報告書(案)


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報告書(案)
1 はじめに
(1) 本会議開催の経緯
法務・検察行政刷新会議(以下「本会議」という。)は、検察官の勤務延長
問題及び検察庁法改正案が議論の対象となり、かつ、新型コロナウイルス感染
症の拡大により緊急事態宣言が発出されていた最中に、勤務延長の対象となっ
た元東京高等検察庁検事長が、報道関係者と賭け麻雀を行っていたことにより
処分を受けて辞職したことなどによって損なわれた法務・検察に対する国内外
の信頼を回復するとともに、被告人の海外逃亡等を契機として我が国の刑事司
法の在り方が国際的に議論の対象となったことなども踏まえ、現下の法務・検
察行政の問題点と課題を洗い出した上で、幅広い観点から新たな法務・検察行
政の在り方を検討されたいという森まさこ前法務大臣の委嘱を受けて、開催す
ることとされた。
本会議は、法曹三者や司法機関・行政機関の出身者、刑事法研究者だけでな
く、行政法・民事法の研究者や民間会社の経営者、学校関係者といった幅広い
分野の外部有識者によって構成される会議であり、これまで合計9回の会合を
重ね、法務当局から必要な説明を聴取しながら、議論を行ってきた。
森前大臣は、本会議の設置に当たり、1検察官の倫理、2未来志向での法務
行政の透明化、3我が国の刑事手続について国際的な理解が得られるようにす
るための方策という3つの検討の柱を掲げた。また、本年7月16日に開催さ
れた第1回会議においては、「法務・検察行政の内実や現行の刑事手続は、そ
の必ずしも透明でない部分から、国民や国際社会からの理解を十分に得られて
いるとは言い難い」状況にあるとした上で、国民の期待を担う令和時代の新し
い法務・検察行政の在り方について、
「聖域なく何でも御意見を頂きたい」
「ス
ピード感を持って様々な御意見を出していただきたい」との意向を示された。
こうした経緯を踏まえて、本会議は、前記の3点を「検討の柱」と位置付け、
これらをめぐって具体的な議論・検討を開始することとした。
本会議は、その後、3つの検討の柱に沿って順次議論を進めた。本年9月1
6日には、上川陽子法務大臣が就任され、上川大臣からは、法務・検察の信頼
回復に向けて、スピード感が何よりも大事であり、法務・検察において、本会
議で示された意見を基に必要な取組を進めていく意向が示された。
(2) 取りまとめの方針等
このようにして議論を進めてきた結果、委員等の間で方向性として一致した
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意見が得られた点が少なからずあった反面、なお多様な意見が示され、一致点
を見出すことの困難な事項もあるが、本報告書においては、スピード感をもっ
て委員等の意見集約を図る一方で、
なるべく幅広い意見を本報告書に盛り込み、
これを今後の法務・検察における検討の素材として供することが有益であり、
かつ、多様な分野の外部有識者によって構成される本会議の特色を活かすこと
にもなるという観点から、意見の対立がある事項についても、それぞれの意見
を項目別に整理して掲げる形で、取りまとめを行うこととした。
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2 「検察官の倫理」(検討の柱1)について
(1) 本会議における議論の経過等
本会議では、当局から、1検察の在り方検討会議の提言を受けて平成23年
9月に検察当局において策定された「検察の理念」、2国家公務員法、国家公
務員倫理法及び国家公務員倫理規程等の、検察官にも適用される一般職国家公
務員の倫理に係る規律の内容、3検察官に対する研修の状況、4最高検察庁及
び各高等検察庁に設置された非違行為等防止対策委員会及び同地域委員会とそ
れら地域委員会により策定されたコンプライアンス・マニュアルの内容等、5
検察官に対する懲戒処分等の概要並びに6最高検察庁監察指導部における監察
の状況等につき、関係資料に基づいて説明を受け、質疑応答を行ったほか、一
部の委員から裁判官及び弁護士等に係る倫理規範や研修の状況等につき紹介を
受けるなどした上で、検察官の倫理に関する議論を行った。
その結果、
検察官の倫理観を高めるための取組を強化すべきである
との方向性については意見の一致をみた上、その具体的方策として、検察幹部
が社会の目を意識し、常識からかい離しないようにするために幹部研修等の取
組を強化すべきであるという点に異論をみなかったものの、これを超えて、職
権行使上の行為規範、マスコミとの関係、私生活上の規律等を含む新たな倫理
規範を策定すべきとする意見に対しては、その必要性及び具体的な規律の在り
方の観点から反対意見も強かった。それぞれについての主な意見は以下のとお
りである。
(2) 「検察の理念」の改定、又は、マスコミとの関係、私生活上の規律や職権行
使上の行為規範を含む、検察官についての新たな倫理規範の策定について
ア 次のような理由から、「検察の理念」を改め又は新たに検察官についての
倫理規範を策定すべきとの意見があった。
・検察官には、「公益の代表者」又は独任制官庁として、他の一般職の国家
公務員よりも高次の倫理が求められるべきであり、それに即した新たな倫
理規範を定めるべきである。
・元検事長はマスコミ関係者と賭け麻雀をし、検察官とマスコミの関係につ
き現に不信感を生じさせており、検察の信頼回復のため検察官側に一定の
節度を求めるべきであって、「検察の理念」を補充して、少なくとも、1
職務内外における信用保持努力、2特定の取材者との親密な関係を避ける
ことの2点だけでも盛り込むべきである。
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・現行の「検察の理念」は、検察職員全員に宛てられたもので、「検察官」
の倫理規範でない上、義務規定に乏しく、被疑者・被告人の権利も明示さ
れていないなど不十分である。
・検察官の職権行使上の行為規範・基準の妥当性につき外部の社会との対話
ができるようにするため、起訴猶予の判断時の考慮事項、起訴する際の嫌
疑の基準、報道機関との対応等に関し、より具体的な行為規範を定める必
要がある。
