篠塚委員発言補助資料


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法務検察行政刷新会議のテーマについてのご提案
2020年7月29日
委員 篠 塚 力
1.国内外の疑問と批判
本会議は,会議設置の経緯に照らして,次の国内あるいは国内外の疑問と批判に
応え,法務検察行政の信頼回復に努めるべきであると考えます。
(1) 特定の検察官の勤務延長に関する閣議決定及び国家公務員法等の一部を
改正する法律案には,政治が検察の独立性を侵害するおそれがあり,法律案制
定過程が不透明ではないかという疑問や批判があります。
(2) 当該検察官のマスコミ関係者との賭け麻雀を理由とする辞任に関する疑問や
批判があります。
(3) わが国の刑事司法制度に関する「人質司法」等に関して,国内のみならず国
際的にも疑問や批判があります。
2.私たちがテーマとすべき課題
(1) 法務行政の透明化
ア 文書の管理・保管
閣議決 定の理由 及び法律案制 定の立 法事実を,検討過 程 において,逐
次,明文化し管理保管する義務を規定し,その変遷も含めて,後の検証に耐
えられるようにするための措置を検討してはどうでしょうか。
その検討に必要な情
報を法務省に求めたいと思います。
イ 人事
法務省の幹部職員の多数を検事任官者が占めているのが現状ですが,
行政官庁である法務省と捜査・訴追機関である検察との人事面での関係
のあり方について,検討してはいかがでしょうか。従来の法務省と検察
との関係性は,検察の活動がときに政治性を帯びる原因となっていない
か,刑事法の立法が捜査の必要性に偏ったものとなり,人権の観点から
国際的に後れをとる原因となっていないか,疑問や批判があります。司
法制度への信頼を高めるという意味で、関連して,刑事裁判に関しては
すでに廃止されたいわゆる判検交流について民事裁判での是非につい
ても,検討してはいかがでしょうか。
(2) 検察官の倫理
ア 私的行動に関する倫理規範の明確化と幹部養成過程の再検討
問題を特定の個人の資質に矮小化することなく,これを見過ごしてきた人事
制度の改善を検討してはどうでしょうか。また,あるべき幹部検察官の像を明確
化して,幹部検察官の養成過程に取り組むことも検討してはどうでしょうか。
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イ マスコミ関係者との関係
リークの問題も含めて,検察官とマスコミ関係者の関係の在り方を検察官の
倫理の観点から検討してはどうでしょうか。
捜査情報をマスコミにリークする
ことは,公務員としての守秘義務に違反するものですが,逮捕の場面を
撮影させたり,匿名のコメントで検察の筋書きを掲載させたりする例は
後を絶たず,無罪推定原則や公正な裁判を大きく損ねていることが,国
内外から批判されています。
ウ 検察倫理の検証
いわゆる検察不祥事の発覚から10年,検察倫理の基本規程(「検察
の理念」)が策定されて9年が経つことを踏まえ,第三者の立場から検
察倫理を検証してはどうでしょうか。上述のリークは,検察不祥事の当
時から問題となっていました。また,無罪と推定される被告人の防御権
や自由を尊重すべきこと,相手方当事者である弁護人の選任・解任に介
入すべきでないことなど,法曹倫理としては当然というべきことが,検
察の倫理として守られていないのではないか,という疑問や批判があり
ます。
(3) 日本の刑事司法に対する国際的な批判への対応
近年,日本の刑事司法に対する国際的な批判が高まっています。しかし,そう
した批判は今に始まったものではなく,国連拷問禁止委員会や国連自由権規約
委員会は,従前から,日本の刑事司法の問題点を厳しく指摘してきました。日本
弁護士連合会も,憲法や国際人権法に適合しない日本の刑事司法の問題点を
指摘し,制度改革の提言を行ってきました。日本の刑事司法について国際的な
理解を得ようとするならば,広報・情報開示の在り方を見直すとともに,刑事訴訟
法を改正し,日本の刑事司法の実体を憲法や国際人権法に適合するものに変
えていく必要があります。
ア 広報・情報開示の再点検と改革
広報・情報開示は,わが国の刑事司法の透明性を高める観点から,再
点検と改革を図るべきです。わが国の刑事司法制度に関して,国際的な理
解を得るためのこれまでの取り組みを検証し,海外メディアとの接触の機会を増
やしていくことを検討してはどうでしょうか。例えば、記者会見等においても、在
日の外国人記者クラブからも参加がしやすいようにしてはどうでしょうか。在日の
