02-1 「私法と消費者保護」に関する教材.doc

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私法と消費者保護に関する教材 第1 「私法と消費者保護」の単元設定の趣旨
1 法教育における「私法と消費者保護」の学習の必要性
「私法と消費者保護」の単元は,
「個人と個人の関係を規律する私法分野について,学習機
会の充実を図る。
その際には,
日常生活における身近な問題を題材にするなどの工夫をして,
契約自由の原則,私的自治の原則などの,私法の基本的な考え方について理解させるととも
に,企業活動や消費者保護などの経済活動に関する問題が法と深くかかわっていることを認
識させる」
(報告書第3の1(2)イ)ことを目指すものである。
こうしたねらいを踏まえ,本教材では,中学校社会科公民的分野で扱われる市場における
商品の売買と消費者保護について私的自治の原則からとらえさせるものとした。
2 「私法と消費者保護」に関する学習指導要領や教科書の記述
(1) 学習指導要領の内容
要領では,大項目「(1) 現代社会と私たちの生活」の中項目「イ 個人と社会生活」で,
「社会生活における取決めの重要性やそれを守ることの意義及び個人の責任などに気付か
せる」と記されており,また,
「解説」には,
「個人と社会とのかかわりについての見方や
考え方の学習の成果は,以後の学習の基礎となるものであり,具体的,体験的な事例を取
り上げ,課題追究的な学習を行うなどの工夫を行い,確実に身に付けさせることが必要」
とされている。次に,大項目「(2) 国民生活と経済」の中項目「ア 私たちの生活と経済」
では,私的活動領域である市場経済の基本的な考え方を学ばせるようになっている。この
学習では,市場における商品の売買が取り上げられるが,本教材では生徒の身近な経済活
動である商品の購入について,大項目(1)の中項目イの学習の成果を踏まえ,対等な個人が
自由な意思に基づきながら行う契約という観点から改めてとらえ直させ,市民社会におけ
る自由と責任を考えさせるようにしている。その上で,市場の働きにゆだねることが難し
い問題として扱われる,大項目(2)の中項目「イ 国民生活と福祉」の「消費者の保護」の
学習と関連させるようにしている。その際,
「消費者保護行政を中心に取り扱うこと」(要
領「内容の取扱い」)に留意して,本教材では,消費者基本法(旧消費者保護基本法)や消
費者契約法も含めて取り扱うようにしている。また,技術・家庭科の家庭分野で行われる,
「消費者保護」の学習と連携することができるように指導計画を作成し,消費者教育の内
容を充実させることも視野に入れている。
(2) 教科書の記述
私的自治の原則を示す法として民法があるが,教科書では,民法は,
「平等権」に関連さ
せて家族に関する法律として記述されたり,巻末に資料として記載されていることが多い。
私法自治の原則は,法との関連ではなく,契約という行為に関連させて教科書に記述され
ており,例えば,消費者保護などに関連して記述した教科書がある。 第2 単元
‐ 74 ‐ 1 小単元1 「私的自治の原則」
(3時間:第1プラン)の構成
第一時 「契約成立の要件」
第二時 「契約が解消できるとき,できないとき」
第三時 「私的自治の原則」
小単元2 「経済活動と消費者保護」
(3時間:第2プラン)の構成
第一時 「契約とは何だろう」
第二時 「契約が解消できるとき,できないとき」
第三時 「契約が解消できる特別な場合」
(注記) 第1プラン又は第2プランを選択的に利用することを想定している。
2 単元の目標
1 身近な経済活動に対する関心を高めるとともに,具体的な事例を通じて,契約成立の要
件や,いったん成立した契約が例外的に解消できる場合について理解させる。
2 契約は,対等な個人の自由な意思に基づいて結ばれ,その結果,法律上の権利と義務が
発生することを理解させる。
3 消費者が不利な条件のもとで契約を結んだ場合,後に契約を解消できる仕組みをつくる
など,国や地方公共団体が消費者を保護するための施策を実施していることを理解させる。 3 単元の位置付け
