第 13 回水害サミットの開催について
The 13th round of Mayor’s summit on the flood disasters
水害サミット実行委員会事務局
The Flood Damage Summit Executive Committee Office
はじめに
水害サミットは、水害被災地の首長が自らの体験を語り合い、より効果的な防災、減
災を考えるとともに、それらに関する積極的な情報発信を通して広範な防災、減災意識
を高めることを目的に平成 17 年から毎年開催している。
昨年も熊本地震や台風 10 号な
どによる大きな被害が発生し、各地において万全の備えが求められる中、去る6月6日
に TKP ガーデンシティ竹橋において「第 13 回水害サミット」が開催された。
当日は、国土交通大臣から御臨席いただくとともに、国土交通省、内閣府、消防庁が
オブザーバーとして参加され、
「より広い視野で考える現実的な災害対応について」
「多
様な関係者による効果的な連携について」をテーマに全国 20 市町村の首長による活発
な意見交換が行われた。このうち「より広い視野で考える現実的な災害対応について」
では、意見交換に先立ち、東日本大震災で指揮をとられた陸前高田市長から震災対応に
係る経験等に関する御講話をいただいた。
1 日 時 平成 29 年6月6日(火)午後3時〜6時 30 分
2 場 所 TKP ガーデンシティ竹橋 ホール 10A
3 主 催 水害サミット実行委員会、毎日新聞社
4 コーディネーター 松田 喬和(毎日新聞社特別顧問)
5 出席者 三輪 茂(日高町長)
、宮西 義憲(芽室町長)
、伊藤 康志(大崎市長)
、白
岩 孝夫(南陽市長)
、品川 萬里(郡山市長)
、橋本 正裕(境町長)
、國定 勇人(三条
市長)
、久住 時男(見附市長)
、佐藤 雅一(魚沼市長)
、牧野 百男(鯖江市長)
、小野
登志子(伊豆の国市長)
、大橋 一夫(福知山市長)
、山本 正(宇治市長)
、中貝 宗治
(豊岡市長)
、片山 象三(西脇市長)
、清水 裕(大洲市長)
、池田 牧子(いの町長)、戸梶 眞幸(日高村長)
、原田 啓介(日田市長)
、隈元 新(伊佐市長)
6 テーマ
・より広い視野で考える現実的な災害対応について
・多様な関係者による効果的な連携について 17 内 容
≪開会挨拶≫
國定三条市長 まず、本日御臨席の石井国土交通大臣には、日ごろ治水安全度の向上な
ど、地域住民の安全安心を総合的に高めるために陣頭指揮を執っていただき、また水循
環政策担当大臣として、
水は恵みももたらす貴重な資源という観点から総合的な政策に
も取り組んでいただき感謝を申し上げる。
また、本日は 20 人の市町村長から御出席いただき、さらに内閣府、消防庁からもオ
ブザーバーとして御出席いただいた。心から感謝申し上げる。
我々はこれまで「人は逃げない」という前提で命を守るための議論をし、提言をまと
めてきた。
未だ幸いにも被災していない市町村長にそうした議論の積み重ねをしっかり
と情報発信することが肝要だ。水害サミットがそうした情報発信の拠点、基盤であると
肝に銘じ、実りのある意義深い会合になることを祈念したい。
≪国土交通大臣・水循環政策担当大臣挨拶≫
石井大臣 水害サミットが、これまで 13 回にわたり着実に議論を積み重ね、ノウハウ
集や提言をまとめられてきたことに敬意を表する。昨年も北海道・東北に大きな被害を
もたらした台風 10 号を始め、相次いで上陸した台風のほか、西日本を中心とした前線
豪雨などにより各地で大きな浸水被害が発生した。
国土交通省としては、この国会で成立した水防法等の改正も踏まえ、社会全体で洪水
に備える水防災意識社会の再構築を全国の河川でさらに加速させたい。
一つ目のテーマである「より広い視野で考える現実的な災害対応について」では、水
害被災地の首長と地震被災地の首長がお互いの被災体験を共有し、
より視野を広げて災
害対応の在り方を議論するもので、二つ目のテーマである「多様な関係者による効果的
な連携について」では、逃げ遅れをゼロにするために河川管理者と自治体、要配慮者利
用施設との連携体制の強化等、
多岐にわたって求められる関係者との効果的な連携の在
り方を議論するものでいずれも大変意義深い。
災害に強い社会を築くためには、
教訓を社会全体で共有する営みを愚直に続けていく
