1第 10 回水害サミットの開催について
The 10th round of Mayor’s summit on the flood disasters
―被災地からの情報発信―
-Send out signals of information from disaster areas-
水害サミット実行委員会事務局
The Flood Damage Summit Executive Committee Office
I.はじめに
水害サミットは、平成17年9月に水害経験の少ない他の自治体に情報発信し、防災・減
災意識を高めることを目的として、第1回水害サミットを開催し、その後毎年開催しており
ます。
昨年も台風等による大規模な水害が全国的に多発しましたが、我々は近年毎年のように発
生している風水害に対して万全の備えを行っていかなければなりません。水害サミットを開
催し、水害で被災した自治体がその経験を語り合い、全国に向けて対策や今後の課題等につ
いて情報発信することが、各地において水害に対する対策が進められるきっかけの一つにな
るものであると考えております。
今回のサミットは、2部構成とし、1部においては、
「事前行動計画(タイムライン式対応
計画)による防災・減災対策について」をテーマとし、防災機関が連携して先手を打った防
災対応を行うのに有効なタイムラインを防災対策にとり入れることについて意見交換を行い
ました。また、2部では、
「災害の経験から得た防災意識の風化を防ぐ取組について」をテー
マとし、災害時から時間が経過しても住民の防災意識を忘却させないために有効な取組につ
いて互いの事例を挙げながら意見交換を行いました。
II.第10回水害サミットの概要
1.日 時 平成26年6月3日(火)15時〜18時30分
2.場 所 TKPガーデンシティ竹橋ホール10E
(東京都千代田区一ツ橋1-2-2)
3.主 催 ・水害サミット実行委員会
水害サミット実行委員会発起人会
(新潟県見附市長、福井県福井市長、兵庫県豊岡市長、新潟県三条市長)
・毎日新聞社
4.出席者 コーディネーター:松田 喬和(毎日新聞社特別顧問)
挨 拶:太田 昭宏(国土交通大臣・水循環政策担当大臣)
オブザーバー:足立 敏之(国土交通省技監)
森北 佳昭(国土交通省水管理・国土保全局長)
出 席 者:國定 勇人(新潟県 三条市長)
久住 時男(新潟県 見附市長)
伊藤 勝美(新潟県 五泉市長)
大平 悦子(新潟県 魚沼市長)
品川 萬里(福島県 郡山市長)
牧野 百男(福井県 鯖江市長) 2小野登志子(静岡県 伊豆の国市長)
西田 健(三重県 紀宝町長)
山本 正(京都府 宇治市長)
中貝 宗治(兵庫県 豊岡市長)
片山 象三(和歌山県 西脇市長)
大橋 建一(和歌山県 和歌山市長)
寺本 眞一(和歌山県 那智勝浦町長)
萩原 誠司(岡山県 美作市長)
塩田 始(高知県 いの町長)
佐藤 義興(熊本県 阿蘇市長)
(敬称略)
5.会議のテーマ
(1)事前行動計画(タイムライン式対応計画)による防災・減災対策について
(2)災害の経験から得た防災意識の風化を防ぐ取組について
6 会議の内容
≪発起人代表挨拶≫
國定三条市長:
今年で 10 回目の節目を迎えた水害サミットの取り組みをご評価いただき、
昨年に引き続き太田国
土交通大臣のご出席を賜り御礼申し上げる。太田大臣におかれては、水循環政策担当大臣を兼任さ
れたが、その観点からも水害サミットを見守っていただきたい。水害サミットのこれまでの議論の
蓄積から新たな『防災・減災・復旧 被災地からおくるノウハウ集』を策定し、4月7日に大臣に直
接進呈させていただいたが、その際に「タイムライン式対応計画」について、水害サミットでもぜ
ひ検討を進めてほしいというアドバイスを頂戴した。そこで、本日第1部のテーマとして、三重県
紀宝町長さんから、タイムライン式対応計画の取組をご披露いただき、我々も知見を深めてまいり
たい。
第2部は「災害の経験から得た防災意識の風化を防ぐ取り組みについて」をテーマに意見交換を
行い、被災市町村が増えないために、被災経験のある我々が不断の取り組みを続けることを改めて
確認したい。最後に水害サミット開催にあたりご協力をいただいている国土交通省の皆様方に御礼
を申し上げる。
