留質問の際の被疑者の所在場所について特
に規定しておらず、また、警察署等に所在する被疑者の供述に対して常に司法
警察職員等の影響が及ぶとも言い難いことからすれば、被疑者を警察署等から
移動させることは、司法警察職員等の捜査機関による影響を遮断するための唯
一の方法ではなく、警察署等に所在させた状態でビデオリンク方式により検察
官による弁解録取や勾留質問を行うことは、現行法上も、許容されるものと考
えられる。
他方で、特に、捜査機関とは独立した機関である裁判官が行う勾留質問につ
いては、被疑者を警察署等の外に出して移動させることは、身柄拘束に係る手
続段階の変更を被疑者に対しても外形的に明確にするものであり、捜査機関に
よる影響を遮断する方策としては、最も端的ではあることも踏まえると、従来
どおり被疑者を押送することを原則としつつ、被疑者を警察署等に所在させた
状態でビデオリンク方式により行うことについては、例えば、被疑者が感染症
に罹患しており、押送が困難な場合など、その必要があり、自らの立場や行わ
れる手続について被疑者に丁寧に説明することなどにより、捜査機関の影響が
遮断されると認められる場合などに行うことができるよう、一定の要件の下で
行うことができるものとすることが考えられる。
ビデオリンク方式による検察官の弁解録取についても、勾留質問との異同を
踏まえつつ、行うことができるようにすることが考えられる。
(イ) 刑事訴訟法第205条第1項の「送致された被疑者を受け取つた」との文言
について
刑事訴訟法第205条第1項は、検察官が「送致された被疑者を受け取つた」
ときは、弁解の機会を与えなければならないことを規定しているが、この「送
致」は、事件と被疑者の身柄に関する権限を検察官に移すことを意味するもの
であって、物理的に被疑者を検察庁の建物に移動させることを要求するもので
はなく、被疑者を警察署等に所在させた状態でビデオリンク方式により検察官
による弁解録取を行うことを許容しない趣旨ではないと解される。
なお、前記(ア)のとおり、被疑者を警察署等に所在させた状態でビデオリンク
方式により弁解録取を行うことができる場合についての規定を設けることは、
そのような解釈上の疑義をなくすことにもつながるものと考えられる。
- 22 -
(2) 被疑者・被告人との接見交通について
〔検討の状況〕
ア 弁護人等と被疑者・被告人がビデオリンク方式により「接見」し、電子デー
タの送受信により「書類の授受」をすることについて
刑事訴訟法第39条第1項は、
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、
弁護人等と「立会人なくして接見」し、又は「書類・・・の授受」をすることがで
きると規定しているところ、ここにいう「接見」は、被疑者・被告人が収容さ
れている刑事施設・留置施設に弁護人等が赴いた上で、対面で行われており、
また、
「書類の授受」は、紙媒体のものを差し入れることにより行われている。
これらの点に関して、
しろまる 身体の拘束を受けている被疑者・被告人が、直ちに弁護人の援助を受けら
れるようにすることは極めて重要であり、刑事施設・留置施設に収容中の被
疑者・被告人とビデオリンク方式で接続して「接見」し、電子データの送受
信により「書類の授受」をすることができるようにする必要性は大きい
しろまる そのような「接見」や「書類の授受」は、同項に規定する権利性のあるも
のとして位置付けるべきである
との意見が示された。
まず、このうち、刑事施設・留置施設に収容中の被疑者・被告人とその外に
いる弁護人等との外部交通をビデオリンク方式で接続する方法により行うこと
ができるようにすること、及び書類の授受を電子データの送受信により行うこ
とができるようにすることについては、
しろまる ビデオリンク方式により刑事施設・留置施設の外にいる弁護人等との間を
接続したとして、接続先にいるその者が本当に弁護人等であるか、その者の
傍らに接見禁止等の決定の対象者がいないことが確保されているか、接見禁
止等の決定がなされているにもかかわらず、接続先において弁護人等により
録音等が行われ、被疑者・被告人が話した内容がそのまま事件関係者等に伝
達されることはないかなど、ビデオリンク方式による場合には確認が困難な
事柄が少なくなく、そうした被疑者・被告人の逃亡や罪証隠滅につながり得
る行為を防止することは困難ではないか
しろまる 「書類の授受」を電子データを授受する方法によってすることについても、
紙媒体の書類の受渡しとは異なり、罪証隠滅等の防止のために刑事施設・留
置施設の職員が点検しなければならないデータの量が膨大となり、現実的に
対応が困難となりかねず、また、収容中の被疑者・被告人に対して電子デー
タを取り扱い得る端末を貸与して占用させるなどすることにも、機器の破損
や事故の危険等の弊害が伴うほか、施設職員の負担も無視できない
といった懸念が示された。
これに関連して、特に、なりすましや弁護人等以外の第三者の同席等を防止
しつつ、可能な範囲でビデオリンク方式による外部交通を実現するための実務
的な方策として、
しろまる 弁護人等が、被疑者・被告人が収容されている刑事施設・留置施設とビデ
- 23 -
オリンク方式で接続されている特定の施設(アクセスポイント)に赴いた上
で、当該施設の職員等が、弁護人等の身分確認、通信設備がある部屋への他
の者の入室や、不正使用され得る電子機器等の持込みがないことなどの確認
をし、入室後に不正行為が疑われる状況があれば中止を促すなどすることが
考えられる
との意見も示された。
次に、ビデオリンク方式による「接見」や電子データを送受信する方法によ
る「書類の授受」を、刑事訴訟法第39条第1項に規定する権利性のあるもの
として位置付けるかどうかの点については、
しろまる 被収容者・被留置者の防御権等を保障することは国の責務であるから、権
利として位置付けた上で必要な予算措置が講じられるべきである
との意見も示されたが、これに対しては、
しろまる 仮にそれを被疑者・被告人の権利として位置付けるとすると、いつでもそ
のような接見をすることができることが保障されることとなるが、そのよう
な接見が行われる場合にも、被疑者・被告人の逃亡や罪証隠滅、戒護に支障
のある物の授受(同条第2項参照)が行われないことが、刑事施設・留置施
設で被疑者・被告人と弁護人等が対面して行う場合と同じように確保される
ことが前提とされなければならず、そのために、全国の各刑事施設・留置施
設及びビデオリンク方式の接続先となる弁護人等の所在場所の双方において、
逃亡や罪証隠滅の防止、戒護への支障の防止を十分に図り得る技術・物的設
備・体制を確保することは、容易ではないのではないか
しろまる 「アクセスポイント」方式は、可能な範囲でビデオリンク方式による外部
交通を実現する現実的な方法であるが、それを可能とするために必要な物的
設備や人的体制が整った施設を全国にあまねく設けることは、少なくとも当
面は相当困難であり、権利性のあるものとして位置付けたとしても、法律に
規定された権利が全国一律に実現しない不均衡が生じかねないから、まずは
