1第2回 商業登記所における法人の実質的支配者情報の把握促進に関する研究
会 議事概要
1.日時 令和2年5月29日(金)13:00〜15:00
2.開催方法 ウェブ会議により実施
3.出席者
(有識者)
座長 岩原紳作
委員 阿部耕一
委員 片山 達
委員 加藤貴仁
委員 角田美穂子
委員 内藤 卓
(法務省)
商事課長 篠原辰夫
官房参事官 竹林俊憲
民事局付 福永 宏
民事局付兼登記所適正配置対策室長 竹下 慶
(オブザーバー)
財務省国際局国際機構課兼調査課資金移転対策室外国為替管理官 野田恒平
金融庁総合政策局マネーローンダリング・テロ資金供与対策企画室長 尾崎 寛
日本公証人連合会常務理事 北原一夫
4.議事概要
(次のとおり) 2議事概要
しろまる篠原商事課長 第2回研究会を開催する。
しろまる岩原座長 本日の研究会では,1商業登記所において実質的支配者情報に関
する証明書を発行する制度の必要性及び証明制度の対象となる範囲,2申告
された法人の実質的支配者情報の正確性確保の方法及び証明書の書式,3顧
客の理解促進,想定される証明書の通数,集積したデータの管理・活用等長期
的な課題の三つに分けて御議論いただきたい。
本日の議論に入る前に,前回の研究会においてシステムの不具合により御
発言を頂けなかった部分について,片山委員から御発言いただきたい。
しろまる片山委員 前回発言しようと考えていたポイントについて4点ほど,今日の
議題とも関係するが,コメントをさせていただきたい。
まず第1点目は,
前回加藤委員から問題提起があった点である。
今回の制度
が通常取引とハイリスク取引のどちらをメインと考えているのかという御質
問についてである。この点については,法務省民事局の案は,どちらかという
とハイリスク取引というよりは通常取引を想定した案であると考えている。
その理由としては,今回の提案は実質的支配者の該当事項の中で形式審査可
能な要件のみを対象としており,ハイリスク取引ではそれだけでは足りない
実質的判断が求められることによる。
そうした場合に,
この制度の導入により登記所で行うことが,
現在銀行で行
っている実務と変わらないのであれば,余り意味がないという見方もあり得
る。しかし,現在の実際の銀行実務では,マネーローンダリングのリスクがほ
とんど存在しないような顧客が恐らく数の上ではかなり多いと思われ,そう
いった事案についてもルールベースで一律に審査を行っている結果,かなり
コンプライアンス疲れみたいな状況が生じていると聞くこともある。その意
味で,今銀行の現場で行っている通常取引の審査を登記所が肩代わりしてい
ただけるということであれば,現場の負担をかなり軽減できるのではないか
と期待している。
また,
事業者の側から見ても,
事業者は複数の金融機関と取引をする場合も
あるが,それぞれの金融機関からいろいろな審査資料を出せということを言
われると,
それなりに事業者側の負担になるのではないかと思っている。
それ
がもし登記所に一度審査資料を出せば証明書を発行していただけるというこ
とであれば,事業者側から見ても金融機関にいろいろな資料を提出する手間
が省けることになり,登記所がハブになってこの実質的支配者の審査に関す
るコストを社会全体として低減するということが実際できるのではないかと
思った。 3第2点目は,
実質的支配者情報の正確性についてである。
今回の提案におけ
る登記所に提出する添付書面の範囲が,現在銀行が顧客から提出を受けてい
る資料と異ならないのであれば,登記所の証明書によって実質的支配者に関
する判断の正確性が著しく増大するということは考えにくいかとも思う。他
方で,
これも金融機関の現場を想像すると,
今回の案となっている添付書面の
ようなものを見て,判断できる方が全国の金融機関の現場にどのぐらいいら
っしゃるのかと。忙しい実務の中でこういったことを判断する手間に比べると,登記所は皆様専門性を有する方々であるので,
この方々に審査をしていた
だくということで信頼性が担保されるのではないかと考えた。
それから,3番目のポイントは,申請時の添付書面に関して,今日の議論の
中でも出てくると思うが,上位会社の協力が得られない場合にどうするかと
いう議論についてである。海外では協力しない上位会社の株主の権利をむし
ろ制限するといったような法制があると聞いているが,
今回の取組は,
法律の
改正ではなく規則改正で対応できる範囲で取組を行うという前提であるので,
これは今回の検討の範囲を超えるのではないかと思った。
最後のポイントとして,全銀協さんの説明の中で,顧客の協力を得られない
場合について言及があったが,
同族経営で複雑な株主構成を取っており,
実質
的な支配者が分かりにくい企業というのは現実にあると思う。
そのような,同族企業の場合は,
サラリーマン経営者がいるとしても,
その方には実質的な権
限はなく,実質的権限を持つ人の情報をサラリーマン経営者に開示しろとい
ってもその人が板挟みになるだけで,
非常に無理があるように思う。
今回の新
制度が実施されるという仮定の下で,法人とか信託の透明性というのが社会
の要請であるということの認識が広まると,そういう方々も実質的な権限を
持つ人との板挟みに遭わなくて,これが社会の要請であるということを説明
しやすくなるという点は期待したいと考えている。
しろまる岩原座長 それでは,本日の議題について,まず一つ目の,商業登記所におい
て実質的支配者情報に関する証明書を発行する制度の必要性及び対象となる
範囲について御議論いただきたい。
議論を始める前に,事務当局から説明いただきたい。
しろまる竹下室長 前回の説明から追加,
修正する事項を説明させていただく。
まず,
法人の実質的支配者把握に関するFATFの要請について,関連するFAT
Fの勧告が,勧告10「顧客管理」
(金融機関による実質的支配者の確認・照
合等)及び勧告24「法人の透明性及び真の受益者」
(権限ある当局が適時に
正確かつ時宜を得た情報を入手)であり,また,2019年10月公表のFA
TFのベストプラクティスでは,複数の情報を組み合わせて判断する手法が
推奨されていることを補足させていただく。 4続いて,前回の角田委員からの御指摘を踏まえ,海外法制について追加の
