平成27年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第1問)
1 出題の趣旨について
既に公表した出題の趣旨のとおりである。
2 採点の基本方針等
本問では,具体的事例に基づいて甲乙丙それぞれの罪責を問うことによって,刑
法総論・各論の基本的な知識と問題点についての理解の有無・程度,事実関係を的
確に分析・評価し,具体的事実に法規範を適用する能力,結論の具体的妥当性,そ
の結論に至るまでの法的思考過程の論理性を総合的に評価することを基本方針と
して採点に当たった。
すなわち,本問では,甲は,A社の新薬開発部の部長として自らが管理していた
同社の新薬の製造方法が記載された書類(以下「新薬の書類」という。
)を持ち出
すよう乙から働きかけられ,所属部署を異動した後,新薬の書類を後任部長に無
断で持ち出して,これを自己のかばん(以下「甲のかばん」という。
)に入れて乙
の元に届ける途中,新薬の書類在中の甲のかばんを丙によって持ち去られたが,
近くをたまたま通りかかったCが持っていたかばん(以下「Cのかばん」という。)を甲のかばんと誤解して,CのかばんをCから奪い取り,Cに傷害を負わせたと
いう具体的事例について,甲乙丙それぞれの罪責を問うものであるところ,これ
らの事実関係を法的に分析した上で,事案の解決に必要な範囲で法解釈論を展開
し,事実を具体的に摘示しつつ法規範への当てはめを行って妥当な結論を導くこ
と,さらには,甲乙丙それぞれの罪責についての結論を導く法的思考過程が相互
に論理性を保ったものであることが求められる。
甲乙丙それぞれの罪責を検討するに当たっては,甲乙丙それぞれの行為や侵害さ
れた法益等に着目した上で,どのような犯罪の成否が問題となるのかを判断し,
各犯罪の構成要件要素を一つ一つ吟味し,これに問題文に現れている事実を丁寧
に拾い出して当てはめ,犯罪の成否を検討することになる。ただし,論じるべき
点が多岐にわたることから,事実認定上又は法律解釈上の重要な事項については
手厚く論じる一方で,必ずしも重要とはいえない事項については,簡潔な論述で
済ませるなど,答案全体のバランスを考えた構成を工夫することも必要である。
出題の趣旨でも示したように,甲の罪責の検討に当たっては,まず,A社新薬開
発部の部屋に立ち入り,新薬の書類を持ち出した行為に関して,前提として,建
造物侵入罪の成否を論じた上,甲の立場の変更を踏まえて,新薬の書類に係る占
有の帰属を論ずる必要があった。また,Cのかばんを奪い取って,その際にCに
傷害を負わせた行為に関しては,一つ目として,甲がCのかばんを甲のかばんと
誤解している点について,構成要件該当事実の認識の有無を当該犯罪の保護法益
を踏まえて論ずることが必要となり,二つ目として,甲がCから甲のかばんを盗
まれたと誤解している点について,違法性阻却事由に関する事実の錯誤を論ずる
必要がある。そして,三つ目として,Cに傷害を負わせている点について過剰性
の有無に触れる必要がある。
乙の罪責の検討においては,前提として,乙が何らの実行行為を行っていないこ
とから,共謀共同正犯の肯否について簡潔に論じた上,乙の行為が共同正犯とな
り得るのか,教唆犯の成否が問題となるにとどまるのかを,両者の区別基準につ
いて論じ,問題文の事実をその基準に当てはめることが求められていた。その上
で,新薬開発部長であった甲に対して,その管理に係る新薬の書類を持ち出すよ
う働きかけた乙の行為と,管理外にある新薬の書類を持ち出した甲の行為との間
の因果性に触れる必要があった。そして,上記因果性が認められることを前提と
して,乙の故意の問題,すなわち,乙は,甲がその管理に係る新薬の書類を持ち
出すものと認識していたところ,甲がその管理外の新薬の書類を持ち出したこと
から,認識と事実との間に構成要件にまたがるそごがあることになり,抽象的事
実の錯誤の問題を処理する必要がある。想定される罪名は,業務上横領罪と窃盗
罪であるが,認識と事実が異なる構成要件にまたがる場合であっても,両罪の実
質的重なり合いの有無によって処理するのが判例の立場である。ただし,業務上
横領罪と窃盗罪の重なり合いについて判断した判例はないことから,いずれの結
論を採るにせよ,重なり合いについてどのように判断するのかを各自の基準を立
てた上で,問題文の事実を当てはめるという論述が求められていた。
丙の罪責の検討に当たっては,窃盗罪の成否が問題となるところ,まず,甲のか
ばんに対する占有の帰属について,占有の要件を指摘した上で,問題文の中に丙
が甲のかばんを持ち出した際の占有関係に関する事実をその要件に則して拾い出
すことが求められ,次に,不法領得の意思について,その要否やその意義を示し
た上,丙に不法領得の意思が認められるかをその意義と矛盾なく説明することが
求められていた。また,不法領得の意思を否定した場合でも,直ちに,丙に犯罪
が成立しないとするのではなく,不法領得の意思の要否が問題となる理由に立ち
返り,毀棄罪の成否を更に検討することが求められていた。
3 採点実感等
各考査委員から寄せられた意見や感想をまとめると,以下のとおりである。
(1) 全体について
本問は,前記2のとおり,特に,甲の罪責を論ずるに当たって,各論点の体系
的な位置付けを明確に意識した上,厚く論ずべきものと簡潔に論ずべきものを
選別し,手際よく論じていく必要があった。すなわち,甲乙丙の罪責を論ずる
に当たって検討すべき論点には,重要性の点において軽重があり,重要度に応
じて論ずる必要があったが,そのような重要度を考慮することなく,本問にお
いて必ずしも重要とはいえない論点に多くを費やすなどしている答案も見受け
られた。
また,本問を論ずるに当たって必要とされる論点全てに触れた答案は少数にと
どまり,後述するとおり,甲の罪責について,刑法を体系的に理解することが
できていれば,必ず触れることができたであろう論点を落としている答案が多
かった。ただし,例年に比べると,途中答案となってしまった答案は少なかっ
たように思われた。
さらに,法的三段論法の意識に乏しい答案も散見された。すなわち,甲乙丙の
罪責を論ずるに当たっては,客観的構成要件該当性,主観的構成要件該当性,
あるいは急迫不正の侵害の有無等を論ずる必要があるところ,そのためには,
検討が必要となるそれぞれの規範を述べた上,事実を指摘して,これを当ては
める必要がある。この法的三段論法を意識せず,事実を抜き出して,いきなり
当てはめるという答案が散見され,法的三段論法の重要性についての意識が乏
しいのではないかと思われた。もとより,前記のように重要度に応じて記述す
る必要があるから,全ての論述について形式的にも法的三段論法を踏む必要は
ないが,少なくとも,規範定立を意識した答案が望まれる。
(2) 甲の罪責について
甲の罪責を検討するに当たって論ずべきものと思われる点は,1建造物侵入罪
の成否,2新薬の書類に係る窃盗罪ないし業務上横領罪の成否,3Cのかばん
に係る強盗(致傷)罪ないし窃盗罪の成否,4Cに対する傷害罪の成否である。
まず,建造物侵入罪については触れていない答案が相当数あった一方,その成
否を延々と論ずる答案が見られた。建造物侵入罪の成否の結論はともかく,部
