ルールについて考えよう
法務省 法教育プロジェクトチーム
公法分野・中学生編
1導入
憲法については,その基本原理として国民主権や民主主義,基本的人権の尊重,平和主
義が定められていることや,それらの基本原理の意味内容について既に学習されているも
のと思います。
これらの原理は,私たちが国家権力に不当に干渉されることなく自由に生きて行く上で,
とても大切なものです。
そのため,これらの原理を定めた憲法は,難しい言葉で最高法規とされており,例えば,
憲法に違反する法律を国会が作ることは出来ませんし,作ったとしても無効であるとされて
います(これは憲法に基づいて政治を行うという意味で,難しい言葉で立憲主義と呼ばれて
います。)。
他方で,憲法は,その内容が抽象的であることや,日常の生活の中でその必要性を感じ
にくいことなどから,とっつきにくいという印象を持つ人もいると思います。
そこで,本日は,憲法の重要性や憲法が定める基本原理のうち,国民主権や基本的人権
の尊重,さらには,三権分立等について,身近な事例から,みなさんに考えてもらい,少しで
も憲法の原理等に対する考え方について理解を深めてもらいたいと思います。
それでは,以下の設例に基づいて,各問題が,憲法の基本原理とどのような関係にある
のか意識しながら考えていきましょう。
2設例
A中学校では,体育館を建て直すことになったのですが,いろいろな問題から,今まで
の体育館よりも狭い体育館を建てることになりました。
この学校には,今まで体育館を使っていたクラブとして,バスケットボール部,バレーボ
ール部,柔道部,剣道部,レスリング部がありました。
各クラブの部員数は,次のとおりです。
バスケットボール部 60人
バレーボール部 40人
柔道部 30人
剣道部 30人
レスリング部 25人
(合計185人)
これらのクラブでは,放課後に練習をするため,いずれも体育館を使う必要があります。
建て直す前の古い体育館であれば,すべてのクラブが同時に練習できるだけの広さがあ
ったので,それぞれの部が使用場所を決めて体育館を使っていました。
しかし,新しい体育館は,古い体育館よりも狭く,100人が練習するのが精一杯の広さ
しかありません。
そのため,各クラブの体育館の使い方についてルールを決めることになったのですが,
この学校の教師達が相談した結果,生徒の自主性を尊重するために
体育館の使い方のルールは各クラブの部員達で決めること
各クラブの体育館の使い方については,教師であっても各クラブの部員達から
依頼されない限り,口出ししない
ことにしました。
みなさんが,これらのクラブに所属する部員であったとして,どのような方法でどのよう
な内容のルールを作りますか?
3ルール作り
1.まずどうやってルールを作れば良いのかというルール作りの方法を考えてみましょう。
(1)以下の各方法でルールを作るとした場合に問題があるかどうかについて考えましょう。
ア これらのクラブの部員の中で,一番スポーツが上手で成績も良い A さんが,1人で
ルールを決める方法
イ これらのクラブの中で,バレーボール部が毎年全国大会に出場するなど成績が良
いことから,バレーボール部の部員達だけでルールを決める方法
ウ 全部員が多数決をして決める方法
エ 各クラブの代表が集まって,相談して決める方法
(2)ルールはどのような方法で決めるのが良いのでしょうか?
ルール作りの方法を決めるために考えなければならないことは何でしょうか?
2.ルールの内容を決める時にどのような事を考える必要があるでしょうか。
(1)以下の各事項はルールで決めて良いことでしょうか?それとも決めてはならないこと
でしょうか?
ア レスリング部は部員が一番少ないので,まったく体育館を使えないことに決めることイ 曜日や時間によって体育館を使えるクラブを分けること
ウ 他のクラブが体育館を使っている時に,体育館を使用できないクラブの練習方法
を決めること
エ 女子は体育館を使用できないと決めること
(2)(1)のなかで,ルールで決めてはならないと考えた事項について,なぜ決めてはな
らないと考えたのか,その理由を考えてください。
決めてはならないと考えた事を決めることには,どのような問題がありますか?
4ルールを守るための方法
1.3で考えたことをもとにして,各クラブの部員全員の賛成のもとに,各クラブの代表
が相談してルールを決めることにし,ルールが決まりました(このクラブの代表が集まる会
議のことを,仮に「クラブ代表会議」と呼びます。)。
そのルールは別紙1のとおりです。
しばらくの間は,このルールに従って,各クラブが練習をしていたのですが,一部のクラ
ブやそのクラブの部員の一部が,「試合が近い。」とか「練習が不足している。」といった理
由から,割当てられていない曜日に勝手に練習するようになってしまい,そのため,部員
同士のいざこざが絶えないようになってしまいました。
そこで,真面目に練習をしている部員達が相談して,自分達が見張りをして,ルール違
反をしている部員達を注意したり,時には,強制的に練習させないようにすることにしまし
た。
このような方法で,結果としてルール違反はなくなったのですが,このような方法を取る
ことには問題はないでしょうか?どのように問題を解決すれば良いのでしょうか?
