抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)」が拡大!一人ひとりができることは?
耐性菌と戦う抗菌薬
風邪を引いたからと抗菌薬をもらいに病院に行っていませんか?そもそも風邪などウイルスによる感染症に抗菌薬は効きません。抗菌薬は細菌に対して効果があるものであり、不適正な使い方により、その抗菌薬が将来効かなくなることがあります。いま、世界中で抗菌薬の効かない耐性菌が増加しています。このまま耐性菌への対策を講じなかった場合、2050年には世界で年間1,000万人が死亡し、がんによる死亡者数を超えるという推計が発表されています(オニールレポート)。また、別の推計では、2019年に耐性菌が直接の死因となったのは世界で127万人、耐性菌の関連死が495万人と推計されています。日本国内に関しては、2019年の推定にて、2種類の薬剤耐性菌による菌血症患者の推定死亡者数は年間8,000人にのぼるとされています。薬剤耐性の仕組みと危険性、拡大防止のために私たち一人ひとりができることを紹介します。
1薬剤耐性(AMR)とは?
細菌やウイルスなどの病原体によって引き起こされる病気のことを「感染症」といいます。こうした感染症の中で、細菌が原因で引き起こされる病気に有効なのが、原因となる細菌を殺したり、その増殖を抑制したりする働きを持つ「抗菌薬」です。抗菌薬(※(注記)1)により、様々な感染症の治療が可能となりました。
しかしながら、1980年以降、従来の抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR(※(注記)2))」を持つ細菌が世界中で増えてきており、感染症の予防や治療が困難になるケースが増加しています。そして、今後も抗菌薬の効かない感染症が増加することが予測されます。
※(注記)1 抗菌薬
抗菌薬は、細菌に対して作用する薬剤の総称です(同様に、薬剤が対象とする病原体に応じて、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗寄生虫薬などがあります)。
※(注記)2 薬剤耐性:AMR (Antimicrobial resistance)
特定の種類の抗菌薬や抗ウイルス薬等の抗微生物剤が効きにくくなる、又は効かなくなることを「薬剤耐性」といいます。薬剤耐性を得た細菌を「薬剤耐性菌」といいます(なお、薬剤耐性は、細菌だけではなく、ウイルスや寄生虫(原虫)でも確認されますが、本稿では細菌に限定して記載しています)。
耐性菌が増えると、抗菌薬が効かなくなることから、これまでは、感染、発症しても適切に治療すれば軽症で回復できた感染症が、治療が難しくなって重症化しやすくなり、さらには死亡に至る可能性が高まります。
薬剤耐性の危険性:抗菌薬が効きにくい種類の細菌が増え、感染症の治療が難しくなる。それによって、流行のリスクや重症化のリスクが高まる。
特に、免疫力の弱い乳幼児や妊婦、高齢者、また、持病を持つ人は、感染症にかかると重症化しやすくなります。耐性菌が広まり使用できる抗菌薬が減ると、命の危険が高まります。
薬剤耐性(AMR)の拡大防止は、私たちにとって非常に重要なことなのです。
2薬剤耐性(AMR)の拡大を防ぐには?
薬剤耐性(AMR)の拡大を防ぐためには、そもそも感染症にかからないようにし、抗菌薬を必要とする機会を少なくすることが重要です。感染を予防するためには、日ごろからの、正しい手洗いやうがい、マスクの活用などが重要になります。また、生活や食事、休養などに配慮して、健康に気をつけることも大切です。また、ワクチンで予防できる細菌感染症(肺炎球菌感染症、インフルエンザ桿菌(Hib)感染症、破傷風、百日咳など)もあります。必要なワクチンはきちんと接種しましょう。
次に、ウイルスによる感染症に対しては、必要のない抗菌薬を処方しないという取組が重要です。もしも、感染症にかかってしまい、病院に行った際には、医師に自分の症状を詳しく説明し、医師が適切な診断を下せるようにしてください。ウイルスによる感染症(ウイルス性の風邪など)で、抗菌薬が処方されない場合にも、医師の診断に従って、抗菌薬を不必要に求めないようにすることが重要です。
それと同時に、私たち一人ひとりが抗菌薬を適切に使用することも重要です。
例えば、「この薬は必ず5日間、飲み切ってくださいね」と医師から指示された薬を、症状が軽くなったからといって途中で止めてしまったことはありませんか?また、「1回2錠を飲んでください」などと指示された薬を、勝手に1回1錠に減らして服用したことはありませんか?
