刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析
研究報告書
令和2年3月
法務省矯正局成人矯正課
法務省矯正研修所効果検証センター
目 次
1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
2 方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 11 はじめに
刑事施設における性犯罪再犯防止指導(以下「指導」という。
)は,性犯罪
の要因となる認知の偏り,
自己統制力の不足等がある者を対象とし,
自己の問
題性を認識させ,
その改善を図るとともに,
再犯をしないための具体的な方法
を習得させることを目標として実施しており,これ以上被害者を生まないこ
とを目指している。
指導に当たっては,
効果的な犯罪者処遇の原則に従って実施するため,
専門
的な性犯罪者調査を行い,
対象者の性犯罪の再犯リスクや,
性犯罪につながる
問題性の内容・程度
(処遇によって再犯リスクの低下につながると考えられる
処遇ニーズ)を判定している。その結果に基づき,対象者が受講すべき指導の
密度が判断され,処遇適合性(対象者の知的能力,動機付けの度合い及び身体
的・精神的問題の有無等のプログラムの受講適性)が考慮された上で,受講さ
せるプログラム,時期等について処遇計画が立てられる。
指導の密度は,高密度,中密度及び低密度があり,1 回 100 分のグループワ
ークを,高密度は標準週 2 回 9 か月間,中密度は標準週 2 回 7 か月間,低密
度は標準週 1 回 4 か月間実施している。また,グループワークのほか,個別に
取り組む課題があり,必要に応じ,個別指導も並行して行っている。
こうした指導は,再犯抑止に関する効果が実証されている海外の性犯罪者
処遇プログラムを参考にして策定され,平成 18 年度から導入されているもの
であるところ,その効果の検証については,平成 24 年に「刑事施設における
性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析」
(以下「平成 24 年報
告」という。
)として公表した。この分析においては,指導を受講した者は受
講していない者と比較して再犯率が低く,一定の効果が上がっているものと
考えられた。
その一方で,
再犯の内容等によっては,
再犯率に差はみられるが,
効果について統計的に実証できなかったことなどから,逸脱した性的関心へ
のより効果的な介入,迷惑行為防止条例違反事犯者に対する効果的なプログ
ラムの開発,
個々の受刑者の処遇ニーズに対する介入の在り方,
社会内でのフ
ォローアップ等が課題であるとされた。
この効果検証の結果を踏まえつつ,指導の再犯抑止効果を着実に高めてい
くため,受講期間が十分に確保できない者を対象に中心的指導内容を実施す
る集中プログラムを新たに開始したほか,多様かつ複雑な受刑者個々の問題
性に応じ,指導者が効果的な指導を行うことができるよう,研修の充実化,外
部の専門家による助言等により,指導者育成を図るなどしてきた。
本調査報告は,このようにして充実化を図ってきた指導の効果,つまり,指
導の受講は,受講者が地域社会に釈放された後の再犯の減少につながるかど 2うかについて,改めて,実証的に調査・分析を行ったものである。
なお,
指導の効果の検証においては,
無作為比較対照実験が最善の手法であ
るとされているところ,改善指導の受講は受刑者に義務付けられていることや,指導が必要とされる者に受講させないことの刑事政策上・倫理上の問題から,そうした研究デザインを採用することは極めて困難であった。
そのため,
後述するとおり,平成 24 年報告の効果検証におけるそれよりも厳しい条件で
受講群と比較対照群を設定するなど,比較する各群の同質性を可能な限り担
保した上で分析を行っているものの,
既述の方法論上の制約から,
本分析結果
の精度については一定の限界があることを付言する。
2 方法
(1)分析対象者及びデータ
以下の手順で分析対象データ 1,768 名分を抽出した。
ア 平成 24 年 1 月 1 日から平成 26 年 12 月 31 日までの間に刑事施設を出
所した者のうち,性犯罪者調査1
におけるリスク及びニーズ調査により,
指導を受講することが必要とされた者は 2,010 名であった。
このうち,上記期間中に複数回受刑している者については 1 回目の受刑に係るデータ
を採用し,同期間中における 2 回目以降の受刑に係るデータ(28 件)を
除外したほか,データの一部にそごが認められたもの(2 件)を除外し,
1,980 名のデータを抽出した。1性犯罪者調査は,下記の(1)に該当する者のうち,
(2)又は(3)に該当し,
(4)の除外
事由がない者に対して実施しており,性犯罪の再犯リスクに関する「リスク調査」
,性犯罪につ
ながる問題性の内容や程度に関する「ニーズ調査」
,受講すべき指導の密度や受講が困難又は不
適当と認められる事情の有無について判定を行い,指導の実施時期や移送計画について決定す
る「処遇適合性調査」からなる。
(1)接触型の性犯罪を起こしている者
1本件罪名が性犯罪(強制わいせつ,強姦又は強制性交等,強盗強姦又は強盗・強制性交
等,監護者わいせつ及び監護者性交等,わいせつ目的略取。いずれも未遂,致死傷,準〜,
集団〜等を含む。
)に該当する者のほか,罪名にかかわらず,本件がわいせつ目的であった
ことがうかがえる者(原則として,被害者に手を触れない態様のものは除く。),2本件は1
に該当しないが,過去に下記(3)に該当する重大な性犯罪・性非行を起こしている者
(2)性犯罪を繰り返している者
公的機関に係属したか否かを問わず,前記(1)の1に該当する性犯罪を繰り返している者(3)重大な性犯罪を起こしている者
性犯罪被害者に 13 歳未満の者が含まれている者,性犯罪被害者を死亡させたり瀕死の重
傷を負わせたりした者,大々的に報道されたような特異性や残忍性などが際立っている犯
罪・性非行を起こした者
(4)調査除外事由
女性,刑期不足,身体的特徴・精神的特徴・日本語能力・知的能力等により通常の面接調
査が実施できない場合,その他調査に不適合な事情が認められる場合 3イ 上記アの手続により抽出された者について,
「受講群」と「比較対照群」
の割当てを行った。
まず,出所までに指導を受講した 1,444 名を「受講群」とした。ここに
は,受講開始後に途中離脱した者も含めている。指導は,性犯罪者調査に
より受講対象とされた者に対して実施しているところ,実際上の指導の
効果を評価するためには,受講対象とされた者の中から実際に生じる途
中離脱者も含めて分析することが適当であるという考え方によるもので
あり,出席率にかかわらず除外せずに受講群とした。
一方,指導を受講せずに出所した者は 536 名であったが,指導の効果
を検証する上では,受講群と比較対照群の同質性を可能な限り確保する
必要があるため,処遇適合性調査において,次の(ア)の理由により受講
不可となった者及び受講対象とされたものの受講に至らなかった次の
(イ)の者 212 名を除外し,324 名を「比較対照群」とした。
(ア)処遇適合性調査における受講不可の理由による除外
a 精神疾患等(25 名)
精神疾患や精神疾患様の症状により,グループ指導が困難である
とされた者
b 能力上の不適合(64 名)
書字力や読字力に支障があり,指導内容の理解やワークブックの
記載等に困難が生じるおそれが極めて高く,個別の対応により補助
したとしても,グループ指導の受講に困難が予想されるとされた者
c 動機付け上の不適合(61 名)
自らの性行動に関する問題を全く認めず,指導を拒む態度が著し
い場合,
衝動性や攻撃性が非常に高い場合,
利己的な要求を繰り返し
て処遇が困難な場合等,グループに編入すれば指導の場が機能しな
くなることが予想された者
d その他(25 名)
反則行為,
自殺自傷,
保護室収容等を繰り返している等の理由から,
グループ指導が困難とされた者
(イ)受講対象となったものの受講に至らなかった者(37 名)
受講対象者となったが,
心情が不安定である,
反則行為を繰り返して
いる,受講への動機付けが著しく低下した等のやむを得ない理由で受
講させるに至らなかった者
(2)再犯に係る情報の把握
刑事施設を出所した者のうち,直近の前刑罪名が性犯罪(
(準)強制わい 4せつ,
(準)強姦又は強制性交等,強盗強姦又は強盗・強制性交等,集団強
姦,監護者わいせつ及び監護者性交等,わいせつ誘拐等。いずれも未遂,致
死傷を含む。
)やわいせつ目的の接触型の犯罪(殺人,傷害など被害者と身
体的な接触があるもの)に該当する者等であって当省矯正局が対象者とし
て指定した者については,
当省刑事局から検察官が事件処理をした再犯(交通事件のみの場合を除く。
)に係る情報が提供される2
ことになっており,当
該情報を基に調査・分析を行った。
(3)再犯の定義
当省刑事局から提供される情報は,事件処理の区分が「公判請求」,「略式
請求」,「即決裁判請求」,「起訴猶予」,「親告罪による告訴の取消し」,「中止」,「その他」の七つに分類されているところ,本調査報告においては,このう
ち起訴処分に該当する「公判請求」,「略式請求」,「即決裁判請求」を再犯情
