第6節 製造産業局 ·················································································· 215
ものづくり政策 ····················································································· 215
1.製造業総論······················································································· 215
1.1.製造業の現状 ·············································································· 215
1.2.個別政策に関する主な動き ·································································· 216
2.主要産業に関する主な動き········································································· 218
2.1.金属産業 ·················································································· 218
2.2.素材産業 ·················································································· 222
2.3.生活製品関連産業 ·········································································· 228
2.4.産業機械 ·················································································· 231
2.5.素形材産業 ················································································ 233
2.6.自動車産業 ················································································ 234
2.7.航空機産業 ················································································ 238
2.8.宇宙産業 ·················································································· 240
2.9.水ビジネス・プラント・エンジニアリング産業 ················································ 242
3.化学物質管理····················································································· 245
3.1.化学物質管理 ·············································································· 245215第6節 製造産業局
ものづくり政策
1.製造業総論
1.1.製造業の現状
(1)我が国の産業構造における製造業の重要性
我が国製造業は、
GDP・就労人口ともに2割程度を占
める重要な基幹産業である(参照:図1-1、1-2)。【図1-1:国内総生産(名目)における産業別構成比
(2019 年)】
資料:内閣府「国民経済計算(GDP統計)」【図1-2:就業者数に占める製造業比率の主要国比較】
資料:
(独)労働政策研究・研修機構「データブック国際
労働比較 2018」
(2)我が国製造業の足下の状況
製造業の営業利益の推移を見ると、2012 年以降、熊本
地震による被害や英国のEU離脱を支持する国民投票に
よる世界情勢の不透明感の高まりなどを背景に利益が縮
小した 2016 年を除き、2017 年まで増加傾向を続け、同年
には 17.3 兆円まで拡大した。
しかし、2018 年秋以降の米中貿易摩擦による中国経済
の減速や海外経済の不確実性等の影響、2020 年の新型コ
ロナウイルス感染症の感染拡大等を受け、2018 年、2019
年は 2020 年と3年連続の減益となった。
特に、
2020 年は、
情報通信機械器具製造業を除き、
各業種で対前年比減益と
なり、製造業全体で 8.6 兆円と 2017 年の約半分まで減少
した
(参照:図1-3)。設備投資額の推移を見ると、2019年後半に引き続き、2020 年にも新型コロナウイルス感染
症の感染拡大などの影響により減少となった
(参照:図1-4)。
製造業においても、
設備投資額は 2012 年以降は減
価償却費を上回っているものの、
足下では減少傾向がみら
れる(参照:図1-5)。【図1-3:製造業の企業業績の推移(営業利益)】備考:資本金1億円以上の企業の四半期の営業利益の合計。
資料:財務省「法人企業統計」
【図1-4:設備投資額の推移】
備考:季節調整値。
資料:
内閣府
「2020 年 10-12 月期四半期別GDP速報(2次速報値)」、
「機械受注統計調査」216【図1-5:製造業の設備投資額と減価償却費の推移】
資料:財務省「法人企業統計」
1.2.個別政策に関する主な動き
(1) 製造業のニューノーマル/レジリエンス・グリー
ン・デジタル
(ア)現状と課題
近年、
経済安全保障をめぐる国際的動向、
地政学的リス
クの高まり、気候変動や自然災害、非連続な技術革新、そ
して新型コロナウイルス感染症の感染拡大等により、
我が
国製造業を取り巻く環境は、
かつてない規模と速度で急変
しつつあり、この「不確実性」の高まりこそが、我が国製
造業にとって大きな課題となっている。
加えて、
世界各国でカーボンニュートラルやデジタルト
ランスフォーメーション(DX)の実現に向けた取組が急
速に進展している。
こうした
「製造業のニューノーマル」
ともいえる時代に
おいては、「レジリエンス」、「グリーン」、「デジタル」の3
つの観点が、
我が国製造事業者が今後の生き残りを懸けて
経営戦略を構築し、
実施していくに当たっての最も重要な
観点となる。
1 レジリエンス ―サプライチェーンの強靱化―
我が国製造業は、
従来、
主に自然災害のような局所的被
害をもたらすリスクに対し、
自社や直接の調達先の事業継
続や代替策を想定しながら、
対応を進めており、
事業継続
計画(BCP)を策定する企業も年々増加している。しか
し、今般の新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、
サプライチェーンのいかなる地点においても同時多発的
に被害や影響が発生し得ることが明らかになった。
今後も
世界的な不確実性の高まりが想定される中、
製造事業者は、
局所的な想定のみにとどまらず、自社の関わるグローバ
ル・サプライチェーン全体を俯瞰・可視化し、多面的なリ
スク対応を講じていかなければならない。
さらに、
レジリエンス強化のための取組は、
個々の企業
の危機時における事業継続のみにとどまるものではない。
例えば、
今後ますますの市場拡大が見込まれるグリーンや
デジタルの分野においては、
半導体や蓄電池、
川上の各種
マテリアルなどが重要な役割を果たすこととなり、
これら
の分野における技術開発やサプライチェーンの構築・強靱
化や、
経済安全保障をめぐる国際動向をリスクについて精
緻に把握する等により、
海外市場におけるビジネスが阻害
されることのないよう万全の備えをしてくことも重要で
ある。
2 グリーン ―カーボンニュートラルへの対応―
我が国を含めた各国政府は今後カーボンニュートラル
の実現を目指していくことを次々と表明しており、
製造業
においてもサプライチェーン全体でのカーボンニュート
ラルを目指して取り組むグローバル大企業が現れ始めて
おり、
今後もこのような動きが加速していくことが想定さ
れる。
また、
資金供給の分野においても、
国内外の様々な投資
家や金融機関が環境問題への取組に関する積極性を資金
供給の判断材料のひとつとするグリーンファイナンスの
手法を採用し始めており、
このような動向を踏まえ、
広く
サプライヤーを含めた我が国製造事業者においても、
将来
にわたり着実なビジネスの継続を図るべく、
カーボンニュ
ートラル実現に向けた各国政府やグローバルメーカーな
どの取組や考え方を適切に理解し対応していく必要があ
る。
3 デジタル ―デジタルトランスフォーメーション(DX)の取組深化―
不確実性の高い世界では、
急激な環境変化に対応するた
めに、
組織内外の経営資源を再構成・再結合する経営者や
組織の能力(ダイナミック・ケイパビリティ)を高めるこ
とが、
事業継続や競争力強化等において有効な手段と考え
られ、
そのためにはDXが有効なツールとなる。
しかしな
がら、現状、製造業に限らず、多くの企業においてDXの
取組は道半ばである(参照:図1-6)
。多くのデジタル
ツールが市場に溢れる中で、
製造事業者が効果的かつ戦略
的にDXを推進していくためには、
自社がバリューチェー217ン上で担っている役割やそこで管理すべきデータについ
て的確に把握することが大前提であり、
それぞれの業務領
域間でスムーズなデータ連係が行われることが重要であ
る。
また、
製造現場における5Gなどの無線通信技術の本格
活用については、
生産ラインを状況に応じて組み換えて有
事の代替生産や増産を可能にすることが期待されており、
ダイナミック・ケイパビリティ強化のカギとなる取組であ
ると考えられる。
【図1-6:DX推進指標自己診断結果】
資料:経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」(イ)主要な取組
2017 年3月に第四次産業革命の中で我が国産業が目指
す姿として、様々なつながりにより、社会課題を解決し、
新たな付加価値を創出する産業のあるべき姿として
"Connected Industries(コネクテッド・インダストリー
ズ)"というコンセプトを発信し、
「自動走行・モビリテ
ィサービス」
「ものづくり・ロボティクス」
「プラント・イ
ンフラ保安」
「バイオ・素材」
「スマートライフ」の5つの
重点分野に政策資源の集中投資を図り、
これらを支える横
断的支援策を整備に向けて取組を進めることとした。
「ものづくり・ロボティクス」
分野では、
2019 年4月に
日本のロボット革命イニシアティブ協議会とドイツの
Platform Industrie 4.0 の専門家会議を実施し、スマー
トものづくりの標準化に関する共同文書を公表した。
(2)ものづくり関連政策
(ア)ものづくり日本大賞関連実施事業
「ものづくり日本大賞」は、製造・生産現場の中核を担
う中堅人材や伝統的・文化的な「技」を支えてきた熟練人
材、
今後を担う若年人材など、
ものづくりに携わっている
各世代の人材のうち、
特に優秀と認められる人材を顕彰す
るもの。2020 年度は、第9回「ものづくり日本大賞」につ
いて、募集実施に向けての広報事業を実施した。
(イ)ものづくり白書の作成
ものづくり基盤技術振興基本法第八条に基づく年次報
告書(ものづくり白書)を作成し、我が国ものづくり産業
が直面する課題と展望について取り上げた。
(ウ)外国人材受入れの為の新たな在留資格の創設
深刻な人手不足に対応するため、
第 197 回国会
(臨時会)
において
「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の
一部を改正する法律」(2018 年法律第 102 号)が成立。
本改正により、在留資格「特定技能1号」及び「特定技能
2号」が創設された。
「特定技能1号」
については、
生産性向上や国内人材確
保のための取組を行ってもなお、人材を確保することが
困難な状況にあるため、外国人により不足する人材の確
保を図るべき分野(特定産業分野)として、全 14 分野で
の受入れが認められた。
経済産業省の所管産業分野として
は、業界の要望を幅広くヒアリングした結果等から、
素形
材産業、産業機械製造業及び電気・電子情報関連産業の
3分野が対象となり、2019 年4月からの受入れが開始さ
れた。2021 年3月末時点で、素形材産業で 1,669 人、産
業機械製造業で 1,937 人、電気・電子情報関連産業で 994
人を受け入れている。
制度の適切な運用を図り、適正な受入れを行う為、経済産業省では、
製造業特定技能外国人材受入れ協議・連絡
会を設置し、
2019 年3月 26 日に経済産業大臣臨席のもと、
第一回の会合を行った。2020 年度は、新型コロナウイル
ス感染症の感染拡大を考慮し、8月及び 12 月に書面にて
開催した。
また、
1号特定技能外国人に対しては、
相当程度の知識
又は経験を必要とする技能が求められており、
当該水準を
有するか確認するため、
製造分野特定技能1号評価試験を
2020 年1月にインドネシアにて実施し、2020 年度には、
国内の複数都市において試験を実施した。
(3)新型コロナウイルス感染症の感染拡大に係る対応
2020 年1月以降の新型コロナウイルス感染症の世界的
な流行によって顕在化したグローバル・サプライチェーン218の寸断リスクに対処するため、我が国製造事業者による
国内生産拠点整備やアジア諸国等への多元化等に向けて、
サプライチェーンの強靭化に資する技術開発等を行った。
具体的には、
(ア)
部素材の代替・使用量低減に資する技
術、
(イ)
製造工程間でのシームレスなデータ連携や企業
間でのセキュアなデータ共有を可能にするデジタル技術、
(ウ)
サプライチェーンの迅速・柔軟な組換えに資する衛
星を活用した状況把握システムの開発・実証を行った。
さらに、マスク・アルコール消毒液等については、国内
外の需要量の高まりに伴う供給不足に対して、
国内におけ
るマスク・アルコール消毒液等の供給量を拡大するため、
生産設備の導入を支援した。
2.主要産業に関する主な動き
2.1.金属産業
(1)鉄鋼業の概観
鉄鋼業は、自動車、産業機械、電機、造船、建設等の広
範な産業に基礎素材の代表である鉄鋼製品を供給する、日本の基盤的産業であり、
高炉一貫製鉄所に代表されるよう
に、
典型的な資本集約型産業である。
出荷額は約 19 兆円、
従業員は約 22 万人であり、
それぞれ製造業全体の約 5.6%、
約 2.9%を占めている(工業統計調査 2019 年産業別統計表)。
鉄鋼生産地域は日本、
米国、
ヨーロッパ等の先進国から、
新興国の経済発展に伴って世界各地に拡大しており、
世界
全体の粗鋼生産量は増加を続けている。2020 年は 2019 年
比+0.2%の 18.7 億トンで新型コロナウイルス感染症の
影響で伸び率は鈍化した。
そのような中、
中国は、
政府による景気刺激策を背景に
顕著な拡大を見せ、
2020年の粗鋼生産量は2019年比6.9%
増の 10.6 億トンとなり、初めて 10 億トンの大台に乗せ、
4年連続で過去最高を更新している。
日本の 2020 年度の粗鋼生産量は、新型コロナウイルス
感染症拡大による影響により前年度比▲さんかく4.3%の 8,278 万
トン、
2年連続の減少となった。
新型コロナウイルス感染
症の影響から一早く持ち直した中国の増産を背景に世界
的に鉄鉱石や原料炭の価格が上昇。
さらに、
環境問題への
対応から鉄スクラップの需要増加や価格高騰も相まって
鉄鋼業界は原料価格の高騰、
製品への価格転嫁に悩まされ
た。
このような状況の下、
内需を確実に取り込み、
海外需要
を開拓していくため、品質や技術力の維持・強化、海外供
給網構築、
省エネルギー対策、
他素材を含めた事業者間連
携、事故防止等により、鉄鋼産業の経営基盤を強化し、国
際競争力の維持・強化を図ることが求められている。
(2)金属産業における個別課題
(ア)国際関係
(A)通商関係における現状と課題
日本の鋼材輸出先は、
アジア諸国が約8割を占めている。
背景には、
アジア諸国に進出した日系自動車・家電メーカ
ー等の生産拠点に対し、
日本の鉄鋼各社が高い品質の鋼材
を供給している事情がある。一方、金属業界、特に鉄鋼業
界においては、
次に述べるとおり自国産業支援や雇用確保
を目的とした貿易制限的措置を導入する動きが世界的に
広まってきており、
国際貿易をめぐる情勢は不透明感が増
している。例えば、インド、インドネシア、ベトナム等の
アジア諸国では、
鉄鋼製品に対する強制規格が導入されて
おり、
関税、
非関税措置を問わず貿易制限的な動きが広が
りつつある。
これらの貿易制限的な動きに対して、
政府としては二国
間鉄鋼対話やWTOの枠組を通して改善に向けた働きか
けを行っている。
2020 年 12 月にはタイと、
2021 年3月に
はインドネシアとの鉄鋼対話をそれぞれ開催し、
通商上の
問題などに関する意見交換を行った。
さらに近年は、米国の 1962 年通商拡大法に基づく輸入
制限措置の調査(232 条調査)についての動きが多く見ら
れる。
米国は、
2017 年4月、
輸入鉄鋼および輸入アルミに
ついて、232 条調査を開始し、2018 年3月、鉄鋼、アルミ
に対する追加関税賦課を実施した。ただし、豪州(鉄鋼・
アルミ)、数量制限を受け入れた韓国
(鉄鋼)、ブラジル(鉄鋼)及びアルゼンチン(鉄鋼・アルミ)は追加関税措置か
ら除外された。また、米国内で十分に生産出来ない製品、
安全保障上の考慮を要する製品については、
当該措置から
の除外を認めている。
同盟国である日本からの鉄鋼やアル
ミの米国への輸入は、
米国の安全保障上の脅威にならない
ことから、
我が国は米国に対し、
累次にわたり懸念を伝え
てきている。同時に、製品別除外プロセスの迅速化、簡素
化を図り、
産業への影響を極力回避するよう様々なレベル
で働きかけを行っている。219上記に加え、
2020 年2月より、
鉄鋼・アルミの派生製品
(鉄鋼の釘、アルミのケーブルなど)についても、追加関
税が賦課されている。
また、
2019 年2月には、
スポンジチタンについても 232
条調査が開始された。本調査については、2020 年2月に
スポンジチタンの輸入による安全保障上の脅威の存在に
同意するものの、輸入調整(追加関税等)は実施せず、国
防省、
商務省に対し、
作業部会を立ち上げ、
輸入の約 94%
を占める日本との間で協議を実施し、
製品へのアクセス確
保のための措置に合意するよう指示している。
加えて、2020 年5月、変圧器、電気変圧器、変圧レギュ
レーター及びこれらに使用される薄板及び巻鉄心の輸入
についても 232 条調査が開始された。
かかる保護貿易的な措置の発動や拡大の背景として、特に 2000 年代以降の世界的な過剰生産能力の問題や、アジ
ア地域における粗鋼生産量の急速な拡大が指摘されてい
る。2019 年の粗鋼生産能力が世界全体で 23.6 億トン(O
ECD推計)
である一方、
同年の見掛け消費量
(粗鋼換算)
は 18.9 億トン(世界鉄鋼協会推計)であり、世界的な鉄
鋼の過剰生産能力の問題が存在している。
特に 2000 年以降、中国が生産能力を大幅に拡張させた
ことで生産能力と需要との差が拡大した。2008 年の景気
後退局面で構造的な過剰生産能力による問題が顕在化し、
2015 年には世界の鉄鋼企業の収益性が著しく悪化した。
2016 年以降は世界的に鉄鋼市況の回復が見られたとは言
え、
中国の粗鋼生産量は引き続き全世界の約半分を占める
に至っており、
アジア各国の急速な生産拡大は、
世界各地
における通商摩擦を引き起こす要因となり得るだけでな
く、
鉄鉱石等の原料・資材価格の高騰を招く要因となって
いる。
(B)主要な取組
(a)貿易措置への対応
我が国は、
主要な貿易相手国との二国間鉄鋼対話やWT
O等の国際会議等の場を通じて、
貿易制限的な措置の撤廃
や見直しを働きかけている。
具体的には、
個別のアンチダ
ンピングやセーフガード措置に対して、
公聴会での意見表
明や政府意見書の提出を通じて我が国の意見を表明する
とともに、
WTOの各種委員会を活用し、
強制規格や輸入
ライセンス制度の運用改善について問題を提起している。
また、WTOの紛争解決手続きの例として、2018 年に韓
国による日本製ステンレス棒鋼に対するアンチダンピン
グ措置のサンセットレビューに係るWTO紛争処理小委
員会(パネル)が設置され、2020 年 11 月に発出されたパ
ネル報告書では、
我が国の核となる主張が認められ、
本件
措置の是正が勧告された。
(b)鉄鋼の過剰生産能力問題への多国間の対応
世界規模での過剰生産能力問題の深刻化を受け、2016
年5月のG7伊勢志摩サミット首脳宣言では、
鉄鋼におけ
る過剰生産能力が世界的な影響を伴う構造的課題である
ことが認識され、同年 12 月には、G20 杭州サミットの首
脳宣言を受けて「鉄鋼の過剰供給能力に関するグローバ
ル・フォーラム」
(以下、鉄鋼グローバル・フォーラム、
以下「GFSEC」
)が、33 ケ国・地域の参加のもと、3
年間の時限で設立された。
GFSECの設立以降、
各国の粗鋼生産能力の状況や政
府支援措置の情報共有・レビューを通じ、
過剰生産能力問
題の解決に向けた国際的な議論が継続される中、2019 年
10 月のGFSEC閣僚会合は日本が議長国を務めた。
2019 年の閣僚会合では、設立3年目にあたるGFSEC
の継続について「フォーラムはその目的を達成しており、
その委託条項に基づき当初の期限どおり 2019 年末に終了
すべきである」
