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VOL.210 DECEMBER 2025
SCHOOLS IN JAPAN 日本の学校の自治と協働文化で育まれる社会性

授業の終わりに黒板を消す「日直にっちょく」の様子

日本には、子どもたちが役割を分担しながら学校生活を運営する文化が根付いている。「特別活動1」と呼ばれる学級活動や児童会活動、学校行事などを含む教育の仕組みは、協調性や公共心を育てる日本独自のものとして注目されている。その背景と、学校現場における実践の意義について専門家に話を聴いた。


給食のおかずを器に盛る「給食当番」の様子。

日本には「みんなで学校を運営する」という考え方のもと、クラス全員が分担して行う「日直にっちょく2」や「掃除当番3」などの当番、異学年の児童同士が協力して行う「委員会活動4」など、子どもが役割を担う制度がある。こうした分担・協働の文化を通して、子どもが自律性や公共心を育む教育のあり方を研究しているのが、筑波つくば大学人間系准教授のきょうめん 徹雄てつおさんである。京免さんは、学校文化を国際的に比較する研究をしており、「特別活動」を含めた日本の学校文化の歴史と特徴を次のように説明する。

「日本の学校は「学ぶ場」であると同時に「生活の場」として発展してきました。19世紀末に学年別の「学級(クラス)」5制度が導入され、児童は「学級」を単位として一日の多くを共に過ごすようになりました。新しい環境で安定した関係を築くため、学級は家族や地域社会のような情緒的つながりを持つ場として形成されたのです」

児童が主体的に学校生活を運営する考え方は大正時代(1912年から1926年)以降更に発展し、各地に独自の学級文化活動が広がっていった。奈良女子高等師範しはん学校6附属小学校では1919年、立憲政治を模した学級組織を導入し、当番や係を整えて全児童が役割を担った。「1930年代には、学級文集や新聞の発行など児童中心の文化活動が進み、自主運営の実践が広がりました」と京免さんは話す。

戦前は「課外活動」として扱われたこれらの自治活動は、戦後は教育課程に位置付けられ、現在は「特別活動」として実施されている。「教科の学びに加え、自律性や協調性、公共心を育む点が日本の教育の特徴です」と京免さんは指摘する。とりわけ学級活動の一つである清掃は、仏教文化の「掃除=修行」という思想がその背景にあり、衛生管理を超えて心を整え、他者への思いやりを育む実践として定着したという。

一方で多くの国々では、学校は主として「学ぶ場所」であり、全員が日常の運営に関わる例は少ない。「日本の学級活動は、いわば「直接民主主義」の教育です。全ての子どもが意見を出し合い、合意形成を経て、自分の役割を果たします。その経験が社会での「生きる力7」になります」と京免さんは指摘する。また、学年の違う子どもたちが協働する「たてり活動」 も、海外ではあまり見みられない実践である。特別活動の児童会活動として行われる委員会活動や、クラブ活動、学校行事なども、異学年の児童が協力して行う活動であるが、それ以外でも遊びや登下校などの縦割り活動が行われている。年齢や能力の差を尊重して協力することで、互恵的な関係が生まれ、社会性の基礎が培われる。

特別活動においては、教師が活動の意義を子どもと共有し、過度な管理を避けながら振り返り、子ども同士の協働を円滑に進めることが重要である。

近年の特別活動の変化について、京免さんは次のように説明する。

「子どもたちが互いに助け合って学ぶこと」と「一人ひとりの個性や学び方を尊重すること」の両立が重視される中で、学級を維持するために必要な当番活動に加え、あるともっと学級が楽しく人間関係が豊かになる「かかり活動」の役割があらためて注目されています」

係活動は、動植物の世話、遊び、ゲームや映画上映を企画するなど子どもがやってみたいと思う内容を、自主的に担うものであり、自発性や責任感を育む機会となっている。学級を一つの生活共同体とする日本の学校文化の象徴といえる。


動植物の世話をする「いきもの係」の様子。

「社会参画としては当番も係も同じですが、係活動はより子どもが自分の良さ、得意なことを発揮する場となっています」と京免さんは話す。

日本の学校文化に息づく「みんなで作る」精神は、知識の習得に加え社会の一員として「生きる力」を育てるものであり、世界の教育関係者がこの日本の教育モデルに関心を寄せる理由がそこにある。


エジプトの学校の清掃活動の様子。日本型教育「特別活動」は「Tokkatsu」として海外展開されている。
Photo: 京免 徹雄
  • 1. 集団や社会の形成者としての見方・考え方を働かせ、様々な集団活動に自主的、実践的に取り組み、互いのよさや可能性を発揮しながら集団や自己の生活上の課題を解決することを通して、資質・能力 を育成することを目指す教育活動。(参照:子どもの「生きる力」を育む日本の学校教育 | December 2025 | HIGHLIGHTING Japan)
  • 2. 学級内に日替わりで設けられた当番。朝の挨拶、出欠確認、授業の号令、黒板を消す、先生への報告などを行う制度として小学校から高校まで広く導入され、責任感やリーダーシップ、協調性の育成が教育的狙いとしてある。
  • 3. 児童生徒が自ら校舎や教室を清掃する活動。公共心や協調性を養う教育的活動とされる。
  • 4. 学級や学年を越えて児童生徒が学校運営の一部を担う活動。掲示物、図書、放送など分野ごとに分担する。
  • 5. 日本の学校で同じ学年の児童生徒が固定メンバーで所属する単位。授業と日常生活の両方を共にする「クラス」にあたる。
  • 6. 師範学校とは、1872年から1950年頃まで設置された教員を養成するための学校。奈良女子高等師範学校(1908年から1952年)では、女子中等学校の教員養成が行われた。
  • 7. 文部科学省が学習指導要領で定める、これからの社会を生きるための、知(学力)、徳(豊かな人間性)、体(健康・体力)のバランスのとれた力のこと。

By TANAKA Nozomi
Photo: KYOMEN Tetsuo; PIXTA

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