報として扱った。
その上で,犯行年月日が出所後から 3 年以内の事件を再犯とし,次のア
のとおり分類の上,
予後観察期間を次のイのとおり定義して,
各分析対象者
の再犯状況を特定した。
ア 再犯の分類
(ア)全再犯
出所後に検察庁において起訴の処理がなされた再犯
(全罪種)
のうち,
犯行年月日が最も早いもの
(イ)性犯罪再犯
出所後に検察庁において起訴の処理がなされた性犯罪3
の再犯のうち,
犯行年月日が最も早いもの
イ 予後観察期間
(再犯ありの場合)
該当の再犯に係る犯行年月日-出所年月日+12平成 19 年 7 月 3 日付け法務省矯成第 4023 号矯正局成人矯正課長通知
「性犯罪者処遇プログラ
ム効果検証のための追跡調査の実施について」
(最終改正平成 29 年 7 月 10 日)に基づく情報提供3
性犯罪再犯を判定するに当たって,再犯の罪名を,
「1:強姦」,「2:強制わいせつ」,「3:わい
せつ目的」
(わいせつ目的略取・誘拐),「4:各都道府県の迷惑行為防止条例違反」,「5:その他
性犯罪(児童福祉法違反や青少年保護育成条例違反等)」,
「6:性犯罪以外の粗暴事犯」,「7:そ
の他の罪名」の七つに分類(複数該当する場合は若い番号に分類)した上で,1 から 5 をまとめ
て「性犯罪」とした。3(1)アにおける罪名分類についても同様である。
なお,平成 29 年 7 月に刑法が改正され「強姦罪」が「強制性交等罪」に変更となり,
「監護者
わいせつ罪」及び「監護者性交等罪」が新設されたが,分析対象者は改正前に刑事施設に入出所
した者であることから「強姦」及び「強制わいせつ」の名称を使用している。 5(該当の再犯なしの場合)
一律 1,095 日(3 年間)
(4)分析方法
属性等の群間比較には対応のない t 検定を,再犯率のほか,罪名別及び
犯罪傾向の進度別の人数並びにアセスメント項目等に該当する人数の比較
にはχ二乗検定を用いた。
指導の効果の検証に当たっては,全再犯又は性犯罪再犯の有無を状態変
数,予後観察期間を生存変数,受講の有無(受講あり=1,受講なし=0)及
びRAT得点4
を共変量としたCoxの比例ハザードモデルを用いた。
また,
RAT得点の予測妥当性の確認にはロジスティック回帰分析を用いた。
有意水準は 5%として分析を行った。
なお,全ての統計解析はIBM社の統計ソフト(SPSS Statistics 23)を
使用して行った。
3 結果
(1)基礎統計
ア 受刑に係る罪名
受刑に係る罪名別の人数を表1に示す。
受講群と比較対照群における受刑に係る罪名別の人数の差は,統計的
に有意であり,
受講群において強姦及び強制わいせつが多く,
比較対照群
において迷惑行為防止条例違反及びその他の罪名が多かった。
イ 犯罪傾向の進度4RATは Risk Assessment Tool の略であり,Static-99(Hanson,Thornton,2000)を参考に当
省矯正局成人矯正課において開発した職員評定式のアセスメントツールである。
年齢,
過去の犯
歴,被害者に関する項目等から構成され,性犯罪者の再犯リスクの査定を行う。RAT得点は 0
点から 12 点までの間で評定される。
人数 構成比(%) 人数 構成比(%)
強姦 480 33.2 73 22.5 553 31.3 186.18**0.32強制わいせつ 653 45.2 92 28.4 745 42.1
わいせつ目的 3 0.2 1 0.3 4 0.2
迷惑行為防止条例違反 81 5.6 82 25.3 163 9.2
児童福祉法・青少年保護育成条例違反等 176 12.2 36 11.1 212 12.0
性犯罪以外の粗暴事犯 22 1.5 9 2.8 31 1.8
その他の罪名 29 2.0 31 9.6 60 3.4
**p<.01
χ二乗値表1受刑に係る罪名
受講群(1444名) 比較対照群(324名) 全体
(1768名)
構成比(%) CramerのV 6分析対象者の犯罪傾向の進度5
別の人数を表2に示す。
受講群と比較対照群における犯罪傾向の進度別の人数の差は,統計的
に有意であり,受講群においてA指標が多かった。
ウ その他の属性等に係る基礎統計量
分析対象者の属性等に係る基礎統計量とそれらの平均値を受講群と比
較対照群とで比較した結果を表3に示す。
全ての項目で受講群と比較対照群に有意な差が認められた。すなわち,
受講群は,比較対照群よりも,入所度数が少ないこと,刑事施設における
在所日数及び刑期が長いこと,
出所時年齢が低いこと,
RAT得点及びN
AT得点6
が低いこと並びに能力検査値が高いことが明らかとなった。5「A指標」は犯罪傾向が進んでいない者,
「B指標」は犯罪傾向が進んでいる者であることを意
味する。6NATは Need Assessment Tool の略であり,SONAR(Sex Offender Need Assessment Rating)
を参考にして当省矯正局成人矯正課において開発した職員評定式のアセスメントツールである。
本ツールでは,
変化させることはできるが,
治療的介入がなければ比較的変わらないとされる安
定的・動的リスク要因(性的・一般的自己統制,性暴力支持的な態度等)について,0 点から 12
点の間で評定される。
人数 構成比(%) 人数 構成比(%)
A指標 932 64.5 187 57.7 5.31*0.05B指標 512 35.5 137 42.3
* p<.05表2犯罪傾向の進度
χ二乗値 ファイ係数
受講群(1444名) 比較対照群(324名)
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
入所度数 1.77 1.65 2.11 2.04 2.77**0.19在所日数 1290.43 725.76 1107.18 1369.87 2.34*0.21刑期(月数) 46.07 24.82 37.03 41.89 3.74**0.31出所時年齢 39.59 11.19 43.31 13.33 4.67**0.32RAT得点 3.99 2.05 4.53 1.90 4.36**0.27NAT得点 7.07 1.83 7.33 1.92 2.31*0.14能力検査値 89.44 13.43 86.89 15.84 2.67**0.18表3
受講群と比較対照群の属性等
受講群(1444名) 比較対照群(324名)
t 値 Cohenのd
注)能力検査値については,データに欠損があり,受講群1440名,比較対照群318名である。
*p<.05 **p<.01 7エ 受講群の受講プログラムの内訳
受講群のプログラム7
別の受講人数を表4に示す。
オ 受講群の受講開始年の内訳
受講群のプログラム受講開始年別の人数を表5に示す。
カ 受講群の受講プログラム別に見る受刑に係る罪名
受講群における受講プログラムごとの受刑に係る罪名別の人数を表6
に示す。7指導には,1に記載した高密度,中密度,低密度の3種(これらの基本となるプログラムを合
わせて「密度別プログラム」という。
)と集中プログラムのほか,知的制約がある者を対象に指
導内容等を調整した調整プログラムがある。
人数 構成比(%)
高密度 350 24.2
中密度 747 51.7
低密度 192 13.3
集中プログラム 57 3.9
調整プログラム 98 6.8
合計 1444 100.0表4受講群の受講プログラム
人数 構成比(%) 人数 構成比(%) 人数 構成比(%) 人数 構成比(%) 人数 構成比(%)
平成18年 - - 1 0.1 5 2.6 - - - - 6 0.4
平成19年 5 1.4 7 0.9 3 1.6 - - - - 15 1.0
平成20年 8 2.3 10 1.3 5 2.6 - - 4 4.1 27 1.9
平成21年 15 4.3 32 4.3 7 3.6 - - 6 6.1 60 4.2
平成22年 58 16.6 85 11.4 23 12.0 - - 14 14.3 180 12.5
平成23年 82 23.4 245 32.8 56 29.2 16 28.1 25 25.5 424 29.4
平成24年 126 36.0 248 33.2 58 30.2 23 40.4 38 38.8 493 34.1
平成25年 54 15.4 110 14.7 31 16.1 13 22.8 11 11.2 219 15.2
平成26年 2 0.6 9 1.2 4 2.1 5 8.8 - - 20 1.4
全体
(1444名)
構成比(%)表5受講群の受講開始年
高密度(350名) 中密度(747名) 低密度(192名) 集中(57名) 調整(98名)
人数
プログ
ラム内
の構成
比(%)
受刑に
係る罪
名内の
構成比(%)人数
プログ
ラム内
の構成
比(%)
受刑に
係る罪
名内の
構成比(%)人数
プログ
ラム内
の構成
比(%)
受刑に
係る罪
名内の
構成比(%)人数
プログ
ラム内
の構成
比(%)
受刑に
係る罪
名内の
構成比(%)人数
プログ
ラム内
の構成
比(%)
受刑に
係る罪
名内の
構成比(%)強姦 114 32.6 23.8 285 38.2 59.4 62 32.3 12.9 1 1.8 0.2 18 18.4 3.8 480 33.2