との中国の意見がある中で、
完全な合意は
得られなかったが、大多数の国は 2020 年以降もこれまで
の進め方を基礎に本問題に関する取組を継続することに
同意し、取組が継続されることとなった。
2020 年 10 月のGFSEC閣僚会合では、2016 年から
2019 年に生産能力と需要のギャップは縮小したものの、
高い水準の構造的な過剰生産能力が存在し、2019 年以降
再び拡大していることや、
近年の中国企業による越境投資、
特に東南アジアにおける生産能力の拡大等が懸念として
挙げられた。
このような状況を踏まえ、
引き続き、
多国間の取組や二
国間の鉄鋼対話の場等を活用し、
鉄鋼の過剰生産能力問題
の解決に向けて各国と協力を進める。
(イ)地球温暖化対策
(A)現状と課題
日本の鉄鋼業の製鉄プロセスにおけるエネルギー原単
位は既に世界最高水準を達成しているが、
現在の高炉法で
は、
鉄鉱石の還元剤として石炭、
コークスの使用が不可避220である。この製鉄プロセスにおけるCO2排出を更に削減
することが喫緊の課題となっている。
鉄鋼業界では、温暖化問題について 1997 年から自主行
動計画目標を掲げ、2013 年からは 2020 年に向けた低炭素
社会実行計画フェーズ1を推進している。
また、2030 年に向けても、低炭素社会実行計画フェー
ズ2として、1.製鉄プロセスで排出されるCO2削減、
2.省エネ技術の移転普及による地球規模でのCO2削減、3.高機能鋼材の供給を通じて製品として使用される段階
でのCO2削減、4.長期的・抜本的なCO2削減技術の開
発、の4本柱で、主体的・積極的な取組を取りまとめ、そ
れらに沿った取組を開始している。さらに、
「パリ協定に
基づく成長戦略としての長期戦略」
(2019 年6月 11 日閣
議決定)
を踏まえて策定された
「革新的環境イノベーショ
ン戦略」
(2020 年1月 21 日統合イノベーション戦略推進
会議決定)では、産業部門の施策として、CO2フリー水
素の活用を前提とした、
水素還元製鉄等の超革新的技術に
よる「ゼロカーボン・スチール」への挑戦が盛り込まれて
いる。
非鉄金属産業の温室効果ガス排出量は、
製品の生産量や
生産プロセス、
日本国内に立地する製造工程の違いなどか
ら、鉄鋼業に比べると少量にとどまるものの、アルミ・電
線・伸銅の3業種が低炭素社会実行計画を策定し、
排出削
減に取り組んでいる。
(B)主要な取組
(a)環境・省エネルギー分野における官民協力
我が国鉄鋼業において開発・実用化された省エネルギー
や環境対策技術の各種情報共有等を通じた省エネルギー
や環境対策の促進のため、中国(2005 年7月〜)
、インド
(2011 年 11 月〜)
、東南アジア諸国連合(ASEAN)
(2014 年2月〜)を対象とした国際協力を行っている。
2019 年度は、中国との第 11 回日中鉄鋼業環境保全・省
エネルギー先進技術交流会を中国山西省太原市で開催し、
各種技術の紹介、
製鉄所の視察等を実施した。
ASEAN
においては、
日ASEAN鉄鋼イニシアチブのもと、
イン
ドネシアと官民ワークショップをベトナムで開催し、
各種
省エネルギー技術の紹介等を行った。
(b)技術開発
高炉法での製鉄プロセスにおけるCO2排出削減のた
め、
現在の技術の延長上にない革新的技術開発の支援に取
り組んでいる。
具体的には、
コークス製造時に発生する副生ガスから水
素を増幅し、
コークスの一部代替に水素を用いて鉄鉱石を
還元する技術や、CO2濃度が高い高炉ガスからCO2を
分離するための、未利用低温排熱を利用した新たなCO2
分離・回収技術等からなる水素還元等プロセス技術の開発
事業(COURSE50)
、金属鉄を含むフェロコークス
による還元反応低温化・高効率化を目指すフェロコークス
技術の開発事業を、それぞれ、2008 年度、2017 年度より
行っている。COURSE50については、2017 年度ま
でに要素技術の開発を終了し、2018 年度から各要素技術
を組み合わせる開発の「フェーズ2」を開始した。
そして、2019 年度には 2050 年以降の「ゼロカーボン・
スチール」
の実現に向けた調査研究を実施するための予算
事業を策定し、2020 年度から事業を開始している。
(ウ)競争力強化と新規需要の拡大
(A)現状と課題
鉄・非鉄を問わず、金属産業においては、国内需要の頭
打ちや新興国における急速な生産拡大、
環境・エネルギー
制約の高度化、
さらには自動車の電動化・IT化等による
ニーズの変化等の様々な事業環境によって、
国内外におけ
る競争が激化している状態にある。
特に日本の非鉄金属企業の多くは、
賃加工の業態をとる
ことで、資源価格の変動リスクを一定程度遮断する一方、
垂直統合型の経営を通じた価格支配力の強化は難しくな
っている。
そこで、
水平的な事業再編を通じた過剰設備の
合理化や、
技術力の向上、
スケールメリットの実現等によ
る競争力強化が重要となっており、
高度な技術力を有する
企業は、
それを活かした製品を開発し、
国内外において新
規需要を獲得していくことが可能になっている。
例えば、近年、欧州、米国市場を中心に、環境規制対応
や省資源化の観点から、
自動車等の軽量化に向けた動きが
ある。これに伴い、軽い部素材への需要が高まっている。
自動車へのアルミニウムやマグネシウムの利用や、
航空機
へのチタンの利用などの増加が予測されており、
使用に向
けた研究開発が進められている。
電線・ケーブル製造業においては、2019 年度は東京オ
リンピック・パラリンピックや都市再開発等にむけた需要
が堅調だったほか、
自動車の電動化に伴い、
ワイヤーハー221ネスの需要増大が継続した。他方、光ファイバー・ケーブ
ルについては、
世界的な価格下落等により大幅に出荷量が
減少し厳しい1年となった。今後、5G、AI・IoT、
CASEなどの新たな技術の活用・普及に対応した需要を
確実に取り込んでいくことが重要である。
(エ)希少金属の安定供給・確保
(A)現状と課題
レアアースを含むレアメタルは、
次世代自動車やIT製
品等の多くの高性能製品に必要不可欠な原材料であると
ともに、
高耐熱・高比強度等の特性を材料に付加する添加
剤としての役割がある。
また、
これらを用いて製造される
中間部品は、
日本の部材産業の高度な技術によって成り立
っており、日本の産業競争力の源泉である。
しかし、
一部のレアメタルについては、
日本はその供給
を特定国に依存しており、
特定国の政策や経済状況等に影
響を受けるリスクや脆弱性を有している。
そうしたリスクを低減すべく、
代替材料・使用量削減技
術開発やリサイクル、
代替鉱山の開発・権益確保等による
原料の安定調達を一体的に実施するとともに、
米国・欧州
等のレアメタル消費国間での連携を強化していくことが
重要である。
(B)主要な取組
(a)使用量の削減
2012 年度から革新的な技術開発を推進する未来開拓プ
ロジェクトのひとつとして
「次世代自動車向け高効率モー
ター用磁性材料開発」
を実施しており、
高性能磁石材料及
び低損失軟磁性材料の開発を行ってきた。2017 年度から
は、
前年度までに行った開発要素のうち、
ネオジム焼結磁
石を超える新磁石の開発を行っている。
また、
それら新規
材料のモーター実装環境下における性能を評価・解析する
ための技術開発を行っている。
(b)消費国間の連携
レアメタル主要消費国である日米欧の政策当局者及び
技術専門家が、
レアメタル供給を取り巻く世界的な問題に
ついて共通理解を深め、
レアメタル代替技術やリサイクル
技術などといった将来の安定供給を目指した戦略的な取
組についての情報交換を行うため、2011 年から日米欧三
極クリティカルマテリアル会合を毎年開催している。2020年は米国が主催国となり、11 月にオンラインで第 10 回目
の会合を開催し、
政府関係者による日米欧のクリティカル
マテリアルに関する政策や研究開発等の取組、
今後の課題
等について情報交換を行い、
今後もクリティカルマテリア
ルの安定確保等に向けて連携した取組を推進していくこ
とを確認した。
(オ)取引適正化
(A)現状と課題
金属産業は製造業の中でも川上に位置し、自動車産業、
建設業等の川下の産業との関係では
「下請け」
の立場に該
当する場合が多い。また、金属産業の中でも、製造プロセ
スにおける外注作業、
各種資材品供給、
委託加工業におい
て、多くの下請取引先の協力を必要としている。
下請取引先の担う業務は、最終製品・サービスの品質・
コスト競争力に直結するものも多く、
下請取引先の競争力
強化は、
製造業、
さらには日本経済全体の発展にとっても
極めて重要な課題である。
個々の下請取引の条件は、
契約
自由の原則に基づき、
当事者が自由に交渉・決定すること
が基本であるが、
実際には商慣行として、
下請事業者にと
って一方的に不利になる条件が取引の当然の前提とされ
ている場合があり、
このような場合には取引関係を適正化
する取組が必要になる。
(B)主要な取組
上記の基本認識のもと、
金属課は、
下請取引の適正化と、
それによる下請取引先の体質強化を通じた金属業界の発
展を目的とし、2010 年6月に策定された「鉄鋼産業取適
正化ガイドライン」
を基礎として有識者や関係団体等と議
論を重ね、2017 年2月に非鉄金属産業に対象を拡大した
「金属産業取引適正化ガイドライン」を策定した。
本ガイドラインでは公正取引委員会と連携し、
下請代金
支払遅延等防止法違反のみならず、
独占禁止法の
「優越的
地位の濫用」
のおそれについても事例を示している。
たと
えば、
電線メーカーに対して片務的に銅の価格変動リスク
を押しつける行為や、
鉄骨加工業者に対して一方的に下請
け代金の支払いの一部を保留する行為等について、
独占禁
止法上問題となりうる行為として明記している。
また、
金属産業関係団体の説明会や、
建設業界に対する
建設業取引適正化推進月間講習会への職員派遣を通じて、
本ガイドラインの周知・徹底を図った。加えて、業界団体
と連携し、
サプライチェーン全体での
「取引適正化」と「付222加価値向上」に向けた自主行動計画の策定に取り組んだ。
2.2.素材産業
(1)化学産業
(ア)現状と課題
化学産業は、プラスチック、洗剤等の日用品、自動車用
部材や半導体等の高付加価値品、
更には、
医薬品、
マスク・
医療用手袋等の幅広い製品に対して部素材を供給してお
り、
日本の製造業の競争力と国民生活の安心を支える重要
な基幹産業である。
日本の化学産業の出荷額は、2019 年において、約 46 兆円(全製造業の約 14%)、従業員は約 95 万人
(同約 12%)
となっている。
CO2排出量は産業部門の中で2番目に多く、排出量の
削減が課題だが、CO2の原料利用が可能な産業でもある
ことから、2050 年カーボンニュートラル実現のため、C
O2排出を抑える技術開発やCO2を原料利用し、製品と
して固定化する技術開発を推進している。
国際化対応
我が国の化学品貿易は、
2020 年の輸出額は約 10.2 兆円、
輸入額は約 8.9 兆円と約 1.2 兆円の貿易黒字を計上して
いる。
2000 年代以降、
液晶・半導体向けの電子材料や自動
車用高機能部材を提供することで発展を持続、
我が国製造
業の競争力の源泉となっている。
加えて、
中国や東南アジ
ア等での大型設備投資に伴い、
付加価値の低い基礎化学品
を中心とする輸入圧力が高まることが予想されることか
ら、
日本企業においては、
より高付加価値製品の領域へと
成長の軸足を移す必要がある。
一方で、
米国・中国の二国間における追加関税措置等の
輸出入管理について、
日本企業はサプライチェーンへの影
響と、
今後の化学品貿易を取り巻く世界情勢の動向を注視
している。
また、
我が国の化学品は、
諸外国のアンチダンピングや
セーフガードといった貿易救済措置の対象となっている。
加えて、
インドを始めとする新興国では、
タイヤ製品に対
する強制規格が導入されている。
これらの保護貿易的措置
は、
自由貿易体制の維持・拡大に重大な影響を与える可能
性もあり、
必要以上に貿易制限的な措置については、
今後
も、
二国間又は多国間協議を通じて迅速な対応が必要であ
る。
(イ)主要な取組
海洋プラスチックごみ問題
地球規模の課題である海洋プラスチックごみ問題につ
いては、
廃棄物の適正管理に加え、
プラスチック製品の3
Rの取組の強化や、
代替素材の開発と普及等を促進するこ
とが重要である。
そのため、
業種を超えた幅広い関係者の
連携を強めイノベーションを加速するためのプラットフ
ォームとして、2019 年1月、
「クリーン・オーシャン・マ
テリアル・アライアンス」
(CLOMA)を設立した。
2019 年5月にはCLOMAビジョンを、さらに 2020 年
5月にはCLOMAアクションプランを策定し、
海洋プラ
スチックごみ問題の解決に向け、積極的に活動している。
国際化対応
(a)日ASEAN対話
日本、
ASEAN経済産業協力委員会の枠組みの下、化学産業ワーキンググループ(WG)が 1999 年に創設され、
化学物質安全情報管理に対する我が国並びに各国の取組
や、
世界の石油化学製品の今後の需給動向等について情報
提供等を行っている。
2020 年度は、7月にタイを共同議長として第 25 回化学
産業WGをオンラインで開催した。
日本、
ASEAN各国
における化学物質管理の動向等、
新型コロナウイルス感染
症が化学産業に及ぼす影響をふまえた各国の化学産業の
現状の共有や、
日本から化学産業における産業保安や労働
安全等にかかる取組を推進していくイニシアチブの提案、
海洋プラスチックごみに対する各国の取組について紹介
を行った。なお、2021 年度はベトナムと共同議長として
開催することとなった。
(b)アジア太平洋経済協力(APEC)化学対話
2000 年のAPEC貿易投資委員会において、化学分野
の貿易促進、
化学産業の競争力・成長力の推進を目的とし
て化学対話の創設に合意。2001 年より活動を開始してい
る。
2020 年度は、2020 年 11 月と 2021 年2月にオンライン
で開催され、
化学産業界の経済重要性、
各エコノミーのG
HS対応状況、
海洋ゴミ問題への取組、
持続可能な化学の
ための取組、
各エコノミーにおける化学物質管理規制等に223ついて意見交換を行った。
(c)日中化学産業政策対話
日中の化学産業間での交流が深まりつつある中、
両国化
学産業の諸問題について意見交換する場として、2009 年
に第1回、2012 に第2回「日中化学産業政策対話」を開
催。
2016 年4月、約4年ぶりに日中化学産業政策対話の再
開が実現し、
中国の化学品管理制度に関する意見交換を実
施。
両国の化学産業政策における交流の重要性が改めて共
有され、今後、年1回の対話開催について合意した。
2017 年 10 月に第4回、2018 年9月に第5回、2019 年
7月に第6回日中化学産業政策対話を開催し、
日中の化学
産業政策の現状・課題及び今後の展望、
産業保安のスマー
ト化、
石油コンビナート及び化学プラントの運営、
海洋プ
ラスチックごみ問題等について議論を行った。2020 年度
は COVID-19 の影響もあり開催は見送られたが今度も意見
交換は続けていく。
税制
(i)原料用途免税
課税環境における国際的なイコールフッティングを確
保するためのナフサ等の原料用石油製品等に係る免税・還
付措置の本則化については、
引き続き検討することとなっ
た。
(ii)関税改正要望
石油化学製品の原料となる揮発油等の関税については、
関税暫定措置法に基づき、
国産品とのバランスを考慮し国
産品の関税負担額相当分とされてきたが、2006 年度以降
は、
原油関税の無税化に伴い揮発油等の軽減税率も無税と
されてきた。
引き続き原料コストを低減し国際的な競争力
を確保するため、
輸入揮発油等にかかる関税を無税とする
措置を要望し、
今後の北米や中国における化学製品プラン
トの供給能力・実績等を踏まえ、
我が国の石油化学産業へ
の影響を検証していく必要があるため、
関税暫定措置法が
改正された(2021 年3月末まで)。調達価格上昇に伴う関税負担の軽減等の観点から、
ポリ
塩化ビニル製使い捨て手袋について、暫定税率を設定し、
関税を無税化。
我が国産業の競争力維持等の観点から、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル
(NDC)
及びメタ
-フェニレンジアミン(MPDA)の基本税率を無税化し
た。
取引適正化
2016 年度に中小企業庁が公表した「未来志向型の取引
慣行に向けて」に基づき、原料メーカー(基礎化学品メー
カー)
から中間化学品、
最終化学品メーカーに至る国内サ
プライチェーンを有する化学業界についても、
「化学産業
適正取引ガイドライン」
を 2017 年、
および 2019 年5月に
改訂した。
これを踏まえ、
化学業界としても取引適正化の
取組みを一層進めるべく、2020 年3月に自主行動計画を
作成し、2021 年にはフォローアップ調査を行った。
(2)窯業
(ア)ガラス産業
(A)現状と課題
ガラス産業は、
建築用や自動車用の板ガラスから、
液晶
ディスプレイ用ガラス基板や、
太陽光発電パネル・スマー
トフォンの表面保護材等の高機能材としての用途など広
範な分野に供給される川上産業である。
また、
溶融窯を特
徴とする製造工程とノウハウを生かした製造技術を競争
力の源泉とする装置産業である。
世界の板ガラス生産量は、2008 年以降の世界的な景気
悪化による一時的な落ちこみを除き一定の割合で増加し
ている。
これは主として中国の成長と相関関係にあり、中国国内の建築需要に比例した建築用ガラス需要が増加し
ていると考えられる。
国内を見ると、2020 年の板ガラス生産量は前年度比
22.1%減の 19,762 千換算箱、出荷は前年度比 21.1%減の
19,265 千換算箱と新型コロナウイルス感染症拡大の影響
を受けて減少した需要の回復曲線も緩やかであったため、
生産・出荷ともに 2019 年度を大きく下回った(板ガラス
の換算箱は、厚さ2mm、面積 9.29 平方メートル(100 平
方フィート)を基準に換算した箱数)。ガラス産業は輸送コスト等の要因により基本的に消費
地生産であり、
各企業は世界市場の獲得に向け、
グローバ
ルに事業を展開している。
我が国企業においては、
旭硝子
株式会社(現:AGC 株式会社)が 2002 年にベルギーのグ
ラバーベルを、日本板硝子株式会社が 2006 年にイギリス
のピルキントンを完全子会社化し、
セントラル硝子株式会
社がフランスのサンゴバンと自動車用ガラスの合弁会社224を設立し協力体制を築くなど、
各企業が積極的なグローバ
ル化を進めてきた。
こうしたグローバル化による成長の一方で、
最大の市場
である中国においては 2000 年以降、生産能力が急増した
ことが要因となり、
建築用ガラスを中心に供給過剰状態に
陥っている。
既に中国国内では値崩れや、
アジア諸国への
輸出拡大が生じているなどの影響を与えており、
我が国企
業を始めとしたガラスメーカーの価格競争力低下を招い
ている。
産業全体として競争力強化の改革が迫られていた
中、2019 年 12 月に AGC 株式会社とセントラル硝子株式会
社との間で、
建築用ガラスの需要構造の変化に合わせた生
産合理化に向けた事業統合に関する基本合意に至ったも
のの、2021 年1月に条件面における見解の相違から本協
議の中止を公表した。
同年3月、
セントラル硝子株式会社
は国内建築ガラス事業の構造改善に取り組むとして、2021年度中に板ガラスの生産設備を現状の4窯から2窯体制
に縮小し、
販売拠点及び建築加工ガラスの生産体制につい
ても縮小・集約することを発表した。
需要構造が変化する中で競争力向上のために、
各企業は
高い製造技術を生かした高付加価値製品の開発に注力し
ている。
高付加価値製品は、
次世代通信規格5Gの普及展
開を加速させるアンテナガラスや、
自動車業界のCASE
のトレンド変化に対応する情報センシング等の機能付加
されたガラスの開発などが例に挙げられ、
新たな分野・用
途に使用されるポテンシャルを有していることから、
今後
の成長産業への寄与が期待されている。
また、
地震や台風など昨今の自然災害の増加等を契機に、
ガラスの破損や脱落等による被害を防止・抑制する効果を
持つ安全ガラス
(合わせガラス)
への関心が高まっており、
2020 年 10 月には、我が国板ガラスメーカーの団体である
板硝子協会の会員(AGC 株式会社・日本板硝子株式会社・
セントラル硝子株式会社)
による
「防災安全合わせガラス」
が、消費者の住生活水準の向上に寄与することに加えて、
環境性や防犯性等の社会的要請への対応を先導する特長
を有する住宅部品に与えられる
「BL-bs 認定」
を取得した。
さらに、
2020 年 10 月の菅内閣総理大臣による
「2050 年
カーボンニュートラル宣言」
を受け、
高い断熱性能により
冷暖房負荷を低減、節電に貢献する複層ガラス(Low-E 複
層ガラス等)
といった省エネ性能を備えた製品への関心も
一層高まるなど、
時代で変化するニーズに合わせてガラス
の担うべき役割も拡大している。
(B)主要な取組
既築住宅のリフォームに対する一定の省エネルギー性
能を満たす建材導入補助により、
複層ガラスや防災ガラス
窓の普及に向けた支援を行った。
板硝子協会は、
地球温暖化対策に向けた行動計画である
「低炭素社会実行計画」に 2013 年より参画している。同
計画において、板ガラス製造時に発生するCO2削減に向
けて生産工程の省エネ施策導入等に継続的に取り組み、
2019 年度実績のCO2排出量(111.4 万t)において、基
準年である 2005 年度(134.3 万t)比▲さんかく17.1%の削減を
達成。2020 年 12 月には、低炭素社会実行計画フェーズII
(2030 年に向けた取組)の目標値として、91.4 万 t-CO2
(2005 年度比▲さんかく32%)を策定した。