裁量的な外部交通の方法として設備等の整備状況に応じ漸次的に拡大してい
くこととするのが、安定的かつ現実的な遠隔外部交通の拡大と、被疑者・被
告人の防御の利益に資するのではないか
との意見も示された。
イ 今後の検討について
以上のとおり、被疑者・被告人と弁護人等との間の接見をビデオリンク方式
により行うなどすることに関しては、特にその法的な位置付けについて、意見
の隔たりがあったが、前記の「アクセスポイント」方式による外部交通など、
実務的な運用において現実的に検討し得る選択肢があることについては、認識
の共有が図られたところである。
今後は、本検討会における検討結果を踏まえ、まずは、このような選択肢に
関し、関係機関において、物的設備、人的体制等を考慮しつつ、なりすましや
弁護人等以外の第三者の同席の防止、被疑者・被告人の逃走や自傷等の防止、
情報セキュリティの確保等をどのようにして担保するのかなどの課題について、
- 24 -
更なる協議が進められることが期待される。
- 25 -
(3) 打合せ・公判前整理手続について
考えられる方策
1 裁判所は、検察官・弁護人が打合せ期日又は公判前整理手続期日に出頭する
について、一定の要件を満たすときは、ビデオリンク方式によることができる
ものとする。
2 裁判所は、1の場合には、検察官・弁護人の所在場所を指定することができ
るものとする。
3 裁判所は、被告人が公判前整理手続期日に出頭する場合又は被告人に同期日
への出頭を求める場合について、一定の要件を満たすときは、ビデオリンク方
式によることができるものとする。
4 裁判所は、3の場合には、被告人の所在場所を指定することができるものと
する。
* 「ビデオリンク方式」とは、対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相
手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を指す。
〔補足説明〕
ア 考えられる方策1及び2について
刑事訴訟法第316条の7は、
「公判前整理手続期日に検察官又は弁護人が出頭
しないときは、その期日の手続を行うことができない。
」と規定しており、ここに
いう「出頭」は、通常は、期日が行われる場所に物理的に所在することを意味す
ると解されるが、検察官及び弁護人がビデオリンク方式によっても「出頭」でき
るのであれば、裁判所までの移動の負担の解消や柔軟な期日指定が可能となり、
迅速な公判準備にも資すると考えられる。
公判前整理手続は、
「事件の争点及び証拠を整理するため」
(同法第316条の
2第1項)
、訴訟運営に責任を負う裁判所が主宰する手続であり、裁判所は、期日
を開いて検察官及び弁護人を「出頭させて陳述させ」る(同条第3項)などする
ことができることとされているから、検察官及び弁護人について、ビデオリンク
方式による「出頭」を許すかどうかについても、基本的には、裁判所が、手続の
進捗状況や当該期日で予定されている手続の内容等に応じて、適切に選択し得る
ものとすることが適当であると考えられる。
その上で、例えば、性犯罪事件について争点整理を行う場合など、事案の性質
等によっては、検察官又は弁護人がビデオリンク方式により「出頭」することに
より、相手方において、情報流出への懸念等から、具体的な事実関係に言及しつ
つ率直に意見を述べることがしにくくなるおそれもあることから、裁判所は、ビ
デオリンク方式による「出頭」を許すかどうかの選択に際しては、訴訟関係人の
意見を聴取し、これを踏まえつつ、あり得る弊害をも考慮した上で判断するもの
とすることが適当であると考えられる。
また、ビデオリンク方式により「出頭」する検察官・弁護人の所在場所によっ
ては、本来公判前整理手続期日に立ち会うことが予定されていない者がその内容
に接することとなるおそれがあり、そのために訴訟関係人による率直な意見交換
- 26 -
が妨げられることも考えられる。したがって、裁判所は、検察官・弁護人にビデ
オリンク方式による「出頭」を許すときは、法が公判前整理手続について公開で
行うものとはしていない趣旨を全うするため、その所在場所を指定することがで
きるものとすることが適当である。
イ 考えられる方策3及び4について
被告人は、公判前整理手続期日に出頭することが可能であり(刑事訴訟法第3
16条の9第1項)
、また、裁判所は、被告人に対し、
「公判前整理手続期日に出
頭することを求めることができる」
(同条第2項)ものとされている。
被告人が出頭を希望し、かつ、ビデオリンク方式によることを望んでいる場合
や、裁判所が被告人に出頭を求める場合においては、前記アと同様に、裁判所が、
手続の進捗状況等に応じて、
ビデオリンク方式によることとするかどうかを含め、
適切な方式を選択し得るものとすることが適当であると考えられる。
また、その際、被告人がビデオリンク方式により「出頭」することとなること
により、法が公判前整理手続について公開で行うものとはしていない趣旨を害す
ることとならないよう、その可否については、訴訟関係人の意見を聴取するもの
とし、裁判所が被告人の所在場所を指定することができるものとすることが適当
と考えられることも、前記アと同様である。
他方、被告人が出頭を希望する場合において、ビデオリンク方式によることを
望んでいないときについては、公判前整理手続期日への出頭が権利として認めら
れていることや、現実に期日に出頭して手続に参加する場合とビデオリンク方式
による場合とでは、手続参加者の言動の観察条件等に事実上の差異があることを
否定し難いことなどにも鑑み、裁判所がビデオリンク方式によることを求めるこ
とができるのは、例えば、災害や感染症などにより被告人を実際に出頭させて公
判前整理手続期日における手続を行うことが適切でない状況があるときなど、一
定の要件を満たす場合とすることが考えられる。
ウ 裁判官・裁判所書記官のビデオリンク方式による「出席」について
打合せや公判前整理手続期日が、裁判所構内にある部屋で行われることからす
ると、これらの手続について裁判所に勤務する裁判官や裁判所書記官がビデオリ
ンク方式により「出席」することが必要となることは想定し難いが、他方で、例
えば、合議体の一部の裁判官が支部等で勤務する日に公判前整理手続期日を開催
し、訴因又は罰条の追加・撤回・変更の許可(刑事訴訟法第316条の5第2号)
や証拠調べの決定(同条第7号)など、受命裁判官によっては行うことができな
い手続(同法第316条の11)を実施する必要がある場合等においては、当該
裁判官についてビデオリンク方式による「出席」を認める必要が生じ得ることか
ら、そのような場合に対処し得るようにするため、裁判官等がビデオリンク方式
により「出席」することを可能にすることについても、検討することが考えられ
る。
- 27 -
(4) 証人尋問等について
考えられる方策
1 証人尋問をビデオリンク方式により実施することができる場合として、
・ 現行法と同様のビデオリンク方式によることの必要性を示す要件を満たす場
合を追加して規定する。
・ 当事者に異議がなく、裁判所が相当と認める場合を追加して規定する。