≪国土交通大臣・水循環政策担当大臣挨拶≫
太田大臣:
今年3月に成立した水循環基本法に基づき、5月20日に総理から初代の水循環政策担当大臣を
拝命した。
総合的な水循環政策の司令塔としての役割を果たしていきたい。
近年、
災害が激甚化し、
集中し、局地化している状況で被災した市町村長が意見を交わすこうした機会は、大変貴重で重要
だ。このサミットから生まれた本「防災・減災・復旧 被災地からおくるノウハウ集」に「トップ
がなすべき11項目」がある。そのひとつにトップが指揮を執っている姿を見せることが大事とあ
る。リーダーの姿が安心感をもたらす。この11項目は全国の首長に読んでもらいたい。昨年8月
から気象庁が特別警報を出している。内閣府では避難勧告等のガイドラインを出した。特別警報と 3避難をどう組み合わせるかが大きな課題だ。水害は地震とは違って、事前に備えるタイムラインの
設定が有効だ。最近は竜巻や北海道の高温など異常気象が起きている。地方でも都市部でも起きる
という危機感を持って対応していきたい。水害などの災害が多い日本で、水は貴重な資源である一
方で水の脅威もある。両面から水行政に対応していきたい。
≪メッセージ紹介≫
(欠席の井本宗司福岡県大野城市長のサミット開催を祝すメッセージを事務局から読み上げ紹介。)≪国土交通省のタイムラインの取り組みについて≫
松田特別顧問:
まず国土交通省から、
「平成 25 年の水害の発生状況及びタイムラインの取り組みについて」の説
明を願いたい。
山田治水課長:
自治体共通の悩みとして、多くの災害は数年から数十年サイクルで発生し、教訓、反省を伝え難
いことや小規模な自治体では災害対応が難しいということがあり、何らかのシステムによる補完が
必要なのではなかろうかと考える。米国のハリケーン・サンディの調査で時間軸に沿った行動計画
の整備により被害を最小限に食い止めることができたということが分かった。大規模な水害の被害
を最小化するためには、インフラ整備に加えてタイムラインに沿ったような対応を強化するという
ようなことが必要である。
今年度国交省としては全国の直轄管理区間で避難勧告の発令に着目したタイムラインを試行、検
証していく。
首都圏等ではタイムラインに関心が高い自治体あるいは企業とともに、
リーディング・
プロジェクトとして先行的な取り組みも推進していく。年度内には「タイムラインの策定・活用指
針」を作成していきたい。タイムラインのイメージとしては、時間軸に対して国交省、交通機関、
市町村、住民が何をするべきなのかということをまとめたものというふうに考えていただければよ
い。
≪初参加市町村長紹介≫
品川郡山市長:
郡山市内の164の河川の総延長が608キロメートル、人工の安積疏水の総延長が約500キ
ロで、計千キロの河川がある町である。過去 20 年のあいだに度々大きな水害にあっている。浸水被
害が生じたとしたら、放射能汚染した河川中の土壌が家屋の中に入ってくるということもあるかと
思う。国土強靭化の柱に「河川強靭化」を入れていただきたい。これまでの経験ではTEC-FO
RCEが大変助かった。
佐藤阿蘇市長:
阿蘇市は、
平成2年7月2日に山腹崩壊し、
多くの方が亡くなられている。
平成 24 年7月 12 日、
九州北部豪雨災害では大変な状態になった。十数年経って記憶がだんだん薄れたときに水害が起こ
ったが、今回の災害をしっかりと住民と共有しながら、命を守っていきたい。太田大臣には現地に
来ていただき感謝申し上げる。まだまだ災害の復興の途中だが、一生懸命に頑張っている。 4(1)タイムライン式対応計画による防災・減災対策について
松田特別顧問:
既にタイムラインに着手している三重県紀宝町の西田町長から具体的な事例をご説明願います。
西田紀宝町長:
紀宝町は、人口は1万1700人。高齢化率は 31%、面積は約 80 平方キロメートルである。
「紀
伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されている。熊野川も川の参詣道として世界遺産に登録
されているが、ときどき悪さをする川でもある。
平成 23 年台風 12 号により大変な降雨量になり、死者1名、行方不明者1名の人的被害があり、ま
た道路が土砂崩壊等によって寸断されて名古屋、大阪方面へ通行可能な道が1本もないまさに陸の