強制わいせつ 173 49.4 26.5 352 47.1 53.9 56 29.2 8.6 9 15.8 1.4 63 64.3 9.6 653 45.2
わいせつ目的 2 0.6 66.7 1 0.1 33.3 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 0 0.0 0.0 3 0.2
迷惑行為防止条例違反 30 8.6 37.0 11 1.5 13.6 0 0.0 0.0 34 59.6 42.0 6 6.1 7.4 81 5.6
児童福祉法・青少年保護育成条例違反等 16 4.6 9.1 77 10.3 43.8 73 38.0 41.5 6 10.5 3.4 4 4.1 2.3 176 12.2
性犯罪以外の粗暴事犯 9 2.6 40.9 8 1.1 36.4 0 0.0 0.0 3 5.3 13.6 2 2.0 9.1 22 1.5
その他の罪名 6 1.7 20.7 13 1.7 44.8 1 0.5 3.4 4 7.0 13.8 5 5.1 17.2 29 2.0表6受講群における受講プログラムと受刑に係る罪名
全体
(1444名)プログ
ラム内
の構成
比(%)
高密度(350名) 中密度(747名) 低密度(192名) 集中(57名) 調整(98名) 8(2)全対象者における分析
ア 再犯率
2(2)及び(3)で述べた手続により,分析対象者 1,768 名について
再犯状況を調べたところ,
全再犯のあった者は517名で再犯率は29.2%,
性犯罪再犯のあった者は 290 名で再犯率は 16.4%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表7に示す。
全再犯,
性犯罪再犯ともに,
受講の有無による再犯率の差は統計的に有
意であり,受講群の方が比較対照群よりも再犯率が低かった。
ただし,3(1)で見たとおり,受講群と比較対照群の間に,罪名構成
比や犯罪傾向の進度,
RAT得点に示される再犯リスク等,
再犯率に影響
し得る項目に統計的に有意な差が認められたため,両群の再犯率を単純
に比較することは適当ではないと考えられた。そこで,平成 24 年報告と
同様にカナダ矯正局(Correctional Service Canada, 2008)を参考にし
て,Coxの比例ハザードモデルによって再犯リスクを統制した上で受
講の有無と再犯状況との関連を検討することとした。
イ 再犯リスクを統制した指導の効果の検証
(ア)統制変数に係る予備的分析
RAT得点が本調査報告のデータにおいて再犯リスクを反映してい
ることを確認するため,予備的分析として,RAT得点を独立変数,全
再犯の有無又は性犯罪再犯の有無をそれぞれ従属変数としたロジステ
ィク回帰分析を行い,ROC8
曲線を求め,AUC値を計算した。8RAT得点から再犯の有無を予測する場合,再犯ありを再犯ありと当てる正答率を感度,再犯
なしを再犯なしと当てる正答率を特異度といい,RAT得点の値における感度を縦軸に,1-特
異度を横軸にとって曲線を描いたグラフをROC曲線(Receiver-Operating-Characteristic
curve)という。ROC曲線の下側の面積をAUC(Area Under Curve)といい,0 から 1 までの
受講群(1444名) 比較対照群(324名)
あり なし あり なし
394 1050 123 201 14.58**
0.091
(27.3) (72.7) (38.0) (62.0)
217 1227 73 251 10.87**
0.078
(15.0) (85.0) (22.5) (77.5)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。 **p<.01
χ二乗値
全再犯
性犯罪再犯
ファイ係数表7受講群と比較対照群の再犯状況 9その結果,
全再犯については,
AUC=0.72,
95%信頼区間 0.69-0.74,
性犯罪再犯については,AUC=0.71,95%信頼区間 0.68-0.74 であっ
た。全再犯,性犯罪再犯ともにAUC値に問題はなく,RAT得点は全
再犯,
性犯罪再犯のどちらとも関連しており,
予測妥当性が確認された。
(イ)全再犯を対象とした指導の効果
分析対象者について行ったCoxの比例ハザードモデル9
による分析
結果を表8に示す。
受講の有無は統計的に有意であり,
受講群は比較対照群と比べ,
ハザ
ード比(瞬間再犯確率)10
が 0.79 倍になることが示された。これは,受
講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が 0.79 倍に抑えられることを
意味する。すなわち,再犯リスクの違いを統制した場合,受講群の方が
比較対照群よりも出所後 3 年以内の再犯に至りにくいということであ
り,指導の効果が確認された。
(ウ)性犯罪再犯を対象とした指導の効果
分析対象者について行ったCoxの比例ハザードモデルによる分析
結果を表9に示す。
値をとり,予測が完全であれば面積は1,ランダムであれば 0.5 となる。面積が広く 1 に近いモ
デルであれば予測度が高いと判断される。9Coxの比例ハザードモデルは生存分析の一手法で,ある事象が起こっていない(例えば 0)
に対して,ある事象が起こる(例えば 1)までの時間的な要因を考慮した上で,従属変数に影響
する要因を検討するものである。独立変数が従属変数に与える影響の大きさは「ハザード比」を
参照して検討する(対馬,2008)。10
「ハザード」は,ここでは,ある時点まで再犯をしなかった出所者が,次の瞬間に再犯をする
確率を意味する。
「ハザード比」は,受講ありの場合と受講なしの場合のハザードの比をとった
ものである。
下限 上限
受講の有無 -0.24 5.36*0.79 0.64 0.96
RAT得点 0.32 222.94**1.38 1.32 1.44
ハザード比の 95%信頼区間
ハザード比
Wald値
係数
共変量
*p<.05 **p<.01,分析対象者=1768,全再犯事象数=517表8全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
下限 上限
受講の有無 -0.29 4.70*0.75 0.57 0.97
RAT得点 0.32 125.31**1.38 1.30 1.46
*p<.05 **p<.01,分析対象者=1768,性犯罪再犯事象数=290表9性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比の 95%信頼区間 10受講の有無は統計的に有意であり,
受講群は比較対照群と比べ,
ハザ
ード比(瞬間再犯確率)が 0.75 倍になることが示された。これは,受
講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が 0.75 倍に抑えられることを
意味する。すなわち,再犯リスクの違いを統制した場合,受講群の方が
比較対照群よりも出所後 3 年以内の性犯罪再犯に至りにくいというこ
とであり,指導の効果が確認された。
(3)受刑に係る罪名別の分析
受刑に係る罪名が「強姦」の者(以下「強姦事犯者」という。),
「強制わ
いせつ」の者(以下「強制わいせつ事犯者」という。),
「迷惑行為防止条例
違反」の者(以下「迷惑行為防止条例違反事犯者」という。),
「児童福祉法・
青少年保護育成条例違反等」
の者
(以下
「児童福祉法違反等事犯者」
という。)それぞれについて行った分析結果を以下に示す。
ア 強姦事犯者について
(ア)再犯率
強姦事犯者は分析対象者 1,768 名中 553 名おり,うち,全再犯のあ
った者は 130 名で再犯率は 23.5%,
性犯罪再犯のあった者は 57 名で再
犯率は 10.3%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 10 に示す。
全再犯において,受講の有無による再犯率の差は統計的に有意であ
り,受講群の方が比較対照群よりも再犯率が低かった。また,性犯罪再
犯において,受講群と比較対照群の再犯率の差に 10%水準で有意傾向
が認められた。
(イ)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
a 全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 11 に示す。
受講の有無は統計的に有意であり,
受講群は比較対照群と比べ,ハザード比
(瞬間再犯確率)
が 0.61 倍になることが示された。
これは,
受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が 0.61 倍に抑えられるこ
あり なし あり なし
105 375 25 48 5.39
* 0.10
(21.9) (78.1) (34.2) (65.8)
45 435 12 61 3.42✝0.08(9.4) (90.6) (16.4) (83.6)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。 ✝p<.10 *p<.05
表10
強姦事犯者における受講群と比較対照群の再犯状況