(イ)セメント産業
(A)現状と課題
国内のセメント事業者は 17 社 30 工場あるが、
太平洋セ
メント株式会社、
三菱マテリアル株式会社と宇部興産株式
会社が販売部門を統合した宇部三菱セメント株式会社、住友大阪セメント株式会社の三大グループ体制となってお
り、
三大グループだけで国内販売シェアの約8割を占めて
いる。
セメントの国内需要は、1990 年度に 8,629 万トンと過
去最高を記録して以降、
自然災害による復旧需要や東京オ
リンピック・パラリンピック関連需要などの一時的な増加
は見られたものの、減少傾向で推移してきた。2020 年度
の需要は、
国内では建築の工法変化などによりセメント需
要が低下している状況下、
新型コロナウイルス感染症によ
る工期の長期化、
天候不順、
工事費に占めるセメント販売
量の減少などから 5.6%減少の 3,867 万トンと2年連続で
前年度を下回り、ピーク時以降、過去最低を更新した。国
内販売の需要構成比については、
前年度同様に民需の比率
が官需の比率を上回っている。
輸出については、中国、香港、シンガポール向けを中心
としたアジア向け販売およびオーストラリアを中心とし
たオセアニア向け販売が順調であり、5.5%増加の 1,111
万トンと2年連続で前年度を上回った。なお、2003 年度
頃からは年間 1,000 万トン程度で輸出量は推移し、
国内需
要減を輸出でカバーしている。225輸入については、韓国からのみであり、2011 年度から
80 万トン前後で推移していたが、8年連続で前年度を下
回っており、2020 年度は 2.0 万トンとなっている。
(参照:セメント国内需要等の推移)
出典:一般社団法人セメント協会
海外進出状況については、中国、ベトナムや米国を始
めとして環太平洋地域に進出。国内工場と海外進出した
現地工場とともに、現地セメントメーカーとの資本提携
を図るなど、日本のセメント企業が有する廃棄物等を利
用した生産技術や省エネ技術等を活かし、新興国など需
要拡大に向けた取組を進めている。なお、2020 年9月、
太平洋セメント株式会社では、中国河北省にある連結子
会社を現地合弁パートナー会社に売却し、他の投資原資
とするなど、海外投資案件が動きつつある。
日本のセメント産業は高効率なセメント製造プロセス
を構築しており、国際的に最も熱効率の良い製造設備
(NSP キルン)をほぼすべての工場に設置し、生産性・効
率性を高めているものの、エネルギー多消費産業として
高効率クリンカクーラーや廃熱発電設備の設備更新など
を着実に進めるなど、更なる省エネ促進に向けた取組を
図っている。
また、日本のセメント産業の特徴として、他産業や一
般家庭から排出される廃棄物及び副産物をセメント原燃
料として積極的に再利用していることが挙げられ、2020
年度では、
2,616 万トンの廃棄物等を受け入れており、セメント1トン当たりの廃棄物等使用量は 468 kgとなって
いる。
東日本大震災、熊本地震や、大型台風などの自然災害
や、2020 年7月に発生した熊本豪雨などにおいて災害廃
棄物が大量に発生したが、当該災害廃棄物についても被
災地域の工場を中心として積極的に受け入れるとともに、
セメント製品の早期供給を図ることで、被災地の復旧・
復興に向けた協力を行っている。
(B)主要な取組
経営基盤が脆弱な生コンクリート、
コンクリート製品や
砕石・砂利掘採業を営む者の経営の安定のため、
軽油引取
税の免除措置が適用されている。
その適用期限は令和3年
度税制改正大綱により、それぞれ 2026 年3月末まで延長
措置が決定された。
セメント協会は地球温暖化対策としての行動計画「低
炭素社会実行計画」において、セメント製造用エネルギ
ーの削減を掲げている。その削減手段の一つが「エネル
ギー代替廃棄物の使用拡大」であり、熱エネルギー用の
廃棄物の使用量拡大が取り組まれている。
また、セメントは、廃棄物を多量に用いて資源循環に
貢献する一方、原料の石灰石を燃焼する際に石灰石から
の放出など製造工程でCO2を排出している。
政府が策定
した革新的環境イノベーション戦略に基づき、
CO2を分
離・回収してセメント原材料として再資源化する研究開
発に着手する取組や、
(国研)新エネルギー・産業技術総
合開発機構と連携し、工場等から排出されたCO2を、
様々な廃棄物等から抽出したカルシウムに固定し、炭酸
塩を生成する技術開発などにも着手。
2020 年3月、セメント協会は 2050 年における脱炭素社
会の実現に向けた具体的対策と課題を示す
「脱炭素社会を
目指すセメント産業の長期ビジョン」
を策定。
クリンカ比
率の低減、原料の低炭素化、二酸化炭素回収・利用・貯蔵
(CCUS)
への取組、
コンクリートの二酸化炭素の固定など
取り組むべき課題を定め、
様々なステークスホルダーと連
携しつつ産業界としてカーボンニュートラルに向けて取
り組むこととしている。
(3)紙・パルプ産業
(ア)現状と課題
紙・パルプ産業は、
産業活動と国民生活に不可欠な素材
である紙・板紙を供給する基盤産業である。2020 年の日
本の紙・パルプ産業については、
国内需要の縮小が続くも
のの、生産量は紙・板紙合計で 2,287 万トンであり、中国
の 11,260 万 t、米国の 6,607 万 t に次ぐ世界第3位であ
った。紙の国内出荷は、新聞情報・印刷用途の落ち込みに
より 1984 年と同様の水準、板紙の国内出荷については段
ボール原紙を中心に比較的堅調に推移している。
紙・板紙226の輸出入は、輸入は対前年比 25.6%の減少、輸出は対前
年比 16.6%の増加となった。
新型コロナウイルス感染拡大は、
国内の紙・板紙市場に
も大きな変革をもたらしており、
企業における在宅勤務推
進やインバウンドの減少により情報用紙や白板紙は需要
が急減し、
他方で、
衛生意識の高まりによりタオル用紙な
どの需要は増加している。
世界市場を見ると中国を始めと
するアジア市場や新興国市場は、
衛生用紙や板紙を中心に
今後も成長していくものと見込まれており、
国内製紙各社
は、
これらの需要を取り込むべく現地生産・販売を目指し
た工場建設や企業買収を進めている。
また、
我が国の製紙業の省エネルギーに対する取組は世
界でもトップレベルである。業界では、
「環境行動計画」
を制定し、あらたな温暖化対策の取組として 2013 年度か
ら低炭素社会実行計画をスタートした。2020 年 12 月に策
定した低炭素社会実行計画フェーズ2の目標は、1.2005
年度比で 2030 年度までに化石エネルギー由来CO2排出
量を 2030 年度BAUに対し 466 万 t/年削減する、2.C
O2の吸収源として 2030 年度までに国内外の植林面積を
65 万 ha とする、の2項目である。生産量の減少がはじま
る中、
業界全体で省エネ設備や最新生産設備の積極的な導
入を始めとする省エネ対策やきめ細かな操業努力、
生産体
制の見直しによる生産性向上やエネルギー効率の低い設
備の停止と高生産・高効率設備への集約化、さらには、バ
イオマスや廃棄物系の燃料を利用できるボイラを積極的
に導入して、
燃料転換を推進してきた。
この結果、
2019 年
度実績においてCO2排出量は 1,658 万 t で、前年度の
1,742 万 t よりも 84 万 t 減少した。
また、製紙原料の安定的な確保や、CO2吸収源として
地球温暖化防止へ貢献する国内外における植林事業につ
いては、
植林面積が 2019 年度までに国内・海外合わせ 52.1
万 ha であり、2018 年度実績の 52.6 万 ha に対しては、海
外分 0.5 万 ha が減少で8年連続減少した。減少理由とし
て、
製品生産量の落ち込みにより原料調達量が減少してい
ることから投資意欲が消極的になっていることが挙げら
れるが、当該植林適地のCO2吸収量の増大を図るため、
持続可能な森林経営を積極的に推進するとともに、
最適な
植栽樹種の選択、
成長量の大きい種苗の育種開発、
効果的
な施肥の実施等に努める。
また、2021 年1月には、製紙業界の地球温暖化対策長
期ビジョン 2050 を策定し、カーボンニュートラルへ向け
た考え方を示した。
製紙産業は、
紙の安定供給だけでなく、
森林の循環・活性化、古紙利用による紙のリサイクル、バ
イオマスエネルギーや可燃性廃棄物の積極的な活用によ
る化石エネルギーの削減などで持続可能な地球環境の維
持と低炭素社会の実現に向け貢献してきた。2050 年に向
けては、1.生産活動における省エネ・燃料転換の推進に
よるCO2排出量削減、2.環境対応素材の開発によるラ
イフサイクルでのCO2排出量削減、3.植林によるCO
2吸収源としての貢献拡大、の3分野において貢献可能と
して目標を掲げた。
(イ)主要な取組
古紙リサイクルについては、2020 年度の国内古紙回収
量は 1,851 万tと前年度比でわずかに減少した。
古紙の発
生量は、紙・板紙の需要減に伴い漸減傾向であるため、古
紙の回収率の更なる向上が課題となっているが、2020 年
度の古紙回収率は 84.4%と、高い回収率を維持している。
また、
古紙の回収率とともに、
利用率の向上も重要となる
が、2020 年度の古紙利用率は 67.5%と、引き続き高い利
用率を維持している。
新型コロナウイルス感染拡大の影響
を受け、
古紙利用量が比較的少ない紙の生産量が落ち込み、
古紙利用量が多い板紙の生産比率が上昇したことに起因
し、一時的に古紙利用率は大幅に上昇している。なお、経
済産業省では、
「資源の有効な利用の促進に関する法律」
に基づく判断基準省令にて、
古紙利用率の目標値を
「2025
年度までに 65%にする」と設定して、引き続き高水準で
の古紙利用を掲げている。
輸出に目を向けると、2020 年度は 291 万tの古紙が海
外に輸出された。
諸外国との安定的な取引関係の構築のた
め、経済産業省の委託事業として 2020 年度も引き続きイ
ンドを対象とした古紙リサイクルシステム構築支援事業
を実施していく。
また、
国内市場の縮小傾向の中で製紙産業が持続的な成
長を維持していくためには事業構造の転換が必要である。
そこで、
「平成 25 年度製造基盤技術実態調査
(製紙産業の
将来展望と課題に関する調査)」を実施し、
「高度バイオマ
ス産業創造戦略」を策定した。その中で、製紙産業の将来
ビジョンを、
世界に先駆けて低炭素社会、
循環型社会の構
築を目指し、
製紙産業の強みを生かした高度バイオマス産227業を創造することとした。
さらに、2020 年度は、熊本豪雨や台風 10 号及び 12 号
などによる災害が発生した。
これらの災害発生時に、
経済
産業省では、
業界団体と連携し、
国からの支援物資として、
トイレットペーパーや段ボールベッド等の紙製品を被災
地に送っており、災害発生時の初期対応を行っている。
(4)革新素材
(ア)現状と課題
我が国の機能性化学産業は、顧客とすり合わせを行い、
新たな付加価値を創造するという一連のサイクルを通じ
て、顧客とともに大きく発展してきた。特に、液晶ディス
プレイや半導体デバイスの素材等の電子材料分野におい
ては、
日本の素材企業が高いシェアを有している。
一方で、
近年、
ユーザー側の製品サイクルの短期化、
市場規模の拡
大に伴う新興国メーカーの参入、
多数ある日本企業間の競
争の激化等により、
市場のシェアの低下と素材自体のコモ
ディティ化が加速している。
このような中、
我が国の機能
性化学産業の競争力の維持・強化のため、
生産プロセス等
の革新や、
革新的な素材開発の加速化に向けた投資の積極
化等への取組を講じる必要がある。
このような状況を踏まえ、
経済産業省は文科省とともに、
「マテリアル革新力強化のための戦略策定に向けた準備
会合 」を設置し、令和2年6月に「マテリアル革新力強
化のための政府戦略に向けて」を策定した。さらに、
「統
合イノベーション戦略 2020」
(令和2年7月閣議決定)において、
「マテリアル革新力」を強化するための政府戦略
を策定することが決定された。
これらを受け、
令和2年 10
月から定期的に有識者会議を開催し、
令和3年3月に、有識者会議として
「マテリアル革新力強化戦略案」
を取りま
とめ、公表した。戦略では「革新的マテリアルの開発と迅
速な社会実装」
「マテリアルデータと製造技術を活用した
データ駆動型研究開発の促進」
「国際競争力の持続的強化」
をアクションプランの柱として掲げている。
(イ)主要な取組
技術開発予算
(i)省エネ型化学品製造プロセス技術の開発事業
【令和2年度当初予算:22.0 億円】
・二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発
(研究開発期間:2012 年度〜2021 年度)
CO2と水を原料に太陽エネルギーを用いてプラスチ
ック原料等の化学品を製造する革新的触媒等の技術開発
を行い、
石油の価格上昇や枯渇リスク等の資源問題とCO
2削減等の環境問題を同時に解決する。
・有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発(研究
開発期間:2012 年度〜2021 年度)
砂から有機ケイ素原料を直接合成し、
同原料から高機能
有機ケイ素部材を製造する革新的触媒等の技術開発を行
い、
従来技術よりも大幅に省エネルギーで製造可能な高機
能材料の市場拡大を図る。
・機能性化学品の連続精密生産プロセス技術開発(研究
開発期間:2019 年度〜2025 年度)
機能性化学品の製造手法を従来のバッチ法からフロー
法へ置き換え、
廃棄物排出量を大幅削減する省エネ型製造
プロセス技術開発を行うことで、
省エネルギー、
省コスト
で機能性化学品を製造可能な連続フロー法による革新的
な汎用技術を確立し、大幅なCO2削減に貢献する。
(ii)省エネ型電子デバイス材料の評価技術の開発事業
【令和2年度当初予算:26.8 億円】
・蓄電池材料評価基盤技術開発プロジェクト
(研究開発期
間:2010 年度〜2022 年度)
次世代蓄電池の新材料の共通的な性能評価手法の基盤
技術を確立し、
材料メーカーと電池メーカーとの間のすり
合わせに要する期間の短縮化や開発コストの大幅な低減
に寄与する他、
アカデミアで研究している材料の産業界へ
の橋渡し促進など、
高性能蓄電池・材料の開発の効率向上・加速化により、
次世代蓄電池の早期開発、
早期普及を促し、
蓄電池市場における国際競争力の強化を図る。
(iii)炭素循環社会に貢献するセルロースナノファイバー
関連技術開発事業(研究開発期間 2020 年度〜2024 年度)
【令和2年度当初予算 6.6 億円】
カーボンリサイクルの一端を担うことが期待されてい
るセルロースナノファイバー(CNF)について、革新的
製造プロセス技術の開発や安全性評価手法の開発、CNF利用技術の開発を実施し、
CNFの社会実装・市場拡大を
実現することにより、
石油由来化学品の使用量削減やCN
Fを含有させた部材の軽量化によりCO2の削減効果を228図る。
(iv)計算科学等による先端的な機能性材料の技術開発事
業(研究開発期間:2016 年度〜2021 年度)
【令和2年度当初予算:24.8 億円】
従来の機能性材料の開発は、
実験・評価データを踏まえ、
"経験と勘"に基づく仮説を立てて、それを繰り返し実験に
よって検証しながら、
時間をかけて進められてきた。
本事
業では、
高度な人工知能(AI)等の計算科学、
高速試作・
革新的なプロセス技術及び先端計測評価技術を駆使した
革新的な材料開発システムの構築することで、
これまでの
材料開発プロセスを刷新し、
機能性材料の開発期間を劇的
に短縮(試作回数・開発期間を 1/20 以下)することを目
指す。
2.3.生活製品関連産業
(1)繊維産業
(ア)概要
(A)日本の繊維産業の規模
2020 年工業統計によれば、 繊維工業の事業所数は約
11,000 事業所で、
製造業全体の 5.8%を占める他、
従業者
数は約 23.9 万人で同 3.1%を占め、
付加価値額は、
約 1.5
兆円で、同 1.5%を占めている。
(B)日本の繊維市場の状況
日本の繊維市場では、
製品の企画やデザインは日本発が
大半を占めるものの、
中国等からの輸入品が多くを占めて
いる。
衣料品における 2020 年の輸入浸透率
(数量ベース)
は 97.9%であり、国内に流通している衣料品のほとんど
は海外からの輸入品となっている。
消費者の多様なニーズ
に沿った小ロット・短サイクルの商品は国内及び中国で生
産し、
定番商品については、
中国及び東南アジア諸国で大
量生産を行うというのが一般的となっている。
衣料品の輸
入額は 2018 年には約3兆 3,000 億円だったが、2019 年は
約3兆 1,600 億円と減少が見られた。
また、
輸出について
は輸入と比べ規模が小さく、2019 年は 492 億円であった
「参照:図 衣料品の輸出入の推移」
。衣服・その他の繊
維製品製造業の製造品出荷額の推移を見ると、
海外からの
輸入品の増加に押され、減少傾向となっている「参照:図
衣服・その他の繊維製品製造業の製造品出荷額推移」。
(イ)繊維産業の展望と課題
(A)取引適正化に向けた自主行動計画の策定
2016 年9月、
親事業者と下請事業者双方の
「適正取引」
や「付加価値向上」
、サプライチェーン全体にわたる取引
環境の改善を図ること等を目的とした
「未来志向型の取引
慣行に向けて」
(世耕プラン)を発表し、同年 10 月には、
経済産業大臣より繊維業界に対し、
取引適正化に向けた自
主行動計画の策定を要請した。
これを受け、2017 年3月、日本繊維産業連盟及び繊維
産業流通構造改革推進協議会は連名で
「繊維産業の適正取
引の推進と生産性・付加価値向上に向けた自主行動計画」
を策定・公表した。
2018 年以降実施している自主行動計画の進捗状況に係
るフォローアップ調査を、2020 年にも全国の繊維関係事
業者に対して実施した。
(B)繊維産業技能実習事業協議会の設置
外国人技能実習制度に関し、
繊維産業における法令違反
(最低賃金違反、
割増賃金等の不払い、
違法な時間外労働等)が多く指摘されている状況を踏まえ、
2018 年3月、外国人技能実習法第 54 条に基づき、関係業界団体等を構成
員とする繊維産業技能実習事業協議会
(日本繊維産業連盟
と経済産業省の共同事務局)を設置。2018 年6月には、
「繊維産業における外国人技能実習の適正な実施等のた
めの取組」を決定、公表した。本決定においては、繊維業
界として、
業界団体主導で
「技能実習に係る法令遵守等の
徹底」、「取引適正化の推進」、「発注企業の社会的責任」等
に取り組むこととしており、これらの取組状況について、
2020 年7月、繊維産業技能実習事業協議会でフォローア
ップを行った。229(C)繊維産業のサステナビリティに関する検討会の設置
繊維産業は、
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、アパレル等の売上が大きく落ち込むとともに、
「新たな日常」
を踏まえた消費者ニーズの変化に見舞われている。
新しい
時代に向けて、今後の繊維産業を展望した時に、
「サステ
ナビリティ」
は重要な視点。
一部の企業においてサステナ
ビリティの取組は徐々に始まっているものの、
長く複雑と
言われるサプライチェーンの管理等、
取組が十分になされ
ているとは言い難い状況にある。こうした状況を踏まえ、
繊維産業におけるサステナビリティの取組を促進するた
め、2021 年2月に「繊維産業のサステナビリティに関す
る検討会」
を設置。
環境配慮や責任あるサプライチェーン
管理等に関して議論・検討し、
同年7月に報告書を取りま
とめる予定である。
(D)和装振興
和装業界が抱える課題についての議論や情報共有を目
的として、
2015 年に和装振興協議会を設置。
2020 年 11 月
に開催し、
新型コロナウイルス感染症による和装業界の影
響について議論を行った。
11 月 15 日(
「きものの日」
)を中心に、他省庁とも連動
した取組を実施するとともに、全国の和装関連業界でも
様々なイベントが開催されるなど、
和装振興に向けた取組
が進められた。
(E)新規市場開拓に向けた取組
(a)国際標準化の推進
繊維製品生産のグローバル化が進展し、
衣料品における
2020 年の輸入浸透率(数量ベース)が 97.9%となってい
る実態を踏まえ、国際標準化機構(ISO)の国内審議団
体である一般社団法人繊維評価技術協議会を中心に、
我が
国が強みを有する高機能繊維分野において、
試験方法の国
際標準化を推進し、
我が国繊維産業の国際競争力強化を図
っている。
2020 年度には、
「繊維製品の摩擦堅ろう度試験方法に関
する国際標準化」
として、
摩擦堅ろう度試験をISO規格
とすることにより、
海外への輸出品について、
日本で行っ
ている試験データをそのまま利用することができ、
アパレ
ルメーカーにとっては試験期間の短縮、
コスト削減が図ら
れることを見込む。
(E)海外展開の推進
(a)二国間協力
(フランス)
2014 年5月に日仏間で、
繊維協力に関する協力覚書(MOC)に署名し、両国は、1日仏間のパートナーシップの
拡大・深化、
2日仏共同プロジェクトの奨励、
3研究機関・
産業界の協力、4ファッション・衣料分野での日仏協力、
5政府間対話の強化に向けて協力することを確認した。
以降、毎年日仏繊維WGを開催、2019 年にはパリで第
7回会合が開催され、
両国連携の継続のため、
MOC更新
が合意された。2020 年4月までに実施を予定していたM
OCの更新は、新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ、
引き続き協力関係は継続することを両国間で確認の上、延期することとなった。
(インド)
2020 年5月、第2回日印産業競争力パートナーシップ
会合において、
分野別課題の議論の場として、
日印産業競
争力パートナーシップ会合の下に繊維WGを設立するこ
