「性犯罪に関する刑事法検討会」 取りまとめ報告書(案)


「性犯罪に関する刑事法検討会」
取りまとめ報告書(案)
令和3年しろまる
性犯罪に関する刑事法検討会
「性犯罪に関する刑事法検討会」取りまとめ報告書 目次
第1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第2 本検討会の開催趣旨及び開催状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第3 各論点についての検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
1 刑事実体法について
(1) 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)
・・・・・・・・・・・・・3
(2) 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方
ア 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件・・・・・・・・・・・・・5
イ 立証責任の転換規定・推定規定・・・・・・・・・・・・・・・・11
ウ 被害者が同意していないことの認識に関する要件・・・・・・・・12
(3) 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方
ア 地位・関係性を利用した犯罪類型・・・・・・・・・・・・・・・13
イ 同一被害者への継続的な性的行為を処罰する規定・・・・・・・・20
ウ いわゆるグルーミング行為を処罰する規定・・・・・・・・・・・23
(4) いわゆる性交同意年齢の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・25
(5) 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲・・・・・・・・・・・・・29
(6) 法定刑の在り方
ア 加重類型・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
イ 法定刑の下限の引下げ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
(7) 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方・・・・・・・・・37
(8) 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方
ア 処罰規定・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39
イ 没収・消去・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43
2 刑事手続法について
(1) 公訴時効の在り方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47
(2) いわゆるレイプシールドの在り方・・・・・・・・・・・・・・・・52
(3) 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方・・・・55
第4 終わりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59
資料
別添1 委員名簿
別添2 開催状況
別添3 ヒアリング出席者
別添4 検討すべき論点
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第1 はじめに
「性犯罪に関する刑事法検討会」
(以下「本検討会」という。
)は,平成29年
6月に成立し,同年7月に施行された刑法の一部を改正する法律(平成29年法
律第72号。以下「平成29年改正法」という。
)附則第9条に基づいて,平成
29年改正法の施行後3年を目途として政府が行うこととされている,性犯罪に
係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り方についての検討の一環と
して,法務省として刑事法に関する施策の在り方について検討を行うため,法務
大臣の指示により,開催することとされたものである。
本検討会は,しろまる回の会議を開催して,刑事の実体法・手続法に関する各論点に
ついて議論を行ってきたところであり,ここにその議論の結果を取りまとめ,公
表することとした。
第2 本検討会の開催趣旨及び開催状況
1 本検討会の開催趣旨
平成29年改正法附則第9条には,
「政府は,この法律の施行後3年を目途
として,性犯罪における被害の実情,この法律による改正後の規定の施行の状
況等を勘案し,性犯罪に係る事案の実態に即した対処を行うための施策の在り
方について検討を加え,必要があると認めるときは,その結果に基づいて所要
の措置を講ずるものとする。
」と規定されている。
法務省では,この検討に資するよう,平成30年4月から,省内の関係部局
の担当者を構成員とする「性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキン
ググループ」を開催し,各種の調査・研究や被害当事者・被害者支援関係者等
からのヒアリング,
ワンストップ支援センターの視察等により実態把握を進め,
令和2年3月,取りまとめ報告書を公表した。刑事法に関する調査・研究とし
ては,平成29年改正法による改正後の規定の施行状況に関する調査,平成3
0年度の裁判例・不起訴事件の調査,海外法制の調査等を行った。
そして,これらの調査・研究やヒアリング結果等をも踏まえ,法改正の要否
・当否について,幅広く意見を聴いて論点を抽出・整理し,議論を行うため,
令和2年3月,被害当事者,被害者心理・被害者支援関係者,刑事法研究者,
実務家を構成員とする本検討会(別添1:委員名簿)の開催が決定された。
2 本検討会の開催状況
第1回会議に先立って各委員から意見書の提出を受けた上で,令和2年6月
4日,第1回会議を開催し,令和3年しろまる月までの間に,計しろまる回の会議を開催し
た(別添2:開催状況)。第1回会議では,各委員から,今後の議論を進めるに当たっての視点・留意
点,平成29年改正法による改正後の規定の施行状況に対する評価・意見及び
本検討会で検討すべき論点に関する意見が述べられた。
そして,専門的知見を有する者からの更なるヒアリングが必要であるとの意
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見を踏まえ,第2回・第3回会議では,1男性の被害,2性的マイノリティの
被害,3子供の被害,4司法面接,5教員からの被害,6フランス刑法の性犯
罪規定,7加害者臨床,8刑事弁護について,計9名からヒアリングを実施し
た(別添3:ヒアリング出席者)。その上で,第4回会議において,第1回会議に先立つ意見書,第1回会議で
述べられた意見及び第2回・第3回会議のヒアリング出席者からの意見を踏まえ,本検討会で検討すべき論点を検討・整理し,
第5回会議において決定した。
具体的には,
「第1 刑事実体法について」として,
1 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)
2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方
3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方
4 いわゆる性交同意年齢の在り方
5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲
6 法定刑の在り方
7 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方
8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方を,「第2 刑事手続法について」として,
1 公訴時効の在り方
2 起訴状等における被害者等の氏名の取扱いの在り方
3 いわゆるレイプシールドの在り方
4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方
をそれぞれ検討すべき論点とした(なお,性交等に係る罪に関する論点につい
ては,わいせつ行為に係る罪についても同様。)(別添4:検討すべき論点)。このうち,
第2の
「2 起訴状等における被害者等の氏名の取扱いの在り方」
については,当時の法務大臣の指示により,本検討会における検討を待たずに
別途改正に向けた検討を進めることとされ,本検討会においては,これを除く
各論点について検討を行うこととされた。
その後,
各論点について,
一巡目の議論を第5回会議
(令和2年8月27日)
から第7回会議(同年10月20日)まで,二巡目の議論を第8回会議(同年
11月10日)から第11回会議(令和3年1月28日)まで,三巡目の議論
を第12回会議(同年2月16日)から第14回会議(同年3月30日)まで
行った上で,取りまとめに向けた議論を行い,本報告書のとおり取りまとめる
に至った。
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第3 各論点についての検討
1 刑事実体法について
(1) 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)
現行法がどのように運用されているか,処罰すべき行為が適切に処罰されな
い事態が生じているか
ア 議論の前提とすべき事柄
個々の論点についての議論に先立ち,性犯罪全般に関して,現行法の運用の
実情に関する認識等について意見が述べられた。
このうち,議論の前提とすべき事項について,
1 性犯罪の被害に遭った人の一部しか警察に届け出ることができておらず,
統計に表れてこない暗数があることを踏まえて議論すべきである
2 強い恐怖や驚愕に直面したときの人の生物学的反応や,虐待の被害者など
力に支配された人の心理学的・精神医学的反応について理解した上で,性犯
罪の規定の在り方について検討することが必要である
といった意見が述べられ,性犯罪被害の実態に対する理解の重要性について認
識が共有された。
イ 性犯罪の保護法益に関する議論
性犯罪の保護法益については,強制性交等罪の暴行・脅迫の要件やいわゆる
性交同意年齢の在り方等について検討を行う際に議論が行われた。
この点については,判例・通説は,性犯罪の保護法益を「性的自由・性的自
己決定権」であるとしており,そのような見解に異論はないとの意見が述べら
れた一方で,保護法益を性的自己決定権と解することに対しては,幼い子供が
被害者である場合に法益侵害を観念し難いとの意見や,暴行・脅迫の程度が自
己決定権を凌駕するような強度のものであることが必要となるといった意見も
述べられた。
保護法益については,このほかに,
1 性犯罪は,心身の境界線の侵害であり,
「身体の統合性」を破壊する行為
である
2 性的自由に加え,尊厳,自律,身体の統合性を含んだ概念である「性的統
合性」を保護法益とすべきである
3 一定の上下関係に基づいて行う性的行為自体に侵害性があり,その上下関
係を利用して性的利益を奪い取ることに性犯罪の本質があるから,
「人格的
統合性」や「性的尊厳」を保護法益とすべきである
といった意見が述べられたが,
保護法益をどのような言葉で表現するとしても,
性犯罪の被害は,PTSD(心的外傷後ストレス障害)や自殺企図などを引き
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起こし,長期にわたって社会生活・対人関係に深刻な影響を及ぼし得る重大な
被害であるとの認識が共有された。
ウ 性的行為に対する同意に関する議論
性犯罪の処罰規定の本質は,被害者が同意していないにもかかわらず性的行
為を行うことにあるとの結論に異論はなかった。
その上で,性的行為に対する処罰を基礎付けることとなる同意の内容につい
ては,
1 性交は,双方が合意を形成しながら互いに参加して行うものであるから,
相手方から明確な同意を得ていない性交は処罰されるべきであり,いわゆる
「Yes means Yes」型,すなわち,自発的に参加していない人に対して行う
性交を処罰の対象とすべきである
といった意見が述べられた一方で,
2 性的行為はコミュニケーション手段の一つであり,性的行為に至る過程も
様々であって,ノンバーバルなコミュニケーションにおいて,同意の有無に
ついての認識に齟齬が生じることがあり得るところ,性的行為自体は犯罪行
為ではないから,刑罰による制裁を行うことが正当化できるだけの当罰性を
有する行為である必要がある
3 現在の日本においては,性的行為に同意しているか否かを言語や行為によ
って明確かつ一義的に表示すべきとの社会通念が十分に定着しているとは言
い難く,被害者が内心では性的行為に同意していた可能性がある場合まで,
広く処罰対象となるおそれがある
といった意見も述べられた。
この点については,
4 そもそも,我が国では,
「性的同意」という概念が浸透しておらず,社会
的に何を性的行為の同意と見るかが曖昧で,明確な拒絶の意思表示がないこ
とが同意を示すものではないということが理解されていないため,性的行為
に対する同意の在り方について国民の間で議論することが必要である
といった意見も述べられた。
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(2) 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方
ア 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件
しろまる 強制性交等罪の暴行・脅迫の要件,準強制性交等罪の心神喪失・抗拒不
能の要件を撤廃し,被害者が性交等に同意していないことを構成要件とす
べきか
しろまる 強制性交等罪の暴行・脅迫の要件,準強制性交等罪の心神喪失・抗拒不
能の要件について,判例上必要とされる「被害者の抗拒を著しく困難にさ
せる程度」を緩和した要件とすべきか
しろまる 強制性交等罪や準強制性交等罪の構成要件として,暴行・脅迫や心神喪
失・抗拒不能に加えて,又はこれらに代えて,その手段や状態を明確化し
て列挙すべきか
(ア) 議論の概要
被害者が性交等に同意していないにもかかわらず,その意思に反して行う性
交等は,性犯罪の保護法益をどのように理解するにせよ,被害者の法益を侵害
する行為であるということについて,異論はなかった。
他方で,被害者が一定の年齢未満であるといった事情がないのであれば,例
えば,虚偽の結婚の約束をすることにより同意させた場合や,金を支払うとの
虚偽の約束をすることにより同意させた場合についてまで刑法で処罰すること
は相当ではないということについても,異論はなかった。
その上で,処罰すべき行為を取り込み,かつ,処罰すべきでない行為を取り
込まない構成要件の在り方について議論を行った。
(イ) 改正の要否・当否に関する議論
改正の要否について,
1 現状の運用に問題があるという場合に,
その原因が,
構成要件にあるのか,
その解釈の問題なのか,あるべき解釈が共有されていないことによるのか,
当該事件における証拠上の問題なのか,又は検察官の訴因の選択や立証の問
題なのかを切り分けて議論することが必要である
といった意見が述べられた一方で,
2 暴行・脅迫や抗拒不能の要件が障害となり,同意なき性交が処罰されてい
ない現実があるため,法改正をすべきである
3 暴行・脅迫要件の解釈の拡大により処罰範囲が広げられてきたとはいえ,
ほとんど同じように見える事案であっても,起訴されて有罪になるものもあ
れば,警察が被害届を受理しないものや検察で不起訴処分とされるものもあ
るなど,運用に差があるから,これを是正するため,また,国民にも分かり
やすくするため,適切な要件の検討が必要である
4 暴行・脅迫要件は,被害者の意思に反する性的行為であることを明確に認
定するための徴表として機能しているが,これを限定的に捉える解釈の余地
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が全くないわけではないから,
「暴行又は脅迫を用いて」との文言が実務の
運用にばらつきを生じさせる原因になり得ることを踏まえ,改正の可能性を
含めて検討すべきである
といった意見が述べられ,安定的で適切な運用に資するような改正であれば検
討に値するという点では,おおむね異論はなかった。
(ウ) 改正の内容に関する総論的議論
以上の議論を前提に,改正の具体的な内容としては,
1 性暴力の本質は同意がないことにあるから,構成要件上,被害者の同意が
ないこと,被害者の意思に反していることを前面に出すべきである
2 犯罪の成立要件としては,加害者の行為ではなく,被害者に生じている法
益侵害から検討し,国際水準に従って,同意なき性交等,不同意の性交等を
処罰すべきである
といった意見が述べられた一方で,
3 暴行・脅迫や抗拒不能の要件は,被害者の不同意の徴表として機能してい
るから,同意なき性交という構成要件にしたからといって処罰範囲が広がる
かどうかは別の問題である
4 被害者の不同意やこれに対する被告人の認識の立証には,暴行・脅迫や薬
物の使用,飲酒の有無等の客観的要素を手掛かりとすることが有用であると
ころ,不同意のみを要件とすると立証の対象を特定しにくい
5 例えば,結婚の意思を偽って性交した場合には処罰すべきでない反面,治
療行為と偽って性的行為をした場合には処罰すべきであり,処罰範囲の限界
を明確にすることが必要であるが,被害者の内心を直接証明することは困難
であるから,その判断材料となり得る客観的な事実,具体的には,行為態様
や行為者と被害者との関係性,被害者の心理状態等を具体的に規定し,被害
者の意思決定を歪めたと評価できる場合を捕捉することが望ましい
といった意見が述べられた。
さらに,
6 「性的同意」という概念が浸透していない日本において,
「不同意」とい
う要件のみでは構成要件該当性の判断が難しいのであれば,ほかの文言を列
挙してもよい
