【山本潤委員提出資料】子どもの性被害への対応に関する実態調査


子どもの性被害への対応に関する
実態調査
2021 年 3 月 22 日
弁護士 飛 田 桂 2まえがき
本調査報告書は,性的虐待,性的被害を受けたとされる子どもに関わる実務家,実践家
を対象に,子どもがどのような体験を,どのように報告し,その結果どのような対応がと
られているかを調査したものです。途中経過の報告書ですが,性的虐待,性的被害の特殊
性を知り,よりよい対応を目指す上で重要な情報となりますことを信じております。子ど
も達の現状に則した法改正のための議論に役立てていただけましたら幸いです。
2021 年 3 月 22 日
弁護士 飛 田 桂 3目次
まえがき
1.はじめに ・・・・・・・・・・・・ 4
2.調査の方法 ・・・・・・・・・・・・ 4
3. 結果
3-1. 被害の実情 ・・・・・・・・ 6
3-2. 被害への対応・・・・・・・・ 8
3-3. 子どもの供述特性・・・・・・ 9
3-4. 法的対応・・・・・・・・・・ 10
3-5. 実務家の声・・・・・・・・・ 10
4. 考察と提言・・・・・・・・・・・・・ 11
参考文献・・・・・・・・・・・・・・・ 13 41.はじめに
性的虐待,性的被害を受けたとされる子どもが,どのような被害をどのように報告し,
どのような対応を受けるのか,については,省庁等の調査のみならず,様々な観点からの
調査が必要である。本調査では,性的虐待,性的被害の被害者代理人弁護士など,子ども
の性被害に特化した実務者を対象とし,令和3年3月に実態調査を行った。
調査内容は,被害者が,いつ,どのくらいの期間,誰によってどのような被害を受けて
いるのか,その被害報告はどのような特徴をもち,司法手続きにおいてどのように用いら
れたか,であった。特に,頻回に被害を受けている虐待事案では,記憶が一般化・概括化
され,個別の出来事の特定や日時の特定が困難になるとされる。日時の特定は刑事事件の
要であるとされ,繰り返される被害を受ける子どもにとって不利となる可能性がある。こ
の点についても調査を行った。
なお,本調査は継続的に実施中であり,本書はその中間報告である 1。2.調査の方法
以下の手続きで調査を実施した。
調査票:実務家,研究者が質問項目を策定し,以下の項目について調査を行なうこととし
た。下線部は,本書で報告する内容である。
くろまる 被害の実情:被害対応時の1被害者の年齢,性別,2加害者の属性,被害回数,
3被害期間
くろまる 被害への対応:関与した機関,最初の開示日時,開示相手,開示内容,4被害確
認面接・協同面接の日時,質問者の属性,バックスタッフの有無と属性
くろまる 供述特性:5自由報告で日時が特定できたか、特定が可能であった理由
くろまる 証拠との関連性:証拠の有無や内容,告発状や被害届の有無と日時,その内容
くろまる 法的対応:逮捕の有無や日時,起訴等処分の有無や日時,起訴罪名,公判の日
時,公判廷での証言の有無や日時,判決内容,開示内容と起訴内容の変化,正式
起訴で行為態様が落ちたもの,6最終処分,状態の理由1本書の作成にあたり,仲真紀子氏(立命館大学総合心理学部教授,北海道大学名誉教
授)よりご指導をいただいた。深甚の感謝を申し上げたい。 5調査回答者 2
:日常的に協同面接,三機関連携による代表者聴取,司法面接の対象となる
子どもを支援している実務者である。
調査回答者が言及した事案における被害者数:35名(女子34名,男子1名,年齢3歳
〜19歳)。
調査期間:令和3年3月(継続中)
調査方法:回答者から個別にメールや電話などで回答を得た。調査ならびに情報の扱いに
ついては,公益社団法人日本心理学会 倫理規程に準じ,個人情報に配慮し実施した。
実施体制:筆者が起案し,分析は筆者と事務局(林英奈及び新井香奈)とで行った。2子どもたちのため,とご協力いただいた皆様に,深甚の感謝を申し上げたい。 63.結果
簡潔性を重視し,ここでは調査項目のうち,以下の項目に絞って結果を述べる。
くろまる 被害の実情:1被害者の年齢,2加害者の属性,3被害期間
くろまる 被害への対応:4面接の実施状況
くろまる 供述特性:5自由報告で日時が特定できたか
くろまる 法的対応:6最終処分
3-1.被害の実情
1 最終年齢(対応時の年齢)
被害の訴えのあった年齢を図 1 に示す。3 歳〜19歳まで範囲は広いが,学童期後半,
中学生,高校生の期間が多いことが特徴的である。
図 1:被害を訴えた子どもの年齢(最終年齢) 注:数字は人数を表す 72 加害者の属性
加害者の属性を図 2 に示す。第三者以外はすべて関係性のある人物である。特に実父,
養父・継父,家族の交際相手,きょうだい,祖父等,家庭での生活をともにする人が大半
を占める。