調査をした。その結果,2018年に新たなEU指令が出ており,これを踏ま
えて各国において制度改正が行われていたことが分かった。
内容は,
アクセス
権者の拡大及び実質的支配者の確認義務者に自己の情報と登録情報との齟齬
を発見した場合に登録機関への報告義務を課すことであり,本年1月までに
各国において履行されている。
実質的支配者の確認義務者というのは,
日本で
言えば特定事業者であり,金融機関のような主体である。
さらに,
金融機関による法人の実質的支配者の確認実務に関して,
確認の頻
度については,
顧客との取引開始時,
犯罪による収益の移転防止に関する法律
第4条第2項で定める高リスク取引を行う際のみならず,リスクに応じた頻
度やリスクに影響を与える事象が発生した際に行うことを補足させていただ
きたい。
最後に,今回の制度の利用に関して,実質的支配者情報証明書(仮称)は,
商業・法人登記分野での専門性を有する登記官が,
株主名簿等の書面を適正,
迅速に審査して発行するものであり,
発行された証明書は,
各法人が任意に利
用するとともに,金融機関等が継続的顧客管理の中でリスク等の個々の事情
に応じて利用することが想定されることを補足させていただきたい。
なお,今回の制度の対象については,株式会社,特定有限会社という案にさ
せていただいているが,
資本多数決法人以外の法人,
すなわち合同会社や一般
社団法人等の法人については,犯罪による収益の移転防止に関する法律施行
規則上も判断枠組みが異なっており,第一段階から実質的な審査が必要とな
っている。現在の金融機関の実務においてそういった資本多数決法人以外の
法人について,定型的な書面による実質的支配者の確認手法が確立している
のかという辺りについても御議論いただきたい。
しろまる岩原座長 それでは,
どなたからでも結構ですので,
自由に御発言いただきた
い。
しろまる阿部委員 今法務省から,
EUの指令により欧州の制度では,
自己情報と登録
情報の齟齬を発見した場合には,金融機関に登録機関への報告義務があると
の説明があったが,
その前提として,
欧州では登録された情報に何人もアクセ
スできるという制度があり,
それとの兼ね合いで,
この報告義務の手続につな
がっていると思われる。
実質的支配者の登録情報のアクセスについては,
前回
の研究会でも議論したが,
現時点での実現は法令の整備の問題もあり,
難しい
ということとは理解をしている。ただ,世界的な趨勢をみても,情報へアクセ
スできる者は限定されていないことから,
何人とはいかないとしても,
特定事
業者がアクセスできる制度的な手当て,システムというのを御検討いただけ
ればと考えている。 5しろまる角田委員 先ほどの片山委員のコメント,今の阿部委員のコメントを伺って
感じたところであるが,今回の制度の必要性についてもう少し深堀りする必
要があるのではないか。
制度導入の必要性を論証するに当たっては,
やはり将
来的な方向性を示さないと,なかなか第3パートで議論する顧客の理解促進
や関係者の協力というものは得られないのではないかという感想を持ってい
る。
片山委員の御意見については,
重要な点が二つほどあるように思った。
一つ
は,コンプラ疲れであるとか,登記所がハブとなって実質的支配者の審査
を行うことで社会コストが全体として低減するという点。
これは,
正に今回我
が国もレジストリアプローチを導入してFATFのベストプラクティスで推
奨されている方向に踏み出すということであり,
また,
諸外国ではBO把握は
自動化,
AIの導入によって精度を高めているという展開もみられる。
将来的
な方向性ではあるが,そのような方向を志向した第一歩の制度導入であると
いう論証もあり得るのではないか。
それから,
登記所という制度を活用し,
登記官というプロフェッショナルが
関わることで信頼性が担保されるというファクターも制度設計においては非
常に重要ではないかと考えている。
また,
長期的な視野を持ちながらデータベ
ースを構築することを考えているようだが,将来的なAI技術の開発に向け
て使いやすいデータベースというものを考えてもよいのではないかという感
想を持った。
しろまる尾崎室長 角田委員から御指摘があった将来的な方向性であるが,マネーロ
ーンダリング・テロ資金供与対策に関しては,
国際的な政府間の協調の枠組み
であり,
ルール・セッターであるFATFの勧告やFATFのガイドライン等
に従って加盟各国がその目指すところに向けて体制整備をしているという状
況の中で,FATFが2019年10月に出した実質的支配者に関するベス
トプラクティス集を参考に将来的な方向性を検討するのがよいのではないか
と考えている。
このFATFの実質支配者に関するベストプラクティス集では,確認手法
として,Registry Approach,Company Approach,Existing Information
Approach といった三つのアプローチを組み合わせて,できるだけ情報の精度
と確度,
精度というのはその新しいかどうかということ,
確度というのは確実
であるかどうかということ,を高めていくという手法(Multi-pronged
Approach)がより良い手法であると述べられている。
なぜ,
それらの手法の組合せが必要かというと,
実質的支配者については,
絶対的な確証を持った情報はないという実態があり,
各国とも,
実質的支配者
の認証をすること自体で苦労しているという実態を踏まえて,ベストプラク 6ティスとしてもその三つの組合せが重要であるということが現在示されてい
るのであり,それが将来的な目指すところであると思う。
そこで,
こういった将来的な方向性を念頭に置き,
できる施策に取り組んで
いくという観点から,法務省が取り組んでいる今回の措置というのは,
Registry Approach の確度と精度を高めるという点で,前向きで,かつFAT
Fから見てもポジティブな施策であると思う。
法務省は,
既に法人設立時に公
証人が株主の認証を行うという制度を導入しているが,この取組に関しては
FATFのベストプラクティス集における各国の取組の中で,日本の取組と
