エネルギアグループ知的財産報告書(2020年2月)


本報告書は,当社グループの研究・開発および知的
財産に関する活動についてご理解いただくための情報
提供のみを目的としており,いかなるコンテンツも投資
を勧める目的で掲載されてはおりません。
投資に関する
ご判断は,利用者ご自身の責任において行われますよう
お願いいたします。
本報告書記載内容のうち,当社グループの計画,方針,
戦略,事実認識等,将来に関する記述をはじめとする,
既に実現した事実以外の事項は,現在入手可能な情報
から得られた予測,想定,計画等を基礎としています。
また,既に実現した事実および一定の前提に基づいて
予測を行っており,客観的な正確性,将来の実現可能性
を保証するものではないことをご承知おきください。
本報告書に関する注意事項
この報告書について,
ご意見,
お問い合わせなどがございましたら,
お気軽に下記までお寄せください。
エネルギア総合研究所
(知財啓発権利化グループ)
〒730‐8701 広島市中区小町4‐33
TEL 082‐544‐2912 FAX 082‐544‐2913
http:/ /www.energia.co.jp/eneso/tech/chizai/
発行日:2020年2月21日【特集】 防災・災害への取り組みを支える知財活動
エネルギアグループ
知的財産報告書
2020年2月
知財で
電力新時代を
切り拓く。
活 用
人 材
保 護 創 造
エネルギアグループの知財活動イメージ
エネルギー業界の競争環境の変化が進むなか,
競争優位の源泉となるものは,
保有している企業のみが
コントロールできる知財であり,
それを生み出す人材と考えます。
当社グループは,
ステークホルダーの皆さまとのつながりを大切にしながら,
積極的に知財戦略を推進する
とともに,
それを支える人材育成に取り組んでいます。・戦略的な権利化・知財リスクへの対応・創意工夫・研究・開発・知財価値の顕在化・事業活動の自由度確保・人材育成・啓発活動・競争力強化を通じた企業価値の向上・積極的な情報発信
株主・投資家の
皆さま・低廉で質の高い電気の安定供給・知財を通じた社会貢献
お客さま・地域社会・標準化への取り組み・知財を通じたアライアンス
他事業者など・外部知見の有効活用・一体的な研究・開発
研究パートナー
(メーカー・大学・研究機関等)
電力小売り全面自由化からまもなく4年が経過し,
競争が一層激化するなか,
2020年4月には,
送配電部
門の法的分離により中国電力ネットワーク株式会社が
誕生し,
当社グループ経営は転換期を迎えます。
こうした
状況を踏まえ,
2030年をターゲットとする新たな経営
ビジョン
「エネルギアチェンジ2030」
を策定しました。
当社グループは,
これまで取り組んできたエネルギー
事業を柱としつつ,
今後の環境変化に合わせて
「ギア
チェンジ」
を図りながら,
グループ一体となって,
スロー
ガンに掲げる
「こえる、
つながる、
ひろげる」
新たな中国
電力グループを目指してまいります。
当社グループは,
事業運営のあらゆる場面で生み
出されている知的資産を知財として認識・活用し,
企業
価値を向上していくことがグループ存立の基盤であると
考え,
2003年度からグループ全体で知財戦略を推進
してまいりました。
そして今,
新たな中国電力グループを目指して,
その
事業活動の独自性を下支えする知財活動は,
より一層
注力する取り組みのひとつです。
また,
競争優位の源泉と
なる知財の活用を通じて,
地元企業の製品開発や知財
活性化に貢献する知財交流事業を展開してまいります。
近年,
全国各地で地震や台風,
大雨など甚大な被害
をもたらす災害が相次いでいます。
中国地方でも2018
年7月に西日本豪雨により甚大な被害に見舞われま
したが,
当社は災害対応の検証結果を踏まえ,
設備の
対策はもちろん,
停電情報アプリなどによる情報発信の
充実を図ったところです。
また,
災害時の早期復旧に
向けて,
電力会社間の応援も非常に重要となっており,
各社は応援要請を待たず,
自発的に要員や資機材など
の体制を構築し,
被災した電力会社へのプッシュ型
応援の体制を全国大で整えています。
地域のライフラ
インを担う事業者として,
送配電事業が分社化されても
災害時の対応はこれまでどおり,
一体となって取り組ん
でまいりたいと思います。
今回の報告書では,
防災・災害に対する日頃からの
対応や早期復旧に向けての取り組み,
西日本豪雨を
中心に防災・災害への取り組みを支える知財活動を
特集として取り上げています。
「防災・災害を支える知財
活動」
の一端をご覧いただければ幸いです。
当社グループは,
知的財産制度の枠組みを尊重・活用
した知財戦略の取り組みを一層深化させ,
ステークホル
ダーの皆さまのご期待に応えてまいりたいと考えていま
す。
その成果を知的財産報告書をはじめとしたさまざま
な活動を通じて積極的に情報発信するとともに,
皆さ
まからお寄せいただく声に十分耳を傾けてまいります。
今後とも,
一層のご理解とご支援をいただきますよう,
よろしくお願いします。
中国電力株式会社
代表取締役 社長執行役員
知財活動を競争力強化の
源泉として
ステークホルダーの皆さまの期待に
お応えするために
防災・災害への対応を支える
取り組みとして2 防災・災害への取り組みを支える知財活動
特 集
これまでの災害への取り組みを紹介します 11-13
西日本豪雨では一丸となって対応しました 07-10
防災・災害に向けて日々取り組んでいます 05-06
電気事業を支える基盤技術と特許の関わり 19-22219
電気事業を支える基盤技術
20-22
基盤技術と特許の関わり
基盤技術は
「発電」
「送電」
など10の分野に大別され,
相互に連携することで低廉で安定した電力供給を実現
基盤技術を権利化し事業活動の自由度を確保するとともに,
保有特許を活用するためのライセンス活動も推進
保有特許の事業への貢献を把握するという経営の観点から,
特許の価値の定量的評価を実施
研究・開発への取り組みと独自技術 23-283知財戦略の基本理念と推進体制 14-18123-24
研究・開発戦略
25-26
研究・開発の意義と独自技術
グループ企業の知財活動への取り組み ... 中国電機製造株式会社
コラム : 知財動画コンテンツの紹介 ...
27-28
研究・開発推進体制
事業強化に向けて特に優先度の高い分野に重点的に経営資源を配分するなど,
効果的な研究・開発を推進
価値の高い成果を生み出すため,
研究•開発の取り組みを効率的に進める規程や体制を整備
大規模設備や複雑な送配電ネットワークの運用ノウハウ・技術を基に,
ユーザー視点で独自の研究•開発を実施
共同研究,
共同開発やクロスライセンス,
標準化活動などを通じて,
外部の知見や技術を有効活用
14-15
知財戦略の3つの基本理念16 エネルギアグループの知財戦略の基本的な考え方
17-18
競争力強化の源泉は知的資産であり,
それを生み出す人材であるという考えに基づき3つの基本理念を規定
社員の約半数が発明者という裾野の広い活動や,
現業機関の社員の発明の多さが知財活動の特長
知財戦略推進体制
知財戦略推進のための支援体制や会議体を整備し,
事業戦略,
研究•開発戦略,
知財戦略を一体的に展開
事業運営のあらゆる場面で生み出されている技術・ノウハウ・アイデアなどを確実に知財化・権利化
知財戦略の推進により企業価値を向上させるため,
長期的視点で方針•目標を設定し,
段階的に展開
EnerGia IP Activity 2019 ー知財活動の概観ー
活 動 報 告 37-38
特許の価値の定量的評価/特許出願・登録件数・登録率の推移/発明者人口の推移 ほか
本報告書の開示項目は,
経済産業省の
「知的財産情報開示指針」
を踏まえ,
当社の取り組みの特長が最も明確になるよう,
項目の配列などを変更した構成としています。
オープンイノベーションの取り組みについて 29-30429-30
オープンイノベーションの具体的な取り組み
個々にあわせてオープンイ
ノベーションの取り組みを展開
商標への取り組み 31-32531-32
商標を通じたメッセージの発信
シンボルマーク
「EnerGia」や「ぐっとずっと。
Eサービス」
関連の商標を,
お客さまとのコミュニケーションで積極的に活用
知財リスクへの対応 33-34633-34
知財リスクに対する日常業務での対応
コンプライアンス最優先の考え方に基づき,
特許権等の侵害リスク対応を実施
CSRの取り組み 35-36735
知財を通じた事業活動36 地域貢献の推進
電気事業の知見を活用した国際事業
地域の人材育成や環境技術における貢献を通じた地域貢献
中国経済産業局 地域経済部 産業技術連携課 知的財産室 清棲 保美 様
を推進推を推進進推進
究 発開開 を
発を発開発
的な研
な研
な研究究研究研効果果効果的な的果的果る どなるな 効ど,どど配分す分配分 る
するす分
資源を源資源 配
を配を源
に経営経に経 資
営資営経
重点的点重点 に
的に的点
分野に野分野 重
に重に野
の い高の高 分
い分い高
優 度
先度
優先 の
度の度度
て に特て特 優
に優にに
に向け向に向 て
けてけ向
業強化強業強 に
化に化強業事業事コラム : 社内向け研究発表会
「エネルギアR&Dフォーラム2019」
VOICE34・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
田辺 亮太
エネルギア総合研究所
(知財企画法務グループ)18・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
木村 聖子
中国電機製造株式会社21・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・森崎 和幸 様
株式会社サンフレッチェ広島 クラブ・リレーションズ・マネージャー24・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
大原 久征
エネルギア総合研究所
(電力技術グループ)32・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・木原 実緒
販売事業本部
(コンシューマ第一グループ)OIICECECEOIOVOVV ICOIO3 4
共通
(11件)
発電設備
(11件) 送電設備
(7件) 変電設備
(6件) 配電設備
(21件)
防災
(38件) 被害状況の把握
(45件)
災害予測
(39件)
災害
(178件)
豪雨 豪雪 地震 台風
防災・災害への取り組みを支える知財活動
〜防災・災害に向けて日々取り組んでいます〜
復旧
(56件)
特集:防災・
災害への取り組みを支える知財活動
私たちは創業以来,
「お客さまに電気を安定して供給する」
ことを使命に取り組んでおります。
災害発生時においても,
少しでも早く
お客さまに電気をお届けするため,
体制,
マニュアルの整備や設備への対策等,
日頃から防災・災害への取り組みを進めています。
しかく各種マニュアルの作成:災害発生時の情報連絡および復旧に
関する事項を各種マニュアルに定め,
資機材等の整備など防災
体制の強化に取り組んでいます。
しかく訓練の実施:営業所等では,
応急復旧の技能訓練等を実施し,
全社
では総合防災訓練を毎年実施し,
情報連絡や復旧作業等の災害
対応が安全かつ迅速に行われるように備えています。
しかく設備への対策:発電設備では,
定期的な検査の実施に加え,
設備の
診断・点検結果や最新の技術知見をもとに,
計画的な設備の取り替
え等の予防保全対策を適切に実施し,
送配電設備では,
点検・巡視
を実施しながら機器の状態を把握し,
安定供給を実現しています。
しかく災害対策室の移設:大規模災害に備え,
より多様な情報を各事業
所間と共有できるよう2019年12月の移設にあわせて,
本社災害
対策室のシステム等を再構築しました。
特 集
【取り組み例】
防災・災害への日々の取り組み
知財活動においても,
過去の災害対応経験を活かし,
同様の災害への備えとするために,
日頃から防災・災害に関連する
ものも含めた発明創出活動に取り組んでいます。
生まれた知財は全国で広く活かせるよう,
他社へ積極的に展開しています。
以下の図では,
防災・災害に関係する知財に
ついて,
防災,
災害予測,
被害状況の把握,
復旧の4つのカテゴリーに分類して,
全体的な分布を示しています。
防災・災害への取り組みから生まれた知財活動
応援受入と応援派遣の責任者
として対応した社員にお話を
伺います。
(インタビュー当時の所属:送配電カンパニー
(広島営業所)) 2019年の台風15号,
19号による大規模停電は記憶
に新しく,
当社から東京電力パワーグリッドへ,
延べ504
名の応援派遣を行いましたが,
内35名は,
広島営業所
から派遣しました。
私自身も,
2018年は,
西日本豪雨において他の電力
会社からの応援受入の現地責任者として対応し,
台風21
号においては関西電力への応援派遣の現場での指揮に
あたりました。
応援の受入・派遣の両方を経験して感じたことは,
『情報の正確・迅速な展開』
の重要性です。
日頃から顔を