とが合意され、2020 年 10 月に第1回日印繊維WGを開催
した。WGでの議論に基づき、5S・品質管理やJIS規
格検査技術に係る人材育成事業を実施した。
また、
2021 年1月には、
長坂康正経済産業副大臣、
スム
リティ・ズビン・イラニ繊維大臣が同席の下、
(一財)ニ
ッセンケン品質評価センターとインド繊維委員会との間
で、
繊維製品の品質向上や貿易促進等の相互協力に関する
MOU を締結した。
(2)住宅産業
(ア)現状と課題
住宅関連産業は、
内需が大きな割合を占めており、
その
発展が我が国経済にとって重要であることはもちろん、消費者本位の良質な住宅及び関連商品・サービスを提供する230ことにより、
人々の生活の質の向上に貢献することが期待
されている重要な産業である。
2020 年度の新設住宅着工戸数は、81.2 万戸(対前年度
比 8.1%減)
「参照:図 新設住宅着工戸数」となり、その
うちプレハブ住宅は、10.8 万戸(対前年度比 13.6%減)
であった。一方、住宅ストックは、人口減少に伴う世帯数
の減少等が見込まれる中、一世帯当たりの住宅数は 1.16
戸(2018 年)と量的に充足しているため、既存住宅流通・
リフォーム市場を中心とした住宅市場の活性化が求めら
れている。
新設住宅着工戸数(国土交通省住宅着工統計)
住宅ストックと世帯数の推移(国土交通省住宅経済関連
データ)
(イ)主要な取組
住宅システム全体としてエネルギーの有効利用の促進
が求められる中、
2012 年度からゼロ・エネルギー住宅(ネット・ゼロ・エネルギーハウス:ZEH)に対する補助を
実施した。
加えて、
既存住宅の抜本的な省エネルギー化を
図るため、
住宅の改修における、
工期短縮可能な高性能断
熱建材や蓄熱、
調湿等の付加価値を有する省エネ建材の導
入の実証を支援した。
また、建築材料・住宅設備の規格化については、電動シ
ャッター事故防止の取組として、
安全性確保のためのJI
Sの改正作業や、
高日射反射率塗料の日射反射率測定法や
温水洗浄便座の性能評価方法の国際標準化に向けた取組
を引き続き行った。
さらに、
グリーン社会の実現および地域における民需主
導の好循環の実現等に資する住宅投資を喚起し、
新型コロ
ナウイルス感染症の影響により落ち込んだ経済の回復を
図るため、
国土交通省のグリーン住宅ポイント制度に関し
て、
同省に対し協力する形で建築材料・住宅設備業界と調
整を行い、同制度が円滑に実施された。
(3)日用品産業
(ア)業況
日用品産業は、家庭用設備機器、家具・身辺用細貨、食
器・台所用品、玩具・文具・スポーツ用品などを始めとす
る家庭用品や雑貨工業品を供給する産業であり、
国民一人
ひとりに密接する重要な産業である。
日用品の国内需要については、
長期にわたるデフレの影
響や、
人口減少、
生活スタイルの変化等によって縮小の一
途を辿っている。
また、
低価格で販売する中国メーカー等
の台頭により、厳しい国際競争にさらされている。
このような状況下で、
我が国の日用品産業が生き残るた
めには、
内需のみならず、
海外需要を開拓するなど積極的
に販路開拓を進めていく必要がある。
(イ)自然災害への対応
新型コロナウイルス感染症の影響下で発生した令和2
年7月豪雨は、
九州地方を始めとした全国の広範な地域に
おいて甚大な被害をもたらした。
災害発生時に、
経済産業
省では、
国からのプッシュ支援物資として、
避難所向けの
パーティションやスリッパ等を被災地に送っており、
災害
発生時の初期対応を行っている。
(ウ)電動キックボードの実証事業
日本では現行関連法制において、電動キックボードは、231原動機付自転車に分類され、
免許・ヘルメットの着用等が
義務付けられているが、
将来の移動を担う新しいモビリテ
ィとして普及させていくため、2019 年度に、規制のサン
ドボックス制度において、
2事業者の
「電動キックボード
のシェアリング実証」
を認定し、
大学構内での実証事業が
行われた。
また、当該実証事業の結果や国際的な動向等を踏まえ、
走行場所等について検証するため、2020 年度に、新事業
特例制度に基づいて、
4事業者の新事業活動計画を認定し、
電動キックボードによる普通自転車専用通行帯を走行す
る実証事業が行われた。
(4)伝統的工芸品産業
経済産業省では、
伝統的工芸品産業の振興を図ることを
目的として、
「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」(伝産法)に基づき各種支援策を実施している。
「伝統的工芸
品」は、同法第2条に基づき、経済産業大臣が指定するも
のを指し、2020 年度末現在で 236 品目が伝統的工芸品の
指定を受けている。
伝統的工芸品の生産額は、1980 年代には漸減傾向で推
移しつつも、
年間 5,000 億円前後の水準が維持されていた
が、
国民の生活様式の変化やバブル景気崩壊後の長引く景
気の低迷から年々減少し、2010 年度以降は約 1,000 億円
で推移している。このような状況下で、企業数、従業者数
も減少を続けている。
特に、
若年従事者割合を見ると、2017年度には 30 歳未満の従事者が占める割合が 6.5%と、後
継者不足問題の深刻さを浮き彫りにしている。
このような現状にかんがみ、
伝産法の規定により経済産
業大臣の認定を受けた各種事業計画に基づき、
各伝統的工
芸品の産地の組合等が実施する、
新商品開発・展示会等の
需要開拓事業や後継者育成事業等の費用の一部を補助す
る事業(伝統的工芸品産業支援補助金)を実施している。
2020 年度は、全国 93 の事業者に対して交付決定を行い、
総額(交付決定額)は約 3.3 億円であった。また、伝産法
に設立根拠を有する一般財団法人伝統的工芸品産業振興
協会が実施する、人材確保及び技術・技法等継承事業、産
地指導事業や普及促進事業等の費用の一部を補助する事
業(伝統的工芸品産業振興補助金)を実施している。2020
年度の執行額は約 6.8 億円であった。
2.4.産業機械
産業機械分野は、
工作機械、
建設機械、
冷凍・空調機器、
重電機器、
半導体製造装置、
計測・分析装置、
ベアリング、
食品機械、印刷機械、ロボット、ドローン、空飛ぶクルマ
等極めて多様な業種を含むが、
総じて、
我が国のものづく
りに不可欠な部材や資本財を提供する産業である。
製造業
の基盤を形成する分野であり、
高い輸出競争力を有してい
る。また、重電機器や重工メーカーなどの大企業に加え、
個別工程・製品に特化した中小企業が、企業自らの技術・
才覚で高い競争力を涵養してきた。
このような中、
経済産
業省の政策としては、
構造的な内需縮小の中で、
a)ロボッ
ト・ドローン等の次なる成長産業の発掘・育成、b)先端技
術の開発・導入支援を主要課題としており、
2020 年度は、
以下の取組を行った。
(1)ロボット
ロボットの社会実装を加速し、
ひいては、
課題先進国で
ある我が国のロボットによる社会変革を推進することを
目的に、2019 年5月、内閣府、文部科学省、厚生労働省、
経済産業省が合同で、
有識者で構成される
「ロボットによ
る社会変革推進会議」を設立した。当該会議体では、産業
別ではなく、分野横断的な課題(導入・普及に係る共通課
題、人材育成、研究開発等)を中心に、その解決に繋げる
ために必要な制度整備、
施策体系を検討し、
同年7月に
「ロ
ボットによる社会変革推進計画」
を取りまとめた。
当該計
画には、ロボット政策の4つの方向性(I.導入・普及を
加速するエコシステムの構築、II.産学が連携した人材育
成枠組の構築、III.中長期的課題に対応する研究開発体制
の構築、IV.社会実装を加速するオープンイノベーション)
が示されており、2020 年度は、この方向性に基づき政策
を実施した。
導入・普及を加速するエコシステムの構築については、
ロボット導入を容易にする、
ロボットフレンドリーな環境
の実現に向けた取組を推進している。
ロボットの社会実装
を推進するためには、
所与の環境に後からロボットを導入
する発想ではなく、
ユーザーの施設環境等を、
ロボットを
導入しやすい、
"ロボットフレンドリーな環境"へ変革す
る必要がある。具体的には、2019 年に経済産業省と独立
行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NED
O)が共同して、ユーザーとメーカー・サービスプロバイ232ダー等が参画する
「ロボット実装モデル構築推進タスクフ
ォース」
を設立し、
人手不足への対応かつ非接触の実現が
急務な「施設管理」
「小売」
「食品」にフォーカスし、ロボ
ットフレンドリーな環境実現に関する研究開発や、
その成
果を活用した規格化、標準化を推進している。2020 年8
月に、
「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」は
ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会
(RRI)
に移管され、
産業界がイニシアティブをとりながら検討が
進められた。
産学が連携した人材育成枠組の構築については、
ロボッ
トの設計や導入に係る専門人材を、
産学連携して育成する
取組を推進している。
具体的には、
文部科学省や厚生労働
省と連携しつつ、
産業用ロボットメーカー、
独立行政法人
国立高等専門学校機構や全国工業高等学校長協会といっ
た教育機関、高齢・障害・求職者雇用支援機構といった職
業能力開発機関等が参加する
「未来ロボティクスエンジニ
ア育成協議会(通称:CHERSI)
」を 2020 年6月に設
立した。当協議会がイニシアティブをとり、高専、工業高
校等向け教材開発、
産業界から教育機関に対する講師派遣、
企業での実習受入等を実施しながら人材育成活動を推進
している(学生・生徒のみならず教員も教育対象)。中長期的課題に対応する研究開発体制の構築について
は、
ロボット活用領域の拡大や中長期にわたる国際競争力
の維持・向上に向け、
産学連携した体制を構築しながら研
究開発を推進している。
具体的には、
日本の産業用ロボッ
トメーカーが協調し、2020 年7月に設立された「技術研
究組合産業用ロボット次世代基礎技術研究機構
(ROBOCIP)」が、次世代産業用ロボットの実現に向けた要素
技術確立のため基礎・応用研究を実施した。
産業用ロボッ
トが含まれる、
「生産用機械器具製造業」における研究開
発費は、
製品開発に相当する
「開発研究」
が大部分であり、
「基礎・応用研究」に充てられる割合が低い。国際競争力
強化を図るべく中長期的な視点で次世代産業用ロボット
の実現に向けた要素技術を確立するためには、
産学が連携
して基礎・応用研究まで立ち返った取組が必要不可欠であ
る。
社会実装を加速するオープンイノベーションについて
は、
ロボット技術を内外から集結させ、
様々な社会課題の
解決を目指した競技会や展示会を行う World Robot
Summit
(ロボットの国際大会)
を着実に開催すべく検討を
進めた。2020 年に開催予定であったが、新型コロナウイ
ルス感染症の影響により、2021 年へ延期となった。
上記、
ロボットフレンドリーな環境の実現や、
次世代産
業用ロボットの実現に向けた要素技術確立に向けた研究
開発については、「革新的ロボット研究開発等基盤構築事
業」において、産業界に補助を行い推進している。
(予算:
「革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」 6.6 億円
2020 年度〜)
(2)ドローン・空飛ぶクルマ
「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」
にお
いて 2019 年6月に策定された「空の産業革命に向けたロ
ードマップ 2019」に掲げる目標「2022 年度中の有人地帯
での目視外飛行」
を達成するための技術開発として、
遠隔
で機体情報を識別・照合し、
所有者や位置情報等を確認す
るリモートIDの技術開発や、
有人飛行機等との衝突を回
避するための技術開発に取り組んだ。
さらに、
複数のドロ
ーンの飛行計画や飛行情報、地図・気象情報等を集約・共
有し、
安全な空の飛行を管理するための運航管理システム
の開発を進め、2021 年3月には複数拠点での運航管理シ
ステムの実証実験を実施した。
また、
無人航空機の性能比
較や機種選定
(ユーザー視点)
等に役立てることを目的と
して、2017 年度から開発を推進してきた性能評価基準に
ついて、その研究開発成果を 2020 年5月に「無人航空機
性能評価手順書」として公開した。
(予算:
「ロボット・ド
ローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」
40.0 億円 2017 年度〜)
政府調達等のドローンの活用におけるセキュリティ確
保の必要性の高まりを受けて、
安全安心なドローン基盤技
術開発事業を実施し、
セキュリティの確保された小型ドロ
ーンの開発を 2020 年5月から開始した。
(予算:
「安全安
心なドローン基板技術開発事業費」16.1 億円 2019 年度
補正)
ドローン産業の振興に向けた政策と、
ドローン技術を発
展させた空飛ぶクルマの実現に向けた政策を一体的かつ
強力に推進していくため、
2020 年7月に産業機械課に
「次
世代空モビリティ政策室」を設置した。
空飛ぶクルマについては、
「第6回空の移動革命に向け
た官民協議会」を 2020 年6月に開催するとともに、8月
には同協議会に「実務者会合」を設置した。同会合におい233ては、傘下の「ユースケース検討会」において、空飛ぶク
ルマを活用したビジネスモデルの展望を示し、
その内容を
元に「機体の安全基準WG」、「操縦者の技能証明WG」、「運航安全基準WG」
において、
それぞれの制度課題の整
理が行われた。
(3)計測分析
計測分析機器間でのデータ利活用を拡大・迅速化させ、
次世代のものづくりの競争力を底上げし、
省エネ製品開発
の加速化を図るため、
計測分析機器業界の主要企業が一体
となって共通データフォーマットを作成し、
複数の計測分
析データを一元的に集約して、
総合的な評価を可能とする
複合計測分析システムの研究開発事業を 2019 年度まで実
施した。2020 年度は当該事業の成果を活用してJIS化
の検討を開始した。
(4)半導体製造装置
半導体製造装置の小型化やクリーンルームを不要とす
る技術を開発することにより、
少量生産半導体の製造エネ
ルギーを大幅に減らし、
また設備投資の大幅削減が可能な
製造プロセス技術(ミニマルファブ)の実用化に向けて、
2020 年度はNEDOが実施する戦略的省エネルギー技術
革新プログラムの研究テーマとして採択された
「多品種少
量生産に適した半導体デバイス製造ファブの実現」
を進め
るとともに、
新たにサプライチェーン強靭化に資する技術
開発・実証に
「デバイス製造に関するダイナミックエンジ
ニアリングチェーンの構築」が採択された。
2.5.素形材産業
(1)現状と課題
素形材産業は、川上から金属材料(鉄鋼、アルミ、合金
等)を調達し、成形加工して、川下の機械組立産業(自動
車、産業機械、電気通信機器等)に供給する川中の産業で
あり、
日本の自動車や産業機械などの国際競争力の基盤を
なす存在である。
素形材産業の出荷額は 9.7 兆円、
従業員は 43 万人
(2020
年)である。出荷先は、自動車産業向けが7割、産業機械
向けが2割となっており、
特に自動車産業との関係が強い。
また、1事業所当たりの平均従業員数が約 16 名であり、
中小企業が非常に多い。
人的・資金的体力が限られる中で、
如何に生産性を高め、
高付加価値化、
差別化を図るか、
競争力の確保が課題とな
っている。
(2)主要施策
(ア)研究開発
経済産業省では、
中小企業のものづくり基盤技術の高度
化に資する研究開発及びその試作等の取組を支援するこ
とにより、
日本の製造業の国際競争力の強化と新たな事業
の創出を図ることを目的として、
「戦略的基盤技術高度化
支援事業」
(サポイン事業)を実施している。本事業は、
「特定ものづくり基盤技術」
として指定している技術が対
象となり、全 12 技術のうち、7の技術分野(精密加工に
係る技術、製造環境に係る技術、接合・実装に係る技術、
立体造形に係る技術、表面処理に係る技術、複合・新機能
材料に係る技術、
材料製造プロセスに係る技術)
が素形材
関連分野となっている。
事業を開始した 2006 年度から多くの素形材企業が活用
し、2020 年度の採択件数全 105 件中、67 件が素形材分野
となっている。
また、
日本の強みである素材や機械制御技術等を活かし、
少量多品種で高付加価値の製品・部品の製造に適した世界
最高水準の金属3Dプリンタを開発する技術開発事業(「積層造形部品開発の効率化のための基盤技術開発事業
(1.2 億円)」)を実施した。2019 年度から 2023 年度の5
年間で、
積層造形技術を活用した金属部品等の開発期間を
1/5に短縮すること等により、日本の製造業への金属積
層造形技術の普及を目指している。
これまでにない軽量で複雑な高機能製品の開発を加速
するだけでなく、地域、中小企業、個人の知恵や感性を活
かした新たな付加価値を持つ製品の創造、
商品企画から設
計・生産までの時間の大幅な短縮などが実現され、
ものづ
くりに"革命"がもたらされることが期待される。
(イ)取引適正化
素形材産業は中小企業が多く、川上(素材)
、川下(セ
ットメーカー)
という大企業に挟まれた川中産業であるた
め取引上の立場が弱い。従来、取引先(親事業者)との長
期的な取引慣行に基づく系列取引が一般的であったが、国内需要の減少と取引先企業のグローバル調達が進展する234現在は、
系列取引が徐々に崩れ、
取引先企業との取引上の
問題が顕在化してきている。
素形材産業の競争力を高めるためには、
適正な取引の確
保により、
資源の最適配分を実現し、
強靱なサプライチェ
ーンを長期的・安定的に構築することが不可欠である。
2016 年9月に発表した「未来志向型の取引慣行に向け
て」
(世耕プラン)において3つの重点課題の一つとして
揚げたコスト負担の適正化に関して、2017 年7月に、型
の廃棄、保管料支払い、マニュアル整備等、今後事業者が
型管理の適正化を強化していくための具体的な取組内容
を取りまとめた
「未来志向型・型管理の適正化に向けたア
クションプラン」を公表した。
2019 年8月には、
「型取引の適正化推進協議会」を設置
し、
型の廃棄時期や保管費用項目の目安を含む型取引の基
本的考え方を取りまとめ、
同年 12 月に報告書を公表した。
2020 年2月には、素形材産業取引適正化委員会を設置
し、
「素形材産業取引ガイドライン」
(2007 年策定、
2019 年
改訂)
の普及のための対応策や、
素形材業界における取引
問題是正のための取引について議論を行った。
また、
ガイ
ドラインに型取引の適正化推進協議会報告書の内容を盛
り込むための改正案について議論を行い、
同年6月にガイ
ドラインの改正を行った。
2.6.自動車産業
(1)自動車産業の概況
2020 年の世界全体の四輪車生産台数は新型コロナウイ
ルス感染症の感染拡大に伴い、7,762 万台(対前年比
15.4%減)、販売台数は 7,797 万台(同 13.8%減)と、生
産台数・販売台数ともに減少に転じた。
国別に見ると、
生産台数は、
中国では同 1.9%減
(2,523
万台)
、米国では同 18.9%減(882 万台)となり、主要国
は減少。
販売台数も、
中国では、
同 1.9%減
(2,531 万台)、米国では同 15.2%減(1,445 万台)と、減少。
日本では、2020 年の四輪車生産台数 806.8 万台(同
16.7%減)
、販売台数は、対前年比 11.5%減の 459.9 万台
となり、いずれも減少。
2020 年の日本の四輪車輸出台数は 374 万台(対前年比
22.4%減)で減少。
2020 年2月には、一般社団法人日本自動車工業会、一
般社団法人日本自動車部品工業会、経済産業省が共同で、
業界大の迅速な情報共有や必要となる対応策を検討する
場として
「新型コロナウイルス対策検討自動車協議会」を立ち上げ、業界からの支援ニーズを聴取。
これを踏まえ、
厚生労働省や中小企業庁等と連携し、自動車メーカーや部品サプライヤーの資金繰り対策、
雇用対
策等の支援を講じた。
(2)安全運転サポート車の普及啓発について
令和元年度補正予算において創設した、
高齢運転者の交
通安全対策として、65 歳以上の高齢者を対象に、安全運
転支援装置を搭載した安全運転サポート車
(サポカー)の購入等を補助するサポカー補助金について、
令和2年度に
予算を繰り越し引き続き実施した。
具体的には、
対歩行者衝突被害軽減ブレーキやペダル踏
み間違い急発進抑制装置を搭載したサポカーの購入に対
しては最大 10 万円、後付けのペダル踏み間違い急発進抑
制装置の購入・設置に対しては最大4万円の補助を行った。
(3)車体課税について
令和3年度税制改正において、
自動車重量税のエコカー
減税については、
燃費性能がより優れた自動車の普及を促
進する観点から、
目標年度が到来した令和2年度燃費基準
を達成していることを条件に、令和 12 年度燃費基準の達
成度に応じて減免する仕組みに切り替えた上で、
適用期限
を2年間延長した。
その際、
2回目車検時の免税対象につ
いて電気自動車等やこれらと同等の燃費性能を有するハ
イブリッド車等に重点化を図った。
また、
クリーンディーゼル車については、
燃費基準の達
成状況や普及の状況等を総合的に勘案し、
ガソリン車と同
等に扱うこととした。
その際、
クリーンディーゼル車の取
扱いが大きく変化することから、
市場への配慮等の観点も
踏まえ、
令和3年度及び令和4年度に関しては激変緩和措
置を講ずることとし、
令和5年度以降はガソリン車と同等
に取り扱うこととした