といった意見も述べられ,
単に被害者の
「不同意」
のみを要件とすることには,
処罰の対象を過不足なく捕捉することができるかという点で課題が残り,処罰
範囲がより明確となる要件を検討する必要があるという点では,おおむね異論
はなかった。
次に,判例・実務では,刑法第177条の「暴行又は脅迫」
の程度について,
被害者の抗拒
(抵抗)
を著しく困難にさせる程度を要するとされているところ,
これを緩和した要件を設けるべきかについては,
7 刑法第177条の基本的枠組みは維持しつつ,別途,暴行・脅迫の程度を
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緩和した類型を作ったり,地位・関係性を利用した類型を作ったりして,き
め細かく規定することが被害者救済に資する
8 性交に通常伴うような暴行・脅迫しかない当罰性の高さに疑問がある事例
への対処方策としては,
刑法第177条より軽い法定刑とした上で,
例えば,
程度の軽い暴行・脅迫や,威力・威迫など,より軽い態様の行為を構成要件
とすることが考えられる
などとして,要件を緩和した類型を創設すべきとの意見が述べられたが,これ
に対しては,
9 実務上,暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件は,行為態様や被害者の
状態が被害者の自由な意思決定を阻害するに足る程度か否かを問題とし,同
意の不存在を一義的に推認するためにあるものと解されるので,その程度を
大幅に緩和した要件を設けた場合,不同意の性交等であることが明らかでな
いものまで処罰対象に取り込まれるおそれがある
といった意見が述べられたほか,
10 性犯罪の被害者は長期間トラウマに苦しみ,自死に至ることもあることを
踏まえれば,法定刑が軽い類型とすべきでない
11 暴行・脅迫の程度を緩和した法定刑の軽い類型を設けることにより,これ
まで刑法第177条で重く処罰されていた行為が軽く処罰されることが懸念
される
といった意見も述べられた。
(エ) 構成要件の明確化に関する議論
〇 手段・状態を列挙することの要否・当否
構成要件を明確化する方法として,行為者が用いる手段や被害者の状態を
列挙することについては,
1 列挙された事情への当てはめと推認過程を巡って争点が拡散し,争点整
理に時間が掛かることが予想される上,全ての事情を列挙し得ないとする
と,列挙された事情が拡大解釈されるおそれがある
といった懸念を示す意見も述べられたが,
2 不同意であるか否かは,それを徴表する具体的な行為との関連で判断し
なければならないから,禁止される行為を明確化するため,不同意を徴表
する客観的要素を構成要件に明示する必要がある
3 現行法の暴行・脅迫という行為態様や心神喪失・抗拒不能という状態が
被害者の不同意を惹起する全ての場合を捕捉し切れていないのであれば,
処罰の間隙を埋めるため,被害者の不同意の徴表たる行為態様や状態を列
挙することはあり得る
などとして,運用のばらつきをなくして安定したものとするため,手段や状
態を列挙することに肯定的な意見が多く述べられた。
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しろまる 列挙する手段・状態
行為者が用いる手段や被害者の状態を列挙するに当たっては,全てを網羅
的に列挙することはできないから,例示列挙とせざるを得ないとの意見が述
べられ,これに特に異論はなかった。
その上で,刑法第177条は,行為者が用いる手段として,
「暴行又は脅
迫を用いて」と規定しているところ,それ以外に列挙することが考えられる
手段の具体例としては,
1 威力,威迫,不意打ち,欺罔・偽計,驚愕,監禁を列挙することが考え
られる
といった意見が述べられたが,これに対しては,
2 「欺罔」については,行為の性的な性質を偽る場合や相手方の同一性を
偽る場合には現行法でも処罰されている一方で,成人に対して好意や婚姻
意思を偽る場合には処罰価値がないと思われることから,欺罔を含める場
合には,その範囲を限定することが必要である
3 「威力」
(人の意思を制圧する勢力)や「不意打ち」
(出し抜けに行うこ
と)による性的行為は,拡張して解釈されている現行法上の「暴行」を用
いて行う場合に含まれると考えられるが,これらを暴行とともに列挙すると,「暴行」概念が縮小することとなり,これまで「暴行」として捕捉で
きていた行為を捕捉できなくなるおそれがある
といった意見が述べられた。
また,刑法第178条は,被害者の状態として,
「心神喪失」,「抗拒不能」
と規定しているところ,列挙することが考えられるそれらの原因となる事由
の具体例としては,
4 人の無意識,睡眠,催眠,酩酊,薬物の影響,疾患,障害,洗脳,畏怖,
恐怖,驚愕,困惑を列挙することが考えられる
といった意見が述べられたが,これに対しては,
5 「洗脳」といった文言は,その言葉自体の意味からすると,相当強い支
配関係がある場合に限られると考える余地もあり,かえって処罰範囲が狭
くなりかねない
といった意見が述べられたほか,
6 例えば,18歳になる前から監護者に性交をされていた者は,18歳を
超えても抵抗できるようにならないから,以前の性交が後の性交の脅しに
なるような場合が捕捉される要件が必要である
といった意見も述べられた。
また,列挙する手段・状態に関する総論的な意見として,
7 刑罰法規としての明確性の観点から検討する必要があるほか,これまで
に刑法第177条・第178条で処罰されていた行為が処罰されないこと
とならないよう慎重に検討する必要があり,過去の裁判例を分析した研究
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や,裁判例の調査で心神喪失・抗拒不能の原因として認定されたものなど
を参考にすることが考えられる
といった意見が述べられるとともに,
8 必ずしも不同意の徴表とはいえない手段・状態を列挙する場合には,列
挙された手段・状態は限定的に解釈される必要があり,それらの手段・状
態と意思に反する性交等であることを結び付ける要件が必要である
といった意見が述べられた。
〇 手段・状態を列挙する場合の規定の在り方
これらの議論を踏まえ,列挙された手段・状態が不同意の徴表であること
を示して処罰範囲を限定するため,また,列挙された手段・状態以外の場合
を捕捉できるようにするため,列挙された手段や状態の実質的意味を示す包
括的な要件を設けるべきといった意見が述べられ,これに対しては,
1 包括的な要件に該当するとして起訴する場合,それを推認する間接事実
によって立証することとなるが,検察官が起訴するのに苦労することが想
定されるし,他方で,裁判所の判断にばらつきが生じる可能性があり,本
来であれば無罪となるべき人が犯罪人扱いされかねない
といった意見も述べられたが,包括的な要件を設けること自体には,おおむ
ね異論はなかった。
そして,この包括的な要件をどのような文言で規定するかについては,例
えば,
2 「その他意に反する性的行為」と規定すべきである
3 「抗拒・抵抗が著しく困難」と規定すべきである
4 「拒否・拒絶が困難」と規定すべきである
といった意見が述べられた。
このうち,
「2 その他意に反する性的行為」とすることについては,
5 国民の性に対する意識や,性的行為に対する同意の在り方に関する社会
の認識や社会規範の変化に対応した判例法理の展開を見越したものとすべ
きである
といった意見が述べられた一方で,
6 「意に反する」という文言は,それ自体不明確で,罪刑法定主義の観点
から問題があるし,交際できると思って性交等に応じたが交際できなかっ
た場合や,性的行為の態様が想定したものと違った場合など,当罰性がな
い,又は極めて低い行為が処罰されかねない
7 人が性交等に至る心理状態や意思決定は単純ではなく,葛藤,悩み,思
惑,打算など様々な過程を経て一定の決断に至るものであり,どこまでを
「意に反する」と評価できるかは明確ではない
といった意見が述べられた。
また,
「3 抗拒・抵抗が著しく困難」とすることについては,
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8 「抵抗」という言葉を使うと,被害者が抵抗することを前提としている
ものと誤って理解され,
性暴力に対する意識の低さ,
被害者に対する偏見,
被害者は一生懸命抵抗するはずであるといった「強姦神話」につながりか
ねないため,別の言葉にした方がよい
9 被害に遭った際に本人の意思とは関係なく身体が動かなくなる生物学的
反応もあるので,抵抗の有無を重視すべきでない
といった意見が述べられた。
さらに,
10 刑法第177条が,行為者が用いる手段として「暴行又は脅迫」のみを
規定していることは狭きに失するが,
「不同意」とだけ規定すると法適用
に困難を来すため,例えば,薬物が用いられたことにより抵抗が困難であ
るといったような被害者の状態を要件とすることも考えられる。そうする
と,同条が同法第178条の一部を取り込むこととなるが,そもそも,同
条の「抗拒不能」という要件については,物理的に抵抗ができない場合の
みならず,精神的に抵抗ができない場合をも含む概念であるから,この要
件を適用しやすくするため,より分かりやすく,又は幅を持たせた書き方
にすることが考えられる。その場合,同条がより一般的な規定となり,同
法第177条は,そのうち暴行・脅迫を用いた場合に関する規定となると
ころ,両条を統合することも考えられる
といった意見が述べられた。
(オ) 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,処罰の対象とすべき
意思に反する性交等を過不足なく捕捉することのできる規定とする観点か
ら,現行の構成要件を明確化する場合には,当罰性があるのに処罰されない
行為があるとされる原因が構成要件にあるか否かを見極めつつ,より安定的
な運用がなされることにも資するよう,行為者が用いる手段,被害者の状態
を列挙することや,列挙された手段・状態の実質的意味を示す包括的な要件
を設けることなど,規定の在り方について更に検討がなされるべきである。
その際,処罰範囲の外延を明確にする必要があることや,現行法の暴行・脅
迫や心神喪失・抗拒不能の要件の解釈との関係,認定の難易等の実務への影
響にも留意する必要がある。
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(2) 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方
イ 立証責任の転換規定・推定規定
被害者が性交等に同意していないことについて,一定の行為や状態が認め
られる場合に被告人側に立証責任を転換し,又はその要件の充足を推定する
規定を設けるべきか
被害者が性交等に同意していないことについての立証責任の転換や推定につ
いては,
1 被告人が,被害者の同意があるものと認識していたと主張した場合,事実
上,被害者が被告人が認識し得る態様で抵抗したことの立証を求められるこ
ととなるが,被害者が抵抗することは心理学的には不可能である。いわゆる
「Yes means Yes」型の不同意性交等罪を創設すれば,被告人は相手方の同
意を確認したことが主張できる以上,立証責任の転換は可能ではないか
といった意見が述べられたが,これに対しては,
2 諸外国のいわゆる「Yes means Yes」型の規定にも様々な形があり,被告
人に事前の同意を主張する余地を残し,故意も含めて争い得る規定がある一
方で,
同意は性的行為が行われる時点で現に存在しなければならないとして,
反証を許さない形式的な行為規範違反を問う規定もあり,
「Yes means Yes」
型であれば推定規定を作ることができるというわけではない
3 刑事手続においては,検察官が刑事責任の存在と範囲を基礎付ける全ての
事実を立証するのが原則であり,立証責任の転換規定や推定規定はその例外
に当たることから,例外を設けることの必要性と合理性の両面からの検討が
必要である。その上で,
・ 被害者の不同意の徴表となるような客観的事実を明確化し,それが充足
されれば犯罪が成立するという構成要件を作ることができるのであれば,
あえて立証責任の転換規定や推定規定を設ける必要性は認められない
・ 合理性の観点からは,ア検察官が証明する事実から,被告人が挙証責任
を負担する事実又は推定事実への推認が合理的であること,イ被告人が挙
証責任を負担する事実又は推定事実を証明する資料が通常被告人側にあ
り,その反証が容易であることの2点を満たす必要があるところ,我が国
では,暴行等の客観的事情が認められれば被害者の不同意は事実上推認さ
れるのであり,それを超えて,被害者の不同意が推認されるとまでは言え
ない客観的事情があるにとどまる場合にまでそのような規定を設けようと
すると,その合理性が疑わしいし,被害者の内心面を証明する資料は通常
被告人側にはなく,被告人の反証が容易とは言い難いから,結局,挙証責
任の転換規定等を設けることは困難である
といった意見が述べられた。
- 12 -
(2) 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方
ウ 被害者が同意していないことの認識に関する要件
行為者が,被害者が性交等に同意していないことの認識を有しない場合に
どのように対処すべきか
(ア) 改正の要否・当否に関する議論
行為者が,被害者が同意していないことの認識を有しない場合も処罰できる
ようにすべきかについては,
1 加害者は,性交等に至る過程で通常行う相手方との交流や調整をせず,相
手を物として見て,自分の欲求や利益を押し付けているのであり,無神経で
相手を尊重できない者について,相手が同意していないことの認識がないと
して無罪とすることはやめるべきである
2 性的行為については明確な同意を得るべきであり,これを怠った場合のリ
スクは,同意を曖昧なままにして利益を得た者が負うべきであるので,一部
の国において,相手方の同意の有無について行為者に確認義務を課し,これ
を著しく怠った場合には過失レイプ罪として処罰しているように,過失犯処
罰規定の創設を検討すべきである
といった意見が述べられた。
これに対しては,
3 過失犯処罰規定を設けるとすると,同意の有無についての確認義務が注意
義務の中核となるが,性交等に至る経緯や同意を得るプロセスは多様である
し,性交等に当たって相手方が示す反応も様々であることから,どのような
方法で確認すれば注意義務を果たしたこととなるかという判断基準が不明確
である
といった意見が述べられた。
(イ) 考えられる対処方策の在り方に関する議論
その上で,実務において,客観的には被害者の同意があるとは認められない
状況であるにもかかわらず,被告人において同意があると考えるのもやむを得
ないと評価される事態が生じていることについては,
1 被害者の不同意の徴表が構成要件に明確に示されるような実体法の整備が
必要である
2 司法関係者や社会一般が,性的行為に対する同意の在り方について理解を
深めることや,これらに対して,被害者の心理状態に関する教育・啓発がな
されることが必要である
といった意見が述べられた。
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(3) 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方
ア 地位・関係性を利用した犯罪類型
しろまる 被害者が一定の年齢未満である場合に,その者を「現に監護する者」に
は該当しないものの,被害者に対して一定の影響力を有する者が性的行為
をしたときは,被害者の同意の有無を問わず,監護者性交等罪と同様に処
罰する類型を創設すべきか
しろまる 被害者の年齢を問わず,行為者が被害者の脆弱性,被害者との地位の優
劣・関係性などを利用して行った行為について,当罰性が認められる場合
を類型化し,新たな罪を創設すべきか
(ア) 議論の概要
被害者が一定の年齢未満である場合や障害を有する場合には,被害者が身体
的・精神的又は社会的に脆弱であり,判断能力が不十分であることから,その
ような特性につけ込んで行う性交等は被害者の法益を侵害する行為であり,そ
のような特性に応じた対処が必要であることについては,異論がなかった。
その上で,処罰すべき行為を取り込み,かつ,処罰すべきでない行為を取り
込まない構成要件の在り方について議論を行った。
また,被害者がこれらの特性を有しない場合における地位・関係性を利用し
た類型について,刑法第177条・第178条と別に規定を設ける必要性につ
いては意見が分かれた。
(イ) 一定の年齢未満の者を被害者とする罰則の在り方に関する議論
しろまる 新たな罰則を設けることの要否・当否
現行法上,13歳未満の者に対する性交等については,暴行・脅迫がなく
ても強制性交等罪が成立し(刑法第177条後段)
,18歳未満の者に対し,
その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて行った
性交等については,監護者性交等罪が成立する(同法第179条第2項)。また,13歳以上の者に対する性交等については,暴行・脅迫や心神喪失・
抗拒不能の要件を満たせば,それぞれ,強制性交等罪,準強制性交等罪が成
立する(同法第177条前段,第178条第2項)。その上で,これらに該当しない一定の年齢未満の者に対する性的行為につ
いて新たな罰則を設けることについては,
1 子供は,理解力や力関係の差を利用されて被害に遭うため,被害を被害
と認識できず,
性的行為に同意していると思い込まされている場合があり,
加害者に対する迎合的な態度を強め,時には被害を恩恵と捉えることさえ
あるのであって,そのような行為が適切に処罰される必要がある
2 若年者は類型的に立場が弱く,判断能力・対処能力が低いため,一定の
影響力を有する者からの働きかけに対して適切な判断や拒絶等の行動を取
ることが困難な場合があるから,
大人を念頭に置いた刑法第178条の
「抗
- 14 -
拒不能」とは別の要件を設けることが考えられる
といった意見が述べられ,いわゆる性交同意年齢には達しているものの,意
思決定や判断の能力がなお脆弱といえる若年の者(中間年齢層の者)に対す
る性的行為について,その特性に応じた対処の必要があることについては認