孤島になってしまった。
災害の被害の予想等を立てながら取り組んでいくことが大事だということを改めて認識した。紀
宝町もこれまでの経験で災害対応のノウハウは持っていたが、想定を超えるような大きな水害にあ
うと、状況に押されて、対応がどうしても後手になってしまう。進む道を見失ってしまうところが
出てくるのではないかということも危惧されることである。
町民は逃げてくれるとは限らない。私どもとしても町民と一緒になって災害に対処できる体制を
つくっていく必要がある。そうした検討の際に国土交通省のご助言により環境防災総合研究機構の
環境防災研究所副所長である松尾先生を紹介いただき、タイムラインという方法の暫定的な取り組
みを始めた。昨年の台風においては暫定的な運用をした。
いろいろな行政機関が顔の見える形の中で、常に共に同じ目的意識を持って取り組みを進めてい
く。このことが非常に大事だなと思っているが、町民の皆さん方に避難していただく方法をいかに
つくり出していくかということが一番大きな課題である。このタイムラインと事前防災行動計画を
作り、それを住民に説明し、大きな台風に対してどういう協力体制をとって、ひとりの犠牲者も出
さない対策を講じていくか。そのことを念頭に、これからも取り組みを進めてまいりたい。タイム
ラインの詳細は担当から説明させる。
紀宝町防災担当職員:
平成 23 年の台風 12 号による災害の検証をする中で、大災害時には、小さな町だけでの対応は非
常に難しいということが浮き彫りになった。
公助につきましては、
災害箇所、
道路情報、
気象情報、
ライフライン等、情報などをいち早く収集すること。それによって地域へ的確な情報を提供できる
というということで、さまざまな関係機関との連携が非常に重要であるということ、また自助・共
助の連携が必要不可欠ということが分かり、
タイムライン策定を進め、
昨年 10 月 24 日から 26 日に
襲来した台風 27 号においては、
環境防災研究所の松尾先生の助言・指導によりタイムラインを暫定
的に試行した。具体的には台風接近の3日前までにポンプ施設の点検、2日前までに土砂災害危険
箇所の異変の有無確認を行うなど、事前に防災資機材の確認、危険個所の点検、地域防災計画に定
める役割の確認等を行った。
36 時間前までに行うべきとしていた住民への避難準備の呼びかけにつ
いては、タイムラインよりもさらに早いタイミングも検討したが、天候状況から前倒しは効果的で
ないと判断した。
タイムラインの導入効果としては、課題や教訓の継承ができること、また、各防災対応に関係機
関相互の役割が明確化できるとともに各関係機関との顔の見える関係が築けるということがある。
いつ、だれが、何をするべきかを定めるため、関係機関の対応の漏れやばらつきを少なくできると
ともに、タイムリーに先を見越した最善の対応が可能になることが期待できる。小さな町では人事 5異動により防災の専門家がなかなか育たない状況にあるがタイムラインを活用すれば災害時に誰が
担当でも同じ対応ができるのではないか。
紀宝町ではタイムラインを地域防災計画の下位として位置づけ、台風用の事前行動計画とするこ
ととし、台風が発生した場合には上陸予想の5日前から上陸後3日間の行動内容とそれをだれがい
つ行うかということを規定する。国、県、ライフラインの機関等をメンバーとした検討会の立ち上
げを検討しており、今年の台風時期に試行運用し、来年から本格的な運用予定である。
松田特別顧問:
紀宝町の説明を聞いて疑問点や前向きな意見があろうかと思うので質問、提言を願いたい。
大橋和歌山市長:
和歌山市では和田川の河道が狭くなっているところに小さな川が合流してくるという地理になっ
ていて、ちょっとした雨が降る度に和田川が満杯になり、そこに流れ込む川の流域で越水状態にな
って水害が毎年のように起こっている。
全ての部長等に兼務発令した危機管理局を設置し、水害が予想されるときには、気象台から説明が
あった段階で危機管理局の会議を開いて、対応を検討するというようなタイムライン的なことはや
っているが、きちんと詰めた格好でタイムライン作成を図る必要がある。
和田川については住民組織がいわばタイムラインのようなものを持っていて、半日前に、全部車