外国人記者クラブであれば、特に外国語で対応する必要もなく、彼らが母国
により多くの情報を発信することで,これまで以上の広報・情報開示の効果が
得られるのではないでしょうか。
イ 刑事司法制度の改革
(ア) 「人質司法」の解消
日本では,無罪を主張する被疑者・被告人について,無罪を主張している
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事実から罪証隠滅のおそれを推認するなど不利益に取り扱って,長期間身体
を拘束する勾留・保釈の運用が行われています。その結果,罪を犯していない
被告人は,罪を犯して認めている被告人よりも長期間身体を拘束され,裁判を
受ける前に自由を奪われ,裁判の準備を困難にされています。
このような勾留・保釈の運用は,捜査機関が,罪を犯していない被疑者・被
告人に自白を促し,無罪主張を断念させる手段として機能しており,刑事裁判
における事案の真相の解明をも妨げています。
このような勾留・保釈の運用は,
近年,「人質司法(Hostage Justice)」として国際的に認
識され,批判の対象となっています。「人質司法」は,拷問等禁止条約に
よって禁止されている「拷問」に当たるものであり,速やかに解消されなければ
なりません。
日本弁護士連合会は,「人質司法」を解消するため,次のような刑事訴訟
法改正を提言しています。
しろまる 勾留又は保釈に関する裁判においては,被疑者又は被告人の防御権を
踏まえ,被疑者又は被告人が嫌疑を否認したこと,取調べ若しくは供述を拒
んだこと,又は検察官請求証拠について同意をしないことを被告人に不利益
に考慮してはならないことを明記すること
しろまる 「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」を必要
的保釈の除外事由としている89条4号を削除すること
しろまる 勾留に代替する手段として,裁判所が被告人又は被疑者に対し住居の
制限等を命令することができる制度を創設し,その命令では罪証の隠滅又は
逃亡の防止の目的を達成できない場合に限り,勾留することができるものと
すること
(イ) 取調べにおける黙秘権の実質的保障と弁護人を立ち会わせる権利
長時間の取調べが長期間・多数回にわたり行われることが,日本の刑事司
法の際立った特徴です。取調べにおいて,捜査機関は,中立的に事情を聴
取するのではなく,犯罪の嫌疑を認めさせるための追及を行っており,反省・
悔悟を促すことが取調べの機能であると主張されることすらあります。
日本国憲
法は,被疑者・被告人の黙秘権を保障していますが,捜査機関は,被疑者が
黙秘権を行使しても取調べを継続し,密室に監禁したまま供述を要求してい
ます。
憲法は,弁護人の援助を受ける権利を保障していますが,捜査機関は,
弁護人の立会を認めることなく,取調べを行っています。
このような日本独自の
取調べの実態は,過去のえん罪事案においても虚偽自白の原因となっていま
すが,近年,国際的な批判も高まっています。
日本弁護士連合会は,黙秘権を実質的に保障し,弁護人を立ち会わせる
権利を確立するため,次のような刑事訴訟法改正を提言しています。
しろまる 198条1項本文を「検察官,検察事務官又は司法警察職員は,犯
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罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者の出頭を求め,被疑者
の明示した意思に反しない限り,これを取り調べることができる。」と改正す
るなどして,被疑者に取調べ受忍義務のないことを明確化すること
しろまる 取調官は,被疑者又は弁護人の申出を受けたときは,弁護人を取調べ
に立ち会わせなければならない旨を明確化すること
(ウ) 全ての事件の取調べ全過程の録音・録画
検察官が取調べで虚偽の供述を強要したことが明らかになったえん罪事
件を契機として,2016年の刑事訴訟法改正により,取調べの録音・録
画制度が創設されましたが,対象事件は刑事裁判全体の3%未満であり,
しかも,逮捕・勾留されていない被疑者の取調べは除外されています。しか
し,不適正な取調べを防止する必要性は,被疑者が逮捕・勾留された一部
の事件に限られるものではありません。
また,取調べの録音・録画制度の創設
と同時に合意制度(司法取引制度)が創設され,同制度の下では,検察官と