2 通訳・鑑定人の尋問をビデオリンク方式により実施することができる場合とし
て、証人尋問よりも広い要件で実施することができるものとする規定を設ける。
* 「ビデオリンク方式」とは、対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手
の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を指す。
〔補足説明〕
ア 考えられる方策1について
(ア) ビデオリンク方式による証人尋問を実施し得る範囲やその際の証人の所在場
所の範囲を拡大する意義
現行の刑事訴訟法は、証人尋問は、証人を公判廷に出頭させ、裁判所及び訴
訟関係人の面前で供述させて実施することを原則とし、ビデオリンク方式によ
る証人尋問については、1証人が一定の性犯罪の被害者である場合(同法第1
57条の6第1項第1号・第2号)
、2証人が法廷等で供述をするときは「圧
迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがある」場合(同項第3号、同条
第2項第1号)
、3裁判所への出頭等に際して証人に対して加害行為等が行わ
れるおそれがある場合(同項第2号・第3号)及び4証人が「遠隔地に居住」
し、
「出頭することが著しく困難である」場合(同項第4号)に限り、裁判所
が「相当」と認めるときに行うことができるものとしている。また、それらの
場合に証人が所在する場所は、公判が行われる裁判所又は他の裁判所の構内に
限定されている(同条第1項・第2項、刑事訴訟規則第107条の3)。しかしながら、これらの要件を満たす場合以外にも、例えば、
A 外国に所在する証人について、その所在国の裁判所等との間をビデオリン
ク方式で接続して証人尋問を実施すること
B 多忙であるため公判廷に出頭させて証人尋問を実施する日程の調整が困難
な専門家証人について、その就業場所等との間をビデオリンク方式で接続し
て証人尋問を実施すること
C 入院中の重症患者であって裁判所への出頭が困難な証人について、当該入
院先の病院との間をビデオリンク方式で接続して証人尋問を実施すること
D 刑事施設等に収容中の証人について、当該施設との間をビデオリンク方式
で接続して証人尋問を実施すること
など、新たにビデオリンク方式による証人尋問を実施することができるように
することが要請される場合があることが指摘されており、要件を拡大してそれ
らの場合にも実施し得るようにすることは、公判審理の充実化・迅速化に加え
て、証人の負担軽減にも資すると考えられる。
- 28 -
(イ) 証人を裁判所以外の場所に所在させることの可否について
刑事訴訟規則が、ビデオリンク方式による証人尋問を実施する際の証人の所
在場所を、公判が行われる裁判所又は他の裁判所の構内に限定しているのは、
裁判所による訴訟指揮権・法廷警察権の十全な行使や回線のセキュリティの確
保の必要性などが考慮されたものであるが、そのための方策は、証人の所在場
所を裁判所の構内に限定することに限られるものではなく、例えば、訴訟指揮
権等の十全な行使については、証人の所在場所に裁判所書記官等を所在させる
などし、その場所にいる者に必要な事務を行わせることなどによっても確保し
得ると考えられる。
したがって、ビデオリンク方式による証人尋問をより機動的に実施できるよ
うにするためには、このような場所的制限を取り除き、裁判所が、個別の事案
ごとに、訴訟指揮権等を行使する必要性の程度や証人が所在することとなる場
所の状況等を考慮した上で、裁判所の構内以外の場所に証人を所在させてビデ
オリンク方式による証人尋問を実施できるようにすることについても、検討さ
れるべきである。
(ウ) 要件の在り方について
ビデオリンク方式による証人尋問を実施できる範囲を拡大する場合の要件の
在り方については、
しろまる 現行の刑事訴訟法第157条の6の規定の在り方を前提として、これと同
様のビデオリンク方式によることの必要性を示す類型的要件を新たに追加し
て規定する方法と
しろまる 類型を列挙する方法を改め、ビデオリンク方式による証人尋問を実施する
必要性の程度や、尋問への支障の有無・程度等を含めた諸事情を、
「相当」性
の要件の中で判断する包括的な規定を置く方法
とがあり得ると考えられる。
この点、少なくとも現在の技術水準を前提とした場合、ビデオリンク方式は、
証人の表情や挙動等の観察のしやすさにおいて対面による場合に劣る面がある
など、両者の間に事実上の差異があることは否定できず、そのような差異が、
訴訟関係人が証人尋問を行う際の支障となったり、裁判所による証言態度等の
評価の妨げとなったりする場合があり得ることも、否定できないように思われ
る。
その上で、それを前提として、そうした事実上の差異があることを、ビデオ
リンク方式による証人尋問の実施に関する要件を定めるに当たってどのように
組み入れるかについては、これを全て相当性の判断の中で考慮することとする
後者のような枠組みも考えられないわけではないものの、前者のように、特に
その必要性が高いと認められる類型を列挙して、それらに当たる場合にのみビ
デオリンク方式による証人尋問を可能とする現行法の枠組みを維持することに
も、一定の合理性があると考えられる。
(エ) 前記(ア)AからDまでの各類型について
a 外国所在証人について
- 29 -
前記(ア)Aの類型については、外国に所在する証人は、通常は、現行の刑事
訴訟法第157条の6第2項第4号(遠隔地類型)に当たると考えられる。
もっとも、前記(イ)の証人の所在場所の制限の緩和を行って、証人の所在場
所を外国にまで広げる場合には、我が国の裁判所が訴訟指揮等を及ぼすのと
同様に、証人尋問が適切に遂行されることが確保される必要があることに留
意する必要がある。
また、この場合、当該証人の所在地国の政府機関や裁判所の協力を得て尋
問を実施するために、それらの機関との間で入念な調整を行うことが不可欠
となり、それに長期間を要するため公判手続を停滞させることもあり得るこ
とから、外国に所在する証人についてビデオリンク方式により証人尋問を実
施することができるのは、当該証人が審理に不可欠であることなど、その証
人の尋問を実施する必要性が特に高い場合に限定することが考えられる。
また、外国に所在する証人が偽証した場合、我が国の偽証罪が成立すると
しても、その後に我が国の主権が及ぶ地域に入らない限り、実際に我が国の
偽証罪の制裁を科すことは困難であると考えられることや、証言の信用性を
判断する資料の収集にも制約が生じ得ることなど、国内に所在する証人に証
言させる場合とは、その信用性の判断の前提となる状況が異なり得ることに
も留意する必要がある。
b 専門家証人等について
前記(ア)B及びCの類型については、それらの証人の勤務先や入院先施設の
所在地が、証人尋問が行われる裁判所から見て「遠隔地」
(刑事訴訟法第15
7条の6第2項第4号)にあるとはいえない場合であっても、審理の充実や
迅速かつ円滑な訴訟進行を図る観点から必要性が認められるときは、ビデオ