(環境性能割においても同様の取扱い)。
自動車税及び軽自動車税の環境性能割については、
燃費
性能に応じた税率区分を設定し、
その区分を2年ごとに見
直すことにより燃費性能がより優れた自動車の普及を促
進するものであり、
令和2年度末が見直しの時期に当たる
ことから、
目標年度が到来した令和2年度燃費基準の達成235状況も考慮しながら、令和 12 年度燃費基準の下で税率区
分を見直した。
自動車税・軽自動車税の軽減措置(グリーン化特例(軽
課))については、適用対象を電気自動車等に限定すると
ともに、
クリーンディーゼル車を対象から除いた上で2年
間延長した。
令和3年度与党税制改正大綱においては、
「自動車関係
諸税については、2050 年カーボンニュートラル目標の実
現に積極的に貢献するものとするとともに、
自動運転を始
めとする技術革新の必要性や保有から利用への変化、
モビ
リティーの多様化を受けた利用者の広がり等の自動車を
取り巻く環境変化の動向、
地域公共交通へのニーズの高ま
りや上記の環境変化にも対応するためのインフラの維持
管理や機能強化の必要性等を踏まえつつ、
国・地方を通じ
た財源を安定的に確保していくことを前提に、
受益と負担
の関係も含め、
その課税の在り方について、
中長期的な視
点に立って検討を行う」
こととされており、
将来的な検討
事項となっている。
(4)通商関係
CPTPP(TPP11)
、日EU・EPAといった大型
の経済連携協定の発効以降、
自動車業界によるEPA利用
率も徐々に向上し、
コロナ禍が起こるまでは自動車貿易に
対するさらなる貢献が期待されていた。しかしながら、
2019 年度末に世界的なコロナ禍が発生し、サプライチェ
ーンの寸断、
世界各地における生産・販売の激減に伴う貿
易の大幅な縮小を自動車業界にもたらした。
北米では、NAFTAの後継となるUSMCAが 2020
年7月に発効した。
USMCAは、
自動車の原産地規則の
強化などが盛り込まれており、
USMCAの特恵関税を適
用するために必要な域内原産割合
(RVC)
を完成車につ
いては段階的に 75%に引上げ、部品についても最終的に
は 65〜75%まで引上げると規定されている。今後日系メ
ーカーは同協定への対応、
北米におけるサプライチェーン
の見直しを加速していくと考えられる。
また、欧州では 2019 年末に欧州グリーンディールが発
表され、
EUはバッテリーを始め、
各種の環境アジェンダ
を強固に追求する姿勢を鮮明にしており、
環境規制に対応
できなければ、
単に関税を引下げるだけでは対EU貿易を
伸ばすことは難しくなっている。英国は 2019 年末にEU
を形式上離脱し、
その後1年間の移行期間内に同国が各国
と通商協定を整備できなければ、
特に英国に生産拠点を置
く自動車メーカーが大打撃を被る可能性があったが、2020年9月に、
EU離脱後の英国との間で日EU・EPAに代
わる新たな経済連携協定となる日英 EPA に大筋合意し、
2021 年1月に発効した。さらに、英国は 2020 年 12 月、
EUとの間で貿易協力協定に合意し、
EU・英国間の関税
設定といった日系企業の経済活動への影響は回避された。
中国を始めとした各地域においては、
コロナ禍によりサ
プライチェーンの問題が急浮上したことから、
各地の当局
の規制の確認や、同規制への企業の対応の支援を行った。
また、
引き続き電動化を志向する規制動向への対応が急務
となっている中で、アジア、ロシアなど新興国市場では、
日本の自動車産業が他国に劣後せずに事業展開が可能と
なるような通商政策の展開、
各国の自動車産業に対するイ
ンセンティブ付与の適正化を働きかけるような取組が求
められている。
以上のような諸地域の課題を踏まえ、2020 年度は各E
PAを着実に実施していくことに加え、EU委員会とは
2021 年3月に自動車政策対話を開催し、バッテリーを始
めとした環境アジェンダについて対話を継続していくこ
とを約束した。
また、
APEC自動車ダイアログや既存の
二国間政策対話の場を活用し、
我が国の自動車政策や我が
国自動車産業の現地産業への貢献を紹介したほか、
各国の
電動化政策等について確認を行った。
FTA交渉について
は、2020 年 11 月に妥結に至ったRCEP交渉の最終局面
の対応を行ったほか、
日コロンビアEPA交渉や既存EP
Aの見直し作業にも取り組んだ。(5)CASEの変化への対応、
カーボンニュートラル実
現に向けた取組
自動車産業は、
電動化の進展、
自動走行時代の到来など、
CASE(Connected、Automated、Shared & Service、
Electrified)と呼ばれる大変革の波に直面している。ま
た、世界的に、地球温暖化対策の強化が進んでおり、自動
車分野についても対応が求められている。
こうした変化をチャンスとし、
各国では、
政府による意
欲的な目標や政策支援、
民間企業による電動化、
自動化な
どに関する積極投資等が打ち出されている。
我が国におい
ても、2020 年3月から 12 月にかけて「モビリティの構造236変化と 2030 年以降に向けた自動車政策の方向性に関する
検討会」を開催し、日本と世界の自動車産業の現状及び
2030 年頃までのCASEを始めとした構造変化を踏まえ、
自動車産業の生き残りをかけた課題と産業政策の方向性、
モビリティ社会の変革の方向性について議論した。また、
2020 年 10 月に菅総理大臣から表明された
「2050 年カーボ
ンニュートラル」への挑戦を「経済と環境の好循環」につ
なげるための産業政策として、
2020 年 12 月に
「2050 年カ
ーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」
を策定した。
その中で、自動車分野については、「遅くとも 2030 年代
半ばまでに、乗用車新車販売で電動車 100%を実現できる
よう、包括的な措置を講じる」こととし、電動化の推進に
向け、燃費規制の活用等に取り組むとした。さらに、2021
年3月から
「カーボンニュートラルに向けた自動車政策検
討会」を開催し、2050 年カーボンニュートラル実現に向
けた課題の具体化を進めた。以下、分野毎に 2020 年度の
取組を概括する。
(ア)クリーンエネルギー自動車の導入促進
令和2年の 2050 年カーボンニュートラルの宣言を踏ま
え、
2035 年までに乗用車新車販売で電動車 100%を実現す
ることを新たなマイルストーンとして設定した。一方、
2020 年度の新車販売台数に占めるBEV、PHEV、F
CEVの割合は1%程度に留まっており、
目標達成に向け
ては、
燃費規制の活用や公共調達の推進、
充電インフラ拡
充、導入支援、買換え促進など、規制的手法とインセンテ
ィブ措置を両輪として取り組むことが重要である。
クリーンエネルギー自動車は、
導入初期段階にあり、コストが高いため普及が進まない等の課題を抱えている。このため、車両購入時の負担軽減による初期需要の創出と、
量産効果による価格低減を促進し、
世界に先駆けて国内の
自立的な市場を確立すべく、2020 年度予算事業として、
クリーンエネルギー自動車導入事業費(CEV)補助金
(135 億円)を実施した。
また、
BEVやPHEVの普及には充電インフラ整備も
不可欠である。そのため、経済産業省としては、充電設備
の購入費及び工事費の一部補助を通じて、
充電インフラを
計画的・効率的に整備するべく、2020 年度予算事業とし
て、充電インフラ整備促進事業(9億円)を実施した。具
体的には、1.長距離を移動する際の電欠防止を目的とし
た「経路充電」の充実(高速道路SA/PA、道の駅等)、2.移動先での滞在中の駐車時間に充電するための目的地
における
「目的地充電」
の充実
(商業施設、
宿泊施設等)、3.マンション駐車場及び事務所・工場等の従業員駐車場
等の充電設備(
「基礎充電」
)の充実を図り、充電器の面的
展開を進めていく。
また、
自動車の電動化や、
電力使用の平準化等に貢献す
る重要技術であるリチウムイオン電池等の蓄電技術に関
して、
BEV、
PHEVの普及を更に進めていくには航続
距離などの性能向上やコスト低減を実現する必要がある。
さらに、
蓄電池分野における国際的な競争も激化しており、
この分野における日本のトップランナーとしての地位が
脅かされている状況にある。
こうした状況を踏まえ、
産学連携による集中研究体制の
下、
蓄電池の研究開発を加速するための新たな蓄電池の解
析手法の開発と、
リチウムイオン電池の性能限界を大幅に
上回る革新型蓄電池の 2030 年頃の実用化に向けた基礎的
研究開発について、2020 年度予算事業として、革新型蓄
電池実用化のための基盤技術の開発事業(34 億円)を実
施した。
また、
電動車の普及における課題の1つとして、
電池の
劣化状況がわかりにくく、
中古車としての評価が低いこと
が挙げられる。このため、2020 年6月に車載用リチウム
イオン電池の残存性能を見える化するための標準的な方
法の基本的な考え方と事例を示す
「電池性能見える化ガイ
ドライン Ver1.0」を公表した。
さらに、自治体・各公共施設等のニーズを踏まえて、災
害時に電動車を電力供給源として活用することを促進す
るため、
外部給電機能や使用方法例・注意事項等を整理した「災害時における電動車の活用促進マニュアル」
を 2020
年7月に改訂・公表した。
同年9月には、
電動車が持つ
「環
境面での価値」
「モビリティとしての価値」
「エネルギー
インフラとしての価値」について、事業者・自治体のベス
トプラクティスをもとに、
具体的な活用シーン等を整理し
た「電動車活用促進ガイドブック」を公表した。237(イ)
自動走行システムを含む高度道路交通システム(ITS1
)の開発普及
「成長戦略実行計画 2020」
(2020 年7月 17 日)には、
2020 年を目途に公道での地域限定型の無人自動運転移動
サービスを実現できるよう重点地域での長期間の実証実
験を進め、
また、
日本版MaaSの推進や陸海空の様々な
モビリティの推進、
物流改革、
昨今の交通事故を踏まえた
安心安全な道路交通の実現について検討を進めることな
どが盛り込まれた。
また、
2015 年2月に設立した
「自動走
行ビジネス検討会」において議論を進め、
「自動走行の実
現に向けた取組方針」Version4.0(2020 年5月 12 日)を
国土交通省と取りまとめた。同取組方針では、(1)一般車
両の自動走行(レベル2,3,4)等の将来像の明確化、
(2)協調領域の特定、(3)国際的なルール(基準、標準)づ
くりに戦略的に対応する体制の整備、(4)産学連携の促進
に向けた議論を進めていく旨が盛り込まれた。
加えて、
関係省庁と連携し、
交通事故の削減や高齢者等
の移動手段の確保、
ドライバー不足の解消などの課題解決
に向けて、
2020 年度予算事業として、
高度な自動走行・M
aaS等の社会実装に向けた研究開発・実証事業
(50.0 億
円)を実施した。2020 年度は、当該事業において、トラッ
クの隊列走行や遠隔型自動走行システム等の高度な自動
走行について、
実用化に向けた技術開発及び実証実験を実
施するとともに、
高度な自動走行に関する社会受容性や事
業可能性、海外動向等についての調査を実施した。
(6)自動車リサイクル
2020 年8月 19 日に開催された産業構造審議会自動車リ
サイクルWG・中央環境審議会自動車リサイクル専門委員
会第 48 回合同会議において、2019 年度の自動車リサイク
ル法施行状況が報告された。
(ア)リサイクル率の達成状況
2019 年度は、
シュレッダーダスト
(ASR)
とエアバッ
グ類それぞれについて、
基準を大きく上回るリサイクル率
を達成した。1ITS(Intelligent Transport-Systems:高度道路交通
システム)とは、道路交通の安全性、輸送効率、快適性の
向上等を目的に、
最先端の情報通信技術等を用いて、
人と
基準 実績
ASR 50(2010 年度〜)
70(2015 年度〜)
95.6〜97.2
エアバッグ 85 94〜95
(イ)リサイクル料金の預託状況
これまで、
リサイクル料金は大きな混乱なく順調に預託
されている。2019 年度の預託台数及び預託金額はそれぞ
れ以下のとおり。
(数字は四捨五入しており、
「新車登録時」
と「引取時」を合わせた値が「合計」に一致しない場合が
ある。)新車登録時 引取時 合計
台数(万台) 504 4 508
金額(億円) 506 2 509
また、2020 年3月末の累計預託台数及び預託金額残高
は、それぞれ以下のとおり。
累計台数(万台) 預託残高(億円)
8,048 8,618
(ウ)自動車リサイクル制度の評価・検討
「自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関す
る報告書」
(2015 年9月)では、
「自動車リサイクル制度
は、
こうした状況変化に遅滞なく柔軟に対応し、
中長期的
に適切に機能するものである必要があり、そのためには、
今後とも定期的にフォローアップを行うとともに、
5年後
を目途に評価・検討を行うことが適当である。
」とされて
いる。これを受けて、2020 年8月の第 48 回から合同会議
を集中開催し、
自動車リサイクル法の施行状況に関する関
係者へのヒアリングや意見交換を通して制度の評価・検討
を開始した。
今回の検討では
「自動車リサイクル制度の安
定化・効率化」
「3Rの推進・質の向上」
「変化への対応と
発展的要素」
の3つの柱に沿って、
対応の方向性を議論し
た。
道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道
路交通システムの総称である。2382.7.航空機産業
(1)現状
我が国の航空機産業は、戦後7年間の空白期間を経て、
自衛隊が運用する輸入機の修理や米国等からのライセン
スに基づく国内生産、
国産機の開発・量産等の防衛航空機
分野の事業等を通じて技術を獲得、
向上してきた。
この間、
民間航空機分野については、戦後初の国産旅客機YS-11
の開発の後、主として、欧米メーカーとの機体構造、航空
機エンジンの国際共同開発への参加を通じ、
その事業規模
を拡大してきた。完成機事業については、2008 年にYS-
11 以来の約 50 年ぶりにMRJ(現:三菱スペースジェッ
ト)の開発が開始されたが、2020 年 10 月、開発活動の一
旦立ち止まりが発表された。
一方、防衛用の機体について、戦後、戦闘機の米国から
のライセンスに基づく製造や、
米国との国際共同開発、輸送機・哨戒機・救難機の国内開発・製造等が行われてきた。
2020 年現在、
将来戦闘機について、
国際協力を視野に、我が国主導の開発が着手されている。
航空機産業は、
広い裾野産業を持ち、
防衛用途の機体に
係る産業基盤が共用され、
航空機開発で開発、
適用された
最先端の技術が他の分野に波及する効果も期待される等、
我が国産業全体において重要な役割を果たしている。
現状、
新型コロナウイルス感染症の拡大により、
世界的
に航空需要は大打撃を受けているものの、2024 年には
2019 年と同水準まで回復し、その後、新興国等の経済成
長を背景に、
約3%/年程度の持続的な成長を遂げること
が見込まれている。
また、
今後は更にハブアンドスポーク
(拠点空港から放射状に目的地を結ぶ方式)
よりもポイン
トトゥポイント
(直接目的地間を結ぶ方式)
へ需要が推移
するとの見方もあり、
航空需要の在り方が変化する可能性
もある。
こうした航空分野の成長と並行して、
急速に脱炭素化の
要求が高まりつつある。
航空関連の国際機関では
「燃料効
率の毎年2%改善」、「2020 年以降総排出量を増加させな
い」
というグローバル目標を掲げており、
2027 年以降、当該目標を達成できなかった場合、
最大離陸重量 5,700kg 以
上の全ての国際線運行者は、
カーボンオフセット制度(CORSIA)
を利用することが義務づけられている。
目標
達成に向けては、
エアラインによる運航方式の改善、
機体
やエンジンの効率改良(新技術導入)
、持続可能な航空燃
料の導入の活用等を総動員することが必要であるとされ
ている。
(2)我が国航空機産業の強みと弱み
(ア)強み
機体・エンジンの主要部分品やシステムにおける我が国
メーカーの技術力は欧州、
米国完成機メーカーから高く評
価されており、
特に、
航空機の軽量化に重要な役割を果た
す炭素繊維複合材料関連技術は世界でもトップレベルに
ある。
航空機の経済性や環境性能に対する要求が強まる中
で、
近年の機体・エンジンの国際共同開発における我が国
メーカーの分担は、
その高い技術力を背景に拡大・高度化
している。我が国機体メーカーが機体構造の 35%を担当
しているB787 は、
機体の 50%に炭素繊維複合材を用いる
こと等により、機体重量を大幅に軽量化し、B767 に比べ
約 20%の燃費向上を実現させている。この炭素繊維複合
材の材料の炭素繊維は株式会社東レ株式会社独自のもの
で独占供給を行っている。
また、
世界的にカーボンニュートラルを目指す動きを市
場機会と捉えて、
前述した炭素繊維や水素等、
我が国の要
素技術の強みを最大限活用し、
航空分野の低炭素化に我が
国としても貢献していくことが重要である。
(イ)弱み
我が国航空機産業においては、民間機の全体を統合設
計・製造する技術の経験が十分ではない。また、マーケテ
ィングやプロダクト・サポート、巨額の開発資金・長期の
投資回収期間に対応したファイナンス・スキームなどの面
においても海外メーカーと比べると十分な経験を有して
いるとは言えない。
さらに、
同様に装備品分野においても、
Tier1レベルの
事業参加は内装品や降着装置等の一部に限られている。
(3)我が国航空機産業の展望と経済産業省の取組
(ア)我が国における完成機事業の実現
我が国航空機産業の更なる発展のためには、
設計・開発
から航空安全当局の型式認証、
国際的なサプライチェーン
管理、
販売後のプロダクト・サポートに至るまでの完成機
事業遂行能力を獲得することが重要である。2008 年3月
にはYS-11 以来約半世紀振りとなるMRJ((現:三菱ス239ペースジェット))が事業化された。2018 年7月には、イ
ギリスのファンボローエアショーにおいて、
デモフライト
が行われるとともに、2019 年3月には、国土交通省が当
局として必要な飛行試験を開始するなど、
開発は最終局面
となっている。2020 年現在、開発活動は一旦立ち止まっ
ているものの、
このプロジェクトを先駆とした国産ジェッ
ト旅客機の完成機事業は、
我が国航空機産業の発展に大き
く貢献することになると考えられる。
また、
防衛用航空機についても、
開発成果の多面的な活
用を検討しているところであり、
防衛省でも、
経済産業省
を始めとする関係府省との連携を強化していくこととし
ている。
(イ)装備品分野の参入拡大
これまで我が国企業の本格的な参入が進んでこなかっ
た装備品分野についても、
装備品が航空機の価値の大部分
を占めていることを踏まえ、
我が国航空機産業の発展のた
めには重要である。
我が国の装備品企業は、
これまで防衛用航空機向けに技
術を培ってきたものが多いが、
これらの技術を基礎に、民間航空機に参入できるよう、
参入機会の創出や技術レベル
の向上に向けた取組を進めていくことが重要である。
また、装備品の実証試験(環境試験)は多岐にわたり、
個社のみでの整備は困難であることから、
国内に公的機関
による実証試験
(環境試験)
拠点の整備を進めることが重
要である。2020 年度は、装備品メーカー、信州大学、国立
研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)
、自治
体(長野県、飯田市)等の関係者を集めた「装備品事業環
境整備課題検討WG」
を開催し、
実証試験のための環境試
験機器毎の導入スペックや運用体制について検討した。これを踏まえ、
飯田市等は地方創生交付金を活用し、
高周波
振動試験装置を導入した。
(ウ)国際共同開発
参入機会を拡大させるため、
海外との共同開発を推し進
めている。これまでに、フランス航空総局(DGAC)と
の共催により、
日仏間の民間航空機産業協力を目的とする
ワークショップを 2013 年より毎年開催。
2019 年9月には、
「第4回日エアバス民間航空機産業ワークショップ」
「第
1回日サフラン民間航空機産業ワークショップ」
を開催し
た。
また、
2019 年1月には、
経済産業省とボーイング社は
新たな技術分野(電動化、複合材、製造自動化)における
協力強化に合意し、
それを踏まえボーイング社と日本企業
間で技術協力に関する意見交換等を実施した。
国際共同開
発を通し、
日本企業と海外企業のマッチング支援等、
装備
品分野における参入機会の創出を行っている。
装備品分野における参入機会を拡大させるためには、材料関連技術など我が国が強みを有する技術を一層向上さ
せ、
国際共同開発において我が国が質・量ともに高い参画
を行うことも重要である。
国際共同開発については、
中大
型機分野においては引き続き欧米の完成機メーカーを中
心に進められていくと考えられる。近年、欧州、米国の完
成機メーカーにおいて、
自らは最終組立とマーケティング
に特化する一方で、
主翼・胴体などの部位については開発
から在庫管理に至るまでパートナー企業に分担させると
いうサプライチェーンの変革が進められている。
また、そうしたサプライチェーンの外延も新興国に拡大する動き
が見られる。
こうした中で、
我が国メーカーがこれまで以
上の参画を果たすためには、
材料関連技術など我が国が強
みを有する技術を一層向上させることが重要である。
また、
航空機エンジンについても、
各種機体の開発に伴
って幅広いサイズの開発・生産が国際共同事業として行わ
れている。2017 年から効率性・環境適合性の向上及び運
