エネルギアグループ
知的財産報告書
2014 年1月
社 長メッセージ
原子力発電所の運転停止により全国的に電力需給が厳しい状況にあるなか,昨年の夏は例年より
暑さが厳しく,当社サービス区域内では,至近10年で最小の予備率を記録するような場面もありま
したが,お客さまの節電のご協力により,電力の安定供給を維持することができました。心よりお
礼申し上げます。当社は,引き続き,供給力の確保に全社一丸となって取り組んでまいります。
昨年,電力システム改革に係る電気事業法改正法案が成立し,2016年を目途に小売りの全面自由
化を行うことが定められました。当社としては,価格競争力の向上など,お客さまに選択いただく
ための取り組みを強化していくのはもちろんのこと,中国地域における電気事業を柱としながら,
域外,海外へと事業領域を広げることも視野に入れ,準備していく必要があると考えています。
研究部門等の特定の組織だけなく,
営業所,
発電所,
電力所といった
「現場」
をもう一つの核として,
2003年度からグループ全体で知財戦略を推進してきた結果,
当社の特許新規登録件数は2010年以降,
エネルギー業界でトップとなり,特に,最近注目を集めているスマートグリッド関連の出願件数は,
特許庁の調査において,世界でも6位にランクされています。
今回の報告書では,こうした電気事業を支える
「現場力」
を取り上げています。良質で低廉な電気
を安定してお届けするという使命を果たすために,日夜,一所懸命に様々な業務に携わる社員の創
意工夫の成果をご覧いただければと思います。
仲間と共に知恵を出し合い技術をさらに洗練させていくという,日常業務における社員個々の取
り組み姿勢が,お客さまのご期待に応え,信頼を獲得し,選択される企業となるための大きな力に
なるものと確信しています。
一方,電気事業は極めて公益性の高い事業であり,当社は,取得した特許を排他独占的に活用し
事業の発展を目指すのではなく,その活用により我が国全体の公共の利益に繋がるような
「健全な競
争」
に貢献したいと考えています。
当社グループは,産業財産権制度の枠組みを最大限に尊重・活用するとともに,知財戦略面での
取り組みを一層深化させてまいります。また,その成果を,知的財産報告書をはじめとした様々な
活動を通じて積極的に情報発信しつつ,ステークホルダーの皆さまの声に十分に耳を傾けてまいり
たいと考えています。
今後とも,一層のご理解とご支援をいただきますよう,
よろしくお願いいたします。
2014年1月
中国電力株式会社
取締役社長1エネルギアグループの知財活動イメージ
エネルギー競争環境の激化が進むなか,競争優位の源泉となるものは,保有している企業のみが
コントロールできる知的財産であり,それを産み出す人材と考えて,エネルギアグループは,
積極的に知財戦略を推進しています。
株主・投資家の皆さま
●くろまる 低廉で質の高い電気の安定供給
●くろまる 知財を通じた社会貢献
お客さま・地域社会
●くろまる 標準化への取り組み
●くろまる 知財を通じたアライアンス
他事業者など
●くろまる 外部知見の有効活用
●くろまる 一体的な研究・開発
研究パートナー
(メーカー・大学・研究機関等)
●くろまる 競争力強化を通じた企業価値の向上
●くろまる 積極的な情報発信
創 造
活 用
保 護
●くろまる 戦略的な権利化
●くろまる 知財リスクへの対応
●くろまる 知財価値の顕在化
●くろまる 事業活動の自由度確保
●くろまる 人材育成
●くろまる 啓発活動
●くろまる 創意工夫
●くろまる 研究・開発
人 材23
目 次 + 概 略 ・・・・・ I n d e x + S u m m a r y ・・・・・
研究・開発への取り組みと独自技術
2 20〜26
研究・開発戦略 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる S
(安全確保)
を前提とした3E
(供給安定性,経済性,環境保全)
の達成に向け,新たな価値を創造
●くろまる 事業強化に向けて特に優先度の高い分野を
「重点開発分野」
として設定し,重点的に経営資源を配分
20〜21
研究・開発の意義と独自技術 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる 大規模設備や複雑なネットワークの運用ノウハウ・技術を基に,ユーザー視点で独自の研究・開発を推進
22〜24
事業戦略,研究・開発戦略,知財戦略の一体的な推進・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる 研究・開発戦略等を審議する
「研究・開発推進会議」
と知財戦略推進等を審議する
「知財戦略会議」
が連携
25〜26
電気事業を支える基盤技術
1 15〜19
電気事業を支える基盤技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる 電気事業に必要となる基盤技術は,大別して
「発電」
「送電」
等10の分野で構成
15〜16
基盤技術と特許 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる 基盤技術を特許で担保することの意義は
「事業活動の自由度確保」
●くろまる 重点課題を設定し,集中的に特許を取得
(特許網を構築)
17〜18
特許の事業への貢献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・●くろまる 保有する特許の事業への貢献を把握するという経営の観点から,特許の価値の定量的評価を実施1915
電力会社の事業モデルと事業特性・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・事業
モデル
●くろまる 電気は重要な社会インフラであり,長期的・安定的に提供するという社会的要請に応える必要がある
●くろまる 電気は貯蔵できないため,質の高い電気を効率的に提供するための高度な技術が必要となる
事業
特性
●くろまる 発電所でつくられた電気を,送電線や配電線を通してお客さまに安定的にお届けする
●くろまる 多様な料金メニューやエネルギー利用方法のご提案を通じて,お客さまにご満足いただく
5〜14
お客さまの暮らしを支える電気。その電気をつくりお届けするという電力会社の使命を果たす
ための技術は,社員が創出した無数の知財
(ノウハウや技術)
が支えています。私たちは,これ
からの競争時代を
「現場のチカラ」
で勝ち抜き,お客さまから選ばれ続ける企業を目指します。
紹介テーマ
特集 現場のチカラ
CASE1
つくる
チ カ ラ
CASE2
届ける
チ カ ラ
CASE3
支える
チ カ ラ
CASE4
拡げる
チ カ ラ4私のイチオシ!
知財リスクへの対応36知財リスクに対する日常業務での対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・●くろまる コンプライアンス最優先の考え方に基づき,特許権や商標権の侵害リスク対応を実施
●くろまる 研究成果の適切な権利確保のため,知財関連契約の審査や刊行物公表前の知財性確認を実施4 3636
営業秘密管理・技術流出防止に関する方針 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる ノウハウ等の営業秘密情報の管理体制・方法等を規定し,営業秘密を確実に管理できる仕組みを構築
商標への取り組み37戦略的事業領域での商標活用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる グループが取り組む戦略的事業領域において297件の登録商標を保有
●くろまる 適切な権利化により,グループの商品・サービスの訴求力向上および他者商標権侵害の防止を推進
5 37〜3838商標を通じたメッセージの発信 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる 登録商標でもある当社シンボルマーク
「EnerGia」
は,その著名性が認められ
「防護標章」
に登録
●くろまる 豊富な経験と高い技術・技能の証である
「エネルギア・マスター」
の名称・ロゴマークを大切に育成
CSRの取り組み
39〜40
知財を通じた貢献活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・●くろまる 地球温暖化対策の推進や東日本大震災の復興支援への貢献等,知財面でもCSRを意識した活動を展開
6 39〜41
40〜41
積極的な地域貢献の推進 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・●くろまる 研究成果の社外での一層の活用をめざした広報活動や,地域の人材育成への協力等を積極的に推進
つくるチカラ
岡本 洋平
(柳井発電所)
届けるチカラ
竹下 充浩
(流通事業本部)
支えるチカラ
上野 知実
(宇部電力所)
拡げるチカラ
甲斐 英喜、桒原 悠介
(大崎クールジェン
(株))発明者から一言
有馬 ゆかり
(流通事業本部)
知財事務局から一言1
須安 治彦
(広島北電力所)
知財事務局から一言2
矢谷 弘二
(岡山営業所)
知財部門から一言1
門司 英樹
(エネルギア総合研究所)
総合エネルギー供給部会から一言
吉野 貴文
(瀬戸内共同火力
(株))知財部門から一言2
三好 博子
(エネルギア総合研究所) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8・・・・・・・・・・・・・・・・
・10・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・12・・14・・・・・・・・・・・・・・・・16・・・・・・・・・・・・・・・・
・30・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・31・・・・・・・・・・33・・・・・・・・・・・・35・・・・・・・・・・36
本報告書の開示項目は,経済産業省の
「知的財産情報開示指針」
を踏まえ,当社の取り組みの特長が最も明確になるよう,項目の配列等を変更した構成
としています。
知左ヱ門博士の知財こぼれ話
皆で仲よく心から愉快に働きましょう
中国電力のココがスゴイ!1
社員全員が発明者になる日は近い!
中国電力のココがスゴイ!2
有望特許,あります!?・・・・・・・・20・・・・・・・・・・27・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・32
〜社員からのメッセージ〜
知財戦略推進の基本理念と推進体制
知財戦略の基本理念・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・●くろまる 競争優位の源泉は知的財産であり,それを生み出す人材であるという考えに基づき3つの基本理念を規定
●くろまる 社員の約40%が発明者という裾野の広い活動や,現業機関の社員の発明の多さが特長
3 27〜35
27〜33
知財戦略推進体制 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
●くろまる 知財規程に基づき,事業本部等の知財戦略を円滑に推進するための支援体制等を整備
●くろまる 知財戦略会議の下部機構として,戦略的事業領域に即した6つの部会を設置し,知財活動を推進
34〜35
Voice!
当社は創業以来,地域のライフラインを
担う電気事業者として
「良質で低廉な電気
を安定してお届けすることにより,地域の
発展に貢献する」
ことを使命として,事業
を行っています。
この使命を果たすうえで解決しなければ
ならない様々な課題に対して,長年にわた
り取り組み,これまでに多くの技術を着実
に蓄積してきました。
電気が,ガスや水道など他のライフライ
ンと大きく違う点は,
「貯めておくことが
できない」
ということです。
消費される電気の量に合わせて発電所で
電気を作り,送電線や配電線を通してお客
さまへお届けしています。
その過程では,需要量を想定して発電量
を調節したり,つくられた電気の流れを
一貫して管理・運用することで適正な電
圧や周波数を維持したり,お客さまから
のお申込みを迅速・的確に受け付けたり
と,質の高い電気を安定的かつ効率的に
お届けするために,現場での多くの工夫
が必要となります。
当社が蓄積してきた技術は,研究・開発
現場のチカラ
特集
つくるチカラ 届けるチカラ5部門はもちろん,電気事業に携わる社員全
てが日々の業務と真剣に向き合い,自分た
ちがお客さまに提供できる
「新しい価値」が何かを追求し,改善を続けてきた結果だと
考えています。
電気事業は,今まさしく
「変革期」
を迎え
ており,電気事業の改革に向け様々な検討
が進められています。どのような状況に
あっても,当社の使命は変わるものではあ
りませんが,社会やお客さまのニーズが変
化する中で,それを達成するためには,社
員一人ひとりがさらなる現場力を発揮し,
お客さまのご期待に応えるための基盤技術
として,より確固たるものに育てていくこ
とが重要になります。
今回の特集では,
「良質で低廉な電気を
安定してお届けすることにより,地域の発
展に貢献する」
という当社の使命を果たす
ための,4つの
「現場のチカラ」
に焦点を当
てました。
これからもお客さまに選ばれ続ける企業
であるために,当社が取り組んでいる創意
工夫の一端をご紹介します。
支えるチカラ 拡げるチカラ6[特 集]現場のチカラ[特 集]現場のチカラつくるチカラ
CASE1
現場のチカラ
火力発電所では,石炭・石油・LNG(液化天然ガス)
等の燃料をエネルギーに変換する際の熱効率向上※(注記)1
を目指し,
ガスタービン発電と蒸気タービン発電を組み合わせたコンバインドサイクル発電※(注記)2
を推進しています。
ガスタービンでLNGを燃焼させる際に必要な圧縮空気は,空気圧縮機で生成します。高速回転し空気を
送り出す
「動翼
(羽根車)」と,圧縮機本体ケースの内壁に設けた溝に滑り込ませて固定し,空気の流れを整
え圧力を高める
「静翼」
を交互に幾重にも配した構造で,高い圧縮率が得られますが,その複雑さゆえメン
テナンスが難しい機械です。
特に静翼は,運転時の振動や強い空気の流れにより根元の溝が摩耗しやすく,ぐらつきや抜け出しが懸
念されます。静翼が隣接する動翼と接触すると,折損等が発生し大規模修繕が必要となるため,摩耗が一
定程度進行した時点で,静翼の摩耗部分の肉盛溶接補修や本体ケースの溝修理等を行っています。
火力発電所ガスタービン発電機の保守性を向上
今使われる電気は,今つくる
電気はそのままの状態では貯めておくことが難しく,その実現のために
は技術面・コスト面とも,まだまだ時間が必要だと考えられています。
一方で,供給量が不足すると電圧や周波数が乱れ,停電になることもあ
りえます。
必要なときに必要なだけ電気を使っていただけることが,
電力会社にとっ
て一番大切なことであり,そのための創意工夫が現場には溢れています。
チカラ1空気圧縮機本体ケース内壁の溝を大きめに加工し,静翼との間に脱着可能なリ
ング状の部材を設けました。静翼の根元が摩耗した場合はその部材のみ交換すればよいため,定期点検
工事時に補修作業を容易かつ迅速に行えます。
これにより,静翼の折損による空気圧縮機の損壊や発電機の計画外停止
(稼働率低下)
の発生を,未然に
防止できました。
【ガスタービン発電機の構造】 【空気圧縮機の内部構造
(側断面)】発明
静翼を取り付ける
溝の接触部分を
着脱可能な構造に
効果
静翼根元と接する
摩耗した部材のみを
迅速に交換
メリット
折損事故による
大規模修繕や設備の
計画外停止を回避!