リンク方式による証人尋問を実施し得るものとすることなどが考えられる。
c 刑事施設等に収容中の証人について
前記(ア)Dの類型については、刑事施設等に収容中の者について、施設外に
移動させて公開の法廷に出頭させることにより、その心情の安定を害するな
どの弊害が生じるおそれが認められる場合もあることに鑑み、そのようなお
それが認められるときは、ビデオリンク方式による証人尋問を実施し得るも
のとすることが考えられる。
(オ) 当事者に異議がなく、裁判所が相当と認める場合を類型に追加することにつ
いて
ビデオリンク方式による証人尋問を実施することができる要件として、その
必要性が特に高い類型を列挙し追加することとする理由が、証人尋問をビデオ
リンク方式により実施する場合と対面で実施する場合とで事実上の差異があり、
それが、訴訟関係人が証人尋問を行う際の支障となったり、裁判所による証言
態度等の評価の妨げとなったりする場合があり得るため、それを上回るような
特段の必要性が要求されるべきであることにあるとすると、
しろまる 訴訟当事者の双方が対面による証人尋問を実施する利益を放棄し、かつ、
手続を主宰し、証人尋問の結果に基づいて事実を認定する責務を負う裁判所
- 30 -
においても、それを相当と認める場合
においては、これを要件として、ビデオリンク方式による証人尋問を実施する
ことができるものとすることが考えられ、これが可能となることにより、法律
上列挙された類型に当たらない場合においても、弾力的にビデオリンク方式に
よる証人尋問を実施することが可能となると考えられる。
その上で、
しろまる 類型的な必要性の要件を設けないとすると、それが設けられている前記(エ)
の場合とは、裁判所による相当性の判断が異なるものとなり得るため、その
判断の指針が示されるように、その際の考慮要素を条文上規定することなど
も検討する必要があるのではないか
といった意見も示された。
イ 考えられる方策2について
刑事訴訟法第157条の6は、鑑定について準用され(同法第171条)
、この
準用規定が通訳及び翻訳に準用される(同法第178条)ことから、通訳人や鑑
定人についても、前記ア(ア)1から4まで(同法第157条の6第1項各号・第2
項各号)に当たるときは、ビデオリンク方式による通訳・鑑定人尋問を実施する
ことが可能である。
他方、十分な能力を有する通訳人の確保は、国語を理解しない被告人の防御等
の観点から、刑事手続の運営上不可欠であるが、言語によってはその確保が困難
な場合があり、そのような場合に、例えば、必ずしも通訳人の居住地から「遠隔
地」といえない複数の裁判所において、近接する時間帯に通訳人として関与する
手続が行われる場合など、現行法の「遠隔地に居住し」
「出頭することが著しく困
難であるとき」
(同条第2項第4号)という要件を満たさないとしても、広くビデ
オリンク方式による通訳を可能とする必要性は高い。通訳の本質は、国語による
陳述と国語以外による陳述を相互に転換することにあり、対面による場合とビデ
オリンク方式による場合とで、その実質に大きな差異はなく、通訳人を視覚的に
つぶさに観察する必要性も乏しいと考えられる。
また、鑑定人についても、審理に必要な専門的学識経験を有する者が限られて
いて、その者が極めて多忙であるため、公判廷への移動を伴う出頭が可能な日の
調整に困難を極める事案が少なからず存在しており、そのような場合に、ビデオ
リンク方式による鑑定人尋問をより広く可能とすることは、迅速かつ円滑な公判
運営を確保する上で有用であると考えられる。鑑定人に求める供述の内容によっ
ては、訴訟関係人が、その内容を十分に検討するため、鑑定人と直接対面して尋
問することが重要である場合もあり得るものの、鑑定人の尋問は、専門的知見や
これを具体的事実に当てはめた結果を供述するものであって、直接対面する必要
性が必ずしも高くない場合もあり得ると思われる。特に、鑑定人尋問のうち、実
務上鑑定を命ずる前提として行われている鑑定能力の有無に関する尋問について
は、当該鑑定人を直接観察しながら尋問すべき必要性はより小さいと思われる。
これらのことを踏まえると、通訳・鑑定人尋問のいずれについても、証人尋問
の場合よりも広い要件の下でビデオリンク方式により実施し得るものとすること
- 31 -
には合理性があると考えられる。
例えば、通訳については、裁判所が当事者の意見を聴いて相当と認めるときに
ビデオリンク方式を活用し得るものとすることも考えられ、鑑定人尋問について
も、事案の内容や鑑定人の供述内容等に応じて、証人尋問の場合よりも柔軟にビ
デオリンク方式を活用し得るような要件を設けることが考えられる。
- 32 -
(5) 公判期日への出頭等について
考えられる方策
1 裁判所は、被告人が公判期日に出頭するについて、一定の要件を満たすとき
は、ビデオリンク方式によることができるものとし、この場合において、弁護
人が出頭するについても、一定の要件を満たすときは、ビデオリンク方式によ
ることができるものとする。
2 裁判所は、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士が刑事訴訟法第316条
の34第1項の規定により公判期日に出席する場合について、一定の要件を満た
すときは、ビデオリンク方式によることができるものとする。
* 「ビデオリンク方式」とは、対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手
の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を指す。
〔補足説明〕
ア 考えられる方策1について
(ア) ビデオリンク方式を活用することを可能とする意義
現行法上、軽微事件の場合を除き、被告人が公判期日に「出頭」しないとき
は開廷することができず(刑事訴訟法第286条)
、死刑又は無期若しくは長期
3年を超える懲役若しくは禁錮に当たる事件については、
弁護人の
「出頭」・「在
廷」も開廷の要件とされている(同法第289条)
。これらの規定にいう「出頭」
及び「在廷」は、その通常の語義に照らせば、裁判所の法廷にそれらの者が物
理的に所在することを意味するものと解され、実際の運用においても、公判手
続は、裁判所構内の法廷に被告人等が出頭・在廷して行われてきた。
被告人の出頭が開廷要件とされているのは、公判期日が当事者の攻撃・防御
の場であり、当事者たる被告人自身を出頭させることがその権利保護のために
必要であるとともに、裁判所の審理を適正なものとするためにも役立つためで
あると解されている。そして、そのため、被告人が自ら出頭の権利を放棄する
場合であっても、開廷することはできないものと解されている。
しかしながら、例えば、
しろまる 勾留中の被告人が感染症に罹患しており、公判廷に在廷させて公判手続を
進めることによりその感染の拡大を招くおそれがある場合や
しろまる 被告人が入院中であり、その病状により外部に移動すること自体が困難で
ある場合
しろまる 暴力団構成員である被告人を公判廷に出頭させる際に対立する団体の構成
員から襲撃されるおそれがあり、裁判官や他の訴訟関係人、傍聴人の安全も