しかない。これまで大きな水害を経験し、防災意識の高い皆様に全国をリードする議論
をしていただくとともに、その内容を全国に発信していただき、全国の防災意識の向上
につなげていただきたい。 2《コーディネーター挨拶》
松田特別顧問 我々がこれまで取り組んできたソフトによる減災・防災が広く理解さ
れてきていると自負している。しかし昨年の災害などを踏まえて、新たなことを学ん
でいかなければならない。自然には未知数のところがたくさんある。今日は、自然災
害への新たな対応の経験等を披歴いただき、それが共通の認識になるよう尽力した
い。
≪初参加市町村長紹介≫
宮西芽室町長 これまで創意工夫しながら災害対策を進めてきたが、いざ台風が来る
と、心のどこかに「北海道は台風がない地域」という思いがなかったか反省してい
る。幸い1人のけが人もなかったが、避難所の運営でも「北海道は雨がない地域」と
いう考え方が見られ、臨場感をもった避難訓練等をどう行うのかが大きな課題だ。
佐藤魚沼市長 魚沼市は、福島・新潟豪雨で人的被害はなかったものの大きな水害が
発生した。全国有数の豪雪地帯でもあり春の雪解け水を念頭に置いた森林整備や砂防
の大事さ、治水の大事さを痛切に感じた。皆様と情報共有し、河川氾濫の対策も講じ
つつ、市民の安全を担保したい。
大橋福知山市長 平成 26 年の8月豪雨災害では、排水機能をはるかに超える猛烈な豪
雨によって市街地を中心に非常に広範囲の内水氾濫などが発生し、従来の災害対応の
限界を思い知らされた。この内水氾濫への対応として、全国で初めてとなる国、京都
府、福知山市が一体となった総合的な治水対策を進めている。
この場での議論を本市の災害対応に活用しつつ、水害サミットからの情報発信を通
して全国の災害対策が進展することを期待している。
清水大洲市長 想定最大の雨が降ったとき新市街地では 15 メートルから 20 メートル
のほとんど津波と変わらない水深となる。計画規模と想定最大の規模のギャップがあ
まりにも大きく非常に悩ましい。景観や自然にも配慮しながら、できるだけ早く治水
安全度を上げていただきたい。
池田いの町長 平成 19 年3月に新宇治川放水路が完成した後は、大きな被害は発生し
なかったが、平成 26 年8月の台風 11 号、12 号災害で、放水路を閉鎖したために甚大
な被害が発生した。平成 29 年度から国、県、町の役割分担を決め、5か年計画で、河
道改修、ポンプ増設等の対策を進めている。被害が出て対応、対策をしていく防災もあ 3るが、過去の教訓を生かす防災もある。水害サミットが過去の災害の教訓を発信するこ
とは大変意義がある。今日は様々なことを学びたい。
≪第一部「より広い視野で考える現実的な災害対応について」≫
松田特別顧問 最近は水害だけではなく、東日本大震災、熊本地震といった大きな地震
も各地で起きている。地震対策と水害対策には共通点も相違点もある。先般「災害時に
トップがなすべきこと協働策定会議」が開催され、24 項目からなる水害と震災の対応
の要諦がまとめられた。そこでまず東日本大震災の最前線で指揮を執り、協働策定会議
にも参画された戸羽太陸前高田市長から震災対応の経験などを伺った後、
それぞれの体
験を踏まえた意見交換を行いたい。
戸羽陸前高田市長 陸前高田市の被害は、亡くなられた方が 1,556 人、行方不明者が
203 人である。大きく反省しなければならないことは、例えば南海トラフに対する様々
な想定があるが「それが皆さんの全てになっていませんか。
」ということだ。
東日本大震災の被災地は、30 年間のうちに 99%地震が起こり、津波が来るといわれ
ていたため、我々はそれに備えてきた。シミュレーションでは、市役所の目の前の道路
に 50 センチから1メートルの浸水が生じることになっていた。その程度の浸水で山の
てっぺんまで逃げる必要があるのかという議論になった。
まちの真ん中に3階建ての強
固な市民会館があるじゃないか。市民体育館があるじゃないか。
「なにも山まで逃げる
ことはないよ。
」と避難所に決まった。
しかし、実際には 10 メートルを超える津波で逃げ込んだ建物が海に沈み、たくさん
の犠牲者が出てしまった。想定以上のことが起こることを想定していなかった。自然は
我々の計算の中だけにあるのではないということを認識していなかった。
陸前高田市役所の職員は、約 400 人中 111 人が犠牲になった。4人に1人以上の職員