・警察官は、金銭の使途、交際相手、旅行先等一定の私生活上の報告義務を
有しているから、捜査機関が国民の信頼の下で倫理的に業務を遂行するこ
とを担保する観点から、
同じく捜査機関に当たる検察官についても同様に、
反社会的勢力との関係排除、情報漏洩の防止等に資する一定の職務外の規
律を設けるべきではないか。
・取調べの録音・録画制度の導入後も検察官による取調べ時の不適切な言動
が報告されており、その抑止のため、検察官の具体的な倫理規範を定める
とともに懲戒事由とすべきである。
・後記4(1)記載の国賠訴訟事案の第一審判決(控訴審係属中であり事実関係
は未確定である。)においては、東京地検特捜部の主任検察官が、任意の
取調べであること等を理由に弁護人からの接見等の要請を拒み、その間に
自白調書を徴した旨認定され、接見妨害による賠償が認められている。法
務省は本国賠訴訟でも争っており、憲法が保障する弁護人依頼権を軽視し
弁護人の存在を敵視する法務検察の組織としての古い土壌が今なお改革さ
れていないことが改めて明らかになっており、検察官についても、弁護士
同様、倫理規範・職務基本規程が必要である。
・後記4(1)記載の作業部会意見書(81パラ)は、裁判の結果について先入
観を持たせることを控えるのが当局の義務であり、報道機関は無罪推定を
損なうような報道を回避すべきであるとした上で、カルロス・ゴーン被告
人に対する報道が自由権規約14条2項の保障する無罪推定を受ける権利
を侵害した可能性を排除できないとしており、この点に関しても、検察官
の倫理規範・職務基本規程が必要である。
・米国では、ABA 基準においても、連邦司法省の職員に対する規則において
も、マスコミとの関係を含めた詳細な規律が設けられている。
イ 他方、次のような理由から、「検察の理念」の改定や新たな倫理規範の策
定の必要はなく、本会議での意見も参考としつつ、検察において後記(3)を含
む必要な取組を進めるべきであるとの意見もあった。
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・検察官は、一般職の国家公務員として、職務外の非違行為も信用失墜行為
となり得ることを含め、
既に国家公務員法等による服務規律に服している。
・「独任制官庁」「公益の代表者」という用語は、行政機関の組織・権限の
在り方等の文脈から言われている言葉であり、それにより、倫理規範を策
定すべきことに直結するものとは思えない。
・今回の元検事長の賭け麻雀事案は、規範が分からないからやったのではな
いと思われるから、
詳細な規律を作れば解決できる問題ではなく、
むしろ、
不祥事をなくすための取組とその検証を続けることが大事である。
・国民の信用を失墜する行為は多様かつ時代の変化に伴って変わり得るもの
であって、逐一網ら的に規律するのは困難である。
・マスコミとの関係については、刑事訴訟法47条や国家公務員法により必
要な規律がなされており、苦情申立て制度のような是正措置を含めて制度
的には完備している。
・「検察の理念」を補充して「1職務内外における信用保持努力」と「2特
定の取材者との親密関係回避」
を盛り込むべきとの提案につき、
1の点は、
現行公務員法制下においても職務内外の信用失墜行為が懲戒事由とされて
いるから必要がないし、2の点も、報道・取材の自由との関係等から難し
い。
・都道府県警察では職務外の行為を含む細かなルールを作っているが、これ
は、業務が多岐にわたり、組織・人員の規模が大きく多様な属性の職員が
いる中で、一定の水準を確保するためのものであり、警察庁のルールは検
察官に対するそれと変わらないから、警察官と検察官とを同列に論ずるの
は相当でない。
・検察官の職権行使上不適正又は不当なものがあれば、現在も、最高検察庁
に設けられた監察指導部において、事実確認の上、必要な指導等を行い、
その結果を外部参与に定期的に報告しており、
監察により対応可能である。
・検察官の職権行使上の行為規範を求める意見は、実質的に、刑事手続の在
り方に関する意見を法曹の倫理としての検察官の倫理の文脈に取り込もう
とするものであるが、両者は次元を異にするものである。
・不適正な取調べが組織に広く認められるなどの問題状況がないのに裁量性
が強い捜査行為である取調べを詳細な行為規範で制約し、懲戒処分で威嚇
することは、必要性が乏しい上、職員の判断・活動を萎縮させる危険が高
く不適当であって、決裁制度を通じた指導や監察指導により対応すべきで
ある。
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(3) 検察幹部が社会の目を意識し、常識からかい離しないようにするための幹部
研修等の取組の強化について
検察当局において、幹部が社会の目を意識し、常識からかい離しないようにす
るための幹部研修等の取組を強化すべきである
との方向性については、委員等の間で意見の一致が得られた。
そして、このような方向性を前提とし、更に次のとおり意見があった。
・人事院の官民交流研修なども参考として、幹部が様々な価値観に触れ、社会
の常識がどこにあるか、国民の目線がどこにあるかを知る機会を増やすべき
である。
・幹部の不祥事により組織全体が国民の信頼を失い得ることを肝に銘じられる
よう、幹部研修の方法・内容を工夫すべきである。
・研修の企画の段階から外部の意見を聴き、社会的な問題等をタイムリーに反
映するような内容とするなど、「社会の目」を積極的に取り込むことが重要
である。
・「耳の痛い話」ができる外部講師を含め、講師の選定方法を工夫すべきであ
る。
・節目節目に仕事ぶりを振り返って、改めて倫理について気付きと学びの機会
を持つことが大切である。
・各高等検察庁の非違行為等防止地域委員会が作成したコンプライアンス・マ
ニュアルを研修で活用することが考えられる。
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3 「法務行政の透明化(未来志向)」(検討の柱2)について
(1) 本会議における議論の経過等
本会議では、当局から、1政府の共通ルールを含む法務省における文書管理
・決裁のルールとして、公文書等の管理に関する法律、行政文書の管理に関す
るガイドライン、法務省行政文書管理規則、法務省行政文書取扱規則等につい
