01/12/11社会保障審議会 第4回人口部会議事録 社会保障審議会第4回人口部会 ○しろまる日時 平成13年12月11日(火)16:00 〜17:35 ○しろまる場所 厚生労働省 省議室(9階) ○しろまる出席委員 廣松部会長 〈委員:五十音順、敬称略〉 阿藤 誠、秋山弘子、市川 尚、岩渕勝好、駒村康平、高橋義哉、 永瀬伸子、長谷川眞理子、向山孝史、山?ア泰彦、山路憲夫、山田昌弘 〈事務局〉 石本宏昭政策統括官、河 幹夫参事官(社会保障担当)、 小川 誠政策企画官、 国立社会保障・人口問題研究所人口動向研究部 高橋重郷部長 ○しろまる議事内容 1.開会 小川政策企画官 ただいまより第4回社会保障審議会人口部会を開会いたします。 議事に入ります前に、お手元の資料の確認をさせていただきます。 配席表、議事次第のほか、 ・資料1−1 「将来人口推計の方法と仮定設定」討議資料 ・資料1−2 「将来人口推計の方法と仮定設定」参考資料 ・資料1−3 「今後の夫婦の出生力低下について(小川委員意見)」 ・資料1−4 「今後の夫婦の出生力低下について(津谷委員意見)」 となっております。この他に、1月の日程調整表がございますので、委員の皆様の日 程についてご記入をお願いいたします。なお、日程調整表につきましては部会終了後、 事務局で回収いたしますので、机の上に置いたままにしていただきますようお願いいた します。 なお、本日は小川委員、小宮委員、津谷委員、雪下委員につきましては、ご都合によ りご欠席とのことです。山田委員につきましては遅れてご参加というご連絡を受けてお ります。ご出席いただきました委員の皆様方が3分の1を超えておりますので、会議は 成立しておりますことをご報告申し上げます。 それでは、以後の進行につきましては、廣松部会長にお願いいたします。 2.将来人口推計の方法と仮定設定 廣松部会長 本日はお忙しいところをお集まりいただきまして誠にありがとうございます。それで は、議事に移りたいと思います。 前回の部会では、「将来人口推計の方法と仮定設定」を議題として審議を行いました が、出生率の仮定設定における夫婦の出生力の見通しについて十分な結論が得られなか ったことから、もう一回部会を開いて審議を行うことといたしました。 そこで、本日の部会は、引き続いて「将来人口推計の方法と仮定設定」を議題とし、 特に、「夫婦出生力の見通し」を中心として議論を行うこととしたいと思います。 まず、資料1−1「将来人口推計の方法と仮定設定」について、国立社会保障・人口 問題研究所の高橋重郷人口動向研究部長からご説明をお願いします。 高橋人口動向研究部長 それでは私から説明させていただきます。パワーポイントを使う関係で、パソコンの ところで報告させていただきます。 資料1−1「将来人口推計の方法と仮定設定」をもとに、本日は前回に引き続いて、 夫婦の出生力に関する考え方についてご説明申し上げたいと思います。 図表1は前回配付しました資料であります。左下の完結出生児数という欄を見ていた だきたいのですが、その中に晩婚化効果による出生力低下と晩婚化以外の要因による出 生力低下というのがあって、これまでの推計では晩婚化の効果による出生力低下という のは盛り込まれていた。結婚年齢が変化する以外の要因による低下の部分があらわれて きたのではないかというのが前回の報告のポイントであります。具体的には完結出生児 数に関して晩婚化以外の要因による出生力低下は前回はゼロであった。新推計では、こ れをどのように盛り込むかというのが論点になっているという整理です。まず最初に、 結婚と出生との関係をもう一度整理して考えてみたいということであります。 図表2は人口動態統計に基づく初婚数と出生数を時系列で並べてみたものです。これ をみますと、1960年代から90年代にかけて初婚数と出生数はパラレルな関係で動いてき たことが分かります。1990年代から初婚数の動きと出生数の動きに乖離があらわれてい るという状況があります。このことは、結婚と出生に関する構造的な変化が1990年代か ら起きていたということを示唆します。 図表3−1は出生率と初婚率という率に直したデータを同じように重ねてみたもので す。1990年代まではパラレルに動いている。しかし90年代に入ると合計初婚率の動きと 合計特殊出生率の動きに乖離が出ているということであります。 結婚と出生の間には平均的に2年ぐらいのタイムラグがありますので、タイムラグを とって並べてみますと、より近い関係に見てとれます。特に1990年までは初婚率の動き と合計特殊出生率の動きはパラレルであった(図表3−2)。しかし90年代から合計特 殊出生率が下がる。しかしながら、合計初婚率に関しては低下はしないで横ばいの状態 になっている。したがって1990年代から結婚と出生の間には構造的な変化があるという ことがこのことからも理解できます。 それらを前提としつつ、過去の調査における夫婦の平均出生児数のデータを確認して みますと、結婚15〜19年を経過した夫婦に関しては1970年代以降は安定的であった。72 年の調査で2.20を記録して以降、97年の調査まで2.21であった(図表4)。これが、従 来から夫婦の出生行動は極めて安定的であるという一つの論拠であったわけです。 出生率の分布を見ても、結婚15〜19年の夫婦に関しては極めて安定的で、子ども2人 が50数%、3人が27%、1人が10%内外、0人が3%前後ということでした(図表5) 。 ところが1980年代以降を見てみますと、若い夫婦に関しては出産の行動が変化してい ます(図表6)。結婚0〜4年の夫婦に関しては1987年の調査では子ども0人は33.3% だったのが、92年には38.8%、97年には41.6%というように出産のテンポが変化しつつ ある。結婚5〜9年に関しても同様の傾向が見てとれます。これらのデータについては 、これまでの部会の中で申し上げたことであります。 このデータも前回お示ししましたが、結婚持続年数別、結婚年別累積出生児数の推移 です(図表7)。1985年以降、子どもの出生の累積が右肩下がりに下がってきています 。このことが1985年以降の夫婦出生力の低下を示唆するものであるというのがこれまで に報告したポイントでありました。 図表8は結婚年齢と最終的に産む子どもの数の関係を示したものです。この関係がこ れまでの人口推計の前提でありまして、晩婚化現象が起きていて、結婚年齢が徐々に上 昇するに従って夫婦の子どもの数が下がるというのがこのメカニズムでした。 それを分布で見たものですが、初婚の年齢が上昇し31〜32歳の場合は子どもの数は0 人が12.3%と大きくなってくるという結果が見てとれました(図表9)。 そうしたデータをもとにして、これまでの推計では、初婚年齢の動きと最終的に生む 子どもの数の水準を、このようにモデル化していたわけです(図表10)。 