をほかのところへ移動させるというような対応もあるが、被災経験の多い地域に限られている。避
難勧告をしてもなかなか避難してくれない。これはタイムラインの中でクリアできるのかなという
若干の懸念もある。
松田特別顧問:
タイムラインでいけば、事前に点検することが大事で、防災組織、システムというものを再点検
していくことがこれからは必要だ。
萩原美作市長:
美作市ではなく岡山市の経験だが、同市を流れている川の上流に県営と国営のダムがあり、なか
なか危機意識がつながらない。ダムの放水管理をどうするか調整の問題が必ず出てくる。おそらく
協議する機会をタイムラインの中に入れておかないと効果が薄くなる。タイムラインの中にもう少
し広域性というものを入れて考えるべき地域もある。
佐藤阿蘇市長:
タイムラインは非常によい取り組みだ。命を守る、早めの避難ということが基本であると思う。
行政が系統立ててきちんと取り組むということが信用性を高め、それを繰り返し、繰り返しやるこ
とによって、さらに住民が事前に避難してくれるようになるだろう。
山田治水課長:
ダムの操作をどうするのかという情報の共有化を事前に決めておくことが非常に重要だ。タイム
ラインのメリットのひとつは、関係機関相互の連携をよく保っていくということであり作成するこ
とは非常に有意義と考える。 6山本宇治市長:
一昨年の台風で宇治川決壊の恐れがあり、
19 万2千市民のうち6万2千人に避難指示した際に大
きな脅威を感じた。桂川、木津川、宇治川、そして滋賀県との洗堰の問題、ダムの運用その他、非
常に広域的な対応で水害防止がなされており、タイムラインを今すぐできるのかどうか。事前行動
をやったら市民がすべて安心だというような思い方をされると非常に深刻な問題が起きるのではな
いか。タイムラインは否定しないし非常に大切だと思うが、最初にやらねばならないのは施設強靭
化ではないか。そうした課題もあるということだけ申し上げたい。
中貝豊岡市長:
時間軸の中で手順化され、関係者全体が意識して、自分がどういう関連の中にいるのかが分かる
という意味でも非常に有効である。時間の設定が少しイメージがわかない。その台風がいつやって
来るかは自治体によって違うので、実効性のある時間軸をどのように設定するのかがまだよく見え
ない。自治体タイムラインだけではなくて、住民組織タイムラインが本当にできれば住民側の意思
啓発としては相当役立つと思う。それでもなお、最後に逃げるか逃げないのかというのは個々人の
判断であり、その点はしっかりした対応をしていく必要がある。
山田治水課長:
5日前が一応の設定となっているが、場合によって当然変わって来るし、どういう設定がいちば
ん効率的かというのは今の段階では一概にいえない。時間軸の設定、対応の実施等は今後の検討、
調整が必要になる。
久住見附市長:
計画の考え方としては非常に良い整理だ。ただ、避難勧告等を検討するのは、現実的には6時間
前というのが実態になる。防災訓練の中にこれをどのような形で組み込めるのか。それによって、
これが実際に機能するかが分かる。実践された自治体の話をまた1年後とかにお聞きしたい。
松田特別顧問:
避難勧告を行う首長さんからすると、まだ詰め切れない部分もあろうかと思う。国交省だけでは
なく、自治体もその地域に合ったタイムラインというのをつくり、将来のサミットではタイムライ
ンのコンテストのような会議もあり得る。
塩田いの町長:
いの町では排水機場なら毎月1回、雨季になると月2回チェックを入れており、3日くらい前に
ポンプを見る必要もない。対応検討会議の開催時期も時間軸ではなく水位で決めている。
大平魚沼市長:
例えば3日前という形になると、日曜日、平日の市民の生活時間によって全く条件が違うので、
幾つもパターンを考える必要がある。
小野伊豆の国市長:
伊豆というところは大変災害が多いので、タイムラインというものが住民一人一人の体内時計の
ように出来上がっているところがある。雨が降り始め、また台風が近くなると住民は頻繁に川を見 7に行く。そして内水の状況、山からの水はどうか、支川の状況はどうかと、各々がしっかりと体内
時計のようにそれを確認する習慣がついている。
片山西脇市長:
1年前に新しいポンプを作ったが、動かなかったということがあり、タイムラインがあれば回避