「私法と消費者保護」の単元は,必修教科である中学校社会科公民的分野で実施する。通
常,消費者保護の授業は1時間程度の扱いが一般的だが,この単元は,経済活動を対等な当
事者間での契約を中心にとらえさせた上で,対等ではない立場の間で結ばれた契約の事例を
素材に消費者保護の問題を考えさせるなど,先の二つの中項目を関連させた学習を展開させ
るため,全体で3時間の扱いとした。
また,第1プランにおいては,法律実務家などを外部講師として招き,生徒との対話を通
じ,私的自治の原則について,より深い理解を得させるような指導計画とした。
4 単元の指導計画
(1) 「私的自治の原則」の概要
ア 第一時 「契約成立の要件」
第一時の授業では,
「契約成立の要件」というテーマのもと,契約について考える。具
体的には,物の売買契約を結んだと想定して,その契約書を作成する活動を行い,契約
成立の要件を理解する学習が行われる。
実際の学習の流れは次のようになる。
しろまる プロ野球選手の契約金などを例に,日常生活でも「契約」という言葉が使われてい
ることを確認する。
しろまる 物の売買契約を結んだと想定して売買契約書を書く。
しろまる 日常行っている商品の売買も契約であることを確認する。
大項目 「(2) 国民生活と経済」
中項目 「ア 私たちの生活と経済」
「イ 国民生活と福祉」 ‐ 75 ‐
しろまる 契約書を作成する意義を確認する。
イ 第二時 「契約が解消できるとき,できないとき」
第二時の授業では,
「契約が解消できるとき,できないとき」というテーマのもと,契
約が成立した場合には,原則として契約は解消できないが,例外的に,様々な事情によ
り契約が解消できる場合があることを学習する。具体的には,一方の当事者が契約の解
消を望む状況に至ったと想定し,第一時の授業で結んだ契約が,例外的に解消できる場
合に当たるか,また,その理由は何かをワークシートにまとめる学習が行われる。
実際の学習の流れは次のようになる。
しろまる 契約の解消を望む状況を確認する。
しろまる 契約を解消できるか,できないかを考える。
しろまる 契約を解消できる,できない理由を考える。
しろまる 契約を解消できる,できないを決定する基本的な考え方をまとめる。
ウ 第三時 「私的自治の原則」
第三時の授業では,
「私的自治の原則」というテーマのもと,外部講師として法律実務
家などを招き,第二時で学習した,契約を解消できる,できない事例について,法的な
側面から学習するとともに,日常の消費活動の中で,生徒が持つ疑問も合わせて解説を
受け,私的自治の原則やその例外としての消費者保護などをまとめる学習が行われる。
実際の学習の流れは次のようになる。
しろまる 契約成立の要件を確認する。
しろまる 契約を解消できる場合の理由を確認する。
しろまる 日常の消費活動の中での疑問などを確認する。
しろまる 消費者が不利な条件のもとで契約を結んだ場合,消費者保護の観点から国・地方公
共団体が,このような契約を解消できる制度を設けたり,苦情を相談する場所を置い
たりしていることをまとめる。
(2) 「経済活動と消費者保護」の概要
ア 第一時 「契約とは何だろう」
第一時の授業では,
「契約とは何だろう」というテーマのもと,契約が成立する要件に
ついて考える。具体的には,物の売買契約を結んだと想定して契約書を作成する活動を
行い,契約成立の要件をまとめる学習が行われる。
実際の学習の流れは次のようになる。
しろまる 日常行っている商品の売買が契約であることを確認する。
しろまる 物の売買契約を結んだと想定して契約書を作成する。
しろまる 売買契約の成立の要件を確認する。
イ 第二時 「契約が解消できるとき,できないとき」
第二時の授業では,
「契約が解消できるとき,できないとき」というテーマのもと,契
約が成立した場合には,原則として契約は解消できないが,例外的に,様々な事情によ
り契約が解消できる場合があることを学習する。具体的な内容や学習の流れは,第2の
4(1)イと同様である。
ウ 第三時 「契約が解消できる特別な場合」
第三時の授業では,
「契約が解消できる特別な場合」というテーマのもと,契約がいっ ‐ 76 ‐
