愛子内親王殿下ラオスご訪問(JICA関連活動先訪問やご接見を終えて)〜第21回美弥子所長が聞く〜
2025年11月28日
愛子内親王殿下が、ラオス政府からの招待を受け、2025年11月17日から21日にかけラオスをご訪問されました。ご滞在中、多くのJICA専門家やJICA海外協力隊の活動地も視察され、それぞれの活動についてお話させていただく機会を賜りました。
●くろまるCOPEビジターセンターご訪問(19日午後)
COPE(義肢装具協同事業体:Cooperative Orthotic and Prosthetic Enterprise)ビジターセンターは、UXOの被害により、義肢義足が必要な障害者への支援を行うために1997年にラオス保健省と複数のNGO等が共同で設立した施設の1つです。ベトナム戦争時の空爆による不発弾被害や被害者支援にかかる展示を見学されました。「UXO Laoの組織能力強化のための人材育成プロジェクト」の鷺谷大輔専門家からもご説明をさせていただきました。
コープビジターセンター(宮内庁のインスタグラムより)
【鷺谷大輔専門家より】
2025年11月19日、愛子内親王殿下がCOPEビジターセンターをご視察されました。殿下はご到着直後から現場スタッフの説明に丁寧に耳を傾けられ、不発弾(UXO)汚染の現状や被害者支援について深い関心を示されました。真剣な眼差しや頷きからは、平和への強い思いと、ラオスの人々が直面する課題を真摯に理解しようとされる姿勢が強く伝わってきました。
私からは、ラオスは世界でも特に不発弾の影響が深刻な国の一つであり、ベトナム戦争終結から半世紀以上経った現在も、広範な汚染が残り、被害が出続けている現状についてお伝えしました。さらに、被害者支援を行うCOPEや、18県中9県で不発弾除去活動を実施しているUXO Lao(ラオス不発弾除去組織:Lao National Unexploded Ordnance Programme)に対する日本の協力についても、スライドを用いてご説明しました。設備供与、人材育成、組織能力強化、カンボジアとの南南協力の推進など、多岐にわたる取り組みをご紹介しました。
写真中央の紺色のポロシャツの男性が鷺谷大輔専門家
特に、JICAが重視している「人づくり」「組織づくり」を通じた協力の意義についてもお話ししました。日本人とラオス人が共に学び合い、改善を積み重ねていくことによって信頼関係が育まれ、その積み重ねこそが長期的な平和に資するという点に、殿下は深く頷かれていました。
また、クラスター子弾の破片や除去現場の写真をご紹介した際には、殿下は非常に熱心にご覧になり、「不発弾除去が進みにくいのはどのような点が難しいのですか」などの質問をされるなど、理解を深めようとされるお姿が印象的でした。私からは、地形や作業工程の関係上、作業に非常に手間と時間がかかることなどをお伝えしました。また、除去現場の職員は日々懸命に取り組んでいることも併せてお話ししました。
今回のご訪問が、ラオスにおける不発弾問題の深刻さと、平和の尊さへの理解を広げる一助となれば、大変嬉しく思います。殿下の真摯なお姿に、現場一同、大きな励ましをいただきました。
●くろまるラオス日本武道センターご訪問(19日午後)
2009年に無償資金協力で完成したラオス日本武道センターも訪問され、柔道・空手道・剣道・合気道のそれぞれの演武をご覧いただきました。JICA海外協力隊の菊地友輝隊員は、柔道の演武を披露した他、愛子さまに直接ご挨拶をさせていただきました。
【菊地友輝隊員より】
今回、愛子さまにご訪問いただき、懇談の機会を賜ったことに心より感謝しています。このような貴重な経験を得られたのは、これまでJICA海外協力隊として活動を続けてこられた先輩方や、ラオス柔道に関わる多くの皆さまの支えがあったからこそだと改めて実感しました。たくさんの温かいメッセージや励ましの言葉をいただき、本当にうれしく思っています。残りの任期も、周囲の方々への感謝の気持ちを忘れず、より良い活動につなげたいと感じています。
愛子さまにご説明する菊地友輝隊員(宮内庁のインスタグラムより)
正直、訪問の話を聞いた当初は半信半疑でした。まさか本当に武道センターにいらっしゃるとは思っておらず、代表者として懇談に参加すると決まったときには喜びと同時に身が引き締まる思いでした。準備や取材対応など、多くの人が関わって作り上げた過程も含め、すべてが大切な思い出です。演武に出る選手が前日に体調を崩すトラブルがあり、ラオス人コーチから「どうするの?」と心配されましたが、ラオスでの経験のおかげか落ち着いて対応しようと、「ぼーぺんにゃん(ラオス語で:大丈夫!)」とみなで本番に臨むことができ、自分の成長も感じました。