できたかと思う。
私どもは 20 キロほど先に自衛隊駐屯地があるので、
タイムラインを作ったら自衛
隊の方々と共有したい。
寺本那智勝浦町長:
自主防災組織が全町にわたって組織されており、タイムライン的な救済対応、大水害避難訓練を
やっている。最近は自主防災のほうが先に動いてくれる。経験上タイムライン的なことが出来上が
っているのかなと思うが、それをいかにして周知していくのかが課題と感じている。
大橋和歌山市長:
自主防災組織に対していろいろ補助メニューを作った。
機材整備などメニューを幾つか用意して、
自主防災活動活性化の側面援助をしている。
松田特別顧問:
これで第1部は終わりにしますが、国土交通省の足立技監から一言ごあいさつをいただきましょ
う。
足立技監:
皆さまの経験からタイムライン的なものを作り上げていただければ、全国の模範となるような素
晴らしいものになると思う。水害の経験のない市町村へ提供していただいて、全国的にレベルアッ
プをしていければ、ありがたい。
(2)災害の経験から得た防災意識の風化を防ぐ取り組みについて
松田特別顧問:
第2部のテーマ「災害の経験から得た防災意識の風化を防ぐ取り組みについて」まず、見附市長
からお話し願います。
久住見附市長:
道の駅を昨年8月に作り、その中に「防災アーカイブス」を設置した。道の駅には半年で 50 万人
が来るので、子どもたちからかなり見てもらい、非常に成果がある。
平成 16 年の水害のあと毎年、出水期の前に防災訓練をしており、10 回目の今年は総人口の 30%
弱は参加する見込みである。今回は中学生の 79%が参加してくれる。防災をカリキュラムに入れた
りして、少しずつ学校の意識が変わってきている。子どもたちが参加することは大人に対する刺激
もあり、地域が変わってくる。
また見附の防災をブラジルのひとつの町に3年間かけて JICA で伝えるということをしてきたが、
来週ブラジルの首都とサンパウロ州の防災担当者が来る。彼らは日本の防災について消防団など共
助の仕組みがすごいと言っていた。
全国で6.5%しかやっている自治体がなかったICT-BCPという、災害時に庁舎または本 8部が維持できなくなったときに市民の情報をどのような形で発信し続けるかということもまとめた
ので紹介する。
松田特別顧問:
発起人市として、もうひとつ三条市の例を紹介願います。
國定三条市長:
三条市も、
この水害サミットを創設する直接的なきっかけとなった平成 16 年の水害を被り、
今年
10 年の節目を迎える。その中で、国土交通省から、災害が発生したときの強力な活動拠点として防
災ステーションを設置していただいた。そこに水害時の防災資機材を配備していただいており、本
当に感謝を申し上げる。水害の記憶の忘却を防ぎ子どもたちにも分かりやすく体感できるよう、三
条市で防災ステーション内に水防学習館を設置させてもらった。
毎年小学校6年生に対して平成 16 年の7・13水害の話をするが、ここ1〜2年、子どもたちに
は全くピンと来ない。
私たちからするとたかだか 10 年前の話であっても、
子どもたちにとっては1、
2歳のときのことで、ほとんど記憶にない。体験したことがない。記憶の忘却との戦いということ
に、抜本的な対策を講じていかなければいけない。
水防学習館の施設内容には群馬大学の片田敏孝先生にもご協力いただいたが、
先生は、
「風化とい
うのは忘却という意味ではない。風化というのはプラスの意味で、徳を積んで、人々の熱意によっ
て教え込ませる。その結果、その教え込んだ内容が文化のように、空気のようにその町に漂ってい
くことを風化というふうに呼ぶのだ」としきりに語られ、さらに「10 年間子どもたちに絶え間なく
防災教育を実施していくことができれば、10 年経てばその子は 20 歳になる。20 歳になれば、もし
かしたら子どもを産むかもしれない。
子どもを産んだら、
さらに 10 年間頑張れば次の世代に確実に
防災意識というものはバトンタッチできる。それこそまさに風化なのだ」とおっしゃる。水防学習
館、
そして小中学校、
とくに中学校を中心に防災教育を片田先生のご指導をいただく中で 10 年間頑
張って続け、真の意味での風化にたどり着きたい。
松田特別顧問:
見附と三条の取組を紹介いただいたが、他に事例をご紹介願いたい。
伊藤五泉市長:
小学校区で防災訓練を毎年やっている。3年前に氾濫した阿賀野川は福島県境から流れ来て、福
島県管轄と新潟県管轄のダムが7つ8つある。今般、北陸地方整備局の指導の下、広域連携で総合
水防訓練を行った。防災はやはり関係機関の連携が大事だが、それぞれの事業に関して子どもたち
が危険を感じる教育というのが重要だ。子どもの教育に取り組んでいきたい。
大平魚沼市長:
地域のことは、学校でも教育の中で学ぶが、自分の家族の中で体験談を伝えていくということが
非常に大切なことだ。語り伝えていくことを教育も含めて継続して取り組むことが大切だ。また、
災害のときには日常生活の付き合い、コミュニティーがいちばん身を助ける。
牧野鯖江市長:
鯖江市も平成 16 年に被災し、ちょうど 10 年になる。今年は節目ということで、被災地区の3地 9区合同で防災訓練を行った。展示や 10 年の歩みをまとめた冊子も作成して、減災・防災に対する意
識向上を図る。
また町内会155のうち150で自主防災組織が結成された。
出前講座参加者への、
ジュース代補助や自主防災組織の防災資機材整備費の2分の1補助、先進地視察のバス代の2分1
補助など限度額を定めて行っている。また、平成 21 年から防災リーダー養成講座を行っているが、
これを拡大し講座受講修了者に、防災士の試験を受けていただき、自主防災組織の中への配置を企
てている。
今、
「データシティ鯖江」としてオープンデータを進めているが、養成した防災士から登録しても
らい、スマホなどで写真付き防災レポートを送付してもらうなどして、災害情報に役立てたい。河
川の水位センサー、
排水機場のテレメーター関係も整備して、
出動態勢の迅速化を図っていきたい。
10 年を節目にして、自主防災組織の強化とともに人的な養成にも努めて、安全・安心なまちづくり
に努めたい。
松田特別顧問:
防災士の試験というのはどのように行うのか。
牧野鯖江市長:
これまでは大阪に行っていたが、市内の高専で高専の先生が講習会も試験も行い、そこで資格を
取れるようにしていく。
松田特別顧問:
資格を既に取得している人も多いのか。その人は防災組織のリーダーになっているのか。
牧野鯖江市長:
27 人ほどだが、全員なってはいるわけではない。
小野伊豆の国市長:
伊豆の国市は伊豆半島の入り口付近にある、旧韮山町、伊豆長岡町、大仁町が平成 17 年に合併し
た町で、人口約5万人である。昭和 29 年に洞爺丸台風、昭和 33 年に狩野川台風、昭和 34 年に伊勢
湾台風と続けて台風が来た。狩野川台風での死者は約800名だったが、その後は台風はあっても
死者はない。これは昭和 40 年完成した狩野川放水路のおかげで、来年がこの放水路の 50 周年とな
るので、市として、国土交通省の協力を得て大きな事業を組みたい。風化させないための文化的な
事業になる。
狩野川台風を風化させないために、当市の長岡中学校に中学生と先生、地元の方々で劇団DAN
というものができた。大変素晴らしい演劇で、これまでの約8年間で二十数回上演している。中学
生ですから、狩野川台風を知るわけではないが、台風というのはこういうものですよということを
知ってもらうために公演を続けている。ひとつの文化となった良い例ではないか。また、狩野川中
流域の水害対策アクションプランを組んでおり、国、県、市、町が一体となり、9河川の台風によ
る水害に対している。
松田特別顧問:
先ほどタイムラインでご説明願いましたけれども、紀宝町で風化させない工夫がありましたら、
紹介願いたい。 10西田紀宝町長:
だんだんと忘れられていくということは事実だが、地域で水害があったことはしっかりと後世に
引き継いで残していくことが大事だ。
「紀宝町防災まちづくり計画関連事業」として国土交通省の補助をいただき役場の横に5階建て
の防災センターをつくった。下はコンクリートの柱だけで、4階と5階に住民基本台帳、戸籍やサ
ーバー機器、放送設備も上げて、津波に対応していく。近隣の町民も避難をしていただくし、発災
後もしっかりと対応できる体制をとっていく。ここにしっかりと展示をしながら、忘れない対策を
考えていく必要がある。また、飲料水の確保に 40 トンのタンクを町内 6 カ所に設置し、自家用の給