それを更に出生順位別にこうしたモデル化を行って、結婚年齢の変動から最終的な目 標コーホートの出生率を決めていたというものです(図表11)。 図表12は前回の最後の方でお示しした、近年、大きな変化があらわれているというこ とを示唆するデータです。上の線は50歳になった時の平均子ども数の水準を示したもの です。前回推計を行った時点では1955年から59年の出生コーホートまでしかデータが得 られていなくて、それらのデータについて見ますと、35歳時点と50歳時点の累積出生児 数がパラレルな関係で動いていたということが分かります。 1960〜62年の新しい出生動向基本調査のデータを追加してみますと、下の線の右端の1 .93というところにプロットされました。前回推計までのデータでは35歳から50歳まで 同じような関係がありましたが、今回、この両者の間に大きなギャップが出てきた。196 0−62年のコーホートに関しては初婚年齢では説明できないような夫婦出生力の低下が 起きているのではないかというのが前回ご説明申し上げたポイントであります。 その差がどうなってるのかというと、初婚年齢によって動く夫婦の50歳時点の完結出 生児数と35歳時点の累積出生児数との差が、今回は右上に示される*のように大きな差 となってあらわれてきているということです(図表13)。 前回推計時のモデル推定値と35歳時点の差を緑の○しろまるで、今回推定時のモデル推定値と3 5歳時点の差を赤い*で示していますが、今回のものは特に1960−62年に関して大きな 差となってあらわれているというのがこのデータの特徴です。 前回の部会以降、我々が新たに分析した結果がこれ以降にありますが、まず一つは初 婚年齢別に見た累積出生率を35歳の時点でとらえてみました(図表14)。 35歳時の出生率を算出するために、このデータと、次の図表15にある出生コーホート 別の35歳以前に結婚した妻の初婚年齢分布というデータを出生動向基本調査から得て、 それに基づいて行いました。 上から2番目の□しろいしかくのある黄色い線のカーブになりますが、35歳時点における夫婦の累 積出生率を推定しました(図表16)。初婚年齢の変化だけで起きた場合、35歳時点でど のくらいの出生率が期待されるかということを予測したのが黄色い線です。その下の■しかく のあるピンクの線は何かというと、実際の出生動向基本調査から得られた実績値です。 35歳時点で切ってみますと、1930−34年生まれの人々についてはデータは一致してい る。つまり初婚年齢から生まれた子どもの数が実績とぴったり合っていたということで す。35−39年についてもほぼ近似的である。40−44年に関してもほぼ均等である。45−4 9年についても同様である。50−54年に関しては若干ギャップがある。55−59年に関し てはわずかなギャップになっている。問題の1960年以降のコーホートに関しては大きな ギャップが見てとれた。これから何が言えるかというと、1960−62年のコーホートに関 しては初婚年齢の変化だけでは説明しきれない夫婦出生力の低下があったのではないか というのがこの結論です。 図表17は初婚年齢分布からの予測値と実績値との乖離に関する検定結果です。1960−6 2年のデータに関しては他のデータとの間に有意な差が統計的には検証できたというこ とで、実績値と予測値のギャップが60−62年コーホートに関しては統計的にも確認でき たということです。 それが今回の分析で行っている出生動向基本調査だけではなくて、他の調査データか らも同じことが言えるのかどうか。それを検証するためのデータとして国民生活基礎調 査のデータを用いました(図表18)。国民生活基礎調査では1人以上の子どもがいる夫 婦に関して同居児数を統計的にとることが可能です。子どものいない夫婦はこの統計デ ータからは除いてありますが、同居児が平均出生児数に極めて近いものですので、60年 以降の動きを見てみることにしました。 1960年が2.10ですが、それ以前では2.12、2.18、2.13というように2.10を超える水準 を維持している。しかし1960年に2.10に達したあと、61年は同じ水準でしたが、徐々に 低下してきているということです。このように別の調査データからも出生児数、つまり 平均同居児数の減少傾向が起こっていることが分かります。これに無子割合の増加とい うことがこれに覆いかぶさってきますので、それ以上の夫婦の出生力の低下が起きてい るのだろうということが推察されます。 では本当に1960年代コーホートは、それ以前のコーホートと出生行動が違うのかとい うことを再確認しようということで作成した表があります(図表19−1))。この表の特 徴の一つは、妻の結婚年齢を23歳から27歳に限定して、結婚の条件をなるべく近い状態 でそれぞれのコーホート分析を行うことにしました。そして結婚から7年以上経過した 初婚同士の夫婦について分析を行ってみました。 まず最初に見たのは結婚から5年経過した時の累積出生率と、子どもがいない人、1 人、2人、3人、4人以上という分布の状態がどうなっていたのかということを見てみ ました。 平均初婚年齢に関しては、初婚をコントロールしましたので、すべてのコーホートは ほぼ24.5歳、1つだけ24歳というのがありますが、平均の初婚年齢はうまくコントロー ルできています。 コーホート間でどういうことが起きているかというと、古いコーホートでは結婚5年 を経過した時に子どもがいないというのは6%内外の水準でした。1人というのは1935 −39年を除いて28%前後、2人は60%前後です。60−64年生まれの人に関しては子ども なしが10.6%と急速に増加していますし、1人も28%前後から33%へと増加しています 。2人も60%前後から51%へと減少しているということで、1960−64年世代に関しては 子どもを産むインターバルが長くなって、結果的に子どもの分布の状態が子どもの少な い方へとシフトしてきているということが見てとれます。 これは結婚後7年時点で見た表です(図表19−2)。先ほどと同様に、子どもなしと いうのは1960−64年世代を中心として上昇傾向にある。1人というのは50年代までと60 年代に入って以降では5%ぐらい違うことが分かります。2人というのは50%台へと落 ちてきている。3人も14%台に落ちてきている。このように子どもの追加プロセスが60 年代の世代に入ることによって減少してきていることが見てとれます。 図表20は結婚経過年別に累積出生児数を見たグラフですが、最近の世代ほど子どもの 産み方が低くなってきているということです。 結婚後7年時点の子ども数の分布を棒グラフで示しています(図表21)。子どもなし という黄色い部分が増えてきています。子ども1人というのも増えてきていることが分 かります。相対的に子ども2人は少なくなってきているということです。 