員のいなくなった隙を見計らって新薬開発部の部屋に立ち入るという甲の行為
が同罪に該当するか否かを簡潔に論ずることが求められていた。建造物侵入罪
を論じている答案の中には,
「侵入」の意義を示すことなく,単に事実を挙げる
のみにとどまるものも散見された。また,
「住居」侵入罪の成否として論じてい
るものも見受けられ,法的概念についての理解が不十分なのではないかと考え
られた。
次に,2の点であるが,窃盗罪とする答案,業務上横領罪とする答案の両様が
あった。窃盗罪とする答案の中には,新薬の書類に対する占有の主体について,
これを金庫において管理している新薬開発部長であるとした上で,甲が同部長
を解任されている以上,金庫の暗証番号を知っていたとしても占有は失われた
として窃盗罪としているものが多かったが,占有の主体をA社とするなど,占
有についての理解が不足しているのではないかと思われる答案もあった。また,
業務上横領罪とした答案は,新薬開発部部長が占有の主体であるとしつつも,
甲が暗証番号を知っていることからその占有は失われないとするものが多数で
あったが,出題の趣旨でも述べたとおり,後任部長にも新薬の書類に対する占
有があることは明らかであって,これを的確に把握できていなかったといえる。
さらに,業務上横領罪とした答案の中には,甲が,乙の働きかけに応じ,
「分かっ
た。具体的な日にちは言えないが,新薬の書類を年内に渡そう。
」と言った時点
で横領行為を認めているものも少なからずあった。上記行動が不法領得の意思
の発現行為と理解したのであろうが,実行行為についての理解不足をうかがわ
せるものであった。なお,甲のこの点の罪責を論じるに当たって,業務上横領
罪ではないから窃盗罪が成立するなどと結論付ける答案も見られた。比喩的に
言えば,A罪とB罪の区別が問題となることもあり得るが,A罪が成立しない
から当然B罪が成立するわけではなく,B罪が成立するためには同罪の構成要
件に該当することが必要なのであって,その検討が必要であるとの意識が乏し
い受験者もいると思われた。
3の点であるが,まず,Cのかばんの持ち手を引っ張るという甲の行為の検討
に当たっては,甲の行為がCの意思の抑圧に向けた暴行といえるかどうかが問
題となるが,強盗罪を否定した答案においてもその問題に触れたものはほとん
ど見受けられなかった。簡単に強盗罪を認めた答案は,ひったくりに関する最
高裁判例(最決昭45・12・22刑集24巻13号1882頁)の理解が不
十分なのではないかと思われた。
そして,窃盗罪が成立するにせよ,強盗罪が成立するにせよ,本問では,甲の
構成要件該当事実の認識を検討することが求められていた。すなわち,甲は,
客観的にはCのかばんを甲のかばんであると誤信しており,かばんに関して言
えば,自己のかばんを取り返すという認識であった。そこで,窃盗罪ないし強
盗罪における「他人の物」に対する認識が認められるのかを,保護法益論に立
ち返って論ずることが求められていた。
また,甲は,Cが持っていたかばんを甲のかばんと勘違いしただけでなく,C
が甲のかばんを持ち去った窃盗犯人であると認識している。そこで,違法性阻
却事由に関する事実の錯誤,いわゆる誤想防衛の成否が問題となるところ,甲
が急迫不正の侵害の認識を有していた否かは,甲の認識があったものと仮定し
て急迫不正の侵害といえるかどうかを検討する必要があった。その際,窃盗罪
の既遂時期と侵害の急迫性の終了時期は必ずしも一致しないことを意識した論
述が期待されていたが,そのような答案はほとんどなかった。
急迫不正の侵害に対する誤信を肯定した答案は,誤想防衛ないし誤想過剰防衛
について論じていたが,その際,必要性,相当性に触れて結論を出しているも
のが多かった。また,必要性,相当性を肯定し,誤想防衛の成立を認めた後,
甲が安易に急迫不正の侵害を誤信したことについて過失犯の成否を論じている
答案も少なからずあった。他方,侵害の急迫性を否定し,自救行為として論じ
た答案は,自救行為が正当防衛よりも厳しい要件の下で認められるという意識
に乏しいものが多かったように思われる。自救行為は認められないとして簡単
に故意を認めてしまったものも多かった。
防衛行為ないし自救行為の必要性,相当性の判断に当たっては,これらの要件
が具体的に何を意味するのかに触れることなく,事実を挙げて,単に「相当性
がある。」,
「相当性がない。
」と結論付けている答案も散見された。また,相当
性の判断において,甲が結果的にCに傷害を負わせたことを重視して過剰性を
認めている答案については,結果のみにとらわれているのではないかという印
象を受けた。
本問では,このように構成要件該当事実の認識の問題と,違法性阻却事由に関
する錯誤の問題の双方を論ずる必要があったが,窃盗罪ないし強盗罪の故意(構
成要件該当事実の認識)について触れた多くの答案は,違法性阻却事由に関す
る事実の錯誤について触れていないものが多かった一方,後者に言及していた
答案は,前者に触れることがないものが多かった。この点は,刑法を体系的に
理解していないのではないかと危惧された。
(3) 乙の罪責について
乙については,実行行為を行っていないことから,共謀共同正犯ないし教唆犯
の成否が問題となるところ,問題文には検討を要すると考えられる事実が多く
記載されているにもかかわらず,それらの事実について検討することなく,教
唆犯の成立を認めている答案が少なからずあった。
業務上横領罪と窃盗罪の重なり合いについては,重なり合いに関する判断基準
を自分なりに示した上で結論を導き出すことが求められるところ,これを明確
に論じた判例がなく難しかったのではないかと思われるが,全体的に,基準を
立てようとする姿勢は見受けられた。例えば,保護法益の本質論に立ち返って,
両罪の重なり合いについて自分なりの基準(どのような事情を考慮して重なり
合いを認めるのかという基準)を立て,具体的に論じている答案があった。他
方,基準を立てることなく,単に事実を若干挙げて直ちに結論を述べる答案,
一応の基準を立てているものの,占有侵害という点で共通するなどとして横領
罪と窃盗罪の重なり合いを認めるといった論旨が一貫していない答案は評価が
低いものとならざるを得ない。
(4) 丙の罪責について
丙の罪責を検討するに当たっては,駅待合室に置かれた甲のかばんに甲の占有
が及んでいるかどうかについて,具体的な事実を踏まえた論述が求められてい
た。また,本問では,不法領得の意思が問題となる。
まず,甲のかばんに対する占有関係であるが,占有の要件について明確に論じ
た上で,その要件に即して,事実を取り上げることができている答案もそれな
りにあった。他方,事実はよく取り上げているものの,それが占有のどの要件
に位置付けられる事実なのか意識できていない答案,占有の要件に対する意識
はあると思われるものの,専ら占有の意思に比重を置いた答案などがあった。
事実を単に羅列するのではなく,その事実が占有の要件との関係でどのような
意味を持つのかを意識している答案が評価されることとなる。
不法領得の意思の問題については,その規範を定立し,事実を当てはめて一定
の結論に至ることが求められていたところ,定義自体は,判例(大判大4・5・
