08/10/23 第32回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会議事録 第32回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会 日時 平成20年10月23日(木) 10:00〜 場所 中央労働委員会講堂 しろまる平野部会長 ただいまから第32回労災保険部会を開催いたします。本日は、那須委員、齋藤委員、田 中委員、平山委員がご欠席でございます。 それでは、議事に入らせていただきます。第1の議題は「労災保険制度における派遣労 働者の災害補償について」です。前回の部会に引き続いて議論をいただきたいと思います。 まず、事務局から資料の説明をお願いします。 しろまる労災管理課長 まず、資料1-1をご覧ください。 前回、「派遣労働者の労働災害の現状」について資料をお示ししましたが、若干追加した 部分もありますので改めて説明いたします。資料1-1「派遣労働者の労働災害の現状」の1 頁の1番の「労働災害による休業4日以上の死傷者数」は、前回示したものと同じです。 2番は「労働災害による休業4日以上の死傷者数」を業種別にみていますが、前回は派 遣労働者の部分について割合だけでしたが、実数とあわせて示しています。全労働者の部 分についても、実数とあわせて示しています。全労働者では、製造業、建設業については 徐々に死傷者数は減少しています。その他の産業は若干増減がありますが、トータルでは ほぼ横這いという状況です。一方、派遣労働者は、そもそも派遣労働者の数が増えてきて いるため、死傷者数が増加しているということです。2頁は、それをグラフにしたもので す。 3頁は、前回の労災保険部会でご質問があり、口答でお答えしたものですが、「全労働者 と派遣労働者の労働災害の発生状況」についてで、全労働者については母数が大体5,000 万人で、それに対して死傷者数は13万人強ですので、割合は0.26%です。派遣労働者に ついて平成18年では、常用換算で約151万8,000人に対し、死傷者数が3,686人で割合は 0.24%ですので、ほぼ同じような割合です。 次に4頁ですが、製造業の休業4日以上の死傷者数について、さらに細かい業種別にみ たものです。これも、前回は割合のみでしたが、実数を加えております。これも前回申し 上げましたが、食料品製造業、輸送機械製造業が死傷者数が多くなっております。 5頁は「事故の型別」です。これも前回割合だけでしたが、実数を加えています。事故 の形態としては「はさまれ、巻き込まれ」がいちばん多く、あとは「動作の反動、無理な 動作」「転倒」が多くなっています。 次の6頁ですが、それについて派遣労働者だけでなく、全労働者でどういった類型が多 いかをあわせて示したものです。「はさまれ、巻き込まれ」がいちばん多いというのは、両 方共通です。全労働者では、「転倒」「切れ、こすれ」の割合が高くなっています。派遣の 場合にも「はさまれ、巻き込まれ」がいちばん多く、その次に「動作の反動、無理な動作」、 「転倒」となっています。 さらに、製造業の中で、特に食料品製造業と輸送機械製造業で派遣労働者の災害が多い ということで、それについてどのような類型が多いか、それからどういった業種で多いの かを示したものが7頁です。派遣労働者の場合には、水産食料品製造業の場合で刃物によ る「切れ、こすれ」が、高い割合となっています。それ以外では、「はさまれ、巻き込まれ」、 「転倒」が多くなっています。 8頁は輸送機械製造業です。こちらも派遣労働者、全労働者のいずれも「はさまれ、巻 き込まれ」が多いのですが、派遣労働者の場合は「動作の反動、無理な動作」の割合が若 干高くなっております。 次に資料1-2です。これは前回と同じで、7月の研究会の報告書の抜粋で、「派遣先の法 律上の災害防止責任が反映されるように、労災保険制度について見直しを検討すべき」と 指摘がなされているものです。 資料1-3は「費用徴収制度について」の概要と具体例で、これも前回と同じですので、 説明は省略させていただきます。 次に資料1-5をご覧ください。前回の議論も踏まえ、派遣先事業主に対する費用徴収に ついて検討を行いましたが、費用徴収については法制上の問題があるということです。 2の(1)をご覧いただきたいと思います。