たん成立した後,解消できるのは例外的な場合であり,その一つとして消費者保護が位
置付けられることを学習する。具体的には,正しい情報や十分に考える時間を与えられ
ていないまま契約を結ぶ状況になったときなどに契約が解消できること,このような契
約を解消できる仕組みを国がつくるなど,国や地方公共団体に消費者を保護する役割が
あることをまとめる学習が行われる。
実際の学習の流れは次のようになる。
しろまる 第一時,第二時の授業を振り返り,契約が成立するための要件を確認する。
しろまる 契約が解消できる場合の理由を確認する。
しろまる 日常生活の中で見られる契約解消の事例を調べる。
しろまる 消費者が不利な条件のもとで契約を結んだ場合,消費者保護の観点から国・地方公
共団体が,このような契約を解消できる制度を設けたり,苦情を相談する場所を置い
たりしていることをまとめる。
第3 単元の指導計画
1 私的自治の原則(第1プラン)
(1) 第一時 「契約成立の要件」
契約
契約の意味について考える。
二人一組で売買契約書(ワークシート2)を作成する。
いくつかの組が作成した売買契約書の内容を発表する。
発表の内容を参考にしながら,さらに作業を進める。
(2) 第二時 「契約が解消できるとき,できないとき」
第一時で作成した,売買契約書を返却する。
ワークシート3−1,3−2に結論と理由を記載する。
指 導 上 の 留 意 点
学習活動(教師の指示・発問と生徒の予想される答え)
契約とは何だろうか。導入
今日は,売買契約書を作成してみましょう。展開
学習内容
契約が,日常的な行為
であることに気付かせ
る。
コンビニでの買い物,
宅配ピザの注文等の事
例を挙げてもよい。
売主・買主,売買する物,売買条件を決定する。
契約書の作成手順について説明する。
作業の手順について,
混乱が起きないように
説明しておく。
机間指導しながら,他
のグループにも参考に
なる内容があればクラ
ス全体に伝える。
辞書の定義を引用する
ことも考えられる。
日常で用いられている
例を挙げる(プロ野球
選手の契約金等)。まとめ意思の合致
による契約
の成立
ここにホットドックがあります。このホットドックを買った時の場面を
想像してください。これは実は契約です。他にもコンビニで,何かを買
う時や,出前や宅配ピザを電話で注文する時なども契約です。意外に日
常的な普通の行為ですね。
ホットドッグを購入するに当たって,通常の行為(1注文する,2代金
を払う,3物を受け取る)を確認し,買う意思と売る意思が合致して,
契約が成立していることを確認する。
作成した売買契約書を
回収しておく。
学習活動(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指 導 上 の 留 意 点
第一時に回収した売買
契約書を返却する際,
資料A,Bのうち一つ
及びC,Dのうち一つ
をそれぞれ添付してお
く。
契約書作成
の意義
今回は,二人一組で,物を売り買いして契約書を書いてもらいました
が,なぜ,契約書を書くのでしょうか。
双方の意思,契約の内容について正確に確認するために契約書を作成す
る場合があることを理解する。導入
契約が解消
できる,で
きない場合
及びその理由展開学習内容
1時間目で売買契約を結びましたが,今,皆さんに配ったカードに書い
てあるハプニングが起こった場合に,この契約は解消できるでしょう
か,できないでしょうか。
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契約の成立 ゲストの先生には,以下の内容を生徒に解説していただく。
しろまる 意思が合致した場合に,契約が成立すること。
しろまる 法律は常識的なものであること。
に気付かせる。
(3) 第三時 「私的自治の原則」展開
次の授業では,日ごろから契約を取り扱っているゲストの先生が来ます
ので,質問したい点があればまとめておきましょう。まとめ契約が解消できるか,できないか,また,その理由は何か,他の人と話
し合いながら考えてみましょう。
同じハプニングカードを選択した二人一組のグループが集まり,二つの
グループをつくる。二種類のカードがあるので,全体で四つのグループ
