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資料シリーズ No.137
非正規雇用者の企業・職場における活用と正社員登用の可能性
―事業所ヒアリング調査からの分析―

平成26年 5月30日

概要

研究の目的

本研究では、非正規雇用者の企業、事業所での活用に焦点を当て、職場の人材ポートフォリオの実態や正社員登用の可能性を探求する。

非正規雇用者に関する調査研究は、これまで正社員とは分けて行われ、論じられ方も個別的であった。しかし、現実的には、正社員という労働力が「所与」として企業の中にあって、非正規雇用者は、正社員を補完するために存在している。とすれば、正社員の要員数、さらには賃金・人事制度、働き方の変化は、非正規労働に大きく影響するはずである。

そこで、本調査研究では、同一組織内の正社員の動向に注意を払い、非正規雇用者の活用、特に正社員への登用実態を把握すると共に、正社員の賃金制度と採用、人員管理上の権限の所在に注目した。調査は次のような仮説を念頭に進めている。

  • 非正規雇用のポートフォリオは正社員の働き方や要員管理によって変化する。
  • 事業所での利益目標達成への縛りが強く(人件費抑制効果)、正社員採用の権限がない場合に、非正規雇用者が増加する。
  • 正社員登用に積極的な事業所は、非正規雇用者と正社員の賃金が乖離していない。
  • 正社員登用に積極的な事業所は、非正規雇用者と正社員の仕事が近似化している。
  • 正社員登用に積極的な事業所は、中心的事業に慢性的な人手不足感がある。
  • 正社員登用に積極的な事業所は、事業所に正社員採用権限がある(地域採用枠がある)。
  • 正社員登用に積極的な事業所は、非正規雇用者の教育訓練に熱心である。

研究の方法

ヒアリング調査。調査対象は19の企業・事業所で人事労務担当者に聞いた。業種は、製造業、金融・保険業、運輸業、卸売業、小売業、情報通信業、飲食サービス業、生活関連サービス業、医療・福祉。

主な事実発見

非正規雇用のポートフォリオは、「直接雇用型」、「直・間混合型」、「委託・分業型」の3つに類型化できる。「直接雇用型」では、人材ポートフォリオで正社員比率が低いケースがみられ、これらの職場は少数の正社員と多数のパート・アルバイトで要員が編成されている。パートやアルバイトが中心となる「直接雇用型」は、経済制約的理由から人件費を圧縮するためや、日、週、月での繁閑に対応するために活用するところが多くみられる一方で、法制度に関する影響から、近年、派遣労働の活用から直接雇用に切り替えているケースがみられた。

「直・間混合型」では、派遣労働を入職ルートとして機能させ、後に直接雇用に転換するケースがみられ、事業所の根幹となる事業に従事する派遣社員は、契約社員を経て正社員への登用ルートにつながるケースが多い。一方、後方業務やコールセンターなど、根幹でない事業として分業されて、間接雇用化している場合は、登用にはつながらない。このことは「委託・分業型」と通じており、派遣労働と業務請負会社の社員とが非正規雇用の中心となる職場では、分業化が進んでおり、ほとんど正社員登用がなくなる。

正社員比率が20〜50%程度と低いケースでは、現在の正社員数に対して「不足」感を感じている。その中で、今後正社員を増やす見込みがあるところは、非正規雇用者も含めて、人材の確保に苦慮しているところである。これらの事業所の特性を一言で言えば「肉体的に楽ではない仕事」が中心であり、労働供給側が需要に反応しづらい業務である。一方、正社員数に「不足」感を感じていながらも、今後も現状維持やさらに減らす意向を持つ企業・事業所では、近年の業績悪化がみられ、正社員を採用するには、業績が立ち直ることが不可欠となる。ただ、小売業やファストフードなど、業績に関係なく恒常的に店舗利益の導出のために正社員比率を抑制している業種では、今後も正社員への需要は横ばいか減少傾向にあると推測される。