が犠牲になった。職員が、命をかけて市民や町民を守る。それは、志としては素晴らし
い。だが「職員といっても家族がいる。大事な人がいる。もちろん真っ先に逃げて良い
わけではない。しかし一定の仕事をした上で職員の身に危険があるのであれば、逃げる
という選択肢も持っていただきたい。
」と自らの体験を踏まえ様々な場で話してきた。
しかしそれで行政が務まるか、多少の犠牲はしようがないと話される首長もいる。正に
それは他人事だから言えるのだ。自分が遺族のところに頭を下げに行ったときに、どん
な思いになるのかを全然想定していない。 4防災、災いを防ぐことが人間にできるかといえば、私は無理だと思う。あくまでも減
災に特化して、まず人の命をどうやって守るのかを考えることが最も大切だ。
陸前高田市は、高い防潮堤もつくり低かった土地もかさ上げした。しかし大丈夫だよ
と言いながらもいざとなったらもっと高いところに逃げてくださいと話している。
行政
は、
首長は、
いざとなったら住民を守ることはできない。
私自身も被災者で
「助けて!」
といわれても助けてあげることはできない。
自分の命は自分で守るということを徹底し
なければ犠牲者は減らない。それが言い難いようであれば「東日本大震災で壊滅した陸
前高田の市長がそう言っていました。
」と言って構わないので、その意識を市民、町民
の皆さんに少しずつ持ってもらうことが大切だ。
首長一人で何かできるわけではない。
ルールでは首長が陣頭指揮を執ることになって
いるが、自衛隊に何か指示できるのか。私にはできなかった。首長が責任を負うのは確
かだが、首長が全て指示しなさいということではない。
「この分野は頼む。責任はとる
から、あなたの判断でこれを進めてくれ。
」と部下に任せると職員も意気に感じるし、
物事はスムーズ進むと思う。震災直後に東北地方整備局長から「私はヤミ屋のおやじで
すから、国土交通省の人間だと思わないでください。どんなことでもいいから、困った
ことがあったら私に言ってください」と言われた。私も度胸を決めてお願いした。いざ
というときにはそれが必要だ。
自然災害はやはり舐めてかかってはだめだ。
想定よりひどかったとしてもしっかり対
応できるようにしておかなければならない。ハードで守れるものは守りたいが、お金に
も技術にも限界がある。人命をどう守るのか。その瞬間にどう迅速に動くのかというこ
とを中心に考えることが大切だ。
松田特別顧問 体験しないとわからないことはまだまだあって、
想定外が起こり得ると
いうことを改めて痛感した。こうした貴重な体験をなんとか防災、減災に結び付けてい
くことが、この水害サミットに課せられた大きな課題である。
それでは、最初のテーマである「より広い視野で考える現実的な災害対応について」
論議を進める。
伊藤大崎市長 関東・東北豪雨では中小河川災害を、6年前の東日本大震災では宮城県
の内陸部としては最大の被災を経験した。
災害時には、鳴子温泉の宿泊施設を避難所にする契約を結んでいた。東日本大震災で
は沿岸地域の避難所の劣悪な状況がテレビで放映されたため、鳴子温泉を沿岸地域の 5方々に提供し、延べ 10 万人を受け入れた。長期化する場合には、広域的な連携が効果
的である。特に温泉は、身も心も温める。今後の備えの一つとして検討いただければと
思う。
がれき処理のストックヤードや住宅の被災判定は、行政と住民のけんかの元になる。
そこでストックヤードの管理はリサイクル業者に、
住宅の被災判定は建築士などに任せ、
行政はそれらを補完する形とした。
住民とのトラブルの原因となったところを専門家に
お願いするということも有効だ。
隈元伊佐市長 2011 年の震災で支援物資を届けるため、被災地に電話しても混乱して
いるから受け付けられないとのことであった。その中で南三陸町からは「職員も何人か
同乗して仕分けまでしていただければありがたい。
」と言われた。そこで7人から9人
くらいを交代で7週間程延べ 50 人の職員を派遣した。その後、中長期的にも職員を派
遣しており今は3人派遣している。その結果、災害が起きたときの初動はどうすればよ
いかを職員が学んだ。職員が帰ってきた後、報告も兼ねた職員研修を行っている。
がれき処理に当たって予算を獲得してから処理するのではなく、
とにかく建設会社3
社を指名し、
処理を行わせるという発想をした職員がいたので彼に全部任せて事なきを
得た。職員が自ら気づく、職員が思い切って発想をしたときに、それを取り上げて実行