をつくる。
再編したグループにおいて,二人一組のグループで考えたハプニングカ
ードの対応についての意見を発表し合う。
他のグループとの意見交換をした中で,分かったことや,考えたこと,
疑問点などをワークシート3−3にまとめる。
他のグループの意見を聞いて,自分の意見を修正する場合には,ワーク
シート3−4,3−5に記入する。
学習内容 学習活動(教師の指示・発問と生徒の予想される答え) 指 導 上 の 留 意 点
授業前に,第二時の四
グループごとの座席に
するように指示してお
く。
法律実務家など(弁護士・司法書士・国民生活センター相談員等)を外
部講師として招き,意見交換を行い,これまでの学習活動で出てきた疑
問点や解決策についてのアドバイスを受ける。導入
今日は,ゲストの先生に来てもらいましたので,契約について解説して
もらいましょう。展開
しろまる 他方,契約を結んだ意思が不完全な(瑕疵がある)場合には,契約
を解消できる場合がある。
しろまる さらに,対等ではない立場の間における契約について,弱い立場に
ある消費者が,不利益を受けるような場合には,一定の場合に,国や
地方公共団体が,消費者の利益を保護するための施策を行うことがあ
り(消費者基本法(旧消費者保護基本法)),そのような観点から消
費者保護のための特別の立法を行って消費者を保護している(消費者
契約法等)。
教師は授業のコーディ
ネートを行い,各グル
ープでの進行状況や話
し合いの状況をチェッ
クする。
消費者保護
法の趣旨
しろまる ハプニングカードの内容が起こった場合に契約が解消できるかどう
か及びその理由
しろまる 意思が合致して,契約が成立した場合には,原則として解消できな
い。契約により法律上の権利と義務が発生する。
契約について,分かったことは何でしょうか。
しろまる 例外的に契約を解消できる場合があること。まとめしろまる 市民社会において,意思が合致して結ばれた契約には,法律上の権
利と義務が発生し,原則として守らなければならないこと。
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2 経済活動と消費者保護(第2プラン)
(1) 第一時 「契約とは何だろう」
ワークシート1を配る。
〈次の場合,契約が結ばれたといえるだろうか。〉
しろまる 携帯電話でピザを注文する。
しろまる 本を予約する。
しろまる 電車に乗るために切符を買う。
商品の説明,契約条件を明確にしておく。
しろまる 売るとき,買うときの契約条件を確認する。
しろまる 二人一組になっているペアごとに契約内容を発表する。
契約が成立するのは,次のどの時点だと思うか。
答は,「B」となる。
(2) 第二時 「契約が解消できるとき,できないとき」
売る意思と買う意思が合致したとき。
A 同じ物を他店で安く売っていたことが分かったとき。
生徒にとって身近な消
費活動の事例を取り上
げる。
机間指導を適宜行い,
話し合いをスムーズに
指 導 上 の 留 意 点
学習活動(教師の指示・発問と生徒の予想される答え)
何を作業するのか明確
に指示を出す。
契約とは,売る意思と買う意思が合致したときに成立するので,どの事
例も契約が結ばれたと言える。
売買契約書を書いてみよう。
これから隣同士二人一組となって,物の売り買いをし,売買契約書を書
いてみましょう。例えば,私が,この時計をしろまるしろまる円で売りますというと
き,売るとき,買うときの条件を売買契約書の条件欄に書きます。
契約が成立するのはどのようなときでしたか。
契約成立の
要件の確認
ワークシート2を配る。
契約の具体例作成した売買契約書を
回収しておく。
日常の消費
活動と契約
契約の内容を確認し,売る意思,買う意思が合致した後,資料のAとB
の状況になったとき,契約は解消できるだろうか。
しろまる 売買契約の要素は,目的物の特定と代金であり,この点について意
思が合致すれば契約は成立し,その他の条件は付随的なものであるこ
とを確認する。
A 契約書に印鑑を押すとき,サインしたとき。
B 双方が,「売る」「買う」と合意したとき。
C 売買することが明記された日付けから。
今日の授業の感想を書きなさい。