医薬品は、医師や薬剤師の指示から外れた使い方をすると、十分な効果が期待できません。特に抗菌薬については、こうした不適切な使い方をすると新たな耐性菌が出現するリスクが高まります。
薬剤耐性(AMR)の拡大を防ぐためにも、抗菌薬を服用する際は、医師や薬剤師の指示を守って、必要な場合に、適切な量を適切な期間、服用しましょう。
もしも以前に処方された抗菌薬が残っていても、それを自己判断で飲むことは止めましょう。似たような症状でも、原因となる細菌が異なる場合がありますし、例え同じ細菌だとしても、中途半端な抗菌薬の使用は、耐性菌を増やす原因になりかねません。
私たち一人ひとりが、抗菌薬に対する正しい知識を持ち、正しい使い方をすることで、薬剤耐性を広げないようにしましょう。
コラム1
なぜ薬剤耐性(AMR)が広がるの?
必要のない抗菌薬を服用することで、体内にいる細菌がその抗菌薬への耐性を持つ可能性が高くなります。また、処方された抗菌薬の服用を自分の判断で途中で止めるなど、指示された服用方法を変更してしまうと、残った細菌から耐性菌が出現する可能性が高くなります。こうして生まれた耐性菌が、自分の体内にとどまり(保菌)、また周囲の人々に伝播していくことで、薬剤耐性は広がっていきます。そして、抗菌薬の効かない細菌が広まることで、感染症に対する有効な治療法がなくなってしまうのです。
抗菌薬を適切に使い続けると最近はほぼ死滅する。一方、抗菌薬を使っていても、症状が軽くなったからといって途中で抗菌薬をやめると抗菌薬に耐えた細菌が生き残ってしまう。
3薬剤耐性(AMR)への取組はどうなっているの?
いまや薬剤耐性の問題は、世界中の国が直面している共通の問題となっています。
こうした状況を踏まえて、WHO(世界保健機関)は、次のような注意喚起を行っています(※(注記))。
「薬剤耐性により、これまで以上に増加している細菌、寄生虫、ウイルスや真菌が引き起こす感染の効果的治療や予防が難しくなっている。
薬剤耐性は、世界規模の公衆衛生にとって深刻化する脅威となっており、全ての政府機関や社会が行動を起こす必要がある。」
※(注記)(英語)WHO:Antimicrobial resistance Fact sheet
※(注記)(日本語)公益社団法人日本WHO協会「WHOファクトシート(薬物耐性)」
我が国でも平成28年(2016年)から「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」(※(注記))に基づき、下記の6つの分野において薬剤耐性対策に取り組んでいます。
分野 | 目標 |
---|---|
普及啓発・教育 | 国民の薬剤耐性に関する知識や理解を深め、専門職等への教育・研修を推進 |
動向調査・監視 | 薬剤耐性及び抗微生物剤の使用量を継続的に監視し、薬剤耐性の変化や拡大の予兆を適確に把握 |
感染予防・管理 | 適切な感染予防・管理の実践により、薬剤耐性微生物の拡大を阻止 |
抗微生物剤の適正使用 | 医療、畜水産等の分野における抗微生物剤の適正な使用を推進 |
研究開発・創薬 | 薬剤耐性の研究や、薬剤耐性微生物に対する予防・診断・治療手段を確保するための研究開発を推進 |
国際協力 | 国際的視野で多分野と協働し、薬剤耐性対策を推進 |
コラム2
11月は薬剤耐性(AMR)対策推進月間です
日本では薬剤耐性(AMR)に係る全国的な普及啓発活動を推進するため、平成28年度(2016年度)から毎年11月を「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」に設定しています。「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」では、政府機関だけではなく民間の様々な団体が一体となって、普及啓発に係る取組を重点的に実施していきます。
※(注記)なお、WHO(世界保健機関)では平成27年(2015年)から「世界抗菌薬啓発週間」、令和5年(2023年)からは改称し「世界AMR啓発週間」(毎年11月18日から24日)を設定しています。
(取材協力 内閣感染症危機管理統括庁、厚生労働省 文責 内閣府政府広報室)