2001年度 2002年度版
目次
■しかく 調査方法および発送数と回収数
2002年度12月末に全国自治体(3241)に発送したアンケートは、1ヶ月の期間で1004件が戻ってきており、約30%の回収率であった。
アンケートの回答は、FAXの他、日本障害者協議会が運営するホームページに回答専用の頁を作り、効率のよい回収に努めた。
※(注記)回答用のホームページアドレス
http://www.jdnet.gr.jp/it/
県別に見ると、回収率の高かった自治体は以下のようになり、比較的人口の高い県が上位を占めた。
40%以上の回収率をあげた自治体
1. 障害者対象IT講習会取り組み状況
この度の調査では、2001年度及び2002年度、それぞれどのような形でIT講習に取り組んだかを以下のような5つの選択肢を準備して調査した。
(単位:自治体件数)
2つの年度で大まかに比較すると、交付金のつかなかった2002年度は、IT講習自体、全く実施していない自治体の伸びが目立つ。また、行われた講習会の取り組み方としては、2002年度は障害者対象でない一般の講習会のみの実施が多くなっていることがわかる。
いずれの年も、「(障害のない方を中心とした)一般の講習会の中で、障害者も一緒に受講した」が大きな数値となっているが、自由記述から考察すると、この類の講習会に参加した障害者は比較的障害が軽度の方が中心で、実質、障害者配慮を特に行う必要がなかったケースがほとんどのようである。したがって、このアンケートで定義する「障害者対象講習会」は、「一般講習と障害者対象の講習を別々に実施」した自治体と「障害者対象の講習のみ実施」した自治体の2つと考えまとめてみると、以下のような結果となった。
[画像:2001,2002の講習実施状況]
この分類からは、交付金のついた2001年度でさえ、214自治体(約21%)のみが、特別に障害者配慮の講習会をしたという結果となっており、障害者配慮の特にない講習会の実施は56%であるから、その半分以下の実施率である。
更に2002年度においては、IT講習自体を行った自治体数が約100自治体ほど減っており、障害者配慮の実施も数では214自治体から140自治体に、実施率では21%から14%に落ちている。
2002年度で障害者対象講習の実施が減っている理由は、自由記述から
「国の補助がなくなったため、予算の都合上実施できない」
「2001年度の講習会で、障害者の申し込みが少なかったため実施しなかった」
のほぼ2つに絞られる。
特例交付金がなくなったことで継続できなくなった自治体では、公民館講座での吸収や、生活支援センターのパソコン教室への移行、バリアフリー化支援事業の利用による福祉センターへのPC常設、など、地域の他の資源や予算へ振り替えた苦しい内幕が自由記述でわかる。 また、2001年度実施してみたが「障害者の申し込みが少なかったため」、「定員割れしたため」実施しなかったという回答も多い。市区町村によっては、対費用効果の低さやマンパワー不足から、広域での実施を望むケースが多い。広報不足も要因のようで、自治体の中には「市の広報に一度載せただけ、伝わってない人も多いのでは」という意見もあった。
反対に、少数ではあるが、2002年度になって障害者対象講習を実施した自治体もある。
主な理由としては、
「2001年度の講習で、障害によっては健常者と一緒の受講は難しいと思った」
「意外に障害者の多数の受講希望があった」
「福祉団体、作業所などからの要望が寄せられ、協力して行った」
「県の補助金がついた」 等があげられる。
交付金のない中ではあるが、前年度に一般講習を実施した結果、「障害者配慮の講習」のニーズを強く感じた自治体や、障害者からの熱い受講希望が出された自治体も少なくない。県が補助金制度を開始した自治体もあり、そういった意味では、期限付きの2001年度のIT講習旋風ではあったが、それが一定の意味を持った結果ともいえる。
□しろいしかく 参考1 <障害者IT講習会の実施率が高いと思われる県は?>
県別障害者IT講習実施表(2001年度)
自治体の実施率が40%以上の県をピックアップした。
アンケートの回収率が県によって大きく違うので、実際はこのままの実施率ではないが、50%前後の回収ができた県では、それほど離れた値ではない実施率と考察できる。
□しろいしかく 参考2 <障害者対象IT講習実施状況と自治体の人口は関係している?>