排ガス
発電機
燃焼室
空気
燃料
(LNG)
圧縮空気
空気圧縮機
ガスタービン
燃焼ガス
動翼
空気→
空気→
本体
ケース
静翼静翼60周波数(Hz)需要
(使用量)
59 61
供給
(発電量)
【本体ケース内壁の構造】
溝と静翼が接する部分に
着脱可能なリング状部材を挿入
※(注記)1 当社の場合,熱効率が1%向上すると燃料約21万kl/年
(重油換算),CO2排出量64万t-CO2/年が削減
※(注記)2 燃焼ガスでガスタービンを回し,その排熱で蒸気を発生させて蒸気タービンを回すため熱効率が高い溝(特許第5129052号)
共同開発先:株式会社日立製作所[特 集]現場のチカラ7
現場のチカラ
一部の石炭火力発電所では,廃材や間伐材等から得られる植物系の燃料
(木質バイオマス燃料)
を石炭と
混合した
「木質バイオマス混合燃料」
を燃焼させて発電するバイオマス発電に取り組んでいます。
外部から受け入れた木質バイオマス燃料は,
サイロ
(貯蔵用収容施設)
に集積した後,
石炭に混合されます。
植物由来であるため水分を含み,加える割合が多いと燃焼効率が低下するため,混合割合を石炭の3%以
下にする必要があります。
また,サイロから吐出する際に詰まることがあるため,木質バイオマス燃料の種類・寸法毎にサイロを
分け,詰まりを防止する必要があり,設備や管理の費用がかかっていました。
木質バイオマス混合燃料を安定的に製造
(特許第5323024号)
チカラ2発明
当日搬入された
木質バイオマス燃料を
当日使いきる方法
効果
燃焼効率のよい
混合燃料を計画的に
製造可能
メリット
混合燃料の安定的な
供給が可能なうえ,
設備費用も削減!
【木質バイオマス発電設備の概要】
柳井発電所のコンバインドサイクル発電は,熱効率の高さだけでなく発電機の始
動時間の短さ
(立ち上がりの速さ)
や,電気使用量の変化に応じて速やかに出力を増
減できることも大きな特長です。逆に言えば,静翼が折損するなどし,発電機が稼
働できない場合,需給の変化に即応し電気の周波数を保つことが難しくなります。
こうした事態を未然に防ぐために何とかできないかと試行錯誤した結果が,本体
ケースと静翼の接触部分を取り外し可能とすることでした。今必要な電気を今つく
るという
「あたりまえ」
を支える発明ができたことが嬉しいですね!
私の
私の
発明者
チカラ1イチオシ!
柳井発電所 保修課
(メンテナンスグループ機械) 岡本 洋平
送炭コンベア
石炭バンカ
ボイラー
微粉炭機
石炭
受入ホッパ
バイオマス
サイロ
木質バイオマス燃料
この設備を無くして
シンプルな構造に!
仮置場から
直接搬送
サイロへの貯蔵をやめ,
「1日に受け入れ可能な木質バイオマス燃料を当日中に
使い切る」
という発想に転換しました。燃料は1日分を受け入れる仮置場から直接搬送されるため,サ
イロの無いシンプルな設備構成となり,吐出口が詰まるリスクも解消できました。
また,仮置場からの搬送装置やベルトコンベアの速度を管理・調整することで,石炭比3%以下の混合
割合を維持しつつ,必要な量の混合燃料を計画的に製造することが可能になりました。8[特 集]現場のチカラ
届けるチカラ
CASE2
送電線の切断や雷撃等により,電力系統のルート断など大規模な事故が生じ電
圧安定化が必要となった場合,変電所の母線電圧が予め設定した閾値以上に回復するまで順次負荷を遮断
することで,遮断量を最低限に留めつつ電圧安定化
する装置を開発しました。
遮断する負荷は,他系統に切替可能なものから順
次指定するため,
停電範囲を従来より縮小できます。
送電線を通る電気の電圧は常に一定の範囲に保たれていますが,電力系統で大規模な事故が発生すると,
電圧を適正に維持できず広域停電に至る可能性があります。事故の拡大を防ぐためには,負荷
(お客さま設
備等)
の一部を電力系統から切り離すことで,電圧の安定性を維持する必要があります。
電圧安定化に必要な負荷遮断量は一定ではなく,事故時点の需給状況を踏まえて算定されますが,これ
を瞬時に求めるためには高価な機器が必要となります。また,電圧安定化に十分な量の負荷を一括で遮断
する技術も存在しますが,必要以上に負荷を遮断してしまい,過大な範囲が停電するおそれがあります。
電力系統事故発生時の停電範囲を縮小
(特許第4832600号)
出発点は,
「ホタル送電」
点いたと思ったら,また消える。そんな電気の不安定さを,
ホタルのようだと例えられた時代がありました。
どうすれば安定的に電気をお届けできるのか,そのための試行
錯誤を繰り返してきました。
そして,停電時間を大幅に短縮した現在も,お届けする電気の
周波数や電圧を最適に維持し,質の高い電気をお届けするため,
今も試行錯誤をしています。
チカラ3【送電線事故時の動作イメージ】
送電線事故時の処理フロー
❶ 送電線事故が発生
❷ B
(発)→C(変)→D(変)→A(変)
の向きに
電力が増大
❸ C
(変)
の電圧が低下し,電圧安定性が低下
❹ 事故情報により系統安定化装置が起動
❺ 一定時間をあけて負荷を順次遮断し,
電圧を回復,電力系統の安定性を維持
[中国電力の年間事故停電時間の推移]
発明
送電線事故時に
電圧が安定するまで
負荷を順次遮断
効果
適切な量の負荷を
高価な機器を使う
ことなく遮断可能
メリット
信頼度の向上と
コスト削減を
同時に達成!
現場のチカラ0804285 06 07 08 09 10 11 12
(年度)1020304050※(注記)行政が指定する災害分などを除く
(分/戸)177 7 7 7 7 7 8
送電線
上位系統
❶事故発生
❸電圧低下
❹起動指令
事故検出装置
電圧検出装置
❺負荷遮断
発電所B変電所C変電所D変電所A発電機❷電力増
事故情報
事故情報[特 集]現場のチカラ9
現場のチカラ
配電設備の経年劣化による絶縁性能の低下や樹木・鳥獣等の接触等が原因で,停電が発生することがあ
ります。電線の断線やがいしのひび割れ等のような,目視で発見できる痕跡が残らない場合には,多大な
労力と時間をかけて数kmにわたる配電線の巡視を行ない,停電の原因となる故障点を探索しています。
しかし,故障点の発見は困難で,時には原因を特定できないこともあります。配電設備の絶縁性能の低
下や鳥獣接触等は一時的に解消されることもありますが,同様の原因により停電が再発する可能性がある
ため,早期の原因特定および解消が求められます。
配電線故障点を早期・高精度に特定
(特許第4039576号ほか)
共同開発先:株式会社三英社製作所
チカラ4❶ 停電発生時のサージ電流波形
等を現地装置が検知・記録
❷ 記録したサージ電流波形等を
携帯電話によるデータ通信で
故障点標定装置(パソコン)
が受信
❸ サージ電流の到達時刻と配電
線路長データ等から演算処理
により故障点を特定
停電発生時に,故障点から瞬間的に流れる電流
(サージ電流)
を現地装置により
検知・記録し,故障点標定装置
(パソコン)
へサージ電流波形等を送信します。現地装置を配電線の複数
箇所に設置し,各々の現地装置にサージ電流が到着した時刻の時間差から,高精度に故障点を特定する
システムとしました。
現地装置の構造を小型・軽量化することにより可搬型とし,故障点を特定したい配電線に簡単に設置
して使用できます。
本システムを使用することで,停電時の配電線巡視範囲の大幅縮小や故障点の早期発見による,停電
復旧作業の迅速化・省力化を実現できます。
発明
サージ電流を用いて
停電原因の故障点を
高精度に特定
効果
配電線巡視範囲の
大幅縮小および
故障点の早期発見
メリット
停電事故の早期
復旧に加え,
要する労力も低減!
系統安定化装置は大規模な系統事故の際に活躍する装置なので,動作する機会が
無いに越したことはありません。しかし,現在の技術では送電線等の事故を完全に
防止することが難しいということも,残念ながら事実です。
この発明は,万が一の時であっても,停電の範囲を最小限に留め,お客さまへの
影響を極力抑えたいという,メンバーの強い想いが形になったもので,安定的に電
気をお届けするための,縁の下の力持ちという所でしょうか
(笑)。流通事業本部
(系統技術)
竹下 充浩
私の
私の
発明者
チカラ3イチオシ!
【配電線故障点標定システムの構成】
GPS衛星
現地装置
サージ電流 サージ電流
故障点
現地装置
現地装置
配電線
衛星から送信される時間
情報を各現地装置が受信
し,装置間で時刻を同期
現地装置から
取得したデータ
の収集・解析
故障点特定のフロー10[特 集]現場のチカラ
現場のチカラ
支えるチカラ
CASE3
電力系統の監視制御用通信システムでは,使用電波帯域の特性に応じて多様な種類の無線が用いられま
す。中でもマイクロ波無線は,電力系統の保護や監視制御に関する情報を伝送する基幹系通信として,高
い信頼性が求められます。
マイクロ波無線は,山間部にある発変電所間の通信にも用いられますが,地表面形状が不均等な箇所で
は電波の反射の影響で通信精度が低下することがあるため,電波受信アンテナを設置するにあたっては,
第1フレネルゾーン※(注記)
内に障害物が無いことと,地表からの反射波と干渉が無いことが条件となります。
従来は,山の尾根や平野部が続く地点などを担当者が地形断面図から読み取り,条件に合致する地点を
1箇所ずつ個別に絞り込んでいたため,通信区間全体にわたって地形の影響の度合いを把握することは困
難でした。
マイクロ波無線通信の支障箇所を見える化
(特許第5372132号)
電気と共演,名脇役
電気をつくって,届ける。
一見明快な電気事業ですが,その過程には,様々なチカラが隠れ
ています。遠く離れた送電設備を遠隔監視・制御するための通信
ネットワーク,資産や設備を管理する情報システム,お客さまか
らのお申込みを受けて工事を手配する営業システム,などなど。
これらがお客さまの目に留まることはあまりありませんが,電気
事業において大切な安全・供給安定性・経済性・環境保全をしっ
かりと支える,大切な技術です。
チカラ5必要最小限のデータ
(送受信アンテナの標高・水平距離,
マイクロ波の周波数)で,第1フレネルゾーンと地上反射波それぞれのルートをシミュレーションし,グラフ化した地形断面図に
重ね合わせて表示することで,通信区間全体の地形の影響を容易に視認できるため,アンテナ設置時の
設計業務の信頼度が向上しました。
【アンテナ位置と第1フレネルゾーンの相関】 【地形断面図にプロットされた電波伝送路】
発明
シミュレーターで
通信区間全体の
支障箇所を視認
効果
電波伝送路における
支障箇所の
特定が容易に
メリット
通信設計業務が
迅速に行え,信頼性や
経済性が向上!
太陽光 石油 石炭 天然ガス 風力
水力 原子力
経済性
Economic growth
環境保全
Environmental
conservation
供給安定性
Energy security
安全
SafetyS+3E送信
アンテナ
アンテナ間距離
フレネルゾーン
半径
地上反射位置
(反射位置と地表面の重なりが無いか確認)
第1フレネルゾーン
(区間内の障害物の有無を確認)
地上反射波ルート
地表面
受信
アンテナ
※(注記)送信機から受信機に電波が損失なく到達する,2点間の最短距離を中心とした楕円体の空間領域
第1フレネルゾーン
(障害物があると通信精度が低下)[特 集]現場のチカラ11
現場のチカラ
私の
私の
発明者
チカラ5イチオシ!
新規に電気を使用されるお客さまからの工事等に関するお申込み情報は,担当者がホストコンピュータ
に登録し,工事会社への手配等に使用しています。情報は確実・迅速に登録されますが,引越シーズンな
どはお申込みが膨大な件数に上るため,わずかな作業効率の差が,処理件数の大きな差につながります。
当社で使用するシステムの多くは,各業務利用箇所のニーズを反映した独自仕様のものですが,データ
入力画面は,通常のパソコンのインターフェースと同様の形式としています。
その中で,普段ワープロソフトや表計算ソフトを使用する際には見過ごしがちな
「ちょっとした非効率」
を見つけ出し,より良いシステムにするため改善を加えていくことは,作業を効率化させ業務品質を向上
させるための大切な視点です。
お申込み情報等の入力作業を効率化
(特許第5247559号)
チカラ6お申込み情報を入力する際,入力欄の選択候補のデータ
(プルダウンメニュー)
を表示すると,その背後の入力欄は隠れて見えなくなる不便さがありました。
そこで,メニューの表示位置を右下に固定し,常に入力欄を確認できるようにすることで,入力作業
を素早く行えるようになり,操作時間が短縮されました。
また,このエリアを見れば入力すべき項目が確認できるため,業務経験が浅い社員の作業を支援する
ナビゲーションとしても効果を発揮しています。
発明
情報入力画面の
選択メニュー
表示位置を固定化
効果
メニュー表示部が
邪魔にならないので
スムーズに入力可能
メリット
お客さまからの
お申込みに対して
効率的に対応!
