【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日1意見書
2021(令和3)年4月12日
委員 金杉美和
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する 当職の修
正意見は、下記のとおりです。記1(1) 該当箇所
9頁上から17行目
「といった意見も述べられたが、包括的な要件を設けること自体には、
おおむね異論はなかった。
(改行)そして、この包括的な要件をどのよう
な文言で」
(2) 修正案
「といった意見も述べられた。
(改行)そして、包括的な要件を設ける
場合にどのような文言で」とされたい。
(3) 理由
同頁の6の意見は、 私の意見をまとめていただいたものと思われます
が、私としては、この意見は2「その他意に反する性的行為」という文言
での規定のみならず、
包括的な要件を設けるということ自体の限界につき
述べたつもりです。
そもそも、6頁の上から4行目でまとめていただいたとおり、私も「安
定的で適切な運用に資するような改正であれば」
「検討に値する」という
意見ではありますが、検討した結果、処罰範囲の外延を明確にしうる例示
列挙のあり方や包括的な要件の策定は難しい、
そうであるならば安易に改
正すべきではないという立場です。
8頁上から3行目の「例示列挙とせざるを得ないとの意見が述べられ、
これに特に異論はなかった」という部分も同様ですが、そもそも改正すべ
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日2きでないという意見であるため、
改正を前提とした文言の規定の仕方等に
対して、その都度同じ意見(改正の必要はない)を繰り返し述べることを
しなかったに過ぎません。これを捉えて、
「異論はなかった」とされるこ
とには抵抗があります。
8頁上から3行目につきましては、それ以前の文脈から「列挙する場合
には」
という前提条件の下での議論であることが辛うじてわかりますので
強いて修正を求めませんが、9頁17行目につきましては、包括的な要件
を設けること、
ひいては改正そのものにつき強い異論があるということを
ご理解いただきたく、上記のとおりの修正を求めます。
2(1) 該当箇所
13頁(ア)の上から5行目
「特性に応じた対処が必要であることについては、異論がなかった」
(2) 修正案
「特性に応じた対処を検討すべきであることについては、異論がなか
った」
(3) 理由
この論点についての私の意見は、14頁4、15頁14に要約していただ
いていると思われます。
その要約には異存ありませんが、
私はあくまでも、
現行の児童福祉法や青少年保護育成条例及びそれらの改正で足りるので
はないかという意見であり、上記14の意見にしても、
「それでもなお刑法
にこうした規定を入れる必要があるのであれば」
という前提で述べたもの
です。
従いまして、現行の法体制では不十分であり、何らかの対処が必ず必要
だという意見ではありません。対処を「検討」する必要性については異論
ありませんので、上記のとおり修正を求めます。
3(1) 該当箇所
14頁上から4行目
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日3「その特性に応じた対処の必要があることについては認識が共有され
た」
(2) 修正案
「その特性に応じた対処を検討すべきことについては認識が共有され
た」
(3) 理由
上記2と同様の理由です。
4(1) 該当箇所
16頁2の下
「といった意見が述べられ、これに対する異論はなかった」
(2) 修正案
i「といった意見が述べられた」またはii「といった意見が述べられ、
これに対しては概ね異論はなかった」
(3) 理由
私の意見は、障害者の障害に乗じて性交等を行う行為のうち当罰性の
高いものは既に178条2項で補足できているのであり、
適用のばらつき
があるとの指摘を踏まえ要件解釈を明確化するため例示列挙する方法(同頁1)はあり得るとしても、
「新たに障害者を被害者とする処罰規定を設
けること」が「必要(同頁2)
」とは考えていません。同頁2の意見が、
その前の部分の
「新たに障害者を被害者とする処罰規定を設けることの要
否・当否」につき「必要」だとする意味なのであれば、これに対しては異
論があります。
従いまして、上記iのように評価を省いていただくか、少なくともiiの
ように一部異論があったことはとどめていただくか、