識が共有された。
しろまる 具体的な規定の在り方
その上で,監護者性交等罪の構成要件について,
1 家庭内における18歳以上の者に対する性的虐待がある
2 きょうだい,祖父母,おじ・おば,同居していない親等は,通常,監護
者性交等罪の主体となる「現に監護する者」に当たらないが,そのような
者による13歳以上の者に対する性的行為が犯罪とならないことは問題で
ある
などとして,同罪の主体・客体の範囲を広げるべきとする意見が述べられた
が,これに対しては,
3 監護者性交等罪は,監護者が被監護者に対して一般的かつ継続的にその
意思決定に作用を及ぼすという影響力を有していることに着目した規定で
あるところ,その他の親族等の場合には,影響力の有無や程度が様々であ
るから,監護者性交等罪のように一律に同意の有無を問わずに処罰するこ
とは適切ではなく,個別に影響力の有無等を考慮できる規定とすることが
必要である
といった意見が述べられた。
また,一定の地位・関係性を有する者による性的行為について,
4 地位・関係性を利用した類型は,刑法第178条や児童福祉法第34条
第1項第6号・第60条第1項の淫行をさせる罪で処罰できるのであるか
ら,それ以外に処罰が必要なものがそれほどあるとは思われないし,少な
くとも,児童の健全育成を保護法益とする児童福祉法制の中で検討すべき
である
といった意見が述べられたが,これに対しては,
5 子供にとって,学校の教師,スポーツの指導者等からの被害は,抵抗す
ると子供自身の生活環境や生活する社会が壊されるというリスクがある
し,地位に基づく力の濫用である点や加害が繰り返されることが多い点で
監護者からの被害と共通する
6 教師の立場にある大人が生徒の立場にある子供に対し,性的行為を含む
恋愛をすることは許されないと考えてもよいし,教師と生徒は対等な関係
ではないから,両者の間に真摯な恋愛は成立しない
7 子供に対する性犯罪の保護法益には,青少年の保護という側面もあると
考えられるところ,教師は,教員免許に基づいて,子供にとって家庭生活
に次いで比重の大きい学校生活を預かっており,子供に対する責任・影響
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力は大きい上,教師による行為は継続するおそれがあり,法益侵害は大き
い。少なくとも中学校の教師による行為は監護者と同じように処罰される
べきである
などとして,教師という地位・関係性があることを要件として処罰すべきと
する意見が述べられたほか,
8 教師・生徒の関係であっても,生徒が高校生の場合には,両者の上下関
係が逆転することが無視できない程度に起こり得るので,同意の有無を問
わずに一律処罰することは適切ではない
9 未成年者であっても不完全ながら性的自己決定の能力はあり,性的な興
味に従って行動することも一つの権利であるところ,性的興味が強い中高
生の男子が成人女性と同意の下で性的関係をもった場合に成人女性が処罰
されることは不当である
10 教師には,担任の教師から同じ学校に在籍するだけの教師まで様々な者
がおり,児童との関係性は多様で影響の程度に濃淡があることから,教師
やコーチによる児童との性的行為を一律に処罰することには疑問がある
11 児童福祉法の児童に淫行をさせる罪も,真摯な関係性に基づく行為は処
罰対象としていないところ,児童本人の自由な意思決定による同意があっ
たと評価できる場合まで処罰することは相当ではない
12 若年者が一定の影響力を及ぼされて同意した場合,その同意は,類型的
に瑕疵があるといえても,いわゆる性交同意年齢に達している以上はおよ
そ無効とはならないとも考えられ,同意が無効である場合とは異なる類型
として位置付けることも考え得る
などとして,教師・生徒といった地位・関係性に加えて,意思決定に影響を
及ぼしたといえる実質的要件を設ける必要があるとする意見が述べられた。
その上で,具体的な規定の在り方については,
13 相手方に対する影響力の程度や当事者間の関係性を個別に認定し得るよ
うな一定の力関係や地位・関係性,あるいは,地位・関係性を悪用・濫用
する具体的な行為,例えば,誘惑的・欺罔的な手段を用いることを要件と
することが考えられる
14 いわゆる淫行条例に関する最高裁昭和60年10月23日判決を参考に,「誘惑し,威迫し,欺罔し,又は困惑させる等その心身の未成熟に乗
じた不当な手段により性交等を行った者」とする方法や,刑法第248条
の準詐欺を参考に,
「未成年者の知慮浅薄に乗じて性交等を行った者」と
規定する方法が考えられる
15 監護者性交等罪における「現に監護する者」に該当しない親族等からの
被害については,準強制性交等罪で処罰することも可能であると思われ,
同条の「抗拒不能」の要件を改正することも併せて検討すべきである
といった意見が述べられた。
- 16 -
(ウ) 障害を有する者を被害者とする罰則の在り方に関する議論
重度の身体障害又は知的障害があることに乗じて性交等を行う行為が刑法第
178条第2項の「心神喪失」又は「抗拒不能」に乗じたとして処罰すること
ができることは,解釈上は異論がないことを前提に,
1 刑法第178条第2項については適用にばらつきがあるとの指摘があるこ
とを踏まえ,その要件解釈を明確化して適用を安定させるため,例えば,抗
拒不能性を根拠付ける一類型として,被害者の重大な障害につけ込む行為等
を例示列挙する方法があり得る
といった意見が述べられ,これに対する異論はなかった。
そして,新たに障害者を被害者とする処罰規定を設けることの要否・当否に
ついては,
2 障害者は,介護が必要であるなど他人に生活を依存している場合や,障害
の特性により相手に迎合的であったり流されやすかったりする場合があり,
そのような状況や特性を利用する行為への対応が必要である
といった意見が述べられ,これに対する異論はなかった。
その上で,規定の在り方については,
3 障害者は被害に遭いやすいという海外の調査結果や,障害者が施設職員か
ら被害に遭う事案が発生していることを踏まえ,施設職員と入所者という関
係を明示した規定を創設する必要がある
4 フルタイムで通所している障害者とその施設の指導職員の関係性は,生徒
と教師の関係性と同等であると考えられるので,入所施設だけではなく,通
所施設の職員による行為も処罰対象となるような規定にすべきである
5 障害者手帳の保持やIQ(知能指数)等で障害者を切り分けた上で,その
障害を知っており,当該障害者がその生活を依拠している者からの行為は犯
罪としてよい
などとして,障害者と関わる一定の地位にある者による行為を処罰対象とすべ
きとする意見が述べられた。
他方で,処罰すべきでない行為を処罰対象から除外するとの観点から,
6 例えば,
介護施設の職員と入所者という地位・関係性を規定するとしても,
どのような施設を対象とするか,通所者は含まれるのか,どのような業務を
行う職員を対象とするかなどの問題がある
7 障害者の性的自己決定権は尊重すべきであり,障害に着目した規定を設け
ることで,障害者に対するパターナリズムが強化されて,施設内で性的行為
を行うこと自体に問題があるとされることとならないようにすべきである
8 未成年者の場合,年齢と性的行為に対する判断能力とがある程度比例する
と考えられるのに対し,障害者の場合,障害の内容・程度と判断能力との関
係は多様であると考えられるため,障害の程度だけに着目した規定を設ける
ことはできない。障害者の状態,障害者の意思決定を歪める働きかけといっ
- 17 -
た実質的な判断ができるような規定が必要である
9 仮に,刑法第178条で処罰することができない軽い障害を有する者を被
害者とする規定を設けることとした場合,そのような障害者には,性的行為
を行うことへの判断能力が全くないわけではないので,およそ自己の意思に
基づかないものであるとは言い難い
といった意見も述べられた。
また,安定的な運用という観点から,
10 障害者の中には,外見から障害の有無が分からない者や公的認定を受けて
いない者もおり,障害者であるか否かの判断が直ちにつかない場合がある
といった意見が述べられた。
このほか,
11 刑事手続の中で被害者が障害を有することが疑われた場合には,鑑定や心
理検査を行ったり,主治医から意見書を得たりして,被害者の特性を適切に
評価し,加害者がその特性を利用したかどうかを判断すべきである
といった意見も述べられた。
(エ) その他の地位・関係性を利用する行為に対する罰則の在り方に関する議論
以上のほか,地位・関係性を利用する類型については,現行法の下でも,暴
行・脅迫や抗拒不能の要件に該当すれば処罰対象となることを前提に,
1 明確な暴行・脅迫がなくても,加害者が言動を用いて力関係を作り出し,
被害者の立場の弱さや利害関係・依存関係を利用した場合には,被害者は抵
抗できないので,少なくとも,相手の人生や将来,経済状態等を決定する権
限のある者,相手の生活・生命・精神状態を左右し得るような立場の者によ
る性的行為は罰することが必要である
2 刑法第178条の「抗拒不能」の程度は,同法第177条の暴行・脅迫と
同程度であるとされているため,地位・関係性が利用された場合について,
心理的抗拒不能に当たると認定することは困難なことがあり,現にそのよう
な事例は不起訴処分とされることが多いので,優越的な地位や関係性を利用
した場合を新たに類型化する必要がある
といった意見が述べられ,地位・関係性の具体例としては,
3 後見人と被後見人,雇用者と被雇用者,上司と部下,就職活動先のOB・
OGと就職活動中の者,取引相手とフリーランスの者,医療機関の医療職や
心理職,福祉施設職員と患者・利用者
が挙げられた。
また,具体的な規定の在り方については,
4 職場の上司・部下といった具体的な地位・関係性を列挙した上で,
「地位
・関係性を利用・濫用し」などと規定し,その内実を解釈に委ねることが考
えられる
5 優越的地位を利用した類型の構成要件の規定の仕方は難しいが,ある程度
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開かれた構成要件とせざるを得ないように思われ,例えば,
「優越的地位を
利用して抵抗が困難な状態で」といった要件とし,これに,暴行・脅迫より
弱い手段要件を組み合わせるといった方法が考えられる
といった意見が述べられた。
1から3までの意見に対しては,
6 客体が障害を有しない成人である場合には,類型的な脆弱性がないので,
一定の地位の優劣があっても対等である場合が十分考えられるし,例えば,
上司から昇給すると言われ,任意に応じた場合も地位の利用と言い得るが,
このような場合まで処罰することには躊躇が感じられ,そもそも,処罰範囲
の外延が明確ではない
7 地位・関係性を利用した類型を設け,およそ立場が弱い側からの働きかけ
や積極的な同意があり得ないとしてしまうと,例えば,被害者とされる側が
積極的に働きかけて性交に至ったものの,期待した利益を得られなかったこ
とから意思に反した性交であったと申告するような,本来処罰されるべきで
はない事案についても処罰される危険がある
8 被疑者・被告人と被害者との間に相応の交流があり,被疑者・被告人が,
被害者の同意があった,又は同意があると思っていたと弁解している場合,
現実の関係性が様々であることから,両者の関係が発展して性的関係に至っ
た可能性を否定し切れない場合があるため,処罰規定を設けようとする地位
・関係性が,類型的に性交等に同意がない地位・関係性であるといえるかに
ついて,慎重な検討が必要である
といった意見が述べられた。
また,4及び5の意見に対しては,
9 処罰規定について,概括的な要件を設けて運用に委ねるというわけにはい
かず,地位・関係性を悪用・濫用するといえる具体的要件が必要となるが,
例えば,
「誘惑」といった手段を要件とすることについては,脆弱性がない
大人への誘惑行為に可罰性があるとは思われないので,比較的厳格な手段要
件を設けるなどして,処罰の外延を明確にすることが必要である
といった意見が述べられた。
(オ) 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,若年であることや障害
を有するという類型的な脆弱性に応じた新たな罰則を設ける場合には,被害者
の属性や地位・関係性に係る要件に加えて,意思決定に影響を及ぼしたといえ
る実質的要件を設けることを含め,適切な構成要件の在り方について更に検討
がなされるべきである。
これら以外の地位・関係性を利用する新たな罰則については,その要否・当
否を検討した上で,これを設ける場合には,被害者に類型的な脆弱性がない場
合であることにも留意しつつ,処罰範囲の外延を明確にするための適切な構成
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要件の在り方について更に検討がなされるべきである。
いずれの場合についても,暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方
と併せて検討がなされる必要があり,被害者が若年である場合については,さ
らに,いわゆる性交同意年齢の在り方とも併せて検討がなされる必要がある。
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(3) 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方
イ 同一被害者への継続的な性的行為を処罰する規定
同一被害者に対して継続的に性的行為がなされた場合において,個々の行
為の具体的な日時・場所を特定しなくても,個々の行為を包括する一連の事
実について1個の犯罪の成立を認めることができるような罪を創設すべきか
(ア) 現行法による対処の可否に関する議論
同一被害者に対し,継続的に強制性交等が行われた場合には,現行法の解釈
上,各性交等につき別個の法益侵害が発生することから,各性交等につき一罪
が成立し,各性交等の時間的・場所的接着性に照らして一つの行為と評価でき
る場合を除いては,併合罪となり,実務上もそのような取扱いがなされている
ことが確認された。
その上で,継続的かつ長期間の暴行によって被害者が傷害を負った事案につ
いて,複数の暴行を包括的に評価した上で傷害罪の包括一罪の成立を認めた最
高裁決定(平成26年3月17日)があることを前提に,性犯罪についても,
現行法の解釈上,複数の性交等を包括的に評価した上で強制性交等罪の包括一
罪の成立を認めることができるかについて議論を行ったところ,
1 複数の犯罪行為を包括的に評価できるか否かについては,同一の意思決定
に基づく犯罪行為であり,かつ,複数の犯罪行為の個性が乏しく,その個性
を捨象して包括的に評価できることが必要であると思われるところ,
実務上,
性犯罪については,行為ごとの法益侵害性が重大で,被害者はその都度別の
被害を被るため,
包括的評価が困難であるとの感覚が一般的であることから,
併合罪として処理されているものと思われる
2 傷害罪の包括一罪を認めた判例は,行為の一体性と被害法益の一体性から
一罪性を認めているところ,このような考え方は性犯罪にも妥当し,監護者
が被監護者に対して継続的に性的行為を行ったような場合には包括一罪とし
て処理することが可能と思われる
3 傷害罪の場合,傷害結果とそれを生じさせる暴行との間の因果関係が相当
程度推認されるし,傷害結果を生じさせ得る暴行が行われる期間もそれほど
長期ではないが,性犯罪の場合,被害が数か月から数年に及ぶことがあり,
傷害罪に関する判例の射程が性犯罪に及ぶのか疑問がある
といった意見が述べられた。
(イ) 新たな罪の創設の要否・当否に関する議論
その上で,新たな罪の創設の要否・当否については,
1 脳の発達上,子供にとって日時の特定は難しく,また,繰り返し性的虐待
を受けた者は脳の機能に問題を生じるとも言われており,個々の被害の日時
・場所等の特定が困難な場合がある。被害者が長期にわたる虐待により深刻
な被害を受けたにもかかわらず,そのような困難さゆえに加害者が処罰され
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ないことは問題である
2 医学的・心理学的には,
繰り返し起こるトラウマ体験による症状について,
複雑性PTSDという診断基準を新たに設けて被害を包括的に捉えている
が,刑事裁判における実務では,繰り返された性的虐待のごく一部しか処罰
されていない
といった意見が述べられた一方で,
3 現行法上,審理対象を明らかにして二重起訴を防止する観点や,被告人の
防御の観点から,できる限り日時・場所を特定する必要があるが,一定の幅
を持った時期,行為態様,被害状況などとあいまって,別の機会における他
の事実と区別できる程度に特定されていれば足り,日時・場所を厳密に特定
しなければならないわけではない
4 新たな罪を設けたとしても,その罪の構成要件に該当する事実は立証され
る必要があるが,証拠上,個別の性的行為について,日時・場所の特定が困
難で,他の行為と識別し得る程度の立証ができないのに,継続的な性的行為
が行われたことについては合理的疑いを差し挟まない程度の立証ができると
いう状況が実態としてどれだけ生じているのか検討が必要であり,新たな罪
を創設したからといって,これまで処罰できなかった事案が処罰できるよう
になるとは限らないと思われる
といった意見も述べられた。
また,実体法上の課題として,
5 新たな罪の法定刑については,現行法の罪につき併合罪加重をしたものよ
り重くしなければ,かえって処断刑が軽くなることとなるが,現行法の下,
複数の行為が起訴されている場合には,併合罪加重をした上で同種行為の繰
り返しを情状として考慮し,相応に重い量刑がなされており,より重い法定
刑を定める必要があるのかという観点からの検討が必要である
6 新たな罪を創設することにより,複数の罪を併合罪として処理することは
できないという解釈が生じる余地がある
といった意見が述べられたほか,手続法上の課題として,
7 営業犯や常習犯については,実務上,一罪であるからといって,当然に日
時・場所等を特定しない形での訴因の記載が許されるとは考えられていない
ようであるし,少なくとも1個の事実については具体的場面を描写できる程
度の立証が必要であると考えられているようであるから,新たな罪を設けた