宇部電力所 通信課
(通信第一)
上野 知実
どの欄に入力する
ときもプルダウン
メニューはここに
固定表示
電波は電気と同じく目で見ることはできません。そのうえ電波がどこをどう飛ん
でいっているのか,他の電波とどのように干渉しているのかなど,確認しなければ
ならないポイントがさらに増えてきます。
電波工学を駆使することで把握可能な情報ではありますが,日々の業務は待った
なし,いかに正確かつ迅速に必要な情報を把握するかが勝負です。人手で行う方が
よい作業とソフトに任せる方がよい作業,それらをしっかりと見極めて,業務の信
頼性と効率性を追求する発明を今後もしていきたいと思います。
【データ入力画面】12[特 集]現場のチカラ[特 集]現場のチカラ13
酸素吹IGCCでは,石炭と酸素をガス化炉内へ吹き込み、蒸し焼きにする
ことで可燃性ガス
(一酸化炭素と水素)
を取り出し,ガスタービンで発電します。
さらに,ガス生成時に発生する熱とガスタービンの排熱で蒸気をつくり、蒸気タービンも回すことで,
従来型の石炭火力発電所に比
べてCO2排出量を約15%
削減できます。
実証事業は,酸素吹IGCC
の試験
(2017年3月開始予定)に 続 き,石 炭 ガ ス か ら
CO2を分離・回収する試験,
燃料電池を組み合わせた試験
の3段階で計画しています。
現場のチカラ
供給安定性と経済性に優れた資源である石炭を,将来にわたって有効に活用していくため,更なる高効
率化やクリーン化を実現するための発電技術の開発に取り組んでいます。
当社と電源開発株式会社が共同出資する
「大崎クールジェン株式会社」
では,実証事業として,当社大崎
発電所構内で
「酸素吹石炭ガス化複合発電
(酸素吹IGCC)」設備の建設を進めています。
酸素吹IGCCは,"究極の高効率石炭火力発電"として期待される
「石炭ガス化燃料電池複合発電
(IGFC)」の基幹技術であり,将来的に二酸化炭素
(CO2)
排出量の大幅削減に資するものとして,着実
に技術開発の取り組みを前進させています。
石炭火力発電の高効率化・クリーン化
拡げるチカラ
電気のミライと向き合う現場
今つかう電気を安定してお届けするとともに,限りある資源でより効率的に
電気をつくるためにはどうすればよいか,日々の暮らしを支えるために何をす
ればよいかなど,これから使われる電気のことを考えている現場があります。
ここでは,エネルギー資源や電気の持つ可能性を拡げる現場のチカラをご紹
介します。
チカラ7【石炭ガス化燃料電池複合発電
(IGFC)
の概要】
発明中!酸素吹IGCC設備を
建設し,性能・運用性
等を実証
効果
石炭発電の高効率
発電技術を獲得し,
CO2排出量を削減
メリット
供給安定性・経済性
追求と温暖化対策を
同時に達成!
CASE4
酸素吹石炭ガス化複合発電
(酸素吹IGCC)
ガス
化炉
一酸化炭素,水素
蒸気
石炭
酸素
酸素
製造装置 空気
圧縮機
発電機
水素
燃料電池
CO2分離・回収型IGFC
廃熱回収ボイラー
ガス
タービン
ガス
タービン
蒸気
タービン
蒸気
タービン
発生した一酸化炭素を水蒸気
と反応させ,
CO2と水素に変
換した後,
CO2を回収CO2石炭をガス化して可燃性
ガス
(水素,一酸化炭素等)に変換
ガス化で発生した可燃性
ガスを燃焼してガスター
ビンを回す
CO2分離・回収型IGCC
ガス化時の排熱・ガスタービン
の排熱を利用して水蒸気を発
生させタービンを回す
(特願2011‐92606ほか)
共同開発先:電源開発株式会社 14[特 集]現場のチカラ
現場のチカラ
「エネルギーセキュリティ」
という考え方は,国家としてエネルギーをいかに安定的に確保するかという
観点で語られることが多いのですが,震災や豪雨・豪雪などの自然災害等に伴い発生する停電時にどのよ
うに電力を確保するかという観点から,ご家庭においてもその重要性が高まっています。
こうした背景から,ご家庭内の家電機器等を通信ネットワークで接続して管理・制御する技術を用いて,
家庭用蓄電装置や電気自動車のバッテリー等の非常用電源と分電盤を接続し電気を供給することで,停電
時のお客さまの不便さを緩和しようとする研究が行われています。
一方で,非常用電源には容量・出力の制約があるため,その範囲内で照明や家電機器を使用する必要が
ありますが,停電という非日常の状態において,消費電力量を考慮して分電盤のブレーカーを操作するこ
とは難しいと思われます。
電気自動車を活用した停電時の電力供給システム
チカラ8分電盤の制御装置に,停電時に利用したい家電機器が接続されたブレーカー
をパソコン等の操作端末で予め登録しておき,停電時には,非常用電源の出力の範囲に収まるよう,
自動で電気を供給します。
機器の使用状況により出力制約を超
過しそうな場合は,一部のブレーカー
を自動遮断することで全体が遮断され
ないよう調整し,出力に余裕があれば,
追加接続可能な機器を操作端末に提示
します。
将来的には,ご家庭内の通常時の電力
需給の最適化と停電時のエネルギーセ
キュリティ確保に対応する総合的なシス
テムの研究・開発を進めていきます。
非常用電源の出力
制約の範囲内で機器に
電気を自動供給
効果
停電時でも機器を
最大限利用する
ことが可能
メリット
ご家庭のエネルギー
セキュリティを確保!
【停電時の電力給電システムの構成】
私の
私のイチオシ!担当者
チカラ7大崎クールジェン
(株) 技術部 甲斐 英喜,桒原 悠介
私たちは,土木建築グループに所属し,"究極の高効率石炭火力発電"の基幹
技術である酸素吹IGCCの機器を設置・収容するための基礎および建屋工
事を担当しています。
2013年3月の着工以降,各種基礎工事が最盛期を迎え,一部の建屋では
鉄骨工事等も行っており,着実に
「発電所」
の形になってきています。
現在,安全管理,品質管理,竣工時期厳守を念頭に置き,メーカー・ゼネ
コン等関係する請負会社との調整を行いながら,現場監理を行っています。
屋外の仕事であり,大雨・台風等自然状況に翻弄されることも多いのですが,関係者の皆様のご協力もあり,
順調に進捗しています。本プロジェクトに参画できたことを誇りに思い,業務に真剣に取り組んでいきます。
(PCT / JP2013 / 59365ほか)
協力会社:株式会社中電工
発明中!動作1
・停電を検知し,系統側 ブレーカーを自動遮断
動作2
・蓄電池電源を接続
動作3
・予め登録した ブレーカーを自動投入
系統電力
分電盤
電源装置
蓄電池
(EVなど)入入
自動ON制御装置
手動ON
動作3
動作1
動作2
インバータ切自動OFF電力会社の事業モデルと事業特性
電気事業を支える基盤技術
発電所でつくられた電気を,送電線や配電線を経由してお客さまのもとにお届けするためには,発送電
に関する技術に加え,これを支える様々な技術が必要となります。長年にわたり培われてきたそれらの技
術は,
安定供給に欠くことのできない基盤技術として,
また,
事業の自由度を確保するため知的財産として,
当社の電気事業を支えています。
電気事業への技術的・社会的要請やお客さまから寄せられるニーズにお応えするために必要な基盤技術は,
10の分野に大別され,それぞれが緊密に連携することで,質の高い電気をお届けすることができます。
事業
モデル
●くろまる電気は産業や暮らしを支える重要な社会インフラであり,長期的・安定的にお届けするという社
会的要請に応えることが求められる。
●くろまる電気は貯蔵できないという特性をもつことから,適正な電圧や周波数を維持し,質の高い電気を
効率的にお届けするために,高度かつ広範な技術が必要となる。
事業
特性
技術内容
発電に使用する燃料
(原油・石炭・
LNG等)
の購買・輸送・貯蔵管理
発電所
(火力・原子力・水力等)
の運転・保守・運用
発電所から変電所まで高い電圧で電気を届けるための送電設備の建設・保守・運用
供給区域内の電気使用状況の監視,発電量・電気の流れの制御,需給バランスの維持
お客さま設備に応じた電圧に変圧するための変電設備等の建設・保守・運用
変電所で変圧された電気をお客さまに送るための配電設備の建設・保守・運用
お申込み受付や検針の効率化,お客さまニーズに即した省エネルギー等に関する技術
発電所や変電所等における土木関係設備の計画・設計・施工管理および維持管理
発送電設備や各種業務を支える通信ネットワークや情報システムの構築・維持管理
新規事業領域におけるお客さまの利便性・快適性向上に資する技術
技術分野
燃 料
発 電
送 電
系統運用
変 電
配 電
お客さま
土木建築
全社基盤システム
新規事業等
基盤技術を構成する
10の技術分野( )内の数値は各分野の特許登録件数
(2013年11月末)
系 統 運 用
(149)
全社基盤システム
(388)
土 木 建 築
(262)
配電
(550)
送電
(181)
新規事業等
(204)
発 電
(903)
お客さま
(186)
変 電
(316)
燃 料
(118)
電気事業を支える基盤技術1●くろまる水力,火力,原子力等の発電所でつくられた電気を,送電線や配電線を通してお客さまに安定的
にお届けする。
●くろまるお客さまの電気の使い方に応じてお選びいただける料金メニューをご用意したり,効率的なエネ
ルギーの利用方法等をご提案することを通じて,お客さまにご満足いただく。15電気事業を支える基盤技術水力発電所の取水量を最適化する補助ゲート装置
(特許第5106515号)
事 例 〉
制御所間の監視制御装置の運用データ連係機能強化
(特許第5415652号)
事 例 〉
この機能は,設備の信頼性確保やコスト削減の観点から新たに構築した制御所バック
アップシステムで採用されていますが,各制御中継所の監視範囲が拡大するため,検討
段階では運転員の負担増が懸念されていました。
そうした中,新システムの導入により,
「緊急時の対応がより迅速かつ確実になり,
効率的になった」
と言ってもらえるよう,開発者として何ができるのかを,様々な角度から検討した結果,
生まれたものです。
新たなシステムの導入は,メーカーと共同で新技術を開発し,その技術を取り入れより良いシステムを
開発するということの繰り返しですので,
業務の中に知財へのヒントがたくさん隠れています。
これからも,
開発メンバーと協力しながら,システムを利用する人の役に立てるような発明をたくさんしたいですね!
流通事業本部
(制御システム)
有馬 ゆかり
Voice!