学習内容
契約自由の
原則
契約が解消
できる,で
きない場合
及びその理由B 家に帰ったら母が同じものを買っていてくれたことが分かったとき。
自分の自由な意思で商品・価格の選択を行い,対等な立場で売り買いを
行うということを約束した以上,それを守るべき責任がある。お互いが
売る買うことに合意して意思が合致したときに契約が成立する。
学習内容
契約とは,どういうことを言うのか考えてみよう。
新しい状況が生まれたとき,契約は解消できるだろうか。
指 導 上 の 留 意 点
第一時で作成した契約
書を返却しておく。
学習活動(教師の指示・発問と生徒の予想される答え)
契約成立の
要件
できるかぎり平易な言
葉を用いて,生徒の日
常生活における消費活
動の多くが契約である
こと,経済活動は契約
する自由と,これに伴
う責任に裏付けられて
いることを説明する。
契約とは何か,契約の原則を確認してみましょう。導入展開展開まとめ導入‐ 79 ‐
しろまる 「考える視点シート」を使って考えをまとめる。
C ブランド品と言われて買ったら偽物だと分かった。
D 商品の代金を支払ったのに,品物を渡してくれない。
しろまる 「考える視点シート」を使って考えをまとめる。
民法の原則
なお,想定される生徒からの質問事項は次のとおり。
・ お店にレシートを持っていくと解消してくれる。
(3) 第三時 「契約が解消できる特別な場合」
ある映画の主役の俳優の写真を提示する。
しろまる 売る意思と買う意思が合致したとき。
ワークシート4の契約
図式により視覚的な理
解を促がす。
契約について全員が分
かるよう留意する。
契約が解消できるのは,どのような場合だったでしょうか。
・ 売買条件に「1週間以内なら契約を解消できる」と記載があった。
契約が成立するのは,どのようなときだったでしょうか。
契約自由の原則を支え
るものとして市民社会
の常識(みんなで暮ら
すためのきまりである
「民法」)があること
に言及する。
解消=意思が不完全な
(瑕疵がある)
場合などには,
契約を解消する
ことができる。
次回も自店で契約してくれることを期待して解消してくれる。こ
れは,お店の方針であり,すべてのお店で解消してくれるわけでは
ないことに留意する。
成立=有効に成立した
契約は,原則と
して解消できな
い。
AとBについて,自分の一方的な都合だけで契約は解消できない。自分
が自由な選択の中で,その商品を選んだのだから十分考えて約束したも
のは守らなくてはいけない。
契約とは何であったか,改めて確認しよう。
4万人の中からオーディションで選ばれました。
1作目,映画会社と1,400万円で出演契約を結びます。
3作目では,3億5,000万円で出演契約を結びました。
しろまる 映画会社は,彼の俳優としての能力を3億5,000万円で利用し,
しろまる この俳優は,俳優としての能力を3億5,000万円で提供する
という契約が結ばれています。契約が成立していますね。
契約の内容を確認し,売る意思,買う意思が合致した後,資料CとDの
状況になったとき,契約は解消できるだろうか。
しろまる グループ内で話し合い,解消できる,できないと考えた理由をまと
める。
しろまる グループ内で話し合い,解消できる,できないと考えた理由をまと
める。
指 導 上 の 留 意 点
学習活動(教師の指示・発問と生徒の予想される答え)
このように売る意思又
契約の原則は,私たちが暮らす社会の常識と同じ原則であることを確認
する。
進める。
次のような状況のときは,契約は解消できるだろうか。
契約を解消できる,できないを決めている考え方は何でしょうか。
契約が解消できない,できる事例を契約の成立図式を使って再度確認
し,契約の原則である民法の基本原則を確認する。
Cについて,十分に考えて約束したのに,考える基本条件が違っている
場合には,その約束に拘束されるべきではない。
Dについて,相手方が約束を守らないのに,自分だけが約束を守らなけ
ればならないというのは公平ではない。
売買条件は約束だから,約束した範囲(1週間以内)でなら解消
できる。
学習内容展開まとめ今日の授業の感想を書きましょう。展開導入
契約成立の
要件