受講群(480名) 比較対照群(73名)
χ二乗値 ファイ係数
全再犯
性犯罪再犯 11とを意味する。すなわち,再犯リスクの違いを統制した場合,受講群
の方が比較対照群よりも出所後 3 年以内の再犯に至りにくいという
ことであり,指導の効果が確認された。
b 性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 12 に示す。
受講の有無は統計的に有意にはならなかったが,受講群の方が比
較対照群よりも再犯が抑止される方向に 10%水準で有意傾向が認め
られた。
イ 強制わいせつ事犯者について
(ア)再犯率
強制わいせつ事犯者は分析対象者 1,768 名中 745 名おり,うち,全
再犯のあった者は 217 名で再犯率は 29.1%,性犯罪再犯のあった者は
135 名で再犯率は 18.1%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 13 に示す。
下限 上限
受講の有無 -0.49 4.93*
0.61 0.39 0.94
RAT得点 0.32 49.10**
1.38 1.26 1.51
*p<.05 **p<.01,分析対象者=553,全再犯事象数=130
表11
強姦事犯者における全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比の 95%信頼区間
下限 上限
受講の有無 -0.56 2.91✝
0.57 0.30 1.09
RAT得点 0.21 9.57**
1.24 1.08 1.42
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間
✝p<.10 **p<.01,分析対象者=553,性犯罪再犯事象数=57
表12
強姦事犯者における性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
あり なし あり なし
194 459 23 69 0.87 0.03
(29.7) (70.3) (25.0) (75.0)
118 535 17 75 0.009 0.003
(18.1) (81.9) (18.5) (81.5)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
受講群(653名) 比較対照群(92名)
χ二乗値 ファイ係数
全再犯
性犯罪再犯
表13
強制わいせつ事犯者における受講群と比較対照群の再犯状況 12全再犯,
性犯罪再犯ともに,
受講群と比較対照群の再犯率に有意な差
は見られなかった。
(イ)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
a 全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 14 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認す
るには至らなかった。
b 性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 15 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認す
るには至らなかった。
ウ 迷惑行為防止条例違反事犯者について
(ア)再犯率
迷惑行為防止条例違反事犯者は分析対象者 1,768 名中 163 名おり,
うち,全再犯のあった者は 97 名で再犯率は 59.5%,性犯罪再犯のあっ
た者は 75 名で再犯率は 46.0%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 16 に示す。
全再犯,
性犯罪再犯ともに,
受講群と比較対照群の再犯率に有意な差
は見られなかった。
下限 上限
受講の有無 0.16 0.51 1.17 0.76 1.80
RAT得点 0.33 95.41**
1.40 1.31 1.49
**p<.01,分析対象者=745,全再犯事象数=217
表14
強制わいせつ事犯者における
全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間
下限 上限
受講の有無 -0.09 0.12 0.91 0.55 1.52
RAT得点 0.29 45.33**
1.34 1.23 1.45
共変量 係数
表15
強制わいせつ事犯者における
性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間
**p<.01,分析対象者=745,性犯罪再犯事象数=135 13(イ)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
a 全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 17 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認す
るには至らなかった。
b 性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 18 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認す
るには至らなかった。
エ 児童福祉法違反等事犯者について
(ア)再犯率
児童福祉法違反等事犯者は分析対象者 1,768 名中 212 名おり,
うち,
あり なし あり なし
51 30 46 36 0.80 0.07
(63.0) (37.0) (56.1) (43.9)
39 42 36 46 0.30 0.04
(48.1) (51.9) (43.9) (56.1)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
受講群(81名) 比較対照群(82名)
χ二乗値 ファイ係数
全再犯
性犯罪再犯
表16
迷惑行為防止条例違反事犯者における受講群と比較対照群の再犯状況
下限 上限
受講の有無 0.17 0.64 1.18 0.78 1.79
RAT得点 0.09 1.14 1.09 0.93 1.28
分析対象者=163,全再犯事象数=97
ハザード比 の 95% 信頼区間
表17
迷惑行為防止条例違反事犯者における
全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
下限 上限
受講の有無 0.16 0.45 1.17 0.73 1.87
RAT得点 0.03 0.09 1.03 0.86 1.23
分析対象者=163,性犯罪再犯事象数=75
表18
迷惑行為防止条例違反事犯者における
性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間 14全再犯のあった者は 28 名で再犯率は 13.2%,
性犯罪再犯のあった者は
11 名で再犯率は 5.2%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 19 に示す。
全再犯,
性犯罪再犯ともに,
受講群と比較対照群の再犯率に有意な差
は見られなかった。
(イ)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
児童福祉法違反等事犯者については,十分なサンプルサイズが確保
できなかったため,Coxの比例ハザードモデルによる分析は実施し
なかった。
(4)被害者が 13 歳未満の者についての分析
性犯罪の被害者に 13 歳未満の者がいる者(以下「被害者が 13 歳未満の
者」という。
)について行った分析結果を以下に示す。
ア 再犯率
被害者が 13 歳未満の者は分析対象者 1,768 名中 531 名おり,うち,全
再犯のあった者は 153 名で再犯率は 28.8%,性犯罪再犯のあった者は 87
名で再犯率は 16.4%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 20 に示す。
全再犯,
性犯罪再犯ともに,
受講群と比較対照群の再犯率に有意な差は
見られなかった。
あり なし あり なし
22 154 6 30 0.45 0.05
(12.5) (87.5) (16.7) (83.3)
8 168 3 33 0.87 0.06
(4.5) (95.5) (8.3) (91.7)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
受講群(176名) 比較対照群(36名)
χ二乗値 ファイ係数
全再犯
性犯罪再犯
表19
児童福祉法違反等事犯者における受講群と比較対照群の再犯状況
あり なし あり なし
123 325 30 53 2.58 0.07
(27.5) (72.5) (36.1) (63.9)
74 374 13 70 0.04 0.01
(16.5) (83.5) (15.7) (84.3)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
表20
被害者が13歳未満の者における受講群と比較対照群の再犯状況