発明者から一言
〜社員か
らのメ
ッセージ〜
●くろまる既存設備を活用して,低コストで水力発電所の発電量が向上
●くろまる再生可能エネルギーが活用でき,環境負荷軽減に貢献
効果と
メリット
増水時の取水量を確実に許可水量以下とし,通常時には十分な量
を取水できるよう,取水口ゲートに補助ゲートを設置しました。
水位上昇と共にフロート
(浮き)
が上昇し,連動する支持棒が巻上
機のストッパーを解除します。すると,開口していた補助ゲートが自重で降下
し取水口ゲートを閉塞するため,水の流入が停止し過取水を完全防止します。
発明した
技術
河川の流れを利用して発電する水力発電所では,水利使用許可に基づき取水量の上限が規定されているこ
とから,取水口ゲートの開き具合を調整し,許可水量を超えないようにしています。
山奥の渓流にある取水口ゲートの開閉は巻上機で行いますが,多くは付近に電源がなく手動での操作とな
るため,頻繁に調整することが困難です。降雨等で河川が増水すると水位が高くなり取水量が増すことから,開口幅
を狭めに固定し流入を制限していますが,これに伴い通常時の取水量も少なく
なっていました。
従来の
課題
変電所の遠隔監視・制御を行う制御所では,複数の変電所との
通信内容を中継するための制御中継所を設けています。制御中
継所のバックアップ装置は,制御所の監視制御装置が故障等で
運転不能となった場合に使用されます。
その際は,制御所と制御中継所の監視エリアの相違を補正し同一の働きをさ
せるため,制御所の運用設定データを制御中継所で手入力しますが,制御所
の監視範囲は制御中継所より広いため大量のデータを投入する必要があり,
制御機能の引継ぎに時間を要していました。
作業に携わる人を思い浮かべ,自分に何ができるのかを考えました
系統運用
発 電
従来の
課題
制御所や制御中継所のバックアップ装置同士をIP網で接続し,
制御所で設定した系統情報
(監視データ,計測データ等)
や運用設
定情報を制御中継所へ自動伝送・入力する機能を開発しました。
発明した
技術
●くろまる迅速なバックアップ運転への移行が可能に
●くろまる運用設定データの手入力が不要となり労力・コストが削減
効果と
メリット
【制御所〜変電所間の構成】
【取水口の構造】
制御装置
制御所
記録情報ネットワーク
制御中継所 制御中継所
▽洪水位
(最高水位)
▽設定水位
▽通常水位
フロート
手動ワイヤ式巻上機
(自重降下機能付)
/市販品
ガイドワイヤ
取水口ゲート
補助ゲート
支持棒
取水
河川
制御中継所
バックアップ
装置
変電所 変電所
変電所 変電所
変電所 変電所16電気事業を支える基盤技術電気事業を支える基盤技術17
経済的負担の発生
特許出願の目的
競合他社が権利確保すると
●くろまる自社特許技術を事業で自由に実施
基盤技術と特許
電気事業者の使命を果たすうえで欠くことのできない基盤技術を自由に活用するためには,その技術を
「自社
の権利」
として確保することが重要です。
特許が有する最大の効力は
「特許権に基づいた事業の差し止め」
にあり,競合他社が先に権利確保すると,その
特許技術を利用することができず事業を中止せざるを得ない,あるいは許諾を受けるための交渉等により長期に
わたり停滞する,などの事態に直面することとなります。
このような事業差止リスクを回避すること,つまり基盤技術を特許で担保し
「事業活動の自由度を確保」
するこ
とは,社会インフラを担う当社にとって非常に重要なことであると考えています。
また,特許には,クロスライセンス※(注記)
による技術開発コストの低減や他社への技術供与によるライセンス収入
の獲得など,
「事業収益拡大への貢献」
という効果もあります。事業活動の自由度確保を主眼に知財活動を展開し
ていますが,保有特許を有効活用した
「事業収益拡大への貢献」
にも取り組んでいきたいと考えています。
※(注記)複数の企業が,それぞれが保有する特許技術を相互に実施許諾しあうライセンス形式
基盤技術を特許で担保することの意義
クロスライセンスと事業規模
参 考 〉
●くろまる特許を利用する側は,特許権者に対価と
してライセンス料を支払いますが,相互に
特許の利用を許諾するクロスライセンスの
場合,両者のライセンス料が一致すると,
支払額は相殺されて0円となります。対等な
条件でクロスライセンスすることを「パワー
バランスを保つ」
と言います。
●くろまるパワーバランスの指標は
特許件数÷事業規模=「特許技術集積度」
として表されます。
●くろまる右図の例のように事業規模が相手先の10倍
の企業は,相手先の10倍の特許を保有して
いてはじめて「特許技術集積度」が相手先と
等しくなります。10事業規模a
A社特許1,000件をB社にライセンス
B社特許100件をA社にライセンス
特許件数c
1,000件
事業規模b 特許件数d
1 100件
A社 B社
特許技術集積度c/a100特許技術集積度d/b100対等な条件でライセンス可能
=パワーバランスが保たれている
●くろまるライセンス料や損害賠償金の支払い (他社特許技術を自社で実施する場合)
事業の差し止め
●くろまる特許技術を実施できず事業が遅延・中止 (他社特許の実施許諾が受けられない場合)
自由度確保
●くろまるクロスライセンスによる他社技術の活用
●くろまる他社実施によるライセンス料の獲得
事業収益拡大への貢献電気事業を支える基盤技術18[間接活線工法・機材の開発]
特許出願状況
ケーブル挟持具及びケーブル挟持具を備えるケーブル引張装置
(特許5318186号)
事 例 〉
ピンを押し込むだけで,カムラーに挟み込んだ電線をカムラーに確実に固定できるよう,機構を変更しま
した。これにより,ボルトを締める作業が不要となるため,架空配電線の切断・接続作業の効率性が大幅
に向上しました。
発明概要
と効果
間接活線作業時に架空配電線の切断・接続作業を行う際は,切断した電線の両端を挟んで固定する器具
「カムラー」
を先端に設けた,専用工具を使用します。このカムラーで電線を固定する際は,ボルトを仮締
めして開口部をある程度狭め,電線を挟み込んだ後さらに締め込む必要があり作業効率性が悪く,締付け
が不十分な場合には取付位置からずれる場合もあります。
従来の
課題
配 電
事業上の重点課題における特許網の構築
中期経営計画で掲げる各種目標や重点実施項目等から,優位
性確保等の観点を加味して重点課題を設定し,重点課題の属す
る技術領域において集中的に特許を取得
(特許網構築)
する活動
を推進しています。
特許網構築の例として
「間接活線工法・機材の開発」
がありま
す。配電工事を行う際,電線の通電部分に直接触れず,安全距
離を保ったうえで絶縁棒や先端工具を使用して作業を行う工法
で,停電を伴わないことから全国的に採用が進んでいます。
当社においても間接活線工法に用いる工具・機材の開発に
積極的に取り組み,その成果を適切に知財化
(特許出願)
して
います。 【間接活線工法による作業風景】
中国電力 電力他社計 中国電力 電力他社計
工具・機材
工法74469
56 22
工具・機材
工法49306 42006年度
(取組開始時)
出願件数 2013年11月末 出願件数
【ボルトで電線を固定する従来のカムラー】 【ピンロックで電線を固定する機構を設けたカムラー
(左:正面 右:上部)】〔他社分は,商用検索システムを用いて全文検索
「間接活線」
で抽出した件数〕
電線19電気事業を支える基盤技術電気事業を支える基盤技術2012年度の算定結果※(注記)
特許の定量評価のステップ
【評価対象特許の概要】
ガスタービン圧縮機
(特集
「チカラ1」
掲載発明)
特許の事業への貢献
●くろまる
「特許技術が関係したコスト低減額」
は,技術を特許出願することで事業活動の自由度を確保できていることの金額
効果であり,2012年度は,330億円です。
●くろまる
「特許の価値の定量的評価額」
は,特許技術が関係したコスト低減額に特許の強さ等を加味して算定しています。こ
れは,
技術が特許で担保されていることで当社のみが享受できている金額効果であり,
2012年度は,
137億円です。
●くろまる
「他社技術導入原資獲得額」
は,クロスライセンスの対価となり得る特許技術の金額効果を示しています。他社から
技術導入する際に,自社が対価性のある特許を保有していれば支払額が相殺されることから,原資として特許の金
銭的側面を評価したもので,相手先企業との事業規模比により算出される係数Aの値により変動します。
特許の価値の定量的評価
基盤技術を特許で担保することの意義は事業活動の自由度確保にあり,その結果得られた利益は特許が下支え
しているものですが,その効果を財務の観点から捉えることは困難です。
一方で,経営の観点からは,保有する特許が事業へどのように貢献しているかを適切に把握する必要がありま
す。このため,2007年度以降,特許の価値を定量的に評価する取り組みを進めています。
高品質で低廉な電気を安定的にお届けするために取り組んだ研究・開発や創意工夫の成果は,定量面ではコス
トの低減という形で効果を発揮します。このため,特許技術が用いられた施策のうち,主なもののコスト低減額
を算定し,その累計金額を基に
「特許の価値の定量効果」
を評価しています。
その他の効率化額
発明の排他独占性評価※(注記)
73% ・ 権利化状況 4点
・ 権利としての強さ 4点
・ 代替技術に対する優位性 3点
(15点満点で11点の評価)
●くろまる柳井発電所コンバインドサイクル発電のガスタービン空気圧縮機に採用
●くろまる摩耗した空気圧縮機構成部材の保修に要する費用と時間を大幅に低減
特許が関係した
効率化額a
(a=工事費低減額)
ステップ1
特許が寄与した
効率化額b
(b=a×ばつ100%)
ステップ2
特許の定量的
評価額c
(c=×ばつ73%)
ステップ3
特許の寄与度100%※(注記)当該年度時点で存続している特許を対象に毎年度再評価
※(注記)特許庁
「特許評価指標
(技術移転版)」をベースに,当社の事業内容に合う評価項目を採用
特許の価値の
定量的評価額(α)他社技術導入原資
獲得額
(×ばつA)
評価年度 施策件数
特許技術が関係した
コスト低減額
137 億円 (137 ×ばつA)
2012年度
(1) 125 件 330 億円
135 億円 (135 ×ばつA)
2011年度
(2) 113 件 322 億円
2 億円 ̶
(1-2) 12 件 8 億円20研究・開発への取り組みと独自技術重点開発分野
当社は,戦後の深刻な電力不足が続く昭和26年5月に発足しました。電源開発や
燃料である石炭の確保,必要な事業資金調達,サービスレベルの向上など数々の難
題を抱えた状況での設立です。右はその様な中で発行された社報の創刊号で,巻頭
に初代会長が社員に宛てたメッセージが掲載されています。
その冒頭の一節が,
「皆で仲よく心から愉快に働きましょう」
でした。
困難な状況のなか,全社員が業務内容に習熟し,電力の安定供給という企業の使
命を果たすことでお客さまの満足を得て,信頼され可愛がられる会社になるために,
日々仲よく愉快に働くことの大切さを説いたもので,まさに当社が培ってきた独自
技術の原点をなすものと言えるでしょう。
知左ヱ門 博士の 知財こぼれ話
知左ヱ門博士の 知財こぼれ話
皆で仲よく心から愉快に働きましょう
【昭和26年5月発行 社報創刊号】
研究・開発戦略
●くろまる需要サイドからの電気利用最適化分野
研究・開発においては,S(安全確保)
を大前提と
して3E
(供給安定性,経済性,環境保全)
を同時達
成するため,電気の需要・供給・送電ネットワーク
の各領域で,新たな価値創造に取り組んでいます。
その中でも,事業強化に向けて特に優先度の高
い分野を
「重点開発分野」
として設定し,経営資源
を重点的に配分する等により,効果的に研究・開
発を推進しています。
「省エネルギー
(ピークカット)
,省CO2,
省コスト」
の実現に向けて,需要サイドの
視点から電気利用最適化に繋がる技術の研
究・開発に取り組む。
●くろまる再生可能エネルギー普及促進分野
再生可能エネルギーが大量連系した場合でも,電力品質
や安定供給に影響を及ぼさない系統安定化技術,最適な
送配電ネットワーク技術等の研究・開発に取り組む。
●くろまる予防保全分野
電源・ネットワーク設備の経年化が進む中で,将来にわ
たり安定供給を継続するため,
計画的かつ効果的な更新・
修繕に繋がる劣化診断技術や機器延命化技術など,設備
経年化へ適切に対応する技術の研究・開発に取り組む。
●くろまる石炭利用分野
今後も石炭電源の安定運転を継続するた
め,石炭のクリーンコール技術
(石炭灰有
効活用技術を含む)
の研究・開発に取り組む。
供給安定性
Energy security
経済性
Economic growth
ネットワーク
「供給面」
「需要面」
の変化に柔軟に対応
環境保全
Environmental
conservation
供給面
発電の一層の
効率化・低炭素化
需要面
需要サイドを重視した
効率化と省エネ
電源のベストミックス
技術開発の進展,地球環境問題や低コスト化などの社会的要請へ対応していくためには,基盤技術を常
により良いものに磨き上げ,新たな技術を創出していかなければなりません。当社では,これからの電気
事業を支えるための研究・開発に積極的に取り組み,その成果を競争優位の源泉となる
「独自技術」
として
積み重ねています。
研究・開発への取り組みと独自技術2安全確保 Safety21研究・開発への取り組みと独自技術ベイナイト組織を有する配管のクリープ余寿命評価法開発
(特願2013-533791)
事 例 〉
発 電
復水器
排気口
排気口
ポンプ
燃焼器
燃焼器
発電機
空気
空気圧縮機
空気圧縮機
排煙脱硝装置
排熱回収ボイラー
排熱回収ボイラー
ガスタービン
ガスタービン
蒸気タービン
蒸気タービン
最近の主な研究・開発成果
近年取り組んでいる研究・開発の進捗や成果等については,その一部を
『エネルギア総研レビュー』
で紹介して
います。以下の研究テーマの概要・成果については,
『エネルギア総研レビュー』
の掲載号をご覧下さい。
【コンバインドサイクル発電設備】
【ボイドにより損傷が進行する様子】
【ボイラー配管】
●くろまる効果的な修繕工事の実施により,火力発電設備の信頼性・安全性を確保
●くろまる火力発電所ボイラー定期自主検査の延長申請に適用可能
効果と
メリット
試験体を用いた破壊試験により,ベイナイト組織にボイド