21刑録21輯663頁)を踏まえて記述されている答案が多かった。本問の
ような事案の場合,不法領得の意思をどのように考えるのかが問題となり得る
ところであるが,いずれの結論を採るにせよ,近時の判例(最決平16・11・
30刑集58巻8号1005頁)を踏まえて,説得的に論じることができた答
案は評価が高かった。他方,丙に不法領得の意思は認められないという結論を
採る答案の中には,丙の行為が器物損壊罪に該当するか否かの検討にたどり着
かず,不法領得の意思を否定することによって直ちに丙は何らの罪責を負わな
いとしているものもあった。不法領得の意思の要否がなぜ議論となり得るのか,
その議論の出発点が理解できていないのではないかと思われた。
(5) その他
例年の指摘であるが,少数ながら,字が乱雑なために判読するのが著しく困難
な答案が見られた。時間の余裕がないことは理解できるところであるが,達筆
である必要はないものの,採点者に読まれることを意識し,読みやすい字で丁
寧に答案を書くことが望まれる。
(6) 答案の水準
以上の採点実感を前提に,
「優秀」
「良好」
「一応の水準」
「不良」という四つ
の答案の水準を示すと,以下のとおりである。
「優秀」と認められる答案とは,本問の事案を的確に分析した上で,本問の出
題の趣旨や上記採点の基本方針に示された主要な問題点について検討を加え,
成否が問題となる犯罪の構成要件要素等について正確に理解するとともに,必
要に応じて法解釈論を展開し,事実を具体的に摘示して当てはめを行い,甲乙
丙の刑事責任について妥当な結論を導いている答案である。特に,摘示した具
体的事実の持つ意味を論じつつ当てはめを行っている答案は高い評価を受けた。
「良好」な水準に達している答案とは,本問の出題の趣旨及び上記採点の基本
方針に示された主要な問題点は理解できており,甲乙丙の刑事責任について妥
当な結論を導くことができているものの,一部の問題点についての論述を欠く
もの,主要な問題点の検討において,構成要件要素の理解が一部不正確であっ
たり,必要な法解釈論の展開がやや不十分であったり,必要な事実の抽出やそ
の意味付けが部分的に不足していると認められたもの等である。
「一応の水準」に達している答案とは,事案の分析が不十分であったり,複数
の主要な問題点についての論述を欠くなどの問題はあるものの,刑法の基本的
事柄については一応の理解を示しているような答案である。
「不良」と認められる答案とは,事案の分析がほとんどできていないもの,刑
法の基本的概念の理解が不十分であるために,本問の出題の趣旨及び上記採点
の基本方針に示された主要な問題点を理解していないもの,事案の解決に関係
のない法解釈論を延々と展開しているもの,問題点には気付いているものの結
論が著しく妥当でないもの等である。
4 今後の法科大学院教育に求めるもの
刑法の学習においては,総論の理論体系,例えば,実行行為,結果,因果関係,
故意等の体系上の位置付けや相互の関係を十分に理解した上,これらを意識しつ
つ,検討の順序にも十分注意して論理的に論述することが必要である。
また,繰り返し指摘しているところであるが,判例学習の際には,単に結論のみ
を覚えるのではなく,当該判例の具体的事案の内容や結論に至る理論構成等を意
識することが必要であり,当該判例が挙げた規範や考慮要素が刑法の体系上どこ
に位置付けられ,他のどのような事案や場面に当てはまるのかなどについてイメー
ジを持つことが必要であると思われる。
このような観点から,法科大学院教育においては,引き続き判例の検討等を通し
て刑法の基本的知識や理解を修得させるとともに,これに基づき,具体的な事案
について妥当な解決を導き出す能力を涵養するよう一層努めていただきたい。
平成27年司法試験の採点実感等に関する意見(刑事系科目第2問)
1 採点方針等
本年の問題も,昨年までと同様,比較的長文の事例を設定し,その捜査及び公判
の過程に現れた刑事手続法上の問題点について,問題の所在を的確に把握し,その
法的解決に重要な具体的事実を抽出・分析した上で,これに的確な法解釈を経て導
かれた法準則を適用して一定の結論を導き,その過程を筋道立てて説得的に論述す
ることを求めている。法律実務家になるための基本的学識・法解釈適用能力・論理
的思考力・論述能力等を試すことを狙いとするものである。
出題の趣旨は,公表されているとおりである。
〔設問1〕は,いわゆる「振り込め詐欺」グループによる詐欺未遂事件に関し,
共犯者ではないかと疑われる乙の動静を探っていた司法警察員Pが,乙方マンショ
ン居室の隣室のベランダにおいて,乙方ベランダに出て携帯電話で通話を始めた乙
の会話を約3分間にわたりICレコーダで録音した【捜査1】
,その後,Pらが,
隣室において,
壁の振動を増幅させて音声を聞き取り可能にする本件機器を用いて,
壁に耳を当てても聞こえなかった乙方居室内の音声を約10時間にわたり聞き取り
つつ,ICレコーダで録音した【捜査2】について,それぞれの適法性を問うもの
である。いわゆる強制処分と任意処分の区別,任意処分の限界について,法的判断
枠組みを示した上で,設問の事例に現れた具体的事実がその判断枠組みの適用上い
かなる意味を持つのかを意識しつつ,
【捜査1】及び【捜査2】がそれぞれ強制処
分なのか任意処分なのか,
各処分が服する法的規律に照らし適法なのか違法なのか,
論理的に一貫した検討がなされることを求めている。
〔設問2〕前段は,不起訴約束によってなされた甲の供述(自白)を基に乙が逮
捕され,逮捕後の取調べにおいて乙が任意になした自白を疎明資料として発付され
た捜索差押許可状による捜索差押えの結果,本件文書及び本件メモが押収されたと
いう事実関係において,その証拠収集上の問題点から,本件文書及び本件メモの証
拠能力を問うものである。本件文書及び本件メモが不起訴約束によって得られた甲
の供述(自白)の派生証拠に当たることを踏まえ,甲の供述(自白)の獲得手続の
問題点と,そこから派生して得られた証拠の証拠能力について,自白法則,違法収
集証拠排除法則等の刑事訴訟法の基本原則に対する理解を踏まえた検討を行い,派
生証拠の証拠能力が否定される趣旨及びその法的判断枠組みに照らし,設問の具体
的事実関係に即した結論を導くことを求めている。
〔設問2〕後段は,本件文書及び本件メモのそれぞれについて,伝聞法則の適用
の有無という観点から証拠能力を問うものである。書面が伝聞証拠に当たるか否か
は,それによって証明しようとする要証事実ないし立証事項が何であるのかと関連
して決まるという基本的理解を前提に,
本件文書及び本件メモのそれぞれについて,
丙の関与(丙と乙との共謀)を立証するためには,いかなる事実を証明しようとす
ることになるのか,その要証事実ないし立証事項との関係で,書面の記載内容の真
実性が問題となるのかどうかを具体的に検討し,伝聞法則が適用される場合には,
さらに伝聞例外として証拠能力が認められるかどうかについても検討することを求
めている。
採点に当たっては,このような出題の趣旨に沿った論述が的確になされているか
に留意した。
前記各設問は,いずれも捜査及び公判に関し刑事訴訟法が定める制度・手続及び