現状については、「事業主の故意又は重大な過 失によって発生した業務災害について保険給付を行った場合には、政府は、その保険給付 に要した費用に相当する金額の全部又は一部を事業主から徴収することができる」となっ ており、これが先ほどの費用徴収です。 現行の法律では、事業主は派遣労働者の場合は派遣元になりますので、派遣先からは費 用徴収ができません。そこで、派遣先から費用徴収をすることについて検討しましたが、 そもそも費用徴収制度の趣旨からすると、派遣先から費用徴収をすることについては、法 制上の問題があるということです。 具体的には、 (2)の「対応」のいちばん最初のしろまるですが、費用徴収制度は、労災保険に 加入している事業主のモラルハザードを防止するという趣旨であり、従来は事業主の故意 又は重大な過失によって発生した業務災害については、労働者に支給する保険給付を一部 制限する、支給制限という形でした。一般に、労災保険に限らず、保険において故意など の場合には免責という形で給付がされないことがあるわけです。それと同様に、保険に入 っているということで、故意又は重過失でも保険給付を全額行うことになると、事業主の 災害防止に対するインセンティブも働かず、モラルハザードが生じるということで、それ を防止するため、従来は故意又は重過失について支給制限をしておりました。昭和30年頃 までは労働基準法の災害補償責任と労災保険法の給付のレベルが同じであったので、労災 保険から給付されない部分は事業主が自ら補償する必要があったことによって、モラルハ ザードを防止しておりました。 その後、年金化等によって労災保険の給付水準が改善され、労働基準法の水準を上回っ たため、事業主の災害補償責任を超えている部分について労働者に対する支給制限を行っ た場合、労働者が受け取る保険給付が減るだけとなり、かえって労働者の保護に欠けると いうことで、事業主からその費用を徴収する形に改めました。 ですので、費用徴収というのは、あくまで労災保険制度における保険関係の中にある者 に対して行われるものであるわけです。一方、派遣の場合、派遣元が適用事業になり保険 料を払っているため、派遣先は保険関係の外にあることから、派遣先に対していきなり費 用徴収を行うということは、法制上問題があるということになりました。 一方で派遣先は、労災保険法上においては、いわば第三者という位置付けになるわけで すが、現行の労災保険法において「第三者に対する求償」があります。 資料1-4をご覧ください。「第三者行為災害による求償について」ということで、労災保 険法第12条の4で、政府が第三者の行為によって生じた事故について保険給付を行った場 合に、その給付の価格の限度で保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償請求 権を取得すると規定されています。 典型的には、自動車による交通事故です。労災事故について、不法行為や運行供用者責 任という形で第三者に損害賠償責任が生じる場合、業務災害あるいは通勤災害であれば労 災保険から保険給付がされますが、被害者にとって労災保険の保険給付と損害賠償とを両 方受けることになると、重複して損害の填補が行われることになりますので、それを調整 する規定がこの12条の4です。 1項は、労災保険の保険給付をまず行った場合には、その価額の限度で第三者に対する 損害賠償の請求権を取得する。2項は、逆にまず損害賠償を受けた場合には、保険給付を しないとなっています。具体的には、労災保険給付を支給した場合に、第三者の行為によ る場合には、債権の調査確認をした上で、加害者に対して求償を行います。 2頁は、実際どの程度の求償を行っているかで、上が業務災害と通勤災害をあわせたも のです。特に、自動車事故がかなりありますので、通勤災害が多くなっております。業務 災害と通勤災害をあわせると、平成18年度で約1万5,000件で、約133億円の求償を決定 しております。自動車事故以外では、2,000件強で約6億円です。下は、さらに通勤災害 を除いて業務災害だけの場合ですが、求償決定件数は5,000件強で、金額は約40億円です。 そのうち自動車事故以外のものが、1,100件強で約3億円となっています。 資料1-5に戻ります。