て、また、2関連するこの間の検察庁法改正案や勤務延長等の一連の経緯及び
指摘事項等について、それぞれ関係資料に基づいて説明を受け、質疑応答を行
った上で、本会議としては、既に行われた法解釈や個別の人事・処分の当否を
審査するのではなく、一連の事実経過から得られる教訓を踏まえて、未来志向
で今後の法務行政の在り方を考えるとの方針で、法務行政の透明化に関する議
論を行った。
その結果、
今後の法務行政においては、法律の制定・改廃に比肩するような重要な解釈変
更を行う場合につき、法律の制定・改廃の場合に準じ、文書主義に基づき必要
な行政文書が作成日付等の記載を含めて的確に作成・保存されるとともに、所
要の規定に基づく決裁がなされるよう、
法務省内のルール又は運用について必
要な見直しを検討すべきである
ことについては、委員等の間で方向性として意見の一致が得られた。
そして、このような方向性を前提とし、更に下記(2)のとおり意見があったほ
か、その他の事項についても下記(3)のとおり示唆に富む意見が示された。
(2) 今後の法務行政における文書管理・決裁の在り方等について
ア 作成・保管されるべき文書等の範囲等について
・それまで検察官に適用されないとされていた勤務延長規定が適用されると
判断し、改正案に関係条文を盛り込んだことにつき、消極的な意見を含む
内部的な議論の過程など、その「理由」まで含めて、法令の改廃に係るも
のとして文書が作成されるべきであり、今回の法務省の取扱いは、公文書
管理法4条に違反するものであるし、PDCA サイクルやコンプライアンス
の基本原則に則って、一から公文書管理をやり直すべきである。
・制度設計は長時間の多岐にわたる議論を経るのが通例であり、そのプロセ
スを全て記録化するのは不可能であるし、官庁の意思は決裁権者の決裁行
為により定まるもので、内部の異論も含めたプロセスを記録に残すことは
していないし、実際上も困難である。
・法解釈の変更にも様々な規模・内容のものがあるから、解釈変更だからと
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いって逐一その過程を記録に残すことは非現実的であり、むしろ、文書管
理の責任者が、文書主義に基づいて取り扱うべき文書の「重要性」の判断
を適切に行うことができるよう、
重要性の判断主体を明確にするとともに、
研修等を行うことが必要である。
イ 見直しの方法について
・解釈変更といっても様々なものがあり得るので、文書管理の在り方を見直
す上で明確にルール化できるかはなかなか難しい。
・所管法令について公定解釈権を有する他府省の規則等を参照して検討する
ことが考えられる。
・重要な解釈変更については、法務省文書取扱規則別表第一の下で、決裁を
要するものと取り扱う運用をすべきである。
・今後、政治主導の時代になると、従来の行政手続とは異なった政治的な観
点から説明責任が問われるようになることに留意が必要であり、そうした
観点から、文書管理や決裁の在り方を考えていく必要がある。
(3) その他
以上のほかにも、以下の各事項についてそれぞれ意見があった。
ア 検察庁法改正案・勤務延長問題について
・検察官の勤務延長に関しては、法務省の組織の中に検察庁があるにもかか
わらず、事務次官が検事総長より人事的に下の位置に属していることや、
民主的統制の観点から問題があるとも思われるので、検察の独立の重要性
を前提に、法務省と検察庁との関係性、民主的統制の関係について整理が
必要である。
・元検事長の勤務延長の経緯に関する当局の説明は納得できるものでなく、
法務・検察行政に携わる者は国民に対する説明責任をより強く意識すべき
である。
・今回の検察庁法の解釈変更が大きな関心を呼ぶことも、元検事長の個別人
事と結び付けて捉えられ得ることも事前に予測できたはずであり、できな
かったのであれば組織の能力に問題がある。
イ 国民に対する説明について
・今回は人事に関する問題との特殊性があったが、検察庁法の解釈変更のよ
うに定年制に関わる一般的なルールを解釈変更により定める際や、国民か
らの疑問を招くことが予想される意思決定をする場合には、今後は、日頃
から国民の認識とのギャップが起きないようにしつつ世論の反応を予想
し、より早期に、国民に対して分かりやすく丁寧な説明がなされるべきで
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ある。
ウ 法務省における政策決定過程の在り方について
・緻密な議論も必要だが、法務省は固すぎる。世の中はもっとデザイン志向
で動いており、この会議での議論を起点として、法務省が、激変する社会
動向・世界動向への感度を大きく引き上げ、迅速かつ果断に制度・運用の
変更を行えるダイナミックで若々しい組織に変貌を遂げられるよう、政策
決定過程のイノベーションを起こすべきである。
エ 法務・検察の「内部の声・内部の風」について
・法務・検察内部で若手を含めて意見を言い合えることが必要であり、その
ような雰囲気がなかったならば、今回を契機に、若手を含めて組織内で意
見を言い合える場を設け、法務・検察内部でまずは議論がなされるように
すべきである。
オ 法務・検察を含む国家公務員の人事制度について
・終身雇用を前提とした定年制度自体が既に時代に見合わなくなっており、
若いうちに幹部になったり、幹部の後でヒラになったりするようなダイナ
ミックな人事をすることを含め、法務・検察を含む国家公務員全体の人事
制度を、若い職員の声も聞きつつ、長期的に見直す緒に就くべきである。
・限られたポストに有為な人材を登用していくとともに、世代交代を経てな
るべく多くの人に公職に就くチャンスを与えるため、
定年制は必要である。
・法務省と検察庁での業務適性には重なり合う部分もあるだろうが、両者は
役割が違い、特に検察官は準司法官として政治部門からの独立性、法の厳
粛な執行者としての機能が強く求められるのに対し、法務官僚は内閣の内
部において民主的政治過程を通じて民意をダイナミックに捉えて法創造作
用を含めた政策企画を担うことが求められる。両者の相違は一連の問題の
背景要因にもなっていると思われ、グローバル化やデジタル革命で社会の
変化が激しくなり、立法政策のダイナミズムが求められる中でそのギャッ