して評価される取組であると取り上げられている。
今回,
設立時のみならず継
続的に認証を行うということであるので,これは意味のあることであると思
う。
ここは冒頭片山委員が述べられたとおり,
金融機関の負担軽減,
社会全体の
コストの低下ということにもつながってくると考えているので,歓迎したい
取組と考えている。
しろまる阿部委員 今,
尾崎室長の説明にあったように,
金融機関の実質的支配者の確
認というのは,レジストリアプローチのほか多面的,総合的に行っている。そ
の中で今回の実質的支配者情報証明制度が確立することで,多面的なアプロ
ーチの中の一つのアプローチの信頼性が高まり,実質的支配者の確認事務の
信頼性向上につながることを期待している。
しろまる岩原座長 ということは,この試みをやっていけばFATFからも評価され
るのではないかという期待があるということだと思うが。財務省の方からそ
ういう感触はいかがか。
しろまる野田管理官 今第4次審査が正に進行している最中であり,実は新型肺炎の
影響でFATFのプロセス自体が先延ばしになってしまい,本当であれば6
月に決着がつく予定であったものが秋以降になっている中であるが,その4
次審査との関係では今もってFATFの審査団とのやり取りが続いている。
そういう意味では審査の内容というのは現在進行形であり,かつ世間の耳目
を非常に集めているところであるので,なかなか憶測を呼ぶようなことも申
し上げづらいということは,御理解いただきたい。
手続的に見ると,
昨年の秋にオンサイト審査として,
FATFの審査団が日
本にやってきて,
我々の方から日本の制度の説明をして,
民間企業のヒアリン
グも彼らが行い,
そこでの感触を得てまたレポートをまとめて,
その後に評価
ということである。飽くまで制度設計というか建前の手続論としてはそこの
オンサイトが終わった時点で提出した資料及び説明でもって評価が決まるよ
ということであり,その後にいろいろな追加の制度や実務の改善を行ったと
しても,そこは評価には影響しないというのが,手続の在り方である。とは言 7いつつも,
他方で先ほど尾崎室長からもあったように,
FATFの審査は多国
間の協力によるものであり,何かFATFというオーソリティを持った組織
が加盟国から独立のものとして存在していくわけではなく,飽くまでピアプ
レッシャーと言われる相互審査の枠組みで行われるものであるので,最終的
には加盟国が集う場において日本の審査結果について審査団からまず報告が
なされ,それに対して各国が意見を述べ,それから,ほかの国の評価なども踏
まえて,最終的な評価が議論されるということである。このように,極めて有
機的でダイナミックなプロセスであるため,今回法務省が取り組まれている
が,ほかの省庁もいろいろ今回の審査の感触などを経て一部動き出していた
だいているところもあり,そういう取組というのは決して無駄にはならない
と思っている。
あとは,
評価が出てそれで終わりというわけではなくて,
極端な話一番よい
評価を得たとしても,フォローアップのプロセスというのがずっと続くわけ
であり,その中で制度の改善というのは継続的に行われていくということで
ある。その意味においても,これを一過性の試験のように捉えて,そこで
次まで何もしなくていいということでは決してない。今のような継続的な取
組というのを行っていただくということが極めてFATFとの関係でも有意
義であると考えている。
しろまる篠原商事課長 様々な御意見をいただいた。
この制度が導入され,
それでもう
おしまいというわけでは当然ない。将来を見越して課題はいろいろあると思
う。
阿部委員の述べられたアクセス権者拡大の関係であるとか,
あるいは片山
委員が外国法制に関して言及された強い規制の世界であるとか,そういった
様々なゴールがまだあるわけである。
今回は,
取りあえずこういった制度を開
始し,社会に働き掛けて,それにより,そういう規制を受け入れるような土壌
がもしできれば,
その後,
法律等の手当てをしていくというような歩みになっ
ていくのではないかと思っている。
そういった意味で,
今回実施する制度にと
らわれずに,将来的な課題までお示しいただけると非常に参考になると思っ
ている。
しろまる内藤委員 最初の会議のときに阿部委員が,最初の取引のときよりも2回目
以降の確認の際にこの証明書が有意義ではないかと述べていたように思う。
犯罪による収益の移転防止に関する法律にも最初の取引時に確認した本人特
定事項に変更があったかなかったかについての最新の情報を保つような措置
を取れというような条文があり,定期的にこういった証明書の交付を受ける
ということがあり得るかと思う。ただ,今回の制度では,法務局に保管された
この実質的支配者に関する情報について,
5年,
10年と内容に変更がない場
合にはその保管したままのものについて3年,
5年後,
10年後と同じ内容の 8証明書の発行を受けるようなことになるのか。
また,
それを特定事業者である
金融機関その他の事業者がそれを受け入れるようなことでよいのかという問
題意識もある。
しろまる篠原商事課長 金融機関がどのようなニーズに基づいて証明書を活用するの
かによると思っている。取引時点あるいは調査時点における最新の情報を知
りたいということであれば,過去の情報を参照するという必要性というのは
少なくなってくるかと考えているが,阿部委員の方がより適切なコメントを
していただけるのではと思うが,いかがか。
しろまる阿部委員 銀行では,取引の開始時における本人確認時において実質的支配
者の確認を行う。前回の研究会で申し上げたのは,取引開始後において,金融
庁のマネロンガイドラインでいう「継続的な顧客管理」を行うため,各銀行が
顧客のリスクに応じた頻度,影響を与える事象が発生した際に実質的支配者
の確認として,今回の実質的支配者情報証明書を活用することが重要になる
ということである。実質的支配者情報証明書は,取得したときに,前回の取引
開始時における実質的支配者から,現時点における実質的支配者にきちんと
更新され,
それが証明されているということで利用するのであれば,
非常に有