労災保険法上は派遣先が第三者になるということで、現在この第 三者の行為によって生じた事故について、先ほど申し上げたように、損害賠償請求権を取 得することになり求償ができるわけですが、派遣先に対する求償はほとんどできていない のが現状です。その1つの原因としては、派遣先の行為によって事故が起きたということ を、きちんと把握するツールが機能していないというのがあります。 この資料1-5の2頁で、注1、注2とありますが、労災保険法において使用者に対して は必要な報告、あるいは文書の提出、出頭を命ずることができることになっています。ま た、適用事業の事業場に対して、立ち入って調査する権限がありますが、ここで言う使用 者というのは、派遣労働者の場合には派遣元になりますし、適用事業の事業場というのも 派遣元の事業場になるため、法律的には派遣先に強制的に立入検査を行う、あるいは報告 を求めることができないのが現状です。 そういう意味からも、派遣先の行為による事故であることを、きちんと確定することが なかなか難しい面があるわけです。実際、派遣労働者の場合には派遣先が具体的な指揮命 令を行いますし、現に労働災害は派遣先の事業場で発生するのが一般的ですので、派遣先 に対して2頁の(1)で、まず報告あるいは文書の提出、出頭を命じることができることとし、 さらに派遣先の事業場に対しても立入検査ができるということを、労災保険法に規定した 上で、派遣先に対する損害賠償請求の徹底を図っていくこととしてはどうかということで す。 第三者求償については、先ほどの労災保険法第12条の4で、法律的には損害賠償請求権 を取得するとなっていますので、その部分については通達において、対象事案や手続等を 明記した上で、第三者求償の徹底を図るということです。労災保険法の改正においては、 そのような報告を求めることや、立入検査ができる権限を規定して、それをツールとして 派遣先に対する第三者求償を徹底していくことにしてはどうかということです。 対象については、費用徴収との並びで、派遣先の故意又は重大な過失によって事故が発 生した場合に、派遣先に対して第三者求償を行うことを徹底するという形で行ってはどう かということです。派遣についての説明は以上です。 しろまる平野部会長 それでは、ただいまの説明について、皆さんからのご意見を伺いたいと思います。 しろまる長谷川委員 質問です。資料1-5の2頁の「行政庁が、(1)派遣先に対して報告、文書の提出又は出頭 を命じることができる」となっています。これは派遣先とだけ書いてあるのですが、派遣 先の誰を指しているのですか。 しろまる労災管理課長 派遣先の事業主に対して報告を求めるということです。 しろまる長谷川委員 派遣先の事業主ですね。 しろまる労災管理課長 これはいま法務省と、報告義務違反や立入検査の違反に対しては罰則を科す方向で、調 整をしています。事業主と法人、両罰規定になる方向です。 しろまる輪島委員 資料1-5の2頁目の3行目「派遣先が故意又は重大な過失」についての基準というか、 これはどのような場合に「故意又は重大な過失」と呼ぶのかという点です。それは今度の 制度改正のあとに、何か基準のようなものを作るようなことは考えるのでしょうか。 それから、具体的には資料1-3です。前回と同じ資料ですが、3頁以降に費用徴収の事 案のところで、これは現実的には第31条関係ですが、派遣先での事故についての事例が載 っています。基本的にはこのようなことを考えて、このような事例があったときには「故 意又は重大な過失」と考えていいのかどうか、その点をお聞かせいただきたいのですが。 しろまる労災管理課長 基準については、資料1-3の「費用徴収制度について」の1頁に「事業主が故意又は重 大な過失により生じさせた業務災害の原因である事故とは以下の場合」ということで(1)〜 (3)まであるわけです。基本的にはこの並びで、改めて通達等でそのような規定をすること を予定しています。ですので、具体的事例、資料1-3の3頁以下にあるようなこういった 事案について、派遣先の行為によってこのようなものが発生した場合に、損害賠償の請求 を行うという形で予定しています。 しろまる平野部会長 ほかには何かありますか。よろしいでしょうか。 しろまる内藤委員 いまの法律をよく知らないで質問しているのですが、今回このように改正をされるとい うことは、例の災害の発生状況に応じて保険料の料率が見直されてきますよね。