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ワークシート5及びカードEを配布し,範読する。
しろまる この事例は解消できる。 カード
カード
しろまる 十分に考える条件・時間が与えられなかった。
しろまる クーリングオフ制度
日常生活の中で経験した事例を問う。
しろまる 消費者契約法
お金を払ったにもかかわらず,商品を渡さないのは,相手が一方的な利
益を受け,自分が一方的に不利益を被るので,買主は契約を解消するこ
とができる。
ブランド品だと嘘の説明を受けて買った場合には,偽物だったら買おう
とは思わなかったので,買主は契約を解消することができる。
を黒板の契約図式に提
示する。
契約を解消できる,できないについて,どのような理由でそう思うのか
を考え,その理由を発表する。
は買う意思が不完全な
場合には契約を解消す
ることができる。
この事例では,買おう
と思ったもの(ブラン
ド品)と,実際に引き
渡されたもの(偽物)
とが異なるから,買う
意思が不完全だった
(瑕疵があった)と言
える。
を黒板の契約図式に提
示する。
先の事例と異なり,買
おうと思ったものと,
実際に引き渡されたも
のは異ならないことを
確認する。
困った
範読後,再度,事実を
図式やカードの内容を
板書して,視覚的に確
認する(ワークシート
5の契約図式を板書し
ておく)。
契約を結ぶときに,成立しているが「困った」「部屋から出られない」
という事情がありました。私には,何が十分に与えられていなかったの
でしょうか。
板書しておいたワーク
シート5の契約図式を
使って説明する。
部屋から出られない
教科書・資料集の該当
ページを,指名して読
ませるなどして確認す
る。
困ったり部屋から出られなくて,商品を買ってしまった場合に,後で,
「買います」と言った契約を取り消すことができるように国や地方自治
体がつくったきまり(法律)をなんといいますか。
十分に考える時間やチャンスがあり,正しい情報も得られる状況にあり
ながら結んだ契約については,自分勝手な理由で契約を解消することは
できない。無責任に契約が解消できることになると,自由な経済活動が
できなくなる。
契約をするかどうかの意思決定をするときに,正しい情報が与えられな
い,十分に考える時間やチャンスが与えられない場合は,特別に契約を
解消できるきまり(制度)がある。
私には,十分に考える時間やチャンスが与えられなかった。このような
場合,もう一度,冷静に考えるチャンスを与えようとしてつくられたき
まり(制度)を何といいますか。
カードEのようなことが起こったときには,どうなるのでしょう。
契約どおりに,売買は行われなくてはいけないのですか。
私は,契約を解消してお金を返してもらうことはできるのでしょうか。
買う(契約する)と言ったのは,終電間近なので,「帰りたい」という
と,「こんなに熱心に勧めたのだから誠意をみせて」と言われ,部屋か
ら出られそうもなく,困って契約したためである。
この契約(消費者契約法の適用がある特殊な事例)は,解消できるか。
アンケートの電話に答えたら,「景品が当たった」と営業所に呼び出さ
れました。
私は景品のポーチをもらった後,同じ営業所内で開催されているブラン
ド財布の展示会に連れて行かれ,「本来は10万円以上するが,今日な
ら特別に6万円でいい」と言われました。でも,私には,そんな高い財
布を買う意思は,まったくありませんでした。
しかし,似合うなどとほめられつつ熱心に勧められ,断りきれないま
ま,3人に囲まれて説明され続けました。私は,「終電も近いので帰り
たい」と言うと,「こんなに熱心に勧めたのだから誠意をみせて」と言
われ,部屋から出してもらえず,困って,契約してしまいました。まっ
たく不要で高価なものを買ったと後悔するばかりです。私は契約を解消
できるでしょうか。
ブランドの財布は確かに本物だが,この財布を買う(契約する)と言っ
たのは,この財布が欲しいためではない。展開
消費者契約
法の適用
‐ 81 ‐
しろまる 消費者基本法(旧消費者保護基本法)まとめこれらが,各地方公共団体にあり,実際に機能するように決めたきまり