講習状況と人口の関係
2001年度から2002年度にかけての障害者対象IT講習実施状況に、それぞれの自治体の人口規模が関係しているかどうか数値を取ってみた。
人口規模により自治体を4つのグループに分け、各グループの実施状況を表にした。
ある程度関連性がありそうなデータは以下のようなものであった。これにより、人口規模が小さい自治体にとって、講習の実施は難しい傾向にあることがわかる。
2001年度、2002年度とも障害者対象の講習を実施している
[画像:人口規模と講習の継続性1]
2001年度、2002年度とも障害者対象の講習を実施していない
2001年度、2002年度ともIT講習自体、全く実施していない
2. 受講者数
2001年度、2002年度ともに、全受講者人数は「1〜50人」という回答がもっとも多い。
今回のアンケートは回収率をあげることを重視したため、その内訳までは設問に盛りこんでいないのだが、自由記述からは、いずれの年も聴覚障害の受講者がもっとも多く、ついで視覚障害、肢体不自由の障害とつづいていることがわかる。また、数は少ないが、知的障害者、精神障害者対象の講習も行なわれており、その講師には作業所の職員や職業センターのカウンセラーなど、工夫がみられる。
(自治体数)
3. 講習上、障害者対象で準備したこと、配慮(複数回答)
「手話通訳、要約筆記」は障害者配慮を行った214自治体の半分以上の138自治体がつけている。次いで、音声読み上げソフトが多く配慮されている。前述の設問で記したように、今回の受講生に、聴覚障害者、視覚障害者が非常に多いことがここからもわかる。
音声読み上げの講習については、実施自治体の3分の1強が読み上げソフト専用のテキストも利用しており、講習の配慮のレベルもあがっている。
また、わずかではあるが、知的障害者対象のテキストを準備している自治体もあり、広く共有したい貴重な取り組みも見られる。 (複数回答)
「その他」の配慮として数の多かったものや興味深いものには、以下があげられる。
・会場に来るまでのガイドヘルパー
・カセットやCDに入れた音声テキスト
・会場に磁気ループ
・1対1のボランティアを準備
・講座時間の独自設定
・聴覚・知的障害者のチャットソフト活用 等
4. 講師の所属
2001、2002年とも半分近い割合を企業委託が占めている。総務省の交付金がついた2002年には、多くのIT教育事業者がアクセシビリティの分野に参入した。集計結果から、視覚、聴覚のみならず、知的障害の分野でも企業が請け負っている実態がわかった。
また、企業に次ぐ委託先としては、両年ともに、福祉団体やボランティア団体が大きなウエイトを占めている。特に、委託数自体が大幅に減っている交付金のない2002年には、企業委託は約半数に減少しているのに比べ、福祉団体、ボランティアへの依頼はそれほど減っていない。
「その他」の項目ではNPOの活動が最も多く、次いで活躍しているのは、教員OB(特に盲学校、養護学校)、視覚障害者本人、職業リハビリセンターなど、障害特性を熟知したメンバーである。また、生涯学習課がIT講習を主催している場合は、公募した町民や、生涯学習センター登録講師など、障害分野に限らず、広く講師を求めていることがわかった。
(単位:自治体数 複数回答)
(単位:自治体数 複数回答)[画像:講師の所属のグラフ]
□しろいしかく 参考3 <担当講師の所属と講習会の継続性は関係ある?>
企業が講師を担当した場合と、地域ボランティアが講師を担当した場合とで、その後の継続性に違いがあるかを取ってみた。若干ではあるが、ボランティアが担当したケースのほうが次年度の実施率が高い傾向にある。
・2001年度に、企業が障害者対象講習の講師をしたケース
[画像:企業が講師をした際の継続性のグラフ]
・2001年度に、地域ボランティアが障害者対象講習を講師をしたケース
5. 講習後の支援について
講習後に「何らかの支援を行っている」自治体は、「していない」自治体の約2倍であり、およそ70%の自治体が継続フォローをしている。
支援内容は、地域のパソコンボランテイアや支援団体、サポートボランティア等につなぐような情報提供の他に、パソコン常設場所の設置や、相談受付といった人の支援も行われている。 しかし、一方で、有効なフォロー策が見出せず、財源的な制限もあり、いわゆる「やりっ放し」になってしまう実情もあるようである。