脅かされるおそれがある場合
等であって、そのような状況が長期にわたり継続することが見込まれるため、
公判期日の延期等によっては対応できず、他方で、重要な証人の尋問を時機を
逸することなく行う必要性も高く、公判期日を開催して公判審理を進めること
が必要となる場合も考えられる。そのような場合において被告人をビデオリン
ク方式により「出頭」させることが可能となれば、被告人の出頭に伴い生じ得
- 33 -
る前記のような懸念を解消しつつ、公判審理を進めることが可能となると考え
られる。
そこで、裁判所は、被告人が公判期日に出頭するについて、一定の要件を満
たすときは、ビデオリンク方式によることができるものとし、この場合におい
て、弁護人が出頭するについても、一定の要件を満たすときは、ビデオリンク
方式によることができるものとすることが考えられる。
(イ) ビデオリンク方式による公判期日への「出頭」の要件の在り方について
a 被告人について
被告人がビデオリンク方式により公判期日に「出頭」することができるも
のとすることに関しては、それにより刑事訴訟法第286条の趣旨を害する
こととならないかについて、慎重に検討する必要がある。
すなわち、被告人が現実に公判廷に出頭して、他の訴訟関係人や証人等と
対面して訴訟行為を行う場合と、ビデオリンク方式により訴訟行為を行う場
合とでは、被告人が裁判官や他の訴訟関係人、証人等の表情や挙動等を観察
し、あるいは、裁判官等が被告人の表情や挙動等を観察する状況に、事実上
の差異があることは否定し難く、被告人にビデオリンク方式による公判期日
への「出頭」をさせることにより、そのような差異に起因して、被告人の権
利保護を図る上で不当な不利益が生じたり、審理の適正さに影響が及んだり
することがあるとすれば、ビデオリンク方式によることを認めることは適当
でないと考えられる。
そうすると、被告人をビデオリンク方式により「出頭」させることができ
るのは、例えば、被告人が公判期日に現実に出頭することが著しく困難であ
って、公判期日の延期等の措置によって対応することも困難であるなど、や
むを得ない事情があり、かつ、被告人の防御の面でも相当と認められるなど、
一定の要件を満たす場合に限ることが適当であると考えられる。
b 弁護人について
被告人が法廷に現実に出頭している場合に、弁護人固有の事情のために、
弁護人がビデオリンク方式により「出頭」することを認めるべき必要性は見
いだし難く、その場合には、原則として現実に法廷に出頭すべきことになる
と考えられる。
他方、被告人についてビデオリンク方式による公判期日への「出頭」を認
める場合には、そのような状況の下においても、被告人が弁護人による援助
を十分に受けることができるようにする必要があると考えられる。
そこで、例えば、裁判所は、被告人をビデオリンク方式により「出頭」さ
せる場合において、必要があると認めるときは、弁護人が被告人の傍らにお
いてビデオリンク方式により公判期日に「出頭」することを許すことができ
るものとすることなどが考えられる。
なお、この場合、弁護人が一人しか選任されていないときは、被告人の傍
らか公判廷のいずれか一方にしか弁護人がいない状況の下で公判審理を行う
ことになり得ることにも留意する必要があると考えられる。
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イ 考えられる方策2について
(ア) ビデオリンク方式を活用することを可能とする意義
現行法上、被害者参加人及びその委託を受けた弁護士(被害者参加弁護士)
は、公判期日に「出席」することができるものとされている(刑事訴訟法第3
16条の34第1項)
。ここにいう「出席」は、裁判所の法廷にその者が物理
的に所在することを意味するものと解され、実際の運用においても、被害者参
加人・被害者参加弁護士が裁判所構内の法廷に在廷することにより出席して行
われてきた。
現行法上、被害者参加人についてビデオリンク方式による公判期日への「出
席」が認められていないのは、被害者参加人が、公判期日に出席し、いわゆる
「バー」の内側に入って直接訴訟活動を行うために手続への参加を申し出た者
であることに鑑みると、ビデオリンク方式による「出席」は、性質上馴染まな
いと考えられたことによるものとされている。
もっとも、制度導入後に運用が重ねられてきた中で、例えば、
しろまる 被害者参加人が多数の事件において、その全てがバーの中に入って訴訟活
動を行うと、かえって一部の被害者参加人にとっては公判審理の状況を把握
しにくくなる場合や、
しろまる 被告人と同一の空間にいることが強い精神的負担になるため、法廷とは別
の部屋から手続に参加することを望む場合
など、被害者参加人がビデオリンク方式により公判期日に「出席」する実務上
のニーズがあることが、新たに認識されるに至っている。
そこで、裁判所は、被害者参加人又はその委託を受けた弁護士が刑事訴訟法
第316条の34第1項の規定により公判期日に出席する場合について、一定
の要件を満たすときは、ビデオリンク方式によることができるものとすること
が考えられる。
(イ) ビデオリンク方式による「出席」を可能とすることの許容性について
被害者参加人に許された訴訟活動の内容に照らすと、被害者参加人がビデオ
リンク方式により「出席」したとしても、それによって、被告人の権利利益や
当事者の訴訟活動等に重大な支障が及ぶことは基本的に想定されず、また、法
廷にいる裁判官や検察官・弁護人が被害者参加人の様子をつぶさに観察する必
要性も特にないと考えられる。
したがって、一定の要件の下、被害者参加人がビデオリンク方式により公判
期日に「出席」することを認めることについて、特段の支障はないと考えられ
る。
また、被害者参加人についてビデオリンク方式による「出席」を認める場合
には、そのような状況の下においても、被害者参加人が被害者参加弁護士によ
る援助を適切に受けることができるよう、被害者参加弁護士が被害者参加人の
傍らにおいてビデオリンク方式により「出席」することについても、認められ
るべきものと考えられる。
なお、被害者参加人は、証人の尋問の申出を検察官に対してするものとされ
- 35 -
ている(刑事訴訟法第316条の36第1項・第2項)など、その権限行使に
関し、検察官との間で十分な意思疎通を図る必要があるところ、検察官が法廷
に現実に所在して出席する一方で、被害者参加人はビデオリンク方式により出
席する場合には、相互の十分な意思疎通が確保されるよう、配慮を要するもの
と考えられる。
(ウ) ビデオリンク方式による「出席」の要件の在り方について
前記(イ)のとおり、被害者参加人がビデオリンク方式により「出席」したとし
ても、それにより被告人の権利利益等に重大な支障が及ぶことは基本的に想定
されないから、刑事訴訟法第157条の6第1項各号や同条第2項各号に掲げ
るもののような、必要性を示す類型的要件を設ける必要はないと考えられ、例
えば、裁判所が、被害者参加人から申出があり、かつ、訴訟運営上の支障の観
点から相当と認めるときは、ビデオリンク方式によることができるものとする