としても,日時・場所を特定しない形で訴因の記載として十分か,また,合
理的疑いを差し挟まない程度の立証ができる場合があるかを検討することが
必要である
8 性犯罪は被害者供述の信用性が争点となることが多く,被害者がある事実
を他の事実と区別して記憶できていない場合,構成要件該当性の立証に当た
り,合理的疑いを差し挟まない程度の立証ができるかが問題である
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9 個別の日時・場所が特定されていないと,被告人が起訴された事実と別の
事実を主張するという形で反論することが困難又は不可能になる
といった意見が述べられた。
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(3) 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方
ウ いわゆるグルーミング行為を処罰する規定
一定の年齢未満の者に対し,性的行為や児童ポルノの対象とすることを目
的として行われるいわゆるグルーミング行為を処罰する規定を創設すべきか
(ア) 新たな罰則の創設の要否・当否に関する議論
「グルーミング」とは,手なずけの意味であり,具体的には,子供に接近し
て信頼を得て,その罪悪感や羞恥心を利用して関係性をコントロールする行為
であって,例えば,アSNS等を通じて徐々に子供の信頼を得た上で,会う約
束をするなどして性交に及ぶ類型,イ子供と近い関係にある者が,子供の肩を
もむといった行為から始め,断りにくくさせた上で徐々に体に触れる類型,ウ
子供と面識のない者が公園等で子供に声を掛けて徐々に親しくなる類型があ
り,このような行為をされても,子供は被害に遭っていることを認識できない
ことが指摘された。
これを前提に,
新たな罰則の創設の要否・当否について議論を行ったところ,
1 グルーミング行為は,それに引き続いて性的な接触や搾取が行われる可能
性が非常に高く,被害を受けた子供は,被害の継続により心身に有害な影響
を受けることから,法的に規制すべきである
2 外形上正当な行為をその目的だけに着目して処罰することについては慎重
な検討が必要だが,SNS等に氾濫している書き込みのうち,特に児童買春
に直結するような危険性を有するものを類型化して処罰する余地はある
といった意見が述べられた一方で,
3 法益侵害又はその危険性が認められない行為の処罰は正当化できないとこ
ろ,子供に連絡をしたり面会を求めたりする行為は,常に客観的に性的な危
険性をはらむものではないから,そのような価値中立的な行為を行為者の目
的を根拠に処罰することは,行為者の主観面だけを根拠に処罰することにな
りかねず,理論的に正当化が困難である
4 グルーミング行為に対しては,いわゆる自画撮りの要求行為を処罰する都
道府県の青少年保護育成条例や,児童ポルノ製造を処罰する児童買春,児童
ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律など,
現行の罰則の活用も検討されるべきである
5 グルーミング行為の後,
実際に子供にわいせつな行為が行われた場合には,
グルーミング行為は計画性等の悪質な情状になり得るところ,捜査機関等が
グルーミングのプロセスを理解して,適切にその評価がなされるようにすべ
きである
といった意見も述べられた。
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(イ) 具体的な規定の在り方に関する議論
その上で,新たな罰則を創設する場合の具体的な規定の在り方については,
1 行為態様自体が客観的・外形的に性犯罪の危険性を示していると評価でき
る場合に限定する必要があり,
性犯罪に対する危険性を重視する観点からは,
諸外国の例も参考に,子供が一定の反応や応答をするなどしてその危険性が
高まったことを要求すべきである
2 諸外国の立法例を見ると,ア性的な働きかけであるか否かを問わず,偽り
の信頼関係を築いた後に性的行為をする目的で子供と会う行為又はその準備
をする行為を処罰することとし,犯罪の成立時期を比較的遅くして相応に実
効性のある規定とするものや,イ性的な虐待目的でインターネット等で子供
と連絡を取る行為自体を処罰することとし,犯罪の成立時期を比較的早く設
定してシンボル的な規定とするものがあり,これらを参考に日本に適する規
定を考えることが必要である
3 グルーミング行為を処罰する規定を設ける場合,その対象となる子供の年
齢は,性的行為が行われた場合にその年齢又は行為者との年齢差のみで処罰
されることとなる年齢と合致することとなると思われる
といった意見が述べられた。
また,関連して,強制性交等罪に予備罪を設けることについては,
4 グルーミング行為の段階では,その目的が性交等かわいせつ行為かが外形
的に分からず,適用に難がある
といった意見が述べられた。
(ウ) 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,グルーミング行為を処
罰する規定については,その要否・当否を検討した上で,これを設ける場合に
は,行為者の主観面だけによらずに,性犯罪を惹起する危険性が客観的にも認
められる行為を処罰対象とするなど,適切な構成要件の在り方について更に検
討がなされるべきである。
- 25 -
(4) いわゆる性交同意年齢の在り方
暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず強制性交等罪が成立する年齢を引
き上げるべきか
(ア) 改正の要否・当否に関する議論
刑法第176条・第177条は,
「13歳以上の者」に対するわいせつな行
為又は性交等については,
「暴行又は脅迫」を用いたことを強制わいせつ罪又
は強制性交等罪が成立する要件としている一方,13歳未満の者に対するわい
せつな行為又は性交等については,
「暴行又は脅迫」を用いなくても強制わい
せつ罪又は強制性交等罪が成立することとされている(以下,この被害者の年
齢を「性交同意年齢」という。)。
性交同意年齢を引き上げることについては,
1 性交同意年齢の引上げを性的自由の制限と捉えるべきではなく,性的自由
に対する責任を果たせる年代かという観点から,保護すべき年齢を考えるべ
きであって,子供の発達の程度や社会経験の乏しさからすると,少なくとも
義務教育を受けている者は保護されるべきであるから,16歳まで引き上げ
るべきである
2 子供の被害は,子供の理解力の未発達や脆弱性,大人より狭い世界で生き
ていることを利用されるため,そのプロセスが第三者から見ると分かりにく
いことも少なくないことから,暴行・脅迫や抗拒不能の要件とは別に,子供
を被害から守るという意味で性交同意年齢を引き上げるべきである
といった意見が述べられた一方で,
3 法律上,18歳で結婚できることとされ,その前から交際して性的行為を
する場合など処罰すべきでない場合もある。脆弱な未成年者の保護は個別の
事情を踏まえて行うべきであり,性的行為の相手方を一律に処罰することと
なる性交同意年齢は13歳のままでよい
4 刑事責任が問われ得るのに性的自己決定については全く能力がないとされ
ることは整合しないので,性交同意年齢を刑事責任年齢である14歳より上
に引き上げることは相当ではない
5 調査によれば,青少年がキスや性交を経験する年齢は,全般的には若年化
傾向にあり,児童の性的保護を直ちに強化すべき立法事実があるかを検討す
べきである
といった意見が述べられた。
なお,強制性交等と強制わいせつとで性交同意年齢を異なるものとすべきか
について,
6 性交等とわいせつ行為とでは,その行為に対して同意をする能力は異なる
と思われ,
強制性交等と強制わいせつとで年齢を分けて考えるべきであって,
強制性交等については16歳未満,
強制わいせつについては13歳未満とし,
- 26 -
13歳から16歳未満の者に対するわいせつ行為は,加害者との年齢差があ
る場合にのみ処罰されることとすべきである
7 キスと性交とを比べると,侵害性に差があるように思われるが,わいせつ
行為はかなり幅がある概念で,
性交にかなり接近した行為も含むものであり,
性交等とわいせつ行為は連続的概念であるから,年齢を分けることには違和
感がある
といった意見が述べられた。
(イ) 同年代の者同士の性的行為に関する議論
仮に,性交同意年齢を例えば16歳まで引き上げた場合には,刑事責任能力
(刑法第41条)を有する14歳以上の者については犯罪が成立するため,中
学生同士が対等な恋愛関係の中でキスや性交をすると双方ともが犯罪として処
罰され得ることになるが,
そのような場合までも犯罪とすべきでないことには,
異論はなかった。
そこで,同年代の者同士の性的行為を処罰対象から除くため,
1 行為者が一定の年齢以上である場合や,行為者と相手方との間に一定の年
齢差がある場合のみ処罰することとすべきである
2 行為者が被害者に対して信頼的地位に就いている場合のみ処罰することと
すべきである
3 性交同意年齢未満の者については免責することとすべきである
といった意見が述べられた。
これに対しては,
4 一定の年齢差を要件とすることについては,成長には個人差があり,年齢
が高い者が必ずしも優位にあるわけではないことにも留意すべきである
5 性交同意年齢は,一定の年齢未満の者には性的行為を行うか否かの判断能
力がないことから設けられているものと考えると,その年齢未満の者を相手
方とする行為は,必ず違法となると考えられるところ,なぜ,行為者の年齢
や属性によって犯罪の成立が否定されたり肯定されたりするのかという理論
的根拠を整理する必要がある
といった意見が述べられ,5の意見に関連して,
6 14歳や15歳の者については,性的行為について適切に理解して同意す
る能力が一応あるが,
一定年齢以上の者から性的行為を働きかけられた場合,
一種の優越的な地位の利用状態が生じ,自由な意思決定を歪められると考え
ることにより,一定年齢以上の者が行う場合や年齢差がある場合にのみ処罰
される理由を説明することは可能と思われる
7 性犯罪の保護法益を性的統合性・性的尊厳と考えた場合,同年代の者同士
の行為であれば人格的統合性の形成を阻害しないと評価することができる
といった意見が述べられた。
- 27 -
(ウ) 中間年齢層の者を被害者とする罰則に関する議論
性交同意年齢を引き上げるか否かにかかわらず,その年齢には達しているも
のの,意思決定や判断の能力がなお脆弱といえる若年の者(中間年齢層の者)
に対する性的行為について,その特性に応じた対処の必要があることについて
は,認識が共有された。
その上で,この中間年齢層の者を被害者とする罰則の在り方については,
1 年齢要件のみをもって一律に犯罪を成立させることについては,
その当否,
適切な年齢の設定,当罰性の評価や法定刑を強制性交等罪と同等とすべきか
について慎重な検討が必要である
2 性交同意年齢を13歳のままとした上で,13歳以上16歳又は18歳未
満の者については,地位・関係性の要件や年齢差に基づく脆弱性利用の要件
を付すことが考えられる
3 中間年齢層の者を被害者とする地位・関係性の利用類型を定める場合に
は,性的行為に及ぶか否かの判断能力が全くないわけではないため,およそ
自己の意思に基づかないものと同様とは言い難く,行為態様の規定の仕方に
もよるものの,相対的に軽い法定刑の罪とすることが考えられる
4 一定の年齢未満の者との性的行為については,形式的に一律に処罰する絶
対的保護と,当事者間の関係性や行為態様などを評価対象とした上で,言わ
ば性的搾取であるか否かを実質的に判断した上で処罰する相対的保護の組合
せが考えられる。若年者の未成熟につけ込む行為を処罰するところに主眼が
あるのであれば,相対的保護の考え方と整合するし,どのような年齢差や年
齢要件を設けるかについて理論的な根拠を示すことも困難であるから,絶対
的保護,すなわち,性交同意年齢の引上げは若干程度とし,むしろ,誘惑的
・欺罔的な手段を用いるなどした行為を処罰する相対的保護のための規定を
設けることが適当である
といった意見が述べられた。
(エ) その他
「性交同意年齢」という言葉が用いられていることについて,
1 性交だけではなくわいせつ行為についても用いられる概念であるし,
「性
交同意年齢」という言葉が用いられると,若年者の同意能力や若年者の性的
自由が議論の中心となり,若年者を搾取からどう保護するかという観点が希
薄になるため,適当ではなく,
「性的保護年齢」という言葉が用いられるべ
きである
といった意見が述べられた。
また,関連する課題として,
2 子供の性的な問題行動の背景には,性教育を受けていないことのほか,暴
行の被害に遭っていることが原因である場合もあるから,そのような子供に
対する教育や支援が必要である
- 28 -
といった意見が述べられた。
(オ) 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,性交同意年齢を引き上
げる場合には,刑事責任年齢との関係を含め,犯罪とすべきでない行為が処罰
対象に含まれることのないよう,具体的方策とともに更に検討がなされるべき
である。また,性交同意年齢には達しているものの,意思決定や判断の能力が
なお脆弱といえる若年の者については,その特性に応じた対処が必要であるこ
とに鑑み,地位・関係性を利用した犯罪類型と併せて,更に検討がなされるべ
きである。
- 29 -
(5) 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲
強制性交等の罪の対象となる行為に,身体の一部や物を被害者の膣・肛門・
口腔内に挿入する行為を含めるべきか
(ア) 議論の概要
刑法第177条(強制性交等)は「性交,肛門性交又は口腔性交」を「性交
等」と定義し,陰茎を膣・肛門・口腔内に挿入する行為又は挿入させる行為を
強制性交等罪の処罰対象としており,膣・肛門・口腔内に陰茎以外の身体の一
部や物を挿入する行為又は挿入させる行為は,
同法第176条
(強制わいせつ)
の「わいせつな行為」に該当し,同罪による処罰対象となることを前提に議論
を行った。
これらの行為の中に,強制性交等罪の対象とされている行為と同等の悪質性
・当罰性を有する行為があることについて,異論はなかったが,その全てが同
等の悪質性・当罰性を有するといえるかについては意見が分かれた。
その上で,強制性交等罪が,陰茎を膣・肛門・口腔内に挿入する行為を全て
「性交等」として同等に扱っており,かつ,自ら挿入をする行為と自らに挿入
させる行為とを同等に処罰対象としていることとの関係で,ア身体の一部や物
を口腔内に挿入する場合について,
「性交等」と同等に扱うことができるか,
また,イ被害者が,その身体の一部や手に持った物を他人の膣・肛門・口腔内
に挿入させられる行為について,
「性交等」と同等に扱うことができるかにつ
いて議論を行った。
(イ) 改正の要否・当否に関する議論
改正の要否・当否については,
1 性的マイノリティの間で行われる場合を始めとして,様々な方法による性
的行為が行われている。被害の実態としても,特に,子供が被害に遭う場合
や女性が加害者である場合に身体の一部や物が用いられる場合があるほか,
集団による犯行の場合に,集団のうちの一人が陰茎を挿入し,他の者は物を
挿入するといった場合もあり,このような行為が性交等と区別されるべきで
はない
2 被害者にとっては,挿入されるものや挿入される箇所を問わず,同意なく
身体に挿入されること自体がレイプであり,身体的侵襲であって,何を挿入
されたかを問われること自体が耐え難い
3 調査によると,基本的に,膣・肛門内に手指や物を挿入する行為と,膣・
肛門・口腔内に男性器を挿入する行為との間には,精神的反応に差がないこ
とが分かっており,また,臨床上も,身体の一部や物を挿入する行為であっ
ても重篤なPTSDを示すことは珍しくなく,心理学の分野では,膣・肛門
・口腔内への陰茎の挿入と,膣・肛門内への手指や物の挿入とは同等の法益
侵害があるものと区分している
- 30 -
といった意見が述べられた一方で,
4 陰茎の挿入のみを重い類型の対象とすることは,それが最も起こりがちな
被害であり,妊娠の危険性など重大な被害を伴うこと,加害者が自分の身体
で快楽を得る行為を禁圧するという意味で一般予防の必要があることから,
不合理ではない
5 膣周辺を指で弄んだ事案において,指を挿入する犯意の有無により,成立
する罪が強制性交等未遂か強制わいせつに分かれることとなる
といった意見が述べられた。
さらに,理論上の課題として,
6 性的意味が乏しい行為を強制性交等の罪の対象に含めることは正当化し難
く,また,ある類型の行為を強制性交等の罪の対象に含める場合には,その
類型に該当する行為の全てが同程度の悪質性・当罰性を有することが必要で
あるところ,身体の一部や物を挿入する行為については,挿入するものの形
状や挿入の態様によっては,性的な意味(わいせつ性)を有するかどうかに
ついて評価が分かれ得るものがあるし,性交等と同等の法益侵害があるかに
ついては議論の余地がある
7 膣や肛門への挿入は,それ自体に性的意味があるのに対し,口腔への挿入
については,挿入するものにより性的意味合いが異なるから,性的意味合い
があるものを挿入する場合に限定すべきと思われる
8 現行法では,被害者の陰茎を加害者の膣等に挿入させる行為は強制性交等
の罪の対象となるところ,物を挿入させる行為を同罪の対象とすると,例え
ば,少年に性具を持たせて女性器に挿入させる行為についても女性側に同罪
が成立することとなるが,その被害が男性器を挿入させる被害と同程度とい
えるかについては疑問があり,物を挿入する行為と挿入させる行為とを同様
に処罰する規定を設けることには無理がある
といった意見が述べられた。
また,強制わいせつ罪による対応については,
9 強制わいせつ罪の法定刑の上限は懲役10年であり,新たな構成要件を設
けなくても,その法定刑の枠内で,精神的苦痛を含めて適切に評価すれば足
りる
10 強制わいせつのうち,身体の一部や物を挿入する行為については,継続的
な犯行の事案や致傷結果を伴う事案では重く処罰されている一方で,執行猶
予が付される事案も相応にあり,量刑傾向として,強制わいせつ罪の法定刑
の上の方に張り付いているとか,下の方はおよそないというわけではなく,