させてやることが非常時には必要だ。
中貝豊岡市長 戸羽市長の話は、本当に私たちの都合に関係なく、とんでもない災害が
襲ってくるということをリアルに想像した上で、
どういうことをやるべきなのかという
ことをあらかじめ頭の中でシミュレーションしておかなければならないということな
のだと思う。
私も現在町内会長に必ず職員を逃げさせるという話をし、理解を求めている。多分私
たちは、いきなりその場で職員を逃げさせると言っても理解は得られないと思う。しか
し平常時に住民の皆さんと対話をし、
理解を求めておけばいざというときの躊躇が和ら
ぐ。避難勧告が遅れて首長が非難されるが、その理由の一つは、もし空振りになったと
きに非難されるかもしれないという恐れからの躊躇だ。日頃から「たとえ空振りになっ
たとしても、躊躇なく避難を勧告する」ということを伝えておけば、心理的な抵抗感が
和らぐ。そうでなければいざというときに適切な判断、意思決定はできない。
想像力を働かせ、その時に自分が何をすべきかを考える。様々な方々と対話をして解
決策を探る。今日戸羽市長の話を改めて伺い、やはり平時がとても大切だと感じた。 6白岩南陽市長 事前の避難訓練、
現実的で実践的な訓練を積み重ねておくことが大事だ。
昨年全市を対象とした避難訓練を実施し、今後毎年行うことにしたが「避難した公民館
などで行政がイベントを準備していない。それならばやらないほうがよい。
」とある地
区長から言われた。災害時にどうするかの判断は、最小の単位では家族で、その上の単
位では地区長が担う。そのためにも訓練は必要と訴えた。
空振りを恐れず避難勧告等を出すということ、
行政にも限界があるということを住民
に伝えなければならないが、残念ながら行政が言っても素直に飲み込んでもらえない。
戸羽市長に南陽市での講演をお願いしたいと思う。
戸羽陸前高田市長 陸前高田市では、避難所の運営も市民にやってもらう。避難所の設
営には何が必要で、
どういう係が必要でということを避難所運営マニュアルにまとめて
いる。避難訓練の後、マニュアルに沿って設営までやってもらっている。そうして自分
がこの避難所を作っていくというところまでやって逃げて終わりではないようにして
いる。
久住見附市長 24 項目の
「災害時にトップがなすべきこと」
には様々な知恵があるが、
これは首長だけではなく、
職員はもとより市民にも見てもらうことで我々と市民がもっ
と近くなるのではないか。
原田日田市長 日田市でも豪雨災害で巡回に出た2人の職員が土砂に流されて亡くな
るという経験があり、それ以降、そういうところに職員を出さないことにしている。
ただ、阿蘇山に近い山の中で孤立してしまうところが多いため、住民自治組織からそ
れぞれの地勢での災害を想定いただいている。
また隅から隅まで光ケーブルが入ってい
るため、どんな山間地でも情報が取れるが、熊本地震の際には1地域が断絶した。今後
は無線でも情報を取れるようにする。孤立集落が出る地域であるため、情報ネットワー
クの強化を進めるとともに、職員をなかなか派遣できないため、住民自治組織の力をつ
けてもらうことに大きなウェートを置いている。
大きな水害で林地から流れ出てきた残材が橋梁に引っかかって越流し、
支柱が水没し
たことがあった。現在林地残材も処理できる2基の木質バイオマス発電所があるため、
災害に強い山づくりと産業振興を一緒に進めている。
人の命は金に換えられないといっ
てもやはり限界はあるので災害対応も合理的に進めていければと考えている。
清水大洲市長 大洲市も独居高齢者が非常に多く、
災害時にどう逃がすのかが大きな課
題だ。昨年、条例を作り消防団等に要支援者の名簿を提供することとした。要支援者は 7日々状態が変わるので、
民生委員などとともに名簿の更新をしっかりとやっていくこと
が大切で地域の理解が重要だ。公助に頼っていると必ず遅れる。共助の中心が消防団で
あり自主防災組織だ。そこが情報をきっちり知らなければいけない。
小野伊豆の国市長 狩野川台風という 800 人から 900 人の死者と行方不明者を出した
台風があった。私はその時中学2年生で戸羽市長のように身をもって体験した。
「今年
は大きな災害がなくて良かった。
」とか「近年台風がないのが怖い。
」と言われるが本当
は来ている。当時のままの川であり、堤防であり、その周辺であったなら今でも大きな
被害が生じることは間違いない。これまでの国交省の取組に深く感謝する。