正社員登用は恒常的に実施している企業・事業所と、一過的に実施したところに分けられる。恒常的に実施しているところでは、正社員は新卒よりも中途採用や内部登用といったルートで確保されていて、地域採用枠があったり、事業所が実質的に採用権限を持っていたりする場合が多い。こういったケースでは、企業・事業所の正社員数に占める登用者数の割合が高い。

正社員登用の対象者の属性をみると、男女で特徴が表れる。男性の場合は、現業職と技術職であり、リーダー職や工程管理などの責任が課される内容となる。年齢は20〜30歳代と女性に比べて若年に偏る。女性の場合は、店舗での接客などがある職種や事務職が中心で、リーダー職や従前の仕事を踏襲しながら習熟度を上げていく傾向にある。年齢は20〜40歳代と幅広く、どちらかといえば子育て後に入職してくる場合が多い。

正社員登用を行っている企業・事業所の正社員へ乗り入れ時の賃金をみると、月給レベルでは登用前後で大きく変動しないように設定されているケースがほとんどである。年収レベルでみれば、非正規雇用の時に支給されていなかった、あるいは少額だった賞与分での上昇がみられる。多くのケースで登用直前の非正規雇用時の年収は、250万円程度であり、それに50万円程度の賞与が加算されて、300万円程度になるというのが本調査からみえたイメージである。

正社員登用を実施しているケースの中には、正社員と非正規雇用の業務と賃金が大幅に重複しているケースがみられる(「均等待遇モデル」(図表1))。このケースでは、従前の業務をそのまま踏襲し正社員に移っており、正社員登用が頻繁で量的に多い。賃金は、一般的な正社員の賃金体系とは異なり、職種別賃金となっていて、業務内容に伴って変動する(業務が変わらなければ変動しない)。他方、多くのケースは非正規雇用が正社員の下位の階層として位置づけられており(「雇用形態階層モデル」(図表2))、正社員に登用されるとリーダー職に就くなど、ステップが上がることを前提に正社員登用への要件が厳しく、狭き門となっている状況がみられる。賃金面からみると、乗り入れ側の正社員の賃金が職能資格制度で決定されていて、勤続年数に従ってある程度上昇傾向にあり、総額人件費のコントロールの観点からも量的に多く登用するのが難しい状況であることが推察される。

図表1 均等待遇モデル

[画像:図表1画像]

図表2 雇用形態階層モデル

[画像:図表2画像]

政策的インプリケーション

以上のことから、正社員登用を積極的に実施している企業の特色として、非正規雇用者と正社員の業務が完全に分業化しておらず、乗り入れできる「汽水域」的な仕事の領域と賃金レンジの重複部分があることが挙げられる。地域採用での現業職のニーズは大きいとみられ、地域拠点が独自に正社員の採用権限(枠)を持つことで、正社員登用が活発になると思われる。特に男性については、本社が採用するホワイトカラー層とは別のニーズが地域特色豊かにあると思われる。産業特性的には、非正規雇用を多く活用している小売業や飲食サービス業等においては、非正規雇用への教育訓練や正社員登用制度が整っているが、量的に正社員登用数が多いとはいえない。これは恒常的に正社員数を抑制して非正規雇用を活用する経営モデルが根底にあることを考えれば自明のことでもある。正社員を雇用することが、コスト面での大きなハードルと考えているところは、労働契約法の有期法制の影響から、今後、非正規雇用と同様の労働条件を踏襲して、雇用期間を無期化するという流れが加速するかもしれない。これを「正社員」と名称付けするかは各社の判断であろうが、「正社員」の雇用区分が多様化することが予測される。

政策への貢献

非正規雇用関連法政策。

本文

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研究の区分

プロジェクト研究 「非正規労働者施策等戦略的労働・雇用政策のあり方に関する調査研究」

サブテーマ「非正規労働の動向と企業の人材活用に関する研究」

研究期間

平成24〜25年度

執筆担当者

小野 晶子
労働政策研究・研修機構主任研究員
奥田 栄二
労働政策研究・研修機構調査員
前浦 穂高
労働政策研究・研修機構研究員

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