このようにいくつかの角度で見ても、1960年生まれ以降のコーホートでの夫婦出生力 の低下傾向というのは統計的に見てとれるのではないかと考えております。以上が資料 1に関する説明です。以上です。 廣松部会長 ありがとうございました。 実質的な審議に入る前に、本日ご欠席ではありますが、人口学専門の委員の方々から 今後の夫婦の出生力低下に関するご意見をいただいておりますので、事務局から説明を お願いします。 小川政策企画官 本日ご欠席の小川委員、津谷委員から今後の夫婦の出生力低下についてのご意見をい ただきました。それでは資料1−3から読み上げさせていただきます。 今後の夫婦の出生力の低下について、小川委員意見。 国勢調査データと人口動態統計の分析によれば、90年代初めは第1子目のタイミング の変化が生じた。また、毎日新聞社人口問題調査の全国家族計画データから、90年代の 後半は第2子目のタイミングに変化が生じたことが示された。90年代におけるこれらの タイミングの遅れとは別に、教育が結婚のタイミングを決め、結婚のタイミングが第1 子のタイミングを決め、そして、第2子、第3子、第4子のタイミングが順次決まって いくメカニズムは90年代を通して安定していた。これは全国ミクロデータを90年代をプ ールして行ったハザード分析より得られで結論である。 この変化の原因については、毎日新聞調査結果による多変量解析の分析から、バブル の影響であると考えている。第2子目のタイミングの遅れに、高い統計的有意性が認め られた。 しかしながら、このバブルの影響が完結出生児数そのものを減らすこととなっている のか、出生タイミングをずらしただけになっているかについては調査上分けてとってな いため、これが一時的なものなのか恒久的なものなのかについては両方とも考えられ、 現時点では判断することができない状況。 結婚した夫婦の出生力の低下は、バブル経済の今後の発展次第で、temporary なもの であるのか、permanent なものであるかは定かではないが、もし、permanent と仮定す るならば、将来推計を行うにあたって、結婚した夫婦の出生力の低下を織り込むという 推計もあり得る。 このようなご意見をいただいております。 続きまして資料1−4、津谷委員からのご意見です。 推定完結出生児数と35歳時累積出生児数の動向は、初婚同士の夫婦によるデータを用 いた分析であることから、近年の離婚率の影響も除去されており、このデータから1960 〜62年出生コーホートの出生率の低下が見られると考えられる。 第11回出生動向基本調査によれば、学歴別の完結出生児数には大きく変化はなく、完 結出生児数の重回帰分析結果でも、初婚年齢をコントロールすると有意な差は見られな いように見える。しかしながら、これらはあくまで結婚15〜19年という、現時点で既に 出産過程から引退し、ほぼ産み終えたと考えられる集団のものである。問題となる若い コーホートについては、学歴による累積出生児数にはある程度の差が見られる。女性の 高学歴化は現在なおも進行の途上であると考えられ、このような社会経済的要因も夫婦 出生力の低下を示す人口学的データを裏付けているものと考えられることから、将来人 口推計の出生率仮定設定に当たり、今後配偶者の出生水準は低下するものと見込むこと が妥当である。 次のページに出生コーホート別学歴初婚年齢と学歴別に見た35歳時点での累積出生児 数のグラフがございます。当然のことながら高学歴になるに従って初婚年齢は上がりま すが、その下のグラフで学歴別の出生児数を見ますと、出生児数の増加よりも明らかに 出生率の低下が見られるということで、今後、有配偶者の出生水準は低下するものと見 込むことが妥当であるというご意見をいただいております。以上です。 廣松部会長 ありがとうございました。 それでは、審議に入りたいと思います。本日のメインの議題は、高橋部長からご説明 いただきましたとおり、平均初婚年齢の上昇以外の要因に関して、その効果を考慮すべ きかどうかということであろうかと思われます。ご説明いただいた資料の9ページの図 表14以降が、前回以降、社会保障・人口問題研究所において分析していただいた結果で す。前回までの分析結果と今回新たに追加された分析結果をご覧いただき、率直なご意 見をいただければと存じます。ご自由にご発言いただければと思いますが、いかがでし ょうか。 岩渕委員 様々な指標を見せていただきましたが、全くその通りで、夫婦の出生力が落ちている ことはだれの目にも明らかであると思います。問題は、これまでの人口推計の指標は正 しい指標ではあるんですが、過去の数値なんですね。遅行指標と言えばいいのか、言い 方は分かりませんが、要するに後追い後追いで推計を重ねてきたというのが、いつも推 計が間違う、狂うと言われる最大の原因であったと思います。推計の手法、データのと り方には間違いはなかったし、考え方もよかったと思うんですが、タイミングがずれて 、いつも後から追っかけてきているという状況であったと思います。 前回の推計の際にも人口審議会でものすごく厳しい意見が出ました。なんでこんなに 狂うんだということで、いろんな批判が出て、その結果、かなり厳しく修正したと思い ます。生涯未婚率13.8%という人口学の常識では考えられない数値まで出たと思います 。その段階で既に現実はもっと先へ進んでいたわけでして、私は前回、生涯未婚率20% まで必ずいく、それは私が責任を持つと言いました。私が責任を持ったところでしょう がない話ですが、その考えはいまだに変わりません。20%まで確実にいきます。証拠が あるかと言われると困るんですが、世の中の流れですよね。先行指標をどのようにとら えるか、作るのか、織り込んでいくかというのは学問的には大変難しいことであろうと は思います。 きちんとした裏付けのない、あやふやな形で推計するわけにはいかないというお立場 もよく分かります。ただ、できるだけ時代の流れを反映させたいということであれば、 不確定な部分は世の中の流れの部分という格好で思い切った指標を入れていく。失業率 とか所得とか社会現象の様々な指標がありますよね。そういったものも含めた形で計算 していかないと、時代からかけ離れて10年ぐらい遅れた指標しか出てこなくて、いつも 間違ってると言われてる原因になってるんだと思います。 今回もいろんな指標がきちんと出てますが、出てるというのは既に過去なんですよ。 小川さんも言ってますが、いま出ている数値は90年代前半あるいは後半の話なんですね 。とっくに過ぎた話というか当たり前の話ですので、これをどの程度織り込むかという ことの方がよっぽど問題です。前回、織り込まなかったことは間違いだったというぐら いではないかと思います。 市川委員 私は産婦人科医師の団体の者として参加しておりますが、10年ちょっと前ぐらいから 不妊症の率が非常に高まっています。それは様々な要因がありますが、若い時期のダイ エットその他による排卵障害が起こっているとか、子宮内膜症が起こって癒着その他に よって不妊症が増えてるということがあります。