狩野川台風で被災した人が「狩野川台風の記憶をつなぐ会」というものを立ち上げ、
防災活動に取り組んでいる。
狩野川台風に関する資料の展示や語り部による出前講座も
しており私も小学生に対する語り部をしている。
「災害時にトップがなすべきこと」に
もあるように「とにかく記録を残すこと」が大切だ。
戸梶日高村長 非常に軟弱地盤で、
南海地震が来たときには震度7が出るといわれてい
るため、住家の耐震化を急いでいる。南海トラフ地震が来れば、沿岸部が大変なことに
なる。我々内陸部にあるものがまずできることは、自分のところの被害を少なくし、自
衛隊や救援物資が来たときに沿岸部に回ってもらうということだ。
そこで間接的な協力
として家の耐震化を進めている。
小さい村で、県立の養護学校が1校あるくらいであまり施設もないが、二つあるゴル
フ場と大規模災害に広域避難場所になってもらう協定を結んだ。食堂があって、風呂が
あって、いざとなればヘリコプターも降りられる。内陸にあって側面的な津波に対する
支援として村ではそのように取り組んでいる。
松田特別顧問 第1部について三条市長からまとめていただく。
國定三条市長 陸前高田の戸羽市長の話は本当に身につまされた。
我々は災害の種類は
違えども、
ともに被災経験を持つ市町村長でありその思いは十二分に心に響いたのでは
ないか。何を想定し災害対応をしていくのかは重要でありながら非常に難しい問題だ。
想定では 50 センチから1メートルのところ、10 メートル以上の津波が来るということ
は、普通の感覚では想像もつかない。しかし我々は常にそういうことを考えながら、で
きる限りイメージを膨らませていかなければいけない。
三条市は、平成 16 年の大きな水害を経て、それから毎年想像力を働かせるために防
災訓練を愚直にやり続けている。
公助の世界の基盤をまず整えていかなければいけない 8ということで、
ブラインド型の訓練をずっと繰り返してある程度災害対応はしっかりで
きていると思っていた。
しかし昨年信濃川下流河川事務所の所長に訓練シナリオを全部
書いていただいたところ、ものの見事に災害対策本部は右往左往してしまった。
自分たちの想像の枠を超えるために何ができるのか。
自分たちの想像力には限界があ
る。自分たちの枠の外の協力をいただきながら防災訓練、水防訓練をやることも一つの
アイデアなのではないのか。
≪第二部「多様な関係者による効果的な連携について」≫
松田特別顧問 第2部のテーマは
「多様な関係者による効果的な連携について」
である。
昨年の一連の台風被害を受け、社会資本整備審議会は、河川管理者、地方公共団体、地
域社会、企業等の関係者が相互に連携し、総力を挙げて一体的に対応するべきであると
改めて提言し、先般、水防法等の改正が行われた。そこでまず、国交省の泊治水課長か
ら「治水行政を取り巻く最近の動向」について情報提供をいただく。
泊治水課長 昨年小本川で大変残念な被害があったが、その課題は、小本川が水位周知
河川に指定されておらず、浸水想定区域も公表されていなかったこと、県からの情報が
うまく町長に伝わらずに小本川沿川地域で避難勧告が出なかったこと、
グループホーム
の施設管理者が避難準備情報の意味を理解しておらず避難行動に踏み切れなかったこ
と。河川の整備が遅れていたということが挙げられる。
中小河川等における水防災意識社会の再構築に向けた動きを加速するため、
水防法等
の改正を今国会に提出し、5月 12 日に成立した。逃げ遅れゼロを目指し、大規模氾濫
減災協議会を法律に位置付ける、水害リスク情報を周知する制度を創設する、要配慮者
利用施設に避難確保計画の策定等を義務付ける。また社会経済被害を最小化するため、
ダム再開発等について県等から要請があれば国等が工事の代行ができる仕組み、
民間の
方を活用した水防活動を円滑化できる仕組み、
輪中提等の自然堤防などを保全する仕組
みを用意する。
また自然災害から命を守っていくためには、
一人一人が主体的に避難できる能力を養
っていく必要があることから、命を守る防災教育を進めるとともに、既設ダムを有効活
用したダム再生の取組を推進している。
松田特別顧問 それでは、第2部のテーマについてご意見を伺う。
宮西芽室町長 昨年の災害で畑が大規模に流出した。流された土量がなければ土の回 9復はできないが、山を崩すわけにもいかない。そこで国土交通省の河道整備事業で掘