(法律)を何といいますか。
視覚映像などの資料を見て,具体的な活動について知る。
これまでの時間を振り返って,契約についてまとめてみよう。
しろまる 身の回りのあらゆる場面に,契約という法的な行為があること。
しろまる 私たちが,生活している経済社会は,契約などの法的な行為の上に
成り立っている。
しろまる 日常生活の様々な契約は,対等な個人が自由な意思に基づきながら
行う。
しろまる お互いに自由な経済活動ができるためには,お互いに契約を守る責
任がある。
しろまる 十分に考える時間やチャンスがあり,正しい情報も得られる状況に
ありながら結んだ契約については,自分勝手な理由で契約を解消する
ことはできない。
しろまる 無責任に契約を解消できることになると,自由な経済活動ができな
くなる。
しろまる このように契約自由の原則は,自由で公正な社会生活を営む上でご
く常識的なものである。
しろまる 契約をするかどうかの意思決定をするときに,消費者など弱い立場
の人間が正しい情報や十分な時間・チャンスが与えられずに契約を結
んだ場合,契約が解消できる仕組みや契約について相談できる仕組み
を国や地方公共団体が設けている。展開
国民生活センターや消費生活センターのパンフレットやホームページ等
消費者が,このような苦情を相談する機関として,例えば,どのような
ものがありますか。
‐ 82 ‐
「私法と消費者保護」資料
私がA君から,「ある物」を買った後,家
に帰ると,お母さんが,「A君から買ったあ
る物と同じ物」を買ってくれていた。
私としては,同じ物は必要ないのでA君と
の契約を解消して,A君に,「ある物」を返
して,支払ったお金を返してもらいたいと
思っている。
私は,契約を解消して,お金を返してもらうことがで
きるでしょうか。
カ ー ド A
私はA君から,「その物」を買った後
新品の同じものが,近くの店で安く売ら
れていることを発見した。
そこで,私は,A君との契約を解消し
て,A君に支払ったお金を返してもらい
たいと思っている。
私は,契約を解消して,お金を返してもらうことがで
きるでしょうか。
カ ー ド B
‐ 83 ‐
「私法と消費者保護」資料
私は,契約を解消して,お金を返してもらうことがで
きるでしょうか。
カ ー ド D
私は,商品の代金を支払ったのに,A君は
約束の日が過ぎても,いつも,「今日は都合
が悪いから」と言って,商品を引き渡してく
れない。
そこで,私は,契約を解消して,代金を返
してもらいたいと思っている。
私は,契約を解消して,お金を返してもらうことがで
きるでしょうか。
カ ー ド C
×ばつは有名なブランドしろまる
しろまる製である。」とウソの説明をされて,これ
を信用して買った。
後日,それはニセモノであることが判明し
た。
私は,ニセモノならいらないので,契約を
解消して,代金を返してもらいたいと思
っている。
‐ 84 ‐
「私法と消費者保護」資料
アンケートの電話に答えたら,「景品が当たった」と営業所に呼び
出されました。
私は景品のポーチをもらった後,同じ営業所内で開催されているブ
ランド財布の展示会に連れて行かれ,「本来は10万円以上するが,
今日なら特別に6万円でいい」と言われました。でも,私には,そん
な高い財布を買う意思は,まったくありませんでした。
しかし,似合うなどとほめられつつ熱心に勧められ,断りきれない
まま,3人に囲まれて説明され続けました。私は,「終電も近いので
帰りたい」と言うと,「こんなに熱心に勧めたのだから誠意をみせ
て」と言われ,部屋から出してもらえず,困って,契約してしまいま
した。
まったく不要で高価なものを買ったと後悔するばかりです。
私は契約を解消できるでしょうか。
カ ー ド E
‐ 85 ‐
「私法的と消費者保護」考える視点シート
契約を解消できるのか,できないのか
は,次の2つの視点から考えてみましょう。
1 契約は約束
だから原則として契約は守らなければならない。
では,契約を解消できるのはどのような場合か。
契約とは何と何の約束かを分析してみよう。
→A君:しろまるしろまるを売る。 ×ばつ円を支払う。
契約とは,この2つの意思(考え・思い)が合致した約束。
とすると ...