全再犯
性犯罪再犯
受講群(448名) 比較対照群(83名)
χ二乗値 ファイ係数 15イ 再犯リスクを統制した指導の効果の検証
(ア)全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 21 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認する
には至らなかった。
(イ)性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 22 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認する
には至らなかった。
(5)判定された指導密度別の分析
性犯罪者調査により判定された指導の密度別に行った分析結果を以下に
示す。
なお,
以降の分析においては,
受講群は判定された指導の密度に対応する
密度別プログラムを受講した者であり,集中プログラム及び調整プログラ
ムの受講者は含まれていない。
ア 高密度判定者について
(ア)再犯率
高密度判定を受けた者は分析対象者 1,768 名中 481 名おり,うち,
全再犯のあった者は 218 名で再犯率は 45.3%,性犯罪再犯のあった者
下限 上限
受講の有無 -0.29 2.01 0.75 0.50 1.12
RAT得点 0.31 85.65**
1.37 1.28 1.46
**p<.01,分析対象者=531,全再犯事象数=153
表21
被害者が13歳未満の者における
全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間
下限 上限
受講の有無 0.14 0.23 1.16 0.64 2.09
RAT得点 0.29 41.73**
1.33 1.22 1.45
**p<.01,分析対象者=531,性犯罪再犯事象数=87
表22
被害者が13歳未満の者における
性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間 16は 127 名で再犯率は 26.4%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 23 に示す。
全再犯,
性犯罪再犯ともに,
受講群と比較対照群の再犯率に有意な差
は見られなかった。
(イ)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
a 全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 24 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認す
るには至らなかった。
b 性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 25 に示す。
受講の有無について統計的に有意ではなく,指導の効果を確認す
るには至らなかった。
あり なし あり なし
156 194 62 69 0.29 0.02
(44.6) (55.4) (47.3) (52.7)
87 263 40 91 1.58 0.06
(24.9) (75.1) (30.5) (69.5)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
表23
高密度判定者における受講群と比較対照群の再犯状況
性犯罪再犯
受講群(350名) 比較対照群(131名)
χ二乗値 ファイ係数
全再犯
下限 上限
受講の有無 -0.05 0.10 0.95 0.71 1.28
RAT得点 0.24 22.63**
1.28 1.15 1.41
表24
高密度判定者における全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間
** p<.01,分析対象者=481,全再犯事象数=218
下限 上限
受講の有無 -0.22 1.28 0.81 0.55 1.17
RATスコア 0.16 5.91*
1.18 1.03 1.34
* p<.05,分析対象者=481,性犯罪再犯事象数=127
表25
高密度判定者における性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間 17イ 中密度判定者について
(ア)再犯率
中密度判定を受けた者は分析対象者 1,768 名中 919 名おり,うち,
全再犯のあった者は 204 名で再犯率は 22.2%,性犯罪再犯のあった者
は 109 名で再犯率は 11.9%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 26 に示す。
全再犯,
性犯罪再犯ともに,
受講の有無による再犯率の差は統計的に
有意であり,受講群の方が比較対照群よりも再犯率が低かった。
(イ)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
a 全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 27 に示す。
受講の有無は統計的に有意であり,
受講群は比較対照群と比べ,ハザード比
(瞬間再犯確率)
が 0.53 倍になることが示された。
これは,
受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が 0.53 倍に抑えられるこ
とを意味する。すなわち,再犯リスクの違いを統制した場合,受講群
の方が比較対照群よりも出所後 3 年以内の再犯に至りにくいという
ことであり,指導の効果が確認された。
b 性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 28 に示す。
あり なし あり なし
145 602 59 113 17.95**0.14(19.4) (80.6) (34.3) (65.7)
77 670 32 140 9.21**0.10(10.3) (89.7) (18.6) (81.4)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
表26
中密度判定者における受講群と比較対照群の再犯状況
性犯罪再犯
**p<.01
受講群(747名) 比較対照群(172名)
χ二乗値 ファイ係数
全再犯
下限 上限
受講の有無 -0.63 16.56**
0.53 0.39 0.72
RAT得点 0.28 18.54**
1.32 1.16 1.50
** p<.01,分析対象者=919,全再犯事象数=204
表27
中密度判定者における全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間 18受講の有無は統計的に有意であり,
受講群は比較対照群と比べ,ハザード比
(瞬間再犯確率)
が 0.56 倍になることが示された。
これは,
受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が 0.56 倍に抑えられるこ
とを意味する。すなわち,再犯リスクの違いを統制した場合,受講群
の方が比較対照群よりも出所後 3 年以内の性犯罪再犯に至りにくい
ということであり,指導の効果が確認された。
ウ 低密度判定者について
(ア)再犯率
低密度判定を受けた者は分析対象者 1,768 名中 213 名おり,うち,
全再犯のあった者は 10 名で再犯率は 4.7%,性犯罪再犯のあった者は
4 名で再犯率は 1.9%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 29 に示す。
全再犯,性犯罪再犯ともに,受講群と比較対照群の再犯率に有意な
差は見られなかった。
(イ)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
低密度判定者については,充分なサンプルサイズが確保できなかっ
たため,Coxの比例ハザードモデルによる分析は実施しなかった。
(6)高密度判定者における分析
3(5)ア及びイのとおり,判定された指導密度別の分析において,高密
度判定者においては指導の効果を確認するには至らなかった一方で,中密
下限 上限
受講の有無 -0.58 7.45**
0.56 0.37 0.85
RAT得点 0.34 14.19**
1.41 1.18 1.68
**p<.01,分析対象者=919,性犯罪再犯事象数=109
表28
中密度判定者における性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比 の 95% 信頼区間
あり なし あり なし
8 184 2 19 1.21 0.08
(4.2) (95.8) (9.5) (90.5)
3 189 1 20 1.05 0.07
(1.6) (98.4) (4.8) (95.2)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
表29
低密度判定者における受講群と比較対照群別の再犯状況
全再犯
性犯罪再犯
受講群(192名) 比較対照群(21名)
