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社会学専攻の特徴

慶應義塾大学文学部の社会学専攻は、社会学とともに、社会心理学、文化人類学という三つの分野で構成されている点に大きな特徴があります。三つの視座を横断的に学ぶことで、人間の社会生活を総合的に理解することが目指されています。

一見些末な事象を深掘りする

私は自分の研究分野について、「都市空間論」または「都市の技術社会史」と名乗っています。そのときどきの文脈で使い分けをしており、一方で、現代の都市空間の特徴にフォーカスするときには「都市空間論」という看板を出し、他方、都市的環境を支える基盤的な技術について、その成立過程を歴史的に問うときには「都市の技術社会史」と名乗っています。

研究のお手本になっているのは、W.ベンヤミン、G.ジンメル、W.シヴェルブシュといったドイツ系の思想家や社会学者、社会史家の仕事です。彼らはパサージュ(鉄とガラスでできたアーケード)や額縁、列車の座席のクッションなど、一見些末な事象を深掘りするなかで、集合的な知覚や想像力の隠れたパラダイム転換を引き出してくるという、共通した思考のスタイルを示しており、彼らのみごとな手際に魅了されて、同じような仕事がしてみたいと思ったわけです。

複製的な空間を
ニュートラルにとらえる

研究の基本的態度として、彼らの少しひねくれた姿勢を引き継ぎたいと思い、なるべく正統的ではない、「なにそれ?」と思われそうな研究テーマを選んでいます。

たとえばショッピングモールやコンビニエンスストアなど、複製的な消費装置が増殖している現在の都市空間を問うとき、通常の社会学者であれば、それらの消費装置を悪者扱いし、どこもかしこも均質化する状況を嘆くというのが常套的な立場となります。それに対して私としては、複製的な空間を一律に悪者扱いするよりも、それらの空間が何をもたらし、現在の都市空間がどのように変容しつつあるのかを、もう少しニュートラルに見極めた方がよいのではと考えています。これは、写真や映画などの複製技術が芸術を堕落させるとみる守旧派に対して、その逆に、複製技術が芸術の新たな経験可能性を切り拓いた面もあると論じた、ベンヤミンの立ち位置を意識した問題設定です。

モノの次元から浮かびあがる
人間臭さ

また技術社会史的な研究としては、これまでに「地下鉄」「地下街」「街灯」「エアコン」「電柱」「送電鉄塔」といった主題を扱ってきました。社会学では通常、人びとの社会活動に主要な焦点があてられ、都市の空間や装置や技術は、そうした社会活動の容器や環境、背景であるにすぎないと軽視されるところがあります。しかし、自明の環境をなす空間や装置や技術には、私たちが形成する〈社会〉のいわば無意識的なクセが織り込まれており、それを読み解くことで〈社会〉の現在のあり方を逆算的に引き出すことができるのではないか、と考えています。

人びとが生活を営む都市空間を、無味乾燥なモノの次元に還元すればするほど、そこに意外なかたちで人間臭さが浮かびあがる――そのような「都市空間論」と「都市の技術社会史」を目指しています。


(注記)所属・職名等は取材時のものです。

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