(空洞)
が発生し破断に至るまでの損傷メカニズム
を解明しました。これに基づき,配管の硬さやボイド・亀裂の状態を指標として金属組織のクリープ損傷※(注記)
率と劣化状況の相関を示す
「寿命評価曲線」
を作成し,高精度な余寿命評価を可能にしました。
発明した
技術
火力発電所のボイラー配管には,
「ベイナイト組織※(注記)」を有するものがあります。通常の組織
(フェライト・
パーライト組織)
からなる配管の余寿命の評価方法は確立していますが,ベイナイト組織は損傷メカニズ
ムが明らかでないため,この方法を適用することができませんでした。
従来の
課題
研究テーマ
アルミ絶縁電線経年特性に関する調査研究
SQUID非破壊検査に関する研究
高経年ガス絶縁遮断器の微量なガス漏れ評価
架空送電設備の電線腐食推定におけるNuWiCC-STの適用
既設揚水発電所における揚水・発電同時運転に関する水理検討
マイクロバブルによる生物付着抑制技術の開発
エネルギー作物の利用・生産技術の基礎研究
屋内向け高精度位置検知システムの開発
ポーランドにおける風力発電導入拡大のための安定化・需給制御の基礎的検討
CO2分離回収型IGCCシステムの評価研究
掲載号
2013 Vol.1
(No31)
2013 Vol.2
(No32)
2013 Vol.3
(No33)
2013 Vol.3
(No33)
2013 Vol.3
(No33)
2013 Vol.1
(No31)
2013 Vol.3
(No33)
2013 Vol.1
(No31)
2013 Vol.1
(No31)
2013 Vol.1
(No31)
適用分野
電力設備の
信頼度向上,
安定供給技術
環境技術
情報・通信技術
温暖化対策技術
【ベイナイト組織】
【フェライト・パーライト組織】
エネルギア総研レビュー掲載ホームページアドレス http://www.energia.co.jp/eneso/tech/review/index.html
ボイド発生
ボイド連結
亀裂発生
※(注記)配管の製造過程において,熱処理後の冷却時に生じる針状の金属組織
(経年的な使用過程で生じるものではない)
※(注記)高温やボイドの進行等により金属組織に生じる変形・割れ等の損傷22研究・開発への取り組みと独自技術金属柱劣化判定装置
(特許3973603号ほか)
共同開発先:株式会社ニチゾウテック
事 例 〉
配 電
情報管理システム
(特許第4493644号)
事 例 〉
全社基盤
システム
研究・開発の意義と独自技術
大規模な発電設備や複雑なネットワーク等を用いて事業を行う中で,グループ一体となって効率的な設備運用
ノウハウや保修技術を蓄積するとともに,設備のユーザーの視点で独自の研究・開発を行っています。
また,業務の中で発想したアイデアや設備運用ノウハウを,ものづくりの視点で研究・開発を行うメーカーに
フィードバックし,より効率的な設備にするために共同で研究・開発に取り組むこともあります。当社,グルー
プ企業,メーカーそれぞれが持っている技術を融合させることで,一層高いレベルの研究・開発成果が得られて
います。
金属柱の地上露出部分に取り付けた探触
子から超音波を入射させ,地中部からの
反射波を受信します。その波形を探傷器の劣化判定ソフトを用いて
評価し,腐食程度を
「健全」
から
「重度腐食」
までの4段階で判定します。
発明した
技術
コンクリート柱の運搬が困難な山間部等
では,運搬が容易で,現地組立が可能な
金属柱を設置することがあります。金属
柱は,設置箇所の土中の状況により,長年の間に地
中部分が腐食することがあるため,掘削して点検す
る必要がありました。
従来の
課題
●くろまる掘削することなく金属柱地中部の劣化の程度を評価
●くろまる腐食の進行程度を踏まえた適切な電柱建替時期の判断が可能に
効果と
メリット
【劣化の測定状況】 【測定イメージ】
●くろまるピーク時のホストコンピュータの過負荷防止による処理効率の向上
●くろまる契約情報の参照など,ホストコンピュータの情報を使用する他業務のアクセス性確保
施工結果のうち,電気の使用や廃止等の優先度が高い情報は即時に反映し,その他の情報は,一日に数回
実行される蓄積情報の一括処理時に反映するよう,情報の流量を制御する方法を開発しました。
電気の使用開始や廃止のお申込み等で現地施工を伴うものは,ホストコンピュータが工事計画を作成
します。施工担当者は,施工情報管理サーバを介して携行端末に送信された工事計画に基づき施工し,
その結果を報告しますが,膨大な件数を処理する繁忙期には,過負荷で登録処理が遅延することがあ
ります。設備構成をピークに合わせると費用が増大するため,設備規模を拡大せず情報処理を効率化することが求
められていました。
従来の
課題
発明した
技術
効果と
メリット
結果報告
(一括処理)
結果報告
(即時反映)
工事計画
施工結果
工事計画
(割当等)
営業所等端末 ホストコンピュータ 施工情報管理サーバ 携行端末
【施工情報の流量管理フロー】
お申込み内容の投入
他業務での参照
(契約状況等)
探傷器 探触子
【結果表示画面
(判定結果は右上)】評価:○しろまる10050
0 0 200 400 600 800 1000mmBA%探傷結果
2004年08月24日 16:06 039:ソクテイ-0024
劣化部23研究・開発への取り組みと独自技術当社の先進的な火力発電
技術開発・導入例
石炭火力発電技術(1)石炭火力の高効率化
石炭は,他の化石燃料に比べて,資源量が豊富で地域偏在性が少なく,価格も低位で安定しており,供給安
定性・経済性の観点から,エネルギー自給率が5%程度と低い我が国にとって重要なエネルギーであり,当社と
しても,石炭火力を重要なベース電源として位置付けています。
一方,石炭は他の化石燃料に比べ,CO2 排出量が相対的に多いという課題があるため,CO2 排出量削減を図る
クリーンコール技術の開発・導入に向けた取り組みを推進しています。
三隅発電所への超々臨界圧
( USC / Ultra Super Critical )
石炭火力発電※(注記)
の採用をはじめとして,次世代の高
効率石炭火力発電技術である石炭ガス化燃料電池複合発電
(IGFC)
を目指し,酸素吹石炭ガス化複合発電(酸素吹IGCC)
の実証事業にも取り組んでいます。(2)環境問題への対応
石炭火力のパイオニアとして,他社に先駆け排煙脱硫・脱硝装置を開発・導入することにより,大気汚染等の
環境問題に対応してきました。また,脱硝装置に用いられる脱硝触媒を洗浄し再利用する技術を確立するなど,
環境対策を行う際でも経済性を追求しています。
●くろまる1974年 水島発電所2号機で湿式排煙脱硫装置設置
(石油火力でわが国初)
●くろまる1979年 下松発電所2号機に全量排煙脱硝装置設置
(石油火力で世界初)
●くろまる1980年 下関発電所1号機に高ダスト方式排煙脱硝装置設置
(石炭火力で世界初)
●くろまる1994年 液柱塔方式排煙脱硫装置を開発,下関発電所1号機に設置
発 電
燃 料
石炭を粉砕し高温・高圧で燃焼させるUSC石炭火力発電では,耐高温高圧材料の開発による蒸気温度および圧力
向上が求められています。また,石炭をガス化し燃焼させるIGCCでは,高温ガスタービン技術の開発によるタービ
ン入口ガス温度の向上が求められています。
これまでも高効率発電技術の開発・導入を進めてきましたが,さらなる高効率化による石炭資源の節約,環境負荷
低減に向けて,積極的にクリーンコール技術の開発・導入に取り組んでいます。
微粉炭
燃焼
超臨界圧(SC)38%
1300°C
IGCC43〜44%MCFC(溶融炭酸塩形燃料電池)SOFC(固体酸化物形燃料電池)
1500°C
IGCC46〜48%IGFC>55%
数値は送電端効率
(高位発熱量ベース)
1700°CIGCC超々臨界圧
(USC)
39〜41%
先進的超々臨界圧
(A-USC)
46〜48%
石炭ガス化
高温型
燃料電池
※(注記)蒸気を高温
(600°C級)
・高圧
(24.5MPa)
にしてタービンを回す発電方式で,熱効率が高くCO2 排出量を削減可能
クリーンコール技術による石炭の高度利用
事 例 〉24研究・開発への取り組みと独自技術ライセンス活動についての基本スタンス
参 考 〉
●くろまるライセンス収入の獲得は特許出願の目的の一つであり,その意義を否定するものではありません。しかし,知財戦
略を推進する目的そのものではなく活用策の一つであり,知財戦略を推進した結果として達成されるものであると
考えています。
●くろまる他社に特許を実施許諾するということは,自社の技術優位性が相対的に低下することに繋がります。直接的な費用
対効果のみに着目し,ライセンス料等の金銭的利益だけを追求していくと,特許の本質である
「競合他社をけん制す
る力」
が次第に下がってしまうという弊害があります。ライセンス活動による事業貢献を考えるにあたっては,この
点にも目配りをしながら検討して行くことが必要です。
外部リソースの有効活用
積極的に研究・開発に取り組み,その成果である独自技術を適切に知財化していくことは,事業活動の自由度
を確保するための重要な取り組みの一つです。
一方で,技術やビジネスモデルが急速に変化する環境下においては,独自技術の蓄積に加えて,他社の技術を
有効に活用していくオープン・イノベーションの考え方を取り入れることも必要になってきます。
オープン・イノベーションの時代においては,保有する知財の価値を顕在化し,積極的に活用していくという
観点から,クロスライセンスや標準化活動等の戦略的展開をいかに図るかが重要です。
そのためには,特許で担保された独自技術が蓄積され,その独自技術が外部に対して価値を持つように,しっ
かりとした特許ポートフォリオを構築し,それを管理する仕組みを整えることが前提となります。
質・量を兼ね備えた知財の土台を構築することで,クロスライセンスにより必要な特許を有利な条件で導入し
たり,自社の事業に照らし実施許諾しても支障ない特許を適切に選別することが可能になります。
オープン・イノベーションの時代にあってこそ,その利点を最大限活用するために,知財戦略をより積極的に
推進していくことが重要になると考えています。
メーカー推奨による取り替えでは,非常に高価な脱硝触媒を一定期間ごとに新品に交換する必要がありま
したが,脱硝触媒を洗浄・再利用することで取り替えコストの削減を実現しました。
効果と
メリット
火力発電所の排ガスから窒素酸化物
(NOx)
を除去する排煙脱硝装置の脱硝触媒を洗浄・再利用する方法
を開発しました。
発明技術
の概要
【排煙脱硝装置】 【洗浄作業の様子】
脱硝触媒の再生技術
(特許第4578048号ほか)
事 例 〉
発 電25研究・開発への取り組みと独自技術各組織の長の責務
研究・開発推進会議の設置
研究・開発に関する
役割分担
価値の高い研究・開発成果を生み出すためには,研究・開発の計画段階で,その目的・目標や,どのように事
業で活用していくかを明確に定めて,効果的に取り組みを進める必要があります。このため,研究・開発に関す
る役割・責任ならびに計画,実施,評価および成果の活用に関する基本的事項を
「研究・開発規程」
として制定し,
関係箇所の合意形成を図っています。
事業戦略,研究・開発戦略,知財戦略の一体的な推進
研究・開発推進体制
経営企画部門
研究・開発計画の策定・実施
各事業本部等
エネルギア総合研究所
(研究管理部門)
連携 支援
研究・開発戦略の提示
研究・開発戦略を立案し,全社的な観点から研究・開発の目指
すべき方向を明らかにする
経営企画部門長
全社の研究・開発計画を総括し,これらの円滑な実施に努める
エネルギア総合研究所長
事業本部等における研究・開発計画を実施・管理し,得られた
成果を積極的に活用する
経営企画部門が
「研究・開発戦略」
を示し,これに基づきエネルギア総合研究所
(研究管理部門)や各事業本部等が具体的な
「研究・開発計画」
を策定・実施する枠組みとなっており,研究・開発成果
の評価においては,社外有識者等の第三者評価も取り入れています。
また,
エネルギア総合研究所が中心となって,
研究・開発の目的や目標レベル・開発期間等の評価・
調整,社内の組織間連携,知財部門との事前協議の徹底等に取り組んでおり,これらを通じて,よ
り適切な計画策定と成果の確実な活用や知財の権利化を図っています。
研究・開発推進会議では,研究・開発戦略および研究・開発計画等を審議しています。会議は事
業本部や部門の部長で構成されており,研究実施箇所や実用化箇所等が一体となって,多角的な視
点から活発な議論を交わしています。
事業本部等の長26研究・開発への取り組みと独自技術エネルギア総合研究所の
4つのグループ
事業戦略,研究・開発戦略,知財戦略の一体的な推進
事業戦略,研究・開発戦略および知財戦略を三位一体なものとして展開するべく,エネルギア総合研究所長の
もと,経営に深く関わるメンバーからなる
「研究・開発推進会議」と「知財戦略会議※(注記)」を設置し,相互に連携を図っ
ています。
※(注記)知財戦略会議の詳細については34頁をご覧ください。
研究・開発,知財戦略推進体制のユニークな特質
エネルギア総合研究所では,一つの研究組織の中に,企画・総括
(全社の研究管理)
,知財
(知財戦略の推進),技術
(技術関係の研究・開発)
,経済
(社会・経済・産業関係の研究)
という4つのグループを設けています。
グループの連携による新しいテーマへの挑戦や成果の拡大,知財戦略の推進をはかるとともに,お客さまや地
域社会のニーズを踏まえた研究・開発や情報提供を進めており,
「研究・開発と知財戦略の連携」
「研究・開発を
通じた地域貢献活動の推進」
「技術研究と経済研究のコラボレーション」
等の有機的な取り組みがスムーズに行わ
れることが,組織体制として担保されています。
●くろまる委員:事業本部部長,部門部長
●くろまる研究・開発戦略,
方針および全社の研究・
開発計画などを審議
●くろまる委員:事業本部副本部長,部門長
●くろまる知財戦略推進に関する重要事項を審議
●くろまる下部機構として情報共有や実務遂行を
担う知財戦略推進部会
(6部会)
を設置
議長:エネルギア総合研究所長
研究・開発推進会議 知財戦略会議
連携
企画・総括
知 財
技 術
経 済
総括担当 総括,広報,地域連携
企画・管理担当 研究企画,研究管理
知財企画法務担当 知財戦略の推進,啓発
知財権利化担当 権利化支援