図 2:加害をしたとされる人の属性 注:数字は人数を表す
3 被害の期間
被害を受けたとされる期間を図 3 に示す。単発の被害もあるが,3/4は長期(2年以上)
にわたり継続していたことが伺われる。先行研究においても,数年にわたることが示され
ており,本研究においても 7 年間も続いていたとされる事案が 3 件あった。
図 3:被害を受けたとされる期間 注:数字は人数を表す 8開示までに時間を要していること,身近な加害者による被害が頻回に行われているこ
とが示唆される。被害と気づきづらい類型であり,また,報告しようか否かと迷う期間
が持続し,その結果,被害が繰り返され,報告が遅れる可能性がある。
3-2.被害への対応
4 面接の実施状況
図 4 に示されるように,36件(うち2件は同一被害者)のうち,開示のみが2件,通
常捜査が4件,NPO による司法面接が2件,被害者代理人弁護士による司法面接手法を
用いた聴き取りが1件,不明が1件であった。残りの,26件は協同面接(捜査機関と児
童相談所の連携による代表者聴取)が実施されていた 3。3-3 で見る略式請求を含む起訴をされた17件のうち,警察の通常捜査1件を除いた1
6件が協同面接(捜査機関と児童相談所の連携による代表者聴取)実施によるものであっ
た。
図 4:面接の実施状況 注:数字は事件数を表す3回答者が,重要な事件という観点から,協同面接等を経たものを優先的・選択的に回答
した可能性はある。 93-3.子どもの供述特性
5日時の特定と特定が可能であった理由
立件・起訴において重要とされる日時の特定と,特定が可能であった理由を図 5 に示
す。頻回な被害や長期化した被害では特定困難であり,日時の特定には特徴的な出来事,
物的な証拠などが必要であることが示唆される。
図 5:日時の特定と特定が可能であった理由 注:数字は事件数を表す
(注記)被害数36件のうち,面接自体が成功していないケース,子どもが話した内容が不明の
3ケースを除いて,有効総数を33件とした。
(注記)自由報告以外の証拠と突き合せて,日時まで特定できたものは3件(うち2件は単発事
件,1件は継続的なもののうち特徴的な行事の日の分だけが特定できその日時の犯行のみ
起訴された),数日の幅まで特定できたものが2件,数週間の幅まで特定できたものが2
件あった。
(注記) 起訴のうち1件のみが通常捜査によるもので,残り15件は協同面接が行われた。 103-4.法的対応
6最終処分
図 6 に,法的な最終処分について示す。本調査で対象とした事案では,半数以上が法的
対応の対象となった 4
。「その他」とされた事案のなかには,被害があったとされたもの
の,日時の特定ができない等の理由で法的対応がなされなかった事案もある。
図6:最終処分 注:数字は事件数を表す
3-5.実務家の声
本調査では,回答者からの自由回答欄に,実務における思いを記述していただいた。そ
の内容は主に 4 つに分類される。第 1 は,子どもの安全確保,第 2 は協同面接が行われな
い,第 3 は起訴されない,第 4 は法廷手続きの問題であった。
1 子どもの安全確保4アンケートの回答者は,日ごろから,協同面接や三機関連携による代表者聴取,司法面接
(以下,「協同面接等」とまとめて記載することがある。)の対象となる子どもを支援してい
る実務者である。そのため,より多数を占めると思われる,児童相談所や捜査機関等が関与し
ていない被害者のケースに比較して,協同面接等の実施率や起訴率が高い可能性がある。 11 被害児童の安全確保のための手段がない。
 起訴か不起訴か以外に,子どもの場合は安全措置のような処分を新設して警察が加害
者に接近禁止の警告を入れるなどする処分が必要
 親権者と被害児童の意向が対立することがある。
2 協同面接が行われない,不適切な聴取が行われる
 協同面接にすべきと思われるもので申入れをしてもしてもらえなかった。
 弁護士が民事訴訟の陳述書を作成するように聴き取りをして被害者に二次被害があっ
た。
 協同面接や三機関代表者聴取の記録が子どもに開示されないため,子どもの被害者代
理人が再度聴き取りをしなくてはならない構造となっている。子どものケア,民事家
事事件,検察審査会に利用できない。
3 起訴がなされない
 通常密室で子どもの供述しか証拠がない。しかし,物証がないと起訴されないことが
多い。
 (起訴された事案だが)当初は検察官から物証がないと起訴は難しいと言われてい
た。その後,捜査で物証が出て起訴された。
4 法廷手続き(反対尋問)
 法改正されても反対尋問があるのでは子どもの負担感はあまり減らない。
 裁判での尋問があまりに子どもに負担である。反対尋問で圧迫的に子どもに尋問する
こと,迂遠な尋問を長く行う事など。裁判所もそれを問題視しない。
4.考察と提言