合わせる職場の仲間の
「あうんの呼吸」
の意思疎通は通
用しません。
例えば,
「被害全体のどれくらい復旧している
か」
「復旧目途はいつか」を,受入側・派遣側で共通認識を
持つことで,
発電機車の燃料の確保,
復旧要員の確保,
食糧と宿泊場所の手配などについて各社・各事業所・
各人で準備できることが拡がります。
台風・豪雨・豪雪・地震など災害の種別や規模あるいは
発生エリアによって復旧方針は異なりますし,
その方針も
復旧状況に応じて時々刻々と変更となりますので,
積極的
に情報を発信しながら,
相互に理解・確認することが,
安全確保と迅速な復旧に繋がると感じました。
また,
災害復旧は,
地域との連携が重要です。
例えば,
自治体による道路啓開(注記)
や自衛隊による海空を含めた
復旧資機材の運搬などがあります。
いざというときに協力
体制がとれるよう日頃から信頼関係を築いていくことが
重要です。
当社グループでは,
防災業務計画において,
他の電力
会社,
協力会社,
電力広域的運営推進機関と協調し,
電力,
要員,
資材等の相互融通等,
非常災害時における
相互応援のための体制を整備しています。
最後に広島営業所の知財の取り組みについてお話し
ます。
広島営業所では技能訓練等の機会に,
訓練や日常
業務の中で経験したヒヤリハットや困り事などの意見
交換を行い,
業務上の課題発掘へ繋げる取り組みに力を
入れています。
これらの内容をベースに業務改善や知財
提案につなげることが可能となっています。
近年では大規模災害も増えており,
西日本豪雨のよう
な被害を想定して技術開発を行っていくことも重要に
なってきていると感じます。
今後は防災や災害に関連する
ものも提案していきたいと思います。
災害による停電復旧
作業訓練の様子
総合防災訓練で対策本部長
として指揮を執る当社社長
移設後の本社内災害対策室
2014年8月の広島豪雨,
2018年7月の西日本豪雨に代表されるように,
近年中国地方でもこれまでに経験したことの
ない自然災害が増えています。
大規模災害における対応では,
自所だけでは対応できない場合もあり,
関係各所との連携が
不可欠となります。
しかく協力会社との連携:社内の事業所を超えた連携はもちろんのこと,
協力会社と一体となり復旧を行います。
しかく自治体等との連携:自衛隊や地方自治体とも連携を取り,
当社グループでは対応できない部分の支援を要請しています。
しかく他の電力会社との連携:当社グループだけで早期の復旧対応が困難な場合,
他の電力会社へ応援派遣を要請しています。
【取り組み例】
災害時の早期復旧に向けた取り組み
(注記)緊急車両等の通行のため,
早急に最低限の瓦礫処理を行い,
簡易な段差修正等により救援ルートを開けること
(2020年4月に中国電力ネッ
トワーク株式会社へ分社)
上田 明正
送配電カンパニー
(配電部長)
関係各所との連携
台風15号での東京電力パワーグリッドへの応援
応援派遣
西日本豪雨では,
7月7日に変電所が浸水し広範囲に停電したため,
電線に発電
機車を接続し応急送電しました。
しかし,
当社の発電機車だけでは対応できない停電
規模だったため,
他の電力会社4社から63台の発電機車等の応援派遣を要請し,
7月10日に送電を完了しました。
また,
当社から他の電力会社地域への応援は,
2018年に近畿地方を襲来した
台風21号で20台,
北海道胆振東部地震で16台,
2019年に関東地方を襲来した
台風15号で23台,
19号で8台の発電機車等を派遣しました。5 6 特集:防災・
災害への取り組みを支える知財活動
西日本豪雨で実際に福山総括大
(福山,
尾道,
三原
地区)
の総括復旧班として対応にあたり,
過去に災害
関係の特許出願経験のある社員に,
当時の復旧対応
の様子を振り返っていただきながら,
今後の業務への
活かし方についてお話を伺います。
西日本豪雨では,
記録的な豪雨により各所で河川の
氾濫や土砂災害が発生し,
私が担当している福山総括大
エリアでも広範囲にわたる被害が発生しました。
その中
でも沼田川の氾濫による沼田西変電所の浸水被害では,
変電所の機能が全て停止したため,
最大約1万1500戸
の停電が発生し,
他の営業所だけでなく,
他の電力会社
にも応援を要請するなど,
過去に例のない規模の応援
体制下での復旧となりました。
福山総括復旧班では,
尾道電力所による懸命な変電所
の復旧状況を収集・共有する一方で,
被災地域に少しで
も早く電気をお届けするため,
別の変電所から送電する
ことでの救済や発電機車による応急送電の検討を行い
ました。
しかし,
電線の断線や電柱の倒壊など被災した設備が
広範囲に点在したため,
別の変電所からの送電での救済
は限定的でした。
また,
発電機車の応急送電の検討でも,
各電力会社で発電機車の仕様が異なることや,
道路状況
を踏まえて移動経路を確認していく必要があることなど,
多くの条件を確認する必要があり困難を極めましたが,
本社,
他営業所からの多く
の支援もあり,
停電発生の翌日
には発電機車による応急送電を段階的に開始することが
できました。
今回の復旧にあたり,
被害を受けた三原市からも全面
的にご協力をいただきました。
また,
過酷な環境下で,
早期復旧に向けご尽力頂きました他の電力会社をはじめ
とする多く
の皆さまに,
あらためて感謝申し上げます。
大規模な災害においては,
早期に情報収集し状況を
把握することが,
現地で復旧を指揮する責任者にとって
重要なポイントであると実感しました。
今回の災害では,
記録的大雨により河川の氾濫や土砂
災害が広範囲に点在したため,
被害状況の詳細や移動経
路を確保するための道路状況の収集に多くの時間と労力
を要しました。
現地に向かう道路状況などは,
紙の地図等
に書き加えていたのですが,
すぐにさまざまな情報で溢れ
かえり,
一元的に集約・管理することができませんでした。
以前私は,
既存の災害関係システムに新たな情報
(気象,
お客さま情報,
過去の事故対応履歴情報など)を加えることにより,
被害箇所の特定・予測から,
巡視経路,
復旧手順の照会ができるシステムを提案し,
特許出願
しました。
当時は,
反映できる情報をすべて組み込んだ最
新のシステムだと考えていましたが,
西日本豪雨や昨年の
千葉県に大きな被害をもたらした台風被害など自然災害
の激甚化を考えると,
更なる工夫が必要と感じています。
今後は,
既に全国的にも検討が進められているドローン・SNS等で取得した画像情報のAI分析やスマートメータ情
報の利活用,
それら情報の組み合わせ検討が,
大規模な
災害でも一元的かつ迅速な情報を集約・管理できるシス
テムの実現に繋がるものと考えています。
このように,
自身の経験やその時々の新しい情報を業務
に結び付けることで,
さらにアイデアを膨らませ,
新たな
知財創出に繋がっていけばと思います。
復旧対応の概要を教えてください。
当時を振り返って,
今後の業務や知財創出へ繋がる
エピソードがあれば教えてください。
送配電カンパニー
(福山営業所 配電総括課長)
藤井 康治
インタビュー
高圧配電線の断・混線・・・・・・・・・・・・・・・・
237径間
電柱倒壊・折損・流出等・・・・・・・・・・・・・・・・・ 848本
柱上変圧器等の破損等・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
69台配電設備送電設備
水力発電所の放水路への
土砂流入・管理所浸水等・・・・・・・・・・・・・・・・・
5カ所発電設備変電設備
敷地土砂流出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
34基
流木・転石による部材変形・・・・・・・・・・・・・・・・
4基
コンクリート柱の傾斜・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1本
浸水により大きな被害のあった変電所・・・ 2カ所
変電所構内への土砂流入・・・・・・・・・・・・・・・ 1カ所
〜西日本豪雨では一丸となって対応しました〜
主な設備被害状況
停電の状況
停電状況
西日本豪雨では,
激しい雨が広範囲にわたり降り続いたことで,
土砂崩れや河川の氾濫が相次ぐなど,
これまでに経験のした
ことのない災害が発生しました。
当社設備も甚大な被害を受け,
その結果岡山県,
広島県を中心にピーク時には約5万8700戸
停電し,
延べ停電戸数では約19万3000戸となりました。
土砂崩れ等による道路の寸断により,
復旧作業は困難を極めましたが,
各自治体や各社等のご協力のもと,
停電解消に至ることができました。
西日本豪雨の被害状況
電線に寄り掛かった倒木を取り除いているところ 北陸電力の発電機車の運転状況を復旧拠点に報告する当社社員延べ停電戸数(千戸)現在停電戸数(千戸)7060504030201002101801501209060300
7/6金 7/7土 7/8日 7/9月 7/10火 7/11水 7/12木 7/13金
現在停電戸数
(左軸)
最大停電戸数
約5万8700戸
(7/7 8時)
延べ停電戸数
約19万3000戸
延べ停電戸数
(右軸)
(2020年4月に中国電力ネットワーク株式会社へ分社)7 8 くろまる:データ収集不可
家屋倒壊範囲
配電系統停止範囲
しろまる:データ収集可
特集:防災・
災害への取り組みを支える知財活動
しろまる停電の早期復旧に向けた取り組み ・
被害・復旧状況を迅速に情報収集する仕組みを
構築すること ・
道路情報の収集や災害時の高速道路利用のため,
道路管理者との連携強化 ・
発電機車の燃料調達等,
復旧支援体制の強化 ・
自治体との更なる連携強化
しろまる迅速かつ正確な情報発信 ・
ホームページやSNS等を活用した,
より積極的な情報発信 ・
お客さまからのお問い合わせ受付体制の充実
しろまる設備への対策 ・
移動用機器の配備等,
既存浸水対策の充実
対策
当社は,
大規模災害が発生した際に迅速・適切な対応を図ることができるよう,
「西日本豪雨災害対応等検証委員会」を設置し,
検討を進めてまいりました。
本委員会による検討のほか,
他の電力会社の災害対応等を踏まえ,
主な課題と対策を
整理し,
順次取り組みを実施しています。
また,
当社は,
高梁川水系において甚大な洪水被害が発生したことを踏まえて,
「新成羽川ダム他の操作に関する技術検討会」
を設置し,
事前放流実施の可能性,
実施に伴うリスクと対応等について検討を重ねてまいりました。
検討の結果,
事前放流により
一定の効果を確認することができたことから,
河川整備が整うまでの暫定運用を開始しました。
西日本豪雨の課題を踏まえた対策の中で,
被害・復旧状況を迅速に情報収集する仕組みの構築と,
ホームページやSNS等
を活用したより積極的な情報発信について,
事例を紹介します。
西日本豪雨の課題と対策
防災や災害復旧に繋がる知財活動についての
考えを聞かせてください。
私は,
スマートメータ導入に伴うシステム開発業務に
検討開始より関わっており,
以前から,
30分毎に指示数を
連係してく
るというスマートメータの特徴を何かに活かせな
いかと考えていました。
西日本豪雨では,
同時多発的に土砂
崩れが起こり,
被害範囲の特定に時間がかかっている状況
が連日報道されていました。
この報道をきっかけに,
再度考
えを整理し,
スマートメータからの情報を利用して停電範囲
を見える化することができれば,
土砂崩れ等の範囲が想像
(想定)
できる地図が描けるのではないかと考え,
アイデアを
提案し,
特許取得に至りました。
近年災害が激甚化しており,
2019年の台風15号や19
号に見られるように,
一度の災害で,
広範囲に被害が及ぶ
ことが頻繁に起こっています。
復旧作業を進めるうえで情報
収集をいかに早く進めるかが非常に重要になります。
特に
広範囲に被害が出るような災害の場合,
被害場所へ到達
することが困難であることもめずらしくありません。
今回の発明がすぐに人命救助や災害復旧に役立つとは
思いませんが,
他の情報と組み合わせ,
関連づけることで,
復旧作業員が現場へ向かうためのルート作成に活用できる
など,
有益な情報に結び付く
のではないかと考えています。
今回の発明は,
防災や災害復旧に繋がる発明を出そうと
考えて,
無理して生み出したものではありません。
日頃の業務の中で,
「こうすればよくなるのではないか」
「こういった方法もあるのではないか」
といった意識を持つ
ことで,
何か
(今回で言えばテレビの報道など)
をきっかけに
知財に結び付く
ものと思います。
知財に結び付かない業務
はありません。
日常業務に取り組む中で,
それぞれの業務に
即した知財活動に取り組めばよいのではないでしょうか。
本発明について創出の経緯を教えてください。
異常可視化システム 特許第6521202号
本発明を特許出願した情報通信部門の社員に,
アイデア
提案の経緯や今後の知財活動についてお話を伺います。
情報通信部門
(ネットワーク営業システムグループマネージャー)
石井 延弘
インタビュー
従来の,
災害対策本部では,
複数の被災場所から同時に多数報告される現場
状況の情報やその位置関係の整理・把握に時間を要していました。