(複数回答)
「その他」の支援内容で出た主なもの、興味深いものには、
・他でやっているIT講習情報の紹介
・パソコン相談員の配置
・パソコンヘルプデスク開設
・パソコン周辺機器購入の助成
・自主グループの育成
がある。
財源不足はもとより、必要な機器の情報やノウハウがなく、開催したい思いはありながら実現できず苦慮している自治体の担当者の姿が見える。また、必要な支援の鍵のひとつが、あらゆる形の「連携」であることも見逃せない。「障害者自身がITを使いたいという意欲を持つことが最も大事」であり、そのためには、生活支援者を巻き込んだ支援が必要という発想も現実的である。
自由記述の主なもの
○しろまる人的支援
・ノウハウをもつ講師やボランティアの派遣。そういう人材の育成 登録のしくみ
・講習会実施のためのアドバイザ機関
・会場まで受講者を介助する移動の際の支援者
○しろまる財源的な支援
・機材購入・メンテナンスに関わる助成金
・障害にあった個別の支援機器の貸し出し制度
・専門的な業者を活用する際の財政支援措置
○しろまる情報提供
・テキストや資料の事例
・必要な機材など一目でわかるような支援側のマニュアル
○しろまる連携
・自立生活をサポートする保健・福祉行政スタッフなどと連携 生活の中でITは必要なものであるから
・受講対象者が少ない地域では、継続のためには広域での連携による取り組みが必要
・町職員が企画・運営するにはマンパワー不足 県や周辺の市区町村との協力体制
・生涯学習課、福祉課、電算課、等の横の連携が必須
・福祉団体、サークル等の継続的な協力
○しろまるその他
・障害をもつ人自身がITを利用したいという意欲を持つような支援体制を
継続的な講習用の財源が無い中で、一般財源や単発の助成金などを組み合わせ、工夫している実態がうかがわれる。しかし、定期開催や機材のメンテナンスを考慮すると、現実的にはかなりの自治体が苦慮している。
自由記述の主なもの
○しろまる利用財源
・国の特例交付金 ・県の補助金 ・社会参加促進事業 ・共同募金分配金
・身障者デイサービスの一環 ・緊急地域雇用創出事業 ・障害者地域自立支援事業
○しろまる人的支援
・福祉施設でヘルパーや手話通訳者を出してもらった
・パソコンボランティアにマンツーマンの実施教育を協力してもらった
受講者の声から、障害者対象の講習は概ねどこの自治体でも喜ばれ、期待されているように見受けられるが、問題は、この体験的な講習のあとのフォローのようである。どこまでのアフターフォローが適切なのか、アプリケーションの習得や、就労レベルまで意識した自治体もあったが、まずは、生活レベルの基本的なリテラシーとネット利用を本筋とした自治体が最も多い。
また、前項でも出たが、障害者だけに閉じず、一般の講習の中で受け入れるべきでは、という意見も多かった。各自治体が独自の方法でチャレンジしていけばよいものと基本的には思われるが、進捗のスピードや必要な支援は障害の特性によってそれぞれであるため、特別な支援や個別のテキストが必要な方には、配慮のある、安心して受講できる講習を準備する必要がある。
中には、学校形式でなく、同じ会場ではあるがマンツーマンで自分のペースで進める授業形態をとることにより、工夫して障害有無を問わず共に学ぶ環境を考慮しようとしている自治体もあった。
自由記述の主なもの・興味深いもの
・障害者グループの育成、交流を促進し、その中で自発的に教えあうような運営を考案
・受講者間の障害の差が大きいので、学校形式は無理な場合も それ以外の選択肢必要
・重度障害の方は、かなり特殊な入力機器や、姿勢への指導が必要 専門家のフォローも
・手や神経の疲労など身体的なことも考慮できないと本当はだめだと思う
・一般の方と一緒に受講した方は喜んだ 障害者のみの講習など成立しないのでは
・せっかく受講してもパソコンが買えない方はそこで終わり 安いレンタル制度などあるとよい
・本当に大切なのは受講者が成果を社会生活の中で生かしていくこと
・広報をどのように行うと、本当に必要な人に届くのか
・今後は、人数の多い体験型(単発型)から少人数の技術習得型(シリーズ型)へ移行の必要あり
・ITリーダーを地域で養成するノウハウが今後は必要
・「出前講座」形式で、ハード・ソフトは県、講師は市町村、など役割負担できれば現実的
以上