• 日本語
Event: 日本環境教育学会 第 36 回年次大会(北海道)
Date: 2025年10月11日(北海道教育大学釧路校)

近年、気候変動の深刻化に伴い、それを要因とする人の移動が世界各地で発生している。世界銀行の Groundswell 報告書(2021)によれば、2050 年までに 2 億 1600 万人が国内移住を余儀なくされる懸念が指摘されており、東アジア・太平洋地域では 4900 万人の国内避難民が発生する可能性があるとされる。しかし、気候変動のみが移動の直接的な要因ではなく、経済や教育といった複合的な要因が絡み合うため、その実態は把握が困難であり、国際的な難民・移民政策のギャップを生んでいる。本研究は、気候変動の影響を受けやすい太平洋島嶼国から、地理的に近接するオーストラリアとニュージーランドへの人の移動に焦点を当てる。これらの国は歴史的に労働力として太平洋島嶼国の人々を受け入れてきたが、既存の移住スキームは気候変動の適応策を意図したものではなく、主に若く健康な労働者を対象としている。先進国の温室効果ガス排出が気候変動の主因であるという認識から、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の損失と損害の交渉が進む中、労働移住スキームを積極的な適応策として捉えることの是非については、慎重な議論が求められる。これまで、移住者の受ける恩恵が前提とされてきたが、移住先で社会的・経済的に脆弱な立場に置かれる可能性や、壮健な労働人口の流出に依る祖国の気候変動対応能力の侵食といった負の側面についても着目し、既存の議論に対して新たな視点の追加を試みる。
日本は、オーストラリアやニュージーランドと同様、太平洋地域における主要なドナー国である。今後、太平洋島嶼国に加え、東・東南アジアからの気候変動に脆弱な人々を受け入れる可能性もある。外国人に対する排他的な感情が高まる昨今、先行事例から学び、いかにして当事者と共に生きていくか。移動を余儀なくされた人々だけでなく、受け入れる側の教育機関や地域社会も、共に学び合うことが重要となる。本発表では、2025 年 9 月の現地調査の結果に基づき、気候変動による人の移動がもたらす課題と、それに対応する気候変動教育のあり方について考察する。

日付:
Languages:
  • 日本語
Event: 日本環境教育学会 第 36 回年次大会(北海道)
Date: 2025年10月11日(北海道教育大学釧路校)
出版日:

近年、気候変動の深刻化に伴い、それを要因とする人の移動が世界各地で発生している。世界銀行の Groundswell 報告書(2021)によれば、2050 年までに 2 億 1600 万人が国内移住を余儀なくされる懸念が指摘されており、東アジア・太平洋地域では 4900 万人の国内避難民が発生する可能性があるとされる。しかし、気候変動のみが移動の直接的な要因ではなく、経済や教育といった複合的な要因が絡み合うため、その実態は把握が困難であり、国際的な難民・移民政策のギャップを生んでいる。本研究は、気候変動の影響を受けやすい太平洋島嶼国から、地理的に近接するオーストラリアとニュージーランドへの人の移動に焦点を当てる。これらの国は歴史的に労働力として太平洋島嶼国の人々を受け入れてきたが、既存の移住スキームは気候変動の適応策を意図したものではなく、主に若く健康な労働者を対象としている。先進国の温室効果ガス排出が気候変動の主因であるという認識から、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の損失と損害の交渉が進む中、労働移住スキームを積極的な適応策として捉えることの是非については、慎重な議論が求められる。これまで、移住者の受ける恩恵が前提とされてきたが、移住先で社会的・経済的に脆弱な立場に置かれる可能性や、壮健な労働人口の流出に依る祖国の気候変動対応能力の侵食といった負の側面についても着目し、既存の議論に対して新たな視点の追加を試みる。
日本は、オーストラリアやニュージーランドと同様、太平洋地域における主要なドナー国である。今後、太平洋島嶼国に加え、東・東南アジアからの気候変動に脆弱な人々を受け入れる可能性もある。外国人に対する排他的な感情が高まる昨今、先行事例から学び、いかにして当事者と共に生きていくか。移動を余儀なくされた人々だけでなく、受け入れる側の教育機関や地域社会も、共に学び合うことが重要となる。本発表では、2025 年 9 月の現地調査の結果に基づき、気候変動による人の移動がもたらす課題と、それに対応する気候変動教育のあり方について考察する。