始めませんか? 労務費を反映した価格交渉
この記事でわかること
労務費の価格転嫁とは、人件費などのコスト上昇分を商品やサービスの価格に反映させることを言います。これにより企業が収益性を維持し、物価高に負けない賃上げを行うことが期待されています。
しかし、原材料費やエネルギーコストに比べると労務費の価格転嫁は低い水準で推移しており、特に受注者側となることが多い中小企業にとって大きな課題となっています。
労務費の価格転嫁を実現するための基礎知識や相談窓口について紹介します。
労務費の適切な価格転嫁のための基礎知識
- 「労務費が上がったので取引価格の引上げをお願いしたいけれど、発注減少や取引停止などを考えると言い出せない」。
- 「労務費上昇分の価格交渉をしたいけれど、どうやって交渉すればよいか分からない」。
- 「取引価格について労務費の上昇分の引上げをお願いしたら、「労務費は生産性を高めることでまかなってください」と言われた」。
このような悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。
価格交渉は多くの取引で行われています
労務費を価格転嫁したいけれどなかなかできないという企業が多い一方、労務費に関わる価格交渉は多くの取引で行われるようになってきています。
43業種・11万事業者を対象とした公正取引委員会の「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」では、全ての商品・サービスについて価格交渉をした割合は59.8%、一部の商品・サービスについて価格交渉をした場合も含めると68.0%となっており、既に多くの企業で価格交渉を実施しています(図表1)。
また、労務費の転嫁率についても令和6年度調査では62.4%と前年度から17.3ポイント上昇しており、受注者の要請に対して取引価格が引き上げられている状況となっています(図表2)。
注1:発注者の立場で、受注者からの労務費上昇を理由とした取引価格の引上げの求めに応じて、価格協議をしたか否かの割合
注2:この転嫁率は、受注者が価格転嫁を要請した場合に、要請した額に対してどの程度取引価格が引き上げられたかを示すものであるが、その要請額は、実際の労務費の上昇分の満額ではなく、上昇分のうち受注者が発注者に受け入れられると考える額に抑えられている可能性があることに留意する必要がある。
図表1.2出典:公正取引委員会「「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(令和6年12月16日)」
同じく公正取引委員会「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」の結果について(令和6年12月16日)では、次のような取組を紹介しています。
- 発注者から価格交渉の場を設ける旨の連絡があり、価格交渉が開始された。
- 昨今の労務費上昇を反映させるために交渉を申し入れ、春季労使交渉の妥結額等をエビデンスとして提出し、要望どおり転嫁が認められた。
- 労務費や原材料価格高騰に伴うコストアップに対応するため、今年に入ってから価格交渉を申し入れ、要望した金額で快諾された。
このように、労務費の取引価格への転嫁の流れは確実に進んでいます。では、「労務費の上昇分を価格転嫁したいけれど、何から始めたらいいのか分からない」場合、どのような行動を起こしたら良いでしょうか。
価格交渉時のポイント「労務費転嫁指針」
労務費の適切な価格転嫁に向けた行動を起こすにあたり、参考となる情報として「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(労務費転嫁指針)があります。これは労務費等のコスト上昇分を適切に価格転嫁するための発注者・受注者双方の行動指針を定めたもので、2023年11月に内閣官房と公正取引委員会により策定されました。
前述の公正取引委員会の「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」によると、調査の対象とした43業種・11万事業者のうち約50%が労務費転嫁指針を知っており、労務費転嫁指針を知っている事業者のほうが価格交渉において労務費の上昇を理由とする取引価格の引上げが実現しやすい傾向がみられます。
知っておきたい「労務費転嫁指針」の概略とポイント
「労務費転嫁指針」が策定された背景は?
物価高に負けない賃上げを行うには、原材料価格やエネルギーコスト、労務費などの適切な価格転嫁を通じた取引適正化をサプライチェーン全体で定着させることが不可欠です。こうしたことから政府は価格転嫁対策に全力で取り組んでおり、その一環として「労務費転嫁指針」を策定しました。
発注者及び受注者が採るべき行動・求められる行動
「労務費転嫁指針」では、発注者及び受注者が採るべき行動・求められる行動を12の行動指針として取りまとめています。
- 本社(経営トップ)が関与すること
- 労務費の転嫁について発注者から定期的に交渉の場を設けること
- 受注者に労務費等上昇の理由の説明や資料を求める場合は公表資料とすること
- サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと
- 受注者から要請があった場合は交渉のテーブルにつくこと
- 必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に関する考え方を提案すること
- 国・地方公共団体の相談窓口などを積極的に活用し、情報を収集して交渉に臨むこと
- 労務費等の上昇傾向を示す根拠資料としては公表資料を用いること
- 定期的に行われる交渉のタイミングなど受注者が価格交渉を申し出やすいタイミングを活用して行うこと
- 発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示すること
- 定期的にコミュニケーションをとること
- 価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者と双方で保管すること
価格転嫁を実現するためのポイントは?
労務費の適正な価格転嫁を実現するには、受注者は「労務費転嫁指針」に沿った4つの行動を、発注者は6つの行動を理解しておくと役立ちます。
利用できる様々な相談窓口
最後に、労務費の適切な価格転嫁に向けた行動を起こそうと考えた際の相談窓口等について紹介します。
経済産業省や公正取引委員会、中小企業庁などで相談窓口の設置や事例の提供等を行っています。「労務費の上昇分を価格転嫁したいけれどなかなかできない」とお悩みのかたは、まずは相談したり、情報を集めたりすることから始めてみませんか。
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