合意(取引)をした被疑者の供述の信用性を慎重に検討する必要があるとこ
ろ,そのためには,合意(取引)前の初期供述を含む,取調べの全過程が録
音・録画の方法により記録されている必要があります。
日本弁護士連合会は,取調べの録音・録画制度について,次のような刑
事訴訟法改正を提言しています。
しろまる 取調べ録音・録画制度の対象を拡大し,在宅被疑者や参考人の取調
べを含めて,全ての事件の取調べの全過程の録音・録画を義務付けること
(エ) 全面的証拠開示
現行刑事訴訟法上,検察官は証拠を全面的に開示する義務を負うものと
はされておらず,公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件に
おいて,被告人側の請求により,検察官請求証拠の証明力判断のために必
要な一定の証拠(類型証拠)及び被告人側の主張に関連する一定の証拠
(主張関連証拠)の限度で,開示義務を負うものとされています。この制度の
下では,無罪証拠が開示されないおそれが残ることに加え,請求や回答を繰
り返さなければ証拠開示が完了しないため,公訴提起から公判の開始まで
1年以上要する事案が発生しており,憲法が保障する迅速な裁判を受ける
権利との関係でも,疑義が生じています。また,再審請求審においては,
証拠開示が制度化されておらず,えん罪被害者の救済を目的とした手
続が有効に機能していません。
日本弁護士連合会は,証拠開示制度について,次のような刑事訴訟法改
正を提言しています。
しろまる 検察官は,公訴提起後速やかに,当該事件の捜査の過程で作成又は
入手した全ての証拠について,被告人及び弁護人に閲覧及び謄写の機
会を与えなければならないものとし,ただし,特定の証拠を開示することに
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よって国家の重大な利益又は個人の生命若しくは身体の安全を害する具
体的かつ現実的な危険性があるときは,裁判所に対し,当該証拠につい
ての開示義務を免除し,又は,開示の時期若しくは方法を指定し,若しく
は条件を附する旨の決定を求めることができるものとすること
しろまる 再審請求手続における証拠開示について,証拠一覧表の提出,証拠開
示命令,証拠の存否調査命令,生体試料その他の証拠物に関する特則
等を内容とするルールを定めること
以上 1日本の刑事司法に対する国際的な批判と日本弁護士連合会の提言
国際的な理解を得るために
近年、日本の刑事司法に対する国際的な批判が高まっているが、そうした批判
は今に始まったものではない。日本の刑事司法は、従前より、国連拷問禁止委員
会や国連自由権規約委員会から、その問題点を厳しく指摘されていた(*1)
。日
本弁護士連合会も、憲法や国際人権法に適合しない日本の刑事司法の問題点を指
摘し、制度改革の提言を行ってきた(*2)。日本の刑事司法について国際的な理解を得ようとするならば、日本の刑事司法
の「実体」を憲法や国際人権法に適合するものとすることが必要である。
日本弁護士連合会は、「『人質司法』の解消」
「取調べにおける黙秘権の実質的保
障と弁護人を立ち会わせる権利」
「全事件・全過程の取調べ録音・録画」
「全面的
な証拠開示」について、次のような制度改革を提言してる。
(*1)国連拷問禁止委員会「日本の第2回定期報告に関する総括所見」
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000020880.pdf)、国連自由権規約委員会「日本の第6回定期報告に関する総括所見」
(https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000054774.pdf)など。(*2)「えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザイン」
( https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2018
/opinion_181023_2.pdf)等参照。
「人質司法」の解消
日本では、無罪を主張する被疑者・被告人について、無罪を主張している事実
から罪証隠滅のおそれを推認するなど不利益に取り扱って、長期間身体を拘束す 2る勾留・保釈の運用が行われている。その結果、罪を犯していない被告人は、罪
を犯して認めている被告人よりも長期間身体を拘束され、裁判を受ける前に自由
を奪われ、裁判の準備を困難にされている。