それに関連する判例の基本的な理解に関わるものであり,法科大学院において刑事
手続に関する科目を修得した者であれば,本事例において何を論じるべきかは,お
のずと把握できるはずである。
〔設問1〕の【捜査1】及び【捜査2】は,会話の
秘密録音と呼び得る捜査手法であるが,しばしば「秘密録音」という表題の下に通
信傍受との対比で論じられることがあった会話の一方当事者が相手方に秘密で行う
会話録音とは,話者と録音者の関係が異なる。また,
〔設問2〕前段で問題となる
派生証拠の証拠能力も,不起訴約束によって獲得した供述から派生した証拠の証拠
能力を問題とする点で,一般に「毒樹の果実」と呼ばれる,違法収集証拠である第
1次証拠から派生して得られた第2次証拠の証拠能力という典型的な問題そのもの
ではない。
〔設問2〕後段で問題となる書面の伝聞証拠該当性については,問題文
により与えられた立証趣旨を前提に検討するのではなく,いわば検察官の立場に身
を置いて,当該事件における証拠請求の狙いを踏まえた具体的な要証事実を自ら考
えた上で検討することを求めている。これらの点で「ひと捻り」のある出題である
が,いずれも,刑事訴訟法が定める制度・手続やそれらを支える基本原則,関連す
る判例の理解を前提に,それらを駆使しつつ,事案や問題の特殊性を踏まえた考察
を求めるものであり,典型的「論点」に関する表層的・断片的な知識にとどまらな
い刑事訴訟法の底の深い理解と,それを基礎とした柔軟で実践的な考察力の有無を
問うものである。
2 採点実感
各考査委員からの意見を踏まえた感想を述べる。
〔設問1〕については,
【捜査1】及び【捜査2】の各適法性について,事例に
即して法的問題を的確に捉え,強制処分と任意処分の区別,任意処分の限界に関し
て,刑事訴訟法第197条第1項の解釈問題であることを意識しつつ,基本的な判
例の内容も踏まえてその判断枠組みを明確にした上で,それぞれの判断に関わる具
体的事実を事例中から適切に抽出・整理して意味付けし,それを前記枠組みに当て
はめて説得的に結論を導いた答案が見受けられた。
また,
〔設問2〕前段については,供述獲得手続の問題点と,派生証拠の証拠能
力に与える影響について,刑事訴訟法上の原則を踏まえて問題点を正確に把握し,
本事例に現れた具体的な事情を踏まえて検討を加え,結論を導くに至った思考過程
を説得的に論じた答案が見受けられた。
〔設問2〕後段についても,本件文書及び本件メモの各証拠能力について,伝聞
証拠の意義に関する正確な理解を前提に,丙と乙との共謀を証明するために想定さ
れる具体的な要証事実を的確に示した上で,伝聞証拠かどうかを判断し,結論を導
く答案が見受けられた。
他方,抽象的な法原則・法概念やそれらの定義,関連する判例の表現を機械的に
記述するのみで,具体的事実にこれらを適用することができていない答案や,そも
そも基本的な法原則・法概念,判例の理解に誤りがあったり,具体的事実の抽出や
その意味の分析が不十分・不適切であったりする答案も見受けられた。
〔設問1〕においては,
【捜査1】及び【捜査2】の各適法性を論じる前提とし
て,各捜査が強制処分か任意処分かを検討する必要がある。強制処分と任意処分の
区別の基準について,多くの答案が,
「個人の意思を制圧し,身体,住居,財産等
に制約を加え」るかどうかという最高裁判例(最決昭和51年3月16日刑集30
巻2号187頁)の示す基準や,
「相手方の意思に反して,重要な権利・利益を制
約する処分かどうか」という現在の有力な学説の示す基準を挙げて検討していた。
もっとも,この問題は,刑事訴訟法第197条第1項ただし書の「強制の処分」の
意義をどのように解するかという解釈問題であるにもかかわらず,そのことが十分
意識されていない答案,そのこととも関係して,強制処分であることと令状主義と
を何らの説明も加えることなく直結させ,強制処分が服する法的規律について,法
定主義と令状主義とを混同しているのではないかと見られる答案などが散見され
た。また,強制処分のメルクマールとして,
「権利・利益の制約」に着目するとす
ればそれはなぜか,なぜ「重要な」権利・利益に限られるのか,なぜ「身体,住居,
財産等」という判例の文言を「重要な権利・利益」と等置できるのか等の点につい
て,十分な理由付けに欠ける答案が少なくなかった。例えば,
「重要な」権利・利
益とされる理由について,現在の有力な学説は,現に刑事訴訟法が定めている強制
処分との対比(それらと同程度に厳格な要件・手続を定めて保護するに値するだけ
の権利・利益)や前記最高裁判例で被制約利益として例示されている
「身体,住居,
財産」が憲法第33条及び同法第35条が保障するような重要で価値が高いもので
あることなどから,単なる権利・利益の制約ではなく,一定の重要な権利・利益の
制約を意味すると解するものであるが,このような点まで意識して論じられている
答案は少なく,
「真実発見と人権保障の調和」というような極めて抽象的な理由を
示すにとどまるものが目立った。
基準の当てはめに関しては,まず,前記最高裁判例の示す2つの要素のうち「意
思の制圧」の側面につき,
【捜査1】及び【捜査2】ともに対象者である乙に認識
されることなく秘密裏に聴取・録音がなされていることから,現実に乙の明示の意
思に反し又はその意思を制圧した事実は認められない点をどのように考えるかが問
題となる。この点では,対象者が知らない間になされたこと,あるいは現実に意思
を制圧した事実がないことを理由に,直ちに強制処分性を否定し,任意処分と結論
付ける答案が少なからず見受けられた一方で,
「意思の制圧」はないが重要な権利・
利益を侵害・制約するので強制処分であるとするものなど,判例の理解を誤ってい
るのではないかと疑われる答案も見受けられた。そのほか,特に具体的な検討をす
ることなく「意思の制圧」はあるとするものや,
「意思の制圧」の側面について全
く言及のないものなども見られた。
次に,
「身体,住居,財産等の制約」の側面については,
【捜査1】と【捜査2】
とでは対象となった会話の行われた場所や聴取・録音の態様が異なっていることを
意識しつつ,
「重要な権利・利益の制約」があるといえるか,被制約利益の内容及
びその重要性を具体的に検討することが必要である。しかしながら,比較的多くの
答案は,
【捜査1】及び【捜査2】のいずれについても,被制約利益の内容として
は抽象的に「プライバシーの利益」とするのみで,その具体的内容を踏み込んで明
らかにすることなく,
【捜査1】については,プライバシーの利益が放棄されてお
り,重要な権利・利益の侵害・制約はないが,
【捜査2】については,未だプライ
バシーの利益は放棄されていないから,重要な権利・利益の侵害・制約が認められ
るなどと結論付けるにとどまり,重要性の評価に関する検討も十分にはなされてい
なかった。被制約利益の具体的内容やその重要性に関する検討においては,憲法第
35条により保障を受けるもの又はそれと同視し得るものと言えるかどうかという
観点や,人の聴覚で聴取されることと,機械で録音されて記録されることとの違い
といった視点からの検討がなされることも期待したが(後者の点では,公の場所に