ことが考えられる。
相当性の判断に当たっての考慮事情としては、例えば、被告事件に係る犯罪
の性質、被害者参加人の年齢・心身の状態・被告人との関係のほか、被害者参
加人の居住地、その人数、希望する訴訟行為の有無・内容等が考えられること
から、それらを条文上例示することなども考えられる。
ウ 被告人・弁護人、被害者参加人・被害者参加弁護士がビデオリンク方式により
「出頭」・「出席」をする場合の所在場所について(考えられる方策1・2共通)
公判においては、関係者のプライバシーに関する情報が取り扱われるところ、
その状況が無断で録音・録画されるおそれがあるとすれば、被告人や証人等が真
実を供述することをためらい、それにより事案の真相解明が妨げられるおそれが
ある。そのため、実務においては、こうしたことを踏まえ、公判廷において、裁
判所の許可を得ずに録音・録画を行うことが禁止されているところであるが、被
告人等がビデオリンク方式により公判期日への「出頭」等をすることができるこ
ととした場合についても、被告人等の所在場所において法廷の状況が無断で録音
・録画されるおそれがあるとすれば、事案の真相解明が妨げられるおそれがある
ことは同様であるから、そのような事態を防止できる状況が確保される必要があ
ると考えられる。
また、ビデオリンク方式により「出頭」等をする被告人等の所在場所について
は、裁判所の訴訟指揮権や法廷警察権の行使を確保するという観点からの配慮も
必要となると考えられる。
したがって、ビデオリンク方式により公判期日に「出頭」等をする被告人等の
所在場所は、例えば、ビデオリンク方式による「出頭」等に必要な設備・体制が
整った場所であって、裁判所が相当と認める場所とすることが考えられる。具体
的には、被告人については、必要な設備や体制を備えた刑事施設、医療施設等と
することが考えられる。また、被害者参加人については、前記の無断録音・無断
録画の防止の観点のほか、訴訟指揮権等の行使を十全なものとし、また、検察官
との意思疎通を十分に図ることができるようにする観点から、公判廷が開かれる
法廷と同一構内の別室や、他の裁判所構内等の場所とすることが考えられる。
- 36 -
なお、被害者参加人がビデオリンク方式により出席することを可能とする場合
において、被害者参加人が多数に上る場合には、訴訟指揮権の行使に支障がない
ようにするなどの観点から、その所在場所を一定の場所に限定したり人数の制限
や代表者の選定を求めたりする場合があり得ると考えられる(刑事訴訟法第31
6条の34第3項)。エ 裁判官・裁判所書記官・裁判員、検察官のビデオリンク方式による公判廷への
「列席」・「出席」の要否について
現行法上、公判廷は、裁判官及び裁判所書記官(裁判員裁判においては、更に
裁判員)が「列席」し、かつ、検察官が「出席」してこれを開くものとされてい
る(刑事訴訟法第282条第2項、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(以
下「裁判員法」という。
)第54条第1項)
。これらの規定にいう「列席」・「出席」
は、
裁判所の法廷にそれらの者が物理的に所在することを意味するものと解され、
実際の運用においても、公判手続は、裁判所構内の法廷に裁判官等が列席し、そ
こに検察官その他の訴訟関係人が出席して行われてきた。
今後も、裁判所構内の法廷において公判廷を開き、公判手続を行うとすると、
そこに勤務している裁判官や裁判所書記官がビデオリンク方式により「列席」す
ることが必要となる場面は、
基本的に想定し難く、
むしろ、
前記ア(イ)aのとおり、
対面による場合とビデオリンク方式による場合とで観察の状況等に事実上の差異
があることは否定し難いとすれば、裁判員を含め、合議体を形成する者の間に現
実に列席する者とビデオリンク方式による者とが混在することは、できる限り避
けるべきであると考えられる。
したがって、裁判官、裁判所書記官及び裁判員について、ビデオリンク方式に
よる「列席」を可能とする必要性はないと考えられる。
また、検察官についても、例えば、それまで公判に出席してきた検察官が次の
公判期日に出席することができない場合には、他の検察官が代わりに出席するこ
とが可能であるから、敢えてビデオリンク方式による「出席」を可能とする措置
を講じる必要はないと考えられる。
- 37 -
(6) 裁判員等選任手続について
考えられる方策
裁判所は、裁判員等選任手続期日に裁判員候補者を呼び出す場合において、一
定の要件を満たすときは、他の裁判所の構内その他の適当と認める場所に出頭さ
せ、同期日の手続をビデオリンク方式によりすることができるものとする。
* 「ビデオリンク方式」とは、対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相
手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を指す。
〔補足説明〕
ア 裁判員等選任手続への「出頭」にビデオリンク方式を活用することを可能とす
る意義
裁判員法第29条第1項は、
「呼出しを受けた裁判員候補者は、裁判員等選任手
続の期日に出頭しなければならない」ものとし、正当な理由なく出頭しない場合
には過料を科すものとしている(裁判員法第112条第1号)。裁判員等選任手続期日を開くことができる場所については、法律上の制限はな
いものの、裁判官が列席し、検察官・弁護人が出席して行われる手続(裁判員法
第32条第1項)であるため、通常は、裁判所の構内において開催されていると
ころ、呼出しを受けた裁判員候補者の中には、裁判所までの移動に長時間を要す
る者もあり、呼出しを受けた裁判員候補者の個々の事情に応じ、ビデオリンク方
式を活用して裁判員選任手続期日に「出頭」することを可能とすることは、裁判
員候補者の負担の軽減につながると考えられる。
また、感染症拡大時等においては、裁判所の構内以外にも裁判員候補者の出頭
場所を設けるなど、多数の者が特定の場所に集中する状況を回避する工夫が必要
となり得ることからすれば、ビデオリンク方式の活用は、そのような場合に、裁
判員候補者となった国民の安全を確保しつつ、裁判員等選任手続を滞りなく進行
させることに資することとなる。
そもそも、裁判員候補者に裁判員等選任手続期日への出頭が義務付けられてい
る趣旨は、裁判員となる国民の負担の公平を図るとともに、できる限り幅広い層
から裁判員が選任されるようにするところにあるとされている。ビデオリンク方
式を活用して「出頭」することを可能とすることは、選任手続期日への出頭に係
る裁判員候補者の選択肢を増やすものであるから、
その趣旨に適うものといえる。
そこで、裁判所は、裁判員等選任手続に裁判員候補者を呼び出す場合において、
一定の要件を満たすときは、他の裁判所の構内その他の適当と認める場所に出頭
させ、同期日の手続をビデオリンク方式によりすることができるものとすること
が考えられる。
イ ビデオリンク方式を活用した「出頭」の要件の在り方について
裁判員等選任手続期日においては、裁判長が、裁判員候補者に対し、選任資格