削された土を活用した。
片山西脇市長 県と国、加古川流域の西脇市と加東市が協議会をつくり、情報の共有化
を図っている。上流の自治体として、
「なんで下流だけよくなるの?」という市民の声
が少なくなった。また国の指導の下、市民が自ら防災、減災に取り組んでいる。
牧野鯖江市長 鯖江市では被害を小さくして、できるだけ早く回復させる「縮災」に
取り組んでいる。避難所の開設運営を地域住民に任せるため、防災士、防災リーダー
の養成に努めている。防災士、防災リーダーに簡易雨量計とタブレット端末を配布
し、雨や被害の状況を伝えてもらっているほか、市民モニターにもタブレット端末を
貸与し、情報を提供いただいている。また幼少年期から防災に関心を持ってもっても
らうため、防災リーダー交流会等による出前講座などにも積極的に取り組んでいる。
品川郡山市長 あらゆる機関に治水感覚を持っていただくため、準備、注意、警戒、
行動、避難、退避と6段階に応じ、いつ、どこで、だれが、何をやるかというタイム
ラインを作成した。ウイークデーの昼間に十分に情報を得て、対策を講じることがで
きるという前提でつくっているが、戸羽市長の話を伺い、広島の土砂災害のように真
夜中に豪雨があって、しかも土砂降りの中でといった最悪の事態を想定したタイムラ
インも必要だと感じた。また結局災害対策は、情報だ。とにかく入手できる情報を全
部見ると落ち着いて対応できる。
三輪日高町長 10 年ぶりに台風によって大きな被害を受けたが人的な被害がなかった
のは躊躇なく避難勧告をできたからであり水害サミットで学んできた賜物だと思って
いる。私もタイムラインを今年度中につくり上げたいと思っている。また地域におけ
る防災活動のリーダーを育成する北海道地域防災マスター認定事業で認定を受けた方
が自発的に防災マスター協議会というものを作って活動しており、それらと連携を図
りながら防災力向上を図っている。
大橋福知山市長 河川国道事務所や陸上自衛隊の駐屯地といった防災関係機関が集積
している。そこで治水に限らずトップが意見交換する機会を設けており、防災訓練で
ホットラインの訓練もおこなっている。
教育の面でも子供に対する出前講座の取組を行っており、また国や京都府から協議
会を設立いただき取組方針を策定している。
タイムラインについても昨年 14 の防災機関が参画した由良川福知山タイムラインを 10策定し、訓練を行った。課題等を抽出しブラッシュアップしていく。
タイムラインを運用していく中で市民から「なんでこんなに早く避難準備情報が出
たり、避難所を開設したりするのか」と言われるが、様々な機会をとらえて説明を行
っている。何が起こるかわからないということも含め、きちんと認識の共通化を図っ
ていくことが非常に大事だ。防災の関係機関と連携しつつ、市民と一体となれるよう
な意識づくりを進めていかなければならない。
山本宇治市長 地震と水害と考えさせられた。地震は予知がなかなか難しい。水害に
ついてはタイムラインにいち早く取り組み、訓練をしているが地震についても伺った
ご苦労を踏まえしっかり対応したい。
「災害時にトップがなすべきこと」は、作ること
より、活用することに意義がある。体系的、組織的に全国に広めていってほしい。多
様な関係者との連携について、宇治市では京都大学の防災研究所から様々な指導をい
ただいており、また毎年京都市を含む4市1町で警察や自衛隊からも参加いただき防
災訓練をしている。
國定三条市長 「災害時にトップがなすべきこと」については、内閣府から全ての市
町村長に送っていただいており感謝申し上げる。
水害の時に一番大切なのは気象情報だが気象庁は遠い存在だった。昨年気象庁のモ
デル事業として気象台OBの方に出水期の間、市役所に常駐いただいた。気象庁は
様々なノウハウと知見を活用して大雨警報が発令されましたというわずか1行を発令
するが、その気象情報の一次情報の紐解き方、読み解き方を学ぶことができた。今年
は市の単独事業で再び新潟地方気象台で長年勤務された方を4か月採用する。現実に
昨年、避難準備情報を発令せざるを得ないような状況があったが、
「今出されている気
象情報は、こういうことだから今発令されているのです。おそらく3時間後には、解
除されますよ。
」といったことを丁寧に説明いただけるので一般財源を出すだけの価値
は十分ある。
また、熊本地震の後に上益城郡の町長が集まって災害復旧支援合戦にならないよう