本ツールは各現場で撮影された写真を一括して電子地図ソフト
(GoogleMap,
GoogleEarth)
上にマッピングするもので,
現場状況と位置関係を効率的
かつ早期に把握できるようにしました。
2018年9月より運用を開始し,
当社区域内における被災情報の収集に役立て
ています。
また,
他の電力会社への復旧応援等にも活用するなど,
迅速な意思決定や情報
発信に寄与しています。
当社エリアにおける停電発生時に,スマート
フォン等に停電情報をプッシュ型で
通知するサービスを2019年2月から開始し,スマート
フォン用のアプリのアイコンを
商標出願しています。
このアプリでは,
あら
かじめ地域を設定しておくことで,
その地
域で発生した停電情報
(日時・場所)をプッシュ型で確認することができます。
また,
最大8箇所まで地域を登録できる
ため,
自宅に加えて,
離れて暮らす家族が
住む地域などの停電情報の把握にも活用
できます。
情報収集
写真撮影位置確認ツール
停電情報アプリ 商願2019‐25293
電気の早期復旧のためには,
お客さまに生じている停電範囲,
停電
原因をできるだけすみやかに把握する必要があります。
高圧配電線の
停電は,
拠点営業所の系統管理システム等から把握することができま
すが,
引込線の切断等に起因する停電
(隠れ停電)は,現地確認を必
要としていたため,
その把握に多く
の時間を要していました。
情報発信
情報収集
西日本豪雨がきっかけで生まれました
【発明の概要・効果】
本システムは,
お客さま宅に設置を進めているスマートメータの
各々から自動的に送信される情報の受信の有無により,
状態を判定し,異常が生じているスマートメータの所在とその状態を地図に示
すとともに系統管理システムが把握している停電範囲を重ね合わせ
た状態で地図上に出力します。
これらの範囲が重なっている部分が,
配電系統の異常によりスマートメータの故障が生じている範囲で
あり,
スマートメータの異常のみを表示しいている部分は,
隠れ停電
であると推定できるため,
お客さま停電の早期復旧に役立てること
ができます。
設定した地域の停電情報を
プッシュ通知でお知らせ
「停電戸数」や「復旧見込み」
等をお知らせ
地図で停電エリアを
お知らせ
GoogleEarth上にマッピングされている様子
スマートメータと配電系統の状態の出力例9 10 下部支柱
上部支柱
ボルト
ジャッキ
かさ上げ 調整板
(平面図)
中国地方では,
これまでに豪雨による被害の他にも,
地震や豪雪といったさまざまな災害に見舞われてきました。
当社ではこれまでに紹介してきた豪雨による被害対策の他にもさまざまな災害に応じた対策を実施しています。
さまざまな災害への取り組み
鳥取県中部地域を担当エリアとする倉吉営業所では,
冬は降雪があり,
豪雪による停電に備えての対応が不可
欠です。
山間部では1メートル以上積雪することもあり,
普通のタイヤでは雪に足をとられ進むことができなくなる
ことがあります。
実際に,
2011年1月の山陰豪雪では復旧に時間を
要し,
その反省を受けて専用車両
(クローラ車)
が降雪の
ある営業所へ配備されました。
雪害が発生したときに通
常タイヤからクローラに取り替えして使用していましたが,取り替えをするためには,
重たいクローラを持ち上げ,
5本のボルト位置を正確に合わせる必要がありました。
本発明を活用することで,
従来よりも楽に取り替えがで
きるようになりました。
さらに,
取り替え時間も短縮され,
迅速に被災現場に向かうことができるようになり,
早期の
復旧に役立てることができるようになりました。
鳥取県内の事業所では雪害に備えて毎年1月に月例
教育で,
クローラの取り替えやスノーシューを着用しての
歩行等の雪中訓練を実施しています。
また,
豪雪による停電の早期復旧については,
除雪や停
電区域への道先案内など地元自治体との連携は必要不
可欠ですので日頃から連絡を密に取るようにしています。
クローラ車 クローラ
【発明の概要・効果】
本発明は,
クローラの取り付けを容易にで
きる
「クローラ取付補助具」
です。
車両側に取り付けた駆動輪取付体の中心
に芯出し治具
(中心を合わせるための補助具)
を取り付けることで,
重いクローラを芯出し
治具に仮預けでき,
取り付け穴の中心を合わ
せることで車両側のボルトとクローラ側の
ボルト穴の位置を容易に調節できるように
なりました。
【発明の概要・効果】
本発明は,
上部支柱をジャッキアップし,
その隙間に調整板を入れることにより,
かさ
上げして矯正する方法です。
調整板を4分
割することで,
上部支柱とつなぐボルトを一
度に全て抜く
ことなく,
4分の1ずつ調整板を
入れることができるため安定した状態で作
業を行うことができます。
鉄塔を解体することなく,
支柱ごとに安全
に矯正ができ,
また,
枚数を変えることで,
矯正する高さを調節することも可能です。
この工法を使用することにより,
大幅な
工事費削減,
工事期間短縮を図ることが
できました。
特集:防災・
災害への取り組みを支える知財活動
豪雪に対する備え
2000年鳥取県西部地震
沈下
2000年鳥取県西部地震において,
日野町,
境港市では,
震度6強を記録し,
当社の設備も
大きな被害を受けました。
当時電気をお客さまへお届けする送電ルー
トを増やすために,
鉄塔の新設工事を行って
いましたが,
多数の鉄塔が被害を受け,
鉄塔を
支える4本の主柱材のうち,
一部の基礎が沈下
してしまいました。
従来であれば,
鉄塔を一度解体し,
沈下した
主柱材を新しい主柱材に交換するという工法
で修復していました。
しかし,
この工法では非常に時間がかかる上,鉄塔には既に電線が設置されており,
電線
を外してからの修復となるため,
予定していた
送電開始に間に合いません。
そこで,
鉄塔を解体せず,
基礎が沈下して
他より低くなった主柱材をかさ上げして,
他の
主柱材と同じ高さに戻すという矯正方法を
開発し採用することで,
予定通りの送電開始に
間に合わせることができました。
今後,
同様の被害を受けた場合,
この矯正
方法を引き続き使用できるように,
当社は特許
出願しました。
クローラ取付補助具
クローラ
芯出し治具
駆動輪取付体 車両側
地震への対策
鉄塔主柱の矯正方法 特許第4004288号
事例
豪雪への対策
クローラ取付補助具 特願2017‐179181
事例
かさ上げ
かさ上げ後
沈下後
沈下前
〜これまでの災害への取り組みを紹介します〜
降雪のある地域を担当する
事業所で実際にクローラ車を
活用している社員にお話を
伺います。
(2020年4月に中国電力ネッ
トワーク株式会社へ分社)
池本 正紀
送配電カンパニー
(倉吉営業所 配電課長)
かさ上げ機構の正面図
鉄塔の主柱材の沈下とかさ上げの概要
鉄塔
主柱材
基礎
11 12
グループ企業の取り組み
特集:防災・
災害への取り組みを支える知財活動
土石流危険渓流における分離超平面と発生データの位置関係を示す概念図
感震プラグ
「グラグラガード」
(左から)
吉岡 美由紀 細川 智史 鎌田 武
テンパール工業株式会社 技術本部 開発部
テンパール工業株式会社
中電技術コンサルタント株式会社
【発明の概要・効果】
本発明は,
感震プラグ
「グラグラガード」
に採用しており,
つかみやすいよう本体の
側面に段差を設けて,
さらに,
手になじみ
やすいよう本体を円筒形にしたことを特徴
としています。
この発明により,
大きくて重い
プラグでも安心してコンセントに差し込む
ことができるようになりました。
【発明の概要・効果】
本発明は,
機械学習の1つで
あるサポートベクターマシンを
活用して斜面の諸元データと
災害履歴を学習することで,
客観的で精度の高い危険度や
補修の必要度を定量的評価
するシステムです。
この発明により,
点検技術者
の経験に頼らず客観的に評価することができるように
なり,
防災事業の効率化が期待できます。
災害時,
停電した際には電気の復旧とともに,
通電火災が発生する場合があります。
テンパール工業では,
通電火災を防ぐため,
地震の揺れを感知すると接続した電気機器
への通電を遮断するプラグを開発しています。
こういった付加機能を持つプラグは,
プラグ本体の大きさが大きく,
重量も重くなる傾向
にあります。
本体の大型化・重量化は持ちにくさにつながり,
コンセントに差し込む際に
誤って手指を挟んでしまうことで感電につながるおそれがありました。
特許第6604897号
感震プラグ
「グラグラガード」
事例
橋梁,
トンネル,
鉄塔等の土木構造物や災害危険箇所は,
日常的に点検を行う中で,
損傷や災害発生の危険性が見つかった
場合にはその程度を判断し,
必要な補修対策をとっています。
しかし,
損傷程度や災害発生の危険度の判定は点検技術者の
経験に基づいた主観による部分が多くを占めており,
補修対策の方針を決定する基準が曖昧でした。
また,
これらは対象数が
膨大であるため優先順位を決めて効率的に進めていく必要があります。
特許第4817363号
危険度評価システム
事例
中電技術コンサルタント株式会社
事業企画部
大場 健太郎
安全側 危険側安全側渓流長危険側流域面積
危険側
非発生データ
発生データ
分離超平面
安全側
幅広く高度な技術からなる基盤技術や独自技術は,
研究・開発や業務のあらゆる場面で行われる創意
工夫の積み重ねにより創出されます。
その成果を確実に知財化し活用していくため,
当社グループでは,
知財活動
を積極的に推進しています。
知財戦略の3つの基本理念
エネルギーサービスを中心に,
お客さまに満足していただける質の高いサービスを安定的にお届けするという当社グループとしての
使命は,
自ら考え創意工夫を行うという意識が高まり,
それを全社員が実践することで初めて達成できるものと確信しています。
また,
コンプライアンス最優先を経営の基本として掲げており,
他者の権利を侵害することがないよう,
社員一人ひとりが常にその
ような視点を持つ必要があります。
こうした当社グループの基本的な姿勢を知財面でも大切にしており,
「創造力の豊かな人材を育成する」,「事業運営のあらゆる場面
で生み出されている知的資産を確実に知財化する」,「他者の権利を尊重する」
ことを,
知財戦略の基本理念として規定しています。 当社グループ
「経営理念」
のキーワードの一つ
「創造。」
には,
エネルギーを中心とする事業を通じて快適性や利便性などの価値を
生み出し,
ご提供することで,
豊かな未来を創造していく,
そのための努力を続けることが当社グループの使命であるという想いを込めて
います。
そして,
この
「創造。」
を担う主体は
「人」
をおいて他にありません。
この認識のもと,
「人材ビジョン」
により,
「自ら考え行動」
する
人材という変化の時代に社員一人ひとりがめざすべき姿を示し,
社員はこの方向をめざして自己研鑽に努め,
会社はその成長を支援し,
育成していく
こととしています。
知財面でも,
創造力豊かな人材育成の推進を通じて知財戦略が着実に前進し,
その結果として企業価値の向上が達成されるとの考え
のもと,
活発な啓発活動を展開しています。
啓発活動は,
「知財を身近に感じ,
事業運営上の成果を発明として形にする意識を醸成すること
(=自ら考え行動すること)
の意識
付け」
を大きな目的の一つとしています。
知財部門主催の研修では,
業務内容,
階層・役職,
知財リスクの内容などに応じた,
多様
なカリキュラムを用意しており,
毎年数百名の役員
・社員が受講しています。
他にも,
社内各組織やグループ企業が開催する個別
研修への講師派遣,
eラーニングなどの自己啓発用教材の提供,
実務に役立つ情報の発信など,
さまざまな方法で社員の知財
活動をサポートしています。
また,
社員の発明創出活動を表彰するため,
「知財関連表彰制度」
を設けています。
表彰制度は昨年度見直しを行ったため,
新たな制度による初めての表彰となりました。
2019年度は,
初めて特許出願
(ノウハウとして機密管理するものを含む)
をした
社員を対象とする
「発明創出活動に対する表彰」
では108名,
また,
発明の活用に貢献した組織を対象とする
「発明の活用貢献
に対する表彰」
では2つの組織を表彰しました。
基本理念❶
創造力豊かな人材が育成され,
その創造力が十分発揮されることにより
知財戦略が推進されるとの認識に立ち,
人材育成と啓発活動を推進する。
グループ企業知財研修への講師派遣
知財部門主催の研修 発明の活用貢献に対する表彰
(所長表彰)
1 知財戦略の
基本理念と推進体制
13 14
知財戦略の基本理念と推進体制
エネルギアグループの知財戦略の基本的な考え方
基盤技術を構成する10の技術分野 ( )
内の数値は各分野の登録特許数
(2015年12月末)
エネルギー事業を取り巻く環境が大きく変わる中,
中国地域においてお客さまに選んでいただける電気事業者であり続けるとともに,
グループの強みが活かせる事業領域において,
中国地域の内外を問わず,
持続的な発展につながる挑戦を続けることが,
ますます
重要になります。
電気事業や新たな事業領域において競争に勝ち抜いていくためには,
競合他社に対する優位性をいかに構築