当日は緊張感が高まる中、選手たちと「楽しんでやろう!」と声を掛け合い、全員で練習以上の演武を披露することができました。愛子さまが会場に入られた瞬間、空気が一気に締まったのを今でも鮮明に覚えています。懇談の際は、優しい声と柔らかな口調でお話しいただき、緊張しながらも落ち着いてお話しすることができました。この時間は間違いなく一生の思い出です。柔道を続けてきたからこそ得られたご縁でもあり、ここまで支えてくれた両親や関係者の皆さまに改めて感謝の気持ちでいっぱいです。
最後に、今回の経験を胸に、残された任期もラオスの柔道発展のために自分にできることを精一杯取り組み、ここで出会った人々への感謝を形にしていきたいと思います。
●くろまるルアンパバーン国立博物館(21日午前)
ルアンパバーン国立博物館では、ルアンパバーンの名前の由来でもあるパバーン仏をご覧になったのち、旧王宮である本館ではJICA海外協力隊の宮脇好和隊員がご案内をさせていただきました。
【宮脇好和隊員より】
5月の報道で、愛子内親王殿下の初めての外国公式訪問先がラオスとなったことを知りました。その後、私の配属先であるルアンパバーン国立博物館も訪問地のひとつになりました。今この博物館を日本語で案内説明できるのは、世界中見渡してもこの「私」しかいないという勝手な自信と、本当にそうなったら、大変貴重な経験になり、またJICA事業に携わる一員として責任は重いな、と感じていました。
いよいよ当日、心配や不安を感じることは一切なく、どうリラックスして楽しんでいただこうかとばかり考えていました。定刻より5分ほど遅れて、愛子さまのお車が到着。県局次長、館長、副館長、そして私の4人が正門前に整列し、局次長から一人一人紹介されました。私は、「JICA派遣の宮脇です。このあと、博物館の方を案内させていただきます」と自己紹介を終えました。
最初にご一行は、副館長の案内のもとパバーン堂へ移動。私は、博物館(旧王宮)の入り口でお待ちすることとなっていました。
10分後、いよいよ愛子さまが私の前に。まずは「儀式を執り行う部屋」へ。真ん中の立派な椅子を指さし、「あの椅子は誰がお座りになると思われますか」との問いに、愛子さまは、「王様ですか?」。「そう思われるでしょう?実は高僧なのです」と、その後もたくさん質問していただき、あっという間の館内ぐるり一周でしたが、準備された記帳台での記帳を終え、最後に愛子さまから「ていねいに詳しく、そして楽しい案内をありがとうございました」とお言葉をかけていただきました。これを聞いて、私のラオスでの活動の最後で最大のMISSIONは成功、とひとり満足していました。博物館を後にするお車の中からも、窓を開けてこちらの方にずっと手を振っていただき、ルアンパバーンの最初の訪問地、博物館のご視察を終えられました。
終始穏やかで、時にはにこやかに、そして自然体でお聞きになっていた愛子さま。どんな感想を抱かれてご帰国されたのでしょう。かつて、天皇陛下もご訪問された旧王宮。王国の歴史を長い間刻んできたラオスの佇まいを直接感じられ、戻られてからご家族でお話しいただいているでしょうか。そのお手伝いに少しでも貢献できたのであれば、これ以上の喜びはありません。
一番右端が宮脇好和隊員
●くろまるご接見(22日午後)
在留邦人代表とのご接見では、ラオスで活動する日本人の方々と懇談されました。JICA関係者では、小林美弥子所長、JICA海外協力隊でルアンパバーン子ども文化センターで活動する久野純平隊員、サワンナケート県病院で活動する小林鈴夏隊員、「法の支配発展促進プロジェクトフェーズ2」の矢尾板隼専門家、ケーン奏者でもある虫明悦生事務所員が、それぞれ懇談の機会いただきました。
ご接見の様子(左から小林鈴夏隊員、久野純平隊員、小林美弥子所長、毎日新聞の記事より)
【久野純平隊員より】
愛子さまからは、「(ラオス首相)表敬訪問のときにスピーチされたのですか?」「活動のほうはいかがですか?」とご質問いただき、終始柔らかな笑顔で私たちの話に耳を傾けてくださいました。また、11月20日に日帰りで私の任地・ルアンパバーンをご訪問されたため、ルアンパバーンの印象についてお伺いしたところ、「ラオスの伝統と歴史が凝縮された美しい街並みで、クワンシーの滝にも行ってまいりました」とおっしゃっておられました。最後に、愛子さまから「お体に気をつけて充実した2年間をお過ごしください」とお言葉をかけていただき、私たち協力隊にとって、開発途上国で活動する身としてこの上ない励みとなりました。
子どもに囲まれた久野純平隊員
【小林鈴夏隊員より】
