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日本法令の国際発信に向けた将来ビジョン会議
議論の取りまとめの方向性(座長試案)
平成30 年3 月13 日
第1 プロジェクトの理念・目的の再確認
〇 司法制度改革の過程でニーズが指摘されたように、国際社会において、日本法(法令・法制度等)
を国際社会(海外)や国内の外国人に向けて適切に発信することには、引き続き、高い意義がある。
〇 現状では、日本法や法制度が国際的に必ずしも正しく評価されているとは言えず、日本法の国際的
理解を確保・向上していく努力が必要である。政府による法令翻訳事業がそのための基本的インフラ
整備として貢献することが、本プロジェクトの第一の意義と位置付けられる。
〇 本プロジェクトの今後の推進にあたっては、政府が取り組むべき「国家の基本的インフラ整備」と
して進められてきた経緯を踏まえた上で、弁護士等の利用を念頭に置いたビジネス支援の観点や、近
年のインバウンド・外国人労働者の増加を念頭に滞日外国人保護の観点も勘案しつつ、多層にわたる
幅広い直接・間接の受益者を念頭に置いて、政府の翻訳プロジェクトとしての取組みを今後も継続す
る中で、効果的資源の投入と成果の拡大を目指すべきである。
第2 現状の取組みについての評価と課題
〇 本プロジェクトが専用ホームページで提供する翻訳法令数の積み上げ、
利用実績等の現状について、
一定の評価は可能である。法令用語日英標準対訳辞書等の提供もあり、法律文書の良質な翻訳に資す
るツールも整備されてきた。
〇 ただし、重要法令の翻訳未整備(省庁ごとのバラツキ)や、翻訳提供までの長期化等の課題が見ら
れ、従前の取組みを漫然と継続するのは不相当である。この機会に、ユーザー目線での課題への対応
と方針を明確にしなければ、プロジェクトの効果や魅力を減じることになりかねない。
第3 今後目指していくべき基本的ビジョン
〇 本プロジェクトが政府の行う翻訳事業であることを基本に、
これまでの経験の蓄積や民間等の知見、
技術の進展等も有効に活用して、さらに充実した魅力あるサービスの実現を目指すべき。
〇 そのためには、本プロジェクトが当面目指すべき課題とその優先度を明確に決定し、その実現に向
けたアプローチを戦略的・計画的に進めるべき。その過程では、ユーザーである民間の意見を十分に
反映すべきであり、それを踏まえ、省庁横断的に政府を挙げて取り組むべき。
〇 本プロジェクトの拡充アプローチとして、まずは、現行の条文英訳提供サービスの改善(迅速化・
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効率化)のほか、提供する情報の追加・拡充を含め、新たな法令関連情報の翻訳サービスの本格提供
を実現していくこととするとともに、情報発信にあたっては、民間等との協働や外国機関との連携を
視野に入れるべき。
第4 優先的に取り組むべきコンテンツの充実
〇 法令の翻訳提供にあたり、
翻訳の質を確保しつつ、
提供までのスピードを大幅に改善すべきであり、
特に重要法令について、
法改正に対応しタイムリーな法令条文の翻訳提供を実現すべき。
そのために、
この機会に改めて翻訳工程を見直すとともに、翻訳を要する重要法令の選定や進ちょく等をユーザー
目線でチェックする官民協働の会議体を新たに設け、翻訳のニーズや優先順位の決定、翻訳プロセス
等の改善を図っていくべき。併せて、広く国内外のユーザーから、翻訳に関する要望や意見を取り入
れる仕組みを導入すべき。
〇 法令情報を外国語で分かりやすく早期に提供する工夫として、
(日本語では既に提供されている)新法や改正法の概要情報の翻訳提供サービスを開始すべき。
各省庁が公にする法案説明資料等を活用し、
コンパクトかつ概括的な翻訳情報を提供するニーズは、極めて高く、早急な取組みが望まれる。
〇 翻訳を提供する法分野ごとに、全体の体系や法令相互の関係を概括的に説明する法分野基本情報の
提供を検討すべき。担当省庁であれば容易に把握し得る法分野内の関係(いわば見取り図)が明確に
なれば、本サービスのコンテンツに関する利用サービスの利便性も格段に向上する。
第5 優先的に取り組むべき利用サービスの改善
〇 本プロジェクトの専用ホームページにおいて、双方向性を取り入れるなどユーザーフレンドリーな
機能追加を実施すべき。例えば、利用ガイダンス情報、質問対応機能、他サービス紹介情報等の優先
度が高い。
〇 ユーザーを広げていく取組みとして、更新予定情報(予告)の追加や、ユーザーの関心に対応した
関連情報・付随情報の提供など、専用ホームページ上での情報発信方法を見直して工夫すべき。さら
に、未利用者の利用促進に向けて、幅広い各種媒体やシンポジウム等によるPRを進めるべき。