おける人の容ぼう等の写真撮影について,個人の私生活上の自由の一つとして「み
だりに容ぼう等を撮影されない自由」が認められることを明らかにした上で,一定
の場合にその許容性を認めた最大判昭和44年12月24日刑集23巻12号16
25頁が参考となり得る)
,そのような検討がなされている答案は,残念ながら少
数にとどまった。
【捜査1】については,任意処分とした上で,当該捜査が任意捜査として許容さ
れる限度のものかを検討する答案が多数を占めたが,
その許容性の判断においては,
「必要性,緊急性なども考慮したうえ,具体的状況のもとで相当と認められる限度」
(前記最決昭和51年)かどうかが吟味されることになる。この判断は,いわゆる
「比例原則」に基づくものであり,個別具体的事案において,当該捜査手段により
対象者に生じる法益侵害の内容・程度と,捜査目的を達成するため当該手段を用い
る必要性との合理的権衡を欠いていないか,
両者の比較衡量によって行われるから,
実際の判断に当たっては,設問の事例に現れた具体的事実がその判断枠組みにおい
てどのような意味を持つのかを意識しながら,一方で,当該捜査手段によりどのよ
うな内容の法益がどの程度侵害されるのかを具体的に明らかにしつつ,他方で,対
象となる犯罪の性質・重大性,捜査対象者に対する嫌疑の程度,当該捜査によって
証拠を保全する必要性・緊急性に関わる具体的事情を適切に抽出して当該捜査手段
を用いる必要性の程度を検討し,
それらを総合して結論を導く必要がある。
しかし,
判断基準については,前記最高裁判例の判示に表れる「必要性」,「緊急性」,「相
当性」というキーワードを平面的に羅列するにとどまり,
「具体的状況のもとで相
当と認められる」かどうかの判断構造の理解が十分とはいえない答案も見られた。
また,判断基準への当てはめにおいても,被侵害法益の具体的内容を明示しないも
のや,いわゆる「振り込め詐欺」に対する取締りの一般的な必要性を挙げて捜査の
必要性・緊急性を肯定し,それ以上,
【捜査1】で会話を聴取・録音することのよ
り具体的な必要性には検討が及んでいないものなど,具体的事情の抽出・評価が不
十分であったり,判断基準に即した必要な分析・検討に欠けるような答案が比較的
多数見受けられた。特に,本件の場合,
「会話は直ちに録音して保全しなければ消
失してしまうこと」が録音の必要性(
「緊急性」
)を基礎づける有力な一事情とな
り得るが,そのような点にまで注意を払って論じられていた答案は少数にとどまっ
た。なお,
【捜査1】について,強制処分か任意処分かを検討するに当たっては,
「プライバシーの利益は放棄されており,重要な権利・利益の侵害はない」としつ
つ,任意捜査の許容限度を論じる段階では,
「プライバシー権の侵害を伴う」など
と論理的に矛盾するかのような記述をしている答案も見られた。
【捜査2】については,強制処分であるとする答案が多数を占めたが,その結論
を導くに当たっては,前記のとおり,被制約利益の具体的内容やその重要性の評価
について,十分な検討が求められる。しかし,通常外部から探知されることのない
私的領域内における会話を特別な機器を用いて増幅し,聴取・録音した【捜査2】
により制約されるプライバシーの権利の内容・重要性について,例えば,憲法第3
5条の規制が及び,
強制処分であることも明らかな個人の
「住居」
内への立ち入り・
捜索の場合と対比するなどして,説得的な論述ができている答案は少数にとどまっ
た。
【捜査2】についても,
「意思の制圧」がないことから任意処分であるとする
答案が存在したことは,前記のとおりである。また,当該捜査により対象者に生じ
る法益侵害の内容・程度を考慮して,任意処分としつつ,任意捜査としての許容限
度を超えるものとして違法との結論を導くもの,任意処分としつつ,捜査の必要性
を強調して適法とするものも見られたが,
【捜査2】によって生じる法益侵害の重
要性に関する評価・検討において不十分・不適切なものが多かったほか,後者の結
論を導くものの中には,結論先行で素直なものの見方ができていないことを感じさ
せる答案,バランス感覚のずれを感じさせる答案も見受けられた。
強制処分である場合,強制処分法定主義(刑訴法第197条第1項ただし書)か
らは,
【捜査2】のような捜査手段を直接定めた明文規定は存在しないことから,
法定の根拠規定を欠くため違法となるのではないかが問題となる。そして,法定の
根拠規定の有無に関して,
【捜査2】が強制処分たる「検証」に当たるといえるか
を検討し,
「検証」に当たらないとすれば,根拠規定を欠くため違法となり,
「検
証」に当たるとすれば,本件では令状(検証許可状)を得ることなく行ったため違
法となるとの結論が導かれることとなる。しかし,そのような検討を行った答案は
限られており,単純に「令状なく行っているから違法」としたり,
「強制処分だか
ら違法」とするような答案が多く見受けられた。
なお,本事例において,
【捜査1】は,乙方ベランダにおいて携帯電話で通話中
の乙の会話を聴取しつつICレコーダで録音したものであり,
【捜査2】は,本件
機器を用いて乙方室内における音声を聴取しつつ本件機器に接続したICレコーダ
に録音したものであって,電気通信の過程における通信当事者間の会話を傍受・録
音したものではない。答案の中には,
「犯罪捜査のための通信傍受に関する法律」
に違反するものかどうかを検討したものも少数ながら見られたが,各捜査が同法の
規定する通信傍受に該当しないことは明らかであるので,この点を論ずることは必
要ない。また,本事例における録音を「いわゆる秘密録音である」と性格付けした
上で,
【捜査1】について,電話の通話の相手方の利益を考慮するものも見られた。
このような答案は,本事例を,これまで「秘密録音」として論じられることが多かっ
た,会話の一方当事者が相手方に無断で秘密裏にその会話を録音し,あるいはその
一方の同意を得た第三者が相手方に秘密裏に会話を聴取・録音するという場合と誤
解したものと思われるが,本事例の事実関係を正確に把握しそれに即した検討をす
ることができなかった例といえる。
〔設問2〕前段については,前提として,
「証拠収集上の問題点」の所在を正確
に把握することが必要である。
本事例は,
不起訴約束によってなされた甲の供述(自白)を起点としてその後の捜査手続が進行し,本件文書及び本件メモの押収に至っ
たものであり,本件文書及び本件メモは,甲の供述(自白)から派生して得られた
証拠に当たる。そのことを踏まえた上で,まず,不起訴約束による甲の供述は,甲
の自白として用いる場合には,典型的な不任意自白として,自白法則により証拠能
力が否定されるものであることにも照らしつつ,その供述獲得手続の問題点を論ず
ることが求められる。しかし,そもそも不起訴約束によってなされた自白の任意性
を検討しなかったり,十分な検討を経ないまま任意性に問題がないとする答案も,
少数ではあるが存在した。本事例は,
「被疑者が,起訴不起訴の決定権をもつ検察
官の,自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ,起訴猶予になることを期待
