司法書士及び司法書士法人に対する懲戒処分の考え方(処分基準等)
法務省民事局
司法書士法(昭和25年法律第197号。以下「法」という。
)第47条又
は第48条第1項の規定に基づき司法書士又は司法書士法人(以下「司法書士
等」という。
)に対して懲戒処分を行う場合の基準及び法第51条の規定に基
づく懲戒処分の公告については,次のとおりとする。
第1 総則
1 法務大臣による懲戒処分
法務大臣による司法書士等に対する懲戒処分は,法の定めるところによ
りその業務とする登記,供託,訴訟その他の法律事務の専門家として,国
民の権利を擁護し,もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使
命とする司法書士等の業務の適正を保持するために行われるものであり,
この基準に基づいて公正に行う。
2 懲戒事由
(1) 司法書士等が法又は法に基づく命令に違反したときは,法務大臣は,
当該司法書士等に対し,懲戒処分をすることができる(法第47条,第
48条第1項)。(2) 司法書士会及び日本司法書士会連合会の会則は自治規範であるが,司
法書士等はその所属する司法書士会及び日本司法書士会連合会の会則を
守らなければならない(法第23条,第46条において準用する第23
条)ことから,別表の違反行為の欄に掲げるものに該当する会則違反に
ついては,特に懲戒処分による必要性が認められるものとして,法違反
(会則遵守義務違反)を理由として懲戒処分をするものとする。
(3) 司法書士等は,常に品位を保持しなければならない(法第2条,第4
6条において準用する第2条)ことから,司法書士等の行った行為がそ
の業務に関連しない場合であっても,その行為が司法書士等の品位を害
した場合には,法違反を理由として懲戒処分をすることができる。
3 懲戒処分の種類
(1) 司法書士に対する懲戒処分(法第47条)
ア 戒告
イ 2年以内の業務の停止
ウ 業務の禁止
(2) 司法書士法人に対する懲戒処分(法第48条第1項)
ア 戒告
イ 2年以内の業務の全部又は一部の停止
ウ 解散
第2 処分基準
1 違反事実の認定
懲戒処分は,客観的資料等により認定することができる違反事実を対象
とし,当該違反事実,考慮要素及び情状等による加重又は軽減の理由を明
らかにして行う。
2 懲戒処分の量定
司法書士等が行った行為が別表の違反行為の欄に掲げるものに該当する
ときは,同表の懲戒処分の量定の欄に掲げる処分を基準とした上で,考慮
要素の欄に掲げる事項等を考慮した上で量定を決定し,懲戒処分を行う。
ただし,司法書士法人に対して懲戒処分を行う場合には,同表の懲戒処分
の量定の欄中「2年以内の業務の停止」とあるのは「2年以内の業務の全
部又は一部の停止」と,
「1年以内の業務の停止」とあるのは「1年以内
の業務の全部又は一部の停止」と,
「業務の禁止」とあるのは「解散」と
読み替えるものとする。
3 情状等による加重及び軽減
(1) 司法書士等の行った行為が別表の違反行為の欄に掲げるものに該当す
る場合において,司法書士等が行った行為の態様が極めて悪質であるこ
と,又はその行為の回数が多数であること等の特段の情状等が認められ
るときは,同表の懲戒処分の量定の欄に掲げる処分より重い処分を行う
ことができる。
(2) 司法書士等の行った行為が別表の違反行為の欄に掲げるものに該当す
る場合において,当該対象行為の態様,当該対象行為をするに至った過
程において酌むべき事情の内容,発生した経済的損失等の程度及びその
回復の内容,既に受けた社会的な制裁等の内容,所属する司法書士会に
よる自治的処分の内容その他の一切の事情を勘案して懲戒処分の量定を
軽減することが相当である情状等が認められるときは,同表の懲戒処分
の量定の欄に掲げる処分より軽い処分を行うことができる。
(3) 司法書士等の行った行為が別表の違反行為の欄に掲げるものに該当す