プは今後より大きくなると思われるから、硬直的な両者間の人事を排する
ことを含め、法務省の組織能力を現代的な環境変化に適応できるように高
めるべきである。
カ 刑事確定訴訟記録法に係る制度及び運用について
・刑事確定訴訟記録法に係る制度及び運用について、閲覧や保存の基準の明
確化等の点において改善の必要がある。
・今回の一連の事態との関連性が薄く、この会議で議論を深めるべき課題と
は認め難いほか、種々の考慮を要する問題であり、様々な意見を聴きなが
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ら検察当局において努力していけばよい。
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4 「我が国の刑事手続について国際的な理解が得られるようにするための方策」(検討の柱3)について
(1) 本会議における議論の経過等
本会議では、当局等から、1「対外的な広報に係るこれまでの取組」として、
カルロス・ゴーン被告人(以下「ゴーン被告人」という。)が国外に逃亡し、
我が国の刑事司法制度を批判する種々の発信をしたのに対し、その後法務省・
検察庁が行ってきた、法務省ウェブサイト上への「日本の刑事司法制度に関す
る Q&A」
(以下「Q&A」という。)の掲示等といった各種の対外発信に係る取
組の内容、2「我が国の刑事司法制度に対する国際機関からの指摘やそれへの
対応」等につき説明を受け、質疑応答を行った。
また、ゴーン被告人の刑事事件に関連し、国連の恣意的拘禁作業部会(以下
「作業部会」という。)から、我が国刑事司法制度の下でのゴーン被告人に対
する措置が恣意的拘禁に当たる旨の意見書(以下「作業部会意見書」という。)
が本年11月に公表されたことから、本会議においては、当局から、3作業部
会意見書の公表経緯及び内容等について説明を受けるとともに、4東京地方裁
判所において、検察官による任意段階の取調べでの接見に係る弁護権侵害を認
定して国側に賠償を命じる第一審判決が下された事案(以下「国賠訴訟事案」
という。)についても説明を受け、質疑応答を行った。
作業部会意見書の経緯及び内容等についての当局からの説明は、要旨、次の
とおりである。
・我が国政府と作業部会との間のやり取りは原則非公開であるので、可能な範
囲で説明すると、令和元年10月に作業部会から情報提供の要請があり、同
年12月に情報提供を行ったが、その際には、刑訴法47条の規定に鑑み、
作業部会に対し、公判が予定されているゴーン被告人の事件に関し、事件内
容に関わる情報提供を行うことはできない旨を説明するとともに、我が国は
人権諸条約を誠実に履行しており、
我が国の刑事手続に関する制度や運用は、
個人の基本的人権を保障しつつ、事案の真相を明らかにするために適正な手
続が定められていることを、逮捕・勾留の要件・手続等とともに説明した。
・それに対し、作業部会は、本件につき、ゴーン被告人が裁判官の面前に連れ
て行かれることなく拘禁されたこと、ゴーン被告人が「人質司法」の下で拘
禁されたこと、ゴーン被告人が弁護士不在の中で連日取調べを受けたこと等
を指摘し、ゴーン被告人に対する措置が恣意的拘禁に当たる旨判断した。
・作業部会意見書には、ゴーン被告人が裁判官の面前に連れて行かれることの
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ないまま10日間ないし22日間にわたり拘禁されたとする点や、ゴーン被
告人の拘禁について裁判所に不服を申し立てる機会を与えることを遅延した
とする点などにおいて、数多くの明らかな事実誤認があったことから、法的
拘束力があるものではないものの、我が国政府として、作業部会に異議を申
し立てるとともに、外務省において報道発表を行い、作業部会の意見を完全
に拒絶する旨などを明らかにしており、今後の対応については、作業部会に
対してどのように主張し、情報提供していくかを含め、現在検討中である。
以上も踏まえ、本会議として、我が国の刑事手続について国際的な理解が得
られるようにするための方策についての議論を行った結果、
これまでの取組を検証しつつ、法務・検察において、日頃から、例えば民間の
知見を活用するなどして対応できる体制を構築するとともに、
国内外を問わず
我が国の刑事手続について理解が得られるようにするための積極的な対外発
信を行うべきであり、
国際機関から我が国の刑事手続について疑問を呈された
場合には、必要に応じ、個別事案に関しても、支障が生じない範囲で具体的な
説明を行うべきである
という方向性については委員等の間で意見の一致が得られた。そして、このよ
うな方向性を前提とし、下記(2)記載の意見があり、特に、作業部会への対応の
在り方については、刑事手続の内容にわたるものを含め、様々な意見が示され
た。
また、我が国の刑事手続の在り方に関しては、本会議において議論すべき課
題としてこれを採り上げることの妥当性について委員等の間で意見の隔たりが
大きく、これを採り上げること自体について合意をみるに至らなかった。その
上で、下記(3)のとおり、内容面での方向性も含めて様々な意見があったが、そ
の中では、被疑者取調べへの弁護人の立会いに関連した意見が多かった。これ
に関しては、前記の当局との質疑応答の中で、当局から、現行法制下において
被疑者取調べへの弁護人の立会いは禁止されていないこと、弁護人の立会いを
認めるかどうかは、取調べを行う検察官において、取調べの機能を損なうおそ
れ、
関係者の名誉・プライバシーや捜査の秘密が害されるおそれ等を考慮して、
個別の事案ごとに適切に判断すべきものとされていること、弁護人の立会いを
認めるかどうかについて検察内部の統一方針や基準はなく、当局において立会
いの有無を網羅的に把握しているものでもないこと、これらの点については既
に平成26年2月に法務省刑事局長が国会で答弁していること等について説明
がなされた。
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(2) 対外的な広報・発信の在り方について
ア 対外的な発信のための一般的な体制や方法について
・今回の取組の効果を検証しつつ、今後も定期的かつ運用実態まで踏まえた