系統・情報通信担当 電力系統,配電系統,情報・通信
流通設備担当
高電圧・雷防護・耐汚損,送電・変電・配電,
設備診断・延命化
(送変配電)
発電・材料担当
設備診断・延命化
(発電)
,新素材,
自動化・省力化
環境技術担当
環境技術,バイオテクノロジー,環境保全・化学分析,
農水産業地域共生,CO2回収・貯蔵技術
土木担当
水理,土木建築材料,土木構造,
設備診断
(土木)
電気高度利用技術担当 蓄電システム,電化,省エネルギー
再生可能エネルギー利用技術担当 バイオマス利用技術,新燃料
経済・産業調査担当
地域経済・産業動向の
調査・分析
経営調査担当 戦略的企業経営の支援
フィナンシャルテクノロジー担当 金融技術の活用27知財戦略推進の基本理念と推進体制基 本 理 念
知財戦略の基本理念
エネルギー競争環境の激化が進むなか,競争優位の源泉となるものは,保有している企業のみがコントロー
ルできる知的財産であり,それを生み出す人材と考えています。
エネルギーサービスを中心にお客さまに満足していただける質の高いサービスを安定的にお届けするという
使命は,社員全員が自ら考え創意工夫を行うという意識が高まり,それを実践することで初めて達成できるもの
と確信しています。
知財戦略においても
「創造力の豊かな人材を育成する」
こと,および創造力が豊かでモチベーションの高い人
材が
「事業運営のあらゆる場面で生み出されている技術・ノウハウ・アイデア等を確実に知財化していく」
という
ことを基本理念として規定しています。
また,
コンプライアンス最優先を経営の基本として掲げていますが,
このことは知財戦略でも大切にしており,
他者権利の侵害回避も基本理念の一つとして位置付けています。
2002年,当社グループの知財戦略への取り組みは端
緒につきました。日常業務のあらゆる場面で,効率化や
改善など発明の基となるアイデアは生み出されていると
いう考えの下,知財創出基盤を整備してきました。
社員が着想した発明は
「簡易発明届」
という形で知財事
務局に提出されます。特許出願されるものは,社内基準
をクリアした一部案件のみですが,
「簡易発明届」
は業務
上の課題解決に取り組んだ証であり,その数が高水準で
推移していることは,多くの社員が発明者としての潜在
力を秘めていることの表れだと考えています。
知左ヱ門博士の 知財こぼれ話
知左ヱ門博士の 知財こぼれ話 中国電力のココがスゴイ!1
社員全員が発明者になる日も近い !(1)創造力豊かな人材が育成され,その創造力が十分発揮されることにより知財戦略が推進される
との認識に立ち,人材育成と啓発活動を推進する。(2)事業運営のあらゆる場面で生み出されている知的資産を知財化し,それを活用することにより,
市場競争力の強化と企業価値の向上を図る。(3)自らの知的資産を知財化し,それを最大限に活用すると同様,他者の権利を尊重し,その権利
を侵害することのないよう留意する。
幅広く高度な技術からなる当社の基盤技術は,研究・開発や業務のあらゆる場面で行われる創意工夫の
積み重ねにより創出されます。その成果を確実に知財化し活用していくため,当社グループでは,知財活
動を積極的に推進しています。
【近年の簡易発明届提出件数の推移】
1,0005001,500
2,000
2,50002006 2007 2008 2009 2010 2011 2012
(件)
(年)
知財戦略推進の基本理念と推進体制328知財戦略推進の基本理念と推進体制
基本理念(1)について
【啓発活動として現在実施している研修・講演会】
将来の安定供給や競争力・業務品質を支える人材面での経営基盤の強化の必要性に鑑み,人材育成に関する
経営の方向性を明らかにした人材育成ビジョンを2008年7月に策定しました。人材育成ビジョンでは,人材育
成が目指すものとして
「会社の発展と社員の成長をともに実現する」
こととしています。
知財面でも,人材育成については当初から意識的な取り組みを行ってきました。基本理念(1)に掲げるとおり,
創造力豊かな人材育成の推進を通じて知財戦略が着実に前進し,その結果として会社の発展
(=企業価値の向上)
が実現されるものとして,活発な啓発活動を展開しています。
知財部門が主催する研修では,業務内容,階層・役職,知財リスクの内容等に応じて多様なカリキュラムを
用意しており,毎年600名近くの役員・社員が受講しています。また,社内各組織やグループ企業が開催する
個別研修への講師派遣,eラーニング等の自己啓発用教材の提供,実務に役立つ情報や知財に関するコラムの発
信等,様々な方法で社員の発明創出をサポートしています。
人材育成ビジョンでは,「『自ら考え行動する』
社員の育成」
を推進することを,重点実施事項としています。業
務運営のあらゆる場面で工夫・改善を行い,その成果を権利化する知財戦略の取り組みはまさに
『自ら考え行動
する』
ことそのものと言えます。
このため啓発活動においては,
「知財を身近に感じ,あらゆる業務運営上の成果を発明として形にする意識を
醸成すること
(=自ら考え行動すること)
の意識付け」
も大きな目的の一つとしています。
知財価値の顕在化や標準化等をテーマにした講演を通じて,知財戦略
を推進する人材を育成
弁理士との個別面談を通じて,発明発掘の視点やアイデアのブラッシュ
アップ方法を習得
(初心者や若年者が対象)
特許情報の読み方,権利範囲の考え方,特許情報検索システムの使い
方等の習得
重点課題や研究・開発からの知財化に向け,特許情報に基づく技術動
向調査や特許分析力を習得
特許等における権利侵害事例等を通じて,知財リスクを考慮した業務
運営を実行できる人材を育成
基礎知識の学習や事例検討を通じて,イベント実施やチラシ作成時等
に商標的なリスクを認識できる人材を育成
知財戦略講演会
発明発掘研修会
特許情報の検索・読み方セミナー
特許分析研修
知財マスター養成講座
商標セミナー
【特許分析研修】 【発明発掘研修会】29知財戦略推進の基本理念と推進体制研究・開発を含め事業運営のあらゆる場面で生み出される技術・ノウハウ・アイデアといった知的資産を適切
に知財化することで,日々の業務をより良いものにしようとする社員の知的創造の成果を担保しています。知財
戦略に関する基本的事項を定めた
「知財規程」
でも,
「業務の過程等で生み出された知的資産の知財化に努めるこ
と」
を社員の責務として定めています。
この理念は,
これまでの活動の中で特許登録件数が着実に増加していることや,
「発明者人口」
(特許出願を行っ
たことのある社員数)
が全社員の約40%に相当するほど裾野の広い活動が展開されている,という形で具現化さ
れています。
知財活動の浸透に伴い,事務系社員の発明も増加しています。いわゆるビジネスモデル特許※(注記)
に分類される出
願の累計が972件,このうち特許登録されたものは361件
(いずれも2013年11月末)
に達しています。登録率
も65.6%
(2010〜2012年度の3年平均)
と,ビジネスモデル特許の一般的な登録率である53%
(特許庁におけ
る2012年実績)
と比較して高いレベルにあることにも,取り組みの成果が現われています。
また,営業所・電力所・発電所等現業機関の社員による発明の割合が高いのも当社グループの知財活動の大き
な特長です。広義のサービス業である電気事業にとって,お客さまや地域に密着した現場での創意工夫は,サー
ビスレベルの向上に直結するという点で極めて大切です。現業機関の社員による発明の多さは,サービスレベル
の向上を目指して社員が常に創意工夫を重ねていることの表れだと考えています。
基本理念(2)について
【シミュレーションソフトのデータ入力画面】
【シミュレーションの処理フロー】
●くろまる提案内容について,給湯能力の
過不足チェックや経済性・環境
性の計算が容易に
●くろまる他熱源との併用など複雑な構成の場合でも,
最適な給湯システムの選定が可能
効果と
メリット
発明した
技術
病院やホテル等への給湯設備の導
入・更新を検討されるお客さまに,
高効率なヒートポンプ給湯システ
ムを提案する際,施設規模や稼働状況等を踏
まえた最適な設備設計案の作成や提案内容の
経済性評価を支援するソフトが存在しません
でした。
このため,ガスや石油等の他熱源システムと
の併用や移行による経済的メリット,
CO2排
出削減量等を具体的数値で示すためには,人
手で多大な計算を行う必要がありました。
従来の
課題
施設の給湯負荷諸元
(延床面積・
浴槽容量・利用者数・時間帯や
季 節 別 利 用 状 況 等)
や 給 湯 機 の
メーカー・機種・台数等から月別に1時間毎
の熱収支を算出し,これに基づき年間の消費
電力,電気料金,
CO2 排出量等を算出するシ
ミュレーションソフトを開発しました。
お客さま設備状況入力
●くろまる 対象施設の規模
●くろまる 設備の構成・稼働率
提案内容入力
熱源
(給湯器)
構成詳細
(メーカー・機種・台数等)
給湯シミュレーション
ピーク稼働時
(季節・時間帯)
の加熱能力過不足判断
経済性・環境性計算
●くろまる 消費電力,電気料金
●くろまる CO2排出量
提案書作成
●くろまる ボイラー等併用時との比較表
●くろまる 燃料価格変動の影響グラフ
●くろまる 熱源構成毎の経済性比較
●くろまる 最適な設備構成案
条件設定
シミュレーション結果
ヒートポンプ給湯の経済性・環境性シミュレーション
(特許第5384132号)
事 例 〉
お 客 さ ま
※(注記)コンピュータ,ソフトウェア等の情報技術を使った特許のうち、ビジネス方法に関する発明
(業務システムや電子取引等)30知財戦略推進の基本理念と推進体制こうした社員の知財創出活動等を顕彰するため,
「知財関連表彰制度」
を設けています。年間4件以上の発明を
行った社員を対象とする
「発明の創出活動に対する表彰」
では76名,技術評価が高く,事業に顕著な貢献をした
発明を行った社員を対象とする
「発明の事業貢献に対する表彰」
では10名が表彰されました
(共に2013年度)
【開発した清掃具
(ブラシ部)
】 【集塵設備内部
(断面)】内壁の傾きや内径に応じてブラシ部分の位置が調節可能な
"逆T字型"清掃具を開発しました。ブラシ部分の角度を変え
ることで上下位置を,水平方向に回転させることでブラシ
の向きをそれぞれ調整でき,サイクロンをはじめ段差等を有する管状体
の内壁面の清掃が可能です。
発明した
技術
●くろまる仮設足場が不要となるため,
費用・期間が大幅低減
●くろまるサイクロン上部から清掃作業
を行え,上部から落下する灰を被ることが
なくなる等,作業時の安全面も向上
効果と
メリット
火力発電所で石炭等を燃焼させる際に生じる排ガスは煤な
どの粉体を含むため,強力な気流でガスを竜巻の様に旋回
させ,遠心力で粉体を分離・捕集する
「サイクロン」
を複数
備えた集塵設備にて浄化しています。
浄化の過程でサイクロン内壁に付着する粉体は,柄の長いブラシ等で定
期的に除去しますが,内壁は曲部や段差等があり一様ではないため,サ
イクロン下部に足場を組み,形状に合わせて清掃具を使い分けながら作
業を行っていました。
従来の
課題
電力所の業務は,発送配電に係わる設備の保守および電力系統の監視・制御,運用など多岐
にわたっており,業務改善につながるアイデアも多数創出されています。
ただ,これを発明にブラッシュアップするにはコツが必要なんです。知財活動経験の浅いメ
ンバーにただ
「頑張れ」
と言っても成果にはつながりません。そこで,3〜4名で構成されるチー
ム単位での活動を推進し,
「困ったことは一人で悩まず,チーム内ですぐに相談するように」
と呼びかけています。
知財活動で大事なのは,みんなが発明創出に参加
(アイデアを提案)
することだと考えています。実際,個人より
チームの方が発明件数・技術内容の評価ともに高い傾向にあります。
どのような仕事でも同じですが,一人で頑張っても限界がありますね。チームで取り組むからこそ良いアイデア
が浮かびますし,
何よりも,
みんなでわいわい考えた方が楽しいに違いないですよ。
だから,
チームで補い合うこと,
即ちチームの
「絆」
の重要性を皆に伝えたい。その思いで今日も電力所内を奔走しています!
(汗)
Voice!
知財事務局から一言1 広島北電力所
企画課 須安 治彦
〜社員か
らのメ
ッセージ〜
チーム制での知財活動はメリットがたくさん!
開発した清掃具での作業
(地上6階相当)
従来方式の作業
(地上4階相当)
サイクロン
曲部・段差部
仮設足場
清掃具、清掃装置、及びサイクロンの清掃方法
(特許第4450770号)
事 例 〉
発 電
すす
内壁
上下動
開閉
ブラシ
水平回転
水平回転31知財戦略推進の基本理念と推進体制参 考 デ ー タ 〉
2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013見込400800
1,2000[当社グループの特許出願件数の推移]
(件)
(年度)
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013
(11月末)
1,000
2,000
3,000
4,0000[当社発明者人口の推移※(注記)]
(名)
(年度)
※(注記)2003年度からの累計
(括弧内は各年度において初めて特許出願を行った社員数の再掲)
■しかく弁理士 3名 ■しかく国家試験 [知的財産管理技能検定2級] 116名
営業所では,配電設備の保守管理等のほか,お客さまのお申し出への応対や省エネに関する
提案活動等の業務があり,事務系社員も多く所属しています。工具・工法等の改善を通じて発
明のヒントを得やすい技術系の業務と比べ,事務系の発明の対象は業務システムなどが多く,
対象物を直接見ることができないので,どうしても
「知財は難しい」
という印象を抱きがちです。
発明や知財に身構えず,
「こんなちょっとしたアイデアでも発明になるんだ!」
と思ってもらえるように,研修で
は自分の発明を題材に,発明のポイントなどを説明しています。発明としてのスゴさはともかく,苦労した点やほ
めてもらえた点を自分の言葉で語れるから,説得力が違いますよ
(笑)。一度でも自分の発明が特許になれば感動モノ。この体験を皆にもして欲しくて,知財の経験が浅いメンバーに,
まずは1件発明を出してもらうようにと,色々と試行錯誤しています。その結果,メンバーの発明が特許になり見
事花開けば,事務局担当者としてこれ以上ない喜びですね!