意義であると思う。
また,
証明書を何年ごとに確認するのかという点については,
個別銀行のマ
ネロン・テロ資金供与対策のやり方,リスクの評価の仕方も違うので,そこは
いろいろなバリエーションがあると考えている。
しろまる尾崎室長 継続的顧客管理がなぜ重要かということについて,追加で説明さ
せていただく。個人も法人も,銀行口座の名義人が,なりすましではないか,
乗っ取られていないか,
ということを継続的に確認する必要がある。
具体的に
は,個人の場合は当該個人,法人の場合は実施的支配者が,取引開始後におい
て,取引を開始したときに確認した本人や実質的支配者等から変更がないか,
反社会的勢力等が乗っ取っていないかということを確認する必要がある。そ
のため,取引開始時のみならず,定期的なチェックが必要となり,また,会社
の合併や買収等,形態が変わったというようなときは,その変化を捉えて,ど
ういう変化が起き,
実質的支配者が変更されていないのか,
その者に問題があ
るのかないのかということを確認することが必要になるのである。
しろまる竹下室長 阿部委員に質問であるが,
もし可能であれば,
資本多数決法人以外
の法人の実質的支配者の確認の実務について,
何か今現在,
定型的な書類によ
る確認の手法は確立しているのか,
それとも,
資本多数決法人以外の法人の確
認については,
そういった手法は確立していないというような状況なのか,この辺りについて御発言をお願いしたい。
しろまる阿部委員 「定型的」という言葉の意味にもよるが,例えば,合名会社や合同 9会社などの実質的支配者の確認に関しては,
その審査基準として,
25%を超
える配当・分配を受ける権利を有する者の確認というところから入る。
これは
会社の貸借対照表や損益計算書を見ながら確認することになる。
又は,
出資,
融資等により,
事業活動に支配的な影響力を有する者の確認を行う。
ここも,
融資額なり出資額なりを見ればいいので,書面による確認が可能ではある。
これらの審査だけでは実質的支配者の確認ができない場合には,次のステ
ップとして,法人を代表して業務を執行する者の確認を行うことになる。
このようにみると,合同会社等においても一定の形式的な書面による審査
は可能であると思う。
ただし,
株式会社の場合の株主名簿によるチェックと比
べると,実質的な審査の要素が若干多いと思われる。
全銀協としては,
実質的支配者情報証明書が,
限られた対象だけではなく,
将来的な課題として,
資本多数決法人以外の法人についても対象を広げて,実質的審査まで行っていただくことが望ましいと考える。
しろまる篠原商事課長 今回の制度については,株式会社と特例有限会社を対象にし
て審査を登記所において行うということを考えている。
今回は,
形式的審査に
よらざるを得ないということで,資本多数決法人を対象にし,株式会社,特例
有限会社に限定しているところである。今,阿部委員から御紹介があった合同
会社については,
定型的ではないが,
書面で審査するという意味での形式的審
査には何とか耐え得るのではないかという御発言,
御趣旨と受け止めたが,やはり多数の申請会社について,一律に処理を迅速にやっていくというような
事務の形態を考えると,
添付書類として決められたものについて,
それを形式
的に審査するというやり方でないと,なかなか事務が回らないのかなという
ところが心配である。
そういった意味で,
実質的審査の必要な部分については,
登記所以外のアプローチによって御判断を頂いて,制度全体としてマネロン
の防止といったものを図っていければよいのかなという認識でいるところで
ある。
しろまる岩原座長 御趣旨はよく分かるが,
一方で,
合同会社は最近かなり数も増えて
いるし,このままでいいのかという問題はやはりあるのではないか。
しろまる篠原商事課長 そのような問題意識は,当然,共有させていただいている。事
務のやり方,あるいは,この実績等を踏まえて,是非検討していくテーマだろ
うと思っている。
しろまる岩原座長 次に,
二つ目の論点,
申告された法人の実質的支配者情報の正確性
確保の方法及び証明書の書式について,御議論いただきたい。
まず,事務当局から説明いただきたい。
しろまる福永局付 私の説明も前回から修正等がある事項について説明する。 10まず,申請時の添付書面について,前回は,株主名簿の写しと申告受理及び
認証証明書又は法人税確定申告書別表二の明細書の提出を求める案1と,第
三者の証明付きの株主名簿の提出を求める案2という形で二つの案を提示し
ていたが,前回の議論を踏まえて,案2については,実効性や実現可能性とい
うところに問題があるのではないかと考え,他方で,案1の方は,現行ベース
のシステムにも近いといった御発言もあり,
今回は,
案1に絞るという案を提
示することとしたい。
また,案1の中についても,更に修正の提案をすることとしたい。それは,
間接保有型についてであり,
前回の案では,
上位会社の協力が得られない場合
に,株主名簿記載事項を記載した書面の提出を求めるという提案をしていた。
すなわち,いわゆる間接保有型で,上位会社の協力が得られないで,上位会社
の株主名簿の写しや法人税の確定申告書別表等が添付できない場合に,この
株主名簿記載事項を記載した書面を添付書面として添付してはどうかという
提案をしていた。
しかし,
委員の方々から御指摘を頂き,
間接保有型の場合に上位会社の協力
が得られない場合には,上位会社を実質的支配者が支配しているという状況
にあることを考えると,実質的支配者が上位会社に対してこういった株主名
簿記載事項を記載した書面を請求することも考え難いと思われ,これをあえ
て記載するべきではないであろうという考えから,今回の提案には含めない
こととした。
代わりに,
上位会社や実質的支配者から協力が得られずに,
上位会社の株主
名簿の写しや法人税の確定申告書別表等の添付が困難な場合に,どうするか
という問題提起をした。
また,
添付書面について様々なものが想定されるが,
そういったものについ
て類型化が可能であるかという論点もあるかと考えている。
さらに,
実質的支配者の実在性等を証する書面として,
実質的支配者の身分