説得的な対外発信をすべきである。
・国内の在留外国人に対するものを含め、刑事手続につきより理解が得られ
るよう多言語発信を強化すべきである。他方で、訴追された結果に不満を
持つ特定の被告人との関係では、対外的な発信をしても「話せば分かる」
問題ではないという側面もある。
・国際的な理解を得るためには、専門の広報官を置き、国際的にも説得力が
ある内容を、正しい英語で、欧米の主要なメディアを通じて、統一的に発
信する必要がある。
・個別事件を契機に対外発信が必要になることもあり得るから、国外だけで
なく国内にも目を向けるとともに、民間から協力を得たり様々な専門家か
ら意見を聴くことも含め、そうした事態に対応できるよう日頃から組織的
な対応体制を構築しておく必要がある。
・令和3年には50年ぶりに京都コングレスが日本で開催される状況にあ
り、この会議での議論を通じて国際的な批判に応える姿勢を示す必要があ
る。
・日本国内での外国人記者クラブとの連携を深め、同記者クラブでも対外的
な発信をするとともに、その批判にさらされるようにすべきである。
・国賠訴訟事案について検察は反省すべきであり、裁判で争うよりも運用を
見直したり、当該検事の処分の検討も必要である。判決文の英訳を国連に
提出されたら、いよいよ国際社会の理解が得られなくなるくらいの重大な
事件であることを、法務省と検察庁は認識すべきである。
・本会議の報告書については、英訳して対外的に発信すべきである。
・警察庁のウェブサイトにおいては、平成12年に開催された警察刷新会議
について、議事録を含めた資料をまだ掲げているのに、法務省・検察庁の
ウェブサイトにおいては、検察の在り方検討会議につき、提言以外の資料
が削除されており、ウェブサイト上の公開の在り方に問題がある。
イ 対外的な発信の内容全般について
・「取調べに弁護人を立ち会わせると真相解明が困難になる」といった、弁
護人が捜査妨害をすることを前提にしたような内容では諸外国の理解を得
ることはできないし、諸外国で既に採用されている取調べの録音・録画制
度を導入したこともアピールにはならないから、対外的な理解を得るため
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には、「Q&A」の内容を速やかに改めることを含め、発信の内容自体を検
討する必要がある。
・「Q&A」では、制度上のみならず運用上も取調べへの弁護人立会いが認め
られないような記載内容となっているが、これは、本会議での当局の説明
内容と異なるから、国際社会からの理解を深めるためにも、その点が取調
べを行う検察官の裁量に委ねられている点を明記すべきである。
ウ 作業部会意見書に関して
・作業部会意見書に事実誤認があるのは事実であるが、作業部会の委員は国
際人権法の専門家であり、事実認定の方法も予め定められたルールに従っ
たものであって、事実誤認があるのは日本側が可能な反証を行わなかった
からである。刑訴法47条の下でも、勾留質問が実施されたことやゴーン
被告人側が勾留に対する準抗告を申し立てたことなどは公知の事実として
説明できたはずであり、法務省においては、こうした従前の対外的な説明
の在り方を改め、具体的な事案や事実関係にも応じて柔軟に対外的な説明
を行うべきである。
・作業部会においては、申立人である情報提供者についての情報が秘匿され
ていたから、刑訴法47条ただし書の公益上の必要性等の事情の判断に際
して必要な情報が欠けていた点を考慮する必要があるが、ゴーン被告人が
海外に逃亡した時点で、公益性の判断をより大胆にすることは考えられて
よかったのではないか。
・作業部会意見書は、我が国の刑事司法制度の国際的な信頼に関わるだけで
なく、国内にもショックを与えたものであるから、国外だけでなく、国内
に向けても詳細な説明がなされるべきである。
・当局は、質疑応答の中で、ゴーン被告人の逃亡を助けたとして米国で我が
国への身柄の引渡しにつき審議中の事案に対して作業部会意見書が与える
影響や、同事案の手続の進捗状況につき答弁を差し控えたが、このような
姿勢は、法務省内において対外的な情報発信に際しての統一的なマニュア
ルがなく、個別に判断しているからではないかと思われ、国際会議を含む
会議での説明の仕方や、
報道機関に対するリークや広報の在り方も含めて、
公開ルールをきちんと作るべきである。
・法的拘束力がないとしても、作業部会意見書は全ての条約加盟国に広く知
られることになるものであるから、日本政府は、意見書(83パラ)で求
められているカントリービジットを受け入れるべきであるし、意見書(8
8パラ)にある特別報告者制度による調査を受け入れるべきである。さら
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に、日本政府は、意見書(89パラ)で求められている意見書の周知・広
報も実施すべきである。
・作業部会意見書は、我が国に起訴前保釈制度がないことや取調べへの弁護
人立会いが認められていないことといった本質的な問題を指摘している。
これまで、弁護人立会いや起訴前保釈について日本の説明が受け入れられ
ない状態が続いてきたのは、国内的に弁護人立会いや起訴前保釈が導入さ
れていないことについて、世界中から集まった国連の専門家から、正義の
かたちがなく、彼らの倫理観からすればあり得ない、国際人権法に適合し
ないとみられてきたからであり、運用で弁護人の立会いを開始でもしない
限り、
これまでと同じ説明を繰り返しても受け入れられるとは思われない。
・取調べの弁護人立会いや起訴前保釈の保障は、拷問禁止条約の委員会でも
自由権規約委員会でも確立されている国際人権であり、そうした条約に対
して日本の法律に基づいて拘禁していると主張しても、法律は条約の下位
にあるから受け入れられるはずがなく、日本法を条約に適合するよう改正
するほかない。
(3) 刑事手続の在り方に係る具体論について
ア 被疑者取調べへの弁護人の立会いについて
(ア) 被疑者取調べへの弁護人立会いを制度として我が国に導入することにつ
いて
(積極意見)
・「弁護人の立会いを排除した取調べ」等について、憲法等に適合しない
運用が続けられており、国連拷問禁止委員会や国連自由権規約委員会か