していくかが鍵となりますが,その競争力強化の源泉となるものは,
保有している企業のみがコントロールできる知的財産であり,それを生み出す人材と考えています。
2002年に知財の取り組みを本格化して以降,
事業運営のあらゆる場面で生み出されている技術・ノウハウ・アイデアなどを確実
に知財化・権利化し,
積極的な活用を図ることで企業価値を向上させることを基本として,
知財戦略推進のための基盤整備や着実で
戦略的な権利化の推進,
知財リスク対応を推進するとともに,
知財をグループ経営ビジョンの実現に向けた全社的取り組みを下支え
するための方策の一つと位置付け,
経営との関係性を強化しています。
企業価値の向上に貢献するという知財戦略の目的を実現するため,
その時々の課題に応じて方針や目標を設定し,
戦略的・段階的
に対応を進めています。
知財創出基盤の早期確立が求められた初期においては量的拡大を志向し,
その後,
質を重視した活動に
シフトしました。
現在は,
電力システム改革をはじめとした経営環境の大きな変化への対応として取り組む電気事業の競争力強化や域外・海外へ
の展開といった成長分野など,
事業戦略上特に重要となる分野を中心に,
事業の構想段階から市場動向や自社・他社の特許情報の
分析を行い,
その結果を踏まえた適切な特許出願により早期の事業化に貢献するなど,
より経営に密着した知財戦略を推進しています。
知財戦略の段階的推進
しかく施策の展開の流れ
(各段階での取り組み)
2002〜2007年度
しかく経営における知財戦略の
位置付けの明確化
(中期経営計画への織り込み)
しかく知財戦略推進体制の基盤整備
しかく特許出願の量的拡大
2008〜2012年度
市場競争力の強化,
企業価値の向上
しかくより戦略的な権利取得・活用の展開
(特許網構築)
しかく活動成果の経済価値評価
(定量評価)
しかく知財で担保される独自技術の
貢献度を社内外に発信
しかく事業戦略の構想段階に
おける自社・他社特許分析
しかく知財を活用した競争力強化の
実現,
成長事業の育成・支援
2013年度〜
競争力強化および
事業戦略への貢献
現在のステージ
量的拡大 質的向上
当社はコンプライアンス最優先を経営の基本として掲げており,
知財戦略においても,
他者の権利を尊重することを大切にしています。
具体的には,
新技術を導入する際には,
他者の特許出願・登録情報のチェックを確実に行うこととしています。
また,
自社で利用して
いる技術については,
適切に権利化していくという取り組みを推進していますが,
この取り組みは他者権利を侵害しないという観点
でも有効に機能しています。
研究・開発を含め,
事業運営のあらゆる場面で生み出される技術・
ノウハウ・アイデアなどの知的資産を確実に知財化し,
日々の
業務をより良いものにしようとする社員の知的創造の成果を担保しています。
知財戦略推進の基本ルールである
「知財規程」
でも,
「業務の過程などで生み出された知的資産の知財化に努めること」
を社員の責務として定めています。
この理念は,
特許登録件数が着実に増加していることや,
「発明者人口」
(特許出願経験のある社員数)
が全社員の約半数に相当
するほど裾野の広い活動が展開されている,
という形で具現化されています。
営業所・電力所・発電所など現業機関の社員による発明の割合が高いこと,
また事務系社員の発明も多数あることも,
大きな
特長です。
広義のサービス業である電気事業にとって,
お客さまや地域に密着した現場での創意工夫は,
サービスの質に直結する
ため極めて大切です。
現業機関の社員や事務系社員による発明の多さは,
社員が常にサービスレベルの向上をめざして創意工夫
を重ねていることの表れだと考えています。
基本理念❷
事業運営のあらゆる場面で生み出されている知的資産を知財化し,
それを活用することにより,
市場競争力の強化と企業価値の向上を図る。
基本理念❸
自らの知的資産を知財化し,
それを最大限に活用すると同様,
他者の権利を尊重し,
その権利を侵害することのないよう留意する。
事例:低温脱硝触媒
(特許第6093101号ほか) 石炭火力発電所の脱硝装置は,
脱硝触媒上流からNH3
(アンモニア)
を注入することで,
排ガス中のNOX
(窒素酸化物)
を無害なN2
(窒素)
とH2O
(水蒸気)
に効率的に分解する装置です。
関連➡P38
発 電
【発明の概要・効果】
本発明の低温脱硝触媒は,
触媒中に存在するバナジウム濃度を大幅に高く
したため,
150°C前後の低温領域において
も高い脱硝性能を発揮します。
高温環境を確保するためにボイラー直下に設置されていた脱硝装置を,
電気集塵機
後段に設置できる事を可能としたため,
石炭灰等の影響による触媒の劣化を抑制,
結果,
触媒交換コストを大幅に削減
する事を可能とします。
High Low
排ガス温度
煤じん濃度
20,000mg/Nm3
ボイラー
脱硝装置
【370°C前後】
煤じん濃度
20,000mg/Nm3
脱硝装置
【150°C前後】
煤じん濃度
150mg/Nm3
煤じん濃度
150mg/Nm3
煤じん濃度
数十mg/Nm3
脱硫
装置
脱硫
装置
空気
予熱器
電気
集じん機
電気
集じん機
熱交換時に
硫安生成
石炭火力発電所のシステムNH3NH3
空気
予熱器
ボイラー
煤じん濃度
数十mg/Nm3
想定システム
関連➡P29
15 16
当社グループでは,
知財戦略の取り組みの基本的方向性や目標を示す
「知財戦略基本方針」
を毎年度定め,
基本ルールである
「知財規程」
に従い,
知財戦略を推進しています。
「知財規程」
により各組織の長の責務・役割,
組織として知財活動を展開するため
に必要な基本的事項を明確に示し,
研究・開発や創意工夫の成果が適切に知財化されるように図っています。
知財戦略推進体制
知財戦略の推進には,
「実施」と「支援」
という2つの側面があります。
事業本部などは日々の業務の中で創出される技術・ノウハウ・アイデアの知財化や保有特許技術の活用などの
「実施」を,知財部門はその活動が円滑に進むよう
「支援」
を担っています。
それぞれ
が役割を果たすことで,
全社一体となった知財戦略を推進しています。
知財戦略推進に関する重要事項の審議などを行う場として,
事業本部副本部長や部門長を委員とする
「知財戦略会議」
を設け,
知財戦略基本方針の審議,
知財戦略の実施状況・結果の報告,
知財リスクに関する情報の共有化などを行っています。
事業戦略,
研究・開発戦略および知財戦略を三位一体で展開するべく,
エネルギア総合研究所長のもと,
経営に深く関わるメンバー
からなる研究・開発推進会議と知財戦略会議が,
相互に連携を図っています。
知財戦略の2つの側面
知財戦略会議
事業戦略,
研究・開発戦略,
知財戦略の一体的な推進
事業本部など
知財戦略推進体制を整備し,
知財戦略を推進
しかく知財戦略基本方針に基づく推進計画の策定
しかく推進計画の中期経営計画への織り込みと実施
円滑な知財戦略の推進に資する環境整備
しかく知財戦略基本方針の策定
しかく支援体制の構築,
啓発活動の実施
エネルギア総合研究所
(知財部門)
議長:エネルギア総合研究所長
研究・開発推進会議
しかく委員:事業本部部長,
部門部長
しかく研究・開発戦略,
方針および
全社の研究・開発計画などを審議
知財戦略会議
しかく委員:事業本部副本部長,
部門長
しかく知財戦略推進に関する重要事項を審議
しかく専門的・詳細な検討を担う
「部会」を,下部機関として設置
連 携
支 援
関連➡P27
知財戦略の基本理念と推進体制
中国電機製造は,
各種変圧器・コンデンサ・受配電盤・制御盤などの重電メーカーです。
当社は,
1938年の創業以来80有余年にわたり電気エネルギーに携わるなかで培ってきた技術のノウハウを生かしながらお客さまの
ニーズと期待に応え,
地域に根付いた電気設備メーカーとして,
皆さまに安心してご使用いただける製品とサービスをお届けいたします。 「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」
により,
2020年に高圧水銀ランプが製造や輸出・輸入が行えなくなること
に伴い,
LED照明の需要が高まっています。
当社においても,
高天井LED照明を改良した屋外で使用可能なLED投光器を
開発しました。
防水性を確保し防錆性を高めることにより,
塩害がある屋外での使用を可能としました。
高圧水銀ランプの代替製品を検討されていた造船会社さまより採用して頂く
ことが決定し,
今年度より供給を開始しました。
毎年,
社内で知財研修会
「新入職員向け」と「特許庁専門官研修会」
を開催し,
知財知識の教育,
確認,
定着化を図っています。
LED照明の製造は,
当社のようにこれまで照明を製造していなかったメーカーの参入も多く,
他社からの侵害および訴訟のリスクを
抑えるため2018年5月に意匠登録をしました。
グループ企業の知財活動への取り組み
−中国電機製造株式会社−
屋外用LED照明
正面拡大 全体写真 後方側面 「ものづくり」
メーカーとして,
知財戦略は有利な事業展開の礎となるので,
特許権・意匠権・商標権といった知的財産権を取得し,技術優位性の確保や
ブランド価値の向上に努めています。
また,
全ての職員が,
知財に関する正しい
知識を持ち,
その重要性を常に意識していく必要があるので中国電力主催の
研修会の参加,
社内研修会を実施しています。
知財担当者から一言
中国電機製造株式会社
開発部
木村 聖子
中国経済産業局では、
中小・ベンチャー企業をはじめとする多く
の皆さまに知的財産
への
「気づき」
を得ていただくため,
知財活用の優良事例や陥りがちな失敗事例等に
ついて分かりやすく解説するWeb動画サイト
「もうけの花道」
を運営しています。
動画
は1本あたり5〜10分程度でそれぞれ完結しており、
隙間時間を使った自主学習、
社内研修やセミナー等での活用も効果的です。 知財動画コンテンツの紹介 〜知財を知れば,
何かが変わる!?〜
VOICEOIIICECECEICEVOOVOVOV ICOIO中国経済産業局 地域経済部
産業技術連携課 知的財産室
清棲 保美 様
コラム
知財活動への取り組み
17 18
電気事業を支える基盤技術と特許の関わり
特許出願の目的
基盤技術と特許の関わり
基盤技術を特許で担保することの意義
電気事業者としての使命を果たす上で不可欠な基盤技術を活用し,
長期的・安定的に電気をお届けするとともに,
将来の成長に
向けた取り組みを強化し企業価値の向上を図るためには,
基盤技術を
「自社の権利」
として確保することが重要です。
特許が有する最大の効力は
「特許権に基づく事業の差し止め」
にあり,競合他社が先に権利を確保すると,
特許技術を利用できず事業
を中止せざるを得ない,あるいは許諾を受けるための交渉で事業が長期にわたり停滞する,などの事態に直面することとなります。
基盤技術を特許で担保して
「事業活動の自由度を確保」
することは,
社会インフラを担う当社にとって非常に重要な意義を持つと
ともに,
競争力強化に資する重要な経営資源を獲得するという点においても大切であると考えています。
事例:ヒューマンエラー防止機能付き接地用具
(特願2018‐22263)
【発明の概要・効果】
しかく自社特許技術を事業で自由に実施 しかくクロスライセンス(注記)
による他社技術の活用
しかく他社実施によるライセンス料の獲得
(注記)複数の企業が,
それぞれ保有する特許技術を相互に実施許諾しあうライセンス形式
自由度確保 事業収益拡大への貢献
事業の差し止め 経済的負担の発生
しかく特許技術を実施できず事業が遅延・中止
(他社特許の実施許諾が受けられない場合)
しかくライセンス料や損害賠償金の支払い
(他社特許技術を自社で実施する場合)
競合他社が
権利確保すると
送電線で作業する場合は,
送電線の電気を停めて作業しますが,
落雷や誘導電流等で電流が入ってきた
場合に作業者が感電することを防ぐため,
接地用具
(アース)
を取り付けて作業を行います。
接地用具は,
接地端子とフックを接地線で繋いだ構造をしており,
接地端子を鉄塔へ,
フックを送電線へ取り
付けることで,
送電線からの電気を鉄塔へ逃がす仕組みになっています。
しかし,
誤って送電線側のフックを取り付けたまま接地
端子を外してしまうと,
電流が入ってきた場合にその接地端子を外すために触っている作業者が感電するおそれがありました
【図1】。 本発明では,
接地端子に専用鍵を付けた状態でなければ接地端子を取り外しできない構造としました。
また,
専用鍵は
フック近くに設置し,
短い鍵紐で繋がれているため,
送電線からフックを取り外した状態でないと接地端子の取り外しができ
ない仕組みにしています
【図2】。
これらの構 造により,
接 地
用具の取り外し手順を間違える
ヒューマンエラーを防止する
ことができるようになりました。
さらに,
従来から使用していた
接地用具において,
接地端子の
交換と専用鍵の追加のみで対応
できるため,
手軽に導入できる
ことも特徴の一つです。
電気事業を支える基盤技術
基盤技術を構成する10の技術分野 [ ]
内の数値は各分野の登録特許数
(2019年12月末)