いずれかの修正をお
願い致します。
5(1) 該当箇所
22頁上から1行目
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日4「被告人が起訴された事実と別の事実を主張するという形で反論する
ことが困難又は不可能になる」
(2) 修正案
「被告人が、当該日時には別の場所にいたというアリバイ主張や、当該
場所は当時そのような客観的状況ではなかった等、
起訴された事実と異な
る事実を主張するという形で反論することが困難又は不可能になる」
(3) 理由
同頁9の意見は私の意見をまとめていただいたものと思われます が、
原案の記載のみでは意味がわかりにくいことから、
私が述べた例示を付加
させていただきました。
6(1) 該当箇所
27頁上から4行目
「その特性に応じた対処の必要があることについては、認識が共有さ
れた」
(2) 修正案
「その特性に応じた対処を検討すべきことについては、認識が共有さ
れた」
(3) 理由
上記2及び3の理由と同様です。
7(1) 該当箇所
28頁上から7行目
「その特性に応じた対処が必要であることに鑑み」
(2) 修正案
「その特性に応じた検討が必要であることに鑑み」
(3) 理由
上記2,3及び6の理由と同様です。
8(1) 該当箇所
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日540頁上から1行目
「などとして、処罰規定を設けるべきとする意見が多く述べられた。」(2) 修正案
「などとして、処罰規定を設けるべきとする意見が多く述べられた一
方で、
(改行)5現在の暴行・脅迫要件の撤廃や不同意を徴表する包括的
な要件を設けるといった議論状況からすると、行為者の側が、認識の相違
による将来の被害申告等に備え、
性交等の同意の存在を立証するため相手
から文書を取り付けるか、
或いは同意なく一部始終を撮影しておく必要性
が生じることもあながち非現実的とはいえないところ、
そうした場合に行
為者が撮影した動画により強制性交等罪につき無罪となったとしても、不同意の撮影行為により有罪とされてしまう事態も起こりうることから、撮影行為そのものを刑法において処罰する規定を設けるのではなく、
流通さ
せる行為の処罰ないしは 有罪判決を前提としない行政没収等で対応すべ
きである(改行)との意見も述べられた。」(3) 理由
第13回検討会において、上記のとおりの意見を述べました。これにつ
いては、
そもそもそのような事態が生じないように処罰範囲を明確にする
必要があることが大切であるという佐藤委員からのご指摘には私も賛同
致しますし、かつ上谷委員からのご反論があったことも了解しています。
しかしながら、私自身はとても大切な指摘だと考えておりますので、佐
藤委員のご指摘及び上谷委員のご反論も併せてで結構ですので、
上記の点
は取りまとめに入れていただきたく、修正を求めます。
9(1) 該当箇所
48頁下から3行目及び49頁8の上2行目
「といった意見も述べられたが、これに対しては、
(改行)」「といった意見が述べられた」
(2) 修正案
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日6「といった意見が述べられた。この点については、」「といった意見も述べられた」
(3) 理由
48頁5は私の意見を要約していただいたものだと思われますが、 4
5の意見と67の意見は、必ずしも45「に対して」67が述べられたと
いう前後関係にはないように思います。上記のように、両論併記的な記載
としていただくよう求めます。
10(1) 該当箇所
54頁6
「弁護士については、弁護士会において、国選弁護人の登録に際し、被
害者への対応の在り方を含めた刑事弁護に関する研修を義務付けること
を検討している」
(2) 修正案
「弁護士については、弁護士会において、刑事弁護を行うに際し、研修
の受講を必要とすることなどの検討を始めており、これにより、被害者へ
の対応の在り方を含めた刑事弁護全体の底上げが図られると思われる」
(3) 理由
上記6は第14回における当職の意見と思われますが、要約が不正確
であり、事実と異なってしまうため、上記のとおりご修正ください。
11(1) 該当箇所
55頁2
「証人に対する二次被害を防止するための方策として、刑事訴訟法上、
遮蔽、ビデオリンク、期日外尋問といった規定が存在しており、これらの
規定を活用すべきである。」(2) 修正案