を有する者であるかどうか等を判断するために必要な質問をする(裁判員法第3
4条第1項)などの手続が行われるところ、その判断に当たり、裁判員候補者の
回答に加えて、その者の表情等を詳細に観察する必要性はそれほど高くないと考
- 38 -
えられ、質問がビデオリンク方式により行われることによって手続の目的が果た
されなくなることは考え難い。他方で、例えば、通信設備等の状況によっては、
裁判員候補者の容貌等の観察に不具合が生じる場合や、後記ウのとおり、ビデオ
リンク方式を活用する場合に裁判員候補者が所在する場所として適当な場所がな
い場合にまで、同方式を活用した「出頭」を認めることは相当とはいえないもの
と考えられる。
そこで、裁判員等選任手続期日を主宰する裁判所において、検察官及び弁護人
の意見を聴きつつ、適当な設備や場所が利用可能かどうかなどの点を踏まえ、裁
判員候補者を同期日が開かれる場所とは別の場所に出頭させてビデオリンク方式
により手続を行うことが相当と認められるときは、これを認めることとすること
が考えられる。
ウ 裁判所による出頭場所の指定について
裁判員等選任手続は、裁判員候補者や被害者のプライバシーの保護を図る観点
から、公開しないものとされている(裁判員法第33条第1項)
。このことからす
れば、裁判員候補者について裁判員等選任手続期日が開かれる場所とは別の場所
に出頭させてビデオリンク方式により手続を行うことを認める場合には、その所
在場所については、その周囲に第三者が所在することなどにより裁判員候補者や
被害者のプライバシー情報が漏えいするおそれがないことが確保された場所であ
る必要がある。
また、そのような場所として、例えば、裁判員等選任手続期日が開かれる裁判
所とは別の裁判所等が考えられるところ、多数の裁判員候補者がビデオリンク方
式を利用することを希望する場合には、適当な設備を備えた裁判所の収容可能人
数を超えてしまうことや、それぞれ別の裁判所等から「出頭」することを認める
と円滑な訴訟運営に支障を来すことなども考えられる。
これらのことからすれば、裁判員等選任手続期日が開かれる裁判所とは別の場
所に出頭させてビデオリンク方式により手続を行うこととする場合の裁判員候補
者の所在場所については、裁判所が指定するものとすることが適切であると考え
られる。
エ 被告人のビデオリンク方式による「出席」について
裁判員法第32条第2項は、
「裁判所は、必要と認めるときは、裁判員等選任手
続に被告人を出席させることができる」ものとしているところ、これは、例えば、
裁判員候補者が自分は被告人の同居人であるなどと述べている場合に、被告人に
その者の顔を確認させる必要がある場合などを想定したものとされている。
そのような趣旨で被告人を裁判員等選任手続期日に出席させる場合について、
ビデオリンク方式を活用することが可能となれば、勾留中の被告人の押送の負担
をなくすことができるなど、合理化を図ることができると考えられる。他方で、
対面により観察する場合とビデオリンク方式により観察する場合とで人の容貌等
の印象が異なり得るなど、両者の間には事実上の差異があり得るところ、そのこ
とにより、前記のような被告人を裁判員等選任手続期日に出席させる目的を達す
る上で支障が生じることも考えられないわけではない。
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被告人を裁判員等選任手続期日に「出席」させるに当たってビデオリンク方式
を活用することができるものとすることについては、そのような事実上の差異が
手続の目的を達する上で支障を生じさせ得ることのほか、実務上のニーズも踏ま
えつつ、検討することが考えられる。
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(7) 公判審理の傍聴について
〔検討の状況〕
憲法第82条第1項は、
「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。
」と
規定し、裁判の公開原則を定めている。その趣旨は、裁判を一般に公開して裁判
が公正に行われることを制度として保障し、ひいては裁判に対する国民の信頼を
確保しようとするところにあるとされる。これを受け、一般に公判審理は公開さ
れ、傍聴を希望する者は、裁判所に足を運べば、開廷中、自由に法廷の傍聴者の
区画に入って公判審理の状況を傍聴することができる。
他方で、諸外国においては、公判審理のオンライン傍聴が可能となっている例
があり、我が国においても同様にオンライン傍聴を可能とすれば、憲法が規定す
る裁判の公開の趣旨をより一層促進することができるとともに、国民の知る権利
に資するとも考えられる。
また、オンライン傍聴が可能となれば、被害者や被害者の遺族が法廷の傍聴席
の数や法廷までの移動の負担等に制約されることなく公判審理を傍聴することも
可能となるし、
被告人がいる法廷で傍聴することに精神的苦痛を感じる被害者が、
そうした苦痛を避けつつ傍聴することも可能となると考えられる。
もっとも、公判審理のオンライン傍聴を可能とすることにより、法廷内の傍聴
席にいる者に限らず、より広い範囲の者が審理の内容に接することができるよう
になり、特に、裁判所の法廷警察権等を及ぼすことが困難な場所にいる多数の者
が視聴することとなることから、それに伴い、例えば、次のような弊害が生じ得
ることにも留意する必要がある。
しろまる 公判審理において明らかにされる証言の内容や事件の詳細が広く知られるこ
ととなり、その映像や音声が録音・録画され、インターネット上に半永久的に
残ることとなることも考えられ、その結果として、証人の協力を得ることが困
難となったり、あるいは、証人が萎縮して真実を証言することが困難となった
りするおそれが高まり、事案の真相解明に支障が生じ得る。
しろまる 公判審理の内容が広く知られることとなることなどが、被害者の精神の平穏
を害したり、被告人の社会復帰に悪影響を生じさせたりすることがあり得る。
しろまる 裁判員や証人等の容貌・言動等が広く知られることとなり、それに伴い、そ
れらの者に対する接触行為、困惑・威迫させる行為等が行われる。
以上に加えて、裁判の公開の在り方として、どのような形での「傍聴」を認め
るかは、刑事手続にとどまらず、民事訴訟等を含めた裁判制度全体にも関わる問
題であることから、他の裁判手続の公開の在り方との整合性も含め、慎重に検討
する必要があると考えられる。
- 41 -
3 その他
(1) インターネット上のウェブサイトに掲載する方法による公告について
現行法上、押収物の還付を受けるべき者の所在が分からないなどの場合には、
検察官が公告をし、その日から6か月以内に還付の請求がなければ、その押収物
は国庫に帰属するものとされ(刑事訴訟法第499条)
、公告の方法については、
いわゆる「掲示公告」
(検察庁等の掲示場に一定期間掲示する方法)と「官報公告」
(官報に掲載する方法)が規定されている(押収物還付等公告令第2条)。公告は、このほか、被告人以外の者の所有に属する物の没収を必要とする場合
