商業登記所における法人の実質的支配者情報の
把握促進に関する研究会取りまとめ概要
-有識者による議論の取りまとめ-
令和2年7月
法務省民事局
法人の実質的支配者(BO)把握の要請
〇 FATFの要請
・ 勧告10「顧客管理」(金融機関による実質的支配者の確認・照合等)及び勧告24「法人の透
明性及び真の受益者」(権限ある当局が適時に正確かつ時宜を得た情報を入手)
・ 2019年10月公表の FATFのベストプラクティスでは,複数の情報(Registry Approach, the
Company Approach and the Existing Information Approach)を組み合わせて判断する手法を推
奨。また,我が国の公証人の行う定款認証における株式会社等の実質的支配者(BO)の申告
制度をベストプラクティスとして紹介
・ 今後の課題は1法人の設立後における継続的なBOの把握及び2公的機関が把握したBO
情報への捜査機関等によるアクセス
〇 国内的要請
・ 全国銀行協会の行った加盟行へのアンケートの結果
⇒ 設立後のBO情報の更新,集めたBO情報への金融機関からのアクセス,BO情報の登記
事項へ追加等1 欧州の動向
〇 2015年EU指令(2015/849)により,加盟国に対し,次の事項を指令
1 加盟国内で設立された会社等の法人についてのBO情報の取得を義務付け
2 BO情報を記録する登録制度の創設
〇 上記指令を踏まえ各国において次の展開
・ 法人のBO情報の登録機関(国により登記所,財務省系機関等)の創設
・ 法人に年1回の登録内容の確認・更新,変更時の登録内容更新義務付け
・ 情報の正確性確保のための様々な取組(AIの活用,租税等他の公的機関の情報との照合,
公的機関への調査権限付与,法人の解散等の制裁等)
しろまる 2018年EU指令(2018/843)により更に強化,これを踏まえ各国において更に次の展開
・ アクセス権者の拡大, BOの確認義務者に自己の情報と登録情報との齟齬を発見した場合
の登録機関への報告義務2 3
欧州各国・米国の制度
イギリス ドイツ フランス アメリカ
機関 商業登記を担う機関
(Companies House)
商業登記を担う機関とは別機関 商業登記を担う機関
(商事裁判所登記課)
連邦,州いずれ
のレベルにおい
ても,BO情報登
録制度は存在し
ないようである。
対象 上場企業を除く会社 全ての会社 上場会社を除く会社等
申告・
登録
実質的支配者を記載した名簿
(PSC名簿)の備付け,登録機関へ
も申告して登録
実質的支配者情報を登録機関に
申告して登録
実質的支配者情報を登録機関
に申告して登録
更新 変更が生じれば更新義務 変更が生じれば更新義務 変更が生じれば更新義務
正確性
確保
BOの確認義務者には,自己の情
報と登録情報との齟齬を発見した
場合の登録機関への報告義務
BOの確認義務者には,自己の情
報と登録情報との齟齬を発見した
場合の登録機関への報告義務
自己の情報と登録情報との齟
齬が発見された場合の報告の
仕組みあり
情報へのアクセス
何人も住所以外の登録情報にアク
セス可
BOの基本情報(氏名,出生年月
日,居住国,国籍,BOの類型)に
ついて,何人もアクセス可
BOの基本情報(氏名,出生年
月日,居住国,国籍,BOの類
型)について,何人もアクセス可
制裁 PSC名簿の備付義務,更新義務,
申告・登録義務等に違反すると,
刑罰による制裁
申告義務,更新義務等に違反する
と,刑罰による制裁
申告義務,更新義務等に違反
すると,刑罰による制裁
第4次
FATF審査
R24:LC, IO5:Substantial
(Dec 2018)
未評価 未評価 R24:NC, IO5:Low
(Dec 2016)
顧客のBOの確認に関する犯罪収益移転防止
法の枠組み及び銀行の実務
〇 犯罪収益移転防止法上の枠組み
・ 特定事業者は,法人である顧客等との間で特定取引を行う際に,顧客等の代表者等から申告を受ける方法によりそのBOの
本人特定事項(氏名,住居,生年月日)の確認義務を負う(第4条第1項)。