そういうことの上に体外受精を含めて 生殖医療の分野が非常に進歩して、精子減少症などの数が増えてるにもかかわらず、そ れを拾い上げて受精させることもできるようになり、昨年は体外受精児が1年間に1万 人に達しました。生殖医療の技術が駆使されて不妊症が救われてはきてはいますが、晩 婚化に伴って、なお大きな要因を形成しているような感じがします。 これから先、体外受精がもっと増えるかというと、ある程度は増えると予想していま すが、費用がものすごく高いということもありますし、生殖倫理の問題とか様々な問題 があります。こういう根っこの問題もあって減少してきているのではないかと我々産婦 人科医師としては感じております。 高橋委員 私は第一生命経済研究所の者ですが、第一生命の保険ビジネスにも若干関係があって 人口については大変関心を持っておりまして、先ほど高橋部長からお話があった晩婚化 以外の要因による出生率の低下というのは私どもの研究所としても相当顕著にあるなと 思っております。データに載ってる大学の進学率等が晩婚化に大きく影響していると思 うんですが、1985年に男女雇用機会均等法が通りましたので、これを機会に夫婦の意識 の変化が出ているのではないか。 この年代は1960年から65年の生まれですが、簡単に2つだけデータを申し上げますと 、1つは総理府の労働力調査で、25歳から29歳時点の女性の雇用者率について調べてい ます。団塊世代の女性が25歳から29歳の時は35%ぐらいだったのが、団塊ジュニアの25 歳から29歳の女性では62%となっている。仕事を持ってるから出産できないということ ではないんですが、出産を遅らせるとか、少なくする要因になっているのではないか。 もう1つは総理府の世論調査ですが、男は仕事、女は家庭という昔の概念に賛成する 人たちの割合というのがありまして、団塊世代の女性が20代の頃は76%が賛成している のに対して、直近の20代の女性は13.5%です。先ほど高橋部長から別のデータでご説明 がありましたが、この2つの調査から、晩婚化以外の要因による出生率の低下というの は顕著に進んでいるのではないかと理解しております。 山路委員 前々回、社会経済的な要因を加味すべきなのかということで専門家の方に質問させて いただいたんですが、概して否定的だったわけです。ところが本日の小川委員と津谷委 員のご意見を拝見すると、小川委員はバブルの影響、津谷委員は高学歴化という要因を あげておられます。それをどこまで社会経済的要因というかどうかはともかく、失業率 とか高学歴化とか、顕著な変化を見ると、それに伴う意識の変化等を加味しなければ推 計が難しい時代に入ったのではないかと思わざるを得ません。どういう形で社会経済的 な要因を織り込んでいくかというのは大変難しい問題ですが、それについて是非ご意見 を伺わせていただきたいと思います。 高橋人口動向研究部長 社会経済的な要因が多分に人口動向に対して影響を与えていることは事実です。しか しながら、2つのことを我々は考えています。1つは初婚率、未婚率といった指標それ 自体が社会経済的な変化の結果としてあらわれている。ですから人口の指標の趨勢をと らえて、それを延長してとらえることによって、それは反映されるんだというふうに我 々は整理しています。 もう1つは、社会経済的な要因そのものを使う場合、どういう問題が発生するかとい うと、人口予測は2050年に向かった超長期の推計ですので、2050年時点の経済成長率を どうするのか、労働力率をどうするのかといった別途予測しなければならない様々な変 数が出てきます。それらを予測するにしても何か仮定を置かなければ成り立たないわけ です。ですから直接的に社会経済的な要因をモデルに組み込んで、社会経済的な変数も2 050年まで予測してやるのはいかがなものかと考えていまして、そうではなくて、それ らの変動の要素が反映されている人口指標そのものから予測していくのが妥当であろう と考えております。ただし、社会経済的な要因との関係に関しては事後的にシミュレー ションによって検証することは可能ですので、我々もそれらを不断に検証してお示しし ていきたいと思っております。 岩渕委員 おっしゃることは大変よく分かります。そうであれば、なおのこと現実に起きている 指標の変化に対して敏感でなければおぼつかないということが言えると思うんですね。 今までは、例えば晩婚化であれば常に揺り戻しがあるはずだという固定観念が先に立っ てきた傾向があります。そういうことも含めて社会経済情勢を反映した形での各種デー タについては、あまり様々な思惑や規制をなさらずに、もうちょっと素直に見て、どこ まで延ばすかの問題はありますが、そういった意味で妙に気を使わない方がよろしいの ではないかと思います。 これは人口研が97年の調査で出している「日本人の結婚と出産」というデータですが 、その中に妻のライフコース別に子どものいない夫婦の割合というのがあります。人口 集中地区の一貫就業コース、結婚5年から9年の間で27%が子どもゼロです。こうした データもかなり大きな指標になると思うんですね。これから先、都市化、男女共同参画 の時代の中で、スウェーデンのように女性が働くところほど出生率が高いというデータ もありますが、日本のように男女の給与格差が大きかったり、働き方がパートが多かっ たり、子育ての環境が遅々として進まなかったり、そういう国の中ではこのような現実 がまだ残ってますし、これから先もなかなか解消できるような状況ではないと思います ので、そのあたりもお酌み取りいただきたいと思います。 長谷川委員 ここでは離婚という話は入ってなくて、初婚年齢は何年で、そこからずっとステーブ ルにいった時に何年で子どもが何人ということなんでしょうか。離婚することが子ども を産むスケジュールにどう影響しているかという具体的なデータはおありでしょうか。 高橋人口動向研究部長 前回の審議会で離婚に関することをご説明しましたが、1つは離婚によって出生率が 下がるという部分は見込んでおりまして、モデル上では離・死別効果係数という形で離 婚の影響を組み入れています。 もう1つは離婚それ自体の分析を見てみますと、1つは日本で離婚率が急速に上昇し ています。しかしながら、離婚の発生と同時に再婚で戻ってくる確率も極めて高い水準 であります。もう1つは離婚した人々の出生率を見てみますと、出生率もある程度高い 水準で維持されてる。したがって、見かけ上の離婚率の上昇が相当大きく出生率を下げ るかというと、今のところそこまでは影響していないというのが現状分析です。 長谷川委員 もう1つ別の質問があるんですが、女性が持ちたいと思っている子どもの数と夫が持 ちたいと思っている子どもの数はずれがあるんでしょうか。