らも改善を求められてきた。こうした様々な指摘に対応するため、来る
コングレスで、日本の刑事司法制度が国際社会に近づいていることを発
信すべき。
・弁護人を排除した状態での取調べによって捜査官が目指す供述を引き出
すことは公正でないし、真実発見のためにも危険である上、弁護人を立
ち会わせないまま、被疑者の供述の自由を守り、誤った自白が生じない
ようにするための特別な仕組みもない。
・多くの諸外国では、取調べの録音・録画制度に加え、取調べへの弁護人
の立会いが導入されており、弁護人がそばにいることにより不本意な供
述をしなくなる効果があると思われる。実際に弁護人を立ち会わせて取
調べを行っている欧州の国もあり、弁護人が立ち会うことで被疑者が供
述しなくなるかどうかは、供述をするか拒否するかがどのように有利・
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不利に働くかという制度全体の在り方に関わる問題であるから、一つの
在り方を前提に議論するのは適切でない。
・取調べの録音・録画下でも検察官による取調べ時の不適切な言動が報告
されており、監察指導で適切に対処されているかも当局から具体的な説
明がなく不明である上、近時の接見妨害の事案も発覚したから、弁護人
立会いが必要である。
・「Q&A」は弁護人立会いに反対する理由として、「被害者や事案の真
相解明を望む国民の理解を得られない」という意見を引用しているが、
法制審議会の新時代の刑事司法制度特別部会の「時代に即した新たな刑
事司法制度の基本構想」(平成25年1月)の中には「反対意見」とし
て記載されておらず、そのような「国民の理解」が本当にあるのかエビ
デンスが示されていない。
・弁護人立会いの問題を刑事司法制度全体の中で議論するのはよいとして
も、
事務次官経験者のヒアリングを提案して聴取したいと述べたように、
大切なのは行政における改革のスピード感であり、改革のスピードを上
げる必要がある。
(消極意見)
・検察の在り方検討会議の提言や法制審議会・新時代の刑事司法制度特別
部会での議論を経て策定された、取調べの録音・録画制度を含む改正刑
事訴訟法に基づく様々な制度が施行されており、これら新制度の施行状
況を踏まえた3年後検討も予定されているから、そうした別の場で専門
的な見地も踏まえた検討がなされるべき問題である。
・改正刑事訴訟法による取調べの録音・録画制度の導入に加え、運用によ
り身柄事件についてはほぼ全件で録音・録画が行われて、違法な取調べ
の抑止効果が相当高まっており、同制度の機能を前提とした議論をすべ
きである。
・弁護人立会いの目的は、1違法な取調べの抑止と2弁護人からの適時の
助言にあると想定されるが、1の点はしっかりした取調べの録音・録画
制度や監察と苦情申立てをセットで更に充実させることによりカバーで
きるし、2の点も実務上行われている接見への配慮により対応でき、特
に近年、
警察の留置施設側も弁護士との接見に最大限配慮を行っている。
諸外国では、取調べの録音・録画制度より先に弁護人立会いが行われて
いたから、両方の仕組みがあるだけではないか。
・我が国の取調べは諸外国とは異なる幅広い機能を持っており、
現状でも、
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組織的犯罪等で被疑者が依頼してもいない弁護人が選任され、その後被
疑者が否認・黙秘に転じる事例が少なからずある上、現行法下で立会い
だけを導入すると、黙秘の事件が激増して捜査負担が増大し、起訴でき
なくなる事件が増加すると見込まれるから、立会いによる支障が強く懸
念される。
・現在の刑事司法制度の下で、我が国は、世界でも有数の良好な治安を守
ってきたのであり、これを損なわないよう刑事司法制度全体を見据えた
議論が必要である。
・人権保障と真相解明の間で制度の微妙なバランスを崩すことのないよう
刑事司法制度全体の中で議論すべきであり、弁護人立会いだけを議論し
て方向性を出すべきでない。刑事手続についても不断の見直しは必要で
あり、時代により変わる人権感覚やテクノロジーも踏まえて全体的に検
討すべき。
・弁護人立会いを認めるならば、捜査機関にも欧米と同様会話傍受とかお
とり潜入捜査といった強力な捜査手法を与える必要があるとの議論とな
るし、被告人の公判供述の証言化(偽証罪の対象化)、実体法規定の客
観化、自己負罪型の司法取引とアレインメント制度の導入、通信傍受の
拡大や会話傍受の導入、おとり捜査の活用等と併せて刑事司法制度全体
として検討する必要があるが、国民感情からそうした手法が受け入れら
れるかという問題もある。
(イ) 検察の運用により弁護人立会いを試行すること等について
(積極意見)
・弁護人立会いについてメリット・デメリットの双方があると思われると
ころ、法改正の必要なく試行できるのであるから、検察の運用により少
しずつやってみて、メリット・デメリットのどちらが大きいか明らかに
していくことが、国際社会からの指摘に応えることにつながるのではな
いか。
・運用により弁護人を立ち会わせるかどうかが取調官の裁量的判断に委ね
られているとしても、我が国での実施事例はほぼないと思われるし、取
調べの録音・録画と同様、当初は強い抵抗があっても実際に行ってみる
と大きな障害がなく、抵抗が和らぐ可能性もあるから、制度論に係る議
論の前提となる経験を得るためにも、例えば検事総長から立会いを許す
場合に配慮すべき点を示す通知を発するなどの方法により、検察におけ
る試行を開始すべきである。
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・運用による弁護人立会いは、国際的に我が国の刑事司法制度を信用して
もらえるようになるとともに、弁護人が立ち会った場で得られた供述の
任意性・信用性も認められやすくなる点で検察にもメリットがあると言
えるし、
検察官のメリットというより、
被疑者の人権の問題なのだから、
できるところからやるべきである。
・リモート診療でも同様の賛否があったが、今は「トライ&エラー」の時
代であり、デザイン志向により、まずは運用で弁護人立会いを試行して
みることが重要である。デジタル化・国際化した社会においては、国民
等の受け止め方
(perception)