してした自白は,任意性に疑いがあるものとして,証拠能力を欠くものと解するの
が相当である。
」と判示した著名な最高裁判例(最判昭和41年7月1日刑集20
巻6号537頁)の事案とほぼ同様の事例であるから,当然,同判例を踏まえた問
題点の検討・論述が求められる。仮に同判例を知らなかったとしても,起訴不起訴
の決定権をもつ検察官が被疑者に対して自白をすれば起訴猶予にする旨約束するこ
とは,被疑者の心理状態に重大な影響をもたらす利益を提示するものであり,自白
法則に対する基本的理解を有していれば,当然にこの点を問題として把握し,必要
な検討を加えることは可能であったというべきである。これに対し,最高裁判例も
存在する典型的な論点であるためか,他の問題点との分量のバランスを失する程度
に詳細かつ多量の論述を行っている答案も少なからず見受けられたが,
その中には,
問題の所在・構造の正確な把握に基づきそれに即した論述ができているかという観
点から見て,なぜこの問題を論ずるのかを意識しないまま機械的に論述を行ってい
るだけの答案と共通する問題を感じさせるものも存在した。
甲の供述について,甲の自白として用いる場合には,不任意自白として証拠能力
が否定されるものであるとの前提に立ったとしても,そこから派生証拠の証拠能力
を検討する筋道は様々に考えられる。しかし,大部分の答案は,甲の供述獲得手続
を何らかの意味で違法とし(したがって,甲の供述を違法収集証拠とし)
,本件文
書及び本件メモをそこから派生した証拠と位置付けて,その証拠能力を検討してい
た。その場合,不任意自白の証拠能力が否定される根拠についての諸見解を踏まえ
つつ,甲の供述(自白)獲得手続がどのような意味で違法といえるのかを明らかに
する必要がある(なお,甲の供述は,甲に対して用いる場合には,不任意の自白で
あるが,乙に対する令状請求手続で用いる場合,乙との関係で見れば,第三者の供
述であるから,
自白法則が適用される自白ではないのではないかという問題もある。
しかし,この点を問題にした答案は,ほとんどなかった。)。不任意自白の証拠能
力が否定される根拠につき,いわゆる任意性説(虚偽排除説ないし同説と人権擁護
説との併用説)の立場に立つ場合,本事例における甲の自白が不任意自白とされる
理由は,類型的に虚偽のおそれが大きい点に求められることになろうが,そのこと
から,供述獲得手続に違法があるといえるかは検討を要する問題である。しかし,
この点を意識的に取り上げ検討を試みた答案は少数であり,多くは,格別の説明の
ないまま,虚偽排除の観点から任意性が認められないこととそのような供述を獲得
した手続が違法であることとを直結させ,
「甲の自白は虚偽のおそれがあり,任意
性が認められず,違法である。
」などと論じるにとどまっていた。また,任意性説
の立場に立ちつつ,甲に対する供述獲得手続は,甲の「黙秘権」ないしは「供述の
自由」を(実質的に)侵害するものとして,違法であるとする答案や,不任意自白
の証拠能力が否定される根拠について,いわゆる違法排除説の立場に立ちつつ,不
起訴約束は供述獲得手段として違法であるとする答案も相当数見られたが,ここで
も,不起訴約束による供述獲得がなぜ「黙秘権」や「供述の自由」の侵害と評価さ
れあるいは違法と評価されるのかについて,具体的な検討ができていた答案は限ら
れ,多くは,結論を示すにとどまっていた。
なお,任意性説に立ち虚偽排除の観点を貫いた場合,派生証拠の証拠能力を否定
する趣旨が,証拠収集手続の瑕疵により第1次証拠の証拠能力を否定する趣旨を徹
底することにあるとすれば,正しい事実認定の確保の観点から,類型的に虚偽のお
それが大きい供述が排除されたとしても,そのことから当該供述の派生証拠の証拠
能力にまで影響が及ぶ理由はないのではないかとの問題も生じ得る。しかし,この
ような方向で問題を検討した答案はあまり見られなかった。また,本事例では,甲
の供述獲得は後の乙の逮捕及び取調べにつなげることを意図した側面も見られるこ
とから,虚偽排除の観点からでも,類型的に虚偽のおそれが大きい不任意の供述を
逮捕状の疎明資料に用い得るか,また,そのようにして発付された逮捕状は有効か
を問題とする余地などもあったと思われるが,そのような見地から検討した答案も
少数にとどまった。
次に,派生証拠の証拠能力については,関連する最高裁判例(最判昭和61年4
月25日刑集40巻3号215頁,最判平成15年2月14日刑集57巻2号12
1頁等)
をも踏まえ,
先行手続と後行手続との間に一定の関係が認められる場合に,
先行手続の違法の有無,程度も考慮しつつ先行手続の違法の後行手続への承継を判
断するという考え方をとるにせよ,先行手続の違法の内容・程度と,先行手続と証
拠(証拠収集手続)との関連性の程度とを総合して判断するという考え方をとるに
せよ,適切な判断枠組みを示した上で,その枠組みに従い,先行手続に存在する違
法の重大性,違法手続と証拠(又はその収集手続)との関連性の密接度や希釈要因
となり得る事情について,
設問の具体的事例に即した検討・論述を行う必要がある。
この点,多くの答案は,前記最判昭和61年の示す「同一目的・直接利用関係」や,
前記最判平成15年の示す
「密接関連性」
等の表現を用いつつ検討を加えていたが,
その具体的意味内容や各判例の判示する判断枠組みにおける位置・役割について,
理解が十分でないと思われるものも少なくなかった。また,そもそも判断枠組みを
示さないまま,具体的事情の検討に進んでいるものも存在した。
本問では,甲の取調べ,乙の逮捕及び逮捕後の乙の取調べ,並びに,Hマンショ
ン705号室の捜索による本件文書及び本件メモの押収は,いずれも手続上は別個
のものであって,甲供述,乙供述,本件文書及び本件メモの各証拠は,相互に関連
するものとは直ちにいえないが,
Pらは,
甲の自白が得られたことによって初めて,
乙を本件で逮捕して取り調べることが可能となったものであり,その逮捕後の身柄
拘束中の取調べの際に乙が自白し,その自白に基づいて捜索差押許可状の発付を得
たことにより,本件文書及び本件メモの発見押収に至ったものであるといった事情
が存することから,相互に一定の関係性や関連性を認め得るということが可能とな
るものである。しかし,関連性の検討に当たり,このような点を十分に意識して論
じられているといえる答案は少数にとどまり,当然のように関連性が認められるこ
とを前提としている答案や,逆に「甲の自白(の獲得手続)は違法であるが,乙の
自白は任意になされているので,関連性がない。
」と簡単に断じる答案なども,少
なからず見受けられた。
関連性の密接度の検討に当たっては,特に,希釈要因となり得る事情の検討が重
要である。この点では,甲の供述獲得から本件文書及び本件メモの押収までの過程
に,乙の任意性のある自白が介在している点とともに,前記最判平成15年の判示
を踏まえれば,二度の令状審査・発付(乙に対する逮捕状,Hマンション705号
室に対する捜索差押許可状)が介在している点が問題となる。これらの点は,比較
的多くの答案において何らか言及されていたが,関連性の希釈要因として文字どお
り言及ないし摘示される程度の論述にとどまっているものが多く,これらの介在事