36 事案の分析(3-1〜3-4)から,身近な加害者による被害が頻回に行われていること,
被害者である子どもが開示・報告するまでに時間がかかり,その結果,被害が繰り返さ
れ,報告が遅れる可能性があることが確認された。また,頻回な被害や長期化した被害で
は犯行日時等の特定が困難であり,日時の特定には特徴的な出来事,物的な証拠などが必
要であることも示唆された。
記憶の一般化・概括化が生じ,特定の出来事の日時を記憶に残したり思い出して報告す
ることが困難であるとするならば,1日時の特定を急ぐあまり誘導してしまうことのない 12ように留意する,2特定しにくい日時に関わる情報を確保するために,初期の積極的な調
査を重んじる,3虐待行為が繰り返されている可能性がある場合,1 分,1 時間,1 日とい
うような短い単位のみならず,長い期間を単位として特定する可能性についても検討す
る,といったことが有用であるかもしれない。今後,こういったことがらについても議論
が広がることが望まれる。
さらに,回答者の自由記述(3-5)からは,1子どもの安全確保,2協同面接が行われな
い・不適切な聴取が行われる,3起訴がなされない,4法廷手続き(反対尋問)などの問
題が指摘された。これらの問題については,以下のような検討が必要であろう。
1 子どもの安全確保:親と子どもで意向と異なる,事件化は困難である,といった事案
でも,子どもの安全確保は最優先すべき課題である。本調査からも示唆されるように,
子どもは安心感がなければ被害を開示できない。協同面接に至るまでの心理的支援の
充実や,事案によっては,接近禁止命令などを含めた安心・安全確保のための対応の
検討が必要である。
2 協同面接の実施:協同面接では司法と福祉が連携する。これは,事件化される場合も
(刑事司法),そうでない場合も(福祉),子どもを中心とした対応ができるように
するためである。協同面接を行わないことで,福祉・司法の対応が遅れたり,不適切
な面接が行われることのないよう配慮が必要である。
3 起訴されない:証拠がそろわなければ起訴がなされないのは当然のことである。しか
し,例えば,日時の特定が難しい,記憶が概括化されているなどの理由で十分な捜査
が行われず,起訴もなされないということがあれば,子どもの安全を確保することは
難しい。積極的な対応が求められるとともに,司法手続きについては子どもに十分に
説明し,起訴できない理由なども,負担がないかたちで(例えば,子どもがうまく説
明できなかったから起訴ができない,ということではない等)説明がなされる必要が
ある。
4 法廷手続き(反対尋問):日本の法制度では,証言するまでに半年,1 年とかかるケ
ースも少なくない。年齢や被害内容によっては,あるいは記憶が失われ,証言の意味
も理解できない子どもにおいては,従来型の反対尋問の意義は限定的であるかもしれ
ない。被告人の権利を維持しつつ,中立性を有する質問者による尋問や期日外の録音
録画による尋問,あるいは子どもの証人の代わりに聴取者に尋問を行なう等の工夫に
ついても検討が必要であろう。
供述弱者が受けたとされる被害につき,安心して,主体的に,話すことができるという
ことは,すべての当事者にとり有意義なことだと思われる。本調査が供述弱者への対応に
関する議論の一助となれば幸いである。 13参考文献
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Hershkowitz, I., Orbach, Y., Lamb, M. E., Sterberg, K. J., and Horowitz, D. (2006).
Dynamics of forensic interviews with suspected abuse victims who do not disclose abuse.
Child Abuse & Neglect, 30, 753-769
伊東かほり・武井明(2008).性的虐待を受けた女子 10 例の臨床的検討.児童青年精神
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Price, H. L., Connolly, D. A., & Gordon, H. M. (2016). Children who experienced a
repeated event only appear less accurate in a second interview than those who
experienced a unique event. Law and Human Behavior, 40(4), 362-373..

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