証明書,
免許証の写し等の添付を考えているが,
実質的支配者の協力が得られ
ずに,
写真付きの本人確認書類の添付するのが困難な場合に,
どうするかとい
った論点もあるかと考えている。
真実性確保の仕組みに関する論点としては,
前回議論になった,
過料の制裁
が考えられるというところであるが,実際にどうやって過料を科すのかとい
うところが論点である。
法人が株主名簿に虚偽の記載をして,
虚偽のBO情報
を申告した場合に,誰が,前回の議論の言葉を用いれば,トリガーを引くのか
といったところが,論点としてあろうかと考えている。
最後に法人の実質的支配者情報一覧,すなわち申請人が提出することとな
る実質的支配者情報の申告書の書式について説明したい。 11この書式については,
現在,
公証人が定款認証をする際に嘱託人に実質的支
配者の申告を求めており,その申告書の書式をたたき台にして作成したもの
になっている。ただし,制度が異なるので,その点で修正を加えている。
概要を順に説明すると,実質的支配者というのは株式の譲渡等により日々
替わり得るものであるので,いつの時点での実質的支配者かということを明
らかにするという意味で,冒頭で,
「以下の情報は,〇年〇月〇日時点の実質
的支配者情報である」との記載をするものとしている。
次に,
実質的支配者の該当事由を記載することとしており,
今回の制度では,
50%超か25%超という二つの類型のいずれかを証明することになるので,
そのどちらかを記載するものとしている。
それから,実質的支配者の本人特定事項ということで,住居,氏名,国籍,
性別等を記載することにしている。また,議決権割合を記載する際に,間接保
有型であるかどうかについても記載することとしており,間接保有型である
ということを申告した場合には,別紙に支配関係図を記載することを提案を
した。
銀行実務でも,
支配関係図を記載させている場合もあると伺っており,
そういったものに対応できるようにという趣旨である。
さらに,
実質的支配者の該当性の添付書面が何か,
すなわちどういった書面
で確認しているかを記載するものとしており,株主名簿等を記載することと
なる。
また,
実質的支配者の本人確認書類についても,
どういった書面で確認して
いるかを記載するものとしており,
免許証,
マイナンバーカード等を記載する
こととなる。
しろまる岩原座長 それでは,どなたからでも,自由に御発言いただきたい。
しろまる阿部委員 今の御説明いただいた申請時の添付書面に関して,間接保有と直
接保有いずれの場合も,実質的支配者を証する書面の提出の協力を得られな
かった場合にどうなるのか。
現行の銀行実務では,
ハイリスク先からの申告と
いう方法の中での手続であるが,
今回の制度では,
添付書面の提出は必須とな
るのか。
その上で,
添付書面,
例えば株主名簿や実質的支配者の実在性を証する免許
証等の書類の提出が得られなかった場合には,法務局は実質的支配者情報証
明書を発行しないという理解でよろしいか。
しろまる竹下室長 法務局における一般的な証明書交付の手続の仕組みを考えると,
法令で添付書面を定め,それが欠けている場合には当該申請は却下されると
いうことになる。そこで,厳格に添付書面を定めれば,それがなければ証明書
を出せないということになるし,
逆に言えば,
ある程度緩く添付書面の規定を
定めておけば,
それは証明書が出せるということになってくる。
どこまで厳格 12に添付書面を求めるのか,実質的支配者該当性の確認と本人確認のそれぞれ
あるが,
どこまで厳格に求めるべきなのかというのは,
これはやはりFATF
の評価や,
金融庁から見てどれぐらい正確なものにすることによって,
その信
頼性が上がるのかという辺りのバランスかと思う。その辺りについて金融庁
の方でも何かお考えなどあれば,お聞かせいただきたい。
しろまる尾崎室長 先ほど,
財務省の野田管理官からも説明があったが,
FATFの対
日相互審査の中で,
ここが評価にどうつながるかというのは,
明確には申し上
げられないが,
制度として実質的支配者の確認手段が増えるというのは,
肯定
的に評価されるであろう。また,制度として存在しているかという点と,その
制度がしっかりと有効に機能しているかという点の両者がポイントになるので,有効に機能しているかという点に関して,
実務の面で書式がどのようにF
ATFの評価に影響するかについては,
正直に申し上げて,
コメントしづらい。
むしろ大事なのは,法務局にとっても金融機関等にとっても運用しやすい
形で,過度に負担を掛けず,かつ,金融機関が利用している実態を我々がモニ
タリングするに当たってチェックしやすいという,利用者,法務局,事業者と
いう関係者が,
運用しやすいように,
余り細かくなり過ぎないようにするとい
うのは,一つの着眼点としてあり得ると思う。
株式の保有形態については,
これは重要な部分であるので,
現在の案のとお
り,申告書別紙の支配関係図などはあった方がよいと思う。
結局,
どこまで突き詰めれば完璧なものになるかというと,
ここはなかなか
難しいものがあり,
これは,
冒頭申し上げたとおりいろいろな情報を統合的に
判断するしかないというものであり,その中でできるだけ確度が高いものを
追求する中で,ここまでやればいいというのがなかなかないというものであ
る。したがって,利便性ということ,煩雑になり過ぎない簡潔さということ,
それから実質的に最低限のものが入っているということ,これらの三点を考
慮すべきではないかというのが私のコメントである。
しろまる内藤委員 現在,公証人が定款認証の場面で実質的支配者に関して申告を受
けているが,公証人の場合は,ある意味,実質的支配者の根拠資料が分からな
い場合には,
実質的審査を行った上で,
最終的にはその新しく作る会社を代表
して業務を執行する者を実質的支配者ということで申告を受けるという,あ
る意味で受け皿のようなものがあるが,今回の実質的支配者情報証明書の場
合には,
飽くまで形式的審査ということもあって,
そのような受け皿が用意さ
れてないので,根拠資料からぎりぎり実質的支配者を認定する,あるいは,で