航費用低減を目指す次世代のギアード・ターボ・ファン次
世代中小型民間輸送機用エンジン
(次世代GTF)
の開発
を新たに開始したところであるが、
引き続き、
新たな技術
の吸収・発展を図ることが必要である。
(エ)
航空機部品分野のサプライチェーン強化と参入拡大
日本の航空機産業では、
世界的な航空機需要の高まりや
コスト競争の激化を受け、
国内サプライチェーンの強化や
参入拡大が重要となっている。しかし、航空機産業は、初
期投資が大きく、
高い生産管理能力や認証取得が求められ、
長期の供給責任を負うこととなる。
また、
サプライヤーで
ある中堅・中小企業には、これまでの単工程の生産から、
複数工程を一括して生産する一貫生産体制の構築が求め
られている。
このような中、2020 年現在、日本には航空機部品を一
括受注・一貫生産するグループや航空機産業への参入を目
指す研究会など、40 を超える航空機産業クラスターが活240動している。
こうした我が国の航空機産業クラスター等に
対して、独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)
や独立行政法人 中小企業基盤整備機構
(中小機構)
とも
連携し、経済産業省が、2017 年 12 月に日本航空宇宙工業
会(SJAC)に事務局を設置、構築した「全国航空機ク
ラスター・ネットワーク(NAMAC)」
を通して支援を実
施した。
具体的には、
コロナ禍における中小サプライヤー
等の事業継続、
今後の民間航空機需要回復を見据えた人材
確保等の支援に向けた、
出向受入れ企業の紹介や公的支援
制度の活用等の紹介、
情報発信等、
サプライチェーン維持・発展に取り組んでいる。
また、
大手重工がコロナ禍でのサ
プライチェーン支援の自主的取組として発表した「Wing
サポートアクション」(サプライヤーへの新規の仕事のあ
っせんや中小企業のキャッシュフロー改善等に向けた資
金繰り支援、デジタル化などの推進等)を後押しした。そ
の他にも、
各クラスター等の連携強化や育成支援を目指し
た「航空機中小サプライヤーの声を聞く会」の開催、
ポータ
ルサイトでの各企業等の情報提供、
NAMACセミナーに
よる先行事例の紹介などを行っている。
経済産業省では、2020 年 11 月クアラルンプール国際航
空宇宙商談会にて、
製造分野に力を入れているマレーシア
との関係を前に進めるため、
アフターコロナを見据え、特に中小サプライヤー支援を念頭に
「国際協力枠組」
に向け
た協力促進を表明した。2020 年現在、日マレーシア政府
間で民間航空機協力覚書締結に向けた準備を進めている。
また、2021 年1月には長坂経済産業副大臣・三原厚生
労働副大臣出席の下「航空機産業サプライチェーン対策関
係者協議会」を開催し、新型コロナウイルス感染症の難局
を乗り越えて将来の成長につなげていくため、
政府、
事業
者、地方自治体、関係機関が連携して、中小企業を含め航
空機産業のサプライチェーンを支えていく方針を確認し
た。
その他にも、
航空需要の増大等により製造技術者の不足
が見込まれることから、2017 年度の「非破壊検査員の育
成」
ワーキングを踏まえて設立された
「日本航空宇宙非破
壊試験委員会」
の下、
例年に引き続き兵庫県での継続的な
訓練講座が実施された。また、
(一社)日本非破壊検査協
会が試験機関として名乗りをあげ、
同委員会が承認したこ
とを受け、2019 年 12 月に同協会による国内初の試験が実
施された。
構築した非破壊検査技術者育成体制の下、2019・
2020 年度で計7名が試験に合格している。
図:地域別 航空旅客需要予測結果
出典:
(一財)日本航空機開発協会(2020)
図:航空機生産額の推移(年度)
出典:
(一社)日本航空宇宙工業会(2019)
2.8.宇宙産業
(1)現状と課題
宇宙産業は、世界的な成長産業であり、近年、衛星から
得られるデータの「質」と「量」が大幅に向上するととも
に、
AI等の解析技術が進展することで、
新たな宇宙産業
の可能性が広がりつつある。
また、
衛星から得られたデー
タを地上から得られるデータと組み合わせ、
ビッグデータ
の一部として解析することで、
様々な課題解決につながる
ソリューションサービスを提供する可能性を秘めている。
一方で、我が国の宇宙機器産業の売上高は 3,285 億円
(2019 年)と横ばいで推移しており、売上げの多くが官需
依存(約7割(2018 年))のため、需要拡大が不十分である
こと、
企業の研究開発投資が不十分であること、
海外市場
での競争力が不十分であることといった複合要因による
負の連鎖が生じている。241そこで、宇宙分野以外、例えば農業・安全保障・防災・
インフラ・金融等の多様な分野において、
衛星データを活
用したユースケース創出を促進することで、
宇宙産業の裾
野を拡大し、
これが民需ベースでの新たな宇宙機器開発需
要の拡大につながる流れを作り出していくために、
宇宙機
器産業と宇宙をインフラとして活用する利用産業を両輪
として推進し、
宇宙産業の拡大及び国際競争力強化に向け
て取り組んでいく。
(2)現状を踏まえた検討・主な実行施策
経済産業省では、宇宙基本法、宇宙基本計画及び 2017
年5月に取りまとめられた「宇宙産業ビジョン 2030」を
踏まえ、日本経済の活性化・成長に向けて、宇宙利用産業
も含めた宇宙産業全体の市場規模
(現在 1.1 兆円)
の 2030
年代早期の倍増を目指して、
その実現に向けた取組を進め
る。
個々のプロジェクトについては以下のとおりである。
(ア)宇宙を利用した新たなビジネス創出
1政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用
環境整備に向けた取組
経済産業省では、2018 年度より、地球観測衛星データ
や、
AIや画像解析用のソフトウェア等が原則無償で活用
可能なデータプラットフォーム「Tellus(テルース)
」の
開発・整備を開始しており、
2020 年2月には、
データやア
プリケーション等を Tellus 上で売買できる「Tellus
Market」の機能の追加を含めた Tellus Ver.2.0 をリリー
スした。また、衛星データ分析トレーニングイベント
「Tellus Satellite Bootcamp」を東京及び大阪で開催し
た他、衛星データの解析方法等を学べる e-learning 教材
として「Tellus Trainer」を配信した。さらに、衛星画像
を用いた海氷領域の検出をテーマにした衛星データ分析
コンテスト「Tellus Satellite Challenge」を実施した。
2宇宙状況把握に関する取組
近年、
衛星データビジネスの進展等を背景として、
人工
衛星の小型化・低コスト化等に伴い人工衛星の打上げが急
増する中、宇宙空間にスペースデブリ(宇宙ゴミ)が増加
しており、安全保障分野、民生分野を問わず、衛星との衝
突等のリスクが高まっている。
このため、
衛星やデブリの
位置や軌道を観測して分析し、
軌道予測や衝突回避等を行
うために不可欠な宇宙状況把握
(SSA)
が世界的に注目
を集めている。
また、
衛星やデブリの軌道予測や接近予測
等のサービスを民間事業者に提供するプラットフォーム
ビジネスを目指す動きが世界で活発化している。そこで、
2020 年度は、民間事業者等が活用可能なSSAサービス
を提供するためのプラットフォームについて、
プラットフ
ォームが行うべき機能やそのために必要なデータ、
技術的
成立性等に関する調査を実施した。
3宇宙産業分野における人的基盤強化に向けた取組
第四次産業革命等の急激な環境変化の中、
宇宙産業でも、
技術革新や新規参入企業等の増加等を背景に宇宙由来の
データの質・量が抜本的に向上しているため、
人的基盤を
強化していく必要がある。
そこで、
人材政策全般の議論とも連動しつつ、
宇宙産業
の人材の実態を踏まえた具体策の検討を行うため、2018
年に取りまとめた
「宇宙産業分野における人的基盤強化の
ための検討会」の報告書を踏まえ、2019 年 12 月より宇宙
ビジネス専門人材プラットフォーム
「S-Expert」
を運用中。
2020 年6月〜8月にかけて、宇宙分野で働くイメージを
持ってもらうことと本プラットフォーム活用につなげる
ことを目的としたイベント「Space Career Forum 2020〜
VIRTUAL〜」を国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構
(JAXA)と共同開催した。
(イ)宇宙用部品・コンポーネントの開発支援
経済産業省では、
民生部品を活用した競争力のある小型
衛星、小型ロケットの開発支援を行っている。近年、小型
衛星を大量に打ち上げて一体的に運用するコンステレー
ションビジネスが進展していることから、2018 年5月に
公表した
「コンステレーションビジネス時代の到来を見据
えた小型衛星・小型ロケットの技術戦略に関する研究会」
の取りまとめ報告書に基づき、2019 年度に部品・コンポ
ーネントの軌道上実証の支援制度を開始し、2020 年度も
引き続き小型ロケット関連技術の研究開発の支援を行っ
た。
(ウ)宇宙太陽光発電システム
宇宙太陽光発電システム
(SSPS:Space Solar Power242System)
は、
宇宙空間において太陽エネルギーで発電した
電力をマイクロ波などに変換して地上へ伝送し、
地上で電
力に変換して利用する将来の新エネルギーシステムであ
る。太陽光発電は、エネルギーの安定供給の確保、地球環
境問題への対応の観点から導入が進められているが、
昼夜
や天候に左右されずに発電可能なSSPSは、
将来の革新
的なエネルギーとして期待されている。
経済産業省では、
このSSPSの実現に向け、
発電と送
電を一つのパネルで行う発送電一体型パネルの開発やマ
イクロ波による無線送電効率の改善等の研究開発を進め
ている。
(エ)HISUI(ヒスイ)プロジェクト
我が国はエネルギーや鉱物資源が乏しく、
資源の大部分
を海外に依存している。
資源の安定供給の確保を図るため
には、
積極的な資源確保政策が重要であり、
海外諸地域の
石油等のデータ取得を効率的に行うリモートセンシング
がますます重要となっている。
経済産業省は、2007 年度より、資源探査用将来型センサ(ASTER)
よりも地表面にある物質の波長を詳細に
識別することができ、
資源探査・開発能力を向上させたハ
イパースペクトルセンサの開発
(HISUIプロジェクト)
を推進している。
2019 年 12 月、
開発したセンサを打上げ、
国際宇宙ステーションの
「きぼう」
日本実験棟の船外プラ
ットフォームに設置し、2020 年9月より、観測を開始し
ている。
(オ)日本企業の国際展開支援
ベトナムにおける円借款による宇宙プロジェクトにつ
き、2019 年 10 月に衛星製造等にかかる事業者間の契約の
署名が行われ、それに基づき 2020 年4月に衛星事業者が
衛星の開発・製造・打上サービス調達、衛星開発プロセス
に関する現地人材プログラム等を一括受注した。
2.9.水ビジネス・プラント・エンジニアリング産業
(1)水ビジネス
(ア)水ビジネスの現状と課題
日本の水関連産業は優れた水処理機器や技術力に強み
を有し、
近年、
海外事業運営に参画する動きが一部見られ
るものの、その事業領域は部材・部品・機器製造、建設分
野に止まっている。また、日本は上下水道施設の運営・管
理事業が長らく公営企業として自治体により実施されて
きた背景から、
その技術・ノウハウが民間企業に移転され
ておらず、
水事業のバリューチェーンで最も大きなウエイ
トを占める運営・維持管理サービス分野に十分関与するこ
とができていない。
水ビジネスの海外展開にあたっては、
日本が強みをもつ
技術優位分野における相手国ニーズの丁寧なセグメント
化・見極めが十分なされているとは言えず、
技術優位があ
る分野においても機器だけの販売で稼ぐことには限界が
ある。
また、
IoTを活用した漏水管理等の新たな技術に
より、
市場構造が変わる可能性もある。
優れた技術を握る
だけでなく、
相手国ニーズに合わせた機器売り以外の分野
も含め、
どのように海外市場に参入していくかが大きな課
題となる。
(イ)水ビジネス国際展開
水ビジネスの国際展開については、2010 年4月に取り
まとめた報告書
「水ビジネスの国際展開に向けた課題と具
体的方策」
に基づき、
経済産業省として海外展開を推進し
てきた。この報告書の取りまとめから 10 年後、世界市場
における競争環境の変化等を踏まえ、
改めて今後の中長期
的視点で、
いかにして日本の水ビジネス企業等による質の
高い水インフラの展開をさらに実現していくかを検討す
るため、2020 年度に「水ビジネス海外展開施策の 10 年の
振り返りと今後の展開の方向性に関する調査」
を実施した。
(A)日本の水関連産業が優先して取り組むべき事業分野
世界の水ビジネス市場は、今後、上水(供給)
、造水、
工業用水、再生水、下水(処理)等の各分野に対するニー
ズの拡大に伴い、2030 年には 110 兆円規模の潜在的な市
場が存在するものと見込まれている。
しかし、
世界市場に
おける日本企業の占有率は、0.48%(2019 年度)に止ま
る。市場の太宗は、伝統的な水処理技術(技術による差別
化が困難)
による上下水道分野であり、
新興国の大規模水
ビジネス企業が台頭する一方で、
日本では大規模プレーヤ
ーが育っておらず、
日本企業による上下水分野の案件獲得
は限定的である。
これに対し、
海水淡水化など市場全体に
占めるシェアは小さいが、
市場の成長が著しく、
日本の水
関連産業の優位な水循環技術の活用ができる分野もある。
分野や市場、対象国・地域をより明確化した需要開拓・案243件形成が必要となっている。
分野・市場の明確化の例
上水 漏水管理 先進国
下水
汚泥焼却
(長距離)推進工法
再生水
エネルギー不足国
都市部
水源の乏しい国
産業用水 超純水造水 ハイテク工業団地
産業用排水 再生水
水源の乏しい地域
の工業団地
海水淡水化
大規模省エネ・省コスト
プラント
水不足・高所得国
なお、
内閣官房が
「インフラシステム輸出戦略
(平成 30
年度改訂版)
」に基づき、水分野の海外展開戦略を取りま
とめることとなり、
これを受け経済産業省は、
関係各省と
連携協力して「海外展開戦略(水)
」を策定し、2018 年7
月に公表した。
(B)日本の水関連産業の課題と対応策
日本の企業には十分な水事業の運営・管理の経験がない
ことから、海外における入札事前資格審査を通過できず、
結果として運営・管理の実績を積む機会が得られないとい
う課題がある。
このため、
入札事前資格審査を満たす海外
企業とのジョイントベンチャー設立や海外企業の買収等
を通じて海外市場に参入し、
日本の企業に運営・管理の実
績を段階的に蓄積させた上で、
運営・管理を含む事業を行
う企業を創出していくことが引き続き重要である。また、
企業と自治体との連携という方法もあるが、
海外での事業
参画・運営までできる自治体は限られる。そこで、自治体
による直接の事業参画・運営でなくとも、
海外と日本の自
治体間の協力を通じた案件形成支援、
設計等のノウハウ提
供によるパッケージ化の支援が重要となる。
(C)日本の水関連産業に求められる企業戦略
日本の水関連企業は、
海水淡水化に用いる水処理膜など
優れた水処理機器・技術を有しているが、
新興国企業との
過酷な価格競争に晒されており、
世界市場において優位な
地位を維持し続けるには限界が生じている。
このため、優れた技術を握るのみならず、
相手国ニーズに応えた技術開
発、
ビジネス展開の取組を積極的に進めることが重要であ
る。また、機器売りのみならず、ニーズに合わせた計画策
定や運営・管理も含めたパッケージでの展開により、
付加
価値向上を追求すべきである。その際には、必要に応じ、
ローテク市場を獲得した上でハイテク市場へ拡大する中
長期戦略的アプローチも必要となる。
(D)環境整備・国の支援
前述の取組を支えるものとして、
以下の環境整備・国の
支援を行う。
1 市場の拡大あるいは運営・管理付案件の組成のため
の「質の高いインフラ」の評価手法の普及・案件形成2 運営・管理案件や漏水管理等の新たな技術・サービ
スにおける現地人材育成支援
3 パッケージ化を促進するODA案件の組成
4 M&AやPPP案件のためのファイナンス支援の強化5 水ビジネスの現状を把握するための継続的なデータ
整備及び市場実態把握
(ウ)海外展開支援の取組
2020 年度は前述の「水ビジネスの今後の海外展開の方
向性」及び水分野の海外展開戦略に基づき取組を進めた。
具体的には、
新型コロナ禍に対応し、
オンラインによる実
施をベースとしたトップセールスや政府間対話のほか、事業実施可能性調査、
実証事業など様々な政策ツールの活用
や、
地方公共団体のノウハウや実績、
現地自治体との信頼
関係を生かした案件形成の支援等により、
我が国企業の技
術の海外展開や個別案件の受注に向けた支援を行った。
2019 年6月には、官民プラットフォーム「水インフラ国
際展開タスクフォース」を設置し、2019 年度はミャンマ
ーへのミッション派遣、2020 年度はベトナム、インドネ
シアを対象としてオンラインベースによる現地政府要人
セミナー・ビジネス商談会を実施した。
さらに、
2020 年度
も質の高いインフラの海外展開に向けた事業実施可能性
調査事業等を通じ、
個別の具体的な案件組成の支援を行っ
た。
(2)プラント・エンジニアリング産業
(ア)概要
プラント・エンジニアリング産業は、多数の部品、装置
などが総合したシステムを構築し供給する産業であり、社244
会インフラの整備及び各種産業の設備の供給を通じて、国の経済社会活動の根幹を担う基盤的産業である。
事業の性
格上、製造、資金調達、運営など多様な機能を統合するこ
とが求められることから、
幅広い業態の事業者から構成さ
れている。
主要な事業者としては、
専業エンジニアリング
事業者、
製造企業系列エンジニアリング事業者のほか、重電、重機、重工、電機、鉄道車両、化学、鉄鋼、情報通信、
生活・環境などの分野の各種プラントメーカー、
機器製造
事業者及び商社が挙げられる。
(イ)海外展開
プラント・エンジニアリング産業は、
製品とサービスが
融合する産業で、
成熟した産業構造を有する日本が強みを
発揮しうる分野であり、
ポテンシャルの大きな海外市場へ
の展開の促進を図っている。
このため、
資材価格の高騰、
人材確保難等によるプロジ
ェクト・リスクの拡大に対処し、
高い基礎技術力や信頼性
などの強みを活かすためには、上流(案件発掘、基本設計
等)及び下流(オペレーション&メンテナンス等)への展
開あるいは事業主体側への出資参加などを含めた事業形
態の深化と事業分野の拡大及びそれに必要な企業連携の
促進を図ることが重要である。
また、
これらのプラントが相手国の重要社会経済インフ
ラであることや本産業の競争力は経験工学的要素に負う
ところが多いことを踏まえ、
積極的に個別案件の受注支援
を行うべく、経済産業省としては、円借款、輸出信用、貿
易保険等の政策ツールの活用によるワンストップサービ
スの提供や案件発掘・形成、
トップセールスや相手国との
政府間での交渉等を通じた積極的な支援を行っている。
(ウ)海外成約実績
2020 年度の海外プラント・エンジニアリング成約実績
総額は、191.1 億ドル(前年度比 189.1%増)
、成約件数は
276 件(前年度比 17.1%減)と、成約件数は 2019 年度を
さらに下回ったが、
成約額では3倍近い金額となり、
過去
最大であった 2014 年度以降では最も高くなった「参照:
図 海外プラント・エンジニアリング地域別成約実績の推
移」。地域別では、シェアの大きい順に、中東、アジア、アフ
リカとなり、この3地域で全体の 90.7%を占めた。中南
米を除き、
全地域で前年度よりも増加しており、
特に中東
では大型案件の受注もあり伸びが著しい。
機種別では、
シェアの大きい順に、
エネルギープラント、
交通インフラ、
発電プラントとなり、
この3機種で全体の
図:海外プラント・エンジニアリング地域別成約実績の推移
出典:日本機械輸出組合24586.3%を占めた。
発電プラントと鉄鋼プラントを除く、全ての機種で前年度よりも増加しているが、
エネルギープラ
ントの伸びが特に著しい。
発電プラントは石炭火力関係設
備の成約が低調となっている。
(エ)日本のプラント・エンジニアリング産業の展望と課題
(A)世界市場の展望
原油価格の高騰や天然ガスの需要拡大を背景とした石油・
天然ガスプラント需要及びアジアを中心とする新興国
におけるインフラ需要等が好調であったことから、
世界の
インフラ市場の拡大は 2003 年頃から 2014 年頃まで続い
てきた。
その後、
世界的な金融不安や原油価格の低下等の
要因により、2015 年以降、世界のインフラ需要は停滞し
ていたが、2017 年には再び増加に転じ、拡大基調であっ
た。
しかし、
2019 年以降、
新型コロナウイルス感染拡大の
影響が長期化し、
世界情勢の不確実性が増す中、
業界各社
は行き先不透明な状況。
(B)今後の競争力強化に向けた対応
日本のプラント・エンジニアリング産業が厳しい国際競
争環境の中で今後発展していくためには、案件発掘、F/
S(事業可能性調査)
、基本設計などの上流の業務につい
て、
各企業レベルにおける法務・金融・コンサルティング・
リスク管理能力の強化とトップセールス等政策支援を組
み合わせた受注の増加を目指す必要がある。
併せて、
従来、
エンジニアリング業界の特に専業企業においては設計(E)、調達(P)
、建設(C)の業務の受注や、エネルギ
ープラントを中心としたオイル&ガス部門の受注が主で
あった。
しかし、
エネルギー価格の変動等によって案件組
成が大きく左右されることに加え、
過去にはプロジェクト
遅延や人材不足による人件費増等により巨額損失を計上