必ずしも現在の法定刑の枠内で適正な量刑が困難であるというわけではない
といった意見が述べられた一方で,
11 身体の一部や物を挿入する行為が強制性交等の罪に該当しないことから,
それが社会的に軽いものと捉えられ,量刑に適切に反映されてこなかった可
- 31 -
能性がある
といった意見も述べられた。
(ウ) 具体的な規定の在り方に関する議論
これらを踏まえ,
改正をするとした場合の具体的な規定の在り方については,
1 強制性交等の罪の対象行為に含める方法のほか,新たな罪を創設して,そ
の法定刑を,強制性交等の罪と同じ法定刑とする方法,強制性交等の罪と強
制わいせつの罪の中間に位置する法定刑とする方法が考えられる
といった意見が述べられ,
2 陰茎以外を用いた性的な挿入行為については,性交等と同等の当罰性を有
する重い類型のものがある一方で,軽い類型のものもあるから,法定刑の上
限を強制性交等罪と同じ懲役20年とし,下限を同罪より下げて懲役2年や
3年とする方法が考えられる
3 挿入する行為と挿入させる行為の当罰性に差があることを踏まえ,身体の
一部や物の挿入については,挿入する行為のみを処罰することが考えられる
4 身体の侵襲性の違いに着目し,被害者の膣・肛門に身体の一部や物を挿入
する行為,被害者の口腔に性的な性質を有する物を挿入する行為,他人の膣
・肛門に被害者の舌を挿入させる行為を強制性交等罪と同じ法定刑で処罰す
ることが考えられる
といった意見が述べられた一方で,
5 身体の一部や物を挿入する行為や挿入させる行為について,一律に同じ処
罰の対象とすることは困難であるが,どの行為が性的な接触であり,どの行
為が同様の当罰性を有するかについては,
人によって感覚が異なると思われ,
議論を続けることが必要である
といった意見も述べられた。
(エ) 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,身体の一部や物の挿入
を強制性交等の罪の対象とし,あるいは,強制わいせつの罪より重い新たな罪
を設けてその対象とすることについては,その要否・当否を検討した上で,改
正をする場合には,挿入するものや挿入する部位の性質等に鑑み,その当罰性
・悪質性に応じた処罰が可能となるよう,適切な構成要件や法定刑の在り方に
ついて更に検討がなされるべきである。
- 32 -
(6) 法定刑の在り方
ア 加重類型
しろまる 2名以上の者が現場において共同した場合について加重類型を設けるべ
きか
しろまる 被害者が一定の年齢未満の者である場合について加重類型を設けるべきかしろまる 常習的又は継続的な犯行に及んだ場合について加重類型を設けるべきか
(ア) 加重類型を設けることの要否に関する議論
まず,2名以上の者が現場において共同した場合について,平成29年改正
法により集団強姦罪が廃止されたのは,当時の同罪の法定刑の下限は懲役4年
であったところ,当時の強姦罪(改正後の強制性交等罪)の法定刑の下限を懲
役3年から懲役5年に引き上げることとされ,同罪の法定刑の下限が集団強姦
罪の法定刑の下限を上回ることとなることから,集団であることの悪質性は,
改正後の強制性交等罪の法定刑の枠内で適切に評価すれば足りるとされたため
であり,集団であることの悪質性の評価が変更されたものではない。これを前
提に,
1 加害者が複数人であることにより,精神的被害がより重大なものとなり,
また,組織的・計画的に行われることや暴力的・常習的な加害であることが
多い上,加害者に加害の意識が薄いといった悪質さがある
などとして,加重類型を再び設けるべきとする意見が述べられたほか,
2 強制性交等致傷罪には無期懲役が定められているが,強制性交等罪の被害
者のPTSD有病率は非常に高いにもかかわらず,立証の難しさから,PT
SDを傷害結果とする致傷罪の適用例は少ないため,法定刑の下限は現状の
ままとしつつ,上限を無期懲役に引き上げた加重類型を設けることが適切で
ある
3 被害者の代理人としての経験からすると,被害者が,法廷での意見陳述に
おいて,複数人からの被害に遭ったつらさを述べ,検察官の論告や裁判所の
事実認定でそれらの事情が指摘されていても,そのことによって求刑や判決
が重くなっているという実感はない
といった意見が述べられた。
次に,被害者が一定の年齢未満の者である場合や,常習的・継続的に犯行に
及んだ場合については,
4 子供の被害は,長期間にわたって子供を苦しめ,その後の人生に重大な損
害を与えるため,成人の場合より重く処罰すべきである
5 家庭内で児童が継続的な性被害を受けた場合,心身に重大なダメージを受
けることが多いので,例えば,監護者性交等罪に当たる行為が継続的に行わ
れた場合について特に被害が重大なものをうまく切り分けることができるの
- 33 -
であれば,被害の重大性の観点から加重類型を設けて,法定刑に無期懲役を
加えることもあり得る
6 特別刑法に倣い,常習として強制性交等罪を犯す場合を重く処罰したり,
常習性に加えて,集団性という特殊な方法・手口の要件を満たす場合を重く
処罰したりする方法も考えられる
といった意見が述べられ,いずれの場合についても,重く処罰すべき必要性が
あることには異論がなかった。
もっとも,いずれの場合についても,加重類型を設けることに対しては,
7 複数人による犯行や子供に対する性犯罪の悪質性は,現行法の幅広い法定
刑の範囲内において,量刑上十分考慮することができるし,実務上もそのよ
うに対応している
8 量刑の本質は,被告人の犯罪行為に見合った刑事責任を与えるところにあ
り,性犯罪について,複数人による犯行であることは悪質性が高いといえる
し,一定の年齢未満の者に対する犯行は,成長過程にある被害者の成長に長
期にわたって悪影響を与える点で結果が重大であるといえる。また,被告人
が,低年齢ゆえ抵抗できない被害者に対して継続的に性的虐待に及んでいる
ような場合は,犯行態様の悪質性や常習性が認められ,これらの事情はいず
れも量刑を重くするものとして評価されている
9 2名以上の者が現場において共同した事案の量刑分布を見ると,複数人に
よる犯行であるという事情は類型的に相応に重いものとして評価されている
と見ることができるし,2名以上の者が現場において共同した事案や被害者
が一定の年齢未満の者である事案で,致死傷の結果が生じていないものにつ
いて,その量刑が法定刑の上限に張り付いているといった事情は見受けられ
ず,法定刑の上限を無期懲役に引き上げなければ適正な量刑が困難な状況で
はないと思われる
などとして,現行の法定刑の下で対応が可能であるという意見も述べられた。
(イ) 加重類型を設けることの当否に関する議論
加重類型を設けようとする場合の当否について,平成29年改正法により集
団強姦罪が廃止された際の議論として,強姦罪(改正後の強制性交等罪)の法
定刑の下限を懲役5年とした上で加重類型を設けるとすると,当該加重類型の
法定刑の下限が懲役6年となり,さらに,致死傷の結果を伴う場合の下限が懲
役7年となって,およそ執行猶予を付し得ないこととなるという問題があると
の指摘がなされたことを前提に,
1 性交等に至らなかったものの致傷結果が発生した事案では,
現在の運用上,
執行猶予が付されることがあるし,複数人による犯行の事案では,人によっ
て役割が大きく異なることがあり,共同正犯であっても,補助的な役割の者
もいる。また,一定の年齢未満の被害者に対する事案では,加害者が知的障
害を有するなど加害者の特性に配慮して刑の量定をすべき事案も相当数あ
- 34 -
る。そのため,執行猶予を付し得ない法定刑とすることには問題がある
2 現行法の下でも,継続的な強制性交等の事案で併合罪加重がなされれば懲
役30年までの刑を科すことが可能であるし,性的被害による精神的ダメー
ジがPTSD等と診断されれば致傷罪として無期懲役を科すことも可能であ
ること,法定刑に無期懲役がある罪は,死の結果を生じさせる罪や多数人の
生命に関わる罪であることに鑑みると,致死の結果を生じさせない性犯罪に
ついて法定刑の上限を無期懲役とすることには疑問がある
3 刑法典には,被害者が年少者である点に着目して刑を加重する規定は設け
られておらず,
仮に,
性犯罪についてそのような加重類型を設ける場合には,
性犯罪以外の犯罪についても加重類型を設けるか否かを検討する必要が生じ
るが,具体的にいかなる犯罪について設けるべきかの判断は必ずしも容易で
はないように思われる
といった意見が述べられた。
- 35 -
(6) 法定刑の在り方
イ 法定刑の下限の引下げ
強制性交等罪の法定刑(5年以上の有期懲役)の下限を引き下げるべきか
刑法第177条(強姦罪,平成29年改正法による改正後の強制性交等罪)
の法定刑は,明治40年の現行刑法制定時は「2年以上」の有期懲役とされて
いたが,平成16年の刑法改正により「3年以上」の有期懲役とされ,平成2
9年改正法により「5年以上」の有期懲役とされた。平成29年改正法による
法定刑の引上げの趣旨は,強姦罪については,実務において,法定刑の下限が
懲役5年とされている他の罪より重い量刑がなされており,強姦罪の法定刑の
下限は低きに失して国民意識と大きく異なっていることが認められたことか
ら,強姦罪の悪質性・重大性に対する社会の評価を適切に法定刑に反映させよ
うとするものであった。
これらを前提に,法定刑の在り方について議論を行ったところ,
1 暴行・脅迫要件が非常に緩やかに解釈され,通常の性交に付随するような
行為でも暴行・脅迫に当たると認定され得ることや,欺罔による行為が抗拒
不能に当たる場合があることからすると,
諸外国の規定の法定刑と比較して,
我が国の法定刑は非常に重い
2 起訴前に示談が成立して起訴猶予となる事件は相当数あるが,起訴後の裁
判における量刑判断では,行為類型が考慮の中心となり,かつ,性犯罪は犯
情において酌量すべき事情がないことが多いことから,起訴後に示談が成立
し,被告人が再犯防止のための入院治療等を誓約し,被害者が執行猶予でも
構わないと言っている事案であっても,平成29年の改正後はほぼ実刑とな
るというのが現場での体感である。
弁護人が起訴前に被害者と連絡が取れず,
示談のための働きかけができない場合があることをも踏まえると,こうした
落差は極めて不当である
といった意見が述べられたが,これに対しては,
3 性被害は,自殺企図や自殺未遂等を引き起こし,死に至る可能性がある生
命に関わる被害であり,その重大性に鑑みれば,法定刑の下限が懲役5年で
あることは妥当である
4 平成29年改正法による法定刑の下限の引上げは,改正前の時点で量刑傾
向と法定刑との間にギャップが生じていたことに対応するために行った改正
であると評価でき,
その後,
実務の運用や社会通念に大きな変化がない以上,
法定刑を引き下げる根拠は乏しい
5 量刑資料によると,平成29年の改正の前後で強姦罪・強制性交等罪のう
ち全部執行猶予が付される事案の割合は減少しておらず,肛門性交・口腔性
交の類型が強制性交等罪の対象とされたことによって執行猶予の割合が上が
ったという事情も見受けられないことを踏まえると,改正後に執行猶予の付
- 36 -
され方に明確な変更があったとはうかがわれず,執行猶予の付され方を理由
として法定刑の下限を引き下げることとはならない
といった意見が述べられた。
- 37 -
(7) 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方
配偶者,内縁などの関係にある者の間でも強制性交等罪や準強制性交等罪が
成立することを明示する規定を設けるべきか
ア 現行法の解釈や実務上の運用に関する議論
現行法上,配偶者や内縁などの関係にある者の間で強制性交等罪などの罪が
成立するか否かについては,
1 学説上,かつては,配偶者間における強制性交等罪の成立を全面的に否定
する見解が通説であったが,現在は,全面的に肯定する説が通説である。そ
れらの中間的な見解として,婚姻関係があることにより強制性交等罪の成立
が一定の範囲で限定されるとする説がある
2 検察・警察においては,配偶者であるから強制性交等罪が成立しないとい
う考え方はとられておらず,また,配偶者間で強制性交等罪が認められた裁
判例がある
といった意見が述べられ,また,実務の運用の実情については,
3 配偶者間の強制性交等罪の送致・起訴件数が少ない理由としては,被害者
に被害申告の意思がない場合があることや,相手方の同意があると思った旨
の被疑者の弁解が排斥できないといった立証の困難さによるものと思われ
る。また,刑事弁護の立場からすると,離婚調停を有利に進めるため,強制
的な性交があったと虚偽を述べて警察を利用する例もあるので,慎重に捜査
し,起訴・不起訴の判断がされることには合理性があると考えられる
といった意見が述べられた。
イ 新たな規定を設けることの要否・当否に関する議論
その上で,新たな規定を設けることの要否・当否については,
1 一般社会のみならず,司法関係者の間にも,パートナー,配偶者,内縁な
どの関係にある者同士の性的行為には同意があるはずであるというバイアス
があり,そのような関係にある者同士の間でも性犯罪が成立することが法律
に明示されていないことが,被害届の受理,起訴,有罪の事例の少なさに影
響している
2 DVに対する厳格な対応という意味で適切な運用がなされるよう,配偶者
間の強制性交等が処罰対象になることを条文に明記すべきである
3 我が国の刑法に配偶者間の性的行為について規定がないことは,国際的な
批判の対象となっており,実際,配偶者間での性犯罪の立件数が少ないこと
に照らすと,その批判が単なる誤解とも言い切れない
4 社会に対してメッセージを発して誤解を解消することは刑法の役割ではな
いが,民法上,性交渉の拒否が婚姻を継続し難い重大な事由に該当するとさ
れていることや,刑法上も配偶者間において性犯罪の成立範囲が限定される
という学説が一部にあること,配偶者間での強姦を認めた裁判例を見ると,
- 38 -
婚姻中の夫婦の間で,性交を求める権利の行使として違法性が阻却される余
地についても言及がなされていることなどからすると,解釈上の疑義を払拭
するために明文の確認規定を設けることもあり得る
といった意見が述べられた一方,規定を設けるべきでないとする意見はなかっ
た。
ウ 具体的な規定の在り方に関する議論
どのような関係性を取り上げて規定するかについては,
1 性犯罪の成立範囲が限定されかねないことは,婚姻関係にある場合だけで
なく,恋人,同棲しているパートナー,性的マイノリティ同士のパートナー
についても,同様に生じ得る問題である
といった意見も述べられたが,
2 性交に応ずる義務が問題とされてきた法律上の婚姻関係にある場合につい
て確認的に規定を設ければ,それ以外の親密な関係性について性犯罪が成立
することは解釈上当然に導かれる
といった意見が述べられ,これに対する異論はなかった。
その上で,具体的な規定の方法については,
3 強制性交等罪の客体につき,
「13歳以上の者
(婚姻関係にある者を含む。)に対し」などと規定する方法
4 「婚姻関係があることによって第176条(強制わいせつ)又は第177
条(強制性交等)の罪が成立しないものと解することはできない。
」といっ
た解釈規定を置く方法
5 「暴行又は脅迫を用いて性交等をした者は,
婚姻関係の有無にかかわらず,
強制性交等の罪とし」などと規定する方法
が挙げられた。
エ 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,配偶者間では性犯罪の
成立が限定され得るとの解釈もなお存することに鑑み,婚姻関係以外の関係性
にも留意しつつ,解釈上の疑義を払拭するための確認的な規定を設ける方向で
検討がなされるべきである。
- 39 -
(8) 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方
ア 処罰規定
他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為や画像を流通させる行為を処罰
する規定を設けるべきか
(ア) 議論の概要
他人の性的な姿態を撮影する行為のうち,処罰規定を設けるべきかを検討す
る対象行為として,ア強制性交等などの犯行の場面を撮影する行為,イ被害者
に気付かれずに撮影する行為,ウアダルトビデオへの出演の強要など欺罔や威
迫によって同意させた上で撮影する行為,エユニフォーム姿のスポーツ選手の
胸部や臀部を殊更にアップにして撮影したり,脚を開くなどの特定の姿勢を撮
影したりする行為,オ街で子供に声を掛けて水着姿やブルマ姿の姿態を撮影す
る行為が挙げられ,これらのうち,どのような行為を処罰することとし,処罰
対象とすべき行為をどのように規定するかについて,保護法益の捉え方,いわ
ゆる迷惑防止条例や私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律
との関係等を含めて議論を行った。
また,撮影行為のほか,撮影された画像を流通させる行為などを処罰するこ
との要否・当否についても議論を行った。
(イ) 新たな処罰規定を創設することの要否・当否に関する議論
同意なく性的な姿態を撮影する行為を処罰する必要性について,
1 同意のない性的行為の状況を知らない間に撮影され,その画像を用いて脅
迫されて更なる性的行為を強要される被害や,複数の同級生に囲まれて撮影
されながらレイプされる被害があるなど,多くの性被害が撮影とセットにな
っており,被害者にとっては画像を他人に持たれること自体が恐怖である
2 臨床や被害者の鑑定の経験から,性犯罪の被害の際に同意なく撮影が行わ
れたことが被害相談や警察への届出,民事訴訟の提起の妨げとなり,被害者
の精神的回復を遅らせる一因ともなっており,同意なき撮影が被害者を黙ら
せる手段として用いられる例が増加していると感じる
3 機器の発達により盗撮が巧妙化する中,着衣に覆われた身体や下着を盗撮
する行為は主に都道府県のいわゆる迷惑防止条例で処罰され得るものの,条
例によって対象となる行為や刑の重さが異なったり,航空機内の行為につい
て犯罪地の特定ができず処罰できなかったりする不都合が生じている上,軽
犯罪法や建造物侵入罪により取り締まることができる場合もあるものの,軽
犯罪法の法定刑は軽く,建造物侵入罪は撮影対象者が被害者にならない場合
があるという問題があることから,全国一律に盗撮自体を規制することが必
要である