χ二乗値 ファイ係数 19度判定者においては,指導の効果が認められた。そこで,その背景を探るため,高密度判定者と中密度判定者の特徴,
高密度判定者の下位グループごと
の指導の効果の2点について補足的に分析を行った。
ア 高密度判定者と中密度判定者の特徴
(ア)犯罪傾向の進度別の人数
A指標とB指標別の人数を表 30 に示す。
判定された指導密度別における犯罪傾向の進度別の人数の差は,統
計的に有意であり,高密度判定者においてB指標の者が多かった。
(イ)アセスメント項目11
等における比較
アセスメントに係る項目等について比較し,有意な差が認められた
主なものについて,表 31 に示す。11分析対象者が性犯罪者調査を受けた時期には,
「リスク調査」において,Static-99 に加え,
SORAG(Quinsey,Harris,Rice & Cormier,1998)の一部及び MnSOST-R(Eppreson,Kaul,Hout,
Goldman & Alexander,2003)の3種の保険統計式ツールを統合し,日本の性犯罪者にも適用でき
るよう若干の改変を加えたリスク・アセスメント・ツールを使用していた(RAT得点の算出に
は Static-99 の項目のみを用いている。)。ここでは SORAG の一部及び MnSOST-R の評定項目を使
用している。
人数 構成比(%) 人数 構成比(%)
A指標 160 33.3 711 77.4 261.24**0.43B指標 321 66.7 208 22.6
**p<.01
高密度判定者(481名) 中密度判定者(919名)
表30
犯罪傾向の進度と判定密度
χ二乗値 ファイ係数
該当者数 構成比(%) 該当者数 構成比(%)
14歳未満の問題行動歴あり 87 18.1 86 9.4 22.22**0.13少年時の非行歴あり 254 52.8 309 33.6 48.33**0.19過去に保護観察中の再犯あり 187 38.9 112 12.2 133.92**0.31過去に保護観察中の性犯罪再犯あり 136 28.3 69 7.5 108.94**0.28本件前1年間の職歴不安定 300 62.4 361 39.3 67.53**0.22符号mあり 66 13.7 43 4.7 35.96**0.16注)「14歳未満の問題行動歴」は,警察補導歴,児童相談所への係属歴のいずれかがあれば,「あり」となる。
表31
アセスメント項目等と判定密度
高密度判定者(481名) 中密度判定者(919名)
χ二乗値 ファイ係数
注)「少年時の問題行動歴」は,警察補導歴,家庭裁判所係属歴,観護措置歴,少年院入院歴のいずれかがあれ
ば,「あり」となる。なお,少年時とは14歳以上20歳未満である。
注)「本件前1年間の職歴不安定」は,本件を起こすまでの1年間の職歴について,アルバイトや日雇い労働しかな
かった場合,1年未満での転職(本人の責めによるもの)があった場合,及び就労能力や就労の必要性があるにも
かかわらず無職であった場合が該当する。
**p<.01 20高密度判定者は中密度判定者よりも,14 歳未満の問題行動歴及び少
年時の非行歴があった者,過去に保護観察中の再犯及び性犯罪再犯が
あった者,本件前 1 年間の職歴が不安定であった者並びに符号m12
が付
されている者が多いことが明らかになった。
(ウ)属性等における比較
属性等に係る基礎統計量とそれらの平均値を高密度判定者と中密度
判定者とで比較した結果を表 32 に示す。
いずれの項目も高密度判定者と中密度判定者の差は統計的に有意で
あり,高密度判定者は,中密度判定者よりも,入所度数が多いこと,出
所時年齢が高いこと及び能力検査値が低いことが明らかになった。
イ 高密度判定者の下位グループごとの指導の効果
上記アのとおり,高密度判定者には,B指標の者(以下「B指標者」と
いう。
)や符号mが付されている者(以下「m指定者」という。
)が多いこ
とが明らかになったが,
これらの者は,
指導が特に難しい一群であると言
える。犯罪傾向が進んでいる者は,そうでない者に比べ,抱えている問題
が多岐にわたっていたり根深かったりすることが多く,
また,
精神医療上
の配慮を要する者は,指導上においても何らかの配慮を要することが多
いからである。
そこで,
これらの特に指導が難しいと考えられる群以外の
者に対する高密度ブログラムの指導の効果を検証するため,犯罪傾向が
進んでいないA指標の者(以下「A指標者」という。
)及び符号mが付さ
れていない者(以下「m指定なしの者」という。
)について分析した結果
を以下に示す。
(ア)高密度判定者における犯罪傾向の進度別の基礎統計量
a 犯罪傾向の進度別に見た受刑に係る罪名別人数12符号「m」は,医療を主として行う刑事施設等に収容する必要はないが,精神医療上の配慮を
要する者であることを意味する。
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
入所度数 2.74 2.18 1.33 0.96 13.51**0.94出所時年齢 40.69 11.91 38.65 11.05 3.12**0.18能力検査値 89.13 13.73 91.00 12.40 2.58*0.15注)能力検査値については,データに欠損があり,高密度判定者480名,中密度判定者911名である。
高密度判定者(481名)
表32
属性等と判定密度
中密度判定者(919名)
t値 Cohenのd
*p<.05 **p<.01 21高密度判定者における犯罪傾向の進度ごとの受刑に係る罪名別の
人数を表 33 に示す。
b 犯罪傾向の進度別に見た属性等に係る基礎統計量
属性等に係る基礎総計量について,A指標者とB指標者の間で比
較した結果を表 34 に示す。
能力検査値及び刑期(月数)を除く各項目で,A指標者とB指標者
の差は統計的に有意であり,B指標者は,A指標者よりも,入所度数
が多いこと,
在所日数が長いこと,
出所時年齢が高いこと並びにRA
T得点及びNAT得点が高いことが明らかになった。
c 高密度判定者のうちA指標者について
(a)再犯率
高密度判定者のA指標者 160 名のうち,全再犯のあった者は 56
名で再犯率は 35.0%,性犯罪再犯のあった者は 31 名で再犯率は
19.4%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 35 に示す。
人数 構成比(%) 人数 構成比(%)
強姦 42 26.3 93 29.0 135 28.1
強制わいせつ 75 46.9 121 37.7 196 40.7
わいせつ目的 1 0.6 2 0.6 3 0.6
迷惑行為防止条例違反 29 18.1 59 18.4 88 18.3
児童福祉法・青少年保護育成条例違反等 7 4.4 18 5.6 25 5.2
性犯罪以外の粗暴事犯 2 1.3 11 3.4 13 2.7
その他の罪名 4 2.5 17 5.3 21 4.4
A指標者(160名) B指標者(321名) 全体
(481名)
構成比(%)
表33
高密度判定者における受刑に係る罪名と犯罪傾向の進度
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
入所度数 1.01 0.11 3.61 2.21 20.96**1.43在所日数 1109.03 770.07 1333.35 1016.82 2.70**0.24刑期(月数) 40.22 26.80 45.19 33.98 1.75✝0.16出所時年齢 35.29 10.17 43.39 11.82 7.79**0.72RAT得点 5.74 1.25 6.33 1.30 4.75**0.46NAT得点 8.16 1.52 8.48 1.56 2.18*0.21能力検査値 89.80 12.74 88.79 14.21 0.76 0.07
表34
高密度判定者における属性等と犯罪傾向の進度
A指標者(160名) B指標者(321名)
t 値 Cohenのd
注)能力検査値については,データに欠損があり,B指標者320名である。 ✝p<.10 *p<.05 **p<.01 22全再犯において,受講群と比較対照群の再犯率の差に 10%水準
で有意傾向が認められた。
性犯罪再犯において,
受講の有無による
再犯率の差は統計的に有意であり,受講群の方が比較対照群より
も再犯率が低かった。
(b)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
i 全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 36 に示す。
受講の有無は統計的に有意ではなく,指導の効果を確認する
には至らなかった。
ii 性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 37 に示す。
受講の有無は統計的に有意であり,受講群は比較対照群と比
あり なし あり なし
36 81 20 23 3.43✝0.15(30.8) (69.2) (46.5) (53.5)
17 100 14 29 6.54*0.20(14.5) (85.5) (32.6) (67.4)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