情が派生証拠の証拠能力判断においてどのような意味を有するものかを掘り下げて
検討・論述できていた答案は,少数にとどまった。
なお,少数ながら,
〔設問2〕前段について,いわゆる「反復自白」の問題とし
て,検討・論述がなされている答案が見られたが,設問の事例に表れた具体的事実
の把握を誤ったものというほかない。
〔設問2〕後段については,本件文書及び本件メモの証拠能力に関し,伝聞法則
の適用の有無が問題となることは,おおむね理解されていた。ただし,極めて少数
ではあったが,想定される要証事実の検討のみに終始し,伝聞の問題を含めて本件
文書及び本件メモの証拠能力に関して一切言及がなかった答案も見受けられた。ま
た,本件文書については,伝聞証拠該当性を一切検討することなく,当初から非供
述証拠として扱い,関連性の問題等を検討している答案も見受けられた。
まず,
本件文書及び本件メモのような書面が伝聞証拠に当たるか否かについては,
要証事実との関係で書面の記載内容の真実性(書面に述べられたとおりの事実の存
在)が問題となるか否かを検討する必要があるが,この点は,おおむね理解されて
いた。ただし,この点を含め伝聞証拠の定義を示すに当たり,内容の真実性の証明
に用いられるのは「原供述」
,信用性を吟味できないのも「原供述」
,伝聞証拠と
して排除されるのは原供述を含む「公判供述」
「書面」という関係が正確に表現で
きていない答案は殊の外多かった。内容の真実性が問題となるか否かについて,丙
と乙との共謀を立証するための証拠として用いられる場合の具体的な要証事実を検
討して当てはめる段階では,これを適切に行えた答案とそうでない答案とに大きく
分かれた。具体的には,本件文書及び本件メモの体裁や記載内容,設問の事例の具
体的事実関係を踏まえて,本件文書及び本件メモのそれぞれについて,丙と乙との
共謀を立証するために,各証拠によってどのような事実を立証しようとするのかを
具体的に考察し,その事実を立証するためには,各書面に記載された記載内容が真
実であることが問題となるかどうかを検討して,適切に結論を導いた答案が見られ
た一方で,抽象的に「丙と乙との共謀」が要証事実であるとするのみで,それ以上
具体的な検討を行わなかった結果,伝聞証拠該当性についても十分な検討を尽くせ
なかった答案が見られた。また,
「想定される具体的な要証事実を検討して」とは,
事例中に記載されている「丙と乙との共謀を立証するため」という検察官の証拠調
べ請求の狙いを前提に,本件文書及び本件メモを用いて,
「丙と乙との共謀」の立
証に有用な(その間接事実となる)事実を証明しようとすれば,それぞれどのよう
な事実が想定されるかを検討せよとの意味であるが,それを誤解し,
「丙と乙との
共謀を立証するため」という検察官の狙い自体を「立証趣旨」と見た上で,丙の公
判における争点との関係で,このような立証趣旨を掲げることの当否を検討すると
いうほとんど意味のない作業に労を費やした答案が少なからず見受けられた。
本件文書については,比較的多数の答案が非伝聞との結論に至っていたが,その
論述については,本件文書の記載と実際になされた本件犯行態様とが一致すること
及び本件文書から丙の指紋が検出されたことといった設問の具体的事実関係を検討
した上で,本件文書を犯行計画を記載した文書(いわゆる犯行マニュアル)とし,
その存在自体が謀議の存在及び丙の関与を推認させる事実となるため,その記載内
容の真実性が問題となるものではないとして非伝聞との結論を適切に導くことがで
きたものから,本件文書は犯行マニュアルであるとするが,例えば,丙の指紋が付
着していたことに言及がない等具体的な事実関係の検討が不十分なもの,丙と乙と
の共謀を立証するための具体的な要証事実の検討を十分になさないまま,
「本件文
書は犯行マニュアルであるので,非伝聞である。
」と結論付けるものなど,多岐に
わたった。
次に,
本件メモは,
丙から乙に対して電話で一定の内容の指示がなされた事実を,
乙が知覚,記憶し,それをメモの形で表現,叙述したものである。本件メモを丙と
乙との共謀を立証するために用いる場合には,本件メモのとおり,丙から乙に対し
てそこに記載されたような指示がなされたことが要証事実となり,本件メモは,記
載内容の真実性の証明に用いられることとなるから,乙の供述書の性質を有する書
面として,伝聞証拠に当たることになる(要証事実を推認するには,乙の知覚,記
憶,表現,叙述に誤りがないかが問題となる。)。しかし,答案では,これを非伝
聞とするものが予想外に多く見受けられた。中でも比較的多く見られたのは,本件
メモについて,いわゆる「心理状態を立証するものである」として非伝聞証拠とす
るものである。しかし,乙が作成した本件メモに叙述された心理状態は,乙の心理
状態(意図・計画)でしかなく,本事例の丙の公判において立証されなければなら
ないのは,丙の関与(そのための丙と乙との共謀)であるから,心理状態の供述を
記載した書面を記載内容どおりの心理状態の証明に用いる場合,非伝聞として扱う
ことができるとしても,丙の関与を立証する上で,乙の心理状態を立証することに
どのような意味があるかが問題となり,それがないとすれば,そのような事実を要
証事実として本件メモを非伝聞とすることは許されないことになる。上記のような
答案は,要証事実との関係を意識した検討がなされたか,疑問を感じさせる例であ
る。非伝聞とする理由付けは,他にも様々に見られたが,例えば,
「本件メモは,
乙が丙との電話で聞いた内容をそのまま書き取ったものであるから,知覚・記憶・
表現・叙述の過程に誤りが混入するおそれが認められない」ということを理由に挙
げて非伝聞とするもののように,そもそも伝聞法則及び伝聞証拠の意義の正確な理
解を欠いているのではないかと疑わせるものも見られた。
本件メモが伝聞証拠に該当する場合,伝聞例外の要件を満たすかどうかを検討す
べきことになるが,伝聞証拠に該当することから直ちに証拠能力が認められないと
する答案も僅かながら見受けられた。本問では,丙から乙に対し本件メモに記載さ
れたような指示がなされたことを要証事実とする場合,本件メモは,被告人(丙)
以外の者(乙)の供述書となることから,刑事訴訟法第321条第1項第3号の書
面となり,伝聞例外の要件としては,1供述不能,2証拠の不可欠性,3絶対的特
信情況が必要となるが,この点を適切に検討できていた答案は,思いの外少なかっ
た。その他には,刑事訴訟法第323条各号の書面に該当するかを検討していた答
案や,本件メモ中の丙の発言部分を問題として同法第322条や同法第324条の
適用を検討する答案,本件メモの写しが検察官調書に添付されていることから同法
第321条第1項第2号の適用を検討する答案などが見受けられた。
答案全体の印象としては,個別の論点ごとの論述をいわば切り貼りしたのみで,
全体の論理的整合性を意識できていないものや,なぜその問題を取り上げ論じるの
かについての意識が不十分で,検討・論述が一通りあっても表面的なものが少なく
なかったが,中には,限られた時間の中で,問題点を的確に捉え,これに応えつつ
簡潔にまとめられている答案も見られた。また,問題文の読み間違いに起因するも