がそのまま事実となるところ、
弁護人立会
いが国際的な潮流であることは否めず、今後日本が外国人の高度人材を
積極的に受け入れていくことからしても、地政学的状況の中で自由と民
主を標榜する国家であり続けることからしても、弁護人立会いの試行を
始めておいたほうがよい。
・民間企業でも新たな製品や機能の展開に当たり、意思決定者の感覚のみ
による判断でなく、必ず PoC(概念実証)や A/B テスト(比較対象試
験)を通じて当該施策の有効性が検証されており、今後制度としての弁
護人立会いを議論する際にデータ等の記録を俎上に上げるためにも、適
切な条件の下で弁護人立会いの運用が行われるべきである。
・警察においては、犯罪捜査規範に弁護人の立会いを想定したと思われる
規定があるし、稀ではあるが立会いの実例もあるので、検察より積極的
である。
・運用上できるはずのことの試行を求めるものだから検察官が困ることは
ないはずであるし、運用で行うのであれば、弁護人に取調べの場でどこ
までの活動を許すかを検察官が判断して条件を付すことができるし、録
音・録画がなされていれば、弁護人が不適切な言動をしてもそれが記録
されるのだから、運用で弁護人立会いを行う土俵は整っている。
・運用による弁護人立会いに関する平成26年2月の法務省刑事局長答弁
は、現場の検察官が運用上弁護人立会いを認めることができない場合の
要件を示したものと見るべきであり、この要件がないのに運用上弁護人
立会いを認めないのは不適切というべきである。
・弁護人の立会いについて、法務省・検察庁と日弁連との間で協議をする
場を設けることが考えられる。また、本会議として、法務省・検察庁に
対して弁護士会から弁護人立会いの試行の条件について協議の申入れが
あった場合や、検察庁に対して弁護士会から弁護人立会いに係る模擬取
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調べの提案があった場合には、それに応じるべきとの提言をすべきであ
る。
(消極意見)
・取調べへの弁護人立会いは、現行刑事訴訟手続を根幹から変えることに
直結し得る重大な問題であって、被疑者取調べの位置付け、代替的な証
拠収集手段の要否及び内容等、関連する刑事手続全体の見直しとセット
で制度の問題として検討されるべきであるから、弁護人立会いについて
のみ先行して試行することにも反対である。
・取調べの録音・録画については、効果的・効率的な任意性立証のため、
あるいは、取調べの適正を担保しつつ取調べ及び供述調書への過度の依
存から脱却するなど、検察自身が明確な目的を持って試行を先行してき
たものであるが、弁護人立会いについては、このような目的がない上、
録音・録画とは異なって取調べ自体を制約するというデメリットがあり、
具体的な必要性が示されているとは思えない。この会議では、弁護人立
会いについて、目指すべき制度の内容や仕組み等について具体的な議論
がなく、大きな方向性すら集約されていない。
・現状において運用による弁護人立会いの例がほとんどないとすれば、そ
の理由は、現場の捜査官にとって必要性が感じられず、問題の方が大き
いと考えているからではないかと思われる。そのような状況で運用によ
る弁護人立会いを求められたとしても、検察としてそのような提言は履
行のしようがなく、制度論について指摘されている課題を解消すること
なく積極的運用を推進することは無理と思われ、運用で行うことの当否
と制度論の当否は結局重なり合う。
・刑事手続は、刑罰を科すかどうかという重大な手続であり、捜査官の立
場から懸念が示されている中で、被害者が存在する事件を含めた生の事
件を対象とすると、その事件で刑事責任を問うことが困難となりかねな
いから、民間企業における新製品の開発場面等とは異なり、試行的に実
験するのはなじまないから強く反対する。
・制度の試行は、その必要性が高まったことを前提に、それを上手く機能
させるためにやるものであり、現段階で弁護人立会いを試行せよという
ことには賛同しかねる。
・支障がある場合には検察官の判断で弁護人の活動を制約できるという
が、検察官が弁護人に対して一切何もしてはならないとした上で同席さ
せるなど、検察に全く支障のない立会いの形があるとしても、それでは
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立会いの意義が認められないと思われ、試行に値しないであろうし、弁
護人に一定の介入を許すなど検察に支障のある形であれば、試行により
具体的な事件処理への悪影響が避けられないから、法律の根拠等なくし
て検察として試行に応じ難い。
・検事総長から弁護人を立ち会わせる場合に配慮すべき点を示すとの提案
や、法務省・検察庁に対して弁護士会から弁護人立会いの試行の条件に
ついて協議の申入れがあった場合にそれに応じるよう提言するとの提案
は、
いずれも運用により弁護人立会いの試行を行うことが前提であるが、
その点については数多くの委員が反対しており、本会議で提言をする前
提に欠ける。
・本会議においては、弁護人立会いを正式な議題として取り上げて本格的
な議論をするものでないと理解しているが、それでも本会議の報告書に
は弁護人立会いについての意見や課題が十分に記載されることになるか
ら、本会議の報告書を参照しつつ別の場で議論すればよい。
イ その他
(ア) 取調べの録音・録画制度について
・現状では、在宅被疑者や参考人の取調べについては、取調べの録音・録
画義務の対象外とされ、運用上の録音・録画もほとんど行われていない
から、取調べの録音・録画の対象範囲を拡大して全事件で全過程の録音
・録画を義務付けるべきである。
・近時の警察及び検察の接見妨害事案は、録音・録画の対象事件の拡大の
必要を端的に示している。
・取調べの録音・録画制度については、検察の在り方検討会議と法制審議
会の特別部会で議論が重ねられた結果、全事件における全ての取調べを
対象とするのは現実的でなく、必要性が高いものを対象にすべきことか
ら、裁判員制度対象事件と検察独自捜査事件に係る身柄拘束下の取調べ
を義務化の対象範囲とした経緯があり、それを早急に拡大すべき特別の
事情が生じたわけでもないから、対象範囲の拡大等の要否・当否は、改
正刑訴法の施行状況も踏まえて3年後検討の機会に検討されるべき事柄