した事例もあり、不安定な収益構造の一因となっている。
このため、
エンジニアリング業界においては、
EPC業務
やオイル&ガス部門への偏重からの脱却が経営上の課題
となっている。例えば、プラントの運営・保守等下流業務
への展開による事業形態の深化や、
気候変動問題の世界的
な気運の高まりによる脱炭素化社会への取組み、
AIやI
oTを活用したプラントの運転や保守点検の提案といっ
たデジタル変革への対応が求められている。
3.化学物質管理
3.1.化学物質管理
化学物質は産業活動や国民生活に幅広く利用される一
方、
何らかの有害性を有するものが少なくない。
したがっ
て、化学物質の特性、有害性を把握し、そのライフサイク
ルにわたって、人及び動植物等に対するリスクを評価し、
そのリスク評価に応じて適切に管理する必要がある。
この
ため、2002 年9月の持続可能な開発に関する世界サミッ
ト(WSSD)で合意された「透明性のある科学的根拠に
基づくリスク評価・管理の手法を用いて、2020 年までに
化学物質が人の健康と環境にもたらす悪影響を最小化す
る」
という目標
(WSSD2020 年目標)
の達成に向けて、
化学物質を取り扱う事業者等が、
化学物質のライフサイク
ルの各段階で最も効果的かつ効率的に化学物質の管理を
行うことができるよう、
法的枠組の整備や自主的な取組の
促進を図るとともに、
その基礎となる科学的知見の充実を
図ってきた。
また、
化学物質管理に関する国際的な取組の
状況を踏まえ、
国際機関における活動への貢献、
条約等の
国際合意の実施等を着実に推進している。(1)「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」(ア)化審法の概要
化審法においては、
新規化学物質の審査に加えて、
上市
されている化学物質を対象としたリスク評価を行ってい
る。
現在の化審法は大きく3つの制度から構成されている。
「参照:図1」
1点目は、
「上市前の新規化学物質に関する審査」であ
る。
これは、
新規化学物質を我が国で製造又は輸入しよう
とする者にあらかじめ、
経済産業大臣、
厚生労働大臣及び
環境大臣に対して届出を行い、
その性状等に関する審査を
受けることを求める制度(事前審査制度)である。なお、
国内での1年間の製造・輸入予定数量が少なく、
リスクの
懸念がない場合に事前確認のみで製造・輸入ができる等の
審査特例制度が設けられている。
2点目は、
「上市後の化学物質の継続的な管理措置」で
ある。我が国で製造・輸入されている化学物質について、
国が製造・輸入数量と用途別出荷数量を把握し、
それを基
に環境への排出量を推計した上で、
環境において相当程度246残留しているかという暴露の視点と、有害性の視点から、
リスク評価を優先的に行う物質を
「優先評価化学物質」として絞り込み、順次リスク評価を行っている。この際、国
は、
自ら保有する情報と、
事業者から提出された情報を活
用するとともに、
必要に応じ、
事業者に対して有害性に関
する試験の実施等を求めることができるとされている。
3点目は、
「化学物質の性状等
(分解性、
蓄積性、
毒性、
環境中での残留状況)に応じた規制措置」である。一つに
は、
難分解性かつ高蓄積性であり、
人又は高次捕食動物へ
の長期毒性がある化学物質は、
第一種特定化学物質に指定
され、必要不可欠な用途向けを除き、その製造・輸入が禁
止される制度がある。2つには、低蓄積性であり、リスク
評価の結果、
相当広範な地域の環境においてリスクがある
と判断された化学物質は、
第二種特定化学物質に指定され、
国が製造・輸入数量の調整や使用について技術上の指針を
定めるなど、
事業者に環境への排出量の削減に向けた対策
を求めることとしている制度がある。
なお、化審法の施行は、経済産業省、厚生労働省及び環
境省の3省が共同で行っている。
(イ)2017 年改正の概要
近年、
我が国の化学産業が少量多品種の機能性化学物質
の生産に移行していることを踏まえ、
化学物質による環境
汚染をより適切に防止するための見直しを行い、
1新規化
学物質の審査特例制度
(少量新規化学物質及び低生産量新
規化学物質の確認制度)
における国内の総量規制について、
従来の製造・輸入数量に代わり環境に対する影響を勘案し
て算出する総量(環境排出量)に基づき管理をすること、
2一般化学物質のうち毒性が強い化学物質に係る管理の
強化を図ること等の所要の措置を講じるための化審法改
正を行った。
(改正法は、2017 年5月 30 日成立、同年6
月7日公布、
1は 2019 年1月1日施行、
2は 2018 年4月
1日施行)
(ウ)新規化学物質の事前審査制度の運用「参照:図2」
新規化学物質の審査特例制度に係る前述の 2017 年化審
法改正では、
環境排出量の算出のための環境排出係数を定
めた(2018 年9月 14 日告示、2019 年1月1日施行)ほ
か、
電子申出の推進及び申出手続の利便性向上を図るため、
申出方法の拡充、
電子申出の本人確認方法の簡素化や年間247受付回数の増加等を行い、2019 年1月から運用を開始し
た。
2020 年度においても、新規化学物質の事前審査制度
(431 件)、少量新規化学物質の確認制度
(26,977 件)
や、
中間物等の特定用途向け新規化学物質の確認制度(121件)、少量中間物の確認制度(86 件)について着実に実施
した。
(特に少量新規化学物質に関しては、今般の制度改
正に伴い、
総申出件数が制度改正直前の 2018 年度
(36,254
件)から約 25%減少する一方、電子申出の利用率が8割
を超えて大幅に増加した。)(エ)既存化学物質のリスク評価の全体像「参照:図3」
化学物質の「有害性」に加え、
「環境排出量(暴露量)」も考慮した
「リスク」
の観点で評価を行っており、
2020 年
度も着実に評価を実施した。
この、
リスク評価に基づき化
学物質の管理を行うことのメリットとしては、
取扱いや使
用方法の改善など、
暴露量を制御・管理してリスクの懸念
をなくすことにより、
種々の化学物質の利用が可能となる
ことや、
強い有害性を示す化学物質についても、
厳しい暴
露管理を行うことで利用が可能となること等が挙げられ
る。
現在の化審法におけるリスク評価のプロセスは、
リスク
がないとは言えない化学物質を絞り込み優先評価化学物
質に指定する「スクリーニング評価」と、指定された優先
評価化学物質について段階的にリスク懸念の程度を評価
する「リスク評価」との2つから構成されている。
まず、スクリーニング評価においては、人又は生活環境
動植物への長期毒性という有害性の観点と、
製造・輸入量
等に基づく環境における残留の程度という暴露の観点か
ら、
人又は生活環境動植物へのリスクがないとは判断でき
ないものが絞り込まれ、優先評価化学物質に指定される。
優先評価化学物質に指定された化学物質については、
環境
モニタリングなど各種のデータを活用して精緻な暴露量
の推計を行うとともに、
有害性情報の充実を図り、
精緻な
リスク評価が行われる。
評価の結果、
リスクがあると判断
された場合には、
第二種特定化学物質に指定されることと
なる。
また、化学物質の同定に資する情報の収集を可能にし、
スクリーニング評価とリスク評価を加速化させるため、前述の 2017 年化審法改正により、一般化学物質及び優先評
価化学物質について、
製造・輸入数量等の届出様式を変更
し、製造・輸入されている化学物質の構造・組成をより明
確に把握できるようにした。
(2018 年8月 31 日公布、2019年4月1日施行)。248
(オ)スクリーニング評価、リスク評価について
2019 年度実績について、2020 年4月から7月の届出期
間に、1,300 社を超える事業者から、3万件超の届出が提
出された。
また、2020 年度のスクリーニング評価では(2020 年 11
月及び 2021 年1月)、優先評価化学物質は新たに6物質を
追加することとした。
2020 年度には、
5物質についてリスク評価
(一次)
評価
IIを行った。また、リスク評価Iを実施し、新たに5物質
についてリスク評価
(一次)
評価IIに着手することとなっ
た。
(カ) 第一種特定化学物質及び第二種特定化学物質の規
制並びに監視化学物質に関する措置
2020 年度においても、第一種特定化学物質(33 物質)
及び第二種特定化学物質(23 物質)に関する規制並びに
監視化学物質
(38 物質)
に関する措置を着実に実施した。
また、ストックホルム条約にて附属書A(廃絶)に追加
することが決定されたジコホル、
ペルフルオロオクタン酸
(PFOA)
とその塩及びPFOA関連物質の第一種特定
化学物質への指定を着実に進めている。
(キ) 化学物質の分解性及び蓄積性に係る総合的評価(ウェイトオブエビデンス(WoE)
)の導入に向けた検討
近年、欧米では、化学物質の性状評価において、様々な
利用可能なデータを活用して総合的に評価する手法
(ウェ
イトオブエビデンス
(WoE))等が活用され始めている。
単一の試験結果に依存せず、
多様なデータを活用すること
で、
実環境での挙動により近い評価が可能になると期待さ
れている。
我が国でも、
化審法における分解性及び蓄積性の評価に
おいて、
化学物質の化学構造から分解性及び濃縮性の定性
的、定量的な推計を行う手法(QSAR)により得られる
推計結果を含む多様なデータを活用した総合的評価手法
の導入に向けた検討を開始している。(2)「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理
の改善の促進に関する法律(化管法)」事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、
環境保全上の支障を未然に防止することを目的として、特定の化学物質の環境への排出量等を把握するための措置
を行う制度
(PRTR制度)
及び事業者による特定の化学
物質の性状及び取扱いに関する情報の提供についての措
置を行う制度(SDS制度)を講ずるため、
「化管法」が
1999 年7月に公布された。
PRTR制度においては、
対象となる 462 の第一種指定
化学物質の年間取扱量が1トン以上
(特定第一種指定化学
物質の場合は 0.5 トン以上)
の事業者に対して、
排出量等249の把握・届出を義務づけており、2020 年に届け出られた
2019 年度の排出量等は、全国 33,318 事業所から 384 千ト
ンであった。
SDS制度では、
対象となる第一種及び第二種指定化学
物質等の取扱事業者に対して、
安全データシート
(SDS)
の提供を義務づけており、
その記載項目は国連が主導して
いるGHS(Globally Harmonized System of Classifi-
cation and Labelling of Chemicals:化学品の分類及び
表示に関する世界調和システム)
に対応すべく省令にて規
定している。
化管法見直し時期を迎え、2019 年に産業構造審議会と
中央環境審議会の合同審議会において、
これまでの答申の
内容や化管法を取り巻く種々の情勢の変化を踏まえつつ、
化管法の課題や見直しの必要性及び方針等について検討
を行い、2019 年6月に「産業構造審議会製造産業分科会
化学物質政策小委員会制度構築ワーキンググループ、
中央
環境審議会環境保健部会化学物質対策小委員会合同会合
取りまとめ」を公表した。これを受け、2019 年 12 月より
薬事・食品衛生審議会、化学物質審議会、中央環境審議会
の合同審議会において、
化管法対象物質の見直しに関する
審議を行い、2020 年8月に「特定化学物質の環境への排
出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律(平成
11 年法律第 86 号)第2条第2項に規定する第一種指定化
学物質及び第2条第3項に規定する第二種指定化学物質
の指定について(答申)
」を取りまとめた。
(3)科学的知見の充実と新たな課題への対応
(ア) 毒性関連ビッグデータを用いた人工知能による毒
性予測手法の開発(AI-SHIPS研究開発事業)
機能性化学物質は、
IoTに密接に関わる高性能電池や
次世代半導体等のイノベーションの源泉であり、
優れた機
能性を有する化学物質をいかに迅速に、
効率的に開発する
かが我が国産業の競争力強化に向けた課題である。
一方、
機能性と毒性は不可分であり、
機能性化学物質の
開発段階から安全性を効率的に評価していく必要がある。
近年、欧米では、動物愛護の観点から、欧米では動物を使
った従来の毒性試験に替わる試験
(インビトロ試験及びイ
ンシリコ手法)の開発が行われている。
このため、2017 年度から5年間の計画で、人工知能技
術や毒性学等の最新の研究成果を活用し、
高精度な有害性
予測手法の研究開発を開始し、肝毒性、腎毒性、血液毒性
について予測モデルを構築した「参照:図4」
。また、こ
れらの予測モデルを統合した毒性予測システムを開発す
るとともに、その機能向上を図っている。
図4 AI-SHIPS研究開発事業
(イ)ナノ材料の安全性
ナノマテリアルの事業者における安全対策について、安全性に関する科学的知見、
自主管理による安全対策の実施
状況等について、
積極的に情報収集及び発信を行うナノマ
テリアル情報収集・発信プログラムを 2010 年より実施し
ており、
結果を経済産業省ホームページで毎年公表してい
る。
また、2006 年にOECD化学品委員会の下に設置され
た工業ナノ材料作業部会(WPMN)において、日本は副
議長を務めるなど、
工業ナノ材料にかかる安全性評価に関
する国際協調活動に積極的に参加している。
(ウ)化学物質管理の促進・人材育成
化学物質管理分野における人材を将来にわたり確保し
ていくため、
化学物質管理に係る専門知識や政策について
も知見を持つ人材の育成を目的として、
大学等を活用した
調査研究を行っている。2020 年度は化審法及び化管法に
係る諸課題の解決に向けた調査研究として、
4事業を実施
した。
(4)国際的協調による対応
(ア)WSSD2020 年目標の達成状況の評価と 2020 年以
降の適正な化学物質管理及び廃棄物管理に向けた検討250WSSD2020 年目標の達成のため、第1回国際化学物
質管理会議(ICCM1、2006 年2月にUAEドバイに
て開催)では、
「ドバイ宣言」、「包括的戦略方針」及び「世
界行動計画」
から成る
「国際的な化学物質管理のための戦
略的アプローチ」(SAICM:Strategic Approach to
International Chemicals Management、サイカム)が採択
され、その実施の進捗を点検し、かつ、新たな政策課題を
検討するために、
3年おきに国際化学物質管理会議が開催
されることとされた。
第4回国際化学物質管理会議(ICCM4、2015 年9月にスイス・ジュネーブにて開催)で
は、次回第5回国際化学物質管理会議(ICCM5、コロ
ナ禍により 2022 年以降に延期)までの期間中に、WSS
D2020 年目標の達成状況の評価と 2020 年以降の適正な化
学物質管理及び廃棄物管理に向けた検討の取組
(会期間プ
ロセス)を行うこととされた。
この会期間プロセスでは、第1回会期間会合(2017 年
2月ブラジル・ブラジリアにて開催)
、第2回会期間会合
(2018 年3月スウェーデン・ストックホルムにて開催)、第3回会期間会合
(2019 年9月タイ・バンコクにて開催)
及びこれらに付随する地域会合が開催されたほか、
第3回
進捗報告書(アンケートの対象年次:2014-2016 年)をフ
ォローするため、
第4回進捗報告書
(アンケートの対象年
次:2017-2019 年)の取りまとめ作業が行われた。第4回
会期間会合が 2020 年3月に予定されていたが、コロナ禍
により延期となったため、2020 年 10 月から 2021 年2月
にかけてオンラインで 2020 年以降の枠組みに関する戦略
的目標やガバナンス等について議論が行われた。
また、併せてハイレベル宣言案の検討が 2020 年 10 月より継続し
て行われている。
(イ)化学品の分類及び表示に関する世界調和システム
(GHS)
GHSとは、
化学物質の危険有害性の分類基準を国際的
に統一し、
その分類に応じて国際的に調和された適切なラ
ベル表示とSDSによる危険有害性情報の伝達を目指す
制度で、国連の経済社会理事会(ECOSOC)の下にG
HS小委員会が設置され毎年2回開催されている。2002
年 12 月のGHS小委員会において合意されたGHS国連
文書は、
2019 年に第8版へ改定された。
日本では、
国内に
おけるGHSの導入を促進するため、2012 年4月に化管
法の省令を改正し、JIS Z 7253 によるSDS作成及
びラベル表示が努力義務となっている。
当該JISは定期
的に見直しを行っており、2018 年に見直し作業を行った
結果は 2019 年5月 25 日に発効された。
これを踏まえ、事業者がGHS分類を行う際の参考となる
「事業者向けGH
S分類ガイダンス」の改訂を行い、2020 年4月よりホー
ムページに公開している。
事業者が混合物に含まれる化学物質を入力することで
GHSに基づく混合物の分類判定、
ラベルの出力等を行う
ことができる「GHS混合物分類判定システム」
(2014 年
9月公開)
について、
最新のGHS分類を搭載する等アッ
プデートを行い、2020 年4月にホームページに掲載した。
また、
2020 年度に独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)
によるWEB版の
「GHS混合物分類判定ラベル
作成システム(NITE-Gmiccs)
」の開発を支援
した。
(ウ)国際条約への対応
化学物質が国際的に流通し、
また、
特定の化学物質によ
っては大気や水等の自然を通じて長距離移動をすること
を踏まえ、
国連では条約という形で法的拘束力をもった国
際的な有害化学物質の管理を進めている。
2004 年に発効したストックホルム条約は、環境中での
残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移
動性が懸念される残留性有機汚染物質(POPs:
Persistent Organic Pollutants)
の製造及び使用の廃絶・
制限、
排出の削減、
これらの物質を含む廃棄物等の適正処
理等を規定しており、日本は 2002 年に加盟した。2019 年
5月の第9回締約国会議までに、30 物質群の付属書への
追加が決定された。条約上の規制対象物質は、国内では、
化審法、外国為替及び外国貿易法(外為法)等によって規
制される。
同じく 2004 年に発効したロッテルダム条約は、化学物
質の危険有害性に関する情報が乏しい国への輸出によっ
て、
その国の人の健康や環境に悪影響が生じることを防止
するため、輸出国は、特定の有害物質の輸出に先立って、
化学物質に関する情報を相手国に通報する等、
輸入国政府
の意思を事前に確認した上で輸出を行うこと等を規定し
ている。
日本では、
2004 年9月の条約の効力発生に際し、
条約対象物質を輸出承認申請の対象とするなどの措置を251講じた。2019 年5月の第9回締約国会議までに、52 物質
群の追加が決定された。
条約上の規制対象物質は、
国内で
は、外為法によって規制される。
また、2017 年8月 16 日に発効した水銀に関する水俣条
約は、
水銀の一次採掘から貿易、
水銀添加製品や製造工程
での水銀利用、大気への排出や水・土壌への放出、水銀廃
棄物に至るまで、
水銀が人の健康や環境に与えるリスクを
低減するための包括的な規制を定めている。2018 年 11 月
にはスイス・ジュネーブで第2回締約国会議が開催され、
条約の詳細なルール、
事務局の組織体制等の運営に関する
事項や技術的事項に関する議論が行われ、
水銀の暫定的保
管に係るガイドラインが採択された。
(エ)化学物質管理に係るアジア協力
ASEAN各国におけるWSSD2020 目標の実現を支援
するとともに、
アジア地域の発展に繋がる調和の取れた化学
物質管理体制の構築を推進するため、
「アジアン・サステイ
ナブル・ケミカル・セーフティー」構想を 2010 年に提唱、
2011 年から同構想の下で種々の関連施策を実施している。
その一つとして、
東アジアASEAN経済研究センター
(ERIA)の「有害性情報をASEAN各国が共有する
情報基盤の構築が重要」
との調査研究報告
(2012 年3月)
に基づき、
ASEANワイドの化学物質管理データベース
構築に向けた検討を、
日本・ASEAN経済産業協力委員
会(AMEICC)の枠組みを活用して実施し、
「日AS
EANケミカルセーフティデータベース(AJCSD)」を整備、2016 年4月から独立行政法人製品評価技術基盤
機構
(NITE)
にて本格運用を開始した。
2020 年度は、
AMEICC化学産業ワーキンググループの下のAJC
SD技術ワーキンググループ(第6回会合)にて、AJC
SDを活用した日ASEANにおける規制制度の調和に
向けた議論を継続して行った。
また、
二国間協力の取組として、
新たな化学物質管理制
度の導入を検討しているタイ及びベトナムに対して、
科学
的リスク評価に基づく効率的な化学物質管理制度の構築
を支援するため、
人材育成や技術協力等を内容とする化学
物質管理に関する二国間協力文書(MOC)を 2012 年7
月にベトナム商工省、
同年8月にタイ工業省工場局との間
でそれぞれ合意し署名した。
その後3年間の協力の成果を
受けて 2015 年7月及び 12 月にそれぞれ第2期MOCを
締結した。2020 年度は化学物質管理に関するワークショ
ップをタイ及びベトナムと開催して、
効率的な化学物質管
理制度の構築の支援を継続して行った。
(5)製品含有化学物質の情報伝達に関する取組
近年、
EUのRoHS指令・REACH規則を皮切りに、