「証人に対する二次被害を防止するための方策として、刑事訴訟法上、
遮蔽、ビデオリンク、期日外尋問といった規定が存在しており、これらの
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日7規定は被告人の反対尋問権を制約するものであるが、一応形としては、中
立な裁判所の前で立証責任を負う検察官が尋問をし、
被告人が不在となる
場合でも弁護人が被告人の立場から反対尋問をすることが制度的に担保
されており、そのような制度を超えて、全く尋問の機会が与えられずに記
録媒体に証拠能力を認めるということには、抵抗がある」
(3) 理由
5頁2の意見については、おそらく第11回における私の発言(議事録
25頁)をまとめていただいたのではないかと思われますが、これは遮蔽
措置等の規定を「活用すべきである」との文脈で述べたもの ではなく、二
次被害の防止に資するものとして現行法上規定されている遮蔽措置等と
比較しても、
検討対象とされている記録媒体に証拠能力を付与することの
問題点は大きく、不当であるという趣旨で申し上げていますので、上記の
とおり修正を求めます。
12(1) 該当箇所
57頁6
「弁護人の防御権の問題や、反対尋問なしに証拠能力を認めると被告
人が納得できず、再犯防止にもならないことも考慮すると、規定bの創設
を検討すべきである」
(2) 修正案
「証人尋問の機会を与えないとすることは憲法第37条第2項の証人
尋問権の侵害であり、
ましてや医師・臨床心理士といった専門家ではなく、
せめて裁判官のような中立の立場でもない、
一方当事者である検察官が行
った司法面接的手法による記録媒体に、
反対尋問なしに証拠能力を認める
とすると、被告人が納得できず、再犯防止にもならないことに鑑みれば、
規定aの創設は容認できない」
(3) 理由
57頁6の意見については、おそらく 第14回における私 の意見であ
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日8ろうかと思われますが、
私は規定bの創設を検討すべきであると積極の意
見を述べたのではなく、bの方向で検討するならまだしも、規定aは到底
容認できないという立場です。
また、57頁5の意見については、中川委員の意見が基礎となっている
ように思われますが、
主尋問代替は被害者の負担軽減に繋がらない のでは
ないかという部分は私の意見と思われますし、他にも宮田委員、佐藤委員
など複数の委員の意見が乱雑に統合されている印象があります。
5の意見を切り分けるのは私単独では修正案を提示しかねますが、せ
めて6につきましては、
私の意見の趣旨を正確に取り上げていただきたく、
上記のとおり修正を求めます。
13(1) 該当箇所
59頁上から9行目
「取組を迅速に進めることを期待したい。
(改行)また、性犯罪に適切
に対処するためには、言うまでもなく、刑事法の」
(2) 修正案
「取組を迅速に進めることを期待したい。ただし、その際には、処罰さ
れるべき範囲を明確にし、
本来処罰されるべきでない行為が処罰されるこ
とのないよう、
えん罪を生まないための制度とする視点が必要であること
は言うまでもない。
(改行)また、性犯罪に適切に対処するためには、刑
事法の」
(3) 理由
これまで私は、性犯罪の根絶は願いながらも、そもそも刑事裁判で有罪
が確定するまでは、それが「性犯罪」なのかどうか自体が不明であるとい
うことを前提に、処罰されるべき行為が正しく処罰され、処罰されるべき
でない行為が処罰されることのないような改正は可能なのか、
という観点
から意見を申し述べてきました。現状の「第4 終わりに」のまとめ方で
は、改正ありきであって、刑法の謙抑性・補充性や、えん罪防止の観点が
【金杉】
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書(案)に対する意見
2021年4月12日9欠如しているように思われます。
様々な意見がある中で、取りまとめの総括をすることが困難であるこ
とは承知しておりますが、
性犯罪については被害者からの被害申告があれ
ば刑事裁判を経ずに直ちに有罪 となるといった考え方に立たないのであ
れば、
せめて罪刑法定主義やえん罪防止の視点には言及していただきたく、
上記のとおり修正案をご提案します。
以上

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