きなかったらもう証明書が出せないという,どちらかということになってい
くかと思う。そういった意味では,ある意味,使いにくい部分もあるのかなと
いう感想を持っている。 13しろまる尾崎室長 添付書面の点については,実際の実務に即して,今後,継続検討を
していただく方がいいのかなと思う。
というのは,
証明書が出せないというこ
とが,
金融機関にとってはすごくネガティブ情報に伝わって,
それがお客様の
評価に対して非常にネガティブになってしまうという可能性も考えられる。
金融機関がいろいろな情報を総合的に判断するということで,
「出せない=実
質的支配者が確認できない」ととらわれないように,言ってみれば,ある程度
幅を持った形の方がよいのではないか。
しろまる岩原座長 他の論点でもいかがか。
しろまる阿部委員 前回の研究会では,
添付書面による真実性の確保ということで,添付書類の虚偽記載について,
過料の制裁が科されるトリガーとして,
銀行が証
明書の内容をみて,不審事項を発見した場合に法務局に連絡をするという考
え方が示されていた。
この点については,全銀協で議論したが,銀行は,法務局が発効する実質的
支配者情報証明書を信頼に足る証跡として利用するので,それについて虚偽
があるかないかというチェックをするということは想定していない。
また,申請の時点で銀行にはお客様の実質的支配者の内容を判断する情報もないので,
銀行が証明書の内容の真偽を確認することはできず,銀行が法務局へ連絡す
る手続は困難との意見である。
しろまる岩原座長 となると,実際上,過料のトリガーを引く人は誰になるのか。
しろまる竹下室長 今の議論に関して,前回議論のあったトリガーを誰が引くかとい
うところについて,
通常,
銀行の方ではトリガーを引くことはできないという
ことであるが,ただ,事案によっては,例えば,社会の耳目を集めるような事
案において,詐欺などいろいろな問題生じている中で,その過程において,例
えば証明書を取得するために虚偽の株主名簿が提出されていたというような
事実が明るみになってきたような事案においては,個別に銀行なり他の機関
なりに協力していただいて,
法務局にそういた資料が集まって,
法務局から最
終的には裁判所に通知するということもあり得ると思う。
そこで,
一般的な取決めとしては難しくても,
事案によってはそういうこと
はあり得るところであり,そこまで否定されるものではないのかなと理解し
ている。
そういった意味では,
この過料が発動する余地が全くないということ
ではないのではないかと考えている次第である。
しろまる岩原座長 過料を裁判所が科すというのは,実際には法務局からの連絡を受
けてということになっているのか。
しろまる竹下室長 過料の裁判は,法務局からの通知がなければできないということ
になっているわけではないが,実際上は何らかの契機がないと裁判所の職権
での手続が始まらないと思う。今回の証明書を取得する過程で虚偽の株主名 14簿が提出された場合に関しても,裁判所にそういった通知をするきっかけが
あるとすれば,恐らく今の実務を前提とすると法務局が一番考えられるので
はないかなと思うが,ほかの選択肢も制度上できないということではないの
ではないかとは思う。
しろまる岩原座長 他の点に関してでも,何か御意見はあるか。
しろまる加藤委員 今回の制度における,
添付書面として想定されている,
実質的支配
者本人の実在性,
本人特定事項を証する書面というのは,
現在の金融機関の実
務では,徴収されていない書面という理解でよろしいか。
しろまる阿部委員 現行の銀行実務では,ハイリスク取引で求められる場面はあると
思うが,
申告ベースの扱いであり,
確実に提出されているわけではないと認識
している。
しろまる加藤委員 それは,
本人の実在性を証明する公的な書類は,
別に犯罪による収
益の移転防止に関する法律上要求されているわけではないということか。そ
れは,リスクに応じて要求するかどうかを金融機関側が判断すればよいとい
う,そういう構造ということか。
しろまる阿部委員 法令上のハイリスク先から申告を受ける建て付けの中で確認する
というものであり,必須なものとして書面の提出を受ける手続にはなっては
いない。
しろまる加藤委員 そうすると,
今後,
実質的支配者情報証明書を利用する人たちのこ
とを考えた場合に,これまでは実質的支配者本人の実在性の証明書とかを出
さなくてよかった,出さなくても金融機関と取引できたような人も出さない
と使えなくなるというわけか。
しろまる竹下室長 もし厳格に求めるとすると,
加藤委員の述べたように,
その書面を
提出できる者のみについて証明書を出すということになるので,今までの事
件の一部のみが証明書交付の対象になるということになるし,
また,
先ほど金
融庁から継続的に検討したらよいのではないかという提案があったが,これ
をもっと緩めていけば,
その対象は広がっていき,
現在の実務に近づいていく
ということで,
最終的に,
この本人確認の添付書類についてどういうふうに規
定するのか,求めるのかについては,今後の検討判断によるのかなと思う。
しろまる尾崎室長 ここは今後の検討課題で,今,竹下室長からもあったとおりだと思
うが,
現状でも,
例えば実質支配者の本人特定事項を証明する確証を取るとい
うような形で,
私どもガイドラインには書いてあるが,
ここはパブコメに対す
るコメントでも,
一律にこの書類がなければ駄目だとは書いておらず,
ある程
度幅を持たせた形で,
運用しやすい形にしている。
というのは,
これがないと,
銀行で口座開設ができないというようなことをガイドラインで定めてしまうと,過度に金融取引から利用者を排除するとなってもいけないので,
そこはあ 15る程度幅を持たせるということの観点の考慮も必要だということだと思う。
そもそも,
こういった証明書が出せなかったことをもって,
口座が開けない,
取引ができないとするのではなくて,金融機関側から見た場合のお客様のリ
スク評価をする際の材料として捉えるべき情報になると考える。
例えば,
実質
支配者について口頭で説明はできるものの,確証となるエビデンスが出せな
い,という状況において,一律に取引謝絶をするのではなく,取引はするのだ