電気事業は,
さまざまな発電方式で電気をつくる
「発電事業」,電気を送電線や配電線を通じてお客さまに安定的にお届けする
「送配電事業」,電気の使い方に応じてお選びいただける料金メニューを用意したり,
効率的なエネルギーの利用方法などを提案
したりする
「小売電気事業」
の大きく3つに分けられます。
そして,
技術的側面においては次の特性を有しています。 こうした電気事業の特性や,
社会的要請,
お客さまから寄せられるニーズなどにお応えするために必要となる基盤技術は,
10の分野に
大別できます。
それぞれの技術が蓄積され,
緊密に連携することで,
低廉で質の高い電気を安定的にお届けすることができます。
くろまる電気は産業や暮らしを支える重要な社会インフラであり,
長期的・安定的に電気をお届けするという社会的要請に
応えることが求められる。
くろまる適正な電圧や周波数を維持し,
質の高い電気を効率的にお届けするために,
高度かつ広範な技術が必要となる。
燃 料
発 電
送 電
変 電
配 電
お客さま
系統運用
土木建築
全社基盤システム
新規事業など
技術分野
発電に使用する燃料
(燃料油・石炭・LNGなど)
の購買・輸送・貯蔵管理
発電所
(火力・原子力・水力・太陽光など)
の運転・保守・運用
発電所から変電所まで高い電圧で電気を届けるための送電設備の建設・保守・運用
お客さま設備に応じた電圧に変圧するための変電設備の建設・保守・運用
変電所で変圧された電気をお客さまに送るための配電設備の建設・保守・運用
お申し込み受付や検針の効率化,
お客さまニーズに即した省エネルギーなどに関する技術
供給区域内の電気使用状況の監視,
発電量・電気の流れの制御,
需給バランスの維持
発電所や変電所などにおける土木関係設備の計画・設計・施工管理および維持管理
発送電設備や各種業務を支える通信ネットワークや情報システムの構築・維持管理
新規事業領域におけるお客さまの利便性・快適性向上に資する技術
技術内容
燃料
[99件] 発電
[965件] 送電
[210件] 変電
[242件] 配電
[776件] お客さま
[169件]
土木建築
[201件]
全社基盤システム
[298件]
系統運用
[163件]
新規事業など
[348件]計:
3,471件
発電所でつくられた電気を,
送電線や配電線を通じてお客さまのもとにお届けする。
このためには,
発送電に関する技術に加え,
これを支えるさまざまな技術が必要となります。
長年にわたり培われてきた
これらの技術が,
安定供給に欠かせない基盤技術として,
また,
競争環境下において成長していくための
事業基盤を確立するための知的財産として,
当社の電気事業を支えています。
2 電気事業を支える基盤技術と
特許の関わり
接地端子
接地端子
鍵紐
触ると感電
鉄塔
鉄塔
送電線 送電線
接地用具
接地用具
電気の流れ
フック
フック
電気の流れ
接地線
接地線
専用鍵
フックを付けたまま接地端子
を外すと感電するおそれあり
フックを外さないと接地端子
を外せない専用鍵を設置
送 電
図1:従来の状況 図2:本発明
19 20
事業上の重点課題における特許網の構築
中期経営計画で掲げる各種目標や重点実施項目などから,
優位性確保の観点を加味して重点課題を設定し,
重点課題の属する技術
領域について集中的に特許を取得
(特許網を構築)
する活動を推進しています。
特許網構築の例として
「間接活線工法・機材の開発」
があります。
配電工事を行う際,
電線の通電部分に直接触れず,
安全距離を
保ったうえで絶縁棒や先端工具を使用して作業を行う工法で,
停電を伴わないことから全国的に採用が進んでいます。
当社において
も間接活線工法に用いる工具・機材の開発に積極的に取り組み,
その成果を適切に権利化しています。
特許技術を自社で積極的に実施するとともに,
蓄積した特許に内在する新しい価値を見出し活用することで,
事業に貢献していく
ための活動にも取り組んでおり,
クロスライセンスや標準化技術への組み込みによる技術開発や資材調達コストの低減,
他社との
アライアンス構築,
新たな事業展開などさまざまな方策の検討を進めています。
また,
公共の利益につながる
「健全な競争」
を促進する観点から,
公益に資する技術の普及・浸透を図るための技術ライセンスなど
も行っています。
一方で,
ライセンス料などの金銭的利益のみを追求すると,
知的財産権の本質である競合他社をけん制する力が次第に下がると
いう弊害があります。
ライセンス活動における収入の獲得は,
知財戦略を推進した結果として達成されるものであるとの考えに基づき,
ライセンスにより自社の技術優位性が相対的に低下することのないよう,
目配りをしながら取り組んでいます。
しかく間接活線工法による作業風景
参考:クロスライセンスと事業規模
しかく間接活線工法・機材の特許出願状況
(注記)商用検索システムを用いて全文検索
「間接活線」
で抽出
特許技術とライセンス活動
基盤技術を特許で担保することで事業活動の自由度を確保し,
その結果得られた利益は特許が下支えしているものですが,
その効果
を財務の観点から捉えることは困難です。
一方で,
経営の観点からは,
保有特許が事業へどのように貢献しているかを適切に把握する必要があります。
このため,
2007年度
以降,
特許の価値を定量的に評価する取り組みを進めています。
高品質で低廉な電気を安定的にお届けするために取り組んだ研究・開発や創意工夫の成果は,
定量面では効率化によるコスト低減と
いう形で効果を発揮します。
このため,
特許技術が用いられた施策のうち,
主なもののコスト低減額を算定し,
その累計金額を基に
「特許
の価値の定量的評価額」
を算定しています
(2018年度の評価結果は巻末に掲載)。特許の価値の定量的評価
2006年度 出願件数
(取り組み開始時) 2019年12月末 出願件数
工具・機材
工法
中国電力 他電力会社計(注記)1144974230916274
事業規模a 特許件数c 事業規模b 特許件数d
A社 B社
A社特許1,000件を
B社にライセンス
B社特許100件を
A社にライセンス
10 1,000件
1 100件
特許技術集積度c/a100特許技術集積度d/b100しかく特許を利用する側は,特許権者に対価としてライセンス料を支払いますが,
相互に特許の利用を許諾するクロスライセンスの場合,両者のライセンス
料が一致すると,支払額は相殺されて0円となります。
対等な条件でクロス
ライセンスすることを
「パワーバランスを保つ」
と言います。
しかくこのパワーバランスは,
特許ごとの価値や件数だけでなく,
事業規模も考
慮されます。
仮にクロスライセンス対象のすべての特許の価値を同一と
した場合,
パワーバランスの指標は特許件数 事業規模=
「特許技術集
積度」
として表されます。
しかく左図の例のように事業規模が相手先の10倍の企業は,相手先の10倍の特
許を保有していてはじめて
「特許技術集積度」
が相手先と等しくなります。
関連➡P37
対等な条件
でライセンス
可能
パ ワ ー
バ ランス が
保たれている
電気事業を支える基盤技術と特許の関わり
事例:お客さま向けポイントシステム
(特許第6332434号)
【発明の概要・効果】
本発明は,
電気使用量に応じた
「使用料ポイント」
とお客さまが関心のあるスポーツチームの成績に応じた
「成績
ポイント」
の合計ポイントを付与するポイントシステムに関するものです。
これらのポイントサービスにより,
お客さま
に電気使用に関心を持っていただき,
永く安定した関係を築くことが期待できます。
当社のポイントサービスの1つであるサンフレッチェ広島
サポートメニューで,
今回の発明が活用されています。
この
ポイントサービスではお客さまが,
合計ポイントをサンフ
レッチェ広島に寄付するポイントメニューとなっています。
お客さまの獲得したポイントに応じて,
当社が支援金と
してサンフレッチェ広島に贈呈しています。
システム
事例:ゲート設備の巻上機
(特許第6070904号)
水力発電所のダムや堰堤に設置するゲート
(水門)
設備のうち,
常に閉まっているゲートを点検のために開く
場合には,
下流河川へ水が流れ出るため,
関係機関と調整の上,
ゲートの開閉試験を実施します。
これとは別に,
日常の簡易点検としてゲート設備の一部である巻上機の動作確認もしています。
簡易点検における巻上機の動作確認は,
ゲートを閉めたまま行うため,
巻上機に設けられたクラッチを中立として,
巻上機の動力が,ゲートを含め,
巻上機軸にも伝わらない状態で実施していましたが,
これには,
ゲート設備としての実動作範囲が狭くなる
という課題がありました。
【発明の概要・効果】
本件発明では,
巻上機軸とゲートを連結させる取付金具に,巻上機を動作させてもある一定の動作幅内で直ちに
ゲートが動かないように,
遊び幅をもたせる構成にすること
により,
巻上機軸を含めた巻上機までの動作確認を可能
としました。
これにより,
簡易点検時の実動作範囲が広
がり,
設備維持の確実性が向上しました。 お客さま向けのポイントサービスとして,
電気使用量や節電量に応じてポイントを付与するシステムが
考えられますが,
電気使用量や節電量だけでは,
ポイント取得に限りがあるため,
早期にお客さまの関心
を失ってしまうおそれがありました。
発 電
:広がった試運転範囲
:従来の試運転範囲
巻上機
巻上機軸
支持金具
遊び幅
巻上機軸
ゲート
ゲート
ゲート
株式会社サンフレッチェ広島
クラブ・
リレーションズ・マネージャー
森崎 和幸 様
いつも応援ありがとうございます!
皆さまからの支援金は、
選手の強化資金や,
子ども
たちの育成資金等に使用しております。
2020シーズン,
優勝に向けて頑張りますので,
引き続き,
応援のほどよろしくお願いいたします!サンフレッチェ広島から一言
VOICEOIIICECECEICEVOOVOVOV ICOIO1999年から2018年まで
サンフレッチェ広島でチーム
の要として活躍。
J1リーグ戦,
通算430試合
出場。
2019年からはクラブ・リレーションズ・マネージャー
に就任。
サンフレッチェ広島サポートメニュー
お客さま システムサーバ スポーツチーム
❶合計ポイント付与
❷ポイント交換申請
❸寄付
©2019 S.FC
ポイントシステムの概要図
巻上機の構造
ゲート設備の断面図
21 22
事例:故障点標定システム
(特許第4039576号) 【発明の概要・効果】
容易に発見できない故障箇所を効果的に特定するため,
停電発生の際に故障箇所から瞬間的に流れる電流
(サージ
電流)
を利用したシステムを開発しました。
故障箇所を特定したい電線に現地装置を複数台設置しておけば,
故障
発生時に故障箇所から流れるサージ電流の到着時刻を各現地装置で検知・記録し,
その到着時刻の差から高精度に
故障箇所を特定できます。
この装置は全営業所に配備され,
停電時における調査範囲の大幅縮小や故障箇所の早期
発見による復旧作業の迅速化・省力化に役立っています。
エネルギア総合研究所
(電力技術グループ)
大原 久征
電気は現代社会において水や空気と同じくらい必要不可欠なものとなっており,
常に安定した電気をお客さまへお届けし続けなければなりません。
しかしながら,
現在の技術においても完全に停電を防止することは困難なうえ,
その原因を特定
することは容易ではありません。
そういった中,
本システムにより巡視範囲を大幅に
縮小することで早期に停電の原因を発見し停電時間を短縮することで,
お客さまへ
の停電に伴う影響を最小限に抑えることができます。
今後も日々進歩し続ける技術
を活用し,
お客さまへ安定した電気をお届けする技術開発を進めていきます。
発明者から一言
当社は地域社会と地域企業の経済的・技術的発展に向けて,
低廉で良質な電気を安定してお届けするために,
将来を
見据えた活用度の高い研究開発に取り組んでいます。
また,
その一環として,
研究成果とノウハウを社内情報共有・意見交換
する社内向け研究発表会
「エネルギアR&Dフォーラム
2019」
を開催しています。
今年度は,
AI・loT,
再生可能エネルギー技術をはじめ,
注目度の高い技術開発・調査結果等について成果発表が
なされました。
発表会では,
専門分野のみならず異なる
分野の社員も研究員と意見交換し,
全社一体となって研究
成果の更なる活用方法や新たな研究テーマの発掘に
ついて,
可能性を追求しました。
ご家庭への電気は,
街中に張り巡らされた電線を通じて,
皆さまへお届けしています。
電柱に配置された
電線・がいしなどの劣化やひび割れ,
樹木・鳥や蛇等の接触等が原因で停電することがありますが,
目視で発見
できる痕跡が残らないまま停電が解消され,
故障箇所や停電原因が特定できない場合もあります。
研究・開発戦略
研究・開発においては,S(安全確保)
を大前提として3E
(供給安定性,
経済性,
環境保全)
を同時達成するため,
電気の
需要・供給・送配電ネットワークの各
領域で,
新たな価値創造に取り組んで
います。
その中でも,
事業強化に向けて特に
優先度の高い分野を
「重点開発分野」
として経営資源を重点的に配分する
など,
効果的に研究・開発を推進して