Voice!
知財事務局から一言2 岡山営業所
企画総括課 矢谷 弘二
〜社員か
らのメ
ッセージ〜
「知財は難しくない!」
まずは1件発明を出してもらうことに尽力
[知財関連有資格者数]
(2013年12月末時点)388(388)799(411)
1,469
(670)
1,950
(481)
2,308
(358)
2,682
(374)
3,030
(348)
3,464
(434)
3,814
(350)
4,095
(281)
4,260
(165)32知財戦略推進の基本理念と推進体制※(注記)いずれのグラフも当社が商用検索システムを用いて集計したデータで,電力上位3社,ガス上位2社は登録件数上位の会社を示す
[特許出願件数の推移
(公開日ベース)]10002005
上期 下期2006上期 下期2007上期 下期2008上期 下期2009上期 下期2010上期 下期2011上期 下期2012上期 下期2013上期200300400500600700
(年度)
(件)
ガス上位
2社平均
電力上位
3社平均
(当社を除く)
中国電力
ガス上位
2社平均
電力上位
3社平均
(当社を除く)
中国電力
※(注記)1 パテント・リザルト社調べ
※(注記)2 特許庁
「平成24年度特許出願技術動向調査報告書 スマートグリッドを実現するための管理・監視技術」
による
ガス上位
2社平均
電力上位
3社平均
(当社を除く)
中国電力
2013年11月末の中国電力の特許登録件数は3,238件で,エネルギー業界で首位となっています。これは,近年
の特許出願件数や登録件数が高水準で安定的に推移していることに拠りますが,一方で気になるのが
「その特許は有望
なのか」
ということです。
そこで注目したいのが,特許庁や特許情報を扱う専門事業者が行う,特許登録状況を調査・分析した報告書や報道
発表です。業界や技術テーマを切り口とする場合が多く,例えば,特許の件数・有望度等を基に算出した特許資産規
模ランキング※(注記)1
で,中国電力は
「石油・エネルギー業界」
第1位となっています。
また,最近注目を集めている
「スマートグリッド
(次世代送電網)」を実現するための"管理・監視技術"の分野では世
界第6位の出願件数※(注記)2
,家庭内のエネルギー利用を高度化する
「HEMS」
分野技術の特許総合力では国内第3位※(注記)1となっています。
一概に特許の質や価値を語ることは難しいところですが,保有する特許の有望性を考える上で,これらの外部評価
は一つの判断材料になると考えています。
知左ヱ門 博士の 知財こぼれ話
知左ヱ門博士の 知財こぼれ話 中国電力のココがスゴイ!2
有望特許,あります !?35126415[特許登録件数の推移
(登録日ベース)]10002005
上期 下期2006上期 下期2007上期 下期2008上期 下期2009上期 下期2010上期 下期2011上期 下期2012上期 下期2013上期200300400500600(年度)
(件)55126428[特許登録率の推移]6050
2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012708090(年度)(%)33知財戦略推進の基本理念と推進体制
他者権利の侵害を未然防止するための取り組みの一例
当社事業に関わりが深い技術分野について,特許情報に動きがあれば自動で配信するシステ
ムを活用し,事業本部等の知財推進担当者と知財部門が連携しながら,知財リスク管理を実施
しています。
また,社員が発明をひらめいた時には,他者権利侵害の未然防止という観点から,まず社員
自身が,特許情報検索システムを用いて自分の発明に類似する特許がないかを必ずチェックするルールとしてい
ます。
他者権利の尊重という理念に基づき,特許情報検索システムを日常業務の中で活用する仕組みを整備してきた
ことで,特許情報を適時チェックする姿勢が社員の中に浸透し,知財関係者や発明者を問わず,全社体制でリス
ク管理が展開できています。とは言え,リスクの種はどこに落ちているか分かりませんから,知財部門としては
気が抜けませんね。
Voice!
知財部門から一言1 エネルギア総合研究所
(知財権利化)
門司 英樹
〜社員か
らのメ
ッセージ〜
特許情報検索システムを用いてリスク管理を確実に!
当社はコンプライアンス最優先を経営の基本として掲げており,知財戦略においても,他者の権利を尊重する
ことを大切にしています。
電気事業の商品は
「電気」
という目に見えないものであるため,仮に他者の権利を侵害することがあったとして
も,当該他者の目に触れない場合もあります。例えその様な場合であっても,他者の権利を侵害しないというこ
とはコンプライアンスの観点から最も大切なことであり,新技術を導入する際等には,他者の特許出願・登録情
報のチェックを確実に行うこととしています。
また,自社で利用している技術については,適切な権利化を推進していますが,この取り組みは他者権利を侵
害しないという観点でも有効に機能しています。
基本理念(3)について
【研究・開発計画における知財関連協議】
他者権利の侵害等により研究・開発成果を自由に実施できないということを防ぐため,中期経営計画
における研究・開発計画の策定時には,先行技術調査や類似先願への対策,共同研究先との契約内容の
認識共有状況等について,研究主管箇所と知財部門が必ず協議・調整するように定めています。
社内関係箇所と調整
のうえ取り纏め
●くろまる研究・開発計画
●くろまる研究・開発成果の
実施形態の検討 等研究主管
●くろまる研究課題の解決策を既に他
者が特許出願していないか
●くろまる成果の実施時に他者権利を
侵害する恐れはないか
●くろまるグループ内で類似・関連す
る研究を実施していないか等知財部門
実施決定を
経て研究着手
問題解決の上
知財部門と
再調整
問題なし
問題あり
協議・調整34知財戦略推進の基本理念と推進体制知財戦略の推進には,
「実施」と「支援」
という2つの側面があります。事業本部等は,日々の業務の中で創出さ
れる発明の知財化や保有特許技術の有効活用などの
「実施」
を,知財部門は,事業本部等の活動が円滑に進むように「支援」
を担います。
それぞれの役割は,各事業本部等の長の責務,エネルギア総合研究所長の責務として知財規程に定められてお
り,これに基づき各組織が一体的に知財戦略を推進しています。
知財戦略の2つの側面
知財戦略推進に関する重要事項の審議等を行う場として,事業本部副本部長や部門長等を委員とする
「知財戦
略会議」
を設け,知財戦略基本方針の審議,知財戦略の実施状況・結果の報告,特許分析,知財リスクに関する
情報の共有化等を実施しています。
また,
知財戦略会議の下部機構として
「知財戦略推進部会」
を設置しています。
知財戦略推進部会は,
当社グルー
プの戦略的事業領域に即した6つの部会で構成され,各領域で事業を展開する事業本部等やグループ企業がメン
バーになっています。
各部会は,自主的に設定した活動方針や数値目標等に基づき活動しており,その進捗や実績は知財戦略会議へ
も報告されます。こうした仕組みが,事業本部等が自律的に考え積極的に活動し,結果を出していくという知財
戦略推進のサイクルにつながっています。
このほか,知財提案や知財関連情報の水平展開等を組織的に推進するため,事業本部等とグループ企業に
「知
財推進担当者」
を配置しています。
知財戦略推進体制
知財戦略推進体制
知財戦略基本方針は,これを具体化するための行動規範である知財規程に基づき推進されます。組織として知
財活動を展開するために必要な基本的事項を明確に示すことで,研究・開発や創意工夫の成果が適切に知財化さ
れるように図っています。
●くろまる各事業本部等の知財戦略が円滑に推進されるよう,必要な環境整備を行う
・知財戦略基本方針の策定
・支援体制の構築,啓発活動の実施
知財部門
(エネルギア総合研究所
[知財グループ])●くろまる知財戦略推進体制を整備し,知財戦略を推進する
・知財戦略基本方針に基づく推進計画の策定
・中期経営計画への推進計画の織り込みと実施
各事業本部等
(お客さまサービス本部,
電源事業本部,
流通事業本部,
情報通信部門など)
支 援35知財戦略推進の基本理念と推進体制知財戦略推進部会の取り組み ―総合エネルギー供給部会の場合―
〔現場の課題解決に繋がる知財創出に向けて〕
本部会では,経営企画部門,電源事業本部,エネル
ギア総合研究所
(技術)
とグループ企業4社が一体と
なって,知財活動を展開しています。
具体的な活動としては,現場の課題解決に着目した
アイデア出しを行っており,課題を抽出する際は,部会メンバーに加え,設備の保守・管理を担当する
技術系社員も参加し,業務での困りごとを幅広くインタビューしながら課題を深掘しています。そのう
えで,重要性の高い課題に絞り込み,専門の異なるメンバーが多様な視点から意見交換を行い,既存の
枠に捉われない革新的なアイデアの創出に繋げています。
昨年度は,太陽光発電に関する課題について,LNGの受入・貯蔵等を専門とするメンバーが意見提起
する等の活動を通じて,9件の課題に対し,30件のアイデアを創出しました。これらをさらに絞り込み,
改良を加えていくことで,現場の課題解決と権利化に繋げています。
課題の抽出
部会の構成メンバー
(グループ企業)
※(注記)
※(注記)このほか当社事業本部等が参画
中国計器工業,中国電機製造,中電技術コンサルタント,エネルギア・ライフ&アクセス,
テンパール工業,中国高圧コンクリート工業,中電工,
(一財)
中国電気保安協会
中電工業,中電プラント,中電環境テクノス,小月製鋼所,中電技術コンサルタント,
中国高圧コンクリート工業,エネルギア・ソリューション・アンド・サービス
(ESS),パワー・エンジニアリング・アンド・トレーニングサービス
(PET)
中電工業,中電プラント,中国計器工業,中国電機製造,
中電技術コンサルタント,中電工,イームル工業
ESS,PET,瀬戸内共同火力,水島エルエヌジー
中国計器工業,中電工,エネルギア・コミュニケーションズ
中電工業,中国企業,エネルギア・ビジネスサービス,エネルギア不動産,
産興,エネルギア・ロジスティックス,エネルギア介護サービス,
エネルギア人材ソリューション,福利厚生倶楽部中国,ハウスプラス中国住宅保証
お客さまサービス部会
電源・環境調和創生部会
流通部会
総合エネルギー供給部会
情報通信部会
ビジネス・生活支援部会
瀬戸内共同火力では,製鉄所で発生する副生ガスを燃料として,コンバインドサイクル発電等で電
気をつくり,中国電力とJFEスチールへ供給しています。環境保全性をより高めるため様々な取り組
みを進めており,新たな技術的課題にぶつかることがあります。
こうした課題を,
部会内に設置されたワーキンググループ(WG)のテーマとして採り上げ,
メンバー
が一体となり解決に向けた検討を行っています。
WGは,それぞれ火力発電設備,分散型電源設備,LNG基地の運用・保守など,異なる技術分野に従事するメンバーで
構成されていることから,現場の実務担当者を交えた意見交換等では,多様な観点から,多くのアイデア・ヒントを得る
ことができます。
当社でも設備改善の検討を行っていますが,自社とは異なる技術的知見が意外な効果をもたらすこともありますので,
部会のように多様な技術的背景を持つメンバーと一緒に課題検討できる場は有意義ですね。
Voice!
総合エネルギー供給部会から一言 瀬戸内共同火力
(株) 技術部 吉野 貴文
〜社員か
らのメ
ッセージ〜
多様な技術的背景を持つメンバーとの意見交換が刺激に!
●くろまる現場の技術系
社員を交えた
意見交換
アイデア発掘
●くろまる専門の異なる
メンバーによ
る意見交換36知財リスクへの対応
知財規程の基本理念の一つである「他者の権利の尊重」
,およびコンプライアンス最優先という考え方に
基づいて,知財リスクを回避するための取り組みを進めています。
知的財産は,事業を守る
「道具」
にとどまらず,将来への
「投資」
でもあります。その意味では,
権利侵害リスクの回避に加えて,確実な権利の確保も重要です。
権利侵害リスクの回避という面では,商標確認が大切な業務の一つです。商品やサービスの
名称を適切に使用するために,他者登録商標を侵害していないことの調査・確認など,リスク
の未然防止に努めています。
権利確保の面では,研究・開発関連の契約審査などがあります。研究・開発の成果が整理され,実際に事業で活
用されるのは,契約締結から数年後になることがほとんどですので,契約内容のほか成果の活用方法や事業化計画
等についても確認し,長期的な視点で審査するよう心掛けています。
商標や特許に限らず,発明・ノウハウ・技術情報等も含めて,知的財産=創意工夫の結晶です。社員の皆さんの
創意工夫の結晶を守るべく,知財部員としての自覚と責任を持って,今後も業務にあたります!
Voice!
知財部門から一言2 エネルギア総合研究所
(知財企画法務)
三好 博子
〜社員か
らのメ
ッセージ〜
知財リスクに適切に対応するため,日々頑張っています!
