検査材料の採取

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検査材料の採取

天然痘が疑われる患者が発生した場合、国立感染症研究所感染症情報センター(電話03-5285-1111)へ連絡する。実験室診断は、国立感染症研究所ウイルス第1部外来性ウイルス室(電話042-561-0771) が対応する。

被験検体の採取は以下のように行う。検体採取の作業は、ガウン、手袋、靴カバー、ヘッドカバー及びマスクを含む防護服を着用し、予防接種を受けた職員が実施する。

I 病期による検体の選択
天然痘の病期によって可能な検査が異なるため、必要な検体も病期により異なる。以下の表に従って病期によって採取する検体を選択する。

病期 検体 電顕によるウイルス粒子の検出 蛍光抗体法によるウイルス抗原の検出 抗体検出
潜伏期
前駆期 血液 - +/- -
丘疹期及び
紅斑期 塗抹標本
血清 +
- +
- -
-
水疱期 塗抹標本
水疱液
血清 +
+
- +
+
- -
-
+/-
膿疱期 塗抹標本
膿疱液
血清 +
+
- +
+
- -
-
+
痂皮期 痂皮
血清 +
- +
- -
+
回復期 血清 - - +

II 検体の採取に必要な設備・器材
検体を適切に採取するためには以下の設備・器材を用意することが必要である。
・ 注射器(5ml)と皮下注用注射針(血液採取用)
・ 基準EDTA及びヘパリンを含有するチューブ
・ 抗凝血剤を含有しないチューブ
・ 止血帯、脱脂綿・綿棒
・ ピンセット(上蓋、痂皮等採取用)
・ 無菌搬送容器(痂皮輸送用)
・ 清潔なプラスチック製顕微鏡用スライドグラス
・ 油性マーカー・ペン(スライドグラスに患者の身元、日付等を記入するため。)
・ スライドグラスケース(スライドグラス輸送用。プラスティック製でスライドが25枚程度入るもの。)
・ ビニールテープ(スライドグラスケース等を密封するため。)
・ 保冷剤(検体冷却用)
・ 注射器(ツベルクリン用、PBS入り)と注射針(水疱液採取用)
・ セラムチューブ(水疱液輸送用)
・ 防水性廃棄ビン(使用済み針、注射器等廃棄用)
・ 感染性材料の持参輸送に用いる容器
・ バイオハザードテープ
・ 0.1%次亜塩素酸ナトリウム(輸送前に容器の外部を拭き取るため。)
・ 国際感染性物質ラベル(バイオハザードマーク)
・ 使用済みの包帯及び防護服を処分するためのバイオハザードバッグ

III 検体の採取法

1 血液:ヘパリン血を5ml

2 塗抹標本
(1) 安全キャビネット等の設備が無い場合は、上蓋をとり2mlのプラスチックチューブに入れて密栓の上冷却し(凍結はしない)、国立感染症研究所へ運搬する。
(2) 可能な場合は、上蓋をとり、その内側をスライドグラスにスメアし乾燥する(図1-1参照)。スメア標本を3〜4枚作成する。うまく上蓋がとれないか、疱底が湿性をおびているときは、スライドグラスの表面を押し付けてスメアを取る(図1-2参照)。塗抹標本はウイルスが不活化されていないのでスライドグラスケース(プラスティック製の25枚程度入るもの)に入れテープ等で密閉し、さらにビニール袋等に入れてテーピングする。冷却状態を保って国立感染症研究所へ運ぶ。凍結は不可。

[画像:図1-1 塗抹標本の作製法]
図1-1 塗抹標本の作製法

[画像:図1-2 検体の採取]
図1-2 検体の採取:スライドグラスの表面を押し付けてスメアを採取。
(1975年インドビハール州、倉田毅博士より)

3 水疱液、膿疱液
PBSを0.1〜0.2ml入れた注射針(26G)付きの1mlの注射器(ツベルクリン用)を疱膜から挿入して、2〜3回ポンピングして内容液を採取する(図2)。採取前にアルコール消毒はしない。セラムチューブ等に内容液を入れて、4°Cに冷却して国立感染症研究所へ運ぶ(注射器の内部に内容液が残っている場合には、注射器も提出することが望ましい。)。

[画像:図2 水疱、膿疱の場合の水疱液、膿疱液の採取法]
図2 水疱、膿疱の場合の水疱液、膿疱液の採取法

4 痂皮の場合
ピンセットで痂皮を採取し(図3)プラスチックチューブ等に入れて密栓し、4°Cに冷却して国立感染症研究所へ運ぶ。

[画像:図3 痂皮の場合は、ピンセットで痂皮化した部位を採取する]
図3 痂皮の場合は、ピンセットで痂皮化した部位を採取する。

5 全血(血清)
安全キャビネット等の設備が無い場合、凝固血液を国立感染症研究所に運ぶ。可能な場合は遠心分離により、血清を採取する。ただし、血液凝固塊、血液中にウイルスが存在する可能性があるため、血清分離等に用いた試験管、ピペット、血液凝固塊等はオートクレーブ処理する。血清は、国立感染症研究所へ運ぶ。


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