います。
需要サイドの視点から新ビジネス,
サービスを創出する
ため,
エネルギー利用最適化につながる需要制御技術など
の研究・開発に取り組む。
再生可能エネルギーが大量連系した場合でも,
電力品質
や安定供給に影響を及ぼさない系統安定化技術,
最適な
送配電ネットワーク技術などの研究・開発に取り組む。
重点開発分野
需要サイドからのエネルギー利用最適化分野
バーチャルパワープラント
(VPP)
実証試験
研究・開発
テーマ例
PV出力予測精度向上,
需給制御に関する研究
研究・開発
テーマ例
石炭灰固化物の
活用手法に関する研究
研究・開発
テーマ例
蒸気タービン車室・弁き裂
補修技術に関する研究
研究・開発
テーマ例
今後も石炭電源の安定運転を継続するため,
石炭の
クリーンコール技術
(石炭灰有効活用技術を含む)
の研究・開発に取り組む。
石炭利用分野
電源・ネットワーク設備は,
経年化が確実に進んでおり,
将来にわたり安定供給を継続するため,
計画的・効果的な
更新・修繕につながる劣化診断技術,
機器延命化技術など
の設備経年化へ適切に対応する研究・開発に取り組む。
予防保全分野
再生可能エネルギー普及促進分野
供給安定性
Energy security Economic growth
経済性
Environmental
conservation
環境保全
ネットワーク
「供給面」
「需要面」
の変化に柔軟に対応
供給面
発電の一層の高効率・低炭素化
(ベストミックス)
需要サイドを重視した
効率化と省エネ
需要面
Safety
安全確保
技術開発の進展,
地球環境問題や低コスト化などの社会的要請へ対応していくためには,
基盤技術を
常により良いものに磨き上げ,
新たな技術を創出していかなければなりません。
当社では,
これからの
電気事業を支えるための研究・開発に積極的に取り組み,
その成果を競争力強化の源泉となる
「独自技術」
として積み重ねています。
3 研究・開発への取り組みと
独自技術
研究・開発への取り組みと独自技術
研究員との意見交換 成果品・パネルの展示による紹介
VOICEOIIICECECEICEVOOVOVOV ICOIO停電の原因となる故障
箇 所 の 発 見 が 困 難で,
原因を特定できない場合
がある。課 題故障箇所から瞬間的に
流れるサージ電流の到着
時 刻 差を利用して故 障
箇所を特定。アイデア
高精度に故障箇所の特定
が可能に。
現地の小型・
軽量化により,
現場への
運搬・設置も容易に。効 果巡 視 範 囲の大 幅 縮 小・
故障箇所の早期発見に
より,
復 旧 作 業 の 迅 速
化・省力化を実現。メリット
1停電発生時のサージ電流波型等を現地装置が
検知・記録
2記録したサージ電流波型等を携帯電話による
データ通信で故障点標定装置
(パソコン)
が受信
3サージ電流の到達時刻と配電線路長データなど
から演算処理により故障箇所を特定
故障箇所特定のフロー
配 電
衛星から送信される時間情報を
各現地装置が受信し,
装置間で
時刻を同期
現地装置から
取得したデータからの
収集・解析
GPS衛星
配電線
現地装置 現地装置 現地装置
サージ電流 サージ電流
故障
箇所
社内向け研究発表会
「エネルギアR&Dフォーラム2019」
コラム
故障箇所特定の概要
23 24
次世代エネルギー技術の推進
近年,
再生可能エネルギー,
蓄電池等の分散型電源の普及,
AI/IoT・ビッグデータ等のデジタル化技術の発展とともに,
エネルギー
需給構造が大きく変化しようとしています。
こうした中で,
分散型のエネルギーリソースを柔軟に活用する新たなサービスに向けた
取り組みが活発に行われています。
当社の研究・開発においても,
脱炭素化,
分散化,
デジタル化等の流れに沿って,
バーチャルパワー
プラント
(VPP)
(注記)1
やブロックチェーンを活用したP2P電力取引(注記)2等,新たなビジネス機会の獲得に向けて,
次世代エネルギーに
関する取り組みを進めています。
外部リソースの有効活用
積極的に研究・開発に取り組み,
独自技術を適切に権利化していくことは,
重要な取り組みの一つですが,
技術やビジネスモデルが
急速に変化する環境下では,
他社の技術を効果的に導入するオープンイ
ノベーションの考え方も求められます。
当社においても,
外部知見を活用するための共同研究や共同開発,
蓄積した独自技術や特許を活用するためのクロスライセンスや
標準化活動などに取り組んでおり,
これらを通じて,
研究・開発の効率が高まる,
必要な特許が導入しやすくなる,
など事業への貢献が
期待されます。 こうした取り組みを有効に機能させるためには,質・
量を兼ね備え外部に対して価値を持つ特許ポート
フォリオを構築するとともに,
それを管理・分析する仕組みを整えることが必要となることから,
オープンイ
ノベーションの時代にあってこそ,
その利点を最大限活用
するために,
知財戦略を積極的に推進していくことが重要だと考えています。 関連➡P29
研究・開発への取り組みと独自技術
研究・開発の意義と独自技術
石炭火力のパイオニアとして,
他の電力会社に先駆けて技術開発を行うとともに最先端の技術を導入するなど,
石炭火力発電を
通じて常に時代の要請に応えてきました。
供給安定性・経済性に優れる石炭を将来にわたって活用していくため,
高効率化やクリーン化
の取り組みを推進しています。
石炭は,
他の化石燃料に比べて,
資源量が豊富で地域偏在性が少なく,
価格も低位で安定していることから,
エネルギー自給率が
9.6%程度と低い我が国にとって重要なエネルギーであり,
当社としても,
石炭火力を重要なベースロード電源の一つとして位置付
けています。
一方で,
石炭は他の化石燃料に比べ,
CO2排出量が相対的に多いという課題があるため,
三隅発電所への超々臨界圧
(USC)
石炭火力発電(注記)1
の採用や,
次世代の高効率石炭火力発電技術
「石炭ガス化燃料電池複合発電
(IGFC(注記)2)」
の基盤技術である
「酸素吹石炭ガス化複合発電
(酸素吹IGCC(注記)3)」
の実証事業など,
CO2排出量削減を図るクリーンコール技術の開発・導入に向けた
取り組みを推進しています。
大規模な発電設備や複雑な送配電ネットワークを用いて事業を行う中で,
グループ一体となって効率的な設備運用ノウハウや
保修技術を蓄積するとともに,
設備ユーザーの視点で独自の研究・開発を行っています。
また,
業務の中で発想したアイデアや設備運用ノウハウを,
ものづくりの視点で研究・開発を行うメーカーにフィードバックし,
より
効率的な設備にするために共同で研究・開発に取り組むこともあります。
当社,
グループ企業,
メーカーそれぞれが持っている技術を
融合させることで,
より高いレベルの研究・開発成果が得られています。
石炭火力の高効率化
(注記)1 蒸気を高温
(600°C級)・高圧
(24.5MPa)
にしてタービンを回す発電方式で,
熱効率が高くCO2排出量を削減可能。
(注記)2 石炭ガス化燃料電池複合発電
(IGFC)
IGFC:Integrated Coal Gasification Fuel Cell Combined Cycle, IGCCに燃料電池を組み合わせて発電効率をさらに向上させる技術。 (注記)3 酸素吹石炭ガス化複合発電
(酸素吹IGCC)IGCC:
Integrated Coal Gasification Combined Cycle,
酸素を用いて石炭をガス化し,
水素と一酸化炭素を主成分とする生成ガスを製造し,
ガスタービンと蒸気タービンにより複合発電する技術。
実証試験を進める中央制御室
実証事業スケジュール
本プロジェク
トは,
経済
産 業 省 補 助 事 業
(2012〜2015年度)
および国立研究開発
法人新エネルギー・
産業技術総合開発機構(NEDO)
助成事業
(2016年度〜)
として
実施し
ています。
事例:酸素吹石炭ガス化複合発電技術の実証研究
(大崎クールジェンプロジェクト)
当社は,
電源開発株式会社と共同で大崎クールジェン株式会社を設立し,
究極の高効率発電技術である
酸素吹石炭ガス化燃料電池複合発電
(IGFC)
とCO2分離・回収を組み合わせた革新的低炭素石炭火力発電
の実現をめざす
「大崎クールジェンプロジェクト」
を大崎発電所構内で進めています。
このプロジェクトは,
実証試験を3つの段階に分けており,
「酸素吹石炭ガス化複合発電
(酸素吹IGCC)
実証
(第1段階)」を
2019年2月に終了し,
基本性能や制御性・運用性などの全試験項目について目標を達成しました。
現在は,
第1段階の設備にCO2分離・回収装置を追設した
「CO2分離・回収型IGCC
(第2段階)」を実証しているほか,
燃料
電池を組み合わせた
「CO2分離・回収型IGFC
(第3段階)」の実証開始に向けた準備を進めているところです。
また,
回収したCO2を液化・輸送し,
資源として多様な用途に有効活用するカーボンリサイ
クルの検討も進めています。
石炭ガス化設備
設計・製作・据付 実証試験
実証試験
実証試験
第1段階
第2段階
第3段階
設計・製作・据付
設計・製作・据付
年度 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022
酸素吹石炭ガス化複合発電
(酸素吹IGCC)
石炭ガス化燃料電池複合発電
(IGFC)
の概要
CO2分離・回収型IGCC
CO2分離・回収型IGFC
第1段階 第2段階
排熱回収ボイラ
酸素
ガス化炉
蒸気
水素
蒸気タービン
発電機
燃料電池
ガスタービン
空気圧縮機
酸素製造
装置
石炭
一酸化炭素,
水素
第3段階
石炭をガス化して可燃性ガス
(水素,一酸化炭素など)
に変換
ガス化で発生した可燃性ガスを
燃焼してガスタービンを回す
発生した一酸化炭素を水蒸気と反応させ,
CO2と水素に変換した後,
CO2を回収
ガス化時の排熱・ガスタービンの排熱を利用
して水蒸気を発生させタービンを回すCO2発 電
CO2分離後の水素と酸素を反応させ,
発電する
事例:EVの駆動用バッテリーのリユース技術を活用したVPP実証
当社は,
エネルギア総合研究所
(広島県東広島市)
にて,
電気温水器等を統合制御するシステムを構築し,
需要制御実証を進めてきました。
今年度は,
マツダ株式会社,
株式会社明電舎と共同で,EV(電気自動車)の駆動用バッテリーをリユースする可能性を検証するため,
複数の駆動用バッテリーを統合制御するシステムを
新たに構築し,
実証を進めています。
リユースバッテリーと分散型電源等を組み合わせて制御することで,
応答性や蓄電池の劣化
特性等を評価し,
再エネの最大限活用,
需給バランス制御等,
電力システムに関する様々なサービスへの展開に繋げていきます。
発 電
(注記)1 一般家庭や工場等が保有する多数の分散型電源を束ねて,
あたかも1つの発電所のように統合・制御する技術
(注記)2 お客さま同士が,
電力を直接やり取りする取引
エネルギア総合研究所のVPP向けエネルギーリソース
本事業は,
経済産業省の補助事業として実施しています。
電気温水器
太陽光発電
太陽光発電EVバッテリー
リユースバッテリー
25 26
研究・開発推進体制
価値の高い研究・開発成果を生み出すためには,
研究・開発の計画段階で,
その目的・目標や,
どのように事業で活用していくかを
明確に定めて,
効果的に取り組みを進める必要があります。
このため,
研究・開発に関する各組織の長の責務や役割,
計画・実施・
評価および成果の活用に関する基本的事項などを
「研究・開発規程」
として制定し,
関係箇所の合意形成を図っています。
2019年12月4日,
広島大学と当社は,
産学の連携を通して,
当社および当社グループが事業領域とするエネルギーや環境に関する
分野などにおける最先端の技術開発を行い,
研究開発・人材育成など相互の協力に基づき得られた研究成果を広く社会に還元・貢献
することを目的として,
包括的研究協力に関する協定を締結しました。
国立大学法人広島大学と包括的研究協力に関する協定を締結
研究・開発への取り組みと独自技術
しかくエネルギーおよび環境保全に関する研究開発
しかく効率的かつ安定的な電力供給システムに関する研究開発
しかくエネルギー利用に関する研究開発
しかく情報通信に関する研究開発
研究協力の内容・平和を希求する精神・新たなる知の創造・豊かな人間性を培う教育・地域社会・国際社会との共存・絶えざる自己変革 広 島 大 学
しかく電気事業経営に関する調査研究
しかく相互連携による人材育成の推進
しかくその他広島大学と中国電力が必要と認めた分野・お客さまの信頼を喜びとします。・エネルギーを通じて豊かな
未来を創造します。・地域とともに成長します。
信頼。
創造。
成長。
経営企画部門が研究・開発戦略を示し,
これに基づき,
総括箇所であるエネルギア総合研究所が,
実施や成果活用を担う事業本部
などと連携して,
具体的な研究・開発計画を策定・実施する枠組みとなっています。
また,
研究・開発の目的や目標レベル・開発期間などの評価・調整,
社内の組織間連携,
知財部門との事前協議の徹底などに取り
組んでおり,
これらを通じて,
適切な計画策定や成果の確実な活用および知財の権利化を図っています。