る場合において,(2)に掲げる事情を勘案して懲戒処分を行わないこと
が相当であると認められるとき(特段の事情のない限り同表の懲戒処分
の量定の欄に掲げる処分に戒告が含まれているときに限る。
)は,懲戒
処分を行わないことができる。
(4) 司法書士等に懲戒処分歴があることは懲戒処分を加重する情状とする
ことができ,司法書士等に懲戒処分歴がないことは懲戒処分を軽減する
情状とすることができる。
(5) 別表の違反行為の欄に該当する行為が複数ある場合における懲戒処分
の量定は,それぞれの違反行為について同表の懲戒処分の量定の欄に掲
げる処分が最も重いものを基準としつつ,複数の違反行為全体を勘案し,
必要に応じてこれを加重するものとする。
(6) 司法書士等が行った行為が法又は法に基づく命令に違反する場合にお
いて,別表の違反行為の欄に掲げるもののいずれにも該当しないときは,
同欄に掲げる違反行為のうち当該行為に最も類似するものに準ずるなど
の方法により当該行為に対する懲戒処分を行うものとする。
(7) 司法書士法人における特則
司法書士法人における量定の判断に当たっては,(1)から(6)までに加
え,当該法人の内部規律及び内部管理等を勘案する。
4 業務停止の期間
司法書士等の業務の停止期間は,年,月,週を単位とする。
第3 公告
法第51条に基づく公告をする場合は,司法書士等の個々の懲戒処分につ
いて,懲戒処分を受けた者の氏名又は名称,所属する司法書士会の名称,登
録番号及び事務所の所在地並びに処分の年月日及び処分の量定を公表するも
のとする。
別表(第1の2(2),第2の2,3関係)
番号 違 反 行 為 懲戒処分の量定 考慮要素
1 公文書偽造又は私文 刑法(明治40年法律第45 偽造行為の態様・
書偽造等 号 ) 第 1 5 5 条 , 第 1 5 7 回数
条 , 第 1 5 8 条 , 第 1 5 9 経済的損失等の程
条,第161条又は第161 度
条の2の規定に該当するもの 経済的損失等の回
復の程度
2 業務上横領 刑法第253条の規定に該当 横領行為の態様・
するもの 回数
経済的損失等の程
2年以内の業務の 度
停止 経済的損失等の回
又は 復の程度
3 名義貸し又は他人に 自己の名義において,故意に 業務の禁止 違反行為の態様・
よる業務の取扱い 他人に業務を行わせたもの 回数
4 業務停止期間中の業 故意に,業務停止期間中に業 業務停止期間中に
務行為 務を行ったもの 行った業務の態様
・回数
5 報酬又は費用の不正 故意に,報酬の不正請求又は 違反行為の態様・
請求 費用の架空請求や水増し請求 回数
をしたもの 経済的損失等の程度経済的損失等の回
復の程度
6 虚偽の登記名義人確 不動産登記法(平成16年法 違反行為の態様・
認情報提供で実害が 律第123号)第23条第4 回数
生じたもの(故意) 項第1号の規定による情報の 不実の登記の内容
提供を行う場合において,故 経済的損失等の程
意に虚偽の情報を提供し,か 度
つ,不実の登記,経済的損失 経済的損失等の回
等の実害が生じたもの 復の程度
7 虚偽の登記名義人確 不動産登記法第23条第4項 違反行為の態様・
認情報提供で実害が 第1号の規定による情報の提 回数
生じたもの(注意義 供を行う場合において,相当 不実の登記の内容
務違反) な注意を怠って虚偽の情報を 経済的損失等の程
提供し,かつ,不実の登記, 度
経済的損失等の実害が生じた 経済的損失等の回
もの 復の程度
8 犯収法違反を伴う本 故意に,犯罪による収益の移 違反行為の態様・
人確認等義務違反で 転防止に関する法律(平成1 回数
実 害 が 生 じ た も の 9年法律第22号)の規定に 不実の登記の内容
(故意) 違反した上で,本人確認等を 経済的損失等の程
怠り,かつ,不実の登記,経 度
済的損失等の実害が生じたも 戒告 経済的損失等の回
の 又は 復の程度
9 職務上請求用紙の不 不正な目的で戸籍謄本等職務 2年以内の業務の 違反行為の態様・