よく言われる議論は、女性 が働きかつ子育てをする環境がうまく整ってないと、女性が持ちたいと思っても産めな いから減るだろう、だからいろいろ変えていかなくてはいけないと言われますが、それ が直接の原因じゃなくて、みんなが持ちたくないと思ってるとしたら、女性だけじゃな くて男性も持ちたいと思わなくなってるのかもしれない。そのへんの変化というか実態 はお分かりになりますか。 高橋人口動向研究部長 今日お配りした資料1−2の参考資料に予定子ども数というデータがあるんですが、 残念ながら男性の予定子ども数というのは調査をしてないんですね。結婚、出産行動に 関しては現在の調査は女性を対象にしていますので、男性に関する希望子ども数はとっ てない、統計がないというのが現状です。 長谷川委員 人間は何をしたいかというのをしっかり考えてなくても、雰囲気として自分が何をし たいかというのをいろいろ思ってる時に、何かにたくさんかければ、どっちかが減りま すでしょ。戦後の変化というのは、個人が自分自身に対して投資をするというか、自分 自身に時間もお金もつぎ込むと気持ちがよくなって、よい生活ができて、自己実現とい う言葉があるように、いろんなことがポジティブにとらえられるというふうになったら 、自分自身にかけるものが増えれば生殖にかけるものが減っていくと思うんですね。1 日は24時間しかないし一生は何年しかないんだから、子どもをつくることに投資するこ とが人生の選択肢として魅力があり実現可能なことがはっきり見えない限り、自分に投 資をして自分をよくしていくことが非常にすばらしいということが前面にあったら、ど うしてもそっちにいくと思うんです。 男性にとっても女性にとっても子どもを持つことが魅力的な選択肢としてあり得る、 子どもも仕事も両立したほうがいいですよというだけじゃなくて、実現可能だというこ とが目の前に見えるということで自分のオプションの1つに入らない限り、子どもは減 り続けて、自分に向けることが増えていくと思うんですね。戦後、女性は社会進出し自 分を表現し自己を大事にして自分を発展させようということがずっと続いてきて、仕事 でもなんでも自分を表現することだから、それがいいことだということになっていて、 なおかつ子どもをつくることが実現可能だとしても非常に大変なことだし立派な奥さん とは見えない。それがずっと続いてますから、晩婚化だけじゃなくて、何を心地よいと 思うかというと、それが自分にシフトしてるんだと思います。 秋山委員 社会心理を研究しております秋山でございますが、今の長谷川委員のご意見に関連し まして、女性の生き方が選択できるようになってきているというのが一番大きな変化だ と思うんですね。結婚するかしないかというのも選択だし、子どもを産むか産まないか 、何人産むかということも選択だし、高齢者の介護もそうなんですが、そういう選択を する時に何が決め手になるかというと、子どもを持つことのコストとメリットがあると 思います。そういう観点からすると、年金制度が成熟することによって老後の経済的な 保障という意味で子どもを持つことのメリットは減少した。介護保険が昨年から実施さ れたわけですが、自分が介護が必要な時に女の子がいたらいいとか、そういうメリット も少し減少した。逆に子どもを持つコストが上昇しているということもあるわけです。 教育費とかいろいろなことで。 女性が働くという選択肢もあるわけですから、働くことと子どもを育てることの葛藤 におけるコストということも出てきますから、そういう観点から、晩婚化以外にどうい う要因が出生率に影響するかということを考えていく上で、介護保険ということも考え ていく必要があるのではないかと思います。 山田委員 夫婦の間で子どもの数が減ってるということに関しては、私はお金とセックスの問題 が子どもについては重要だと言ってるんですが、1つは子どもに対するお金のかけ方が 昔と違っているということが考えられると思います。先ほど長谷川先生から男性の意識 はどうなのかという質問がありましたが、当時の厚生省で永瀬さんたちと研究会をやっ ていた時に男性にインタビューしますと、とにかく子どもにはお金がかかる、おれの給 料では無理だとか、おれは個室で育たなかったから子どもには個室をあげたいとか、お 金がかかるから産めないという意識が強かった。 女性の高学歴化というのが仕事に関連して言われてますが、男性の高学歴化も同じよ うに言えるのではないか。つまり自分が大卒だったら子どもも大卒以上にしなくてはい けない。私が大学生のころは国立大学の授業料は年間3万6千円だったんですが、今は5 0万を超えるぐらいになってますから、親が両親とも大卒の場合、全部負担しようとす ると、子どもを3人、4人は産めないという形で、高学歴化の効果というのが1つある のではないかと感じております。 これはあまり触れられない問題なんですが、国立社会保障・人口問題研究所の鈴木亨 さんが面白いペーパーを書いておりまして、避妊実行率が下がっているのに妊娠率が下 がっている。これはおかしいデータなので、夫婦間の性交実施効率が下がっているので はないか。だけど、これは絶対に調査ではできないね、というのがペーパーの中にあり ました。身体的な問題もあるかもしれないんですが、そういう問題も織り込む必要があ るのかないのかというのも1つ意見として持っております。 岩渕さんがおっしゃったように、離婚でしたら、いずれもう1回結婚して、晩婚化と いう形で揺り戻しという考え方ができると思うんですが、子どもの数自体が漸減的に低 下している時に揺り戻しという考え方ができるのだろうか。その根拠があるのかどうか 。実際に予測する際には、それがずっと下がっていくと予測するのか、カーブ的にまた 戻るなり落ち着くなりという予測をするのかというのを1つお聞きしてみたいんですけ ど。 高橋人口動向研究部長 出生率が反転するというメカニズムですが、人口学的に必ず出てくる現象として、あ る部分存在します。というのは、結婚が変化している時というのは繰り延べ現象という のが起きるわけです。そうすると、ある一定時期、結婚している人々が少なくなります ので、見かけ上の出生率低下が起きる。これは経験的にもヨーロッパで最近、出生率が 反転してきつつある国があるんですが、変化が起きてる最中というのは極めて低くなっ て、そのあと若干上昇に向かうという部分があります。夫婦の出生力そのものも減少に 向かい始めてくるとどういうことになるかというと、反転の度合いは小さくなってくる という形で変化が起きてくるということです。 永瀬委員 労働経済学を研究しております永瀬と申します。最近の労働市場を見ていますと、若 年層の意識変化に対して日本の長期雇用のシステムのコアはほとんど変わっていないと 思っています。日本の女性の場合、ここにデータを持っていますが、既婚者の正社員の 比率は何歳でも3割程度、残りはパートで、結婚時点で就業行動が大きく変わります。 さらに出産時にまた大きく女性の就業行動が変わります。