研究・開発推進会議では,
研究・開発戦略や研究・開発計画などを審議しています。
会議は事業本部などの部長からなり,
研究実施
箇所や実用化箇所などが一体となって,
多角的な視点から活発な議論を交わしています。
研究・開発に関する役割分担
研究・開発推進会議
近年取り組んでいる研究・開発の概要や成果などについて,
『エネルギア総研レビュー』
で公表しています。
最近の主な研究成果
研究テーマ
エネルギア総研レビュー掲載箇所 http://www.energia.co.jp/eneso/tech/review/index.html
研究・開発戦略の提示
経営企画部門
研究・開発計画の策定・実施
事業本部など
連 携 支 援
エネルギア総合研究所
エネルギア総研レビュー掲載号
関連➡P17
経営企画部門が研究・開発戦略を示し,
これに基づき,
総括箇所であるエネルギア総合研究所が,
実施や成果活用を担う事業本部
などと連携して,
具体的な研究・開発計画を策定・実施する枠組みとなっています。
また,
研究・開発の目的や目標レベル・開発期間などの評価・調整,
社内の組織間連携,
知財部門との事前協議の徹底などに取り
組んでおり,
これらを通じて,
適切な計画策定や成果の確実な活用および知財の権利化を図っています。
研究・開発推進会議では,
研究・開発戦略や研究・開発計画などを審議しています。
会議は事業本部などの部長からなり,
研究実施
箇所や実用化箇所などが一体となって,
多角的な視点から活発な議論を交わしています。
広島大学と当社は,
これまで共同研究に取り組んできた中で,
100件を超える特許出願を共同で行ってきました。
今後とも研究成果
の確実な権利化を図っていきます。
研究・開発に関する役割分担
研究・開発推進会議
近年取り組んでいる研究・開発の概要や成果などについて,
『エネルギア総研レビュー』
で公表しています。
最近の主な研究成果
研究テーマ
エネルギア総研レビュー掲載箇所 http://www.energia.co.jp/eneso/tech/review/index.html
研究・開発戦略の提示
経営企画部門
研究・開発計画の策定・実施
事業本部など
連 携 支 援
エネルギア総合研究所
スマートコミュニティ構築に関する研究
(VPPに向けた取り組みについて)
第55号
(2019年Vol.1)〃〃
第54号
(2018年Vol.4)〃〃
エネルギア総研レビュー掲載号
関連➡P17
環境土木技術の高度化に向けた取り組み
石炭灰造粒物を用いた東京・日本橋川における
水辺環境改善効果の検証について
酸化亜鉛形避雷器の劣化調査
22KV地絡点標定システムの開発に関する研究
事例:エネルギーおよび環境保全に関する共同研究
1CO2を再資源化する高効率酢酸発酵技術の確立
火力発電排出CO2を水素で還元,
固定化する
酢酸発酵プロセスを確立。
2酢酸を原料とする油脂発酵技術の開発
酢酸・油脂発酵微生物はゲノム編集技術で高
機能化。
3Gas‐to‐Lipidsバイオプロセスの構築
太陽光発電による水電解で水素と酸素を製造,
分離するシステムを装備し,
発電排ガスから各種
有用油脂を生産する二段階連続発酵プロセスを
開発。
発 電
カーボンリサイクルを実現するGas‐to‐Lipidsバイオプロセスの開発
太陽エネルギーで水電解
酢酸生成菌
(嫌気性)
油脂発酵微生物
(好気性)
酢酸
(注記)
「カーボンリサイ
クル技術事例集」
(経済産業省)
を加工して作成
長鎖脂肪酸
炭化水素
(Lipids)CO2(Gas)ゲノ
ム編集
水素水酸素
広島大学と当社は,
これまでも環境保全に関する共同研究に取り組んできており,
2019年10月に,
石炭火力
発電所から排出される石炭灰の高度利用に係る
「石炭灰利用・環境保全技術共同研究講座」
を設置しました。
このほか,
広島大学の得意分野であるゲ
ノム編集技術を応用し,
火力発電由来のCO2からバイオ燃料を
つくるカーボンリサイクルに関する研究開発なども進めていく予定です。
Gas‐to‐Lipidsバイオプロセスの概要
隠岐諸島ハイブリッド蓄電池システム実証事業
〜再エネ発電実績に基づく余剰電力対策の有効性の検討〜
27 28
低温脱硝触媒
近年,
技術やビジネスモデルが急速に変化しており,
企業に求められるものが多様化,
高度化しています。
こういった環境のなかで当社グループが競争に勝ち抜いていくために自ら研究開発に取り組み,
適切に権利
化された独自技術を他企業・海外等へ展開するのみならず,
高い技術力を持つ企業を発掘し,
連携することで,
研究開発スピードの加速や成果活用・業務課題解決につなげるオープンイノベーションの取り組みが重要に
なってきています。
4 オープンイノベーションの
取り組みについて
オープンイノベーションの具体的な取り組み
研究開発部門と事業部門の双方を持つ当社では,
研究開発成果
(シーズ)
と業務上の課題
(ニーズ)
の双方を持ち合わせており,
この特長を活かして,
自社内でのニーズとシーズのマッチングに加えて,
新たに3つのタイプのオープンイノベーションの取り組みを
進めています。
関連➡P15
オープンイ
ノベーションの取り組みについて
自社の研究開発のスピードを上げ,
早期に成果を実用化するために特許分析により他社の独自技術を探索し,
最適な
パートナーとの協業を進めています。
【タイプI】
「研究開発加速型」オープンイノベーション
これまで排気ガスのNOx処理
(脱硝処理)
が困難であった100°C〜200°Cの低温域での
脱硝反応を実現する新たな触媒成分を開発しました
(特許第6093101号)。発電プラント
等での実用化のために触媒成型技術に強みを持つ企業との協業を通じて研究開発を
加速しています。
取り組み事例:低温脱硝触媒
自社の研究開発成果のうち,
当初想定していなかった多様な用途も見込まれる技術については,
特許分析により
異業種の課題を洗い出し,
新たな用途展開先企業との協業を進めていきます。
【タイプII】
「新用途展開型」オープンイノベーション
発電所においては海水を冷却水として取水していること
から,
配管に貝類が付着しますが,
その防止策のために
貝の幼生が嫌う波長のLED光を当てることで貝類の付着を
抑制する装置を開発しました
(特許第5740533号ほか)。本技術は,
貝類の付着防止だけではなく,
"ぬめり"などの
原因となるバイオフィルムの付着防止にも効果があること
から,
発電所とは縁のない,
新たな事業分野においても
実用化に向けて協業先を希望する企業と個別の面談を
実施しています。
取り組み事例:海洋生物付着防止LED
自社で保有していない先進技術や異業種において実用化された技術などについて,
全国各地で開催される技術
展示会やマッチングイベントに参画し,
当社の課題解決につながる有望な技術を発掘しています。
協業先の企業とは
秘密保持契約を締結したうえで,
これまでに試したことのない方法で課題解決できないか実証を進めています。
【タイプIII】
「先進技術実証型」オープンイノベーション
中国経済産業局が主催する
「オープンイノベーション・チャレンジピッチ」
へ参画し,
当社の技術課題ニーズを大学
や研究機関,
支援機関,
金融機関向けに情報発信することで,有望な技術の発掘を目指しています。
取り組み事例:オープンイ
ノベーション・チャレンジピッチへの参画
【タイプI】「研究開発加速型」
オープンイ
ノベーション
【タイプII】
「新用途展開型」
オープンイ
ノベーション
【タイプIII】
「先進技術実証型」
オープンイ
ノベーション
自社の研究開発に
よって生み出される
技術・知財
(シーズ)
新ビジネス領域・異業種分野
(未知のニーズ)
電気事業に関係の深い領域
(発電事業・送配電事業・小売電気事業 等)
自社内での
ニーズ・シーズ
マッチング
自社事業の
生産性向上のために
克服すべき業務課題
(ニーズ)
先進技術/異業種での実用化技術
(未知のシーズ)
これまでに協業したことのないスタートアッ
プ企業・異業種企業等
50cm 40cm 30cm 20cm 10cm
30W 50W 90W 200W 1000W/m2
LED照射と貝類付着抑制状況
有望技術の発掘のため,
各種展示会へ参画
29 30
商標を通じたメッセージの発信
当社グループのシンボルマークは,
1991年1月に制定されました。
当時の電気事業を取り巻く情勢は,
世界的なエネルギー問題,
地球規模の環境問題,
規制緩和による競争激化など,
21世紀を前に大きな変化を迎えていました。
このような状況の中,
社員の意識
改革や社内の活性化,
地域の皆さまに信頼され親しまれる企業イメージの構築をめざすことを,
企業理念とシンボルマークによって
明確にしました。
企業理念は,
キーコンセプトと経営理念で構成されています。
キーコンセプトの
「ENERGIA」は,「エネルギー」
の語源であるラテン語
に由来し,
「エネルギーがもたらすあたらしく,
あかるく,
あたたかい活力ある社会」
であり,
その社会の実現に向けて努力していく,
という当社の姿勢を表すものです。
2016年には,
当社グループ全体の新たな企業理念として掲げることにしました。
これらの想いをシンボルマークに込め,
お客さまをはじめ私たちと関わりある皆さまと当社グループをつなぐ目印として,
新しい
時代においても,
皆さまの信頼を高めていきます。
当社は,
2016年から
「ぐっと」
おトクな料金と,
「ずっと」
便利なサービスをご提供していく
との宣言のもと,
料金メニュー
「ぐっとずっと。
プラン」と,会員制WEBサイト
「ぐっとずっと。
クラブ」
の提供を開始しています。
2019年からは,
サービス全般の総称として
「ぐっとずっと。
Eサービス」
を設定し,
電気だけではなく,
快適さや便利さを兼ね備え"いい"
感じに思っていただけるサービスを展開しています。
「ぐっとずっと。
Eサービス」
のロゴデザインは,
暖かさを感じるオレンジ色を使用し,
「ぐっと」
の頭文字であるGを,
家の形に模すことにより,
家族や地域のつながりを表現しています。
各種サービスを統一したブランド名
である
「ぐっとずっと。
Eサービス」
はもちろん,
個々のサービスについて使用するシチュエーション等も十分考慮した形態で商標登録を
しています。
シンボルマークと企業理念
送配電部門の法的分離に伴い,
送配電会社 中国電力ネットワーク株式会社の
商標を設定しました。
ロゴデザインは,
社名の中国電力ネットワーク,
事業基盤である中国地域,
そして
お客さま
(Customer)の頭文字である
「C」
をモチーフに
「安定供給」と「お客さま
からの信頼」
を強固なものにしていく姿勢を表現しました。
また,
シンボルマーク
を構成する5つの三角形は,
「お客さま
・地域」
「社員」
「設備」
「グループ会社」
「異業種企業」
を表現しており,
これらのつながり
(ネットワーク)
による力を結集
して地域社会とともに発展する企業を目指すという意思を表しています。
中国電力ネットワーク株式会社の商標を設定
キーコンセプト シンボルマーク
商標登録第3104821号
お客さまに中国電力を選んでいただき,
喜んでいただけるようなサービスの開発を,
提携先や
社内関係者と一緒になって行っています。
お客さまと中国電力の最初の接点となるのがサービスの名称です。
訴求するサービスの内容が,幅広い世代のお客さまにイメージを持っていただきやすく,
親しみが湧きやすい,
わかり
やすい言葉やデザインを選ぶよう,
心がけています。
お客さまに覚えていただいた名称を途中
で変更すれば,
お客さまの混乱を招く恐れがあります。
そのようなことがないように,
候補の
名称が他者の権利侵害のないものかどうか,
早めに知財グループへ商標チェックを依頼し,
その名称を事前に商標出願のうえ,
サービスを開始するようにしています。 「ぐっとずっと。
Eサービス」
の出願の際は,
特許庁の早期審査制度も活用し,
早期権利化を図り
ました。
また,
固定価格買取制度による買取期間満了後のお客さま向けサービス
「ぐっとずっと。
Green Fit」や,マルチシェ
アリングロッカーを活用したシェアリングサービス
「ぐっとずっと。
シェア」
については,
サービス内容をビジネスモデルとし
て特許出願も行い,
サービスを多面的に保護しています。
これからもお客さまとの接点を大切に,
魅力あるサービスの開発を行っていきます。
社員から一言
販売事業本部
(コンシューマ第一グループ)
木原 実緒
特許権と並ぶ重要な知的財産権に商標権があります。
商標は,
当社グループとお客さまを結び,
お客さまからの
信頼の証となる大切な知的財産であると認識しています。
企業のシンボルマークから,
商品・サービス名称まで,
商標権として適切に権利化し保護することで,
安定的に
使用できるようにするとともに,
お客さまに安心して当社グループの商品やサービスをお選びいただけるように
しています。
5 商標への取り組み
商標への取り組み
「ぐっとずっと。
Eサービス」
ブランドを通じたお客さま接点の構築
商標登録第6187835号
電気料金の確認や
お手続きも簡単!
太陽光発電の余った
電気をおトクに活用!