4 撮影データやその記録媒体を没収・消去の対象とする前提として撮影行為
を処罰対象とする必要性が高い
- 40 -
などとして,処罰規定を設けるべきとする意見が多く述べられた。
(ウ) 保護法益に関する議論
新たな処罰規定を創設する場合,その保護法益をどのように考えるかについ
ては,
1 個人的法益としての性的自己決定権を損なう犯罪として位置付けるととも
に,公序良俗に反するものとして社会的法益に対する罪と位置付けることも
検討すべきである
2 保護法益を狭く解したために処罰すべき行為が処罰されないこととなる
と,被害実態を無視することにつながって本末転倒であることから,性的尊
厳という新たな保護法益からアプローチすることが考えられる
3 プライバシーを侵害する罪として構成することも可能であるが,性的な姿
態が撮影され,
それがデータとして固定化されることで撮影対象者の羞恥心,
屈辱感,重大な不安などの感情を引き起こす危険性が類型的に高いことを重
視し,性的自己決定権を損なう犯罪として位置付けるべき
といった意見が述べられた。
(エ) 処罰対象とすべき行為に関する議論
撮影せずに目視だけする行為を処罰対象としない理由については,
1 撮影行為によって視覚的情報が固定化され,データが拡散する危険性が生
じ,見る行為とは次元の異なる法益侵害性が認められる
といった意見が述べられ,これに対する異論はなかった。
その上で,いかなる撮影行為を処罰対象とすべきかについては,
2 性的行為の撮影自体を原則として違法とし,契約書などで同意を取り交わ
したものについてのみ適法とすべきである
といった意見も述べられたが,具体的な規定の方法として,
3 具体的な撮影対象につき,性器等の性的な部位,下着,性交等をしている
姿態などと規定する方法
4 浴場の脱衣所,自宅内などのプライベートな場所での撮影を禁止する規定
とする方法
が挙げられた。
これに対し,4の方法については,
5 いわゆる迷惑防止条例は,生活の平穏を保護法益とするため,場所の限定
がかけられているが,保護法益が専ら個人的法益である新たな罪を設ける場
合には,場所による限定をせずに撮影部位により処罰範囲を画定することが
考えられる
6 保護法益を性的自己決定権や性的尊厳と考えると,被害者がプライベート
な場所にいる際の撮影に限るべきではない一方で,公衆の目に触れる場所で
自ら性的部位を露出している場合には,処罰対象から除くべきである
といった意見が述べられた。
- 41 -
また,前記(ア)ウのアダルトビデオへの出演の強要について,
7 だまして撮影場所に連れ込まれ,恐怖や困惑の中で撮影に応じざるを得な
い状況に追い込まれて性的姿態を撮影される場合がある
といった意見が述べられたが,これに対しては,
8 いわゆるアダルトビデオへの出演の強要については,性的行為と撮影行為
が密接不可分の関係にあり,性的行為の同意の有無に疑念が生ずる事例が含
まれていることから,まずは,強制性交等罪や準強制性交等罪の適用の問題
として,暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件についての議論を踏まえる
ことが必要であるし,ひそかに撮影する類型や強制性交等の犯行状況を撮影
する類型等について議論した上で,更に別の要件を設ける必要があるかを検
討すべきである
といった意見が述べられた。
さらに,前記(ア)エのユニフォーム姿の撮影行為については,
9 赤外線カメラによる透視が行われたり,殊更に胸部や臀部を強調して撮影
された写真にわいせつなコメントが付されたりした画像がインターネット上
に投稿されている実情がある
といった意見が述べられたが,これに対しては,
10 衣服の上からであっても特定の部位を強調して撮影された者が羞恥心を抱
くことは理解できるが,
周囲の者が視認できる部分を撮影する行為について,
違法な行為と適法な行為とを明確に切り分けることは困難であり,目的犯と
するとしても,その認定には困難を伴う
11 衣服の上からの撮影であっても,衣服を透かして見ることのできる機器を
用いる場合には,性的な部位を撮影していることにほかならないので,処罰
対象に含めることが考えられる
といった意見が述べられた。
このほか,処罰対象とすべき撮影行為について,
12 撮影者の目的にかかわらず重大な被害結果が生じるから,わいせつ目的を
撮影の罪の構成要件とすべきでない
13 被害者に気付かれずにひそかに撮影する場合だけでなく,人が衣服を身に
着けない場所に侵入し,面前で突然撮影する撮影態様も考えられ,そうした
撮影態様も処罰対象から除外すべきではないから,撮影されていることにつ
いての被害者の認識は要件としないことが考えられる
14 撮影対象者が,撮影態様を含めて撮影されることを認識し,かつ,これを
任意かつ明示的に承諾している場合,処罰の対象とする必要はない
といった意見が述べられた。
このうち,撮影することに対する被撮影者の同意については,
15 撮影された画像の用いられ方についても被害者が決定できることを明確に
し,一度同意してもそれを撤回できることとすべきである
- 42 -
16 撮影すること自体の同意はあったものの,顔は映さない約束であったが実
際には映っていた場合や,撮影した画像は撮影者が手元に置いておく約束で
あったが拡散した場合など,同意に瑕疵がある場合が想定され,どこまでの
行為が同意に基づくものであるかという意味で同意の有無の認定の困難が生
じる
といった意見が述べられた。
撮影された画像を流通させる行為などを処罰対象とすることについては,
17 性的な画像等を流通させる行為のうち,同意なく性的な姿態等を撮影する
行為によって得られた画像等を提供する行為や公然と陳列する行為を処罰対
象とすることが考えられ,このうち,提供行為については,特定かつ少数の
者に提供する場合や不特定又は多数の者に提供する場合があり得るから,ど
のような行為を処罰対象とするかについて検討する必要がある
18 撮影行為には同意していたものの,撮影行為者以外の者にその撮影した画
像を提供することには同意していない場合については,同意なく撮影した画
像を流通させる行為と法益侵害や可罰性の点で違いがあるかどうかや,私事
性的画像記録の提供等の罪で一定程度処罰対象とされていることとの関係を
踏まえて検討する必要があり,その際には,同罪の保護法益は性的プライバ
シーであるとされていることにも留意が必要である
19 同意なく撮影された画像を所持する行為に対する処罰規定を設けることに
ついては,実際には撮影の同意があるのに,同意がないように装って撮影さ
れたものとの区別が難しく,故意の証明も難しいため,犯罪化には疑問があるといった意見が述べられた。
(オ) 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,被害者の意思に反する
性的姿態の撮影行為を処罰する規定を設ける場合には,処罰の必要性のある範
囲に限定するとともに,その要件の明確性に留意しつつ,適切な構成要件の在
り方について更に検討がなされるべきである。
また,意思に反して撮影された性的姿態の画像を第三者に提供する行為など
を処罰する規定を設ける場合も,同様に,適切な構成要件の在り方について更
に検討がなされるべきである。
- 43 -
(8) 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方
イ 没収・消去
撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を設け
るべきか
(ア) 議論の概要
撮影された性的な姿態の画像を刑罰として没収
(消去)
することについては,
撮影行為を処罰対象とする罪を創設した場合には,撮影された画像が記録され
た原本は刑法第19条第1項第3号の犯罪生成物件として没収することができ
ることを前提に,複写物の没収も可能にすべきとの意見が述べられたほか,刑
罰としての没収とは別に,有罪判決を前提としない没収(消去)を検討すべき
との意見も述べられ,いずれについても特段の異論はなかった。
そして,後者の有罪判決を前提としない没収(消去)について,その手続の
具体的な在り方について議論を行った。
(イ) 特別規定を設けることの要否・当否に関する議論
判例(最高裁平成30年6月26日決定)によると,強姦等の犯行の様子を
撮影したビデオカセットについて,撮影の目的が,被害者が捜査機関に被告人
の処罰を求めることを断念させ,刑事責任の追及を免れようとしたためである
場合には,犯罪供用物件(刑法第19条第1項第2号)に該当し,没収するこ
とができる。
これを前提に,没収(消去)に関する特別規定を設けることについて議論を
行ったところ,
1 被害者は,画像が存在していること自体に不安と恐怖を感じ続け,傷を負
い続けることになるので,没収(消去)を可能にすべきである
2 同意なく撮影された画像を取り戻すには多くの手続と時間を要し,犯罪に
より精神的にも被害を受けている被害者の負担になるから,画像の消去等が
より迅速に行えるような法整備が必要である
3 捜査実務においては,刑罰として没収できないものについては,画像を消
去するため,被疑者・被告人から所有権放棄を得る努力をしているが,相当
長期間にわたって放棄に応じない者も珍しくなく,対応に苦慮しているのが
実情である
4 強制性交等の犯行の際に性的満足を得る目的や営利の目的で撮影された画
像の没収の可否に関する裁判所の判断は示されておらず,平成30年最高裁
決定の理解を前提とすれば,撮影自体が実行行為の遂行を促進する効果を有
し,実行行為と密接に関連する場合でなければ,犯罪供用物件として没収す
ることは困難であると解されるため,被害の拡大を防止する観点から,立法
による対応が必要である
といった意見が述べられた。
- 44 -
(ウ) 複写物の没収に関する議論
刑法第19条によって没収することができる「物」は,犯罪行為と直接的な
関連性を有する原本に限られるから,例えば,撮影した画像データを記録した
原本から複写物にコピーしたとしても,複写物を没収することはできないとい
う共通認識の下で,複写物の没収(消去)を可能とすることの要否・当否につ
いて議論を行った。
この点については,データのコピーや,パソコン・スマートフォン等のデバ
イス間でのデータの転送が極めて容易であることなどから,複写物の没収(消
去)を検討すべきとの意見があり,そのこと自体に異論はなかった。
複写物の没収(消去)の方法については,
1 複製行為を処罰対象とし,複写物を犯罪生成物件(刑法第19条第1項第
3号)として没収対象に含める方法もあり得るが,複製行為には多様な行為
が想定され,また,複製行為についての故意等の立証ができない場合もあり
得ることを踏まえると,撮影行為に関する没収対象物の範囲を拡大して複写
物も含める特別な規定を創設する方法が立法論としては優れている
といった意見が述べられ,これに対する異論はなかった。
また,没収(消去)の処分を受けることとなる者や没収の対象となる複写物
の範囲については,
2 次々とデータが複製され,インターネット上で拡散され得る中,どの範囲
の者が撮影する罪の共犯とされ,没収(消去)の処分を受けることになるの
かという問題や,
加工された画像や一部が複製された画像については没収(消去)することができるのかという問題がある
といった意見が述べられ,この点に関して,
3 刑法第19条の没収は,危険なものを除去する保安処分的側面を有すると
ころ,性的姿態の画像との関係でいえば,その危険とは,それが流出するこ
と等によって撮影対象者の性的な尊厳等が侵害されることにあると考えられ
ることから,複写物の没収(消去)の範囲もその侵害に見合うものである必
要があり,
例えば,
性的な部位や性的な姿態が写っている場合を没収
(消去)
の対象とすることが考えられる
4 検察実務では,没収対象物を特定し,犯人以外の所有に属さないことを明
らかにするため,基本的に押収物について没収を求刑する取扱いとしている
ところ,複写物の没収(消去)についても同様の要請が働くため,インター
ネット上にある複写物のようにデータの所在が不明確である場合や,海外の
サーバーにデータがあるような場合には,没収(消去)は難しく,基本的に
は,捜査の過程で押収された複写物の没収(消去)を行うことになると思わ
れる
といった意見が述べられた。
- 45 -
(エ) 有罪判決を前提としない画像の没収・消去に関する議論
性的な姿態を同意なく撮影する行為を処罰する規定を設けたとしても,現行
法の没収は付加刑とされていることから,当該行為について有罪判決を得るこ
とが前提となるが,撮影の罪の公訴時効期間が経過し,又は撮影対象者が処罰
を望まないなどの理由から起訴されない場合があり,そのような場合に,有罪
判決がなくても没収(消去)することができる仕組みについて,
1 同意なく撮影された姿態の画像の所持を禁止する規定を設けないにもかか
わらず,有罪判決によらずに所有権を剝奪することは過剰な表現規制ではな
いか
といった意見が述べられたが,これに対しては,
2 性的姿態を撮影する罪により生じた画像が残っていることによる法益侵害
状態を解消する上で,当該画像の剝奪が付加刑でなければならないとする必
然性はなく,法益侵害ないしその危険性を除去し,被害者を保護するための
行政措置として,有罪判決を前提としない画像の没収(消去)の仕組みを設
ける必要がある
3 関税法上の輸入禁制品の行政没収に係る規定や,ストーカー行為等の規制
等に関する法律に基づく禁止命令等の内容として画像データの削除を命じる
例があることを参考に,具体的な制度の在り方を検討すべきである
などとして,行政措置としての画像の没収(消去)を可能とすべきとする意見
が述べられた。
その上で,具体的な仕組みの在り方については,
4 仮に画像の没収(消去)を命ずる規定を設けることとする場合には,中立
な第三者である裁判所が主体となる方が公平で妥当な解決を図ることができるといった意見が述べられた一方で,
5 性犯罪の捜査の過程で画像が証拠物などとして差し押さえられている場
合,それらが没収(消去)の対象に該当するかどうかを最も的確に判断でき
るのは捜査機関であると考えられるから,捜査機関が主体となって,当該刑
事事件の捜査・公判の過程で,押収された画像等について没収(消去)の措
置をとったり,押収はされていないが押収の対象となり得る画像等について
消去を命じたりする仕組みとすることが考えられる
6 どの機関を主体とすることが適当であるかについては,現行法上,没収が
刑罰とされていること,没収(消去)の対象となる画像が第三者の手元にあ
るなど権利関係が複雑である場合も考えられることなどを踏まえ,様々な観
点から検討を行うことが必要である
7 有罪判決を前提とせずに記録媒体の所有権を剝奪し,又はデータを消去す
る仕組みを設ける場合には,財産権の制約になることから,その可否や法的
根拠を検討するとともに,それと関連付けて剝奪・消去の要件や範囲を検討
- 46 -
し,記録媒体の所有者や画像データの保有者に対する手続保障の在り方も考
える必要がある
といった意見が述べられた。
(オ) 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,性的姿態を撮影する罪
の創設とともに,これにより生成された画像の没収(消去)を可能にする規定
を設ける場合には,付加刑の没収として,データが保存された原本からデータ
が複製・移転された複写物についても没収(消去)ができるよう,データの複
製・加工の容易性や原本との同一性にも留意しつつ,具体的な規定の在り方に
ついて更に検討がなされるべきである。
また,有罪判決を前提としない没収(消去)を可能にする規定を設ける場合
には,財産権の制約との関係や現実的な対応可能性にも留意しつつ,その対象
や判断主体,手続保障などに関する具体的な規定の在り方について,更に検討
がなされるべきである。
- 47 -
2 刑事手続法について
(1) 公訴時効の在り方
しろまる 強制性交等の罪について,公訴時効を撤廃し,又はその期間を延長すべきかしろまる 一定の年齢未満の者を被害者とする強制性交等の罪について,公訴時効期
間を延長することとし,又は一定の期間は公訴時効が進行しないこととすべ
きか
ア 議論の概要
公訴時効制度の趣旨は,
犯人処罰の必要性と法的安定性の調和にあることや,
公訴時効期間が法定刑を基本的な基準として定められていることを前提に議論
を行い,年少者は性的行為の意味が分からないため被害認識が困難であること
や,大人でも被害認識や被害申告が困難な場合があることについて,認識が共
有された。その上で,性犯罪の公訴時効について特別の取扱いをすることにつ
いて,その是非や公訴時効の完成を遅らせる場合の具体的な方策の在り方に関
する議論を行った。
イ 性犯罪についての被害認識・被害申告の困難性に関する議論
検討の前提となる認識として,性犯罪については被害認識や被害申告が困難
であることに関し,
1 被害時に未成年である場合,性的虐待順応症候群により被害を開示しない
ことや解離性健忘によって被害の記憶を失うことが珍しくないほか,自己の
身に起きたことがよく分からずに被害認識に10年以上かかる例もまれでは
なく,また,思春期以降に性的なことだと分かっても,警察に届け出るよう
な被害とは認識できない例がある。被害時に大人である場合であっても,被
害認識に1年以上かかることが多く,特に知人からの被害では,見知らぬ人
に突然襲われるという性暴力のイメージと一致しないため,被害と認識でき
ない例がある
2 被害と認識できても,身の安全を考え警察への届出を迷い,また,フラッ
シュバック等で被害を口に出すことが難しいことがある。一定の関係性があ
る相手からの継続的な被害では,その関係を離れ安全が確保されて初めて警
察に行くことを考えられるようになることもまれではない
3 性犯罪の被害者は,被害に遭ったこと自体に恥の感情を抱き,自分が悪い
から被害に遭ったという自責感が強い。そのため,周囲に相談することが難
しく,仮に相談しても被害者が責められることがあるといった傾向があり,
被害が潜在化しやすい
4 アンケートを実施したところ,
「身体の一部や異物を口・肛門・膣に挿入
された/させられた」被害に遭った者のうち,すぐに被害と認識できなかっ
- 48 -
た者の割合は63.6パーセント,それらの者が被害の認識までにかかった