・ なりすまし取引,偽りのある取引,特定国居住者等との取引等のハイリスク取引については,特定事業者は,申告されたBOと
顧客との関係を株主名簿等の書類によって確認する義務を負う(第4条第2項)。
・ 金融庁のマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(以下「金融庁マネロンガイドライン」という。)によ
り,金融機関は,通常の特定取引について確認を行う際にも,「信頼に足る証跡を求めてこれを行う」こととされている。
〇 銀行による法人のBOの確認実務
・ 上記犯罪収益移転防止法の枠組みに従って,ハイリスク取引については,BOの本人特定事項の確認は申告に基づいて,BO
と顧客との関係の確認は株主名簿等の書類に基づいて行い,通常の特定取引については,これらのいずれの確認についても,
顧客の申告に基づいて行うこととしている。
・ なお,通常の特定取引の場合であっても,各銀行は,その運用の中で,取引開始時や継続的顧客管理の中で,実質的支配者
と顧客との関係や,実質的支配者の本人特定事項について,リスクに応じて信頼に足る証跡となる資料を確認することがある。4 【施策案】
法人の申出により,商業登記所が当該法人のBOリストを保管し
その写しを交付する制度
〇 法人の申出により,商業登記所が当該法人が作成したBOリスト(実質的支配者について,その要件である議
決権の保有に関する情報を記載した書面をいう。)について所定の添付書面によりその内容を確認して写しを
作成し,写しであることの認証を付する制度(以下「本制度」という。)
〇 本制度を利用しようとする法人(以下「申出法人」という。)が,そのBOリストを作成し,商業登記所の登記官に
対し,BOリストの保管及びその写しの交付の申出(詳細は次のスライド参照)
〇 申出を受けた登記官は,添付書面及び商業登記所の保有する情報等に基づきBOリストの内容を調査
〇 登記官は,調査が終わるとBOリストをスキャンして保管するとともに,申出法人について,BOリストが保管さ
れている旨を登記簿に付記(BO情報を届け出ている信用性の高い会社と評価され得る)
〇 その上で,登記官は,当該法人に対し,BOリストの写し(登記官が写しであることの認証を付したもの)を交付
〇 本制度の対象は株式会社・特例有限会社,対象となるBOは犯罪収益移転防止法施行規則第11条第2項第
1号のBO(株主が外国会社の場合は制度の対象外)
〇 専門性を有する商業登記所の登記官がBO情報を確認するハブとなって統一的に判断を行うことにより,個々
の金融機関が窓口でその都度確認を行っている現状に比べ,運用の統一性及び一定レベルの判断水準が担
保されることにより信頼性が向上5 BOリストの保管及びその写しの交付フロー6申出 確認
リストの保管・
登記簿へ付記
リストの写し
交付
申出法人が,登記
官に,次の書類を
提出し,BOリストの
保管及びその写し
の交付を申出
BOリスト
添付書面
登記官がBOリストを
保管し,その旨を登
記簿に付記
登記官が申出法人
に対し,BOリストの
写しを交付
登記官が,BOリス
トについて,次の資
料を基に,統一基
準に基づく確認
登記情報,添付
書面
法務局で保管するBO情報7i. 当該法人の議決権の総数の2分の1を超える議決権を直接又は間接に有していると認められ
る自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又は能力がないことが明ら
かな場合を除く。):犯罪収益移転防止法施行規則第11条第2項第1号参照
ii. iの者がいない場合には,当該法人の議決権の総数の4分の1を超える議決権を直接又は間
接に有していると認められる自然人(この者が当該会社の事業経営を実質的に支配する意思又
は能力がないことが明らかな場合又はiの場合を除く。):同規則第11条第2項第1号参照
iii. i・iiの者がいない場合には,出資,融資,取引その他の関係を通じて当該法人の事業活動
に支配的な影響力を有すると認められる自然人:同規則第11条第2項第2号参照