知財リスクに対する日常業務での対応
営業秘密管理・技術流出防止に関する方針
日常業務や研究・開発において当社が検討・実施している技術内容と他者特許を対比し,侵害の有無を検討する「特許権侵害リスク対応」
や,広告物やイベント等で使用する媒体について,他者商標権の侵害の有無や回避方策
等を検討する
「商標権侵害リスク対応」
等を日常的に実施しています。
また,権利確保面では,共同研究等の成果を権利として適切に確保するための契約書チェックを行う
「知財関連
契約審査」
や,社外に公開予定の論文・技術資料等に未出願の内容が含まれ,公開により特許を取得できなくなる
ことを防止するためのチェックを行う
「知財性確認」
について,日常業務として実施しています。
なお,現時点で当社における知的財産関連の訴訟案件はありません。
営業秘密管理要則を制定し,営業秘密を確実に管理できる仕組みを構築しています。
営業秘密管理要則では,営業秘密の不正取得者に対する差止請求権など法律上の保護が受けられる管理体制
の整備を目的として,ノウハウ等の営業秘密に相当する情報の管理体制・方法等を具体的に定めています。
知財リスクへの対応4商標への取り組み37
戦略的事業領域におけるハウスマーク登録状況
当社グループは,電気事業を中核に幅広い事業からなっています。各社の役割を明確にしたうえで,その特性・
特長を活かし多様なニーズにお応えすることで,より多くのお客さまに選択していただくため,戦略的事業領域
を定め,グループとしての総合力向上を目指しています。
商品やサービスの名称をお客さまに慣れ親しんでいただくためには,社名やハウスマーク
(社標)
も含め適切に
権利化することで,安定的に使用できるようにするとともに他者権利を侵害するリスクを低減することが重要と
考えており,長期に使用するものは,積極的に商標登録しています。
(平成25年11月末時点の商標登録状況:当社121件 グループ企業※(注記)
計:176件)
※(注記)連結子会社・持分法適用関連会社
戦略的事業領域での商標活用
特許とならび重要な知的財産に商標があります。商標は,商品・サービスの品質や信頼の証であり,
当社グループとお客さまを結ぶ大切な知的財産であると認識しています。
電気事業 総合エネルギー事業
●くろまる 各社の登録商標件数
商品・サービス等の登録商標例
《中国電力》
●くろまる 《瀬戸内共同火力》
❶ 《エネルギア・ソリューション・アンド・
サービス》❹情報通信事業 ビジネス・生活支援事業
《エネルギア・コミュニケーションズ》
電気事業サポートほか
《中電工業》❸《エネルギア介護サービス》❶《水島エルエヌジー》❸【第3104821号】
【第5536745号】
【第5584144号】
【第5011064号】 【第4599408号】
【商願2013-59103】
【第5591917号】
【第4597077号】 【第4982964号】
【第5580175号】
【第4963334号】
P AIN E
パイネ
【第5307587号】
《中国計器工業》❺【第3272984号】
【第4843859号】【第4890709号】
《中電プラン
ト》❸【第5590089号】
【第5601191号】 【第5530921号】
《中国電機製造》
【第0770844号】
【第0808710号】 【第5455032号】
美 ー b a t h
ビーバス
《エネルギア・ライフ&アクセス》❽【第4832341号】
【第4838543号】
《中電技術コンサルタン
ト》❼【第3119003号】
《テンパール工業》
【第4546613号】
【第5077050号】 【第5555490号】
《中電工》
【第4052824号】
【第5214948号】【第5572605号】
《大崎クールジェン》❷【第5297117号】
《イームル工業》❸【第5571561号】
エ ネ 得
商標への取り組み5商標への取り組み38
シンボルマークが持つ意味合い
シンボルマークの防護標章登録
企業理念を表したシンボルマークは,お客さまをはじめ当社と関わりある皆
さまと当社を結ぶ大切な目印でもあります。その目印が正しく機能するよう,
本シンボルマークは
「防護標章」
の登録を受けています。
通常の登録商標は,他者が同一・類似商標を使用することを差し止める権利
を備えますが,その範囲は,登録時に指定した商品やサービスに限られます。
これに対し防護標章は,商品やサービスが類似しない範囲の他者同一商標の使用を差し止め可能なため,お客さ
まが商品製造元やサービスの提供主体を混同し不利益を被ることを防止できます。
防護標章はその強い権利ゆえに,
商標が著名であることが登録の要件となりますが,
本シンボルマークは,
広告・
看板・パンフレット等に積極的に活用したことでお客さまやお取引先等に広く認識されていると判断されました。
これにより,本シンボルマークと混同をきたすような商標を他者が登録することを阻止したり,他者の権利侵
害に迅速な対策を講じる等の対応が可能となります。
これからも,当社の想いが込められた本シンボルマークを積極的に活用していきます。
豊富な経験と高い技術・技能の証 "エネルギア・マスター"
電力設備の運転,保守,建設等の技術分野における技術・技能継承の
取り組みの一つとして,2010年度に
「高度技術・技能者認定制度」
を導入
しました。
この制度に基づき,経験豊富で高い技術・技能を保有し,他の社員の
目標としてふさわしい社員を
「エネルギア・マスター」
に認定しています。
(2013年12月末:24名が活躍中)
エネルギア・マスターは,安定供給を支える現場での技術指導,社外
での講演活動など,幅広く技術・技能継承に繋がる活動を実践しており,
そのイメージ定着を図るため,ロゴマークを作成しています。
ロゴマークには,トップエンジニアであることをイメージした星を背
景に組み合わせており,これを作業服,名刺等に表示することで,社員
のみならず,お客さまにもエネルギア・マスターの活動をお伝えしてい
ます。
当社の電気事業が,高度な技術・技能に支えられていることを広く示
す役割を担うものとして,
「エネルギア・マスター」
の名称やロゴマーク
を大切に育てていきたいと考えています。
シンボルマークは,
「E」
を強調したダイナミックな
「EnerGia」
のロゴタイプと,エネルギーの動きや成長する
力を一体化した造形に躍動感を伴う赤
(ウォームレッド)
と安定感を象徴する青
(ジェントルブルー)
で彩色し,
それを中国電力や中国地方さらに地球を表したCリングで囲んだデザインで構成されています。
あたらしく,あかるく,あたたかい活力のある社会
「エネルギア」
の実現,さらにエネルギーを通じて,お客
さま・地域・環境に貢献していこうとする企業理念を表現しています。
商標を通じたメッセージの発信
【エネルギア・マスターによ
る指導の様子】
【商標登録番号 第5382014号】
【第3104821号 防護第1号】CSRの取り組み39クリーンコール技術を活用した国際貢献
長年培ってきたクリーンコール技術を活用し,2009年から中華人民共和国の華能国際電力股
(グーフン)
有限公司※(注記)1
との間で,2011年からは神華能源股 有限公司国華電力分公司※(注記)2
との間でも
超々臨界圧
(USC)
石炭火力発電所の運用・保守等に関する技術協力を行っています。
また,2010年にポーランド国の電力会社PGE社※(注記)3
およびタウロン社※(注記)4
とそれぞれ協力協定を締
結し,日本の高効率石炭火力発電技術を活用した新規プロジェクトの案件形成および技術交流等に取
り組んでいます。
こうした取り組みを通じて,海外での石炭火力の効率向上,環境負荷低減に貢献していきたいと考
えています。
※(注記)1 華能集団公司の持株発電会社で,華能集団公司の傘下の電力有限公司の中で最大の発電設備
(火力発電所27箇所)
を所有。1994年設立
※(注記)2 中国最大手の石炭会社である神華集団有限責任公司傘下の発電会社。国華電力分公司は,中国の5大発電集団に次ぐ発電規模であり,
21カ所
(59基)
の石炭火力発電所を所有。1999年設立
※(注記)3 ポーランド国東部を拠点とする同国最大の発電,配電会社。2007年設立
※(注記)4 ポーランド国東部を拠点とする同国第2の発電,配電会社。2006年設立
中国での取り組み ポーランド国での取り組み
石炭火力発電所の省エネルギー・環境問題改善等
(華能国際電力,国華電力)
高効率石炭火力発電所の新設プロジェクトの
案件形成調査
【華能国際電力との技術交流】 【現地調査打合せの様子】
国際的な地球温暖化対策の推進
当社は,2006年3月,CSR
(Corporate Social Responsibility)
の取り組みの方向性と事業活動や全ての
役員・社員の行動の根底に置くべき原則を定めた
「エネルギアグループCSR行動憲章」
を制定しました。そ
の中で,基本的な使命は,電気事業を中心としたグループ事業を通じて,社会の一員としての責務を果
たし,社会の持続的な発展に貢献していくことであると宣言しています。
知財面においても,国際的な地球温暖化対策の推進への貢献や東日本大震災の復興支援,地域の人材育
成への協力など,CSRを意識した活動を展開しています。
知財を通じた貢献活動
地球温暖化という課題に対して,国際的な視点で積極的に取り組んでいます。これまで,国内における地球温
暖化への対応の柱として,非化石エネルギー等の利用拡大および電力供給設備の効率の向上を推進してきました
が,そこで得られた技術的な蓄積を活用することで,国際的な取り組みにおいても着実に成果が現れはじめてい
ます。
自社の独自技術の流出防止に留意しつつ,海外におけるCO2 削減対策の先進的な技術開発・技術協力を積極
的に展開し,これからも地球温暖化対策に貢献していきます。
CSRの取り組み6CSRの取り組み40
主な広報活動
研究・開発成果の社外での一層の活用を目指し,まずは
「どのような研究を行っているのか」
を知っていただく
ため,積極的な広報活動に取り組んでいます。
この取り組みの一つとして,エネルギア総合研究所では,電気事業に関する研究・開発事例や研究設備および
成果について様々な機会を通じて情報発信し,年間5,000名を超える皆さまにご覧いただいています。
積極的な地域貢献の推進
東日本大震災の復興支援
東日本大震災の復興支援を目的として,公益財団法人東北活性化研究センターとの間で,当社が保有する原則
全ての特許について無償で実施許諾を行う権利を付与する
「包括ライセンス契約」
を締結しています。
これまでの取り組み成果である特許権が,東日本大震災の復興支援に何らかの形でお役に立てればとの考えに
よるものであり,これにより原則として保有する全ての特許が通常実施権の許諾対象となります。
第一号案件については,地元企業と同センターとの間で実施許諾契約が締結され,特許の共有権者である当社
グループ企業からの技術指導や,事業化に向けた取り組みが進められています。また,第二号,第三号案件につ
いても特許の特長を活かした事業展開が可能な地元企業とのマッチングが進められています。
本枠組みにより当社保有特許を1件でも多く活用していただき,東北地域が一刻も早く復興することを心より
願っています。
地域の産業活性化支援,研究助成
中国地域の産業振興への協力という観点から,地元企業の活用が想定される特許について,公益財団法人ひろ
しま産業振興機構が取りまとめを行っている開放特許として提供しており,80件
(2013年11月末)
の特許を広
く一般に利用可能としています。
また,地域の研究助成や産業活性化支援等を行う
「公益財団法人中国電力技術研究財団」,「公益財団法人ちゅ
うごく産業創造センター」,「公益社団法人中国地方総合研究センター」,「一般社団法人中国地域ニュービジネス
協議会」,「中国生産性本部」
等に対して,継続的に支援を行っています。
●くろまる広島中央サイエンスパーク施設公開
(東広島市)
●くろまる広島中央サイエンスパーク研究公開フォーラム出展
(東広島市)
●くろまるエコ・イノベーションメッセ2013出展
(広島市)
●くろまるひがしひろしま環境フェア2013出展
(東広島市)
●くろまる中国電力グループ研究開発成果展示会開催
(広島市)
●くろまるエネルギア総合研究所施設見学対応
(東広島市)
【広島中央サイエンスパーク施設公開】 【中国電力グループ研究開発成果展示会】
研究・開発成果を通じた地域貢献を目指してCSRの取り組み41地域の人材育成への協力
地域社会への貢献という観点から,地元企業を対象とした知財研修への協力や,高校生等次世代層に向けた科
学技術に関する教育活動についても積極的に取り組んでいます。
主な例としては,一般社団法人広島県発明協会が主催するセミナー
「知的財産権入門講座」
や会員交流会への講
師派遣などがあります。
また,次世代層への環境エネルギー教育として
「わくわくEスクール」
を開催しています。同スクールでは,研
究施設の見学や理科実験に加えて,特許庁制作の知財ビデオを用いた
「小学生向け知財学習」
を取り入れており,
「発明を守る特許の大切さがわかりました」
と感想文が寄せられる等,好評をいただいています。
このほか,児童が普段接することのできない研究者や専門家の知識・経験を聞く授業を通じて,夢や希望の実
現に努力する態度を育てることを目的とする,東広島市教育委員会の
「夢・感動推進事業」
の特別授業に,講師を
派遣しています。
さらに,
専門性の高い学生を対象とする教育支援として,
インターンシップでの実習生受け入れや,
大学・短大・
高専での講義を行なっています。講義では,電力系統・高電圧・放電・発電等の電気工学分野と経済・金融・ビ
ジネス等の経済学分野を受け持っており,電気工学分野については,電力設備の見学も交えて行なっています。
【夢・感動推進事業での授業】 【小学生向けわくわくEスクール】
【業務を体験する実習生】 【研究所を見学する大学生】
2014年1月発行
本報告書は,エネルギアグループの研究・開発お
よび知的財産に関する活動についてご理解いただく
ための情報提供のみを目的としており,いかなるコ
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