けれども,これはよく注意して取引を継続していく高リスク先として捉えな
ければいけないというリスクベース・アプローチの考え方を適用すべきであ
り,オール・オア・ナッシングではなく,リスクに応じた対応をしていくとい
う考え方が重要であると考える。
しろまる岩原座長 三つ目のテーマである,
顧客の理解促進,
想定される証明書の通数,
集積したデータの管理・活用など,
長期的な課題について御議論いただきたい。
まず,事務当局から,説明いただきたい。
しろまる竹下室長 前回の議論を踏まえ,
今回新たに論点とする,
顧客の理解促進につ
いて説明させていただきたい。
まず,
本制度を利用した法人について,
金融機関以外の取引相手との関係で
も当該法人の信頼性が向上するというメリットが考えられ,これにより顧客
の制度利用に関する理解が進むと考えられる。制度を利用した法人については,「法人の実質的支配者情報一覧」が保管されている旨が登記簿に記録され
るため,
金融機関以外の取引相手からも,
実質的支配者情報証明書を提出する
ことができる透明性の高い法人であると認識され,信頼性が向上すると考え
られる。
次に,
実質的支配者情報証明書が,
我が国における実質的支配者把握の仕組
み全体の中で適切に位置付けられることにより,顧客の理解が促進すると考
えられ,この点については,また金融庁の御意見もお伺いしたいと思う。
最後に,実質的支配者情報証明書の活用の際の顧客への適切な働き掛けに
より顧客の理解が促進すると考えられる。顧客への適切な働き掛けというの
は,金融機関,法務局,金融庁などが,総合的な取組として顧客の理解を促進
していくという趣旨である。
しろまる岩原座長 ただいま,金融庁の方の御見解を伺いたいということであったが
いかがか。
しろまる尾崎室長 顧客の理解促進というのは実は非常に重要な部分であり,私ども
もリスクベース・アプローチによるマネーローンダリング対策というのを行
っているが,やはり利用者から見たとき,今まで聞かれていなかったのに,な
ぜ最近,
銀行からこういう追加確認資料を求めるのか,
実質的支配者の確認資 16料を求めるのかといった声があることも事実である。
そこで,
やはりここは利
用者や国民の皆様の理解を求めるということを私どもとしてもやっていく必
要があるので,実際,政府広報等も活用しながら,全銀協とも,日証協といっ
た業界団体とも提携して,
マネーローンダリングの取組に関して,
なぜ金融機
関,銀行等がこういうことをしているのかということを理解していただくと
いうこと,
一般の国民の皆様に向けて行う広報ということをやっている。
引き
続きそういった中に今回の制度も入れていくということは一つあるのかなと
思う。
それから二つ目であるが,
事業者,
法人の顧客から見た場合のインセンティ
ブについては,
やはりこれは法務局で認証を取って,
それを金融機関に出して,
それによって実質支配者の説明をするということは,金融機関側からも情報
が増えるということで歓迎されることだと思うので,金融機関側からお客様
に対してしっかりと説明していくということが必要である。
ただ,
ここで私どもが1点注意しておきたいのは,
今回のこの制度が将来導
入されたとして,
それだけをもってして,
実質的支配者を法務局から認証をも
らった,それが全てだと,これだけだと言われてしまうと,それはどうなのか
なという点は留意する必要があると思う。
というのは,
正確性の担保について
は,冒頭申し上げたとおり,100%確かな確証というものは,ほかの国を見
てもない。実務的の実効性の観点からは,それだけではなくて,やはり引き続
き法人税申告の別表2であるとか,
株主名簿であるとか,
こういったものや,
実際に今実務で使われている第三者のリサーチ会社のデータ,そういったも
のも活用しながら総合的に判断していくというところはしっかりと理解を進
めていっていきたいと思っている。
しろまる岩原座長 皆様からいかがか。
しろまる阿部委員 今回の実質的支配者情報証明書制度について,実質的支配者の確
認の信頼性向上の役割を果たすことを期待している。
一方で,
マネロン対策について,
お客様の理解を十分にいただくことはなか
なか難しいというのが現状である。日々,お客様からは,
「私はマネロンに関
係ないのに,
なぜこのような書面を提出しなければならないのか」
といった類
の苦情相談が,全銀協,個別銀行の窓口に寄せられている。全銀協も従来,マ
ネロン防止に係るお客様への周知啓蒙を,
テレビCMや新聞広告など,
いろい
ろと行っているが,十分ではなく,継続していきたいと思っている。今回の制
度についても,官民一体となってお客様に対して丁寧に周知していくことが
大切であり,お互いに協力していきたいと思っている。
また,金融機関が,本制度についてお客様への説明,理解をすすめていく上
では,
金融庁のマネロンガイドラインにおいて,
今回の実質的支配者情報証明 17書の位置付け等を含めて手当ていただけると,金融機関のお客様への説明も
しやすくなるかと思うので検討いただきたい。
しろまる岩原座長 尾崎室長から今の点についていかがか。
しろまる尾崎室長 金融庁のマネロンガイドラインについては,
2018年の2月,リスクベース・アプローチに基づく AML/CFT 管理のガイドラインということで
作成・公表され,
その後,
2019年の4月に一度改訂しているが,
引き続き,
必要に応じて定期的に改訂していくことは当然であるので,次回の改訂やパ
ブコメへの回答という形で,
将来的に金融機関の皆様にも理解しやすく,
また,
金融機関の方から利用者の方に説明しやすいような形で示せるようにしたい
と考えている。今後,検討させていただきたい。
しろまる岩原座長 ほかにいかがか。
しろまる内藤委員 私は司法書士の立場で,公証人の定款認証の場面で実質的支配者
の申告に携わっているが,
実際,
実質的支配者についての考え方などを依頼者
である発起人などに説明して理解してもらった上で,実質的支配者というの
は誰かというような申述を受けるのであるが,やはり一般の方は全く御存じ
ないということもあり,これはかなり積極的に,かつ丁寧に周知,理解を広め