電気だけでなく,
安心や便利をお届け!商願2019‐39875ほか 商標登録第6187817号
商願2020‐2121
商願2019‐76960ほか
VOICEOIIICECECEICEOOVOVOV ICOIOきほんサービス おとくサービス くらしサービス
中国電力 Shufoo! アプリ
商標登録第6080211号
31 32
知財リスクに対する日常業務での対応
知財関連契約審査の取り組み事例
日常業務や研究・開発において当社が実施・検討している技術内容と他者特許を対比し,
侵害の有無を検討する
「特許権侵害
チェック」や,広告物やイベントなどで使用する媒体について,
他者商標権の侵害の有無や回避方策を検討する
「商標権侵害チェ
ック」
などを日常的に実施しています。 また,
権利確保面では,
共同研究などの成果を自社の権利として,
将来の実施内容も踏まえて適切に確保できる条件となっている
かをチェックする
「知財関連契約審査」や,社外に公開予定の論文・技術資料などに未出願の内容が含まれ公知になり特許を取得
できなくなることを防止するためのチェックを行う
「知財性確認」
などの仕組みを整え,
日常業務として実施しています。 なお,
現時点において当社の経営に重大な影響を与える知的財産関連の訴訟案件はありません。
知財の取り扱いが特に重要である研究・開発においては,
取り組みの初期段階から,
知財部門が研究所・事業本部
と適時適切に協議し,
研究・開発から創出される成果・権利の獲得や実施について,
知財リスクが発生しないかを
チェックすることとしています。
研究・開発の初期段階から知財リスクをチェック
業務にあたっては,
契約書の形式的な確認にとどまらず,
これまでの
経緯や,
相談箇所のニーズ,
今後の成果やリスクを相談箇所と協力して
洗い出し,
契約書へ適切に反映できるように心掛けています。
また,
当社にとっての利益と契約先にとっての利益は共存することが
可能ですので,
双方に利益ある契約を締結できるよう,
相談箇所と
連携を密にしながら,
対応策を考えることが重要です。
担当者から一言
他社と協力して研究・開発などを行う場合,
生まれる成果・権利については,
研究・開発における貢献度やリスク負担
などに応じた持分となるようにすることが,
研究・開発成果の実施にあたり重要であると考えています。
そのため,
当社
のポリシーを前提に,
相手方の意向や背景事情も踏まえつつ交渉を行うこととしています。
研究着手
研究・開発開始前の
計画のチェック
研究・開発活動状況の
チェック
出願条件の
チェック
実施許諾の
可否等のチェック
成果・権利の獲得 権利化
(特許出願等)
成果・権利を貢献度などに応じて適切に確保
知財部門
実施箇所
技術主管箇所
エネルギア総合研究所
(知財企画法務グループ)
田辺 亮太
当社 共同研究先
知財規程の基本理念の一つである
「他者の権利の尊重」,および
「コンプライアンス最優先」
という考え方
に基づいて,
知財リスクを回避するための取り組みを積極的に推進しています。 6 知財リスクへの対応
知財リスクへの対応
くろまる共同研究は,
双方がリソース
(資金・人材・研究活動等)
を出し合い,
研究・開発にかかるリスクを分担すること
から,
生じる成果・権利は全て共有。
くろまる委託研究は,
委託側が研究についての経済的リスクを全面的に負担することから,
生じる成果・権利は,
基本的に
委託側に帰属。
研究・開発から生まれた成果・権利の活用が,
当社の将来の事業活動等にどのように影響するかを確認しています。
特に,
他社への実施許諾可否を検討する際には,
技術主管箇所や実施箇所と協議をしながら次の点について確認
しています。
成果・権利の活用に向けた検討
くろまる当社事業への直接の影響。
くろまる競合企業にメリットが生じることによる事業への相対的な影響。
VOICEOIIICECECEICEVOOVOVOV ICOIO課題検討 実施
協 議
協 議
しかく共同研究
リソース
(資金・人材・研究活動等) 人材・研究活動
当社 委託研究先
しかく委託研究
資金
成 果 成 果
しかく社内協議体制
33 34
1省エネ
・長寿命なLEDの光を利用することで,
薬品を使う
ことなく海洋生物の付着を防止する技術
(PCT/JP2012/070700ほか)
2排気ガス中の窒素酸化物
(NOx)
を除去し,
浄化する技術
(PCT/JP2016/076870ほか)
しろまる2013年11月,
WIPOが事務局となって設立され,
環境技術/ニーズのデータベースと環境技術移転を促進する組織
のネットワークからなる。
しろまる運用開始以降,
データベースには100ヵ国以上で2,600件を超える環境技術やニーズが登録されており,
「WIPO
GREENネットワーク」
には世界170ヵ国で6,000以上の個人や組織が参加している。
WIPO GREENの概要
地域の人材育成への協力
地域貢献の推進
環境技術における貢献(WIPO GREENへの参加)
地域社会への貢献という観点から,
地元企業を対象とした知財研修活動への協力や,
高校生や大学生に向けた科学技術に関する
教育活動についても積極的に取り組んでいます。
近年の取り組みとして,
一般社団法人広島県発明協会が主催するセミナーへの
講師派遣など運営への協力や,
一般社団法人日本知的財産協会が行う研修会や講演会等への参画・協力,
インターンシップ実習生
の受け入れなどがあります。
また,
次世代層への環境エネルギー教育として
「わくわくE‐スクール」
を開催しています。
同スクールでは,
地域の小学校の社会見学を
受け入れ,
環境エネルギー学習を支援しています。
太陽光発電,
電気自動車,
雷インパルス電圧発生装置などの施設見学や理科実験を
取り入れ,
高い評価をいただいています。
当社は,
2018年4月,
当社の保有する環境技術を広く普及させ,
環境保全に貢献することを目指し,
世界知的所有権機関
(WIPO)
が運営する環境関連技術・ノウハウのグローバルな普及を促進する枠組みである
「WIPO GREEN」
の環境技術データベースに当社
の保有する環境技術を登録しました。
今後も,
自社の研究開発を通じて得られる環境技術について,
世界で広く活用していただけるよう,
「WIPO GREEN」
への参加
を通じた情報発信と海外企業との技術交流を積極的に進めて
いきます。
高校生を対象とした科学技術に関する教育活動 施設見学
(太陽光発電システム)
2018年度WIPO GREENへ登録した環境技術
技術提供側
法人,
大学など
環境技術を登録
技術導入側
法人,
大学など
必要な環境技術を検索
環境技術
データベースWIPO環境技術移転サポートの
ためのネットワーク
技術情報
契約情報
国際機関,
国家機関,
現地コンサルティング組織など
(ニーズ調査,
マッチメイキング,
ビジネス化などについての支援)
国際機関,
国家機関,
現地コンサルティング組織など
(ニーズ調査,
マッチメイキング,
ビジネス化などについての支援)
ニーズ情報
7 CSRの取り組み
CSRの取り組み
関連➡P15,P29
関連➡P29
知財を通じた事業活動
国内の石炭火力発電所等で培ってきた実績・経験・技術を,
自社技術の流出防止に留意した上で,
海外へ積極的に展開していきます。
電気事業の知見を活用した国際事業
当社グループは,
社会の要請に応えていくための目指すべき方向性と行動原則を定めた
「エネルギアグループ
企業行動憲章」
を新たな経営ビジョン
「エネルギアチェンジ2030」
の策定にあわせて見直し,
「社会の要請に
対する感度を高め,
これに応えていくことで,
グループの企業価値向上と持続的成長を実現する」
とし,
自ら考え
行動し,
社会の一員としての責任を果たすよう取り組んでいます。
知財面からも,
海外での特許使用に関する事業,
地域の人材育成への協力など,
CSRの取り組みを展開
しています。
2016年3月に,
マレーシアに新たに建設する超々臨界圧石炭火力発電事業
(出力100万kW 2基)
に出資参画
しました
(出資比率15%)。現地には社員を派遣しており,
これまで国内の石炭火力発電所の建設管理や運営で
培ってきた実績・経験・技術を最大限活用することで,
同国における電力の安定供給や低炭素社会の実現に貢献
していきます。
1マレーシアにおける超々臨界圧石炭火力発電事業
カンボジアにおける長年のコンサルティング実績を評価され,
2030年までの電力供給計画
(電力マスタープラン)
改定業務を2019年4月に同国鉱業エネルギー省から受託しました。
電力需要の想定,
電源開発計画および送変電計画
の改定作業を実施することで,
同国の電力安定供給やエネルギーセキュリティ向上に貢献します。
2カンボジア電力マスタープラン改定コンサルティング業務
マレーシアでの発電所の建設工事風景 鉱業エネルギー省での協議風景
35 36
しかく2018年度の算定結果
(当該年度時点で存続している特許を対象に毎年度再評価
(洗い替え)
を実施) 電気の安定供給,
競争力強化,
環境保全などに資する技術の研究•開発により新たな価値創造に取り組むとともに,
業務運営の
あらゆる場面で生み出される知的資産を知財として認識・活用し,
企業価値を向上していくことがグループ存立の基盤と考え,
戦略的
かつ効率的な権利取得・活用を進めています。
こうした知財活動を通じて創出された知的財産
(IP:lntellectual Property)
の実績は以下の通りです。1:
特許技術が導入・適用された施策のうち,
一定額以上のコスト低減効果が発生した件数。2:
技術を特許出願することで事業活動の自由度を確保できていることの金額効果。3:
対象技術が特許で担保されていることで当社のみがメリッ
トを享受できている金額効果。
2に特許技術の寄与度や特許の強さなどを加味して算定したもの。4:
クロスライセンスの対価となり得る特許技術の金額効果。
自社が対価性のある特許を保有していれば支払額が相殺されることから,
他社技術導入の原資として特許の金銭的側面
を評価したもので,
相手先企業との事業規模比により算出される係数Aの値により変動。 しかく容易に発見できない故障箇所を効果的に特定するため,
停電発生の際に故障箇所から瞬間的に流れる電流を使用したシステム。
しかく停電時における調査範囲の大幅縮小や故障箇所の早期発見につながる。
【評価対象特許の概要】
故障点標定装置
(P24掲載事例)
特許の価値の定量的評価
特許の定量的評価のステップ
ステップ1
評価年数
2018年度(I)2017年度(II)(IーII)
183件
178件5件447億円
434億円
13億円
166億円
161億円
5億円
(×ばつA)
(×ばつA)ー1施策件数
2特許技術が関係した
コスト低減額
3特許の価値の
定量的評価額(α)4他社技術導入原資
獲得額
(×ばつA) ステップ2 ステップ3
特許が関係した
コスト低減額(注記)(a)特許技術が寄与した
コスト低減額(b)特許の価値の
定量的評価額(c)(b=a×ばつ特許技術の寄与度(注記))(注記)本事例では100%
(c=×ばつ排他独占性(注記))(注記)本事例では60%
その他の
効率化額
発明の排他独占性評価(注記)・・・・・・・・・・・・・ 73%
(15点満点で9点の評価)
しかく権利化状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
4点
しかく権利としての強さ・・・・・・・・・・・・・・・・
4点
しかく代替技術に対する優位性・・・・・
3点
(注記)特許庁
「特許評価指標
(技術移転版)」をベースに,
当社の事業内容に合う評価項目を採用
(注記)計画額
(将来発生が見込まれる
低減額)
も含む
1権利化状況
2権利として
の強さ
3代替技術に
対する優位性
しかく排他独占性評価表
5点 4点 3点 2点 1点
無効審判後も
権利維持
非常に強い
(基本発明)
代替技術なし
権利成立
(無効審判請求なし)
強い
(基本発明に準ずる)
拒絶査定を受け
審判継続中
(特許性あり)
弱い
(中程度の改良発明)
拒絶査定を受け
審判継続中
(特許性に疑問)
非常に弱い
(小幅な改良発明)
代替技術より
技術的に劣位
ー ー
(無効審判請求なし
(基本発明に準ずる)るししなしし権利未成立で
特許性の判断が困難
中程度
(大幅な改良発明)
代替技術より
技術的に優位
活動報告 ー 知財活動の概観 ー
特許出願件数の推移
(公開日ベース)
海外への出願件数
(有効分)
21カ国
(登録件数:126件)
知財関連試験有資格者数
しかく弁理士・・・・・・・
5人 しかく知的財産管理技能士
(2級)・・・・・・・ 132人 しかく知的財産管理技能士
(3級)・・・・・・・ 25人
発明者人口の推移(注記)
特許登録率の推移
特許登録件数の推移
(登録日ベース)5510550PCT出願
(移行前)74(年)
(件)
中国電力 電力上位3社平均 ガス上位2社平均
(件)
中国電力 電力上位3社平均 ガス上位2社平均
(件)
4,477 4,762 4,964 5,161285202 871130
2,000
1,000
(人)
3,000
4,000
5,000
6,000
経験者 新規発明者
(注記)特許出願経験のある社員数
(2003年からの累計)
[参考:当社社員数9,021人
(2019年12月末)]2015 2016 2017 2018 2019
(年)
4,762
4,964 5,051
5,274
5,0511105,161
発電所管理・メンテナンス技術
再生可能エネルギー
関連技術
非接触給電
技術
送配電設備管理・メンテナンス技術
石炭ガス化
技術
電力需給
調整技術
その他7392072121169中国電力 電力上位3社平均 ガス上位2社平均
EnerGia IP Activity 2019
2015 2016 2017 2018 20190200400600762962372015 2016 2017 2018 20190200400600
2015 2016 2017 2018 2019(年)0%20%40%60%80%100%81%92%84%45251150
(年)
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