iv. i・ii ・iiiの者がいない場合には,当該法人を代表し,その業務を執行する自然人:同規則第
11条第2項第4号参照
【直接保有】 【間接保有】
BO BO
以下のBO該当事由のうち,形式審査可能なi及びiiを対象とする。
申出時の添付書面8ア 直接保有 イ 間接保有
1 株主名簿(会121)の写し
(注記) 本店に備え置かれた株主名簿の写しである旨の代表者の証明付き
及び
2 申告受理及び認証証明書(公証人発行,初年度の法人税確定申告までの間)
又は
2 ́(法人税)確定申告書別表二の明細書
(注記) 登記官は,株主名簿等の株式の数等の記載,確定申告書別表二の明細書の株式数等の
記載,登記事項となっている発行済株式の総数の記載を照らし合わせBO該当性を確認
(注記) 2や2 ́作成後に株主の構成に変動があり,株主名簿の記載内容と齟齬する場合には,
当該変動があったことを証する書面を添付する。
左欄の添付書面に加えて,次の書面を添付する。
3 上位会社の株主名簿の写し
(注記) 本店に備え置かれた株主名簿の写しである旨の代表者の証明付き
及び
4 上位会社の申告受理及び認証証明書(公証人発行,初年度の法人税確定申告までの間)又は
4 ́(法人税)確定申告書別表二の明細書
(注記) 上位会社及びBOの協力が得られず,3,4(4 ́)の添付が困難な場合の添付書面の
在り方については,実務上のニーズにも照らしながら,引き続き検討
5 BOの本人特定事項に関する確認の在り方については,実務上のニーズにも照らしながら,引き続き検討
(注記) 申出法人が虚偽の資料を用いるなどして申出を行った場合には,個別の事案に応じて,関係法令に基づき制裁が科され得る。
例えば,申出法人が株主名簿に虚偽の記載をした場合には,会社法(平成17年法律第86号)第976条第7号の規定により100万円
以下の過料に処せられることになる。
本制度を利用する法人の理解を促進する方法
〇 本制度を利用した法人については,BOリストが保管されている旨が登記簿に
付記され,登記事項証明書にもその旨を記載することを想定しているため,申出
法人は,金融機関以外の当事者と取引を行う際に,取引の相手方から,求めが
あればBOリストの写しを提出することのできる透明性の高い会社であると認識さ
れ,信頼性が向上
〇 本制度が,我が国におけるBO情報把握の仕組み全体の中で適切に位置付け
られることが重要。今後,金融庁マネロンガイドラインを含め,我が国の仕組み全
体の中で,本制度が適切に位置付けられるよう,銀行業界,金融庁と連携して更
に検討
〇 本制度の意義について理解を広めるために,関係機関が連携して周知9 BOリストの写しの利用が想定される場面/商業登記所
のBO情報へのアクセス/根拠法令・施行時期
〇 BOリストの写しの利用が想定される場面
・ 令和元年12月末時点の株式会社及び特例有限会社の数は約345万5000社。本制
度は,主に,これらの法人が,特定事業者と取引を行う際に利用することが想定
・ いかなる場合にBOリストの写しの提出が求められるかについては,各特定事業者
の運用に委ねられることとなるが,顧客との取引開始時や,継続的顧客管理を行う
中で,公的機関による客観的かつ統一的な判断が必要となる場合等に求められるこ
とになると考えられる。
〇 商業登記所で管理するBO情報へのアクセス
・ BO情報は,プライバシー性の高い情報であり,申出法人のみが交付請求可
〇 根拠法令・施行時期
・ 法務省令により,令和3年度中を目途に,制度導入が相当10 本制度導入後の課題
〇 本制度の対象外とした法人,BO類型に関するBOの把握の在
り方
〇 法人の上位会社,BOの確認義務者等からBO情報の提供を受
けることができる仕組みの在り方
〇 商業登記所の保管するBO情報へのアクセス権者の範囲,商業
登記所のBO情報の保管の在り方
〇 BO変更の適時の把握の在り方
〇 オンラインによる申出,BOリストの写し交付の手続,AIの活用11

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