製品中に含有されている化学物質の規制が中国・インド等
アジア各国で導入されている。
最終製品メーカーは、
川上のサプライヤーから情報を得
ない限り、
自社製品にどのような化学物質が含まれている
か把握できないため、製造業のサプライチェーン全体で
「川下企業から川中・川上企業への含有化学物質調査」という多大な業務が発生している。
しかし、
伝達フォーマッ
トが各社で異なるため、
要求を受ける川中・川上企業が過
重な負担を強いられている。
そこで 2013 年度に開催した「化学物質規制と我が国企
業のアジア展開に関する研究会」において、2012 年3月
に発効した電気・電子業界における製品含有化学物質の情
報伝達に関する国際規格「IEC62474」に準拠しつつ、
業種横断的にサプライチェーン全体で使える標準フォー
マットを使った情報伝達スキームの構想が取りまとめら
れた。
2015 年度は新たな製品含有化学物質の情報伝達スキーム(chemSHERPA)
を構築し、
10 月にデータ作成
の支援ツールの正規版を公開するとともに、2016 年4月
に正式運営組織としてアーティクルマネジメント推進協
議会(JAMP)による運用を開始した。業界の垣根を超
えた更なる普及と他スキームとの互換性確保が重要であ
るため、
IECとISOとのデュアルロゴスタンダード化
及び他業界との連携を検討している。(6)「水銀による環境の汚染の防止に関する法律(水銀
汚染防止法)」水銀による環境の汚染を防止するため、経済産業省は、
環境省等と連携しながら、
「水銀に関する水俣条約」
(2017
年8月 16 日発効、水俣条約)の国内担保法である「水銀
による環境の汚染の防止に関する法律(平成 27 年法律第
42 号、水銀汚染防止法)
」及び「外国為替及び外国貿易法
(外為法)
」に基づき、表1に示すような水銀規制を実施
している「参照:表1」。252
2019 年3月、関係 15 府省共同で「水銀汚染防止法Q&
A(改訂版)
」を公表した。
【表1:水俣条約を受けた経済産業省の水銀規制】
規制開
始日
根拠法
条約の根拠規制の種類規制内容
2016 年
12 月 18日水 銀 汚 染 防
止法第 18 条
なし
分 別 排 出
に 資 す る
情報提供
製 品 表 示
等の責務
2017 年
8月 16日水 銀 汚 染 防
止法第 4 条
第 3 条 3
水 銀 鉱 の
規制
掘 採 の 禁止水 銀 汚 染 防
止法第 13 条
第 4 条 6
新 用 途 製
品の規制
製造・販売
の禁止
水 銀 汚 染 防
止法第 19 条
第 5 条 2・3特 定 製 造
工 程 の 規制水 銀 等 の
使用禁止
水 銀 汚 染 防
止法第 20 条
第 7 条 2
金 採 取 の
規制
水 銀 等 の
使用禁止
水 銀 汚 染 防
止法第21条・
第 22 条
第 10 条 2
貯 蔵 の 規制毎 年 度 の
貯蔵報告
水 銀 汚 染 防
止法第23条・
第 24 条
第 11 条 3
水 銀 含 有
再 生 資 源
の規制
毎 年 度 の
管理報告
外為法第 48
条第 3 項・第
52 条
第 3 条 6・8物質規制:
特定水銀
輸 出 入 の
承認制
なし
物質規制:
特 定 水 銀
化合物
輸 出 の 承
認制
2018 年
1 月 1日水 銀 汚 染 防
止法第 5 条・
第12条・附則
第 3 条
第 4 条 1
特 定 製 品
規制 第 1陣製 造 の 禁
止、組込み
の禁止
外為法第 48
条第 3 項・第
52 条
第 4 条 1
輸 出 入 の
承認制
2020 年
12 月 31日水 銀 汚 染 防
止法第 5 条・
第12条・附則
第 3 条
第 4 条 1
特 定 製 品
規制 第 2陣製 造 の 禁
止、組込み
の禁止
外為法第 48
条第 3 項・第
52 条
第 4 条 1
輸 出 入 の
承認制
(ア)
水銀使用製品の製造等に関する規制
(特定水銀使用
製品の規制)
我が国では、
照明用ランプ、
医療用計測機器、
無機薬品、
ボタン形電池、工業用計測機器、スイッチ・リレー等の水
銀使用製品の製造のために年間約9トン(2016 年調査)
の水銀が使用されている。
我が国で流通する水銀使用製品
であって、環境保全上の観点から特に懸念される品目は、
水俣条約附属書A第I部に掲載された 2020 年までに廃止
すべき水銀添加製品の品目と同様であることから、
当該水
銀添加製品を水銀汚染防止法第2条第1項後段で特定水
銀使用製品として指定している。
2018 年1月1日、水銀電池(特定のものを除く)
、特定
の一般照明用蛍光ランプ、
電子ディスプレイ用の冷陰極蛍
光ランプ・外部電極蛍光ランプのうち特定のもの、
化粧品、
防除用薬剤(特定のものを除く)について、条約上の廃止
期限より前倒しで規制を開始した。2020 年 12 月 31 日、
水銀電池(ボタン電池であるアルカリマンガン電池)
、ス
イッチ及びリレー、
一般照明用の高圧水銀ランプ、
計測器
(気圧計、湿度計、圧力計、温度計、血圧計)についても
規制を開始した。
特定水銀使用製品を規制開始日以降に製造しようとす
る者は、
水俣条約で認められた用途のために製造されるこ
とが確実である旨の主務大臣
(事業所管大臣)
の許可を受
ける必要がある。許可申請の手続は、
「特定水銀使用製品
に係る許可及び届出に関する事項を定める省令」
(平成 27
年厚生労働省・農林水産省・経済産業省第1号)に規定し
ている。さらに、手続の詳細を説明するため、2017 年5
月、
「水銀汚染防止法に基づく経済産業大臣を主務大臣と
する特定水銀使用製品の規制に関する運用の手引き(第1
版)」を公表し、2020 年 12 月に改訂を行った。
特定水銀使用製品を部品として他の製品の製造に用い
ること(組み込むこと)も原則として禁止されているが、
水俣条約で認められた用途のために製造の許可を受けた
もの又は外為法に基づく輸入の承認を受けたものを当該
許可又は承認に係る用途で部品として用いる場合は、
組込
禁止措置の対象から除外される。
経済産業大臣は、
2018 年
度に4件の用途適合承認を行った。
(イ)
水銀使用製品の製造等に関する規制
(新用途水銀使
用製品の規制)
水俣条約発効日(2017 年8月 16 日)に自国において既
存の用途として把握されていない水銀使用製品
(新用途水
銀使用製品)
の製造及び商業上の流通を抑制するため、当該製品の利用が人の健康の保護又は生活環境の保全に寄
与する場合でなければその製造及び販売をしてはならな
いこととし、
当該製品の製造又は販売を業として行おうと
する者に対して、
寄与するかどうかについて自ら評価し主
務大臣
(事業所管大臣)
に事前に届け出る義務を課してい
る。既存用途水銀使用製品は、
「新用途水銀使用製品の製
造等に関する命令」
(平成 27 年内閣府・総務省・財務省・
文部科学省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省・国土
交通省・環境省令第2号)によって定められており、新用
途水銀使用製品の規制対象外となる。2018 年 12 月3日、
既存用途水銀使用製品のいくつかの品目と用途を追加す253るため、
「新用途水銀使用製品の製造等に関する命令の一
部を改正する命令」を公布・施行した。
(ウ)水銀等の貯蔵・水銀含有再生資源の管理に関する報告
2018 年4月1日、水銀汚染防止法第 22 条第1項の規定
に基づく「水銀等の貯蔵に関する報告」と、第 24 条第1
項に基づく
「水銀含有再生資源の管理に関する報告」
の受
理を開始し、毎年度、結果を公表している。
2019 年2月には、経済産業省と環境省と共同で「水銀
汚染防止法に基づく水銀等の貯蔵に関するガイドライン」
及び
「水銀汚染防止法に基づく水銀含有再生資源の管理に
関するガイドライン」の改正版を公表した。
(エ)外為法による特定の水銀、水銀化合物、特定水銀使
用製品等の輸出入の承認制
我が国から輸出される水銀等が輸出先相手国での不適
切な使用によって健康被害や環境汚染を引き起こすこと
を防止するため、
外為法によって水俣条約発効日から、特定の水銀及び水銀化合物の輸出は原則禁止とするが、
例外
的に条約上認められた用途等のための輸出は承認してい
る。
我が国独自の当面の措置として、
承認後、
半年ごとに、
輸出者から輸出先における水銀等の使用状況を報告させ
ている。
水銀と他の物質との混合物
(水銀の合金を含む。)であって、水銀の濃度が全重量の 95%以上であるものを
水俣条約で輸出の禁止対象としている。
上記に加え、
特定
の水銀化合物
(水銀汚染防止法施行令第3条に規定する塩
化第一水銀、
酸化第二水銀、
硫酸第二水銀、
硝酸第二水銀、
硫化水銀等)も我が国では輸出承認制の対象としている。
その他、
特定の水銀の輸入や特定水銀使用製品及び特定水
銀使用製品が部品として組み込まれた製品の輸出入につ
いては、外為法によって承認制としている。
特定の水銀、
水銀化合物及び水銀使用製品等の輸出入に
ついては、
「特定の水銀、水銀化合物及び水銀使用製品等
の輸出承認について」
(輸出注意事項 29 第 13 号)、「特定
の水銀の輸入承認について」
(輸入注意事項 27 第 18 号)
及び
「特定水銀使用製品及びこれを部品として使用する製
品の輸入承認について」
(輸入注意事項 27 第 19 号)に規
定されている。これらの水銀等に係る規制は、2017 年8
月 16 日から施行され、
適切な輸出入の管理を行っている。(7)フロン等に係る地球温暖化防止対策・オゾン層保護
(ア)
モントリオール議定書を巡る国際動向・オゾン層保
護法の施行状況
オゾン層保護のため、
「オゾン層を破壊する物質に関す
るモントリオール議定書」
(1989 年発効)の国内担保法で
ある
「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法
律(オゾン層保護法)」(1989 年施行)及び「外国為替及び
外国貿易法(外為法)
」に基づきフロン類の生産・消費規
制を実施するとともに、
多数国間基金を用いた途上国支援
事業の展開支援などを実施してきた。
2016 年 10 月にルワンダ共和国の首都キガリで開催され
た第 28 回締約国会合(MOP28)において、オゾン層
破壊物質ではないが強い温暖化効果を有する代替フロン
を新たにモントリオール議定書の規制対象とする改正提案(キガリ改正)
が採択され、
2019 年1月1日より発効さ
れた。
我が国においても、
国内担保法であるオゾン層保護
法の規制対象に代替フロンを追加する改正を行い、2019
年1月1日より施行した。
これにより、
代替フロンの生産
量及び消費量の割当てによる段階的な削減を進めている。
(イ)
地球温暖化防止対策
(代替フロン等4ガスの排出抑制)地球温暖化防止のため、
「京都議定書」
(2005 年発効)対
象の温室効果ガスであるHFC、
PFC及びSF6
(以下、
「3ガス」
という。)に関する排出抑制策として、
1998 年に
関係事業者団体(当初8分野 22 団体)により策定された自
主行動計画等に基づき対策が推進されているところ、京都
議定書第一約束期間が終了した 2013 年以降は自主行動計
画を見直し、引き続き対策を要するとして自主行動計画を
策定する団体(14 団体)においては、3ガスに加えて 2011
年に開催された気候変動枠組条約第 17 回締約国会議(COP17)等において対象ガスとして追加されたNF3も含
めた4ガスを対象として、
新たに 2020 年、
2025 年及び 2030
年を目標年とした自主行動計画を設定し、産業構造審議会
において、
その内容の評価・検証を実施している
「参照:表2」。各団体においては、自主行動計画に基づく4ガスの排
出削減対策として、フロン類破壊設備の設置、製造工程の
見直しや、回収・再利用プロセスの導入、漏えい防止対策
の徹底を実施・継続してきた。
また、政府による研究開発への取組として 2018 年度か254ら「省エネ化・低温室効果を達成できる次世代冷媒・冷凍
空調技術及び評価手法の開発事業」
を国立研究開発法人新
エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)において
実施し、
省エネかつ地球温暖化係数の低い次世代冷媒のリ
スク評価手法の確立及び国際標準化と新冷媒及び冷媒特
性を踏まえた高効率冷凍空調技術の開発に向けて研究を
行っている。
(ウ)フロン排出抑制法の施行状況
フロン類の製造から廃棄までのライフサイクル全体を
見据えた包括的な対策を講じるため、2013 年に「フロン
回収・破壊法」が抜本改正され、2015 年4月より「フロン
類の使用の合理化及び管理の適正化に関する法律
(フロン
排出抑制法)
」が施行された。
2019 年度の全フロン類の破壊量は約 4,118 トンと前年
(4,364 トン)に比べて 5.6%減少しており、全フロン類
の再生量は約 1,510 トンと前年(1,351 トン)と比べて、
11.8%増となった。
また、
廃棄時回収率は 38%
(前年 39%)
となった。さらに、2019 年度のフロン類の算定漏えい量
報告については、398 事業者から報告があり、算定漏えい
量は 222 万CO2トンと前年(236 万CO2トン)と比べて
5.9%減となった。
業務用冷凍空調機器に係る廃棄時の冷媒回収について
は、2002 年のフロン回収破壊法の施行以来、冷媒回収率
は3割前後で推移し、
その向上が課題となっている。
また、
回収を実施した機器台数ベースでの比率
(回収実施台数率)
は、近年、4割弱と低迷していることから、フロン類の廃
棄時回収率向上に向けた対策の方向性について検討する
ため、
2018 年 12 月、
2019 年1月に産業構造審議会製造産
業分科会化学物質政策小委員会フロン類等対策ワーキン
ググループ及び中央環境審議会地球環境部会フロン類等
対策小委員会による合同会議を開催し、
2019 年2月に
「フ
ロン類の廃棄時回収率向上に向けた対策の方向性につい
て」を取りまとめた。これを踏まえ、機器廃棄時にユーザ
ーがフロン回収を行わない違反に対する直接罰の導入等、
抜本的な対策を講じるため、2019 年6月に同法を改正、
2020 年4月に施行された。これにより、関係者が相互に
確認・連携し、
ユーザーによる機器の廃棄時のフロン類の
回収が確実に行われる仕組みとなった。
また、
フロン類の確実な使用削減等を図るため、
フロン
類製造業者等に対して、
使用合理化計画の策定と実行を求
めるとともに、
報告徴収に基づき実施状況等を把握してい
る。2019 年度のフロン類製造業者等における国内出荷量
の実績報告は 4,894 万CO2トンとなり、前年(5,093 万
CO2トン)に比べて4%減少した。
さらに、
フロン類使用製品のノンフロン・低GWP化に
向けて、
フロン類使用製品の製造業者等に対して製品区分
毎にGWPの目標値と目標年度を定め、
目標達成を求める
指定製品制度を促進している。
産業構造審議会製造産業分
科会化学物質政策小委員会フロン類等対策ワーキンググ
【表2 HFC,PFC,SF6及びNF3の排出(単位:百万tCO2)】基準 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008
HFCs 25.2 24.6 24.4 23.7 24.4 22.9 19.5 16.2 16.2 12.4 12.8 14.6 16.7 19.3
PFCs 17.7 18.3 20.0 16.6 13.1 11.9 9.9 9.2 8.9 9.2 8.6 9.0 7.9 5.8
SF6 16.4 17.0 14.5 13.2 9.2 7.0 6.1 5.7 5.4 5.3 4.2 5.2 4.7 4.2
NF3 0.2 0.2 0.2 0.2 0.3 0.3 0.3 0.4 0.4 0.5 1.5 1.4 1.6 1.5
4ガス計 59.5 60.1 59.2 53.8 47.0 42.1 35.7 31.5 30.9 27.4 27.9 30.2 30.9 30.7
2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019
HFCs 20.9 23.3 26.1 29.4 32.1 35.8 39.3 42.6 45.0 47.0 49.7
PFCs 4.1 4.3 3.8 3.4 3.3 3.4 3.3 3.4 3.5 3.5 3.4
SF6 2.4 2.4 2.2 2.2 2.1 2.0 2.1 2.2 2.1 2.1 2.0
NF3 1.4 1.5 1.8 1.5 1.6 1.1 0.6 0.6 0.4 0.3 0.3
4ガス計 28.8 31.5 33.9 36.5 39.1 42.3 45.3 48.8 51.0 52.9 55.4255ループにおいて、
目標年となる指定製品の達成状況の確認
と、
新たな指定製品の目標値及び目標年度の設定等につい
て検討を行っており、2021 年3月時点において、家庭用
エアコンディショナー等 13 区分の目標値及び目標年度を
設定している。2021 年3月に開催した第 16 回同ワーキン
ググループにおいては、
「中央方式冷凍冷蔵機器」、「専ら
噴射剤のみを充填した噴霧器(ダストブロワー)
」の2区
分について目標達成したことを確認するとともに、
新たに
「業務用エアコンディショナーのうち、
新設及び冷媒配管
一式の更新を伴うビル用マルチエアコンディショナー」について目標値等を設定する方針が決定した。また、
「自動
車用エアコンディショナーのうち、
トラックやバス用のも
の」
「洗浄剤・溶剤」についても、引き続き指定製品とし
ての新たな目標値等の設定に向けて検討を行うこととな
った。(8)「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法
律(化学兵器禁止法)」1997 年に発効した化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使
用の禁止並びに廃棄に関する条約は、
化学兵器の開発、生産、
保有及び使用を禁止するとともに、
締約国が国内産業
施設における対象物質の生産量等のデータを化学兵器禁
止機関(OPCW)へ申告し、これら施設に対する同機関
による国際検査を受け入れることを義務付けている
(産業
検証)ほか、対象物質の貿易規制を規定している。日本か
らは、毎年約 450〜500 か所の事業所を申告しているが、
2008 年以降、化学兵器への転用リスクの高い特定化学物
質及び指定物質以外の対象物質を製造する事業所に対し
ても、
条約目的達成の観点から国際検査を強化する傾向に
あり、
日本が受け入れる国際検査回数も大幅に増加してい
るところ、その適確かつ円滑な実施の確保に努めている。
日本においては、1995 年に成立した化学兵器禁止法に
より、次のとおり条約上の義務を履行している。
[1]化学兵器の製造、所持等の一切を禁止[2]化学兵器に供されるおそれの高い化学物質
(特定物質)については、
その製造及び使用を許可制とし、
譲渡し、
譲受け、
所持、
運搬、
廃棄等についても規制するとともに、
許可製造者、
許可使用者、
廃棄義務者等に対し経済産業省
による立入検査を実施し、厳格な管理を徹底した。[3]化学兵器にも民生用にも供される化学物質
(指定物質)及び民生用に供されるその他の有機化学物質について
は、
その生産量等について経済産業省への届出を義務付け、
これをOPCWに申告した。
なお、
条約の対象物質の貿易規制については、
外為法に
より許可制又は承認制とすることにより、
条約上の義務を
履行している。
このほか、条約の対象物質が追加されたことを受け、
2020 年6月に化学兵器禁止法施行令を改正し、特定物質
として追加した。
(9)麻薬原料等規制対策
麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合
条約上、
国際的な流通管理を実施すべきと定められている
原料物質について、
外為法に基づき、
輸出先において麻薬
等の密造に転用されるおそれがないか等の確認を行い、厳格な輸出審査を実施した。
このほか、
産業界に対しては、
新規に乱用リスクがある
ものとして指定された物質に係る情報提供や、
貿易管理の
重要性について理解促進に努めるとともに、
条約上の麻薬
等規制に係る国際的議論に際し、
経済活動への影響も考慮
しつつ、参画・注視を行っている。
(10)毒劇物流出事故対応
貯蔵施設等から毒劇物が大量流出し、
その影響が周辺に
及ぶような重大事故が起こった場合、
経済産業省は関係省
庁として政府の初動対処に参画することとなっている。
(11)経済産業省国民保護計画(国民保護計画)
2004 年6月に「武力攻撃事態等における国民の保護の
ための措置に関する法律(国民保護法)
」が成立したこと
を受け、2005 年 10 月、経済産業省の所掌事務に関して、
日本に対する外部からの武力攻撃の事態等における国民
保護措置等の内容等を定めた国民保護計画が策定された。
化学兵器禁止法に規定する毒性物質を扱う化学プラン
ト等の事業所は、
国民保護法における生活関連等施設及び
危険物質等の取扱所に該当するため、
国民保護計画におい
てこれら事業所を生活関連毒性物質取扱所と位置付け、平素から該当施設の管理者、
関係事業者団体、
地方公共団体
などと情報共有を図りながら、
該当施設の安全確保措置の
実施の在り方に関し、必要な助言を行うこととしている。256また、
武力攻撃事態等における災害等の発生を防止するた
め緊急の必要があると認めるときは、
国民保護法に基づき
運転中のプラントに緊急停止を命令する等事態の緊急性
に応じた対処法を定めている。
国民保護計画をより円滑に運用するために、
緊急事態に
おける連絡体制の更新を絶えず行う等、
化学兵器禁止法に
規定する毒性物質を取り扱う化学プラント等に係る武力
攻撃事態等における災害等の発生又は拡大防止のための
体制整備を進めている。