別紙1
第1条 各クラブが,おおむねその部員数に応じながら,体育館を使用できる曜日を決める
ことにし,
具体的には,
1 月,水,金 ・・・ バスケットボール部
2 月,火,木 ・・・ バレーボール部
3 火,水 ・・・ 柔道部
4 木,金 ・・・ 剣道部
5 火,木 ・・・ レスリング部
という割当てで,体育館を使用できることにする。
第2条 クラブ代表会議について
1 クラブ代表会議に出席する代表者は,各クラブの部員の多数決で決め,各クラ
ブから1人ずつ選出する。
2 各クラブにおいて,代表者は,いつでも交代できる。ただし,交代する場合も,
改めてクラブ内で多数決で決めなければならない。
第3条 クラブ代表会議の権限について
1 今後も体育館の使用に関するルールは,クラブ代表会議が協議して決めること
とする。
2 クラブ代表会議は,ルール変更が必要な場合には,いつでも集まって協議する
ことができる。
3 クラブ代表会議の決議は,協議に基づいて出来る限り全員一致によることとす
る。ただし,協議が整わない場合には,代表者の過半数によって決議する。
2.1の問題を解決するために,クラブ代表会議が相談した結果,最初に決めたルール
に,別紙2のとおりのルールを付け加えることにしました。
なお,このように代表が集まった際に,ルール違反のペナルティを決めることも相談され
ましたが,意見がまとまらず,とりあえずペナルティを決めることは保留されました。
こうして選ばれた風紀委員がルール違反を監視したり,注意したりするようになって,ル
ール違反が少し減ったのですが,それでもペナルティがないことを良いことに,風紀委員
の注意を聞かずにルールを守らない部員も一部にいました。
そのため真面目にルールを守っている部員達に不満がたまり,それらの部員達の一部
から風紀委員に対して,「なんとかしてほしい。ルール違反がなくならないので違反者にペ
ナルティを与えてほしい」という訴えが繰り返されるようになりました。
さらには,「風紀委員のくせにルール違反を防止できないなんて無能だ。やめてしまえ。」
等と罵声を浴びせる部員達も出てきました。
(1)みなさんが,風紀委員だったとして,このような訴えを聞いて,どのような対応をしますか?(2)他方で,みなさんが,真面目にルールを守っている部員達だったとして,ルール違反を
なくすために,どのような行動を取りますか?
別紙2
第4条 風紀委員について
1 クラブ代表会議が各クラブから3名ずつ風紀委員を選んで任命する。
2 風紀委員は,ルール違反を監視し,違反者に対して注意することができる。ただ
し風紀委員は,ルール違反を監視・注意する際には,このルールに従って,公正
かつ公平に職務を行わなければならない。
3 風紀委員以外の部員が注意すると言い争いなどの問題が起こりかねないので,
それらの部員はルール違反を見付けた時には風紀委員に伝えることは出来る
が,注意はできない。
5ルールに関する争いが生じ
た場合の対応
クラブ代表会議は,協議した結果,ルールをさらに変更し,別紙3のとおりのルールを付
け加えることにしました。
このようなルールのもとで,みなさんが部員だったとして,次のような問題が起こった場
合には,どのように行動することが出来るでしょうか?
1 あるクラブの部員が,決められた曜日以外の日に,勝手に体育館を使い出した場合
2 風紀委員の1人が,嫌いな部員に対して,ルール違反もしていないのに体育館の使
用禁止を決めた場合
3 各クラブの3年生が引退した結果,部員の数が変わり,バスケットボール部やバレー
ボール部よりも柔道部や剣道部の方が部員数が多くなった場合
別紙3
第5条 風紀委員は,ルール違反をした部員に対し,第4条1項に基づいて注意した場合
に,その部員が,再びルール違反をしたのを見付けた場合には,体育館の使用
を1週間禁止することができる。なお,風紀委員から使用禁止を告げられた部員
は,たとえその処分に不満があっても,裁判委員会による決定がない限り,従わ
なければならない。
第6条 裁判委員会について
1 裁判委員会は,裁判委員によって構成される。
2 裁判委員は,クラブ代表会議が各クラブから1名ずつ任命する。
3 裁判委員会は,体育館の使用方法に関して争いが生じた場合に,ルールに
基づいて,その争いを解決するために決定を下すことができる。この決定に
は,関係する部員は従わなければならない。
4 各クラブの部員は,争いの解決のために,いつでも裁判委員会に対して訴え
ることができる。この場合に,訴えられた相手方は,裁判委員会に対して意見
を述べる権利を有する。
第7条 各委員の罷免について
1 風紀委員がルール違反をした場合には,クラブ代表会議の決議により,その
風紀委員を罷免することができる。
2 裁判委員がルール違反をした場合には,クラブ代表会議の決議により,全部
員の過半数の同意を条件として,その裁判委員を罷免することができる。

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