にと罹災証明をいつから発行するのかとか、支援の判断基準をどうするのかといった
ことを話し合ったそうだ。図らずもサービス合戦になってしまわないように一定のル
ールを作ったということだ。我々の地元でもそういうことができればと思っている。
久住見附市長 水防災意識社会の再構築に関わる委員をしているが、提言を受け水防
法等を改正いただいたことに感謝申し上げる。水害サミットでは流域連携の重要性を 11当初から言ってきたが今回は中小河川でも協議会が立ち上げられる。
また、岩手の場合は、大変な中で、気象庁、知事、河川管理者からの情報が町長ま
で届かなかったということを含めて今回の話になった。避難については要配慮者利用
施設が1回も避難訓練をしたことがなかった。避難準備情報が何かというのも知らな
かった。訓練をすればそういう情報の意味は分かるはずだ。ただ、河川の横になぜあ
のような施設が存在するのかという点については今後ぜひ議論いただきたい。
いずれにしても、
「災害時にトップがなすべきこと」をぜひ読んでいただき、これを
いかに広めるかということが喫緊の私どもがなすべきことではないか。
≪水害サミットを母体とした被災地支援について≫
松田特別顧問 それではここで中貝市長から水害サミットを母体とした知恵の支援に
関する提言について説明いただく。
中貝豊岡市長 水害サミットでノウハウは蓄積してきているが、これを被災地の支援
にどう役立てるか。被災地支援とは一般的な物資の支援とか資機材の提供、それから
災害特有の課題に対するノウハウの支援がある。
例えば、ゴミ処理や避難所の運営、家屋被害調査、ボランティア対応など、要は経
験した者しかわからないノウハウがあるが、被災地にはそのノウハウが不足してい
る。また支援体制という点では、水害サミットのメンバーなどの有志が遠方から支援
していて意外と近くがあまり支援をやっていないという実態がある。都道府県はコー
ディネート役を期待されているが、県は地元が何もいってこないと言い、地元は県が
何もいってこないと言って調整機能が働いていない。効率的な支援体制をどう整えて
いくのかが課題だ。
そこで災害特有の課題に対する支援を水害サミットで何かできないものか。水害の
被害が発生したら、さっさと支援に行く。被災地がいざというときに困るのは、経験
がないがためにどうしていいかわからないということだ。その部分に対する支援の仕
組みはほとんどない。被災を経験した自治体にはノウハウを持つ人材がいる。いわば
インテリジェンスに対する支援ができないだろうか。
地方整備局のエリア毎に「水害サミットフォース」を結成し、有志自治体が支援先
を登録していく。例えば豊岡市は近畿と中国地方に登録し、支援効率の関係から、兵
庫県、京都府、鳥取県、岡山県の水害を支援する。テックフォースが支援に入る場合 12に、水害サミットフォースも支援をする。被災地から見ると、私たちはどこの馬の骨
かわからないので、まずテックフォースから「この者たちは怪しい者ではありませ
ん」と言っていただくことですんなり支援に入ることができないだろうか。国交省か
らは整備局のエリア毎に登録した有志自治体の名簿を備え付けていただき、テックフ
ォースが出動する時に被災自治体に対し、水害サミットフォースが支援を行う用意が
あるということを通知いただくとともに、有志自治体にはテックフォースが出動した
のであなたたちも出ておいでと促していただく。有志自治体に直近の被災経験がない
場合には、支援バイブルとしてここでまとめたノウハウ集を活用いただく。バイブル
に載っていないときには、水害サミットのネットワークの中で近年被災を経験した自
治体を紹介する。国交省のご了解がいただければ、少し突っ込んだ議論をし、これを
具体化するような検討をさせていただければなと思う。
國定三条市長 まずは中貝市長からご提案いただいた骨太の大きな進め方について、
ご了承いただければ、国交省さんの協力を得ながら詰めに入っていきたいと思うがど
うか。
(拍手)それでは豊岡市が中心となり国交省と話を詰め、皆様にも随時ご意見を
賜りながら進めていきたい。
松田特別顧問 最後に国交省の山田局長からコメントをいただき、第 13 回水害サミッ
トの幕を閉じたいと思う。
≪国土交通省コメント≫
山田水管理・国土保全局長 水害というものに第一線で責任者として携われた方々の話
を伺い、我々も気が付かない有意義なお話がたくさんあった。身の引き締まる思いだ。