表35
高密度判定者(A指標者)の再犯状況
全再犯
性犯罪再犯
✝p<.10 *p<.05
受講群(117名) 比較対照群(43名)
χ二乗値 ファイ係数
下限 上限
受講の有無 -0.40 2.01 0.67 0.39 1.16
RAT得点 0.34 9.32**
1.40 1.13 1.74
表36
高密度判定者(A指標者)に係る
全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比の 95%信頼区間
**p<.01,分析対象者=160,全再犯事象数=56
下限 上限
受講の有無 -0.85 5.50* 0.43 0.21 0.87
RAT得点 0.27 3.44✝
1.31 0.98 1.74
✝p<.10 *p<.05,分析対象者=160,性犯罪再犯事象数=31
表37
高密度判定者(A指標者)に係る
性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比の 95%信頼区間 23べ,ハザード比(瞬間再犯確率)が 0.43 倍になることが示され
た。これは,受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が 0.43
倍に抑えられることを意味する。
すなわち,
再犯リスクの違いを
統制した場合,受講群の方が比較対照群よりも出所後 3 年以内
の性犯罪再犯に至りにくいということであり,指導の効果が確
認された。
(c)受講群の指導前と指導後におけるNAT得点の変化
前項のとおり,
高密度判定者のうちA指標者について,
性犯罪再
犯を対象とした指導の効果が確認された。
ただし,
分析対象者数が
少なく,
指導の効果について,
この分析結果のみで解釈することは
妥当ではないと考えられたことから,動的リスクの程度を表すN
AT得点の受講前後の変化について分析を行うこととした。結果
を表 38 に示す。
なお,分析には,受講群 117 名のうち受講後のNAT得点が欠
損している 2 名を除く 115 名のデータを使用した。
高密度判定者のうちA指標者について,NAT得点は受講前よ
りも受講後に有意に低下していた。
(イ)高密度判定者における符号mに係る分析
a 犯罪傾向の進度別のm指定者の人数
高密度判定者における犯罪傾向の進度ごとのm指定者の人数を表
39 に示す。
b 高密度判定のうちm指定なしの者について
(a)再犯率
平均値 標準偏差 平均値 標準偏差
8.26 1.49 5.96 1.94 11.59**1.33**p<.01,分析対象者=115
受講前 受講後
t値 Cohenのd
表38
高密度判定者(A指標者)の受講前後のNAT得点
人数 構成比 人数 構成比
m指定者 20 12.5 46 14.3 66 13.7
m指定なしの者 140 87.5 275 85.7 415 86.3
表39
高密度判定者におけるm指定者と犯罪傾向の進度
全体
(481名)
A指標(160名) B指標(321名)
構成比(%) 24高密度判定者におけるm指定なしの者 415 名のうち,全再犯の
あった者は 182 名で再犯率 43.9%,性犯罪再犯のあった者は 106
名で再犯率 25.5%であった。
受講群と比較対照群別の再犯率を表 40 に示す。
全再犯においては,受講群と比較対照群の再犯率に有意な差は
見られなかったが,
性犯罪再犯において,
受講群と比較対照群の再
犯率の差に 10%水準で有意傾向が見られた。
(b)再犯リスクを統制した指導の効果の検証
i 全再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 41 に示す。
受講の有無は統計的に有意ではなく,指導の効果を確認する
には至らなかった。
ii 性犯罪再犯を対象とした指導の効果
Coxの比例ハザードモデルによる分析結果を表 42 に示す。
あり なし あり なし
133 179 49 54 0.77 0.04
(42.6) (57.4) (47.6) (52.4)
73 239 33 70 3.04✝0.09(23.4) (76.6) (32.0) (68.0)
注)( )内は各群に占める構成比を表す。
全再犯
性犯罪再犯
✝p<.10
表40
高密度判定者(m指定なしの者)の再犯状況
受講群(312名) 比較対照群(103名)
χ二乗値 ファイ係数
下限 上限
受講の有無 0.12 0.48 0.89 0.64 1.24
RAT得点 0.25 19.81**
1.29 1.15 1.44
表41
高密度判定者(m指定なしの者)に係る
全再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比の 95%信頼区間
**p<.01,分析対象者=415,全再犯事象数=182
下限 上限
受講の有無 -0.35 2.74✝
0.71 0.47 1.07
RAT得点 0.18 6.09* 1.20 1.04 1.39
表42
高密度判定者(m指定なしの者)に係る
性犯罪再犯に関するCoxの比例ハザードモデルによる回帰分析結果
共変量 係数 Wald値 ハザード比
ハザード比の 95%信頼区間
✝p<.10 *p<.05,分析対象者=415,性犯罪再犯事象数=106 25受講の有無は統計的に有意にはならなかったが,受講群の方
が比較対照群よりも再犯が抑止される方向に 10%水準で有意傾
向が認められた。
4 考察
(1)平成 24 年報告と本調査報告における相違点
既述のとおり,性犯罪再犯防止指導に係る効果検証は,平成 24 年報告に
おいて報告しているところである。
しかし,
平成 24 年報告と本調査報告は,
受講の有無と再犯との関連について調査し,指導の効果を検証するという
目的は同様であるが,
以下のとおり分析対象者の設定,
再犯の定義及び追跡
調査期間に関しては異なる部分がある。
ア 分析対象者の設定方法
平成 24 年報告における「受講群」は,性犯罪者調査により指導の対象
とされ,指導への出席率が 90%以上の者であり,
「非受講群」は,指導開
始以前に刑が確定した者については,スクリーニングや性犯罪者調査を
受けたが受講しなかった者,
指導開始後に刑が確定した者については,理由を問わず性犯罪者調査により受講対象ではないとされた者及び指導へ
の出席率が 90%未満の者である。
本調査報告においては,
「受講群」の設定に当たって指導への出席率は
考慮せず,途中離脱者を受講群に含めている。また,
「非受講群」ではな
く,受講群との同質性が担保されるよう,精神疾患等や能力上・動機付け
上の不適合により受講不可となった者等を除外し,
「比較対照群」を設定
している。
イ 再犯の定義
平成 24 年報告では,再犯を「検察庁によって事件処理される事象」と
し,当省刑事局から提供を受けた情報について「起訴猶予」等七つの処理
区分全てを再犯情報として扱っている。
そのうち,
犯行年月日が最も早い
事件を一つ取り上げ,その事件を「全再犯」としている。
「性犯罪再犯」
については,
「全再犯」のうち,罪名が性犯罪(罪名分類の基準について
は本調査報告と同様)
であるものを取り上げ,
「性犯罪再犯」
としている。
本調査報告では,
「検察庁において起訴の処理がなされた事件」
のうち,
罪種を問わず犯行年月日が最も早いものを「全再犯」とし,犯行年月日が
最も早い性犯罪を「性犯罪再犯」としている。
ウ 追跡調査期間
平成 24 年報告では,出所日から観測終了日までを最大 3 年間とし,3 26年間の観測期間を確保できない対象者については,出所から 3 年後の時
点での再犯率について統計手法を用いた推定値
(推定再犯率)
を算出して
いる。
本調査報告では,分析対象者全員を出所から 3 年間観察しており,再
犯者の割合をもって再犯率を算出している。
平成 24 年報告と本調査報告における相違点は以上のとおりであり,
以下,
本調査報告と平成 24 年報告の結果を比較する際には,これらの違いについ
て留意する必要がある。
(2)本調査報告における指導の効果
ア 全体における指導の効果について
全対象者における分析の結果,全再犯及び性犯罪再犯の双方について
指導の再犯抑止効果が確認された。
指導は,
受講者が性犯罪を再び犯すお
それを低減させることを目的としているところ,狙いにそった指導が実
践できていることを示している。
この結果は,Hanson et al(2009)によるRNR原則13
に則った刑務所
内性犯罪者用プログラムに関するメタ分析において,性犯罪の再犯と一
般の再犯いずれにおいても,受講群の方が非受講群よりも再犯率が低い
と報告されていることと同様である。
性犯罪再犯の抑止だけでなく,
全再
犯の抑止にも効果が認められた理由としては,指導の基盤となっている
認知行動療法やリラプス・プリベンション技法は,
性犯罪者だけでなく,
一般的に犯罪者の処遇に用いられているものであることや,指導の根底
には,自身の問題性を認識し,自らの行動を統制(自己管理)できるよう
になることを目指すという考え方が含まれていること(高橋,2006)など
が影響したとみられる。
イ 受刑に係る事案の種類別に見た指導の効果について