愛子さまとご接見の機会をいただき、大変光栄でした。緊張していましたが、優しく穏やかな笑顔でお話くださり、次第に気持ちがほぐれました。 愛子さまにお伝えしたのは、自身の活動内容と成果の一例に関してです。 私は、新生児心肺蘇生法の普及と感染対策を中心に母児保健分野の医療の改善を目指しております。サワンナケート県病院は首都と比べ医療資源が限られており厳しい環境にありますが、その中でこれまで救命が難しかった双子の800gの超低出生体重児が無事に自宅退院できた。といった内容を、活動成果の一例としてご報告しました。それに対し愛子さまは、前日に訪問されたラオ・フレンズ小児病院でも、ラオスの出生直後の新生児死亡例が多い現状などをお聞きになったとお話しされており、「ラオスの医療において大切な活動をされていますね。」と励ましのお言葉をいただきました。いただいた温かいお言葉は、ぜひラオスの同僚とも共有したいと思います。
赤ちゃんを抱っこする小林鈴夏隊員
【矢尾板隼専門家より】
私から、法律文献がまだ少ないラオスにおいて参考資料の作成が必要であることや、人材育成を重視してきて民法典逐条解説のような本をラオス人の手で作り上げてきたということを、逐条解説そのものをお示ししながらご説明しました。愛子さまは「分厚いですね。」と驚かれ、人材が育ってきた結果が重要な書籍になったことについて感銘を示されていました。また、「法制度の支援は重要ですね。」とのお言葉もいただき、大変光栄に思いました。
検察官と協議をする矢尾板隼専門家
【虫明悦生事務所員(ケーン奏者)より】
愛子さまは、ご滞在中に2、3回、ケーン(ラオスの笙)の演奏をお聴きになられたとのことで、ケーン音楽がユネスコ無形文化遺産に登録されていることもご存知でした。また、日本文化がラオスに広く定着していることに驚かれた旨のご発言もありました。笙、もち米蒸留酒、織の技法など、逆にラオス周辺から日本に伝わった文化のことをお話さしあげることも頭をよぎりましたが、時すでに遅し、ご接見はあっという間に終了してしまいました。短い時間ではありましたが、誠に貴重で光栄な機会となりました。
ケーンを演奏する虫明悦生所員
【小林美弥子所長より】
今回のご訪問では、JICA関係先であるCOPEビジターセンター、武道センター、日帰りのルアンパバーン博物館に同行させていただき、最終日の在留邦人代表とのご接見では、JICA所長及び日本語補習校校長としてご挨拶できる機会を賜りました。
JICA関係先のご視察時のエピソードは上述の皆さんからの報告のとおりですが、全体にかかる点では、11 月18 日(火)夜、パーニー国家副主席主催の晩餐会での挨拶にて、「ラオスは、ちょうど60 年前の1965 年にJICA 海外協力隊が初めて派遣された国であり、これまでに1,000 名を超える隊員が貴国に受け入れられ、現地の皆様と活動を共にしてきています。」など、愛子さまからのお言葉としてJICA 海外協力隊に言及がありました。また、「ラオスにおける法制度や基礎インフラの整備、不発弾の処理といった日本による支援が、ラオスの国民の皆様のお役に立てているのであれば、大変うれしく思います。」とJICA 事業についても具体的に言及されました。なお、ご挨拶の中で、次のようなお言葉もありました。「長年にわたり、日本とラオスの友好関係と協力の歴史が築かれてきたことを喜ばしく思います。そして、日本の文化などに関心を持ち、日本に留学されている学生の皆さんを始め、日本で暮らすラオスの方々の滞在が楽しく、安心できるものとなり、様々な交流を通じて両国の友情が更に紡がれていくことを願っております。」と。日本で暮らすラオスの方々への想いも含めたメッセージが心を打ちました。
21日(金)の在留邦人代表とのご接見では、当方から、10 月の首都ビエンチャンでの協力隊60 周年式典開催に加え、11 月13 日の東京での式典への天皇皇后両陛下ご列席にかかる御礼をお伝えしたところ、「父、母からJICA 海外協力隊について、素晴らしい活動をされている旨、話を聞いています。また、今回、トンルン国家主席、パーニー国家副主席、ソーンサイ・シーパンドン首相と面談する中で、JICA や協力隊への高い評価や感謝についてのお話を伺い、皆さんの活躍を実感しました。」とのお言葉がありました。JICAや協力隊へのエールに感謝するとともに、日本で研修・留学されたラオスの人々、ラオスで活動された専門家や協力隊員ら双方の交流が日本とラオスとの真の友好関係として紡がれていくのだと再認識しました。
また、今回の訪問にあたり、NHK、日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日や主要新聞社等の日本のメディア及び現地メディアの取材も多数入り、大西規夫初代隊員へのインタビューも交えつつ報道されるなど、両国の関係やJICA 事業を国内外に発信する良い機会となりました。10月のJICA海外協力隊派遣60周年式典から今回の愛子さまご訪問のモメンタムを大切に、引き続き、現場であるラオスから国内外へ国際協力の成果、そして日本への環流を中心に発信を続けていきます。
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