第1部の「より広い視野で考える現実的な災害対応について」であるが、被災体験を
共有することは非常に重要であり地道に取り組んで防災意識が薄れつつある地域に対
しても発信していかなければいけない。水害サミットは、その面での貢献が非常に大き
い。
また水害だけではなく地震という観点からも皆様の経験を共有できたのは有意義だ
った。
第2部の「多様な関係者による効果的な連携について」であるが、連携については私
も非常に重要だと思っている。
芽室町長が紹介された取組は、
非常に理にかなっている。
そういう提案は連携もしやすい。また水防災意識社会の再構築はハード、ソフト一体と
いうが、
水防災意識というものを住民の方一人ひとりが再認識していただくことがまず 13は基本だ。その点では、防災教育とか避難所の開設を市民の方にも手伝ってもらうとい
った話があったが、非常によい取組だ。そうした効果的な連携の在り方を我々も広げて
いきたい。
水防法等の改正について説明したが、これから魂を入れていくことが重要だ。皆様の
協力をいただきながら、逃げ遅れゼロと、社会経済被害の最小化に向けて頑張っていき
たい。
中貝市長から提案のあった水害サミットを母体とした被災地の支援についてである
が、
総合行政の観点から大規模災害に対応した経験とノウハウに基づく適切なアドバイ
スは必須だ。水害サミットフォースには、非常に期待をしておりテックフォースと車の
両輪として被災地の早期復旧に向け、一緒に取り組んでいきたい。
最後になかなか逃げない人がいるというので、
逃げる気にさせるための動画をつくろ
うと考えている。作成に当たって水害サミットのご協力、ご支援をお願いできればと思
っている。引き続き皆様のお知恵をいただきながら、防災・減災の一層の充実に我々も
努めていきたい。
≪コーディネーター総括≫
松田特別顧問 水害サミットは 13 回やってきたが、会議がすごく充実してきた。今ま
ではどちらかというと公助に依存することが多かったが、共助をどう強化していく
か、発展させていくかということが大きなテーマになってきている。首長だけではな
く地域の人々の意識の変革も必要でありそのためにはどうしたら良いのかというとこ
ろまで話が出てきた。これから水害サミットがやっていくべき方向性を示しているの
ではないか。また来年も、再来年も、水害サミットが効果ある提案をできるように努
力していきたいので引き続きご協力とご意見、知恵を貸していただければありがた
い。
≪閉会挨拶≫
中貝豊岡市長 松田特別顧問には素晴らしいコーディネートをしていただいた。
国交省、
内閣府、消防庁の皆様からも熱心にお聞き取りをいただいた。感謝申し上げる。また事
務局の立場でいろいろな段取りをしていただいた三条市の皆様にも感謝申し上げたい。
災害対策の話というのはとても大切だが、やればやるほどしんどい。出水期に入り、お
互いに緊張の糸をピンと張ったまま全力でそれぞれのまちの防災に努力したい。また、 14後におられる方々こそが、実は現場で一番大切だ。至らぬ我々を補佐していただくこと
をお願いし、締めの挨拶とする。本日はありがとうございました。
おわりに
甚大な被害をもたらす災害が全国各地で頻発しているが、今回のサミットでは、陸前
高田市長をお招きしての「より広い視野で考える現実的な災害対応について」
、また昨
年の台風被害を踏まえた「多様な関係者との効果的な連携について」のそれぞれにおい
て参加市町村長による活発で有意義な意見交換を行うことができた。参加市町村、さら
には全国の市町村における今後の防災、減災の一助となることができれば幸いである。
また、このたび賛同を得た「水害サミットフォース」の取組については、国土交通省
を始めとする関係機関と連携を図りながら災害特有の課題に対するノウハウの支援を
迅速に行える仕組みづくりに向けて今後具体的な検討を進めていきたい。
石井国土交通大臣・水循環政策担当大臣、山田水管理・国土保全局長を始めとする国
土交通省の皆様、内閣府、消防庁の皆様から御出席いただき、近年の国の動向に関する
御説明やテーマに関する貴重な御意見を通じて非常に意義深い第 13 回水害サミットと
することができた。
開催に当たり様々なお力添えをいただいた多くの関係者の皆様に改
めて心から感謝申し上げる。

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