2 契約を守らせるか,それとも契約の解消を認めるか。
契約の解消を認めると得する人は誰?
契約の解消を認めると損する人は誰?
どちらの利益を保護するほうが公平かを考えてみよう。
考える視点シート
契約した時点で,どちらかの意思が不完全であれば,意思が合致し
ないので契約は解消できることになる。
契約を守らせるか,それとも契約の解消を認めるかは,契約当事者の利益状況を分
析して判断する。
‐ 86 ‐
「私法と消費者保護」ワークシート1
3年( )組( )番 氏名
1 次の場合,契約が結ばれたといえるだろうか。
(1) 携帯でピザを注文する。
(2) 本を予約する。
(3) 電車に乗るため切符を買う。
2 契約が成立するのは,次のどの時点だと思いますか。
A 契約書に印鑑を押すとき,サインしたとき。
B 双方が,「売る」「買う」と合意したとき。
C 売買することが明記された日付けから。
答 ( )
3 感想
‐ 87 ‐
「私法と消費者保護」ワークシート2
(注記) この契約
けいやく
は,あくまで授業
じゅぎょう
のための架空
か く う
の契約
けいやく
であり,実際
じっさい
の効力
こうりょく
はないものとする。
売り主 (以下「甲
こう
」という。)と
買い主 (以下「乙
おつ
」という。)は,甲こ う
が所有
し ょ ゆ う
する について,以下に定める売買
ば い ば い
条件
じ ょ う け んで売買
ば い ば い
契約
け い や く
を結んだ。
売買
ば い ば い
する品物の説明
年 月 日
売り主(「甲」)3年 組( )番 印
買い主(「乙」)3年 組( )番 印
売 買
ば い ば い
契 約 書
け い や く し ょ
売買
ば い ば い
条件
じ ょ う け ん
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「私法と消費者保護」ワークシート3
3年( )組( )番 氏名
ペアの相手は 3年( )組( )番 氏名
1 カードNo のような場合,私は契約を解消できるだろうか。
できる( ) できない( )
2 どのような理由で,「できる」又は「できない」と思うのですか。
3 他のペアの意見を聞いて,新たに気付いたことや疑問に思ったことを書きましょう。
4 他のペアの意見を聞いてみて,あなたの意見はどちらになりましたか。
解消できる( ) 解消できない( )
5 どのような理由で,「できる」又は「できない」と思うのですか。
‐ 89 ‐
「私法的原則」ワークシート4
3年( )組( )番 氏名
1 契約とは何だろう
したとき
2 契約を解消できないとき
自分の勝手な都合はダメ
(注) 実際の授業では下線部分を生徒に記載させる。
( 買 う )
契約成立「しろまる
しろまる×ばつ円で買う」と言おうと思う「しろまる
しろまる×ばつ円で売る」と言おうと思う
( しろまる しろまる ) を ( ×ばつ ×ばつ 円 ) で
二人の ( 意 思 ) ( 合 致 )が( 母 )
( 他 店 )私 しろまる
しろまる×ばつ円で買うと言うA君
しろまる
しろまる×ばつ円で売ると言うしろまる
しろまる×ばつ円で買おうと思う
しろまる
しろまる×ばつ円で売ろうと思う
‐ 90 ‐
「私法的原則」ワークシート5
1 カードEのような場合は契約を解消できるでしょうか。
解消できる( ) 解消できない( )
(注) 実際の授業では下線部分を生徒に記載させる。
契約成立
消費者契約 法
部屋から出られない 困った
十分に 考える時間を与えられていない。
クーリングオフ 制度「しろまる
しろまる×ばつ円で売る」と言おうと思う「しろまる
しろまる×ばつ円で買う」と言おうと思う私 しろまる
しろまる×ばつ円で買うと言うA君
しろまる
しろまる×ばつ円で売ると言うしろまる
しろまる×ばつ円で買おうと思う
しろまる
しろまる×ばつ円で売ろうと思う
‐ 91 ‐

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