VOL.201 MARCH 2025
Traditional knowledge and skills of sake-making with koji mold in Japan
日本酒造りの理想郷で育まれた広島県西条の酒
JR西条駅前から続く西条酒蔵通り沿いに建つ赤レンガの煙突と白壁が印象的な酒蔵
Photo: 一般社団法人広島県観光連盟
広島県東広島市の西条は、マスメディアなどで、京都府の伏見、兵庫県の灘と並ぶ日本の三大酒どころの一つとして取り上げられる。酒造りに適した気候風土を持つ西条の日本酒の特徴や酒造りの歴史について、西条酒造組合の役員のかたに話を聴いた。
西条酒造組合の理事長であり、福美人酒造株式会社の社長である島 治正さんは、西条の酒の味をこう説明する。
「西条の酒は、地元の名水と磨き抜いた酒米を使用しており、きめ細やかな女酒と称されるほど繊細で芳醇な味わいです」
その味わいは、この地の気候風土が生み出していると島さんは教えてくれた。
「日本には酒造りが盛んな場所は数多くありますが、その中でも、西条ほど酒蔵が密集している場所はそう多くありません。まわりを龍王山(標高約549メートル)などの山々に囲まれた標高250から300メートルの盆地に位置し、寒暖差のある気候で、龍王山を源とする名水に恵まれているという気候風土を備えたこの土地は、酒造りに適した理想的な環境といえるでしょう。酒の仕込みに適した中硬水の井戸水、冬場がよく冷える内陸性の気候、そして作り手である杜氏1の技術。その全てが西条の酒造りを支えています」
西条の酒造りの歴史は17世紀半ばから始まったという。
「西条での酒造りの歴史は、350年以上前、1650年頃と言われています。当時、西条は主要な陸路の中継地の町として栄えていました。やがて宿に宿泊する客のための酒の需要があり、酒造業が始まったのです。一番古い歴史を持つ白牡丹酒造の創業は1675年と今年(2025年)でちょうど350年となります」
実は、島さんの会社である福美人酒造は、発酵工学の技術を実際に学ぶ教育機関のような役割を担って、優秀な杜氏を育てて全国の蔵元に送り出していた。1970年頃まで「西条酒造学校」とまで呼ばれたことでも知られている。
Photo: 一般社団法人広島県観光連盟
近代に入ると、西条では酒の生産量が増加していった。
「1896年に地元の世界的精米機メーカーが、日本で最初に動力精米機2を考案し、生産販売を開始しました。また、同時期に山陽鉄道3が広島県内で三原市から広島市まで延伸したことで、陸路での酒の運搬が容易になったのです。この二つの出来事が、西条を一気に全国を代表する酒どころへと押し上げました」
現在、西条酒造協会では、独自の清酒認証要項を定めている。広島県産の酒造好適米が100%使用されているかなど、さまざまな基準をクリアした酒だけが「SAIJO SAKE」と名乗れることを認定しているという。
Photo: 一般社団法人広島県観光連盟
西条では、現在も西条駅(JR山陽本線)前から続く西条酒蔵通りに7社の酒造会社が建ち並ぶ。レンガ造りの煙突と赤い瓦屋根の建物の白壁の酒蔵は昔ながらの風情そのままだ。2009年、一帯は「西条の酒造施設群」として「日本の20世紀遺産20選」の一つに選定され、2024年に国の史跡に指定された。
「西条酒蔵通りの最寄の駅、西条駅は山陽新幹線の広島駅から30キロメートルほど。乗り換えがなくアクセスもよいです。是非、広島市から少し足を伸ばして、東広島市の西条にもいらしてください。秋には全国の地酒を約800銘柄試飲できる「酒ひろば」や酒蔵イベントなどが楽しめる「酒まつり」も、東広島市をあげて開催されます。海外のかたも、機会があれば西条にお越しいただき、風情ある街並みを歩いたり、酒蔵見学を予約して試飲したり、酒造りの街を思い思いに楽しんでいただけたらと思います」
Photo: 東広島市観光協会
- 1. 酒造りの総責任者、技術指導を行う。
- 2. お米の籾をとりのぞいた状態(玄米)から糠を取り除く精米作業を行う機械のこと。精米とは、玄米の果皮や胚芽、ぬかを取り除く作業で、精米されたお米を白米という。
- 3. 1894年に開業した長距離鉄道。関西と九州をつなぐ重要な鉄道ルートとして神戸(兵庫県)から下関(山口県)を結んでいた。現在のJR山陽本線のもとになった鉄道。
Photo: Hiroshima Tourism Association; Higashihiroshima City Tourism Association