そのとき に、いまのこの状況ですと、派遣先で多数災害が発生しても、その派遣先の業種について は料率の見直等に関する影響は全く出ないというルールになっているのか。あるいは今度 立入りをして非常に重大な過失があった場合には、派遣先からも費用負担を求める場合に、 発生件数のカウントがどうなって、今後その業種における料率がどのように変わるのかに ついて、ご説明いただきたいのですが。 しろまる労災管理課長 労災保険の適用は派遣元の事業主で適用しますので、派遣先で起きた事故についても、 基本的には派遣元の料率に反映されます。ただ、派遣先の故意や重大な過失によって生じ たものについて、これは特にメリット制の適用で問題になるかと思いますが、それを派遣 元のメリットにカウントすることは、必ずしも適当ではないのではないかと思いますので、 派遣先の故意や重大な過失によって生じた事故の部分については、派遣元のメリットから は除外することが適当かと考えております。 しろまる平野部会長 ほかには何かありますか。それでは、今回の資料で皆さんがご要望になった資料はほと んど出たという理解でよろしいですか。それでは、本日の議論を踏まえて、資料1-5にあ る方向で事務局において法案作業を進めていただきたいと思います。今後の予定について、 事務局から説明をお願いします。 しろまる労災管理課長 それでは、先ほどの資料1-5の方向で法案要綱を作成しまして、派遣法本体と合わせて 一本の法律になり、その中で労災保険法の改正の部分が含まれてくる形になろうかと思い ます。そういった形で、これから法案要綱を作成した上で、次回の労災保険部会でお諮り をさせていただきたいと思います。日程は、また改めて調整いたします。 しろまる平野部会長 それでは、そのようにしていただきたいと思います。 それでは、次の議題に移りたいと思います。第2の議題は「平成21年度労働保険特別会 計労災勘定概算要求について」です。それでは、これについて事務局から説明をお願いい たします。 しろまる労災管理課長 資料2をご覧ください。8月末に、平成21年度の予算についての概算要求を提出してい ますので、それについて説明をいたします。 まず歳入ですが、平成21年度の要求額としては、平成20年度と比べて2%ぐらい減少 し、1兆4,180億円余りです。内訳としまして、大部分が保険料収入になります。それが 徴収勘定からの受入になりますので、他勘定からの受入ということで、1兆563億円強で す。これについては最近の徴収決定の状況、あるいは賃金の伸び等を踏まえて、若干の減 少を見込んでいます。それから、一般会計から受入、未経過保険料受入、支払備金受入等 は、実績等によって若干の減となっています。運用収入については、預託について平成20 年ものに預け替えなどを行い利息収入が増えましたので、前年度と比べて約110億円の増 加と見込んでいます。 一方、歳出ですが、これも平成20年度と比べますと1.3%ぐらい減で、1兆1,172億7,000 万円です。保険給付費については、これも実績を元に若干の減少を見込んでいます。それ から、社会復帰促進等事業費については、約52億円の減で916億円強の要求になっていま すが、これについては特別会計の見直しで、平成17年度の予算額1,222億円に対し、平成 21年度において4分の1を削減する目標になっていました。今回の平成21年度の要求が 916億円ですので、概算要求の段階で4分の1削減という目標はクリアしたところです。 以上です。 しろまる平野部会長 どうもありがとうございました。それでは、いまの説明に対してご質問がありましたら お願いしたいと思います。よろしいでしょうか。もしなければ、これで今日の労災保険部 会で予定した議題は終わりますが、よろしいでしょうか。 次回の開催については、改めて事務局から連絡していただきたいと思います。 本日の議事録の署名委員は、労働者代表の藤田委員、使用者代表の小手川委員にお願い いたします。皆さん、お忙しい中、本日はどうもありがとうございました。これで閉会い たします。 照会先:労働基準局労災補償部労災管理課企画調整係 03−5253−1111(内線5436,5437)

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