正使用等 上請求用紙を使用したもの又 停止 回数
は戸籍謄本等職務上請求用紙 不正使用等の目的
を用いて取得した戸籍謄本等
を不正な目的で使用したもの
10 不当誘致行為 故意に,不当な手段を用いて 違反行為の態様・
業務の誘致を行ったもの 回数
11 受任事件の放置 受任した事件を正当な事由な 放置した回数・事
く故意に履行しないもの 件の内容
放置の期間・程度
被害の内容・程度
被害等の回復の程度12 秘 密 保 持 義 務 違 反 故意に,業務上取り扱った事 他に漏らした秘密
(故意) 件について知ることのできた の内容
秘密を正当な事由なく他に漏 被害の内容・程度
らしたもの 被害等の回復の程度13 本人確認義務違反又 本 表 に 別 に 定 め る も の の ほ 違反行為の態様・
は依頼者等の意思確 か,故意に又は相当の注意を 回数
認義務違反で実害が 怠って本人確認等の義務に違 不実の登記等の内
生じたもの 反し,かつ,不実の登記等, 容
経済的損失等の実害が生じた 経済的損失等の程
もの 度
経済的損失等の回
復の程度
14 虚偽の登記名義人確 不動産登記法第23条第4項 違反行為の態様・
認情報提供で実害は 第1号の規定による情報の提 回数
生 じ て い な い も の 供を行う場合において,故意 社会に対する影響
(故意) に虚偽の情報を提供したが, の有無・程度
不実の登記,経済的損失等の
実害が生じなかったもの
15 犯収法違反を伴う本 故意に,犯罪による収益の移 違反行為の態様・
人確認等義務違反で 転防止に関する法律の規定に 回数
実害は生じていない 違反した上で,本人確認等の 社会に対する影響
が,悪質なもの(故 義務に違反したが,不実の登 の有無・程度
意) 記,経済的損失等の実害が生 戒告
じなかったもののうち,悪質 又は
なもの 1年以内の業務の
16 職務上請求用紙の管 戸籍謄本等職務上請求用紙若 停止 違反行為の態様・
理懈怠等 しくは戸籍謄本等職務上請求 回数
用紙を用いて取得した戸籍謄 管理懈怠の態様・
本等の管理を怠り,又はその 程度
使用方法を誤り,実害が生じ 被害の内容・程度
たもの 被害等の回復の程度17 調査拒否 正当な事由なく司法書士法施 拒否行為の態様
行規則(昭和53年法務省令 調査の対象となっ
第55号)第42条第1項又 た違反行為の疑い
は第2項の調査を拒んだもの がある事実の態様
・回数
18 補助者の監督責任 補助者の監督を怠り,本表の 違反行為の内容
違反行為に該当し,又はこれ 補助者に対する監
に準ずる行為をしたもの 督の懈怠の態様・
程度
19 預り金等の管理懈怠 依頼者又は依頼者のための預 管理懈怠の対象と
等 り金を他の金銭と区別せずに なった預り金等の
保 管 す る な ど そ の 管 理 を 怠 金額・内容
り,経済的損失等の実害が生 管理懈怠の態様・
じたもの 程度
経済的損失等の回
復の程度
20 秘 密 保 持 義 務 違 反 相当な注意を怠り,業務上取 他に漏らした秘密
(注意義務違反) り扱った事件について知るこ の内容
とのできた秘密を他に漏らし 被害の内容・程度
たもの 被害等の回復の程度21 受任拒否 正当な事由なく依頼された事 違反行為の態様・
件の受任を拒否したもの(簡 回数
裁訴訟代理等関係業務に関す
るものを除く。
)のうち,悪質
なもの 戒告
22 その他会則に違反す 本表の違反行為に該当しない 違反行為の態様・
る行為 司法書士会の会則の不遵守で 回数
あって,司法書士会による自
治 的 処 分 を 複 数 回 受 け た 場
合,実害が生じた場合等悪質
なもの
23 業務外行為 業務外の違反行為で刑事罰の 戒告,2年以内の 違反行為の態様・
対象となる行為に該当するも 業務の停止又は業 回数
の 務の禁止

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