そういった家族のあり方を支 えてきたのが日本の雇用社会、あるいは社会保障、税制の制度だと思います。男性は世 帯を養えるような賃金を取る。パートやフリーターの人は世帯を養う人が別にいて、プ ラスアルファーとしての賃金を取るし、雇用の保障のあり方も世帯を養っている人を中 心に考えていく。そうやって家族形成をしたら家庭のことは家族内で処理するわけだけ ど、結果的には奥さんがするということで、基本的には雇用社会のほうはあまり大きく 変わっていない。 先ほどご指摘がありましたように、性別役割分業に関する意識は若い世代で大きく変 わっています。教育も男女平等に受けます。企業社会に既に入っている人たちは、ある 1つの選択をした人たちで、そこでは世帯単位で賃金を得て世帯単位での安定を得てい くといことに対して既にコミットしている。しかし若い未婚世代は男女平等教育を受け 、性別役割分業というのはおかしいのではないかと思いつつ育ってきてるもんですから 、結婚、出産というトランジッションにうまく入れない、なかなかそこに移行しないと いうふうに私は理解しています。 つい最近、米国で結婚、出産時の労働移動について他の研究者の結果を比較しました ら、きちんとした仕事を持っていて、結婚で仕事をやめるというトランジッションをす る人の割合は恐ろしく低いです。出産によって、それまで仕事を持っていた人が離職す るというトランジッションも極めて低い。結婚や出産がそれまでの仕事や生活の延長上 に行われている国なんですね。ところが日本においては結婚や出産はそれまでの生活の 延長上にはないわけです。世帯の中に入るという大きな変化を伴って初めて実現できて いるような社会保障や雇用社会のあり方、あるいは税制を日本は現在とっている。それ が若い世代のところで、現実はそうだけど、足踏みをしてなかなかそこに入らないとい うことがあるのではないか。労働経済学で労働市場を見ておりますと、そのように感じ ます。 駒村委員 参考資料の図表3で、1955−59年のコーホートと60−64年のコーホートは学歴自体は そんなに大きな差はない。それに対して資料1−1の図表16の累積出生児数では55−59 と60−62のコーホートではこれだけの差が出ている。この背景にあるのは社会的な問題 が大きいのか、さっき市川先生がおっしゃった生物的なほうの要因が大きいのか。それ が一時的なものなのか、それとも恒常的にものなのか。このへんの判断というのはどう なんでしょうか。 高橋人口動向研究部長 小川先生の場合は恒常的なものか一時的なものかというのは判断できないという見解 を示しておられますね。先ほどの永瀬先生のご意見や岩渕先生のご意見を参考にしなが らこの解釈をしてみると、1つは日本の社会が持っている大きな変化としては、徐々に 女性が働く時代になって、均等法ができ、労働市場に多く入ってくるようになるとこう した変化が起きてきている。したがって、こうした世代以降の傾向というのは、この部 分の延長線上にあるというふうに解釈しながら、このデータを見ております。 永瀬委員 先ほどそういうふうに申し上げましたけど、この延長線上でいくしかないのか、もう 少し社会が変わるような方向があり得るのではないか。日本では企業社会の変化が大変 遅いけど、若者の意識変化は非常に速い。そのために停滞が起きていて、今の与件をそ のままいけば更に停滞が起こるだろうという長谷川委員とか多くの方々のご意見は、ま さにそのとおりだろうと思いますが、そのままでいいのだろうかということを私は常日 頃から考えております。 岩渕委員 これがいつまでも続くのか、あるいは続いていいのか悪いのかという価値判断まで入 って、政策的な提言までいくかいかないかというのはまた別の問題ですし、恒常的に続 くか一時的なものに終わるかというのは物によっても違いますし、程度問題ですし、そ ういうことを総合的に勘案してやっていくのが推計の一番難しいところというか、やる 人にとっては醍醐味かもしれません。 前回の推計からどういうところが変化してきたのかと私なりに考えてみたんですが、 プラス・マイナス両方あるんですね。社会的な条件を申しますと、プラスの面としては 地価が下がった。これは住宅事情にかなり影響があります。育児支援は遅いですけど、 それなりにできてきた。少子化が進んで入試地獄がかなり解消された。そういったプラ スがあります。ミレニアムや雅子さまは与件として使えるものではありません。 マイナスの部分としては、特に若者の就職難がかなり大きい。終身雇用、年功序列の 崩壊は若者にとってはむしろプラスのように思われるかもしれませんが、子育てという のは一生の仕事ですから先を見ます。若い時は低賃金であっても、将来、年功序列で賃 金が上がっていく、一生首になることはないという安心感は非常に大きい。そうした安 心感がガラガラ崩れてまして、それが男性が結婚に対する自信を失う最も大きな原因に なっているのではないかと思います。切実な問題としては所得が減少しています。離婚 が非常に増えています。女性と男性では受けとめ方が違うと思うんですが、離婚リスク に対する脅えみたいなものもあるだろうと思います。 先ほどから問題になっています年金不安とか介護保険の導入、社会保障の充実、これ は13年前、大蔵省の役人に言われて愕然としたんですが、社会保障が充実すれば少子化 が進むのは当たり前の話じゃないか、日本はその船に乗っちゃんたんだから、どう逆立 ちしたって少子化が進んでいくんだから、いまさら子育て支援なんてばかなことをいう なという達観した意見がありました。社会保障制度というのは本来そういった作用をす る部分がありますが、もう一方ではスウェーデンのように過去の経験から社会保障で安 心できれば子どもを生むという部分もあります。日本の場合は子どもを持つことが常に 損に働くような労働環境、教育制度、年金、介護もそうですが、一向に変わる気配はあ りません。私は絶望的な感じで見ています。今の日本の社会制度であれば少子化はどこ までも進んでいくなと悲観的に見ていますので、改革に対する皆さんのご賛同を得たい と願っています。 廣松部会長 今までご発言いただいた委員の方々のご意見、ペーパーという形で出していただいた 小川委員、津谷委員のご意見を総合しますと、最初に高橋部長から問題提起としてござ いました平均初婚年齢の上昇要因以外の効果を考慮すべきであるというご意見が大勢を 占めているように考えましたが、よろしいでしょうか。それを具体的にどう反映させる かということが、いまいろいろな形でご意見が出ている点だろうと思います。具体的に 考慮すべき要因を委員の方々からかなりあげていただいたと感じますが、阿藤委員から も何かご意見をいただければと思います。 阿藤部会長代理 原則論からいえば推計とか分析というのは多数決で決めるような性質のものではない わけです。岩渕委員がおっしゃったように推計の場合には直近のものをどう読むかとい うところに難しさがあります。