油所も作った。災害を忘れないためにも、住民が地区防災活動に参加できる体制をしっかりととっ
ていく。
山本宇治市長:
宇治市は、昭和 28 年に宇治川の堤防の決壊があり、住民は経験と大きな教訓を得た。南部豪雨災
害以降は危機管理体制では部長級を配置し、防災研修や防災訓練を実施し初動体制、対応能力強化
を図ってきた。3月には住民聞き取りの生々しい被災体験を記録集としてまとめた。
市民向けには、防災シンポジウムを開催する。自助、共助の必要性を普及し防災出前講座や平成
24 年から3カ年計画で、自主防災リーダー150名養成、地域の防災訓練、資機材整備の補助制度
を実施している。福祉避難所マニュアルも策定した。量的なこともだが質的にどうかということが
非常に大事である。
寺本那智勝浦町長:
災害の 10 年後には子どもたちはなかなかぴんと来ないだろう。
このたび大規模災害技術研究セン
ターを国土交通省と県で那智勝浦町に設置していただくことになり心から感謝する。災害対策の技
術を研究する施設だが、これを核に、小中学校で毎年1回教育して自分の判断ができる子どもを育
てていきたい。
平成 23 年の台風の災害のCG画像をつくっていただくことも国土交通省にお願いし
ている。皆さんにご協力いただきたいのは、この施設ができたときには、それぞれの市町村から災
害史等の冊子を提供していただきたい。全国の災害記録史を1カ所に集め、研究材料にもなるだろ
うし、熊野三山の那智大社等のある麓に作る予定なので、観光客も含めて見ていただきたい。子ど
もが学習するということは、親も学習してくれるということにつながる。
我々の町は 85%が山、15%が海岸部で、海では津波、山では土砂災害という環境の中にある。各
地区の自主防災で避難訓練を年1回やっており、意識的には風化することなく進んでいる。自助と
いうのは逃げるということの判断ができるかで、それが身につかなければ共助につながらない。こ
れからの学習の中で子どもに学ばせたい。
萩原美作市長:
昭和38年と平成21年に水害に見舞われた。
この6月議会に消防団の任用の条令の改正案をあげ、
これまで 18 歳以上だったが 15 歳から消防団に入れることにしたい。これは、防災のことを深く学
んでもらう場が消防団だが、18 歳になると地元にいなくなるからである。私はこの3月の選挙で当
選したが、前に岡山市長をしていたとき選挙で市内全域を回った市長がどの職員よりも地域をよく
知っているから、水防などは市長が判断せざるを得ないと感じた。また人だけではなくて山や川に
会いに行く必要がある。咄嗟の判断をするために相当細かい地形を勉強しておかないといけない。 11塩田いの町長:
今、私はソフト面へ力を入れている。たとえば、災害時要援護者名簿の作成。災害時に助けに行
くのではなくて、
地域で、
災害時にここに要援護者がいるんだよという意識づけを持たせるために。
200くらいの集落のうち自主防災組織率がやっと9割を超えた。県の2分の1補助金制度を活用
しながら新規の発足を促している。発足後の活動の支援はしており、これも風化をさせないという
ことではないか。
近年、累加雨量で判断し避難勧告を出したところ、18 名皆が逃げてくれた。避難勧告を出した理
由をきちんと住民の皆さんに伝える。地滑り、急傾地、両方に入っており、累加がゆっくり400
ミリならば出さないが、急に400ミリになったから避難勧告を出すのだと。その場、その場で住
民を説得していくことが大事だ。
松田特別顧問:
サミット発起人のひとりでもある豊岡市長から、総括の感想を願いたい。
中貝豊岡市長:
10 回目になり、皆さん具体的に前に進んできたなと実感する。今日の風化をさせないということ
に関していうと、共通項として、子どもたちに語りかけないといけないということがあって、さま
ざまな努力をしておられる。こういったことをお互いに語り合い、それぞれの減災対策が進んでい
く会としてこの水害サミットもしっかり育ってきたなというのが総括である。
豊岡市のことも申し上げる。土砂災害警戒情報は市単位で発表されるために、広い市域のどこが
真に危険なのか分からない。豊岡市は兵庫県と一緒になり、予測システムを導入した。高級レーザ