である。
・録音・録画のデメリットも考慮すべきであるし、警察での取調べ時間は
膨大で、全て録音・録画を実施するのが現実的か疑義がある。
(イ) いわゆる「人質司法」との指摘について
・我が国では、犯罪の嫌疑を認めない事実から罪証隠滅や逃亡のおそれを
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推認して保釈を許さないなどの運用がみられ、
身柄拘束が自白を強要し、
無罪主張を困難にさせる手段として機能してきた。作業部会意見書(7
5パラ)でも、自由権規約14条2項の無罪推定を受ける権利及び3項
の不利益自白を強要されない権利が侵害されたことについて情報源が一
定程度立証したのに、日本政府から反証がなかった旨指摘されている。
・日弁連においては、これまで、累次の意見書の中で、1刑訴法89条4
号の廃止及び被告人が否認し又は供述を拒否したこと等を不利益に考慮
してはならない旨の文言を盛り込むこと、2身柄不拘束原則を明記する
こと、3住居等制限命令制度の創設等を提案してきた。近時の裁判所が
努力されていることには敬意を表するが、なお、自白と否認・黙秘との
間で取扱いが異なるのも事実であり、更に改善する必要がある。
・先の刑訴法改正では刑訴法90条が改正されたほか、裁判員制度の導入
以降、裁判実務はできる限り保釈を認める方向に舵を切り、その運用が
定着しつつあり、「人質司法」との批判は当たらない。言葉が独り歩き
しているし、様々な事象を一括りに「人質司法」と定義するのは相当で
ない。
(ウ) 証拠開示制度の在り方について
・現在の証拠開示制度は、公判前整理手続に付された事件に限って適用さ
れるが、これを一般的な制度に広げ、また、再審請求審にも証拠開示制
度を設けるべきではないか。
・原則として検察官手持ち証拠の全てが開示されるべきであり、再審請求
審段階における証拠開示のルールも定められるべきである。
・証拠開示の問題については、これまで、刑事裁判実務を通じて長い議論
を経た上で、まず、裁判員制度導入に際し、公判前・期日間整理手続が
法定された上、平成28年の刑訴法改正で、リスト開示の導入や類型証
拠の範囲の拡大等のほか、義務的対象事件以外についても整理手続の請
求権を被告人側に認めるなどの強化が図られてきたところであり、運用
面でも、検察側の積極的な任意開示を含め、適正に十分な開示が行われ
ている。
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5 結び-法務・検察に望むこと-
法務・検察に対しては、元検事長の不祥事や、検察庁法改正案や元検事長の勤
務延長などの一連の経緯をめぐり、その政治との距離を含め、国民からの厳しい
視線が注がれてきたが、法務・検察が、国民からも国際社会からも納得が得られ
るような形で、中立・公正かつ十全にその機能を果たすことは、国及び国民の利
益に資するものである。本会議においても、委員等から、法務・検察が国民の意
識や期待からかい離することのないよう、具体的方法を自ら検討しつつ、国民の
考え方や行動原理をより多く拾い上げることなどを通じ、特に幹部職員が、社会
の変化、組織の外の声、多様な価値観に触れる機会を増やすべきであり、本会議
での議論を契機として、激変する社会・世界への感度を高め、国民により開かれ
た省庁となるとともに、その政策決定プロセスにイノベーションを起こしてもら
いたいといった期待や意見が示されたところである。法務・検察において、これ
らのことを意識しつつ、不断の自己点検と自己改革を通じて法務・検察行政をよ
り良いものにしていくことを、本会議の委員等の総意として強く期待する。
本会議では、前記2から4までのとおり、検討の3つの柱に沿って、法務・検
察行政をより良いものとするための様々な意見が示された。もとより本会議とし
ては、特定の事項を法務・検察において行うことを決定し、指示する立場になく、
本会議で示された様々な意見については、それを実施に移すかどうかを含めて法
務・検察において適切に判断されるべき問題であるが、本会議としては、法務・
検察が、本会議のような開かれた場で、外部の有識者から、前記のとおり、厳し
いものを含めた様々な意見が示されたことを真摯に受け止め、今後の取組に活か
していくことを強く求めるとともに、法務大臣に対し、次の点について、適切に
対処されることを望むものである。
1 元検事長の不祥事を受けて議論された「検察官の倫理」に関しては、前記
2に示された意見を参考としつつ、検察組織内部において、必要に応じて法
務省とも連携し、同様の不祥事を招くことなく、国民の信頼をより高めるた
めに、検察官の綱紀のより一層の保持につながる適切な取組をすること。
2 「法務行政の透明化」に関しては、法務省において、前記3で示された意
見を参考としつつ、内部的な文書管理・決裁のルール又は運用について必要
な見直しを行うことなどを通じ、国民からより一層信頼される法務行政の実
現に向けた改善の努力を続けること。
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3 「我が国の刑事手続について国際的な理解が得られるようにするための方
策」に関し、まず、対外的な発信について、作業部会とその意見書への対応
を含め、前記4(2)に記載された様々な意見も斟酌しつつ、国内外を問わず我
が国の刑事手続について正しい理解が得られるようにするために、より積極
的な取組をすること。また、刑事手続の内容面に関しては、前記4(3)のとお
り、取り分け被疑者取調べへの弁護人の立会いについての様々な意見が示さ
れたところであり、令和元年6月までに施行された平成28年改正刑事訴訟
法の3年後検討が予定されていることから、法務大臣において、前記各意見
の趣旨も十分に斟酌し、
検討のために必要十分な資料を収集・分析した上で、
3年後検討の場を含む適切な場において、弁護人立会いの是非も含めた刑事
司法制度全体の在り方について、社会の変化に留意しつつ、刑事手続の専門
家以外の多様な視点も含めた幅広い観点からの検討がなされるよう適切に対
応すること。

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