通常、研究者のように分析する者は過去のデータを分析 するしかないわけで、そこから何を得るかというと、そこから少し先に外挿するという のが常套手段で、それ以上のことはなかなか学術的にはしにくいと思いますし、これま でもそういうふうにやってきたと思うんですね。 これは人口の分野に限らず、ほかの分野でも結局それしかできないということだと思 うんですが、非常に難しい上澄み部分をどう読むかということについていうと、多数決 のいい悪いは別にしても、いろんな方のご意見を聞く。前回、有識者のアンケートがあ りましたね。ああいうものも、いろんな分野の専門家が人口のインディケーターとかそ の周辺の指標をどう見ているか、日本の社会がどっちの方向に動こうとしてるのかとい うことを示唆してるんだと考えれば、そういうものを織り込んでいくこともやぶさかで はないのではないかと思います。 廣松部会長 先ほどの図表16において、初婚年齢から予測した累積出生児数の予測値と実績値とが 乖離している。紋切型に評価するわけではありませんが、やはり、予測値が99%信頼区 間の外に出ているということは無視できない。その意味で私自身もなんらかの形で初婚 年齢が上がってるということ以外の要因も考慮すべき時にきていると判断せざるを得な いのではないかと考えております。具体的にどういう形でどういう指標を考慮し、どう いう形でそれを推計に生かすかということに関してはまだ煮詰まってはいないように思 いますが、高橋部長の方で何かお考えはございますでしょうか。 高橋人口動向研究部長 基本的には我々の人口予測では、それぞれの出生コーホートに関して数理モデルを当 てはめて、最終的に夫婦の産む子どもの水準、その分散といったことをパラメータをし ながら予測を行います。今回、図表16で見られるような特定のコーホートに関してこれ だけの乖離が見られた。乖離が見られた分に関しては、それをもう一つ別のパラメータ としてモデルの中に入れ込んで、それで予測をする。モデルも若干の修正を行いながら 、この乖離分を考慮して将来値を推定していきたい。そのような手順を踏みながら、こ れからの作業を進めていきたいと考えております。 廣松部会長 これからの進め方に関してご説明いただきましたが、推計作業に関して今までご発言 いただいたほかに、こういう点も考慮すべきであるというご意見はございますでしょう か。 向山委員 確認させていただきます。図表16を見ますと、出生コーホートの中で60〜62年のとこ ろが初婚年齢では説明できない要因としてこれだけの乖離が出てるというのは見て分か るんですが、その乖離が出てきた具体的な要因については分析されているのか、それと もされてないのか、そのへんをお聞かせ願いたいんです。 高橋人口動向研究部長 年次で言いますと1985年以降の出生力低下に関しては私どもは出生動向基本調査とい う調査を実施して、その報告書の中で近年の夫婦の出生力の低下に関する分析を行って おります。 向山委員 分析した結果、いくつか重複してあると思いますが、どういった要因が乖離の大きな 要因になっているのか、そのへんは分かるんでしょうか。 高橋人口動向研究部長 いろんな観点から分析を行っていますが、先ほど岩渕委員からご紹介があった都市部 における一貫就業の女性の分布自体が5年前に比べて増加することによって、結婚0年 目、5〜9年目の出生率低下を生み出しているという結果は得ています。特に都市部に おける一貫就業の人々の増加というのが関連があることは分かっています。 高橋委員 1点だけ確認したいと思います。第2回目の時に、97年推計の反省として、97年推計 では1980年コーホート以降一定という数字にしてあったのを、今回は目標コーホートを 5年延ばして1985年にするのみならず、最終コーホートである2000年まで傾向を延ばす というご説明があったかと思います。それは今回の資料の1ページに記載はありません が、そういうことでよろしいんですね。 高橋人口動向研究部長 我々は1985年コーホートを目標コーホートとして推定を行いますが、1985年コーホー ト自体も変化の途上である可能性がありますので、それ以降に関しても2000年生まれの 人々を最終コーホートとして行うことには変わりありません。 向山委員 先ほど都市部の話がありましたが、景気が悪くなれば出生率は上がってくるというこ とですか。 高橋人口動向研究部長 短期的な変動の話と長期的な社会的趨勢の話と2つあると思います。大不況が起きて いて就業機会がない、そうすると人々は働きに出ることができないので家庭に入る。そ うすると出生率が上がるんじゃないかという議論があります。そうした短期的な話とは 別に、女性が社会に出て働くようになるというのは時代の趨勢で、不可逆的な変動です ね。そうした本質的な変化を前提にして、ここでは考えているということです。特に出 生動向調査の分析では、時期的に見ますと80年代と90年代の分析になりますから、90年 代でも後半の近年の不況に関してはデータ的にはそれほど出ていないというのが現状で す。 廣松部会長 資料1−1の1ページにおいて将来出生率の見通しの比較ということで、平成9年推 計と新推計との比較対照表を出していただいているわけですが、本日の審議で、一番下 のβは正であろうということについては委員の方の合意をいただいたと思います。具体 的にそれをどういう値にするかについては、今すぐ結論が出るものではないだろうと思 いますが、かなりの大きさになるだろうというご意見もあったと思います。 生涯未婚率に関して新推計の方はブランクになっています。先ほど岩渕委員から具体 的な数字が出てきましたが、それに関しては先ほど高橋部長からご紹介がありましたと おり、現時点で得られているデータに基づいてカーブフィッティングしていただいて、 それを参考に決めていただくことになろうかと思います。新推計のその他の欄に関して は今までの審議ですでにご了解いただいていると考えますが、それらの点も含めて何か ご意見がありましたら伺えればと思います。 岩渕委員 先ほど申し上げましたように、前回、厳しく厳しくといって推計した結果が、やはり 甘かったんですね。経験則から言いますと、かなり厳しいつもりでやらないと、また外 れちゃうということになると思うんですね。そのあたりをしっかりと認識した上で取り 組んでいただきたいと思います。 具体的に言いますと、前回推計の低位推計に近い軌跡をたどっています。低位推計よ りはやや上ですが、その間、先ほど申し上げましたプラス要因も若干ありました。そう いった影響もあろうかと思いますが、これから先を見ますと、前回推計の低位推計がベ ースになると私は思います。 秋山委員 前回の推計が間違ってたとおっしゃる。もちろん推計は正しい方がいいと思うんです が、人の生き方というのは選択の自由度が大きくなった場合、推計するのが非常に難し くなるというのは事実だと思うんですね。