〇 いったん専用ホームページを訪問したユーザーの満足度(再訪意欲)を高めるため、本サービスの
内容で対応できない場合についても、他の関連サービスを紹介・案内する機能等を充実させるなど、
日本法の翻訳情報を集約したハブを目指すべき。
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第6 継続的に更に検討していくべき課題等
〇 多言語対応については、まずは、英語コンテンツの改善・拡充を優先させるべきとの意見が強く、
中期的課題とすべき。ただし、法制度の信用性といった国益に関わる情報や、滞日外国人向け生活情
報といったものは、本サービスとは別の広報や情報発信として、適切に取り組まれるべきもの。
〇 裁判例の翻訳提供については、重要判例の要旨のニーズなどが指摘されたものの、判決文と法令と
は性格・構造が異なり、行政と司法の関係にも関わることからも、当面は、本サービスと裁判所によ
る取組みとの連携を強化していくことが相当。
〇 翻訳作業におけるAIの活用は、
機械翻訳技術の進ちょく等に合わせ、
費用対効果も考慮した上で、
翻訳効率化に資するツールとして、導入を検討していくべきもの。まずは、機械翻訳等の技術水準や
利用状況等の把握と実用可能性の検討(例えば、機械翻訳の取組みを進める情報通信研究機構[NI
CT]等と連携した機械翻訳の精度を確認するための実証や精度向上策、導入手順の検討等)を進め
るべき。
〇 翻訳作業の担い手となる翻訳専門人材の確保・養成は、喫緊の課題。インセンティブを付与するた
めの「法令翻訳士」資格の創設を始め、法律と語学双方に通じた多数の有為な人材に本プロジェクト
への協力を得るべく、民間等の取組みを把握しつつ、実現可能な枠組み作りを早急に検討・設計すべ
き。
〇 併せて、本プロジェクトの直接の対象ではないものの、日本法令の用語・表現そのものの分かりや
すさの改善、日本法制度を正しく理解させるための国際的PR、国際発信を担う研究者・法曹人材の
養成、国際交流の推進といった、翻訳事業にとどまらないインフラ整備の実現も、強く期待。
第7 民間や海外機関等との共有・連携
〇 これまで進んでこなかった本プロジェクトに関する産学官連携、民間活力の活用を、大胆に推し進
めるべき。政府で蓄積した翻訳情報を民間に開放し、それを活用してサービス展開する民間の創意工
夫による取組みを促すべき。例えば、翻訳辞書に法的解説を付した和英法律辞典や、翻訳の知見を活
かした法令英語入門書の出版など、商業ベースでのサービス展開を期待。
〇 産学官それぞれで、ビジネス、研究目的あるいは広報活動として、様々な翻訳情報や外国語による
情報を各自が発信する現状を改め、将来的には、日本法令に関する翻訳情報(例えば、英語での日本
法関連情報)のプラットフォーム化も視野に、ユーザー目線での情報の相互連携・リンク等による情
報の集約・共有を進めるべき。
〇 外国で、本プロジェクトと同様、自国法令の翻訳事業や国際発信を進める機関等との連携も進めて
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いくべき。
第8 今後におけるビジョンの実現とフォローアップ
〇 ビジョン会議の提言を踏まえ、法務省を中心とする政府全体で、速やかに、日本法令の国際発信に
向けたビジョンとなる戦略の策定とその実現、そのために必要な体制整備が図られることを期待。
〇 ビジョンとなる戦略としては、具体的かつスピード感ある内容が必要である。例えば、上記のよう
な提言を踏まえ、以下のように年限を明確にした方向性を示すべき。
・重要法令の翻訳不整備や、最新法文へのアップデートを、今後3年以内に、省庁横断的に計画的に
実効し、進ちょくをフォロー。・現存の英訳法令について、
今後3年以内に、
省庁横断的に翻訳の統一性、
品質の総点検作業を実施。
・条文翻訳に付加する新たな翻訳サービスを、優先順位も明確にした上で、速やかに決定。法改正情
報(新法・改正法の概要)の翻訳提供等は、今後1年以内に開始。
・ユーザーの意見を十分に反映した翻訳整備計画の新たな策定プロセスと、進ちょく状況のチェック
体制を、今後1年以内に決定し、速やかに実施。
・ユーザーフレンドリーな利用ホームページの見直しに、今後1年以内に着手し、順次実施。今後の
システム更新を視野に、直ちに具体的検討を開始。
・法情報の国際発信を充実させるための産学官連携や外国機関との連携のあり方、機械翻訳・AI技
術の活用等に向けて、今後1年以内に調査・協議に着手。
〇 今後の推進には、ユーザー目線の可視性ある戦略策定と、PDCAサイクルによる検証・見直しの
プロセスが不可欠。プロジェクト全体の推進を更に図る官民の会議体を新たに立ち上げ、司令塔とし
て本プロジェクトを推進すべき。
以 上