るための活動を,この証明書の制度を始めるに当たってはやっていく必要が
あるのではないかと思う。実際に,株主に外国会社がいたり,上位株主が複数
いるようなケースというときには,かなり実質的支配者に関する判断も難し
いという場面もあるので,新しい制度については丁寧に周知していく必要が
あると思う。
しろまる岩原座長 ほかにいかがか。
しろまる片山委員 長期的な課題について,コメントをさせていただきたい。
今回の制度の展開としては,篠原課長から,今回小さく産んでおいて,国民
の理解を得ながら,
これを大きく育てていきたいというお話があったが,
法務
省から説明があった欧米各国の制度と比較すると,今回の制度を導入しても,
イギリス,ドイツ,フランスと比べると,まだまだかなりの違いがある。
私の方から2点ほどコメントさせていただきたい。
まず1点目は,
間接保有
の形態で,上位会社の協力が得られない場合にどうするかが問題になってい
るが,
冒頭のコメントでも申し上げたが,
海外ではそういう場合には上位会社
の議決権の行使を制限するといったような,かなりドラスティックなことを
やっている国もあると理解している。いきなりそういったことができないと
しても,もともとUBOというのは,本来は,英語で言うとアルティメット・
ベネフィシャル・オーナーということで,上位会社が法人であれば,その法人
はBOではなく,最終的に個人まで行き着かなければならない。そこで,上位
会社の協力がなければこれでおしまいということでは不十分であり,個人ま 18で何とか行き着けるような方法を将来的にはとらなければならないと思った。
あともう1点が,
情報へのアクセスに関して,
阿部委員からのコメントにも
あったが,
アクセスの範囲をもう少し広げられないかと思っている。
それとの
関係でいうと,
開示される情報の範囲との関係なのではないかと捉えた。
法務
省の説明した外国法制によると,イギリスなどでは住所以外の情報は何人も
アクセスすることができるとのことで,アクセスすることができる情報の中
に住所が入っていない。恐らくこれらの国では個人の住所というものはかな
りプライベートな情報であると考えられているのだと思う。どこまでの範囲
の情報にアクセス可能にするかということを考えることによって,アクセス
することができる者の範囲を広くすることも可能ではないかと考えた。
しろまる岩原座長 大変根本的な御指摘いただいたが,ほかにいかがか。
しろまる尾崎室長 片山委員の御指摘は,
非常に興味深い。
実際に海外に行って実務を
見ると,UBO,最終的なアルティメット・ベネフィシャル・オーナー,自然
人まで行くということとし,かつ,その自然人のID,身分証明書を取るとい
うところまで,
かなり厳しく行っている国もあり,
そういったところでは非常
に時間がかかったり,手続が細かくなる。また,中東の国などでは,王族関係
の身分証明書は取れないなどの例外扱いも増えてくるようである。非常にコ
ストがかかる部分でもあるので,
そのメリット・デメリットをこれからもう少
し議論しながら制度設計,法制度設計を作り上げていくということが有益で
はないかと思う。
しろまる岩原座長 ほかにいかがか。
しろまる角田委員 別の観点からの追加コメントをさせていただきたい。ドイツでは,
実質的支配者の登録機関を名乗ったフェイクメールが随分出回って,社会問
題になったようである。
今回導入しようとしている制度は,
そのような弊害を
生じさせない形でスタートが期待できるようにしていただきたい。
しろまる尾崎室長 実は,
各金融機関が,
金融庁マネロンガイドラインに沿って継続的
な顧客管理の中で,お客様の属性データの更新等をお願いする依頼書をお客
様に郵便でお送りしたりするケースがあるが,
金融機関等から聞くと,
お客様
から,これは本当に銀行から来たのか,これは詐欺の一種ではないか,ここに
電話して身分証明書を送ると逆に悪用されるのではないかというような照会
があるというような,
本当に困った話もある。
正に角田委員御指摘の点には十
分留意しながら,
政府広報とか周知活動,
アウトリーチをしていく必要がある
と思う。
しろまる岩原座長 ほかに特にないか。
それでは,根本論を言えば,欧州各国の制度等を比較すると,より根本的な
制度改正も考えなければならないのかもしれないが,それは法改正も必要に 19なってくるということで,今後更に検討が必要ということかと思う。
今回の諮問で指摘されている三つの課題のほかに,この会で議論すべきこ
と,その他この機会に発言しておきたいということがあれば御発言いただき
たい。
しろまる野田管理官 先程来,
アウトリーチという話が出ているが,
これはFATFの
審査との関係でも非常に重要なものとなってくる。今回の4次審査からIO
といった項目が加えられている。
要するに,
これは法制度をどう設計している
かだけではなく,
その実態,
きちんと運用されているかということを独自の基
準として定めて,
その観点から見るということになっている。
仏造って魂入れ
ずのように,
制度だけ作ったが,
それが民間で余り有効な形で実施されていな
いというと,全体の評価を引き下げてしまう。結局,官民が一つの制度を作っ
た場合,
それに対してきちんと共通の理解をし,
利用者にも浸透しているとい
うことが極めて重要になる。
もう一点,脚注の脚注で申し訳ないが,結局,何をもってして合格点が与え
られる制度設計になるのかということに関して,
結局,
FATFが一種のグロ
ーバルスタンダードというのを設定して目指していくという,その取組であ
ることと同時に,やはり各国それぞれ状況も違う。リスクの評価,ビジネスの
効率性やプライバシー等の要請に関する重きの置き方などは,各国によって
は様々である。その中で,何が最適かということであるので,一意的にここま
でやればもう合格という,
そのものが定まっているわけではない。
そこで我々
だけはなく,
各国も悩みながら施策を進めており,
正にこういう場で議論させ
ていただければと思っている。

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