のと思われる誤った事実関係を前提に論述している答案が少なからず見受けられ
た。その背景には,とにかく知っている論点を探してそれに飛びつくというような
答案作成姿勢が影響を及ぼしているのではないかが懸念された。
なお,本年も,複数の考査委員から,容易に判読できない文字で記載された答案
が相当数あったとの指摘があったことを付言する。
3 答案の評価
「優秀の水準」にあると認められる答案とは,
〔設問1〕については,事例中の
各捜査の適法性について,いかなる法的問題があるかを明確に意識し,強制処分と
任意処分の区別,任意処分の限界について,法律の条文とその趣旨,基本的な判例
の正確な理解を踏まえつつ,的確な法解釈論を展開して基準を示した上で,
【捜査
1】及び【捜査2】のそれぞれについて,個々の事例中に現れた具体的事実を踏ま
えつつ,強制処分と任意処分の区別については,各捜査によって制約される権利・
利益の内容・重要性を明らかにして,また,任意処分の限界については,被制約利
益の把握を前提に,そのような捜査を行う必要性をさらに具体的に明らかにして,
上記基準を適用し,結論を導くことができた答案であり,
〔設問2〕については,
設問前段では,問題の所在・構造を的確に把握した上で,甲の供述(自白)獲得手
続の問題点について,自白法則の解釈にも照らしつつ検討を加え,さらに,判例の
理解を踏まえつつ,派生証拠の証拠能力の判断枠組みを示した上で,特に関連性の
希釈要因について,具体的事例に即して提示・検討し,結論を導いた答案,設問後
段では,伝聞法則の正確な理解を前提に,本件文書及び本件メモのそれぞれについて,「丙と乙との共謀を立証する」ために用いる場合の要証事実を具体的に検討・
提示した上で,伝聞か非伝聞か,伝聞であれば伝聞例外に当たるかを検討できた答
案である。しかし,このように,出題の趣旨に沿った十分な論述がなされている答
案は,僅かであった。
「良好の水準」に達していると認められる答案とは,
〔設問1〕については,各
捜査の適法性を検討するに当たって検討をすべき問題点に関し,判例を踏まえた法
解釈を行い,一定の基準を示すことはできていたが,必要な理由付けに不十分な点
が見られたり,事例の具体的事実を踏まえた検討は一応できてはいたが,
【捜査1】
及び【捜査2】のそれぞれにより制約される権利・利益の把握,その重要性の評価,
任意処分の限界において考慮される捜査の必要性に関わる事情の把握等において,
ポイントとなる事実の抽出や踏み込んだ分析にやや物足りなさが残るような答案で
あり,
〔設問2〕については,それぞれの問題について,証拠法の基本原則に対す
る基本的理解を前提とした一応の論述がされているものの,設問前段では,甲の供
述(自白)獲得手続の問題点の検討,判例をも踏まえた派生証拠の証拠能力の判断
枠組みの提示,関連性の希釈要因の提示・検討のいずれかに不十分さも残るような
答案,設問後段では,伝聞・非伝聞の検討は一応できているが,伝聞例外の検討に
不十分さを残したり,具体的な要証事実の捉え方ないし表現に不十分さを残すよう
な答案である。
「一応の水準」に達していると認められる答案とは,
〔設問1〕については,一
応の法的基準は示されているものの,問題の位置付けや結論に至る過程が十分明ら
かにされていなかったり,
【捜査1】及び【捜査2】のそれぞれにより制約される
権利・利益の把握が抽象的で,重要性の評価の理由付けが不十分であったり,任意
処分の限界において考慮される捜査の必要性に関わる事情として事案の重大性や嫌
疑の程度等を機械的に挙げるにとどまるものなど,具体的事実の抽出や当てはめに
不十分な点があったり,法解釈について十分に論じられていない点がある等の問題
はあるものの,事例に対し一応の結論は導き出すことができていた答案であり,
〔設
問2〕については,それぞれの問題について,一応の論述がなされているものの,
例えば,設問前段では,不起訴約束により得られた自白が不任意自白とされる理由
を十分に検討することなく,甲の自白の任意性を否定した上,そこから直ちに取調
べも違法であるとしたり,派生証拠の証拠能力の十分な判断枠組みを提示しないま
ま,乙の自白に任意性が認められること等希釈要因の一部を挙げて,関連性が弱い
と結論付けるなど,結論を導くに至る検討に不十分さが目立つものであり,設問後
段では,本件文書,本件メモの伝聞・非伝聞について,一応の結論は導かれている
ものの,
「具体的な要証事実を検討して」の意味が十分に理解されていないとうか
がわれるものや,本件文書については,具体的事例を踏まえて,非伝聞との結論が
導けているが,本件メモについては,具体的な要証事実の検討が不十分なまま,心
理状態を立証するものであるなどとして,非伝聞との結論を導くなど,設問の要求
あるいは事案に照らし,検討の不十分な点も目立つような答案である。
「不良の水準」にとどまると認められる答案とは,上記の水準に及ばない不良な
ものをいう。例えば,刑事訴訟法上の基本的な原則の意味を理解することなく機械
的に暗記し,これを断片的に記述しているだけの答案や,関係条文・法原則を踏ま
えた法解釈を論述・展開することなく,単なる印象によって結論を導くかのような
答案等,法律学に関する基本的学識と能力の欠如が露呈しているものである。例を
挙げれば,
〔設問1〕では,強制処分と任意処分の区別につき,判例の示す規範を
挙げつつ,
【捜査1】及び【捜査2】のいずれについても,被処分者の知らない間
に行われていることを理由に,
「意思の制圧」がないとして任意処分と結論付けた
上,抽象的な捜査の必要性を過度に強調して適法と結論付けるような答案,
〔設問
2〕では,設問前段につき,甲の供述獲得手続に何らの問題もないとするような答
案,設問後段につき,本件文書及び本件メモについて,いずれも具体的要証事実を
挙げて伝聞証拠該当性を検討することなく,非伝聞証拠とするような答案がこれに
当たる。
4 法科大学院教育に求めるもの
このような結果を踏まえると,今後の法科大学院教育においては,従前の採点実
感においても指摘されてきたとおり,刑事手続を構成する各制度の趣旨・目的を基
本から深くかつ正確に理解すること,重要かつ基本的な判例法理を,その射程距離
を含めて正確に理解すること,これらの制度や判例法理を具体的事例に当てはめ適
用できる能力を身に付けること,論理的で筋道立てた分かりやすい文章を記述する
能力を培うことが強く要請される。特に,法適用に関しては,生の事例に含まれた
個々の事情あるいはその複合が法規範の適用においてどのような意味を持つのかを
意識的に分析・検討し,それに従って事実関係を整理できる能力の涵養が求められ
る。また,実務教育との有機的連携の下,通常の捜査・公判の過程を俯瞰し,刑事
手続の各局面において,各当事者がどのような活動を行い,それがどのように積み
重なって手続が進んでいくのか,刑事手続上の基本原則や制度がその過程の中のど
のような局面で働くのか等,刑事手続を動態として理解しておくことの重要性を強
調しておきたい。

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