このような勾留・保釈の運用は、検察官が、罪を犯していない被疑者・被告人
に自白を促し、無罪主張を断念させる手段として機能しており、刑事裁判におけ
る事案の真相の解明をも妨げている。
こうした勾留・保釈の運用は、近年、
「人質司法(Hostage Justice)
」として国
際的な批判の対象となっているが、拷問等禁止条約が禁止している「拷問」にほ
かならない事態を生み出しており(*3)
、速やかに解消されなければならない。(*3)拷問等禁止条約は、
「身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず
人に重い苦痛を故意に与える行為であって、
本人若しくは第三者から情報若
しくは自白を得ること...を目的として...、
公務員その他の公的資格で行動す
る者により...行われるもの」を「拷問」と定義して(1条1項)
、これを禁止
している(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gomon/zenbun.html)。日本弁護士連合会は、
「人質司法」を解消するため、次のような刑事訴訟法改正
を提言している。
⚫ 勾留又は保釈に関する裁判においては、
被疑者又は被告人の防御権を踏まえ、
被疑者又は被告人が嫌疑を否認したこと、
取調べ若しくは供述を拒んだこと、
又は検察官請求証拠について同意をしないことを被告人に不利益に考慮して
はならないことを明記すること。
⚫ 「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」を必要的
保釈の除外事由としている刑事訴訟法89条4号を削除すること。
⚫ 勾留に代替する手段として、裁判所が被告人又は被疑者に対し住居の制限等
を命令することができる制度を創設し、その命令では罪証の隠滅又は逃亡の
防止の目的を達成できない場合に限り、勾留することができるものとするこ
と。 3取調べにおける黙秘権の実質的保障と弁護人を立ち会わせる権利
長時間の取調べが長期間・多数回にわたり行われることが、日本の刑事司法の
際立った特徴である。しかも、日本の検察官や警察官は、中立的に事情を聴取す
るのではなく、自らが抱いている犯罪の嫌疑を認めさせるための追及を行ってお
り、検察官や警察官の中には、反省・悔悟を促すことが取調べの機能である主張
する者も少なくない。
日本国憲法は、
被疑者・被告人の黙秘権を保障している。取調べにおける供述の
強要は、多くのえん罪を生み出しており(*4)
、黙秘権を実質的に保障すること
は、えん罪を防止するためにきわめて重要である。
しかし、日本の検察官や警察官は、被疑者が黙秘権を行使する意思を明確に表
示しても、取調べを継続し、長時間、取調室に監禁したまま供述の要求を繰り返
しており、黙秘権は実質的に保障されているとはいえない。
また、憲法は、弁護人の援助を受ける権利を保障しており、被疑者が弁護人の
援助を最も必要とするのは取調べの場面であるが、日本の検察官や警察官は、弁
護人を立ち会わせることを認めず、その立会いを妨げて取調べを行っている。
このような日本独自の取調べの実態は、多くのえん罪を生み出してきたもので
あるが、近年、国際的な批判も高まっている(*5)。(*4)前掲「えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザイン」では、近
年発覚したえん罪事件を紹介しているが、
取調べにおける虚偽供述の強要は、
ほとんどの事件に共通するえん罪の原因である。
(*5)取調べに弁護人が立ち会うことができることは、先進国では常識となって
おり、検察官や警察官がこれを妨げている日本の現状は、国際的には異常で
ある。国連自由権規約委員会は、日本政府が「真実を明らかにするよう被疑
者を説得するという取調べの機能を阻害する」
との理由で弁護人の立会いを
認めていないことに懸念を表明し、
弁護人が取調べに立ち会うことを保障す
るよう繰り返し日本政府に勧告している。拷問等禁止委員会も、全ての取調 4べにおいて弁護人の立会いが義務付けられていないことについて懸念を表
明している。日本弁護士連合会「弁護人を取調べに立ち会わせる権利の明定
を求める意見書」
( https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/2018
/opinion_180413.pdf)参照。
日本弁護士連合会は、黙秘権を実質的に保障し、弁護人を立ち会わせる権利を