期間の平均は7.46年であり,被害時の年齢が幼いほど期間が長いが,2
0から30歳代でも11年以上かかる者が一定数いた
5 精神科臨床の経験からすると,単回の被害と比較して,継続的な性的虐待
の被害では,被害と認識していなかったり相談できなかったりする傾向が強
く,30歳前後にならないと一人ではなかなか被害を認識できないのが実情
である
といった意見が述べられた。
ウ 性犯罪の公訴時効について特別の取扱いをすることの当否に関する議論
まず,公訴時効を撤廃することについては,
1 被害者にとって,公訴時効は,被害を訴え出る権利が失われ,法の正義が
自分に適用されないことを意味するから,少なくとも被害者が未成年である
場合には公訴時効を撤廃すべきであるし,人の寿命と同程度まで公訴時効期
間を延長すべきである
といった意見も述べられたが,
2 公訴時効の撤廃は,その犯罪には公訴時効制度の趣旨が妥当しないという
ことを意味するが,現時点で,性犯罪について,殺人罪のように,時間の経
過により犯人が一律に処罰されなくなることは不当であるという意識が国民
の間で広く共有されているかについては疑問がある
3 生命を奪う犯罪である傷害致死罪の公訴時効が撤廃されていないこととの
均衡から,性犯罪の公訴時効を撤廃することの説明は困難である
といった意見が述べられ,これらに対する特段の反対意見はなかった。
その上で,公訴時効の完成を遅らせることについては,
4 公訴時効の趣旨の一つは法的安定性であり,訴追される側の利益も考えな
ければならない。時の経過により,訴追される側の証拠は散逸するし,性犯
罪の多くの事件で重要な役割を果たす被害者供述について,記憶の変容によ
ってその信用性に重大な問題が生じることがある
5 被害者が長期間経過後に被害と認識した場合,そもそも性的行為があった
かどうかの証拠が散逸し,客観的証拠が残っていない場合が多く,仮に残っ
ていたとしても,証拠の保管や鑑定における問題や犯人の画像等の識別の問
題が生じた場合に,反証のための適切な証拠が確保できないことが考えられ
るし,同意の有無やその誤信について争う場合に,被害者との関係性や当時
の被害者の態度,周囲から二人がどのような関係に見えたかといった反証の
ための有利な証拠が散逸していることが考えられ,公訴時効の完成を遅らせ
ることについては慎重であるべきである
といった意見も述べられたが,これに対しては,
6 トラウマの記憶は,小さな子供であっても比較的よく保持されると言われ
ており,PTSDの治療の過程で回復とともに記憶が外部に現れ,10年,
- 49 -
20年前の被害の記憶が生々しく再現されることはよくある
7 検察官が立証責任を負うことなど立証に関わる刑事訴訟法上の諸制度・仕
組みが正しく機能する限り,
「疑わしきは被告人の利益に」という原則に従
い,証拠によって認められる限りの事実が認定されるにとどまるので,根拠
のない有罪判決のおそれが高まることにはならない。また,長期間経過後に
被疑者・被告人の地位に置かれること自体の負担についても,一般に,検察
官は有罪の見込みなく公訴提起することは許されないと理解されており,そ
のような原則に従う限り,訴追される負担が理由なく広がることにはならな
い。そして,相応の根拠がないのに重い負担が課されることにならないので
あれば,時間が経過していることによって,被疑者・被告人の側に特に不合
理な負担が生じることにはならない
といった意見が述べられた。
また,公訴時効の完成を遅らせることの意義として,
8 公訴時効の完成を遅らせることとした場合,証拠の適切な保全といった課
題はあるものの,例えば,犯人のDNAが採取できている場合には,公訴時
効期間の延長等により,これまで公訴時効の完成が原因で検挙できなかった
被疑者を検挙できる可能性が高まり,逃げ得を許さなくなるという意味で効
果がある
9 公訴時効の完成を遅らせたとしても,処罰できるかどうかは事案ごとの判
断となるが,犯人が犯行の様子を撮影・録音している例もあり,容易に記録
できる機器の増加により,そのような例が増加することが考えられる。公訴
時効が完成しなければ,少なくとも捜査を尽くした上で訴追の可否が判断さ
れるという意義がある
といった意見が述べられ,公訴時効の趣旨との関係では,
10 公訴時効期間は,法定刑を基本的な基準として定められているが,現行法上,特定の罪種について別の観点から異なる取扱いとすることも許容される。
性犯罪については,ア被害の害悪や影響が長期にわたって残存すること,イ
被害者が被害と認識して相談・届出をすることができない場合や,被害認識
を形成しても,周囲の目や人間関係,被害を語ることへの心理的抵抗といっ
た様々な理由から被害申告が困難である場合が少なくないことから,特別の
取扱いをすることも検討に値するところであり,イについては,特に年少者
に妥当する
といった意見が述べられた。
エ 性犯罪について公訴時効の完成を遅らせる場合の具体的な方策の在り方に関
する議論
性犯罪一般について公訴時効の完成を遅らせる場合の具体的な方策の在り方
については,
1 現行制度の枠内で公訴時効の完成を遅らせることとするのであれば,ア公
- 50 -
訴時効の起算点を遅らせる方法,イ公訴時効期間を延長する方法が考えら
れ,理論的に説明が付くのであれば,ア及びイのいずれか一方の方法によ
ることも両者を組み合わせることも可能と思われる。さらに,現行法上,
犯人が国外にいる場合には,事実上捜査を行うことができないため公訴時
効が停止することとされているのと同様の考え方に立ち,性犯罪は被害認
識や被害申告が困難であり,それゆえ事実上捜査を行うことができないこ
とを根拠として,ウ性犯罪であること,あるいは被害者が一定の年齢未満
であることを新たな停止事由とする方法が考えられる
2 諸外国の法制に倣い,特定されていない個人に由来するDNAが証拠とし
て得られていることを新たな停止事由とする方法が考えられる
といった意見が述べられた。
また,被害者が一定年齢未満である場合に公訴時効の完成を遅らせる場合の
具体的な方策の在り方については,
3 ア性犯罪一般について特則を設けた上で,さらに,被害者が一定の年齢未
満である場合について特則を設ける方法と,イ被害者が一定の年齢未満で
ある場合についてのみ特則を設ける方法が考えられ,いずれについても,
公訴時効の趣旨に照らし,被害者が一定の年齢未満である場合にのみ妥当
する,又は強く妥当する事情があるかについて検討する必要がある
4 加害者が親等である場合には,被害者である子供は,家庭的・社会的・経
済的に加害者に依存している場合が多く,被害を申告することは難しいの
で,少なくとも,被害者が未成年である場合の公訴時効の起算点を25歳
あるいは30歳まで遅らせるべきであるし,未成年者の特殊性・脆弱性を
踏まえると,公訴時効期間を延長することも検討すべきである
5 特に未成年者については,身体的虐待等と異なり,性犯罪の被害に遭って
いることが外見上分かりにくく,周囲の者も本人も被害を認識できないと
いう問題があるので,一定の年齢まで公訴時効の起算点を遅らせることが
必要であり,諸外国の法制に倣い,例えば,被害者が30歳に達するまで
全ての性犯罪について公訴時効の起算点を遅らせる方法や,被害者が18
歳未満の者である場合に限り,28歳に達するまで公訴時効の起算点を遅
らせるといった方法が考えられる
6 年齢とともに被害の開示ができるようになる実態に照らし,20歳代の若
年成人については公訴時効が進行しないこととすべき
7 現行法において,18歳未満の者に対する性交等について監護者性交等罪
が設けられていることや海外の立法例も踏まえ,未成年者の被害について,
成年に達するまで起算点を遅らせることが考えられる
といった意見が述べられた。
オ 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,性犯罪について公訴時
- 51 -
効の完成を遅らせる改正をする場合には,
一定の年齢未満の被害者については,
若年であることに伴う脆弱性が原因となって被害の認識や申告に困難を生じる
ことを踏まえる一方,証拠の散逸や法的安定性にも留意しつつ,具体的な方策
の在り方について更に検討がなされるべきである。
- 52 -
(2) いわゆるレイプシールドの在り方
被害者の性的な経験や傾向に関する証拠を公判に顕出することを原則として
禁止することとすべきか
ア 規定を設けることの要否・当否に関する議論
現行の刑事訴訟法及び刑事訴訟規則の下では,証拠調べに当たっては,事件
の審判に必要な証拠について取り調べることとされ
(同規則第199条第1項,
第189条の2)
,裁判長は,尋問が事件に関係のない事項にわたるときその
他相当でないときは,訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り,これを制限
することができ(同法第295条)
,訴訟関係人は,立証すべき事項又は主尋
問若しくは反対尋問に現れた事項に関連する事項について尋問する場合には,
その関連性を明らかにしなければならない
(同規則第199条の14第1項)。そして,訴訟関係人は,証人の供述の証明力を争うため,証人の利害関係等証
人の信用性に関する事項について尋問を行うことができるが,みだりに証人の
名誉を害する事項に及んではならず(同規則第199条の6)
,また,侮辱的
な尋問をしてはならないとされている(同規則第199条の13第2項第1号)。
これらの規定が適切に運用されることにより,関連性のない証拠や質問,侮
辱的な質問は排除されることとなることを前提に議論を行った。
その上で,捜査・公判における二次被害の実態について,
1 公判前に,被害とは関係がないとして裁判所・検察官・被告人側で合意し
た事項であるにもかかわらず,弁護人が法廷で被害者の職業に殊更に言及し
た例もあるなど,検察官による異議が適切に述べられず,裁判官による訴訟
指揮が適切になされない場合がある
2 個人差はあるが,被害を訴えたときに,警察官から,裁判で嫌な質問をさ
れるとか過去の出来事を持ち出されるなどと言われて被害届を取り下げた例
があると聞いているし,過去に複数人と性的関係を持っていることを理由に
今回も同意があるとして被害者の訴えを信用しないことが司法の現場で起き
ていると思われるほか,被害者が逃げなかったことを理由の一つとして最高
裁判所が無罪判決を言い渡した例があるなど,社会全体にジェンダーバイア
スがある
といった意見が述べられ,
3 法廷等で,被害者が風俗や水商売の仕事に就いていたことや,被告人以外
の者との過去の性的関係に言及されたりする例があるから,明確な禁止規定
が必要である
4 被害申告を考えている人が躊躇しないよう,法廷では不要・不適切な尋問
は行われないことを明文で示し,被害申告を考えている人に説明できるよう
にしておく必要があるし,不適切な反対尋問がされない法律を整備しておく
- 53 -
ことが重要である
5 裁判所が適切に訴訟指揮を行い,弁護人が被告人に対して不適切な尋問は
できないことを説明できるようにするため,証人に対して侮辱的な質問をし
てはならないことを一般的に定める必要がある
などとして,法整備が必要であるとする意見が述べられた。
これに対しては,
6 侮辱的な質問を禁止する規定は刑事訴訟規則に既に存在するし,弁護人と
しては,事案によっては,被害者が同意していたことの立証のため,被害者
の属性に言及せざるを得ない場合があり,そのような関連性・必要性がある
場合にまで禁止する新たな規定を置くことは,憲法で保障された反対尋問権
を不当に制限するものであり,認められない
7 被告人の防御に必要な立証を一切認めないことは許されないので,仮に立
法をするとしても,関連性や必要性のない証拠の取調べを認めない,又は不
相当な質問を認めないといった現在の運用を確認する規定を置くことになる
と考えられるが,その際には,前科証拠の取扱いなども含め,関連性につい
ての一連の規定を設けるのが筋である。レイプシールドについてのみ規定を
置くことについては,関連性や必要性に関して裁判所が誤った理解・解釈を
しているのであれば,特別な規定を置いてそれを正す意味があるが,個別の
事件における判断の誤りなのであれば,裁判所内部での研修等により対処さ
れるべきである
8 仮に明文で被害者の性的な経験・傾向に関する証拠の顕出を制限するとし
ても,一定の例外を設ける必要があるが,海外の立法例がその明確な規律を
設けることの難しさを示しており,制限される証拠の内容や例外を過不足な
く,明確かつ適切に規定できるかについては,なお検討を要する
といった意見が述べられた。
イ 今後の運用の在り方に関する議論
その上で,今後の運用の在り方について,
1 個別の事件において,公判前整理手続や事前の打合せで証拠提出や尋問の
範囲を明確に定め,合意に反する行為がなされないように強くコントロール
して,適切な訴訟指揮や異議申立てができるようにすることが考えられる
2 裁判官・検察官・警察官・弁護士等の研修を強化するなどして,被害者が
安心して刑事裁判の場に臨めるよう,積極的な取組を行うことが必要である
といった意見が述べられたほか,刑事手続に関わる実務家の委員から,
3 裁判官については,司法研修所の研究会で,性犯罪事件の訴訟運営に関し
て,証人尋問時の被害者の性的経歴等に関する質問についての適切な訴訟指
揮を含めて裁判官同士で議論しているほか,性犯罪の心理に詳しい専門家や
性犯罪被害者を講師とした講演の中で,裁判で配慮が必要な事項や訴訟指揮
として求められる対応について聴いており,引き続き,公判での二次被害の
- 54 -
防止に努めたい
4 検察官については,本検討会において指摘された問題意識を踏まえ,主張
や争点と関連性がない不当な質問を防止して,公判における二次被害を防止
するという観点から,公判前整理手続等の中で,積極的に裁判長に求釈明を
申し立てるなどして弁護人の主張を明示させ,関連性のない主張を排除する
とともに,被害者の性的な経験や傾向に関する尋問が予想される場合には,
異議申立て等の準備を十分に行って適時に異議を申し立てるなど,検察官と
して適切な対応に努めるべきことを改めて検察内で共有すべきと考えている
5 警察官については,教育・訓練等を引き続き行うほか,都道府県警察に対
し,捜査段階における二次被害に関する本検討会の指摘・議論を踏まえ,被
害の届出への適切な対応など被害者の心情に配意した対応を改めて指示する
こととしたい
6 弁護士については,弁護士会において,国選弁護人の登録に際し,被害者
への対応の在り方を含めた刑事弁護に関する研修を義務付けることを検討し
ている
といった意見が述べられた。
- 55 -
(3) 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方
司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体について,特
別に証拠能力を認める規定を設けるべきか
ア 新たな規定の創設の要否・当否に関する議論
いわゆる司法面接は,被暗示性・被誘導性が高いという子供の供述特性に着
目し,供述の変遷を防ぎ,二次被害を防止するため,被害からできるだけ早い
時期に,原則として一度だけ,録音・録画を行いながら,子供からの自由報告
を重視して行うものであり,警察・検察・児童相談所では,児童が被害者等で
ある事件について,児童の負担軽減と供述の信用性確保の観点から,三機関で
協議を行い,
その代表者が聴取する取組を行っており,
その聴取に当たっては,
このような手法が広く用いられている。
捜査段階で司法面接的手法を用いて行われた聴取の結果を記録した録音・録
画記録媒体は,刑事訴訟法第321条第1項各号が定める要件を満たさない場
合,証拠能力が認められず,供述者の証人尋問が必要となるが,子供が法廷で
供述することは大人の場合以上に困難であると指摘されている。
これらを前提に,議論を行い,まず,供述者の証人尋問をしなくても,司法
面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体を証拠とすることが
できるようにするため,新たな規定を創設することの要否・当否については,
1 警察・検察・児童相談所が行っている代表者聴取は,暗示・誘導のおそれ
が払拭できず,当然に信用性が認められるわけではないから,主尋問に代替
するものとしてであっても証拠能力を認めるべきではなく,現行の刑事訴訟
法の伝聞例外の規定に則って証拠能力を判断すべきである
2 証人に対する二次被害を防止するための方策として,
刑事訴訟法上,
遮蔽,
ビデオリンク,期日外尋問といった規定が存在しており,これらの規定を活
用すべきである
3 憲法第37条第2項の証人審問権は刑事弁護において重要な権利であり,
証人が裁判官の面前で尋問されること自体に価値があるし,弁護人が主尋問
を聞いた上で反対尋問を行うことが重要である
4 司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体が証拠とし
て採用された件数が非常に少ない現状で,特別な証拠能力を認める規定を設
けることは時期尚早である
といった意見が述べられた一方で,
5 子供は,
基本的に年齢が若いほど脳が未発達であり,
ストレス耐性も低く,
精神的に脆弱であって,13歳未満の子供は特に脆弱であり,思春期の子供
であっても,情動のコントロール能力がとても低く,ストレスの影響を大変
受けやすいと言われている。こうした年齢の子供たちについては,繰り返し
の供述によるストレスを軽減すべきであるし,また,法廷のようなストレス
- 56 -
の強い状況では,十分な記憶の想起ができず,かえって真実の追究から遠の
く可能性がある
6 司法面接の実施までに記憶が汚染される可能性や,司法面接の質に関する
懸念を考慮しても,少なくとも,司法面接が最も適切な聴取であり,法廷で
の証人尋問に司法面接を超える力はなく,裁判自体が子供にとって非常に侵
襲的になり得ることを考えるべきである
7 ア捜査段階での複数回の取調べや公判廷での証言で被害を追体験させられ
ることは,心身に多大な悪影響を与え,その後の人生にも影響を及ぼすとこ
ろ,供述の反復によって生じる問題は,遮蔽やビデオリンクなどの証人保護
措置では対処できないこと,イ誘導や暗示を受けやすく,記憶の変容を生じ
やすい年少者の特性から,初期の供述を確保しておく必要があり,司法面接