分析対象者全体の 31.3%を占める強姦事犯者について,指導による再
犯抑止効果が認められた。一方,強制わいせつ事犯者,迷惑行為防止条例
違反事犯者,被害者が 13 歳未満の者には,指導による再犯抑止効果につ
いて統計的な裏付けは得られなかった。
強姦事犯者に関しては,平成 24 年報告においても指導による再犯抑止
効果について有意傾向が確認されており,同事犯者に対する安定的な効13リスク原則,ニーズ原則,レスポンシビティ原則からなり,再犯防止に寄与する処遇を行うた
めには,対象者の再犯リスクの高低に応じて,改善が可能な部分について,対象者に合った方法
によって実施する必要があるという考え方のこと。1にある「効果的な犯罪者処遇の原則」もこ
れを指している。 27果が示されたといえる。
迷惑行為防止条例違反事犯者については,平成 24 年報告と同様に指導
の効果について統計的な裏付けを得られなかった。
同事犯者の大半が
「痴
漢」であることは平成 24 年報告でも指摘されているが,平成 27 年版犯
罪白書14
において,
「痴漢型」
に類型化された性犯罪者は,
他の類型の性犯
罪者と比べて再犯率が最も高く,複数の刑事処分を受けているにもかか
わらず,
痴漢行為を繰り返していることが多いと報告されている。
また,
遊間義一ほか(2017)は,本調査報告とは異なる時期(平成 20 年 7 月か
ら平成 21 年 12 月まで)の出所受刑者群の追跡調査に関する研究において,痴漢を主とする条例違反で受刑した者に対して,
性犯罪再犯防止指導
の再犯抑止効果が認められない旨を示し,痴漢についてはプログラムの
修正を考慮することを提言している。
なお,同事犯者には刑期が短い者が多く,集中プログラム受講者が
59.6%と最多で,次いで高密度プログラム受講者が 37%であった。集中
プログラムは,平成 21 年に「速習プログラム」として試行が開始され,
平成 24 年に「集中プログラム」として新たに試行が始まり,試行状況を
踏まえた精査・検討を得て,平成 27 年 3 月から現在の集中プログラムと
して本格実施となっている。
結果の解釈に当たっては,
本調査報告におけ
る分析対象者の受講時期がプログラムの移行期で発展の途上にあったこ
とを考慮する必要がある。また,集中プログラムについては,本調査報告
において比較対照群が設定できていないこともあり,効果検証について
は,検証方法も含め,今後の課題である。
強制わいせつ事犯者に対する指導の効果について統計的な裏付けを得
られなかった背景の一つとしては,
同事犯者にも,
犯罪態様が痴漢の者が
多く含まれていた可能性の影響が考えられる。
被害者が 13 歳未満の者については,事案が特定の罪種に限らないこと
から,指導の効果に関する分析結果の背景を明らかにすることは難しい
が,犯罪態様を考慮した指導の充実が,ひいては,被害者が 13 歳未満の
者に対する指導の充実にもつながるものと期待される。
ウ 密度別に見た指導の効果について
本調査報告において,平成 24 年報告では確認できなかった中密度判定
者における指導の効果が認められた背景には,平成 21 年以降,密度別プ14平成 27 年版犯罪白書 第 6 編性犯罪者の実態と再犯防止 第 4 章特別調査 P.315 28ログラムの教材類等の改訂,執務参考資料の整備,準備プログラム15
の策
定等が進められたことがあると推察される。とりわけ中密度プログラム
においては,
指導内容が統一されたほか,
開講数が最も多いプログラムで
あることもあって指導者の指導技術の向上が促され,どの施設において
も一定レベルの指導が安定して提供されるようになったことが影響した
と考えられる。
一方,高密度判定者全体における指導の効果について統計的な裏付け
が得られなかったことに関し,受講者の特徴及びプログラムの構造とい
う2点から整理し考察する。
(ア)受講者の特徴
高密度判定者は,
再犯リスクの高い群であるとともに,
早期から問題
行動が顕在化している者,
就労状況が不安定である者,
犯罪傾向の進ん
でいる者,
精神医療上の配慮を要する者が多く,
中密度判定者よりも,
各々が抱える問題が複雑に折り重なっている群であるといえる。
高密度判定者の中でも,
犯罪傾向が進んでいない者については,
指導
による性犯罪再犯の抑止効果が確認され,精神医療上の配慮を特に要
しない者についても,性犯罪再犯を抑止する方向に有意傾向が認めら
れた。このことから,高密度判定者の中にも,指導の効果が上がってい
るグループが存在することが明らかになった。
(イ)プログラムの構造
現行の高密度プログラム策定に当たって参考にされた当時のカナダ
の連邦刑務所における高リスクの者に対する性犯罪者処遇プログラム
の概要は,
「毎日セッションが提供され,
週最低 15 時間のグループワー
クが行われる。期間は,通常 8 から 9 か月(約 500 時間)
」16
となって
いる。
また,Bourgon & Armstrong(2005)は,受刑者のリスク及びニーズ
並びにプログラム(トリートメント)実施時間(期間)と,再犯率との
関連について分析し,リスクに応じたプログラムは再犯率の低下に効
果的であること,その効果にプログラムの実施時間が影響を及ぼして
いること,リスクが高い者には 200 時間から 300 時間のトリートメン15受講対象者の動機付けの向上等を図るため,密度別プログラム(中密度又は高密度)や調整プ
ログラムを受講する直前に実施するプログラム16性犯罪者処遇プログラム研究会報告書(2006) 資料 1 海外視察報告 第3カナダ P.52
性犯罪者処遇プログラム研究会は,性犯罪者処遇の充実のため,平成 17 年 4 月に当省矯正局
と保護局合同で立ち上げられた。 29トが必要であることを示唆している。
これらと比較すると,1 回 100 分,週 2 回 9 か月を標準としている現
行の高密度プログラムは,
1 週間当たりの指導時間数や指導時間総数が
大幅に少ないことが指摘できる。
(3)まとめ
全対象者,
中密度判定者及び強姦事犯者において,
全再犯及び性犯罪再犯
について指導の効果が確認された。これは,指導が開始されて以降,効果的
な指導の実施に向け,プログラムの充実化や指導者育成といった取組を積
み重ねたことにより,
指導レベル全体が底上げされ,
成果として現れたもの
と考えられる。
高密度判定者については,全体では指導の効果について統計的な裏付け
が得られなかったが,犯罪傾向が進んでいない者や精神医療上の配慮を特
に必要としない者については,
指導の効果が認められた
(統計的に有意傾向
のものを含む。)。高密度判定者は,そもそも再犯リスクが高く,問題性も深
い複雑な一群であるところ,指導の効果が上がっているグループが存在す
る一方で,
リスクや問題性が特に大きい者については,
指導時間数という量
的な面で不十分である可能性があり,
プログラムの充実化に当たっては,その点も考慮する必要があると考えられる。
加えて,
高密度判定者に対しては,
就労状況の安定など指導以外にも複合的な手当てが必要であることも示唆
される。
また,
罪名別に見た場合,
強制わいせつ及び迷惑行為防止条例違反等事犯
者に対する指導の効果について統計的な裏付けが得られなかったことから,
これらの者に対する指導の在り方について検討が必要である。 30引 用 文 献
Correctional Service of Canada (2008) Assessing the Effectiveness of the
National Sexual Offender Program. Research Reports. 2008NoR183対馬栄輝(2008) SPSS で学ぶ医療系多変量データ解析 東京図書株式会社
Guy Bourgon and Barbara Armstrong (2005) Transferring the Principles of
Effective Treatment into a "Real World" Prison setting. Criminal
Justice and Behavior 32, 3-25
R.Karl Hanson,Guy Bourgon,Leslie Helmus and Shannon Hodgson (2009) The
Principles of Effective Correctional Treatment Also Apply To Sexual
Offenders : A Meta-Analysis. Criminal Justice and Behavior36, 865-891高橋 哲
(2006) カナダにおける性犯罪者受刑者の査定と処遇
(後) 刑政 117
巻 6 号
遊間 義一
(2017) 日本の男子性犯罪受刑者に対する性犯罪防止プログラムの
再犯抑止効果 科学研究費助成事業 研究成果報告書 31謝 辞
本調査報告をまとめるに際し,矯正研修所効果検証センターのアドバイザー
である国際基督教大学の金澤雄一郎教授,
兵庫教育大学の遊間義一教授,
法政大
学の服部環教授,東京大学の岡田謙介准教授に多くの御指導と御助言をいただ
きました。ここに厚く御礼を申し上げます。

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