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法務省権調第15号
平成31年3月8日
法務局人権擁護部長 殿
地 方 法 務 局 長 殿
法務省人権擁護局調査救済課長
( 公 印 省 略 )
インターネット上の不当な差別的言動に係る事案の立件及び処理につい
て(依命通知)
今般,インターネット上の不当な差別的言動に係る事案の立件及び処理につ
いての考え方を下記のとおり整理するとともに,人権侵犯性を認めるに至らな
い場合の取扱いを定めましたので,今後は,これに従って取り扱い願います。記1 「インターネット上の人権侵害情報による人権侵犯事件に関する処理要領」
における「不当な差別的言動」の解釈
「インターネット上の人権侵害情報による人権侵犯事件に関する処理要領」
(平成16年10月22日付け法務省権調第604号当職通知。以下「処理
要領」という。
)第1の3は,インターネット上の人権侵害情報の類型とし
て「不当な差別的言動」を掲げ,
「特定の者」に対する不当な差別的言動を
削除要請等の救済措置の対象としている。
ところで,不当な差別的言動は,集団や不特定多数の者(以下「集団等」
という。
)に向けられたものが少なくないところ,これら集団等に対する差
別的言動については,従前,処理要領第1の3が規定する「特定の者」に対
するものとはいえないとして,調査・救済措置をとることを差し控えた例が
多かったのではないかと思われる。
しかし,処理要領第1の3が削除要請等の救済措置の対象となる要件とし
て「特定の者」と規定した趣旨は,削除要請等の救済措置をとるためには,
機密性2 完全性1 可用性1
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その前提として救済の対象となる個人の人権が侵害されていること(又はそ
のおそれがあること)が必要であるという当然の理を明らかにしたに過ぎな
い。したがって,集団等が差別的言動の対象とされている場合であっても,
1その集団等を構成する自然人の存在が認められ,かつ,2その集団等に属
する者が精神的苦痛等を受けるなど具体的被害が生じている(又はそのおそ
れがある)と認められるのであれば,やはり救済を必要とする「特定の者」
に対する差別的言動が行われていると評価すべきこととなる。事件の具体的
内容にもよるが,これらの要件の有無を的確に判断し,必要に応じ,適正に
手続を進めることとされたい。
なお,上記2の「その集団に属する者が精神的苦痛等を受けるなど具体的
被害が生じている(又はそのおそれがある)
」の要件の具体的当てはめにつ
いては,下記2の考え方を参考にされたい。
2 「その集団に属する者が精神的苦痛等を受けるなど具体的被害が生じてい
る」の判断の在り方
人権侵犯事件として救済措置をとるためには,その前提として救済の対象
となる自然人の人権が侵害されていること(又はそのおそれがあること)が
必要であるため,集団等に対する差別的言動の場合も,当該集団等に属する
自然人が当該差別的言動により救済が必要な精神的苦痛等を受けたこと(又
はそのおそれがあること)が必要となるところ,自然人の受けた精神的苦痛
等を問題とする以上,その認定の在り方は,差別的言動が集団等に向けられ
た場合と特定の自然人に向けられた場合とで異なるところはないので,
「当
該差別的言動は,当該集団等に属する者であれば精神的苦痛等を受けるよう
な性質のものであった」といえるか否かを社会通念に照らして客観的に判断
するほかなく,また,それをもって足りるというべきである。
したがって,必ずしも当該集団等に属する者からその者が受けた精神的苦
痛等の有無・程度を聴取する必要はなく,また,そもそも当該集団に属する
者から救済の申立てを受ける必要もない。
上記判断の適正さを担保するため,
その集団等に属する者から意見を聴取することは望ましいものの,それは不
可欠なものと位置づけるべきではなく,また聴取した場合であっても,その
供述内容に拘束されることなく,当該差別的言動が,当該集団等に属する者
であれば精神的苦痛等を受けるような性質のものであったといえるか否か
機密性2 完全性1 可用性1
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機密性2 完全性1 可用性1
を,社会通念に照らして客観的に判断されたい。
その際,差別的言動の対象とされた当該集団等の規模等にも留意する必要
がある。すなわち,例えば,当該集団等を特定する際の地域表示等が余りに
広く,当該集団等に属する自然人が極めて多数に及ぶため,仮にそれに属す
る自然人が聞いていたとしてもさしたる精神的苦痛等を感じないであろうと
認められる場合もあると思われるが,そのような場合は,救済の前提となる
人権侵犯性は認め難いこととなる場合が多いのではないかと思われる。
3 調査するも人権侵犯性が認められないと判断した差別的言動の処理
人権侵犯事件として立件・調査したものの,前記1に記載した1又は2の
要件を満たさないために人権侵犯性が認められない(認め難い場合を含む。)差別的言動であっても,それが「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の
解消に向けた取組の推進に関する法律」
(平成28年法律第68号。以下「ヘ
イトスピーチ解消法」という。
)第2条に規定する「本邦外出身者に対する
不当な差別的言動」に該当する場合があり得る。通信関連業界4団体の代表
からなる「違法情報等対応連絡会」が策定した「違法・有害情報への対応等
に関する契約約款モデル条項」の解説において,同モデル条項第1条が禁止
事項として規定する「他者を不当に差別もしくは誹謗中傷・侮辱し,他者へ
の不当な差別を助長し,
またはその名誉もしくは信用を毀損する行為」
には,
ヘイトスピーチ解消法第2条に規定する「本邦外出身者に対する不当な差別
的言動」が含まれる旨明記されていることから,前記理由により人権侵犯性
が認められない差別的言動であっても,それが同条に規定する「本邦外出身
者に対する不当な差別的言動」に該当する場合には,プロバイダ等において
約款に基づき削除等の対応を行うことが想定されている。
そこで,人権侵犯事件として立件・調査の結果,人権侵犯性が認められな
い差別的言動であっても,その調査の過程において,当該差別的言動がヘイ
トスピーチ解消法第2条に規定する「本邦外出身者に対する不当な差別的言
動」に該当すると認められたものについては,プロバイダ等に対し,その旨
の情報提供を行い,
約款に基づく削除等の対応の検討を促すことが望ましい。

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