推計が正しいということを求めるのはいいん だけど、同じ水準の精度を維持していくのは非常に難しいということも認識する必要が あると思うんです。ある程度の幅を持ってやって、それで対応していくことも考えなく てはいけないじゃないかと思います。 駒村委員 前回、高位、中位、低位と3種類あったわけですが、今回はβの推計値も複数やるよ うな形になるんでしょうか。β自体も推計になるわけですが、高位、中位、低位に合わ せて更にバリエーションが増えていくのか。中位を中心にしながらβに幅を持たせてい くのか、そのへんを教えてください。 高橋人口動向研究部長 秋山先生が言われた点に関してコメントしておきますと、我々は人口推計を行う時に は、将来の予測出生率にしても何にしても完璧に当たることはないわけです。したがっ て我々は低位と高位という範囲の中で将来の予測を行ってる。低位も外れてしまったと いうのなら技術的な問題があるんでしょうけど、我々は低位と高位というレンジで将来 の人口のことを考えているということをお答えしておきたいと思います。 βをどのように盛り込むかということに関してですが、高・中・低という3種類のレ ンジを置きますので、βが大きくなっていくような推定というのは低位の推計の方に反 映されて設定されるというふうに考えております。そのようにして、高・中・低という のがβのそれぞれのレベルの違いによっても分かれる。そのように考えております。 廣松部会長 こういう予測の場合にはバリエーションを作ろうと思えばいくらでも、いわば無限に できるものですが、一方で公的な数値として将来推計人口を出す場合には、公表した結 果が分かりやすく国民の皆さんに理解していただけるように公表すべきだろうと考えま す。その意味で、あまりいろんなバリエーションを出して混乱を招くというのは得策で はないと思いますので、公表の仕方に関しては、今後、国立社会保障・人口問題研究所 の方でもご検討いただきたいと思います。とりあえず案としてはβに関していくつか数 値を設定した上で、今までのように高位、中位、低位という形の公表を行うということ になろうと思います。 阿藤部会長代理 ここ2回ぐらいは少子化がらみで出生率をどう設定するかということが主題だったわ けですが、人口推計の最大のメリットというのは、例えば20年先の生産年齢人口、高齢 者というのはほぼ的確に予測できる、30年先でもかなりできるというところが最大のメ リットですね。人口推計全体の評価というのは、それ全体でなされるものであって、出 生率の仮定がどうこうということだけで評価が決まるものではないというのは当たり前 のことなんですが、しばしば忘れがちなので、一言申し述べておきたいと思います。 ほかの民間推計もありましたが、死亡率についてはほとんど社人研の死亡率を使って 推計してるんですね。その点については社人研の数値は信頼度が高いということで使っ てるんだと思いますが、そういう部分がある。ほとんど議論にならなったんですが、死 亡率についても高齢者の方の予測が大変難しくなってきてる。これは高橋部長からもデ ータが出ましたが、世界的にそういう傾向がある。従来は高齢者の死亡率はそれほど改 善しないんだという考え方が固定的にあったんですが、この20〜30年、先進国で大変な 改善率を示していて、寿命はどこまで延びるのかという議論が学術的に盛んになってる ということがあります。高齢者の人口の推計は死亡率の仮定をどう置くかということに なるんですが、そのことで大変影響を受けるので、そのへんもやりたいと思っています 。 岩渕委員 高齢者の人口については、前回の推計でも10万人ぐらい違ってますかね。これは誤差 の範囲といえるんですが、後期高齢者の数が違ってますね。それは喜ばしいことではあ るんですが。これから先の見通しの中でアバウトな話を申し上げますと、団塊の世代を 含めた形でのこれから先の寿命については、生活習慣も含めて微妙なものが出てくるの ではないか。これから先、そちらの方は今までどおりにはいかないんじゃないかという 印象をもっています。日本の医療制度の行き詰まりも含めて、様々な社会的な要因があ るなと思っています。これは感想です。 廣松部会長 本日の部会では、前回からの継続という形で、特に夫婦の出生力に関するご審議をい ただいたわけですが、平均初婚年齢の上昇以外の要因を考えるということで合意をいた だいたとまとめさせていただいてよろしいでしょうか。その具体的な取り扱い、例えば 生涯未婚率等の推計に関しては国立社会保障・人口問題研究所の方で更に分析をしてい ただき、先ほど岩渕委員からなるべく厳しくというご意見がありましたが、それも是非 頭の片隅に置いていただいて、実際の作業をお願いできればと思います。 今後の予定といたしましては、この部会としては、本日の皆様方のご意見に基づき、 実際に国立社会保障・人口問題研究所に推計をしていただいて、来年の1月頃にそのご 報告をいただくという予定でおりますが、全体に関して何かご発言はございますでしょ うか。 長谷川委員 先ほど私は男性のことを聞きましたが、人口とか出生とか結婚の統計で、男の人が何 歳の時に何をしているかという統計がほとんどないんですね。非常に興味があるし、欲 しいと思います。女性が産むから女性の統計はとりやすいし確実だと思うんですが、男 性が何歳の時にどういうことを考えていて、実際に子どもを持ったら男は変わるのか変 わらないのかとか、子どもを持ったことによってリスクテイクがどう変わるかを調べた いんですけど、何人の男性が何歳の時に何人の子どもを持ってるという数字がほとんど 見つからないんですよ。なるべく男性の数字もとっていただきたいと要望したいと思い ます。 高橋人口動向研究部長 それにぴったりの調査が今年予算要求されています。厚生労働省で20代、30代のコー ホート調査を行うことを予算要求しておりまして、毎年、その時点の男性・女性の働き 方、その時に持ちたい子どもの数、実際に数年後に何人産んだ、その時点で考え方がど う変わったか、そういう調査を今年から実施しようという要求内容になっております。 廣松部会長 いま高橋部長からご紹介いただいた調査に関しましては統計分科会の方でご審議いた だくことになっております。まだ不確定な要素はございますが、実現できるのではない かと考えております。 3.閉会 廣松部会長 ほかにご発言はございますか。よろしいでしょうか。 本日は大変積極的なご意見をいただきまして誠にありがとうございました。次回につ きましては最初に事務局から説明がありましたとおり、委員の方々の日程の調整をして いただく予定ですので、日程調整表を机の上にお残しいただければと思います。その上 で改めてご連絡をすることとしたいと思います。 本日はこれで終了させていただきます。ありがとうございました。 〜 以上 〜 照会先 政策統括官付社会保障担当参事官室 地域政策係 代)03−5253−1111(内線7785) ダ)03−3595−2160