計測データで地形を詳細に分析し、10 メートルメッシュごとの地形・傾斜・土質データと1キロメ
ートル四方の降雨予測データを入れ予測する。しかしながら、降雨実績による検証では約 80%の精
度だが、
雨のほうの確率が ×ばつ70%で 55%となり予測としては全く役
に立たない。だが、予測としては役立たないけれども、自主判断としては役立つ。雨さえ所与であ
れば 80%の確率で分かるわけなので、降雨シミュレーションにより危険性が高い地域を抽出して、
その地域の危険雨量を伝えた上で簡易雨量計を渡して、自分の判断で逃げてもらう。こういったこ
ともある意味で、風化を防ぐことである。
松田特別顧問:
最後に森北局長から全体を通じての感想と、減災、防災に対する国の対応をお話し願います。
森北水管理・国土保全局長:
第1部では、紀宝町のタイムラインの取り組みをご紹介していただいたが、皆さん実際はタイム
ライン的なものをやっていただいている。災害が大きくなればなるほど関係する機関が非常に多く
なり、どうしても自分のところだけしか対応できないというふうにもなる。タイムラインを元に、
関係機関の行動を知るのが大事で、整理し、つくり上げていただければ非常に有効なものになる。
国交省では、今年度は109の1級水系で洪水についてタイムラインを作成し、試行的に取り組
んでいきたい。首都圏と中部圏ではリーディング・プロジェクトということでいろいろな機関を巻
き込んだタイムラインをつくる。来年のこのサミットで結果として示すことができれば、皆さま方
のタイムラインの作成にも役立てられる。
第2部の防災意識の風化を防ぐ取り組みは大きく分けると三つくらいになるかと思う。ひとつは 12意識啓発、二つ目が訓練、三つ目が教育と分類できるのではないか。啓発については、見附市、三
条市の紹介があった。施設を活用した啓発活動ということは引き続きやっていくということが大事
なことである。二つ目の訓練については、これは住民の方も巻き込んだ形での防災訓練等をそれぞ
れ毎年行っており、地道だが継続が意識の醸成にもつながっていく。三点目の教育は、やはり子ど
もにまたは後世に継承していくことが非常に大事で、記憶の忘却を防がないといけない。そのため
の教育とか継承の必要性を感じた。三つの観点からの取り組みを引き続きお願いしたい。
≪コーディネーターコメント≫
松田特別顧問:
来年か再来年はそれぞれの地域でつくったタイムラインというものをここで披露して、批評を加
えられるような会合にしたい。何か新しいアイデアなり、非常に良いタイムラインが生まれてくる
のではないかと期待したい。
≪発起人代表閉会挨拶≫
中貝豊岡市長:
今年も出水期に入った。お互いに緊張の糸をピンと張って、それぞれの町を守り、またそこから
得られた教訓を共通のものとしながら、
お互いの守り、
あるいは備えを前へ前へと続けていきたい。
III.おわりに
今年度の水害サミットは、1部で「事前行動計画(タイムライン式対応計画)による防災・減災
対策について」
、2部で「災害の経験から得た防災意識の風化を防ぐ取組について」というテーマを
掲げました。
第1部テーマは、
太田国土交通大臣・水循環政策担当大臣のアドバイスによるもので、
水害サミットの取組をご評価いただいた賜物ととらえ感謝いたしております。第2部テーマはサミ
ット参加市町共通の課題であり、これからの防災対策を考える上で欠かせないものとして提案した
ものです。どちらのテーマについても参加市町長の皆様から活発な意見交換を行っていただき、情
報共有することで、それぞれの市町において今後の新たな取り組みへの方向性を検討する一助とな
ったと考えております。
また、太田国土交通大臣・水循環政策担当大臣を始め、足立技監、森北水管理・国土保全局長は
じめ国土交通省の皆様からもタイムライン関する取組予定等についてご説明いただくとともに、そ
れぞれのテーマについて貴重なご意見をいただき、サミット開催が非常に意義深いものとなりまし
た。
第10回の水害サミットを振り返り、その実施に当たって様々なお力添えをいただいた国土交通
省及び毎日新聞社の関係者の皆様方に対して、改めて深甚なる感謝の意を表するものです。 13

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