であって、その者の所在が不明である場合(刑事事件における第三者所有物の没
収手続に関する応急措置法第2条第2項)等にも行われる。
公告の趣旨は、権利者に権利行使の機会を与え、その保護を図るところにある
ところ、現在のインターネット普及率に鑑みれば、インターネット上のウェブサ
イトに掲載する方法でもそのような趣旨は十分に満たされるものと考えられる。
そこで、掲示公告、官報公告以外にも、例えば、
しろまる 押収物について公告をしようとする検察官が、その所属する検察庁のインタ
ーネット上のウェブサイトに掲載する方法
によることを可能とすることにより、掲示公告や官報公告に伴う事務の負担を軽
減することが考えられる。
(2) 刑事訴訟法・刑事訴訟規則以外の法令に関わる方策について
本検討会においては、刑事訴訟法及び刑事訴訟規則に定められた刑事訴訟手続
に焦点を当てた検討が行われたが、同手続と関連し、あるいは、同手続と接続す
る面がある手続として、
しろまる 犯罪被害者等の権利利益の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関す
る法律に規定する「民事上の争いについての刑事訴訟手続における和解」
(いわ
ゆる刑事和解。同法第6章)や、
「損害賠償命令事件」
(同法第7章)に関する
手続
しろまる 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法
律に規定する「審判」
(同法第2章)の手続
しろまる 刑事確定訴訟記録法に規定する訴訟記録の保管・閲覧等の手続
などがあり、これらについても、情報通信技術を活用する方策を検討する必要が
あると考えられる。
(3) 障害者への配慮について
本検討会において検討した「書類の電子データ化、発受のオンライン化」や「捜
査・公判における手続の非対面・遠隔化」の諸方策は、身体に障害を有する者の
刑事手続へのアクセスを向上させることにも資する面もあるように思われるが、
今後、
更に具体的な制度設計やシステム等の整備の内容を検討するに当たっては、
視聴覚の障害その他の様々な障害の有りようにも留意し、あらゆる場面を想定し
た検討が必要となると考えられる。
- 42 -
第4 終わりに
刑事手続においては、長きにわたり、紙媒体による書面の作成・管理・発受や人
と人との対面を基本として捜査・公判が行われてきたが、その間に社会の在りよう
は大きく変化した。取り分け、コンピュータやインターネット等の情報通信技術の
目覚ましい発展と普及は、社会生活における情報の記録やその利用、人と人との間
のコミュニケーションの在り方に革新的な変化をもたらしている。こうした情報通
信技術が刑事手続において広く活用されることとなれば、捜査機関や司法関係者の
限られた人的・物的資源の有効活用がこれまで以上に可能になるほか、被害者や証
人など手続に関与する国民にとっても利便性が大きく向上し、その円滑な協力・参
加が促進されるとともに、
被疑者・被告人の権利利益の保護にも資することとなる。
その意味で、刑事手続における情報通信技術の活用は、刑事手続の機能をより一
層強化し、国民の負託に応えるものとする上で極めて重要な意義を有するものであ
り、必要な法整備が早期に実現することが望まれる。本検討会における検討の結果
を十分に踏まえつつ、関係者の英知を結集しながら、必要な法整備に向けた検討が
迅速に行われることを強く期待したい。
刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会 委員等名簿
令和3年12月23日現在
【座長】
小 木 曽 綾 中央大学教授
お ぎ そ りよう
【委員】
池 田 公 博 京都大学教授
い け だ き み ひ ろ
市 原 志 都 最高裁判所事務総局刑事局第二課長
い ち は ら し づ
河 津 博 史 弁護士(第二東京弁護士会)
か わ つ ひ ろ し
佐久間 佳 枝 東京高等検察庁総務部長
さ く ま か え
笹 倉 宏 紀 慶應義塾大学教授
さ さ く ら ひ ろ き
親 家 和 仁 警察庁刑事局刑事企画課長
し ん か か ず ひ と
永 渕 健 一 東京地方裁判所部総括判事
な が ふ ち け ん い ち
成 瀬 剛 東京大学准教授
な る せ ご う
よ し ざ わ な お み
【関係官】
井 上 正 仁 法務省特別顧問(東京大学名誉教授)
い の う え ま さ ひ と
進 京 一 法務省デジタル統括アドバイザー
し ん きよう い ち
(敬称略、五十音順)
別添 1
「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」開催状況
しろまる 第1回(令和3年3月31日開催)
・ 刑事局長挨拶
・ 意見交換
しろまる 第2回(令和3年4月27日開催)
・ 論点整理
・ 一巡目の議論(
「書類の電子データ化、発受のオンライン化」
(書類の作成・発受、
令状の請求・発付・執行、電子データの証拠収集、閲覧・謄写・交付、公判廷にお
ける証拠調べ))しろまる 第3回(令和3年5月27日開催)
・ 一巡目の議論(
「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」
(取調べ等、被疑者
・被告人との接見交通、打合せ・公判前整理手続、証人尋問等))・ 検討会の取りまとめ時期について、令和3年度末を一応の目安とする旨認識共有
しろまる 第4回(令和3年6月29日開催)
・ 一巡目の議論(
「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」
(公判期日への出頭
等、裁判員等選任手続、公判審理の傍聴)、「その他」)しろまる 第5回(令和3年7月27日開催)
・ 進関係官(政府CIO補佐官/法務省CIO補佐官(当時)
)から、技術面に関す
る説明
・ その後、意見交換
しろまる 第6回(令和3年9月15日開催)
・ 二巡目の議論(
「書類の電子データ化、発受のオンライン化」
(書類の作成・発受、
令状の請求・発付・執行、電子データの証拠収集、閲覧・謄写・交付、公判廷にお
ける証拠調べ))しろまる 第7回(令和3年10月18日開催)
・ 二巡目の議論(
「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」
(取調べ等、被疑者
・被告人との接見交通、打合せ・公判前整理手続、証人尋問等))しろまる 第8回(令和3年11月19日開催)
・ 二巡目の議論(
「捜査・公判における手続の非対面・遠隔化」
(公判期日への出頭
等、裁判員等選任手続、公判審理の傍聴)、「その他」)しろまる 第9回(令和3年12月23日開催)
・ 三巡目の議論(
「書類の電子データ化、発受のオンライン化」、「捜査・公判にお
ける手続の非対面・遠隔化」、「その他」)しろまる 第10回(令和4年2月10日開催)
・ 取りまとめに向けた議論
しろまる 第11回(令和4年3月くろまる日開催)
・ 取りまとめに向けた議論
別添 2

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