確立するため、次のような刑事訴訟法改正を提言している。
⚫ 刑事訴訟法198条1項本文を「検察官、検察事務官又は司法警察職員は、
犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、被疑者
の明示した意思に反しない限り、
これを取り調べることができる。」と改正す
るなどして、被疑者に取調べ受忍義務のないことを明確化すること。
⚫ 取調官は、被疑者又は弁護人の申出を受けたときは、弁護人を取調べに立ち
会わせなければならない旨を明確化すること。
全事件・全過程の取調べ録音・録画
検察官が取調べで虚偽の供述を強要したことが明らかになったえん罪事件を
契機として、2016年の刑事訴訟法改正により、取調べの録音・録画制度が創
設されたが、録音・録画が義務付けられた対象事件は、刑事裁判の事件数の3%
未満であり、しかも、逮捕・勾留されていない被疑者(在宅被疑者)の取調べは
除外されている。
しかし、不適正な取調べを防止する必要性は、一部の事件に限られるものでは
ないし、被疑者が逮捕・勾留されている場合に限られるものでもない。むしろ、
過去のえん罪事件においては、在宅被疑者の取調べで虚偽供述が強要されている
例が多い(*6)。また、取調べの録音・録画制度と同時に創設された合意制度(司法取引制度) 5の下では、検察官と合意(取引)をする被疑者は、自らは不起訴等の利益を受け
ることと引き換えに、他人に不利益な供述をするものであるから、責任転嫁によ
ってえん罪を生じさせる危険が大きい。
えん罪を防止するためには、
合意
(取引)
に基づく供述の信用性を慎重に検討することが必要であり、そのためには、検察
官と合意(取引)をした被疑者が、最初はどのような供述をしていたのか、合意
(取引)をしてどのように供述が変わったのかが、客観的に明らかになるように
することが求められる。また、取調べの中で、制度に基づかない違法な取引が行
われていないかを明らかにするためにも、取調べの全過程が客観的に記録されて
いる必要がある。したがって、在宅被疑者や参考人の取調べについても、録音・
録画を義務付ける必要がある。
(*6)前掲「えん罪を防止するための刑事司法改革グランドデザイン」参照。
日本弁護士連合会は、取調べの録音・録画制度について、次のような刑事訴訟
法改正を提言している。
⚫ 取調べ録音・録画制度の対象を拡大し、在宅被疑者や参考人の取調べを含め
て、全ての事件の取調べの全過程の録音・録画を義務付けること。
全面的な証拠開示
現行刑事訴訟法上、検察官は証拠を全面的に開示する義務を負うものとはされ
ておらず、公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件において、被告人
側の請求により、検察官請求証拠の証明力判断のために必要な一定の証拠(類型
証拠)及び被告人側の主張に関連する一定の証拠(主張関連証拠)の限度で、開
示義務を負うものとされている。
この制度の下では、検察官の手元に無罪証拠があっても、被告人側に開示する
ことを免れたまま、被告人が有罪とされるおそれが残る。さらに、弁護人が開示
を求める証拠を特定して請求し、検察官が要件該当性を判断して回答するやり取
りを何度も繰り返さなければ証拠開示が完了しないため、公訴提起から公判の開 6始まで1年以上要する事態も発生しており、憲法が保障する迅速な裁判を受ける
権利との関係でも、疑義が生じている。
また、再審請求審においては、証拠開示が制度化されておらず、えん罪被害者
の救済を目的とした手続が有効に機能していない。
日本弁護士連合会は、証拠開示制度について、次のような刑事訴訟法改正を提
言している。
⚫ 検察官は、公訴提起後速やかに、当該事件の捜査の過程で作成又は入手した
全ての証拠について、被告人及び弁護人に閲覧及び謄写の機会を与えなけれ
ばならないものとすること。ただし、特定の証拠を開示することによって国
家の重大な利益又は個人の生命若しくは身体の安全を害する具体的かつ現実
的な危険性があるときは、裁判所に対し、当該証拠についての開示義務を免
除し、又は、開示の時期若しくは方法を指定し、若しくは条件を附する旨の
決定を求めることができるものとすること。
⚫ 再審請求手続における証拠開示について、
証拠一覧表の提出、
証拠開示命令、
証拠の存否調査命令、生体試料その他の証拠物に関する特則等を内容とする
ルールを定めること。

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