的手法により聴取された供述の方が信用性が高い場合があるため,これによ
り正確な事実認定を確保すべき場合があることが伝聞例外を認める必要性と
して挙げられ,特に供述者が子供である場合には,アについて,心身の健全
な成長に与える悪影響が重篤であるといえる
などとして,録音・録画記録媒体に証拠能力を認める特別の規定を設けるべき
とする意見が述べられた。
イ 具体的な要件の在り方等に関する議論
公判期日外の供述である司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録
画記録媒体を,
その内容の真実性を証明するための証拠とすることについては,
刑事訴訟法が,証拠とする必要性と信用性の情況的保障の強弱の兼ね合いによ
って要件を定めていることを前提に,
同法第321条第1項第3号(裁判官・検察官以外の者の面前における供
述を録取した書面等に関するもの)のように,反対尋問の機会を与えること
なく証拠能力を認める規定(規定 )
同法第321条の2(ビデオリンク方式による性犯罪の被害者等の証人尋
問の状況を記録した媒体がその一部とされた調書について,被告人に反対尋
問の機会を与えることを条件として証拠とすることを認めるもの)
のように,
反対尋問の機会を保障した上で,主尋問に代えて証拠能力を認める規定(規
定 )
について議論を行った。
新たな規定を設ける場合の具体的な要件の在り方については,
1 規定 について,同法第321条第1項第3号は,必要性に関して供述不
能と不可欠性を,信用性の情況的保障に関して特信性を要件としているところ,「供述不能」の要件を,
「被害について繰り返し供述することで心身の健
康又は健全な成長に重大な悪影響を及ぼす場合」といった高度の必要性を示
す別の要件に代えることができるかが問題となり,これができるとすれば,
この場合を適切に捕捉するため,対象となる犯罪の種類や供述者の年齢・立
- 57 -
場等の要件設定が問題となる
2 規定 について,同法第321条の2は,性犯罪の被害者等が同一の事実
について繰り返し証言することの負担を軽減する必要があることを前提に,
被告人に反対尋問の機会を与えることを条件として証拠とすることを認める
ものであるところ,司法面接的手法による聴取における供述については,供
述が裁判官の面前でなされていないという点を不可欠性と特信性をもって補
うことによって新たな伝聞例外を創設することが考えられるかが検討課題と
なる
3 反対尋問権の制約となることとの兼ね合いから,証言能力が年齢によって
相当程度差があることを踏まえ,供述者の年齢要件を検討すべきである
4 医師など専門的知識を有する中立の第三者が聴取を行い,同法第321条
第1項第2号に準じた規定により伝聞例外を認める方法や,裁判所が関与し
て子供の供述を保全する方法が考えられる
といった意見が述べられた。
このうち,1及び2に対しては,
5 規定 については,諸外国の法制にも例が少なく,また,特信性の要件が
認められたとしても,供述の信用性は別途問題となり,弁護人が供述者の証
人尋問請求をした場合,記録媒体だけでは信用性の判断が難しく,証人の採
用を検討せざるを得ないこともあるように思われるところ,伝聞例外の規定
と証人尋問請求権との関係をどう整理するのかという問題がある。また,規
定 については,記録媒体を主尋問に代替させることが被害者の負担を軽減
させるとは限らないのではないか,司法面接と尋問の時間的間隔が空き,主
尋問がなく反対尋問を行うため,反対尋問の際に証人が司法面接時と反対尋
問時のいずれの記憶を述べているのかが分かりにくく,供述の信用性の判断
が困難になるのではないか,仮に証人が反対尋問前に記録媒体を確認すると
すると,記録媒体の内容が記憶されてしまうのではないかといった問題があ
るほか,同法第321条の2は,裁判官や弁護人の面前で供述が行われてい
る点が捜査官の面前での供述である司法面接的手法による聴取とは異なって
いることなども踏まえて検討すべきである
6 弁護人の防御権の問題や,反対尋問なしに証拠能力を認めると被告人が納
得できず,再犯防止にもならないことも考慮すると,規定 の創設を検討す
べきである
といった意見が述べられたが,5の意見については,
7 規定 については,供述の信用性が担保されている情況を証拠能力の付与
の前提としているので,更に被害者の証人尋問を行う必要性は低いと考えら
れる。また,規定 については,同法第321条の2の場合や通常の証人尋
問でも時間的間隔が空くことはあり,現行法の伝聞例外と質的に異なるもの
ではないし,司法面接的手法による聴取の対象として想定されている年少者
- 58 -
については,聴取からの時間の経過に伴って記憶の減退や汚染の可能性が高
まるので,そもそも,主尋問の時点における記憶を確認する必要があるとの
指摘は必ずしも当たらない
といった意見が述べられた。
なお,司法面接的手法による聴取の在り方について,
8 司法面接の聴取者,手法等に関して一定のルールが定められ,このルール
に則って聴取が行われることが必要となる
9 捜査機関による聴取は暗示・誘導のおそれを払拭できないし,急性期の子
供からの聴取,特に慢性的な被害を受けた子供からの聴取には高度の技術を
要することから,聴取者を,医師や臨床心理士など中立な第三者や子供の発
達や心理に精通して訓練を受けた者とすべきである
といった意見が述べられたが,9の意見に対しては,
10 刑事事件の手続や証拠関係を理解している者が聴取すべきである
11 聴取の様子が録音・録画されていれば,裁判所が証拠能力を判断するに当
たり,記録媒体の内容を見ることで聴取者による暗示・誘導の有無を見極め
ることができるから,聴取主体から捜査機関や児童相談所の職員を除外する
必然性はない
といった意見が述べられた。
このほか,
12 司法面接的手法を用いた聴取により得られた供述が常に正しいわけではな
いから,その記録媒体に証拠能力を認めるには,被聴取者の供述を裏付ける
独立した証拠を要することとすることについての検討が必要である。また,
聴取の前に被聴取者の記憶が汚染される可能性があるから,誰とどのような
話をしたかに関する資料を集めておく必要があるし,検察官等の聴取者の能
力について証人尋問を行ったり,専門家が司法面接の録音・録画を鑑定した
りすることも考える必要がある
13 司法面接の運用について更なる検討が必要であり,子供の発達や心理に関
する研修が多く行われる必要があるし,それらに精通して訓練を受けた人が
プロトコルを遵守して聴取を行うことが必要である
といった意見が述べられた。
ウ 小括
以上の議論を踏まえると,今後の検討に当たっては,司法面接的手法による
聴取結果を記録した録音・録画記録媒体に特別の証拠能力を認める規定を設け
る場合には,被暗示性や被誘導性といった供述特性を持つ者への配慮やその負
担軽減の必要性を踏まえ,証人審問権の保障や供述の信用性判断の在り方にも
留意しつつ,証拠とする必要性や信用性の情況的保障などに関する具体的な規
定の在り方について,更に検討がなされるべきである。
- 59 -
第4 終わりに
本検討会においては,刑事の実体法・手続法に関する多岐にわたる論点につ
いて,各委員がそれぞれの専門的知見に基づき,現行法の基本的枠組みや刑事
法の諸原則との整合性にも留意しつつ,幅広い観点から活発に議論を行った結
果,今後の法整備に向けた検討に際しての重要な視点や留意点を示すことがで
きた。
法務省には,本検討会の検討結果を踏まえ,ここに課題として示されていな
い点も含めて更なる検討を行い,性犯罪がその被害者に対し深甚な苦痛を与え
ることに思いを致し,より適切に対処するための刑事法の改正に向けた取組を
迅速に進めることを期待したい。
また,性犯罪に適切に対処するためには,言うまでもなく,刑事法の整備だ
けでなく,性犯罪の被害者に対する支援,性犯罪による被害や二次被害を生ま
ないための教育・啓発,性犯罪者の再犯防止のための施策の充実を含めた総合
的な取組が求められる。政府においては,引き続き,そのような視点から,性
犯罪の根絶に向けて取り組んでいただきたい。
本検討会は,現在の日本の社会環境や国民意識を踏まえ,刑事法の在り方に
ついて検討したものである。社会や価値観の多様化に伴い,性犯罪に関する刑
事法のあるべき姿も変化し得ることから,今後とも,性犯罪に係る実態に即し
た対処のための議論が続けられていくことを望むものである。
「性犯罪に関する刑事法検討会」委員名簿
令和3年しろまるしろまる日現在
【座長】
井 田 良 中央大学教授
い だ まこと
【委員】
池 田 公 博 京都大学教授
い け だ き み ひ ろ
金 杉 美 和 弁護士(京都弁護士会)
か な す ぎ み わ
上 谷 さくら 弁護士(第一東京弁護士会)
か み た に
川 出 敏 裕 東京大学教授
か わ い で と し ひ ろ
木 村 光 江 日本大学教授
き む ら み つ え
小 島 妙 子 弁護士(仙台弁護士会)
こ じ ま た え こ
小 西 聖 子 武蔵野大学教授
こ に し た か こ
齋 藤 梓 目白大学専任講師・臨床心理士・公認心理師
さ い と う あずさ
被害者支援都民センター相談員
佐 藤 陽 子 北海道大学教授
さ と う よ う こ
中 川 綾 子 大阪地方裁判所部総括判事
な か が わ あ や こ
橋 爪 隆 東京大学教授
は し づ め たかし
羽 石 千 代 警察庁刑事局刑事企画課刑事指導室長
は ね い し ち よ
宮 田 桂 子 弁護士(第一東京弁護士会)
み や た け い こ
山 本 潤 SANE(性暴力被害者支援看護師)
や ま も と じゆん セ イ ン
(一般社団法人Spring代表理事)
和 田 俊 憲 東京大学教授
わ だ と し の り
渡 邊 ゆ り 仙台高等検察庁総務部長
わ た な べ
(敬称略,五十音順)
別添1
「性犯罪に関する刑事法検討会」開催状況
しろまる 第1回 令和2年6月4日開催
大臣挨拶,自己紹介,意見交換
しろまる 第2回 令和2年6月22日開催
ヒアリング(男性の性被害,性的マイノリティの性被害,子供の性被害,
司法面接)
しろまる 第3回 令和2年7月9日開催
( , , ,
ヒアリング 教員からの性被害 フランス刑法の性犯罪規定 加害者臨床
刑事弁護)
しろまる 第4回 令和2年7月27日開催
論点整理案について
しろまる 第5回 令和2年8月27日開催
検討すべき論点の確定 【一巡目】論点についての議論(現行法の運用の,実情と課題,暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件,地位・関係性を利
用した犯罪類型,性交同意年齢)
しろまる 第6回 令和2年9月24日開催
論点についての議論(強制性交等の罪の対象となる行為の範囲,法定刑,
配偶者間等の性的行為に対する処罰規定,性的姿態の撮影行為に対する処
罰規定)
しろまる 第7回 令和2年10月20日開催
論点についての議論(性的姿態の撮影行為に対する処罰規定,公訴時効,
レイプシールド,司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱い)
しろまる 第8回 令和2年11月10日開催
【 】 ( ,
二巡目 論点についての議論 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件
地位・関係性を利用した犯罪類型)
しろまる 第9回 令和2年12月8日開催
論点についての議論(地位・関係性を利用した犯罪類型,性交同意年齢)
しろまる 第10回 令和2年12月25日開催
論点についての議論(強制性交等の罪の対象となる行為の範囲,法定刑,
配偶者間等の性的行為に対する処罰規定,性的姿態の撮影行為に対する処
罰規定)
別添2
別添2
しろまる 第11回 令和3年1月28日開催
論点についての議論(性的姿態の撮影行為に対する処罰規定,公訴時効,
レイプシールド,司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱い)
しろまる 第12回 令和3年2月16日開催
【 】 ( ,
三巡目 論点についての議論 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件
地位・関係性を利用した犯罪類型,性交同意年齢)
しろまる 第13回 令和3年3月8日開催
論点についての議論(暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件,強制性交
等の罪の対象となる行為の範囲,法定刑,配偶者間等の性的行為に対する
処罰規定,性的姿態の撮影行為に対する処罰規定,その他の実体法に関す
る論点)
しろまる 第14回 令和3年3月30日開催
論点についての議論(公訴時効,レイプシールド,司法面接的手法によ
る聴取結果の証拠法上の取扱い,その他論点全般)
しろまる 第15回 令和3年4月12日開催
取りまとめ報告書(案)についての議論
別添3
「性犯罪に関する刑事法検討会」ヒアリング出席者
第2回(令和2年6月22日)
しろまる
みや﨑ざき浩ひろ一かず
(立命館大学大学院人間科学研究科博士後期課程,臨床
心理士,公認心理師)西にし岡おか
真由美
ま ゆ み
(京都大学大学院教育学研究科博士後期課程,臨床心理
士,公認心理師)
しろまる
おか田だ実み穂ほ
(Broken Rainbow – japan 理事,レイプクライシス・ネ
ットワーク代表)
しろまる 野の坂
さか祐さち子こ
(大阪大学大学院人間科学研究科准教授,臨床心理士,
公認心理師)
しろまる
なか
真紀子
ま き こ
(立命館大学総合心理学部教授,北海道大学名誉教授)
第3回(同年7月9日)
しろまる
いし田だ郁いく子こ
しろまる
しま岡おか
ま な (大阪大学大学院法学研究科教授)
しろまる
はら田だ隆たか之ゆき
(筑波大学人間系教授)
しろまる 後ご藤
とう貞さだ人と
(後藤貞人法律事務所,大阪弁護士会)
別添4
「性犯罪に関する刑事法検討会」検討すべき論点
第1 刑事実体法について
1 現行法の運用の実情と課題(総論的事項)
しろまる 現行法がどのように運用されているか,処罰すべき行為が適切に処罰
されない事態が生じているか
2 暴行・脅迫や心神喪失・抗拒不能の要件の在り方
しろまる 強制性交等罪の暴行・脅迫の要件,準強制性交等罪の心神喪失・抗拒
不能の要件を撤廃し,被害者が性交等に同意していないことを構成要件
とすべきか
しろまる 強制性交等罪の暴行・脅迫の要件,準強制性交等罪の心神喪失・抗拒
不能の要件について,判例上必要とされる「被害者の抗拒を著しく困難
にさせる程度」を緩和した要件とすべきか
しろまる 強制性交等罪や準強制性交等罪の構成要件として,暴行・脅迫や心神
喪失・抗拒不能に加えて,又はこれらに代えて,その手段や状態を明確
化して列挙すべきか
しろまる 被害者が性交等に同意していないことについて,一定の行為や状態が
認められる場合に被告人側に立証責任を転換し,又はその要件の充足を
推定する規定を設けるべきか
しろまる 行為者が,被害者が性交等に同意していないことの認識を有しない場
合にどのように対処すべきか
3 地位・関係性を利用した犯罪類型の在り方
しろまる 被害者が一定の年齢未満である場合に,その者を「現に監護する者」
には該当しないものの,被害者に対して一定の影響力を有する者が性的
行為をしたときは,被害者の同意の有無を問わず,監護者性交等罪と同
様に処罰する類型を創設すべきか
しろまる 被害者の年齢を問わず,行為者が被害者の脆弱性,被害者との地位の
優劣・関係性などを利用して行った行為について,当罰性が認められる
場合を類型化し,新たな罪を創設すべきか
しろまる 同一被害者に対して継続的に性的行為がなされた場合において,個々
の行為の具体的な日時・場所を特定しなくても,個々の行為を包括する
一連の事実について1個の犯罪の成立を認めることができるような罪を
別添4
創設すべきか
しろまる 一定の年齢未満の者に対し,性的行為や児童ポルノの対象とすること
を目的として行われるいわゆるグルーミング行為を処罰する規定を創設
すべきか
4 いわゆる性交同意年齢の在り方
しろまる 暴行・脅迫や被害者の同意の有無を問わず強制性交等罪が成立する年
齢を引き上げるべきか
5 強制性交等の罪の対象となる行為の範囲
しろまる 強制性交等の罪の対象となる行為に,身体の一部や物を被害者の膣・
肛門・口腔内に挿入する行為を含めるべきか
6 法定刑の在り方
しろまる 2名以上の者が現場において共同した場合について加重類型を設ける
べきか
しろまる 被害者が一定の年齢未満の者である場合について加重類型を設けるべ
きか
しろまる 強制性交等罪の法定刑(5年以上の有期懲役)の下限を引き下げるべ
きか
7 配偶者間等の性的行為に対する処罰規定の在り方
しろまる 配偶者,内縁などの関係にある者の間でも強制性交等罪や準強制性交
等罪が成立することを明示する規定を設けるべきか
8 性的姿態の撮影行為に対する処罰規定の在り方
しろまる 他人の性的な姿態を同意なく撮影する行為や画像を流通させる行為を
処罰する規定を設けるべきか
しろまる 撮影された性的な姿態の画像の没収(消去)を可能にする特別規定を
設けるべきか
第2 刑事手続法について
1 公訴時効の在り方
しろまる 強制性交等の罪について,公訴時効を撤廃し,又はその期間を延長す
べきか
しろまる 一定の年齢未満の者を被害者とする強制性交等の罪について,公訴時
効期間を延長することとし,又は一定の期間は公訴時効が進行しないこ
別添4
ととすべきか
2 起訴状等における被害者等の氏名の取扱いの在り方
しろまる 起訴状等の送達等によって,被害者の氏名などの被害者特定事項が被
告人に知られることがないようにする仕組みを設けるべきか
3 いわゆるレイプシールドの在り方
しろまる 被害者の性的な経験や傾向に関する証拠を公判に顕出することを原則
として禁止することとすべきか
4 司法面接的手法による聴取結果の証拠法上の取扱いの在り方
しろまる 司法面接的手法による聴取結果を記録した録音・録画記録媒体につい
て,特別に証拠能力を認める規定を設けるべきか
(注記) 以上の論点については,わいせつ行為に係る罪についても問題となる。

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